地球温暖化による気候変動は、私たちの生活、経済、そして地球そのものに深刻な影響を与えています。世界各国が脱炭素社会の実現に向けて取り組みを加速させる中、革新的なテクノロジーとして注目されているのが「ブロックチェーン」です。
この記事では、2025年最新の事例として、脱炭素に向けてブロックチェーン技術を積極的に活用している企業の取り組みを7事例、厳選してご紹介します。これらの事例を通して、ブロックチェーンがどのように脱炭素社会の実現に貢献しているのか、その可能性と未来を探っていきましょう。
そもそもブロックチェーンとは?
ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと、「取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持する技術」です。
一般的なデータベースとは異なり、中央管理者が存在せず、ネットワークに参加する複数のコンピュータ(ノード)が対等な立場でデータを管理する「P2P型(ピア・ツー・ピア)」の仕組みを採用しています。
従来のクライアントサーバ型のデータベースでは、一つの中央サーバーがデータを管理しますが、これには「単一障害点(SPOF:Single Point of Failure)」というリスクがあり、サーバーが攻撃や故障により停止すると、システム全体が機能しなくなる可能性があります。一方、ブロックチェーンではすべてのノードが同じデータを保持するため、一部のノードがダウンしてもネットワーク全体の運用に影響を与えません。
また、ブロックチェーンのデータはその名前の通り、一定量の取引情報を1つの「ブロック」にまとめ、それを時系列順に「チェーン」のようにつなげていくことで管理されます。このブロックをつなぐ際に使われるのが「ハッシュ値」と呼ばれる識別子です。
ハッシュ値とは、あるデータを入力すると一意の値が出力される数値のことで、「あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成される」という特徴を持ちます。これにより、過去のデータが変更された場合、そのブロック以降のハッシュ値がすべて変わってしまうため、不正を検知しやすくなっています。
さらに、新たなブロックを生成するには、ある特定の条件を満たすハッシュ値を導く必要があります。ブロックの生成者は変数(=ナンス)を変化させながら、ブロックのハッシュ値を計算していき、最初に条件を満たすハッシュ値を見つけた作業者が、そのブロックの追加権を得て、報酬として新しい暗号資産を獲得する仕組み(ビットコインの場合)です。
しかし、この一連のプロセス(=マイニング)には膨大な計算リソースが必要であり、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となるため、現実的には改ざんがとても難しいシステムとなっています。
このような特性を持つブロックチェーンは、金融分野だけでなく、サプライチェーン管理やカーボンクレジット取引など、データの透明性と信頼性が求められる分野で幅広く活用されています。次のセクションでは、脱炭素社会の実現に向けてブロックチェーンがどのように利用されているのか、具体的な事例を紹介していきます。
なお、ブロックチェーンについては下記の記事で詳しく解説しています。
ブロックチェーン×脱炭素の活用事例
ブロックチェーン技術を活用して脱炭素に取り組んでいる企業は、年々増加しています。これは、企業が脱炭素経営を推進する中で、より透明性が高く、効率的なデータ管理手法を求めているためです。また、ブロックチェーンは、カーボンクレジットの取引や再生可能エネルギーの証明、サプライチェーン全体のCO2排出量の可視化など、幅広い用途に適していることが認識され始めています。
ここからは、2025年最新のブロックチェーン活用事例を紹介します。具体的には、J-クレジットのデジタル化や、P2P電力取引、カーボンフットプリントデータの連携など、実際のビジネスシーンでどのように活用されているのかを掘り下げていきます。それぞれの事例がもたらすメリットや、導入によって得られた成果も合わせて解説しますので、ぜひ自社での取り組みのヒントにしてください。
日立製作所:J-クレジットの認証・発行プロセスのデジタル化
実証を開始」
脱炭素社会の実現に向け、日本国内ではカーボンクレジットの活用が広がっています。その中でもJ-クレジットは、CO2の排出削減・吸収量をクレジット化し、企業や自治体が取引や報告に活用できる仕組みとして注目を集めています。しかし、従来のJ-クレジットの認証・発行プロセスは、人手による作業が多く、時間もコストもかかるのが課題でした。この状況を変えようと、日立製作所はブロックチェーン技術を活用したクレジット認証・発行プロセスのデジタル化に取り組んでいます。
この実証では、太陽光発電のデータをIoTセンサーで収集し、ブロックチェーン上に記録することで、透明性を確保しながらデータ改ざんを防ぎます。一次データをオンチェーンで処理することで、クレジット認証の精度が向上し、申請手続きも簡素化する仕組みです。カーボンニュートラルを目指す企業にとっては、コストを抑えながら投資先プロジェクトの設備の稼働データを安全かつ確実にJ-クレジットに活用できることは大きな利点ですね。
さらに、J-クレジット登録簿システムとの連携を強化することで、取引のスピードの向上も見込めます。これまで時間のかかっていたプロセスがスムーズになれば、中小企業や自治体の参入障壁も下がり、J-クレジット市場の活性化につながるでしょう。
日立製作所がこの分野で強みを持つのは、過去の実績があるからです。同社はデジタル環境債の発行や東京証券取引所のカーボンクレジット市場の取引システム開発にも携わってきました。これらの経験を活かし、カーボンクレジットの発行から流通までを一元管理する仕組みを構築しようとしています。市場が拡大し、取引がより活発になれば、脱炭素社会の実現も加速するはずです。
今後、この取り組みが実用化されれば、J-クレジットの普及が加速し、日本全体の脱炭素化に大きく貢献することになりそうです。環境負荷の削減と経済的なメリットを両立させるこのプロジェクト、今後の展開に引き続き注目です。
NR-Power Lab:分散型IDを用いたVPPシステムによる電力の地産地消と域内経済循環の促進
実証へ」
脱炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーの普及は欠かせません。しかし、電力の安定供給や管理のコスト負担といった課題も多く、特に地域密着型の小規模な電力事業者にとっては、効率的なシステムの導入が大きなハードルとなっています。こうした課題を解決し、電力の地産地消を促進するために日本ガイシとリコーが共同出資するNR-Power Labは、分散型の発電設備や蓄電池をデジタル技術で統合し、一つの発電所のように機能させる「VPP(仮想発電所)」システムの開発に取り組んでいます。
VPPは従来の大規模発電所とは異なり、地域ごとの電力需給を最適化しながら運用できるため、エネルギーの効率的な活用が可能になります。NR-Power LabのVPPシステムは、AI(人工知能)と分散型ID(DID:Decentralized Identifier)を活用し、信頼性とコスト低減を両立させる点が特徴です。
DIDとは、中央管理者を必要とせずに個人や機器が自身の識別情報を安全に管理できる技術のことです。この仕組みをVPPに導入することで、電力を供給する事業者や消費者のデータ管理をより透明かつ安全に行えるようになります。具体的なシーンとしては、地域の住宅や企業が自家発電した電力を供給する際、その電力が本当に再生可能エネルギー由来であることをDIDとブロックチェーンを組み合わせて証明するケースなどがあります。これにより、電力取引の信頼性が向上し、クリーンエネルギーの普及を後押しするでしょう。
また、NR-Power Labは、ブロックチェーンを活用した電力トラッキングシステム(デジタルサービス)も開発しています。これは、電力の供給元や流通経路をリアルタイムで記録し、証明する仕組みです。ある企業が「100%再生可能エネルギーを使用している」と証明したい場合、ブロックチェーンによるトラッキングを通じて、実際に使用している電力の由来を明確にできる、というイメージです。この透明性の確保は、企業のESG経営やカーボンニュートラルの取り組みにとって、大きなメリットとなり得ます。
今回のプロジェクトには、全国16社の地域新電力会社が参画し、それぞれの地域に適したVPPシステムの実証を進めています。地域新電力は、地域密着型の電力供給を得意とする一方で、大手電力会社と比べて技術リソースに限りがあるのが現状です。そのため、NR-Power Labの技術と地域新電力のノウハウを組み合わせることで、各地域に最適化されたエネルギー管理の仕組みを構築しようとしています。
今後、このプロジェクトが事業化されれば、地域新電力の経営基盤が強化されるだけでなく、日本全体の再生可能エネルギーの導入スピードも加速するかもしれません。これまで電力の安定供給が難しかった地域でも、分散型のエネルギーシステムが確立されれば、災害時のレジリエンス向上にも寄与するでしょう。再エネの普及と地域経済の活性化を同時に実現するこの取り組み、今後の展開が楽しみですね。
日本取引所グループ(JPX):国内初のデジタル環境債「グリーン・デジタル・トラック・ボンド」
トラック・ボンドの発行条件を決定」
脱炭素社会の実現に向けて、企業の資金調達手段として「グリーンボンド(環境債)」の活用が増えています。これは、再生可能エネルギーの導入や省エネ設備の導入といった環境プロジェクトの資金を調達するために発行される債券のことです。
しかし、これまでのグリーンボンドには「調達資金が本当に環境改善に使われているのかを確認しにくい」「報告のためのデータ収集や管理が煩雑」といった課題がありました。こうした課題を解決し、グリーンボンド市場のさらなる発展を目指して、日本取引所グループ(JPX)は国内初のデジタル環境債「グリーン・デジタル・トラック・ボンド」を発行しました。
このデジタル債の最大の特徴は、ブロックチェーン技術を活用し、資金使途の透明性を向上させている点です。具体的には、調達した資金を使って建設された発電設備の発電量を自動的に計測し、そのデータをCO2削減量へ換算する仕組みが組み込まれています。これにより、投資家は「自分の投資によって、どれだけのCO2が削減されているのか」をリアルタイムで把握できるようになります。これまで年次レポートなどでしか確認できなかった環境効果を、データとして即座に追跡できるのは大きなメリットですね。
また、本デジタル債には「サステナビリティ・リンク・ボンド」への発展可能性も秘められています。サステナビリティ・リンク・ボンドとは、発行体が設定した環境目標の達成状況に応じて、債券の条件(たとえば利率など)が変動する仕組みを持つ債券のことで、企業の環境保全活動が直接投資条件に影響を与えるため、ESG活動をより強く後押しするサステナブル時代の新たな金融商品として非常に大きな注目を集めています。
こうした取り組みは、日本取引所グループだけでなく、日立製作所や野村證券、BOOSTRYといった企業とも連携して進められており、日立製作所は発電量やCO2削減量のデータを記録・管理するシステムを提供し、野村證券は債券の引受を担当。BOOSTRYはブロックチェーン基盤「ibet for Fin」を提供し、デジタル証券の管理を支えています。各社がそれぞれの強みを活かし、デジタル環境債の新たなスタンダードを築こうとしているのですね。
今後、この仕組みが普及すれば、グリーンボンド市場の透明性が飛躍的に向上し、より多くの投資家が環境債を活用するきっかけになるかもしれません。環境対策と金融市場を結びつけるこの革新的な試み、今後の展開に期待が高まります。
日本郵船/郵船ロジスティクス:GHG排出削減量の管理プラットフォーム
近年、企業のサプライチェーン全体で温室効果ガス(GHG)排出量を削減する取り組みが求められています。特に、輸送・物流分野ではGHG排出量が大きく、脱炭素社会の実現に向けた課題の一つとなっています。こうした背景のもと、日本郵船と郵船ロジスティクスは、オランダのスタートアップ企業、123Carbonが提供するGHG排出削減量管理プラットフォームを導入しました。
この取り組みのポイントは、「代替燃料の活用」「ブロックチェーンによるデータ管理」「第三者認証の導入」の3つです。まず、日本郵船は、不定期専用船事業においてバイオ燃料を使用し、削減されたGHG排出量を証明書とともに郵船ロジスティクスへ割り当てます。バイオ燃料は、従来の化石燃料と比べてCO2排出量を大幅に削減できるため、より環境負荷の少ない輸送が可能になります。
次に、郵船ロジスティクスは、日本郵船をはじめとする海運会社や提携する航空会社からGHG排出削減量を調達し、GHG排出量の削減に取り組む顧客に割り当てます。特に、航空輸送においては、SAF(持続可能な航空燃料)の活用が進められており、石油由来のジェット燃料と比較して大幅な排出削減が期待されています。
こうした代替燃料の活用を効率化・透明化するのが、ブロックチェーン技術を活用したデジタルプラットフォームです。従来、GHG排出削減量の管理や証明書の発行には多くの手作業が必要でしたが、ブロックチェーンを導入することでデータの改ざんを防ぎ、透明性を確保できます。加えて、削減量の算出から顧客への割り当てまでのプロセスは、第三者認証機関による検証を受けており、信頼性の高い仕組みとなっています。
こうした取り組みは、企業のScope 3(サプライチェーン全体における間接的なGHG排出量)の削減に貢献します。物流企業としての強みを生かしながら、輸送の脱炭素化を進めることで、顧客企業の環境目標達成を支援する狙いです。
日本郵船グループは、2050年までのネット・ゼロを目指し、脱炭素に向けた取り組みを強化しています。また、郵船ロジスティクスも「提供するすべてのサービスのネット・ゼロエミッション化」を掲げ、2030年までにGHG排出量を45%削減する目標を設定しています。今回のデジタルプラットフォーム導入は、その目標達成に向けた大きな一歩となるでしょう。
三井住友ファイナンス&リース:ブロックチェーンを活用した資産管理システム
三井住友ファイナンス&リース(SMFL)は、米国のVertaloと共同でブロックチェーンを活用した資産管理システムを開発し、既存のクラウドサービス「assetforce」の機能拡張を行いました。まず第一弾として、不動産を対象にしたセキュリティ・トークン・オファリング(STO)の概念実証(PoC)を実施しており、今後はサーキュラーエコノミーの推進にも応用する予定です。
STOとは、不動産や金融資産をデジタル証券化し、ブロックチェーン上で取引を行う資金調達手法のことです。現状では、STOに関わるデータの管理や関係者間の情報共有が複雑で、手作業による処理が多いため、業務の効率化が課題となっていました。新たに開発されたシステムでは、資産情報を「assetforce」上で一元管理することで、ST発行に関わるプロセスを簡素化し、データの精度向上と取引のスピードアップを実現します。
また、この資産管理システムは、サーキュラーエコノミーの実現にも活用される予定です。サーキュラーエコノミーとは、製品や資源を可能な限り再利用し、廃棄物を最小限に抑える経済モデルのことで、SMFLグループのSMFLレンタルでは、このシステムを活用して計測器の在庫管理や貸し出し、校正作業、修理履歴の管理を強化する計画です。レンタル開始時や売却時に、物件の所在や状態をブロックチェーン上に記録することで、再利用可能な製品を可視化し、円滑な製品調達を可能にします。さらに、中古PCやIT機器のライフサイクル管理においても、キッティングやデータ消去の履歴を記録することで、より透明性の高い取引が実現できるでしょう。
ブロックチェーンを活用した履歴管理の強化により、資産の再利用や中古品の流通が活性化すれば、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄のビジネスモデルが変革される可能性があります。SMFLは、サーキュラーエコノミーの推進に必要な機能を「assetforce」に実装し、2024年度中の実用化を目指しており、ブロックチェーンを活用したスマートな資産管理が今後どのように発展していくのか、期待が高まりますね。
富士通:調達先とのカーボンフットプリントデータ連携
企業の脱炭素経営が加速する中で、サプライチェーン全体のCO2排出量を正確に把握し、削減することが求められています。特に、製品の原材料調達から最終製品の完成までの過程で排出されるCO2を可視化する「カーボンフットプリント(CFP)」の算出は、脱炭素戦略を推進する上で重要な要素です。
こうした背景のもと、富士通は国内外のサプライヤー12社と連携し、実データを活用したPCF(製品カーボンフットプリント)の算出とCO2排出量のデータ連携を行う取り組みを開始しました。この取り組みでは、ブロックチェーン技術を活用した「ESG Management Platform」を用い、サプライチェーン全体でCO2削減策の効果を可視化しています。
ESG Management Platformは、企業間のデータ連携を強化しつつ、機密情報の保護にも配慮した設計となっています。具体的には、アクセス権を限定したPCF算出や、PCFデータのみをAPIで接続する非中央集権型のデータ管理モデルを採用することで、サプライヤーが懸念する製品設計情報の漏洩リスクを軽減しています。また、PCFの算定には、グローバル標準の「PACT Methodology」が用いられており、国内のCO2可視化フレームワークにも準拠しているため、国際的な基準に則った透明性の高いデータ管理が可能になっています。
このデータ連携により、サプライチェーンの上流からCO2排出量のデータをつなぎ、各サプライヤーが実施した再エネ導入などのCO2削減施策の効果を可視化できます。例えば、特定の部品に使用される原材料のCO2排出量を詳細に追跡し、それを削減するための最適なシナリオをシミュレーションすることが可能になります。
富士通はこの取り組みを通じ、CO2排出量削減努力などの非財務データと売上などの財務データを組み合わせて分析し、製造業をはじめとする企業の経営判断を支援することを目指しています。このように、脱炭素に向けた取り組みを単なる環境対策にとどめず、企業の競争力強化にもつなげるアプローチは今後ますます重要になるでしょう。
JERA:P2P個人間電力取引及びDR等を活用した住宅地における脱炭素の推進
向けた基本合意書の締結について」
脱炭素社会の実現に向けて、住宅地における再生可能エネルギー(再エネ)の活用が重要視されています。しかし、大規模な発電設備の設置が難しい都市部では、限られた再エネ資源をいかに有効活用するかが課題となっています。こうした背景のもと、JERAは世田谷区や東京大学、TRENDEなどと連携し、P2P(個人間)電力取引とデマンドレスポンス(DR)を活用した住宅地の脱炭素化に向けた実証事業を開始しました。
P2P電力取引とは、ブロックチェーン技術等を活用し、住宅の太陽光発電や蓄電池で生み出された電力を個人間で売買できる仕組みのことです。従来、余剰電力は固定価格買取制度(FIT)を通じて電力会社に売却するのが一般的でしたが、FITの買取期間が満了した後は売電価格が大幅に下がるため、新たな電力取引の選択肢が求められていました。P2P電力取引では、発電した電力を近隣の住宅に直接販売できるため、電力の地産地消が可能となり、再エネの有効活用につながります。
この仕組みでは、AIによる需給予測を活用し、最適なタイミングで売買が自動的に行われるため、ユーザーが株式トレーダーのように電気を取引することはありません。運用に人手がいらず、参加者が増えるほどスケールメリットが働いてコスト負担が減る仕組みです。さらに、ブロックチェーンによって取引の透明性と信頼性が確保されるため、安心して利用できるのも大きな利点です。
今回の実証事業では、世田谷区内の300軒を対象にP2P電力取引市場の構築を進めるとともに、デマンドレスポンス(DR)の活用にも取り組んでいます。DRとは、電力の需要が高まる時間帯に一時的に使用量を抑えることで、電力の需給バランスを調整する仕組みのことです。これにより、電力のピーク時の負荷を軽減し、より効率的なエネルギーマネジメントが可能になります。
JERAは、この実証を通じて、住宅地における脱炭素モデルの確立を目指しており、将来的には他の地域にも展開していく方針です。P2P電力取引が広がれば、地域経済の活性化や再エネの自立的な運用も進み、電力のあり方が大きく変わる可能性がありますね。これからのエネルギー社会の行方、今後の動向に注目していきましょう。
事例から見るブロックチェーン活用のメリット
ブロックチェーンが脱炭素の取り組みに貢献する理由は何か。これまで紹介してきた事例を振り返ると、その答えが見えてきます。企業がCO2排出量を可視化し、削減策を講じるには、データの信頼性と正確性が不可欠です。しかし、従来の管理手法では、情報の改ざんリスクや手続きの煩雑さが障壁となり、脱炭素施策が思うように進まないケースも多くありました。
そこで活躍するのが、ブロックチェーンの持つ「透明性」「トレーサビリティ」「効率化」「新たな価値創造」といった特性です。これらのメリットが、どのように企業の脱炭素活動を加速させているのか、具体的に見ていきましょう。
透明性の向上
脱炭素の取り組みが進む中で、多くの企業が直面するのが「本当に環境負荷が削減されているのか?」という疑問です。カーボンクレジットの取引やグリーンボンドの発行など、企業の環境施策には数値的な裏付けが求められます。しかし、従来のデータ管理手法では、情報の不透明さや改ざんのリスクが問題視されることも少なくありませんでした。
ブロックチェーンは、この課題を根本から解決します。記録されたデータは改ざんができず、すべての関係者に同じ情報を共有できるため、環境対策の実効性が明確になります。これにより、投資家や消費者も信頼できる情報を基に意思決定ができるようになり、結果として企業の環境活動がより正しく評価されるのです。
トレーサビリティの確保
環境負荷の削減には、CO2排出量を正確に把握することが不可欠です。しかし、多くの企業が関わるサプライチェーン全体を可視化するのは簡単ではありません。情報の管理がバラバラで、どの段階でどれだけのCO2が排出されたのかを追跡するのは非常に手間がかかります。
ブロックチェーンを活用すれば、サプライチェーン全体のCO2排出量を統一的なフォーマットで記録し、必要な情報を正確に把握することが可能になります。これにより、企業はより具体的な削減対策を講じることができ、バリューチェーン全体での環境負荷低減が加速します。また、脱炭素に向けた企業間の連携もスムーズになり、サステナブルな経営の実現につながるでしょう。
効率化とコスト削減
脱炭素の取り組みは、煩雑な手続きや高コストが障壁となることも多いです。ブロックチェーンの「スマートコントラクト」は、こうした課題を解決する鍵となります。契約を自動執行できるこの技術を活用すれば、カーボンクレジットの認証や取引を効率化し、手作業による遅延やミスを削減できます。
さらに、サプライチェーンの排出量データをリアルタイムで共有し、削減の進捗に応じた自動インセンティブを設定することも可能です。こうした仕組みにより、環境施策の透明性と信頼性が向上し、企業の脱炭素化を加速させるでしょう。
新たな価値創造
ブロックチェーンの「トークン化」は、カーボンクレジットや再生可能エネルギー証明書の取引を簡素化し、新たな市場を創出します。従来の取引は手続きが煩雑でしたが、トークンとして発行することで小口取引が可能になり、より多くの企業や個人が参加できるようになります。
また、P2P電力取引のような市場で取引されるエネルギーと組み合わせることで、クリーンエネルギーの調達由来を可視化し、環境価値を明確に伝えることも可能です。こうした新たな仕組みが、脱炭素経済の発展を後押しするでしょう。
まとめ
脱炭素社会の実現に向け、ブロックチェーン技術はさまざまな分野で活用され始めています。本記事では、J-クレジットの認証・発行プロセスのデジタル化、カーボンフットプリントデータの連携、P2P電力取引の導入など、脱炭素に向けてブロックチェーンを活用している実際の企業の取り組み事例を紹介しました。
これらの事例から、ブロックチェーンの「透明性の向上」「トレーサビリティの確保」「効率化とコスト削減」「新たな価値創造」という4つの強みが、脱炭素社会の推進に大きく貢献していることがおわかりいただけたのではないでしょうか。今後、自社での脱炭素戦略を検討する際には、ブロックチェーンの活用も視野に入れることで、より効果的な取り組みが実現できるかもしれません。
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