【脱炭素の切り札】バイオ炭で地球とビジネスの未来を変える!その驚きの効果と活用事例

「脱炭素」や「カーボンニュートラル」という言葉を耳にする機会が格段に増えました。多くの企業や自治体が温室効果ガス排出の削減に向けて動き出す中で、新たな気候変動対策の鍵を握る存在として静かに注目を集めている技術があります。それが「バイオ炭」です。

最先端の脱炭素技術と聞くと、AIや水素エネルギー、カーボンクレジット市場などを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実は、この「バイオ炭」、見た目はただの黒い炭にもかかわらず、気候変動対策において非常にユニークかつ即効性のあるソリューションとして、世界中の研究者やビジネスパーソンの間で熱い視線を集めています。


この記事では、バイオ炭とは何か、その仕組みや効果、導入の現場、課題、そして未来に向けた展望までを丁寧に解説していきます。ビジネスの新たな可能性を模索している方も、環境問題に関心のある方も、「バイオ炭」が持つ可能性の深さにきっと驚かされることでしょう。

バイオ炭とは?地球温暖化対策の新たな救世主

画像出典:Gammaにて生成

そもそも「バイオ炭(Biochar)」という言葉は、まだ多くの人にとって馴染みが薄いかもしれません。しかし、その起源は意外にも古く、アマゾンの熱帯雨林で民族学者たちによって発見された「テラプレタ(黒い土)」には数百年前に人為的に埋められた炭素成分が含まれていることが明らかになっています。都市が消滅し、長い年月放置された後でも明らかに周りと植生の異なる豊かな土壌が形成されていることから、原住民の高い農業生産力と繁栄を支えていたテラプレタは、今日のバイオ炭の先駆けと呼べる存在とされています。

農林水産省の定義によると、バイオ炭とは「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」のことを指すとされており、バイオマス(生物由来の有機物)は木材、竹、もみ殻、家畜の糞尿といった様々な種類が用いられます。バイオ炭は、見た目こそ私たちもよく知る木炭に似ていますが、単なる「炭」ではありません。詳しくは後述しますが、バイオ炭が注目されている理由は、その多機能性にあります。

炭としての吸着性や通気性を生かせば、農地の土壌改良材として有効に働きますし、炭としての多孔質構造がもたらす吸着性や通気性によって農地の保水性や透水性が改善され、作物の生育にも良い影響を与えるとされています。また、炭素を長期的に土壌中に閉じ込める「カーボンストック(炭素貯留)」の効果により、大気中のCO₂削減にも寄与します。製造工程の中でメタンや一酸化炭素などの温室効果ガスが発生することもありますが、それらを適切に回収・活用することで、トータルではCO₂排出を削減する効果が期待されているのです。このような点から、バイオ炭は「古くて新しいテクノロジー」として国際的な注目を集めています。

一方、実際の普及状況を見てみると、課題も浮かび上がってきます。環境省の試算によると、2018年度のバイオ炭施用量はわずか約2,500トンで、貯留されたCO₂量は約5,000トンにとどまります。これは日本の農地面積のうち、バイオ炭が施用されているのがわずか0.006%であることを意味します。しかし裏を返せば、それだけ未開拓のポテンシャルが広がっているともいえるでしょう。仮に農地の10%に施用できれば、年間900万トンのCO₂貯留が見込まれるとも試算されています。

とりわけ、耕作放棄地の増加や竹林・人工林の管理放棄といった日本の地域課題を考慮すると、バイオ炭のポテンシャルは計り知れません。未利用資源を有効活用しながら、土壌を改良し、炭素を固定し、さらにはカーボンクレジットとして経済的価値も生み出す。バイオ炭は、まさに農業と脱炭素の両立を目指す切り札となる可能性を秘めているのです。

なぜバイオ炭が「脱炭素の切り札」と呼ばれるのか?その驚きの効果

画像出典:Gammaにて生成

バイオ炭は、地球温暖化という難題に挑むための多機能なツールだといっても過言ではないでしょう。古代の知恵に着想を得ながら、現代の気候変動対策や農業課題を解決する手段として、バイオ炭には多くの研究者や企業が熱い視線を注いでいます。実際、その効果は単一ではなく、複数のメリットが相乗的に絡み合っています。ここからは、バイオ炭がなぜ「切り札」と呼ばれるのか、その根拠となる三つの側面を掘り下げてみましょう。

土壌への炭素固定効果(ネガティブエミッション)

出典:経済産業省「ネガティブエミッション技術について(風化促進/バイオ炭/ブルーカーボン)」

温室効果ガスの削減に向けた取り組みは、これまで「排出の抑制」が中心でした。つまり、出さない努力です。しかし、近年注目されているのが「炭素固定効果(ネガティブエミッション)」と呼ばれる「排出したCO₂を取り除く技術」です。バイオ炭は、このネガティブエミッションを実現する手段のひとつとして、非常に優れた可能性を秘めています。

その理由は、バイオ炭の構造に隠されています。前述の通り、バイオ炭は高温・低酸素で加熱する「熱分解(パイロリシス)」という工程を経て生成されますが、この過程では、バイオマスに含まれる有機炭素が、極めて安定な炭素構造に変化します。通常の木炭と比較すると、バイオ炭は製造時の温度管理が厳格で、より高温で焼成されるため、炭素の結合がより強固になるのです。

こうして生成された炭素は、土壌に混ぜ込まれても微生物や酸素による分解を受けにくく、数百年から数千年単位で土壌中にとどまるとされています。これにより、土壌中での化学的安定性が高く、光合成によって植物が吸収した炭素を再び大気中に戻すことなく「閉じ込める」ことが可能になります。言い換えれば、地中に「カーボンバンク」を作るようなものです。

国際的にもその効果は評価されており、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)も、ネガティブエミッション技術のひとつとしてバイオ炭を正式に位置づけています。日本国内でも、農業分野での炭素貯留効果を測定・証明する動きが本格化しており、利用拡大に向けた研究開発の他、民間企業において用途拡大に係る研究開発が進められています。

土壌改良効果と持続可能な農業への貢献

出典:公益財団法人 国際緑化推進センター「バイオチャー(炭)で土壌改良in Africa」

バイオ炭のもう一つの大きな特徴は、炭素固定という直接的なベネフィットに加え、農業分野において数多くのコベネフィットをもたらすことです。パイロリシスによって作られたバイオ炭は、多孔質構造と呼ばれる無数の微細な穴を持っており、そこに水や養分、さらには微生物までもが蓄積されやすくなります。

このような性質から、乾燥地や痩せた農地にバイオ炭を施用することで保水性や保肥性が高まり、作物の根張りが良くなったり、異常気象へのレジリエンス(回復力)も高める効果が期待されるのです。実際に、バイオ炭を使った畑では収量が増加したり、病害虫の発生が抑えられたりといった効果も観察されており、農家の間でも少しずつ関心が広がっています。

また、バイオ炭のpHは8~10程度とアルカリ性に傾いており、土壌のpHを中和し酸性に偏りすぎた土壌を改善する効果も期待できます。したがって、農薬や化学肥料の使用を減らす方向性とも親和性が高く、有機農業や環境保全型農業にとっても魅力的な資材となりつつあります。

こうした諸所のコベネフィットは、単に土壌改良という農業的メリットにとどまらず、生物多様性保全や環境保全、気候変動への適応といった付加価値としても評価されつつあります。そして、これらの持続可能でレジリエントな農業という価値の重要性は今後、さらに増していくと予測されることから、土壌環境を根本から立て直すバイオ炭の存在は、まさに次世代の農業インフラといえるでしょう。

バイオ炭活用による収益化の可能性

環境にやさしいだけでなく、経済的な価値をも創出できること。それが、バイオ炭が「持続可能性」を実現する上で他の技術と一線を画す点です。バイオ炭の施用には、環境改善の効果だけでなく、「J-クレジット制度」を通じた収益化の道も開かれているのです。

J-クレジット制度とは、温室効果ガスの排出削減や吸収量の増加を「クレジット」として国が認証し、企業などがそのクレジットを購入・利用できる仕組みです。これにより、農家や事業者は収穫物の販売以外にも「炭素の価値」を収益源とすることが可能です。日本では、こうした国内の脱炭素社会づくりに貢献する取り組みを、経済的価値に転換するための国主導の制度として運用されています。

この制度において、バイオ炭を用いた農地への炭素貯留も、クレジット化が可能となる方法論の一つとして正式に位置づけられています。ただし、クレジットとして認証を得るためには、いくつかの厳格な条件を満たす必要があります。

制度全体の大前提として、「追加性(=その取り組みがなければ実現しなかったCO₂削減であること)」などが求められるほか、バイオ炭に関する方法論では、次のような適用条件が定められています:

  • バイオ炭は、農地法第2条に定める「農地」または「採草放牧地」における鉱質土壌に施用されること
  • 燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度で焼成されていること
  • バイオ炭の原料は国内産であり、かつ未利用の間伐材など他に用途のないバイオマスであること
  • 原料に塗料、接着剤等が含まれていないこと

こうした条件をクリアする必要はあるものの、定期的なモニタリングと報告(MRV)を通じて正確な炭素貯留量を算出することで、クレジットが認証され、市場での取引が可能となります。

バイオ炭に関する研究開発は、土壌への長期的影響評価や地域資源の活用モデル構築など、中長期的視点が必要とされる分野です。そのため、クレジット市場を通じて得られた資金は、研究開発・社会実装・サプライチェーン整備などに再投資されて「研究と資金の好循環」が生まれている、という点は新たなソリューションを社会実装していく上で欠かすことができないメリットです。

このように、カーボンクレジットによる経済的インセンティブは、企業をはじめとする民間セクターにとっても参入しやすい環境をつくり、バイオ炭の普及拡大における強力な推進力となり得るのです。

バイオ炭が抱える「普及への課題」とは?

画像出典:Gammaにて生成

バイオ炭がもたらす炭素固定効果や土壌改良、さらにはカーボンクレジットによる収益化の可能性は、まさに脱炭素社会を支える多面的なソリューションといえます。しかし、こうしたポテンシャルがある一方で、現場レベルではいくつかの課題が浮かび上がってきています。特に普及を本格化させるためには、「品質の安定性」と「適切な活用方法」の2点に関する課題が大きな壁となっています。ここでは、バイオ炭の社会実装を阻むハードルについて掘り下げてみましょう。

バイオ炭の「質」のバラつきと品質保証の難しさ

バイオ炭は、その名の通りバイオマスを炭化させたものですが、このバイオマスが何であるかによって、出来上がるバイオ炭の性質は大きく変わります。材料には、竹や稲わら、家畜の糞尿、間伐材、食品残渣といったさまざまな原料が使われていますが、それぞれが含有する成分や構造、含水率、炭化後のpHや多孔質構造などに差があるため、見た目は似ていても性質や効果は千差万別です。

加えて、炭化温度や酸素の供給量、熱処理時間といった製造工程の条件によっても、バイオ炭の性質は変わってしまいます。例えば、低温で短時間炭化されたバイオ炭は、有機物の分解が不十分で、微生物に分解されやすく、土壌に施用しても長期的な炭素固定効果を発揮できないことがあります(そもそもの定義に当てはまっていないため、正確にはバイオ炭ともいえないのですが)。一方で、高温・低酸素下で適切に炭化されたものは、安定的で長期間土中に残り続けるため、ネガティブエミッションを実現する重要な要素になります。

つまり、バイオ炭が「炭素を固定する」「土壌を改良する」といった効果を本当に発揮するには、その「質」が適切であることが大前提なのです。しかし現状では、製造方法や原料の違いが品質に直接影響しているにも関わらず、それを統一的に管理・保証する制度が十分に整っていません。これは、農業従事者が施用を検討する際に最も不安を抱くポイントのひとつでもあります。どの製品が効果的なのか、信頼できるのかという基準が明確でないため、施用を躊躇する声も少なくないのです。

こうした品質面の課題は、工業製品としての「安定供給」に欠けるという意味でもあり、サプライチェーン全体の信頼性にも影響します。特に、カーボンクレジットの認証制度においては、バイオ炭の品質が一定以上であることが条件となる場合もあるため、技術的なトレーサビリティの確立とともに、業界全体での標準化が急務となっています。

適切な施用量の判断と効果測定・評価の難しさ

バイオ炭の施用がもたらす効果は、施用量や施用方法によって大きく左右されます。しかし、実際に農地へ導入する際にはその「適切な量」を一律に定めることは容易ではありません。なぜなら、作物の種類や栽培環境、土壌の性質、気候条件など、さまざまな要素が複雑に絡み合い、施用の最適解がケースバイケースで異なるからです。

農地の表層にバイオ炭を混和するだけで済む場合もあれば、深層にまで浸透させることで効果が高まる場合もあります。それどころか、すでにpHバランスが整った土壌に過剰に投入すれば、逆に作物の生育を阻害する可能性もあるなど、地域や目的に応じた細やかな対応が求められるのです(農林水産省がバイオ炭の使用の目安を参考として示しています)。

バイオ炭の施用上限の目安について
出典:minorasu「バイオ炭で収益アップ!ブランド構築やJ-クレジット活用などのメリットを紹介」

さらに課題となっているのが、その効果の「見える化」です。例えば、炭素がどの程度土壌中に固定されたか、どのくらいの期間にわたって保持されるのかといった点は、明確に評価するのが難しい領域です。とりわけ地下部の炭素循環メカニズムは、バイオマスの根や微生物活動、土壌成分との相互作用などが複雑に絡み合っており、現時点ではその動態を定性的にも定量的にも十分に把握しきれていないのが実情です。

計測の困難さも、評価を阻む一因です。地表に比べて地下部や海洋中での炭素動態を観測・測定するには高度な技術が必要であり、コストや時間もかかります。これにより、現場レベルでは実証データの蓄積が進みにくく、科学的な裏付けを伴った評価やガイドラインの整備が進まない状況に陥っています。

こうした評価の不確実性は、バイオ炭の普及にとって大きなボトルネックとなっています。このような技術的・科学的な壁を乗り越えるためには、炭素固定メカニズムの解明を目的とした基礎研究が不可欠です。例えば、バイオ炭が土壌中でどのように分解され、どの成分が安定的に残留するのか。また、どの条件下でその炭素が再び大気中に放出されてしまうのか。こうした知見を積み重ねることが、最終的には適正な施用量の設定や、効果測定の制度化に繋がっていくはずです。しかし、実証的なデータが蓄積されるまでは、施用に対する慎重姿勢が強まる傾向があり、結果として市場の拡大が遅れてしまうのです。言い換えれば、技術としては魅力的でも、「実装可能性」としての壁が残っているともいえるでしょう。

バイオ炭の課題を乗り越える「デジタル技術」の可能性

バイオ炭は、脱炭素と農業再生という2つの課題に対して有望な解決策を提示していますが、その実用化には上述した「バイオ炭そのものの技術課題」以外にも製造から流通、施用に至るまでのコストや手間、効果の可視化の難しさ、トレーサビリティの欠如といった課題が存在します。

そして今、そうした課題を乗り越える鍵として、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、そしてブロックチェーンといったデジタル技術が注目されています。ここでは、それぞれの技術がどのようなものかを説明しつつ、バイオ炭の課題をどう解決しうるのか、その具体的な仕組みに迫ります。

IoT (Internet of Things)

画像出典:Gammaにて生成

IoTとは、センサーや通信モジュールといった小型のデバイスを搭載した様々な「モノ」がインターネットを通じて互いに情報をやり取りし、連携する仕組みを指します。農業分野では、土壌の水分量、気温、pH、養分濃度、さらには作物の生育状況といった現場の環境データをリアルタイムで取得・可視化するための基盤技術として、その活用が急速に拡大しています。バイオ炭の分野においても、このIoT技術は、施用前後の土壌状態の変化を定量的に把握し、その効果を科学的に裏付ける上で不可欠な役割を担います。

例えば、特定の農地にバイオ炭を施用した際、土壌の保水性や通気性、養分保持能力がどのように変化したのかを、土中に埋め込まれた高精度センサーが即座に記録し、そのデータをクラウド上で可視化できます。これにより、これまで「農家の勘」や「経験」といった主観的な実感に依存していたバイオ炭の施用効果の判断が、客観的な科学的エビデンスに基づいたものへと大きく転換します。さらに、バイオ炭の製造プロセスにおいても、熱分解炉内に設置された温度センサーや排気センサーを用いることで、炭化温度の最適化や排ガス管理をリアルタイムで行うことが可能になります。これは、高品質で均一なバイオ炭を安定的に製造するための品質管理と、製造工程におけるエネルギー効率の最大化、ひいては省力化とコスト削減を同時に実現する上で極めて有効な手段となるでしょう。

また、IoTによって収集された膨大なデータは、個々の農地や農家だけでなく、地域全体の農業経営者と共有することで、バイオ炭施用のベストプラクティスを構築する貴重な足がかりとなります。つまり、IoTはこれまで「見えなかったもの」を「見える化」し、バイオ炭の活用をより再現性の高い、そして科学的に裏付けられたプロセスへと導くための強力なツールなのです。

AI (Artificial Intelligence)

画像出典:Gammaにて生成

AI、すなわち人工知能とは、膨大なデータの中から複雑なパターンを学習し、それに基づいて高精度な予測や判断を行う技術です。IoTによって継続的に収集される土壌データ、気象情報、そして作物の成長履歴といった多岐にわたる情報をAIが高度に分析することで、バイオ炭の最適な施用タイミングや施用量を農家に対して具体的に提案することが可能になります。

具体的には、過去のバイオ炭施用実績と、その後の作物の収量データ、さらには土壌の種類や地域の気象パターンといった変数をAIが多角的に突き合わせることで、「どの土壌タイプに、どの量のバイオ炭を、どの時期に施用すれば最も収量が増加し、かつ土壌改良効果が最大化されるか」といった、従来は熟練した農業従事者の経験と勘に依存していた意思決定を、科学的根拠に裏打ちされた最適なものへと変える力を持っています

また、AIは気候変動リスクへの適応策としてもその真価を発揮します。例えば、気象予報データと過去の降水量データをAIが統合的に分析し、予測される干ばつや集中豪雨の可能性が高い時期を割り出すことで、土壌の保水性を高める効果のあるバイオ炭の活用を、どのタイミングで行うべきかといった具体的なシミュレーションを、現実的な精度で提示可能です。さらに、バイオ炭が農業生態系、特に土壌微生物相や生物多様性に与える長期的な影響をAIがモデル化することで、バイオ炭の導入が目指す「炭素固定」という環境目標と、「生態系保全」というもう一つの重要な目標の最適なバランスを図るための有効な手段としても機能するでしょう。

つまるところ、AIは単なるデータ分析の補助ツールに留まらず、バイオ炭を農業現場で最大限に活用し、その効果を最適化するための「戦略的な頭脳」として機能し得る、極めて重要な存在なのです。

ブロックチェーン

画像出典:Gammaにて生成

バイオ炭の持続可能な普及において、もう一つ看過できない重要な役割を果たすのがブロックチェーン技術です。ブロックチェーンとは、取引や記録を分散型ネットワーク上で管理する技術であり、一度記録されたデータは改ざんが極めて困難で、その透明性と信頼性が極めて高いという特徴を持ちます。元々はビットコイン等の暗号資産(仮想通貨)の基盤技術として注目を集めましたが、近年ではその応用範囲が環境、サプライチェーン管理など、多岐にわたる分野へと急速に拡大しています。

バイオ炭の分野においては、ブロックチェーン技術を導入することで、バイオ炭の製造過程から農地への施用、そして最終的な「炭素固定量」の測定に至るまでの全プロセスを、ブロックチェーン上に時系列で記録・管理することが可能になります。これにより、バイオ炭のトレーサビリティ(追跡可能性)を飛躍的に高めることができます。具体的には、「ある農家がどの種類のバイオマス(例えば、間伐材、農業残渣など)を使って、どのようなプロセス(熱分解温度、時間など)でバイオ炭を製造したのか」「その製造されたバイオ炭を、どの圃場に、いつ、どれだけ施用したのか」「そして、その施用によって、実際にどの程度のCO₂が土壌中に永続的に固定されたのか」——といった一連の極めて重要な情報が、改ざん不可能な形で記録・保存できるというわけです。

このトレーサビリティの確保は、カーボンクレジット制度の運用において革命的な進展をもたらすでしょう。従来、土壌中の炭素固定量を証明するには、複雑な計測と認証プロセスが必要であり、多大な時間とコストがかかる上に、制度全体の信頼性を担保する上での課題が残されていました。ブロックチェーンを活用すれば、誰が、いつ、どこで、どのようにして炭素を削減したのかを、リアルタイムかつ透明性のある形で記録・証明できるため、炭素削減の価値を「見える化」し、極めて信頼性の高いカーボンクレジットとして市場に流通させることが可能となるのです。

さらに、地域ごとに設けられた脱炭素プロジェクト同士をブロックチェーン上で連携させることで、バイオ炭による炭素削減実績を地域全体で共有・取引できる新たな基盤が構築されます。これは、地方自治体や企業が脱炭素目標を達成するための実効性ある手段となり、バイオ炭導入への経済的インセンティブを大幅に高め、その社会実装を加速させることにつながるでしょう。

バイオ炭の活用最前線:広がる可能性と最新事例/注目企業を紹介!

バイオ炭と関連技術について詳しく理解したところで、ここからはこの分野を牽引する注目企業にも焦点を当て、バイオ炭がどのようにして私たちの未来を形作っていくのか、その最前線をご紹介します。

商船三井

出典:LNEWS「商船三井/バイオ炭から2000トンの技術ベースCDRクレジット償却」

国際的な海運大手である株式会社商船三井が、二酸化炭素の排出削減にとどまらず、大気中からの除去という次のフェーズに踏み出したのは、2022年にさかのぼります。きっかけは、先進的なカーボン除去技術を扱う国際プロジェクト「NextGen CDR Facility」への参加でした。NextGenは、カーボンクレジット創出を手掛けるスイスのSouth Pole社と三菱商事株式会社が運営するカーボンクレジット共同購買の枠組みで、バイオ炭をはじめとする複数の革新的な除去技術を対象としています。同社は、国内の海運企業として初めてここに参画し、脱炭素の新たな手段としてバイオ炭に注目したのです。

商船三井が採用したのは、ボリビアのExomad Green社が展開する世界最大級のバイオ炭プロジェクトでした。2025年5月にこのプロジェクトから2,000トン分の技術ベースのカーボンクレジットを受領し、正式に償却を実施。これは同社にとって単なるCO2削減ではなく、Beyond Value Chain Mitigation──すなわち、自社の排出とは直接関係のない場所でもCO2除去に貢献するという、社会全体の脱炭素を見据えた取り組みの一環でした。

こうしたアプローチは、従来の“自社内完結型”の環境対策とは一線を画しています。排出源を持たない事業者であっても、今や自らの環境ビジョンを実現するために、グローバル規模の除去プロジェクトへ資金を投じる時代になったということです。実際、商船三井は2050年までのネットゼロ達成を掲げた「環境ビジョン2.2」の中で、2030年までに累計220万トンのCO2除去への貢献を明言しており、今回の事例はその道筋のひとつとして位置づけられています。

筆者としても印象的だったのは、こうした投資が決して短期的な利益を目的としたものではなく、今後数十年にわたって社会に必要とされる脱炭素インフラの礎を築こうという姿勢にあるという点です。技術ベースのカーボンクレジットはまだ高価で、供給も限定的です。それでも商船三井は、あえてその最前線に立ち、市場を育てる側に回ろうとしているのです。

これまで見てきたように、バイオ炭のような技術は、単独では普及という点において課題を抱えることが多いです。しかし、大企業が率先して需要を作り出すことにより、他の企業や国も追随しやすくなり、最終的には価格の低下や技術の改良につながっていきます。商船三井の一手は、まさにその先鞭をつけるものであり、海運業という枠を超えて、多くの業界に示唆を与えるものであるといえるでしょう。

HATSUTORI

出典:株式会社HATSUTORI

一見するとただの廃材にすぎないダムの流木が、農業や環境保全に貢献する資材へと生まれ変わる。そんな驚きの循環型社会の実現に挑んでいるのが、宮崎市に本社を構えるスタートアップ、株式会社HATSUTORIです。社長の服部かおる氏は、もともと看護師や助産師として医療現場に立っていた異色の経歴を持ち、三度目の大学生生活を経て、2023年にHATSUTORIを立ち上げました。

活動の軸は、全国的な課題となっているダム流木の活用です。大雨や台風のたびに発生する大量の流木は、ダムの機能を妨げるだけでなく、処理コストや安全面で自治体を悩ませ続けてきました。同社では、こうした流木を自社で開発した製炭炉で「バイオ炭」に変え、再利用する仕組みを構築しました。この炭炉は電気や化石燃料を一切使わず、従来の炭焼きでは数日かかる工程を、わずか4〜5時間で完了させることができます。さらに、この製炭炉は移動可能な仕様となっており、現地でそのまま炭化処理ができます。輸送コストを抑えつつ、現場でスピーディーに対応できるという点は、災害対応にも大きな意味を持つはずです。

こうして製造されたバイオ炭は、単なる燃料としてではなく、農業や畜産業での土壌改良資材としての活用が進められています。pH値が弱酸性傾向にあり、作物の生育環境の改善にも寄与する可能性があるとのことで、すでに実証試験も始まっています。災害ゴミとして見られていた流木が、今では農地を支える資源としてのポテンシャルを見せ始めているのです。

また、HATSUTORIはこの技術と仕組みをより広げるために、旭化成株式会社と連携した事業にも参画しています。旭化成の宮崎県延岡市の工場では、再生セルロース繊維などの製品を生産する過程で、セルロース由来の未利用バイオマスが発生します。これまで有効に使いきれなかったこうした資源を、HATSUTORIが持つ炭化技術でバイオ炭へと転換することで、地域内での資源循環を促進しています。企業とスタートアップが手を取り合い、地域の未利用資源を無駄なく循環させる。この動きは、まさにサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実践例といえるでしょう。

「農林水産業みらい基金」の助成事業に参画|旭化成株式会社

炭づくりというと古風なイメージを抱く方もいるかもしれませんが、HATSUTORIの取り組みは、環境問題の最前線で革新的な挑戦を続ける現代の姿そのものです。しかも、その根底には“誰かの困りごとを解決したい”という温かい視点が通っています。流木を地域の課題ではなく資源として捉え直し、農業の助けとし、さらに気候変動への対策にも貢献する。人と自然、地域と企業、それぞれの力が重なりあって初めて見える未来が、同社の挑戦の先には広がっているのかもしれません。

JR東日本グループ

出典:JRアグリ仙台「Tohoku RICE TOKEN」

「食べることが未来を変える」というと、少し大げさに聞こえるかもしれません。しかし、JR東日本グループが東北で始めたユニークな取り組み「Tohoku RICE TOKEN」を見てみると、それが決して絵空事ではないことに驚かされます。

このプロジェクトの主役は、バイオ炭を活用して栽培された「環境にやさしいお米」。このお米は、JR東日本グループの関連会社である株式会社JRアグリ仙台が手がけており、CO₂排出量の抑制に寄与する新しい農業のかたちとして注目されています。

きっかけは、宮城県の老舗食品メーカー・川口納豆の代表が、30年前から製造していた米の籾を燻した炭に着目したことにあります。このバイオ炭を田んぼにまくと、土壌改良効果だけでなく、農薬の使用回数を減らすことにもつながり、環境負荷の少ない米作りが実現しました。

この地道な農業技術に、デジタルの力を掛け合わせたのが、株式会社JR東日本情報システム(JEIS)です。彼らが注目したのは、農業の価値を「見える化」する仕組み。せっかく環境に配慮して育てた米があっても、それがどのように環境に良いのか、誰にも伝わらなければ意味がありません。そこで、ブロックチェーン技術を使って「NFT(非代替性トークン)」として証明書を発行するアイデアが生まれました。NFTは、改ざんができないデジタル証明として機能するため、お米がどのような環境で育てられたのか、誰が作ったのかを記録として残すことができます。購入者は、そのお米とセットになったNFTを受け取ることで、知らず知らずのうちに脱炭素の取り組みに参加できるという仕組みです。

この取り組みには、デザインや広報の面でも工夫が凝らされています。NFTのアートやプロジェクトのキービジュアルを手がけたのは、クリエイティブエージェンシーのWONDERVOGEL。プロジェクトの斬新さに惹かれたメンバーが、東北の自然やお米の温もり、そしてデジタルテクノロジーの洗練さを組み合わせたビジュアルを創り上げました。

販売は2024年9月から始まり、ササニシキ2kgと日本酒のセットが限定200セット用意されました。価格は4,970円(税込)で、購入にはLINEアカウントとスマートフォンが必要。WeWork仙台イーストゲートビルでの受け取り時には、購入時に発行されたNFTを提示するという、まさにデジタルとリアルを融合させた仕組みが採用されています。

今後、この仕組みを活用してJクレジット制度への申請も視野に入れているとのこと。日々の食卓から未来を変えていく。この地に根差した小さな挑戦が、次の大きな一歩を生み出していくかもしれません。

まとめ:バイオ炭とブロックチェーンで拓く、持続可能な未来

本記事では、脱炭素と持続可能な農業の「切り札」として注目されるバイオ炭の驚くべき効果と、その社会実装を加速させるデジタル技術の可能性を深掘りしてきました。土壌改良や炭素固定(ネガティブエミッション)といった多岐にわたるメリットを持つバイオ炭ですが、その普及には品質の安定性や効果測定の課題も存在します。

しかし、IoTによるデータ可視化、AIによる最適施用提案、そして特に重要なブロックチェーンによるトレーサビリティ確保が、これらの課題を克服する鍵です。ブロックチェーン技術は、バイオ炭の製造から農地への施用、最終的なCO2吸収量の証明までを改ざん不可能な形で記録し、カーボンクレジット市場での信頼性を飛躍的に高めます。こうした次世代技術によって、バイオ炭は環境価値だけでなく、経済的価値をも生み出す持続可能なビジネスモデルへと進化を遂げていくでしょう。今後の動向にも要注目ですね。

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