ブロックチェーンがAIの課題を解決する!?分散型台帳が秘める可能性とは?

少し前までは映画や漫画の世界の話だったAIも、いまや子供でも使いこなせるようなツールになるなど、かなり身近な存在へとなりました。また、ビジネスシーンではOpenAI社のChatGPTが、Officeソフトのように各社員が当たり前に使用するツールへと変貌を遂げました。一方で、「AIによって提供された情報をどう扱うか」「その情報は正しいのか」「情報源はどこなのか」など、これまでには表面化しにくかった様々な問題に悩まされる企業もあるようです。

本記事では、そんなAIが抱える課題について見ていくとともに、ブロックチェーンがAIにもたらすメリットや事例をご紹介します。ブロックチェーン技術とAIを組み合わせると、一体どんなことが可能になるのでしょうか?まずはAIとブロックチェーン、それぞれがどのような進化を遂げているかを確認していきましょう。

AIとは?

「AI」とは「Artificial Intelligence」の略語で、日本語に訳すと「人工知能」です。厳密な定義があるわけではありませんが、一般的にはその名の通り、機械が人間の知的な能力を模倣し、学習・推論・問題解決などのタスクを実行できる技術やシステムのことを指します。

AIの誕生は、1956年に開催されたダートマス会議に遡ります。この会議において初めて、人間のように考える機械が「人工知能」と名付けられました。当時はスマートフォンもパソコンもない時代でしたが、「人間の知能を作る」という発想はたちまち科学者の間で広まることとなり、AI研究が活発化することになります。

以降、AIは3つのフェーズに分けて研究が進んでいきます。

出典:zero to one

第1次AIブーム(1950年代)

最初のAIブームは1950年代に起こりました。この時期の研究は、初期のAI研究者たちが概念的なフレームワークを構築し、人間の思考を模倣するコンピュータープログラムを開発するというものでした。

コンピューターを使った論理的な推論自体は実現したものの、基本的には予め特定の問題を解決するための知識をプログラミングする手法をとっていたため、パズルや明確なルールがあるゲーム(トイプロブレム)などには強い一方で、ルールが不明確で複雑な問題を苦手としていました

こうしたアルゴリズムの限界などから期待されたほどの成果が得られず、AIへの関心が下火となりました。

第2次AIブーム(1980年代)

技術の進展が見られず、苦しい時期を過ごしたAI研究ですが、1980年代に入ると再び脚光を浴びるようになります。そのきっかけとなったのが「エキスパートシステム」の実現でした。

エキスパートシステムとは、ある分野の専門家の持つ知識をデータ化することで、その分野において人間の専門家に匹敵する知識を持つコンピュータープログラムを開発する手法のことです。

それまでのAIに「何でも屋」の役割を要求していた開発手法から脱却することで、医療診断、金融のデータ解析といった限定的な場面でエキスパートシステムが実用的な成果を上げました。

また、日本でも1982年に日本最初のAI研究プロジェクトである「第5世代コンピュータ(Fifth Generation Computing Systems:FGCS)」の研究が進められました。

ビジネスでの導入例も出現するなど好調に見えた第2次AIブームでしたが、再び大きな壁にぶつかることになります。それは、複雑性と計算資源の枯渇です。

エキスパートシステムは特定のシーンで適用されるには優れていましたが、一般的な知的タスクへの拡張は依然として限界がありました。また、例外処理や矛盾したルールにもうまく対応できないことがありました。

こうした背景には計算資源の不足が存在し、複雑な問題に対処するには十分な計算能力が必要であることが判明しました。

第3次AIブーム(2006年∼)

再び冬の時代に入ったAI業界ですが、2006年にある研究者の発見により転機が訪れます。それが、ジェフリー・ヒントンにより発明された「ディープラーニング」です。ディープラーニングとは、入力データからAI自ら特徴を判別し、特定の知識やパターンを覚えさせることなく学習して行くことができる技術のことで、別名「深層学習」とも呼ばれます。

ディープラーニングの発見によって、人間がルールを定義しなくても、カメラの画像から人間の顔を識別したり、歩行するロボットの自律運動を最適化させるなどといったことが可能となりました。

また、コンピューターの性能もこの間に著しく向上しました。インターネット回線などのネットワーク環境を介して接続し、処理能力の高いコンピューターを仮想的に構築することができるようになった結果、コンピューターを理論的には無限に高性能化することが可能となりました。AIが判断をする際に必要となる膨大な情報「ビッグデータ」の記憶や処理が容易になったのです。

こうした様々な技術の進展がある第三次AIブームでは、研究者だけではなく私たち一般の生活者にとってもAIが一気に身近な存在となりました。AppleのSiriやGoogleの音声検索、掃除ロボットやエアコンなどのIoT家電やソフトバンクのロボット「Pepper」など、誰もが一度はAIに触れたことがあることでしょう。

このように考えると、現在も続く第三次AIブームは、過去二回の一過性のブームとは全く質が異なることがわかります。

生成AIへと進化を遂げた!

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AIを語るうえでもはや欠かせない存在となっているのが「生成AI」です。

生成AIは、自らの知識から新しいデータやコンテンツを生成するAIのことを指します。これは主に自然言語処理や画像生成といった分野において大注目を集めています。生成AIを世に知らしめたのは、OpenAIが開発したChatGPTによる功績が大きいでしょう。

ChatGPTは大規模なデータセットで事前に学習され、その後、特定のタスクに転用されることで高度な生成能力を発揮します。「対話型AI」というジャンルがあるように、人間との対話を通じて文章を生成し、質問に回答する対話型の応答やテキストの記述に基づいて画像を生成することもできます

生成AIは、デザイナーやライターといったクリエイター以外の人でも簡単に文章や画像、音声といった多岐にわたるデータを生成できるため、クリエイティブな活動やコンテンツ制作、ビジネスシーンでも広く応用されています。

AIが抱える課題とは?

このように、ここ数十年で著しい急成長を遂げているAIはメリットばかりに目が行きがちですが、その影ではAIがもたらす危険性についても、各業界・団体・政府から警鐘が鳴らされています。つまり、AIの成長スピードに対して私たち人間側の準備が追いついておらず、いわば「成長痛」を起こしている状態なのです。ここからは、そんなAI領域で危険視されている要素について解説していきます。

プライバシーが侵害される恐れがある

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AIは高度な分析や予測を行うことができるとはいっても、基本的には従来のデータ分析手法との間に大差ありません。顧客データを収集し、活用していくAIマーケティングも、従来のやり方の延長線上にあります。したがって、AIを活用してビジネスを行ううえでは大量の個人情報を大規模データとして扱うことは避けては通れないのです。

大量のデータから経験則的に答えを導き出すとなると、少なくともデータ分析の観点では「データの量は多ければ多いほど良い」といえます。ここで問題となるのが、「どこまで情報を取得するのか」「どこまで情報を活用するのか」という線引きの問題です。

ECサイトの購入履歴をもとにオススメの商品をピックアップしてくれたり、家電が自分の生活リズムに合わせて機能してくれたりすれば、「AIは便利だなあ」と感じるかもしれませんが、日々の生活の一部始終や会話の一言一句をAIに収集されるとなるとなんだか気味の悪い話です。

実際にアメリカでは、EC大手のAmazonが音声認識AI(人工知能)「アレクサ」や防犯カメラ「リング」によって不当に個人のプライバシー情報を収集したとして合計3千万ドル(約42億円)超を和解金として支払う事例が発生しています。

アマゾン、プライバシー侵害42億円で和解 カメラ動画のぞき見も

また、国家による監視に悪用されるという可能性も捨てきれません。つまり、思想や信仰の自由を脅かす危険性があるのです。2024年オリンピックの舞台となったパリでは、安全上の理由からAIを搭載した数百台のカメラによる公共空間の監視が行われましたが、プライバシー擁護派や評論家らは、オリンピックが終わった後のこのシステムの運用方法に懸念を抱いており、特定のコミュニティがターゲットにされるのではないかと抗議活動が行われました。

オリンピック:フランス当局がAIを活用した監視システム導入…テロ対策・プライバシー保護巡り、賛否も

さらにこうした問題はプライバシーが侵害されるという人権上の問題に留まりません。大量の個人データが犯罪者たちにとってどれほどの価値を持つかというのは皆さんも重々承知のはずです。銀行や保険会社、時には自治体や公官庁レベルでも稀にとはいえない頻度でデータ流出が起こっています。近年、ビッグテックによるサイバーセキュリティ企業の買収が右肩上がりに増加しているのも同様の理由からでしょう。こうしたプライバシーに深く関わる情報が集権的に管理されることは、データ解析の精度を高める一方で、セキュリティ上のリスクを孕むことになります。

正しい情報とは限らない

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IT技術の進歩に伴って日々、AIの回答は正確性を帯びるようになってきています。しかし、膨大なデータを基にして分析や判断を行うとはいっても、そのデータが必ずしも正確であるとは限りません。なぜなら、学習するそもそものデータが誤った情報を含んでいる場合、AIはその誤りをそのまま学習し、架空の存在しない結論を導き出す可能性があるからです。これはハルシネーション(幻覚)と呼ばれる現象です。

ハルシネーションが起こる理由は、AIは基本的にLLM(Large Language Models、大規模言語モデル)という仕組みを使っているからです。LLMを詳しく説明しようとするとこの記事だけでは足りなくなってしまうのでかいつまんで話すと、大量のテキストデータを使って文の構造や文脈を学習し、統計的に正しいであろうタスク処理を行うAIモデルがLLMです。ここで重要なのは、これらのモデルは言語処理の訓練に使われたデータが持っている統計的パターンに依存しているということです。

つまり、会話の内容を最新のデータベースで検索をかけてファクトチェックを行ったうえで事実を述べているわけではなく、単語の出現確率を統計的に分析することで、ある単語に対し次に続く確率が高い単語を予測しているに過ぎないのです。

このフレームの外の問いに答えようとすると、自分の知識空間の中で類似しているものから確率的に「そうである可能性が高い」答えを引っ張り出してきてしまうので、存在しない事象についてあたかも事実のように嘘をついてしまうというわけです。

アメリカでは裁判用の書類をChatGPTで生成した結果、裁判所への提出書類が架空の判例だらけであることが判明した珍事件もありましたが、これもこうしたハルシネーションによるものだといえるでしょう。

ChatGPTで資料作成、実在しない判例引用 米国の弁護士 – 日本経済新聞

また、生成AIの進化に伴い、AI自身が存在しないコンテンツを作成してしまうこともあります。なかでも問題とされているのが「デープフェイク」と呼ばれる、動画に登場する人物の顔や表情、声などを別人のものと差し替え、動画内で本人が実際に行なっていない言動をさせて本物のような偽動画などを作る技術です。

たとえば、この動画は2021年2月にTikTokで公開されたものですが、これを見た多くの人が俳優のトム・クルーズがダンスを投稿していると思うことでしょう。しかし実は、本物にしか見えないこの動画は偽物です。声も口の動きも表情も全て、モノマネタレントであるマイルズ・フィッシャー氏が演じているもので、完全なフェイクなのです。

こういった技術はエンタメ分野、とくにCG制作においては、人間以外の生き物をディープフェイクで簡単に生成できるようになり、特殊メイクを施すなどの制作の負担を減らすことができる一方で、悪用されてしまうとたくさんの被害者が生まれてしまいます。実際に存在しない動画を作り上げるのには専門的なソフトと巧みな技術、そして気の遠くなるような作業量が必要でしたが、現在ではAIの発展によって素人では見分けがつかないレベルのディープフェイク動画を手軽に作ることができてしまうのです。

先ほどのアカウントはdeeptomcruiseという名前であり、自身が生成AIによるクリエイターであることを公言しているため、偽物だと断言することができますが、そうでなかったと考えると見分けるのは難しいですよね。

このように、AIは便利で面白い技術である一方で、その情報の正確性は全くといって良いほど保証されておらず、全幅の信頼を置くのは危険であるといえるでしょう。

AIへのブロックチェーン導入が検討されている

AI、すなわち人工知能の発達は著しく、その勢いは留まることを知りません。

総務省の試算によると、「日本のAIシステム市場規模(支出額)は、2022年に3,883億6,700万円(前年比35.5%増)となっており、今後も成長を続け、2027年には1兆1,034億7,700万円まで拡大する」という予測がされています。

しかし、このような大きな進化のフェーズにいるAIですが、システムに全く欠陥がないというわけではありません。むしろ、昨今のAI技術の進展のスピードに法規制やユーザーのリテラシーが追いつかず、重大な問題を引き起こす可能性があります。

AIが今日直面している最も重要な問題の多くは、データに起因するものです。機械学習という側面上、膨大なデータをモデルに分析を行いますが、このデータベース部分に使われている技術は決して目新しいものではありません。

情報セキュリティの観点からビッグデータを独占しているGAFAが批判されているのと同様に、データに依存して機能することが前提となっているAIには必然的にデータベースの脆弱性がつきまとうのです。

こうした流れを受けて、「次世代のデータベースともいえるブロックチェーン技術が、既存のAIの課題解決に役立つのではないか?」という議論が盛んになっています。

ブロックチェーンとは?

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ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っていました。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています。

また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出す行為を「マイニング」といい、最初にマイニングを成功させた人に新しいブロックを追加する権利が与えられます

ブロックチェーンではマイニングなどを通じてノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持つことで、データベースのような管理者を介在せずに、データが共有できる仕組みを構築しています。参加者の立場がフラット(=非中央集権型)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

ブロックチェーンがAI業界にもたらすメリット

「プライバシーが侵害される恐れがある」「正しい情報とは限らない」という課題があるとご説明しましたが、とくに後者の課題に対してはブロックチェーンを採用することで解決の糸口が探れるかもしれません。ここからは、ブロックチェーンがAI業界にもたらすメリットについて詳しい解説を加えます。

情報の出どころが追跡できる

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ブロックチェーンがAI業界にもたらす最も顕著なメリットは「情報の出どころを追跡できる」という点です。AIツールをビジネスで活用する場合、自社でルール制定をしてファクトチェックを行う必要がありますが、AIの回答のソースは明らかでない、もしくはカスタマイズしたプロンプトを用意する必要があり、イチイチ裏取りをするのにも手間がかかってしまいます。ルールがあるにも関わらず、うまく機能していないケースも少なくないのではないでしょうか。

一方、ブロックチェーンではその名の通り、データ同士をハッシュで鎖のようにつなぎ合わせながら格納します。したがって、AIが生成したコンテンツがどのような情報をもとにしているのかをブロックチェーン上に記録することで、それぞれのコンテンツがきちんとした真正性が保証されているのかを確認することができるようになります。

情報の出どころをトラッキングできるようになれば、事実確認も大幅に簡略化されて規範的なAI活用が可能になります。AIサービスを提供する企業にとっても、自社の技術がディープフェイクのような人の目で判別するのが難しいようなコンテンツに悪用されるのを防ぐ手段にもなり得るでしょう。

情報の信憑性が確認できない状況が続いてしまうと最悪の場合、法規制によってAIそのものが自由に開発・利用できなくなる可能性もあります。事実、生成AIに対する世間の風当たりが強まっています。NHKが2024年に実施した世論調査によると、生成AIに関する法規制について「規制を強化すべき」が61%、「今のままでよい」が8%という結果となりました。

「生成AI」偽情報と規制 “規制強化すべき”61% NHK世論調査 | NHK

もちろん、新たなテクノロジーに対してある一定のルールを設けることは悪いことではありません。しかし、過剰な安全確保に走ることで、イノベーション確保に難が出てしまう可能性も否定できません。直近の例でいえば、日本国内においてドローンの運用に関する法律や規制が非常に厳しいことが、商業利用における足枷になっています。

ブロックチェーンによってコンテンツの起源を追跡できるようにすることは一見、AI業界に大きなメリットはないように感じてしまいますが、法律によって技術開発がスピードダウンしてしまわないように信頼できる情報源のものであることを証明する術を「安全装置」として備えておくことは、実はとても重要なことなのです。

データが極めて改ざんされにくい

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「データが極めて改ざんされにくい」という点もブロックチェーンがAI業界にもたらすメリットでしょう。AIとビッグデータはお互いを補い合う関係性で成り立っているため、AIによるデータ分析の精度は学習データそのものの精度に大きく影響を受けます。こうした背景から、近年ではAIモデルの学習データに意図的に不正確または有害なデータを混入させることで、モデルの性能や出力を操作する「データポイズニング(Data poisoning)」と呼ばれる被害が発生しています。信頼性を保証するには、手作業でデータを収集してサンプルのクオリティを人間が保証しなければならないですが、大規模データともなると現実的ではありません。

一方のブロックチェーンは「ブロックチェーンとは?」でも見た通り、ハッシュとナンスによって「改ざんが困難なデータ構造」を持っています。この構造により、データの変更履歴がすべて記録され、どのブロックがいつ追加されたかが明確になります。もし誰かがデータを改ざんしようとしても、不正がすぐに検知されます。たとえサービスの提供者であっても不正なデータの書き換えや削除を行うことができないため、親データを汚染してAIの出力を狂わせることはできません。

また、データが改ざんされないということは、AIが生成したコンテンツの唯一性が保証されるということです。本来、デジタルデータは修正が簡単なためにその唯一性を主張することが難しいという問題がありました。しかし、ブロックチェーンをうまく活用することで作成者や作成日時が不変の形で記録できるため、後から誰かがコンテンツを改ざんしたり、他人の作品を自分のものとして主張したりすることが難しくなります。こうしたAIコンテンツの著作権保護にもブロックチェーンの耐改ざん性は活躍するでしょう。

一方でブロックチェーン✕AIにはある課題も‥

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これまで見てきたように、ブロックチェーンはAIの課題を解消するソリューションとしての可能性を秘めています。しかしながら、現在ローンチされているAIサービスでブロックチェーンを使用しているケースは少数といってもいいでしょう。これは一体なぜなのでしょうか?実は、その答えはブロックチェーンの強みとして紹介した耐改ざん性に隠されています。

ブロックチェーンに記録されたデータは、その特性上、一度記録されると基本的に削除や変更が不可能です。これはデータの信頼性や透明性を保証するための大きな利点ですが、AIが生成した非倫理的なコンテンツやプライバシーを侵害したコンテンツがブロックチェーンに記録されてしまった場合には、問題を引き起こす可能性があります。

たとえば、AIが誤って個人情報を含むコンテンツやデマ情報を生成し、それがブロックチェーン上に記録された場合、その情報は永久に残り続けてしまいます。削除する手段がないため、被害を受けた個人や企業にとって重大なリスクとなります。通常のデータベースであれば、誤った情報を修正したり削除したりすることができますが、ブロックチェーンではそのような修正が原則として不可能です。

さらに、非倫理的なコンテンツが広く拡散されることを防ぐための対応が遅れると、社会的に深刻な影響を及ぼす可能性もあります。プライバシーを侵害するデータが一度でもブロックチェーンに記録されると、そのデータの存在を消すことができないため、被害者の権利保護が困難になる恐れがあります

このように、ブロックチェーンの改ざんされにくいという特性は大きな利点である一方で、AIが生成した問題のあるコンテンツが削除できないというリスクも伴います。このポイントを理解したうえで、どこからどこまでをオンチェーン(ブロックチェーンに記録する)で扱うのかを慎重に設計しながら運用する必要があります。

実際にAI×ブロックチェーンが実現している事例

株式会社Final Aim「Final design」

出典: Final Aim

株式会社Final Aimでは、ブロックチェーンを活用したデザイン管理プラットフォーム「Final design」を提供しています。このプラットフォームでは、デザインデータやアイデアの著作権・所有権をブロックチェーン上に記録し、変更履歴やオリジナルの創作日時を明確に管理しています。

製造業におけるデザインデータ/契約書/知的財産権などの重要データは、これまで十分に保護・管理されておらず、権利侵害や盗用といった様々なリスクが付きものでした。また、複数の関係者が関わるデザインプロジェクトでは、誰がいつどのようにデザインを変更したのかを追跡することが困難でした。

しかし「Final design」を用いてこれらのデータを一元管理することで、スマートコントラクトを通じた真正性担保や価値保証ができるようになります。昨今注目されている、生成AIによる新たなデザイン開発においてもリスク解消が可能なプラットフォームとして特許出願も完了しています。

ヤマハ発動機とのコラボレーションにおいてもその有効性が証明されており、「Concept 451」モデルのデザイン検討プロセスでは、各種生成AIを用いて導き出された大量のデザイン案とデザイナーのノウハウを融合することで、権利を保全しながら斬新なデザインを導き出すことに成功しています。

同社によると、今後はデザインと製造業に限らず、図面データが発生する建設業や画像データがつくられるクリエイティブ産業など、様々な分野への応用を目指し、ブロックチェーンを活用した新たなクリエイティブ産業の基盤構築に取り組む予定とのことです。

SingularityNET

出典:SingularityNET

SingularityNETは、ブロックチェーンを活用してAI開発者とユーザーをつなぐ分散型のマーケットプレイスを提供しています。従来、AIアルゴリズムやサービスは中央集権的なプラットフォームで提供されることが多く、開発者は自らの技術がどのように利用されるかを追跡する手段が限られていました。また、AIツールはひとつの社内で閉鎖的に開発されているため、基本的に異なるAIツールをつないで1つのタスクを実行できないことも当たり前でした。

SingularityNETではブロックチェーン上にサービスの利用履歴が不変的に記録され、開発者が自身のサービスがどのように使用されているかを詳細に把握できます。AI開発者は権利保護が強化されたことで、エコシステムでAIサービスの作成から収益化までをスムーズに進めることができ、開発したAIツールを持ち寄り、お互いの良さを引き出したり欠点を補ったりすることも可能になりました。開発者自身もユーザーとして各々が求めるAIサービスを利用できるというのはとてもユニークですよね。

こうしたAIサービスを売買できるAIツールのネットショップのような場所が実現したのは、「世界一表情が豊かな人型AIロボット」と呼ばれる「ソフィア(Sophia)」の生みの親として知られているデビッド・ハンソン博士やAGI(汎用人工知能)開発の権威であるベン・ゲーツェル博士など、錚々たるメンバーが創設に携わっているからでしょう。

同プロジェクトは2024年に、分散型プラットフォームであるFetch.ai、Ocean Protocolらと統合し、「ASI(Artificial Superintelligence)アライアンス」と名付けられた統一暗号資産へと生まれ変わりました。この統合によって、さらなるAI開発の発展が期待されています。

まとめ

本記事では、ブロックチェーンがAIの抱える課題をどのように解決できるか、その可能性について解説しました。AIの成長と共に、プライバシー侵害やデータの信頼性といった問題が顕在化しており、これらの課題は単なる技術的な挑戦を超え、社会的・倫理的な影響を持っています。

ブロックチェーンは、分散型台帳の特性により、データの改ざん防止や、情報の透明性を確保することができ、とくにデータポイズニングやディープフェイクに対して強力な対策となる可能性があります。加えて、著作権保護やコンテンツの真正性の検証にも効果を発揮し、AIが扱うデータの品質を保証する重要な役割を果たすことが期待されています。

バッテリーマネジメントシステム(BMS)とは?リチウムイオン電池の性能向上に欠かせない最新技術を紹介します!

バッテリーは携帯電話や家電などに留まらず、EVなど大型の製品に組み込まれるようになっています。一方で、こうした大容量のバッテリーには安全性や効率性の観点から、バッテリーマネジメントシステム(BMS)による最適化が欠かせなくなっています。バッテリーが私たちが便利な生活を送るうえで欠かせないものであることを踏まえると、絶えず監視をおこなってくれるバッテリーマネジメントシステムは現代社会ではまさに「心臓」ともいえる働きをしているといえるでしょう。

しかし、普段の生活では製品の「裏側」ともいえるバッテリー関連、とくにマネジメントシステムについて触れる機会はほとんどなく、この名称を聞いたことがあるという方のほうが少ないのではないでしょうか?とはいえ、今後ますます重要になってくるであろう本技術について全くの無関心でいるというわけにもいきませんよね。そこで今回は、バッテリーマネジメントシステムの基礎から最新の関連トピックについて解説します。

そもそもリチウムイオン電池とは?

リチウムイオン電池は、「リチウム」という金属を使用した二次電池(充電により繰り返し使える蓄電池)のことです。二次電池の中でも特にエネルギー密度が高く、同じ重量や体積でより多くのエネルギーを蓄えられることからスマートフォン、ノートパソコン、電動工具、そして電気自動車(EV)まで、さまざまなデバイスに使用されています。

リチウムイオン電池、と聞くと一つの電池のことを指すように感じますが、実際にはまず、「セル」と呼ばれる単電池を複数まとめて「モジュール」という集合体にします。そして、このモジュールに保護回路やバッテリーマネジメントシステムを接続し、ケースにパッキングされた状態で初めてリチウムイオン電池となります。

では、リチウムイオン電池の充放電の仕組みを簡単に見てみましょう。

出典:日経ビジネス「イチから分かるリチウムイオン電池」

リチウムイオン電池は、化学的なエネルギーを電気エネルギーに変換することで動作します。内部にはリチウムイオンが移動する電解液と、リチウムを含む遷移金属酸化物から成る正極と炭素材料である負極、そして正極・負極が互いに接触しないように物理的に仕切るセパレータがあります。

充電時には、リチウムイオンが正極から負極に移動し、エネルギーを蓄えます。そして、放電時には逆にリチウムイオンが負極から正極に移動し、その際に発生する電気をデバイスに供給します。このサイクルを繰り返すことで、何度も充電して使えるというのがリチウムイオン電池の特徴です。

しかし、リチウムイオン電池には高いエネルギー密度を持つがゆえのリスクも存在します。バッテリー内部での化学反応が適切に管理されない場合、過充電や過放電が発生し、電池内部の温度が急激に上昇することがあります。これは「熱暴走(サーマルランナウェイ)」と呼ばれる現象で、最悪の場合、発火や爆発といった重大な事故を引き起こす可能性があります。

近年では電気自動車やハイブリッド車などのモーターの駆動に使われる二次電池として、すでにリチウムイオン電池が採用されていますが、長年、自動車向けのバッテリーに鉛蓄電池が用いられてきたのはこのような安全性の側面も大きいです。

したがって、リチウムイオン電池の技術は非常に便利である反面、その潜在的なリスクを管理することが欠かせません。ここからは、そのリチウムイオン電池の安全性と効率性を保つためのキーテクノロジーである「バッテリーマネジメントシステム(BMS)」について詳しく見ていきましょう。

バッテリーマネジメントシステム(BMS)の役割

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バッテリーマネジメントシステム(BMS)は、バッテリの状態を監視・制御し、安全かつ長時間使用できるようにするシステムです。リチウムイオン電池をはじめとする再充電可能なバッテリーにおいて、その性能は使用を重ねるごと(充放電を繰り返すごと)に劣化してしまいます。この劣化スピードを最低限に留め、バッテリーのパフォーマンスを最大限に引き出すために用いられるのがこのシステムです。

BMSの詳細なアルゴリズムやアプローチはシステムによって異なりますが、BMSの役割は、単にバッテリーの寿命を延ばすだけにとどまりません。ここでは、BMSが果たす様々な役割について詳しく見ていきましょう。

限度を超えた充電・放電からバッテリーを守る

バッテリーの性能を最大限に引き出すためには、各セルの電圧範囲を適切に管理することが重要です。リチウムイオン電池は、電圧の変化に非常に繊細です。電圧が高すぎると過充電となり、電池の正極が許容量を上回るほどのリチウムイオンを放出してしまい、電池内の状態が不安定になってしまいます。逆に、電圧が低すぎると過放電となってしまい、電池の負極に用いられている銅箔が溶け出してしまいます

バッテリーの電圧管理を理解するために、バッテリーを大きな池に例えてみましょう。水位が限界まで高まっている池にさらに水が注がれれば、池が決壊してしまいます。これが過充電に相当し、バッテリーセルに余計な負荷がかかり、劣化や発火のリスクが高まっている状態です。

一方、池の水位がゼロに近い状態で水を使おうとしても、もはや水を取り出すことができず、池自体も乾燥して生物が住める環境ではなくなってしまいます。これが過放電の状態であり、バッテリーが機能不全に陥る原因になります。

BMSは、この池の水位を常に安定させるダムのような役割として機能します。過充電と過放電のどちらもバッテリーの劣化を促進させる原因となるため、BMSは各セルの電圧を監視し、電圧が高すぎたり低すぎたりしないよう、適切な範囲内で制御することで、バッテリーの安全性を確保するとともに、最大の性能を引き出します。

ここ数年のEV関連技術の進歩には目を見張るものがありますが、急速充電や高負荷運転時には、より厳格な電圧制御が求められます。BMSはこうした先端技術を安全に消費者に体感してもらううえでも重要な役割を果たしているといえるでしょう。

セルごとの性能バラツキを均一化する

リチウムイオン電池は、前述の通り複数のセルが組み合わされて構成されていますが、各セルの性能にバラツキが生じることは避けられません。これは製造のバラつきに由来する個体差や使用環境のストレス耐性に関する個体差があるためです。EVに搭載されるバッテリーには、バッテリーセルが100〜200個も使用されることがあり、各セルごとの性能のバラツキがバッテリー全体の性能に悪影響を及ぼす可能性もあります。

バケツリレーを想像してみてください。リレーで水を運ぶとき、全員が同じペースで水を渡し続けなければ、どこかで遅れが出てしまいます。同様にバッテリーセルも、全てのセルが同じ性能で動作しないと、バッテリー全体の効率が下がる可能性があります。BMSは、バケツリレーの指示役としてセル間の電圧や温度のバラツキを監視し、バランスをとることでこれを均一化します。

具体的には、バッテリーセルごとの電圧を測定し、最も高い電圧のセルと最も低い電圧のセルの差が一定の範囲内に収まるように調整を行います。この過程を「セルバランシング」と呼びます。セルバランシングには電圧の高いセルを強制放電させて電圧を均等化する「パッシブ方式」と電圧バランスが崩れたセル間で電流をやり取りしてセルの充電状態を均等化させる「アクティブ方式」の2つがあります。エネルギーの保存効率という点ではアクティブ方式が優れていますが、システムのコストと複雑さでは圧倒的にパッシブ方式に軍配が上がります。

こうしたバランシング機能は、バッテリーの使用中だけでなく、充電中や待機中にも行われることがあり、バッテリーの全体的な均一性を保つことで、効率的なエネルギー供給を実現します。バッテリーセルは、微妙な差異が積み重なることで性能が変わりやすく、長期間にわたって使用する中で、劣化の進行度も異なります。このような状況下で、各セルの状態を個別に監視して全体としてのバランスを保つ役割を果たすBMSは、大型化を続ける近年のバッテリー産業において欠かすことができない存在といえるでしょう。

バッテリーで重要なSOH・SOCとは?

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BMSを語るうえで「SOH(State Of Health)」と「SOC(State Of Charge)」という二つの重要な概念への理解が欠かせません。これらの指標は、バッテリーの現在の状態を把握し、その性能や寿命を最大限に引き出すために重要な役割を果たします。ここからはこの2つの指標について簡単に解説します。

SOH(State Of Health)

SOHとは、バッテリーの健康状態を示す指標で、バッテリーの性能や寿命を評価するために使用されます。バッテリーの容量、内部抵抗、サイクル数などのパラメータから総合的に計算され、初期の満充電容量(Ah)を100%としてカウントします。つまり、SOHが50%というバッテリーは、完全に充電を行ったとしても初期と比べるとそもそも半分の容量しか持てない状態になっているということです。

SOHは一般の消費者からするとあまり馴染みのない言葉のように感じますが、実は身近な端末でも確認することができます。たとえば、iPhoneをお使いの方は、「設定」アプリの中から「バッテリー」を選択して「バッテリーの状態と充電(一部機種では「バッテリーの状態」)」という項目を開くことで、iPhoneの最大容量を確認することができます。SOHという言葉こそ使われていないものの、これはSOHと非常に近しい概念です。

バッテリーは使用されるにつれて化学反応の進行により内部の材料が劣化し、容量が徐々に減少していきます。また、内部抵抗の増加もバッテリーの効率に影響を与えます。これらの変化が蓄積されることで、バッテリーのSOHが低下し、最終的には交換が必要となるタイミングが訪れます。BMSは、このSOHをリアルタイムで監視し、ユーザーに劣化の進行状況を知らせるとともに、バッテリーの保護機能を適切に動作させる役割を担っています。

今後、ほとんどすべての製品が電化されていくこと、そしてバッテリーの材料となるいくつかの鉱物が限られた資源であることを考えると、SOHの情報はもはや現代社会において必要不可欠かつ貴重な価値を持つ情報だといえます。

SOC(State Of Charge)

SOC(State Of Charge)は、バッテリーに現在どれだけの電力が残っているかを示す指標です。スマートフォンやPCでは、ツールバーや画面上に表示されていることが多いため、身近な存在かと思います。SOCもパーセンテージで表され、100%が満充電、0%が完全に放電された状態を意味します。ただし、電池を完全に放電させてしまうと構造的に壊れてしまうため、ユーザーに対するSOC表示は電池の正確なSOCであるとは限りません

SOCを正確に把握するためには、バッテリーの電圧や電流、温度など複数の要因を考慮する必要があります。リチウムイオン電池の場合、電圧と容量には相関関係があるため、電圧値から電池の充電状態を推測することができますが、充電時には電圧が高く、放電時には電圧が低くなる(過電圧)ことがあり、単純に電圧を測定するだけでは正確なSOCを推定することは難しいです。

また、SOC推定の際に考慮すべき要因として「メモリ効果」があります。メモリ効果とは、ニッカド電池やニッケル水素電池が前回の充放電サイクルを記憶(=メモリ)しているかのように、再度充放電を行っても初回に放電を中止した付近で少し電圧が低めに推移する現象のことです。リチウムイオン電池では発生しにくいとされていますが、正確なSOC測定を実現するうえでは注意が必要な情報です。

このような様々な要因が絡み合うため、普段私たちが当たり前のように確認している充電残量の測定は、実は技術的には少し難しいことをやっているのです。

バッテリーマネジメントシステム(BMS)普及の障壁

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BMSは、バッテリーの性能と安全性を大幅に向上させる技術ですが、その普及にはいくつかの障壁があります。ここでは、BMSが普及する上での主要な課題について説明します。

測定精度の向上

バッテリーの状態を正確に監視するためには、高い測定精度が不可欠です。内部状態を診断する際に、バッテリーの電圧や温度の測定におけるわずかな誤差が、バッテリーの寿命や安全性に大きな影響を与える可能性があるものの、現在の技術では、特に極端な温度環境や高負荷条件下での測定が難しい状況にあります。これには、バッテリーの特性や外部環境の影響が大きく関係しています。

リチウムイオン電池の電圧は、充電状態だけでなく、温度や電流、さらには経年劣化によっても変化します。このような多様な要因が絡み合うため、単純な数式でこれらの関係を表すことができず、正確な推定には複雑なモデルが必要となります。また、バッテリーの劣化も一様ではなく、使用によって内部抵抗の上昇や容量の低下が進むため、時間とともに推定の精度がさらに難しくなります。

また、外部環境の影響も測定精度を低下させる大きな要因です。たとえば、温度の変化はバッテリーの内部抵抗や開回路電圧に直接影響を与えます。温度が変わると、同じ充電状態でも異なる電圧が測定されることがあり、これを正確に補正するためには温度を精密に測定し、その影響を考慮したモデルを適用する必要があります。

さらに、センサーから得られるデータにも精度を低下させる要因があります。センサーにはノイズが含まれており、このノイズが測定結果に影響を与えることで、推定の精度を落とす原因となります。とくに温度センサーは、環境条件によってノイズが増減しやすく、特に高温環境下ではノイズの影響が顕著になります。

これらの複雑な要因によって、BMSの測定精度は急速には向上していません。技術の進展には時間とリソースが必要であり、その実現にはまだ多くの課題が残されていますが、BMSの精度が高まればバッテリーの性能や安全性が向上するため、新しいセンサー技術やデータ解析のアルゴリズムの研究・開発は日々進められています。

統一された規格が存在しない

バッテリーマネジメントシステム(BMS)の普及において、統一された規格が存在しないことも大きな障壁となっています。この問題は、異なるメーカー間でのバッテリーの互換性を低くしており、システムの設計や開発において多くの課題を生じさせています。

統一規格が存在しない理由はいたって単純で、各バッテリーメーカーが独自の技術を活用してバッテリーセルや制御回路、アルゴリズムを開発しているためです。これにはメーカーが自社製品の差別化を図り、競争優位性を確保しようという意図があります。そのため、業界全体での規格統一が難航しており、長い歴史の中で多様な規格が生まれ、互換性が確保されないまま進展してきたのです。また、国際舞台においても利権を巡ってバッテリーの規格の乱立が目立ちます。

異なるメーカーのバッテリーを組み合わせて使用することが困難になると、システムの設計や開発にかかるコストが増加したり、修理や交換が必要な場合にも煩雑さが増してしまいます。ユーザーにとっても不便さが生じ、市場の拡大も阻害される可能性もあるでしょう。

規格統一の進展は、バッテリーシステムの性能やコスト、信頼性に大きな影響を与え、業界全体の成長を促す鍵となります。将来的には、こうした取り組みが実を結び、より安全で効率的なバッテリーマネジメントシステムの普及が進むことが期待されます。

バッテリーマネジメントシステム(BMS)を進化させる技術も

日本国内においても、BMSの技術が進化しています。特に、BMSの機能を簡素化しつつ、より効率的にバッテリーを管理するための新たな技術が注目されています。これらの技術は、バッテリーの性能を向上させ、さらなる普及を後押しするものとして期待されています。

交流インピーダンス法

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交流インピーダンス法は、正極・負極・電解液のインピーダンス(交流信号を回路に印加したときの電気抵抗)を測定することで、バッテリー状態を推定する手法です。

バッテリーが劣化していくと、電極材料や電解質の変化により内部抵抗が増加することが一般的です。リチウムイオン電池の場合、充放電を繰り返すうちに、電極の表面に不純物が蓄積し、電荷の移動がスムーズでなくなります。この結果、電流が流れる際に電圧降下が大きくなり、電池全体のインピーダンスが増加するのです。

また、直流ではバッテリーの充電が完了すると反応が進まなくなる(インピーダンスが無限大になる)ため、それ以上の電流を流すことができませんが、交流では電流の向きが変わるため、バッテリーの周波数応答を測定・解析することで、リアルタイムかつ分解の必要なく、バッテリー状態を知ることができます。

国内ではヌヴォトン テクノロジージャパン株式会社が交流インピーダンスを用いた半導体による電池残存価値評価技術を開発しています。同社の開発中の次世代バッテリ監視ICでは、半導体チップに交流インピーダンス測定機能を集積し、電池パック状態においても複数セルを同時に診断することが可能です。

交流インピーダンス法は多数のリチウムイオン電池セルのインピーダンスを同時に測定できるうえ、測定したインピーダンス値から電池内部の温度変化を推定もできるため、短時間での正確な残存価値評価を可能にするテクノロジーとして注目を集めています。

矩形波インピーダンス法

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矩形波インピーダンス法も、バッテリーの状態を測定するための技術として知られています。矩形波インピーダンス法も大きく分類すると交流インピーダンス法の一種ですが、この方法では、バッテリーに矩形波信号と呼ばれるパルス状の信号を印加し、その応答を「フーリエ変換」という変換処理を行ったうえで信号を解析するというアプローチを取ります。

矩形波インピーダンス法を用いる最大のメリットはその効率性にあります。一つの矩形波信号を入力するだけで、複数の周波数のインピーダンスが得られるため、何度も何度も色々な周波数を掃引する必要がありません。そのため、他の測定手法と比較すると圧倒的な測定スピードを誇ります。

東陽テクニカの検証によると、インピーダンスの数だけ測定が必要である一般的な交流インピーダンス法では51回の測定が必要だった推定作業が、矩形波インピーダンス法では単一周波数の入力信号のみで交流インピーダンス法と同等の精度で測定が実現する結果となっています。

国内では、EC SENSING株式会社が矩形波インピーダンス法の優先実施権を保有しており、この技術をもとに先進的なBMSを構築中です。

矩形波インピーダンス法では、診断する蓄電池と同一品種の経時劣化データが数多く必要になるという課題もありますが、測定に時間を要する大規模蓄電池の登場やスペースや設置環境の制約によって従来のインピーダンス測定ができない・適さないシーンにおいて広く応用されることが期待されています。

AI BMS

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BMS業界では、AIを活用する動きも見られつつあります。測定精度が向上することによってバッテリーの状態を正確に把握したとしても、実際にそれらの情報を活用し、デバイスを適切に制御しなければ意味はありません。そこで、BMSにAIを組み込むことで、リアルタイムの測定情報を駆使しながらパフォーマンスを最大限に引き出す動きがトレンドとなっています。

実際に、Eatron Technologies社が発表しているバッテリーにはAIが搭載されています。Syntiant社と共同で開発されたこのバッテリーでは、AIがSoC(システム ・オン・チップ)で搭載されているため、複雑なクラウド・インフラストラクチャー不要でデバイス上で直接リアルタイムの分析と挙動管理を実行できます。また、バッテリー容量を10%向上させ、バッテリー寿命を最大25%延ばすことに成功しており、コスト効果の高いAIソリューションとして注目を浴びています。

また、AIによる新たな蓄電池診断アルゴリズムが開発されれば、これまでに紹介した手法の課題も解決されるかもしれません。矩形波インピーダンス法では親データがなければ診断ができないというデメリットを挙げましたが、AIを活用すれば新型のバッテリーが登場した場合でも、すぐに個別のバッテリー評価基準を導くことが可能となります。事前に劣化に関する標準データを取得する必要がなくなれば、矩形波インピーダンス法による蓄電池診断サービスの対応領域がとても幅広くなることは間違いないでしょう。

ワイヤレスBMS(wBMS)

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測定ではなく、バッテリーそのものの製造自体を簡素化しようという取り組みも確認できます。それがワイヤレス・バッテリーマネジメントシステム(wBMS)です。

EVの製造においてコストや所要時間の割合で多くを占めるのが実はバッテリーの搭載です。セル自体のコストも安くはないですが、それを車両に搭載して動作するようにするためには、衝突安全性を担保するフレーム、BMS、バッテリー内のセル間を結ぶケーブルとコネクタなど多くの部品を使用しなければならず、製造においても配線や溶接など多くのプロセスを要します。

wBMSは、BMSにおける各セル監視ICとホストのマイコン間とをワイヤレス・ネットワークで接続する手法です。これにより、ケーブルやコネクタなどの直接材コストを省くとともに、ケーブルの敷設やコネクタの嵌合に要する生産コストの削減を図ることができます。バッテリーの形状によっては、総重量を減らすこともできるはずです。これは製造プロセスにおいても革新的な働きとなります。これまで複雑なバッテリーの配線には人の手が必要でしたが、ワイヤレス化が進めば人間が一切介入することなくバッテリーが生産できるようになるからです。

実際に世界的自動車メーカーのGMでは、2021年末以降に量産を開始する予定の新世代のEVへワイヤレスBMS搭載バッテリーの「Ultium」を採用する決定を下しています。余計なケーブルがないため非常に薄型の造りとなっており、同バッテリーはさまざまな車種に適応できるといいます。また、スポーツカーブランドのLotus Carsにおいても、今後5年以内に出荷が予定されているEVの新たな量産車種に、アナログ・デバイセズのwBMSを採用するという決断を下しました。これにより、バッテリーパックの配線を最大90%、体積を最大15%削減できる見込みです。

セル間の通信やセンサー等は引き続き有線で接続されるものの、バッテリーの製造コストやプロセス・形状に大きな変化を与えるwBMSがEV市場とどのように付き合っていくのか、今後の展開から目が離せません。

ブロックチェーン

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最後に、ブロックチェーン技術もBMS分野で注目を集めていることに触れておきます。ブロックチェーンはデータの改ざんが難しく、高い信頼性を持つデータベースの一種です。現に暗号資産やセキュリティ・トークンなど改ざんが許されない分野で非常に重宝されています。データベースとバッテリーはあまり結びつかないようなイメージですが、実は中古車流通のシーンでこれらの相性の良さが発揮されます。

ご存じの通り、自動車業界ではすでにガソリン車からEV/PHEVへの移行が始まっています。もちろん、何十年後かには中古車市場にそれらの一部は流通することになるでしょう。しかし、ここで問題となるのが中古EVの残存価値評価です。ガソリン車の価値は「車種」「年式」「走行距離」「ダメージ」で決まることが多いですが、EVではこれらに加えて「バッテリー状態」という新たな指標が存在します。

測定精度の向上によって今後、価値が安定していく可能性もありますが、現状では非破壊検査によるバッテリー残存価値診断による査定ではEVのリセールバリューは低く見積もらざるを得ないのが現状です。つまり、消費者も買取業者も、急速充電ばかりを繰り返して劣化しているバッテリーを買いたくないのです。そして、こうした「使い方」まで探る診断というのは簡易的には難しく、中古EVの市場価値はなかなか高い水準には達しません

2024年6月に発表されたiSeeCarsのレポートでも、「過去1年間で中古ガソリン車の平均価格は前年比3~7%下落し、中古EV価格は30~39%下落」していると指摘されており、EVは中古ガソリン車の平均価格よりも速いペースで価値が下がり続けている現状です。

このような状況で、ブロックチェーン技術が活躍します。BMSは、バッテリーユニット内の温度、湿度、圧力、電圧、電流等のデータにアクセスできるため、ここで取得した情報をブロックチェーンに書き出します。チェーン上に記録されたデータは分散的に管理され、買取業者や購入検討者も見られるため、バッテリーの「使い方」まで確認できるという仕組みです。

EVの普及という面では、欧州のみならず隣国の中国にも大きな遅れを取っているといわざるを得ない日本ですが、中古車価格という面では「日本製EV」という世界と戦うだけの武器を携えています。この武器をブロックチェーンと組み合わせることで、右ハンドル車の中古車価値を担保し、世界市場で再び日本の自動車業界が存在感を強めるきっかけにもなるでしょう。

また、バッテリーとブロックチェーンの組み合わせはBMSに限ったことではなく、欧州で法制化されたバッテリーパスポートに関連しては、MOBIをはじめとするモビリティ業界のコンソーシアムまでもが、ブロックチェーンをスタンダードに研究を進めています。こうした背景からも、ブロックチェーンでBMSのデータを扱うというのは、近い将来に国内でも事業化されるかもしれません。

ブロックチェーンをBMSに応用してブラックボックス化されたバッテリーの性能評価を透明性の高い形で管理し、EV中古車市場が活性化する日がやってくるのか。引き続きキャッチアップが欠かせない領域です。

まとめ

本記事ではバッテリーマネジメントシステム(BMS)について解説しました。記事内でも述べた通り、BMSの役割は多岐にわたり、電圧の管理や過充電・過放電の防止、セルごとの性能バラツキの均一化など、バッテリーの最適な性能を引き出すために欠かせないものです。

しかし、測定精度の向上が求められる点や統一規格の整備などの障壁は消して簡単に乗り越えられる壁ではありません。それでも、日本国内外での技術革新は続いており、AIやブロックチェーンなどBMSをさらに進化させる新たなテクノロジーが次々と登場しています。

これらの技術が今後どのように発展し、私たちの生活にどのような影響を与えるのか、引き続き注目していく必要があります。BMSは、今後ますます重要性を増す技術であり、その進化と普及が、より安全で効率的なエネルギー利用を実現する鍵となるでしょう。

エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは?種類や導入のメリット、注目されている背景も解説!

2024年現在、カーボンニュートラルやSDGsが声高に叫ばれる一方で、LNG(液化天然ガス)や原油価格の上昇、円安などの影響によって電気料金値上げが続いています。企業では節電・省エネの取り組みを強化するために、エネルギーコスト管理と同時に環境への配慮が求められていますが、燃料や電気の使用状況を把握するというのはなかなか手間のかかる作業です。

そこで近年、それらのコントロールを容易にする仕組みである「エネルギーマネジメントシステム(EMS)」に注目が集まっています。本記事ではEMSの仕組みや種類、システム導入のメリットなどについてわかりやすく解説していきます。

目次

エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは?

まず、そもそもEMSとは何かという点と注目される背景について解説します。EMSがどういった理由から重要度が高まってきているのかということを理解しましょう。

EMS=エネルギー使用の最適化

出典:ヤンマー

エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは、エネルギーの使用状況を可視化し、各設備や機器の稼働をコントロールすることでエネルギーの運用を最適化するためのシステムです。センサーや制御機器を活用することで、エアコンや照明といった各機器におけるエネルギー使用のパターンやピーク時を把握・予測し、最適な節電となるように運用を制御します。

なぜエネルギーマネジメントシステム(EMS)が注目されているの?

EMSが注目される理由としては、省エネや持続可能な開発目標(SDGs)等の環境面やエネルギーコストの削減といった費用面に対する意識変化が挙げられます。

出典:資源エネルギー庁「2023―日本が抱えているエネルギー問題(前編)」

石油や天然ガスなどの資源に乏しい日本は元々エネルギー自給率が低く、資源エネルギー庁によると2021年度の日本の自給率は13.3%で、他のOECD諸国と比べても低い水準にあります。加えて、2011年に東日本大震災が起きて原子力発電所が停止した結果、海外から輸入される石油・石炭・天然ガス(LNG)といった化石燃料への依存がさらに強まります。

すると、電力消費量が多い工場やビルなどでエネルギー管理の取り組みが広がり、結果として企業における再生可能エネルギーの普及をはじめとした省エネ対策の意識が高まりました。また、昨今の電気料金の高騰を受けてエネルギーコストを削減することも企業の急務となりました。

環境やコストの問題への対策として、エネルギーの利用を最適化して必要以上にエネルギーを使用しないことが有効ではあるものの、企業においては一般的な家庭と比べて規模感や人的リソースの問題からエネルギー消費の最適化を図ることは簡単ではありません。

また、これまでは電気などのエネルギーをどのくらい使用したのかを知る機会や方法はあまりなく、電気料金の請求書からざっくりと知る程度でした。何にどのくらい電気を利用したのか、具体的なデータを正確に知る術がなかったのです。

そこで注目されたのが、自社施設における空調設備や照明設備などのエネルギー使用状況を機械的に把握して最適化できるEMSです。「どの機器がどれだけの電力を消費しているのか」「電気使用量が多い箇所はどこなのか」といった詳しい情報やデータをリアルタイムで制御できるEMSは、エネルギーコストの削減につながるうえに、限られた資源を効率よく・効果的に活用できるため、多くの企業で導入が検討されています。

エネルギーマネジメントシステム(EMS)の国内市場規模

より良い世界にするための全世界の共通目標であるSDGsが一般に浸透して以降、世界的にEMSへの注目度が高まっている状況ですが、当然「持たざる国」である日本においてもEMSへの注目度は高く、市場規模も拡大傾向にあります。

出典:オートメーション新聞

株式会社富士経済が2024年1月に発表した調査レポート「エネルギーマネジメント・パワーシステム関連市場実態総調査 2024」によれば、EMS関連市場は今後、製造業を中心とした脱炭素対策の推進や半導体関連工場の新設・増強、サプライチェーンにおけるCO2の総排出量(Scope3)の把握ニーズが高まったことなど、複数の要因によって市場拡大が期待されており、その規模は2035年度には2兆6887億円に達すると予測されています。これは同レポートで示されている2022年度の市場規模の約2.1倍にあたる数値であり、昨今の法規制やエネルギー自家消費ニーズの高まりを見るに、エネルギー需給調整ビジネスは近い将来、飛躍的に成長していくに違いありません。

また、EMS関連市場とは一口に言ってもその中にはさまざまな分野が存在します。その中でも先行して成長が予測されている分野に「見える化ツール」をはじめとする「EMS関連ハードウェア(送配電・受電分野)」が挙げられています。

「見える化ツール」とは、業務・産業施設で採用されるエネルギーの使用状況を可視化するための電力計測機器やデータ収集機器のことで、主に大規模事業所においてエネルギー管理システムの構築用途で採用されてきました。

しかし、近年では一つの商品のサプライチェーンが複雑化しているため、大手企業と取引する中小規模の事業者においても製造時のエネルギー利用状況の把握が求められています。したがって、大企業ほど設備管理・エネルギー管理にリソースを割けないという中小企業においては、今後数年で省力化システムのニーズも急速に高まり、市場を後押しするのではないかという見方が強くなっています。

さらに、発電・蓄電分野のEMS関連ハードウェアも現在、研究開発が著しく進んでいます。蓄電池やV2H、再生可能エネルギー発電設備といった各業界の先端技術が進歩することにより、エネルギーの見える化を実施する主体は、企業だけではなく消費者へと大きく拡大していくことでしょう。とくに住宅分野においてはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やIoT住宅、スマートマンションをキーワードとした高付加価値型住宅での需要が高まるとみられています。

このように、EMSは現在進行形で市場規模を拡大させているホットな領域であるといえます。

エネルギーマネジメントシステム(EMS)の種類

エネルギーマネジメントシステム(EMS)は、エネルギーの効率的な使用と管理を目的としたシステムであり、その応用範囲は非常に広範囲にわたります。EMSは、管理対象とする施設によってさらに細かく分類することができます。主な管理対象にはビル(BEMS)、家庭(HEMS)、工場(FEMS)、マンション(MEMS)、工業団地などの地域(CEMS)があります。それぞれのシステムは、異なる環境やニーズに対応するために設計されており、エネルギーの最適化とコスト削減を実現する役割を果たしています。各々のシステムについて詳しく見ていきましょう。

BEMS(Building Energy Management System)

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BEMS(Building Energy Management System)は、主に商業ビルやオフィスビルなどの大規模な建物におけるエネルギー管理を目的としたシステムです。オフィスやビルに機器制御装置、温度センサー、人感知センサー、中央制御装置などを設置し、収集したデータをもとに建物全体のエネルギー使用をリアルタイムで「見える化」できるため、システムによってはその稼働を制御して省エネを目指すこともできます。

手動ではなく自動的に設備を稼働させるため、「いくら言っても昼休みの消灯や空調温度設定が守られない」という従業員の省エネ意識不足や「日報作りに時間と手間が掛かってしまう」というリソースの無駄もなくなるでしょう。

また、BEMSは建物全体のエネルギー効率を評価し、改善点を明確にするためのツールとしても活用されています。多くの国では、省エネルギー法や建築物省エネルギー基準が設定されており、これに対応するためにはエネルギー管理システムの導入が不可欠です。日本においても「省エネ法」によって一定規模以上の事業者には、中長期計画を策定してエネルギーの使用状況などを報告する義務があります。こうした計画の策定にBEMSを活用することで、企業はエネルギー使用量の把握やそれに基づく改善や目標設定、届出書の提出が容易になり、少ない労力で社会的責任を果たすことができます。

業務用ビルからのCO2排出量は日本のCO2排出量全体の約1割を占めるといわれており、多くの建設会社やビル管理会社、電機メーカーがBEMSを開発しています。近年では、ビルの省エネルギー性能がテナントの選定基準となるケースも増えており、BEMSの導入は競争力を高める要素として今後、さらなる普及が期待されています。

HEMS(Home Energy Management System)

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HEMS(Home Energy Management System)は、事業者向けではなく、一般住宅でのエネルギー管理を目的としたシステムです。家庭内の電力消費をタブレット端末やパソコン画面等で監視し、消費者が自分で管理できるような各種機能を提供します。その仕組みはいたってシンプルで、分電盤に電力測定装置を取り付け、HEMSに対応した各家電をネットワークに接続し、タブレット端末などで家庭内のエネルギー使用状況を管理します。

HEMSは国内の家電大手であればほとんどのメーカーで取り扱っており、IoTテクノロジーの発展により外出先からネットワークを通じて家電を遠隔操作することができます。「暑いからエアコンを付けたまま外出したいけど電気代が心配」「急いで出てきたけど玄関のドアって閉めたっけ?」といった心配もなくなり、快適な住まいと家庭の電力使用の効率化が実現できるでしょう。

また、HEMSはエネルギー使用のデータを分析し、家族のライフスタイルに合わせたエネルギーのコントロールを行います。近年、太陽光発電による創エネによって家庭における消費エネルギーのすべてをまかなう住宅であるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)が注目を浴びていますが、ゼロエネルギー化を実現するためには、消費電力の確認と抑制が必須です。HEMSでは、正確な分析とリアルタイムでの監視により自動的に電力消費を最適化できるため、ZEHに欠かせないシステムとなっています。

日本において民生部門(家計が住宅内で消費したエネルギー消費と第三次産業の事務所内におけるエネルギー消費)は最終エネルギー消費の3割を占めており、省エネ対策の強化は欠かせません。HEMSの導入は温室効果ガスの削減にもつながるため、政府も民間企業を主導としたHEMSの普及を期待しており、「グリーン政策大綱」にて2030年までに全世帯への設置を目標に掲げています。

グリーン政策大綱(骨子)|国家戦略室

一方、一般家庭が使用するエネルギーを可視化して一元管理するという点ではBEMSと同じですが、HEMSに対応している機器が少ないという課題があります。HEMSに家電を接続する場合には、経済産業省が推奨する「ECHONET Lite」という規格に対応している必要があります。今後登場する家電の多くは対応しているものに置き換わることが予想されますが、既存の製品では対応できないものも多く、HEMS導入と同時に買い替えが必要になることは押さえておく必要があるでしょう。

FEMS(Factory Energy Management System)

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FEMS(Factory Energy Management System)は、工場におけるエネルギー管理を目的としたシステムです。工場は一般的に大量のエネルギーを消費するため、FEMSの導入により大幅なエネルギーコストの削減が期待されます。生産設備や照明、空調などのエネルギー使用を詳細に監視・制御し、生産性を維持しながらエネルギーの無駄を削減することができます。

基本的な仕組みはこれまでのEMSとほとんど変わりませんが、受配電設備のエネルギー使用量の管理だけではなく、工場にある生産設備のエネルギー使用量も管理対象に含まれています。FEMSから得られるデータをチェックするだけで設備そのものの無駄な部分や使い方などが浮き彫りになり、製造活動の改善につなげられます。したがって、サプライチェーンと連携したエネルギー使用の最適化や生産計画への反映といった応用の仕方が可能になっています。

また、企業が省エネを目指して掲げる方針や目標、計画などを一連のプロセスとして定めたEMSの国際規格「ISO50001」によって導入が推進されているため、FEMS導入企業はグローバルな競争力を維持することができます。環境保護の観点からも取引先や顧客の選定要素となり得るため、企業間競争においてもFEMSは重要な役割を果たすことになるでしょう。

MEMS(Mansion Energy Management System)

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MEMS(Mansion Energy Management System)は、マンションや集合住宅におけるエネルギー管理を目的としたシステムです。マンションの共用部や各住戸のエネルギー使用をリアルタイムで監視し、効率的なエネルギー利用を促進するための各種機能を住人や管理会社または運営会社に提供します。これにより、住民全体のエネルギーコストを削減し、環境負荷の低減も図ることができます。

MEMSは、HEMSとBEMSのちょうど中間のようなイメージで、住民はHEMSのように各戸がモニターで電気の使用量を確認できるようにして効率的なエネルギー消費をしながらも、マンション全体のエネルギー消費を一元的に管理することが可能です。共用部の空調や照明の管理を最適化することで、住民の快適性を損なうことなく省エネを実現することができ、マンション全体のエネルギー使用状況をリアルタイムで監視することで、異常なエネルギー消費の早期発見や、災害時の迅速な対応が可能となります。

こうした安心で快適な居住環境という観点では、MEMSの導入はマンションの資産価値を高める要素ともなっており、導入されたマンションは「スマートマンション」としてのブランド力を強化することができます。

また、MEMSの契約は各戸ごとではなくマンションで一括受電契約をするため、マンションの屋上に設置された太陽光発電システムから得られた電力を共用部や各住戸に供給することで電気料金を削減することもできます。さらに蓄電池と連携することでエネルギーの自給自足や災害へのリスクヘッジも実現できるため、その重要性は今後ますます高まるでしょう。

CEMS(Community Energy Management System)

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CEMS(Community Energy Management System)は、地域全体や工業団地におけるエネルギー管理を目的としたシステムです。地域にある発電所だけではなく、範囲内にある企業や一般家庭などもエネルギーマネジメントの範囲です。

オフィスビルなどを管理するBEMSや一般家庭で用いられるHEMSは消費する側の立場でエネルギーを管理しますが、CEMSは電力を供給する側の立場でマネジメントを行います。CEMSはいわば、これまでにご紹介した個々のEMSを含めた地域全体のエネルギーを管理する「まとめ役」のような存在です。したがって、CEMSは単なる省エネではなく、「エネルギーの地産地消」をめざそうという発想が盛り込まれており、外部からのエネルギー依存を減らすことで、太陽光発電や風力発電、燃料電池、蓄電池などの不安定な電源による需給アンバランスや逆潮流による電力品質問題を解決します。電源が分散しているため、災害時の対策としても活用できるでしょう。

日本ではエネルギー効率の向上と環境保護の観点から、政府も地域エネルギー管理の一環としてCEMSの普及を支援しており、多くの自治体や企業が導入を検討しています。CEMSの導入は、地域のブランド力を強化する要素としてエコタウンとしての認知度を高める効果も期待できます。

その他にも、CEMSではHEMSで取得したデータを活用したヘルスケアなどの生活サポートサービスの提供をはじめ、様々なサービスへの接続が期待されています。CEMSの普及が進むことで、日本におけるエネルギーの未来はよりスマートな方向へと進んでいくでしょう。

エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入するメリット

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EMSの導入は、カーボンニュートラルやSDGsなど環境問題への対応からエネルギーコストの削減といった経済的な利益まで広く影響を与えます。ここでは具体的な3つのメリットについて解説します。

各設備の正確な消費エネルギー量を「見える化」できる

これまでは詳細なエネルギー使用量を知りたくても、請求書や明細には記載がないため、各機器・施設ごとのエネルギー使用量は知ることができませんでした。しかし、EMSを導入することで、各設備の消費エネルギー量をリアルタイムで「見える化」することが可能になります。

施設内において「どの設備が・どの時点で・どれくらいエネルギーを使用しているか」という具体的なエネルギー使用の内訳を「時間ごとに」あるいは「リアルタイムで」把握することで、いかに資源のロスが発生しているのかを見つけるきっかけになります。たとえば、オフィスの照明が必要以上に点灯されている時間帯を特定し、自動でタイマーを設定することも一手です。

加えて、その使用エネルギー量からどのくらいCO2を排出したのかも計算できるため、環境への効果も具体的に見えるようになります。そのため、エネルギー消費の効率化や環境への効果に対して成果が具体的に報告しやすくなり、実行した対策のチェックによってエネルギー計画を改善していくことも可能になります。

老朽化や不具合により稼働率が低下した機器が「わかる化」できる

EMSの導入により、各設備の稼働状況を継続的にモニタリングすることができるため、老朽化や不具合によって稼働率が低下した機器を早期に「わかる化」できます。たとえば、ある機器のエネルギー消費が通常よりも急激に増加している場合、それは内部の部品が劣化しているサインかもしれません。EMSを活用すれば、こうした異常を即座に検知し、適切なメンテナンスを実施することで、機器の寿命を延ばし、運用コストを削減することができます。

また、EMSには、リアルタイムでエネルギーの使用量が把握できるだけではなく、過去の使用量データも保存されています。過去のデータとの比較により、劣化が進行している機器や故障が発生し始めている設備を事前に把握することで、完全に使えなくなってしまうまでメンテナンスや交換が後回しにされがちな機器類でも、業務に支障が出る前にメンテナンスや機器の交換が可能となり、大規模な故障やトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。

エネルギー運用の「最適化」を実現できる

ここまでは個々の機器のエネルギー効率を把握できるというメリットを述べてきましたが、EMSの最大のメリットは、エネルギー運用の「最適化」を実現できる点にあります。各設備のエネルギー使用状況を詳細に分析し、どのタイミングでどの機器を稼働させるべきかを最適に判断することができます。たとえば、電力の使用ピークを避けるために、複数の機器を順番に稼働させることで、エネルギーコストを抑えることが可能です。

さらに、EMSから得られるデータをもとにエネルギー効率の低い機器を交換するタイミングを正確に把握できるため、設備投資の計画も立てやすくなります。機器の稼働効率が向上した後にも、定期的なエネルギー消費の見直しを機械的に行うことで、エネルギー管理の全体を最適化して持続可能な経営を実現します。企業にとってメリットの多いエネルギーマネジメントシステムですが、こうした「見える化」「わかる化」「最適化」のサイクルを回し、常に最適なエネルギー運用ができるのがEMSの良さなのです。

エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入するときの課題

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これまで見てきたようにEMSは、エネルギーの効率的な管理と削減を目指すための強力なツールです。一般家庭への普及も推進されているEMSですが、導入するうえでいくつか気をつけておきたいポイントがあります。ここからは、EMSを導入する際に考慮すべきいくつかの課題について見ていきましょう。

イニシャルコストが大きい

EMSの導入において最初に直面するのは、その高額な初期投資です。EMSは各設備のエネルギーの流れをより詳細に取得する必要があるため、導入にあたっては計測デバイスを外付けするなどして監視システムの網の目をより細かく張り巡らせる必要があります。また、現状の設備がEMSに対応しておらず、新たに買い替える場合、機器の費用も加算されます。したがって、小規模な事務所へのEMS導入であっても、導入範囲によっては数千万円以上の費用がかかる可能性があります。商業施設や学校、病院といった大規模施設であれば数億円を超えることもあるでしょう。

さらに、これらの初期費用を回収するまでの期間を考慮し、慎重に検討する必要もあります。イニシャルコストだけではなく、適切な運用を維持するにはシステムの保守やデータ分析に掛かるランニングコストも発生してくるため、運用計画を明確にしておかないと、効果的なコスト削減につながらない可能性もあるでしょう。コストの削減は、すぐに結果が出るものではありません。コスト削減が目標だとしても、結果が見えない間も継続的にランニングコストを支払い続けられるように予算を確保しておきましょう。

なお、経済産業省の「省エネルギー投資促進支援事業」「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金」などの補助金制度を活用することで、初期費用の一部を軽減することが可能です。これらの制度では、申請単位で、「EMSの制御効果と省エネ診断等による運用改善効果」により、原油換算量ベースで省エネルギー率2%以上を満たすプロジェクトに対して補助金が交付されます。補助率は事業規模などによって異なりますが、補助金の上限額は「1億円/事業全体」となっており、これらの制度を上手に活用することで、導入のハードルを下げることができます。

省エネ補助金|一般社団法人 環境共創イニシアチブ

※令和6年度「先進的省エネルギー投資促進支援事業費」については、新規事業の公募および採択は実施せず、令和4年度以前に初年度採択された複数年度事業を対象としています。

使用している機器とシステムの仕様がマッチしないことがある

EMSの導入に際して、既存の設備やシステムとの互換性も大きな課題となります。工場で使用されるエネルギーマネジメントシステム(FEMS)は、機器の仕様やシステムの独自性が高いため、EMSとマッチしないケースが多く見られます。既存の機器がEMSと互換性がない場合、新しい機器を購入する必要が生じ、その追加費用が発生します。このような状況では、エネルギー管理のための投資が増え、コスト削減を目指しているにもかかわらず、初期費用がかさむという矛盾が生じることがあります。

また、EMSが既存のシステムと統合されない場合、データの収集や分析が正確に行われず、期待される効果を得ることが難しくなります。とくに工場や生産設備のような特殊な環境では、機器の仕様やシステム構成が大きく異なるため、自社工場にEMSを導入したいと思っても、全体としての導入が難しくなってくる場合があります。そのため、EMSを提供する事業者に相談し、既存の設備やシステムとの適合性を事前に確認することが重要です。

専門的な知識とスキルが必要

EMSの運用には、専門的な知識とスキルが求められます。EMSは、各設備のエネルギー消費データを収集し、分析することで最適なエネルギー管理を実現しますが、このプロセスには高度な専門知識が必要です。また、設備ごとのデータを正確に分析し、適切な対策を講じるためには、省エネルギーやエネルギー管理の専門知識だけでなく、ICT(情報通信技術)や関連法規の知識も必要です。そのため、EMSの運用担当者がこれらの専門知識を持っていない場合、システムの導入効果を最大限に引き出すことが難しくなってしまいます。

したがって、EMSを導入する際には、専門家の支援を受けることが推奨されます。社内に適切な人材がいない場合は、EMSを提供する事業者や外部の専門家に運用サポートを依頼することも一手です。また、新たに専門知識を持つ人材を採用することも検討すべきでしょう。

エネルギーマネジメントシステム(EMS)におけるブロックチェーンの可能性が模索されている

EMSの進化に伴い、ブロックチェーン技術の導入が注目されています。ブロックチェーンは、その分散型台帳技術を活用することで、EMSの信頼性と透明性を高める可能性を秘めています。本章では、EMSにおけるブロックチェーンの活用事例や、そのメリット、そして今後の展望について解説します。

そもそもブロックチェーンとは?

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ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

ブロックチェーンはエネルギーマネジメントシステム(EMS)との融合でどういう役割を果たす?

EMSは施設内のエネルギー消費を最適化するためのシステムですが、導入時だけではなく運用の際にも様々な課題が伴うことは事実です。その中でも、エネルギー取引やデータ管理の信頼性を確保することは、ブランドプロミスやESG経営を真に叶えるためにも重要な課題の一つとなっています。そこで近年、耐改ざん性に優れたブロックチェーンがその解決策として検討されています。

これまでのエネルギー取引やデータ管理は取引所や管理者といった中央集権的なシステムによって行われることがほとんどでした。この場合、データの改ざんや不正取引のリスクが存在し、信頼性の確保が課題となります。また、CO2の削減量という観点では、サプライチェーンと紐づいていないデータを各プレイヤーがそれぞれ管理することでダブルカウント(1つの排出削減・吸収効果を重複して認証、使用又は報告すること)という問題も生じていました。

ブロックチェーンは前述の通り、取引データを分散型台帳に記録し、改ざんが困難な形で保管する技術です。EMSにブロックチェーンを組み込むことで、データの改ざんが困難になり、不正取引のリスクが大幅に低減されます。また、サプライチェーン全体で共有される一貫したデータ管理も可能となり、ダブルカウントの問題も解消されます。

実際の事例として、株式会社会津ラボと株式会社エナリスが福島県で実施した「ブロックチェーンを活用した電力取引サービス」の実証実験があります。この実験では、福島県内の一般家庭にコンセント型スマートメーター「スマートプラグ」を配布・設置しました。スマートプラグで計測された電気機器の消費電力データは分散型台帳技術ブロックチェーン基盤「いろは」に記録され、その状況下で模擬の節電を要請し、遠隔操作による各家庭の家電の電力抑制・遮断テストを実施しました。

出典:新・公民連携最前線

株式会社エナリスのニュースリリースによると、電力需給が逼迫する状況下で家電を制御することにより起こる事象や、分散台帳の整合性確認において、以下のようなブロックチェーンの有効性が確認されました。

  • ブロックチェーン使用による情報の秘匿性
    • 本実証で採用した「プライベート型」ブロックチェーンは、当事者以外は電力使用量データを閲覧できないため、情報の秘匿性には問題がないことがわかった
    • だれでも閲覧が可能となる「パブリック型」ブロックチェーンでは、見守り生活者の生活パターン等から属性を類推することが可能となる懸念がある
  • ブロックチェーンのスマートコントラクト機能の活用
    • 見守り対象者と登録者との契約管理や、一定の条件で警報を発するサービスなどにスマートコントラクト(契約の自動執行)機能は相性が良い
  • ブロックチェーンの可用性
    • 本実証においては、ブロックチェーンの介在者はエナリスと会津ラボの2社のみだったが、介在者が多いほど可用性がたかまるブロックチェーンの特性上、今後、介在者が増えれば現在の中央サーバー型よりも障害耐性が高まることが想定される。万が一に対して適切な対処が必要となる見守りサービスのようなサービス運営には向いていると考える

このようにブロックチェーン技術をEMSに組み込むことで、多くの新しい可能性が広がります。将来的には、EMSを通じたブロックチェーン技術の活用により、エネルギー管理の効率化だけでなく、電力データを活用した新しいサービスの開発や地域コミュニティ全体でのエネルギーシェアリングなど、さまざまな応用も考えられます。今後もブロックチェーン技術の進化とともに、エネルギー業界においてこの技術の活用がどのように組み込まれていくのか、注目が集まります。

まとめ:エネルギーマネジメントシステム(EMS)を知ってエネルギーコストを把握・管理しよう

エネルギーマネジメントシステム(EMS)は、企業や施設においてエネルギーの消費を効率的に管理・最適化するための重要なツールであることはご理解いただけたでしょうか?EMSは、もはや先進的な取り組みという枠組みではなく、カーボンニュートラルやSDGsの達成を目指しつつ、電気料金の値上げに対応するうえで欠かせない存在となっています。

EMSの導入には初期費用や専門的な知識が必要ですが、ブロックチェーン技術の活用など、先進的な取り組みも進められています。これにより、エネルギー取引やデータ管理の信頼性が高まり、より効率的で透明性のある運用が期待されます。

エネルギーコストの管理と環境への配慮を同時に実現するEMSを導入することで、持続可能なエネルギー利用を推進し、企業の競争力を高めることができるでしょう。今後もEMSの活用方法や技術の進展に注目し、より効果的なエネルギー管理を目指していきましょう。

電気の安定供給を維持する仕組み「同時同量」とは?

電力需給のバランスを保つために欠かせない「同時同量」という概念について耳にしたことがあるという方は、実はそんなに多くないのかもしれません。また、聞いたことがあるという方でも「具体的にはどうやって実現しているの?」や「どのようにして実現されているの?」といった疑問を抱える方も多いかと思います。

本記事では、同時同量の基本的な仕組みから、計画値同時同量制度や需給調整市場といった制度の裏側、さらにデマンドレスポンスやVPPといった同時同量に関連する重要なトピックについて、わかりやすく解説していきます。これらの知識を通じて、電力需給のバランスを保つための現代の技術と制度の重要性を理解していただければ幸いです。

同時同量=必要なときに必要な分だけ電気をつくること

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電力の安定供給を維持するためには、「同時同量」という概念が欠かせません。これは、電力の需要と供給をリアルタイムで一致させることを意味します。詳しくは後述しますが、電気は貯めておくことが難しいという性質を持っており、かつ瞬時に消費されるため、供給側は常に需要に合わせて発電量を調整しなければなりません。そのため、必要なときに必要な分だけ電気をつくることで電気の安定的な供給を維持しています。

日本の電力システムでは、電力会社のオペレーターが天候や過去の需要データに基づいて電力需要を予測しながら発電所の運転計画を立てています。しかし、実際にその予測通りになるかというとそうとも限らず、当日の需要変動に応じて発電量を調整することで安定した供給力を実現しているのです。

「需要変動に応じて」とはいうものの、すべての需要家(消費者)の需要量を正確に計測しているわけではありません。電力には供給が需要を上回ると、周波数が上がるという性質があります(逆に、需要が供給を上回ると、周波数が下がります)。そのため、オペレーターは電力の周波数を監視して発電所に出力の増減を指示することで、24時間365日の供給と需要のバランスを保つことができるのです。

こうした同時同量を保つ義務を負っているのは、各地域の系統電力の管理を行う一般送配電事業者です。もちろん新電力(PPS: Power Producer and Supplier)にも安定供給・調整の責任はありますが、「電力小売」という性格上から即時対応は難しいため、「30分同時同量」という瞬間的な需要と供給のズレを許容する30分単位のルールに基づいて運営されています。

需給調整の流れ

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需要量の予測

電力の需給バランスを保つための第一歩は、需要量の正確な予測です。電力需要は季節や天候、経済活動、時間帯によって変動します。たとえば、夏場の猛暑日には冷房の使用が増え、需要が高まります。一方、春秋の穏やかな気候では電力需要が比較的低くなる傾向があります。また、平日と休日、昼夜間でも需要パターンが異なります。

電力会社は、これらの要素を考慮して需要予測を行い、過去の需要データや天気予報、経済指標などを基に予測モデルを作成します。近年では人間によるデータ解析に加え、AI(人工知能)を駆使したより高精度な需要変動の予測が立てられています。

需要予測は、電力の安定供給を確保するための鍵となるプロセスです。予測精度が高いほど、供給計画が適切に立てられ、同時同量の維持が容易になります。

発電量の計画

次に行われるのが発電量の計画です。日本の電力供給は、火力発電、水力発電、原子力発電、再生可能エネルギーなど、多様な発電方式が用いられています。しかし、各発電方式には特性があり、需要変動に応じて柔軟に発電量を調整することが求められます。

たとえば火力発電は比較的迅速に出力を調整できるため、需要の急な変動にも対応しやすいです。一方、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは天候に左右されやすく、出力の予測も難しいため、需要と供給のバランスを取るうえでの調整が必要です。

サプライヤーは、需要予測を基に各発電所の稼働計画を立て、どの発電所をどのタイミングで稼働させるかを決定します。たとえば、電力需要が高い時間帯には火力発電所をフル稼働させ、再生可能エネルギーの出力を最大限活用します。一方、需要が低い時間帯には一部の発電所を停止させ、必要最小限の電力供給を維持します。

もちろん、電力会社は需要の変動にリアルタイムで対応するために発電所の出力を細かく調整するシステムを導入しています。しかし、電気というのは「足りない分をいますぐ作れ!」あるいは「今日はこれ以上作れません‥」というようなことはできません。したがって、発電計画の時点で供給力にある程度の余裕を持たせておく必要があります。一般的に電力を安定供給するためには最低でも3%、通常であれば8%以上の予備率が望ましいといわれています。

不足分電力の購入

緻密な計画をもってしても、その計画通りに発電が進まない場合や、実際の需要が予測を上回る場合には不足分の電力を市場から購入する必要があります。日本では、電力市場が整備されており、電力の取引が行われています。これにより、電力会社は不足分の電力を迅速に調達し、供給を維持することができます。また、電力市場では需給バランスの調整が行われており、一般送配電事業者が不足分を補うために発電事業者が超過している発電量を吸収することで不足を解消しながら、周波数が上がりすぎるのを防いでいます。これにより、どの地域で・どの会社から電力を購入していたとしても安定供給が確保されています。

同時同量じゃないとどうなるの?

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同時同量の面倒な側面だけを見てしまうと、「予備力が必要なら大量に電気をつくればいいんじゃない?」あるいは「需要が低い時間帯に電気をためておけばいいんじゃない?」という意見もあるかと思います。しかし、同時同量が維持されない場合、電力システムに多くの問題が生じます。

なかでも、電気の周波数が乱れることによる「電気の質」の低下は様々な弊害を引き起こします。日本では、東日本で50Hz、西日本で60Hzの周波数が採用されています。この周波数が乱れてしまうと電力システム全体に下記のような障害が発生します。

  • 機器の故障:設計時に想定されている周波数を外れることで、電力系統に接続されている機器が正常に動作しなくなります。これにより、機器が過熱したり、動作が不安定になったりすることがあります。
  • 電力の質の低下: 電気の質が低下すると、電力を利用する設備や家電製品のパフォーマンスが低下し、最悪の場合には故障することもあります。
  • 大規模停電のリスク: 周波数の乱れが大きくなると、電力システム全体が不安定になり、大規模な停電が発生するリスクが高まります。

実際に、2018年9月に北海道で発生した大規模停電、通称「ブラックアウト」は周波数が大きく乱れたことによって引き起こされたものでした。火種となったのは最大震度7の地震が起きたことです。機器の故障や送電トラブルによって道内で最大の発電所である苫東厚真火力発電所や水力発電の供給力が絶たれたことで、需要をカバーするだけの電力が発電できなくなって周波数が下がったことから、最後にはブラックアウトが起きてしまったのです。これは電力不足だけではなく、供給過多の際も同様です。したがって、「大量の電力であらかじめ需要をカバーしておく」ということができないのです。

また、電力を前もってためておく「蓄電」にも注目が集まっているものの、現時点では電力全体の需要をバックアップできるほどの大容量蓄電技術は開発されていないのが実情です。数だけでこの課題を解決しようとすると金銭的な負担はもちろん、大規模な蓄電システムの導入や定期的なメンテナンス、設置スペースなど他の課題へと飛び火することが予測されます。

こうした点から現在の電力供給においては、同時同量の概念は欠かすことができないものとなっています。

同時同量の問題点とは?

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同時同量は現在の需給調整の仕組みを支える基本的な概念ですが、実は近年、その問題点が指摘されるようになっています。なぜなら再生可能エネルギーが急速に普及したことにより、供給が過剰になるケースが増えているからです。

前述の通り、電力が足りていない場合だけではなく多すぎる場合にも電気の周波数には乱れが生じてしまいます。一方で太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーは、天候条件によって発電量が大きく変動するため、需要を上回る供給が発生することがあります。こうした場合、供給過剰分を抑制するために一部の発電所では出力を意図的に低下させる「出力制御」が行われます。

出力制御には電力系統に過剰な電力が流れ込むのを防ぐ大切な役割がありますが、見方を変えると本来発電されるはずの電力が発電できていないということです。つまり、同時同量の問題点は、エネルギーリソースが無駄になっているという面にあります。とくに電力需要が少ない春秋シーズンや、日照条件や太陽光発電の適地が多い九州では、出力制御が頻発することが問題視されています。

実際のデータで見ても、2023年度における全国の制御電力量は約18億9000万キロワット時となっており、これは平均的な家庭約45万世帯の年間使用量に匹敵する規模で、家庭の電気代に換算すると数百億円分が使い切れなかった計算になります。

再生エネ発電の出力制御、23年度は3倍超 45万世帯分使い切れず | 毎日新聞

また、出力制御には売電収入が減ってしまうという弊害もあります。太陽光発電が増えた理由の一つに、再生可能エネルギーで作られた電力を国が定めた価格で電力会社などが一定期間買い取るというルールを定めた「固定価格買取制度(FIT制度)」という支援制度が導入されたことにあります。

しかし、出力制御中は売電ができず、またそれに対する補償もないため、発電事業者は売電によって得られたはずの利益が手に入りません。それどころか、オンライン事業者(出力制御機器やインターネットによって遠隔で出力制御できる事業者)が代理で実施した出力制御分の料金は「代理制御調整金」として毎月の売電収入から天引きされることになります。

発電する側としてはできれば対応したくないこの仕組みですが、2022年4月からは設備容量が10kW以上の太陽光発電設備が出力制御の対象となり、発電事業者は出力制御の実施に同意することを前提条件にFIT認定を受けているため、対応が必須となります。また、2015年1月26日以降に連携した発電所については遠隔で出力制御できるシステムの導入が義務化されました。これにかかる追加費用は、発電事業者(太陽光発電のオーナー)が負担しなくてはなりません。

このようにいくつもの課題が見え隠れする同時同量ですが、出力制御は現在も右肩上がりで増加傾向にあり、今後もさらに増加すると思われます。いかにしてエネルギーの無駄・発電事業者の不満を減らしていくかが電力業界の将来を占う争点の一つになっていくことは間違いないでしょう。

日本では計画値同時同量制度によって電力バランスを維持している

日本では電力の安定供給を確保するために、計画値同時同量制度が採用されています。計画値同時同量制度は、日本の電力システムにおいて、発電事業者と小売電気事業者が事前に計画を立て、その計画に基づいて電力の需要と供給を調整する制度です。基本的な流れは「需給調整の流れ」で見たとおりですが、ここではさらに詳しく制度を見ることで、国内でどのように電力需給バランスが維持されているのかを理解しましょう。

計画値同時同量制度って?

「計画値同時同量制度」とは、安定して電力を供給するために「発電量と消費量を一致させる」ことを「電気事業法」によって「小売電気事業者」に課している制度です。小売電気事業者に課せられている制度ですが、その送配電網を借りて電気を送配電する際には、利用者もそのルールを守る必要があります。

出典:インプレス Smart Grid フォーラム

この制度では、小売電気事業者と発電事業者は、前日正午までに翌日の発電販売計画と需要調達計画を作成し、電力広域的運営推進機関(OCCTO)に提出する必要があります。計画は、実需給の1時間前までであれば変更が可能です。たとえば、その日の実需給状況が計画から外れた場合や、需要計画や発電計画を立てた際の条件が変わった場合には、計画を修正することができます。

計画の修正を行ってもなお、計画通りに需給が一致しなかった場合には、計画値からの需要や供給力のズレである「インバランス」に応じた「インバランス料金」と呼ばれるペナルティ料金が発生します。これらのインバランスは一般送配電事業者が日本卸電力取引所(JEPX)一日前市場(スポット市場)当日市場(時間前市場)で調整を行い、需給バランスを保つための措置が取られます。

インバランスには大きく分けて2つの種類があり、需要が計画を上回る「不足インバランス」と、需要が計画を下回る「余剰インバランス」があります。不足インバランスの場合、一般送配電事業者が不足分の電力を調達し、需給バランスを保ちます。この際、不足分の電力は市場価格よりも高いコストで調達されるため、その分の料金がインバランス料金として発電事業者や小売電気事業者に請求されます。余剰インバランスの場合も同様に、余剰分の電力を一般送配電事業者が買い取り、そのコストがインバランス料金として課せられます。

インバランス料金は、通常の調達費用よりも高額に算出されることがほとんどで、場合によっては3倍近くも高額になることもあり、新電力会社の利益を圧迫する要因となり得ます。インバランスが多発しているような事業者は厳重注意、最悪の場合には契約解除を受ける可能性もあります。

こうした理由から小売電気事業者のみならず、発電事業者も予測精度の向上や計画通りの稼働によって可能な限り同時同量に近しい状態を保ち続けなければならないのです。

需給調整市場によって需給バランスの柔軟な調整が可能に!

再生可能エネルギーの導入割合が増えると、上述した代替制御やインバランスの調整がさらに大変になっていくことは目に見えています。こうしたなか、発電事業者や小売電気事業者の運営の助っ人とも呼べる制度が誕生しています。それが2021年4月に誕生した「需給調整市場」です。

出典:経済産業省「電力・ガス基本政策小委員会制度検討作業部会 第九次中間とりまとめ」

需給調整市場とは、送配電網協議会が管理・運用する広域的な電力の取引市場です。従来、電力安定供給のための需給バランスは、東京や関西などの地域ごとに各エリアの一般送配電事業者が公募により調達していました。

しかし、新設された需給調整市場ではこうした地理的な制限がなくなり、あらかじめエリアを超えた電力調達する権利を取引することが可能になりました。需給調整市場では、「実需給時点で時間帯毎に必要な能力を持った電源等を、出力を調整できる状態であらかじめ確保すること」をΔkW(デルタキロワット)で取引し、契約します。

つまり、一般送配電事業者は発電事業者及びアグリゲータに対し、必要な能力を持った調整電源を必要な時に指令できる権利を持つことに対して発電事業者に対価を払っているのです。イメージとしては、一日前市場やその後の不測の需給ミスマッチに対応する当日市場をもってしてもなお需給バランスが崩れうる場合の「保険」としてあらかじめ確実に電力の調達先を見つけておくようなものです。価格はマルチプライスオークションによって決定され、ΔkWの入札単価の安いものから約定されます。

需給調整市場では、必要に応じて電気の需給を一致させる機能を「調整力」という商品として取引します。調整力は応動時間(送配電の指令を受けてから発電出力が実際に変化するまでの時間)継続時間(指令された出力を継続する時間)指令間隔(指令が送られてくる間隔)などの特徴により、全部で5つのジャンルに分けられています。

一次調整力周波数上昇/低下を食い止めるガバナフリー相当の調整力。
応動時間は10秒以内、継続時間は5分以上。
二次調整力①LFC信号により周波数を基準周波数に回復させる調整力。
応動時間は5分以内、継続時間は30分以上。指令間隔が数十秒程度。
二次調整力②EDC信号により周波数を基準周波数に回復させる予備調整力。
応動時間は5分以内、継続時間は30分以上。指令間隔が数分程度。
三次調整力①経済的に需給調整を行う高速枠の調整力。
応動時間は15分以内、継続時間は商品ブロック時間(3時間)
三次調整力②経済的に需給調整を行う低速枠の調整力。
応動時間は45分以内、継続時間は商品ブロック時間(3時間)
参考:日本電機工業会


「一次調整力」「二次調整力」は周波数を死守する(二次調整力は回復させる)いわば防衛ラインであるため即時対応ができる電源が分類されており、需給バランスの調整力を増やすことで一次・二次調整力を用いずとも、再エネ電源の予測誤差に対して用いられるのが「三次調整力」に分類されています。

そのため取引スケジュールにも違いがあり、一次~三次調整力①は、取引実施日の週の土曜日から次の金曜日までの1週間分を直近の火曜日までに入札・約定を行います(週間商品)が、太陽光発電や風力発電のような計画性に乏しい再生可能エネルギーによる調整力である三次調整力②は毎日、翌日分の入札・約定を行います(毎日商品)。

2021年度の開場時には三次調整力②だけだった取り扱い区分も段階的に拡大しており、2022年度からは「三次調整力①」が、2024年度には一次・二次調整力の取引が開始され、すべての商品の取引が始まりました。

日本国内ではこうした諸制度により、電力システムの柔軟で安定した運用が可能となっています。「同時同量」という言葉だけ聞いてしまうと簡単なことの様に思えるかもしれませんが、消費者に対する信頼性の高い電力供給が複雑な仕組みによって実現しています。

出力制御だけじゃない!同時同量を支える技術

デマンドレスポンス

出典:CDエナジー

デマンドレスポンス (DR:Demand Response)は、近年エネルギーの世界で使われるようになった言葉であり、電力の需要(消費量)と供給(発電量)のバランスを保つことを目的とした取り組みです。日本語では「需要応答」と呼ばれます。

これまでの同時同量を実現する手法は、今まで説明してきたような「電力会社が予測される需要に合わせて発電所の稼働や出力を調整し、需要量に供給量を合わせる調整」が行われてきました。しかし、デマンドレスポンスでは「需要家が電力の供給状況に応じて電力需要を制御し、供給量に需要量を合わせる調整」というアプローチを取ります。

定義だけ聞いてしまうと却って難しく感じてしまいますが、「電気料金設定により電力需要を制御する」「協力してくれた需要家に対し対価を支払う」などの方法で電力需要パターンを変化させ、需給バランスを確保するものだと考えればOKです。前者のように電力需要ピークに応じて時間帯の電気料金を変化させることで需要をコントロールするDRを「電気料金型デマンドレスポンス」、後者のように需要家にインセンティブを設定することで需要をコントロールするDRを「インセンティブ型デマンドレスポンス」と呼びます。

また、デマンドレスポンスの実施には「上げDR」と「下げDR」という2つのパターンがあります。上げDRとは供給量が過剰になった場合、需要を増やすことで効率よく電力を使っていくという考え方です。これはむやみやたらに電気使用を促すわけではなく、たとえば再生可能エネエルギーの余剰分を蓄電池や電気自動車などへの充電を要求したり、企業などに対して生産設備などの稼働を電力需要の少ない時間帯に変更する「ピークシフト」を要求したりします。

反対に、下げDRとは電力の供給量が少ない場合に需要量を減らして対応するという考え方です。電力需要のピーク時に家庭や会社で無理ない範囲で電気の利用を制限して節電することや、蓄電池や自家発電による電力の優先的利用を促すことで、市場全体の電力需要を下げていきます。とくに、インセンティブ型の下げDR、つまり電力会社の依頼に応じて電力使用を控えた需要家にインセンティブを付与する取引を「ネガワット取引」と呼びます。

デマンドレスポンスは、電力会社にとって比較的簡便な方法で実施でき、大多数に適用可能です。市場全体の電力需給バランスの改善に貢献するだけでなく、電力使用量を抑えることで高騰するスポット市場での追加購入量を減らすことができるため、日本全体として発電コストを抑制できるというメリットもあります。半ば強制的に行われる供給量の調整とは異なり、インセンティブによって自発的に電気を賢く・効率的に使用してもらうDRは、同時同量を実現するうえで重要な取り組みといえるでしょう。

仮想発電所(VPP)

出典:経済産業省

仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)は、分散しているエネルギーリソースを統合し、一つの発電所のように管理・制御するシステムのことです。

私たちの身の周りでは、太陽光発電設備や燃料電池、コージェネレーションシステム(熱電併給)や蓄電池、電気自動車(EV)やヒートポンプ給湯器(エコキュート)など、多様なエネルギーリソースが住宅やオフィスなどに広く散らばって設置されるようになりました。

VPPにおいては、上図のように需要家とVPPサービスを契約し、各リソースを束ねる「リソースアグリゲータ」と、このリソースアグリゲータを束ねて一般送配電事業者や小売電気事業者などと直接取引を行う、「アグリゲーションコーディネータ」が存在します。アグリゲータによって電力取引の流れをコントロールしてもらうことで、従来、電力を使うだけだった需要家も発電事業者と同等に電力をつくり、分散してエネルギーを貯めることができるようになったというわけです。

分散型発電設備は個々には規模が小さいため、従来の大規模発電所に比べて管理が難しいとされています。しかし、それぞれの設備の発電量や蓄電量が小さいとしても、VPPによってまとめて制御することで、大規模な発電所のように電力の需要バランス調整に役立てることができます。むしろ、分散した電力を集約してしまえば擬似的に大容量の蓄電池を構築することもできるため、「電力全体の需要をバックアップできるほどの大容量蓄電技術は開発されていない」という同時同量の課題も解決できるでしょう。

また、VPPは電力の需給予測とリアルタイムの制御技術を駆使して運用されます。これにより、再生可能エネルギーのように発電量が不安定な電源を他の電源や蓄電装置と組み合わせて統合的に管理でき、再生可能エネルギーの利用を最大化しながら同時同量を実現する役割を果たしています。

このように、VPPは多くのエネルギーリソースを協調動作させることによって負荷平準化や再生可能エネルギーの供給過剰の吸収、電力不足時の供給などを実現し、電力供給の安定性を高めることが期待されています。

揚水発電

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再生可能エネルギーを活用した発電は計画性が乏しいが故に同時同量の課題となっていることは先に説明した通りですが、実は再生可能エネルギーによる電力供給のなかには、電力の需給バラランスを安定させる「調整力」として重要視される発電方式があります。それが、揚水発電です。

揚水発電は、二つの貯水池を利用して電力を貯蔵し、必要なときに電力を供給するシステムです。ダムを使った水力発電と異なるのは、その名の通り「水」を高い場所へと引き「揚」げることが必要となる点です。では、なぜ揚水発電が同時同量の実現に役立つのでしょうか?

揚水発電所には山の上部に上池、下部に下池が設置されています。電力需要が低く、供給が過剰になっている時間帯には、発電所から供給される電力が余ってしまいます。この余剰電力を使って下池の水を上池に揚げることで電力を貯蔵します。そして電力需要が高まって追加の電力が必要になると、この水を上池から下池に落とすことでタービンを回して電力を生成するという仕組みです。電気は大量に貯めておくことが難しいですが、一度水の形にしてしまえば問題ありません。揚水発電はそれ自体がいわば大きな蓄電池のような役割を担っています。

さらに、揚水発電は応答性にも優れています。発電機の最大出力に至るまでの時間や出力を0に落とすまでの時間が短いため、発電所のトラブルや急な電力需要の増加にすぐに対応できます。この特性により、揚水発電は電力系統の安定性を維持し、同時同量を実現するための重要な手段となります。

出典:経済産業省

実際に資源エネルギー庁が発表している「優先給電ルール」においても、発電量が需要量を上回ってしまう場合にはまず、火力発電の抑制と揚水発電の稼働の2つが優先的におこなわれます。これは揚水運転によって電力を消費側でも調整でき、さらに消費した電力を再び発電に使える点で応答性に秀でているからこそのルールでしょう。

このように、揚水発電は余剰電力を効率的に貯蔵し、必要なときに迅速に供給することで、電力の需給バランスを維持して同時同量の実現に大きく貢献しています。柔軟で安定した電力供給を確保するために揚水発電の存在は必要不可欠であり、持続可能なエネルギーシステムの構築にも欠かせない技術に違いありません。

まとめ

本記事では同時同量とはそもそもどんなものなのかという概要に加え、計画値同時同量制度や需給調整市場といった裏側の制度や、デマンドレスポンスやVPPといった同時同量に関連する重要トピックの基礎知識をご理解いただけたのではないかと思います。

今後も再生可能エネルギーの利活用が拡大し、さらには気候変動や家庭での電力使用量の増加によって電力需要がひっ迫するなど、需給バランスが両極に大きく揺れ動くことは間違いありません。ニュースなどでこうした話題が取り上げられるケースも増えてくるでしょう。また、自社あるいは自宅に分散型発電設備を持つ機会も増えてくるはずです。

しかし、そうしたシーンでもやはり同時同量の概念は欠かせません。電力システムの安定性を保つためには、需給調整を正確に行うことが不可欠であり、同時同量の理解と実践がますます重要となります。未来の電力市場においては、技術の進化とともにこの概念がどのような技術と結びついていくのか、私たちは需要家あるいは発電事業者として引き続き注視していく必要があるでしょう。

【2024年】Web3.0とは?NFTやDAOなど分散型インターネットのユースケースも紹介!

2021年以降話題を集めている仮想通貨やNFT「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」、メタバース(仮想現実)と共に、「Web 3.0」 という言葉を耳にする機会が増えてきました。Web3.0は別名「次世代のインターネット」とも呼ばれ、現時点でもっとも新しいインターネットの概念です。

本記事では、Web3.0に至るまでのWebの歴史を振り返った上で、Web3.0とは一体どういった概念なのか、またそのユースケースについて焦点を当てて解説していきます。

Web3.0とは?

Web3.0を解説するにあたり、これまでのWebがどのようにして進歩してきたかを以下の3つの時代に分けて解説します。

  • Web1.0:1995年~(ホームページ時代)
  • Web2.0:2005年~(SNS時代)
  • Web3.0:これから(分散型インターネットの時代)

Web1.0(ホームページ時代)

出典:Pixabay

Web1.0時代は、Yahoo!やGoogle、MSNサーチなどの検索エンジンが登場し始めた時期で、Webがまだ一方通行であった時代です。ウェブデザイナーのDarci DiNucci氏が1999年に、進化の段階を区別するためにWeb1.0とWeb2.0という呼び方を用いました。

ウェブサイトは1990年代初めに静的HTMLのページを利用して作られ、個人が「ホームページ」を持ち情報を発信する、という文化もこの時代から生まれました。ただし、インターネットの接続速度も非常に低速であり画像を1枚表示するだけでも時間がかかりました。

また、閲覧できる情報は情報作成者によってのみ管理されるため、閲覧ユーザーがデータを編集することはできません。こうした特徴からweb1.0は「一方向性の時代」とも呼ばれます。

Web2.0(SNS時代)

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Web2.0時代になるとYouTube、Twitter、InstagramなどのSNSが登場し、誰もが発信者となりました。Web1.0時代が「一方向性の時代」とされたのに対し、Web2.0時代は様々な人との双方向の情報のやり取りができるようになったのです。

また、Google、Amazon、Facebook、AppleといったいわゆるGAFAと呼ばれるプラットフォームサービスが大きく躍進し、巨大テック企業となっていった時代でもあります。

一方で、個人情報がGAFAのような特定の企業へ集中することによる個人のプライバシー侵害の可能性が問題視されています。一部の大企業に集まる情報には、住所や年齢、性別など基本的な個人情報だけでなく、個人の嗜好や行動履歴までもが含まれ、それらが利用できる状態になっているからです。

また、プラットフォームの管理者が中心に存在している中央集権型のサービスでは、管理者が定めたルールに反してしまうとアカウントが凍結されたり、サービスを利用できなくなる可能性があります。政治的思惑によって発言や行動を制限されるおそれもあるでしょう。

さらに、中央集権型の情報管理はサイバー攻撃を受けやすく、多くのユーザーに影響を及ぼす危険性があるという点も指摘されています。

2018年には「Facebook」が5000万人超のユーザー情報を外部に流出。また、2019年には「Amazon」が他の利用者の氏名や住所、注文履歴などが誤表示されて約11万アカウントのプライバシーが流出。さらには2022年には、「Twitter」の利用者およそ2億3000万人分の個人情報が流出するなど、実際にセキュリティ上のリスクが露見した例もあります。

Web3.0(分散型インターネットの時代)

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冒頭でも述べたように、Web3.0とは「次世代の分散型インターネット」のことを指します。さらにいうと、GAFAやその他巨大テック企業へ個人情報が集中している現状から、次世代テクノロジーを活用して情報を分散管理することで、巨大企業に情報が集中しない新しい形の情報管理のあり方として期待されているのがWeb3.0の概念です。

特定企業へ個人情報が集中していることによるリスクは前項でご説明した通りで、2021年以降、特定企業へ集中した情報を分散しようとする動きが活発化しています。管理者が存在しなくても、ユーザー同士でデータを管理したり、個人間でのコンテンツの売買や送金などが可能となっています。Web3.0 では、このように中央集権的なインターネットから脱却し、各参加者にデータや権限を分散する世界を目指しています。

この理念を実現するうえで、重要な鍵となっているのがブロックチェーン技術です。ブロックチェーン抜きにWeb3.0は語れないと言っても過言ではありません。ここからはブロックチェーンについて簡単におさらいします。

ブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーン=正確な取引履歴を維持しようとする次世代データベース

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ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

世界のGDPの10%がブロックチェーン基盤上に蓄積される?

「ブロックチェーン=ビットコイン」という認識は、すでに過去のものとなっていることはご存知でしょうか?一昔前(といっても2010年代ですが)までは、ブロックチェーンといえば、ビットコインを始めとする暗号資産(仮想通貨)を支える基幹技術の一つに過ぎませんでした。

それもそのはず、もともとブロックチェーンは、2008年に生まれたビットコインネットワークの副産物でしかなく、多くのビジネスパーソンからはFintechの一領域として認識されていました。しかし、ブロックチェーンの技術に対する理解が徐々に深まるにつれ、金融のみならず、物流・不動産・医療など、多種多様な産業での応用が進み始めました。

ブロックチェーンが単なるビットコインの補助技術ではなく、世界経済の重要な基盤として位置付けられるようになっている背景には、その技術の特性と多様な応用が挙げられます。

ブロックチェーンは分散型台帳技術であり、中央集権的な管理者が不在であるため、データの改ざんや不正アクセスを防ぐことができます。この特性は、金融だけでなく、物流、不動産、医療などの様々な産業で信頼性の高い取引や情報管理が求められる場面で大きな価値を持ちます

そして、世界経済フォーラムによると、2025年までに世界のGDPの10%までがブロックチェーン上に蓄積されるようになるとの予測もなされるほどに、ブロックチェーンがこれまで以上に多くの産業で利用されるようになっています。たとえば、物流業界では製品の追跡や流通経路の透明化により、偽造品や盗難のリスクを減らすことができます。不動産業界では、不正な取引や不動産の二重売買を防止するために、土地登記や資産管理にブロックチェーンが活用されます。

これらの応用によって、ブロックチェーン技術は単なる金融の枠を超え、社会基盤の一部として不可欠な存在となっています。ブロックチェーンを単なる投機的な金融の一手法に過ぎないと見るか、それを次世代の社会基盤として位置付けるかによって、私たちの未来が大きく異なる可能性があります。

Web3.0は魔法の杖か?

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Web3.0の時代では、情報管理のスタイルがブロックチェーン技術により非中央集権型となります。つまり、個人情報は特定の企業ではなくチェーンに参加したユーザーによって分散管理されます。また、サービスを提供する基盤は特定企業に限定されず、ユーザーひとりひとりが参加するネットワークがサービスを提供する基盤となるのです。

ユーザー同士が、ネットワーク上で互いのデータをチェックし合うということは、不正アクセスやデータの改ざんが非常に難しいことを意味します。特定企業が個人情報を握ることもなければ、情報漏洩によって多大な被害を被ることもありません。

このように、Web3.0の概念が実現すれば個人情報が分散管理され非中央集権型の情報管理スタイルとなり、不正アクセスや情報漏えい、データ改ざんのリスクが軽減し、Web2.0の問題点が解決できると考えられています。

一方で、Web3を持ち上げる誇大広告は目に余るものがあります。様々なメディアでまるでWeb3.0に移行することでWeb2.0ではできなかったことが一気に解決するかのようなような表現がなされています。しかし、そんなことはありません。

おおまかな定義としては「Web3.0=分散型インターネット」となりますが、この定義はとても抽象的で、なにか具体的で厳密な定義があるわけではありません。「Web3.0とは?」で検索してみると様々なサイトで定義がなされていると思いますが、おおよそ以下の要素が共通する認識としてある程度でしょう。

  • 管理者がいない
  • ブロックチェーンによるデータ管理

つまるところ、Web3.0とはこの2つの要素で構成されているに過ぎません。もちろん、管理者がいないことはブラックボックスの防止(開けたプラットフォーム)やデータの自己管理(閲覧範囲のカスタマイズ)が可能になりますし、ブロックチェーンによるデータ管理は耐改ざん性や耐災害性に優れています。

こうしたなにか明確な目的や課題に対してWeb3.0からアプローチをかけるのは有効ですが、メタバースやNFTなどの印象面だけに着目して、なにか目新しいシステムで話題性を呼びたいというプロジェクトはすぐに衰退していくでしょう。なぜなら、単に話題性だけならWeb3.0でなくても良く、むしろ決済に仮想通貨が用いられるWeb3.0は、新規参入者には敷居が高いからです。

また、目的設定に対しても「管理者は不要!中央集権は絶対悪!」というような意見が存在します。確かにデータが誰か一人(一企業)が独占しているというのは、プライバシー・セキュリティ的な観点に限っていえばあまり良いものではありません。

しかし、サービスによっては絶対的な管理者が存在するからこそ成り立っているものもあります。身近な例でいうとAmazonです。Amazonは消費者の購入フローの1から10まで(広告という意味では0から)すべてが完結できるプラットフォームです。

幅広い品揃えで全国に多数の倉庫を有し、莫大なユーザーを独占しているからこそああいったビジネスは成り立っており、管理のオペレーションが分散していないことで、24時間365日のサービス提供やその日買った商品がその日に届くということも可能なわけです。

もちろん、Amazonはこれによって莫大な手数料利益を得ていますが、私たちも以前よりも同じものを安く購入することができています。このような見方をすると絶対悪とはいえないのではないのでしょうか。

さらに、管理者がいないというのはすべての責任が(一次的には)自己責任だということです。法整備がされていないことも要因ですが、トラブルが起きたとしても誰も仲介には入ってくれないというわけです。

Web3.0の世界では完全に「P2P」のサービスが実現できるといわれていますが、Web2.0で個人間で取引するモデル、たとえば大手フリマアプリのメルカリでは、従来よりも取引の自由度やスピード感、無駄な手間などが解消された一方で、ユーザー間のトラブルも起きています。メルカリは事務局による手厚いサポートで事なきを得ていますが、Web3.0ではこの事務局的存在がいません。こうした問題をどう解決するのか、という問題は依然として残っています。

このように、Web3.0はインターネットの登場のような技術革新として捉えるのは正しくないことがお分かりいただけたでしょうか。Web3.0で万事解決、といった安直な考えは危険であり、魔法の杖ではなく、ビジネスの問題点を解決する一つのソリューションとして認識したほうがよいでしょう。

近年登場してきたWeb3.0のユースケース

NFT

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ブロックチェーン技術を基盤とするWeb3.0ですが、デジタルデータを分散管理する上で不可欠な事があります。それは、そのデジタルデータが本物である証明です。

管理者を置かずに全ての情報を分散管理するためには、やり取りされる情報の信頼性がこれまで以上に大切になってきます。出どころが分からない嘘の情報や不正にコピーされたデジタルデータが流通してしまうことは、管理者不在のWeb3.0においては致命的な欠陥となりえます。

しかし、従来のデジタルデータは簡単にコピーでき、本物とコピーの区別をつけることはほぼ不可能でした。ここで役に立つのがNFTです。

NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに、固有の価値を保証しています。

世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した「NFT=非代替性トークン」は文字通り後者となります。

たとえば、紙幣や硬貨には代替性があり、替えが効きます。つまり、自分が持っている1万円札は他の人が持っている1万円札と全く同じ価値をもちます。一方で、人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。

不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。しかし、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます。

NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。

つまり簡単にいうと、NFTとは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している「証明書」が付属しているようなものです。

NFTについては以下で詳しく解説しています。

ブロックチェーンゲーム

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前述のNFTはファッションやチケットなど様々な分野で活用されていますが、なかでもゲーム分野ではその特徴が遺憾なく発揮されています。

NFTはデジタルデータの価値を保証できると説明しましたが、これをゲーム内コンテンツに転用することによって、ゲーム内での通貨やアイテムにも金銭的価値を生み出すことができます。

ブロックチェーンゲームにおいては、通常のキャラクターやアイテムがNFTで作成されています。そのため、ゲームを進めていくと入手できるレアなアイテムや育成したキャラクターを、ユーザー同士で売買することも可能です。

いままでも獲得した通貨や経験値でアイテムを購入することはできましたが、仮想通貨で他のユーザーとアイテム単位を売買することはできませんでした。その点、ブロックチェーンゲームではひとつのアイテムをほかのサービス会社で使用可能なこともあり、ゲーム内の収益をそのまま現実の収益とすることができます

これを受けて最近流行しているのが「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」という概念です。アクションやシューティングといったプレイスキルが求められるジャンルだけではなく、「学ぶ」「寝る」「食べる」「運転する」といった誰でも簡単にできるジャンルにも応用されているため、今後さらに市場規模が膨れ上がるのでは?と期待されています。

こうしたエンタメ業界はWeb3.0に適合しやすく、カードゲームや音楽といった業界なども続々とWeb3.0に参入しています。また、Web3.0関連銘柄への投資に特化したファンドも設立され、一部のエンタメ企業が注目しはじめています。

ブロックシェーンゲームiについては以下の記事で詳しく紹介しています。

DeFi

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DeFiとは、「Decentralized Finance」の略で、日本語では「分散型金融」と訳されます。端的にいうと中央の管理者がいない金融システムのことを指します。

従来の金融システムでは銀行や証券会社といった中央集権的な管理者を経由してサービスを利用する必要がありました。しかし、DeFiでは仲介役となる中央管理者を介さずに、ユーザー同士で金融サービスを利用できます。

したがって、中央管理者を介しての取引で発生していた無駄な手数料や承認までのラグといった金銭的・時間的コストを大幅に削減できるというわけです。

また、「ウォレット」と呼ばれる仮想通貨を管理する財布のような機能を持ったツールさえあれば、場所や時間を問わずに世界中の様々なDeFiサービスも利用できます。「会員登録」や「審査」といった口座開設に伴う面倒な手続きも必要ありません。

一つのウォレットで世界中のサービスが利用できるということは、今までのように資金を移動する際にわざわざ両替をしたりアカウントを使い分けたりする必要がなくなるということです。自分のウォレットを接続するだけであらゆるサービスを利用することができるため、国籍や年齢、性別などに関係なく、全てのユーザーが平等に利用できるのです。

世界中の金融サービスをシームレスに体験することができる画期的な仕組みであるDeFiも、管理者不要でデータの安全性が担保されるWeb3.0ならではのアイデアだといえるでしょう。

DeFiについては以下の記事で詳しく紹介しています。

DAO

DAOには中央の管理者が存在せず、意思決定はコミュニティ全体で行う

DAO(ダオ)は「Decentralized Autonomous Organization」の略で、日本語では「分散型自律組織」と訳される、ブロックチェーン上で管理・運営される組織のことです。

株式会社などの一般的な組織とは異なり組織の管理者が存在しないという点が、DAOの大きな特徴のひとつです。組織の意思決定は管理者によるトップダウンではなく、組織の参加者全員によって平等に行われます。

この平等性をもたらせているのが、事前に設定した特定の条件が満たされた場合に、決められた処理を自動で行う「スマートコントラクト」という機能やプラットフォームの意思決定プロセスに参加するための投票権を表現する「ガバナンストークン」という概念です。

こうした技術によって、透明性が高く公平な意思決定が可能になっています。身近なものを例に挙げると、「ビットコイン」もDAOです。ビットコインには特定の管理者がおらず、世界中のコンピューターによるマイニングによって、ブロックチェーンが管理されています。

このように、中央管理者がいなくても成り立つ組織構造が「DAO」であり、それぞれ独自のシステムを持ち、Web3.0の技術を活用して運用されています。

DAOについては以下の記事で詳しく紹介しています。

まとめ

本記事ではWeb3.0について解説しました。

WEB3.0は、WEB2.0時代の問題を解決するソリューションとして構想されています。私たちの生活や仕事に与える可能性があることから、今後ますます注目を集めることが予想されます。

Web3.0を過大評価することはできないとは述べたものの、巨大企業に個人情報が集中している現状からの脱却を図り、権力の集中を避けるという面では、既存のインターネットの構図を大きく変える可能性もあります。

引き続きWeb3.0の行方には目を光らせておかなければならないでしょう。

ブロックチェーン×保険の最新事例~引受査定から請求管理まで~

米国に次ぐ保険大国といわれている日本では、保険業界は主に生命保険と損害保険に二分されます。2021年度において、日本の生命保険業界の市場規模は約32兆円であり、世界第3位の規模を誇っています。損害保険に関しても、その市場規模は約12兆円であり、世界6位という巨大なマーケットを形成しています。

こうした巨大なマーケットとなっている保険業界ですが、近年、従来の保険システムは現場のオペレーションも含めて様々な問題が表面化してきています。たとえば、データの改ざんや書類の偽造、不正行為の発生、さらにはテクノロジーの進化による収益構造の変化など、様々な課題が浮き彫りになってきました。

これらの問題に対して、ブロックチェーン技術を用いることで新たなアプローチが模索されています。ブロックチェーンはその特性から、透明性やセキュリティの向上に大いに貢献できる技術であり、保険業界においてもその導入可能性が注目されています。本記事では、保険業界におけるブロックチェーンの導入可能性について、具体的な事例を交えながら詳しく解説していきます。

    保険業界が抱える問題

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    データの書き換えや書類の偽造

    保険における不正というと、交通事故や盗難被害、火災・地震による建物被害などにあったと見せかけて保険会社から保険金をだまし取る手口が一般的なイメージかと思います。

    しかし、不正を行うのは加入者だけではありません。保険会社の営業職員が不正に手を染めるケースも散見されます。

    たとえば、保険会社の営業職員が顧客情報を不正に操作し、架空の契約を作成して手数料を得たり、契約内容を改ざんして顧客に不利な条件で契約を進めることがあります。これにより、保険会社は多大な損失を被ることになります。さらに、書類の偽造も頻繁に発生しており、保険金請求時の書類や契約書の内容が改ざんされることで、保険金の不正な支払いが発生するリスクも高まっています。

    2019年には、かんぽ生命と日本郵便の保険販売で顧客に無断で書類を偽造して契約していたことが明らかになりました。こうしたデータの書き換えや書類の偽造といった不正の背景には、保険業界特有の厳しい営業ノルマがあります。

    代理店が数多く存在する保険業界では、常に他社との顧客の取り合いです。こういった業界では厳しいノルマが課せられることも多く、営業成績の不振といった重圧によって違法行為に走る職員が出やすい環境にあるというわけです。

    信用が最も重要といっても過言ではない保険業界では、こうしたデータ改ざんのリスクは解決しなければならない課題でしょう。

    テクノロジーの進化に伴う収益低下

    本来、保険とは火災・死亡・病気等の偶然の事故による損害を補償するものです。しかし、テクノロジーの進化によってこうしたアクシデントが大幅に減少し、保険会社の収益構造に大きな影響を与えると予測されています。

    とくに自動車保険の分野ではその傾向が顕著になるとみられ、米自動車メーカー大手ゼネラルモーターズ(GM)とミシガン大学交通研究所、バージニア工科大学交通研究所の共同研究によると、自動運転車によって事故件数は65%減少し、ケガのリスクを伴う事故も74%減少するとされています。

    このように自動運転技術の登場によって保険の存在価値がなくなると、収益が大きく減少するでしょう。こうした流れを背景に、業務効率化によるコスト削減の必要性が急速に高まっています。

    保険プランの複雑化

    近年、生活スタイルの多様化に伴い、保険商品も多種多様になっています。従来の定期保険や終身保険に加えて個別のニーズに応じた特約やオプションが増えたことで、消費者は自身にに最適な保険商品を選ぶことができるようになった一方で、保険会社にとっては審査や保険金支払いの際に手続きが複雑化するという課題が生じています。

    保険プランの選択肢が増えることは消費者にとってはメリットですが、保険会社にとっては、その複雑さに対応するためのシステム改修や、業務プロセスの見直しが必要となり、コストの増加や業務負荷の増大につながります。特に、複雑な契約条件や特約を持つ保険商品の場合、契約時の審査や保険金支払い時の確認作業が一層複雑化し、時間と手間がかかることが問題となっています。こうした問題は、契約締結までの期間の長期化や保険金支払までの期間の長期化といったデメリットだけでなく、転記ミスや不適切な保険料算出などの新たな問題にもつながります。

    こうした問題を考えても、プロセスの共有・標準化を通じた効率化の余地は大いにあるといえるでしょう。

    ブロックチェーン×保険の適用可能性

    こうした問題に対して、ブロックチェーンを適用することで問題の解決につなげようとする動きがあります。ブロックチェーンがどういったメリットをもたらせるのか説明する前に、まずはブロックチェーンの基礎について見ていきましょう。

    そもそもブロックチェーンとは?

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    ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

    ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

    取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

    ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

    これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

    また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

    ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

    ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

    新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

    また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

    コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

    このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

    こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

    データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    すでに保険業界も注目している

    実際に、損保総研が発表しているレポートでは、コンソーシアム型ブロックチェーンの保険業務での一般的な想定利用形態として次の4点をあげており、保険分野での活用について言及しています。

    • 販売管理
      • KYC(顧客本人確認)業務に関して、複数の保険会社からの顧客情報アクセスの担保
      • シンジケート、リスクプール、超過損害額再保険、特約市場、サープラスライン市場など複雑なリスクを取り扱う市場へのアクセスの担保
      • キャット債や担保付再保険の発行でこれまでよりも広範な投資家層への販売に貢献
    • 保険引受
      • 被保険者の自動車運転履歴情報や事故歴情報を保有する第三者情報機関の参加者による、保険引受時の審査や適切な保険料設定の円滑化
    • 保険金請求管理
      • 複数の保険会社による被保険者の保険金請求情報の共有による、保険金詐欺の判定と調査の迅速化
      • 顧客、代理店・ブローカー、保険会社間での、顧客に保険金が支払われるまでの保険金請求の対応状況の共有
    • 報告
      • 規制監督当局への法令遵守にかかわる報告やデータバンク機構への統計報告の共有

    保険業界にブロックチェーンがもたらすメリット

    出典:shutterstock

    データが安全に管理される

    ブロックチェーンは耐改ざん性に優れた技術であり、そこに記録されたデータは不正に書き換えられることがありません。保険契約において、契約日時や契約内容、約款や署名といった情報がブロックチェーン上に記録されている場合、それらのデータはすべての参加者によって検証されるため、データの真正性が保証されます。したがって、保険契約の透明性が向上し、データの不正利用や改ざんのリスクが大幅に軽減されます。

    また、ブロックチェーン上でデータを管理することで、データの改ざんリスクを排除し、保険契約に関する情報を安全かつ信頼性の高い形で保持することができます。保険会社は職員による書類の改ざんなどの不正リスクを低減させるだけでなく、顧客のデータ保護に対する安心感を高めることができるため、顧客に安心して保険へ加入してもらうことができるでしょう。

    また、耐改ざん性はデータの分散管理によって実現していますが、この仕組みは障害や災害といったアクシデントに対しても強みを発揮します。ブロックチェーンでは同じデータを多数のノードで分散しています。仮にひとつのノードが機能不全に陥ったとしてもシステム全体が機能しなくなることはなく、データ消失のおそれも限りなくゼロに近いです。

    このようにデータの安全性が確保されるというのは、ブロックチェーンによる保険業務のメリットだといえます。

    業務の効率化が実現する

    ブロックチェーン技術は、保険商品のみならず、保険業界の幅広い業務プロセスにも適用可能です。たとえば、保険料未収の対応において、ブロックチェーン技術は大いに役立つと考えられます。現在、保険料が未収となった場合、未収の案内発送や営業職員による集金が必要となり、発送費や人件費などのコストが発生します。しかし、ブロックチェーンを活用することで、顧客のクレジットカードや銀行口座情報を共有し、未収が発生した際には別の口座から自動引き落としを実施することで、案内・通知発送費や人件費を削減することが可能となります。

    また、引受査定の自動化について考えてみましょう。現在、保険会社ごと(あるいは金融機関ごと)に顧客の信用情報や反社会的勢力との関連情報を個別に管理していますが、ブロックチェーン技術を利用することで、これらの情報を業界全体で共有することが可能となります。これにより、各社が個別に顧客情報を管理する必要がなくなり、査定業務の効率化が図られます。

    とくに、引受査定に関する情報は競争領域ではないため、業界標準としての利用も視野に入れることができます。将来的には、保険金の不正受給を行った要注意人物のブラックリストを作成したり、EHR(Electronic Health Record)を連携して既往歴の秘匿を防ぐことも可能になるでしょう。

    さらにスマートコントラクトと呼ばれる、「あらかじめ設定されたルールに従って、ブロックチェーン上のトランザクションを実行するプログラム」を活用することで、煩雑な手続きを経ずにほぼリアルタイムで保険金を支払うことも可能になります。

    事故を起こしたり、親族が亡くなったり、旅先で怪我をしたりと様々な場面が保険適用シーンとなりますが、共通していえるのはなるべくはやく金銭的支援が必要だということです。もちろん貯金がたくさんあれば事足りることではあるのですが、受取人の喫緊のニーズに合わせた保険金支給が実現すれば、本来の保険の意味を体現することができるでしょう。

    このように、ブロックチェーン技術は保険業界のあらゆる領域に適用可能であり、その活用によって業務の効率化やコスト削減、顧客満足度の向上が期待されます。

    ブロックチェーン×保険の事例

    生命保険

    出典:shutterstock

    近年の死亡保険金請求手続きはかなり簡略化されてきたとはいえ、面倒で時間のかかる手続きであることに変わりありません。そんな生命保険の請求プロセスを自動化しようというビジネスも存在します。

    アメリカの生命保険会社MetLife(メットライフ)のシンガポールのイノベーションセンターlumenlab(ルーメンラボ)が2019年に発表した「LifeChain(ライフチェーン)」というプロジェクトでは、遺族がシンガポールの大手紙「Straights Times(ストレーツ・タイムズ)」に死亡記事(日本でいうところのお悔やみ欄)を掲載すると、それをもとに保険加入の有無を即座に調べる仕組みを構築しています。

    このプラットフォームでは、ブロックチェーン上に生命保険契約のデータが保存されており、故人の国民登録IDカード番号と照合することで加入の有無をチェックします。一致するものが見つかった場合、自動的に家族や保険組合に通知を送信することになっています。

    これはスマートコントラクトを利用した仕組みであり、保険会社は調査コストを削減し、遺族は請求プロセスにかかる時間を節約してスムーズな保険金受け取りが可能になります。故人が生命保険へ加入しているか不明な場合でも、簡単に請求までおこなってくれるというのも大きなメリットです。

    MetLifeは以前にも「Vitana」と呼ばれるモバイルアプリをテストしており、イーサリアムを利用して妊娠糖尿病の保険の支払いを自動化した実績があります。

    今後もこうしたノウハウを活用して新たな保険モデルをリリースするのではないでしょうか。

    損害保険

    損害保険におけるブロックチェーン導入は、実は日本でもユースケースがあります。実証実験レベルではありますが、ここでは活用事例として2つの事例をご紹介します。

    共同保険の契約情報交換に関する実証実験(損保協会、NEC)

    2020年9月17日、一般社団法人日本損害保険協会(損保協会)は、日本電気株式会社(NEC)と共に、「共同保険の事務効率化に向け、ブロックチェーン技術を活用した契約情報交換に関する共同検証を実施し、その有効性の評価や課題の洗い出しを行」うと発表しました(損保協会ホームページより)。

    損保協会が手掛ける共同保険では、1つの保険契約を複数の保険会社で引き受けるために、各保険会社がそれぞれ、年間数十万件に及ぶ契約情報の書面交換や契約計上業務を行っています

    こうした膨大かつ煩雑な業務を、共同保険に関する会社間共通の情報データベースを構築することで、大幅に効率化することが狙いです。

    出典:損保協会

    本検証では、損保協会の会員会社8社が参加し、NECの提供するブロックチェーン技術を活用した情報交換を行うことで、保険業務におけるペーパーレス化や契約計上業務がどの程度迅速に、正確に、効率よく行えるかを検証していくとされています。

    事故発生の自動検出と保険金支払業務自動化の実証実験(SOMPOホールディングス他)

    SOMPOホールディングス株式会社(以下、SOMPO)は、2020年8月18日から同年9月30日まで、損害保険ジャパン株式会社、株式会社ナビタイムジャパン(以下、ナビタイムジャパン)、株式会社 LayerX(以下、LayerX)と共に、保険事故発生の自動検出および保険金支払業務自動化の技術検証のため、MaaS領域におけるブロックチェーン技術を活用した実証実験を行いました。

    MaaS(Mobility as a Service)とは、「出発地から目的地までの移動ニーズに対して最適な移動手段をシームレスに一つのアプリで提供するなど、移動を単なる手段としてではなく、利用者にとっての一元的なサービスとしてとらえる概念」のことで、本取り組みでは、ブロックチェーンによるMaaS推進の一環として、保険金請求や支払い手続きを自動化・効率化させることを狙っています。

    出典:SOMPOホールディングス株式会社他の発表資料

    同実証では、上図のように、「ナビタイムジャパンの経路検索アプリケーション『NAVITIME』および『乗換 NAVITIME』の利用者からテストモニターを募り、LayerX が有するブロックチェーン技術を活用した、保険事故発生の自動検出と保険金支払業務自動化の技術検証」を目的としています。

    「電車の運行遅延」を保険金請求事由と見立て、JR宇都宮線・高崎線・埼京線の遅延情報を自動検知。位置情報をもとに当該遅延の影響を受けたと判定されるテストモニターに対し、保険金に見立てたデジタルクーポンを即時に自動発行しました。

    海上保険

    出典:shutterstock

    普段私たちが意識していない分野での保険にもブロックチェーンの適用が始まりつつあります。その一例が海上保険です。株式会社トレードワルツが運営する貿易プラットフォーム「TradeWaltz」では保険機能を実装しており、東京海上日動火災保険株式会社や損保ジャパン株式会社などが商用利用しています。

    同サービスでは、紙やPDFの形態で顧客に届けていた保険証券のデータを、改ざんに強いデジタルデータとして送信できるようになります。顔の見えない相手だからこそ、証券の真正性が担保されているというのは大きなメリットです。

    また、TradeWaltzはただの保険プラットフォームではなく、貿易情報連携プラットフォームとして様々な機能を兼ね備えています。同一のシステムでデータを扱うことによって、従来発生していたアナログな事務作業の削減が可能になります。

    たとえば、銀行がTradeWaltzと連携していれば、保険証券への裏書きや銀行買取のための証券送付といった作業を省力化できます。また、デビットノートと呼ばれる売主が買主に対して発生した債権を相手側勘定の借方に記帳して、その債権の内容や金額等を買主側に通知する請求書もデータ化されるので、税関への書類送付や税務調査に備えた書類保管なども不要になると思われます。

    このように、紙ベースの処理が残っている海上保険においても保険のブロックチェーン管理によって業務の効率化が期待できます。

    再保険

    再保険と呼ばれる分野でも、ブロックチェーンの導入が検討されています。

    再保険は生命保険会社が、自己の引き受けた保険契約のリスクを分散するために国内・国外の再保険引受会社と結ぶ保険契約のことです。端的にいうと、保険会社のための保険です。

    スイスのブロックチェーン保険イニシアチブ「B3i(Blockchain Insurance Industry Initiative)」は保険と再保険の大手各社がブロックチェーン技術の可能性を探るために設立したコンソーシアムです。オランダの保険大手「Aegon」やスイスの再保険大手「Swiss Re」のほか、日本の「SBIグループ」や「東京海上ホールディングス」がメンバーとして名を連ねています。

    このコンソーシアムによって設立された「B3i Service AG」では、Cordaの商用版である「Corda Enterprise」を用いて構築されたプラットフォーム「B3i Fluidity」の運営を行いました。

    B3i Fluidity上では、巨大災害における超過損害額の再保険に関する条項を含めた複雑な条約や取引の引受プロセスの効率化が実現されており、保険料と損失に関する詳細な取引を保険会社と再保険会社のシステム上で同時に更新できます。これによって多くの時間と費用を節約でき、再保険会社は決済と保険金請求の処理を自動化することもできます。

    また、B3iは2022年にもブロックチェーンコンソーシアム「インスティチュート・リスクストリーム・コラボレーティブ(Institutes RiskStream Collaborative)」との連携を発表。住宅所有者向けのパラメトリック保険における再保険システムについて研究を進めてきました。

    こうしたブロックチェーン技術を活用した再保険契約の執行により、再保険会社は資金配分や保険引き受け業務を効率化し、業界全体に安定感をもたらすでしょう。

    ただし、このプロジェクトは事業を継続するには十分な支援が得られず、2022年7月に資金調達ラウンドの失敗を受けて活動を停止し、破産を申請しています。

    まとめ:保険業界におけるブロックチェーンの未来展望

    本記事では保険分野におけるブロックチェーンの導入について解説しました。

    ブロックチェーン技術はデータの改ざんが難しいデータベースであり、保険証券のような唯一性が必要なモノに対してはその効力をいかんなく発揮できるまさにうってつけの技術だといえます。また、スマートコントラクトを応用すれば保険金の自動支払いも実現し、保険会社と顧客の双方にとって有益なシステムとなるでしょう。

    また、ブロックチェーン技術を活用することで、保険引受時の審査や保険金請求時の確認作業など、様々な業務プロセスを効率化することができます。これにより、業務コストの削減が図られ、保険会社の収益性が向上するだけでなく、顧客に対するサービスの質も向上するに違いありません。

    しかし、ブロックチェーン技術の導入には多くの課題も存在します。技術的なハードルやデータ共有の難しさ、そしてネガティブなイメージの払拭が必要です。これらの課題を克服するためには、保険業界全体での協力体制の構築や、技術者の育成、法規制の見直しなど、様々な取り組みが求められます。

    未来を見据えたとき、ブロックチェーン技術は保険業界に革新をもたらす重要なツールとなるでしょう。一般的なサービスになるまでは少し時間を要するかもしれません。しかし、ブロックチェーンには確実に保険業界に革命を起こすポテンシャルを秘めています。今後もブロックチェーン技術の進展を追い続け、業界全体での標準化を進めることが不可欠です。

    トレードログ株式会社は、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

    トレードログがMOBI主導の世界初・Web3グローバルバッテリーパスポート(GBP)におけるMVP開発の第一ステージに参加しました

    モビリティ業界におけるブロックチェーン推進と標準規格策定を行うグローバルコンソーシアムMOBI(本拠地:Los Angeles, CA、代表:Tram Vo)は、Web3グローバルバッテリーパスポート(GBP)のMVP(Minimum Viable Product)開発における第一ステージを完了したと発表しました。

    今回の開発にあたっては、アンリツ株式会社様、株式会社デンソー様、日置電機株式会社様、本田技研工業株式会社様、マツダ株式会社様、日産自動車株式会社様(順不同)と共にトレードログ株式会社(本社:東京都豊島区、代表取締役:藤田 誠広、以下「当社」)も参加し、共同でDID(分散型識別子)とVC(検証可能な資格証明)を使ったテストネットの検証を行いました。

    実証では、DID(分散型識別子)とVC(検証可能な資格証明)を使ったテストネットの検証を行いました。バッテリーの識別にはW3C(World Wide Web Consortium)のDIDを用いたレジストリを構築し、バリューチェーンの参加者に対して自己主権型のアイデンティティ管理を提供しています。実証の成果としては、MOBIとW3Cによるオープン標準を使用することで、9つの組織間でバッテリーの識別とデータの検証・交換を行うことに成功しました。

    この仕組みは、バッテリーパスポートを複数のブロックチェーン上で同時にサポートする初の企業ネットワークであり、単一の組織やブロックチェーンに依存せずに機能性と持続可能性を実現します。今回の実証の成功は、バッテリーのバリューチェーンにおけるステークホルダーにとってWeb3エコノミーの基盤を築く重要な一歩となります。

    当社では今後、同コンソーシアム内での活動を通じてブロックチェーン技術を活用したビジネスモデルの研究、業界ルール形成や標準規格の策定を推進し、脱炭素社会の実現を目指してまいります。

    ▼実証の背景

    これまでのバッテリーにおけるバリューチェーンはその構造が複雑であり、製造・リサイクルにあたっても業界ごとの分断が大きく、データが断片化されて共有が難しいという現状がありました。一方で世界情勢に目を向けると、EUの電池規則やアメリカのインフラ抑制法など、各種政策においてバッテリーのライフサイクルを追跡するためのデジタル記録管理が義務付けられています。

    MOBIでは、こうしたニーズに応えるためには標準化された通信プロトコルと自己主権型アイデンティティを備えた分散型Web3マーケットプレイスを導入することが重要であると考えています。業界横断的な調整とデータ共有のための安全なエコシステムの構築を通じて、バッテリーにおけるライフサイクル管理を強化していく必要があり、第一ステージの実証へと至りました。

    ▼バッテリーパスポートとは

    バッテリーパスポートとは、バッテリーのライフサイクル全体に関する詳細な情報を記録し、透明性とトレーサビリティを確保するためのデジタル証明書です。この証明書があれば、バッテリーの製造から使用、メンテナンスやリサイクルに至るまでの様々なデータを一元的に管理でき、サプライチェーン全体での情報共有が可能になります。

    バッテリーの持続可能な管理と資源循環を促進するためにすでにEUでは導入が開始されており、2027年からはEU域内で流通するすべてのポータブルバッテリー、LMT用バッテリー、産業用バッテリー(2kWhを超えるもの)、EV用バッテリー、SLIバッテリーを対象に義務化が予定されています。

    ▼今後のステップ

    プロジェクトの第二ステージでは、Citopiaの分散型マーケットプレイスサービスを通じて、業界横断的な相互運用可能なGBPを構築します。今回構築したIntegrated Trust Network(ITN)サービスは1対1ですが、Citopiaサービスは1対多(および多対1)の運用が可能です。バッテリーやカーボンクレジットの管理、車両と電力網の通信と取引、リスクベースの保険、電気自動車の中古価格設定などのデジタルサービスとアプリケーションの開発などへの実装を目指します。

    ▼MOBIによるリリースはこちら(MOBIの公式サイトへ遷移します)

    ▼MOBI/組織概要

    組織名 : MOBI
    本拠地 : Los Angeles, CA
    設立  : 2018年5月
    代表者 : Tram Vo
    URL  : https://dlt.mobi/

    MOBIは2018年5月に設立された、モビリティ業界におけるブロックチェーン推進と標準規格策定を行う世界最大級のグローバルコンソーシアムです。全世界に100以上の会員企業・組織を抱えており、世界最大手の自動車メーカーのほか、スタートアップ企業、NGO、交通機関、保険会社、さらには欧州委員会などの政策執行機関もメンバーとなっています。活動としては、分科会の運営や国際会議の開催、Web3に関する教育活動などを行っています。

    ▼取材に関するお問い合わせ

    担当  :石黒
    MAIL   :[email protected]

    EV(電気自動車)の充電方式とは?乱立する充電規格や急速充電の気になる疑問を解説!

    現在、EV(電気自動車)の普及が進みつつありますが、様々な方式・規格が存在するEV充電については日本ではまだまだ馴染みが薄いのが現状です。本記事では、これら基本的なEV充電に関する知識に加えて、EV充電に関する課題とその解決ツール、今後の展望についても触れます。EVの購入を検討されている方だけでなく、EVをビジネスに取り入れることを検討している企業担当者の方もぜひご一読ください!

    EVの充電方式とは?

    まずはEVの基本的な充電口を見てみましょう。

      出典:shutterstock

      たこ焼き器のような形と双眼鏡のような形、タイプの違う接続先が2つ存在するのがわかるかと思います。この写真のように主要なEVの充電口は基本的に2つ用意されており、充電方式によって使うポートが異なります。給油口が1つしかないガソリン車と比べると、全体的にフューエルリッド(給油口扉)も大きくなっていますね。

      EV充電には出力によって「普通充電」と「急速充電」の2種類に区別されます。もちろん、充電時間は早いに越したことはないのですが、それぞれのメリットやデメリットを踏まえたうえで目的に合わせた充電方式をチョイスすることが大切です。

      ここからはそれぞれの充電方式について説明します。

      EVの充電方式①:普通充電

      普通充電は、家庭用コンセントや公共の充電スタンドで行う一般的な充電方法です。主に単相の交流100Vコンセントまたは200Vコンセントを使用し、100Vだと1時間でおよそ10km程度走行できる充電が可能で、200Vだと30分でおよそ10km程度の走行を行うことができます。

      急速充電と比べると充電時間は長いものの、自宅やオフィスなど日常的な生活空間における充電(基礎充電)では、そもそも長時間駐車することが前提となるため、充電速度が遅くても問題になりません。むしろ、高性能を求めない分、充電機器は安価なラインナップもあります。そのため、個人宅では充電機器などのコストが安く済む普通充電を行うのが一般的です。

      普通充電はケーブルの有無によってさらに「コンセントタイプ」と「ポールタイプ(=スタンドタイプ)」の2種類に分けられます。

      コンセント型

      出典:shutterstock

      こちらは家庭用の100Vまたは200Vの電源を使用して充電する方式です。コンセント型とは言いつつも、一般的なコンセントでは異常発熱による火災などのトラブルが起きる危険性があるため、専用のコンセントを設置する必要があります。

      このタイプの魅力は、自宅で手軽に充電できるうえに充電機器も小型で済むため、本来の家屋の景観を損ねることなく設置できることです。設置も簡易的な工事で取り付け可能で、本体価格含めても十数万円程度で導入できます。

      見た目に加え、コスト面を考えても今後一般家庭で最も普及するであろうコンセント型の充電ですが、充電速度はかなり遅く、フル充電には少なくとも半日以上必要です。これは、自宅やオフィスなどの拠点に帰ってきた際にEV充電を開始し、翌日車に乗る時までに充電が完了している、という使い方を想定しているためです。

      また、電気自動車側のケーブルをコンセントに挿して充電することになるため、対応していない車種もあるという点もネックになるでしょう。

      ポール型(=スタンド型)

      出典:shutterstock

      こちらは充電設備に充電ケーブルとコネクターが付いており、それを車両にさし込んで充電する方式です。200Vの電源を使用することで、コンセントタイプよりも速く充電できます。付属するケーブルの接続部分は各社統一の規格となっているため、原則、国内販売されているどのEVでも充電が可能です。

      一方でコンセント型と比べると、充電スタンドの設置にスペースが必要となります。見た目はスマートなものが多いですが、見た目の存在感は大きなものがあります。また、設置に伴っては電気工事が必要になるため、設置コストも数百万円程は見込んでおいたほうが良いでしょう。

      こうした理由から、スタンド型の普通充電器は一般家庭よりも商業施設やマンションなどを中心に導入されることが予測されます。

      EVの充電方式②:急速充電

      出典:shutterstock

      急速充電は、その名の通り、高出力の充電スタンドを利用して短時間で充電する方法です。主に三相の電源を使用することで、一般的に30~45分程度で約80%まで充電可能となっており、EV車の最大のデメリットともいえる充電時間の不便性を極限まで解消することが可能です。

      ガソリン車のように気軽にエネルギーを補給できないEVでは、ドライブの途中に行う充電(経路充電)で、休憩時間を利用して効率的に充電を行う必要があります。こうしたシーンで急速充電を活用することにより、目的地に到着するまでの時間を大幅に短縮することができます。

      一方で、急速充電器は本体価格も高額なうえに高出力の電源を確保するために電気設備の増大や電気契約変更が必要となり、設置コストがかなり高額になります。こうした点から、一般家庭などプライベートな空間の設置は現実的ではなく、道の駅や高速道路のSA・PAなど、目的地までの経由地に設置されることが一般的です。

      また、意外な盲点ですが、急速充電ではフル充電を行うことができません。これは急速充電器の高出力からバッテリーを守るための仕様であり、ある一定の上限値を超えると、自動で急速充電器の供給がストップします。便利である反面、お財布やバッテリーにはあまり優しいとはいえないのがこの充電方式です。

      EVならではの充電スタイルとして、目的地に到着した後に行う充電(目的地充電)がありますが、目的地充電では、滞在時間に応じて普通充電と急速充電を使い分けます。たとえば、ショッピングモールや観光地の駐車場では普通充電器が設置されていることも多く、数時間の滞在中にじっくりと充電することが可能です。帰路に着くまでにバッテリーを十分に充電できるため、再び経路充電を行わずに済むこともあります。

      一方で、客先訪問や昼食休憩など短時間の滞在が予定されている場合には、急速充電器を利用することで、効率的に充電を済ませることができます。このように、充電方式が分かれているEVでは、それぞれの充電シーンに応じて、普通充電と急速充電を適切に使い分けることが重要です。

      充電方式の正体は交流充電と直流充電

      出典:日東工業株式会社「よくわかる!EV充電の基礎知識」

      そもそもEVの充電方式を「普通」と「急速」に分けているものの正体は一体何なのでしょうか?これを紐解くには、電気の基本的な仕組みを理解する必要があります。

      電気には、直流(DC)と交流(AC)の2種類があります。直流は文字通り電気の流れる方向が一定で、交流は流れる方向が定期的に交互に変化します。身近なものでいえば、乾電池から流れる電流は常にプラスからマイナスへ流れる直流であり、私たちの家に送られてきている電気は磁場によって電圧を容易に変換でき、長距離送電が可能な交流の電気です。電気製品のプラグをどちらの向きに差しても使えるのは、電気が交流だからというわけですね。

      そして同様にEVでは、負極から正極へと一定方向に電子を供給するバッテリーには直流、強力な回転磁場を生成して効率的に駆動する必要があるモーターには交流が使われています(正確には、モーターは直流でも交流でも回すことはできるが、交流で回した方がより緻密な制御が可能)。そのため、EV内部には交流を直流に変換するインバーターと、直流を交流に変換するコンバーターの両方が搭載されています。

      普通充電では、一般家庭で使われている交流電源を車両に送り込み、車載のインバーターによって直流に変換してバッテリーへの充電を行いますが、急速充電では、充電器が交流電源を高電圧の直流に変換してその直流電流を車両に直接送り込んでバッテリーを充電します。直流電流は一定の方向に流れるため、バッテリーに効率よくエネルギーを供給することができるため、急速充電では短時間で大量の電力をバッテリーに蓄えることが可能になっているのです。

      このように考えると、普通充電と急速充電の違いが直流電源と交流電源の違いによってもたらされるものであると理解できたのではないでしょうか?

      EVの充電規格とは?

      出典:スマートモビリティJP

      EVには普通充電と急速充電のそれぞれに合わせた充電の「規格」が存在します。各規格には異なるコネクタやプロトコルが用いられており、国や地域、さらには自動車メーカーによっても使用する規格が異なります。ここからは、EVの充電規格について詳しく解説し、それぞれの規格の特徴や利点、課題について見ていきます。

      普通充電規格

      SAE J1772 およびIEC 62196-2 Type 1

      出典:BizLink

      主に日本とアメリカで広く採用されている普通充電規格です。規格の名称が二つ存在するのは、米国ペンシルベニア州に拠点を置く「SAE International」と呼ばれる標準化団体が制定するSAE規格と、「Commission électrotechnique internationale(国際電気標準会議)」と呼ばれる電気技術の国際標準化機構が制定するIEC規格の両方で採用されているためです(ここからは便宜上、Type 1と呼びます)。

      EVの普及を推進するためには、異なるメーカーのEVでも同じ充電器を利用できる必要があり、互換性のある充電インフラ・統一された充電規格の存在が不可欠でした。Type 1は、その需要に応える形で日本でのEV普及を支える標準規格として誕生しました。

      世界初の量産EVとして発売された三菱i-MiEVにもType 1が普通充電規格として採用されており、そこから多くのEVモデルにも標準として取り入れられることで、早い段階で国内におけるEV充電の標準規格として定着しました。現在、日本国内で販売されているBEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)は、基本的にはすべてこの規格に対応しています。

      通信方式にはCAN(Controller Area Network)と呼ばれる形式が採用されています。CANは元々、車載制御機器用のネットワークとして開発されており、ノイズ耐性やエラー検知能力の高さに定評があります。したがって、充電の進行状況や異常の監視、充電完了時の通知など安全かつ確実な充電が可能となっています。

      • 最大出力:19.2kW
      • 導入地域:日本、北米
      • 通信方式:CAN
      • ピン数:5

      Mennekes(IEC 62196-2/Type 2)

      出典:BizLink

      主に欧州で標準的に使用されている充電規格です。正式名称はIEC 62196-2/Type 2ですが、開発した企業名にちなんでMennekesと呼ばれることも多いです(ここからは便宜上、Type 2と呼びます)。Type 2もType 1と同様、欧州における統一された充電規格の必要性から開発・制定が進められました。

      Type 2の最大の特徴は、急速充電同様に三相電源を使用することもできるため、日本で主流のType 1よりも高出力で充電することが可能な点です。Type 1が主に単相電源を使用するのに対し、Type 2は三相電源を使用することで、最大出力22kWを実現しています。これにより、充電時間が短縮され、効率的にEVを充電することが可能です。

      また、通信方式には電力線通信を用いたPLC(Powwer Line Communication)形式が採用されており、EVと充電器間以外にも、電力系統側からも電力発電計画などのデータを取得することができます。したがって、Type 2を採用している充電器では電力会社の発電量や車両の発車時間を考慮して充電するなど、電力負荷の観点からも効率的な充電が可能となっています。

      • 最大出力:22kW
      • 導入地域:欧州
      • 通信方式:PLC
      • ピン数:7

      GB/T(20234.2)

      出典:BizLink

      GB/Tは中国電気企業連合会(CEC)が公開している中国における国家標準規格であり、主に中国国内で使用されています。GB/Tの最大の特徴ともいえるのが、普通充電では63Aの電流と440Vの電圧に対応しており、最大27.7kWという驚異的な出力で充電することができる点です。これは、Type1やType 2と比較しても高性能な普通充電出力であり、世界最速クラスの規格であるといえるでしょう。

      また、中国ではGB/T(20234.2)規格に加え、最大250kWという出力を誇る急速充電規格であるGB/T(20234.3)規格も策定されており、アダプターの交換だけで普通充電と急速充電の両対応が可能となっています。

      • 最大出力::27.7kW
      • 導入地域:中国
      • 通信方式:CAN
      • ピン数:7
      規格最大出力導入地域通信方式ピン数
      J1772(Type 1)19.2kW米国・日本CAN5
      Mennekes(Type 2)22kW欧州PLC7
      GB/T27.7kW中国CAN5

      急速充電規格

      急速充電規格は、短時間で高出力の充電が可能なため、長距離ドライブや公共の充電スポットで重宝されています。以下に主な急速充電規格を紹介します。

      CHAdeMO

      出典:joosup

      CHAdeMO(チャデモ)は、2010年に誕生した日本発の急速充電規格です。2014年にはIECの承認を受けて他の方式とともに急速充電規格の国際標準となっています。現在は国内で広く普及しており、ほとんどすべての日本製EVがCHAdeMOに対応しています。

      その独特の名前は「Charge de Move(充電で移動)」から取られており、「お茶でもいかがですか?」という車を充電している間にお茶を楽しむというコンセプトを表現しています。

      CHAdeMO最大の特徴は、EVの電力を別のEVや家電機器、家庭やオフィスなどへ給電する「V2X(Vehicle to X)」に対応しているという点です。CHAdeMOでは、誕生した翌年の東日本大震災で発生した深刻なガソリン不足の教訓を活かし、早い時期からEVの大容量バッテリーを予備電源として活用する技術の開発が進められてきました。

      したがって、その他の規格と比べると双方向給電という技術的なアドバンテージを有しているといえます。また、充電器内に絶縁変圧器を設けて入力側(交流)と出力側(直流)で系統を分離しているため、交流電圧の異なる世界各国で使用することができます。

      こうした点から一時期は欧米にも多く普及したCHAdeMOですが、EVの普及が進むにつれ、安全性を重視しているCHAdeMOよりも使い勝手や充電スピードの面で優れた規格が登場し始めました。EVユーザーのニーズとしても充電時間の短縮と充電インフラの使いやすさが重視されており、安全ながらも重たいコネクタや二口必要な充電口などの課題も指摘されています。

      また、事業者からの不満も少なくありません。とくに課金システムが規格にビルトインされていない点は致命的で、EVユーザーと充電ステーション事業者間で安全な認証と決済を行うための仕様が定義されていないため、各充電ステーション事業者は独自の課金システムや認証方式を導入する必要があり、大きな手間とコストを伴います。ユーザーにとっても充電器ごとに専用の会員カードが必要であったり、充電ステーションでの支払いができないなどの弊害があります。

      こうした背景から欧米では後述するCCSという規格が採用されており、現在ではCHAdeMOは事実上、日本専用規格となりつつあります。一方で、定期的なアップデートにより利便性の向上も図られています。なかでも今後のEV界を左右するともいわれているのが、CHAdeMO 3.0となる「ChaoJi(チャオジ)」です。

      出典:CHAdeMO協議会

      ChaoJiは、日中共同で開発された超高出力の急速充電規格であり、コンパクトなコネクタながら最大出力はなんと900kWにも達します。従来のCHAdeMOとはコネクタ形状が違うため、CHAdeMO3.0とはいっても変換アダプターが必要にはなりますが、後方互換性があるために間接的には現存するすべての充電規格への互換性を持っています

      中国でも従来の「GB/T 20234.3」に加えて正式導入されており、当面ChaoJiとの2本立てで普及が図られていく模様です。将来的に日本と中国の充電規格がChaojiに統一されれば世界最大の規格となり、世界標準になる可能性もあるでしょう。CHAdeMOは欧米での覇権を再び取り返すことができるのか、今後の展開にも注目です。

      • 最大出力: 400kW(Chaojiは900kW)
      • 導入地域:日本、中国
      • 通信方式:CAN
      • ピン数:10(Chaojiは7)

      CCS1

      出典:Amphenol

      主に北米で標準的に使用されている急速充電規格です。CCSは「Combined Charging System(コンバインド充電システム)」の略称で、別名の「コンボ(Combo)」という名称でもよく知られています。元々、日本の規格に対抗する形で規格化が進められたCCSはヨーロッパのライフスタイルに適合するように交流と直流の両方の充電を1つのコネクタで対応可能です。

      これは、欧米において路肩や副道が公的に認められた駐車スペースになっていることに由来します。駐車場を借りずに路上駐車で自家用車を保管する人も珍しくありません。もちろん、住人でなくとも空きスペースに駐車ができます。

      こうした文化がある国では、駐車中の車ごとに普通充電か急速充電かの要望が個々に異なります。周辺の住人であれば基礎充電用がメインですが、短時間停めるだけのドライバーは経路充電・目的地充電がメインになるからです。

      当然、ケーブルを2つ用意しておけば異なるニーズにも対応できますが、1本で済ませられるのであればその方がより合理的でスマートです。したがってCCS方式では、1本のケーブルで普通充電と急速充電という2つの差込口を持つグリップを採用したという訳です。

      CCSでは、充電ステーションと充電管理システム間の通信を行うためのプロトコル(Open Charge Point Protocol、OCPP)が規格に組み込まれています。そのため、電気料金の支払いも充電器と車両の通信によって行われ、充電ケーブルを繋ぐだけでカードやアプリを使わずに充電する(Plug and Charge、PnC)ことも可能です。

      こうしたシームレスな充電体験がユーザーからの共感を得ているため、後述するCCS2と合わせて現在、世界で最もメジャーな規格となっています。

      • 最大出力::400kW
      • 導入地域:北米
      • 通信方式:PLC
      • ピン数:7(​​急速充電のみに特化した場合、AC充電用のピンは不要なためピン数は5となる)

      CCS2

      出典:GUCHEN

      主に欧州で主流となっているCCS規格です。同じCCSでも規格が分かれているのは、普通充電に使われている規格がヨーロッパではType 2、アメリカではType 1と分かれているためです。したがって、CCS2でも1本のケーブルで普通充電と急速充電が可能となっています。

      コネクタの形状こそ異なるものの、通信方式はどちらも共通してPLCを採用しており、基本的な性能についてもCCS1とは大差がありません。一方で、名前から分かる通りCCS1の後にできた規格でもあるため、本来はCCS1よりも高速で高出力な充電スタイルを想定していました(2023年以降、400kW対応のCCS1充電器が登場したものの、CCS1の主流は350kW)。

      そのため、安全性に関しては空冷ケーブルを採用しているCCS1よりも、液冷ケーブルを採用しているCCS2に軍配が上がるでしょう。高出力充電時の熱管理を強化することで最適な温度レベルを維持し、EV バッテリーと充電装置の寿命を長期化できるというメリットもあります。

      • 最大出力:400kW
      • 導入地域:欧州
      • 通信方式:PLC
      • ピン数:9(​​急速充電のみに特化した場合、AC充電用のピンは不要なためピン数は5となる)

      GB/T(20234.3)

      出典:worklovevs.shop

      中国で使用されている急速充電規格です。GB/T(20234.3)は、最大250kWの出力が可能で、中国国内の多くのEVで標準的に使用されています。

      GB/Tの特徴は普通充電規格のGB/T(20234.2)でも述べた通りですが、中国政府では、こうした自国の規格を促進するために、充電ステーションの製造業者に対して多額の補助金を提供しています。加えて、充電ステーションの運営企業には、税制優遇措置も適用され、所得税の減免や減価償却の優遇などを受けることができ、運営コストの削減やインフラの整備に非常に役立っています。

      また、中国では、EV製造業者やEV購入者にも補助金や減税のサポートを行っており、低価格帯のEVも数多くラインナップされています。中国自動車工業協会(CAAM)によると、2023年のEVの販売台数は約669万台であり、これは同国の自動車販売シェアの約22.2%に上ります。したがって、規格を取り巻く環境そのものが非常に強い普及力を持つという点はGB/Tならではの特徴だといえるでしょう。

      一方で、中国国外ではその知名度や影響力は大きいものではありません。世界第2位の人口を抱える中国において主流となっている規格のため、マーケットのシェアは決して小さいものではありませんが、経済安全保障上の観点から、とくに北米・欧州における普及拡大や標準化が望めないためです。こういった背景も先に述べたChaojiへの開発に中国が参画している理由なのかもしれません。

      • 最大出力:250kW
      • 導入地域:中国
      • 通信方式:CAN
      • ピン数:9

      NACS

      出典:Car Watch

      NACS(North American Charging Standard)は、テスラ社が開発した急速充電規格です。元々テスラ車の独自コネクタ「TPC規格」として使用されていましたが、2022年11月にその名称をNACS規格に変更し、仕様を全世界に公開しました。テスラ社は他の自動車メーカーや関連団体にもこの規格の採用を呼びかけ、業界全体の充電インフラの標準化を目指しています。

      NACSの特徴として、他の急速充電規格と比較してコネクタが非常に小型である点が挙げられます。また、水冷ケーブルを使用しているため、ケーブル自体も軽量化されており、充電ポートの設置場所がテスラ車で統一されているため、ケーブルの長さが短くても問題ありません。したがって、充電器の取り扱いやすさでは群を抜いており、女性や高齢者にとっても使いやすい設計になっています。こうした設計は、車両から充電器まで一貫して自社で設計しているテスラ社が主導する規格であるからこそ実現できたものです。

      また、NACSのもう一つの大きな利点は、Plug and Charge(PnC)に対応している点です。PnCに対応することで、ユーザーは充電コネクターを車両に差し込むだけで、決済の認証が完了し、すぐに充電を開始することができます。日本でもCHAdeMOのPnC対応や大電力化は検討されているものの、さまざまな障壁があり、NACSほどの利便性を提供するには至っていません。

      このような点から、「欧米=CCS、日本=CHAdeMO」という構図で闘っている間に、充電器設置も自社ディーラーなどで自前で行う独自路線を選択したテスラ社のNACSがEV界を席巻することになります。現在ではフォードやGMといったアメリカの自動車メーカーはもちろん、メルセデス・ベンツや BMW、さらにはフォルクスワーゲングループといった欧州の大手自動車メーカーまでNACS規格の採用を始め、日本国内でもトヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、スバルといった大手企業がアメリカ・カナダ向けに生産されるEVへNACSを採用することを表明しています。

      NACSはこのように多大な影響力を持つ一方で、取り巻く環境が不安定な点は見逃せません。それはテスラ社CEO、イーロン・マスク氏の存在です。2024年5月、海外メディアがこぞって「テスラ社が急速充電器の担当部門を閉鎖し、担当幹部らと従業員の数百人を解雇した」と報じられると、同社の利益体質に懐疑的な目が向けられました。かと思えば、それからわずか1週間後にはマスク氏は自身のXに「スーパーチャージャーの充電ネットワークの拡大に5億ドル(約778億円)を優に超える資金を投じる意向だ」と投稿。こうした短期間の相反するアクションには企業のみならず、テスラ製EVユーザーからも困惑の声が上がり、NACSも過去に彼が買収したTwitterのように、ユーザーが振り回されるサービスとなってしまう可能性も否定できないでしょう。

      また、2024年11月に控えるアメリカ大統領選も不確定要素の一つです。バイデン現大統領の再選またはトランプ前大統領の返り咲きのどちらに転ぶかによって、パリ協定からの再離脱も考えうるなど、政策の変動もNACSの情勢に大きな影響を与えます。こうした周辺環境が安定しない充電規格であることは頭の片隅に入れておきましょう。

      • 最大出力:250kW
      • 導入地域:北米
      • 通信方式:CAN
      • ピン数:5
      規格最大出力導入地域通信方式ピン数
      CHAdeMO400kW日本CAN10
      Chaoji900kWアジア(予定)CAN7
      CCS1400kW北米CAN5
      CCS2400kW欧州PLC7
      GB/T250kW中国CAN5
      NACS250kW北米CAN5

      なぜEVの充電規格は乱立している?

      ここまで、世界各国でメジャーとなっている充電規格について紹介してきました。しかし、一度見ただけでは覚えるのが大変なほど種類も、使われている地域も様々です。なぜこれほどまでに充電規格が乱立しているのでしょうか?この多様化という問題を理解するには、その背景にある自動車産業の変化を考察する必要があります。

      ​​自動車産業は資材調達・製造をはじめ販売・整備・運送など各分野にわたる広範な関連産業を持つ総合産業です。2023年になってもなお、その規模は拡大を続け、国際自動車工業会(OICA)が発表した2023年のグローバル新車販売台数は、前年の8287.1万台から12%増の9272.5万台と大きく伸長しています。

      2023年の世界新車販売台数は2桁の高成長

      一方でここ数十年、自動車業界の悩みの種となってきたのが地球温暖化対策です。各社、技術力を結集させて研究・開発を行いましたが、2015年12月にパリ協定が採択されると、更にその動きは加速します。企業のみならず、各国・各連合で温室効果ガスの排出を削減するための具体的な目標が設定されたのです。これにより、多くの国々がゼロエミッション車(ZEV)へのシフトを推進し始めました。

      過去には、欧州の自動車メーカーがクリーンディーゼル車を推進しました。クリーンディーゼル車は、ガソリン車に比べてCO2排出量が少なく、燃費も良いというメリットがあります。とくに欧州では、長距離移動や高速道路の利用が日常的であり、日本のように遅い走行速度でストップ&ゴーを繰り返す運転習慣がないため、燃費の良いクリーンディーゼル車が絶大な人気を博しました。しかし、2015年にフォルクスワーゲン(VW)社の不正問題が発覚すると、クリーンディーゼル車の信頼は大きく損なわれ、欧州の地球温暖化対策の柱が崩れる結果となります。

      世界中に震撼が走るなか、日本では1998年に当時の都知事・石原 慎太郎氏がディーゼル車の規制を強化したことがきっかけで、ハイブリッド車の開発が進んでいました。これにより、日本の自動車メーカーは、「日本製」という安心安全・高品質の肩書を引っ提げながら、環境負荷の少ないハイブリッド車を次々と市場に投入することに成功します。

      クリーンディーゼル車という切り札を失った欧州諸国は、日本に負けじと次なる手を打つ必要がありました。パリ協定が未達成に終わり、メンツも市場も失う事態だけは絶対に避けなければならないからです。しかし、今からハイブリドッド車の研究を始めたとて、圧倒的な開発期間のブランクがあるなかで日本を上回るシナリオは考えづらく、新たな方向性を模索せねばなりませんでした。自動車産業は欧州で産声を上げ、米国で国家的産業となるも、80年代に入るとブランド力の高い日本の中心産業となります。そのような背景から、この転換期においてはなんとしても日本から主導権を奪回しなければならなかったのです。

      そこで注目されたのがEVでした。EV市場は、当時の技術的にはまだ発展途上であり、明確な規格や支配的なプレイヤーが存在しませんでした。そこで欧州はEV市場に早期に参入して自国に利益をもたらすべく、規格やルール作りの主導権を握ることを目論みます。こうなると当然、アメリカや中国も黙ってはいません。アメリカでは、テスラ社が独自の充電施設やスマートグリッドとの連携強化を武器にEV市場へ本格的に参入し、中国は低価格のEVを市場に大量に投入し始めました。こうして各国がEV市場での優位性を競い合うなかで、それぞれの地域でそれぞれのプレイヤーがインフラ整備を行った結果、充電規格の乱立が進んでいるのです。

      この状況は、かつてのビデオデッキ市場でのVHSとベータマックスの規格争いを彷彿とさせます。結果的に、VHSは市場シェアを獲得し、標準規格として確立されましたが、ベータマックスは技術的には優れていたものの、消滅してしまいました。同様に、EV市場でも充電規格の競争が激化しており、最終的にどの規格が生き残っていくのかは未だに不透明です。

      このようにEV市場は、将来的に莫大な利益を生み出すという予想のもと、その主導権を握るための競争が熾烈を極めています。規格争いは、一見すると市場の混沌を招いているように見えますが、その裏には長期的なEV収益を見据えた戦略的な動きが存在します。これから数年、さらには数十年にわたり、各国がどのようにEV市場を支配していくかは、大きな注目を集めるでしょう。

      EV充電で問題となっている課題とは?

      出典:shutterstock

      EVが普及する中で、ガソリン車からの乗り換えを検討する際に多くのユーザーが直面するのが、充電に関するさまざまな課題です。そしてそれらの課題は、購入後もEV充電のたびにつきまとうことになります。ここからは「充電時間の長さ」「EV充電スポットの数」「充電履歴などのデータ取得」という三つの主要な課題に焦点を当て、その具体的な問題点と影響を探ります。

      充電時間の長さ

      まず、充電時間が長いという問題です。ガソリン車と比べて、EVの充電には圧倒的に多くの時間が必要です。普通充電では数時間から一晩、急速充電でも30分程度かかるため、生まれてからこれまでガソリン車しか使ってこなかった人からすると、時間面で不便だと感じるユーザーも少なくないでしょう。

      とくに大型車になると、この傾向はより一層顕著です。運送業界では、1日で運べる荷物の量が直接収益に影響を与えます。たとえば、大型トラックをEVに切り替えた場合、充電のために長時間停止する必要があるため、稼働率が大幅に低下し、商売が成り立たなくなるリスクがあります。大容量のバッテリーを充電するためには、普通車とは比べものにならない時間を待機する必要があり、運行スケジュールの大きな障壁となり得ます。

      また、こうした充電時間の長さは、ビジネスのみならず日常使用においても大きなネックとなっています。現代社会では、車は単なる移動手段以上の役割を果たしており、快適さや利便性が強く求められています。多くの人々にとって、車内での静音性や乗り心地、さらにはシートやステアリングの電動調整機能など、「快適さ」が求められているのです。こうした観点では、充電のために長時間待たされるというのは、EVに乗り換える上で大きな障害となります。長時間のドライブの途中で充電を余儀なくされる場合や、急ぎの用事がある際に充電のためにわずか15分といえど予定が狂ってしまうことなど、充電時間がもたらす不便さは無視できません。

      出典:中華IT最新事情

      さらに、充電時間の問題は季節や気候の影響も受けやすいです。寒冷地ではバッテリーの性能が低下し、充電速度が遅くなることがあります。冬季にはバッテリーの温度管理が難しくなり、充電にかかる時間がさらに長くなることが考えられるでしょう。実際にEV大国といわれる中国でさえも寒冷地の東北部では普及がほとんど進んでいません。

      このように、充電時間の長さは様々な弊害を生み出し、ガソリン車に慣れ親しんだ人々にとっては無視できない項目の一つとなっています。ビジネスや日常生活の中で、迅速で効率的な移動が求められる現代社会において、充電時間が長いという問題は深刻な課題であるといえるでしょう。

      EV充電スポット数

      日本では充電スポットが不足していることも問題です。2024年3月時点で、EV向け充電スタンド数は全国に21,549拠点あるといわれています。資源エネルギー庁によると、給油所、いわゆるガソリンスタンドの数は2023年3月時点で27,963箇所とのことなので、これを考えるとまずまずの数値に思えるかもしれません。しかし、先に述べた充電スタンドの数は普通充電・急速充電を合わせた数になっており、急速充電(CHAdeMO)単体で見ると、10,477箇所と半分以下しかなく、「充電時間が長い」という課題がある以上、まだまだ必要な充電スポット数は足りていないといわざるを得ません。

      出典:GoGoEV「EV充電スポット数の推移【2023年3月~2024年3月】」

      また、都市部では充電スポットが増加していますが、地方では依然として充電スポットが不足、あるいはEVそのもの普及率が低いことも多く、地域格差という面でも充分にインフラ整備が行き届いているとはいえない状況です。これは、地方在住者だけの課題ではなく、旅行やビジネスにおいて長距離移動を行う際には誰しもが巻き込まれる課題でもあるでしょう。

      また、この問題は単純にEVスポットをバンバン製造すれば解決できる、という問題でもありません。急速充電施設の整備には多大なコストがかかるため、民間企業が1社で負担するには限界があります。したがって、積極的な政府や自治体の支援が不可欠であり、補助金等を活用しながら充電インフラの整備を加速させることが求められています。

      今後、EVの普及がさらに進む中で、普及するスピードに合わせて今以上の速さで急速充電施設を整備していかなければ、充電スポットの数が需要に追いつかず、ユーザーのカーライフが快適でなくなるのは避けられないでしょう。

      充電履歴などのデータ取得

      最後に、充電履歴やバッテリーの劣化情報など、EVの運用に関するデータの管理が不十分であることも大きな問題となっています。というのも近年、プライム市場に上場している企業に対して気候変動によるリスク情報の開示が実質的に義務付けられたり、あるいは国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、企業のサプライチェーン全体の排出量の開示を義務化したりなど、民間企業に対して徹底した情報開示が求められるようになっています

      また、投資家や消費者たちからESG経営を望む声も年々大きくなっており、グリーンウォッシュが発生しうる曖昧な取り組みではなく、脱炭素化のために巨大企業が必要な取り組みを行い、それらをきちんと公表することが求められています。多くの企業でサステナビリティに関する情報をHP上で確認できるのも、こうした動きによるものです。

      企業がこういった要求に対応するために、EVを一つの効果的な気候変動対策として導入しているケースがあります。たとえば、通勤時のCO2排出を抑えることは、Scope3(事業者の活動に関連する他社の温室効果ガスの排出量)のカテゴリ7(通勤に伴う排出)の削減に直接貢献できます。しかし、CO2の削減量といった正確性が求められるデータをユーザー単位で管理するシステムは不足しており、概算の削減量以外に充電および走行の正確なデータを把握することは難しいという現状があります。

      基礎から学ぶScope3

      また、充電に関連してはバッテリー自体のデータも必要になっています。急速充電は便利な一方で、高い出力で直流電流を流し込むため、バッテリーへの負荷はかなり高いものになります。したがって、車載用バッテリーの劣化状態を評価するために、自動車メーカーでは環境条件や充放電などの使用条件等をデータベースとして蓄積していますが、こうした計測データの中には一部、プライバシーの観点からデータの共有が難しい情報(走行履歴情報など)があります。こうした情報が活用できなければバッテリーの劣化状態を正確に把握できず、適切なメンテナンスが行われないリスクもあります。

      このように、EVの充電履歴データがうまく取得できなければさまざまな弊害を生み出してしまいます。ガソリン車では正確なデータをリアルタイムに取得することは難しく、急速にエネルギー補給を行う必要もなかったため、これは電気によって動くEVならではの課題だといえるでしょう。

      EV充電の課題を解決するソリューションとは?

      バッテリースワップ

      出典:shutterstock

      バッテリースワップは、EVバッテリーを充電するのではなく、専用の交換ステーションで機械的に取り外し、新しいフル充電されたバッテリーと交換することで短時間で充電を完了させる方法です。従来のガソリンスタンドでの給油のように数分でバッテリー交換が完了するため、急速充電ですら30分以上かかる「充電待ち」の状態を避けることができます。

      イメージとしては「ChargeSPOT」を利用して、モバイルバッテリーをコンビニで借りるようなものです。充電が終わるのを待つのではなく、すぐに使える満充電のバッテリーを借りるだけで充電の心配をすることなく快適なドライブを楽しめます。

      バッテリースワップの概念は2000年代初頭に、電気自動車(EV)の普及を促進するための解決策として考案されました。最も著名な試みとしては、カルフォルニア州に本拠地を構えるベタープレイス(Better Place)社が2007年に提案したものがあります。同社がこの着想をビジネス化した際にはEV業界はまだ黎明期にあったため、バッテリーそのものも著しい進化の途上にありました。また、市場もその先進技術を受け入れる準備が整っておらず、ベースとなる急速充電の開発に注力せざるを得ない状況であったこともあり、当時は定着することはありませんでした。

      しかし現在、バッテリースワップ技術は中国のNIO(上海蔚来汽車)が中心となって全国的な広がりを見せつつあります。NIOは、国内に多くのバッテリースワップステーションを設置し、迅速なバッテリー交換を実現しています。最新(第3世代)ステーションでは21個のバッテリーを保管でき、独自の先進運転支援(ADAS)機能を駆使して1日あたり合計408回の交換を行うことができます。

      日本では法規制が厳しいためにあまり普及は進んでいませんが、二輪車向けの同様のサービス「ガチャコ」は都市部を中心に利用されており、モビリティ領域におけるバッテリースワップの有効性はすでに国内でも証明済みです。

      高電圧のバッテリーを扱う際の安全性が懸念点にはなりますが、適切な安全対策と技術の進化によってこうした問題も解決されつつあります。自宅での夜間充電と組み合わせてバッテリースワップを活用することで、より効率的で持続可能なモビリティが実現されるでしょう。

      ローミング

      出典:shutterstock

      ローミングとは、異なる充電ネットワークをまたいでEVを充電できる技術です。EV充電スポットの少なさが問題となる背景には、やはり充電規格の乱立があります。異なる充電規格が混在する状況下では、確実に今後数十年と残り続けるという保証がない限り、充電スポットの拡充に大規模な投資はできないからです。こうした問題を、表面上で解決するために異なる充電ネットワーク間で互換性を持たせ、ユーザーがシームレスに充電できるようにするローミングに注目が集まっています。

      ローミングという言葉自体は、携帯電話のローミングで聞いたことがあるかと思います。海外旅行に出かけた際に、現地の異なる通信会社のネットワークに接続できる技術です。同様に、EVのローミングも国内外問わずボーダーレスなアクセスを可能にし、ユーザーがストレスなく充電を行えるようにしようというものです。

      EVのローミングにおいては、OCPI(Open Charge Point Interface)が重要な役割を果たしています。OCPIは、異なる充電サービスプロバイダ間の円滑な連携を促進するためのオープン標準プロトコルです。これにより、ユーザーは一つのアカウントで複数の充電ネットワークを利用できるようになり、充電インフラの利便性が大幅に向上します。

      「ローミングがあれば規格争いなんて不毛じゃない?」と思う方もいることでしょう。確かにローミングは理論上、ユーザーはどの規格の充電ステーションでも充電ができるため、充電規格の違いによる不便を感じることは少なくなります。しかし、ローミングは課金システムの管理機能に過ぎず、物理的な障壁を取り除けるわけではありません。

      それぞれの規格ごとに物理的な接続形状や通信プロトコルが異なるため、単にソフトウェアの対応だけでは互換性を確保できず、物理的なアダプタや追加のハードウェアが必要となるケースも多いです。また、規格間で充電速度や性能に差があるため、ローミングだけでは最大充電速度が低下するなど、ユーザーが満足できる充電体験を提供することが難しい場合があります。

      しかし、総じてローミングの存在はEV普及の大きな推進力となっており、異なる充電ネットワーク間での利便性を高めてユーザーの充電体験を向上させるうえで重要な役割を果たしています。今後もこの技術が進化し、より多くの地域でローミングが利用可能になることで、EVの利用がますます便利になることが期待されます。

      ブロックチェーン

      出典:shutterstock

      ブロックチェーンは分散型のデータベース技術で、取引データや情報をブロック単位で記録し、これを連鎖的に接続することで改ざんが極めて困難になる仕組みです。データは複数のコンピュータ(ノード)に分散して保存され、全てのノードが同じデータを持つため、信頼性が高く、データの整合性を確保することができます。

      前のブロックでも見たように、EVの充電履歴管理には、正確性とセキュリティ性が求められます。従来のデータ管理システムでは、中央集権的なデータベースに依存していたため、データの改ざんや不正アクセスのリスクが存在しました。しかし、ブロックチェーンを利用すれば、データが複数のノードに分散され、全てのデータが同じ内容で保持されるため、改ざんや不正が非常に難しくなります。これにより、充電履歴やバッテリーデータの信頼性が大幅に向上します。

      また、データを分散的に管理できるため、すべてのプレイヤーが平等にデータにアクセスすることができます。自動車メーカーだけではなく修理業者や充電サービスのプロバイダー、ユーザー自身が充電履歴を簡単に追跡でき、こうしたデータをサービスへ活用することが非常に簡単になります。

      実際に、ブロックチェーン技術を活用したプロジェクトも進行しています。たとえば、MOBIというモビリティ業界における標準規格策定を行うグローバルコンソーシアムでは、EVの充電履歴やバッテリーのライフサイクル管理を目的としたバッテリーパスポート(バッテリーのライフサイクル全体に関する詳細な情報を記録し、透明性とトレーサビリティを確保するためのデジタル証明書)の開発を進めています。バッテリーの製造から廃棄までの全ての履歴をブロックチェーンに記録することで、データの信頼性や安全性を担保しながら、リサイクルや再利用へ活用することが可能です。

      このように、ブロックチェーン技術は、EVの充電履歴管理やデータ管理において、透明性、信頼性、分散管理といった面で大きなメリットをもたらしています。今後、技術の進展とともに、ブロックチェーンを活用したEVインフラの整備が進み、EVの普及とともに持続可能な未来を実現するための重要なツールとなるでしょう。

      まとめ

      この記事を通じて、EVの充電方式や充電規格についての基本的な理解を深めていただけたでしょうか?現在、EV充電には様々な課題がありますが、バッテリースワップやローミング、ブロックチェーンなどの技術を活用することで解決が進んでいます。充電インフラの整備が進み、EVの普及が一層進展することが期待される一方で、EVを取り巻く環境は刻一刻と変化を続けているため、今後も継続的に最新の情報をキャッチアップすることが重要です。

      トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

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      バッテリーパスポートとは?バッテリーの資源循環を実現させる欧州発の新ルールについて解説!

      近年、私たちの生活には多くの変化が訪れています。環境への意識が高まり、持続可能な未来を目指す動きが加速する中で、エネルギーの供給方法にも大きな転換が求められています。その中心にあるのが、リチウムイオン電池をはじめとするバッテリーです。この文章を読んでいるあなたも、まさに今、リチウムイオン電池を使用していることでしょう。

      これらの電池は、電気を効率的に貯めておくための技術で、現代のテクノロジーや産業の基盤を支えています。しかし、リチウムイオン電池が普及する一方で、その製造や廃棄に伴う環境負荷や資源問題、資源の採掘における児童労働などの倫理的な問題も無視できなくなってきています。

      このような背景から、バッテリーのライフサイクル全体を管理し、持続可能な利用を促進するための新たな枠組みが必要とされています。そのうちの一つがEUを中心に法制化が進む「バッテリーパスポート」です。本記事では、バッテリー産業の未来を左右する重要トピック「バッテリーパスポート」について解説します!

      バッテリーパスポートとは?

        出典:shutterstock

        バッテリーパスポート=バッテリーのライフサイクル情報を記録した証明書

        バッテリーパスポートとは、バッテリーのライフサイクル全体に関する詳細な情報を記録し、透明性とトレーサビリティを確保するためのデジタル証明書です。この証明書があれば、バッテリーの製造から使用、メンテナンスやリサイクルに至るまでの様々なデータを一元的に管理でき、サプライチェーン全体での情報共有が可能になります。

        バッテリーの持続可能な管理と資源循環を促進するためにすでにEU(欧州連合)では導入が開始されており、2027年からはEU域内で流通するすべてのポータブルバッテリー、LMT用バッテリー、産業用バッテリー(2kWhを超えるもの)、EV用バッテリー、SLIバッテリーを対象に義務化が予定されています。これに伴い、EU域内の企業はもちろん、各国の企業がバッテリー製品のデータ取得・管理に追われる事態となっています。

        バッテリーパスポートは「DPP(デジタルプロダクトパスポート)」の一種

        欧州では現在、サーキュラーエコノミーの実現を至上命題として、各製品のライフサイクル全体のトレーサビリティを確保する「デジタルプロダクトパスポート(Digital Product Passport、通称:DPP)」の導入が推進されています。この取り組みでは、製造元から原材料、リサイクル性から解体方法に至るまでの詳細な情報を提供することで、製品のライフサイクルを正確にトラッキングすることを目的としています。記録可能なものであれば、バーコード、QRコードなど多くの媒体が使用可能となっています。

        そんなDPPにおいて先鞭を付けたのがバッテリー分野であり、DPPを義務化した「新エコデザイン規則案(ESPR)」に呼応する形で施工された「欧州電池規則(EU Battery Regulation)」によって正式にバッテリーパスポートが拘束力を持ちました。

        DPPの対象は今後、バッテリー以外の製品にも順次拡大していく見込みで、将来的には食品・飼料・医薬品を除くほとんどすべての製品のサプライチェーンに関するデータを収集し、ライフサイクル全体での共有が期待されています。したがって、バッテリーパスポートには修理や二次利用といった資源の有効活用を目指す以外にも、「DPPの試験導入」といった一面もあるのではないでしょうか。

        DPPについては以下の記事で詳しく説明しています。

        欧州電池規則(EU Battery Regulation)とは?

        ここでは簡単に欧州電気規則についても説明します。

        欧州電池規則は、EUにおける電池の生産、使用、廃棄に関する環境基準を包括的に定めた新たな法律です。この規則は、電池の生産から廃棄に至るまでの全過程において、環境負荷を最小限に抑えることを目的としており、上述のバッテリパスポートの導入以外にも、リサイクル可能な材料の使用や使用済みバッテリーの効果的な回収・リサイクル、カーボンフットプリントの申告や責任ある調達を企業に義務付けています。

        実は、欧州ではこれまでもバッテリーに関する法規制は存在しました。それが、2006年に発効した欧州電池指令です。電池指令でも、加盟国に対し国内法を整備するなどの要件が課されていました。しかし、EUの法体系において「指令(Directive)」は、EU加盟国に対して特定の目標を達成するための枠組みを提供し、各国が国内法を通じて実施することを求めるに過ぎません。そのため、義務が課されるのはあくまで加盟国に対してであり、企業ごとの達成手段および方法については、加盟国の裁量に委ねられています。

        これに対して、「規則(Regulation)」はEU全域で直接適用される法令であり、発効日に直接拘束力を持ちます。加盟国の国内法に関係なく、直接加盟国と企業等に効力を有するため、各国が個別に立法措置を取る必要はありません。

        このような背景があり、これまで一貫性が欠けていた法規制の効果を最大化するために、より厳格かつ統一的な規則への格上げが行われました。これに伴って、欧州電池指令は2025年08月に廃止される予定です。

        欧州電池規則はすべてのバッテリーに影響力を持ちますが、とりわけ車載⽤電池に関してはその需要が飛躍的に増加しており、さらなる市場拡大が見込まれるEVの製造にあたって、自動車業界等を中心に適⽤開始に向けた検討が急ピッチで進められています。

        バッテリーパスポートに必要な項目とは?

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        バッテリーパスポートには「〇〇」が必要

        バッテリーパスポートの内容は、欧州電池規則第9章および附属書XIIIにて明文化されています。具体的には以下の項目が義務付けられています。

        • 製造情報:バッテリーの製造元、製造日、製造場所、各部品の部品番号およびスペア部品の入手先などに関する情報
        • 技術仕様:バッテリーの種類、容量、エネルギー密度、電圧、化学組成、抵抗などの基本的な製品情報
        • 性能データ:バッテリーがどのような条件下で使用されたか(温度、充放電回数、電流値など)に関する履歴と、それらをもとに算出されるバッテリーの充放電サイクル数、劣化率、SOH(State of Health)などのバッテリー寿命や消耗に関する情報
        • 環境情報:バッテリーの製造・使用に伴うCO2排出量や、使用されている材料の環境アセスメント、責任ある調達に関する情報。
        • リサイクル情報:バッテリーのリサイクル可能な材料に関する情報や、分解図や解体手順などの解体情報
        • 安全情報:有害物質や推奨される安全対策などのユーザーやリサイクル業者などの安全に関わる情報

        これらのバッテリーに関するすべてのデータがデジタル形式で保存されるため、製造者だけではなくすべての関係者が必要な情報に迅速にアクセスできるようになります。

        バッテリーの「静的データ」「動的データ」とは?

        バッテリーパスポートに含まれるデータをさらに深く理解するためには、データの種類を学ぶ必要があります。今回の規則で記録が義務化されたデータは大きく「静的データ」と「動的データ」に分類されます。

        まず、静的データとはバッテリーの基本的な仕様や製造情報など、変動しない情報のことをいいます。たとえば、製造元、製造日、容量などの情報は不変の情報です。これらのデータは、バッテリーのトレーサビリティを確保し、製造・リサイクルプロセスにおける品質管理を支援します。この辺りのデータはバッテリーパスポートが登場する以前から取得され、企業のHP上や製品マニュアル等で確認できるものも多くあります。

        これに対して動的データは、バッテリーの使用中に変動するリアルタイムの(もしくは継時的に更新される)情報を指します。たとえば、劣化率などのデータは、同じ種類のバッテリーでも使用頻度や使用環境によって同じ使用回数でも異なります。しかし、これらのデータは現在、きめ細やかに取得されているというケースは多くはありません。したがって、これらのデータをリアルタイムで監視することで、使用方法やメンテナンスを最適化したり、リサイクルの可能性を大きく広げることにつながるでしょう。

        循環経済の実現をするためには、「静的」「動的」の双方のデータをうまく活用することが非常に重要です。

        重要項目「SOH」とは?

        動的データの概念を説明したところで、動的データの最重要項目ともいえる「SOH(State of Health)」についても簡単に見ていきましょう。

        SOHとは、バッテリーの健康状態を示す指標で、バッテリーの性能や寿命を評価するために使用されます。バッテリーの容量、内部抵抗、サイクル数などのパラメータから総合的に計算され、初期の満充電容量(Ah)を100%としてカウントします。つまり、SOHが50%というバッテリーは、完全に充電を行ったとしても初期と比べるとそもそも半分の容量しか持てない状態になっているということです。

        SOHは一般の消費者からするとあまり馴染みのない言葉のように感じますが、実は身近な端末でも確認することができます。たとえば、iPhoneをお使いの方は、「設定」アプリの中から「バッテリー」を選択して「バッテリーの状態と充電(一部機種では「バッテリーの状態」)」という項目を開くことで、iPhoneの最大容量を確認することができます。SOHという言葉こそ使われていないものの、これはSOHと非常に近しい概念です。

        このようなバッテリーの内部状態を計測する方法としては、バッテリーの内部抵抗の変化を測定し、劣化の進行を評価する「内部抵抗測定」とバッテリーの充放電サイクル数をカウントし、寿命の推定を行う「サイクル数カウント」が一般的です。

        今後、ほとんどすべての製品が電化されていくこと、そしてバッテリーの材料となるいくつかの鉱物が限られた資源であることを考えると、SOHの情報はもはや現代社会において必要不可欠かつ貴重な価値を持つ情報だといえます。

        バッテリーパスポートはなぜ必要?

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        バッテリーパスポートが必要とされる理由は多岐にわたります。ここからはバッテリーパスポートが必要とされている理由について解説します。

        資源の有効活用と経済安全保障のため

        バッテリーパスポートを活用することで、バッテリーの全ライフサイクルにわたるデータを収集し、資源を有効的に活用することができます。

        使い古したバッテリーは一見するとなんの価値もないように見えますが、バッテリーの材料となるコバルトやリチウムといった資源が含まれており、これらレアメタルはバッテリーの電極材料として重要な役割を果たす一方で摩耗することがありません。限りある資源といっても石油などの枯渇とは意味合いが異なるのです。

        バッテリーパスポートがあれば、このバッテリーにどれだけのレアメタルが含まれているのか、どのようにリサイクルすれば最も効率的に資源を回収できるのかをすぐに知ることができます。製造から使用、リサイクルに至るまで常に一貫したデータ管理が行われ、資源の有効活用が徹底されるのです。限りある資源を無駄にせず、次世代に引き継ぐための道しるべとして、バッテリーパスポートの重要性は年々増加しています。

        特にこれらレアメタルは中国への依存度が高く、国際的なサプライチェーンの極めて大きなリスク要因となっています。経済安全保障の観点からも、資源の有効活用は喫緊の課題となっています。

        環境負荷の軽減のため

        バッテリーパスポートを導入することで、バッテリーの全ライフサイクルを通じた環境負荷の軽減が期待できます。バッテリーは、その製造から廃棄に至るまで、地球環境に対して多大な影響を与えます。たとえば、リチウムやコバルトなどのレアメタルを採掘する際には膨大なエネルギーが消費されるため、環境への影響が甚大となっています。土地の荒廃や水質汚染といった問題が引き起こされ、生態系に深刻な影響を与えることもあります。

        しかし、バッテリーパスポートを活用すれば、使い終わったバッテリーからこれらの貴重な資源を効率的に回収し、再利用することが可能となります。新たな資源を大量に採掘する必要もなくなり、環境に与える負荷を大幅に減らすことができるでしょう。

        また、バッテリーパスポートによって、バッテリーの製造時に使用された素材やその環境負荷についてのデータを詳細に記録することができます。たとえば、バッテリーのライフサイクル全体にわたるCO2排出量を追跡・公開することで、消費者がより環境に優しい企業を選択することも考えられます。将来的には企業も、より環境に優しいバッテリーの開発へと軸足を変えていくことでしょう。

        このようにバッテリーパスポートは蓄電池業界全体がエコフレンドリーな方向へシフトし、地球環境への配慮を拡大させていくという意味でも重要な存在です。

        透明性とトレーサビリティの確保のため

        バッテリーパスポートは、バッテリーの製造から廃棄までの情報を一元的に管理し、透明性とトレーサビリティを確保します。これにより、バッテリーのサプライチェーン全体の透明性が向上し、不正行為を防ぐことができます。

        バッテリー産業において環境破壊と肩を並べて問題視されているのが児童労働の問題です。バッテリー製造に必要なコバルトの多くは中央アフリカのコンゴ民主共和国で生産されていますが、同国では2002年の第二次コンゴ内戦和平合意後も内紛状態が続いており、現在も国土に眠る豊富な天然資源を巡って武装組織が多数乱立している状態です。

        加えて、コンゴは購買力平価GNI(国民総所得)で190カ国中、180位(2022年、世銀)と、経済的にも非常に貧しい国です。こうした国では法規制が機能しておらず、まだ10歳に満たない子どもたちが鉱山をはじめとした過酷な環境で長時間にわたって低賃金の労働を強いられています。

        こうした問題は、子どもたちの教育機会の損失という観点でも劣悪な労働環境だといえます。児童労働は、SDGsの目標8のターゲットとしても記載されており、2025年までにすべての形態の児童労働を撤廃すると明確に目標が立てられています。

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        2024年5月にはコバルト採掘における劣悪な環境での児童労働を描いたドキュメンタリー本「コバルト・レッド(Cobalt Red)」が、ピューリッツァー賞(一般ノンフィクション部門​​)の最終候補に選出されるなど、バッテリー産業が抱える闇には世界的な関心も高まりつつあるでしょう。

        その一方で、バッテリーのトレーサビリティが担保されなければ、子どもたちが働かされて生産された安価なバッテリーと、適正な賃金と安全な労働環境で生産された高価なバッテリーの生産過程を普通の消費者が見分けることはできません。こうした条件下では、安価なバッテリーばかりが売れてしまうため、「搾取」をしたほうが得をするような経済構造となってしまいます。

        ​​バッテリーパスポートは、バッテリーに使用される素材の原産地や製造プロセスの詳細な記録を義務付けることで、児童労働や強制労働といった不正な業者をマーケットから排除し、望ましい形での経済発展を推進します。複雑なサプライチェーンに埋もれ、実態の把握や解決が困難であるとされてきたコバルト採掘における児童労働撲滅に向けた強力なソリューションとしての期待を一身に背負っているのです。

        バッテリーパスポートに関する3つの課題

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        バッテリーパスポートには前述のような多大なメリットがある一方で、義務化がされる以前に対応を始めていた企業はごく少数でした。これは一体なぜなのでしょうか。この謎を理解するために、ここからはバッテリーパスポートの導入に関するいくつかの課題を解説します。

        導入コストの負担

        バッテリーパスポートの最大の課題はコストの問題です。バッテリーパスポートには、製品のライフサイクル全体の詳細な情報を記録することが義務付けられているため、その導入にあたってはデータ収集や管理システムの構築、認証プロセス、場合によってはバッテリーそのものの仕様を変更するなど、多額の初期投資が必要です。

        また、バッテリーパスポートに記録されるデータは、各経済事業者にデータの保管が命じられており、サーバー費用などのコストは半永久的に発生し続けてしまいます。このコストは製品単体で見た際には大したものではありませんが、全社的な取り組みとして行うとなるとかなりの金額に達することが想像に難くありません。

        したがって、バッテリーパスポートの導入によって電池メーカーの法令順守コストや事業リスクが大きく高まってしまうことは避けては通れないでしょう。

        こうした課題に対し、助成金によるコスト補填など、国家レベルでの支援体制を整備している地域もあります。実際にドイツでは、バッテリーパスポートの開発に総額820万ユーロを助成して、自国内企業を支援した事例があります。

        ドイツ政府、蓄電池の全ライフサイクル情報を記録する「パスポート」開発を支援(EU、ドイツ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース

        情報セキュリティの確保

        電池メーカーのもう一つの悩みの種となっているのが情報セキュリティの確保です。

        現在、様々なDXによって我々の生活は便利になり、環境破壊や人権侵害といった社会問題を解決する糸口にさえなりつつあります。しかしその一方で、サイバー犯罪の被害も大きく拡大しています。見方を変えれば、DXがシステムの脆弱性を増大させているという捉え方もできます。Cybersecurity Ventures社が発表しているレポートによると、2024年にサイバー犯罪による被害が全世界で約9兆5,000億ドルに達すると予想されています。

        バッテリーパスポートもその例外ではありません。欧州電池規則が取得を義務付けているデータには、ユーザーの製品使用や電池内部の組成比、解体手順など多くの機密情報が含まれるため、不正アクセスやデータ改ざんを防ぐための高度なセキュリティ対策が求められます。したがって、事業者は高いコストを掛けてバッテリーパスポートを導入するだけではなく、安全に運用するためにさらなる負担を強いられることになるでしょう。

        一方で近年、こうした情報セキュリティの観点から、ブロックチェーン技術にスポットライトが当てられるシーンも増えつつあります。ブロックチェーンは耐改ざん性に優れたデータベースであり、中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。こうした技術を活用することで、導入の障壁となるセキュリティリスクを低減させることが可能です。詳しくは以下の記事で解説しています。

        国際的な標準化

        実際にバッテリーパスポートが普及してからも様々な運用課題が表面化する可能性があります。そのうちの一つが「技術的な標準化が十分に進んでいない」という問題です。

        バッテリーパスポートに関する規制が整備されても、技術的な規格やプロトコルが統一されていないため、各国や各企業で異なるシステムが使用され続ける可能性があります。この結果、異なるシステム間でデータの相互運用性が確保されないことが懸念されます。

        たとえば、異なるデータ形式やプロトコルを使用している場合、データの一貫性や整合性を保つことが困難となり、経済圏によって異なる規格のバッテリーパスポートが考案されて市場が混乱するおそれがあります。

        こうした問題を避けるためには、国際標準化機関(ISO)や国際電気標準会議(IEC)などの国際的な組織と協力し、統一された規格を策定することが求められます。また、企業間や業界団体間での協力も重要であり、共通の目標に向けた取り組みが必要です。

        日本企業はバッテリーパスポートに対応しないとどうなる?

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        これまでの解説で、バッテリーパスポートはリサイクルや再利用を促進し、資源の有効利用と環境保護を目指すうえで非常に重要な新規制だということは理解いただけたかと思います。しかし、EUおよび欧州委員会が熱心に推進を図るこのルールは、日本国内に直接的に効力を持つものではありません。そのような背景もあり、国内での知名度はあまり高くないようにも感じます。

        では、日本企業がこのバッテリーパスポートに対応する必要はないのでしょうか。

        日本企業がバッテリーパスポートを未導入とした場合、まずグローバル市場での競争力が低下することは避けられません。バッテリーパスポートを含めた欧州電池規則は、バッテリーをEU域内で流通するすべての事業者に適用される規則です。したがって、このスタンダードにに対応できない企業は、EU市場への製品の投下が制限され、ヨーロッパという非常に巨大なマーケットを失うことになります。

        また、サプライチェーンの断絶という問題も無視できません。バッテリーはその性格上、他の部品と組み合わさって最終製品となるケースが多いです。したがって、規則に対応していない企業は、EU規制に準拠した企業から取引を拒否される可能性があります。これはグローバルサプライチェーンにおいても同様で、非対応企業との取引を避ける動きは今後、全世界的に強まっていくでしょう。

        さらに、環境イメージの悪化という影響も見逃せません。環境に配慮した企業活動は、今や国際社会での信頼獲得に欠かせない要素となっています。加えて上述の理由により、多くの企業はバッテリーパスポートへの対応に取り掛かることでしょう。そのような環境でバッテリーパスポートへの対応を怠ってしまうと、「環境問題に無関心」「営利主義」といったイメージを持たれる可能性があります。このようなイメージは、消費者のみならず投資家からの投資判断にも大きく影響するでしょう。

        これらの理由から、日本企業がバッテリーパスポートに対応しなければ、多くの問題を引き起こし得る重大なリスクを抱えることになります。不要なリスクを回避するためにも、早急に対策を講じ、持続可能なバッテリー生産と循環を目指す必要があるといえます。

        バッテリーパスポートの導入事例

        テスラ

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        アメリカの自動車メーカーであるテスラは、ドイツの自動車メーカーであるアウディと共同でバッテリーパスポートを活用した使用済みバッテリーに関するリサイクルプログラムを実施しています。

        2023年初頭にダボスで開催された世界経済フォーラムで、グローバル・バッテリー・アライアンス(GBA)によって発表されたこの実証実験では、バッテリーパスポートを通じてカーボンフットプリントの一部報告、材料調達先、人権パフォーマンスなど、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する情報を提供しました。

        実証の結果、使用済みバッテリーのリサイクル率が向上し、廃棄物の削減が達成されました。また、バッテリーパスポートを通じて、バッテリーの性能や寿命を正確に把握し、新しいバッテリーの設計や製造に反映させることで、製品の品質向上にも寄与しています。

        一方でこの実証時点では、取得すべきデータも追跡可能なバッテリーの数もまだ不完全であり、電池パックに使用されているすべての材料のわずか1%に留まるなど、完全なトレーサビリティを担保するにはまだ長い道のりが待ち受けています。

        ボルボ・カーズ

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        スウェーデンの高級車メーカー、ボルボ・カーズは、バッテリーパスポートの本格導入においてパイオニア的な役割を果たしています。同社では、電動SUVの旗艦モデルである「EX90」に、材料の原産地、部品、リサイクル素材、カーボンフットプリントなどを詳細に記録するバッテリーパスポートを導入することを発表しています。

        世界初のEVにおけるバッテリーパスポートの導入に際しては、英国の新興企業であるCirculor社と提携し、5年以上にわたり開発を進めてきました。ボルボのオーナーは車両の運転席ドアの内側に設置されたQRコードを使用することでパスポートにアクセスでき、バッテリーの最新状態を確認することができます。1台あたりのコストは約10ドルに抑えられており、EUで2027年から義務付けられているEVへのバッテリーパスポート規制に先んじて対応を進めた形です。

        同社は、EV領域において今後も高い市場競争力を維持し、環境負荷の低減に貢献することを目指しており、今後、バッテリーパスポートを全ての電気自動車に段階的に導入していく方針を明らかにしています。

        バッテリーパスポートの今後の展望

        バッテリーパスポートは、EUで義務化されたことで一気に注目を集めましたが、今後この動きはEUに留まらず、世界各地にも拡大していくとみられます。ここからは各地域における対応動向と今後の展望について解説します。

        アメリカの動向

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        アメリカでは、バッテリーのリサイクルと持続可能な管理に関する関心が高まっています。特に注目すべきは、政府・議会ともに中国に対してバッテリーサプライチェーンでデリスキングを図る動きが続いており、バッテリーパスポートは中国企業の締め出しおよびサプライチェーンの可視化という観点で大規模に採用される可能性があるという点です。

        アメリカにおいては2022年に施行された「インフレ抑制法」(Inflation Reduction Act)のもとEVの普及推進をバイデン政権下の国家プロジェクトとして行ってきました。この法律では、新規EV購入に係る税額控除ばかりがフォーカスされがちですが、バッテリー部品の原産地に関する厳しい地理的制限が含まれています

        バッテリー部品のうち、リチウムやコバルト、ニッケルといった重要鉱物については一定の割合以上、アメリカまたはFTA(自由貿易協定)締結国で製造・リサイクルされていることを要求しており、加えて中国などの「懸念外国企業(Foreign Entity of Concern)」とみなされる国の企業が製造または加工したバッテリー部品に関しては、税額控除の対象から除外されることになっています。

        こうした一連の政策の背景には、主要なサプライチェーンを米国の経済圏に戻し、敵対国への依存を減らすという目論見があるといわれています。バッテリーパスポートは、製造元や材料の供給源に関する透明性の確保が求められるアメリカのバッテリー産業において、これらの情報を一元的に管理し、バッテリーのサプライチェーン全体のトレーサビリティを向上させるための重要なツールとして活用されることが期待されています。

        近い将来、アメリカにおいてもEU同様、バッテリーのライフサイクルを可視化する具体的な手段としてバッテリーパスポートが活用され、義務化されていくことでしょう。

        中国の動向

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        アメリカやEUからの締め出しを食らう形となっている中国においてもバッテリーパスポートは喫緊の課題として注目されています。そもそも各経済圏から敵視をされているのも、同国が世界最大のバッテリー生産国であり、リチウムイオン電池市場において絶対的な存在だからです。価格競争において他を圧倒する中国の存在が今回の新規制に影響したことは疑いようがないでしょう。

        しかし、中国側からすると、中国製バッテリーの市場流通を阻止する建前として使用している環境問題と人権問題に対する懸念さえ払拭してしまえば何も問題が無いわけです。こうした背景から、中国では企業のみならず国家レベルでバッテリーのトレーサビリティ確保に取り組んでいます

        2022年に施行された「新エネルギー車産業発展計画(2021-2035年)」では、水素などの新エネルギー車の開発と並んで、バッテリーのリサイクルとトレーサビリティが重点課題として取り上げられています。バッテリーのライフサイクル全体を通じたデータ管理を実現することで、リサイクル効率の向上と環境負荷の低減が可能です。サプライチェーン全体の透明性を高めることで、違法な鉱物採掘や劣悪な労働条件に関する批判も回避できるでしょう。

        欧州電池規則の施行に伴って「北京資源強制回収環保産業技術創新戦略連盟(ATCRR)」「中国電池産業協会(CBIA)」「国家標準化管理委員会(SAC)」といった様々な機関が標準形成に向けて活動をしており、国際的な規範に準拠した倫理的な調達を実現できるバッテリーパスポートはこうしたエコシステムの中核を担う存在として強く期待されています。

        日本の動向

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        日本政府は「資源有効利用促進法」に基づき、使用済みバッテリーの回収とリサイクルを義務付けているものの、現時点で日本国内においてバッテリーパスポートに関する法規制は依然として整備されていません。そのため、上記2カ国と比べると対応に若干の遅れを見せていると言わざるを得ません。一方で、日本のバッテリー産業においては民間企業、とくに自動車業界が導入する形でトレーサビリティ向上に向けた取り組みが試みられています。

        ホンダや日産といった自動車大手はフォード・モーターやゼネラル・モーターズなどから成る企業連合「Mobility Open Blockchain Initiative(MOBI)」においてバッテリーパスポートの規格案を取りまとめています。本規格ではブロックチェーンを活用しており、バッテリーごとの識別番号をもとに正確なトラッキングを行うことで、製造から廃棄に至るまでの情報を透明性をもって管理し、消費者や企業がバッテリーの環境影響を評価しやすくすることが期待されています。

        日本の自動車産業のライバルともいえるドイツにおいてもやはり同様の動きがあり、フォルクスワーゲン(VW)社、BMW社といった独自動車大手が企業連合「Battery Pass」を組織しています。規格のイニシアチブ争いという点でも、日本企業は政府の動きを待たずして自主的に規格策定に関与し、企業間での連携強化に取り組んでいます。

        また、主要自動車メーカーや日本自動車部品工業会、電池サプライチェーン協議会などが設立した「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター(ABtC)」は2024年5月にサプライチェーン企業間でバッテリーに関するデータ連携を行えるサービス「トレーサビリティサービス」の提供を開始すると発表しています。

        同プラットフォームはカーボンフットプリント情報(欧州電池規則ではカーボンフットプリントの申告も義務付けられている)にターゲットを置いていますが、将来的にはデューデリジェンスなどでの活用等、ライフサイクルアセスメント全体への適用も視野にいれるなど、バッテリーパスポートとしての機能も果たすことが期待されます。

        このように日本国内においても、徐々にバッテリーに関するデータを企業間で連携するというバッテリーパスポートの下地が整いつつあります。各社EVへも本格的に参入をし始めており、今後は欧州の法規制対応に向けてこの動きもさらなる加速を見せることでしょう。

        まとめ

        本記事ではバッテリーパスポートについて解説しました。脱炭素化と電化の潮流のなかで、ちょうどその交点となるこのルールは、資源循環・サーキュラーエコノミーに関するルールメイキングが進むいま、業界・業種を問わず避けては通れない重要な経営課題となっています。民間の企業はこの流れを先取りし、積極的にバッテリーパスポートの導入を進めることで、世界水準に乗り遅れるリスクを低減させながら、持続可能な未来を築いていくことが必要です。

        また、それと並行してブロックチェーン業界へのアンテナを常に張っておくことも忘れてはなりません。記事内でも触れた通り、情報セキュリティや複数プレイヤーによる分散的な情報管理という側面から、分散型台帳技術であるブロックチェーンが世界のスタンダードとして認められつつあります。

        日本においては暗号資産やNFTといった金融に近い領域のブロックチェーン事例は数多く存在するものの、非金融領域や産業用途に向けたブロックチェーン活用はあまり進んでいないのが現状です。しかし、今後はこうした先進技術の技術実証やサービス化に向けた取り組みを行っていかなければ、時代に取り残されてしまうことは明白です。既存のビジネスモデル・マーケットで強い力を持っている日本企業だからこそ、将来に備えたリスクヘッジが求められます。

        トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

        ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

        【展示会】NexTech Week2024@東京ビッグサイトに出展いたしました!

        トレードログ株式会社では、2024年5月22〜24日に東京ビッグサイトにて行われました

        「NexTech Week2024【春展】」に出典いたしました。

        当日は多数のブース訪問がございましたが、

        皆様のご協力のおかげで、無事に展示会を終了することができました。

        本ページでは会場の様子や展示内容の一部をご紹介いたします。

        展示内容について

        メインストリート側では、大型モニターを用いてミニセミナーを開催いたしました。様々な事例を交えながら最新のブロックチェーン事情について解説したため、「何の話だろう?」と興味を持って立ち止まっていただけるお客様も多かったです。

        ブース内部では当社事例などを掲載したパネルを展示しており、各プロジェクトの担当者がお客様からの質問に回答しました。資料を片手に熱心に耳を傾けられる方もいらっしゃり、非常に有意義な3日間となりました。

        ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました!