バッテリーマネジメントシステム(BMS)とは?リチウムイオン電池の性能向上に欠かせない最新技術を紹介します!

バッテリーは携帯電話や家電などに留まらず、EVなど大型の製品に組み込まれるようになっています。一方で、こうした大容量のバッテリーには安全性や効率性の観点から、バッテリーマネジメントシステム(BMS)による最適化が欠かせなくなっています。バッテリーが私たちが便利な生活を送るうえで欠かせないものであることを踏まえると、絶えず監視をおこなってくれるバッテリーマネジメントシステムは現代社会ではまさに「心臓」ともいえる働きをしているといえるでしょう。

しかし、普段の生活では製品の「裏側」ともいえるバッテリー関連、とくにマネジメントシステムについて触れる機会はほとんどなく、この名称を聞いたことがあるという方のほうが少ないのではないでしょうか?とはいえ、今後ますます重要になってくるであろう本技術について全くの無関心でいるというわけにもいきませんよね。そこで今回は、バッテリーマネジメントシステムの基礎から最新の関連トピックについて解説します。

そもそもリチウムイオン電池とは?

リチウムイオン電池は、「リチウム」という金属を使用した二次電池(充電により繰り返し使える蓄電池)のことです。二次電池の中でも特にエネルギー密度が高く、同じ重量や体積でより多くのエネルギーを蓄えられることからスマートフォン、ノートパソコン、電動工具、そして電気自動車(EV)まで、さまざまなデバイスに使用されています。

リチウムイオン電池、と聞くと一つの電池のことを指すように感じますが、実際にはまず、「セル」と呼ばれる単電池を複数まとめて「モジュール」という集合体にします。そして、このモジュールに保護回路やバッテリーマネジメントシステムを接続し、ケースにパッキングされた状態で初めてリチウムイオン電池となります。

では、リチウムイオン電池の充放電の仕組みを簡単に見てみましょう。

出典:日経ビジネス「イチから分かるリチウムイオン電池」

リチウムイオン電池は、化学的なエネルギーを電気エネルギーに変換することで動作します。内部にはリチウムイオンが移動する電解液と、リチウムを含む遷移金属酸化物から成る正極と炭素材料である負極、そして正極・負極が互いに接触しないように物理的に仕切るセパレータがあります。

充電時には、リチウムイオンが正極から負極に移動し、エネルギーを蓄えます。そして、放電時には逆にリチウムイオンが負極から正極に移動し、その際に発生する電気をデバイスに供給します。このサイクルを繰り返すことで、何度も充電して使えるというのがリチウムイオン電池の特徴です。

しかし、リチウムイオン電池には高いエネルギー密度を持つがゆえのリスクも存在します。バッテリー内部での化学反応が適切に管理されない場合、過充電や過放電が発生し、電池内部の温度が急激に上昇することがあります。これは「熱暴走(サーマルランナウェイ)」と呼ばれる現象で、最悪の場合、発火や爆発といった重大な事故を引き起こす可能性があります。

近年では電気自動車やハイブリッド車などのモーターの駆動に使われる二次電池として、すでにリチウムイオン電池が採用されていますが、長年、自動車向けのバッテリーに鉛蓄電池が用いられてきたのはこのような安全性の側面も大きいです。

したがって、リチウムイオン電池の技術は非常に便利である反面、その潜在的なリスクを管理することが欠かせません。ここからは、そのリチウムイオン電池の安全性と効率性を保つためのキーテクノロジーである「バッテリーマネジメントシステム(BMS)」について詳しく見ていきましょう。

バッテリーマネジメントシステム(BMS)の役割

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バッテリーマネジメントシステム(BMS)は、バッテリの状態を監視・制御し、安全かつ長時間使用できるようにするシステムです。リチウムイオン電池をはじめとする再充電可能なバッテリーにおいて、その性能は使用を重ねるごと(充放電を繰り返すごと)に劣化してしまいます。この劣化スピードを最低限に留め、バッテリーのパフォーマンスを最大限に引き出すために用いられるのがこのシステムです。

BMSの詳細なアルゴリズムやアプローチはシステムによって異なりますが、BMSの役割は、単にバッテリーの寿命を延ばすだけにとどまりません。ここでは、BMSが果たす様々な役割について詳しく見ていきましょう。

限度を超えた充電・放電からバッテリーを守る

バッテリーの性能を最大限に引き出すためには、各セルの電圧範囲を適切に管理することが重要です。リチウムイオン電池は、電圧の変化に非常に繊細です。電圧が高すぎると過充電となり、電池の正極が許容量を上回るほどのリチウムイオンを放出してしまい、電池内の状態が不安定になってしまいます。逆に、電圧が低すぎると過放電となってしまい、電池の負極に用いられている銅箔が溶け出してしまいます

バッテリーの電圧管理を理解するために、バッテリーを大きな池に例えてみましょう。水位が限界まで高まっている池にさらに水が注がれれば、池が決壊してしまいます。これが過充電に相当し、バッテリーセルに余計な負荷がかかり、劣化や発火のリスクが高まっている状態です。

一方、池の水位がゼロに近い状態で水を使おうとしても、もはや水を取り出すことができず、池自体も乾燥して生物が住める環境ではなくなってしまいます。これが過放電の状態であり、バッテリーが機能不全に陥る原因になります。

BMSは、この池の水位を常に安定させるダムのような役割として機能します。過充電と過放電のどちらもバッテリーの劣化を促進させる原因となるため、BMSは各セルの電圧を監視し、電圧が高すぎたり低すぎたりしないよう、適切な範囲内で制御することで、バッテリーの安全性を確保するとともに、最大の性能を引き出します。

ここ数年のEV関連技術の進歩には目を見張るものがありますが、急速充電や高負荷運転時には、より厳格な電圧制御が求められます。BMSはこうした先端技術を安全に消費者に体感してもらううえでも重要な役割を果たしているといえるでしょう。

セルごとの性能バラツキを均一化する

リチウムイオン電池は、前述の通り複数のセルが組み合わされて構成されていますが、各セルの性能にバラツキが生じることは避けられません。これは製造のバラつきに由来する個体差や使用環境のストレス耐性に関する個体差があるためです。EVに搭載されるバッテリーには、バッテリーセルが100〜200個も使用されることがあり、各セルごとの性能のバラツキがバッテリー全体の性能に悪影響を及ぼす可能性もあります。

バケツリレーを想像してみてください。リレーで水を運ぶとき、全員が同じペースで水を渡し続けなければ、どこかで遅れが出てしまいます。同様にバッテリーセルも、全てのセルが同じ性能で動作しないと、バッテリー全体の効率が下がる可能性があります。BMSは、バケツリレーの指示役としてセル間の電圧や温度のバラツキを監視し、バランスをとることでこれを均一化します。

具体的には、バッテリーセルごとの電圧を測定し、最も高い電圧のセルと最も低い電圧のセルの差が一定の範囲内に収まるように調整を行います。この過程を「セルバランシング」と呼びます。セルバランシングには電圧の高いセルを強制放電させて電圧を均等化する「パッシブ方式」と電圧バランスが崩れたセル間で電流をやり取りしてセルの充電状態を均等化させる「アクティブ方式」の2つがあります。エネルギーの保存効率という点ではアクティブ方式が優れていますが、システムのコストと複雑さでは圧倒的にパッシブ方式に軍配が上がります。

こうしたバランシング機能は、バッテリーの使用中だけでなく、充電中や待機中にも行われることがあり、バッテリーの全体的な均一性を保つことで、効率的なエネルギー供給を実現します。バッテリーセルは、微妙な差異が積み重なることで性能が変わりやすく、長期間にわたって使用する中で、劣化の進行度も異なります。このような状況下で、各セルの状態を個別に監視して全体としてのバランスを保つ役割を果たすBMSは、大型化を続ける近年のバッテリー産業において欠かすことができない存在といえるでしょう。

バッテリーで重要なSOH・SOCとは?

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BMSを語るうえで「SOH(State Of Health)」と「SOC(State Of Charge)」という二つの重要な概念への理解が欠かせません。これらの指標は、バッテリーの現在の状態を把握し、その性能や寿命を最大限に引き出すために重要な役割を果たします。ここからはこの2つの指標について簡単に解説します。

SOH(State Of Health)

SOHとは、バッテリーの健康状態を示す指標で、バッテリーの性能や寿命を評価するために使用されます。バッテリーの容量、内部抵抗、サイクル数などのパラメータから総合的に計算され、初期の満充電容量(Ah)を100%としてカウントします。つまり、SOHが50%というバッテリーは、完全に充電を行ったとしても初期と比べるとそもそも半分の容量しか持てない状態になっているということです。

SOHは一般の消費者からするとあまり馴染みのない言葉のように感じますが、実は身近な端末でも確認することができます。たとえば、iPhoneをお使いの方は、「設定」アプリの中から「バッテリー」を選択して「バッテリーの状態と充電(一部機種では「バッテリーの状態」)」という項目を開くことで、iPhoneの最大容量を確認することができます。SOHという言葉こそ使われていないものの、これはSOHと非常に近しい概念です。

バッテリーは使用されるにつれて化学反応の進行により内部の材料が劣化し、容量が徐々に減少していきます。また、内部抵抗の増加もバッテリーの効率に影響を与えます。これらの変化が蓄積されることで、バッテリーのSOHが低下し、最終的には交換が必要となるタイミングが訪れます。BMSは、このSOHをリアルタイムで監視し、ユーザーに劣化の進行状況を知らせるとともに、バッテリーの保護機能を適切に動作させる役割を担っています。

今後、ほとんどすべての製品が電化されていくこと、そしてバッテリーの材料となるいくつかの鉱物が限られた資源であることを考えると、SOHの情報はもはや現代社会において必要不可欠かつ貴重な価値を持つ情報だといえます。

SOC(State Of Charge)

SOC(State Of Charge)は、バッテリーに現在どれだけの電力が残っているかを示す指標です。スマートフォンやPCでは、ツールバーや画面上に表示されていることが多いため、身近な存在かと思います。SOCもパーセンテージで表され、100%が満充電、0%が完全に放電された状態を意味します。ただし、電池を完全に放電させてしまうと構造的に壊れてしまうため、ユーザーに対するSOC表示は電池の正確なSOCであるとは限りません

SOCを正確に把握するためには、バッテリーの電圧や電流、温度など複数の要因を考慮する必要があります。リチウムイオン電池の場合、電圧と容量には相関関係があるため、電圧値から電池の充電状態を推測することができますが、充電時には電圧が高く、放電時には電圧が低くなる(過電圧)ことがあり、単純に電圧を測定するだけでは正確なSOCを推定することは難しいです。

また、SOC推定の際に考慮すべき要因として「メモリ効果」があります。メモリ効果とは、ニッカド電池やニッケル水素電池が前回の充放電サイクルを記憶(=メモリ)しているかのように、再度充放電を行っても初回に放電を中止した付近で少し電圧が低めに推移する現象のことです。リチウムイオン電池では発生しにくいとされていますが、正確なSOC測定を実現するうえでは注意が必要な情報です。

このような様々な要因が絡み合うため、普段私たちが当たり前のように確認している充電残量の測定は、実は技術的には少し難しいことをやっているのです。

バッテリーマネジメントシステム(BMS)普及の障壁

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BMSは、バッテリーの性能と安全性を大幅に向上させる技術ですが、その普及にはいくつかの障壁があります。ここでは、BMSが普及する上での主要な課題について説明します。

測定精度の向上

バッテリーの状態を正確に監視するためには、高い測定精度が不可欠です。内部状態を診断する際に、バッテリーの電圧や温度の測定におけるわずかな誤差が、バッテリーの寿命や安全性に大きな影響を与える可能性があるものの、現在の技術では、特に極端な温度環境や高負荷条件下での測定が難しい状況にあります。これには、バッテリーの特性や外部環境の影響が大きく関係しています。

リチウムイオン電池の電圧は、充電状態だけでなく、温度や電流、さらには経年劣化によっても変化します。このような多様な要因が絡み合うため、単純な数式でこれらの関係を表すことができず、正確な推定には複雑なモデルが必要となります。また、バッテリーの劣化も一様ではなく、使用によって内部抵抗の上昇や容量の低下が進むため、時間とともに推定の精度がさらに難しくなります。

また、外部環境の影響も測定精度を低下させる大きな要因です。たとえば、温度の変化はバッテリーの内部抵抗や開回路電圧に直接影響を与えます。温度が変わると、同じ充電状態でも異なる電圧が測定されることがあり、これを正確に補正するためには温度を精密に測定し、その影響を考慮したモデルを適用する必要があります。

さらに、センサーから得られるデータにも精度を低下させる要因があります。センサーにはノイズが含まれており、このノイズが測定結果に影響を与えることで、推定の精度を落とす原因となります。とくに温度センサーは、環境条件によってノイズが増減しやすく、特に高温環境下ではノイズの影響が顕著になります。

これらの複雑な要因によって、BMSの測定精度は急速には向上していません。技術の進展には時間とリソースが必要であり、その実現にはまだ多くの課題が残されていますが、BMSの精度が高まればバッテリーの性能や安全性が向上するため、新しいセンサー技術やデータ解析のアルゴリズムの研究・開発は日々進められています。

統一された規格が存在しない

バッテリーマネジメントシステム(BMS)の普及において、統一された規格が存在しないことも大きな障壁となっています。この問題は、異なるメーカー間でのバッテリーの互換性を低くしており、システムの設計や開発において多くの課題を生じさせています。

統一規格が存在しない理由はいたって単純で、各バッテリーメーカーが独自の技術を活用してバッテリーセルや制御回路、アルゴリズムを開発しているためです。これにはメーカーが自社製品の差別化を図り、競争優位性を確保しようという意図があります。そのため、業界全体での規格統一が難航しており、長い歴史の中で多様な規格が生まれ、互換性が確保されないまま進展してきたのです。また、国際舞台においても利権を巡ってバッテリーの規格の乱立が目立ちます。

異なるメーカーのバッテリーを組み合わせて使用することが困難になると、システムの設計や開発にかかるコストが増加したり、修理や交換が必要な場合にも煩雑さが増してしまいます。ユーザーにとっても不便さが生じ、市場の拡大も阻害される可能性もあるでしょう。

規格統一の進展は、バッテリーシステムの性能やコスト、信頼性に大きな影響を与え、業界全体の成長を促す鍵となります。将来的には、こうした取り組みが実を結び、より安全で効率的なバッテリーマネジメントシステムの普及が進むことが期待されます。

バッテリーマネジメントシステム(BMS)を進化させる技術も

日本国内においても、BMSの技術が進化しています。特に、BMSの機能を簡素化しつつ、より効率的にバッテリーを管理するための新たな技術が注目されています。これらの技術は、バッテリーの性能を向上させ、さらなる普及を後押しするものとして期待されています。

交流インピーダンス法

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交流インピーダンス法は、正極・負極・電解液のインピーダンス(交流信号を回路に印加したときの電気抵抗)を測定することで、バッテリー状態を推定する手法です。

バッテリーが劣化していくと、電極材料や電解質の変化により内部抵抗が増加することが一般的です。リチウムイオン電池の場合、充放電を繰り返すうちに、電極の表面に不純物が蓄積し、電荷の移動がスムーズでなくなります。この結果、電流が流れる際に電圧降下が大きくなり、電池全体のインピーダンスが増加するのです。

また、直流ではバッテリーの充電が完了すると反応が進まなくなる(インピーダンスが無限大になる)ため、それ以上の電流を流すことができませんが、交流では電流の向きが変わるため、バッテリーの周波数応答を測定・解析することで、リアルタイムかつ分解の必要なく、バッテリー状態を知ることができます。

国内ではヌヴォトン テクノロジージャパン株式会社が交流インピーダンスを用いた半導体による電池残存価値評価技術を開発しています。同社の開発中の次世代バッテリ監視ICでは、半導体チップに交流インピーダンス測定機能を集積し、電池パック状態においても複数セルを同時に診断することが可能です。

交流インピーダンス法は多数のリチウムイオン電池セルのインピーダンスを同時に測定できるうえ、測定したインピーダンス値から電池内部の温度変化を推定もできるため、短時間での正確な残存価値評価を可能にするテクノロジーとして注目を集めています。

矩形波インピーダンス法

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矩形波インピーダンス法も、バッテリーの状態を測定するための技術として知られています。矩形波インピーダンス法も大きく分類すると交流インピーダンス法の一種ですが、この方法では、バッテリーに矩形波信号と呼ばれるパルス状の信号を印加し、その応答を「フーリエ変換」という変換処理を行ったうえで信号を解析するというアプローチを取ります。

矩形波インピーダンス法を用いる最大のメリットはその効率性にあります。一つの矩形波信号を入力するだけで、複数の周波数のインピーダンスが得られるため、何度も何度も色々な周波数を掃引する必要がありません。そのため、他の測定手法と比較すると圧倒的な測定スピードを誇ります。

東陽テクニカの検証によると、インピーダンスの数だけ測定が必要である一般的な交流インピーダンス法では51回の測定が必要だった推定作業が、矩形波インピーダンス法では単一周波数の入力信号のみで交流インピーダンス法と同等の精度で測定が実現する結果となっています。

国内では、EC SENSING株式会社が矩形波インピーダンス法の優先実施権を保有しており、この技術をもとに先進的なBMSを構築中です。

矩形波インピーダンス法では、診断する蓄電池と同一品種の経時劣化データが数多く必要になるという課題もありますが、測定に時間を要する大規模蓄電池の登場やスペースや設置環境の制約によって従来のインピーダンス測定ができない・適さないシーンにおいて広く応用されることが期待されています。

AI BMS

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BMS業界では、AIを活用する動きも見られつつあります。測定精度が向上することによってバッテリーの状態を正確に把握したとしても、実際にそれらの情報を活用し、デバイスを適切に制御しなければ意味はありません。そこで、BMSにAIを組み込むことで、リアルタイムの測定情報を駆使しながらパフォーマンスを最大限に引き出す動きがトレンドとなっています。

実際に、Eatron Technologies社が発表しているバッテリーにはAIが搭載されています。Syntiant社と共同で開発されたこのバッテリーでは、AIがSoC(システム ・オン・チップ)で搭載されているため、複雑なクラウド・インフラストラクチャー不要でデバイス上で直接リアルタイムの分析と挙動管理を実行できます。また、バッテリー容量を10%向上させ、バッテリー寿命を最大25%延ばすことに成功しており、コスト効果の高いAIソリューションとして注目を浴びています。

また、AIによる新たな蓄電池診断アルゴリズムが開発されれば、これまでに紹介した手法の課題も解決されるかもしれません。矩形波インピーダンス法では親データがなければ診断ができないというデメリットを挙げましたが、AIを活用すれば新型のバッテリーが登場した場合でも、すぐに個別のバッテリー評価基準を導くことが可能となります。事前に劣化に関する標準データを取得する必要がなくなれば、矩形波インピーダンス法による蓄電池診断サービスの対応領域がとても幅広くなることは間違いないでしょう。

ワイヤレスBMS(wBMS)

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測定ではなく、バッテリーそのものの製造自体を簡素化しようという取り組みも確認できます。それがワイヤレス・バッテリーマネジメントシステム(wBMS)です。

EVの製造においてコストや所要時間の割合で多くを占めるのが実はバッテリーの搭載です。セル自体のコストも安くはないですが、それを車両に搭載して動作するようにするためには、衝突安全性を担保するフレーム、BMS、バッテリー内のセル間を結ぶケーブルとコネクタなど多くの部品を使用しなければならず、製造においても配線や溶接など多くのプロセスを要します。

wBMSは、BMSにおける各セル監視ICとホストのマイコン間とをワイヤレス・ネットワークで接続する手法です。これにより、ケーブルやコネクタなどの直接材コストを省くとともに、ケーブルの敷設やコネクタの嵌合に要する生産コストの削減を図ることができます。バッテリーの形状によっては、総重量を減らすこともできるはずです。これは製造プロセスにおいても革新的な働きとなります。これまで複雑なバッテリーの配線には人の手が必要でしたが、ワイヤレス化が進めば人間が一切介入することなくバッテリーが生産できるようになるからです。

実際に世界的自動車メーカーのGMでは、2021年末以降に量産を開始する予定の新世代のEVへワイヤレスBMS搭載バッテリーの「Ultium」を採用する決定を下しています。余計なケーブルがないため非常に薄型の造りとなっており、同バッテリーはさまざまな車種に適応できるといいます。また、スポーツカーブランドのLotus Carsにおいても、今後5年以内に出荷が予定されているEVの新たな量産車種に、アナログ・デバイセズのwBMSを採用するという決断を下しました。これにより、バッテリーパックの配線を最大90%、体積を最大15%削減できる見込みです。

セル間の通信やセンサー等は引き続き有線で接続されるものの、バッテリーの製造コストやプロセス・形状に大きな変化を与えるwBMSがEV市場とどのように付き合っていくのか、今後の展開から目が離せません。

ブロックチェーン

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最後に、ブロックチェーン技術もBMS分野で注目を集めていることに触れておきます。ブロックチェーンはデータの改ざんが難しく、高い信頼性を持つデータベースの一種です。現に暗号資産やセキュリティ・トークンなど改ざんが許されない分野で非常に重宝されています。データベースとバッテリーはあまり結びつかないようなイメージですが、実は中古車流通のシーンでこれらの相性の良さが発揮されます。

ご存じの通り、自動車業界ではすでにガソリン車からEV/PHEVへの移行が始まっています。もちろん、何十年後かには中古車市場にそれらの一部は流通することになるでしょう。しかし、ここで問題となるのが中古EVの残存価値評価です。ガソリン車の価値は「車種」「年式」「走行距離」「ダメージ」で決まることが多いですが、EVではこれらに加えて「バッテリー状態」という新たな指標が存在します。

測定精度の向上によって今後、価値が安定していく可能性もありますが、現状では非破壊検査によるバッテリー残存価値診断による査定ではEVのリセールバリューは低く見積もらざるを得ないのが現状です。つまり、消費者も買取業者も、急速充電ばかりを繰り返して劣化しているバッテリーを買いたくないのです。そして、こうした「使い方」まで探る診断というのは簡易的には難しく、中古EVの市場価値はなかなか高い水準には達しません

2024年6月に発表されたiSeeCarsのレポートでも、「過去1年間で中古ガソリン車の平均価格は前年比3~7%下落し、中古EV価格は30~39%下落」していると指摘されており、EVは中古ガソリン車の平均価格よりも速いペースで価値が下がり続けている現状です。

このような状況で、ブロックチェーン技術が活躍します。BMSは、バッテリーユニット内の温度、湿度、圧力、電圧、電流等のデータにアクセスできるため、ここで取得した情報をブロックチェーンに書き出します。チェーン上に記録されたデータは分散的に管理され、買取業者や購入検討者も見られるため、バッテリーの「使い方」まで確認できるという仕組みです。

EVの普及という面では、欧州のみならず隣国の中国にも大きな遅れを取っているといわざるを得ない日本ですが、中古車価格という面では「日本製EV」という世界と戦うだけの武器を携えています。この武器をブロックチェーンと組み合わせることで、右ハンドル車の中古車価値を担保し、世界市場で再び日本の自動車業界が存在感を強めるきっかけにもなるでしょう。

また、バッテリーとブロックチェーンの組み合わせはBMSに限ったことではなく、欧州で法制化されたバッテリーパスポートに関連しては、MOBIをはじめとするモビリティ業界のコンソーシアムまでもが、ブロックチェーンをスタンダードに研究を進めています。こうした背景からも、ブロックチェーンでBMSのデータを扱うというのは、近い将来に国内でも事業化されるかもしれません。

ブロックチェーンをBMSに応用してブラックボックス化されたバッテリーの性能評価を透明性の高い形で管理し、EV中古車市場が活性化する日がやってくるのか。引き続きキャッチアップが欠かせない領域です。

まとめ

本記事ではバッテリーマネジメントシステム(BMS)について解説しました。記事内でも述べた通り、BMSの役割は多岐にわたり、電圧の管理や過充電・過放電の防止、セルごとの性能バラツキの均一化など、バッテリーの最適な性能を引き出すために欠かせないものです。

しかし、測定精度の向上が求められる点や統一規格の整備などの障壁は消して簡単に乗り越えられる壁ではありません。それでも、日本国内外での技術革新は続いており、AIやブロックチェーンなどBMSをさらに進化させる新たなテクノロジーが次々と登場しています。

これらの技術が今後どのように発展し、私たちの生活にどのような影響を与えるのか、引き続き注目していく必要があります。BMSは、今後ますます重要性を増す技術であり、その進化と普及が、より安全で効率的なエネルギー利用を実現する鍵となるでしょう。