近年、「サーキュラーエコノミー」や「サステナビリティ」といった、「大量生産・大量消費・大量廃棄からの脱却」という視点が重要視されており、環境に対する取り組みが個人・法人を問わず全世界的に活発になっています。
なかでもとくに、企業においては製品に耐久性やリサイクルの容易性といった情報を付与する「DPP(デジタルプロダクトパスポート)」と呼ばれる制度が注目を集めています。その一方で、その内容を詳しく知っている、実際の事例を知っているという人はまだまだ少ないはずです。
こちらの「DPP(デジタルプロダクトパスポート)とは?サーキュラーエコノミーを実現させる欧州発の新ルールについて解説!」のページでは、DPPの基礎知識から実際の取り組み事例まで、わかりやすく解説していきます。
DPP(デジタルプロダクトパスポート)とは?
DPPは欧州発の経済政策
EUでは2019年以降、「欧州グリーンディール」を軸に、持続可能な経済成長と2050年までの気候中立(カーボンニュートラル)に向けた政策が加速してきました。なかでも、これまで廃棄されてきた製品・部材・原材料を「資源」として循環させ、経済システムそのものを直線型(つくる→使う→捨てる)から循環型へ転換する「サーキュラーエコノミー」は、アメリカに次ぐ世界第二位の経済圏をさらに包括的・持続的なものにしていくための重要テーマとして位置づけられています。
こうした流れの中核にあるのが、「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(略称:ESPR)」です。ESPRは2024年7月18日に発効し、EU域内市場に投入される製品の持続可能性を底上げするための新しい枠組みとして動き始めました。ここで義務付けられているのが、今回のテーマでもあるDPPです。
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/1781/oj/eng
日本語では「デジタルプロダクトパスポート/デジタル製品パスポート」と訳されるDPPですが、具体的には一体どのような仕組みなのでしょうか?
DPPは「モノのパスポート」

DPPとは、製品の持続可能性や循環性に関わる情報を、製品にひもづく形でデジタルに記録・参照できるようにする仕組みです。製品そのものに“デジタルの身分証”を与えるイメージで、原材料や部材の情報、製造・流通の履歴、修理やメンテナンスのしやすさ、リサイクルに必要な情報など、製品のライフサイクル全体に関わる情報へアクセスできるようになります。
この仕組みにより、私たち消費者は、製品を手に取った際に「これは本物なのか」「何からできているのか」「どこで生産されたのか」「修理やリサイクルは可能なのか」といった判断材料を得やすくなります。そのため、DPPは、個人の渡航歴や属性を記載するパスポート(旅券)になぞらえて、「モノのパスポート」とも呼ばれています。
さらに重要なのは、DPPが“消費者向け表示”にとどまらず、製造・流通・修理・回収・再資源化といった各プレイヤーが同じ製品情報にアクセスしやすくなる点です。サーキュラーエコノミーの実装は、結局のところ「情報がつながるかどうか」で進み方が大きく変わるため、DPPはその土台になる発想だといえるでしょう。
なお、海外旅行などで使用するパスポートは紙でできている冊子型のみとなっていますが、DPPはデータキャリアが電子的に読み取れる形式であれば良いため、バーコードやQRコード、NFC、電子透かしなど、製品や現場オペレーションに合わせた手段が取り得ます。現実装では「どのデータを、誰に、どの粒度で見せるか(アクセス設計)」も含めて設計していくことがポイントになります。
DPPには優先的に取り組むべき分野が定められている
DPPで誤解されやすいポイントがあります。それは、ESPRは単なる枠組みであり、具体要件(どの製品に、どの項目を、いつから適用するか)は製品群ごとの委任法令(delegated acts)で順次決まる設計になっているという点です。つまり、DPPは“いきなり一律のテンプレートが全製品に降ってくる”ものではなく、優先順位をつけながら、製品カテゴリーごとに要件が固まっていくイメージです。
その「優先順位」を示すのがWorking Planです。2025年4月16日、欧州委員会は最初のWorking Plan(2025–2030)を採択し、今後数年で優先的にルール策定を進める製品群を明確化しました。具体的には、循環性の向上余地が大きい分野として、鉄鋼・アルミ、繊維(とくにアパレル)、家具、タイヤ、マットレスなどが優先対象として挙げられています。このWorking Planに沿って、各製品群について「性能に関する要件(例:耐久性、資源効率、リサイクル材比率など)」と「情報提供に関する要件」が整理され、情報提供の主要な手段としてDPPが活用されていく、というのが基本線になっています。
したがって、企業側で重要なのは「全製品を一気にDPP対応する」ことではなく、まず自社の製品がどの製品群に該当し、いつ・どの情報が求められそうかを見立てたうえで、必要なデータの整備と運用体制に優先順位をつけていくことです。最初に土台を作っておけば、委任法令で要件が具体化したタイミングで最小限の追加対応をすれば良いため、現実的な対応スケジュールを着実に準備していくことを意識すると良いでしょう。
DPP(デジタルプロダクトパスポート)のメリットとデメリット
「モノのパスポート」として注目を集めるDPPですが、一体どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。ここでは、それぞれ2つずつご紹介します。
メリット①:製品全体のライフサイクルがサステナブルであることを証明できる

現代社会において、生産のプロセスはますます複雑化しています。一つの製品を生み出すためには、多岐にわたる部品や複数のセクションをまたぐ工程が必要です。この複雑性のために、企業が単独で全ての情報を管理し把握することは難しくなってきています。
例えば、カーボンニュートラルなどの排出量取引において、個々のサプライヤーが供給する部品が最終製品の温室効果ガス排出量にどのように影響するかは明確でないケースが大半です。そのため、製品の製造プロセスにおいてだけでなく、調達段階からサプライチェーン全体のCO2排出量などを可視化することが求められています。
DPPが導入されれば、企業の製品がどのような過程で生まれ、どのような原材料が使われているかについて一定の情報を手に入れることができます。それだけではなく、その後のリサイクルや最終的な廃棄物の処理を含むライフサイクル全体が追跡可能になり、持続可能なエコシステムであることの証明になります。
また、現在の国内の排出量算定においては、サプライチェーン排出量は個社ではなくグループ単位を自社の範囲とします。
排出量算定について – グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省
したがって、他事業者との情報連携も促進され、⾃社だけでは難しかった削減目標も達成可能なものになるでしょう。このメリットは製造者に限らず、消費者やサプライヤーにとっても大きな安心材料です。
メリット②:製品のリスク管理が容易になる

DPPによって製品の生産工程や流通過程における記録がしっかりと残ることで、問題発生時の迅速な対応が可能になります。
例えば、商品に大きな欠陥があることが発覚したとします。その際に全ての生産工程が記録されていれば、どの地点でいつ問題が発生したのかが速やかに特定できるため、短時間で原因を究明・修正できるようになるのです。
また、不具合のある商品が見つかった場合、迅速な回収や修理が必要です。問題が判明した際にその原因に素早く対処できれば、消費者向けの情報開示も可能になり、企業における経済的損失も最小限に食い止めることができます。
このように、万が一の際にも徹底的な情報管理によって、原因解明・リコールの実施などの責任を果たすことができ、結果的に企業の評判も守ることができます。
デメリット①:大きな人的・経済的コストが発生する

EUでは、DPPの導入は企業の義務となっています。そのため、企業は自主的に、自己の負担においてその開発をしなければなりません。また、導入後も製品情報を登録する人件費や、データを保管するサーバー費用なども半永久的に発生するため、コスト面においてはかなり企業に酷な現状になっています。
さらに、DPPの導入に伴って、環境基準を満たしていない企業は自社の製品を再開発する必要があります。こういった多額の追加コストが発生してしまうことが、現在までDPPが普及してこなかった最大の理由でもあるでしょう。
その解決策としては、国家単位で助成金などの支援体制を整えることが挙げられます。実際にドイツでは、バッテリーパスポートの開発に総額820万ユーロを助成して、自国内企業を支援しました。
ドイツ政府、蓄電池の全ライフサイクル情報を記録する「パスポート」開発を支援(EU、ドイツ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
こうした、「第三者のフォローがなければ、コスト面での課題を解決するのは厳しい」という現実は、DPP導入における大きな障壁となっています。
デメリット②:高い情報セキュリティが要求される

DPPには製品に関する多くの情報が含まれているため、同時に強力なセキュリティ対策が求められます。パスポート内の全ての内容を全員が確認できる仕組みにすると、サプライヤーや顧客情報などが漏洩するおそれがあります。
適切な暗号化やアクセス制御の仕組みを導入しなければ、デジタルな情報を扱うDPPはサイバー犯罪の脅威にさらされてしまうことは避けられないでしょう。したがって、個人情報の保護とデータプライバシーが重要な課題となっています。
一方で、ブロックチェーンという技術の採用により、高い情報セキュリティを実現しているケースもあります。
ブロックチェーンは、分散型台帳とも呼ばれる新しいデータベースです。中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。
分散的な管理構造では、データは暗号化されてブロックに格納され、新しいブロックは過去のブロックとリンクしてチェーンを形成します。そのため、一度記録された情報を改ざんするためには、すべての関連するブロックを変更する必要があります。これは非常に困難であり、ブロックチェーンが耐改ざん性に優れているといわれる理由でもあります。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
DPP(デジタルプロダクトパスポート)の普及によって社会はどう変わる?
経済活動における環境負荷が削減される

DPPはEUがサーキュラーエコノミーの理念を推進し、製品の持続可能性を高めるためのプロジェクトの一環として展開されています。DPP自体はあくまで「製品情報を記録する」という制度です。
しかし、「持続可能な製品のためのエコデザイン規則」ではDPPの義務化と同時に環境負荷物質の規制や耐久性に関する規定も盛り込まれています。そのため、企業がDPPを導入する際には必然的に、製品の設計から廃棄までのプロセス全体の見直しや資源の有効活用についても本腰を入れて取り組まなければなりません。
また、DPPは導入後も企業の環境戦略をアシストします。製品のライフサイクル全体を追跡・記録するため、製造段階から使用、リサイクル、廃棄の各プロセスにおけるデータを集約します。よって、自社サービスのどのプロセスが環境に負荷をかけているかを特定し、効果的な環境改善策を導き出すことが可能です。
このように、DPPには製品の生産過程を明らかにして消費者のエシカルな選択を手助けするだけでなく、製品のライフサイクル全体で環境への負荷を軽減する効果が期待されます。
新たなKBF(購買決定要因)によって企業間競争が生まれる

消費者は環境に配慮した製品を求める傾向があります。そのため、DPPによって製造プロセスや耐久性、リサイクル可能性を提示することで、企業は「価格」「デザイン」「機能」以外の面で他社との差別化を図ることができます。
また、EU圏内ではDPPに非対応の製品は販売ができなくなる可能性があります。そのため、国内市場だけではなく国外市場におけるシェア獲得に向けて各企業が切磋琢磨して環境に配慮した商品の開発を行うことでしょう。その結果として、プロダクトの質が高まることも期待されます。
さらに、DPPによって提供される情報は、消費者だけではなく、投資家や取引先といったステークホルダーの意思決定にも大きく寄与します。近年では、以下のような社会課題に取り組む上場企業も増えてきました。
- 温室効果ガスによる地球温暖化
- 工場や生活排水による水質汚染
- マイクロプラスチックの流出による海洋汚染
- 農薬や廃棄物による土壌汚染
- 工場や自動車の排気ガスなどによる大気汚染
- 再生処理が行われないゴミや余剰食品による増加
こうした社会問題は、原材料の調達や製品の使用後といったまさにDPPがフォーカスしている地点に原因が存在していることも多いです。DPPによって環境に配慮した企業、あるいは欧州の先進的な取り組みへの参加を証明することで、ブランド価値や企業イメージの向上につながるでしょう。
消費者の能動的な購買行動が実現する

DPPがあることで、私たち消費者は購買行動の際にアクセスできる情報が増えます。したがって、消費者はDPPを参考にして多様な観点から購入の是非を判断することが可能になり、消費行動の自由度が高まるでしょう。
食品に貼られている成分表示を思い出してみてください。私たちは食品を選ぶ際に「原産地」や「成分」をみて安全性や希少価値を判断しているはずです。また、ダイエットをしている人や栄養管理に気を遣っている人であれば「栄養素」のバランスにも配慮しているでしょう。
しかし、この表示がなければ私たちは見た目や店舗の評判でしか判断することができず、満足のいく商品選択ができません。それどころか、消費者は企業が見せたい情報だけをもとにして選択をしなければならず、不平等な取引となってしまいます。
環境意識の高まりにより、今後はこれと同様のことがサステナビリティの世界でも起こるはずです。そのため、DPPによって企業が製品の見えにくい情報を提供することで、消費者は製品の背後にあるストーリーや製造プロセスを知ることができ、企業と消費者間の情報の対称性が高まった結果、消費者は能動的な購買行動が可能になるでしょう。
DPP(デジタルプロダクトパスポート)って日本企業にも関係あるの?
EUでは今後スタンダードになっていくとされているDPPですが、遠く離れた日本の地においてもこれらを考慮しなければいけないのでしょうか?結論から言えば、EU市場に製品を出す可能性がある企業(完成品メーカーだけでなく、素材・部材サプライヤーを含む)は無関係ではいられません。
その理由のひとつが、DPPの土台となるESPRが「規則(Regulation)」として成立している点にあります。EU法において規則は「EU全域で一体として適用される拘束力のある法令」であり、加盟国ごとの国内法化(トランスポーズ)を待たずに原則そのまま適用されます。いっぽう指令(Directive)は、達成すべき目標を示しつつ、具体的な国内法制は各加盟国が整備する必要があります。つまり、規則であるESPRは、指令に比べて強制力を持ったルールなのです。
実際、EUには以前から主にエネルギー関連製品を対象としたエコデザイン指令(Directive 2009/125/EC)が存在しました。しかし、ESPRはそれを置き換え、対象範囲を「ほぼすべての物理製品」へと大きく拡張した枠組みです。したがって、2024年7月18日に発効した時点で、EUとして“製品に持続可能性を組み込む”ルール設計が次の段階に入った、と捉えるのが自然でしょう。
また、欧州委員会で採用されている政策パッケージでは、サプライチェーン全体でのエコデザインが想定されています。加えてESPRは、DPPを「消費者のための表示」にとどめず、企業・当局・税関による確認も含めて、製品情報への電子アクセスを制度側から押し上げようとしています。したがって、欧州企業に部品や素材を提供している日本の企業は、サプライヤーとして各部品を納品する際に、DPPで求められる情報(原材料、由来、修理・リサイクル関連情報など)を提供しなければ、EU市場から締め出しを余儀なくされるおそれがあります。
実際に、電池分野においては、厳しい制約のもとでDPPの運用が始まっています。2023年7月に採択された「欧州電池規則」では、容量が2kWhを超える充電式産業用バッテリーと電動自転車・スクーター用バッテリー、全ての電気自動車(EV)用バッテリーについては、2027年2月までにバッテリー版DPPともいえる「バッテリーパスポート」の電子的記録が義務付けられました。
Council adopts new regulation on batteries and waste batteries – Consilium
さらに、アパレル領域でも同様の規制が始まろうとしています。ESPRはDPPだけでなく、売れ残りの繊維製品・フットウェア(衣類・靴など)の廃棄禁止に踏み込んでおり、2026年7月19日から大企業、2030年7月19日から中規模企業が「DPP(情報の整備)」と「廃棄禁止(在庫の扱い・回収/再流通の設計)」をセットで達成しなければなりません。
こうした背景もあり、実際にその分野の大手企業から、当社にも「どこから手を付けるべきか」「何を証明可能にすべきか」といった相談が増えています。したがって、「あくまで海外のことだから」と無関心でいる国内企業は、ビジネス上の大きなリスクを抱えているといえるでしょう。
DPP(デジタルプロダクトパスポート)の導入事例
TOD’S

イタリアの高級革製品ブランド「TOD’S」はDPPを採用し、ブランドの象徴である「ディーアイバッグ」に革新的な顧客体験を提供しています。この取り組みは、同社が加盟する「オーラ・ブロックチェーン・コンソーシアム(Aura Blockchain Consortium)」の技術を活用しており、バッグ正面のオーバル型ロゴの裏にNFCタグを埋め込むことで、購入者は製品の詳細な情報にアクセスできる仕組みです。
このDPPでは、購入者がスマートフォンを使用してNFCタグをスキャンするだけで、バッグの製品証明書、原材料のトレーサビリティ、製造過程など、製品に関連するあらゆる情報にリアルタイムでアクセスでき、バッグの真正性を保証し、贋作のリスクを低減する役割を果たしています。また、DPPを通じて、製品のメンテナンスサービスや保証の延長、限定イベントへの招待など、特別な顧客特典を受けることもでき、同社の製品を単なる消費物としてではなく、長期間にわたって価値を保つアイテムとして捉え、ブランドの透明性やサステナビリティに対するコミットメントを強化する重要なツールとなっています。
現在は「ディーアイバッグ」のカスタマイズ版に導入されていますが、今後は他のコレクションへの展開も計画されており、ラグジュアリーブランドにおける新たなスタンダードとなる可能性を秘めている注目事例の一つです。
R-Cycle

R-Cycleは、ドイツのプラスチック加工機械メーカー「Reifenhäuser Maschinenfabrik(ライフェンホイザー・マシーネンファブリーク)」が推進するDPPプロジェクトです。
同プロジェクトは、プラスチック包装のDPPであり、リサイクル可能なプラスチック製品の製造を支援するために設計された取り組みです。このパスポートの最大の特徴は、プラスチックの仕分け効率が格段に向上していることです。
このDPPでは、パッケージの生産中にリサイクル情報を自動的に登録し、この情報をバリューチェーンに渡します。したがって廃棄物分別工場は、リサイクル可能なプラスチックを簡単に識別し、特定の種類のプラスチックのみを抽出する高品質のリサイクルが可能になります。
現在のプラスチックのリサイクルは、複数のプラスチックの中から特定のプラスリックを特定・選別することが困難です。しかし、R-cycleの登場によってプラスチックのパッケージに貼り付けて識別情報を表示することで、廃プラスチックの仕分けが大幅に効率化されました。
この取り組みは、プラスチック産業が環境への影響を最小限に抑えるための革新的な解決策として注目されており、「ドイツサステナビリティアワード 2021」も受賞しています。
Waste2Wear Blockchain
Waste2Wear Blockchainは、カナダを拠点とする「Waste2Wear(ウェイスト・トゥ・ウェア)」という企業によって開発された独自のブロックチェーンプラットフォームです。同社は、プラスチック製品が環境へ与える影響を軽減し、できるだけ多くのプラスチック廃棄物を新しい繊維製品にリサイクルすることを目指しています。
Waste2Wear Blockchainでは、プラスチック廃棄物から完成したファッション製品に至るまで、独自のスマートコントラクトで段階的に記録されます。ユーザーはQR コード付きのステッカーを読み込むことで、数量、重量、場所、写真、時間が取得可能です。
このDPPは、繊維業界につきまとう偽造品問題へのアプローチとしても期待されています。近年では環境に配慮したエシカルファッションを選択する消費者も多くなってきました。しかし、リサイクルされたポリエステルとそうではないバージンのポリエステルは肉眼では区別が難しいです。バージンポリエステルは持続可能な代替品よりも製造が簡単で、なおかつ安価であるため、悪徳サプライヤーがリサイクルポリエステルを偽造するケースが問題となっています。そのため、DPPによって過去の履歴が詳らかにされることで、このような不正な素材の流通が防止されます。
環境だけではなく、消費者にもやさしいビジネスモデルを構築することができるという点で、DPPのメリットをうまく活用した事例だといえるでしょう。
H. Moser & Cie.
スイスの高級時計メーカーであるH. Moser & Cie.は、Web3技術を活用してブランド価値の向上を目指す「Genesisプロジェクト」を展開しています。このプロジェクトは、時計という物理的な製品とデジタル技術を融合し、DPPのみならず、NFT(非代替性トークン)やメタバースといった要素を取り入れることで顧客に新たな体験と利便性を提供しています。
Genesisプロジェクトの中心となるDPPは、時計の生産、販売、所有、メンテナンスといった情報が記録されており、正規の所有者だけがアクセス可能です。これらの情報を基にメタバース上の製品発表会やブランド主催のイベントへ参加可能なNFTや時計の保険情報が記録されたNFTを配布するなど、新たな顧客とのエンゲージメントを強化しています。
同プロジェクトは、DPPが単なる規制対応のツールではなく、実用性を伴う価値あるソリューションとして活用できることを示しており、同社は今後、Genesisプロジェクトで得た知見を他の製品にも応用し、さらなる顧客価値の創出を目指すとしています。
株式会社ワーキングハセガワ

福岡県嘉穂郡を拠点とする業務用ユニフォームの企画・製造・販売企業の株式会社ワーキングハセガワでは、2023年に新たに立ち上げた医療ウェアブランド「救衣 – sukui」において、ブロックチェーン技術を活用したDPPの導入に挑戦しています。
「救衣 – sukui」は、環境に配慮したヘンプ(麻)素材を採用し、製品の全ライフサイクルにわたるエコフレンドリーな設計が特徴の商品です。栽培時に水や農薬をほとんど必要とせず、大気中のCO2を効果的に吸収する持続可能性の高い素材であるヘンプを活用することで環境負荷を大幅に削減しています。また、製品の修理・クリーニングサービスや、使用済み製品の回収・リサイクルシステムを導入することで、廃棄物の削減や資源の循環を実現するサーキュラーエコノミーの理念も推進しています。
DPPの導入により、製品のライフサイクル全体で発生するCO2排出量や素材のトレーサビリティをブロックチェーンシステムに記録し、消費者は製品につけられたQRコードをスキャンすることで、製品に関する環境情報に簡単にアクセスできる仕組みを実現しています。透明性の高い環境データを消費者やビジネスパートナーに提供するこのシステムは、地域に根ざした産学官連携の成果として福岡県飯塚市の支援を受けながら進められており、地方からグローバルなサステナビリティ基準の普及を目指しています。
FAQ(よくある質問)
必須ではありません。ESPR上はDPPを実現するための“技術”としてブロックチェーンを指定しておらず、要件(識別子・データキャリア・アクセス権・相互運用など)を満たす形での実装が求められています。
最終的には製品群ごとの委任法令次第ですが、ESPR上はDPPデータがproduct model / batch / item(モデル・ロット・個体)のどれを参照するかを委任法令で指定しうることが前提です。実務的には、最初から「モデル→ロット→個体」に拡張できるID体系にしておくと、後から詰まりにくいです。
原則として避ける設計が安全です。ESPRには「顧客の個人データはDPPに保存すべきではない」という趣旨の記載があり、少なくとも顧客に関する個人データを保存する場合は“明示的同意”が必要とされています。そのため、保証登録やCRM情報はDPPに入れず、別システムで管理し、必要なら“参照リンク”に留めるのが無難でしょう。
DPP(デジタルプロダクトパスポート)の今後の展望
ここまで見てきたように、実際に運用されれば様々なメリットをもたらすであろうDPPですが、はたして今後の社会でうまく普及するのでしょうか。この問いに関するヒントは、現在の世界産業における中国の存在に隠されているかもしれません。
EUではフォンデアライエン氏が欧州委員会の新委員長に就任して以降、地球温暖化対策を取り組むべき課題の筆頭に位置付けて独自の目標を掲げてきました。その背景には、中国が産業大国として世界のスタンダードになりつつあることがあります。

中国では「安価で」「大量に」生産を行い、国外輸出を推進するビジネスモデルが主流であり、こうした経済活動は環境問題に悪影響を及ぼしていることは問題視されてきました。しかし、同時にそのビジネスモデル成功を収め、中国は世界有数の産業大国となったこともまた事実です。
また、次世代産業の核となるレアメタル生産は中国の独壇場といっても過言ではありません。半導体製造に必要なガリウムは中国のシェアが約90%を占めており、バッテリー製造に必要なコバルトはアフリカのコンゴ民主共和国が約73%とトップシェアを占めているものの、その大半は中国資本によるものです。
中国は潤沢な資金をアフリカに投資することで、現地のエネルギービジネスに深く根を張り、その実権の掌握を試みているという見方もできます。実際に、コバルトの精製では中国が2022年のコバルト精製生産量の約76%と、世界市場を席巻しています。
こうした中国の重商主義的アプローチの成功や希少資源の中国による独占は、もはや各国の安全保障上の脅威となっており、中国からの脱依存、新たな囲い込みが必要となっています。近年、EUが積極的に新しい政策イニシアチブを発表しているのはこうした背景があるからでしょう。
実際に、フォンデアライエン委員長は就任前の会見で以下のように述べています。
「この布陣で『欧州の道』を切り拓く。気候変動に対し大胆に行動し、米国とのパートナーシップを強化し、より自己主張するようになった中国との関係を明確にし、例えばアフリカなどの信頼できる隣人となる。このチームは、欧州の価値や世界的水準の維持のために立ち上がらなければならない。」
出典:欧州対外行動庁「フォン・デア・ライエン次期欧州委員会委員長、より高みを目指すEUに向けた布陣を発表」
こうしたことからも、DPPを含むグリーンディール政策は、彼女の本気度の高い経済政策であることが伺えます。同氏は2029年までの委員長続投がすでに決定しており、今後もこうした枠組みは厳格に運用され、適応できない国や企業は”西側陣営”からの締め出しに遭う可能性も大いにありえます。したがって、DPPは今後の国際社会のスタンダードとして普及していくのではないでしょうか。
まとめ
今回はDPP、デジタルプロダクトパスポートについて解説しました。EUでの新たなスタンダードとして採用が決まったDPPは今後、そのメリットが世界的に認知されていくフェーズに突入するでしょう。
一方で、日本国内ではDPPの導入は義務ではないため、コスト面の課題から導入を見送る企業も出てくるかもしれません。しかし、いまや環境への影響を無視した企業活動は淘汰され始めており、最悪の場合、消費者から「時代遅れ」や「ガラパゴス」というレッテルを貼られてしまう可能性もあります。
日本の企業が地に足をつけてDPPの導入について議論しなければならない時期が、すぐそこまで来ています。
トレードログ株式会社では、DPPを前提にしたデータ設計や、サプライチェーンの情報整備、回収・再流通まで含めた運用設計の整理をご支援しています。「うちの場合、どこがボトルネックになりそうか」だけでも構いませんので、具体的な検討に入る前段階でもお気軽にお問い合わせください。
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