NFT=「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」は、デジタルデータを替えの効かない唯一無二のものにできる技術で、アートやゲーム、音楽など様々なカテゴリーで活用されはじめています。特に、今回ご紹介するスポーツの分野では、選手やクラブとファンとのエンゲージメントを高める手段として大きな可能性を秘めています。
本記事では、NFTの基本知識から、スポーツ×NFTによってどんなメリットが生まれるのかを解説し、そして具体的な活用事例についてご紹介していきます。
スポーツ分野へのNFT活用が進んでいる

サッカーや野球、バスケットボールを始めとする「スポーツ」は、いつの時代も世界中の人々を熱狂させる非常に魅力的なコンテンツです。自分が応援するチームのドラマチックな勝利をリアルタイムで観戦したり、好きな選手の活躍をその目に焼き付けることは、替えの効かない素晴らしい体験となります。
近年、そういったスポーツへNFT=「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」を活用する動きが世界中で拡大しています。NFTとは「デジタルデータを替えの効かない唯一無二のものにできる技術」のことで、1試合ごとに何らかのドラマが生まれ、同じシーンが二度と起こらないスポーツとは非常に親和性が高いといわれています。
スポーツとNFTの親和性の高さは以前から着目されており、2019年には既に「Sorare(ソラーレ)」というサッカーのトレーディングカードゲームがNFTをいち早くスポーツに取り入れています。続いて、2020年に米プロバスケットボールリーグであるNBAがNFT市場に参入、さらに2022年には米メジャーリーグ(MLB)が参入してきました。また、日本でもサッカーのJリーグやプロ野球の一部チームでNFT活用の動きが活発化しています。これら活用事例の詳細については後ほど詳しくご紹介します。
スポーツ分野におけるNFT活用は、単にデジタルグッズの販売にとどまらず、以下のような形で進化しています。
- デジタルコレクション:スポーツチームや選手が限定版のNFTを発行し、トレーディングカードのようにコレクションアイテムとして提供。
- ファンエンゲージメント:NFT保有者限定のコミュニティへの参加権を付与し、ファン同士の交流を促進。
- チケットのデジタル化:チケットの不正転売を防止し、安全な取引を実現。
- メタバースとの融合:メタバース空間でアバターが着用できるNFTユニフォームや、NFT応援グッズを提供。
- クラウドファンディングとの連携:NFTをクラウドファンディングのリターンとして提供し、ファンからの支援を募る。
こうしたNFTの活用は、単なるトレンドではなく、スポーツ業界の新たな可能性を切り開く技術として今後さらに注目されていくことは間違いないでしょう。
そもそもNFTとは?
スポーツへのNFT導入のメリットについて触れる前に、まずはNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)について改めて確認していきましょう。
NFT=”証明書”付きのデジタルデータ

NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに、固有の価値を保証しています。
つまり簡単にいうと、NFTとは耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している”証明書”が付属しているようなものです。

NFTでは、その華々しいデザインやアーティストの名前ばかりに着目されがちですが、NFTの本質は「唯一性の証明」にあるということです。
NFTが必要とされる理由
世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した「NFT=非代替性トークン」は文字通り後者となります。

例えば、紙幣や硬貨には代替性があり、替えが効きます。つまり、自分が持っている1万円札は他の人が持っている1万円札と全く同じ価値をもちます。一方で、人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができますが、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます。
そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。
これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、必要とされているのです。
NFTとブロックチェーン
NFTはブロックチェーンという技術を用いて実現しています。
ブロックチェーンは「一度作られたデータを二度と改ざんできないようにする仕組み」です。データを小分けにして暗号化し、それを1本のチェーンのように数珠つなぎにして、世界中で分散管理されています。そのため偽のデータが出回ったり、内容を改ざんしたり、データが消えたりする心配がありません。
NFTではこのようなブロックチェーンが持つ高いセキュリティ性能を利用して、web上のデータが本物なのか偽物なのかを誰でも判別することを可能にし、データの希少性を担保できます。ブロックチェーンの活用によって、これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが生まれているというわけです。
スポーツ×NFTで実現すること
NFTを活用することで、スポーツ業界ではこれまでにない新しい体験や価値が生まれています。デジタルと現実を融合させることで、クラブにとってもサポーターにとっても新たな可能性が広がっています。
「唯一無二の本物」を所有する喜びを得られる
これまでは、画像や動画といったデジタルデータに対して ”唯一無二の本物” であるという証明をすることは不可能に近く、有名な試合のワンシーンはYouTubeにアクセスすれば誰もが簡単に見ることが出来ました。
しかし、これからは、NFT技術によって試合中のドラマチックなワンシーンが刻まれた唯一無二のアイテムを、自分だけのモノにできるのです。この「所有感」はホームランボールなどと同様に、チームや選手に対してさらに愛着が持てるようになったり、ファンコミュニティの中で「自分は正真正銘のファンだ」といった心理的な優越感を得る上で重要な役割を果たします。
また、従来のこうしたコレクションアイテムでは偽造品も市場に多く出回っており、正規品であるという証明が難しい状況にありました。メジャーリーグでは「Major League Baseball Authentication Program」というプログラムによって、ホームラン球、サインボール、着用済みユニフォームなどの正規品認証を行なっていますが、これには200人以上の認証者(しかも全員が、警察関係者)が実際に球場で目視したもののみホログラムを貼付する仕組みであるため、認証精度は高いもの、かなり導入ハードルが高い制度です。
しかし、NFTであれば自動的にデータがブロックチェーン上に記録されるため、改ざんが不可能であり、その所有権や取引履歴を明確にすることができます。これにより、コレクターは安心してアイテムを購入・取引できるようになります。
NFTによって実現する新たな応援の形が生まれる
NFTの登場により、スポーツファンの応援スタイルが大きく変化し、新たな形のファンエンゲージメントが生まれています。従来、応援は試合観戦やグッズ購入、SNSでの発信が中心でしたが、NFTを活用することで、デジタル上でより深くチームや選手とつながることができるようになりました。
例えば、NFTを活用したデジタルコレクションでは、特定のNFTを所有することでVIP観戦エリアへのアクセスや、選手との交流イベントに招待されるといった特典が得られるケースも増えてきました。また、所有しているNFTの種類や保有数に応じて特別な称号やバッジを獲得できる仕組みなど、ファンの応援を可視化するツールとしても機能しているケースもあります。
つまり、NFTを所有すること自体が、特別なファン体験への架け橋となっているのです。これにより、熱心なサポーターほどより深く関与でき、デジタル空間でのファン同士のコミュニティも活性化します。
近年では、NFTがチーム運営に関与する手段にもなりつつあります。一部のクラブでは、特定のNFT保有者がユニフォームデザインの投票に参加したり、チームのイベント内容を決定できる画期的な取り組みを始めています。
このように、NFTを活用した応援ではファンが単なる観戦者ではなく、チームの発展に直接関与できるようになることで、これまでにない一体感が生まれています。クラブとファンの新しいコミュニケーションもNFTの魅力の一つといえるでしょう。
選手やチームにとっての新たな収益源となる
これまで、スポーツチームや選手の主な収入源は、試合日のチケット販売やグッズの物販、テレビやオンライン配信を通じたコンテンツの一次利用によるものが中心でした。しかし、NFTの活用により、これまで直接的な収益化が難しかったデジタルコンテンツやデータが、ブロックチェーン技術によって価値を持ち、チームや選手に新たな収益をもたらす可能性が生まれています。
試合のハイライト映像、選手のサイン入りデジタルカード、ユニフォームやスパイクのデジタル証明書付きアイテムなど、あらゆるコンテンツがNFTとして発行されれば、ファンにとって特別な体験が提供できるだけでなく、二次流通市場における取引が発生した際、ブロックチェーンのスマートコントラクトを活用することで、チームや選手にロイヤリティとして収益が還元される仕組みが実現可能となります。
こうした新たな収益構造は、これまで単発の収益にとどまっていたコンテンツを、二次流通市場まで視野に入れた持続可能な収益モデルへと進化させる可能性があります。NFTを活用することで、スポーツチームや選手がより安定した経済基盤を築きながら、ファンとのつながりを強化できる未来が期待されています。
スポーツ分野×NFTの活用実例
続いて、2025年時点でのスポーツ分野×NFTの活用実例をご紹介します。
Sorare
Sorare(ソラーレ)は実在するサッカー選手を題材としたトレーディングカードゲーム(トレカ)です。ただし実物のカードではなく、NFT技術によって選手の写真や能力値が一つのデジタルデータにまとめられているのが特徴です。カードをコレクションする以外にも、購入したNFTトレカで自分だけのオリジナルチームを作ってそのスコアを競い合うことが出来ます。
Sorareの最大の特徴は、選手カードの性能が現実の試合結果とリアルタイムで連動している点です。自分の持つ選手がゴールやアシストを決めると、Sorare上でも強化されます。つまり、いかにゲーム内のチームに実際に活躍している旬の選手を組み込めるかが、ハイスコアを出す鍵となってきます。ゲーム内でスコア上位のプレイヤーには、レアカードが配布されるのに加え、報酬としてイーサリアム(ETH)が与えられます。
チームを構成するNFTトレカは、Sorare内での売買の他にも、ゲーム外のNFTマーケットプレイスによる取引によって入手できます。当然のことながら、現実世界で好成績をおさめる選手のNFTカードには人気が集中し、過去には次世代フットボール界のスーパースター、ハーランド選手のユニークカードが約7831万円で取引されることもありました。
当初はフットボールに焦点を当てたサービスでしたが、2022年にはNBA(ナショナルバスケットボール協会)やMLB(メジャーリーグベースボール)と連携し、スポーツ界全体を盛り上げる存在として注目されています。
NBA Top Shot
NBA Top Shotは、北米のプロバスケットボールリーグであるNBAの選手を題材としたNFTトレカの収集や販売、展示を行うことができるNFTプラットフォームです。
NBA選手による歴史的なプレイなどのハイライト動画をNFTカードとして所有でき、紛失したり汚れたりするといったこともなく、NFTであるが故に「公式」の証明もされています。そのため、人気選手のカードはマーケットでは1,000万円以上の価格で取引され、話題となりました。
NFTは従来のトレーディングカードと同様、パックでも購入できます。その際には、オンラインの列に並ぶ必要があり、実際にお店で購入しているかのようなUXを提供しています。また、サービス提供をしているのは人気のNFTゲームである「CryptoKitties(クリプトキティーズ)」を開発したDapper Labsです。NFT業界でも古参かつ知名度の高い企業が運営しているため、サービスの質や安心感が非常に高いプロジェクトになっています。
NFTでは投資詐欺のような怪しいプロジェクトによる被害も散見されるため、この点は大きなメリットになりうるでしょう。マイケル・ジョーダンやケビン・デュラントらからも数億ドルもの資金調達をしており、ファンや関係者から人気の高いNFTとなっています。
Avispa Supporters NFT
アビスパ福岡は福岡市を拠点として活動している「感動と勝ちにこだわる」をスローガンに掲げたJリーグクラブです。同クラブでは、Avispa Fukuoka Sports Innovation DAOという「アビスパトークン」の保有によってクラブの運営に参加できる分散型組織を活用しており、その取り組みの一貫として、Avispa Supporters NFTというNFTを発行しています。
Avispa Supporters NFTは、DAOのメンバーが優先的に手に入れることができる特別なデジタルアイテムで、「アビスパサポーター」を主役にしたキャラクターデザインが特徴です。「10デザインの歴代ユニフォーム」やDAOメンバーから募集した「アビスパならではのアイテム」など、実装内容はDAO内で議論しながら創られます。
SNSなどのデジタル上ではNFTをプロフィールに設定することで、サポーターとしてのアイデンティティを確立できたり、将来的にはスタジアムがメタバース化された際のアバターに昇華させたりすることも構想されています。
また、このNFTはジェネレーティブNFTと呼ばれるNFTです。ジェネレーティブNFTとは、プログラミングによって、形、フォーム、色、パターンを自動生成するNFTアートのことを指します。パーツの組み合わせの数だけ固有のNFTを生むことができるため、視覚的にも楽しむことができるNFTです。
アビスパ福岡は国内プロスポーツチームとして初めてジェネレーティブを公式発行したクラブとして歴史に名を刻んでおり、今後も同クラブの先進的な取り組みには要注目です。
.SWOOSH
.SWOOSHとはNIKEが発表したWeb3プラットフォームです。このプラットフォームではコミュニティを介したNFTのやり取りなどが行われます。
NIKEは近年、本格的にメタバースなどの仮想空間を意識した展開を行っており、このプロジェクトではウェアラブルなアイテムに関しての取引が可能になっている模様です。今後、NIKEが独自でデザインしたNFTもリリースされる予定となっており、これらのアイテムは様々なメタバースでの活用を予定しています。
また、EAスポーツのゲームとの連携も構想されており、これが実現すれば.SWOOSHでGETしたシューズやウェアを、サッカーやバスケといったゲーム内で使用できるようになります。EAスポーツのゲームには、2022年にイギリスの最も人気のあるゲームに選ばれたFIFAや、Madden NFL、NBA Liveなどがあり、数々のヒット作を毎年のように量産しています。そのプレイ人口を考えると、このプロジェクトは大成功を納める可能性に満ち溢れているといえるでしょう。
残念ながら日本ではまだ利用はできず、利用開始日も不明です。しかし、利用できる地域や国を徐々に広げていることから日本での利用もそう遠くないかもしれません。今後の続報に期待です。
VIP ROOM TERRACE NORTH

楽天チケットは、2025年2月15日に行われるヴィッセル神戸のシーズン開幕戦(対浦和レッズ戦)において、一部のチケットをNFTチケットとして販売し、ファンに対してラグジュアリーな観戦体験を提供しています。
同NFTチケットでは、ピッチに近い特別なシートでの試合観戦に加え、専用ラウンジでのリラックス、特別な食事、限定グッズのプレゼントなど、通常のチケットでは味わえないVIP待遇が用意されており、試合後も楽天のNFTプラットフォーム「Rakuten NFT」上でチケットをコレクションとして保有することができるほか、二次流通の際には購入者自身が価格を設定できるなど、これまでにはない新しい形のファンビジネスを提供しています。
楽天ヴィッセル神戸の代表取締役社長・千布勇気氏は、この取り組みについて「スポーツとテクノロジーの融合を推進し、Jリーグ全体の発展にも貢献していく」と述べており、NFTチケットの活用がスポーツ業界における新たなスタンダードとなる可能性を示唆しています。
今後、スポーツのみならず音楽やエンターテインメント分野にもNFTチケットの活用が広がることも期待されており、デジタル技術による新時代のファンエンゲージメントが加速していくことでしょう。
船橋FCスポーツクラブ

千葉県船橋市を拠点とするサッカークラブ、船橋FCスポーツクラブでは、2024年12月にスポーツチームでは全国初となる、オーナー権をNFTとして販売するという画期的な取り組みを行いました。
1口5万円で500口を上限に公式ホームページで販売されたNFTには、クラブの運営に関わる様々な提案ができる権利や、試合のチケット、グッズの割引など、多様な特典が付与されており、選手や監督の採用などチーム運営に関する大部分に「投票」の形で参加できるというかなりユニークなNFTです。
多くのプロスポーツチームは、ある程度の規模になると運営を大手企業に委ねるため、地域との関係が希薄になりがちです。しかし、船橋FCスポーツクラブはNFTによる新たな運営方式に移行することで、地域社会との関わりを維持しながらマネタイズすることを可能にしました。
まだNFT発売から日が浅いため、このプロジェクトの結末は誰にも分かりませんが、「NFTオーナー」という新しい形のファンを創出し、クラブとサポーターとの絆をより強固なものにしようという試みは、地方クラブの新たな可能性を示唆しているといえるでしょう。
まとめ
今回はスポーツ分野へのNFT活用について解説してきました。
NFTはスポーツにおけるファンビジネスのあり方を変革するだけの大きな可能性を秘めていると言えます。
アートや音楽などの芸術分野へのNFT活用は投資目線で語られる事が多いですが、スポーツへのNFT活用はあくまでもファンが中心となって市場を牽引していくことが期待されます。
NFTの活用によってスポーツ市場は今後さらに盛り上がっていくことでしょう。