DAO(分散型自律組織)とは?〜Web3.0時代の新しい組織のあり方〜

仮想通貨やNFTの話題に触れる中で「DAO」という言葉を目にする機会があるのでは無いでしょうか。「分散型自律組織」と日本語に訳されるDAOですが、一体どのような特徴やメリットがあるのでしょうか。本記事では、「DAO(分散型自律組織)」の概要やメリットと課題、そして実際の事例をご紹介していきます。

DAO(分散型自律組織)の概要

DAOには中央の管理者が存在せず、意思決定はコミュニティ全体で行う

DAO (Decentralized Autonomous Organization、ダオ)は「分散型自律組織」と日本語で訳され、ブロックチェーン上で管理・運営される組織のことです。

その特徴については後に詳しく解説しますが、株式会社などの一般的な組織とは異なり組織の管理者が存在しないという点が、DAOの大きな特徴のひとつです。組織の意思決定は管理者によるトップダウンではなく、組織の参加者全員によって平等に行われます。

DAOが注目されている理由

DAO自体は2014年頃から存在していた概念ですが、2021年以降に大きな注目を集めるようになりました。注目の背景には、DAOの技術的振興、参入のしやすさ、そして将来性にあります。

まず、技術的な文脈でいうと、「NFT(非代替性トークン)」や「DeFi(分散型金融)」「暗号資産」といったWeb3.0分野の盛り上がりが背景にあります。Web3.0において暗号資産はお金、DeFiは金融サービス、NFTはデジタルに関する所有権のあり方、そしてDAOは組織を変える概念として、それぞれが密接に関わり合って技術革新が起こってきました。

DAOはそれ単独では組織論のひとつに過ぎませんが、「分散型インターネット」であるブロックチェーンを基盤としたネットワークであるWeb3.0と結びつくことでその特徴を遺憾なく発揮しているため、これらの各領域がブームとなると新しい組織運営の形態として評価されるようになったのです。

また、スマートコントラクトを利用すれば、誰でもDAOを作成したり、既存のDAOに参加してその運営に関与することが可能です。これは、伝統的な組織形態とはアクセシビリティと開放性という点において革命的でした。ビジネスとして組織を動かすにしても、株式会社を設立するとなると、法的・行政的・金銭的負担が重くのしかかり、手間もかかりますが、DAOはブロックチェーン上で簡単に組織化することが可能です。こうした参入障壁の低さは、民間ユーザーのみならず、企業や自治体からも広く注目される理由となっています。

さらに、DAOは将来性についても視界良好です。現在、一億総活躍社会の推進や新型コロナウイルスの影響によって、私たちの働き方は大きく変わりつつあります。しかし、今後は働き方だけではなく会社そのものの在り方も大きく変容していくのではないでしょうか。

見知らぬ人同士で資産を募り、1つのプロジェクトに投資するという概念は以前から存在しています。近年話題のクラウドファンディングもその一種でしょう。しかし、クラウドファンディングでは銀行から資金を借り入れるよりも簡単ではあるものの、起案者がプロジェクトをリードするため、資金借り入れの形態が変わっただけで会社の在り方は従来のままです。

一方のDAOでは、支援者もプロジェクトの運営に関わることができ、プロジェクトが終了してもコミュニティー自体は存続するため、次のプロジェクトに参画することもできます。こうした、新たな組織運営を実現するDAOは、働き方が多様化する現代社会において大きな将来性を秘めているといえます。

総じて、DAOはブロックチェーン技術の普及、参入のしやすさ、そして将来性という三つの要因から社会から大きな注目を集めています。これらの要因が組み合わさることで、DAOは現代のインターネット技術の進化と共に重要な位置を占めるようになっているのです。

DAO(分散型自律組織)のメリット

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続いて、DAO(分散型自律組織)の特徴とメリットについてより詳しく解説していきます。

組織の管理者が存在しない

先述したように、DAOの大きな特徴として組織の管理者が存在しないという点が挙げられます。

株式会社を代表とする従来の組織では、意思決定は上層部の管理者によって行われ、決定事項を組織の下流にまで行き渡らせるトップダウン方式が一般的でした。

一方でDAOには管理者が存在せず、参加者全員が一丸となってプロジェクトを推し進めていくため、トップダウン方式に比べて様々な意見が出されて議論されることがメリットと言えます。

透明性が高く民主的な組織運営

管理者が存在しないDAOには中央集権的な権力者が存在しないため、その意思決定のプロセスは一般的な株式会社などと比べて非常に民主的です。

具体的には、DAOを動かすための意思決定に関わるためには、そのDAOのコミュニティ内で使われる仮想通貨ガバナンストークンを保有する必要があります。そのトークン保有者による投票によってDAOの意思決定が行われ、さらに投票のプロセスは全てブロックチェーン上に記録されるため、民主的かつ透明性の高い組織運営が実現可能となります。

また、投票の際に使用されるトークンは組織運営のための資金調達としての役割もあり、実際に多くのDAOがこのガバナンストークンの発行によって資金を調達しています。ガバナンストークンを保有することには、先述した組織運営に係る権利を得る以外にも、プロジェクトが成功した際のインセンティブを得ることができるなどの金銭的メリットがあります。

ガバナンストークンを含めたトークンについては以下の記事で詳しく解説しています。

誰でも組織に参加できる

従来の組織に参加するためには試験や面接を通過し、契約書を結ぶのが一般的です。組織から離脱する場合も同様に契約解除の手続きが必要でしょう。

一方のDAOは、国籍や性別に関係なくインターネット環境さえあれば誰でも参加できます。また、DAOは匿名での参加も認められるケースも多く、顔や実名を明かさずにプロジェクトに参加できるのが従来の組織と大きく異なる点です。

DAO(分散型自律組織)の現状の課題

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ここまでDAOの特徴やメリット、代表的な事例をご紹介してきましたが、DAOが持つ現状の課題についても触れていきます。

組織の意思決定に時間がかかる

さきほど、中央集権的な管理者を持たず民主的な意思決定が行われることをDAOのメリットとして挙げましたが、逆に組織の意思決定に時間がかかるという点がデメリットとして考えられます。

サービスがハッキングにあった場合やサービスに欠陥が見つかった場合などの不測の事態に対しても、ガバナンストークンによる投票が必要となるため、緊急時に迅速に対応することができないリスクがあります。

迅速な意思決定が必要な場面においては、従来の企業組織などのような中央集権的な「トップダウン方式」に軍配が上がる可能性が高いです。

ハッキングリスク

DAOに限らずWEB上のサービス全てに言えることですが、外部からのハッキングによるリスクは拭えません。

実際に、2016年にイーサリアム上のDAOである「The DAO」がハッキング攻撃を受け、被害総額は日本円にして約52億円にのぼりました。「The DAO」は、先程ご紹介した「BitDAO(ビッダオ)」同様の分散型投資ファンドであり、「The DAO」内にプールしていた投資用資金が狙われた形となります。

先述した「緊急時に迅速な意思決定ができない」という点と、次にあげる「法整備が不十分」である点を考慮すると、被害の補填やバックアップ体制の構築にはまだまだ時間が必要です。

法整備が不十分

DAOは2021年以降に実体化されはじめた組織形態であるため、日本を含む世界各国の法整備が十分に追いついていない状況となっています。

2021年7月にようやく米ワイオミング州が全米で初めてDAOを合法化し、2022年2月にはマーシャル諸島共和国が国家として初めてDAOを法人として承認することが決定しました。

とはいえ、DAOを法人として認める法整備を進める動きはごく一部にとどまっており、今後の全世界的な普及が待ち望まれるところです。

DAO(分散型自律組織)の今後

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株式会社ではなくDAOでの組織運営が広まる

DAO(分散型自律組織)は株式会社に比べて組織への参入ハードルが低く、また組織運営における民主性が高いため、今後は大きな組織から小さなコミュニティーまで様々な規模、分野に適用される可能性を秘めています。

また、組織としての透明性が非常に高いことから、チャリティーを始めとする慈善活動や非営利組織運用との相性が良いとされているため、NPO法人などにとって替わる存在となる可能性も十分に考えられます。

DAOへの注目が高まりガバナンストークンの価格が上昇する

DAOでの組織運営が普及すれば、各DAOに紐づくガバナンストークンの価値が高まることが予想されます。そしてトークン保有者への還元も活発化して、投資対象としてのDAOが一般層にまで注目を集めるようになれば、さらに多くのDAOプロジェクトが誕生していくことになるでしょう。

DAO(分散型自律組織)の代表的な事例

ここでは、2024年時点での代表的なDAOをご紹介していきます。

Nouns DAO(ナウンズダオ)

出典:Noun DAO

Nouns DAOは、ドット絵風のキャラクターをモチーフにしたNFTコレクションです。

毎日1体ずつ「Noun」と呼ばれるNFTアートが自動生成され、オークションにかけられます。そこで競り落とした人がNFTの保有者となります。「Noun」の所有者は投票権が付与され、組織全体の議決や採択に関与できます。

投票できる内容は、オークション収益の使い道についてです。提案や議論には誰でも参加できますが、最終的な投票をできるのはNouns所有者のみとなっていることから、Nouns DAOは、Nounsを自動生成してオークションで販売する機能を備えた分散型自律組織だといえます。

Nounsの著作権は「CC0(Creative Commons 0=パブリックドメイン)」という扱いになっているため、従来のIPビジネスとは異なり、誰でもNounsの二次利用が可能になっています。

こうしたルールやデザインの独自性から幅広い層から人気を博しており、現在成功を収めているDAOの代表例の一つです。

BitDAO(ビッダオ)

出典:BitDAO(ビッダオ)公式Twitter

BitDAO(ビッダオ)は大手仮想通貨取引所「Bybit(バイビット)」が主導するDAOプロジェクトで、大手決済サービス「PayPal」の創業者であるピーター・ティールを始めとする数多くの著名人が設立時に資金提供したことで知られています。

2021年にNFTやDeFiに関する、将来性の高いプロジェクトに資金提供することを目的に設立されたBitDAO内では、「BIT」というガバナンストークンが発行されています。この「BIT」の保有者はBitDAOの出資先となる有望なDeFiや出資額を選定する投票に参加できたり、保有量に応じた利益が分配されるという仕組みです。

またBybitでは、ゼロカットシステムが導入されています。ゼロカットシステムとは、マーケットの急激な下落によって口座残高がマイナスになった場合に、損失分をBybit側が補填してくれる制度です。通常、証拠金維持率が一定の水準を下回ってしまった場合や一定の損失が発生してしまった場合には追加の資金を要求される「追証」が存在しますが、Bybitには追証がありません。証拠金が一定の割合を下回ればそのままロスカットになる仕組みです。

言い換えれば、トレーダーは「追証をするために借金をしてしまった」という不確定なリスクを回避できるということを意味しています。取引中の突如としての大きな価格変動や市場の急激な動きがあった場合でも、ユーザーの損失が所持金を超えることがないため、トレーダーは心理的ストレスから解放され、安心して取引を行うことができるでしょう。

日本では人気の高いコインとして知られており、BitDAOの公式Twitterのフォロワー数は約5.4万人・Discordメンバー数は約9千人に達しています。※2024年月時点

BitCoin(ビットコイン)

出典:pixabay

暗号資産の代名詞ともいえるBitCoin(ビットコイン)は、完全な形で分散運営されている世界初のDAOであるとされています。

BitCoinの運用は、分散型台帳システムであるブロックチェーン上で行われます。取引記録を世界中の多数のコンピューター(ノード)で共有・管理する革新的な仕組みとなっているため、国境を越えて幅広く利用されるデジタル通貨でありながらも銀行やクレジットカード会社などの第三者を介さずに取引が可能です。

強固な暗号技術によってプライバシーが保護され、利用者がより自由にお金を管理できる環境を提供するBitCoinには中央集権的な管理者はおらず、誰でもその取引プロセスを確認することができます。不正の抑制や限定的な発行ができるという点において価値の減少が少ないという特性も持っているため、別名「デジタルゴールド」とも呼ばれています。

なおガバナンストークンは存在せず、ブロックチェーンに取引を記録した際に新たにBitCoinが発行される仕組み(マイニング)です。後発のDAOとは異なり、トークンであるBitCoinの発行はこのマイニングでのみ行われます。

中央集権的な管理者が不在にも関わらず、決められたプログラムに沿って意思決定されているBitCoinは、最も成功しているDAOのひとつといえるでしょう。

Ninja DAO(ニンジャダオ)

出典:Ninja DAO

Ninja DAOは日本国内最大級のDAOであり、世界最大手のNFT取引所「OpenSea」で取引される「 CryptoNinja NFT 」というNFTプロジェクトの公式コミュニティです。Discordの人気インフルエンサーのイケハヤ氏が創設したしているDAOであり、マンガ、アニメ、ゲーム、グッズ、小説、音楽、舞台など、さまざまな形で同氏がプロデュースしているキャラクターブランド「CryptoNinja(クリプトニンジャ)」を盛り上げる様々なプロジェクトが進行中です。

たとえNFT自体を所有していなくても「CryptoNinja NFT」の世界観に魅力を感じた人であれば誰でも参加可能で、ファン同士のコミュニケーションツールとして様々な活動がなされています。

NFTの二次流通も許可されており、コミュニティには多くのクリエーターの方が参加しています。動画編集・Webデザイナー・ライター・イラストレーター等様々なスキルを持つプロフェッショナルも多く参入しており、Ninja DAOでの活動をきっかけに、そのようなプロフェッショナルの方々と出会えるきっかけになるかもしれません。

また、通常のDAOでは普段社会人として働いているメンバーが多いですが、上述の通りNinja DAOはクリエイターとして普段から活動しているメンバーも多く、昼夜問わず常にコミュニティがアクティブな状態に保たれています。DAOとしてローンチされたは良いものの、その後の伸びに悩んだり、マーケティングに悩むDAOは少なくないため、自主的に活発な運用がなされているNinja DAOはまさに理想的なDAOの在り方ではないでしょうか。

このような人と人の関わり・つながりの強いDAOであるという点は、唯一無二のNinja DAOの特徴だといえるでしょう。

MakerDAO(メイカーダオ)

出典:MakerDAO

MakerDAO(メイカーダオ)は、2014年にローンチされた、ステーブルコイン「DAI」の発行を通じて暗号資産市場の安定性を提供している歴史あるDAOプロジェクトです。イーサリアムブロックチェーン上で動作しており、そのプロトコルはユーザーがイーサリアムをMakerDAOへプールすることで、ステーブルコイン「DAI(ダイ)」を発行する仕組みとなっています。DAIは、1米ドルに連動されて価格の安定性を保つように設計されており、暗号資産の価値が急激に変動する際に、ユーザーはDAIを利用してそのリスクを軽減することができます。

また、分散型のステーブルコイン(暗号資産担保型ステーブルコイン)であるDAIは、担保が暗号資産なので法定通貨のように中央集権的ではなく分散型の性質を保てるというメリットがあります。通常、ステーブルコインは取引所が管理しており、価格の維持、流通量の管理などがすべて発行元に依存しています。2022年に起きたテラUSD暴落事件も運営企業が米ドルとテラUSDの連携を保てなくなったこと(ディペッグ)が原因で起こりました。

こうした点においてMakerDAOの運営は完全に分散型のコミュニティに依存しており、ガバナンストークンである「MKR」を保有するメンバーがプロトコルのアップデートやパラメータの変更について投票を行います。この分散型ガバナンスモデルによって中央集権的な管理者が存在しないため、公正で透明性の高い運営が実現されています。

単一の組織の決定・信用に左右されないという特徴は、暗号資産という新しい波に乗りながらも、暗号資産の大きなボラティリティリスクは取りたくないというスタンスを生み出しており、同組織が標榜する「新たな暗号通貨」として重宝されています。

Ukraine DAO(ウクライナダオ)

出典:BRIDGE

Ukuraine DAOは、ロシアのウクライナ侵攻に苦しむ人々を支援するためにコミュニティの力を利用して資金調達を実現することを目的に創られた組織です。

NFTの販売を通して寄付者に金額に応じた「LOVEトークン」を付与し、収益はウクライナの人々を支援する非営利団体に送られる仕組みになっています。

UkrineDAOを立ち上げたのは、プーチン大統領に対して批判的な政治活動家であるNadya Tolokonnikova氏で、同氏は、ロシアのフェミニスト・ロックグループ「Pussy Riot」の創設メンバーとしても知られています。

72時間という短時間で3,271人から、約2,258ETH(約6.7億円)という巨額の寄付が集まり、スピード感と規模感のあるプロジェクトがDAOによって推進された事例といえるでしょう。

まとめ

今回は、DAOの特徴やメリットを解説し、代表的な事例と解決すべき課題、そしてその将来性までをご紹介しました。

本記事を通して、DAOがこれまでの組織のあり方を大きく変える可能性を秘めていることがお分かりいただけたかと思います。引き続き、今後のDAOに関する動向に注目です。