インターネットが普及し、ネットショッピングやSNS、銀行のオンラインサービスなどが登場したことで私たちの生活は非常に便利になりました。一方で、「顔の見えない世界」では、あらゆる場面で個人情報の入力が求められます。こうした個人情報の管理を企業や政府に委ねた結果、大量のデータ漏えいやプライバシーの侵害といった課題が生じており、従来のアイデンティティ管理が問題視されています。
そこで近年、大きな注目を浴びているのが、「自己主権型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity, SSI)」という新しい概念です。本記事では、SSIの基本から関連技術、その仕組みやメリット・デメリット、さらには最新の動向までを詳しく解説します。SSIを理解することで、今後のデジタル社会のあり方や、新規ビジネスの可能性について考えるヒントを得ることができるでしょう。
自己主権型アイデンティティ(SSI)とは?

SSIは、より安全かつ柔軟なアイデンティティ管理が可能になる仕組みとして注目を集めています。SSIについて解説する前に、従来のアイデンティティ管理とSSIの違いを明確にするため、まずは現在のID管理手法の課題を整理していきましょう。
従来のアイデンティティ管理の問題点
現代社会では、企業や政府が個人情報を管理するのが一般的です。多くのサービスでは、ユーザーがアカウントを作成し、氏名やメールアドレス、電話番号などを登録したうえで、IDとパスワードを設定する必要があります。一見すると合理的な仕組みに見えますが、この方法にはいくつもの問題が潜んでいます。
まず、データ漏えいのリスクです。個人情報が企業のサーバーに集中しているため、サイバー攻撃の対象になりやすく、大規模な情報流出事件が後を絶ちません。近年では、FacebookやYahoo!のような大手企業でさえ、大規模な個人情報漏洩が発生し、被害を受けたユーザーが多数います。
次に、個人が個人情報のコントロール権を持てないという課題もあります。一度登録した情報は、企業のデータベースに保管され、ユーザーが完全に削除することはできません。さらに、企業が収集したデータがどのように利用されているのか不透明なケースも多く、知らない間に広告のターゲティングやマーケティングに活用されていることもあります。
また、ID・パスワードの管理が煩雑になりがちです。サービスごとに異なるアカウントを作成し、それぞれのIDとパスワードを覚えておく必要があるため、パスワードの使い回しが増え、セキュリティリスクが高まります。
さらに、プライバシー侵害の可能性も無視できません。企業や政府が個人の行動履歴を収集し、分析するケースが増えており、監視社会への懸念も高まっています。特に、広告業界ではユーザーの興味・関心を把握するためにデータを活用することが一般的になっており、個人の意思とは無関係に情報が利用されることが問題視されています。
こうした諸所の課題を解決するために登場したのが、自己主権型アイデンティティ(SSI)です。
自己主権型アイデンティティ(SSI)=個人情報は自分で管理すべし!
SSIの基本的な考え方は至ってシンプルです。これまで企業や政府に依存していたアイデンティティ管理を、ユーザー自身が行えるようにすることで、「企業が個人情報を管理する時代」から「個人が自ら情報を管理する時代」への転換を図ろうというものです。
従来のアイデンティティ管理の仕組みでは、個人情報はユーザーの手元を離れる形で企業が管理していましたが、SSIの元では個人が自分の情報を管理するため、「必要に応じて特定の情報だけを選んで提供する」ということが可能になります。例えば、年齢確認が必要な場面では、生年月日ではなく「成人である」という情報のみを提示することで、必要最小限のデータ提供にとどめることができます。
また、企業や組織を介さずに本人確認が行えるため、サービスごとに新しいアカウントを作成する必要もなくなり、ID・パスワード管理の手間を大幅に削減できるほか、情報漏えいのリスクも低減すると考えられています。
このように、SSIは従来の中央集権的なアイデンティティ管理のあり方を根本から変える可能性を持っている概念だといえるでしょう。
自己主権型アイデンティティ(SSI)が注目される背景
アイデンティティ管理の新たな潮流として注目されるSSIは、個人情報管理の重要性が高まるにつれて、市場規模も急速に拡大しています。株式会社グローバルインフォメーションのレポートによると、2024年のSSI市場は18億ドル規模と推定されており、2029年には471億ドルに達すると予測されています。では、なぜここまでSSIが注目されているのでしょうか。
一番大きな要因は、昨今相次いでいる個人情報の大量流出や不正利用が、ユーザーのデータ管理に対する不安を高めていることでしょう。従来の中央集権型のアイデンティティ管理では、個人情報が企業や政府機関のデータベースに集中してしまい、サイバー攻撃や不適切な情報管理を招いてしまいます。中には大学や医療機関、保険会社や地方自治体など、プライバシーに深く関係する情報が流出したケースもあります。
こうした状況を受け、ユーザーが、必要な情報のみを選択的に開示できるSSIの概念への関心を持っていったというのはある意味で自然な流れといえます。プライバシー保護への意識が高まる中で、「細心の注意を払います」という姿勢だけではなく、ユーザー自身が情報をコントロールできる認証方法そのものが求められているのです。
次に、技術の進歩もSSIの普及を後押ししているといえるでしょう。個人が情報の主導権を握るSSIの実現の壁となっていたのは「情報がセキュアな状態に置かれているか」、つまりは耐改ざん性の問題です。旧式のアイデンティティ管理がいくらサイバー攻撃の標的となりやすいとはいっても、(むしろ、だからこそ)セキュリティ体制を構築していることがほとんどです。したがって、通常のデータ基盤でSSIを具現化してしまうと、セキュリティ体制が脆弱化し、情報漏洩のリスクが高まってしまう可能性がありした。
しかし、近年、ブロックチェーン技術(詳しくは後述)などの耐改ざん性に優れた技術が登場し、中央機関を介さなくても安全かつ信頼性の高いアイデンティティ管理を行うことが可能になりました。また、W3C(World Wide Web Consortium)やDIF(Decentralized Identity Foundation)といった国際的な標準化団体が、SSIの技術仕様を策定しており、システム実用化に向けた枠組みも整い始めました。こうした技術面の発展によって、現在、SSIは机上の空論から脱しつつあるのです。

さらに、各国政府の取り組みもSSIの成長を加速させています。欧州連合(EU)では、eIDAS(Electronic IDentification, Authentication and trust Services)規則が導入され、電子的な身分証明や信頼サービスの標準化が進められています。2024年2月にはeIDAS 2.0が正式に承認され、個人が自身のデジタルアイデンティティを管理できる「European Digital Identity Wallet(EUDIW)」の導入が提案されました。EUでは、自分のID情報や各種証明書のどの項目を個々のサービサーに提供するかを選択できるSSIの概念と共に、加盟国間でIDの規格を統一するための規制改正を進めることで、いわゆる「デジタル単一市場」の実現を目指しています。
こうした動きを受けて日本国内でも、大手企業や金融機関がSSIを活用した実証実験を進めており、政府レベルでもデジタル庁を中心にSSIを視野に入れたデジタル社会の実現が検討されています。したがって、SSIは各国のデータ管理の取り組みの土台となっており、これに連動する形で企業や国民がSSIへの注目を集める結果となっているのです。
このように、SSIはデータプライバシーへの意識の高まり、技術革新、デジタル化の加速、各国政府の政策といった様々な要因によって次世代のアイデンティティ管理の有力な手段として注目を集めています。
自己主権型アイデンティティ(SSI)の関連技術
SSIを理解する上で欠かせないのが、その実現を支える技術です。従来の中央集権型のアイデンティティ管理とは異なり、SSIではユーザー自身が情報を管理し、必要なときに必要な相手へ選択的に提供する仕組みが求められます。これを可能にするのが、「DID(分散型識別子)」「VCs(検証可能な証明書)」「ブロックチェーン」といった技術群です。
これらの技術がどのように機能し、SSIの実現にどのように貢献しているのか、それぞれ詳しく見ていきましょう。
DID(Decentralized Identifier、分散型識別子)

DID(Decentralized Identifier、分散型識別子)は、SSIの基盤となる技術の一つです。これは、従来のメールアドレスやSNSアカウントのように中央管理者が発行する識別子とは異なり、ユーザー自身が発行し、管理することができる識別子を意味します。
従来のオンライン認証では、GoogleやFacebookなどの企業がユーザーのIDを管理し、それを使って他のサービスにログインする仕組みが一般的でした。しかし、この方法では、プラットフォーム側にID管理の主導権があり、アカウントの停止やデータの利用制限といったリスクが伴います。これに対し、DIDはユーザー自身が識別子を作成・管理できるため、特定の企業に依存せずにアイデンティティを証明できるのが特徴です。
DIDの仕組みとして、以下の点が重要になります。
- 中央管理者なしで識別子を発行できる:ユーザーが独自の識別子を生成し、第三者の許可なしに使用できる。
- IDの信頼性が高い:DIDの情報は後述するブロックチェーンなどの分散型台帳に記録され、データの改ざんや不正アクセスが困難。
- 相互運用性が高い:異なるプラットフォームやサービス間で利用でき、DIDを使った統一的な認証が可能。
この技術の標準化も進められており、W3C(World Wide Web Consortium)がDIDの技術仕様を定めた「DID Core 1.0」を2022年に正式勧告として発表しました。これにより、DIDの普及が加速し、さまざまな分野での活用が期待されています。
詳しくは下記の記事で解説しています。
VCs(Verifiable Credentials、検証可能な証明書)
VCs(Verifiable Credentials、検証可能な証明書)は、DIDと並んでSSIの重要な技術です。VCsは、デジタル上で個人の資格や属性を証明する仕組みであり、物理的な運転免許証やパスポートと同じような役割を果たします。ただし、デジタルならではのメリットも多く、情報の選択的開示や検証の迅速化が可能になります。
例えば、銀行口座を開設する際、従来であれば本人確認のために運転免許証やマイナンバーカードのコピーを提出し、銀行側が目視で確認する必要がありました。しかし、VCsを活用すれば、「この人物は日本国内の居住者である」「成年である」といった情報のみを提示し、個人情報を必要以上に開示せずに認証を済ませることができます。
VCsの特長は以下の通りです。
- 選択的開示が可能:必要な情報だけを提示し、不要な個人情報を隠すことができる。
- オンラインで即座に検証できる:従来の証明書のように紙やPDFの提出が不要になり、デジタルで即時に認証可能。
この技術により、SSIは単なる「自己管理型のID」にとどまらず、信頼性の高いデジタル証明システムとしても機能するようになります。
詳しくは下記の記事で解説しています。
ブロックチェーン
SSIの実現には、データの改ざんを防ぎ、安全に情報を管理する仕組みが不可欠です。その役割を担うのが、取引データを分散型ネットワークに記録し、一度登録されたデータの改ざんを防ぐ技術であるブロックチェーンです。この特性を活かし、SSIではDIDやVCsのデータをブロックチェーン上に記録し、信頼性を確保します。
ブロックチェーンがSSIにもたらすメリットは以下の通りです。
- 耐改ざん性が高い:分散型の仕組みにより、情報の書き換えが困難。第三者による不正アクセスのリスクを低減できる。
- 検証の透明性が高い:DIDやVCsの証明データがブロックチェーン上に記録されるため、情報の真正性を迅速に確認できる。
- 分散的な管理ができる:ユーザーが自身のアイデンティティを管理でき、特定の企業や機関に依存しない仕組みを構築できる。
従来の本人確認プロセスでは、個人情報を企業や機関に預ける必要がありました。しかし、ブロックチェーンを活用すれば、本人確認のデータは分散型ネットワーク上に記録され、第三者が不正に操作することができなくなります。
ブロックチェーンがすべてのSSIシステムに必須というわけではありませんが、セキュリティと透明性を向上させるうえで、非常に有力な選択肢となっています。
詳しくは下記の記事で解説しています。
自己主権型アイデンティティ(SSI)のメリット

DIDやVCs、ブロックチェーンといった技術について紹介したところで、今度はこれらの技術を使って実現されるSSIにどのようなメリットがあるのかについても解説します。SSIがもたらすメリットは、単にセキュリティ向上にとどまらず、利便性やプライバシー保護の面でも大きな変革をもたらします。ここでは、具体的なメリットについて詳しく見ていきましょう。
プライバシーの保護
オンラインサービスを利用する際、多くの場合、必要以上の個人情報を提供しなければなりません。「この情報、どこまで使われるのだろう?」と不安を感じたことがある人は少なくないでしょう。SSIは、この不安を根本から解決します。
例えば、SSIを実現するための技術の一つに「ゼロ知識証明(ZKP)」というものがあります。ゼロ知識証明とは、「ある事実が真であることを証明しながら、その詳細なデータは明かさない」技術を指します。(理解すれば簡単な概念ですが、初見ではややこしい概念でもあるので、以下の米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のAmit Sahai教授の解説動画を参考にすると良いでしょう。)
この技術を活用すれば、年齢確認を行う際に、生年月日や名前、顔写真や大学等を開示することなく、「私は成人である」という事実のみを提示することができます。SSIには、こういった過剰な個人情報の開示を防ぐための様々な技術が活用されており、ユーザーのプライバシー保護に貢献しています。
また、従来のアイデンティティ管理では、企業がユーザーの情報を保持するため、その使い道には不透明な部分が多く存在しました。しかし、SSIでは個人情報がユーザー自身の手元にあり、必要なときに必要な情報だけを開示するため、企業のデータベースに保存される情報量が大幅に減少します。個人情報が企業の管理下に置かれ続けることがなくなり、「知らないうちにデータが第三者に渡っていた」といった事態を防ぐこともできるでしょう。
ID管理コストの削減
企業にとって、ユーザーのIDを管理することは想像以上に大きな負担です。新規ユーザーの本人確認(KYC)、パスワードの管理、アカウントの不正利用防止…。どれも避けて通れない業務ですが、これらの対応は膨大なコストがかかる上に、運用の手間も年々増大しています。特に、パスワードのリセット対応や、不正アクセスが発生した際のセキュリティ対策には、多くの企業が頭を悩ませているのが現状です。
SSIが導入されれば、こうした負担を大幅に軽減できます。その理由の一つが「自己主権型アイデンティティ(SSI)の関連技術」でもご紹介した「DID(Decentralized Identifier、分散型識別子)」の仕組みです。
従来の仕組みでは、企業ごとにユーザーIDを発行・管理し、それを自社のデータベースに保存していました。しかし、DIDを活用すれば、ユーザーが自身のデジタルIDを所有・管理し、企業はそのIDを検証するだけで済むようになります。これにより、企業側は個別のアカウント情報を抱え込む必要がなくなり、システムの管理コストが大幅に削減されるのです。
銀行口座の開設を考えてみましょう。通常、銀行ごとに本人確認書類を提出し、審査を受ける必要がありますが、SSIを活用すれば、一度認証されたデジタルIDを使い回すことが可能になります。ユーザーは毎回同じ手続きを繰り返す必要がなくなり、企業側も個別のKYC業務を簡略化できるため、時間とコストの削減につながります。同様に、オンラインサービスでも、新規登録時のID確認プロセスを簡素化できるため、業務効率が向上するでしょう。
セキュリティの向上
インターネットを利用する上で、不正ログイン等の様々なセキュリティリスクはユーザーと企業の双方にとって深刻な問題です。こうした課題に対処すべく、パスワードを設定したものの、「どのサービスでどのパスワードを設定したか覚えていない」「セキュリティのために複雑なパスワードを設定したのに、結局メモを見ないとログインできない」——そんな経験がある人も多いはずです。
SSIがもたらす大きな変革のひとつが、「パスワードレス認証」です。従来の認証方法では、ユーザーがIDとパスワードを入力し、それを企業のサーバーが照合する仕組みでしたが、この方法ではパスワードが流出すれば簡単に不正アクセスされてしまいます。実際、過去に発生した多くの大規模な情報漏えい事件では、流出したパスワードが原因で不正ログインが相次ぎ、大きな被害を生んでいます。
SSIでは、前述の「VCs(Verifiable Credentials、検証可能な証明書)」によって本人確認を行うため、パスワードを使う必要がなくなります。スマートフォンやデジタルウォレットに保存された証明書を提示するだけで認証が完了するため、企業側のサーバーにパスワードも保存されず、そもそもパスワードを入力する必要すらなくなるのです。
ユーザーにとっては、パスワード管理の手間が省けるだけでなく、不正アクセスのリスクが大幅に減るというメリットがあり、企業側にとっても、セキュリティ対策のコストを削減できるという利点があります。SSIの概念が浸透することにより、より安全で使いやすいオンライン環境の実現にも期待が膨らみますね。
自己主権型アイデンティティ(SSI)のデメリット

これまで見てきたようにSSIは我々に多くのメリットをもたらす一方、いくつかの課題も抱えています。特にスケーラビリティ(拡張性)とインターオペラビリティ(相互運用性)という問題は、SSIを語る上で切っても切れない関係にあります。順番に解説します。
スケーラビリティ(拡張性)
SSIは、個人が自分のアイデンティティを自由に管理できる仕組みですが、その大規模な普及には「スケーラビリティ(拡張性)」の課題がつきまといます。スケーラビリティとは、システムが負荷の増加に応じて適切に対応できる能力のことを指します。
現在、SSIの多くはブロックチェーン技術を活用しています。ブロックチェーンは、データを改ざんできない形で分散管理できる点で優れていますが、処理速度が遅く、トランザクション(取引)のコストがかかるという課題があります。つまり、一度に処理できるトランザクション数に限界がある「スケーラビリティが低い」技術なのです。
例えば、SSIを使って本人確認を行うたびにブロックチェーンへアクセスする必要があるとすると、ネットワークの混雑時には処理が遅延し、場合によっては数分〜数十分待たなければならないかもしれません。
また、ユーザーが管理するVCの数が増えると、それらを安全かつ効率的に保管・管理するためのシステム負荷も増大します。例えば、運転免許証、医療記録、学位証明など、複数のVCを一つのデジタルウォレットで管理する場合、それらを素早く照合・認証できるインフラが必要になります。現在の技術では、このような大規模運用をスムーズに行うための最適な方法がまだ確立されていません。
こうした問題を解決するために、現在ではレイヤー2技術(メインネットの外で取引を処理する技術)や、オフチェーン(取引の一部だけをブロックチェーンで処理する仕組み)でのデータ管理が検討されています。簡単にいえば、本体のブロックチェーンには認証の「証拠」や「重要な情報」だけを保存し、それ以外のデータ自体は個別のサーバーやユーザーのデバイス上で管理することで処理負荷を軽減させるという訳です。
また、特定の業界や企業グループ内で共通の認証基盤を構築することで、ブロックチェーンを使わずにSSIのメリットを活かす試みも進められています。とはいえ、スケーラビリティの問題は、SSIが社会に広く普及する上で避けて通れない課題であり、今後の技術革新に大きく依存する部分といえるでしょう。
インターオペラビリティ(相互運用性)
SSIは、個人がどこでも自由に使えるデジタルアイデンティティを実現することを目的としています。しかし、その理想を実現するためには、異なるシステム同士が互換性を持ち、シームレスに連携できる必要があります。このようなシステム間の連携のしやすさを「インターオペラビリティ(相互運用性)」と呼びます。
現在、SSI関連の技術にはDIDやVCsなど、標準化が進められているものもありますが、SSIを提供する企業や団体によって採用する技術仕様が異なる場合があります。これが原因で、同じ「SSI」という概念のもとで開発されたサービスでも、相互に互換性がないことがあります。例えば、ある大学が発行した卒業証明VCsが、企業の採用システムで認識されないといった問題が起こる可能性があります。
この問題を解決するため、W3C(World Wide Web Consortium)が中心となってDIDやVCsの共通仕様を策定しており、多くのSSIプロジェクトがこの標準に準拠することを目指しているものの、国や業界によって異なる規制が存在するため、一部のSSIソリューションは特定の地域や用途に限定されてしまうことがあります。
例えば、欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)の影響でデータの取り扱いに厳格なルールが求められる一方、米国では業界ごとに異なる認証方式が存在するため、一つのSSI標準で全てをカバーするのは容易ではありません。
このように、インターオペラビリティの向上はSSIの普及にとって不可欠な要素でありながらも、各国の政府機関や企業、技術団体の足並みが揃わずに標準化は遅れ気味となっています。それだけ熾烈な「利権争い」の対象となっているのは決して悪いことではありませんが、今後、互換性に関する取り組みが進むことで、より多くのサービスや業界でSSIが実用化されていくでしょう。
まとめ
自己主権型アイデンティティ(SSI)は、個人が自らの情報を管理し、安全かつ効率的に認証を行える新たなアイデンティティ管理の仕組みです。従来の中央集権型の管理とは異なり、SSIではユーザーが必要最小限の情報のみを開示できるため、プライバシーの保護やセキュリティ向上といったメリットが期待できます。一方で、スケーラビリティや相互運用性といった技術的課題もあり、今後の発展が求められる分野でもあります。
SSIの導入を検討する際には、業界やビジネスモデルに適した技術選定が不可欠です。特に、ブロックチェーン技術との組み合わせや、オフチェーン処理を含めたシステム設計が求められるケースも多くあります。トレードログ株式会社では、ブロックチェーン技術を活用した非金融分野のシステム開発・運用を手がけており、要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援を提供しています。
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