【展示会】NexTech Week2024@東京ビッグサイトに出展いたしました!

トレードログ株式会社では、2024年5月22〜24日に東京ビッグサイトにて行われました

「NexTech Week2024【春展】」に出典いたしました。

当日は多数のブース訪問がございましたが、

皆様のご協力のおかげで、無事に展示会を終了することができました。

本ページでは会場の様子や展示内容の一部をご紹介いたします。

展示内容について

メインストリート側では、大型モニターを用いてミニセミナーを開催いたしました。様々な事例を交えながら最新のブロックチェーン事情について解説したため、「何の話だろう?」と興味を持って立ち止まっていただけるお客様も多かったです。

ブース内部では当社事例などを掲載したパネルを展示しており、各プロジェクトの担当者がお客様からの質問に回答しました。資料を片手に熱心に耳を傾けられる方もいらっしゃり、非常に有意義な3日間となりました。

ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました!

電力の色分け(電力カラーリング)とは?グリーン電力を価値付ける新常識について解説します!

近年、再生可能エネルギーによって発電されたグリーン電力の活用がますます注目されています。環境問題への意識の高まりや持続可能なビジネス活動の推進により、グリーン電力は今後も存在感を強めていくことでしょう。一方、再生可能エネルギーの活用を進めるなかで、電力の由来を正確に区別し、把握していくことの重要性にも注目が集まっています。この際に役立つのが「電力の色分け(電力カラーリング)」という概念です。

本記事では、グリーン電力の由来をトラッキングするうえで重要な役割を担う電力の色分けについて解説します。

電力の色分け=電力の調達由来を明らかにするプロセス

電力の色分け(電力カラーリング)とは、電力の情報を記録・分類することで、再生可能エネルギー由来の電力(グリーン電力)とそれ以外の系統から送電された非再エネ由来の電力(化石燃料や原子力などによって発電)などのように、電力の調達由来によって、本来は物理的に区別することのできない電力をデータ上で区別するプロセスのことです。

通常の電力供給の仕組みでは、発電所からはロスを防ぐために高い電圧で送電し、各地に設置された変電所で電圧を下げて送電先へと電気を送り届けます。この際、電力ごとにバラバラとなっている周波数や電圧を同期させることで、発電の種別に関係なくすべての電力を混ざり合わせます。

この送配電網を一つの巨大なプールと見立てて「パワープール」と呼びますが、パワープールでは、効率的な送配電が可能になる一方で、消費者が使用する電力が特定の発電所から供給されたものかどうかを識別することが非常に困難です。さらに、電力はリアルタイムで消費されるため、特定の発電元からの電力を蓄えて追跡することもできません

こうした背景から、電力に色を付けてトラッキングを可能にする技術への関心が寄せられました。

世界中で電力色分けへの関心が高まっている

近年では、再生可能なエネルギー源、特に太陽光発電や風力発電が急速に普及しつつあります。これに伴って電力供給の多様化が進み、どのエネルギー源からの電力が使用されているかを明確にする必要性が高まっています。

とくにヨーロッパやアメリカにおいてはGO(Guarantee of Origin)REC(Renewable energy certificate)と呼ばれる再生可能エネルギー証書が存在しており、どこでどの発電方法で作られたのかなどの電力に関する情報を電力そのものと結び付けてITで管理するトラッキングシステムも導入されるなど、各種制度化も始まっています。

このように世界に目を向けると、電力の色分けは消費者に対して使用している電力の出所を視覚的に示す手段として役立っており、政策の実施をサポートするための重要なツールとして認識されています。

日本においても非化石証書などの電力証書が発行され、CO₂を排出しない電力の証明手段として標準的に使用されてきましたが、従来の非化石証書にはエネルギー源の種類が明示されていないなど、海外の電力証書と比べると電力のトラッキングが不十分な点が多く、信頼性が担保されているとは言い難い状況でした。

そんな現状を踏まえ、JEPX(日本卸電力取引所)では非化石証書のトラッキングのあり方を見直す考えを示しており、2024年以降は全量トラッキングを行っていくと発表しています。

非化石価値取引に関するお知らせ|JEPX(日本卸電力取引所)

現在、再エネ電力のデータトラッキングは世界中で注目を集める領域であり、電力を調達由来に基づいてしっかりと色分けすることは今後、避けては通れないでしょう。

そもそもグリーン電力とは?

出典:shutterstock

電力の色分けは前述の通り、基本的には再エネデータのトラッキングに用いられる概念であり、グリーン電力の電力価値を正確に裏付けている概念です。しかし、そもそも「グリーンな」電力とは一体どのような電力を指すのでしょうか?ここからは、グリーン電力の定義も含めて電力の「色」とはどのような概念なのかについて説明します。

グリーン電力=再生可能エネルギー由来の電力

発電に使用されるエネルギーは大きく分けて「枯渇性エネルギー」と「再生可能エネルギー」に二分されますが、再生可能エネルギーは発電時にCO₂を排出せず、環境に優しいエネルギーとして徐々に発電における割合を増加させている次世代のエネルギーです。

グリーン電力はそんな脱炭素社会の実現を支える再生可能エネルギーを利用して発電された電力のことを指します。代表的な再生可能エネルギーは以下の通りです。

太陽光発電

太陽光発電は、太陽の光をソーラーパネルとパワーコンディショナーを用いて電気エネルギーに変換する技術です。ソーラーパネルの設置は比較的容易で、発電事業者に限らず一般家庭等でも持続的なエネルギー供給が期待できます。

水力発電

水力発電は、河川やダムを利用し、高低差のある場所を水が流れる際の落差などから発電する方法です。設備寿命が長く、長期にわたる安定した稼働を特徴としています。日本は明治時代という早い時期から水力による発電を開始し、高い技術力を確立してきました。水に恵まれた日本の純国産エネルギーと言い換えることもできるでしょう。

風力発電

風力発電は、風の力を活用してタービンを回転させ、その動力を発電機でエネルギーに変換する発電方法のことをいいます。山間部や海岸などに設置される「陸上風力」と、海洋上に設置される「洋上風力」の2種類があり、いずれも時間帯の影響を受けずに発電が可能で、持続的でエコロジカルなエネルギーです。

地熱発電

地熱発電は、地下から地熱エネルギーによる蒸気を取り出し、タービンを回して発電を行う方法です。地熱発電所の設置には大規模な掘削作業が必要であるため初期投資が高額になってしまうものの、日本は世界でも有数の火山国であり、地熱資源量は世界第3位とされています。

バイオマス発電

バイオマス発電は、有機物をエネルギー源として発電する技術です。ほかの発電方法よりも木材、農業残渣、食品廃棄物といった様々な地域資源を有効活用できるため、地元の経済活性化や雇用創出、エネルギー自給率の向上に寄与します。

このほかにも、雪氷熱利用や海洋温度差発電、ユニークなものでは音力発電や電磁波発電など、その種類は多岐にわたります。発電方法が次々と生まれているのも、グリーン電力ならではの特徴だといえるのではないでしょうか。

電力にはグリーン以外にも様々な「色」がある

電力にはグリーン以外にも、それぞれの属性に応じて色が割り振られているケースがあります。最も一般的なのは上記のグリーン電力と、枯渇性エネルギーから発電される「ブラウン」な電力ですが、そのほかにも電力会社ごとに定義に応じて「水力発電による電気はブルー」などのように色分けがなされています。

また、色分け以外にも、アイコンや記号を用いて再生可能エネルギーの種類を示している場合もあります。ただし、これらの色分けには統一的な基準があるわけではなく、国や地域によってもバラつきがあるということには注意が必要です。

なぜ電力に「色」が必要なのか

出典:shutterstock

電力色分けの概要やその背景について理解したところで、今度は電力に「色」をつけるとどのような利点があるかについて見ていきましょう。電力の色分けには以下のようなメリットがあります。

正確なトラッキングをするため

電力の取引経路や供給源が記録されることで、CO₂排出量の追跡や環境への影響評価を正確に行うことが可能になります。一般的な電力データではグリーン電力の総使用量を把握することこそ可能なものの、発電源ごとの詳細なデータがなければ、正確なCO₂削減量の評価は困難を極めます。

なぜなら、同じ再エネ由来の発電方法であったとしても、有機物の燃焼による発電と太陽光による発電ではCO₂排出量が大きく異なるからです。電力に色をつけてその由来を把握することにより、正確なCO₂排出量を把握することができ、より具体的な環境影響評価も可能となるでしょう。

企業の不正を防止するため

上述の理由によって企業の持続可能性や社会的責任を客観的に評価することで、企業の環境活動に際して不正を働く余地を減らすことができます。近年、環境やサステナビリティに取り組んでいるように見せかけ、その広告効果や投資、税制面での優遇といった恩恵を不正に享受する「グリーンウォッシュ」が大きな社会問題となっています。

事実、私たち消費者が購入前にグリーンウォッシュを疑ったり、サステナビリティについて正確な数値を手に入れるのは不可能に近く、企業の主張を信じざるをえない、まさに「言った者勝ち」の状況です。こうした見せかけの環境保護対策は、誰しもが知っているような大企業で行われるケースもあります。また、環境価値に関する証書もダブルカウントの懸念が付きまとい、その信憑性については常に議論の的となっています。

こうしたケースにおいて、電力データをトラッキングすることは、DPP(デジタル・プロダクト・パスポート)やカーボンフットプリントなどの法規制対応における透明性を担保することにもつながります。「実際に環境負荷削減に貢献しているのか」を詳らかにすることで、企業の健全な経営を促進できるでしょう。

効率的なエネルギー管理をするため

電力供給のリアルタイムデータを細かく管理することで、発電源ごとの供給状況に応じて電力の配分を最適化し、需給バランスの効率化を図ることができます。

電気は発電と消費が同時に行われ、基本的に貯めることができません。そこで現在の仕組みでは、電力需要を予測して発電計画を立て、発電所の稼働や出力を調整して需給バランスを保っています。バランスが崩れて周波数に乱れが生じると、最悪の場合は大規模停電が発生してしまいます。

そのため、再エネによる電力供給が過剰になった場合、電力会社では発電量と使用量のバランスを保つべく、再エネの発電を一時的に停止する「出力制御」が起こり、非効率的なエネルギー管理となっています。

朝日新聞の集計によると、2023年に制御された電力量は全国で計約19・2億キロワット時に達しており、これは約45万世帯分の年間消費電力量に相当する量だそうです。こうしたエネルギーの廃棄を起こさないためにも、リアルタイムで再エネの発電状況を可視化し、その色付けされたデータを用いて、発電量の調整をすることが必要でしょう。

電気の購入者が生産者を選べる

電気の購入者が生産者を選べることも、電力の色分けがもたらすメリットといえるでしょう。2016年に行われた電力の自由化に伴い、消費者は自分で電気の生産者を選択して契約を結ぶことが可能になりました。

電気の小売業への参入が全面自由化されると、新規の小売業者は、トラッキングしたデータをもとに「地産地消」「地域間連携」「地域貢献」といった特色のあるプランを提供し、消費者の選択の幅が大きく広がる結果となりました。

今後は国内のみならず、国境の垣根を超えた電力供給も実現するかもしれません。

電力の色分けに潜む3つの課題

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電力の色分けには、いくつかの課題や障壁が存在します。これらを理解し、克服することが持続可能なエネルギー政策の推進に向けた重要な一歩となります。

データの信頼性

電力の色分けにおいて最大の課題は、データの正確性と信頼性です。正確な電力供給源や取引履歴を記録するには、様々なデータソースとの連携が必要です。しかしながら、そのなかのデータが不正確なものであった場合、要所要所で辻褄が合わなくなってしまいます。

日本では、企業を中心として一定の再エネニーズがあるものの、「本当に再エネ電源なのかどうか?」「原子力発電は含まれていないのか?」というような正確な属性をトラッキングして第三者が認証する仕組みはいまだ十分ではありません。また、トラッキングが不十分なことで環境価値が二重計上されてしまうケースもあります。

こうしたデータの一貫性や精度を確保することが難しいという問題は、常に電力の色分けについて回る課題だといえるでしょう。

システムの複雑さ

そもそも送配電の仕組みは技術的に複雑であり、送電時のロスなど複数の要因によって正確な電力量を把握することは容易ではありません。現在の技術では、電力の供給元を個別に識別して追跡するためのシステムが十分に確立されておらず、電力の色分けを難しくしている要因の一つとなっています。デジタルグリッドなどの新しい技術によって、電力の供給元をより詳細に特定する試みがされていますが、実現には多くの技術的および運用上の課題が残っています。

さらに、電力に関係する事業者が多いこともデータの統合をより困難なものとしています。電力自由化以前は特定企業が独占していた電気事業も、いまや様々なプレイヤーが参入しており、統一的なプラットフォームをイチから練り上げるのはもはや至難の業です。データ自体の取得以外にもこうした課題が潜んでいる点には注意が必要です。

法的・規制上の課題

法的課題もまた、電力の色分けに立ちはだかる課題となっています。電力に色を付けてトラッキングをするということは、電力そのものに情報を与えるということです。この際、個人の電力使用データが電力会社から第三者に開示される可能性があります。そのため、「どのような情報が開示されるのか」「誰がその情報にアクセスできるのか」「情報の漏洩対策」といった点について、予め明確なルールを設ける必要があります。

また、国際的なルールとも協調していく必要があります。電力に限らず、エネルギー市場では異なる法律や規制が存在し、これらが乱立しているケースも少なくありません。国内で統一的なルール作りを進めたとしても、国際社会においては基本的にEUやアメリカが主導した規則がスタンダードになっていくことが予想されます。したがって、ガラパゴスな制度となってしまわないよう、全世界的な枠組みとうまく調整していく姿勢が求められます。

電力の色分けにおいて「ブロックチェーン」の活用が注目されている

前述のような課題を克服するためには、技術的な革新が必要不可欠です。そのソリューションの一つとして現在、「ブロックチェーン」の活用が注目されています。データの信頼性と透明性を高めるこの技術は、持続可能なエネルギー政策の実現するうえで役立ちますが、あまり知名度は高くありません(ビットコインなど金融分野で名前を聞いたことがある方は多いかもしれませんが)。

ここからは、そんなブロックチェーン技術について解説します。

ブロックチェーン=管理者不要でデータを安全に記録・共有する技術

出典:shutterstock

ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術です。

ブロックチェーンはデータベースの一種ですが、そのデータ管理方法は従来のデータベースとは大きく異なります。従来の中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存されるため、サーバー障害やハッキングに弱いという課題がありました。一方、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、ハッキングにも強いシステムといえます。

また、ブロックチェーンでは、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。ハッシュ値とは、あるデータをハッシュ関数というアルゴリズムによって変換された不規則な文字列のことで、データが少しでも変わると全く異なるハッシュ値が生成されます。新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みると、それ以降のブロックのハッシュ値を全て再計算する必要があり、改ざんが非常に困難な仕組みとなっています。

さらに、ブロックチェーンでは、マイニングという作業を通じて、取引情報のチェックと承認を行う仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。マイニングとは、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムな値を代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しい値(ナンス)を見つけ出す作業のことで、最初にマイニングに成功した人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

このように、ブロックチェーンは分散管理、ハッシュ値、マイニングなどの技術を組み合わせることで、データの改ざんや消失に対する高い耐性を持ち、管理者不在でもデータが共有できる仕組みを実現しています。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

ブロックチェーンを使うと何が良い?

上述の通り、耐改ざん性に優れたデジタル技術であるブロックチェーンは、電力の色分けにおける最大の課題となっているデータの信頼性の問題を解決へと導きます。

現在、社会的責務に基づき、自社のサプライチェーン全体でCO₂排出削減を進めている企業は増加傾向にあります。しかし、対外的に公表をするのであれば、データベースで電力のトラッキングを行うだけでは完全に信頼性を担保することはできません。なぜなら、社内不正の可能性を排除しきれていないからです。

経営層が公表する数値を書き換えてしまうことは容易に想像できますが、サプライヤーや現場レベルにおいては、急進的に環境経営を主導する経営層とのギャップやプレッシャーから不正に手を染めてしまうケースも考えられます。似たようなケースでいうと、自動車業界における認証不正の問題も、過度に短い開発スケジュールや納期順守のプレッシャーから現場レベルで起こってしまった問題でした。

このような問題意識で見直すと、従来のデータベース管理システムはファイアウォールや物理的なセキュリティ(施設の施錠など)によってセキュリティを保つ一方で、管理者権限による改ざん、つまり内部不正のリスクを拭うことができません

それに対してブロックチェーンでは、ブロックをハッシュ値で結ぶデータ構造、加えて情報を記録する際にコンセンサスアルゴリズムという独自の承認が必要な仕組みになっているため、管理者であっても簡単にデータを書き換えることはできません。したがって、データの信頼性を担保するうえで非常に強力なツールとなるでしょう。

実際の電力色分けに関する当社事例を紹介!

ブロックチェーンの開発・導入支援を行っている当社においても、電力の色分けに関するご相談を多くいただきます。ここからは、過去に当社がブロックチェーンを用いて電力の色分けを実現した実際の事例についてご紹介いたします。

出光興産株式会社

出光興産株式会社では、再生可能エネルギー由来の電力を色分けし、分別供給するシステム「IDEPASS™」と、EVユーザー向けの充電システム「再エネチョイス™」を開発し、2023年4月から実証を開始しています。同システムでは、ショッピングモールや空港、庁舎といった施設において、供給される電力を再エネ電力とそれ以外の電力に分別し、利用者がどちらを使用するかを選択できる仕組みを提供しています。

従来の電力供給の仕組みでは、施設単位では使用電力の選択はできたものの、複数の入居者が存在する単一の施設に供給される電力については、テナントや部屋単位での使用電力の選択はできませんでした。また、電力の取引は一般的には30分単位で行われており、リアルタイム性に欠ける仕組みで記録されています。

しかし、「IDEPASS」においては、ブロックチェーン技術による高いトレーサビリティとデータの信頼性を活用することで、従来の類似システムよりも細やかな「分別単位」(分電盤設置単位)で供給電力を分別・可視化し、電力を分別供給することが可能になりました。また、取引の間隔についても発電から消費の流れを捕捉する電力取引管理システムを1分単位で運用することで、EV充電のようなごく短時間の電力供給においても再エネ電力の供給を選択することができます。このような仕組みにより、テナントごと、分電盤設置状況によっては部屋ごとに、ユーザー自身がどの電力を使用するのかを選択することができる仕組みが構築されています。

実証は種子島空港や南種子町役場で4年間にわたって実施される見込みであり、小規模オンサイトPPAの事業性、再エネ電力活用によるCO₂の排出削減、従量課金制充電の顧客満足・事業性等について検証を行う予定です。

当社では今後もこれらのシステムの全国展開を進め、低炭素エネルギーの地産地消推進と、EVユーザーと地域の充電事業運営者にとって最適なサービスの構築を目指していく方針です。

長州産業株式会社・山口日産自動車株式会社

山口県ものづくりDXトライアル実証プロジェクト(令和5年度)において、長州産業株式会社・山口日産自動車株式会社はブロックチェーン技術を活用したEV充電時の再生エネルギー利用率を見える化できるデータ基盤の実証を行いました。

このプロジェクトでは、将来山口県や複数企業での共同管理が可能なデータ基盤の構築を目指し、EV充電時の電力の色分け(再エネ or 系統電力)による環境価値への寄与を確認しました。

従来、企業のEV導入が進む中で、充電時の電力源(再生可能エネルギー or 系統電力)を把握することは困難でした。そのため、企業が脱炭素化を進める上で、EV導入における環境貢献度を正確に評価することができず、定期的な算定・報告・削減活動が難しい状況にありました。

実証ではこの課題を解決するために、耐改ざん性や透明性に優れたブロックチェーン技術を用いて、EV充電時の再エネ利用量を記録するデータ基盤を実証構築しました。具体的には各拠点で充電時の再エネ・系統電力消費量を計測し、計測結果をブロックチェーンに記録することで、特定の管理者に依存せずに運用・拡張が可能なオープンデータのプラットフォーム(再エネ利用記録基盤)の実用性を確認しました。

また、施設ごとの発電量やEV充電データを見える化した結果、新たなサービス案の検討にもつながるなど、EVの充電電力データの再エネ比率を確認できることで環境意識も向上しました。

現段階ではステーションデータのアップロードが手動で行われているため、自動でクラウドへ連携する技術の検討が必要になるなど課題も残されています。こうした課題を解決すべく、当社では今後も国や地方自治体との地域連携の仕組みづくりを通してユーザー利用のEVからの環境価値の収集を目指していきます。

まとめ

本記事では、再エネデータに必要な電力の色分けについての解説を行いました。この言葉は一般的にはまだ認知されていないかもしれませんが、エネルギー事業者の間ではホットなキーワードとなっており、次第に消費者の認知・理解も進んでいくことでしょう。

また、それと並行してブロックチェーン技術が発展することにより、電力の色分けはさらに進化し、持続可能なエネルギー政策の推進に寄与することが期待されます。透明性と効率性が高まり、再エネの普及にも一役買うでしょう。

トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

【2025年】ブロックチェーンの市場規模は?市場拡大の背景や活用先についても解説!

ブロックチェーン技術は、暗号資産を始め、フィンテック領域全般で活用されている技術です。近年では医療・ヘルスケアや不動産、ファッションなど非金融の分野でも実用化が進んでおり、一定の成果につなげている大企業も多いため、ますます注目度が高まっています。

しかし、ブロックチェーンという言葉の認知度が高まる一方で、自社ビジネスへの活用には至っていない、あるいは将来性に不安を感じているという方は多いことでしょう。これは技術そのものの市場規模が小さすぎる場合、参入のリスクが高くなってしまうためです。そこで本記事では、国内と世界におけるブロックチェーンの市場規模について解説していきます。

ブロックチェーン=管理者不要でデータを安全に記録・共有する技術

出典:shutterstock

ブロックチェーンの市場規模について解説する前に、そもそもブロックチェーンとはどういった技術なのかご存知でしょうか?

ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術です。

ブロックチェーンはデータベースの一種ですが、そのデータ管理方法は従来のデータベースとは大きく異なります。従来の中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存されるため、サーバー障害やハッキングに弱いという課題がありました。一方、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、ハッキングにも強いシステムといえます。

また、ブロックチェーンでは、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。ハッシュ値とは、あるデータをハッシュ関数というアルゴリズムによって変換された不規則な文字列のことで、データが少しでも変わると全く異なるハッシュ値が生成されます。新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みると、それ以降のブロックのハッシュ値を全て再計算する必要があり、改ざんが非常に困難な仕組みとなっています。

さらに、ブロックチェーンでは、マイニングという作業を通じて、取引情報のチェックと承認を行う仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。マイニングとは、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムな値を代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しい値(ナンス)を見つけ出す作業のことで、最初にマイニングに成功した人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

このように、ブロックチェーンは分散管理、ハッシュ値、マイニングなどの技術を組み合わせることで、データの改ざんや消失に対する高い耐性を持ち、管理者不在でもデータが共有できる仕組みを実現しています。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

ブロックチェーンの市場規模は一つじゃない!?

今まで見てきたように、ブロックチェーンは非常に幅の広い概念であり、その性質上、ビジネス活用の可能性も多岐に渡ります。それ自体は良いことなのですが、ここである問題が生じます。それは、ブロックチェーンのマーケットに関する情報を得るために複数のWebサイトや書籍をみてみると、大小異なる様々な市場規模予測がなされており、どの数字を参考にすべきか困ってしまうという問題です。

ブロックチェーンは、「インターネットと並ぶかそれ以上の技術的革新」と言われることもあるほどイノベーティブな技術です。したがって、その技術的可能性や実社会への応用可能性をどのようにみるか、どこからどこまでをブロックチェーンに関連した市場とみるか、といった視点によって市場規模の算出方法が大きく異なってしまうのです。

しかし、これからブロックチェーンを自社活用しようという人、あるいは新規事業の立ち上げを検討している人にとってみれば、市場規模の数字によって意思決定も左右されるでしょう。そこで次章以降では、資料間の偏りを割り引いて考えるべく、市場規模に関する複数の予測レポートを参照していきます。

国内のブロックチェーン市場規模

ブロックチェーン国内市場規模予測①:経済産業省

ブロックチェーンの国内市場規模に関するマーケット予測で最もポピュラーな資料は、平成28年4月28日付で経済産業省の商務情報政策局 情報経済課が発表した『我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備 (ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料』でしょう。

同資料では、大きく次の5つのテーマでブロックチェーンの社会変革・ビジネスへの応用が進むとした上で、それら5つのインパクトの合計として、将来的に国内67兆円の市場に影響を与えると予想されています

  1. 価値の流通・ポイント化・プラットフォームのインフラ化
  2. 権利証明行為の非中央集権化の実現
  3. 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現
  4. オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現
  5. プロセス・取引の全自動化・効率化の実現

この資料は、市場がまだ大きく形成されていない初期に発表されたこと、発表元が経済産業省であることから、複数の書籍や論文等でも引用され、ブロックチェーンの潜在的可能性に対する期待を膨らませる一つの要因になりました。

そして実際に、ブロックチェーンの応用可能性の広さとそのインパクトの大きさは資料の示す通りで、今後、金融分野にとどまらないあらゆる社会側面に広がっていくものと考えられます。しかし、この資料で言及されているのはあくまでブロックチェーン関連市場の話であって、ブロックチェーン市場そのものの規模予測ではないという点には留意が必要です。

ブロックチェーンはインターネット同様、それ自体で価値を発揮するというよりも、むしろその技術を何らかの既存ビジネスに応用することによって高い価値を生み出しうる技術です。そのため、「67兆円規模の市場に影響を与える」と聞くと強烈なインパクトがありますが、この数字にはブロックチェーンによる影響を受けているものの、内容自体はブロックチェーンと無関係、といったサービスなども含まれています

ブロックチェーンに限らず、市場規模を調べる際には、こうした「市場という言葉がどの範囲までを示しているのか」を適切に把握することが大切です。

ブロックチェーン国内市場規模予測②:株式会社矢野経済研究所

ブロックチェーンの国内市場規模に関する他の資料に、2022年1月28日に株式会社矢野経済研究所が発表した『2021 ブロックチェーン活用サービス市場の実態と将来展望』があります。経済産業省の資料とは異なり、ブロックチェーンを活用したサービスに焦点を当てた市場規模が予測されています。

同資料の調査結果サマリーによると、「2019年度までは、大手企業を中心にブロックチェーンの特性などを学んでいた最初期のフェーズにあった。実際に実証実験の多くが「お試し」の状況にあり、試行錯誤をしながらブロックチェーンに係る知見を吸収してきた」ことを理由に、2019年度の市場規模は171億8,000万円に留まったとしてます。

出典:株式会社矢野経済研究所「ブロックチェーン活用サービス市場に関する調査を実施(2021年)」

その一方で、ブロックチェーンに関する実証実験や先行事例が増加し、知見などが蓄積されていったことを受けてより本番に近い環境でサービスの検証へと進む大手事業者が出てきていることに着目し、「2025年度のブロックチェーン活用サービス市場規模(事業者売上高ベース)は7,247億6,000万円に達すると予測」しています。

また、今後の展望として「領域の面でもトレーサビリティや認証に留まらず、住宅の賃貸契約と公共料金などとのデータ連携をブロックチェーン基盤で構築し、水道や電気の利用開始を入居時に可能にするなど、さまざまな領域へと広がりをみせていく」としており、適用領域の拡大についても触れられています。

ここで重要なポイントは、ブロックチェーンのビジネス活用フェーズがいよいよ実証段階からビジネス化段階へ突入しているということです。ブロックチェーンは次世代のデータベースとして暗号資産の登場とともに急速にその知名度を拡大させてきました。しかし、革新的な技術であればあるほど、既存市場へと応用する際のハードルが高く、ビジネス活用でクリアしなければならない課題も多くなります。新たな技術が社会実装されるまでには、技術自体の登場から長い年月が必要なのです。

その観点でこの資料を読み解くと、ブロックチェーンの場合は、概念の認識、技術的理解の浸透、そして実証実験による知見の蓄積を終え、課題を修正しながらのサービス化が始まっていると理解できます。インターネットやモバイル端末がここ数十年で一気に普及していったように、ブロックチェーンの普及も急速に拡大していく様子が想像できるはずです。

経済産業省の資料では将来的なインパクトの予測であったのに対して、矢野経済研究所では現在にフォーカスした統計がなされているために数字に大きな開きがありますが、長いトンネルを抜けてイノベーションがついに始まるという、現在のブロックチェーン業界(あるいはブロックチェーン業界人の主観)をよく捉えた資料です。

ブロックチェーン国内市場規模予測③:株式会社 xenodata lab.

ブロックチェーンの国内市場規模に関して、別の資料をもう一つ紹介します。株式会社 xenodata lab.では、国内で初となる経済分野に特化した言語モデルによる生成AI『SPECKTLAM』を用いて、ブロックチェーンの市場規模を予測しています。

同社が発表している「ブロックチェーン業界AI予測分析サマリー」によると、ブロックチェーン業界の国内市場規模は2029年に1,699億円に達すると見込まれています。とくに成長率の内訳では、前述の矢野経済研究所でもフォーカスされていた「ブロックチェーン活用サービス」が大きな割合を占めており、この分野の成長が市場の拡大に寄与すると予測されています。

出典:ブロックチェーン業界AI予測分析サマリー

この市場成長について同社は、「プラス要因である社会・その他の具体的な要因は、InsurTech進展や偽薬流通対策需要増加、FinTech進展と予測」しており、「ブロックチェーン=ビットコイン」「ブロックチェーン=金融」といった、かつての浮き沈みの激しい投機的なイメージから、落ちついた非金融分野におけるブロックチェーン市場への期待へと移り変わりを見せていることを指摘しています

市場規模については他の調査結果と比べるとやや控えめな数字ではあるものの、AIを用いた調査方法においてもその成長性については高い評価が下されており、調査主体にかかわらず、ここ数年で大きな市場成長が見込まれていることがおわかりいただけるでしょうか。この統計もまた、日本国内におけるブロックチェーンに対する期待の高まりを示している資料といえるでしょう。

世界のブロックチェーン市場規模

ブロックチェーン世界市場規模予測①:株式会社グローバルインフォメーション

次に、日本から海外へと目を転じてみましょう。世界のブロックチェーン市場は、 欧米や中国を中心として技術的発展、市場規模ともに日本よりもはるかに進んでおり、すでに国際的大企業による大規模なブロックチェーンプラットフォームのローンチなどの動向が見られています。

こうした世界市場のマーケット規模に対する統計の一つとして、株式会社グローバルインフォメーションでは、世界のブロックチェーンの市場について分析し、市場の基本構造や最新情勢、主な市場促進・抑制要因、コンポーネント別・プロバイダー別・種類別・組織規模別・用途別・地域別の市場動向の見通し、市場競争の状態、主要企業のプロファイルなどを調査したレポート(有料)を発表しています。

出典:株式会社グローバルインフォメーション「ブロックチェーンの世界市場:コンポーネント別 (プラットフォーム、サービス)・プロバイダー別 (アプリケーション、ミドルウェア、インフラ)・種類別 (パブリック、プライベート、ハイブリッド)・組織規模別 (中小企業、大企業)・用途別・地域別の将来予測 (2027年まで)

同社によると、「ビジネスプロセスの簡素化と、ブロックチェーン技術とサプライチェーン管理のニーズの高まりが、ブロックチェーン市場全体を牽引することにな」った結果、「世界のブロックチェーンの市場規模は、2022年の74億米ドルから、2027年には940億米ドルまで、66.2%のCAGRで成長する」と予測されています。

また、同社の別のレポートでは、北米を中心とした市場における銀行・金融セクターでのマーケット維持を土台に、プライベートブロックチェーンの台頭、SEMs(中小企業部門)の高成長が市場に成長をもたらすとの見方を示しており、特にプライベートブロックチェーンに関して、次のように言及しています。

2020年に市場規模が最大になると予測されているプライベートブロックチェーンは、ユーザー権限などでセキュリティが確保された共有データベースまたは台帳としての役割を持ちます。通常、関連する組織のみが知っているプライベートキーを使用することで、そのセキュリティが守られます。ブロックチェーン技術の一種であるプライベートブロックチェーンは、書き込み権限は単一の組織に一元管理され、読み取り権限は、組織の使いやすさに基づいて制限されます。そのブロックチェーン技術を企業間のユースケースに活用するという点で、企業にとってより多くの機会を提供します。

出典:ブロックチェーンの市場規模、2025年まで397億米ドルに成長、CAGRも67.3%を記録する見込み

実際に、日本でも、プライベートブロックチェーンに対する取り組みが各業界の先進的な企業によって進められ始めています。この時期にブロックチェーンに対する投資を行えていたかどうかが、10年先の企業の未来を変えるかもしれません。

ブロックチェーン世界市場規模予測②:Panorama Data Insights

ブロックチェーンの世界市場規模を予測する他の資料に、2022年にPanorama Data Insightsが発表した「ブロックチェーン技術市場-世界の機会分析および2030年までの産業予測」があります。

同社によると、「2021年のブロックチェーン技術の世界市場規模は67. 8億米ドルであったブロックチェーン技術の世界市場規模は、2022年から2030年までの予測期間中に85%の複合年間成長率(CAGR)で成長し、2030年には1,539.4億米ドルに達する」と予測されています。

また、同社は地域別のブロックチェーン市場に対する分析として、「アジア太平洋地域は大きな成長を遂げるでしょう。最近では、中国、日本、インドなどの国々の政府がブロックチェーン技術の利用を促進しています。これらの国の政府は、ブロックチェーンが様々な産業にもたらす効率性や透明性の向上などの利点から、ブロックチェーンの利用を推進しています。」と述べており、世界のブロックチェーン市場拡大の鍵を握っているのは、アジアであるとの見方を示しています

さらに注目したいのが、同レポート内でCOVID-19パンデミック下のワクチン管理を例に、非金融分野へのブロックチェーン導入の有用性について触れられていることです。もともとは世界最初の暗号資産であるビットコインを実現したテクノロジーのひとつであったブロックチェーンですが、2024年現在では、ブロックチェーン業界では、複数の非金融領域における市場の創出・拡大が進んでいます。近い将来、自社のビジネスがブロックチェーンに対応しているか否かで、明暗が分かれてくる可能性があります。

なぜブロックチェーン市場が拡大したのか?|3つの成長理由

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近年の先端技術のマーケットは移り変わりが激しく、一時期注目を集めたテクノロジーであってもあっという間に衰退してしまう、あるいは代替技術に飲み込まれてしまうことも少なくありません。そんななか、ブロックチェーンは着実にその市場を年々拡大させています。ここからはブロックチェーン市場の成長理由を3つに分けて紹介します。

規制環境の変化

ブロックチェーン市場の拡大要因の一つとして、規制環境の変化が重要な役割を果たしています。近年、多くの国々がブロックチェーン技術の潜在的な利点に注目し、研究開発や導入を支援する動きが活発化しています。その流れを受け、政府が積極的に関連する法的枠組みや規制への介入を図ることで、市場の安定性と信頼性が向上しました。

日本においても改正金融商品取引法によって暗号資産に対する規制が強化され、投資家や企業がより安心してブロックチェーン関連の事業に参入できる環境が整いました。

また、環境政策に関連して欧州ではサプライチェーン上の温室効果ガス排出量の可視化やDPP(デジタルプロダクトパスポート)を義務化するなど、規制強化が進んでいます。こうした「透明性が必要」「改ざんされてはならない情報」が誕生しつつあることも、ブロックチェーン業界には追い風になっています。

こうした国内外の様々な要因が相互に関係し、規制環境が整備されることによって、ブロックチェーン市場に新たなビジネスチャンスやイノベーションが生まれる基盤が整いました。

内外様々な技術革新

ブロックチェーン技術は、当初は処理速度が遅く、スケーリングが難しいという課題がありました。しかし、近年では、ShardingやLayer 2ソリューションなどの技術革新により、処理速度とスケーラビリティが大幅に向上しています。これにより、より多くのユーザーやアプリケーションがブロックチェーンを利用できるようになりました。

また、ブロックチェーン自体は次世代のデータベースに過ぎず、単独で新たなビジネスアイデアを具現化するというよりは、その他の技術と結びつくことでよりその真価を発揮します。なかでも、人工知能(AI)とIoT(モノのインターネット)は、ビッグデータと呼ばれる巨大なデータ群を扱う上でブロックチェーンと相性が良く、これらの発展に伴ってブロックチェーンの活用範囲が拡大しました。

こうした、ブロックチェーンを取り巻く諸所の技術革新によって適用領域が増えてきたというのも、ブロックチェーンの市場規模拡大に大きく関与しているといえるでしょう。

ビジネスニーズとユースケースの多様化

様々なレポートでも言及されているように、金融分野以外の適用先が生まれたことが、昨今のブロックチェーンの広まりを大きく支えています。多くの企業や産業が、ブロックチェーン技術の耐改ざん性・分散性が持つ可能性に着目し、実証実験を行った結果、その有意性が社会全体に浸透することとなりました。

実証実験や海外の先行事例が輸入されることで、それまでは社内の「技術屋」の人間しか本質を見ていなかった部分を経営層や顧客までもわかりやすく理解することができ、ここ数年で一気にビジネス化のハードルが引き下げられたといえるでしょう。

ブロックチェーンの非金融分野への適用先

ブロックチェーン技術は、その分散性や耐改ざん性といった特性を活かして、金融サービスのみならず様々な分野で応用が進みつつあります。ここからは2024年現在に金融分野以外で活用されている主なブロックチェーンの適用先をご紹介します。

トークン

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暗号資産の世界では、既存のブロックチェーン技術を利用して新たに発行された暗号資産のことをトークンと呼びます。これらは、ビットコインやイーサリアムといった既存ブロックチェーンのシステムを間借りして発行されており、独自のブロックチェーンを持ちません。例えるなら、企業が独自に発行しているポイントに近いものです。

トークン自体は自由に売買することができ、決済に使用するだけでなく現実世界の資産やゲーム内の仮想アイテムなど、多くの実用性を兼ね備えています。ここ最近、「トークン」という言葉をよく耳にするようになった背景としては、ブロックチェーンの適用先となったことが大きな要因といえるでしょう。

従来のトークンは第三者による改ざんが重大な弱点であり、コピーガードやOPニス、擬似エンポスといった対策が取られてきました。しかし、それでもなお物理的な形を要するギフトカード等は偽造品による被害が相次いでおり、その公平性が保たれにくいという課題がありました。

耐改ざん性や透明性といった性質を兼ね備えるブロックチェーン技術によって発行されたトークンではこういった不正行為は極めて困難です。この唯一性の担保をうまく活用し、デジタルチケットやデジタル証券、デジタル身分証など幅広い用途に用いられています。

詳しくは以下の記事で解説しています。

偽造品対策

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「データが改ざんされにくい」ということは「データが結びつく対象が本物である」と証明できるということです。この性質を利用しているのがブランド保護・偽造品対策の分野です。

従来のブランド保護には、製品ごとに付与されたシリアルナンバーが記載されたギャランティカードを発行する形式が主流となっています。

この形式では、店舗側はシリアルナンバーをもとに購入者名、購入した品物、購入日を管理しているため、正規品か否かを照合することが可能になっています。また、バッグや財布などを修理に出す際に提示することで、正規店でのサポートが受けられるという利点もあります。 

一方で、最近ではギャランティカードの偽物も出回るようになってきています。ギャランティカードはただの数字が印刷されたカードに過ぎず、直接製品に刻まれているわけではありません。そのため、番号が実在するものであれば、いくらでも複製できてしまうのです。

それに対してブロックチェーンによるデータ管理では、リアルの製品にかざすだけでデータ通信が可能な、安全性の高い「NFC(Near Field Communication)」「RFID(Radio frequency identifier)」といった技術と合わせて使用することで、ユーザー自身がブロックチェーン上の安全なデータにアクセスし、唯一無二の価値をもつ正規品であることを確認できます。

こうした手軽に導入でき、高いパフォーマンスを発揮するブロックチェーンは近年、様々な業界で真贋証明プラットフォームの中核技術として利用され始めています。現在は主に高級な製品へ用いられることが多いですが、食品や、健康や美容など人体に直接関わる領域では、比較的安価な製品に対してもブロックチェーンを導入した対策が取られるかもしれません。

詳しくは以下の記事で解説しています。

医療・ヘルスケア

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医療・ヘルスケア分野は非金融ブロックチェーンの導入が進む業界の一つです。昨今の日本では、高齢化や医療サービスの充実に伴い、日本人の平均寿命と健康寿命の差は約10年もあります。そのため、年々医療サービスの仕事量が増加しており、この状況を放置すると医療サービスの需要と供給のバランスが崩れ、医療崩壊を引き起こしかねません

こうした現状を踏まえて医療業界では、予防医療に力を入れ医療崩壊を防ごうという考えが広まっています。予防医療の真価を発揮させるには、ヘルスケアデータを患者・医療施設・医療施設の間でシームレスに共有してうまく活用できるようにするシステム変革が必要です。

一方で医療で扱う情報は、個人情報の中でも特に高い秘匿性が要求されます。したがって、中央集権型のシステムと同等かそれ以上のセキュリティ要件を満たしながら情報を分散管理できる仕組みが必要です。こういった点において、ブロックチェーンはその要件にマッチしているため、国内外で多くの注目を集めています。

とくに行政サービスデジタル化の先駆けとして知られる国家・エストニアではヘルスケア分野における取り組みにはブロックチェーンを用いて安全かつ迅速なデータ管理を行っており、現在では処方箋の99%がオンラインで発行されているなど、国家レベルでもブロックチェーンの導入が行われています。

詳しくは以下の記事で解説しています。

エネルギー

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「なぜブロックチェーン市場は拡大したのか?」の章でも軽く触れましたが、ブロックチェーンを用いてエネルギーの調達由来や、再生エネルギーによって削減された温室効果ガスの排出量をリアルタイムに監視する動きが広がりつつあります

もちろん単なるエネルギーのトレーサビリティ実現であれば、通常のデータベースでも実現可能です。しかし、こうした脱炭素経営は消費者や投資家からの大きなリターンにも期待できるため、「グリーンウォッシュ」などの不正の温床にもなり得ます。

こうした不正を防止し、各制度の枠組みや国境の垣根を超えて正しく削減した事業者が正しく評価されるためには、ブロックチェーンを用いて透明性や信頼性を担保する必要性があるでしょう。

現在、国内における環境価値を取引できる証明制度には「非化石証書」「J-クレジット」「グリーン電力証書」の3つがありますが、日本卸電力取引所(JEPX)では、数年後を目処として非化石証書のブロックチェーンによるトラッキングを実現する方針を打ち出しています。

各制度については下記の記事で解説しています。

デジタルアイデンティティ

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近年、中央集権的な個人情報の管理については「データのセキュリティリスク」「テータ主権」の観点から批判的な見方が広がりつつあります。そんな時代において、行政機関やGAFAなどの大企業によるデータの一括的管理に対抗する手段としてブロックチェーンが注目されています。

ブロックチェーンを用いたデジタルアイデンティティの管理では、情報を分散的に管理し、公開鍵暗号方式によってデータの安全性を担保しているため、個人のデータ主権を保ちながらオンライン上での個人情報のやり取りを可能にします。

さらにブロックチェーンは、VCs(Verifiable Credentials)やDID(Decentralized Identifier)、ゼロ知識証明といった技術と組み合わさることで、その利点を余すことなく活用できます。

ブロックチェーンを採用したデジタルアイデンティティのプロジェクト事例は増えており、技術の進歩とともにそのユースケースや参入企業も多様化していくことでしょう。今はまだ開発段階の技術ですが、今後のさらなる実用化に大きな期待が寄せられます。

VCsやDIDといった周辺知識については下記の記事でも詳しく解説しています。

まとめ:ブロックチェーンはさらなる市場規模拡大によって、より身近な存在へ

今回は国内と世界におけるブロックチェーンの市場規模について解説しました。

これまで見てきたように、ブロックチェーン市場は今後ますます拡大していくことが予想されます。そして、その成長は市場規模の拡大にとどまらず、私たちの生活に密接に関わる様々な分野に革新をもたらすことでしょう。

ブロックチェーン技術はまだまだ発展途上ですが、その可能性は無限大です。今後も最新情報のキャッチアップを心がけましょう。

トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

デジタルツインとは?仕組みやメタバースとの違い、デジタルツインを支える周辺知識まで徹底解説!

デジタルツインというキーワードをご存じでしょうか?近年、IoTやAI、5Gといった技術の革新には目を見張るものがありますが、こうしたイノベーションを背景に、様々な業界でデジタル化・DX化が進行しています。こうしたビッグトレンドの中核を担う技術が、物理世界の環境を仮想空間でモデル化した「デジタルツイン」です。

そこで今回は、なぜ多くの分野でデジタルツインが注目されているのかが理解できるように、デジタルツインの概要やメリット、周辺知識や事例までわかりやすく解説します。本記事を読めば、デジタルツインの基礎知識だけでなく周辺知識も漏れなくキャッチアップできます。デジタルツインへの理解を深め、DX推進やブロックチェーン技術導入に役立ててください。

    デジタルツインとは?

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    デジタルツイン=現実に存在するものとそっくりなデジタル上の双子

    デジタルツインは、物理世界の実体(製品、システム、各種データなど)をデジタル的にモデル化・可視化したものです。現実世界の対象物のデジタルデータをIoT技術を駆使してリアルタイムに収集し、仮想空間上で鏡のようにそっくりに再構築して高度なシミュレーションなどを行う概念であることから、「デジタルの双子(ツイン)」と名付けられています。

    たとえば、航空機のデジタルツインでは実際の飛行中のデータやエンジンの状態をリアルタイムでシミュレートし、運航データの最適化やメンテナンスの予測が可能になります。これにより、航空会社は運用効率を向上させ、故障やトラブルの予知・防止につなげることができます。

    シミュレーションやメタバースとはどう違う?

    デジタルツインとよく似た概念に、「シミュレーション」や「メタバース」があります。どちらもモデルを扱う概念であるものの、それぞれ違う特性があります。

    まず「シミュレーション」は、現実世界のシステムやプロセスを計算上のモデルや仮想空間で再現することを指します。そのため、現実空間における未来の変化をサイバー空間での実証試験により推測するという点ではデジタルツインもシミュレーションの一環といえますが、シミュレーションは想定できるシナリオを基に再現や実験などを行います。また、実際にシミュレーションを行う際には人の手が必要になりますし、場合によっては専用の設備を準備しなければなりません。

    一方で、デジタルツインは現実空間のリアルタイム情報を仮想空間に連動させてシミュレーションを行います。想定したシナリオが基ではなく、現実空間でおきているリアルな情報を基としているので、現実的なシミュレーションが可能となります。また、デジタルツインはIoTを活用して情報収集を行えるため、人手も不要でリアルタイムのシミュレーションが可能になります。

    また「メタバース」は、現実世界を模倣した集団参加型のデジタル空間のことを指します。この言葉は、「超越」と「高次元」を意味する「メタ(meta)」と、「宇宙」や「世界」を表す「ユニバース(universe)」を組み合わせた造語であり、メタバースではユーザーは自分のアバターを通じて仮想空間で活動し、商品の取引や他者とのコミュニケーション、イベントの開催などが可能です。

    メタバースは、現実とは何の関係もない世界や存在するはずのない要素を加えたもの(架空都市やゲームの世界など)を構築することもありますが、デジタルツインはこれらとは異なり、特定の実在するオブジェクトやプロセスのデジタルなレプリカであり、現実世界とデジタル世界をリンクさせる役割を果たします。物理的な対象のデジタルモデル化とそのリアルタイムな監視・管理に焦点を当てた概念であるため、工場の生産ラインや建物の運用など、リアルな対象の運営で活用が期待されています。

    デジタルツインの市場規模は拡大している

    デジタルツインは近年急速に成長しており、その市場規模は拡大の一途を辿っています。総務省の資料によると、世界のデジタルツインの市場規模は2025年には約3兆9,142億円に達すると見られ、2020年の約2,830億円と比べると、ここ数年で一気にデジタルツインが浸透していくという予測が立てられていることが分かります。

    また、FORTUNE BUSINESS INSIGHTSが発表しているエンドユーザー別のデータを見てみると、航空・防衛事業や自動車・輸送業、製造業がデジタルツインの導入をリードしており、工場や設備の効率化・最適化を目指して積極的に活用されています。これらに比べるとまだまだ小規模ではありますが、不動産業やエネルギー産業などでもデジタルツインの採用が進みつつあります。

    出典:FORTUNE BUSINESS INSIGHTS

    こういった市場の成長は、IoT(Internet of Things)技術、3DモデリングやAI(Artificial Intelligence)の進化に伴い、データの収集や解析がよりリアルタイムかつ効果的に行われるようになったことが大きな要因です。また、COVID-19の影響によりリモート作業やデジタル化の需要が高まったこともデジタルツイン市場の発展を後押しした形といえるでしょう。今後もさらに多くの産業でデジタルツインが導入されることが予想されます。

    デジタルツインがもたらすメリット

    出典:Pexels

    デジタルツインの概要について理解したところで、次はデジタルツインによって各業界にどのようなメリットがもたらされるのかについて見ていきましょう。ここでは大きく分けて

    • 設備保全のクオリティ向上
    • 製造コスト・リードタイムの削減
    • 関係者間のコミュニケーション円滑化

    という3つのポイントについて説明していきます。

    設備保全のクオリティ向上

    デジタルツインは設備保全のクオリティの面で大きなメリットをもたらします。従来の保全手法では、定期的な点検や予防保全が行われることが一般的でした。計画的に設備を保全できる一方で、点検は人の目に頼る面があり、大規模になればなるほど保全の労力も大きいものになります。

    デジタルツインを活用すれば設備の稼働状況やセンサーデータをリアルタイムで収集・分析できます。設備環境を可視化することで、より簡単で正確に故障や劣化を察知することができます。これにより、従来の定期点検では発見できなかった潜在的な問題も早期に発見し、的確な保全処置を講じることが可能になるでしょう。

    製造コスト・リードタイムの削減

    デジタルツインを活用すれば、より安価で迅速にサービスを提供できるようになるかもしれません。なぜなら、デジタルツインは製造プロセス全体をデジタル上で再現するため、生産ラインの効率化や無駄の排除が可能となるからです。

    従来の手法で試作品を製作しようとすると、設計図面の作成から材料の調達、加工に組み立てなど、多くの工程が必要となります。これらの工程にはそれぞれ時間とコストがかかり、設計変更を行うたびに繰り返す必要がありました。とくに実物の準備にあたる部品等の成形には、設計変更による負担が大きくのしかかります。

    一方でデジタルツインを導入すれば、仮想空間上でシミュレーションを行い、試作品製作に関わる時間を大幅に削減することができます。シミュレーション結果に基づいて設計を最適化することで、材料の使用量や加工時間を減らし、開発期間や開発費用を劇的に削減することができるでしょう。

    関係者間のコミュニケーション円滑化

    デジタルツインは、設計部門、製造部門、営業部門など、製品開発に関わる全ての関係者が同じ仮想空間上で情報を共有することができます。そのため、各部門間のコミュニケーションが円滑になり、意思決定の迅速化や開発プロセスの効率化を実現することができます。

    従来のコミュニケーションでは情報の共有が非同期的に行われていました。つまり、関係者が異なるタイミングで情報を受け取ることが一般的で、プロジェクトや製品に関する情報が各関係者の手元に揃うまでに時間がかかってしまい、意思の疎通に問題のあるケースが多々ありました

    一方でデジタルツインは、製品やプロセスのリアルタイムなデジタルモデルを提供します。関係者はこの共通のデジタル環境を利用してリアルタイムでデータや情報を共有し、製品やプロセスの状態を可視化することができます。これにより、問題や課題に対する共通理解が深まります。

    さらに、異なる専門分野のエンジニアやデザイナーが、仮想空間上で共同で作業することも可能になります。これにより、従来では考えられなかったような革新的なアイデアが生まれる可能性も高まるでしょう。

    デジタルツインに欠かせない技術

    デジタルツインはあくまでモデル化の概念にすぎません。この仕組みを確立するうえでは、様々な技術や概念が深くシステムに関係しています。しかし、これらの技術はWeb3.0時代の新たな技術でもあり、従来のデジタル技術では聞き馴染みのない用語も出てきます。そこでここからは、デジタルツインを実現するうえで欠かせない以下の要素技術について説明していきます。

    • IoT
    • AI
    • AR/VR
    • 5G

    IoT

    出典:shutterstock

    「IoT」とは「Internet of Things」の略語で、日本語で「モノのインターネット」と訳されます。これは、従来インターネットに接続されていなかった様々なモノ(センサー機器、駆動装置、住宅・建物、車、家電製品、電子機器など)が、ネットワークを通じてサーバーやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換をする仕組みです。

    IoTとデジタルツインはそれぞれ別々の生い立ちがありますが、そもそもデジタルツインで高精度な仮想空間を作るためには多くのデータが必要です。そのため、IoTであらゆるモノのデータを収集し、仮想空間に反映し続けることは、デジタルツインの実現に不可欠の技術であるといえます。大規模なIoTデバイスネットワークを構築することで、デジタルツインのリアルタイム性かつ正確性も大きく向上することでしょう。

    このようにIoTとデジタルツインは相互に補完しあう技術であり、産業分野以外にもスマートシティや自動運転などのさまざまな領域で革新的なサービスやアプリケーションの実現に向けて重要な役割を果たしています。

    AI

    出典:shutterstock

    「AI」とは「Artificial Intelligence」の略語で、日本語に訳すと「人工知能」です。厳密な定義がある訳ではありませんが、一般的にはその名の通り、機械が人間の知的な能力を模倣し、学習、推論、問題解決などのタスクを実行できる技術やシステムのことを指します。

    AI最大の特徴は、自己学習能力を備えていることです。AIの生みの親であるジョン・マッカーシー教授が「人間の脳に近い機能を持ったコンピュータープログラム」と表現しているように、AIシステムは大量のデータを用いてパターンや規則を学習し、その学習結果を元に新しいデータに対する予測や意思決定を行います。

    この特徴によって、AIは時間とともにより正確で効率的な動作を行うようになります。AIの学習モデルは単なる反復学習ではなく、機械が自律的に学習する能力を備えているため、新しいデータや状況に直面した際に自己学習を通じて適切な対応や判断を行います。したがって、変化する環境に柔軟に対応しながら自身の動作を常にアップデートできるというわけです。

    デジタルツイン上でAIによるシミュレーションを行うことで、現実世界では困難な実験や検証を安全かつ効率的に行うことができます。シミュレーション結果に基づいて設計や製造プロセスを最適化することで、品質向上やコスト削減も期待できるでしょう。

    また、人間的な脳機能を作り出す技術であるAIですが、時には私達の想像しないようなクリエイティブな才能を発揮することもあります。デジタルツインとAIを活用することで、従来では考えられなかったような新製品や新サービスを開発することも可能になるかもしれません。

    AR/VR

    出典:Unsplash

    ARとは「Augmented Reality」の略語で、日本語では「拡張現実」と訳されます。これは現実世界を立体的に読み取り、仮想的に拡張する技術のことです。読み取りには主にスマートフォンやタブレットのカメラが用いられ、現実世界にデジタル情報を重ね合わせて目の前の風景に3DCGや各種情報を表示させることができます。

    ARは、製品デザイン、トレーニング、建築などの世界でビジネス用途に使われているケースもありますが、現時点ではエンターテインメントの世界で使われることが圧倒的に多くなっています。

    たとえば「Pokémon GO」がリリースされた際には、ARを活用してポケモンと一緒に写真を撮ったり、捕獲シーンにリアリティをもたせるなど、多くの人がまるで現実世界にポケモンがいるかのようなゲーム体験をしました。また「Instagram」では、フィルター機能を活用して動物の耳がついているような写真やかわいいエフェクトを使って「盛れる」体験をした事がある人も多いのではないでしょうか?

    似たような概念にVRもありますが、こちらもデジタルツインを支える技術です。VRは「Virtual Reality」の略で、「仮想現実」と訳されます。VRはコンピュータによって生成された仮想空間を、あたかも自分がその中にいるかのように体験できる技術であり、ヘッドセットと呼ばれるゴーグルを装着することが一般的です。

    VRには流れている3D映像を視聴する「視聴型」と、映像の中を自由に歩き回ったり、映像内で様々なアクションを起こせる「参加型」があり、こちらもAR同様、エンターテインメント(とくにゲーム)の世界で使われることが圧倒的に多くなっています。

    こうしたAR/VRの技術がデジタルツインと組み合わさることによって複雑な3Dデータを直感的に操作したり、理解することが可能になります。デジタルツインが持つ情報量や複雑さを生かしながら、高いクオリティでシミュレーションやトレーニングなどが実現できるでしょう。

    5G

    5Gとは、第5世代移動通信システム(Fifth Generation Mobile Networks)の略称であり、次世代のモバイル通信技術のことを指します。5Gは従来のモバイル通信規格である4G(LTE)を進化させ、より高速なデータ通信や低遅延、大容量通信などの特性を持つ新しい通信規格です。

    最近では、スマートフォン等から5Gを利用できるエリアもあるため、実際に触れてみたという方もいらっしゃるかと思いますが、5Gの主な特徴は以下の通りです。

    • 高速通信: 5Gは理論上最大10 Gbpsの高速通信速度を実現します。これにより、大容量のデータや高画質のコンテンツを高速で送受信することが可能となります。
    • 低遅延: 5Gは遅延時間を極力短くすることが特徴です。特にIoT(Internet of Things)や自動運転車、リアルタイムゲームなど、遅延が重要なアプリケーションにおいて顕著な効果が期待されています。
    • 大規模接続: 5Gは1平方キロメートルあたりの接続台数を1万台以上まで増やすことが可能です。これにより、IoTデバイスやスマートシティの実現が加速されます。
    • 大容量通信: 5Gは高い周波数帯域を使用するため、大容量のデータ通信が可能です。これにより、高画質の動画ストリーミングや仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などの利用が拡大されます。

    デジタルツインはリアルタイムで物理システムのデータを収集し、仮想モデルを継続的に更新する必要があります。そのため、5Gで実現できる高速通信と低遅延は、デジタルツインのスムーズなデータ共有において重要な役割を果たします。5Gの登場によって、遠隔操作やリモートアクセスといったデジタルツインの新たな可能性が開かれています。

    デジタルツインの事例

    SAP

    出典:SAP

    2023年12月19日、ドイツのIT大手であるSAPと農業ソリューション企業VISTA(BayWa傘下)は、人工衛星画像とAIを活用した革新的な農業デジタルツインソリューションの共同提供を発表しています。

    このサービスでは、衛星画像とAIを活用したアルゴリズムを使用して土壌の品質、作物の種類と健康状態、水の利用可能性、気象条件といったデータをもとにデジタルツイン上で収穫のシュミレーションを行っています。

    事前に収穫予測を立てることで、現在の気候と作物条件に合わせた土壌準備や施肥、収穫時期などを自動で最適化することができます。リアルタイムのデータ取得により、作物の栽培中に予想外のアクシデントが起きたとしても適切な食料生産が持続できるように常に分析が行われます。

    同社では今後、水資源の管理や肥料などに対する政府補助金の正確な支払いといった分野への応用も視野に入れているそうです。

    東京都

    出典:デジタルツイン実現プロジェクト

    変化が激しく先行き不透明な社会情勢の中で、少子高齢化・人口減少、人流・物流の変化、気候変動の危機、首都直下型地震への備えなど、東京都は多岐にわたる課題への対策を余儀なくされています。これらの課題を解決するために、東京都ではデジタルツイン技術を活用した「東京都デジタルツイン実現プロジェクト」を推進しています。

    なかでもとくに注目を集めているのが「東京都デジタルツイン3Dビューア」です。この3Dビューアでは、データを選択して3D地図上に追加することで様々な角度から建物や都市全体を俯瞰できます。現在はベータ版のみの公開ですが、東京都の特設サイトから誰でも利用することができるため、これまでただデータを地図上で見ているだけでは気づかなかった新たな発見もできるでしょう。

    また、データは様々なオープンデータや公開データ以外にも、手元にあるCSVやKML形式のローカルデータをアップロードして可視化することもできます。その結果やデータなどの内容をリンクで共有する機能も備わっているため、令和6年能登半島地震が発生した際には、ビューア上の能登半島地震の被害状況に関する地理空間データが復旧・復興活動などに活用されました

    2021年のサイト開設以来、掲載データはどんどんアップデートされており、火山ハザードマップや寡占のリアルタイムデータ等も続々公開されています。今後も東京都では、デジタルテクノロジーを駆使したサイバー空間とフィジカル空間を融合により、東京の課題解決と都民のQOL向上を目指していく模様です。

    東京都デジタルツイン3Dビューア

    キッコーマン

    出典:Matterport DISCOVER

    キッコーマン食品株式会社では、アメリカ・カリフォルニア州に本社を構える世界的な大手空間データ会社マーターポートが提供する「Matterport キャプチャーサービス」を活用し、しょうゆ造りを続ける「御用醤油醸造所」(御用蔵)のデジタルツインを構築しています。

    御用蔵は1939年に宮内省(現・宮内庁)に納めるしょうゆの専用醸造所として建設されました。老朽化に伴い、2011年には移築工事を行ったものの、しょうゆを仕込む木桶や屋根の小屋組み、屋根瓦などは移築前のものを使用しており、現在も伝統的なしょうゆ造りの製法で宮内庁に納める「御用蔵醤油」を醸造しています。

    こうした蔵の外観や内装など細かな部分の撮影を行い、マーターポート社のテクノロジーで全自動的に合成することで、ウェブブラウザー上でデジタルツインとして見れるようになっています。衛生面の観点から立ち入ることができない仕込室もバーチャル上で見学することが出来ます。

    一般的なメタバース体験と異なる点は、細部まで再現するこのデジタルツインでは、修繕やメンテナンスの際に関係各所とデジタルツインを共有し、デジタルツイン上で空間の寸法の計測や、デジタル空間内に指示の書き込みが可能な点です。これにより、単なるエンタメ消費にとどまらず、コミュニケーションの迅速化や出張費のコスト削減といった活用先が提供されています。

    デジタルツインとブロックチェーンの統合が進む

    近年、とある技術がデジタルツインと相性が良いのではないかと注目を集めています。それが「ブロックチェーン」です。ブロックチェーン自体はデジタルツインに必要不可欠な技術ではありません。しかし、ブロックチェーンの「ある特性」によってジタルツインへのブロックチェーン導入が加速しつつあります。ここからは、こうした注目の次世代データベースであるブロックチェーン技術について詳しく解説していきます。

    ブロックチェーン=管理者不要でデータを安全に記録・共有する技術

    出典:shutterstock

    ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術です。

    ブロックチェーンはデータベースの一種ですが、そのデータ管理方法は従来のデータベースとは大きく異なります。従来の中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存されるため、サーバー障害やハッキングに弱いという課題がありました。一方、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、ハッキングにも強いシステムといえます。

    また、ブロックチェーンでは、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。ハッシュ値とは、あるデータをハッシュ関数というアルゴリズムによって変換された不規則な文字列のことで、データが少しでも変わると全く異なるハッシュ値が生成されます。新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みると、それ以降のブロックのハッシュ値を全て再計算する必要があり、改ざんが非常に困難な仕組みとなっています。

    さらに、ブロックチェーンでは、マイニングという作業を通じて、取引情報のチェックと承認を行う仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。マイニングとは、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムな値を代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しい値(ナンス)を見つけ出す作業のことで、最初にマイニングに成功した人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

    このように、ブロックチェーンは分散管理、ハッシュ値、マイニングなどの技術を組み合わせることで、データの改ざんや消失に対する高い耐性を持ち、管理者不在でもデータが共有できる仕組みを実現しています。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    なぜ「デジタルツイン ✕ ブロックチェーン」?

    デジタルツインとブロックチェーンは、両者の強みを組み合わせることでさらなる価値を生み出します。前述の通り、デジタルツインには様々な情報を集積させて仮想空間を創造します。そのなかには企業しか知り得ない製品情報や、ユーザーのプライバシー情報なども含まれることでしょう。このようなシステムにおいて絶対に避けなければならないのは情報の流出・改ざんです。ここでブロックチェーンが重要な役割を果たします。

    ブロックチェーンは分散型の台帳であり、高いセキュリティ性能を備えたデータベースです。デジタルツインと組み合わせることで、そのセキュリティや信頼性を向上させ、デジタルツイン内の情報が安全かつ信頼性の高い形で管理・共有できます。

    たとえば、社会インフラの設備保全に関するデジタルツインが改ざんされていたとしたら、どうなるでしょうか?作業者は間違った情報を元に保全作業を繰り返し、大惨事に至ることも充分に考えられます。

    こうした、サプライチェーン上の社外の協力先や実証実験の協力先などの相手と共通の分散型台帳を用いることで、ネットワークの参加者はリアルタイムでデータを共有でき、関係者間での信頼関係を強化する効果が期待されます。

    また、ブロックチェーンにはスマートコントラクトと呼ばれる機能を搭載することが出来ます。スマートコントラクトを活用することで自動化された契約や取引が可能になり、製品やシステムが特定の条件を満たした場合に自動的にアクションを起こすことができます。たとえば、デジタルツイン上でシミュレーションした結果、製品の異常を検出した場合には自動的にメンテナンスや部品の交換を手配するなどの応用が考えられます。

    スマートコントラクトとは?

    スマートコントラクトは、ブロックチェーン上で自動的に実行されるプログラム。条件が満たされたときに契約や取引を自動的に実行することができる。仲介者を必要としないため、契約の際のコストが大幅に減少することが期待されている。

    このようにデジタルツインとブロックチェーンは、産業やビジネスのあり方を変革する可能性を秘めており、それぞれの強みを活かし合う形で今後はその有用性がより広く認知されることが期待されます。デジタルツインとブロックチェーンの融合は、デジタル革命をさらに加速させ、新たなビジネスチャンスを生み出す重要な要素となるでしょう。

    まとめ

    この記事では、デジタルツインの概要からIoTやブロックチェーンなどの周辺知識に至るまで幅広く解説しました。デジタルツインはリアルタイムでのデータ収集やシミュレーションを可能にし、製品やシステムの効率化や最適化に活用される画期的な技術であることはご理解いただけたでしょうか?

    デジタルツインは様々な技術と組み合わさることで、自動化や予測能力の向上など多岐に渡る応用が期待されます。デジタルツインは産業や都市、農業などさまざまな分野で革新的な変革をもたらす可能性を秘めています。製造業から医療、金融、食品産業まで、多種多様な領域での活用が期待されており、今後もデジタルツイン技術の進化と展開に注目が集まるでしょう。

    トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

    ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

    ブロックチェーンが真贋証明に応用できる理由とは?LVMH、資生堂などの事例も紹介します!

    2025年現在、ブロックチェーン技術は様々な分野へ応用されています。そんななか、ブランド品を中心とした高級な商品のサプライチェーンマネジメントにおいて、ブロックチェーンやNFTを活用した真贋証明に取り組む企業が増加しています。

    本記事ではそのメリットや各社が行うトレーサビリティの担保に向けた取り組み事例について解説します!

      偽造品対策としての真贋証明

      真贋証明とは?

      真贋証明とは、ある商品が本物かどうかを証明することを意味します。現在は、製品ごとに付与されたシリアルナンバーが記載されたギャランティカードを発行する形式が主流となっています。

      この形式では、店舗側はシリアルナンバーをもとに購入者名、購入した品物、購入日を管理しているため、正規品か否かを照合することが可能になっています。また、バッグや財布などを修理に出す際に提示することで、正規店でのサポートが受けられるという利点もあります。 

      一方で、最近ではギャランティカードの偽物も出回るようになってきています。ギャランティカードはただの数字が印刷されたカードに過ぎず、直接製品に刻まれているわけではありません。そのため、番号が実在するものであれば、いくらでも複製できてしまうのです。

      なぜ、真贋証明が必要なのか?

      こうした真贋証明が生まれる背景には、「偽造品の増加」という社会問題があります。偽造品とは、他者の創った知的財産の無断コピーや、類似製品のことです。

      厳密な言葉の定義はなされていませんが、一般に偽造品と呼ばれるものには、次の2つがあります(外務省ホームページより)。

      • 模倣品:特許権、実用新案権、意匠権、商標権を侵害する製品のこと
      • 海賊版:著作権、著作隣接権を侵害する製品のこと
      出典:外務省

      日本でも、一時、映画等のコンテンツの違法海賊版が大量に出回る事件が話題になりましたが、近年では、そうしたコピーの容易な情報商品だけではなく、スマートフォンや時計などの高級ブランドについても、ロゴや商品名など一部のみを変えた「なりすまし製品」も増えています

      また、偽造技術の進歩に伴ってスーパーコピーと呼ばれる精巧に作り込まれた偽物も誕生しています。これらは騙すことだけを目的に作られた偽造品とは異なり、見た目はブランド品と全く変わらないものを手頃な価格で手に入れたいという消費者から一定の需要があるのです。

      もちろん商標や意匠の観点からもこの行為はNGですが、更に問題となるのが二次流通した際に見分けがつかないことです。粗悪な偽物と異なり、緻密なスキャンと巧妙な模倣技術によって複製されたスーパーコピーはプロの目でも見抜くのにはコツがいるそうです。つまり、メルカリなどのC2Cプラットフォームなどで鑑定を経ずに入手したブランド品は果たして本物なのかどうか、もはや私たち一般人には見分ける術はないということです。

      こうした不特定多数の偽造品業者をすべて取り締まることは現実には難しいため、ブランド保護だけでなく安全性の向上も含めた企業努力の一つとして、近年、真贋証明に着手する企業が増えています

      偽造品被害の実態

      では、実際の偽造品による被害はどの程度なのでしょうか?

      財務省によると、2022年の偽造品の直接的悪影響と間接的悪影響の総額は約3兆4,400億ドル~4兆6,800億ドルにも上ると見られています。2013年時点では約1兆6,600億ドル~2兆300億ドルだったことから、この数年間でさえ偽造品による被害は急激に拡大していることがわかります。

      また、OECD(経済協力開発機構)が公表している資料では、「2016年の押収品に占める財で最も多かったのは(ドル換算)、靴、衣料品、革製品、電気製品、時計、医療機器、香水、玩具、宝飾品、薬品で」あり、「税関当局によると、商標のついたギターや建築資材といった過去にはあまり見られなかった財の偽造品が増加して」いるとも発表されています。

      同様の被害は、日本国内でも広がっています。特許庁によると、国内で模倣品被害を受けた法人数は、2015年度の10,341法人(全体の6.1%)から2019年度の15,493法人(全体の7.4%)と大幅に増加しています

      出典:特許庁「模倣品被害実態調査報告書(2016〜2020年度)」より筆者作成

      これらの情報はあくまでビジネス取引に関わる範囲に限定されていることから、アートなどのビジネスによらない著作権等の侵害や個人間取引での詐欺行為なども考慮すれば、偽造品の被害は非常に大きな社会問題であることが理解できるでしょう。

      こうした流れを受けて、冒頭でも触れた通り、近年、ブロックチェーン技術を応用した真贋証明の社内システムや、独立サービス等が急増しています。

      ブロックチェーンが真贋証明にはたす役割

      ブロックチェーン=管理者不要でデータを安全に記録・共有する技術

      出典:shutterstock

      ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術です。

      ブロックチェーンはデータベースの一種ですが、そのデータ管理方法は従来のデータベースとは大きく異なります。従来の中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存されるため、サーバー障害やハッキングに弱いという課題がありました。一方、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、ハッキングにも強いシステムといえます。

      また、ブロックチェーンでは、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。ハッシュ値とは、あるデータをハッシュ関数というアルゴリズムによって変換された不規則な文字列のことで、データが少しでも変わると全く異なるハッシュ値が生成されます。新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みると、それ以降のブロックのハッシュ値を全て再計算する必要があり、改ざんが非常に困難な仕組みとなっています。

      さらに、ブロックチェーンでは、マイニングという作業を通じて、取引情報のチェックと承認を行う仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。マイニングとは、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムな値を代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しい値(ナンス)を見つけ出す作業のことで、最初にマイニングに成功した人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

      このように、ブロックチェーンは分散管理、ハッシュ値、マイニングなどの技術を組み合わせることで、データの改ざんや消失に対する高い耐性を持ち、管理者不在でもデータが共有できる仕組みを実現しています。

      詳しくは以下の記事でも解説しています。

      真贋証明に欠かせない「トレーサビリティ」

      真贋証明は、ある商品が「いつ」「どこで」「誰の手によって」「どうやって」扱われたのか、そしてそれらの情報は正しいのか、ということを証明することによって実現できます。

      商品からこうした情報が正しく取得できる状態を「トレーサビリティ(が担保されている)」と言い、真贋証明には欠かせない条件といえます。

      トレーサビリティ(Traceability、追跡可能性)とは、トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせた造語で、ある商品が生産されてから消費者の手元に至るまで、その商品が「いつ、どんな状態にあったか」が把握可能な状態のことを指す言葉です。

      まずは商品のトレーサビリティを担保した上で、商品情報を記載したQRコードやRFIDなどを商品に印字し、それを消費者がスマートフォンで読み取るなどして真贋を確かめることになります。

      真贋証明(あるいはトレーサビリティ)の条件

      トレーサビリティの担保、そして真贋証明のためには、次の2つの条件が満たされている必要があります。

      • サプライチェーン上で、商品に関する情報を一元で管理できている
      • その管理体制において、商品データの正しさが損なわれない

      1点目は、サプライチェーン・マネジメントにおける情報一元管理システムの構築を意味しています。一般に、ある商品が「創られ、作られて、売られる」までには、製造業者、流通業者、小売業者など大小様々な企業が関わっています。

      そして、それぞれの企業が、それぞれの方法で、商品に関わるデータを管理・利用しているのが通例です。そのため、一つの商品に関するデータであっても、小売業者に聞いても小売に関わる時点までのことしかわからず、あるいは製造元に問い合わせても流通から先のことはわからない、といった状況に陥ることがほとんどです。

      そこで、サプライチェーンを機能別に(つまりは企業単位で)分断するのではなく、商品単位で一連のシステムとして捉え、関連企業間のデータ連携を行うことで、商品が「いつ」「どこで」「誰の手によって」「どうやって」扱われたのかを把握することができるようになります。

      2点目は、1点目の管理システムにおいて、データのセキュリティが十分に担保されている状態を意味しています。商品のトレーサビリティが担保され、正しく真贋証明が行われるためには、証明のもととなるデータに対する信用が十分であることが求められます。

      しかし、システムのセキュリティ要件が十分に満たされていない場合、第三者による攻撃を受けることによるデータの改ざんや破損、あるいはシステムダウンによるデータの損失などのリスクが考えられます。

      そこで、システムをデータセキュリティに強い技術によって構築することで、そのデータをもとにした真贋証明を適切に履行することが可能になります。

      ブロックチェーンが真贋証明の条件を同時に満たす!

      これらの条件を満たすことができる技術がブロックチェーンです。

      先に見たように、ブロックチェーンには、次の特長があります。

      • 非中央集権的な分散システムであるため、競合・協業他社のデータ連携が行いやすい
      • セキュリティが強固なため、データ改ざんやシステムダウンのリスクに強い

      1点目の課題であった「データ連携」の障害となるのは、異なる利害関係のもとにある複数の企業が簡単に手を結びにくいことです。これに対して、「非中央集権的」「分散的」であるブロックチェーンでは、例えばGoogleやAmazonのような中央管理プラットフォームに権力が集中するということなく、横並びでデータ連携を行うことができます(”All for One”ではなく、”One for All”なデータベース)

      また、2点目の課題についても、そもそもブロックチェーンが仮想通貨の中核技術として誕生した経緯からもわかるように、技術そのものに「データが改ざんされにくく、システムダウンに強い」という特性があります

      ブロックチェーンはこうした特長をもっていることから、次にみるように、近年、様々な業界で真贋証明プラットフォームの中核技術として利用され始めています。

      ブロックチェーンを用いた真贋証明の取り組み事例

      LVMH

      出典:Coin Desk

      世界的に有名な高級ブランド「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)」や「Dior / Christian Dior(クリスチャン・ディオール)」の親会社「LVMH」は、ラグジュアリー品の真贋を証明するためのブロックチェーンコンソーシアム「AURA」を立ち上げています。

      このプラットフォームでは、原材料の調達から店頭で販売されるまでの一連のプロセスを追跡可能になっており、それらの情報は変更や改ざん、ハッキングができない形でブロックチェーン上に保存されます。それらの情報を含むQRコードを製品に付けることで、消費者はブランドのアプリを使ってそれを確認できるという仕組みです。

      AURAで採用されるブロックチェーンは、JPモルガンとエンタープライズ・イーサリアム・アライアンスで共同開発した企業向けブロックチェーン「GoQuorum」上で構築されているとのこと。コンソーシアム型のブロックチェーンとなっており、すでにプラダやリシュモン傘下のカルティエという2大ラグジュアリーブランドが参加しています。

      また、将来的には中古品にも適用範囲を拡大していく予定となっており、AURAでは製品が最初にどこで購入され、いつリセールに出されたのかといった情報も提供されるため、二次流通している製品に対してもデジタル上で証明できます。こうした技術を利用し、LVMHは全製品を正規品として認定することを目指しています。

      「製品のライフサイクルを通して、消費者に高いレベルの透明性とトレーサビリティを提供する」という目的自体は全てのラグジュアリーブランドに共通するはずです。したがって、AURAのような競合他社が協力して変化を促し、共通の解決法を見つけ出すことは意味を成します。

      世界的著名ブランドがブロックチェーンを利用することで、今後もファッションやコスメを中心に、様々なラグジュアリーブランドがブロックチェーン業界に参入していくと予想されるでしょう。

      VACHERON CONSTANTIN

      1755年創業の高級時計ブランド「VACHERON CONSTANTIN(ヴァシュロン・コンスタンタン)」は、2019年5月から商品の真贋判定にブロックチェーンを導入しています。

      同ブランドではビンテージモデルのコレクション「Les Collectionneurs」の鑑定書をブロックチェーンに記録したことを皮切りに、ブロックチェーン技術を利用して様々なヴィンテージウォッチにデジタル証書を発行しています。

      同社のブロックチェーン・テクノロジーでは、時計の販売時に唯一性のあるトークン(EthereumのERC-721)を発行し、デジタルIDとして活用することで、時計のライフサイクルの追跡や所有権の共有や証明をします。鑑定書は専用アプリで閲覧でき、所有権の変更はスマホでQRコードを読み取れば完了します。

      このサービスでは、オーナー側の難しい操作は不要です。オーナーはウェブサイトへの登録とケースバックに刻印された時計のシリアルナンバーを入力、もしくは新しい保証カードのQRコードをスキャンするだけで、デジタル真正証書を手に入れることができます。

      従来の紙の鑑定書では偽造の恐れがありましが、ブロックチェーン上に記録された情報は変更や複製が限りなく不可能に近く、時計の所有者が何度変わっていても偽造を防止できる本物のデジタル証明書の作成が可能になります。時計ごとの特性、価値、性質、真贋に関して、製品と不可分かつ安全なデータが手に入るでしょう。

      油長酒造

      水端1355
      出典:SBI Traceability

      2023年11月に、SBIトレーサビリティ株式会社は、ブロックチェーン技術などを活用したブランド保護を可能とするトレーサビリティ・サービス「SHIMENAWA(しめなわ)」が、油長酒造株式会社の日本酒「水端1355」でも採用されたと発表しました。

      SBIトレーサビリティが提供する「SHIMENAWA(しめなわ)」は、米国R3社の開発したエンタープライズ向けブロックチェーン「コルダ(Corda)」と、サトー社のNFC/RFID技術を組み合わせたデジタルペアリングを利用しています。

      「SHIMENAWA」は、2021年12月より大手コンビニエンスストアのローソンが、上海拠点の店舗における生産地情報表示のプラットフォームとして導入しました。そういった元々のトレーサビリティの機能に加え、さらに偽造品に強いサービスとして生まれ変わり、「開封検知」の機能を組み込ませています。

      出典:Begin

      日本酒の栓には上記のNFCタグがついています。タンパーと呼ばれる電線がICタグにつながっており、ボトルのキャップを外してラベルがちぎれると、その日時と場所をICタグからスマホを経由してブロックチェーン上に記録できるようになっています。

      現在、価値の高い日本酒の空き瓶は高値で取引されています。もちろん、記念・プレミアという見方もできますが、残念ながら偽造品として悪用されている現実もあります。開封した情報がブロックチェーンに記録されていることで、食品衛生の観点だけではなく、真贋証明としても役立つということです。

      また、開封済みの日本酒を飲む際にも、スマホをかざすことで鮮度を確かめることができます。その銘柄が「いつ」「どこで」消費されているかというデータも取得することができ、リアルな消費データを経営や商品開発に活用できます。

      油長酒造の他にも、「梵」を提供する福井県の加藤吉平商店や、「零響(れいきょう) – Absolute 0 -」を提供する宮城県の新澤醸造店といった、他のプレミアムラインの日本酒提供者も、「SHIMENAWA」を導入しており、今後もますます身近なサービスになっていくことでしょう。

      集英社「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」

      サブカル・コンテンツ領域の取り組みとして注目されているのが、2021年3月1日に集英社が始めた「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」です。

      同サービスは、アナログコンテンツである漫画の複製原画を、所有者履歴や真贋の証明を行うことで、絵画のような美術品として流通させることを狙ったプラットフォームサービスです。

      すべての作品は、NFT管理サービス「Startrail PORT」に登録されています。購入者は、複製原画とともに送付されたブロックチェーン証明書付きのICタグをスマートフォンで読み込むことで、その原画の所有者履歴や真贋証明を確認することができます。

      出典:IT media NEWS

      同取り組みでは、美術品や骨董品の際に必ず問題となる「鑑定」をブロックチェーン技術で代用することで、鑑定士やアナログ証明などの手段に頼ることなく、「正しい価値」を流通させることを狙っています。

      また、そうした従来の手段では管理しきれなかった所有者履歴も同時に明らかにすることで、これまで以上に「正しい」価値証明にもつながると考えられます。

      この取り組みによって、漫画等のアナログコンテンツを制作するクリエイターの新たな収入源も確保され、より優れたコンテンツが生み出しやすくなるでしょう。

      資生堂

      出典:ザ・ギンザ(THE GINZA) オフィシャルサイト

      資生堂のプレステージラインであるザ・ギンザではRFID/QRを利用した真贋証明に取り組んでいます。

      国外人気も高い同社の製品は、偽造品が出回ることも少なくありませんでした。それによって、逸失利益が生じるだけでなく、ブランド価値が低下したりエンドユーザーとの接点が持てなくなるといった問題がありました。

      そこで同社では製品にRFIDとQRの二層タグを取り付け、流通経路をユーザーが簡単に把握できるような仕組みを構築。購入した商品の外箱内に貼付されているシールを剥がし、QRコードをスマートフォンでスキャンすると、デジタル上で正規品であるか否かがすぐにわかるようになりました。

      またユーザー自身が読み取ることでポイントを付与し、「ザ・ギンザ メンバーシップクラブ」内のステージに応じた特典が提供できる仕組みとなっています。当社が開発しているIoT 連携のブロックチェーンツールでは、製品のトレーサビリティを通してマーケティングやユーザー体験の向上といった分野にもつなげています。

      THE GINZA正規品証明書の登録方法について

      こういったシームレスな顧客体験が実現できるのも、ブロックチェーンによるトレーサビリティシステムの特徴といえるでしょう。

      まとめ

      今回は、近年問題になっている偽造品に対してブロックチェーンを用いたソリューションの事例をご紹介いたしました。ブランドの信用によって価値が担保されている高級品はもちろん、品質が評価されている「メイド・イン・ジャパン」においても粗悪な偽造品が市場に出回ることは日本企業にとっては致命傷になり得ます。

      そうした問題に対してトレーサビリティの確保は非常に重要な問題です。製造工程や原材料、プロダクトのディティールにこだわるのと同時に、ユーザー側が商品情報を確認できる仕組みを考えるべき時がきたのではないでしょうか。

      トレードログ株式会社は、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。弊社はコラム内で取り上げたザ・ギンザのプロジェクトにおいても技術支援を行っており、トレーサビリティ実現の経験も豊富です。

      偽造品問題への対応やブランド価値の向上を目指す企業様はもちろん、ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

      ブロックチェーンのセキュリティリスクとは?次世代の社会基盤が抱える問題を解説!

      Web3.0は、その分散型の特性などから近年ますます注目を集めています。特に、Web3.0の基盤として期待されているブロックチェーンは、金融や供給チェーンなどの様々な業界で大きな変革をもたらす可能性を秘めています。しかし、この革新的な技術にもセキュリティ上のリスクが潜んでいます。

      本記事では、そんな次世代技術であるブロックチェーンのセキュリティ上の課題について詳しく解説していきます。

        ブロックチェーンの重要性とセキュリティ

        ブロックチェーン=管理者不要でデータを安全に記録・共有する技術

        出典:shutterstock

        ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術です。

        ブロックチェーンはデータベースの一種ですが、そのデータ管理方法は従来のデータベースとは大きく異なります。従来の中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存されるため、サーバー障害やハッキングに弱いという課題がありました。一方、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、ハッキングにも強いシステムといえます。

        また、ブロックチェーンでは、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。ハッシュ値とは、あるデータをハッシュ関数というアルゴリズムによって変換された不規則な文字列のことで、データが少しでも変わると全く異なるハッシュ値が生成されます。新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みると、それ以降のブロックのハッシュ値を全て再計算する必要があり、改ざんが非常に困難な仕組みとなっています。

        さらに、ブロックチェーンでは、マイニングという作業を通じて、取引情報のチェックと承認を行う仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。マイニングとは、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムな値を代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しい値(ナンス)を見つけ出す作業のことで、最初にマイニングに成功した人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

        このように、ブロックチェーンは分散管理、ハッシュ値、マイニングなどの技術を組み合わせることで、データの改ざんや消失に対する高い耐性を持ち、管理者不在でもデータが共有できる仕組みを実現しています。

        詳しくは以下の記事でも解説しています。

        世界のGDPの10%がブロックチェーン基盤上に蓄積される?

        「ブロックチェーン=ビットコイン」という認識は、すでに過去のものとなっていることはご存知でしょうか?一昔前(といっても2010年代ですが)までは、ブロックチェーンといえば、ビットコインを始めとする暗号資産(仮想通貨)を支える基幹技術の一つに過ぎませんでした。

        それもそのはず、もともとブロックチェーンは、2008年に生まれたビットコインネットワークの副産物でしかなく、多くのビジネスパーソンからはFintechの一領域として認識されていました。しかし、ブロックチェーンの技術に対する理解が徐々に深まるにつれ、金融のみならず、物流・不動産・医療など、多種多様な産業での応用が進み始めました。

        ブロックチェーンが単なるビットコインの補助技術ではなく、世界経済の重要な基盤として位置付けられるようになっている背景には、その技術の特性と多様な応用が挙げられます。

        ブロックチェーンは分散型台帳技術であり、中央集権的な管理者が不在であるため、データの改ざんや不正アクセスを防ぐことができます。この特性は、金融だけでなく、物流、不動産、医療などのさまざまな産業で信頼性の高い取引や情報管理が求められる場面で大きな価値を持ちます。

        そして、世界経済フォーラムによると、2025年までに世界のGDPの10%までがブロックチェーン上に蓄積されるようになるとの予測もなされるほどに、ブロックチェーンがこれまで以上に多くの産業で利用されるようになっています。たとえば、物流業界では製品の追跡や流通経路の透明化により、偽造品や盗難のリスクを減らすことができます。不動産業界では、不正な取引や不動産の二重売買を防止するために、土地登記や資産管理にブロックチェーンが活用されます。

        これらの応用によって、ブロックチェーン技術は単なる金融の枠を超え、社会基盤の一部として不可欠な存在となっています。ブロックチェーンを単なる投機的な金融の一手法に過ぎないと見るか、それを次世代の社会基盤として位置付けるかによって、私たちの未来が大きく異なる可能性があります。

        ブロックチェーンはセキュリティの万能薬ではない?

        出典:Unsplash

        ブロックチェーンは前述の通りデータの耐改ざん性が高い技術です。こうした背景から、ブロックチェーンセキュリティの万能薬であるかのような認識が広がりました。しかし、実際にはブロックチェーンも完璧なセキュリティを提供するわけではありません。

        確かに、ブロックチェーンは、時系列順に取引履歴を追えること(トレーサビリティ)やネットワーク参加者間でのデータ同時共有という概念(データの耐喪失性)も相まって、物流業界における偽造品対策の効果的手法として活用されるなど、そのセキュリティレベルの高さに大きな期待がされています。

        実際にブロックチェーンは、理論的には非常に堅牢なセキュリティ技術として働くことが可能で、従来のデータベースからブロックチェーン基盤へと切り替えることは、セキュリティ対策の一環としても効果がもたらされうることでしょう。

        一方で、ブロックチェーンは「強いAI」というわけではなく、あくまで人間が稼働させる一つのシステムに過ぎません。そのため、ブロックチェーンが社会実装される過程のヒューマンエラーや組織的な恣意性によって、理論が適切に効果を発揮しないことでセキュリティが脅かされることも十分にありえます。

        では、これらの問題は一体どのようなもので、どういった対策を取ればよいのでしょうか?それぞれの問題について説明していきます。

        ブロックチェーンのセキュリティリスク①:51%攻撃

        出典:shutterstock

        51%攻撃とは?

        ブロックチェーンの原理的なセキュリティリスクといわれているのが「51%攻撃」です。51%攻撃とは、「ブロックチェーンネットワークにおいて、ある特定の参加者またはグループがネットワーク全体の過半数(51%)以上の計算能力を持つことで、ブロックの生成やトランザクションの承認など、ネットワーク上での支配的な役割を果たすことができる」という問題のことで、平たく言えば「ネットワークの乗っ取り」といったところでしょうか。

        ブロックチェーンは分散型のシステムで中央管理者がいないため、取引の正当性を決定するにはネットワーク全体で合意を取る必要があります。たとえば、AさんがBさんに10トークンを送ったと主張しているにも関わらず、Bさんは5トークンしか受け取っていないと主張する場合、どの取引が正しいかを決めるためには、事前に決められたルールに基づいて判断しなければなりません。

        このルールのことを「コンセンサスアルゴリズム」といい、ブロックチェーン基盤ごとにそれぞれのコンセンサスアルゴリズムが定められています。暗号資産で有名なビットコインでは、取引の正当性を決めるために「PoW(Proof of Work)」というコンセンサスアルゴリズムが使われています。

        PoWでは、マイニングと呼ばれる複雑な計算問題を解くことで新しいブロックを生成する権利を獲得する仕組みを通じてネットワーク全体の合意形成を実現します。このシステムは、誰でも参加できるオープンな仕組みである一方、 他のチェーンよりも多くの計算力を持てば自分のチェーンを伸ばすことができます。

        マイニングにおける計算処理は「パズル (puzzle)」と表現されることがありますが、ジグソーパズルのように推理力が役に立つわけではありません。高速な計算処理をするマシンパワーこそがマイニングに最も必要なツールです。また、ビットコインではより長いチェーンを多くの人達が支持している正当なチェーンと考える(ナカモト・コンセンサス)ため、悪意のある参加者がネットワーク全体の計算力の過半数を手に入れれば、不正な取引のチェーンを生成することができます。これがビットコインにおける重要なセキュリティリスクとされる「51%攻撃」です。

        51%攻撃が発生すると、ネットワークの支配者が二重支払い(既に支払ったコインを再度消費する)やトランザクションの改ざん、特定のブロック生成の妨害などを行えることとなり、ブロックチェーンネットワークのセキュリティが損なわれてしまいます。結果として、本来の目的である「安全で透明性の高い取引プラットフォーム」からは程遠いシステムとなってしまいます。

        51%攻撃によってセキュリティが脅かされた事例

        51%攻撃による暗号資産(仮想通貨)へのセキュリティ攻撃として話題になったのが2018年に発生したモナコインの事例です。被害総額は約1,500万円とあまり高額ではありませんが、モナコインが日本発祥であること、犯人が18歳少年であったことなどから大きな話題となりました。

        モナコインへの51%攻撃では、攻撃者が自らのハッシュレート(コンピューターが1秒間に行うことのできるハッシュ計算の回数を表す指標)を利用してブロックチェーンを操作し、不正な取引を行いました。

        出典:Blockchain Biz

        具体的には、攻撃者はマイニングに成功したブロックをネットワークに伝えずに隠し、その後隠し持っていたブロックチェーンを伸ばすという手法です。この「セルフィッシュ・マイニング」という手法により、正しいチェーンよりも長くなったタイミングで攻撃者の改ざんされたチェーンをネットワークに送り込むことで、攻撃を成功させました。

        また、攻撃者は事前に取引所にモナコインを入金し、換金処理をした後に改ざんされたチェーンを公開したため、取引所に入金したモナコインと取引所からの出金の両方を手に入れました。

        このような攻撃は、ビットコインなどの大規模なブロックチェーンネットワークに比べてモナコインのブロック承認間隔が短く、ハッシュレートが比較的小さいために可能となりました。

        ブロック承認間隔が短いと、攻撃者が改ざんしたブロックをネットワークに早く送り込むことができます。攻撃者は自分のブロックが最も長くなるように早くブロックを生成し、他の正規のブロックを追い抜くことがしやすくなります。

        また、ハッシュレートが小さいと、攻撃者は比較的少ないコストで必要なハッシュレートを集めることができます。実際にEthereumなどの主要ブロックチェーンに比べると、モナコインは100分の1程度のコストで51%攻撃ができてしまいました。

        この事件を受けて、多くの仮想通貨取引所ではブロック承認数を増やすなどの対策が取られており、モナコイン側においても、専用のASIC(特定の用途のために作られるハードウェア)を開発するなどしてハッシュアルゴリズムの見直しを行っており、ハッシュレートは数十倍に増加しています。

        こうした51%攻撃の被害は、モナコインの他にも、「Bitcoin Gold(ビットコインゴールド)」や「Litecoin Cash(ライトコインキャッシュ)」といった銘柄でも確認できます。

        51%攻撃を防ぐ方法はある?

        出典:Pexels

        51%攻撃の根本的な対策方針は、「コンセンサスアルゴリズムを変更すること」です。先ほど説明したように、51%攻撃は原理的なセキュリティリスクであるため、PoWおよびナカモト・コンセンサスが合意形成のルールである以上、完全な対策は不可能です。

        もちろん、ネットワークの規模が大きくなればなるほど、マイニングやノードの所有者が多様であればあるほど、単一のエンティティが51%以上の計算力を獲得することは難しくなります。分散化を促進することである程度の抑止力にはなるでしょう。

        しかし、これはあくまで難易度が多少上がるだけの話に過ぎません。したがって、51%攻撃のリスクをなくすためには、ルールそのものを変更する必要があるのです。これは、ビットコイン以外のブロックチェーンネットワークにおいて実際に行われています。

        たとえば、イーサリアムで採用されている「PoS(Proof of Stake)」は、51%攻撃のリスクを限りなく低くすることを目的に定められたルールといわれています。PoSとは、保有するコイン量や保有期間に基づいて、ブロック生成の権利を獲得するコンセンサスアルゴリズムです。

        そのため、あるノードが51%攻撃を行うためには、ネットワーク全体の51%以上のトークンを保有する必要があり、攻撃に必要なコストは非常に高くなります。また、保有期間によってもブロック生成の権利が当選する確率が変わるため、PoWに比べるとはるかに51%問題の難易度が上がります。

        また、ネットワークの参加者が許可制になっている「プライベートチェーン」や「コンソーシアムチェーン」で用いられている「PoA(Proof of Autority)」も51%問題に対する対抗手段の一つとなっています。PoAとは権限を持つノードによってブロックが生成されるコンセンサスアルゴリズムのことで、ネットワークの分散性は劣るものの、そもそも悪意のある参加者などは事前にシャットアウトすることが出来ます

        なお、プライベート型やコンソーシアム型といったブロックチェーンの種類や個々のチェーンの特徴についてはこちらの記事で解説しています。

        ブロックチェーンのセキュリティリスク②:秘密鍵の流出

        出典:Unsplash

        秘密鍵の流出とは?

        ブロックチェーンのセキュリティリスクとしてもう一つ代表的なものが、「秘密鍵流出」の問題です。これはいわゆる「なりすまし」攻撃で、各ノードが保有するアカウントに付与された「秘密鍵」を盗まれることで起こります

        ブロックチェーンの仕組みでは、ネットワーク基盤上で行われた取引記録が「トランザクション」と呼ばれる塊として大量にプールされており、そのプールから1MB(メガバイト)分のトランザクションを取り出して「ブロック」としてまとめています。

        このトランザクションが取り出される際に「秘密鍵暗号方式」と呼ばれる方法でトランザクションへの「署名(秘密鍵で暗号化する)」が行われることで、トランザクション自体のセキュリティが担保されています。

        秘密鍵暗号方式とは?

        公開鍵暗号方式とは、情報を通信する際に、送信者が誰でも利用可能な公開鍵を使用して暗号化を行い、受信者が秘密鍵を用いて暗号化されたデータを復号化するという手法のこと。

        図1:公開鍵暗号方式における鍵のやり取り出典:サイバーセキュリティ情報局「キーワード事典」

        秘密鍵は特定のユーザーのみが保有する鍵で、この秘密鍵から公開鍵を生成することは可能。しかし、公開鍵から秘密鍵を特定することは現実的には不可能。公開鍵で暗号化されたデータは対応する秘密鍵でしか復号化できないため、秘密鍵さえ厳重に管理していれば、データの保護と情報漏洩の防止が可能となる。

        通常、この秘密鍵は各アカウントごとに一つだけ付与されるもので、この鍵を使うことでアカウントに紐づいた様々な権限を利用することができます。暗号化技術において、秘密鍵は暗号化されたデータを復号したり、デジタル署名を作成したりするために使用される重要な情報です。そのため、この鍵自体が盗まれてしまうと、個人アカウント内の権限を第三者が悪用できてしまうことになります。これが、秘密鍵流出問題です。

        秘密鍵の流出によってセキュリティが脅かされた事例

        秘密鍵の流出問題として世間を大いに騒がせたのが、2018年1月に起きた日本の暗号資産取引所コインチェックの秘密鍵流出問題です。この事件では、コインチェックが取り扱っていたNEM(ネム)という仮想通貨が約580億円相当も盗まれ、当時としては世界最大級の暗号資産窃盗事件となりました。

        この事件は、コインチェックがNEMをインターネットに接続された状態で管理していたことが原因とされています。こうしたホットウォレットは利便性が高い反面、セキュリティリスクも高いため、本来は大量の仮想通貨を保管するのに適していません。

        さらに、当時のコインチェックでは運用上の負担やコストの負担などから、取引を行うために1つの秘密鍵で取引を承認するシングルシグ方式が用いられていました。これが、ハッカーが1つの秘密鍵を盗むだけで、大量のNEMを盗むことができた原因の一つです。

        また、当時の日本の仮想通貨業界がまだまだ発展途上であり、セキュリティに対する十分な意識や法整備が追いついていなかったことも事件の背景にあります。仮想通貨取引所の運営やセキュリティ対策が未熟だった時期でもあったため、日本の仮想通貨取引所に対する信頼を大きく損なう騒動となりました。

        一方で、この事件を機に多くの暗号資産取引所がコールドウォレットと呼ばれるインターネットに接続されていない状態で仮想通貨を保管する方式を導入したり、適切な監視体制が構築されるなど様々なセキュリティ対策がなされることになります。良くも悪くもセキュリティ上の「教訓」が業界全体に浸透したといえるでしょう。

        また、個人単位でも秘密鍵の管理には細心の注意を払う必要があります。2023年9月には、ブラジルの仮想通貨系配信者であるIvan Bianco氏が自身の秘密鍵をYouTubeのライブ配信上で誤って公開してしまい、数千ドルを失うという出来事がありました。

        今やインフルエンサーやコンテンツクリエイターは決して珍しい存在ではなく、誰もがコンテンツの発信者になりうる時代です。したがって、こうした予期せぬヒューマンエラーがブロックチェーンシステムの運用課題になりえることでしょう。

        秘密鍵の流出を防ぐ方法はある?

        出典:Pexels

        秘密鍵流出問題への対応策の一つとされているのが、「マルチシグ(マルチシグネチャー)」です。マルチシグとは、トランザクションの署名に複数の秘密鍵を必要とする技術のことで、実際にマルチシグを利用する際には企業の役員陣で鍵を一つずつ持ち合うなどの対応がとられます。

        マルチシグは、秘密鍵流出問題へのリスクヘッジ方法であると同時に、 一つの秘密鍵で署名を行う通常のシングルシグに比べてセキュリティレベルも高くなることから、取引所やマルチシグウォレットなどで採用されています。

        ただし、上述のコインチェック事件のように、個人レベルでマルチシグを利用していたとしても、取引所そのもののセキュリティが破られてしまった場合には被害を食い止めることはできません。

        通常のデータベースにおけるセキュリティ対策(セキュリティソフトウェアの導入、二要素認証の活用)をうまく活用しながら、セキュリティへの攻撃は複数階層に対して行われうるものであることを理解して、本質的な対応をとるように心がけましょう。

        まとめ:ブロックチェーンは適切な運用でセキュリティ対策が可能

        本記事ではブロックチェーンが抱えるセキュリティリスクについて解説しました。ブロックチェーン自体は優れたセキュリティ性能を備えているものの、コンセンサスアルゴリズムや秘密鍵の管理体制によっては攻撃の対象となりうることをご確認いただけたかと思います。しかし、これらを適切に運用しさえすれば安定したエコシステムの実現も可能です。

        ブロックチェーンをビジネスに導入する際には、そのサービスや目的に合ったブロックチェーンを選別することが非常に重要です。しかしながら、プラットフォームごとに「スピードが優れている基盤」「安定性に優れている基盤」「カスタマイズ性に優れている基盤」など様々な特色があり、またその同一のチェーンでも設計次第では異なる性能になります。当然、セキュリティも然りですが、これらを比較検討するのには多大な労力やコストがかかります

        トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

        ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

        【解説】中国におけるブロックチェーンの現在地

        ブロックチェーンは、その透明性、セキュリティ性、効率性などを理由に世界中で注目されています。この革新的な技術は、金融分野からサプライチェーン管理、さらには政府の運営に至るまで、多岐にわたる分野での応用が期待されています。日本では企業による実証が行われているものの、国家レベルでの大規模な取り組みはあまり進んでいないのが現状です。

        一方で同じアジア圏の中国に目を向けると、安全保障や経済圏や情報のコントロールなどを目的として暗号資産やNFTを厳しく規制しながらも、デジタル人民元や公共事業を中心にブロックチェーンの研究開発と技術発展が進んでいます。本記事では、2024年の中国におけるブロックチェーンの最新事情に迫ります!

          中国ブロックチェーン市場を理解しよう

          そもそもブロックチェーンとは?

          出典:shutterstock

          ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

          ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

          取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

          ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

          これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

          また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

          このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

          詳しくは下記の記事でも解説しています。

          拡大を続けるブロックチェーン市場

          2024年現在、ブロックチェーンを応用したビジネスには様々なものがあります。

          当初は金融分野、とりわけ暗号資産(ビットコインなどのいわゆる「仮想通貨」)のみに関係した「怪しい」ビジネスだと思われがちだったブロックチェーンも、NFTやDAO、偽造品対策や物流DXなど様々な分野でデータ基盤として採用されることでその市場規模も急成長を遂げています。

          株式会社グローバルインフォメーションの市場調査レポートによると、2030年のブロックチェーン市場規模は4041億ドル(およそ58兆6000億円)になると予測されています。

          こうした市場拡大の背景には、IoTやAI等の技術進化を土台とした世界的なDXの発展とそれに伴うサイバーセキュリティ需要の拡大、キャッシュレス化の進展、顧客重視の傾向が強まるマーケティング戦略、巨大プラットフォーム企業の出現に対抗する形で進むアライアンスやM&A等の業界再編など、インターネットのインパクトが数十年かけてもたらした大きな社会変革の波があります。

          堅牢なセキュリティ能力を誇るデータベースであるブロックチェーンは、こうした社会変革を支える根幹技術として、今後の世界の社会基盤となりうる可能性を秘めているのです。

          ブロックチェーンの世界を牽引する中国

          拡大を続けるブロックチェーン市場の中でも、ひときわ存在感を増しているのが中国です。中国物流購買連合会が発表している「中国産業ブロックチェーン発展報告書(2022年)」によると産業ブロックチェーン市場の規模は、2021年に2317億9000万元(約4兆7213億円)となっています。

          これは株式会社矢野経済研究所が発表している2021年度の日本国内におけるブロックチェーン活用サービス市場規模である約783億円と比べると、中国におけるブロックチェーンの研究開発や産業応用が、日本とはとても比べ物にならないほどのレベルで進んでいることがおわかりいただけるかと思います。

          また、詳しくは後述しますが、中国におけるブロックチェーンは他国で用いられているようなパブリック型チェーンを前提としたWeb3.0世界の構築とは大きくかけ離れたアーキテクチャで進化を遂げています。外界に対して秘匿性に優れたいわゆるプライベート型に近い形での運用となっていますが、実は非金融領域のビジネス導入においては、プライベート・コンソーシアム型のブロックチェーンもスタンダードになりつつあります

          したがって、日本におけるブロックチェーンのビジネス活用や産業応用を考えていく上で、中国の先例から学んでいくことには大きな価値があるといえるでしょう。

          なお、パブリック・プライベート・コンソーシアムといった個々のブロックチェーンの特徴については以下の記事をご覧ください。

          中国国内のブロックチェーンの特徴

          出典:shutterstock

          暗号資産の取引は厳しく規制されている

          中国における暗号資産に関する規制は、世界でもとくに厳しい部類に入ります。中国政府では2017年にICO(Initial Coin Offering)と仮想通貨取引所の運営を禁止して以降、暗号資産マイニングの取り締まりや暗号法の制定、暗号資産関連の広告に対する制限強化など厳しい規制を設けています。

          表向きには、中国で人気を集めているビットコインのマイニングが環境に深刻なダメージを与えることや、仮想通貨投資の流行によって巨額の損失を抱えた投資家が急増する懸念などを理由にしています。

          しかし、実際のところは「資本が国外へ流出し、政府のコントロール外となるのを防止するため」というのが実情でしょう。国境に左右されず、規制が届かない暗号資産の性質は、「国家管理経済」という中国政府の理念に大きく反するものです。キャピタルフライトは輸入額の増加、輸出額の減少、これらに伴う国内インフレなど様々な問題をもたらすため、なんとしても阻止しなければならないというわけです。

          事実、中国では仮想通貨を用いたマネーロンダリングが爆発的に流行した時期があり、当時の逮捕者は30万人を超えるともいわれています。

          中国が1000人逮捕、仮想通貨マネロンの「協力者が後を絶たない」仕組み

          中国政府としてはこうしたアンコントローラブルな経済を認めるわけにはいかず、厳しい規制をしているというのが中国ブロックチェーン市場の実情です。

          一方で、中国国内の投資家たちは2023年より個人投資家の暗号資産取引が認められている香港を避難所代わりに使うなど、依然としてグレーゾーンの代替手段による取引が盛んであるのも中国市場ならではの光景でしょう。

          政府主導のプロジェクトが多い

          ブロックチェーンの代表例である暗号資産に対して否定的な態度を取っている中国政府は、ブロックチェーンそのものに対しても拒否反応を示しているのでしょうか?答えはNOです。むしろ、中国のブロックチェーンで特徴的なのは、政府が主導しているプロジェクトの多さです。

          中国政府は、「ブロックチェーンで世界の先頭を走る」というビジョンを掲げており、経済発展と社会進歩に寄与する重要な要素と見なしています。そのため、国家レベルでブロックチェーン技術の研究開発と応用に巨額の投資を行っており、特に個人情報管理と金融サービスの分野で積極的にプロジェクトを進めています。

          これらのプロジェクトの背景には、中国当局による国民の監視とコントロールの強化という至上命題も見え隠れしており、政府主導のアプローチは国家戦略としてのブロックチェーン技術の発展を加速させる一方で、プライバシーやデータのセキュリティに関する懸念も引き起こしています。

          こうした状況は先の暗号資産に対する取り締まりと相まって、ブロックチェーン技術は評価しつつもその上で行われる投機的な取引や分散的な取引は抑制するという、中国独自のアプローチを示しています。

          外部チェーンとの相互運用性に乏しい

          中国では、不測の事態に対して常に規制当局が介入できるよう、全てのインターネットシステムにユーザーの身元確認を要求しています。そのため、国家による中央集権的な管理ができず、だれでも参加が可能なパブリックチェーンの利用は認められていません。

          また、それぞれのチェーンにおいても国内で独自に開発・カスタマイズされた技術基盤を採用しているため、海外のパブリックチェーンとは互換性がなく、直接的な情報や資産のやり取りが困難です。

          実際に中国の政府関連団体が主導するブロックチェーンインフラプロジェクト「BSN(Blockchain-Based Services Network)」の国内版では、20種類を超えるパブリックブロックチェーンを許可型のブロックチェーンにローカライズして国内ののユーザーに提供しています。

          こういった理由によって中国におけるブロックチェーンネットワークは事実上、中国国内という閉ざされた環境でのみ構築され、国外のブロックチェーンプロジェクトと連携をするのは非常に困難であり、実質的に利用できない状況に近いといえます。

          この背景にはアメリカ企業による情報の収集に対抗したい、あるいはWeb3.0時代の主導権を握りたいという中国の考えが読み取れます。対するアメリカ側も中国を始めとする敵対勢力が関連するブロックチェーンを利用することで、重要な国家安全保障情報やアメリカ国民の個人情報にアクセスされる危険性を危惧しています。したがって、中国製ブロックチェーンを締め出そうとする動きも見られ、情報の世界においても米中関係の緊張した関係が見て取れます。

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          こうした様々な事情が絡み合って中国では独自の「ブロックチェーン文化」が形成されている、ということは頭に入れておいたほうが良いでしょう。

          ブロックチェーンビジネスを理解するための「軸」

          中国のブロックチェーン事情を整理するために、まず、ブロックチェーンビジネス一般を理解するための軸を用意しましょう。ブロックチェーンビジネスは、基本的に、金融/非金融/ハイブリッドの3領域に大別されます。

          ここでいう「金融領域」とは、平たく言えば「Fintech」と言われる領域のことで、より正確には「暗号資産(=仮想通貨)を活用した領域」と考えてください。暗号資産は、かつては「仮想通貨」と呼ばれており、いまだにその呼称の方が馴染み深い方も多いでしょうが、2019年3月15日に暗号資産に関する法改正が閣議決定され、呼称の変更が行われました。こうした暗号資産を用いたビジネスが、ブロックチェーンビジネス第一の領域です。

          これに対して、暗号資産ではなく、データの耐改ざん性やP2Pネットワーク、スマートコントラクトなど、ブロックチェーンの技術そのものを応用した産業・業務変革も盛んに行われています。こうした「非金融」のビジネスが、ブロックチェーンビジネス第二の領域です。

          基本的には、これら2つの領域に分けられますが、少しややこしい問題として、「非金融ながら暗号資産を活用する」ハイブリッドな領域も存在しています。たとえば、「トークンエコノミー」と呼ばれるビジネスモデルでは、ネットワーク独自に発行された暗号資産、つまりトークンをビジネス上の通貨として利用していますが、その目的は暗号資産の運用益そのものではなく、あくまでトークンを活用した経済圏の構築と経済圏内の取引の活性化にあります。このように、「ブロックチェーン×金融」の結晶である暗号資産を用いながら、非金融領域の課題解決を目指すような「金融×非金融」のハイブリッドなビジネスが、ブロックチェーンビジネス第三の領域です。

          ここからは、この「金融/非金融」という軸から、中国のブロックチェーンマーケットについて解説します。なお、当社では、非金融領域でのブロックチェーンビジネスについては、事業化するための3つの視点を紹介しています。この点については、本記事ではなく、下記の記事に詳しく解説しておりますので、あわせてご覧ください。

          金融領域における最新の中国ブロックチェーン事情

          CBDC(Central Bank Digital Currency)

          出典:shutterstock

          中国におけるブロックチェーンの金融領域への適用先としては、中国版CBDCである「デジタル人民元」を避けることはできません。

          CBDC(Central Bank Digital Currency)とは?

          CBDCは、法定通貨をデジタル化したもの。日本語では「中央銀行によるデジタル通貨」と呼ばれる。私たちがよく知る電子マネーや暗号資産といったデジタル通貨は、すべて民間企業が発行・管理を行っているが、CBDCは民間企業ではなく「国」が発行・管理を行う。

          CBDCは、従来の通貨と比較してインターネット上で瞬時に送金することが可能で、決済手数料も低く抑えることができます。銀行口座を持たない人でも利用することができるため、金融包摂の推進にも貢献することが期待されます。また、同様のメリットを持つビットコイン等の暗号資産と比較すると、CBDCは法定通貨であり、裏付け資産のない暗号資産よりも金銭的価値が安定しています。

          中国ではデジタル人民元が、民間の金融機関や公的機関、実店舗も含めた決済機能等が実証され、国内外からも大きく注目されています。

          出典:野村総合研究所「着々と拡大するデジタル人民元経済圏」

          法定通貨の紙幣には偽造防止のための特殊なインクや3Dホログラムなど高度なセキュリティ要件が求められます。そのため、法定通貨をデジタル化をするうえでは、データベースの脆弱性や耐改ざん性などが論点となることが多いため、一般的にはCBDCの基幹技術としてブロックチェーンが検討されることが多いです。

          しかし、中国人民銀行が発行するCBDCであるデジタル人民元は、当初、中国政府は参加者をかなり限定した一種の「クローズド型」のブロックチェーンとして運営し始めましたが、日本銀行決済機構局の資料によると、基盤技術については伝統的データベースと分散型台帳技術の組み合せに移行しており、純粋なブロックチェーンを導入しているわけではない点には注意が必要です。

          なぜ中国は他国の注目を集めるほど、CBDCの研究・開発に熱心になっているのでしょうか?その理由として「基軸通貨米ドルに対する挑戦」「人民を縛りつけるデジタルの鎖」という2つの観点があります。

          現在、世界経済における基軸通貨は米ドルです。国際貿易や金融取引の大部分が米ドルを基準に行われているため、米ドルは世界経済の安定に不可欠な存在といっても過言ではないでしょう。しかし、こうした米ドルが支配的な地位にいる状況に対して中国政府は強い危機感を抱いています。米ドルの価値変動は、中国経済にも大きな影響を与えるため、米ドルへの依存度を低減したいと考えているのです。

          この観点ではデジタル人民元は、人民元の国際化を推進する上で重要な役割を果たすことが期待されています。前述の通りCBDCは、従来の決済よりも迅速かつ安価であり、海外での利用も容易です。そのため、中国政府はデジタル人民元を積極的に海外に普及させ、国際貿易や金融取引における人民元の利用を拡大していくことを目指しています。

          こうしたドルに対する挑戦は、中国がパイオニアではなく多方面からの挑戦が行われてきました。米ドル圏の内部としてはクレジットカード、ペイパルなどが、また、米国外では独仏がユーロを作り、ロシアはルーブル建ての原油取引を推進しました。記憶に新しいものではビットコインもその一つでしょう。こうした流れの中にデジタル人民元も位置付けてみることができます。

          また、デジタル人民元には「人民を縛りつけるデジタルの鎖」という別の側面もあります。

          デジタル人民元では、すべての取引履歴が記録されるため、中国政府は国民の経済活動を容易に監視することができます。表向きは「新しい形式の法定通貨」ですが、その本質は政府が運営する巨大な台帳です。したがって、脱税も密輸も反政府活動も、台帳を見れば一発でバレてしまいます。あるいは、自由主義や民主主義を吹聴する電子書籍を購入した人民もすぐに炙り出されるでしょう。

          本来であれば、ブロックチェーンは非中央集権的な性格にその意義と本質があります。しかし、こうした文脈においては残念ながら、ブロックチェーンは中央管理者をつなぎ止める「真実の鎖」ではなく人民を縛りつける「支配の鎖」として利用される恐れがあります。中央管理社会の比喩としてよく使われる、「1984」「華氏451度」のようなディストピア的世界も、デジタル人民元の導入によって、いよいよ現れ始めるのかもしれません。

          デジタル人民元の今後が、中国経済と世界経済にどのような影響を与えるのか、世界中が注目しています。

          暗号資産(仮想通貨)

          出典:shutterstock

          CBDCという国が発行・管理するデジタル資産の導入が進む一方で、「中国国内のブロックチェーンの特徴」でもご紹介したように中国において暗号資産の取引は厳しい規制が設けられており、暗号資産の未来はかなり不透明な状況にあります。しかし、そういった規制の影で、暗号資産に関する活動は活発に行われているのが実情です。Chinalysisのレポートでは、中国はアジアで最も暗号通貨活動が多い国として3番目にランクされています。

          出典:Chinalysis

          これらの取引のほとんどはアンダーグラウンドでの取引であり、私たちがビットコインを購入する際には常にボラティリティ(価値変動の度合い)をリスクとして捉えますが、中国の投資家たちはその観点だけではなく、当局による摘発もベースにリスク勘定を行っているというわけです。

          香港の暗号資産取引に関する一般規制緩和が起きて以降、中国国民の間ではビットコインの人気に拍車がかかっています。こうした動きを受けて、中国政府が暗号資産を認める方向に舵を切るのではないかという見方も現れ始めています。

          もしかすると、中国が政治的介入を強める香港で暗号資産の取引が解禁されたのも、本土での導入に先立った検証の狙いもあるのかもしれません。果たして、中国政府が暗号資産を認める日がやって来るのでしょうか。

          非金融領域における最新の中国ブロックチェーン市場動向

          偽造品対策

          出典:Unsplash

          中国といえば偽造品の一大製造国であり、行政摘発も緩い印象があるかもしれません。しかし、そのイメージはもはや古い中国の姿かもしれません。実は、中国政府は偽造品問題の深刻さや他国からの被害報告を十分に認識しており、その対策にも力を入れています。

          その一環として、データの耐改ざん性と追跡性に優れたブロックチェーン技術を活用した対策が取られることも少なくないようです。とくに食品・医薬品に関しては重点品目として公安部による摘発強化計画「崑崙2020」に位置づけるなど最も厳しい管理が適用されています。

          これらの分野で代表的な事例は、米小売最大手ウォルマートの事例でしょう。中国現地法人のウォルマートチャイナでは、ブロックチェーン技術を駆使した食品トレーサビリティの実現に注力しています。この取り組みでは、食品の生産から流通、販売までの過程が透明化され、消費者は商品のバーコードをスキャンするだけで生産地、物流過程、検査レポートに至るまで、商品の詳細な情報を取得することができます。

          中国では過去に「段ボール肉まん」「冷凍ギョーザによる食中毒事件」「使用期限切れの鶏肉を使用したチキンナゲット」など社会問題となるような偽装食品が氾濫していました。そのため、国内の消費者は製品に付与されたQRコードをスキャンすることでサプライチェーン情報に簡単にアクセスできるようになり、食品の安全性と信頼性が大きく向上しました。

          また、副次的なブロックチェーンの導入効果としてサプライチェーンの最適化・物流の最適化も起きています。中国はロシア、カナダについで世界で3番目に大きな国であり、流通経路上に食品が滞留してしまうケースがあります。物流過程も追跡可能にすることでボトルネックの把握が容易になり、調達時間の改善に取り組みやすくなります。不要な中間業者を省くことは調達時間の短縮以外にも調達コストや輸送によるCO2排出量を抑えることにも効果的でしょう。

          このように偽造品への対抗手段としてブロックチェーンは非常に強力なソリューションになり得ます。2020年からの新型コロナウイルスの大流行は、中国における食品安全への意識をさらに高め、ブロックチェーン技術の活用を加速させました。ウォルマートチャイナの取り組みは、まさにこの時代のニーズに合致したものであり、今後も業界全体の変革を牽引していくものとして期待されています。

          公共事業

          出典:shutterstock

          公共事業へのブロックチェーン導入という点においては、中国はアジア一といっても過言ではありません。中国政府は近年、ブロックチェーン技術を公共事業に積極的に活用し、行政サービスの効率化や透明性の向上を図る取り組みを加速しています。この取り組みは、政府のデジタル化戦略の一環として位置づけられており、さまざまな分野でブロックチェーン技術の導入が進んでいます。

          例えば、2023年には中国公安部の主導でブロックチェーンベースの身元確認情報(ID)検証プラットフォーム「RealDID」が立ち上がっています。発表によると、このプラットフォームでは約14億人の中国国民の実名属性を追跡可能な分散デジタルIDが発行され、身元を確認するために使用されます。改ざんされてはいけない情報をブロックチェーン上に記録することで、適切な行政手続きや課税、交通・旅行サービスが受けられるようになるといいます。

          DID(Decentralized Identifier)とは?

          DIDは、政府や企業といった中央集権型の組織による個人情報の管理から完全に独立した個人管理のIDのこと。日本語では「分散型ID」と呼ばれる。従来の中央集権的なIDの管理ではなく、ブロックチェーンなどの技術によってデータを分散化するため、特定の管理者が存在しない。したがって、個人が自身のIDを自分自身でコントロールし、必要な情報だけを必要な範囲で共有することができる。

          パブリックチェーンではなく当局が介入可能なチェーン上に構築されているため、プライバシーの観点から国外からは厳しい批判の声も挙がっていますが、立ち上げに関わっているBSN(ブロックチェーンサービスネットワーク)は「ユーザー自身によるデジタルIDや個人情報のコントロールが目的」とのコメント。中国国民はこのアドレスを使用することで、各種ウェブサイトに匿名で登録・ログインできるようになる模様です。

          また、自治体レベルではすでにブロックチェーンが市政サービスに導入されているケースもあります。Ping An Insurance(中国平安保険)では、深セン市政府とのパートナーシップのもと、2019年1月からiShenzhenアプリを導入し、7000以上の市政サービスを提供しています。このアプリでは、ブロックチェーン上に電子身分証明書を記録し、各種QRを発行することで、様々な業務を効率化します。窓口での申請では平均1〜2時間かかっていましたが、アプリ上であれば20分未満で完了できます。

          これらの取り組みは、行政組織がブロックチェーンを活用してサービスの効率化や透明性の向上を図るために展開しているものであり、その動きは徐々に拡大しつつあります。ブロックチェーンの活用により、中国の公共事業はより効率的で透明性の高いサービスを提供することが可能となり、国家全体の発展に寄与しています。

          2023年5月には「国家ブロックチェーン技術革新センター」が設立され、50万人規模のブロックチェーン専門家の育成という一大国家プロジェクトがスタートしています。今後も公共事業における政府のブロックチェーン推進は加速していくことでしょう。

          中国、国立ブロックチェーン研究所設立で50万人の専門家育成を計画

          NFT(Non-Fungible Token)

          出典:shutterstock

          中国NFT市場は、政府によって暗号資産が規制されているにも関わらず、その市場規模を急速に拡大させています。

          NFT(Non-Fungible Token)とは?

          NFTは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのこと。日本語では「非代替性トークン」と呼ばれる。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに固有の価値を保証している。

          実際に、中国国内のNFTマーケットプレイス(NFT取引所)は2022年2月の時点で100あまりしか存在していませんでしたが、同年6月にはその数が500を突破し、たった4ヶ月で5倍にまで増加したことが現地メディアにより報じられています。

          中国のNFT市場がここまで急速に拡大した要因としては、同国内におけるNFTへの関心の高まりと、テンセントやアリババといった中国の巨大テック企業の本格的な参入があげられます。 実際に、2021年6月にアリババグループのAlipayが決済QRコードの背景になる(いわゆる着せ替え)1.6万個の限定版 NFTを販売すると、発売後数秒以内に完売しました。

          このようにNFTへの関心や需要が高まる一方で、中国のNFT市場は他のNFT市場とは異なる独特の特徴を持っています。たとえば、中国国内のほとんどのNFT販売プラットフォームでは無償であってもNFTの譲渡はできず、同様に購入者は、二次流通または二次的著作物の作成を許可されていません

          NFTには大元の持ち主が誰なのかという情報に加え、NFTが転売された際に大元の持ち主に何%還元されるのかという情報を記録させることができます。この仕組みによって、音楽やスポーツといった様々な分野における転売収益の確保が可能になると注目を集めているのですが、中国のNFTにはこれが適用されません。

          また、暗号資産への規制が厳しい中国でのNFT取引で使える決済手段は、法定通貨である人民元のみとなっています。

          こうした各種規制を受けてNFTに関わる個人や企業は、厳しい監視の目を向ける中国政府との直接的な対立を避けるために慎重なアプローチを取っています。NFTを取り扱う中国のテック大手企業の多くが、当局の規制に配慮して「NFT」ではなく「デジタルコレクティブル(数字収蔵品)」という言葉を使用して世界の仮想通貨市場との区別を図っているのもその一環でしょう。

          まとめ:中国のブロックチェーンは今もなお姿を変えつつある

          本記事では中国におけるブロックチェーンの現在地について解説してきました。今まで見てきたように、中国では政府がブロックチェーンを革新的な技術として位置づけて推進しながらも、様々な法規制によって独自の経済圏が構築されています。

          しかしそんな中国でも近年、ブロックチェーンへのアプローチに変化が見られています。なかでも、2024年4月に中国政府が発表した「一帯一路構想のための超大規模ブロックチェーンインフラストラクチャープラットフォーム」はWeb3.0界隈に大きな衝撃を与えました。というのも、このプラットフォームではパブリックチェーンでの開発を前提に研究が進められていくと開発元のConflux Networkが明かしているからです。

          中国政府、コンフラックスとパブリック・ブロックチェーン・プラットフォームを立ち上げ | Cointelegraph | コインテレグラフ ジャパン

          仮にこの構想が実現すれば、複数の国家間で複数のテーマを取り扱うことができるようになるだけではなく、今までプライベートチェーンを用いることで発生していたデータ主権データセキュリティといった様々な弊害もすべてクリアになります。しかし同時に、中央集権的な管理体制からの移行を意味するものでもあり、これは単なる次世代プラットフォームの開発以上の価値を持つでしょう。

          またNFTについても、2023年10月に中国共産党の機関紙「China Daily」が独自のメタバースとNFTプラットフォームを作成する計画を発表しました。この発表においても、OpenSeaやRaribleといった国外の主流NFTプラットフォームとの連携が予定されており、一定の条件下であれば二次流通も可能になるのではないかと見られています。

          このように、中国ではこれまでの鉄の掟ともいうべき絶対的なルールが姿を変えつつあります。プロジェクトの詳細が語られることが少なく、なかなか情報も入ってきにくい中国のブロックチェーン業界ですが、大きな転換期の真っ只中にいることは間違いありません。今後もその動向を注意深く見守る必要があるでしょう。

          「VCs(Verifiable Credentials)」とは?デジタル世界でのアイデンティティ証明を徹底解説!

          2000年代初頭からインターネットが急速に普及し、現在ではGAFAなどの巨大テック企業が社会の中心に位置しています。しかし、これに伴って企業が個人情報を管理することに関する懸念も浮上しています。

          今回紹介する「VCs」は、そんな時代において自分のアイデンティティを自分でコントロールする社会を実現するうえで欠かすことができない概念です。また、VCsとセットにして「DID」や「ゼロ知識証明」といった概念もよく登場してきますが、こちらもインターネットの巨人たちに対する対抗策を語るうえで避けては通れない重要な概念です。

          本記事では、そんなインターネットにおける個人の主権を強化する概念についてわかりやすく解説しています。ぜひ最後までご覧ください。

            VCs=デジタル上で個人情報を検証する仕組み

            出典:shutterstock

            VCsとは「Verifiable Credentials」の略であり、日本語では「検証可能な資格証明」と訳されます。具体的には、個人が所有できるデジタル上の証明書でありながら、その正当性については信頼できる第三者機関によって検証される仕組みを指します。

            ここでいうデジタルな証明書とは、年齢、名前、住所といった個人情報に限ったものだけではなく、

            • 運転免許証
            • 学位証
            • 受賞歴
            • 職歴
            • 学習履歴
            • 出生証明書

            など、現在は私たちが紙などで物理的に所有していたり、証明が難しい様々な情報についても記録することができます。

            VCsを活用することにより、不透明な情報の可視化や真偽の疑わしい情報を公正に検証することが可能になり、デジタル上で個人情報を様々なサービスで利用できます。

            例えば、企業が人材採用を行う際に、応募者の職歴欄に「Google」と書いてあっても、その情報を書き込んだ本人の証言しかないのであればイマイチ信憑性には欠けてしまいます。職歴証明書という制度もありますが、現行の労働基準法では退職してから2年を超えている場合には、企業が職歴証明書を発行する義務はなくなります。したがって、前職よりもさらに前の職歴を証明するのは現実問題としてなかなか難しいでしょう。

            しかし、VCsによってそういった個人のIDとGoogle社の過去の社員情報を即時に検証できる仕組みがあれば、企業側は安心して人材採用を行えますし、応募者はそのキャリアを正当に評価してもらうことができます。

            こうした可視化できない個人情報を証明する仕組みは、企業だけでなく行政や医療機関なども注目しており、VCsに関する取り組みは今後さらに活発になっていくものと考えられます。

            VCsの仕組み

            続いて、簡単にVCsの技術的な仕組みについて説明します。ここでは、個々の資格証明の流れについて見ていくため、複数形ではなくVCと略すことにします。VCは、次の4要素で構成されています。

            発行者(issuer):VCを発行する者
            保有者(holder):VCを発行者から取得し、保有・利用する者
            検証者(verifier):保有者が提示したVCが信頼できるものであるかを検証する者
            レジストリ(Registry):分散型台帳やブロックチェーンといった各種データベース

            verifiable credentialsの仕組み
            出典:LasTrust

            VCはまず発行者によって発行がなされます。この発行者は、運転免許証であれば都道府県公安委員会、学歴証明書であれば国立大学法人や学校法人、健康診断結果であれば医療機関などが該当します。発行時には暗号技術の仕組みを利用してVCにデジタル署名を付与し、復号に必要な鍵(公開鍵)は改ざんができない仕組みを持つレジストリに登録します。

            次に、保有者は発行者から受け取ったVCをデジタルウォレットと呼ばれる保管場所に格納し、必要に応じて利用します。利用の際には、VCをそのまま検証者に提示するのではなく、VP(Verifiable Presentation)という提示用のフォーマットに変換したものを提示します。

            検証者は、レジストリに登録されている発行者の公開鍵を使ってVPを検証し、デジタル証明書の信頼性を確認します。そして、その検証結果に応じてサービスの提供の可否を判断したり、提供プランを変更したりすることができます。

            VCsの要素技術

            VCsはあくまで、認証の仕組みにすぎません。この仕組みを確立するうえでは様々な技術や概念が深くシステムに関係しています。しかし、これらの技術はWeb3.0時代の新たな技術でもあり、従来のデータシステムでは聞き馴染みのない用語も出てきます。

            そこでここからは、VCsを実現するうえで欠かせない以下のVCsの要素技術について説明していきます。

            • ブロックチェーン
            • 公開鍵暗号方式
            • DID
            • ゼロ知識証明

            ブロックチェーン

            出典:shutterstock

            ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

            ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

            取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

            ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

            これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

            また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

            ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

            ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

            新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

            また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

            コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

            このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

            こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

            データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

            詳しくは以下の記事でも解説しています。

            公開鍵暗号方式

            ブロックチェーン技術では、情報を分散して保有することで非中央集権の仕組みを実現していると説明しましたが、そうなると「個人情報も様々な人に筒抜けなのではないか?」という疑問が浮かぶ方もいらっしゃるかと思います。

            そんな疑問を払拭してくれるのがこの「秘密鍵」と「公開鍵」によって構成される公開鍵暗号方式です。公開鍵暗号方式とは、情報を通信する際に、送信者が誰でも利用可能な公開鍵を使用して暗号化を行い、受信者が秘密鍵を用いて暗号化されたデータを復号化するという手法を指します。

            秘密鍵は特定のユーザーのみが保有する鍵で、この秘密鍵から公開鍵を生成することは可能です。しかし、公開鍵から秘密鍵を特定することは現実的には不可能です。公開鍵で暗号化されたデータは対応する秘密鍵でしか復号化できないため、秘密鍵さえ厳重に管理していれば、データの保護と情報漏洩の防止が可能となります。

            出典:サイバーセキュリティ情報局「キーワード事典」

            流れとしては以下の通りです。

            1. 受信者が公開鍵を送信者に公開
            2. 送信者は受信者の公開鍵を使用してデータを暗号化
            3. 受信者は自分の秘密鍵を使用して暗号化されたデータを復号化

            したがって、データを分散して管理していようと秘密鍵の持ち主以外からするとただの暗号文に過ぎず、内容を読み解くことは事実上不可能といえます。この仕組みは、個人情報を扱うVCsにとって非常に重要な概念であるでしょう。

            DID

            DID(Decentralized Identifier)とは、政府や企業といった中央集権型の組織による個人情報の管理から完全に独立した個人管理のIDのことです。日本語では「分散型ID」と呼ばれます。

            従来の個人情報管理では、個人のデータは行政機関や企業によって一括的に収集され、管理されていました。例えば、行政機関は国民の身元を確認するためにマイナンバー制度を導入し、個人の税務情報や社会保障情報などを管理しています。同様に、GoogleやAppleを筆頭とする大手テック企業(いわゆるGAFA)では膨大な量の個人データを収集し、その情報をビッグデータ分析やターゲティング広告などの目的に利用して市場における絶対的な優位性を築いています。

            一方で、近年になってこうした中央集権的な個人情報の管理についてはおもに2つの観点からその危険性が指摘されるようになっています。1つ目の観点はデータのセキュリティリスクです。ビッグデータ時代と呼ばれるように情報そのものが貴重な価値を有するようになった現代では、個人情報データがサイバー攻撃の標的となる可能性があります。

            もちろんこうした公的機関や企業では個人情報の管理を徹底していますが、それでも巨大なデータベースでの情報管理ではハッキングのリスクも大きくなってしまうのが現状です。事実、毎年のように大手企業での情報漏えいが問題となっています。

            2つ目の観点は個人の自由とコントロールの喪失です。中央集権的なプラットフォームに依存することで、個人は自らの個人情報やアイデンティティに対するコントロールを失う可能性があります。このまま一定の組織が強大な権力を持ち続ける構図が続くと、権力を乱用してクラウド上の個人情報や企業情報を検閲する組織が現れる可能性があります。むしろ世界の歴史を振り返ると、こうなっていくのが自然な流れなのかもしれません。

            この観点については、X(旧Twitter)でユーザーID「@X」を使っていた男性が無断でユーザー名を変更された事件を思い出していただけると理解しやすいかと思います。

            「@X」のユーザーID、元の持ち主から一方的に取り上げていたと判明 英テレグラフなど報じる – ITmedia NEWS

            SNSにおけるハンドル名は、現実世界の戸籍のようなもので、インターネット空間上のアイデンティティを識別する重要な識別子です。Twitter社の社名変更に伴って発生したイレギュラーな事案であるとはいえ、長らく使用してきた個人の属性を勝手に変更するというのはプライバシー侵害や越権行為であるという見方もできるでしょう。

            こうした現状を受けて、「データ所有者が自分のデータを制御および管理する権利」である「データ主権」の概念や「個人のアイデンティティ情報は、個人がデータ主権を有するべきである」という「自己主権型アイデンティティ(SSI:Self-Sovereign Identity)」の考え方が提唱され始めています。

            DIDは、SSIを実現するための技術の1つであり、従来の管理形態に関する問題を解決するために誕生した「自己主権型のID」です。従来の中央集権的なIDの管理ではなく、ブロックチェーンなどの技術によってデータを分散化するため、特定の管理者が存在しません。

            したがって、個人が自身のIDを自分自身でコントロールし、必要な情報だけを必要な範囲で共有することができます。VCsでは、「保有者」という概念が出てきたかと思いますが、これはまさに個人がデータ主権を有している前提に立っていることを象徴しています。

            出典:検証可能な資格情報 (VCs: Verifiable Credentials) (前編)

            なお、上の図ではDIDs(Decentralized Identifiers)という言葉が使用されていますが、これは分散型システム上に登録される個々の識別子のことを指します。デジタル上で個人を特定するための個々の情報を表現しているため、DIDsはDIDを形成する要素であるともいえるでしょう。

            分散型IDと分散型識別子はどちらもDIDと略されることがあるため、混同を避けるために分散型識別子をDecentralized Identifiersとし、DIDsと表記するのが一般的になりつつあります。

            ゼロ知識証明

            最後にゼロ知識証明(ZKP:Zero Knowledge Proof)についても説明します。ゼロ知識証明自体はVCsに必要不可欠というわけではなく、それぞれ独立しているものの、両方を使うことでより効果的にVCsが実現できます。

            ゼロ知識証明は、個人が特定の情報を持っていることを証明する際に、その情報自体を露呈せずに証明する手法です。これにより、プライバシーを保護しながらも、必要な情報の提供を可能にします。

            この概念を理解する際に役立つのが、ジャン=ジャック・キスケータらの論文「我が子にゼロ知識証明をどう教えるか(How to Explain Zero-Knowledge Protocols to Your Children)」で紹介されている「アリババの洞窟」です。

            出典:Wikipedia

            アリババの洞窟にはAとBの2つ道がある。太郎さんは洞窟の中にある秘密の抜け道を通るための合言葉を花子さんから教えてもらいたい。花子さんはこの合言葉を1万円で売ってくれると言っているものの、太郎さんは花子さんが本当に合言葉を知っていると確信するまでは支払うつもりはなく、花子さんも、太郎さんがお金を支払うまではそれを共有しない。

            この両者硬直の状態を解決して取引を確実なものとするためには次のような証明手順を踏めば良い。 太郎さんは洞窟の外で待っている。花子さんはAかBどちらかの道で洞窟の奥へと進む(このときVictorにはPeggyがどちらを選択したかは見られない)。太郎さんは洞窟に入り、分岐点でAかBどちらかの道から戻ってくるよう花子さんに指示する。花子さんは太郎さんに言われた方の道から分岐点に戻る。1〜3を繰り返す。

            この証明方法では、数回だけでは花子さんの運が良ければ推測が当たっただけの可能性もありますが、何度でも戻ってくることができるのであれば、花子さんが本当に暗号を知っている可能性は高まります。例えば、20回試行した後、花子さんが運だけで太郎さんの選んだ道から戻ってこられる確率は100万分の 1 未満となり、これは確率的な証拠となります。

            ゼロ知識証明ではこうした仕組みによって、証明者は検証者にわずかな情報しか与えずにある命題を証明することができるというわけです。

            なお、ゼロ知識証明には、検証者が証明者から受け取った情報をどのように検証するかによって、対話型ゼロ知識証明非対話型ゼロ知識証明の2種類があります(各分類はブロックチェーンを活用する上でも知っておいて損にはならないものなのですが、そこまで説明すると長くなってしまうので割愛します)。

            では、ゼロ知識証明はどういった場面で必要になるのでしょうか?例えば、20代前半の頃を思い出してみてください。コンビニでお酒を買おうとすると、20歳以上であることを証明するための身分証を提示するよう求められたのではないでしょうか?

            「若く見えるってことね」というポジティブな方も中にはいらっしゃるかと思いますが、身分証には生年月日以外にも氏名や証明写真、住所といった重要な個人情報が記載されています。この情報を提示するということは免許証に記載された個人情報が漏洩するリスクに直結します。また、物理的な証明証を所持することで紛失や盗難のリスクも発生します。

            一方で、現在のコンビニで主流となっている「年齢確認ボタン」はいわゆる自己申告制のシステムであり、本当は未成年なのにも関わらず酒類を購入することができてしまいます。

            ゼロ知識証明を活用すれば、この両者のデメリットを解決できます。販売店としては20歳かどうかだけを確認できればよいので、レジストリに登録されている生年月日から「購入希望者が購入時点で20歳以上である」という客観的な事実のみをデジタル上で検証します。したがって、購入希望者は生年月日さえも一切提示することなく、年齢の(基準を満たしているという)証明ができます。

            わかりやすく酒類の販売にフォーカスしながら説明しましたが、この仕組みは医療データや金融取引、マーケティングといったより機密性の高い個人情報を保護しながら、その仕組みを利便化することにも応用できます。「VCsによって提示するデータを個人が選択しながら、ゼロ知識証明でさらにその情報さえも直接相手には開示せずに活用することが可能になる」というふうにイメージしてもらえると良いでしょう。

            VCsを実現するうえでの課題

            出典:shutterstock

            発行者を拡充する

            VCsを利用するためには、証明書情報の発行者が必要です。現在、発行に必要なアイデンティティ情報を大量に保有しているのは一部の企業や行政機関のみです。したがって、これらの組織が積極的に参入してくることがVCs普及の前提となってきます。

            発行者の拡充によって様々な種類の証明書が提供されるようになると、今度は利用者のニーズに応じたサービスが提供されるようになるという好循環が生まれてくるでしょう。今はまだ充分に発行スキームが整備されている状態ではありませんが、一部の先進的な企業では実証実験を開始しているところもあり、徐々にそのレールが敷かれつつあります。

            グローバルな相互運用性の確保

            VCsで扱われる情報は、国外でも必要になってくる情報がほとんどです。また、パスポートなどを想像するとわかりやすいかと思いますが、こうした個人情報は外国滞在中に事件に巻き込まれた場合や怪我をした場合など、トラブルの際に必要不可欠の情報です。言葉の異なる海外において自分が何者であるかを具体的に証明できることは、生命線ともいえるでしょう。

            したがって、国内でVCsに関する取り組みを進めていく際には、国際的なデータモデルに適応する必要があります。ガラパコスな制度となってしまわないように、将来的な国際標準化にも対応できるような柔軟な設計が求められます。

            利用者の使いやすさと普及促進

            VCsの利用が広がるためには、利用者が使いやすいシステムであることが不可欠です。当然ながら使いやすいインターフェースやユーザーエクスペリエンスの向上が求められます。また、VCsの普及には教育と啓発が欠かせず、利用者や関係者への積極的な情報提供とティーチングが必要です。

            マイナンバーという国が推進する政策ですら、「情報流出が怖い」という理由や「申請が面倒」という理由によって普及までに多くの時間を費やしました。VCsは仕組みもさらに複雑であるために、利用者がVCsを利用するメリットや活用方法をしっかりと理解できるように、積極的にPRしていくことが重要になるでしょう。

            VCsの活用事例

             sakazuki

            出典:PR TIMES

            株式会社PitPaでは、同社のキャリア支援サービス「sakazuki」上で、学歴・学修歴・インターンシップでの実績などのキャリアに関するデータが学生個人に紐づく仕組みを実現しています。これにより、どのような過去の経験がキャリア選択に影響しているのかといった「学生の努力と成長のストーリー」が可視化されます。

            一例として、千葉工業大学と共同で講義における成績データや取組の成果を「キャリア証明書」として可視化するというVCsの取り組みを行っています。本取り組みでは、参画したセプテーニ・インキュベート社のインターンシップでの実績や担当者からのフィードバックの記録も行いました。

            実際にこの取り組みに参加した学生は、キャリア証明書を活用して他企業からの内定を獲得しており、新卒採用を行う企業にとっても、大学やインターン企業からの「お墨付き」は選考時においても良い判断材料となったようです。

            同社は「PitPaは産学官との連携を一層強化し、教育機関と企業間の人材データの透明性担保と循環を促すことで、インターンシップのマッチング等を通じて学生の新たなキャリア形成機会を創出します。」としており、キャリア証明書によって学生、教育機関、企業の三者にメリットがもたらされることで、過去の成績や学修履歴を第三者によって証明できるだけでなく、学生が自らのキャリアをより主体的に選択できるという就職活動のパラダイムシフトも促進するでしょう。

            また、同社では他にもLIFULL Tech Vietnam社やNTT社、アッドラスト社やXtraveler社など様々な企業に提供し、キャリア証明書の発行を行っています。近い将来、あなたの働く職場でも「sakazuki」でキャリア証明が出来る日も近いかもしれませんね。

            新型コロナワクチン接種証明書アプリ

            出典:Google Play「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」

            2021年12月にデジタル庁から公開された新型コロナワクチン接種証明書アプリもVCsの一種と捉えることができるでしょう。ニュースなどでも大々的に報道されていたため、実際に使用したことがあるという方も多いのではないでしょうか。

            このアプリは、「SMART Health Card(SHC)」と呼ばれる健康証明書用の規格を採用しています。SHCという規格はMicrosoft、Amazon Web Services、Oracle、Salesforceといった名だたる企業が参加しているイニシアチブである「Vaccination Credential Initiative(VCI)」が推奨するフォーマットであるため、国内向けだけでなく、海外向けに対応した形式の証明書を発行することができます。

            SHC自体はすでにカナダでは正式採用されており、アメリカにおいてもワクチン接種記録のデジタル証明書のデファクト・スタンダードとなるなど国外で普及し始めているデジタル証明書の認証基準です。元々、日本政府の発行する証明書はパスポート同様、他国からはそれなりに信頼されてはいますが、SHCを採用することで、デジタル上においてもその信頼性が担保された接種証明書となりました。

            アプリ自体は国内外で接種証明書が必要な状況が少なくなったになったことから、2024年3月31日をもってサービスの提供は終了しているものの、累計アプリダウンロード数は約1,566万回(2024年2月20日時点)と、国内のVCsの事例としては最も大規模に行われた事例といえるでしょう。

            My DID

            出典:Digital Platformer

            Digital Platformer株式会社は、大阪府豊能町において分散型IDを活用した「MyDID」という先進的なサービスを提供しています。これは日本においては初となるブロックチェーン技術を採用したDIDの事例です。

            MyDIDは「とよのんウォレット」と呼ばれる町内でデジタル地域通貨やプレミアム付き商品券の取引・管理ができるアプリと連携することでスムーズな購入と、個人によるデジタルアイデンティティの管理を行うことが出来ます。また、「とよのんコンシェルジュ」という地域経済活性化サービスでは、MyDIDを利用することで、地域通貨の導入や地域イベントへの参加が促進され、地域コミュニティの活性化に貢献しています。

            同社は、デジタル先進国であるエストニアの電子データ共有システム「X-Road」をモデルにMyDIDを活用した先進的なサービスを提供し、豊能町のスマートシティ構築に貢献しています。現在はDIDのみの提供にとどまっていますが、将来的には様々な企業で発行しているID/Passの統合というVCs的な構想も発表しており、新たなVCs事例になる可能性もあります。今後のサービス展開からも目が離せません。

            まとめ

            本記事では、VCsの基本的な仕組みや活用事例、周辺知識を解説しました。完全なデータの自己主権が実現するにはまだまだ解決すべき課題もあるため、数年でVCsが一般的な認知を獲得していくのは難しいでしょう。

            一方で国内外でVCsを活用したプロジェクト事例は増えており、技術の進歩とともにそのユースケースや参入企業も多様化していくことでしょう。今はまだ開発段階の技術ですが、今後のさらなる実用化に期待しましょう。

            トレードログ株式会社では、本記事でも取り上げたブロックチェーンに関するサービスを展開しております。非金融分野におけるブロックチェーンシステムの開発・運用や、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

            ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

            最近よく聞く「トークン」って何?意味や種類、暗号資産(仮想通貨)との違いについて解説します!

            暗号資産(仮想通貨)に関連してよく耳にする言葉に「トークン」があります。トークンという言葉自体は暗号資産やWeb3.0の世界以外でも使われており、様々な意味合いを持っています。しかし、改めてトークンとはなにかを説明しようとするとうまく言葉で整理できない人も多いようです。

            今回は「トークンとはそもそも何なのか?」をテーマに、その定義から注意点、混合しやすいキーワードとの違いや複雑な分類まで一気に解説します。ぜひ最後までご覧ください。

              トークンとは?

              トークン=取引の証拠

              まずはトークン(token)の言語的な意味から紐解いていきましょう。語源辞典であるEtymonlineによると、tokenは本来、「しるし」「証拠」を意味する単語でした。しかし、これは一体なにを指し示す「証拠」のことなのでしょうか?

              トークンが生まれたとされる紀元前8,000年頃よりもさらに前、紀元前9,000年頃、人類は大きな転換期を迎えます。定住せずに狩りや採集といった行動によって食料を得てその日食べられるだけ食べるという獲得経済から、農耕や牧畜を主とする生産経済への移行を始めたのです。

              食料がある程度備蓄できるようになると、人々は牛などの家畜を通貨の代わりとして使い出すようになります。しかし、こうした家畜は通貨として持ち運ぶにはとても不便ですし、死んでしまうと価値がゼロになってしまいます。

              そこでメソポタミア文明では、円盤状をした小さな粘土の塊に取引内容を記録して生活を営むことにしました。この小さな粘土から作られた小さな陶器が最古のトークンといわれています。記録したい取引の内容に対応させてトークンの所持することで、そのアイテムを実質いくつ所持しているのかを可視化できるという仕組みです。

              ▼トークン研究第一人者であるデニス・シュマント=ベッセラ(Denise Schmandt-Besserat)の著書『How writing came about』の表紙には、世界最古のトークンが描かれている。(出典:University of Texas Press

              つまりトークンとは、「取引の証拠」として発達してきた存在だといえます。その過程で貨幣や紙幣が誕生し、モノが金銭によって取引されるようになると、商品券や映画・イベントの入場チケット、カジノのチップやパチンコ玉など、前払いの証明や流通性・利便性の向上のために様々なシーンでトークンが使用されるようになります。

              現代ではトークンという言葉が、プログラミング分野(「最小単位」という意味のトークン)やITセキュリティ分野(「ワンタイムパスワード」としての認証トークン)などでも使用されるようになり、その都度、「トークン」という言葉が表す意味は異なってきます。原義のニュアンスを踏まえつつも、個別のサービスに応じた柔軟な解釈が必要でしょう。

              暗号資産(仮想通貨)の世界におけるトークン

              暗号資産の世界では、既存のブロックチェーンプラットフォームを利用して新たに発行された暗号資産のことをトークンと呼びます(反対に、既存のブロックチェーンプラットフォーム固有の主軸通貨は「ネイティブトークン」「ネイティブコイン」と呼ばれます)。これらは、ビットコインやイーサリアムといった既存ブロックチェーンのシステムを間借りして発行されており、独自の専用チェーンを持ちません。いわば、スーパーやコンビニが独自に発行しているポイントに近いものです。

              こうしたトークン自体は自由に売買することができ、決済に使用するだけでなく現実世界の資産やゲーム内の仮想アイテムなど、多くの実用性を兼ね備えています。ここ最近、「トークン」という言葉をよく耳にするようになった背景としては、この暗号資産やブロックチェーンの存在が大きな要因といえるでしょう。

              しかし、従来のトークンは第三者による改ざんが重大な弱点であり、コピーガードやOPニス、擬似エンポスといった対策が取られてきたものの、物理的な形を要するギフトカード等は偽造品による被害が収まることはなく、その公平性が保たれにくいという課題がありました。

              「JCBギフトカード」の偽造券発覚について

              一方、耐改ざん性や透明性といった性質を兼ね備えるブロックチェーン技術によって発行されたトークンではこういった不正行為は極めて困難であり、活用用途も幅広いものとなっています。ブロックチェーンについては以下の記事で詳しく解説しています。

              コインとトークンは何が違う?

              トークンとよく混同される言葉に「コイン」があります。コインとトークンは一般的には、どちらも暗号資産という言葉でまとめられることが多いですが、実際には両者の間には明確な違いがあります。 ここでは、この2つの概念を少し掘り下げて解説します。

              出典:Ledger「コインとトークンの違い」

              前述の通り、トークンとは既存の暗号資産プラットフォームを間借りする形で発行された暗号資産を指します。一方、コインとは専用のブロックチェーンを使って発行された、そのプラットフォーム固有の主軸通貨を指します。代表的な仮想通貨であるビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)は、それぞれ独自のブロックチェーンを使って発行されています。コインはトークンと比較して「ネイティブトークン」とも呼ばれます。

              コインとトークンの大きな違いは、コインがカレンシータイプの暗号資産であることに対し、トークンはアセットタイプの暗号資産であるという点です。カレンシータイプであるコインは、発行者が存在せず、上限枚数が存在します。発行数にキャパシティが設けられているということは、コインが市場に出回り過ぎて希少価値が薄れる可能性も低く、価値が安定しているということです。

              こうした側面から暗号資産は別名の「仮想通貨」の名の通り、インターネット上のボーダーレスな法定通貨として人気を博することになります。特定の国家や銀行に依存しない上に、従来の国際送金と比べても迅速かつ低コストで「いつでも」「どこでも」「だれでも」自由に送金できる仕組みがコインの特徴です。

              対してトークンは、あるアプリケーションの中で決済に使用されたり、特定の権利を代替したり、消費を目的としたりなど、エコシステムに実用性を与える存在です。コインとは異なり、トークンは単に価値の保有や交換だけでなく、分散型議決権、NFTのようなデジタル収集品、あるいは米ドルのような現実世界の資産をブロックチェーンベースで表現するなど、幅広い用途で利用されています。

              また、コインはそれぞれ独立したチェーンを持っているが故に取引所を通じてコイン同士を交換する必要がありますが、トークンは同じエコシステムのチェーンであればUniswap(ユニスワップ)などのDEX(分散型取引所)を通じて簡単に交換することができます。実際に、Ethereumを利用して運用されているブロックチェーンでは、数あるERC-20トークンや多くのNFTがサポートされています。

              トークンの様々な種類

              暗号資産の世界におけるトークンには、その目的によって様々な呼称がついています。ここからは、数あるトークンの種類とその特徴について簡単に説明していきます。

              ただし、すべてのトークンが定義通りの役割を持っていたり、どれか一つの種類だけに分類されるわけではなく、文脈や状況に応じてトークンという言葉が意味するものが異なる場合があるので、その点は注意しましょう。

              RWA(Real World Asset)トークン

              出典:shutterstock

              RWA(Real World Asse)とは、日本語で「現実資産」と表現され、株式や債券、不動産、コモディティなどの現実世界に物理的に存在する資産のことを指します。RWAトークンとは、こうした現実資産をトークン化したものであり、資産をデジタル化することによって、売買を活発に行ったり、安全に取引ができるようになります。

              紐づく対象は多岐にわたり、上記のようないかにも「資産」というイメージの強いものもあれば、トレーディングカードやスニーカー、ワインや日本酒といった従来では「コレクターズアイテム」に過ぎなかったものでもトークン化することが可能です。伝統的な金融システムでは取り扱うことが難しい投資対象であっても、トークンとして扱うことができる点は大きな利点でしょう。

              また、RWAトークンは将来的な現実資産にも適用可能です。予約販売されるような商品やサービス利用権を事前に販売することで、企業側は事前にキャッシュを得ることができます。そのため、今後RWAトークンを活用した資金調達や資金運用が活発になっていくのではないかと大きな注目を集めています。

              ユーティリティトークン

              出典:Unsplash

              ユーティリティトークンは、トークンそれ自体は金銭的価値をもたず、具体的な他のアセットと交換することによって初めて資産性が生まれるトークンです。

              例えば、ロックミュージシャンのコンサートチケットもユーティリティトークンの一つです。というのも、このチケットが価値を持つのは、チケットを使うことで生の演奏を聞くことができると約束されているからです。したがって、コンサート開催日の翌日以降であったり、そのミュージシャンを知らない人間しかいない地域であったりすると、そのチケットには1円の価値もなくなります。

              また、別の例で言えば、JRの切符を西武鉄道で使っても意味がないのと同じ話です。このようにユーティリティトークンは、他のアセットとの交換可能性を金銭的価値に変えられるトークンであることから、次のような特徴をもちます。

              • 閉じられた(=一部の人間に限定された)コミュニティや地域などで効果を発揮しやすい
              • トークン自体は物質的価値をもたなくてもよい
              • 交換対象となるアセットの価値を定量化できる

              こうした諸特徴は、既存のビジネスに活用するうえで非常に使い勝手が良いため、ユーティリティトークンはブロックチェーンの技術とともに様々な領域で活用され始めています。

              また、RWAトークンとユーティリティトークンはしばし似たようなニュアンスを持ちますが、RWAトークンが現実の資産に紐づいて価値の裏付けがあるのに対して、ユーティリティトークンは、単にサービスやコミュニティへのアクセス権に過ぎず、価値の裏付けはありません

              セキュリティトークン

              出典:shutterstock

              セキュリティートークンは、従来の有価証券をブロックチェーン技術を用いて電子化(トークン化)したものです。ここでの「セキュリティ」は一般的に使われる「安全性」という意味ではなく、「証券」という意味です。

              セキュリティトークンは有価証券と同様、資金調達の一環として発行されることが多いですが、ブロックチェーンを活用することにより、デジタル上でのデータの安全性を担保したうえで24時間いつでも取引が可能になっています。まさに、透明性と利便性を兼ね備えた新たな資金調達法といえるでしょう。

              セキュリティトークンを利用した資金調達法では、法制面での整備も追いついています。セキュリティトークンは証券会社を通して購入することになりますが、発行企業も各国の金融商品取引法に準拠したトークンを発行する必要があるため、投資家も安心して投資をおこなうことが可能です。

              コインを利用した資金調達法のICO(イニシャル・コイン・オファリング)ではスキャム(詐欺)が横行しましたが、クリーンな市場整備が進んでいるSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)ではこうした問題は起こりにくい仕組みとなっています。

              STOについては詳しくは以下の記事でも解説しています。

              ガバナンストークン

              出典:Unsplash

              ガバナンストークンとは、投票権のついているトークンのことです。トークンの保有者は、DAO(分散型自律組織)DApps(分散型アプリ)などの開発・運営に関わる意思決定に参加することができます。つまり、これら分散的なシステムにおける運営方針はガバナンストークンのホルダーによって決まるということです。

              従来型のガバナンスモデルでは、原則的にはトップダウン方式を採用し、個々のメンバーの考え方が一致しなかったとしても、十分な報酬を支払って雇用関係を維持することで組織運営を継続していきます。

              一方、分散型のガバナンスモデルでは特定の主体がプロジェクトの意思決定権を持ちません。ガバナンストークン保有量に準じ、一種の「民主主義」としてプロジェクトの意思決定を行うことにより、常にメンバーたちにとっての最適解を導き出すことができます。

              結果として、プロジェクトに対して熱意のあるメンバーはより多くのガバナンストークンを取得することで発言権を増やすこともでき、こうした循環によりコミュニティの結束力が向上するという仕組みです。

              また、ガバナンストークンはプロジェクトに必要となる資金調達としての役割を兼ねていることもあります。発行上限が設定されているガバナンストークンは一定の希少性を持つため、多くのガバナンストークンが発行上限を設定しています。

              とはいえ、セキュリティトークンのように資金調達を全面に出しているわけではなく、主目的はあくまでガバナンスです。そのため、プロジェクトによっては保有インセンティブを設けるなどして、保有者に長期保有を促しているものもあります

              DAOについては詳しくは以下の記事で解説しています。

              NFT

              出典:shutterstock

              NFT(Non-Fungible Token)とは、代替不可能なトークンのことです。ブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに固有の価値を保証しており、現在ではアートやブロックチェーンゲームにおいて主に活用されています。

              簡単にいうと、NFTとは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している「証明書」が付属しているようなものです。

              不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。しかし、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます。

              そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。

              NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、さまざまな分野で実用化が進んでいます。

              NFTについては詳しくは以下の記事でも解説しています。

              SBT

              SBT(Soul Bound Token)とは、前述のNFTの一種であり、NFTと同様に代替性を持たないトークンですが、譲渡が不可能かつ受け取った本人以外は利用ができないトークンを指します。

              出典:ProofX

              譲渡や売買ができないNFTであるため、トークンを投機目的で収集している人にとってはまったく意味のないNFTです。一方、SBTではNFTを応用したID系のソリューションと比較して、より強力に自身のアイデンティティや履歴を表現・証明可能です。

              現在、SBTが最もマッチすると考えられている領域が、各種証明書への応用です。たとえば学生証をSBTとして発行すると、学生証の偽造や学割の悪用を防ぐことができます。悪用を排除できれば、企業や学校側がより良いサービスを提供してくれる可能性もあるでしょう。卒業後には卒業証書として活用することで、経歴詐称などを防ぐこともできます。

              また、SBTは譲渡はできませんが、バーン(焼却)はできるので、一時的に個人情報と結びつけたい場合にも使用できます。たとえば借用書などをSBTとして発行した場合、借金を完済した時点でSBTをバーンすることができます。

              このようにSBTは、Web3時代のデジタルIDとしての活用が期待されています。

              ファントークン

              出典:bitcoinsensus

              ファントークンとは、ファンとブランドの関係構築を目的としたトークンです。現在、ファントークンは主にスポーツ業界で利用されており、マンチェスターシティやバルセロナFCなどの世界的に有名なスポーツチームからUFCなどのプロ格闘技団体に至るまで、数多くの団体がファントークンを活用しています。

              デジタル会員証としてのトークンを所有することによって、チームや選手に対してさらに愛着が持てるようになったり、ファンコミュニティの中で「自分は正真正銘のファンだ」といった心理的な優越感を得ることができます。

              また、チケットの先行抽選やユニフォームのデザイン投票への参加権など、特典付きのトークンも存在します。このようにファントークンは特別体験や特典を通じてファンとのエンゲージメントを高めていくことを可能にしてくれるのです。

              さらに、ファンに対してだけではなく選手やチームにとってもメリットをもたらします。それは、コンテンツの2次流通を収益化できるという点です。

              これまでのチームや選手にとっての主な収入源は、試合日のチケット代や物販、そして各種中継といったコンテンツの一次利用によるものでした。一方、あらゆるコンテンツやデータがトークンに紐付けられることで、転売による二次流通による利益がチームや選手に還元される仕組みが実現可能となります。

              例えば、新人時代に書いたサインが有名になってから高値で取引されるようになると、選手自身にもその利益が還元され、活躍次第で大きな収入源となる可能性があります。同様に、優勝決定戦などのプレミア価格がついたチケットの転売利益を、チームに還元することも可能となります。

              こうしたマネタイズの観点からもファントークンには多くの期待が寄せられています。

              トークンを活用したビジネスをするうえで気をつけるべき点

              出典:Unsplash

              これまで見てきたように、同じ暗号資産であるコインとは一線を画しつつも、様々な種類ごとに多くのメリットと活用先があるトークンですが、ビジネス活用をする際には気をつけなければいけないポイントがあります。

              ここからはこうしたトークンビジネスの注意点について解説します。

              法整備が完全に整っているわけではない

              まず第一に、法整備が整っていない点が挙げられます。セキュリティトークンは金商法の改正などが大々的に行われましたが、日本は暗号資産関連の法整備が欧米諸国に比べて全体的に遅れています

              したがって、事業者側は販売資格やビジネスモデルそのものが法律に抵触しないか注意深く調査する必要があり、購入者側は、トークンの売却益などに発生する税金などについて適切な手続きをしなければなりません。

              また、こうした状況も踏まえて各トークンの流通市場は慎重な姿勢をとっています。理論上は、様々なプラットフォームで売買可能なトークンであっても、マーケットの整備が追いつかずに流動性で劣っているケースも散見されます。

              したがって法整備・流通市場の整備には引き続き注意しなければならないでしょう。

              詐欺のイメージを払拭する必要がある

              2つ目は詐欺のイメージが付きまとっている点です。トークン自体は個人であっても発行者になることができ、簡単に資金を集められる便利な資金調達法として活用できます。一方で、暗号資産が世に広まった当初、架空のプロジェクトへの投資話や「絶対に儲かる」といった詐欺プロジェクトが社会問題になり、「暗号資産(仮想通貨)=怪しい」というイメージが定着してしまいました。

              現在でも個々のトークンについては一般的な知名度はあまり高くなく、まだまだ市場へ浸透しているとはいえない状況です。したがって、トークンの発行企業はホワイトペーパーを公表するなどして市場の理解を得ることが重要です。

              トークンのラインナップが乏しい

              3つ目はトークン商品のバリエーションが多くはないということです。NFTであればアートやゲーム、セキュリティトークンであれば不動産、ファントークンであればスポーツ業界というように、それぞれのトークンと相性の良いジャンルではすでにトークン化が行われてきました。

              したがって、単純に話題作りのために類似トークンを発行したり、トークンの本質から逸れるような企画(従来のポイントで代用できる)では、成功を収めるのは至難の業でしょう。

              一方で、それだけ似たようなトークンが市場に出回っているということは、斬新な仕組みを持ったトークンや、価値の安定したトークンを打ち出すことができれば大規模なマネタイズや新たなエコシステムを創出することも可能です。

              トークンを活用するうえでは、法律やイメージ面と同等に、トークンそのものの設計を消費者・投資家のニーズにマッチさせる必要があるでしょう。

              まとめ:トークン設計はブロックチェーンのプロにお任せしよう

              本記事ではトークンについて詳しく解説しました。

              今まで見てきたようにトークンにはさまざまな意味があり、一概にトークンという言葉で全てを説明できるものではありません。しかし、トークンは組み合わせ方次第で、用途や活用先が大きく広がります。将来的には仮想通貨やブロックチェーン技術を基盤にした新しい経済圏、トークンエコノミーの形成も期待できます。取引はより安く、より早く実行されるようになるでしょう。

              一方で、実際にトークンを活用したサービスをローンチするとなると、法律や技術の面で多くの課題に直面することと思います。こうした際、適切なトークン設計をしないとサービス開始後に法律違反が発覚したり、システムの脆弱性が明らかになるなど大きな問題に発展しかねません。

              このような事態を避けるためにも、トークン設計はクリプト界隈の事情に精通したブロックチェーンのプロの力を借りることを強くお勧めいたします。

              トレードログ株式会社は、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

              JEMS様の資源循環の価値証明サービス「Circular Navi」にトレードログのブロックチェーンツール「YUBIKIRI®︎」が採用されました

              トレードログ株式会社(本社:東京都豊島区、代表取締役:藤田 誠広)は、株式会社JEMS(本社:茨城県つくば市、代表取締役:須永 裕毅)様が提供する資源循環の価値証明サービス「Circular Navi」において、弊社ブロックチェーン管理ツール「YUBIKIRI®︎」が採択されましたことをお知らせいたします。

              JEMS様が提供する「Circular Navi」では、当初よりブロックチェーンを用いることで信頼性の高いサービスを提供していました。この度、弊社ミドルウェア「YUBIKIRI®︎」を導入することにより、同サービスはブロックチェーンシステムの管理が簡易化され、より便利で拡張性の高いサービスへと進化いたします。

              Circular Naviとは?

              JEMSの資源循環の価値証明サービス「Circular Navi」

              「Circular Navi」は、「資源制約リスクへの対策」をテーマに、各企業のサーキュラーエコノミーの実現に向けた取り組みを製品ごとに環境価値として証明するクラウドサービスです。

              サプライチェーンにおける再生素材の由来や再資源化量など環境に関わる情報を、企業やステークホルダーと共有することで循環経済活動の最適化を目指します。DPP(デジタル・プロダクト・パスポート)としてその価値を証明することで、可視化した情報をもとに材料やモノと企業とのマッチングを推進していきます。

              JEMS様との事例ご紹介はこちらから

              YUBIKIRI®︎*(ユビキリ)とは?

              詳しくはこちら