「VCs(Verifiable Credentials)」を理解しよう!デジタル世界でのアイデンティティ証明について徹底解説!

2000年代初頭からインターネットが急速に普及し、現在ではGAFAなどの巨大テック企業が社会の中心に位置しています。しかし、これに伴って企業が個人情報を管理することに関する懸念も浮上しています。

今回紹介する「VCs」は、そんな時代において自分のアイデンティティを自分でコントロールする社会を実現するうえで欠かすことができない概念です。また、VCsとセットにして「DID」や「ゼロ知識証明」といった概念もよく登場してきますが、こちらもインターネットの巨人たちに対する対抗策を語るうえで避けては通れない重要な概念です。

本記事では、そんなインターネットにおける個人の主権を強化する概念についてわかりやすく解説しています。ぜひ最後までご覧ください。

  1. VCs=デジタル上で個人情報を検証する仕組み
  2. VCsの仕組み
  3. VCsの要素技術
  4. VCsを実現するうえでの課題
  5. VCsの活用事例
  6. まとめ

VCs=デジタル上で個人情報を検証する仕組み

出典:shutterstock

VCsとは「Verifiable Credentials」の略であり、日本語では「検証可能な資格証明」と訳されます。具体的には、個人が所有できるデジタル上の証明書でありながら、その正当性については信頼できる第三者機関によって検証される仕組みを指します。

ここでいうデジタルな証明書とは、年齢、名前、住所といった個人情報に限ったものだけではなく、

  • 運転免許証
  • 学位証
  • 受賞歴
  • 職歴
  • 学習履歴
  • 出生証明書

など、現在は私たちが紙などで物理的に所有していたり、証明が難しい様々な情報についても記録することができます。

VCsを活用することにより、不透明な情報の可視化や真偽の疑わしい情報を公正に検証することが可能になり、デジタル上で個人情報を様々なサービスで利用できます。

例えば、企業が人材採用を行う際に、応募者の職歴欄に「Google」と書いてあっても、その情報を書き込んだ本人の証言しかないのであればイマイチ信憑性には欠けてしまいます。職歴証明書という制度もありますが、現行の労働基準法では退職してから2年を超えている場合には、企業が職歴証明書を発行する義務はなくなります。したがって、前職よりもさらに前の職歴を証明するのは現実問題としてなかなか難しいでしょう。

しかし、VCsによってそういった個人のIDとGoogle社の過去の社員情報を即時に検証できる仕組みがあれば、企業側は安心して人材採用を行えますし、応募者はそのキャリアを正当に評価してもらうことができます。

こうした可視化できない個人情報を証明する仕組みは、企業だけでなく行政や医療機関なども注目しており、VCsに関する取り組みは今後さらに活発になっていくものと考えられます。

VCsの仕組み

続いて、簡単にVCsの技術的な仕組みについて説明します。ここでは、個々の資格証明の流れについて見ていくため、複数形ではなくVCと略すことにします。VCは、次の4要素で構成されています。

発行者(issuer):VCを発行する者
保有者(holder):VCを発行者から取得し、保有・利用する者
検証者(verifier):保有者が提示したVCが信頼できるものであるかを検証する者
レジストリ(Registry):分散型台帳やブロックチェーンといった各種データベース

verifiable credentialsの仕組み
出典:LasTrust

VCはまず発行者によって発行がなされます。この発行者は、運転免許証であれば都道府県公安委員会、学歴証明書であれば国立大学法人や学校法人、健康診断結果であれば医療機関などが該当します。発行時には暗号技術の仕組みを利用してVCにデジタル署名を付与し、復号に必要な鍵(公開鍵)は改ざんができない仕組みを持つレジストリに登録します。

次に、保有者は発行者から受け取ったVCをデジタルウォレットと呼ばれる保管場所に格納し、必要に応じて利用します。利用の際には、VCをそのまま検証者に提示するのではなく、VP(Verifiable Presentation)という提示用のフォーマットに変換したものを提示します。

検証者は、レジストリに登録されている発行者の公開鍵を使ってVPを検証し、デジタル証明書の信頼性を確認します。そして、その検証結果に応じてサービスの提供の可否を判断したり、提供プランを変更したりすることができます。

VCsの要素技術

VCsはあくまで、認証の仕組みにすぎません。この仕組みを確立するうえでは様々な技術や概念が深くシステムに関係しています。しかし、これらの技術はWeb3.0時代の新たな技術でもあり、従来のデータシステムでは聞き馴染みのない用語も出てきます。

そこでここからは、VCsを実現するうえで欠かせない以下のVCsの要素技術について説明していきます。

  • ブロックチェーン
  • 公開鍵暗号方式
  • DID
  • ゼロ知識証明

ブロックチェーン

出典:shutterstock

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

公開鍵暗号方式

ブロックチェーン技術では、情報を分散して保有することで非中央集権の仕組みを実現していると説明しましたが、そうなると「個人情報も様々な人に筒抜けなのではないか?」という疑問が浮かぶ方もいらっしゃるかと思います。

そんな疑問を払拭してくれるのがこの「秘密鍵」と「公開鍵」によって構成される公開鍵暗号方式です。公開鍵暗号方式とは、情報を通信する際に、送信者が誰でも利用可能な公開鍵を使用して暗号化を行い、受信者が秘密鍵を用いて暗号化されたデータを復号化するという手法を指します。

秘密鍵は特定のユーザーのみが保有する鍵で、この秘密鍵から公開鍵を生成することは可能です。しかし、公開鍵から秘密鍵を特定することは現実的には不可能です。公開鍵で暗号化されたデータは対応する秘密鍵でしか復号化できないため、秘密鍵さえ厳重に管理していれば、データの保護と情報漏洩の防止が可能となります。

出典:サイバーセキュリティ情報局「キーワード事典」

流れとしては以下の通りです。

  1. 受信者が公開鍵を送信者に公開
  2. 送信者は受信者の公開鍵を使用してデータを暗号化
  3. 受信者は自分の秘密鍵を使用して暗号化されたデータを復号化

したがって、データを分散して管理していようと秘密鍵の持ち主以外からするとただの暗号文に過ぎず、内容を読み解くことは事実上不可能といえます。この仕組みは、個人情報を扱うVCsにとって非常に重要な概念であるでしょう。

DID

DID(Decentralized Identifier)とは、政府や企業といった中央集権型の組織による個人情報の管理から完全に独立した個人管理のIDのことです。日本語では「分散型ID」と呼ばれます。

従来の個人情報管理では、個人のデータは行政機関や企業によって一括的に収集され、管理されていました。例えば、行政機関は国民の身元を確認するためにマイナンバー制度を導入し、個人の税務情報や社会保障情報などを管理しています。同様に、GoogleやAppleを筆頭とする大手テック企業(いわゆるGAFA)では膨大な量の個人データを収集し、その情報をビッグデータ分析やターゲティング広告などの目的に利用して市場における絶対的な優位性を築いています。

一方で、近年になってこうした中央集権的な個人情報の管理についてはおもに2つの観点からその危険性が指摘されるようになっています。1つ目の観点はデータのセキュリティリスクです。ビッグデータ時代と呼ばれるように情報そのものが貴重な価値を有するようになった現代では、個人情報データがサイバー攻撃の標的となる可能性があります。

もちろんこうした公的機関や企業では個人情報の管理を徹底していますが、それでも巨大なデータベースでの情報管理ではハッキングのリスクも大きくなってしまうのが現状です。事実、毎年のように大手企業での情報漏えいが問題となっています。

2つ目の観点は個人の自由とコントロールの喪失です。中央集権的なプラットフォームに依存することで、個人は自らの個人情報やアイデンティティに対するコントロールを失う可能性があります。このまま一定の組織が強大な権力を持ち続ける構図が続くと、権力を乱用してクラウド上の個人情報や企業情報を検閲する組織が現れる可能性があります。むしろ世界の歴史を振り返ると、こうなっていくのが自然な流れなのかもしれません。

この観点については、X(旧Twitter)でユーザーID「@X」を使っていた男性が無断でユーザー名を変更された事件を思い出していただけると理解しやすいかと思います。

「@X」のユーザーID、元の持ち主から一方的に取り上げていたと判明 英テレグラフなど報じる – ITmedia NEWS

SNSにおけるハンドル名は、現実世界の戸籍のようなもので、インターネット空間上のアイデンティティを識別する重要な識別子です。Twitter社の社名変更に伴って発生したイレギュラーな事案であるとはいえ、長らく使用してきた個人の属性を勝手に変更するというのはプライバシー侵害や越権行為であるという見方もできるでしょう。

こうした現状を受けて、「データ所有者が自分のデータを制御および管理する権利」である「データ主権」の概念や「個人のアイデンティティ情報は、個人がデータ主権を有するべきである」という「自己主権型アイデンティティ(SSI:Self-Sovereign Identity)」の考え方が提唱され始めています。

DIDは、SSIを実現するための技術の1つであり、従来の管理形態に関する問題を解決するために誕生した「自己主権型のID」です。従来の中央集権的なIDの管理ではなく、ブロックチェーンなどの技術によってデータを分散化するため、特定の管理者が存在しません。

したがって、個人が自身のIDを自分自身でコントロールし、必要な情報だけを必要な範囲で共有することができます。VCsでは、「保有者」という概念が出てきたかと思いますが、これはまさに個人がデータ主権を有している前提に立っていることを象徴しています。

出典:検証可能な資格情報 (VCs: Verifiable Credentials) (前編)

なお、上の図ではDIDs(Decentralized Identifiers)という言葉が使用されていますが、これは分散型システム上に登録される個々の識別子のことを指します。デジタル上で個人を特定するための個々の情報を表現しているため、DIDsはDIDを形成する要素であるともいえるでしょう。

分散型IDと分散型識別子はどちらもDIDと略されることがあるため、混同を避けるために分散型識別子をDecentralized Identifiersとし、DIDsと表記するのが一般的になりつつあります。

ゼロ知識証明

最後にゼロ知識証明(ZKP:Zero Knowledge Proof)についても説明します。ゼロ知識証明自体はVCsに必要不可欠というわけではなく、それぞれ独立しているものの、両方を使うことでより効果的にVCsが実現できます。

ゼロ知識証明は、個人が特定の情報を持っていることを証明する際に、その情報自体を露呈せずに証明する手法です。これにより、プライバシーを保護しながらも、必要な情報の提供を可能にします。

この概念を理解する際に役立つのが、ジャン=ジャック・キスケータらの論文「我が子にゼロ知識証明をどう教えるか(How to Explain Zero-Knowledge Protocols to Your Children)」で紹介されている「アリババの洞窟」です。

出典:Wikipedia

アリババの洞窟にはAとBの2つ道がある。太郎さんは洞窟の中にある秘密の抜け道を通るための合言葉を花子さんから教えてもらいたい。花子さんはこの合言葉を1万円で売ってくれると言っているものの、太郎さんは花子さんが本当に合言葉を知っていると確信するまでは支払うつもりはなく、花子さんも、太郎さんがお金を支払うまではそれを共有しない。

この両者硬直の状態を解決して取引を確実なものとするためには次のような証明手順を踏めば良い。 太郎さんは洞窟の外で待っている。花子さんはAかBどちらかの道で洞窟の奥へと進む(このときVictorにはPeggyがどちらを選択したかは見られない)。太郎さんは洞窟に入り、分岐点でAかBどちらかの道から戻ってくるよう花子さんに指示する。花子さんは太郎さんに言われた方の道から分岐点に戻る。1〜3を繰り返す。

この証明方法では、数回だけでは花子さんの運が良ければ推測が当たっただけの可能性もありますが、何度でも戻ってくることができるのであれば、花子さんが本当に暗号を知っている可能性は高まります。例えば、20回試行した後、花子さんが運だけで太郎さんの選んだ道から戻ってこられる確率は100万分の 1 未満となり、これは確率的な証拠となります。

ゼロ知識証明ではこうした仕組みによって、証明者は検証者にわずかな情報しか与えずにある命題を証明することができるというわけです。

なお、ゼロ知識証明には、検証者が証明者から受け取った情報をどのように検証するかによって、対話型ゼロ知識証明非対話型ゼロ知識証明の2種類があります(各分類はブロックチェーンを活用する上でも知っておいて損にはならないものなのですが、そこまで説明すると長くなってしまうので割愛します)。

では、ゼロ知識証明はどういった場面で必要になるのでしょうか?例えば、20代前半の頃を思い出してみてください。コンビニでお酒を買おうとすると、20歳以上であることを証明するための身分証を提示するよう求められたのではないでしょうか?

「若く見えるってことね」というポジティブな方も中にはいらっしゃるかと思いますが、身分証には生年月日以外にも氏名や証明写真、住所といった重要な個人情報が記載されています。この情報を提示するということは免許証に記載された個人情報が漏洩するリスクに直結します。また、物理的な証明証を所持することで紛失や盗難のリスクも発生します。

一方で、現在のコンビニで主流となっている「年齢確認ボタン」はいわゆる自己申告制のシステムであり、本当は未成年なのにも関わらず酒類を購入することができてしまいます。

ゼロ知識証明を活用すれば、この両者のデメリットを解決できます。販売店としては20歳かどうかだけを確認できればよいので、レジストリに登録されている生年月日から「購入希望者が購入時点で20歳以上である」という客観的な事実のみをデジタル上で検証します。したがって、購入希望者は生年月日さえも一切提示することなく、年齢の(基準を満たしているという)証明ができます。

わかりやすく酒類の販売にフォーカスしながら説明しましたが、この仕組みは医療データや金融取引、マーケティングといったより機密性の高い個人情報を保護しながら、その仕組みを利便化することにも応用できます。「VCsによって提示するデータを個人が選択しながら、ゼロ知識証明でさらにその情報さえも直接相手には開示せずに活用することが可能になる」というふうにイメージしてもらえると良いでしょう。

VCsを実現するうえでの課題

出典:shutterstock

発行者を拡充する

VCsを利用するためには、証明書情報の発行者が必要です。現在、発行に必要なアイデンティティ情報を大量に保有しているのは一部の企業や行政機関のみです。したがって、これらの組織が積極的に参入してくることがVCs普及の前提となってきます。

発行者の拡充によって様々な種類の証明書が提供されるようになると、今度は利用者のニーズに応じたサービスが提供されるようになるという好循環が生まれてくるでしょう。今はまだ充分に発行スキームが整備されている状態ではありませんが、一部の先進的な企業では実証実験を開始しているところもあり、徐々にそのレールが敷かれつつあります。

グローバルな相互運用性の確保

VCsで扱われる情報は、国外でも必要になってくる情報がほとんどです。また、パスポートなどを想像するとわかりやすいかと思いますが、こうした個人情報は外国滞在中に事件に巻き込まれた場合や怪我をした場合など、トラブルの際に必要不可欠の情報です。言葉の異なる海外において自分が何者であるかを具体的に証明できることは、生命線ともいえるでしょう。

したがって、国内でVCsに関する取り組みを進めていく際には、国際的なデータモデルに適応する必要があります。ガラパコスな制度となってしまわないように、将来的な国際標準化にも対応できるような柔軟な設計が求められます。

利用者の使いやすさと普及促進

VCsの利用が広がるためには、利用者が使いやすいシステムであることが不可欠です。当然ながら使いやすいインターフェースやユーザーエクスペリエンスの向上が求められます。また、VCsの普及には教育と啓発が欠かせず、利用者や関係者への積極的な情報提供とティーチングが必要です。

マイナンバーという国が推進する政策ですら、「情報流出が怖い」という理由や「申請が面倒」という理由によって普及までに多くの時間を費やしました。VCsは仕組みもさらに複雑であるために、利用者がVCsを利用するメリットや活用方法をしっかりと理解できるように、積極的にPRしていくことが重要になるでしょう。

VCsの活用事例

 sakazuki

出典:PR TIMES

株式会社PitPaでは、同社のキャリア支援サービス「sakazuki」上で、学歴・学修歴・インターンシップでの実績などのキャリアに関するデータが学生個人に紐づく仕組みを実現しています。これにより、どのような過去の経験がキャリア選択に影響しているのかといった「学生の努力と成長のストーリー」が可視化されます。

一例として、千葉工業大学と共同で講義における成績データや取組の成果を「キャリア証明書」として可視化するというVCsの取り組みを行っています。本取り組みでは、参画したセプテーニ・インキュベート社のインターンシップでの実績や担当者からのフィードバックの記録も行いました。

実際にこの取り組みに参加した学生は、キャリア証明書を活用して他企業からの内定を獲得しており、新卒採用を行う企業にとっても、大学やインターン企業からの「お墨付き」は選考時においても良い判断材料となったようです。

同社は「PitPaは産学官との連携を一層強化し、教育機関と企業間の人材データの透明性担保と循環を促すことで、インターンシップのマッチング等を通じて学生の新たなキャリア形成機会を創出します。」としており、キャリア証明書によって学生、教育機関、企業の三者にメリットがもたらされることで、過去の成績や学修履歴を第三者によって証明できるだけでなく、学生が自らのキャリアをより主体的に選択できるという就職活動のパラダイムシフトも促進するでしょう。

また、同社では他にもLIFULL Tech Vietnam社やNTT社、アッドラスト社やXtraveler社など様々な企業に提供し、キャリア証明書の発行を行っています。近い将来、あなたの働く職場でも「sakazuki」でキャリア証明が出来る日も近いかもしれませんね。

新型コロナワクチン接種証明書アプリ

出典:Google Play「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」

2021年12月にデジタル庁から公開された新型コロナワクチン接種証明書アプリもVCsの一種と捉えることができるでしょう。ニュースなどでも大々的に報道されていたため、実際に使用したことがあるという方も多いのではないでしょうか。

このアプリは、「SMART Health Card(SHC)」と呼ばれる健康証明書用の規格を採用しています。SHCという規格はMicrosoft、Amazon Web Services、Oracle、Salesforceといった名だたる企業が参加しているイニシアチブである「Vaccination Credential Initiative(VCI)」が推奨するフォーマットであるため、国内向けだけでなく、海外向けに対応した形式の証明書を発行することができます。

SHC自体はすでにカナダでは正式採用されており、アメリカにおいてもワクチン接種記録のデジタル証明書のデファクト・スタンダードとなるなど国外で普及し始めているデジタル証明書の認証基準です。元々、日本政府の発行する証明書はパスポート同様、他国からはそれなりに信頼されてはいますが、SHCを採用することで、デジタル上においてもその信頼性が担保された接種証明書となりました。

アプリ自体は国内外で接種証明書が必要な状況が少なくなったになったことから、2024年3月31日をもってサービスの提供は終了しているものの、累計アプリダウンロード数は約1,566万回(2024年2月20日時点)と、国内のVCsの事例としては最も大規模に行われた事例といえるでしょう。

My DID

出典:Digital Platformer

Digital Platformer株式会社は、大阪府豊能町において分散型IDを活用した「MyDID」という先進的なサービスを提供しています。これは日本においては初となるブロックチェーン技術を採用したDIDの事例です。

MyDIDは「とよのんウォレット」と呼ばれる町内でデジタル地域通貨やプレミアム付き商品券の取引・管理ができるアプリと連携することでスムーズな購入と、個人によるデジタルアイデンティティの管理を行うことが出来ます。また、「とよのんコンシェルジュ」という地域経済活性化サービスでは、MyDIDを利用することで、地域通貨の導入や地域イベントへの参加が促進され、地域コミュニティの活性化に貢献しています。

同社は、デジタル先進国であるエストニアの電子データ共有システム「X-Road」をモデルにMyDIDを活用した先進的なサービスを提供し、豊能町のスマートシティ構築に貢献しています。現在はDIDのみの提供にとどまっていますが、将来的には様々な企業で発行しているID/Passの統合というVCs的な構想も発表しており、新たなVCs事例になる可能性もあります。今後のサービス展開からも目が離せません。

まとめ

本記事では、VCsの基本的な仕組みや活用事例、周辺知識を解説しました。完全なデータの自己主権が実現するにはまだまだ解決すべき課題もあるため、数年でVCsが一般的な認知を獲得していくのは難しいでしょう。

一方で国内外でVCsを活用したプロジェクト事例は増えており、技術の進歩とともにそのユースケースや参入企業も多様化していくことでしょう。今はまだ開発段階の技術ですが、今後のさらなる実用化に期待しましょう。

トレードログ株式会社では、本記事でも取り上げたブロックチェーンに関するサービスを展開しております。非金融分野におけるブロックチェーンシステムの開発・運用や、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

最近よく聞く「トークン」って何?意味や種類、暗号資産との違いについて解説します!

暗号資産に関連してよく耳にする言葉に「トークン」があります。トークンという言葉自体は暗号資産やWeb3.0の世界以外でも使われており、様々な意味合いを持っています。しかし、改めてトークンとはなにかを説明しようとするとうまく言葉で整理できない人も多いようです。

今回は「トークンとはそもそも何なのか?」をテーマに、その定義から注意点、混合しやすいキーワードとの違いや複雑な分類まで一気に解説します。ぜひ最後までご覧ください。

  1. トークンとは?
  2. ブロックチェーンとは?
  3. コインとトークンは何が違う?
  4. トークンの様々な種類
  5. トークンを活用したビジネスをするうえで気をつけるべき点
  6. まとめ:トークン設計はブロックチェーンのプロにお任せしよう

トークンとは?

トークン=取引の証拠

まずはトークン(token)の言語的な意味から紐解いていきましょう。語源辞典であるEtymonlineによると、tokenは本来、「しるし」「証拠」を意味する単語でした。しかし、これは一体なにを指し示す「証拠」のことなのでしょうか?

トークンが生まれたとされる紀元前8,000年頃よりもさらに前、紀元前9,000年頃、人類は大きな転換期を迎えます。定住せずに狩りや採集といった行動によって食料を得てその日食べられるだけ食べるという獲得経済から、農耕や牧畜を主とする生産経済への移行を始めたのです。

食料がある程度備蓄できるようになると、人々は牛などの家畜を通貨の代わりとして使い出すようになります。しかし、こうした家畜は通貨として持ち運ぶにはとても不便ですし、死んでしまうと価値がゼロになってしまいます。

そこでメソポタミア文明では、円盤状をした小さな粘土の塊に取引内容を記録して生活を営むことにしました。この小さな粘土から作られた小さな陶器が最古のトークンといわれています。記録したい取引の内容に対応させてトークンの所持することで、そのアイテムを実質いくつ所持しているのかを可視化できるという仕組みです。

▼トークン研究第一人者であるデニス・シュマント=ベッセラ(Denise Schmandt-Besserat)の著書『How writing came about』の表紙には、世界最古のトークンが描かれている。(出典:University of Texas Press

つまりトークンとは、「取引の証拠」として発達してきた存在だといえます。その過程で貨幣や紙幣が誕生し、モノが金銭によって取引されるようになると、商品券や映画・イベントの入場チケット、カジノのチップやパチンコ玉など、前払いの証明や流通性・利便性の向上のために様々なシーンでトークンが使用されるようになります。

現代ではトークンという言葉が、プログラミング分野(「最小単位」という意味のトークン)やITセキュリティ分野(「ワンタイムパスワード」としての認証トークン)などでも使用されるようになり、その都度、「トークン」という言葉が表す意味は異なってきます。原義のニュアンスを踏まえつつも、個別のサービスに応じた柔軟な解釈が必要でしょう。

暗号資産の世界におけるトークン

暗号資産の世界では、既存のブロックチェーン技術を利用して新たに発行された暗号資産のことをトークンと呼びます。これらは、ビットコインやイーサリアムといった既存ブロックチェーンのシステムを間借りして発行されており、独自のブロックチェーンを持ちません。例えるなら、企業が独自に発行しているポイントに近いものです。

トークン自体は自由に売買することができ、決済に使用するだけでなく現実世界の資産やゲーム内の仮想アイテムなど、多くの実用性を兼ね備えています。ここ最近、「トークン」という言葉をよく耳にするようになった背景としては、この暗号資産やブロックチェーンの存在が大きな要因といえるでしょう。

従来のトークンは第三者による改ざんが重大な弱点であり、コピーガードやOPニス、擬似エンポスといった対策が取られてきました。しかし、それでもなお物理的な形を要するギフトカード等は偽造品による被害が相次いでおり、その公平性が保たれにくいという課題がありました。

「JCBギフトカード」の偽造券発覚について

しかし、耐改ざん性や透明性といった性質を兼ね備えるブロックチェーン技術によって発行されたトークンではこういった不正行為は極めて困難であり、活用用途も幅広いものとなっています。ここからは暗号資産の基幹技術であるブロックチェーンについて簡単に説明します。

ブロックチェーンとは?

出典:shutterstock

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

コインとトークンは何が違う?

コインとトークンは一般的には、どちらも暗号資産という言葉でまとめられることが多いですが、実際には両者の間には明確な違いがあります。 ここではもう少し掘り下げてみましょう。

出典:Ledger「コインとトークンの違い」

前述の通り、トークンとは既存の暗号資産プラットフォームを間借りする形で発行された暗号資産を指します。一方、コインとは専用のブロックチェーンを使って発行されたものを指します。代表的な仮想通貨であるビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)は、それぞれ独自のブロックチェーンを使って発行されています。コインはトークンと比較して「ネイティブトークン」とも呼ばれます。

コインとトークンの大きな違いは、コインがカレンシータイプの暗号資産であることに対し、トークンはアセットタイプの暗号資産であるという点です。カレンシータイプであるコインは、発行者が存在せず、上限枚数が存在します。発行数にキャパシティが設けられているということは、コインが市場に出回り過ぎて希少価値が薄れる可能性も低く、価値が安定しているということです。

こうした側面から暗号資産は別名の「仮想通貨」の名の通り、インターネット上のボーダーレスな法定通貨として人気を博することになります。特定の国家や銀行に依存しないうえに、従来の国際送金と比べても迅速かつ低コストで「いつでも」「どこでも」「だれでも」自由に送金できる仕組みがコインの特徴です。

対してトークンは、あるアプリケーションの中で決済に使用されたり、特定の権利を代替したり、消費を目的としたりなど、エコシステムに実用性を与える存在です。コインとは異なり、トークンは単に価値の保有や交換だけでなく、分散型議決権、NFTのようなデジタル収集品、あるいは米ドルのような現実世界の資産をブロックチェーンベースで表現するなど、幅広い用途で利用されています。

また、コインはそれぞれ独立したチェーンを持っているが故に取引所を通じてコイン同士を交換する必要がありますが、トークンは同じエコシステムのチェーンであればUniswap(ユニスワップ)などのDEX(分散型取引所)を通じて簡単に交換することができます。実際に、Ethereumを利用して運用されているブロックチェーンでは、数あるERC-20トークンや多くのNFTがサポートされています。

トークンの様々な種類

暗号資産の世界におけるトークンには、その目的によって様々な呼称がついています。ここからは、数あるトークンの種類とその特徴について簡単に説明していきます。

ただし、すべてのトークンが定義通りの役割を持っていたり、どれか一つの種類だけに分類されるわけではなく、文脈や状況に応じてトークンという言葉が意味するものが異なる場合があるので、その点は注意しましょう。

RWA(Real World Asset)トークン

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RWA(Real World Asse)とは、日本語で「現実資産」と表現され、株式や債券、不動産、コモディティなどの現実世界に物理的に存在する資産のことを指します。RWAトークンとは、こうした現実資産をトークン化したものであり、資産をデジタル化することによって、売買を活発に行ったり、安全に取引ができるようになります。

紐づく対象は多岐にわたり、上記のようないかにも「資産」というイメージの強いものもあれば、トレーディングカードやスニーカー、ワインや日本酒といった従来では「コレクターズアイテム」に過ぎなかったものでもトークン化することが可能です。伝統的な金融システムでは取り扱うことが難しい投資対象であっても、トークンとして扱うことができる点は大きな利点でしょう。

また、RWAトークンは将来的な現実資産にも適用可能です。予約販売されるような商品やサービス利用権を事前に販売することで、企業側は事前にキャッシュを得ることができます。そのため、今後RWAトークンを活用した資金調達や資金運用が活発になっていくのではないかと大きな注目を集めています。

ユーティリティトークン

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ユーティリティトークンは、トークンそれ自体は金銭的価値をもたず、具体的な他のアセットと交換することによって初めて資産性が生まれるトークンです。

例えば、ロックミュージシャンのコンサートチケットもユーティリティトークンの一つです。というのも、このチケットが価値を持つのは、チケットを使うことで生の演奏を聞くことができると約束されているからです。したがって、コンサート開催日の翌日以降であったり、そのミュージシャンを知らない人間しかいない地域であったりすると、そのチケットには1円の価値もなくなります。

また、別の例で言えば、JRの切符を西武鉄道で使っても意味がないのと同じ話です。このようにユーティリティトークンは、他のアセットとの交換可能性を金銭的価値に変えられるトークンであることから、次のような特徴をもちます。

  • 閉じられた(=一部の人間に限定された)コミュニティや地域などで効果を発揮しやすい
  • トークン自体は物質的価値をもたなくてもよい
  • 交換対象となるアセットの価値を定量化できる

こうした諸特徴は、既存のビジネスに活用するうえで非常に使い勝手が良いため、ユーティリティトークンはブロックチェーンの技術とともに様々な領域で活用され始めています。

また、RWAトークンとユーティリティトークンはしばし似たようなニュアンスを持ちますが、RWAトークンが現実の資産に紐づいて価値の裏付けがあるのに対して、ユーティリティトークンは、単にサービスやコミュニティへのアクセス権に過ぎず、価値の裏付けはありません

セキュリティトークン

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セキュリティートークンは、従来の有価証券をブロックチェーン技術を用いて電子化(トークン化)したものです。ここでの「セキュリティ」は一般的に使われる「安全性」という意味ではなく、「証券」という意味です。

セキュリティトークンは有価証券と同様、資金調達の一環として発行されることが多いですが、ブロックチェーンを活用することにより、デジタル上でのデータの安全性を担保したうえで24時間いつでも取引が可能になっています。まさに、透明性と利便性を兼ね備えた新たな資金調達法といえるでしょう。

セキュリティトークンを利用した資金調達法では、法制面での整備も追いついています。セキュリティトークンは証券会社を通して購入することになりますが、発行企業も各国の金融商品取引法に準拠したトークンを発行する必要があるため、投資家も安心して投資をおこなうことが可能です。

コインを利用した資金調達法のICO(イニシャル・コイン・オファリング)ではスキャム(詐欺)が横行しましたが、クリーンな市場整備が進んでいるSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)ではこうした問題は起こりにくい仕組みとなっています。

STOについては詳しくは以下の記事でも解説しています。

ガバナンストークン

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ガバナンストークンとは、投票権のついているトークンのことです。トークンの保有者は、DAO(分散型自律組織)DApps(分散型アプリ)などの開発・運営に関わる意思決定に参加することができます。つまり、これら分散的なシステムにおける運営方針はガバナンストークンのホルダーによって決まるということです。

従来型のガバナンスモデルでは、原則的にはトップダウン方式を採用し、個々のメンバーの考え方が一致しなかったとしても、十分な報酬を支払って雇用関係を維持することで組織運営を継続していきます。

一方、分散型のガバナンスモデルでは特定の主体がプロジェクトの意思決定権を持ちません。ガバナンストークン保有量に準じ、一種の「民主主義」としてプロジェクトの意思決定を行うことにより、常にメンバーたちにとっての最適解を導き出すことができます。

結果として、プロジェクトに対して熱意のあるメンバーはより多くのガバナンストークンを取得することで発言権を増やすこともでき、こうした循環によりコミュニティの結束力が向上するという仕組みです。

また、ガバナンストークンはプロジェクトに必要となる資金調達としての役割を兼ねていることもあります。発行上限が設定されているガバナンストークンは一定の希少性を持つため、多くのガバナンストークンが発行上限を設定しています。

とはいえ、セキュリティトークンのように資金調達を全面に出しているわけではなく、主目的はあくまでガバナンスです。そのため、プロジェクトによっては保有インセンティブを設けるなどして、保有者に長期保有を促しているものもあります

DAOについては詳しくは以下の記事で解説しています。

NFT

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NFT(Non-Fungible Token)とは、代替不可能なトークンのことです。ブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに固有の価値を保証しており、現在ではアートやブロックチェーンゲームにおいて主に活用されています。

簡単にいうと、NFTとは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している「証明書」が付属しているようなものです。

不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。しかし、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます。

そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。

NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、さまざまな分野で実用化が進んでいます。

NFTについては詳しくは以下の記事でも解説しています。

SBT

SBT(Soul Bound Token)とは、前述のNFTの一種であり、NFTと同様に代替性を持たないトークンですが、譲渡が不可能かつ受け取った本人以外は利用ができないトークンを指します。

出典:ProofX「【図解】 SBT (ソウルバウンドトークン)とは?NFTとの比較(共通点・違い)、用途・事例について分かりやすく解説

譲渡や売買ができないNFTであるため、トークンを投機目的で収集している人にとってはまったく意味のないNFTです。一方、SBTではNFTを応用したID系のソリューションと比較して、より強力に自身のアイデンティティや履歴を表現・証明可能です。

現在、SBTが最もマッチすると考えられている領域が、各種証明書への応用です。たとえば学生証をSBTとして発行すると、学生証の偽造や学割の悪用を防ぐことができます。悪用を排除できれば、企業や学校側がより良いサービスを提供してくれる可能性もあるでしょう。卒業後には卒業証書として活用することで、経歴詐称などを防ぐこともできます。

また、SBTは譲渡はできませんが、バーン(焼却)はできるので、一時的に個人情報と結びつけたい場合にも使用できます。たとえば借用書などをSBTとして発行した場合、借金を完済した時点でSBTをバーンすることができます。

このようにSBTは、Web3時代のデジタルIDとしての活用が期待されています。

ファントークン

出典:bitcoinsensus

ファントークンとは、ファンとブランドの関係構築を目的としたトークンです。現在、ファントークンは主にスポーツ業界で利用されており、マンチェスターシティやバルセロナFCなどの世界的に有名なスポーツチームからUFCなどのプロ格闘技団体に至るまで、数多くの団体がファントークンを活用しています。

デジタル会員証としてのトークンを所有することによって、チームや選手に対してさらに愛着が持てるようになったり、ファンコミュニティの中で「自分は正真正銘のファンだ」といった心理的な優越感を得ることができます。

また、チケットの先行抽選やユニフォームのデザイン投票への参加権など、特典付きのトークンも存在します。このようにファントークンは特別体験や特典を通じてファンとのエンゲージメントを高めていくことを可能にしてくれるのです。

さらに、ファンに対してだけではなく選手やチームにとってもメリットをもたらします。それは、コンテンツの2次流通を収益化できるという点です。

これまでのチームや選手にとっての主な収入源は、試合日のチケット代や物販、そして各種中継といったコンテンツの一次利用によるものでした。一方、あらゆるコンテンツやデータがトークンに紐付けられることで、転売による二次流通による利益がチームや選手に還元される仕組みが実現可能となります。

例えば、新人時代に書いたサインが有名になってから高値で取引されるようになると、選手自身にもその利益が還元され、活躍次第で大きな収入源となる可能性があります。同様に、優勝決定戦などのプレミア価格がついたチケットの転売利益を、チームに還元することも可能となります。

こうしたマネタイズの観点からもファントークンには多くの期待が寄せられています。

トークンを活用したビジネスをするうえで気をつけるべき点

出典:Unsplash

これまで見てきたように、同じ暗号資産であるコインとは一線を画しつつも、様々な種類ごとに多くのメリットと活用先があるトークンですが、ビジネス活用をする際には気をつけなければいけないポイントがあります。

ここからはこうしたトークンビジネスの注意点について解説します。

法整備が完全に整っているわけではない

まず第一に、法整備が整っていない点が挙げられます。セキュリティトークンは金商法の改正などが大々的に行われましたが、日本は暗号資産関連の法整備が欧米諸国に比べて全体的に遅れています

したがって、事業者側は販売資格やビジネスモデルそのものが法律に抵触しないか注意深く調査する必要があり、購入者側は、トークンの売却益などに発生する税金などについて適切な手続きをしなければなりません。

また、こうした状況も踏まえて各トークンの流通市場は慎重な姿勢をとっています。理論上は、様々なプラットフォームで売買可能なトークンであっても、マーケットの整備が追いつかずに流動性で劣っているケースも散見されます。

したがって法整備・流通市場の整備には引き続き注意しなければならないでしょう。

詐欺のイメージを払拭する必要がある

2つ目は詐欺のイメージが付きまとっている点です。トークン自体は個人であっても発行者になることができ、簡単に資金を集められる便利な資金調達法として活用できます。一方で、暗号資産が世に広まった当初、架空のプロジェクトへの投資話や「絶対に儲かる」といった詐欺プロジェクトが社会問題になり、「暗号資産(仮想通貨)=怪しい」というイメージが定着してしまいました。

現在でも個々のトークンについては一般的な知名度はあまり高くなく、まだまだ市場へ浸透しているとはいえない状況です。したがって、トークンの発行企業はホワイトペーパーを公表するなどして市場の理解を得ることが重要です。

トークンのラインナップが乏しい

3つ目はトークン商品のバリエーションが多くはないということです。NFTであればアートやゲーム、セキュリティトークンであれば不動産、ファントークンであればスポーツ業界というように、それぞれのトークンと相性の良いジャンルではすでにトークン化が行われてきました。

したがって、単純に話題作りのために類似トークンを発行したり、トークンの本質から逸れるような企画(従来のポイントで代用できる)では、成功を収めるのは至難の業でしょう。

一方で、それだけ似たようなトークンが市場に出回っているということは、斬新な仕組みを持ったトークンや、価値の安定したトークンを打ち出すことができれば大規模なマネタイズや新たなエコシステムを創出することも可能です。

トークンを活用するうえでは、法律やイメージ面と同等に、トークンそのものの設計を消費者・投資家のニーズにマッチさせる必要があるでしょう。

まとめ:トークン設計はブロックチェーンのプロにお任せしよう

本記事ではトークンについて詳しく解説しました。

今まで見てきたようにトークンにはさまざまな意味があり、一概にトークンという言葉で全てを説明できるものではありません。しかし、トークンは組み合わせ方次第で、用途や活用先が大きく広がります。将来的には仮想通貨やブロックチェーン技術を基盤にした新しい経済圏、トークンエコノミーの形成も期待できます。取引はより安く、より早く実行されるようになるでしょう。

一方で、実際にトークンを活用したサービスをローンチするとなると、法律や技術の面で多くの課題に直面することと思います。こうした際、適切なトークン設計をしないとサービス開始後に法律違反が発覚したり、システムの脆弱性が明らかになるなど大きな問題に発展しかねません。

このような事態を避けるためにも、トークン設計はクリプト界隈の事情に精通したブロックチェーンのプロの力を借りることを強くお勧めいたします。

トレードログ株式会社は、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

JEMS様の資源循環の価値証明サービス「Circular Navi」にトレードログのブロックチェーンツール「YUBIKIRI®︎」が採用されました

トレードログ株式会社(本社:東京都豊島区、代表取締役:藤田 誠広)は、株式会社JEMS(本社:茨城県つくば市、代表取締役:須永 裕毅)様が提供する資源循環の価値証明サービス「Circular Navi」において、弊社ブロックチェーン管理ツール「YUBIKIRI®︎」が採択されましたことをお知らせいたします。

JEMS様が提供する「Circular Navi」では、当初よりブロックチェーンを用いることで信頼性の高いサービスを提供していました。この度、弊社ミドルウェア「YUBIKIRI®︎」を導入することにより、同サービスはブロックチェーンシステムの管理が簡易化され、より便利で拡張性の高いサービスへと進化いたします。

Circular Naviとは?

JEMSの資源循環の価値証明サービス「Circular Navi」

「Circular Navi」は、「資源制約リスクへの対策」をテーマに、各企業のサーキュラーエコノミーの実現に向けた取り組みを製品ごとに環境価値として証明するクラウドサービスです。

サプライチェーンにおける再生素材の由来や再資源化量など環境に関わる情報を、企業やステークホルダーと共有することで循環経済活動の最適化を目指します。DPP(デジタル・プロダクト・パスポート)としてその価値を証明することで、可視化した情報をもとに材料やモノと企業とのマッチングを推進していきます。

JEMS様との事例ご紹介はこちらから

YUBIKIRI®︎*(ユビキリ)とは?

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【2024年】中国NFT(デジタルコレクティブル)市場の現状

2021年以降NFTが世界的に関心を集める中、中国でもNFTに関する話題は事欠きません。仮想通貨に対する規制の厳しい中国では、二次販売禁止・仮想通貨による決済不可という他とは違う独自のNFT市場が形成されています。

本記事では、中国での仮想通貨規制やNFTの基礎知識を解説した上で、中国NFT市場の特徴や、中国NFTのトピックスをご紹介していきます。

  1. 中国NFT市場と仮想通貨規制
  2. NFTとは?
  3. 中国のNFT取引は他国とどう違うのか
  4. 中国NFT市場のトピックス
  5. まとめ

中国NFT市場と仮想通貨規制

政府による仮想通貨規制

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2021年頃からNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)が世界的に注目を集め、有名クリエイターの参加や限定の特典が付与されたNFTの登場など、市場全体が大きな盛り上がりを見せてきました。

同時期には中国でも他国同様、NFT市場拡大の流れが起きていました。そんな最中、2021年9月に中国政府は仮想通貨の決済や取引情報の提供など、仮想通貨に関連するサービスを全面的に禁止すると発表しました

その背景には、仮想通貨の投機的な取引が中国経済に悪い影響を与えるといった考えや、中国政府が発行を計画している仮想通貨「デジタル人民元」を発行する上でのノイズを除去したり政府が全ての取引を管理する狙いがあるとされています。

仮想通貨が全面的に禁止されたことにより、その仮想通貨を基盤とするNFTへの影響も懸念されました。しかし仮想通貨の全面禁止以降、中国のNFT市場は規制と共存しつつ他の国とは違う独自の成長を遂げていくこととなります。

独自ルールのNFT市場

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2021年9月以降、仮想通貨への取り締まりは強化されましたが、NFTに関して完全には規制されておらず、仮想通貨規制を考慮した上で独自のNFT市場が形成されています。

他のNFT市場との違いについての詳細は後述しますが、決済にビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETC)といった仮想通貨ではなく法定通貨である人民元が用いられている点が大きな特徴となります。

加えて、世界に開放されているブロックチェーンではなく、中国政府が管理する閉ざされたブロックチェーンを利用しており、購入したNFTを外部(世界)の二次市場で売買することはできない点も中国NFT市場の特徴の一つです。

また、NFTを取り扱う中国のテック大手企業の多くは、当局の規制に配慮して「NFT」ではなく「デジタルコレクティブル(数字収蔵品)」という言葉を使用し、世界の仮想通貨市場との区別を図っています。

こういった点から、世界と中国ではNFTを取り巻く環境や市場そのものの構造が異なるということが見てとれますが、ここでは「中国のデジタルコレクティブル市場」を便宜的に「中国NFT市場」と呼ぶことにします。

規制の中でも急成長する中国NFT市場

中国NFT市場は、政府によって仮想通貨が規制されているにも関わらず、その市場規模を急速に拡大させています。

実際に、中国国内のNFTマーケットプレイス(NFT取引所)は2022年2月の時点で100あまりしか存在していませんでしたが、同年6月にはその数が500を突破し、たった4ヶ月で5倍にまで増加したことが現地メディアにより報じられています。

中国のNFT市場がここまで急速に拡大した要因としては、同国内におけるNFTへの関心の高まりと、テンセントやアリババといった中国の巨大テック企業の本格的な参入があげられます。 実際に、2021年6月にアリババグループのAlipayが決済QRコードの背景になる(いわゆる着せ替え)1.6万個の限定版 NFTを販売すると、発売後数秒以内に完売しました。

このようにNFTへの関心や需要が高まる一方で、NFTに関わる個人や企業は、仮想通貨に対して厳しい監視の目を向ける中国政府との直接的な対立を避けるために慎重なアプローチを取っています

たとえば、先述したように大手テック企業が「NFT」ではなく「デジタルコレクティブル(数字収蔵品)」という言葉を用いて区別するのも、当局による規制強化の可能性を回避するためだと言われています。

仮想通貨市場に対して厳しい姿勢で臨む中国政府と、規制と共存しつつ拡大を続ける中国NFT市場、という構図が出来上がっているのが現状です。こういった中国独自のNFT事情について詳しく解説する前に、次項では今一度「NFT」という技術についておさらいをしていきます。

NFTとは?

NFT=”証明書”付きのデジタルデータ

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NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに、固有の価値を保証しています。

つまり簡単にいうと、NFTとは耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している”証明書”が付属しているようなものです。

NFTでは、その華々しいデザインやアーティストの名前ばかりに着目されがちですが、NFTの本質は「唯一性の証明」にあるということです。

NFTが必要とされる理由

世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した「NFT=非代替性トークン」は文字通り後者となります。

例えば、紙幣や硬貨には代替性があり、替えが効きます。つまり、自分が持っている1万円札は他の人が持っている1万円札と全く同じ価値をもちます。一方で、人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。

不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。しかし、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます

そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。

実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。

NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。

これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、必要とされているのです。

中国のNFT取引は他国とどう違うのか

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ここからは中国におけるNFT、すなわちデジタルコレクティブルとNFTとの違いについて解説していきます。

決済通貨が人民元に絞られている

前項でも触れたとおり、NFTやそれらのエコシステムはブロックチェーンを基盤に作られています。そしてNFTを取引する際の決済では、そのNFTが所属するブロックチェーン上での基軸通貨であるビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETC)といった仮想通貨を用いるのが一般的です。

一方、仮想通貨への規制が厳しい中国でのNFT取引で使える決済手段は、法定通貨である人民元のみとなっています。表向きには、中国で人気を集めているビットコインのマイニングが環境に深刻なダメージを与えることや、仮想通貨投資の流行によって巨額の損失を抱えた投資家が急増する懸念などを理由にしています。

しかし、実際のところは「政府の管理できない仮想通貨が脅威となったから」というのが実情でしょう。国境に左右されず、規制が届かない仮想通貨の性質は、「国家管理経済」という中国政府の理念に大きく反するものです。キャピタルフライトは輸入額の増加、輸出額の減少、これらに伴う国内インフレなど様々な問題をもたらすため、なんとしても阻止しなければならないというわけです。

事実、中国では仮想通貨を用いたマネーロンダリングが爆発的に流行した時期があり、当時の逮捕者は30万人を超えるともいわれています。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/06/1000-31.php

中国政府としてはこうしたアンコントローラブルな経済を認めるわけにはいかず、NFTは人民元のみでの決済となっています。一見すると自由度の低さが目立ってしまいますが、法定通貨でのみ購入可能ということは、その分価値は安定しています。NFT自体の価値の変動以外に仮想通貨自体の変動も考慮しなければならない一般的なNFTよりも安心してコレクションすることができます。

こういった意味では「デジタルコレクティブル」というネーミングは、実際の利用シーンに即したまさにピッタリの名前といえますね。

二次売買が出来ない

NFTの一般的な活用方法の一つに「2次売買による収益化」があります。NFTには、大元の持ち主が誰なのかという情報に加え、NFTが転売された際に大元の持ち主に何%還元されるのかという情報を記録させることができます。

この仕組みによって、音楽やスポーツといった様々な分野における転売収益の確保が可能になると注目を集めているのですが、中国のNFTにはこれが適用されません。中国国内の殆どのNFT販売プラットフォームでは無償であってもNFTの譲渡はできず、同様に購入者は、二次流通または二次的著作物の作成を許可されていません。

価値が安定しているというのは中国NFTのメリットだと紹介しましたが、それは二次流通マーケットあってこそ発揮されるものです。この仕様に関しては中国NFTの普及を妨げる一因になり得るでしょう。

取引所に管理者が存在する

中国のNFTプラットフォームのほとんどには管理者が存在します。これはブロックチェーンやNFTが本来持つ「分散型」という特徴とは逆行する考え方となります。

NFT取引所を始めとするブロックチェーン関連組織の意思決定は、特定の誰かによってではなく、組織全体で行うものだという考え方が一般的です。しかし、中国のNFT市場は国が定める規制を厳格に遵守しており、それぞれのNFTプロジェクトは圧倒的に中央集権的です。

つまり中国NFT市場では、管理者がそのブロックチェーンの廃止を決定した場合、一瞬にしてすべてのデジタル資産にアクセスできなくなるといったリスクがあります

また、一般的なNFT市場は誰でも匿名で参加できるのに対して、中国のNFTマーケットプレイスではすべての参加者に実名での身分証登録を義務付けています。

KYC(Know Your Customer)ポリシーと呼ばれるこのルールは、マネーロンダリングや詐欺といった犯罪防止に役立つとされています。しかし、中央集権的な仕組みの中国NFT市場では、NFTを利用する際に登録したすべての個人情報が、政府や一企業に把握されるようになるという側面もあります。

中国NFT市場のトピックス

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政府主導で進むNFTインフラの構築

2022年1月、中国の政府関連団体は暗号通貨を使わない中国独自のNFTインフラ「中国デジタル取引プラットフォーム(CDEX)」をリリースしました。決済やガス代の支払いに仮想通貨ではなく人民元を使用することから、一般的なNFTと区別する意味で「BSN分散型デジタル証明書(BSN-DDC)」という名称がついています

BSN-DDCは、車のナンバープレートや学校の卒業証書など、証明書管理の分野で活用が見込まれています。たとえば、NFTで車両のナンバープレートの作成によって、所有者だけでなく政府や保険会社が車両データや運転履歴にアクセスできるようになります。

ここでもやはり、デジタルアートや投機的な側面がある他国のNFTとは一線を画していることがわかります。どちらかといえばSBT(ソウル・バウンド・トークン、一度取得すると譲渡や売買が不可で、ウォレットのアイデンティティを表す)に近いニュアンスです。

また、2023年10月に中国共産党の機関紙「China Daily」が、独自のメタバースとノンファンジブルトークン(NFT)プラットフォームを作成する計画を発表しました。

この発表で注目すべきなのが、OpenSeaやRaribleといった国外の主流NFTプラットフォームとの連携が予定されているということです。プラットフォームの目的は、「中国文明の影響の拡大を改善する」こととされていますが、一定の条件下であれば、二次流通も可能になるかもしれません

同年12月には中国の行政機関である工業・情報化部はNFTや分散型アプリ(dApps)の開発を促進するとも表明しています。

今後も仮想通貨を禁止しながら、Web3の革新的なアプリの開発やデジタルエコシステムの構築は促進していくという独自路線のNFTが進化していくと思われます。他方で、これまでの中国の様々な規制と同様に、ある日突然に規制が強化されるのではないかと懸念する声もまた根強いので、注意深く動向を見守る必要があります。

北京冬季オリンピックの開催で自国IPのNFTが大ヒット

2022年2月に開催された北京冬季オリンピックはスポーツ界に留まらず、NFTにも大きな影響を与えました。きっかけになったのは北京冬季オリンピックのマスコット「氷墩墩(ビン・ドゥンドゥン)」の存在です。

出典:36Kr

この可愛らしいキャラクターはNFTアートとしてグッズ化され、香港に拠点を置くNFTマーケットプレイスの「nWayPlay」上で販売されました。

デジタルブラインドボックス、つまり「ガチャ」である「EPIC BOX」が売り出されるとすぐさま話題に。当初は正規プラットフォームで99ドルだった販売価格も、349ドルへと修正されるなど、大成功を収めました(もちろん完売)。

中国国内からは購入ができない仕様となっていましたが、こういった自国のIPが大躍進を遂げたことは国内でも大きく報じられました。韓国のK-POPやドラマ、日本の漫画やアニメといった世界的な大人気コンテンツを持つ周辺諸国に比べると、IPでは一歩遅れを取っている印象の中国。こうしたニュースを機に当局の硬派な姿勢が幾分和らげば、NFTに対する規制も和らいでいくのではないでしょうか。

NFTの盗難に対する刑事罰を発表

2023年11月、中国政府はデジタル資産の盗難が、財産の盗難として法的に扱われると発表しました

声明では、NFTを含むデジタル資産はデータと仮想資産の両方から構成されていると主張。したがってNFTの盗難は、単なる不正アクセスにとどまらず、コンピュータ情報システムからのデータの違法取得と、仮想資産の窃盗という二つの罪で同時に起訴されることになります。

日本においてはNFTに関する法整備が追いついておらず、金融庁のパブリックコメントに対する回答などを参考に、それぞれのサービスに準じて暗号資産交換業や前払式支払手段発行者、資金移動業などの登録を行うのが一般的な流れとなっています。

こうしたなかで、中国がこういった動きを見せるのは、単に法的秩序を保つということ以外にもWeb3に対する中国の継続的な関心を反映しており、仕組みづくりといった面で先手を打とうとしているという見方もできます。

現在は仮想通貨を中心に、NFTにも厳しい規制を設けている中国政府ですが、雪解けの時期に来ているのかもしれません。

まとめ

本記事では、中国NFT市場の現状について解説してきました。

現状、中国当局は仮想通貨に対しては全面的に規制していますが、NFTについての具体的な規制や法整備は発表していません。 しかし今後中国国内のNFT市場が加熱し、当局の監視が及ばない場所での二次流通や資金洗浄などの違法行為が増えていくと、NFTに対しても規制を本格的に強化するかもしれません。

一方で、仮想通貨を使わない中国独自のNFTインフラの構築と普及が中国政府主導で進められているなど、中国独自のNFT利用は更に加速していくものと思われます。

今後の中国のNFT市場に関する動向を、引き続き見守っていきましょう。

ブロックチェーンの種類とそれぞれの特徴とは?パブリック・プライベート・コンソーシアムの違いを解説!

ブロックチェーンは大きく三種類に分類できることをご存知でしょうか?本記事では、ブロックチェーンの分類について解説していきます!

    そもそもブロックチェーンとは?

    出典:shutterstock

    ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

    ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

    取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

    ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

    これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

    また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

    ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

    ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

    新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

    また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

    コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

    このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

    こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

    データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    ブロックチェーンの種類

    ブロックチェーンは以下のように大別することができます。

    上図の通り、ブロックチェーンの種類には「パブリックチェーン」「プライベートチェーン」「コンソーシアムチェーン」の3種類があります。

    細かな違いはありますが、主にはネットワーク内における取引内容の公開範囲、または管理者の有無によって分類することが可能です。

    パブリックチェーンは参加者に制限がなく、許可を必要としないため、自由参加型(Permissionless型)とも呼ばれます。一方、プライベートチェーンやコンソーシアムチェーンは特定ユーザーのみ参加することが許されるため、許可型(Permissioned型)とも呼ばれます。


    ここからはそれぞれどのような違いがあるのか、詳しく解説します。

    パブリック型ブロックチェーン

    パブリック型は、誰でも参加できるオープンなブロックチェーンです。中央に管理者がおらず、不特定多数の参加者によって管理されています。参加者は、参加も脱退も自由におこなうことができ、取引データは参加者全員に公開されているため、透明性が高いという特徴があります。

    一方で、取引の承認には参加者の一定数以上の合意が必要です。そのため、ブロックチェーン上に新しい情報を書き込むためには多くの処理と時間を要するというデメリットがあります。実際、ビットコインのブロックの承認ではブロックサイズが制限されていることから、約10分の時間がかかります。

    このような、利用者増加に伴って処理速度の低下と手数料の増加してしまう問題を「スケーラビリティ問題」といいます。

    また、管理者不在のパブリックチェーンでは取引内容が正しいものであるか判断する仕組みが必要です。この仕組みを「コンセンサスアルゴリズム」といい、ビットコインでは「PoW(Proof of Work)」と呼ばれるコンセンサスアルゴリズムを採用しています。

    出典:Web3総合研究所

    PoWでは、マイニングと呼ばれる膨大な計算による承認によって取引の正当性が担保されます。膨大な計算で求められる値をハッシュ値といい、このハッシュ値を一番早く探り出したマイナーが報酬としてビットコインを貰える仕組みになっています。

    一方でマイニングは多くのマシンパワーや電力を費やすため、環境破壊につながっているとの指摘もあります。こうした指摘を受けてイーサリアムは2022年9月に​​マイニング不要のコンセンサスアルゴリズムであるPoSへと移行しています。

    パブリック型はブロックチェーンの基本形ともいえるモデルであり、単に「ブロックチェーン」という際には基本的にパブリック型を指すことが多いです。ビットコインをはじめイーサリアム、ライトコインなど多くの仮想通貨がこの形式を採用しています。

    プライベート型ブロックチェーン

    プライベート型は、単独の管理者によって参加者が制限されるブロックチェーンです。中央の管理者が許可した特定の参加者によって管理されています。当然、参加者は不正をしないという前提で参加を許可されており、その多数決で合意形成を行っていることが多いため、パブリック型に比べて取引のスピードが速いのが特徴です。

    また、プライベートブロックチェーンは、秘匿性の高い情報を扱うのに向いています。情報は外部に公開されないためプライバシーが確保され、閉じたシステム内でデータを格納できます。したがって、パブリックブロックチェーンのように誰でも参加することはできず、個人情報や機密情報なども扱うことができます。

    その他にも、手数料が不要という点も特徴もあります。プライベート型ではインセンティブ設計が必要ないため、トランザクション手数料なしでブロックの生成が可能となります。

    一方で、管理者が存在することで、システムダウンのリスクが生じてしまいます。なぜなら、チェーンを運営する企業や組織によってネットワークの安全性が決まるためです。データの永続性や可用性といった面ではパブリックチェーンよりも劣ってしまう点には注意する必要があります。

    また、プライベートチェーンは中央集権的な側面を持つため、データの分散性という点でもパブリックチェーンよりも劣っているでしょう。

    このように一長一短があるプライベート型ブロックチェーンですが、パブリックブロックチェーンに比べると、自社内でブロックチェーンの検証や開発がしやすいです。そのため、企業での情報管理や情報セキュリティが厳格な金融機関等でプライベートブロックチェーンを使った取り組みが進められています。

    コンソーシアム型ブロックチェーン

    近年、ビジネス導入が加速しているのが、このコンソーシアム型のブロックチェーンです。コンソーシアムチェーンでは、誰もが管理者になれるわけではありませんが、単一の管理者というわけでもなく、複数の管理者が存在するブロックチェーンです。

    コンソーシアム型は、分散性・安全性・処理速度の全てにおいて、パブリック型とプライベート型との中間の性質を兼ね揃えています。コンソーシアム型は単一の組織ではなく複数の組織やグループによって管理されているため、プライベート型に比べると分散性があり、ルールの変更に関しても一定数以上の合意形成が必要となってくるため、ある程度の透明性は担保することができます。

    一方でパブリック型とは異なり、特定の人が使うシステムでの利用が想定されており、データは参加者のみに公開されます。そのため、プライベート型のようなプライバシー保護や速い処理速度も備えています

    「複数組織の利害関係が生まれるため運用変更が難しいのでは?」という意見もあります。確かに、導入にあたってコストや社内調整など環境を構築するハードルが若干高いというデメリットがあります。ですが、そのような利害関係があるからこそ、管理者がデータを書き換えないようにお互いに監視し合う構造がうまく働いています。

    2つ以上の企業などで利害関係が一致しないために一方だけにデータ管理を任せることができない関係性においてお互いのデータを共有したい場合には、コンソーシアムチェーンが向いています。

    ブロックチェーンの種類に関する誤解

    出典:shutterstock

    パブリック型が最もセキュリティに優れている?

    パブリック型のブロックチェーンには、「51%攻撃」という課題が存在します。51%攻撃とは、悪意のある参加者がネットワーク上の51%以上の計算能力を制御することで発生します。

    通常、データの改ざんをしようとする場合、ブロックチェーンが分岐してブロックチェーンの「一番長いチェーンが有効」というルールが発動して攻撃は失敗します。また、不正な取引を記録しようとした場合には、当然ながらブロックの承認資格を持った他の参加者によって安全が確保されます。

    ところが、51%攻撃ではマイニングを行っているリソース全体のうち、51%を悪意を持ったユーザーが占めます。51%のリソースがあれば、他の参加者が正しい分岐のチェーンを伸ばそうとしてもブロック生成スピードで負けてしまったり、不正なトランザクションを含むブロックを作成してそのブロックをチェーンに追加することができます。その結果として、不正なトランザクションが正当なものとして承認され、二重支払いやその他の悪意のある行為が行われる可能性があります。

    51%攻撃は、多くのマイナーが参加するブロックチェーンで実行することは困難です。しかし、リソースの上位を占めるグループが結託すれば、どんなにマイナーが多いブロックチェーンでも攻撃が成功する可能性があります。また、単独で51%のリソースを持たなくても、上位のマイナー連合が合計51%のリソースを持ち攻撃するというシナリオもあり得ます。

    対するプライベート・コンソーシアム型では、ネットワークの参加者を管理者が選別します。したがって51%攻撃という文脈では、中央集権的な仕組みのほうが攻撃耐性があるといえるでしょう。

    プライベート型は管理者によってデータを改ざんされてしまう?

    プライベート型のブロックチェーンは管理者がいると説明しましたが、これが通常のデータベースのように管理者権限でログインして記録を書き換えることが可能だという誤解を生んでいます。

    実際にはプライベート型ブロックチェーンは、たとえ管理者であっても記録されたデータの改ざんや消去はかなり困難です。ブロックチェーンのひとつのブロックには、取引データに加えてひとつ前のブロックのハッシュナンス(一定の条件を満たした32ビットの値)などが保存され、これを合成してさらにハッシュを発行しています。

    したがって、もしひとつのデータを書き換えたとしても、以降の保存されているブロックも全て書き換えて辻褄を合わせる必要があり、この間も新たなブロックは追加されていくため、技術的なハードルがかなり高いといえます。言い換えれば、この点がブロックチェーンとデータベースの最大の差でしょう。

    例外として、管理者がブロックチェーンだけではなくシステム全体も管理している場合、途中のプログラムを書き換えてしまうということは比較的容易になっています(ブロックAに本来格納されている値はBBBBだが、返却処理の際にCCCCという値を返却するようにプログラムを改ざんする等)。そのため、プライベート型チェーンは、導入目的に沿って正しい設計に落とし込むことが大切です。

    どの種類のブロックチェーンが良いのか確認しよう

    出典:shutterstock

    ブロックチェーンを自社のビジネスに導入する際には、そのサービスや目的に合った種類のブロックチェーンを選別することが非常に重要です。しかしながら、ブロックチェーンを用いた取り組みは数多く存在しますが、どの種類のブロックチェーンを利用しているのかを公にしているプロジェクト・サービスはあまり多くありません。

    また、同じ型のブロックチェーンであっても、プラットフォームごとに「スピードが優れている基盤」「安定性に優れている基盤」「カスタマイズ性に優れている基盤」など様々な特色があり、これらを比較検討するのには多大な労力やコストがかかります。

    トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

    ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

    「ハラル認証」ってどんな制度?メリットや偽装ハラル問題についても解説

    イスラム教の戒律に則って調理・製造された製品であることを示す「ハラル認証」。グローバル化の進展に伴い、近年国内でも脚光を浴びる機会も多くなってきました。本記事では、そもそもハラルとは一体何なのか、相次ぐ「偽装ハラル」は何が問題なのか、解決策となるブロックチェーン技術についても解説します!

    1. ハラルとはどういうものなのか?
    2. ハラル認証によってムスリムは安心して食品を選択できる
    3. ハラルへの取り組み事例
    4. 近年増加している「偽装ハラル」
    5. 偽装ハラルに対抗する新たなテクノロジー
    6. ハラル×ブロックチェーンの事例
    7. まとめ

    ハラルとはどういうものなのか?

    ハラルは、ムスリム(イスラム教徒)の行動指針となる基準の一つ

    「ハラル(Halal)」とは、イスラム法において「合法」「許される」という意味のアラビア語です。イスラム教の教えでは、神が創造したものはすべてハラル(許されること)であり、それ以外のものは「ハラム(Halam)」として禁じられており、イスラム教徒のあらゆる行動や全ての物はこの「ハラル/ハラム」を基準に判断されます。

    出典:Unsplash

    ハラルは聖典であるコーランや預言者ムハンマドの言行録であるハディースに規定されています。

    ハラルフードとは、イスラムの教えで食べてよいとされる食べ物

    イスラム教では、食べ物に関しても「食べてもよいもの」と「食べてはいけないもの」が細かく定められています。そのイスラム教の教えで食べてよいとされている食べ物を「ハラルフード」と呼びます。

    出典:ドラッグストアてんとうむし

    イスラム教徒は豚肉やアルコール等の摂取が認められていないというのはご存じの方も多いかと思います。しかし、製造工程においてもイスラムの戒律に則った方法で処理される必要があります。具体的な例としては、アルコールが添加されている味噌や醤油などの調味料やムスリム以外によって処理された食肉、遺伝子組み換えによって栽培された植物なども摂取が厳しく禁じられています。

    このようなイスラム教の独自の基準にクリアした、いわゆる「ハラルフード」のみが、ムスリムが摂取を許されている食品となります。

    日本でもハラルへの関心が高まっている

    一見すると複雑なルールでもあるハラルですが、近年、国内でもその存在が広く知られるようになっています。それは、イスラム教が世界人口の約4分の1を占める世界的な宗教であり、インバウンド需要に対応する日本の各業界においてハラルは避けては通れないテーマだからです。

    とくに飲食業界においてはハラルフードを取り扱う店舗も首都圏を中心に現れつつあり、観光庁も「訪日ムスリム旅行者対応のためのアクション・プラン」を発表するなど、訪日ムスリムに対する食や礼拝への配慮が高まっています。

    また、イスラム教徒は今後さらに増加するという予測も立てられています。米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターの予測によると、イスラム教は増加のペースが最も速く、信者の数は2050年までに27億6000万人に増える見通しだといいます。これは同年の世界人口予測の約3割に値する数字であり、それだけイスラム教徒が急増するということは、ハラルフード市場も拡大していくものと推測されます。

    宗教への関心が薄い私たち日本人であっても、ビジネスやサービスのうえでは全くの無関心というわけにはいかなさそうです。

    ハラル認証によってムスリムは安心して食品を選択できる

    ハラル認証とは?

    出典:shutterstock

    ハラル認証とは、イスラム教の戒律に則って調理・製造された製品であることを示すシステムです。「イスラム世界で禁じられるもの」すなわち「ハラムなもの」が、製品やサービスに含まれていないことを客観的な証拠をもって確認し、基準をクリアしたものに「ハラル認証マーク」が付与される仕組みとなっています。

    食品加工技術や流通が発達するにつれ、一般的なイスラム教信者の消費者には、目の前の商品がハラルなのかそうでないのかの判別が必要となりました。そこで宗教と食品科学の2つの面から、その商品がハラルであることを認証機関が保証するハラル認証の制度が誕生しました。

    「イスラム的に許容されているか」の判断を中立的な立場の第三者機関が審査することで、企業側も安心して製品を製造・輸出することにつながります。この役割を担うものとして、ハラル認証機関の存在は近年益々重要視されてきています。

    東南アジアに多いハラル認証

    現在、ハラル認証の製品や店舗は、イスラム教徒人口の多い東南アジアを中心に普及しています。特に高経済成長中であるマレーシア、シンガポール、インドネシアといった国々では富裕層やアッパーミドルのムスリムが増加しつつあり、こうした国々への輸出ではハラル認証が有効なプロモーションの一つとなっています。

    一般的な感覚からすると、「サウジアラビアなどの中東で需要があるのでは?」と思うかもしれませんが、こうした国々ではハラル認証がされた製品はあまり流通していません。これは中東の国々ではイスラム教が国教として制定されており、「すべてがハラル」が前提となっているためです。

    日本の輸出先はアジア圏が大半を占めているため、東南アジアでハラル認証の導入が進んでいるというのは重要なトピックといえるでしょう。

    日本企業もハラル認証を取得している

    意識せずに生活していると全く気づかないかと思いますが、実は日本企業がハラル認証を取得しているケースもたくさんあります。日本国内に暮らすイスラム教徒は約20万人いるといわれており、そうしたニーズに応えるべく、大手企業を中心にハラルフードの取り扱いを行っている企業が生まれているのです。

    日本においてハラル認証を受け、公表している企業は日本ハラール協会のサイト上で公開されています。

    ハラール認証取得企業一覧 (公表企業のみ)【五十音順】

    ハラルへの取り組み事例

    LIFE SCHOOL 桐ケ丘 こどものもり

    出典:社会福祉法人つぼみ会

    東京都北区のとある保育所では、ハラル認証の取り組みが行われています。「LIFE SCHOOL 桐ケ丘 こどものもり」では、認可保育所としては全国初のハラル認証を取得し、園内の調理場でイスラム教徒用の給食を提供しています。

    認証を取得するにあたって、栄養士がハラルフードに関する講習を受けて専門的な知識を学んだほか、専用の調理器具も用意するなど内部の仕組みを整備しました。また、処理場で処理された鶏肉を使ったタンドリーチキンなど、食事を許されている食材についてもしっかりとイスラム法の規定に則っているものを使用する体制へと食材の供給網にも工夫をしています。

    日本の園児用メニューと見た目も同じにすることで、園児同士でのトラブルや保護者からのクレームもなく、園内に十数人在籍しているバングラデシュ国籍の園児も安心して給食を楽しんでいるようです。

    現在はハラルへの対応がなされている保育園はあまり多くはありませんが、こうした先進事例を通して今後教育のシーンでもハラルフードへの理解が増進していくことと思われます。

    神戸ビーフ

    出典:神戸肉流通推進協議会

    海外で人気が高まっている高級和牛の「神戸ビーフ」もハラルへの対応を始めました。富裕層の多い中東での消費拡大を狙い、ハラル認証の基準を満たす食肉施設で処理された「神戸ビーフ」がサウジアラビアに輸出されています。

    サウジアラビアは、厳格にイスラム法を適用している国家の一つです。近年、女性の社会進出や政治参加の機会も増えつつありますが、それでもなおコーランを法源としており、近代的価値観に抵触する規範も多くあります。そんなサウジアラビアではもちろん、牛肉は宗教上のルールで定められた方法で処理されたハラルであるものしか食べることができません。

    そうした国に対しても日本産和牛のおいしさを伝えるべく、兵庫県内で神戸ビーフを産出していると畜場が「ハラール神戸牛」への生産に取り組みました。ハラルと畜専用の設備を設け、非ハラルの肉等と完全に分離されたラインを確保することで、安心のと畜環境を用意しています

    また、加工プロセスや保管場所についてもハラルではないものと混ざることは厳禁で、ハラル専用の冷凍庫を使用したり、消毒もアルコールが使えないため熱湯で行うなど様々な工夫がなされています。

    こうした各工程での努力によって、肉質を損なうことなく神戸ビーフの味を楽しんでもらうことができます。ムスリムにも余すことなく日本の食文化も味わってもらい、世界に日本食のおいしさを広めるうえでもハラル認証への取り組みは欠かすことができない存在でしょう。

    近年増加している「偽装ハラル」

    出典:shutterstock

    偽装ハラルとは?

    イスラム教徒にとって生活の肝となっているハラルですが、近年問題となっているのが「偽装ハラル」です。偽装ハラルとは、ハラルでないにも関わらずハラルであると偽装して流通している食品のことを指します。

    前述のハラル認証の制度によって、ハラルフードにはハラルであることを証明するロゴが貼り付けられていることがあります。ムスリムの消費者は、表示された認証マークによってその製品が厳しい審査手続きを経て、安全に消費できると証明されていると確認することができます。

    しかし、この表示は業界全体として統一されたものではなく、発行団体によってそれぞれ異なるロゴを掲げている場合もあります。日本でも30以上のハラル認証機関が存在するといわれており、これらをすべて記憶しておくのは日常生活では実質的に不可能でしょう。

    こうした新興かつ曖昧なマーケットを悪用した業者がハラルでない食品に対してハラルの認証マークをつけて販売することで不当に利益を得ているというのが、偽装ハラル問題の正体です。この問題は世界的にも深刻な話題であり、信仰人口が十数億人に上るとされているイスラム教ではその被害者・被害額はとてつもない規模となっていることが窺い知れます。

    イスラム教徒にとっての偽装ハラル

    イスラム教徒にとって偽装ハラルは文字通りの「死活問題」になります。2024年現在、ハラルの認証を受けていない製品に関する詐称問題が相次いでいます。とくにタイのチュラロンコン大学の調査によって発覚した「偽装牛肉(牛の血に浸した豚肉を牛肉と偽って販売)」の問題は世界中のイスラム教徒に大きな衝撃を与えました。

    過去には日本企業もハラル関連で「炎上」した事例もあります。2014年、大手菓子メーカーのブルボンでは人気ラインナップである「プチ」シリーズのコンソメ味にインドネシア語での原材料表示を貼り付けないまま、インドネシア国内で販売しました。

    コンソメ味のポテトチップスには豚由来のエキスが使用されており、漢字の読める女子大生がSNSで拡散したことをきっかけに同製品は回収に追い込まれる騒ぎとなりました。インドネシアでは国民の9割近くがムスリムであり、この事件は私たち日本人とムスリムのハラルフードに対する認識の違いを体現する結果となりました。

    インドネシアでは、2000年にも大手総合食品メーカーの味の素が豚由来の酵素を使用したとして、大きな話題となっています。当時は抗議活動も激しく行われ、現地法人の社長が逮捕される騒動となりました。このように、日本人の感覚では「ミス」というイメージであっても、イスラム圏ではこうしたミスは「イスラムの基準を満たした食品と偽った、消費者を欺いた」という「不正」の意味合いが強くなってしまいます。

    厳格にコーランを遵守するムスリムに対してハラムである食品を提供することは、口にした本人のみならず宗教を侮辱することにもなりかねず、一企業・一個人の対応だけでは済まなくなる可能性もあるのです。

    偽装ハラルに対抗する新たなテクノロジー

    こういった偽装ハラル問題解決に向けて、ある新たな技術が注目されるようになりました。それが、近年ブランド製品の真贋証明などで利用されている「ブロックチェーン技術」です。ここからはブロックチェーン技術について簡単に解説します。

    ブロックチェーンとは?

    ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

    ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

    ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

    取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

    ブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

    このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

    ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

    従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
    構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
    DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
    データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

    こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

    データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    ハラル認証へのブロックチェーン技術の利用

    偽装ハラル問題が起こる原因の一つに「サプライチェーン全体をまとめる統一プラットフォームが不足している」ということが挙げられます。

    ハラル認証は、本来であれば統一的な基準により判断されるべき制度です。しかし、サプライチェーン上のすべての利害関係者が、それぞれ異なるプロセスやシステムを利用しており、また手作業に頼っている部分が非常に多いのが実情です。

    一方でブロックチェーンはデータの耐改ざん性に優れているデータベースであり、プロセスや企業の垣根を超えてデータ同士を鎖のようにつなげて共有することができます。データの真正性が担保された状態で一つのネットワーク全体としてデータが追跡できる仕組みを構築することで、各製品が正当なハラル認証であることを保証できるでしょう。

    出典:国立研究開発法人科学技術振興機構

    ブロックチェーン技術を使うことで、「サプライチェーン全体に透明性をもたらせながら、単一障害点化しない形で各セクションを統一しうるプラットフォーム」が実現できます。様々な製品の出所を追跡することで、仮に製品に関する情報が偽装されたとしても、もともとの生産地や生産状態を追跡していけば認証が取れるようになります。

    また、ブロックチェーン技術のハラル認証への利用は、食品偽装防止に留まりません。医薬品、化粧品、ムスリムファッションの分野でもブロックチェーン技術の重要性が認知されつつあります。

    ハラル商品全般に対してもこのテクノロジーを適用すれば、ハラルの市場認知度を食品業界の他の認証(例えば有機など)に匹敵するレベルまで高めることができます。冒頭にも述べたように、ハラル製品の市場規模は世界の人口の4分の1近くにものぼります。ブロックチェーン技術は偽装防止の枠を超え、ハラル市場の様々なコンプライアンスに革命的な進化を与えるでしょう。

    ハラル×ブロックチェーンの事例

    Halal Chain

    ハラールブロックチェーンプロジェクトを発表
    出典:Edge Middle East

    現在では、ブロックチェーンを活用してハラル市場に参入するプロジェクトも増えつつあります。ハラル産業製品のトレーサビリティに特化したブロックチェーン技術をベースとする「ハラールチェーン(Halal Chain)」はその最たる事例でしょう。

    ハラル認証を導入する際には、システムの不統一性や製品情報の不正確性、原材料に対する厳格な管理の難しさなど様々なテーマが問題となります。Halal Chainではバリューチェーンのあらゆる情報を一元的に管理し、分散して保有するというある意味で二律背反的な概念を実現することで、これらの問題の解決を試みています。

    Halal Chainはパブリックなブロックチェーンであり、製造、加工から提供までのサプライチェーン全ての台帳上の取引をトラッキングして検証可能です。このシステムはリアルタイムでの監視も可能であり、ハラル認証に関する多くのコンプライアンスに革命を起こすと期待されています。

    この構想は国際イスラム経済センター(ICIE)とドバイ空港フリーゾーン局(DAFZA)によるデジタルチェーンプロジェクトで発表されており、今後、イスラム圏の他の国々でも同様のプロジェクトが立ち上がるかもしれません。

    WhatsHalal

    出典:Google Play

    シンガポールを拠点とするスタートアップである「WhatsHalal」は、ハラル食品をブロックチェーンプラットフォームを通じて効率的に認証するサービスを展開しています。

    インドネシアでは2021年2月に「ハラル製品保証の実施に関する政令」を公布しており、飲食品は2024年までに、化粧品などは2026年までにハラルであるか非ハラルであるかについての表示をパッケージに記載することを順次義務化しています。同規制の導入によって、自社製品のハラル対応を推進しようと奔走する企業は150万社以上にのぼるとみられます。

    こうしたインドネシア国内の動きを受けて、ブロックチェーンを活用することでフードチェーン内のハラル食品の追跡システムを統合しているのがWhatsHalalです。現在のSCM(サプライチェーン・マネジメント)のシーンでは、農業従事者からメーカー、販売業者、消費者まで、サプライチェーン全体のすべての利害関係者をまとめる統一プラットフォームが不足しています。

    しかし、WhatsHalalでは専任のコンサルタント(有料)によって自社サービスでトレーサビリティが必要となる箇所がピックアップされ、サプライチェーン全体で一括してハラルを管理することができます。

    そのため、業者はもちろん、顧客もアプリを使ってハラルが保証された特定の業者からハラル食品を注文・配達してもらうことが可能です。バーコードをスキャンすることによってハラルの正当性を確認する仕組みは、ムスリムにとって生活の利便性を大きく向上させるでしょう。

    まとめ

    イスラム教人口の増加に伴い、今後日本にも観光客としてだけでなく、留学生や移住者なども増えていくことでしょう。今までのように異国の文化や異宗教の変わった風習としてハラルを特別視するのではなく、ヴィーガンメニューや糖質カット食品のように、食品選択の際のオプションとして当たり前に用意されている環境が訪れる日もそう遠くないはずです。イスラム教に限らず、グローバルな視点でさまざまな宗教や文化への理解を深めておきましょう。

    ブロックチェーンがコールドチェーンにもたらす変化とは?~温度管理・トレーサビリティへの活用~

    冷凍技術の革新は私たちの食生活を大きく変容させました。1930年に戸畑冷蔵(現日本水産の前身)が「冷凍いちご」を販売してから100年近くが経った現在では、スーパーやコンビニで鮮度の高い食品を購入したり、あるいはファミリーレストランなどの外食産業では多種多様なメニューが低価格かつハイクオリティで提供されています。

    こうした便利なサービスが確立しているのは、「コールドチェーン」という仕組みが関係しています。そしてさらに2024年現在、コールドチェーンへブロックチェーンを導入しようという動きが見られます。

    本記事では、コールドチェーンやブロックチェーンのそもそもの仕組みや実際の事例に触れつつ、これからの温度管理のあり方についてご紹介していきます。

    1. コールドチェーンについて学ぶ
    2. ブロックチェーンとは?
    3. ブロックチェーンがコールドチェーンをどう変える?
    4. RFIDによって、さらにブロックチェーンの可能性は広がっている
    5. ブロックチェーン×コールドチェーンの事例
    6. まとめ

    コールドチェーンについて学ぶ

    そもそもコールドチェーンって?

    コールドチェーンの流れ
    出典:株式会社ロジクエスト

    コールドチェーンとは、「生鮮食品や冷凍食品といった低温管理が必要な商品を、生産から輸送、保管といった流通プロセスを一貫して所定の温度を保つ仕組み」のことです。日本語では「低温物流体系」や「低温ロジスティクス」「生鮮SCM(サプライチェーン・マネジメント)」とも呼ばれています。

    現在では冷凍食品や生鮮食品だけでなく、花卉や医薬品、電子部品などさまざまな分野でコールドチェーンが活用されており、私たちの日常生活に欠かせない技術となっています。

    コールドチェーンの重要性

    冒頭にも説明した通り、コールドチェーンが整備されたことで私たちの生活は一変しました。では、具体的にはどのような場面でその役割を発揮しているのでしょうか?

    コールドチェーンの主な目的は、低温状態を維持することによって各商品の品質を一定に保つことです。これまでの輸送方法といえば通常のトラックで屋外の倉庫などに常温で運搬されるのが一般的でしたが、クール便や冷凍・冷蔵倉庫の拡大によって低温流通が実現しました。これにより、鮮度を保ったまま消費者の元へ様々な商品を送ることができるようになりました。

    また、低温状態を長期化させることで、各商品のロスも削減できますたとえば生鮮食品であれば低温管理によって雑菌の繁殖や鮮度の劣化を防ぎ、店舗でより長い期間販売できるため、賞味期限切れによる廃棄の減少に繋がります。

    さらに、コールドチェーンは商品の販路拡大にも一役買っています。従来の輸送形態では各地に中継地点となる物流の拠点が必要であり、品質維持の観点から遠方へのダイレクト輸送が困難でした。そのため、低温管理が必要な商品の輸送エリアは基本的には出荷地の周辺数十キロに限られていました。

    コールドチェーンによりこうした商品の長距離輸送が可能になったことで、出荷地から遠く離れた全国各地へ商品を届けることが可能となりました。一部地域でしか販売されていなかった商品や、鮮度を売りにした商品が遠方からでも購入できるようになり、経済圏を大幅に拡大させました。

    コールドチェーンの影響は、物流だけに留まりません。医薬品や血液パックなどの温度管理にも必須の技術となっています。特にコロナ禍では、ワクチンの低温管理が重要な政策として各国で認識され、一気にコールドチェーンの普及が進んだともいわれています。

    このように、コールドチェーンは物流業界以外にも、様々な業界へ影響を及ぼす重要なテーマとなっています。

    コールドチェーンの課題

    出典:shutterstock

    いまや現代人の生活になくてはならないコールドチェーンですが、いくつかの課題も露見しています。なかでも、特に問題視されているのが、温度モニタリングにおける人為的なミスです。

    鮮度や品質を担保する技術であるコールドチェーンでは、一貫した温度管理が絶対条件です。当然ながら、各商品は生産から消費者の手に届くまで、一定の温度が維持されているか定期的にチェックを行います。

    一方で現行のコールドチェーン管理は、定期的な温度モニタリングと手作業による記録管理に頼ってきたため、人の手によるミスや不正が起こりやすく、リアルタイムでの温度管理や可視性にも欠けていました

    人為的ミスが原因で空調が万全に機能していなければ品質の維持は担保できず、リアルタイムでモニタリングできなければ、スケジュールが少しずれるだけで想定外に商品を常温下に晒されることもあるかもしれません。

    また、ミスではなく意図的に低温管理が怠られる可能性もあります。ベトナムなどの東南アジア諸国では、ドライバーの賃金体系が運賃の中から会社利益を含む必要経費を除いた金額が収入となるケースがあります。したがって、少しでもガソリン代を節約するために、定期的なエンジン停止を行っているドライバーも少なくないのです。商品の品質だけでなく、誠実なドライバーが損をすることにもなってしまいます。

    リアルタイムかつシステマチックに監視を行わなければ、上記のようなミスや不正を解決することはできないでしょう。

    ブロックチェーンとは?

    ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

    ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

    ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

    取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

    ブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

    このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

    ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

    従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
    構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
    DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
    データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

    こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

    データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    ブロックチェーンがコールドチェーンをどう変える?

    出典:Pexels

    データの真正性が担保される

    従来のデータベースでは、企業や個人がすでに記録された管理履歴を改ざんすることは(知識があれば)容易でした。特に管理者による内部不正を防いだり検知するのは非常に困難です。一方のブロックチェーンは「ハッシュ」や「ナンス」、「公開鍵暗号方式」といった様々な要素によって、管理者も含めて改ざんすることが著しく難しいデータベースになっています。

    したがって、ドライバーや検温員といった各作業者のモラルに委ねられていた温度管理を厳格に行うことができます。これにより、理論上可能であった商品の品質の維持が内実ともに可能になります。

    また、データが常に正しいのであれば、仮に冷蔵・冷凍機器が故障していて品質に問題が生じた場合も、すぐにその原因となっている地点を特定することができます。自動車や家電などリコールが発生しやすい製品の製造ラインでは、比較的こうしたデータの取得を行っていることが多いです。しかしながら、生鮮食品などの分野ではこうしたサプライチェーンの管理が徹底されているケースは多くありません。こうした分野でもすぐに問題の根源を特定できるというのは新たな価値になりうるでしょう。

    チェーン全体でデータへアクセスできる

    ブロックチェーンでは分散してデータの管理を行います。したがって、従来のデータベースのように場合によってはデータの改ざんが可能な特定特権的なの管理者を持ちません。チェーンの参加者全員がデータへアクセスすることも可能です。こうした特徴を活かして、チェーン全体で当事者意識を持って品質の管理に取り組むことができます。

    たとえば、生産の段階で低温管理に最大限配慮している企業があるとします。しかし、その商品を配送するフェーズで温度管理を徹底しなければ、いくら生産者が努力したところで品質は向上しないままです。それどころか、現状のデータ管理では生産者は生産、配送業者は輸送のデータをそれぞれが管理しているために、生産者は原因が分からずじまいになってしまいます

    一方でブロックチェーンを導入しているコールドチェーンであれば、自社の担当範囲以外でも商品の情報を追跡できます。したがって、どこのフェーズが品質を低下させているかを相互に監視・確認し合うことで、品質を一定に管理できるような環境を構築できます。

    これはブロックチェーン技術を使った貿易プラットフォームや不動産プラットフォームが、売り手と買い手以外のどの関与者の間でどのような情報のやりとりがおこなわれているかを全プレーヤーで確認できるのと、構造は同じです。

    面倒な確認も不要で正当な取引が可能

    ブロックチェーンにはもう一つ、従来のデータベースにはない武器があります。それが「スマートコントラクト」です。スマートコントラクトとは、事前に決めた条件に基づいて、それを満たした場合には自動的に契約が実行されるという仕組みのことです。

    このスマートコントラクトを活用すれば、正当な取引が可能になります。これまでの取引では、物流段階での温度管理が実際にされているかどうかはわかりませんでした。そのため「されているだろう」の暗黙の了解のもと、物流業者の信用において取引がされていました。

    スマートコントラクトを用いれば、条件に低温管理(◯度以下で配送が行われた)を設定することで、条件を満たしている商品に対して自動的に受け入れを行えるため、両者にとってフェアな取引を瞬時に完了できます。時間や手間をかけることなく商取引が行えるため、時間をより有効に使うことができるでしょう。

    また、万が一契約温度を下回ってしまったことが検知されたら、スマートコントラクトを活用することで自動で追加発注を掛けられます。追加発注の確認待ちによる時間のロスを大幅に削減することも可能になるかもしません。

    RFIDによって、さらにブロックチェーンの可能性は広がっている

    出典:shutterstock

    コールドチェーンで重要な検討事項となるのが、データの取得点です。データの管理をブロックチェーンで行うことで真正性を担保したとしても、効率よくデータの連携をすることができなければブロックチェーンの導入メリットは限られたものになってしまいます。

    これまでの多くのコールドチェーンでは「データロガー」と呼ばれる温度管理システムが用いられており、各ロガーから得た情報を事後管理するやり方が一般的でした。しかし、データロガーを用いた方法ではリアルタイムの状況に合わせた温度管理ができないばかりか、コストの観点からも適用できるのはトラックやコンテナ輸送のような商品が集積された管理形態に限定されてしまいます。そのため、コールドチェーンで求められる個別商品単位でのきめ細かな管理ニーズに応えることができませんでした。

    この課題を解決するために、近年、RFIDと呼ばれるツールが利用され始めています。RFIDとは「Radio Frequency Identification」の略で、近距離の無線通信を用いてID情報などのデータを記録した専用タグと非接触かつ自動で情報をやりとりするシステムのことです。

    出典:キーエンス ハンディターミナル活用ガイド

    RFIDの最大の特徴は、遮蔽物・距離に強いこと、そして複数のタグを一括読取できることです。バーコードやQRコードのようにカメラを用いて読み取るシステムとは異なり、RFIDは電波を用いて情報をスキャンします。そのため、離れていたり、他のものと重なっている場合でも、安定して読み取ることが可能です。段ボールなど箱の中に入っているタグの情報も読み取ることができます。

    さらに、ICタグにはラベルタイプのものやプラスチックなどのハードケースに包まれたもの、交通ICのように「かざす」動作で通信するNFCタイプのものなど様々な種類が存在します。サービスや商品の性質、読み取りシーンに合わせたタグを扱うことができるため、導入のハードルも一気に下がるでしょう。

    こうしたツールを活用することで、新しいコールドチェーンでは、商品ごとの個別情報を一元管理し、各商品に個別最適化された温度管理を行うシステム(つまりはIoTシステム)が実現するといわれています。

    RFIDとブロックチェーンを組み合わせることで、安全かつ簡易化された温度データ管理の時代が訪れるでしょう。受発注・決済・所有権移転も含めたトレーサビリティをリアルタイムかつ関係各社で一元管理できるようになるため、サプライチェーンマネジメントを大きく飛躍させると期待されています。

    ブロックチェーン×コールドチェーンの事例

    2024年現在、流通業界ではブロックチェーンをはじめとする先進技術によってプロセスイノベーションを起こすべく、各社で大規模な技術開発や実証実験が行われています。ここからは、ブロックチェーンとコールドチェーンを掛け合わせた事例についてご紹介します。

    東京都立産業技術研究センター

    東京都立産業技術研究センターはモノコトデザイン株式会社、ビヨンドブロックチェーン株式会社と共同で、ブロックチェーン技術を使ったセキュアなオープンプラットフォームを開発しています(2023年5月より一部機能の運用開始)。

    このプラットフォームでは、POS(販売時点情報管理)やWMS(倉庫管理システム)など、すでに使われている複数のシステムとの連携しながら、コンタミネーション(異物混入)の防止や食品衛生規格などのトレーサビリティにも対応しています。

    出典:東京都立産業技術研究センター

    データの取得にはRFIDを採用しており、端末で収集したデータを、簡単に物流サーバへアップロードすることが可能です。また、配送ボックスは内部に開封検知機能と温度センサ機能を有しており、配送ボックスの外側にRFIDタグを貼付して、輸送履歴をトレースします。したがって、温度管理に加えて中身の入れ替えなどがないことを検出できる仕組みになっています。

    同サービスはデータ改ざんの防止に利用されるブロックチェーンを使うことにより、今後ますます複雑化が予想される物流システムを透明化し、安全性の担保が必要となる商品のトレーサビリティデータを記録していくということです。

    北京市

    出典:shutterstock

    2020年11月、中国の首都である北京市はブロックチェーンを活用したコールドチェーンプラットフォームである「北京冷鏈」をスタートさせました。これにより、消費者が冷凍食品を直接トレースできるようになりました。

    契機となったのは同年の6月に、北京の食品卸売市場で輸入サーモンをさばいたまな板からコロナウイルスが検出されたことでした。感染の中心地である中国において、このニュースは大々的に報じられ、スーパーの店頭からはサーモンの姿が消えて輸入も一時停止されました。

    こうした騒動を受け、「コールドチェーン導入」は、感染防止におけるキーワードに浮上しました。実は、先進国では食品物流の90%はコールドチェーンを経由しているのに対し、中国の普及率は極めて低く、70%は常温で管理されています。アイスクリームさえ毛布などに包んで常温で配送することもあるそうで、コールドチェーンの導入が喫緊の課題です。

    そういった背景のなかで、公的な研究機関である微芯区塊鏈研究院が中心となって「北京冷鏈」の開発に成功しています。Wechat、 Alipayといったアプリを通して、当該商品の二次元コードをスキャンするだけで、商品履歴を確認できる仕組みです。

    この国家的プロジェクトにおいても、ブロックチェーンはコールドチェーン食品の生産元、流通、倉庫保管、消費などの各段階のデータの改ざんを防ぐ技術として採用されています。

    IBM ×  eProvenance

    出典:Unsplash

    ブロックチェーンの社会実装を積極的に行っているIBM社も、もちろんコールドチェーン分野に進出しています。同社はワインの出荷分析を行っているeProvenanceと共同でブロックチェーンプラットフォーム VinAssureの立ち上げを行いました。

    ワインの保管と輸送中の温度条件は、品質に重大な影響を与えます。そのため、他の高級酒が常温でも保存がきくのに対して高級ワインはワインセラーでの保管が必須です。また、眠らせれば眠らせるだけ深みや価値が出てくるワインでは、24時間365日常に低温で管理される必要があります。

    VinAssure は、AIやブロックチェーン、クラウドといった様々な先端テクノロジーが活用されているBlockchain Transparent Supplyをカスタマイズすることで、ワインに関する製造・管理のデータを追跡することが可能です。

    プラットフォームの参加者はワインボトルにあるQR コードを読み取ることでサプライチェーン情報にアクセスでき、製品の認証基準、品質、オーガニック関連情報などを確認することができます。また、消費者だけでなく、ワインメーカーも生産に費やされた細心の注意を反映しているという、セルフブランディングにも活用することができます。

    VinAssure にはすでに米国に本拠を置く複数のワインメーカーも参加しており、今後もサービスの拡大が期待されます。

    日立製作所

    出典:ビジネス深耕

    東南アジアでは、近年の経済発展とともに高所得者層が増加し、品質管理された食品への要求が高まっています。しかしその一方で、コールドチェーンが未発達なことにより品質管理された食品が十分に消費者に提供されていません。こうした状況をコールドチェーン物流によって改革しようという試みが、日立製作所FCPF(Food Chain Platform、フードチェーンプラットフォーム)構想です。

    出典:日立製作所

    本プロジェクトでは、同社が開発した温度検知ラベルを用いることで、商品ごとに個別に、しかも安価に取り付けることができるため、輸送単位を限定することなく、生産者から消費者までのすべての工程で適切な温度管理を行うことができるとされています。

    出典:日立製作所

    同社は、「FCPFは温度検知ラベルのほかに、ブロックチェーン、ロジスティクス管理、画像診断/AI(Artificial Intelligence)、保冷ボックス、鮮度・熟成度シミュレータなど複数の日立の強み技術を活用し、食品の品質管理、トレーサビリティ、ダイナミックマッチング、物流指示などのサービスを提供することで、生産、卸、物流、小売り、さまざまなステークホルダーの要求に応じた価値を提供する」ことで、「従来よりも安価なコストできめ細やかな温度管理」を実現するとしています。

    本プロジェクトは、センシングデバイスとIoT技術、AI、そしてブロックチェーンを組み合わせることで、コールドチェーンの課題をDXで解決しようとする好例だといえるでしょう。

    まとめ

    本記事では、ブロックチェーンがコールドチェーンに対してどのような貢献ができるのかについてご紹介しました。

    コールドチェーンは現代の物流を支える重要な技術であり、今後ますます拡大が予想されます。一方で、導入にあたっては、仲卸業者や輸送業者などサプライチェーンに関わる人たちに理解や協力をしてもらう必要もあるかと思います。

    従来のデータ管理では、かえって仲卸業者や輸送業者の手間が増えてしまい、なかなか理解や協力を得られないでしょう。ブロックチェーンによって安全かつ迅速なデータ管理を実現することで、こういった社内外の調整業務もスムーズに進むことでしょう。

    トレードログ株式会社では、非金融領域におけるビジネスへのブロックチェーン導入を支援しています。新規事業のアイデア創出から現状のビジネス課題の解決に至るまで、包括的な支援が可能です。

    自社のコールドチェーンについて少しでもお悩みがございましたら、是非オンライン上で30〜60分程度の面談をさせていただければと思いますので、お問い合わせください。

    ブロックチェーンは不動産業界50兆円市場の切り札となりうるか?

    不動産業界は2024年現在、国内約33万社、市場規模約50兆円を誇る巨大産業です。その不動産業界ではいま、ブロックチェーンを活用したビジネスが増えています。「不動産×ブロックチェーン」はどういった面で業界を変革できるのか?事例も交えて解説します!

    1. 不動産業界の有望技術として注目を集めるブロックチェーン
    2. ブロックチェーンとは?
    3. 「不動産×ブロックチェーン」が実現する2つのアプローチ
    4. 「不動産×ブロックチェーン」の事例
    5. まとめ

    不動産業界の有望技術として注目を集めるブロックチェーン

    出典:shutterstock

    不動産業界は、国内30万社以上のプレイヤーが存在し、市場規模は約50兆円ともいわれる巨大産業です。国土交通省の不動産業ビジョン2030によると、全産業に占める不動産業の法人数比率は11.5%と、他産業と比較してもその規模の大きさが窺い知れます。

    またその歴史も古く、昔からの取引関係や商慣行などが色濃く残り続けている業界でもあります。

    そうした不動産業界で、近年、ブロックチェーン技術を活用した新たなサービスがいくつもローンチされ、業界の課題解決に対する期待が高まっています。

    たとえば、大手ハウスメーカーの積水ハウスでは、ブロックチェーンを活用した次世代不動産プラットフォーム構想が推し進められています。

    2023年5月には国土交通省公募の「不動産IDを活用した官民データ連携促進モデル事業」において、同社が研究を進める「不動産IDを用いた転入居手続きにおける自治体連携DXに関する取り組み」が採択されています。

    出典:積水ハウス

    現在、同社ではすでに賃貸住宅の入居申込みで入力された氏名、住所などの利用者の情報を電気・ガス・光回線・引っ越しの民間企業にブロックチェーンを用いて連携することで、引っ越し時に必要な手続きを簡素化できるサービスを実施しています。

    今回のモデル事業では、従来モデルのような民間企業だけでなく、水道使用開始の手続きや転出・転入届という自治体への届け出も情報連携により完結させることで、利用者の更なる利便性の向上を目指します

    引っ越しを経験した方であればご存じのように、転居後は引っ越し、電話、電気、ガスなど様々な生活インフラの変更や申し込み等、いくつもの手続きが必要です。そのなかでも市役所・区役所へ直接届け出なければならない転入届は、多くのサラリーマンの勤務時間と役所の業務時間が重なっており、昼休みや場合によっては時間休を取得するケースもあります。

    こういった問題に対して、データの真正性が担保されたブロックチェーンを基盤とするシステムを導入することにより、不動産を一意に特定できる「不動産ID」を企業や自治体とシームレスに連携することが可能になります。

    このサービスが大規模に展開されれば、いままで手作業で照会していた不動産の業務が効率化され、私たちはスマホでホテルを予約するような手軽さで引っ越しが可能になるでしょう。

    こうした、ブロックチェーンを利用して不動産業界に変革をもたらそうという動きが、近年加速してきています。なぜ不動産業界でブロックチェーンが注目されているのでしょうか?まずはブロックチェーンの概要について解説します。

    ブロックチェーンとは?

    ブロックチェーンの概要

    ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

    ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

    ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

    取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

    ブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

    このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

    ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

    従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
    構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
    DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
    データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

    こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

    データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    ブロックチェーンのビジネスモデル進化

    ブロックチェーンは、この10年間あまりで技術の進展とともに、技術の応用領域、そしてビジネスモデルを進化させてきました。

    進化の歴史は、ブロックチェーン1.0、2.0、3.0という呼称で知られています。

    ブロックチェーンは、2008年に誕生した当時はまだ、仮想通貨ビットコインの中核技術の一つに過ぎませんでした(ブロックチェーン1.0)。

    その後、Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)が、ビットコインの仕組みを仮想通貨以外の領域に応用するべくEthereumを開発し、個人間送金や契約の自動履行など、主に金融領域でのビジネス活用が盛んに行われるようになりました(ブロックチェーン2.0)。

    そして、近年、Ethereumのtps(トランザクション速度)の遅さを改善したEOS(エオス)、toB企業向け開発に特化したQuorum(クオラム)Hyperledger Fabric(ハイパーレジャーファブリック)などのプラットフォームが登場し、またブロックチェーン技術の有用性に対する社会の関心が高まったことを背景に、非金融領域へのビジネス活用が急速に進み始めています(ブロックチェーン3.0)。

    不動産業界は、このブロックチェーン3.0の代表的な応用領域と言えるでしょう。

    「不動産×ブロックチェーン」が実現する2つのアプローチ

    近年、不動産業界でブロックチェーンが注目される背景には、「オープン」「真正性」「分散的」といったブロックチェーンの諸特徴と不動産業界が抱えている課題との相性の良さがあります。ここでは、ブロックチェーンが不動産業界で実現できることについて見ていきます。

    安全かつ自動的なデータ共有

    出典:ぱくたそ

    不動産業界にブロックチェーンを導入することで実現する未来の一つは、安全かつ自動的なデータ共有です。

    不動産取引は参加しているプレイヤーが多いうえに、セキュリティ上の理由からそれぞれのプレイヤーが持っている情報を公には公開できない、いわゆる「情報の非対称性」が存在しています。そのため、ひとつの取引が完了するためにいくつもの手続きや情報確認を重ねる必要があり、本人のスケジュールに加えて金融機関の営業時間や不動産業者の定休日なども考慮すると、どうしてもスローな展開になりがちなのです。

    以下に、場面ごとに不動産や住所データの非対称性や連携における課題をピックアップしました。

    • 登記
      • 「役所」と「登記申請者」間の非対称性が課題
      • 役所からすると、「不動産の所有者は本当にこの登記申請者本人なのか?」を確かめることが難しい。そのため、権利証明や複雑な登記申請手続きが必要となり、人件費や確認作業が必要となる。場合によっては確認ミスによって不正確なデータが登録されてしまうことも
      • 登記申請者からすると、登録のためだけにわざわざ法務局などに出向いて書類を申請しなければならない。登記に必要な情報の整理や提出に手間がかかる
    • 売買
      • 「買い手」と「売り手」間の非対称性が問題
      • 買い手からすると、「この人は本当に所有しているのか?」「隠れ抵当権がついてないか?」「入居者間や近隣で厄介なトラブルはないか?」という疑念がつきまとう
      • 売り手からすると、「そもそも適正な価格なのか?」「本当に支払い能力があるのか?」という疑念が付きまとってしまう
      • 双方の信用を担保するための第三者仲介が必要となり、「両手取引」における高い二重の手数料がコストとしてのしかかる
    • 賃貸
      • 「借り手」と「貸し手」間の非対称性が課題
      • 借り手からすると、「ここは事故物件ではないか?」「家主はなにかあったときにしっかりサポートしてくれるのか?」など見た目だけで判別できない情報が必要。また、引っ越しの際には自治体に直接、転出届を送ったり、インフラの開通手続き(または移転手続き)をしなければならない
      • 貸し手からすると、「この人は毎月きちんと家賃を支払ってくれるのか?」「この人はモンスター住民にならないか?」といった不安が生じる
      • 「仲介業者」と「管理会社」間の非対称性が課題となるケースも
      • 内見時に管理会社の許可が必要であり、営業時間や休業日の関係で内見ができず、契約の機会を逃してしまう

    ここに挙げた例は一部に過ぎず、実際のシーンごとに情報連携がスムーズでないことに起因するトラブルや困りごとはたくさんあります。

    こうしたプレイヤー間の情報非対称性に起因した不動産取引の課題に対して、ブロックチェーンは、オープンかつデータの改ざんのリスクが限りなく低いデータ基盤による第三者を排除した分散型の管理手法を提供できます。したがって、情報の真正性を担保したまま業種の垣根を超えてスムーズに情報を取得することが可能になります。

    また、トランザクション(取引)や外部の情報をもとに、あらかじめ設定されたルールで自動的に実行されるプログラムであるスマートコントラクトも、不動産契約をスムーズ化させるでしょう。

    一般的な契約は、契約当事者が書面で契約内容を定め、契約に基づいて取引が行われます。スマートコントラクトによる契約であれば、従来、人の手で逐一実行せざるを得なかった不動産取引における付随業務を、ブロックチェーン基盤上でおこなうことができます。

    法的課題など技術面以外で解決しなければならない課題もありますが、このスマートコントラクトを活用することで、条件が合致した時点で自動で契約が有効になるような仕組みも将来的には実現可能です。

    不動産の小口証券化

    出典:shutterstock

    不動産業界の課題でもう一つ注目されているのが、「小口証券の実現」です。

    従来、不動産業界では、REIT(不動産投資信託)などにより、不動産の証券化が進められていました。

    しかし、証券化できる不動産の規模は、中〜大規模なものに限定されており、たとえば、山村で廃屋になった古民家、ニュータウンで独居老人の住んでいた空き家、などはあまり対象とされてきませんでした。

    また、REITはリスクマネジメントの観点から多様な不動産プロジェクトへの投資をおこなう一方で、単一の不動産物件に対して投資をおこなうことはありません。実際に不動産を購入、運用するのは投資法人であり、投資家に物件の所有権がないため、共同所有することもできませんでした。

    これは、従来の不動産ファンドでは組成運用コストや所有権の授受という面で小規模な不動産ではそのコストを回収しきることができず、ファンド組成が難しかったためです。

    この課題に対して、ブロックチェーン技術を用いることで、トークンなどの活用により証券をデジタル化して流通性を高めようという動きがあります。いわゆる「不動産STO(セキュリティ・トークン・オファリング)」という方法です。

    STOとは、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法のことです。有価証券は、債権や株式、投資信託など、財産的な裏付けや権利を持っており、その権利を他人に移転したり、行使したりする際に受渡・占有が必要とされる証券のことを指します。

    不動産の販売主と購入者が直接取引所とを介してトークンの売買をおこなうことで、個人単位で不動産を共同所有できるようになりました。また、二次流通に関しても、トークンの売買だけで不動産の売買が完了するため、手軽さも兼ね備えています。

    こうした取り組みが進むことで、REIT市場が取りきれなかった新たな不動産マーケットの開拓が進んでいくと見られています。

    STOについて詳しく知りたい方は下記の記事も併せてご覧ください。

    「不動産×ブロックチェーン」の事例

    株式会社LIFULL

    出典:LIFULL HOME’S facebook

    「不動産×ブロックチェーン」の代表事例として注目を集めているのが、不動産情報サイトを運営する株式会社LIFULLによる不動産情報コンソーシアム「ADRE(Aggregate Data Ledger for Real Estate、アドレ)」です。

    この取り組みは、「異業種プレーヤー間で不動産データを共有・連携することにより、不動産業界の抱える課題を解決するとともに、不動産業界・取引市場を発展させる」ことを目的に様々な業界のプレイヤーがコンソーシアムを組んで設立されました。

    出典:LIFULL HOME’S PRESS

    従来の物件ポータルサイトでは、リアルタイムに最新の情報を更新できるわけではありません。気に入った物件を問い合わせてみると、すでに先約が入ってしまっていることは往々にしてあることです。また、同じ物件なのに家賃や初期費用がバラバラでどれが正確な情報なのかよくわからないということも少なくないです。

    不動産業界においては、1つの不動産に関する情報が、仲介会社や管理会社、インフラ会社などにバラバラに保有されているため、こうした問題が起こりやすいといえるでしょう。

    こうした状況でプラットフォームデータベースが各社に共有されれば、これまで各社の中で個別に管理され、取引コストのもととなっていた情報がスムーズに共有され、不動産賃貸の領域において、様々なコストダウンが進むと見られています。

    そして、こうしたADREによる「情報の非対称性」の解決をサポートしている技術が、ブロックチェーンです。業界横断プラットフォームの中核技術としてブロックチェーンを採用した理由として、同社は「分散管理型のブロックチェーンは公的プラットフォームの構築に向いている」としています。

    これは、本記事でも説明した通り、「オープン」で「中央管理者がいない」基盤であるブロックチェーンが、プレイヤー数が多く、利害関係が一致しづらい不動産業界の課題解決に向いていることを示す好例だと言えるでしょう。

    2019年7月に物件情報の特定・識別を実施するため、不動産IDの開発に着手すると、2020年4月には丸紅株式会社、株式会社GA technologiesら新たなメンバーも加わり、2020年10月に不動産ID発行システムのβ版を公開する運びとなり、一般社団法人不動産情報共有推進協議会を設立するなど、着々と活動の裾野を広げています。

    また、LIFULLは流行りの不動産STOのパイオニアとも呼べる存在です。「葉山の古民家宿づくりファンド」と呼ばれる、築80年の葉山の古民家宿づくりプロジェクトにおいてSTOを実施。歴史的価値のある建築物を有効活用するための資金調達としてだけではなく、古民家が綺麗に生まれ変わってさらなる付加価値が生じた際には、簡単に持ち分譲渡の第三者への持分譲渡が可能になるモデルとなっています。

    出典:LIFULL

    これは一般投資家向け不動産STOとしては国内初の事例であり、同社の不動産領域へのブロックチェーン導入の関心の高さを示す好例のひとつです。

    Propy

    出典:Cryptonaute

    「不動産×ブロックチェーン」の海外事例として有名なものに、オンライン国際不動産売買プラットフォーム「Propy(プロピー)」があります。

    Propyは、2015年に設立した、アメリカのカリフォルニアに拠点を置くフィンテック系ベンチャー「Propy Inc.(プロピーインコーポレーテッド)」が開発した分散型の所有権登録が可能な不動産マーケットプレイスです。

    国際的な不動産取引シーンでは、売買を仲介するブローカー・取引の安全性を保証するエスクロー・土地の登記をおこなうタイトルエージェント・送金業者など複数の仲介業者とやり取りをする必要があります。

    こうした取引の長期化や詐欺といったリスクや大量の書類を作成するための事務コストに対して、Propyはブロックチェーン上のスマートコントラクトを利用することで、買い手、売り手、仲介業者、エスクロー/タイトルエージェント/公証人を一か所に集め、取引を円滑化しようとしています。

    また、Propyではさらに不動産取引を迅速におこなうためにNFTを使用しています。仕組みとしては、買い手から売り手にオファーを出し、取引内容が合意できれば、所有権を紐づけたNFTの授受と金銭の授受が同時におこなわれます。

    NFTとは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。

    【初心者向け】NFTとは何か?どういう仕組みなのか?簡単に・わかりやすく解説!

    煩雑な本人確認や、書類のやり取りが省略され、手続きはすべてオンライン上で完結します。そのため、海外からも買い手がオファーを出せるようになります。

    最終的には、下の図のような売り手と買い手、取引に必要な情報を調査する仲介者だけからなるP2P不動産取引プラットフォームの実現を目指しており、不動産投資の自動化と民主化に注力しています。

    出典:PROPY

    Propyも、すでに説明した不動産業界における情報の非対称性に伴う取引リスク(とその結果として必要になる取引コスト)を減らすために、ブロックチェーン技術を活用している好例だといえるでしょう。

    NOT A HOTEL NFT

    出典:NOT A HOTEL

    PropyのようなNFTによる不動産管理は、国内でもすでにサービス化が進んでいます。それがNOT A HOTEL NFTです。

    NOT A HOTEL NFTは不動産資産をシェア購入(共同持分)できるサービスである「NOT A HOTEL」という同社の別サービスのホテル利用権についてNFT化をおこない、物件を購入せずとも、より安く、1日単位でNOT A HOTELの物件に宿泊できるサービスとなっています。

    日本において、NFTを含む無体物であるデータは民法上の所有権の対象にはなりません。したがって、所有は共同持分として実際の別荘のように保有するモデルとしてローンチし、利用権についてはNFTを活用することで二次流通にも対応できるようになっています。

    また、ブロックチェーンを用いることで不動産利用の安全性・防犯性も確保。物理キーとは異なり、勝手に改ざん・複製できない(複製が検知される)ことで、47年間という建物の法定耐用年数と同じ期間の利用期間であっても、メンバー全員が安心できる設計となっています。

    NOT A HOTELはこの他にも「NOT A HOTEL DAO」と呼ばれるEthereumブロックチェーン上で発行される仮想通貨(資金決済法2条14項1号が定めるところの1号暗号資産)を活用した、自社施設や開発用の土地の保有・運用プロジェクトを計画中です。

    この仮想通貨はNOT A HOTELが運用する不動産を裏付けとしたRWA(現実資産)トークンということもあり、今後の動向に注目が集まっています。

    株式会社RESA

    出典:満室ナビ

    株式会社RESAは、賃貸住宅市場における借主と貸主の直面する複雑な契約手続きと入居者確保という問題を、ブロックチェーン技術を駆使して解決する特許を取得しています。

    同社ではこれまで、空室の解消に向けて「満室ナビ」というサービスを提供しています。満室ナビは、AI活用により賃貸用不動産の投資効率を向上させるツールです。満室となっている物件のデータを収集し、そのパターンを学習することでデータに基づいた設備投資が可能になります。

    しかし、集客段階においては依然ポータルサイトからの誘導に依存する傾向があり、入居者確保は投資効率に大きく影響します。また、借主は物件検索から賃貸借契約、電気・ガス・水道のインフラ契約、住民票の移転など数多くの手続きが必要で、その煩雑さが大きなストレスになっています。

    ​​そこでこれらの課題を解決するために、借主が好む成約率の高い物件を多数マーケットプレイスに掲載し、ブロックチェーンを活用して契約手続きをスムーズにおこなう特許を取得しました。借主の入退去手続きをスマートコントラクト化することで、貸主の入居者確保も促進されると見込まれています。

    新たな賃貸住宅市場の形をブロックチェーンで模索したビジネスの事例としてご紹介しました。

    ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜

    出典:SKY TREK

    国内で数多くの不動産STOをおこなっているケネディクス株式会社のSTO事例のなかでもとくに目を引くのは東京ディズニーリゾートオフィシャルホテルである「グランドニッコー東京ベイ 舞浜」を裏付け資産とした「ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜(譲渡制限付)」の運用でしょう。

    JR京葉線・武蔵野線「舞浜」駅より無料シャトルバスで7分、ディズニーリゾートライン「ベイサイド・ステーション」駅より徒歩約4分に位置する同ホテルは、南欧プロバンスの街並みをイメージコンセプトにしたアトリウムが特徴的な都市型リゾートホテルで、 2023年春には全客室のリニューアルを完了しています。

    出典:ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜

    今回取得の対象となるのは、信託受益権(対象となる資産を信託し、当該資産から発生する経済的利益を受け取る権利)の準共有持分(所有権以外の財産権を複数人で共有する) 25%ベースとなっています。

    1口当たりの発行価格は100万円と高額ではありますが、固定賃料の安定性に加えて変動賃料のアップサイドポテンシャルからなる長期賃貸借契約であり、絶好のロケーションからも人気のSTOとなりました。

    発行するSTの口数は5,815口で総額は58億1,500万円の大型プロジェクトでしたが資金調達額の募集は無事完了。運用期間は約6年10ヵ月とのことで、話題性だけではなくどのような結末をたどるのか楽しみな事例です。

    まとめ

    本記事では不動産分野へのブロックチェーン導入可能性について解説しました。

    ブロックチェーンというと新技術としてとりあえず実証してみる、という企業も多かったですが、こと不動産分野においては個人情報や登記とブロックチェーンの耐改ざん性という相性の良さから本格的なビジネス導入も進んでいます。

    約50兆円という巨大マーケットにおいて、ブロックチェーンは未知の可能性を秘めています。不動産業界進化の起爆剤として、ブロックチェーンは大きく期待されることでしょう。新たなビジネスモデルの登場が待たれます。

    トレードログ株式会社は、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

    ビットコインETFとは?仕組みやメリットをわかりやすく解説!

    2024年1月、アメリカの規制当局がビットコイン現物ETFの承認を発表しました。この決定はデジタル資産業界においては画期的ともいえる内容であり、たちまちビットコイン市場全体が急騰する結果となりました。

    今回はそんな国内外から大注目を集めているビットコインETFについて、仕組みやメリットなどについてイチから解説していきます。

    ※本記事ではビットコインETFの基礎知識や時事ニュースに関連した情報掲載を行っておりますが、特定の銘柄推奨や投資活動の勧誘を目的とするものではありません。内容についても執筆者個人の見解であり、その正確性や信頼性を保証するものではありません。投資の最終判断は、ご自身で行っていただきますようお願いいたします。

    1. ついにSECがビットコイン現物ETFを初承認!
    2. ETFとは?
    3. ビットコインETFとは?
    4. ビットコイン現物ETFが実現すると何が変わる?
    5. ビットコインETFの注意点
    6. 日本でもビットコインETFに投資できるの?

    ついにSECがビットコイン現物ETFを初承認!

    出典:shutterstock

    米証券取引委員会(SEC)は2024年1月10日、暗号資産ビットコインについて、現物投資型の上場投資信託(ETF)の上場申請を承認したと発表しました。

    今回、SECが承認したのは、ブラックロック、アーク・インベストメンツ、21シェアーズ、フィデリティ、グレイスケールなどが申請した11のETF。一部の銘柄は早ければ1月11日から各証券取引所に上場し、取引が可能になるとしています。

    SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION (Release No. 34-99306; File Nos. SR-NYSEARCA-2021-90

    現物型ビットコインETFの承認は米国史上初のケースであり、時価総額約9000億ドル規模を誇る世界一のデジタル資産の新たな歴史の1ページとなる画期的な出来事といえるでしょう。

    年明けには、ビットコイン現物投資型ETFをSECが承認したという虚偽の投稿がSECの公式Xアカウントに一時表示されるなど、様々なハプニングがあった本件。ビットコイン(BTC)の価格変動に影響を与える多くの要素のなかでも、資金流入という面でとくに大きな意味を持つビットコインの現物ETFの承認は新年を賑わせるビッグニュースとなりました。

    SECとは?

    SECとは、「Securities and Exchange Commission」の略で、日本語では「証券取引委員会」と呼ばれています。投資家保護および公正な証券取引を目的として1934年に設立された連邦政府機関です。

    SECは投資家の保護と公正な市場を目的とし、株式や債券などの証券取引の監督・監視を行っています。証券の発行や流通といった証券市場を取り締まる規制について、絶大な権限を持っている機関です。

    日本でも証券取引等監視委員会が同様の役割を担っていますが、金融庁の傘下機関であり、違反者に対する処分権限のない機関です。 一方の SECは、インサイダー取引や相場操縦など不公正取引に対しての処分権限を有しており、司法に準じる権限を持った強力な独立機関となっています。

    アメリカは現在の金融市場、そして暗号資産の中心地として栄えています。そのため、多くのビットコインETFもまたアメリカの証券取引所への上場をターゲットにしてきました。ETFを金融市場に上場する場合は、その国の規制当局の承認を得る必要があるため、ビットコインETFを語るうえではSECの存在が非常に重要になっているというわけです。

    なぜいま、ビットコイン現物ETFが認められたのか?

    ビットコイン現物ETFを推進したい勢力とSECとの間には長い間、確執がありました。2013年に初期のビットコイン投資家として有名なウィンクルボス兄弟のビットコインETF申請を却下して以降、SECは10年余り「反対」の姿勢を取り続けてきました。

    長らく詐欺や市場操作などに悪用される可能性を否定できないという主張を続けてきたSECが、一転してビットコインETFを承認するに至ったのはなぜでしょうか?

    その答えは、米連邦控訴裁判所(連邦高裁)の現物ETFに対する判断にあります。

    資産運用会社のグレースケールは、GBTC(ビットコイン市場に連動した投資成果を追求する投資信託)のETF転換申請を認めなかったSECの決定を不服として連邦高裁へ提訴していました。そして、その判決が2023年8月に下されました。

    その内容は、グレースケールによる申請を棄却したSECの判断は誤りだというもの。SECが主張し続けてきた投資家を保護できないという却下理由は恣意的で気まぐれなものという認定を受けました。実は、先物でのビットコインETFはすでに実用化に至っており、この仕組みを流用すれば投資家保護には事足りるというグレースケールの主張が認められたのです。

    したがって、この判決によって合理的な仕組みやその説明さえあれば、SECとしては現物ETFを承認せざるを得なくなったというわけです。こうした背景があり、今回ようやくビットコイン現物ETFが承認に至りました。

    ETFとは?

    ビットコインETFについて見る前に、そもそもETFとはどういう仕組みなのか理解していきましょう。

    ETFは、「Exchange Traded Fund」の略で、日本語では「上場投資信託」あるいは「指数連動型上場投資信託」と表現されます。

    投資信託とは、投資家から集めたお金を一つの大きな資金としてまとめ、運用の専門家であるファンドマネージャーが株式や債券などに投資・運用する金融商品のことです。運用益は、分配金として投資額に応じて還元・分配される仕組みとなっています。

    指数連動型の投資信託(インデックスファンド)では、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)といった指数に連動した運用をします。ETFもインデックスファンドのようにある特定の指数に連動するように設計されており、なかでもとくに上場して証券取引所で売買される投資信託のことをETFいいます。

    ETFと株式、投資信託の違い
    出典:NEXT FUNDS

    ETFとインデックスファンドの最大の違いは、1日1回算出される基準価額で購入される非上場の投資信託とは異なり、ETFは証券取引所で取引されるため、株式と同様にリアルタイムで価格が変動し、注文や取引が可能になるという点です。

    つまり、投資信託は注文を出した時点では取引される価格が分からないのに対して、ETFでは取引したい価格で発注・売買することが可能です。

    ビットコインETFとは?

    出典:Unsplash

    ビットコインを主な投資対象とするETF

    ビットコインETFとは、価格がビットコインと連動するように設計された上場投資信託です

    ETFには、株式以外にも金(ゴールド)や不動産といったユニークな商品があります。そうした株式以外の銘柄が証券取引所に上場し、個人が取引しやすくなるという特徴があります。このETFの仕組みを活用し、安全で透明性の高いビットコインの取引を実現したのがビットコインETFというわけです。

    具体的な仕組みは上場申請されるビットコインETFの商品設計に依存しますが、基本的には金(ゴールド)に連動したETFと同様に、ビットコインの現物価格や先物価格に連動するように設計されています。

    現物ETFと先物ETFは何が違う?

    ビットコインETFは、ビットコインの先物価格に連動するか現物価格に連動するかによって、「先物型」と「現物型」に分けられます。

    アメリカでは2021年10月に承認されていた先物ETFとは、将来のあらかじめ定められた期日に、ビットコインを現時点で取り決めた価格で売買することを約束するETFのことで、現物取引とは異なる価格が形成されます。   

    たとえば、先物ETFでビットコインをある期日に10万円で購入することを決めておけば、期日までに相場が変動してビットコインの価格が上昇しようと下落しようと、支払う金額は10万円です。

    また、現物ETFでは基本的に取引金額の全額を取引時に用意しなければなりませんが、先物ETFでは取引時点で全額を用意する必要はなく、代わりに「証拠金」と呼ばれる担保を差し入れて取引を行います。

    今回、上場が承認された現物ETFは、実際のビットコインの市場価格と連動した形となります。そのため、ビットコイン価格の市場動向に直接影響を受ける要素が強くなります。

    また、現物取引となるため、手持ちの資金以上の取引や保有していない株式の売却はできません。したがって、投資金額以上の損失は発生しません。先物型のETFに比べ、リスクを抑えたい場合は現物型のETFへ投資するのが一般的です。

    ビットコイン現物ETFが実現すると何が変わる?

    出典:shutterstock

    ビットコイン投資のハードルが下がる

    通常、ビットコインを直接購入する場合には多くの予備知識が必要であり、ウォレットの管理なども自分でやらなければなりません。また、ビットコインでは株のようにストップ高やストップ安が存在しないため、価格の変動率(ボラティリティ)が高くなります。そのため、「ハイリスク・ハイリターン」の金融商品であり、初心者にはハードルが高いです。

    ETFであれば取引所で終日売買されるため、証券会社を通じて口座を開設するだけで簡単にビットコインETFに投資できます。その後の運用は投資の専門家がおこなうので、知識がなくても投資パフォーマンスを高められます

    信託報酬と呼ばれるサービス料が毎月差し引かれていきますが、投資に必要な金融・経済の知識を個人で身につけるのはとても難しいものです。極論、全く投資をしたことがない人でも安定した運用ができるという点は大きなメリットといえます。

    これにより、ビットコイン投資のハードルが引き下げられ、ビットコイン市場の流動性が向上する可能性があります。

    実際に、Security.orgが米国人1,500人を対象に実施した世論調査によると、現在仮想通貨を所有していない人の21%が、スポットビットコインETFが承認されれば投資する可能性が高まると回答しています。

    税制で有利になる

    ビットコインETFの利益にかかる税金の負担は、通常の仮想通貨投資よりも低いです。

    通常、ビットコインの利益は税金面で不利とされる「雑所得」に分類されます。雑所得は、総合課税(税率15〜55%)であり、累進課税により利益を上げるほど税金が高くなったりします

    また、ビットコインでは、売却時以外にも暗号資産を使って商品を購入したときや暗号資産を購入すると課税所得が発生するケースがあります。

    このように、ビットコインは他の投資手法と違って税金に関して特殊であるうえに、制限が多いことがネックとなっています。

    一方、ETFの利益は株や投資信託の所得と同様、「譲渡所得」として分類されるため、20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の税金となります。譲渡所得は申告分離課税の対象で税率が一定であるため、雑所得よりも優遇されています。

    資金の流入に期待できる

    上記2つのメリットの相乗効果によってビットコイン現物ETFの市場が活性化されれば、多額の資金が流入してきます。それに伴っておのずとビットコイン(BTC)の価格も上昇し、市場全体に良い影響を与えることになるでしょう。

    実際に様々な機関が同様の予測を立てています。英金融大手スタンダードチャータード銀行は8日、米国でビットコイン現物ETFが承認されれば、2024年に500億ドルから1,000億ドルの資金が流入、ビットコイン価格は2025年末までに20万ドルの水準まで上昇することが可能であると予想しています。

    Standard Chartered: BTC Could Hit $200K in 2025 With Spot Bitcoin ETF Approval

    また、暗号資産ファンドのギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)は10月のレポートで、ビットコインETFには発行初年度で少なくとも144億ドルの流入が見込まれると予想した。レポートでは「流入額は2年目までに270億ドル、3年目までに390億ドル増加する可能性がある」と指摘しています。

    Bitcoin Spot ETFs Could See Inflows of $14.4B in First Year, Galaxy Says

    さらに、Fundstrat Global Advisorsの著名アナリストであるトム・リー氏も1月10日、米CNBCの「Squawk Box」に出演し、米国でビットコイン現物ETFが上場することを前提に、ビットコイン(BTC)の価格は5年後までに50万ドルに到達しうるとの見方を示しています。

    Bitcoin could hit $150,000 in the next 12 months and half a million in 5 years: Fundstrat’s Tom Lee

    ビットコインETFの注意点

    出典:pixabay

    ビットコインETFには様々なメリットがあると紹介してきましたが、その反面、注意しなければいけない点もあります。なかでも投資という性質上、流動性不足・価格操作への懸念は切っても切れない関係にあるでしょう

    SECが指摘していた投資家保護が万全でないという点は単なる嫌がらせではありません。ビットコインは暗号資産のなかでは高い流動性を誇りますが、それでもなお価格変動が大きいボラティリティの高い金融商品です。投資のプロに運用を任せられるETFであるとはいえ、価格変動があまりにも大きいとその分、投資家のリスクにつながりかねないという問題は依然として残ります。

    そのためビットコインETFは、ボラティリティが大きいので価格下落リスクを踏まえたうえで慎重に投資判断を行う必要があります。

    さらに、暗号資産市場は詐欺的あるいは価格操作といった行為を排除しきれていません。顧客に商品を売買させるために取引業者が自己売買を繰り返す「仮装売買」や、売り手と買い手が通謀して売買を行うような「馴合売買」といった意図的に出来高を上げて売買が活発に行われているように見せかける動きには注意が必要です。

    SECの委員長を務めるゲイリー・ゲンスラー氏も今回の解禁を受け、SEC公式サイト上で声明を発表。「主に投機的で価格変動の大きな資産であり、ランサムウェア、マネーロンダリング、制裁回避、テロ資金調達などの非合法活動にも使われている」と警鐘を鳴らしています。

    SEC.gov | Statement on the Approval of Spot Bitcoin Exchange-Traded Products

    日本でもビットコインETFに投資できるの?

    アメリカで承認されたビットコイン現物ETFですが、日本のマーケットでは、2024年1月時点でビットコインETFの取り扱いはありません。しかし今後、日本でビットコインETFが承認される可能性は十分にあります。

    そもそも、日本の証券会社において暗号資産を用いた金融商品は現時点では開発できません。これは、暗号資産が投資信託法施行令3条の「特定資産」に含まれていないからです。特定資産でなければ投資信託に組み入れられず、証券会社各社は国内ETFを組成できないということになります。

    また、外国のETFであっても国内の証券会社が国内の顧客を対象に商品を販売する際には、その外国のETFに関する投資信託約款等を金融庁に対して届け出たうえで外国投資信託として認定される必要があります。

    「外国投信」の定義は「投資信託に類するもの」とされており(投資信託法2条24項)、日本の特定資産に含まれないビットコインを組み入れた米国ETFが外国投信として認められるのはハードルが高いのではないか、というのが一般的な見解です。

    アメリカでビットコインETFが承認されたというニュースが大々的に報じられると税制や購入方法などを知りたくなりますが、日本でもすぐに承認されるというわけではなさそうです。

    まとめ

    本記事ではビットコインETFについてまとめました。

    アメリカの規制当局がビットコイン現物ETFを認めたというのは、間違いなく暗号資産の将来的なあり方に大きく関わってくるでしょう。

    日本においては暗号資産がまだまだ市場に浸透しているとはいい難い状況のうえ、上述のように日本国内では認可を受けておらず、買うことができません。

    しかし、今回のSECの発表が金融庁の判断に影響を与える可能性もあります。今後、日本独自のビットコインETFが組成されることや、海外で承認されているビットコインETFが日本国内の証券会社で取り扱われることが待たれます。

    令和6年能登半島地震を受けて仮想通貨で寄付できる募金先が誕生。新たな被災地支援の形とは?

    コラムタイトル

    はじめに、2024(令和6)年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」により亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、ご遺族の皆様にお悔やみを申し上げます。また、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

    石川県で最大震度7を観測した能登半島地震では1月10日時点で200人を超える死者が出ており、行方不明者も数多く確認されています。生活インフラにも甚大な被害を与え、避難生活を余儀なくされる方も大勢おり、さらには二次災害による被害も報告されています。

    こうした予断を許さない状況のなか、Web3.0の視点では従来では実現できなかった新たな被災地支援の形が誕生しています。それが、仮想通貨による募金です。

    本記事では「仮想通貨による募金とは一体どのようなものなのか」「令和6年能登半島地震の募金先は何があるのか」などについてまとめました。

    1. 元日の能登半島を激しい揺れと津波が襲う
    2. 令和6年能登半島地震に関する募金プロジェクトが立ち上がる
    3. 仮想通貨による募金のメリット
    4. 仮想通貨による募金の注意点
    5. 令和6年能登半島地震の仮想通貨による募金プロジェクト事例
    6. まとめ

    元日の能登半島を激しい揺れと津波が襲う

    2024年1月1日、石川県能登半島で震度7の揺れを観測した地震が発生しました。大きな揺れに伴う家屋の倒壊や、大規模な火災により多くの犠牲者が出ており、発生から1週間以上経った現在もなお、救出活動が続いています。

    震源となった石川県では、ほぼ市内全域で断水が起きている市や大規模停電といったインフラへのダメージも深刻であり、避難所での避難生活を余儀なくされている被災者の方たちも多数います。

    また、地震による被害は震源地の石川県だけではなく、新潟県や富山県でも大きな被害が報告されています。

    令和6年能登半島地震に関する募金プロジェクトが立ち上がる

    出典:shutterstock

    オンライン化が進む募金活動

    甚大な被害をもたらした今回の令和6年能登半島地震を受け、市区町村やボランティア団体など様々な団体が街頭に立って募金活動をおこなう姿が報道されています。

    通勤や通学の際に駅前で募金を呼びかけているのを見たという人も多いのではないでしょうか?

    一方、今回の募金活動ではこうした従来型の募金に加えて、オンラインによって全国的に多額の寄付金を受け付けている団体も多く見られます。

    日本赤十字社では、「令和6年能登半島地震災害義援金」を実施しており、ゆうちょ銀行や郵便局からの募金を受け付けています。集まった義援金は被災地の生活支援のために被災都道府県が設置する義援金配分委員会へ全額が送金される仕組みとなっており、寄付先には「被災地全域への寄付(日赤本社開設口座)」と「地域を限定しての寄付(日赤支部開設口座)」の二種類が用意されています。

    LINEヤフーも地震発生当日の1日からYahoo!基金において、「令和6年能登半島地震 緊急支援募金」を実施しています。クレジットカードもしくはTポイントを使った寄付が可能となっており、1月10日時点で15億円以上の寄付金が集まっています。

    フリマアプリ大手のメルカリは、2日から令和6年能登半島地震による被災地の支援を「メルカリ寄付」機能で受付開始しました。メルカリ寄付は、メルカリの売上金から寄付できる機能で、日本財団への寄付を通じて、生活のパイプとなるインフラが機能しなくなったり、住居を失うなどして、避難生活を余儀なくされた人への支援をおこなっています。

    このように、インターネットが発達した現代では、街頭募金や募金箱が中心だった時代から、クラウドファンディング、クレジットカード決済、SNSといった寄付のオンライン化が進んでいます。

    仮想通貨による募金も

    そのような状況のなか、新たな募金の形として注目を集めている仮想通貨による募金プロジェクトも立ち上がっています(各プロジェクトはコラム後半で紹介しています)。

    仮想通貨とは財産的価値を有し、銀行などの第三者を介さずにインターネット上で取引できる「データ資産」のことです。有名な銘柄では「ビットコイン」や「イーサリアム」などが挙げられ、販売所や取引所などの事業者を通して入手、あるいは円やドル、ユーロ、ウォンなどの法定通貨と換金が可能です。

    仮想通貨は公開鍵暗号方式ハッシュ関数などの暗号技術を利用することで安全性を確保しています。おこなわれた取引はブロックという単位にまとめられ、一定のルールに基づいて一つ前のブロックから新たなブロックが生成されて、鎖状につながっていきます。

    このブロックチェーンと呼ばれる技術はほとんどの仮想通貨で用いられており、ブロックチェーン上に保存されているすべての取引データは公開・共有される仕組みとなっています。

    法定通貨ではないことや価値の変動が多いことなどから、少し前までは「怪しい投資話」のイメージも強かった仮想通貨ですが、現在では法律やマーケットも整備され、利活用できるサービスも充実しつつあります。

    仮想通貨による募金は後述するような、従来の募金では成し得なかったスムーズな送金や透明性の確保などが実現しています。「仮想通貨なんて周りでやってる人もいないし、大した募金にならないんじゃないの?」と思う方もいるかも知れません。実際に、仮想通貨決済企業TripleAによると、日本では総人口のわずか4%相当の500万人程度しか仮想通貨を保有していないと推定されています。

    しかし、保有者がまだ少ないからといって仮想通貨による募金が効果的でないと断定するのは早計です。2022年2月に起きたウクライナ侵攻の際には、法定通貨のみならず仮想通貨による資金援助が世界中から相次ぎました。

    CoinDeskによると、その額はわずか3ヶ月あまりで1億3500万ドル(約182億円)以上。法定通貨による寄付の5億7900万ドル(約782億円)には及びませんでしたが、史上最大規模の募金結果に世界中が驚きの声を上げました。

    世界の共通通貨ともいえる仮想通貨は国家の垣根を超えて募金が可能であり、今後ますますスタンダードになっていくものと考えられます。

    仮想通貨による募金のメリット

    出典:shutterstock

    募金の使い道が明らかになる

    残念ながら、災害直後の緊急募金などでは混乱に乗じた募金詐欺が横行しがちです。募金という名目で資金を集めておきながら、実際には被災地支援をすることもなくプロジェクトごと立ち消えてしまうという善意につけこんだ卑劣な犯罪です。

    また、健全な組織が運営していたとしてもその使い道や手数料の割合などは詳らかにされることは少なく、募金した後の資金の行方には目が向けられていないケースも多々あります。

    募金ではなく寄付の事例ですが、ふるさと納税においても寄付金の10%を超える部分が外部事業者への手数料などになっていたことが問題視されました。

    ふるさと納税、一番得をしているのは誰? 寄付額の2割以上は業者に…「5割ルール」徹底で何が起きるか:東京新聞 TOKYO Web

    こうした問題は、寄付されたお金の流れが可視化されていないことに起因する問題です。お金の流れがブラックボックスであるが故に横領などが横行しがちな募金の使い道に対しても仮想通貨が効果を発揮します。

    パブリック型ブロックチェーンにおける仮想通貨での取引(トランザクション)は基本的にすべてのユーザーが閲覧できる仕組みになっています。これは、ブロックチェーンを用いて当事者以外にも情報を分散して管理することで、データの改ざんや消失を防ぐためです。

    そのため、ブロックチェーンによる募金であれば、寄付した金額がきちんと相手のもとに届いたかどうかがはっきりわかります。寄付金の使用用途や着金先が明確になることで、募金活動とその使い道に透明性をもたらすことができます。

    社会全体としてもこうした仕組みを導入していくことで、使途不明の怪しい募金プロジェクトは淘汰され、寄附者が安心して募金できる土壌を育成できるでしょう。

    手数料が安い

    通常、銀行などの金融機関を介して募金をする際には当然ですが手数料が発生します。寄附者である私たちが支払わない場合でも、NPO団体などがカード決済手数料などを負担しなければいけないケースもあります。

    また、無料送金を実施している金融機関でも、一定の条件を満たさなければいけない場合があります。たとえば、ゆうちょ銀行では被災者に対する救援活動を支援するため、ゆうちょ銀行・郵便局の貯金窓口およびゆうちょ通帳アプリにおいて災害義援金の無料送金サービスを実施しています。しかし、ATMからの通常払込みには、手数料が発生してしまいます。

    義援金送付-ゆうちょ銀行

    こうした問題に対して、仮想通貨による募金をおこなうことで、手数料による実際の支援金額の目減りを改善できる可能性があります。

    たとえばビットコインであれば、一度の送金で数十円程度の手数料(マイニングに対する報酬)がかかるのみであり、国内のみならず海外であっても為替手数料を支払う必要はなく、着金に時間もかかりません。

    また、仮想通貨を法定通貨に替えるには仮想通貨取引所を利用する必要がありますが、その際の手数料もクレジットカード会社の送金手数料に比べても格安であり、使い勝手にも不自由ありません。

    リアルタイムに送金可能

    従来の募金の仕組みでは、一度集金をおこなってから計画に応じて資金を分配していきます。

    しかし、仲介となる組織が介入することで、実際に援助を必要としている地域に募金が届くまでの若干のタイムラグが生じてしまいます。

    また、募金を立ち上げる際にも「何に対する募金なのか」「実際の被害地域はどこなのか」「どの団体に振り込むのか」など様々な基準に照らし合わせた審査をする必要があります。これは、寄附者が安心して募金できるために必要なことではありますが、被災者や支援団体は一刻も早い資金援助が必要としているというジレンマもあります。

    仮想通貨による募金であれば、ウォレットからウォレットに対して即時送金が可能です。組織や団体を仲介することがないため、金融機関の営業時間や被災地の金融機関の被害状況に関わらずスピーディーな送金が可能です。とくに海外への寄付においては、入金から着金まで大きなタイムロスが生じることも多いため、仮想通貨によるシームレスな募金がさらに有効となるでしょう。

    前述の通り、資金の使い道に関してもトランザクション履歴を確認できるため、審査に必要な時間も最低限で済みます。被災者が困っているまさにその瞬間を助けるための支援が、仮想通貨の募金で実現できるのです。

    仮想通貨による募金の注意点

    出典:shutterstock

    仮想通貨による募金で最も注意しなければならないのが、アドレスの間違いです。最先端の募金方法の注意点としてはなんともアナログですが、誤送金など自らのミスにより仮想通貨を失う「セルフGOX」は仮想通貨による決済の落とし穴となっています。

    中央管理者が存在しないブロックチェーンでは、一度ブロックチェーンに取引が記録されてしまうと、その記録を書き換えることはできません。仮想通貨取引所であっても処理を変更する権限を持っていないため、誤送金先と直接、返金の交渉をしなければなりません。

    また、送金ミスの内容次第では誤送した仮想通貨をどうしても取り戻せないケースがあります。それは、「異なる仮想通貨アドレスへの送金」と「所有者がいないアドレスへの送金」です。

    まず「異なる仮想通貨アドレスへの送金」のケースについて説明します。

    暗号資産のアドレスは、それぞれの種類で固有のアドレスが割り振られているため、他の暗号資産のアドレスへ送金しようとすると基本的にはエラーが発生します。

    しかし、ビットコイン(BTC)とビットコインキャッシュ(BHC)、イーサリアム(ETH)とイーサリアムクラシック(ETC)などアドレス形式が似ている場合にはエラーを検知できず、送金が完了してしまうケースがあります。

    このケースの場合、暗号資産が消滅してしまうため、取り戻すことが出来なくなってしまいます。

    次に「所有者がいないアドレスへの送金」のケースについてです。

    世の中には、秘密鍵を忘れてログインできなくなったウォレットがたくさんあります。従来型の送金方法であれば、パスワードを忘れてしまった場合でも銀行などに問い合わせて再発行してもらうことができますが、仮想通貨には管理者がいないため、ウォレットを復旧することは難しいです。

    そのような背景もあり、ブロックチェーンの世界では誰もログインできなくなってしまった所有者不明のアドレスが数多く残っています。こういったウォレットに送金してしまうと、誰も手をつけられない状態となってしまい、取り戻せる可能性はなくなってしまいます。

    こうした送金ミスが原因で仮想通貨を失わないように、送金先アドレスの確認は慎重におこなうことをオススメします。

    令和6年能登半島地震の仮想通貨による募金プロジェクト事例

    Oasys

    出典:Oasys公式X

    ゲーム特化のブロックチェーンプロジェクトであるOasysでは能登半島地震への災害支援募金をおこなっています。

    Oasysは2022年に発足の比較的新しいプロジェクトですが、 日本発であることや数多の有名企業がバリデータとして参加していることから現在、大注目のプラットフォームの一つとなっています。

    バリデータの一例としては、bitFlyerやAstar Networkなどの暗号資産関連の企業に加えて、バンダイナムコ研究所やSEGAやSQUARE ENIXといった仮想通貨に縁のない人でも聞いたことがあるであろう有名ゲーム企業が名を連ねています。

    今回の支援募金では、$OAS (Oasys)、$ETH (Ethereum, Polygon)、$BTC (Bitcoin) を対象通貨としており、gas代や税金を除く全額を能登半島地震による救援復興活動に活用するとのことです。

    Astar Network × Startale Labs

    出典:Astar Network Japan公式X

    Astar Networkは、日本人起業家の渡辺 創太氏が率いるStake Technolosies株式会社が開発したブロックチェーンプラットフォームです。

    日本発のブロックチェーンとして異なるチェーンを相互接続できるPolkadot(ポルカドット)のハブとして活動しており、WEB3.0の実現やWEB3.0の基幹インフラを目指して取り組んでいます。2021年12月には、世界で3番目にPolkadotのパラチェーンと接続を完了させ、本格的に稼働を開始しました。

    そんな大注目チェーンのAstar Networkでは、同じく渡辺氏が設立したStatale Labsと共同で令和6年能登半島地震に対する災害支援募金を発表しています。

    対応通貨は募金立ち上げ時点で$ASTRのみとなっていますが、ASTRは時価総額約1000億円(執筆1月10日時点)を超える人気銘柄。世界中からのスピーディーな寄付に期待できます。

    出典:MINKABU 暗号資産(仮想通貨) リアルタイムレート(2024/01/10) 

    Web3 pray for Japan

    出典:Palette 公式X

    株式会社HashPaletteが開発した「PaletteChain」による「Web3 pray for Japan」では、複数のブロックチェーンプロジェクトが協力して仮想通貨による募金活動をおこなっています。

    参加を表明しているブロックチェーンはPalette(PLT)、TRON(TRX)、Cardano(ADA)、Polygon(MATIC)、Neo(NEO)、Qtum(QTUM)、Mask Network(MASK)、IOST(IOST)の計8つです。

    各プロジェクトが自社のネイティブトークンを用いた寄付窓口を設置しており、このキャンペーンで集まった資金は、手数料や税金を除く全額を日本円に換算したうえで赤い羽根共同募金の「令和6年能登半島地震への義援金(仮)」に寄付されるとのこと。

    寄付の結果は、後日HashPaletteの公式ウェブサイトで公開される予定となっています。

    まとめ

    本記事では令和6年能登半島地震に対する仮想通貨を用いた募金プロジェクトについてまとめました。

    募金にブロックチェーンを活用することで、さらなる透明性やスムーズな送金が実現できるようになり、被災地の喫緊の課題に合わせた資金集めに役立つことでしょう。とくに、法定通貨では時間や手数料のロスが多い海外からの金銭的支援が活発になることが期待されます。

    新たな支援の形を実現するWeb3プロジェクトに注目するとともに、被災地の一日も早い復興を心より祈念いたします。