日本では現在、脱炭素社会の実現に向けてさまざまな取り組みが行われています。中でも、大気中のCO2排出量の増加を抑える画期的な技術として、「メタネーション」に大きな関心が寄せられています。本記事ではメタネーションの仕組みや注目される理由、メリット・デメリットや関連企業の取り組みもご紹介します。
メタネーションとは?
メタネーションとは、二酸化炭素(CO₂)と水素(H₂)を化学反応させてメタン(CH₄)を生成する技術です。この技術は、1911年にフランスの化学者ポール・サバティエ氏が発見した「サバティエ反応」を基盤としており、生成されたメタンを燃焼しても大気中の二酸化炭素濃度を増加させない「カーボンニュートラル」を実現できるという点で注目を集めています。
メタンは日常生活でなかなか耳にすることがない物質ですが、私たちが普段使っている都市ガスの主成分はメタンです。また、メタンを多量に含む天然ガスは火力発電の燃料にも用いられており、社会インフラを支える貴重なエネルギー源だと言い換えることもできるでしょう。
しかし、同時にメタンは、それ自体が二酸化炭素に次いで地球温暖化に及ぼす影響が大きい温室効果ガス(GHG)であり、使用時(燃焼時)には二酸化炭素を発生させてしまいます。そのため、全世界的な動きとしてはメタンは「削減すべき物質」として認知されており、COP26においては、2030年までに世界全体の排出量を2020年比で30%削減することを目標に、国際的な枠組みである「グローバル・メタン・プレッジ」が発足しています。
このような情勢を踏まえると、メタネーションは現代社会の潮流に逆行していると感じる方もいるかもしれませんが、メタネーションは原料として二酸化炭素を利用しているため、生成したメタンを燃焼したときに排出される二酸化炭素量は生成に利用した二酸化炭素と相殺され、新規の二酸化炭素排出量を実質ゼロでエネルギー源を創出できるのです。
特に、再生可能エネルギー由来の水素、いわゆる「グリーン水素」を利用して生成されたメタンは「e-methane」と呼ばれ、非化石エネルギー源から製造されることから環境負荷をさらに低減することが可能です。
したがって、メタネーション技術は温室効果ガスの削減やエネルギーの脱炭素化を進めるうえで欠かせない要素であり、近年では企業のみならず、各国政府などでもその活用が議論される極めて重要な技術となっています。
メタネーションの仕組み

ここからはメタネーションの仕組みについて見ていきましょう。前述したメタネーションの基盤となるサバティエ反応では、300〜400℃という高温と1〜10MPaの高圧という分子の運動エネルギーが増している環境下で水素と二酸化炭素を結びつけることで、以下のような反応を引き起こします。
CO₂ + 4H₂ → CH₄ + 2H₂O
通常、メタンは生物の死骸が地下に堆積し、長い年月をかけて圧縮されながら地熱によって熱分解されることで発生するものとされていますが、メタネーションではそのような現象を人工的に再現し、短期間で効率的にメタンを生産しています。
現在、メタネーション技術の研究開発は活発に行われており、サバティエ反応を活性化させる触媒(ニッケルやルテニウム)の性能向上や温度や圧力を制御する反応器の改良、詳しくは後述しますが、メタネーションとその他のテクノロジーを組み合わせた革新的メタネーション技術の導入が検討されています。
これらの技術革新が進めば、メタネーションはよりコスト効率が高く、実用性のある技術となる可能性が高まります。特に、エネルギー分野での脱炭素化が求められる現代において、メタネーションは再生可能エネルギーを補完する画期的な技術として大きな期待を集めています。
メタネーションが注目される理由
メタネーションは、エネルギー分野における脱炭素化や温室効果ガスの削減を推進する画期的な技術として注目を集めています。その理由は、技術的進化と政策的な後押しの両面から説明することができます。
革新的メタネーション技術の登場
メタネーション技術の進化は、いくつかの革新的なアプローチによって支えられています。その中でも「ハイブリッドサバティエ技術」「PEMCO₂還元技術」「バイオリアクター技術」、そして「SOEC(固体酸化物形電解セル)」を用いた技術が注目されています。これらはそれぞれ独自の特長を持ち、メタネーションの効率向上やコスト削減に寄与しています。
e-methaneの取り組み」
ハイブリッドサバティエ技術は、水電解とサバティエ反応を一体化したシステムで、高効率なメタネーションを実現します。この技術では、水電解セルと低温対応のサバティエ反応器を接合させ、サバティエ反応で発生する熱を水電解に利用します。通常のサバティエ反応は約300〜400℃で起こるため、発生する熱の再利用が難しいという課題がありましたが、触媒の改良により200℃以下で反応が進むようになり、熱を水電解に還元できるようになりました。
これにより、水電解の外部電力の使用を抑え、エネルギー効率を理論上80%まで高めることが可能になっています。また、これらのプロセスを一体化することで配管や貯蔵設備の簡略化が可能になり、コスト削減にもつながります。この技術は、もともと宇宙航空研究開発機構(JAXA)が有人宇宙ミッション向けの空気再生技術として研究してきたものを応用しています。
e-methaneの取り組み」
また、PEMCO₂還元技術は、固体高分子膜(PEM)を利用し、水とCO₂を直接反応させてメタンを生成する技術です。従来のサバティエ反応を必要とせず、単一の装置でメタンを合成できるため、設備の簡素化とコスト低減が実現します。反応温度も100℃以下で運用可能なため、大型化に伴う熱管理の問題も発生しません。しかし、この技術では運転条件や触媒の性能によって副生成物が生じる可能性があるため、メタンを優先的に生成する選択性の高い触媒の開発が求められています。
e-メタンのコスト削減に向けた挑戦」
さらにバイオリアクター技術では、微生物、特にメタン菌の代謝を利用してCO₂からメタンを生成します。発酵食品や醸造食品の製造にも使用される技術を応用したもので、低コストで大規模化が容易という利点があります。ただし、メタン菌の代謝速度が遅いため、生産効率の向上が重要な課題となっています。この技術は、微生物を活用することで自然由来のアプローチを取り入れた、ユニークな特色を持っています。
出典:Daigasグループ「世界最高レベルのエネルギー変換効率を目指すSOECメタネーション」
近年、開発が進むSOEC(固体酸化物形電解セル)技術は、水蒸気とCO₂を高温(700~800℃)で電気分解して水素と一酸化炭素を生成し、触媒作用でメタンを合成する手法です。電気ポットでお湯を沸かす際に、あらかじめ水温を上げておけば沸騰までの時間が短縮されて消費電力が少なくなるのと同様に、高温電解に必要な熱エネルギーはメタン生成時に発生する熱を有効活用するため、エネルギー変換効率がとても高いことが特徴です。
また、外部から水素を供給する必要もないことからコスト削減の面でも優れており、メタンの製造コストの大部分を占める①電気分解における電気代②原料となる水素の調達コストという2つのポイントに作用してメタンをより安く生産できる画期的な技術として注目されています。
これらの技術はそれぞれ異なる課題に応える形で開発されており、メタネーションが抱えるエネルギー効率やコストの課題を克服する鍵として、技術の実用化と普及を後押しする重要な要素だといえるでしょう。
国がメタネーションを重要分野として位置付けている
メタネーションが注目される背景には、エネルギー政策や温室効果ガス削減に向けた政府の具体的な取り組みが大きく影響しています。日本政府は2050年のカーボンニュートラル達成を目標に掲げており、この実現に向けた戦略の中核にメタネーションが位置付けられています。
2021年に策定された「グリーン成長戦略」では、脱炭素社会の実現を目指し、メタネーションを含む複数の革新的技術の研究開発や実証事業への支援を打ち出しました。具体的には、水素社会の構築におけるメタネーションの役割が強調されており、再生可能エネルギーを活用したCO₂の資源化やエネルギー効率の向上が重要な柱として、2030年までに温室効果ガスの排出を2013年比で46%削減し、さらに50%削減に挑戦するという中期目標が掲げられています。
政府もこの目標達成を後押しするため、産学官連携の研究プロジェクトや、企業の技術開発に対する補助金の提供を積極的に行っています。例えば、総額2兆円規模のグリーンイノベーション基金を創設し、この資金を通じて、メタネーション技術の効率化やコスト削減を目的としたプロジェクトが進められています。また、地域ごとの特性を活かした地産地消型のエネルギー供給モデルの実証も行われており、メタネーション技術の普及に向けた取り組みが広がっています。
さらに、メタネーションは国際的な枠組みの中でも重要視されています。日本は、パリ協定やCOP(気候変動枠組条約締約国会議)の目標に基づき、他国と連携しながら脱炭素化技術の開発を推進しており、技術協力や共同研究プロジェクトを通じて、メタネーションの国際的な普及を目指しています。このような国際的な取り組みは、日本が技術先進国としての地位を維持しつつ、気候変動対策におけるリーダーシップを発揮するための重要なステップとなっています。
政策支援と技術開発の相互作用により、メタネーションは単なる研究開発段階の技術にとどまらず、エネルギー転換や温室効果ガス削減を支える基盤技術として成長しつつあります。その普及が進むことで、再生可能エネルギーの有効活用や脱炭素社会の実現がより現実的なものとなるでしょう。
メタネーションを推進するメリット
メタネーションには、地球温暖化対策への貢献、日本の産業競争力強化、既存インフラの有効活用など、様々なメリットがあり、 これらを推進することで、持続可能な社会の実現に大きく貢献できる可能性を秘めているのです。順番に解説します。
各種GHGの目標の達成に役立つ
メタネーションは、国際的な枠組みであるパリ協定、日本が掲げる2050年カーボンニュートラル目標、さらにCOP26で採択された「グローバル・メタン・プレッジ」など、主要な国際目標の達成において重要な役割を果たす技術とされています。
これらの目標を実現するためには、温室効果ガス(GHG)を削減するだけでなく、排出されたCO₂を有効活用し、資源として再循環させる仕組みが求められています。特に、CO₂排出量が多い産業分野では、メタネーションにより排出された二酸化炭素を回収してメタンへ変換することで、産業全体のカーボンフットプリントを削減することが可能です。このような取り組みは、経済活動の脱炭素化を推進すると同時に、国際的な目標への具体的な貢献につながります。
さらに、こうした国家規模の効果に加え、企業レベルでもメタネーションの活用は大きな意義を持ちます。近年、ESG投資の注目が高まる中、企業は環境への取り組みを積極的に示すことで、投資家や顧客からの信頼を得る必要があります。メタネーションは、環境規制への対応とともに、非財務目標の達成に向けた効果的な手段として活用されるでしょう。これにより、持続可能な社会の実現と企業価値の向上が期待されています。
環境技術産業における日本の優位性を構築できる

メタネーションは、日本が世界に誇る技術力を活かせる、大きな可能性を秘めた技術です。 実は、世界に先駆けて再生可能エネルギーを使ったメタン合成に成功したのは、東北大学の橋本功二氏らと日立造船という日本の研究グループです。 日本は様々な環境技術分野で常に先進的な役割を果たしてきた歴史があり、メタネーションにおいても優れた日本の技術力によって世界をリードする可能性を秘めています。
また、メタネーションはCO₂削減や再生可能エネルギーの有効活用だけでなく、様々な産業への波及効果も期待できます。 メタネーション技術の開発、プラントの建設、そして運用に至るまで、多くの企業が関わり、新たな雇用が生まれることが期待されます。 地域経済の活性化はもちろん、日本の経済全体を押し上げる力となる可能性も秘めているのです。
そして、忘れてはならないのが、日本の誇る高度な安全技術です。 メタネーションプラントの建設・運用においても、日本の高い安全基準を適用することで、世界トップレベルの信頼性を確保できるでしょう。
国内で生成したメタンを利用することで、海外からの天然ガス輸入への依存度を減らし、エネルギー安全保障の強化にもつながります。日本のエネルギー政策において、再生可能エネルギーと組み合わせたメタネーションは、日本が環境技術分野で国際的な競争力を維持・強化し、持続可能な社会の実現に向けて世界をリードしていくための、まさに「切り札」となり得る技術なのです。
既存インフラで供給可能
メタネーションの最大のメリットは、既存のエネルギーインフラをそのまま活用できる点にあります。都市ガスやLNGの主成分であるメタンを生成するため、新たなパイプラインを建設する必要がなく、既存のガス供給網を通じてスムーズに家庭や企業にエネルギーを届けることができるのです。この利点は、メタネーションの普及を加速させ、コスト削減にも大きく貢献する要素だといえるでしょう。
特に、日本の都市ガス導管は、高い信頼性を誇ります。地中に埋設されているため、台風や豪雨などの自然災害の影響を受けにくく、地震にも強い設計となっています。仮に大規模な地震が発生し、安全確保のためにガス供給が一時的に停止されたとしても、全国のガス事業者が連携した復旧体制によって、迅速な供給再開が可能です。
さらに、メタネーションは再生可能エネルギーの有効活用にも一役買います。太陽光や風力といった、天候に左右される再生可能エネルギーで発電した電力を使って水素を生成し、それをメタンに変換・貯蔵することで、エネルギーを安定的に供給することが可能になるのです。
このように、既存のインフラと再生可能エネルギーを効率的に活用できるメタネーションは、日本のエネルギー政策の基本方針である「3E」(エネルギー安全保障、経済効率性、環境適合)のすべてを満たす、まさに理想的な技術といえるでしょう。脱炭素社会の実現に向けて、メタネーションは、持続可能なエネルギーシステムを構築するための重要な鍵を握っているのです。
メタネーションが抱えている課題
メタネーションは、次世代のエネルギー技術として期待されていますが、実用化に向けて克服すべき課題も抱えています。 地球温暖化対策の切り札として期待されるメタネーションですが、その普及には、コスト、設備、制度、技術など、様々な課題を解決していく必要があります。順番に解説します。
生産コストが高い
向けた課題は?」
メタネーション技術の普及を阻む最大の壁の一つが、その高い生産コストです。現状では、従来の天然ガスと比べて、メタネーションで生成されるメタンは非常に高価なものとなっています。試算によっては、ウクライナ侵攻以前のLNG価格と比較しても約3倍のコストがかかるとされており、この価格差がメタネーションの普及を妨げる大きな要因となっています。
コスト増加の主な要因は、まず水素の製造コストです。特に、再生可能エネルギーを用いて製造するグリーン水素は、発電コストや電力消費量が大きいため、製造コストが高騰してしまいます。加えて、工場などの排ガスからCO2を分離・回収する際にも、CO2濃度によっては効率が低下し、コストがかさんでしまうという問題も抱えています。
また、メタネーションに不可欠な触媒も、コスト増加の一因となっています。ニッケルやルテニウムなどの高価な原料を使用する触媒は、製造コストが高く、寿命も限られているため、定期的な交換が必要です。触媒の性能向上や長寿命化に向けた研究開発は進められていますが、コスト削減効果が現れるまでにはまだ時間がかかるでしょう。
さらに、メタネーションプラントの建設には莫大な初期投資が必要となります。プラントの設計・建設・運営には多額の費用がかかり、商業規模での導入となると、資金調達が大きな課題となります。
これらの課題を克服し、メタネーションのコストを削減するためには、技術開発や設備の効率化が不可欠です。触媒の耐久性向上や反応効率の改善、プラントの大量生産によるスケールメリットの追求はもちろん、再エネの発電量が多い海外でのメタネーション実施も有効な手段として考えられるでしょう。
生成設備を大規模化する必要がある
メタネーションを本格的に普及させ、エネルギー供給を安定させるには、合成メタン生成設備の大規模化が欠かせません。 実証実験レベルでは1時間あたり数十~数百N㎥の合成メタン生成が可能ですが、商用化となると、1時間あたり1万~6万N㎥の生成能力を持つ設備が必要になります。
例えば、フランスのガス事業者が2018年から進めている「Jupiter1000プロジェクト」では、再生可能エネルギー由来の水素と工業地帯から排出されたCO₂を使って合成メタンを生成し、既存のガス導管への注入に成功しています。これは技術的な実現可能性を示す好例ですが、現状の規模では1時間あたり25Nm3と、需要を満たすにはほど遠く、さらなるスケールアップが求められています。
しかし、設備を大規模化するには、いくつかの課題をクリアする必要があります。
まず第一に、広大な用地の確保です。メタネーション設備は、反応器、水電解装置、CO₂分離・回収設備、熱管理設備など、様々な大型施設で構成されます。都市部や産業地帯では、土地利用の制約が厳しく、適した場所を見つけるのは容易ではありません。発電施設や排ガス発生源との連携も考慮する必要があり、用地選定は複雑な条件下で行わなければなりません。
次に、運転・管理の複雑化という問題があります。規模が大きくなればなるほど、触媒の劣化、設備の熱管理、トラブル対応など、様々な課題が発生し、メンテナンスの負担や運用コストが増加してしまいます。これを解決するには、設備設計の最適化や自動化技術の導入が重要になります。IoTやAIを活用し、設備の状態をリアルタイムで監視することで、効率的な運用が可能になるでしょう。
さらに、再生可能エネルギー由来の水素を使う場合は、エネルギー供給の安定性も課題となります。風力や太陽光は発電量が変動するため、安定した水素供給には、水素貯蔵技術やバックアップ電源の確保が欠かせません。
このように、メタネーション設備の大規模化には、用地の確保、設備設計、運転管理、エネルギー供給など、様々な課題を解決する必要があります。しかし、これらの課題を克服し、大規模化を実現できれば、コスト削減や市場競争力の向上など、大きなメリットが期待できます。したがって、メタネーション技術の大規模化は、脱炭素社会の実現を大きく左右する重要なファクターとなるでしょう。
メタネーションでの活用が期待される技術
メタネーションは、それ自体が画期的な技術ですが、他の先進技術と組み合わせることで、さらにその可能性を広げ、脱炭素社会の実現を加速させることができます。ここでは、メタネーションとの相乗効果が期待される、2つの注目技術をご紹介します。
DAC(Direct Air Capture)
DACとは、その名の通り、大気中から直接CO2を回収する技術です。私たちが呼吸する空気には、実は約0.04%のCO2が含まれています。DACは、このわずかなCO2を、特殊なフィルターを使って直接回収する技術です。
基本的な原理は、「ファンなどを使って周囲の空気を取り込み、装置内に設置された特殊なフィルターにCO2を吸着させ、フィルターに吸着されたCO2を加熱したり圧力を変化させたりすることで分離し、濃縮・貯蔵する」というものです。
こうして回収されたCO2をメタネーションの原料として利用することで、CO2の調達ルートが多様化するというメリットがあります。従来のメタネーションでは、工場や発電所など、CO2を大量に排出する施設からCO2を回収して利用するのが一般的でした。しかし、DACを活用すれば、大気中からもCO2を調達できるようになり、CO2排出源の近くに限定されずにより自由な場所にメタネーションプラントを建設することが可能になります。
さらに、DACで回収したCO2は、工場などから排出されるCO2に比べて不純物が少ないため、より高純度なメタンを生成できるという利点もあります。これは、生成されたメタンの品質向上に繋がり、燃料としての価値を高めることに貢献します。
ブロックチェーン
ブロックチェーンは、データを安全に記録・管理するための技術です。ビットコインなどの仮想通貨で広く知られていますが、その高い信頼性と透明性から、メタネーションにも応用が期待されています。
ブロックチェーンは、データを「ブロック」と呼ばれる単位に分割し、鎖のようにつなげて記録していく仕組みで、 各ブロックには前のブロックの情報が含まれており、改ざんが非常に困難な構造になっています。
ブロックチェーン技術をメタネーションに活用するメリットには、メタンの由来を明確に証明することができる点が挙げられます。 メタネーションで生成されたメタンが、本当にCO2を原料としているのか、あるいは化石燃料由来のメタンと混ざっていないか、といった「由来」を証明できるため、カーボンニュートラルなメタンとしてその価値を保証する上で重要な役割を果たします。
また、メタネーションによって削減されたCO2量を正確に記録し、可視化することも可能です。これにより、企業は自社のCO2削減努力を客観的に示すことができ、ESG投資の促進や企業価値向上にもつながります。
さらに、誰が、いつ、どこで、どれだけのメタンを生成したのかをブロックチェーン上に記録することで、メタンの取引をより安全かつ効率的に行うことができます。取引の透明性を高め、不正リスクを抑制することで、メタネーション市場の健全な発展を促進することが期待されます。
このように、DACやブロックチェーンといった最新技術とメタネーションを組み合わせることで、CO2削減効果の向上、メタンの品質向上、取引の透明性確保など、様々なメリットが期待できます。これらの技術革新は、メタネーションの普及を加速させ、脱炭素社会の実現に大きく貢献するでしょう。
メタネーションの実用化に向けた企業の取り組み
大阪ガス株式会社
大阪ガスは、世界最高レベルのエネルギー変換効率(85~90%)を誇る「SOECメタネーション」の実用化に向けた研究を加速させています。記事内でも取り上げたSOEC(固体酸化物形電解セル)技術を活用し、水と二酸化炭素を電気分解することで水素と一酸化炭素を生成し、これらを反応させてメタンを合成する一貫プロセスを実現。従来のサバディエ反応メタネーションと比べ、エネルギーロスの削減、外部水素調達の不要化、製造コストの低減が期待されています。
メタネーションのラボスケール試験」
特に、大阪ガス独自の「金属支持型SOEC」は、従来の特殊セラミックスに依存したSOECとは異なり、ホーロー食器のように金属基板の上に薄いセラミックス層を形成する構造を採用。この新技術により、高価な特殊セラミックス材料の使用量を従来比で1割程度に削減できるため、コスト削減が可能になります。また、金属支持型SOECは耐衝撃性が高く、形状の自由度も向上しており、大規模化への対応も容易です。大阪ガスは現在ラボスケール試験を実施しており、2030年代後半の実用化を目指しています。
この技術開発と並行し、大阪市の舞洲工場では、都市部の生ごみ由来バイオガスと再生可能エネルギー由来の水素を活用したメタネーション実証を進めています。都市ガスインフラを活用し、e-メタンの供給と消費を一体化するモデルの確立を目指し、2030年までにごみ焼却施設や食品加工工場への導入を計画中で、スケールアップに向けた技術検証も進行中です。
こうした取り組みを踏まえ、2025年の大阪・関西万博では、会場内の生ごみ由来バイオガスとグリーン水素を活用し、一般家庭約170世帯分に相当するe-メタンを製造・供給する実証を実施予定とのこと。日本館のバイオガスプラントで回収されたCO2をメタン化することで、資源循環型の脱炭素エネルギー利用モデルを提示する計画です。
同社では「カーボンニュートラルビジョン」や「エネルギートランジション2030」のもと、これらの技術を社会実装し、次世代メタネーションの実現に向けた挑戦を続けています。CO2を資源として活用し、既存のインフラを活かしながら低炭素社会への移行を加速させるこの取り組みは、エネルギー業界の脱炭素化における重要なステップとなるでしょう。
東京ガス株式会社
e-メタン製造実証を開始」
東京ガスは、メタネーション技術を活用したe-メタンの製造・活用を推進し、地域資源を最大限に活用したカーボンニュートラル社会の実現を目指しています。その一環として、2023年から横浜市と連携し、下水処理プロセスで発生する消化ガスや再生水をe-メタン製造の原料として活用する実証を開始しました。具体的には、横浜市北部下水道センターで発生する消化ガスをCO2源として利用し、再生水を水電解による水素製造の原料とすることで、地域内の資源循環を促進。都市の未利用資源を活用しながら、持続可能なエネルギー供給の可能性を探っています。
並行して、2023年7月からは横浜市資源循環局鶴見工場の排ガスから分離・回収したCO2をe-メタン製造に利用するCCU(カーボンキャプチャー&ユース)実証も開始し、都市ガスのカーボンニュートラル化を目指してより広範な資源を活用したエネルギー供給モデルの構築を進めています。
そして、2024年4月には、これらの実証で製造されたe-メタンを活用し、日本で初めて「クリーンガス証書制度」に基づく環境価値移転を実施しました。この制度では、燃焼時に追加的なCO2を排出しないとみなせるe-メタンやバイオガスに対し、環境価値を証書として発行。取得したクリーンガス証書を活用し、2024年10月31日の「ガスの記念日」から一定期間、横浜市の山下公園通りのガス灯に適用しました。この取り組みにより、都市のインフラにe-メタンを活用する道が開かれ、今後の普及拡大に向けた重要な一歩となっています。
また、同社は国内でのe-メタン製造拠点の確立を目指し、北海道の王子製紙苫小牧工場と連携した新プロジェクトを推進。工場で発生・回収されたCO2と、再生可能エネルギーを活用して製造したグリーン水素を合成し、純国産のe-メタンを生産する計画を打ち出しています。2030年までに数十m³/h規模の設備を導入し、さらに1,000m³/h級へと拡張することで、大規模なe-メタン供給体制の構築を目指します。
東京ガスにおいても「Compass2030」という独自のビジョンのもと、エネルギーの脱炭素化と地域循環型社会の実現に取り組んでいます。下水処理、廃棄物処理、産業インフラを横断的に活用しながら、e-メタンの社会実装を進めるこの挑戦は、都市ガスの未来を大きく変える可能性を秘めています。
まとめ
メタネーションは、CO₂を資源として活用し、エネルギーの脱炭素化を推進する画期的な技術です。大阪ガスや東京ガスをはじめとする企業が、SOECメタネーションの高効率化や地域資源の活用、環境価値証書制度の導入など、さまざまな取り組みを進めています。これにより、既存の都市ガスインフラを活かしながら、持続可能なエネルギー供給モデルの実現が期待されています。
しかし、メタネーションの社会実装には、コスト削減や大規模化、トレーサビリティの確保など、解決すべき課題も多く残されています。こうした課題を克服するためには、最新技術の活用が不可欠です。
トレードログ株式会社は、ブロックチェーンを活用したエネルギー管理や環境価値の取引システムの開発を通じて、メタネーションの普及を支援いたします。エネルギー取引の透明性向上やカーボンクレジットの正確な追跡を実現し、脱炭素化に貢献するソリューションを提供可能です。
メタネーション技術の導入や、エネルギーのデジタル管理に関心がある企業の皆様は、ぜひ当社までお問い合わせください。貴社の脱炭素戦略を次のステージへと導くサポートをいたします。