サステナブルな未来を築くために、私たちがどのようなエネルギーを選択するかは重要な課題です。その中でも「グリーン水素」は、クリーンエネルギー革命の鍵を握る存在として注目を集めています。しかし、具体的にどのような技術で作られ、なぜ環境に優しいのかを詳しく理解している人は少ないかもしれません。本記事では、グリーン水素の基本からその作り方、そして社会での活用法までを解説します。
グリーン水素とは?
グリーン水素とは、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを活用して水を電気分解し、製造される水素を指します。一般的に水素は、燃焼時に二酸化炭素(CO₂)を排出しないクリーンなエネルギー源として注目されていますが、カーボンニュートラルの実現には製造段階においてもCO₂を排出しない仕組みが不可欠です。そこで注目されているのが、グリーン水素です。
現在、産業界で使用される水素の多くは化石燃料を原料として製造されていますが、これらは製造時にCO₂を排出するか、その排出を補うための追加技術が必要になります。一方で、グリーン水素は再生可能エネルギーを用いて製造されるため、製造・使用の両面でCO₂排出ゼロを達成できます。
また、グリーン水素の生成には再生可能エネルギー由来の電力を大量に消費するため、電力の需給調整の手段としての側面も重要視されています。再生可能エネルギーは発電量が天候に左右されやすく、需要と供給のバランス(同時同量)を取ることが課題となります。この点で、余剰電力を活用して水素を生成・貯蔵し、必要に応じてエネルギーとして利用することで、電力系統の安定化にも寄与するのです。
同時同量についてはこちらの記事でも解説しています。
なお、グリーン水素と混同しやすい言葉に「クリーン水素」があります。クリーン水素は「CO₂排出が少ない、または排出ゼロで製造された水素」の総称であり、グリーン水素はその中の一種です。例えば、化石燃料を使用して製造し、CO₂回収技術を活用したCO₂排出ゼロの水素はクリーン水素に分類されますが、グリーン水素とは明確に区別される点には注意が必要です。
グリーン水素の作り方
グリーン水素を作るためには、「水分解」という方法を使って水素と酸素に分けるプロセスが必要です。中学校の理科の授業を思い出しますね。ビーカーに水を入れて水中の電極に通電すると、陰極側では水素が発生し、陽極では酸素が発生する、懐かしのアレです。
理科の実験であればこの方法でも構いませんが、大規模に水素を生成するには、もう少し複雑な仕組みが必要になってきます。現在、グリーン水素の製造には「アルカリ型水電解装置」と「固体高分子型水電解装置(PEM型)」の主に二つの電気分解技術が使われています。
アルカリ型水電解装置 – 低コストで大規模向き
アルカリ型水電解装置は、化学反応に使う電解質として「水酸化カリウム」という物質を使用し、水酸化イオンだけが通れる隔壁を通して陽極と陰極を分離しながら水素と酸素を発生させる仕組みです。
この装置の最大の強みは「コストの低さ」と「大規模生産への適性」です。長年の実績があり、技術が成熟しているため、設備コストが比較的安価に抑えられるのが特徴です。また、大容量の水素を安定して生産するのに向いており、工業用途などで広く活用されています。
ただし、デメリットもあります。まず、反応速度がやや遅く、エネルギー変換効率もPEM型に比べると劣ることです。また、装置のサイズが大きくなりがちで、設置場所に制約が出ることもあります。そのため、十分なスペースと安定した電力供給がある環境での利用が求められます。
固体高分子型水電解装置(PEM型) – 高効率で小規模向き
一方、固体高分子型水電解装置(PEM型)は、固体の高分子膜を使って電解反応を行います。実は、この固体高分子は「燃料電池」にも使われているもので、燃料電池車や家庭用エネルギーシステムでもよく利用されています。
PEM型の最大の強みは「反応速度の速さ」と「高いエネルギー変換効率」です。電流を流すとすぐに水素が生成されるため、起動と停止が容易で、変動する再生可能エネルギーとの相性が良いのが特徴です。また、装置の小型化が可能なため、都市部や限られたスペースでも導入しやすく、分散型の水素製造拠点に向いています。
しかし、欠点もあります。最大の課題は「コストの高さ」です。PEM型の電極には白金などの貴金属が必要であり、これが装置の価格を押し上げる要因になっています。また、電解質が酸性であるため、材料の耐久性を確保するのが難しく、メンテナンスコストもかかります。そのため、現状では小規模な水素製造や、再生可能エネルギーを活用した分散型のシステムに適した技術とされています。
次世代技術 – 高温水蒸気電解と人工光合成
このように、従来の技術を使って作られるグリーン水素は、すでに実用化が進んでいますが、さらに効率的で環境負荷の少ない方法を模索する研究が進められています。その一つが「高温水蒸気電解」と呼ばれる新しい方法です。
この方法では、水蒸気を高温に加熱し、その熱を利用して水分子を分解します。高温を利用することで、電力の消費を抑えつつ、より効率的に水素を取り出すことが可能になります。特に、火力発電所などで発生する廃熱を有効活用できる可能性があり、産業界でも注目されています。
また、「人工光合成型光触媒」という技術にも脚光が集まっています。これは植物の光合成を模倣し、太陽光と光触媒を利用して水分子を分解し、水素を取り出す方法です。光合成の仕組みを応用したこの技術は、環境への負荷をほとんどかけずに水素を作ることができるため、安全性や環境負荷という観点でも高く評価できます。
このように、グリーン水素の製造方法は進化を続け、私たちが使うエネルギー源としての可能性を広げています。今後、より多くの技術が組み合わさり、効率的で環境に優しい水素製造が実現する日も近いかもしれません。
グリーン以外にも水素には色がある!?

水素は本来、無味無臭で無色透明な気体ですが、実はその製造方法やエネルギー源に応じて色分けされています。この「水素の色」は、環境への影響や製造過程を理解する上で重要な指標となります。ただし、国際機関や認証機関によってその基準が必ずしも統一されているわけではなく、同じ色でも表現方法に違いがある場合がある点は注意が必要です。
グレー水素
グレー水素は、主に化石燃料、特に天然ガスを原料にして製造される水素です。製造過程で発生するCO₂はそのまま大気中に放出され、環境負荷が高いとされています。グレーという色は、無色透明の水素が製造過程で汚染され、環境負荷を象徴する色として用いられているものの、世界全体で工業用に生産されている水素の90%以上は、このグレー水素が占めており、現在の水素産業においては主流となっています。カーボンニュートラルを目指す社会においては、この製造方法は脱炭素化の目標に逆行しているため、削減策が求められています。
ブルー水素
ブルー水素も化石燃料を原料として製造されますが、異なる点は製造過程で発生するCO₂を回収し、地中に貯留する技術(CCS: Carbon Capture and Storage)を使用することです。この技術を使うことで、CO₂の排出を極力ゼロに近づけることができます。ブルーという色は、CO₂排出の削減を意識したクリーンな方法を象徴する色として選ばれています。そのため、ブルー水素はクリーン水素として注目されており、環境への影響を低減できる可能性を持っています。ただし、CO₂回収技術にも限界があり、全体のコストやエネルギー消費も考慮する必要があります。
ブラウン水素
ブラウン水素は、グレー水素の一種で、石炭、とりわけ褐炭を原料にして製造される水素を指します。石炭を燃焼させる過程でCO₂を大量に排出するため、ブラウン水素の環境負荷は非常に高いとされています。「ブラウン」という色は、褐炭の色を象徴しており、環境への負荷の大きさを反映しています。現在では環境面から避けるべきとされる製造方法であり、脱炭素化を進めるためには他の方法への転換が望まれています。
ターコイズ水素
ターコイズ水素は、メタンを熱分解することによって製造されます。この方法ではCO₂が生成されず、代わりに固体の炭素が生じます。この固体炭素は、適切に処理することで環境への悪影響を抑えることができます。ターコイズという色は、炭素(黒)とメタンの化学的性質(青)を象徴し、炭素が環境に与える影響を最小限に抑える特色を表現しています。ターコイズ水素はCO₂排出がないため、環境に優しい選択肢として注目されていますが、固体の副産物が生成されることから大規模な商業化には課題が残る技術とされています。
オレンジ水素
オレンジ水素は、廃棄物や残留物を原料にして製造される水素です。リサイクルの観点から、廃棄物処理とエネルギー生成を同時に行うことができるため、持続可能なエネルギー源として期待されています。オレンジという色は、廃棄物のリサイクルや再利用といったポジティブなエネルギー循環を表現しており、環境負荷の低減に貢献する水素としてグリーン水素と同様に研究が進んでいます。
イエロー水素/ピンク水素/パープル水素
これらの水素は、原子力発電を利用して水を電気分解することによって製造されます。イエロー水素は、ウラン鉱石(イエローケーキ)を精製した製品が一般に黄色の粉末であることに由来しています。ピンク水素やパープル水素と呼ばれることもあります。これらの水素は、CO₂排出ゼロですが、原子力に対する安全性や環境への懸念が存在するため、導入には慎重な議論が求められています。
ホワイト水素
ホワイト水素は、人工的に製造されたものではなく、地下の堆積物中で自然に生成された水素を指します(製鉄所の溶鉱炉などで産業の副産物として得られる水素も指す場合もあります)。ホワイト水素は、自然の過程で発生するため、製造時にCO₂を排出することはありませんが、採掘や利用には特定の制約が伴うため、利用範囲は限られるとされています。
グリーン水素は何に使う?

グリーン水素は、そのクリーンな特性と再生可能エネルギーを活用した製造方法により、様々な分野での活用が期待されています。では、具体的にどのようなシーンで活用されるのでしょうか?ここからは、持続可能な社会へと移行するための重要なエネルギー源として注目されるグリーン水素の用途について詳しく見ていきます。
環境保全
グリーン水素は、環境保全において非常に大きな可能性を秘めています。前述したように、グリーン水素の生産から利用に至るまで、二酸化炭素(CO₂)を一切排出しないことがその最大の特徴です。化石燃料に依存する従来のエネルギーシステムに代わり、グリーン水素を利用することで、地球温暖化の主要因であるCO₂排出を大幅に削減できると期待されています。
この背景には、パリ協定や各国のカーボンニュートラル宣言など、世界規模で進む脱炭素化への取り組みがあります。国際社会では、産業構造やエネルギー利用の変革を通じて、CO₂削減目標を達成するための動きが加速しており、再生可能エネルギーを利用した水素生産技術は、その中核的存在となり得ます。
また、環境保全だけでなく、生物多様性の保護にもつながる可能性があります。例えば、グリーン水素が普及すれば、化石燃料の採掘による環境破壊や、石油精製の過程で発生する有害物質の削減が見込まれるでしょう。これにより、自然生態系への負担を軽減し、人々がより良い環境で生活できる未来を切り開くことが期待されます。
グリーン水素を基盤としたエネルギーシステムの構築は、単なる技術革新にとどまらず、持続可能な社会の実現に直結しています。私たち一人ひとりの生活から地球全体の環境まで、さまざまなスケールで恩恵をもたらすグリーン水素の役割は、今後ますます重要性を増していくでしょう。
エネルギー安全保障
「エネルギー安全保障」という言葉をご存じでしょうか?これは、私たち人間が生活していく上で必要となる石油や天然ガス、電気といった各種エネルギーを「妥当な価格」で「安定的」に供給することを指す地政学的にとても重要な概念です。
石油や天然ガスといった化石燃料は、太古の生物の死骸などが地下に堆積し、地下の高い温度や微生物の分解作用などによって長い期間かけ、地層内でエネルギー資源に変わったものだといわれています。したがって、現代社会における経済活動を動かす動力源にも関わらず、採掘可能なスポットは特定の国や地域に集中している状況なのです。
こうしたエネルギーの供給源が限定的である懸念は、安全保障上の大きな障壁となります。近年ではロシアによるウクライナの軍事侵攻に伴ってロシアからのエネルギー供給が不安定になった例が示すように、資源保有国の意思決定によってこれらの供給が不安定になるリスクがあります。
一方、グリーン水素はその製造に再生可能エネルギーを利用するため、製造施設さえ確保してしまえば極論、世界中どこでもエネルギーを製造することができます。また、水素自体は気体、液体、固体など様々な状態で貯蔵・輸送すること(エネルギーキャリア)ができ、保管性と運搬性にも優れています。そのため、電力の供給が不安定な地域に国内で製造した水素をあらかじめ輸送しておけば、必要に応じて供給することもできる訳です。
このようにグリーン水素を活用することで、特定の国に依存することのない、広い意味でのエネルギーの地産地消に期待できます。これは、国家のエネルギー安全保障を強化し、平和な世界を築く一歩となるでしょう。グリーン水素はもはや、単なるエネルギー源ではないのです。
産業競争力の強化
グリーン水素の普及は、日本の産業競争力を高める絶好の機会となります。日本は水素エネルギーに関連する技術分野で長年にわたり研究と開発を進めてきた結果、世界でもトップクラスの技術的優位性を持つ国として評価されています。例えば、燃料電池や水素供給インフラの分野で数多くの特許を取得しており、水素社会の実現に向けた基盤を築いています。
この技術的優位性を生かして、世界市場での競争力を高めることが可能です。現在、多くの国が脱炭素社会の実現を目指して水素エネルギーの活用を模索している中で、日本の技術やノウハウは国際的な需要を集めています。特に、水素製造・貯蔵・輸送といった幅広いプロセスでの技術提供や、再生可能エネルギーを活用したグリーン水素生産のモデル構築は、国際社会における日本の地位をさらに高めるでしょう。
さらに、水素エネルギーの普及は国内産業の活性化にもつながります。グリーン水素を活用した新たなエネルギーシステムの開発や、その普及に伴うインフラ整備によって、国内での雇用創出が期待されるだけでなく、地域経済の活性化にも寄与する可能性があります。また、水素技術を基盤とした次世代産業の育成は、持続可能な経済成長を支える鍵となります。
このように、グリーン水素は、地球規模の課題解決に貢献するだけでなく、日本が持つ技術力を最大限に発揮し、国際競争力を高める可能性を秘めた技術です。日本がこの波に乗ることで、エネルギー分野でのプレゼンスをさらに強化し、グローバルリーダーとしての地位を確立する道が開かれるでしょう。
グリーン水素が注目されている理由

日本においても、グリーン水素の推進は重要な政策の一環となっており、その活用方法が急速に進展しています。グリーン水素の使い道について学んだところで、今度は脱炭素化に向けたソリューションとして近年、脚光を浴びるようになった理由についても見ていきましょう。
水素基本戦略
日本政府が策定した水素基本戦略は、単なるエネルギー政策に留まらず、国の未来を形作る重要なロードマップです。この戦略において、水素はエネルギー自給率の向上と脱炭素化を両立するための中心的な役割を担っています。これは前述した「産業競争力の強化」というグリーン水素のメリットと密接しており、単なる「クリーンエネルギー」という枠を超えた産業政策としてのグリーン水素を全面的に押し出した形です。
この目的を達成するために、2023年6月に6年ぶりに改訂された水素基本戦略では、2040年までに年間で1,200万トンの水素を導入するという目標が掲げられました。アメリカの「国家クリーン水素戦略」では、2030年までに年間1,000万トンのクリーン水素製造、欧州委員会の「水素戦略」では2030年までに最大年間1,000万トンのグリーン水素の域内生産目標が掲げられていることを考慮すると、これは単なる数字ではなく、日本企業の技術力で次世代のエネルギー競争をリードしようという政府の考えが見え隠れします。
実際に国内では官民合わせて15兆円の投資も行われる予定であり、水電解装置などの技術開発を重点支援していくとしています。また供給側への支援と同様に需要の創出についても、グリーンイノベーション基金の活用や地方自治体との連携を通して2030年までに水素コストを30円/Nm3に引き下げるという目標を達成するとしています。
この戦略に則って政府の支援が一気に拡大すれば、水素はより多くの産業に浸透し、さらなる脱炭素化を促進するでしょう。このように、グリーン水素は単なるエネルギー源にとどまらず、経済の新しいエンジンとしての熱視線を浴びているのです。
グリーン水素トライアル取引(東京商品取引所)
東京都が2024年11月に発表したグリーン水素のトライアル取引は、日本のエネルギー市場における新たな試みとして注目されています。この動きは、単なる取引市場の設立にとどまらず、地方自治体レベルでのグリーン水素の普及促進と脱炭素社会の実現に向けた重要なステップといえるでしょう。
グリーン水素は再生可能エネルギーで生産される水素ですが、その供給と需要のバランスをどう取るかが大きな課題です。本取り組みは、供給者が提供する水素の価格や供給量を基に、最も高い価格を提示した購入者と供給者が取引を結ぶというシンプルでありながらも、非常に重要なシステムを試験的に機能させています。
あくまで実証的な位置付けのため、今回の試験取引においては価格差を東京都が全額補助するとしながらも、将来的にはダブルオークションを機能させることで、1対1の相対取引よりも柔軟で活発な水素取引へとつなげる狙いがあるようです。
また、東京都では都産のグリーン水素を原材料とした化粧品や肥料など、様々な産業での利用を促進する取り組みも加速させており、2025年度の予算にもこれらに関連する項目が盛り込まれる予定になっています。
東京という日本の中心において、水素の製造を支援するという第一歩的な実証から、再生可能エネルギーを使って製造された水素をマーケットで取引し、化学製品や農業関連産業にまで利用するというアイデアにまでフェーズが進んでいるということは特筆すべき事柄です。今後は東京だけでなく、他の地域でもグリーン水素を使用した水素社会の実現が検討されていくはずです。
グリーン水素の課題・デメリットとは?

グリーン水素の普及に向けて各国でさまざまな取り組みが進められていますが、その過程で直面している課題は少なくありません。特に、製造コストやエネルギー損失、さらには一般社会での認知度など、越えなければならないハードルが存在します。順番に解説します。
製造コストが高い
グリーン水素は、再生可能エネルギーを使って水を電気分解する方法で生産されますが、エネルギーを大量に使用するため、製造コストが高いという課題があります。特に電解槽の設置費用や運用時に必要となる電気代が悩みのタネとなっています。これは、他の種類の水素と比べても、かなり高額な製造コストです。
国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、現在のグリーン水素の製造コストは1キログラムあたり3〜12ドルとされており、ブルー水素やグレー水素のコスト(1〜3ドル程度)よりも高いことがわかります。技術革新や再生可能エネルギーの発電コスト低下によって、2030年までに1.3〜3.5ドルまで削減できる可能性があるとされていますが、現状では依然として経済的負担が大きい状態です。
また、グリーン水素の生産が一部の地域に集中していることも、一つの矛盾点となっています。グリーン水素は理論的にはエネルギー安全保障に資するエネルギー源であり、地理的な制約を受けにくいはずです。しかし、現実には、世界全体のグリーン水素生産の約75%が中国、欧州、米国に偏っています。この偏在は、コストやインフラ整備、政策支援の有無などが影響しており、グリーン水素の持つ潜在力が最大限に発揮されていない要因だといえます。
エネルギー損失が高い
グリーン水素を生産する水電解技術は、エネルギーの観点からも課題があります。グリーン水素の生産方法は、再生可能エネルギーを使って水を電気分解する技術ですが、これには2回のエネルギー変換(電気→化学エネルギー)が必要であり、現時点では、そのエネルギー効率は25〜30%程度と推定されていることから、効率性の悪さが指摘されています。
また、グリーン水素の貯蔵や輸送にも追加のエネルギーが必要です。例えば、電力需要が高まる時期に備えて水素を事前に製造し、貯蔵しておくにはさらに多くのエネルギーを消費します。こうした効率面での課題は、再生可能エネルギーが十分に普及していない地域で特に顕著です。
したがって、現状のグリーン水素にはエネルギー供給と需要のバランスの維持が必要不可欠であり、貯蔵方法の効率化や輸送インフラの整備が求められます。これらの技術的課題を解決することが、グリーン水素の本格的な普及に向けた重要な鍵となるでしょう。
認知度が低い
グリーン水素は、まだ一般的な認知度が低いのが現状です。特に、私たちの生活に身近なエネルギー源として広く認知されているわけではなく、多くの人々にとっては「水素=危険」といったイメージが先行しているかもしれません。こうした認識が障壁となり、普及を妨げている側面もあります。
水素社会の実現には、製造・供給インフラの整備に加え、一般市民への啓発活動が不可欠です。例えば、グリーン水素がCO₂を排出しないクリーンなエネルギーであることや、その長期的な経済的利点を理解してもらうことで、企業や自治体が進める取り組みへの支持が高まる可能性があります。
したがって、国や企業がグリーン水素の利点や可能性を積極的に発信し、教育活動を通じて国民の理解を深めることが求められます。認知度の向上は、グリーン水素の普及と水素社会実現への第一歩となるのです。
グリーン水素を活用している企業事例
グリーン水素が注目を集める中、実際にその可能性を形にする企業が増えています。ここでは、グリーン水素の活用に積極的な企業の事例をいくつかご紹介し、最前線で展開されている取り組みを深掘りしていきます。
パナソニック

3電池連携制御 水素を活用するエネルギーソリューション「Panasonic HX」始動」
パナソニックでは、脱炭素社会の実現に向けた革新的な取り組みとして、イギリス西部カーディフの電子レンジ製造工場でグリーン水素を活用した発電設備を導入しています。このプロジェクトは、工場のエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことを目指すものであり、グリーン水素を用いた純水素型燃料電池による発電施設としては世界初の事例です。
この設備では、燃料電池21台、リチウム蓄電池2台、そして既設の太陽光パネルを組み合わせてエネルギーを供給しています。地元ウェールズで生成されたグリーン水素を使用し、年間約1ギガワット時の電力を安定的に供給することを可能にしています。さらに、発電時に生じる廃熱を工場の暖房や温水として再利用することで、エネルギー効率を最大化しています。
このプロジェクトは、同社が推進する「RE100ソリューション」の一環であり、太陽光パネルと蓄電池、純水素型燃料電池を組み合わせた「3電池連携」という技術が用いられています。この仕組みにより、天候や時間帯による電力供給の変動を克服し、安定的なエネルギー供給が可能となっています。また、災害時の停電にも対応できる利点があり、持続可能なエネルギー供給モデルとして注目されています。
2025年3月には、同様の発電設備をドイツの工場にも導入する計画が進行中です。同社の社長を務める品田氏は、この実証で得られるエネルギー管理データを蓄積・分析し、各地域の気候やエネルギー需要に合わせた最適な管理方法を提供していく意向を述べており、今後は欧州市場における事業化も視野に入ってくるはずです。
同社はこの技術を「Panasonic HX」というブランド名で展開し、2030年代には水素関連事業で1000億円規模の売上を目指していることからも、この取り組みは欧州をはじめとする世界各地のエネルギー安全保障や脱炭素化の試金石となるでしょう。
北海道電力・出光興産・ENEOS
生産へ、国内最大級」
北海道電力、出光興産、ENEOSの3社が手を組み、北海道苫小牧西部エリアでグリーン水素を基盤としたサプライチェーンの構築を目指す壮大なプロジェクトを進めています。このプロジェクトにおいては国内最大規模となる水電解プラントの建設が計画されており、2030年頃には年間1万トンものグリーン水素を製造するという野心的な目標が掲げられています。この水素は新設されるパイプラインを通じ、苫小牧の工業地帯へと供給される予定で、地域に新たなエネルギー基盤を築く一大挑戦です。
各社がそれぞれの強みを活かしながら役割を分担しており、北海道電力は再エネ電力調達や水電解プラントの建設・運用を、出光興産は水素を利用した合成燃料の製造、ENEOSは事業性評価や水電解プラントの設計、水素販売を担う予定となっています。
このプロジェクトが苫小牧で展開される背景には、北海道という地域特性があります。風力や太陽光などの再生可能エネルギー資源に恵まれながらも、需要が限られているため、発電量と消費量のバランスに課題を抱えているのです。したがって、再生可能エネルギーで発電された余剰電力を活用し、水を電気分解して水素を作り出すという仕組みは、ただのエネルギー源としてだけではなく、地域全体のエネルギー需給を調整するバランサーとしても機能します。
また、水素を使った合成燃料の可能性にも注目が集まっています。この燃料は、自動車や飛行機、船舶といった幅広い分野で利用できるだけでなく、既存のエンジンやインフラをそのまま活用できるという利点があります。例えば、船舶の燃料として使用すれば、現在課題となっている海運業界の二酸化炭素排出量削減にも貢献することも可能です。
北海道電力では22年から、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の調査事業としてグリーン水素の供給網について研究しており、苫小牧西港周辺の企業では年間約7万トンの水素需要が見込まれるとしています。こうした点からも、地元で製造された水素を地元で消費する、まさに“地産地消”の形でエネルギーを循環させる仕組みは、地域経済を活性化させる鍵となるでしょう。
まとめ
グリーン水素は、脱炭素社会の実現に向けた革新的なエネルギー技術です。その製造プロセスや利用可能性は、環境負荷を軽減しながら持続可能な発展を支える要となります。再生可能エネルギーの普及と共に、グリーン水素の利用は今後さらに拡大していくでしょう。
私たち一人ひとりが正しい知識を持ち、この新たなエネルギーの可能性を理解することが、未来の地球を守る第一歩となります。サステナブルな社会を目指す上で、ぜひ「グリーン水素」というキーワードを頭に入れておきましょう!
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