ブロックチェーンの種類とそれぞれの特徴とは?パブリック・プライベート・コンソーシアムの違いを解説!

ブロックチェーンは大きく三種類に分類できることをご存知でしょうか?本記事では、ブロックチェーンの分類について解説していきます!

    そもそもブロックチェーンとは?

    出典:shutterstock

    ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

    ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

    取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

    ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

    これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

    また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

    ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

    ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

    新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

    また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

    コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

    このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

    こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

    データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    ブロックチェーンの種類

    ブロックチェーンは以下のように大別することができます。

    上図の通り、ブロックチェーンの種類には「パブリックチェーン」「プライベートチェーン」「コンソーシアムチェーン」の3種類があります。

    細かな違いはありますが、主にはネットワーク内における取引内容の公開範囲、または管理者の有無によって分類することが可能です。

    パブリックチェーンは参加者に制限がなく、許可を必要としないため、自由参加型(Permissionless型)とも呼ばれます。一方、プライベートチェーンやコンソーシアムチェーンは特定ユーザーのみ参加することが許されるため、許可型(Permissioned型)とも呼ばれます。


    ここからはそれぞれどのような違いがあるのか、詳しく解説します。

    パブリック型ブロックチェーン

    パブリック型は、誰でも参加できるオープンなブロックチェーンです。中央に管理者がおらず、不特定多数の参加者によって管理されています。参加者は、参加も脱退も自由におこなうことができ、取引データは参加者全員に公開されているため、透明性が高いという特徴があります。

    一方で、取引の承認には参加者の一定数以上の合意が必要です。そのため、ブロックチェーン上に新しい情報を書き込むためには多くの処理と時間を要するというデメリットがあります。実際、ビットコインのブロックの承認ではブロックサイズが制限されていることから、約10分の時間がかかります。

    このような、利用者増加に伴って処理速度の低下と手数料の増加してしまう問題を「スケーラビリティ問題」といいます。

    また、管理者不在のパブリックチェーンでは取引内容が正しいものであるか判断する仕組みが必要です。この仕組みを「コンセンサスアルゴリズム」といい、ビットコインでは「PoW(Proof of Work)」と呼ばれるコンセンサスアルゴリズムを採用しています。

    出典:Web3総合研究所

    PoWでは、マイニングと呼ばれる膨大な計算による承認によって取引の正当性が担保されます。膨大な計算で求められる値をハッシュ値といい、このハッシュ値を一番早く探り出したマイナーが報酬としてビットコインを貰える仕組みになっています。

    一方でマイニングは多くのマシンパワーや電力を費やすため、環境破壊につながっているとの指摘もあります。こうした指摘を受けてイーサリアムは2022年9月に​​マイニング不要のコンセンサスアルゴリズムであるPoSへと移行しています。

    パブリック型はブロックチェーンの基本形ともいえるモデルであり、単に「ブロックチェーン」という際には基本的にパブリック型を指すことが多いです。ビットコインをはじめイーサリアム、ライトコインなど多くの仮想通貨がこの形式を採用しています。

    プライベート型ブロックチェーン

    プライベート型は、単独の管理者によって参加者が制限されるブロックチェーンです。中央の管理者が許可した特定の参加者によって管理されています。当然、参加者は不正をしないという前提で参加を許可されており、その多数決で合意形成を行っていることが多いため、パブリック型に比べて取引のスピードが速いのが特徴です。

    また、プライベートブロックチェーンは、秘匿性の高い情報を扱うのに向いています。情報は外部に公開されないためプライバシーが確保され、閉じたシステム内でデータを格納できます。したがって、パブリックブロックチェーンのように誰でも参加することはできず、個人情報や機密情報なども扱うことができます。

    その他にも、手数料が不要という点も特徴もあります。プライベート型ではインセンティブ設計が必要ないため、トランザクション手数料なしでブロックの生成が可能となります。

    一方で、管理者が存在することで、システムダウンのリスクが生じてしまいます。なぜなら、チェーンを運営する企業や組織によってネットワークの安全性が決まるためです。データの永続性や可用性といった面ではパブリックチェーンよりも劣ってしまう点には注意する必要があります。

    また、プライベートチェーンは中央集権的な側面を持つため、データの分散性という点でもパブリックチェーンよりも劣っているでしょう。

    このように一長一短があるプライベート型ブロックチェーンですが、パブリックブロックチェーンに比べると、自社内でブロックチェーンの検証や開発がしやすいです。そのため、企業での情報管理や情報セキュリティが厳格な金融機関等でプライベートブロックチェーンを使った取り組みが進められています。

    コンソーシアム型ブロックチェーン

    近年、ビジネス導入が加速しているのが、このコンソーシアム型のブロックチェーンです。コンソーシアムチェーンでは、誰もが管理者になれるわけではありませんが、単一の管理者というわけでもなく、複数の管理者が存在するブロックチェーンです。

    コンソーシアム型は、分散性・安全性・処理速度の全てにおいて、パブリック型とプライベート型との中間の性質を兼ね揃えています。コンソーシアム型は単一の組織ではなく複数の組織やグループによって管理されているため、プライベート型に比べると分散性があり、ルールの変更に関しても一定数以上の合意形成が必要となってくるため、ある程度の透明性は担保することができます。

    一方でパブリック型とは異なり、特定の人が使うシステムでの利用が想定されており、データは参加者のみに公開されます。そのため、プライベート型のようなプライバシー保護や速い処理速度も備えています

    「複数組織の利害関係が生まれるため運用変更が難しいのでは?」という意見もあります。確かに、導入にあたってコストや社内調整など環境を構築するハードルが若干高いというデメリットがあります。ですが、そのような利害関係があるからこそ、管理者がデータを書き換えないようにお互いに監視し合う構造がうまく働いています。

    2つ以上の企業などで利害関係が一致しないために一方だけにデータ管理を任せることができない関係性においてお互いのデータを共有したい場合には、コンソーシアムチェーンが向いています。

    ブロックチェーンの種類に関する誤解

    出典:shutterstock

    パブリック型が最もセキュリティに優れている?

    パブリック型のブロックチェーンには、「51%攻撃」という課題が存在します。51%攻撃とは、悪意のある参加者がネットワーク上の51%以上の計算能力を制御することで発生します。

    通常、データの改ざんをしようとする場合、ブロックチェーンが分岐してブロックチェーンの「一番長いチェーンが有効」というルールが発動して攻撃は失敗します。また、不正な取引を記録しようとした場合には、当然ながらブロックの承認資格を持った他の参加者によって安全が確保されます。

    ところが、51%攻撃ではマイニングを行っているリソース全体のうち、51%を悪意を持ったユーザーが占めます。51%のリソースがあれば、他の参加者が正しい分岐のチェーンを伸ばそうとしてもブロック生成スピードで負けてしまったり、不正なトランザクションを含むブロックを作成してそのブロックをチェーンに追加することができます。その結果として、不正なトランザクションが正当なものとして承認され、二重支払いやその他の悪意のある行為が行われる可能性があります。

    51%攻撃は、多くのマイナーが参加するブロックチェーンで実行することは困難です。しかし、リソースの上位を占めるグループが結託すれば、どんなにマイナーが多いブロックチェーンでも攻撃が成功する可能性があります。また、単独で51%のリソースを持たなくても、上位のマイナー連合が合計51%のリソースを持ち攻撃するというシナリオもあり得ます。

    対するプライベート・コンソーシアム型では、ネットワークの参加者を管理者が選別します。したがって51%攻撃という文脈では、中央集権的な仕組みのほうが攻撃耐性があるといえるでしょう。

    プライベート型は管理者によってデータを改ざんされてしまう?

    プライベート型のブロックチェーンは管理者がいると説明しましたが、これが通常のデータベースのように管理者権限でログインして記録を書き換えることが可能だという誤解を生んでいます。

    実際にはプライベート型ブロックチェーンは、たとえ管理者であっても記録されたデータの改ざんや消去はかなり困難です。ブロックチェーンのひとつのブロックには、取引データに加えてひとつ前のブロックのハッシュナンス(一定の条件を満たした32ビットの値)などが保存され、これを合成してさらにハッシュを発行しています。

    したがって、もしひとつのデータを書き換えたとしても、以降の保存されているブロックも全て書き換えて辻褄を合わせる必要があり、この間も新たなブロックは追加されていくため、技術的なハードルがかなり高いといえます。言い換えれば、この点がブロックチェーンとデータベースの最大の差でしょう。

    例外として、管理者がブロックチェーンだけではなくシステム全体も管理している場合、途中のプログラムを書き換えてしまうということは比較的容易になっています(ブロックAに本来格納されている値はBBBBだが、返却処理の際にCCCCという値を返却するようにプログラムを改ざんする等)。そのため、プライベート型チェーンは、導入目的に沿って正しい設計に落とし込むことが大切です。

    どの種類のブロックチェーンが良いのか確認しよう

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    ブロックチェーンを自社のビジネスに導入する際には、そのサービスや目的に合った種類のブロックチェーンを選別することが非常に重要です。しかしながら、ブロックチェーンを用いた取り組みは数多く存在しますが、どの種類のブロックチェーンを利用しているのかを公にしているプロジェクト・サービスはあまり多くありません。

    また、同じ型のブロックチェーンであっても、プラットフォームごとに「スピードが優れている基盤」「安定性に優れている基盤」「カスタマイズ性に優れている基盤」など様々な特色があり、これらを比較検討するのには多大な労力やコストがかかります。

    トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

    ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

    「ハラル認証」ってどんな制度?メリットや偽装ハラル問題についても解説

    イスラム教の戒律に則って調理・製造された製品であることを示す「ハラル認証」。グローバル化の進展に伴い、近年国内でも脚光を浴びる機会も多くなってきました。本記事では、そもそもハラルとは一体何なのか、相次ぐ「偽装ハラル」は何が問題なのか、解決策となるブロックチェーン技術についても解説します!

    1. ハラルとはどういうものなのか?
    2. ハラル認証によってムスリムは安心して食品を選択できる
    3. ハラルへの取り組み事例
    4. 近年増加している「偽装ハラル」
    5. 偽装ハラルに対抗する新たなテクノロジー
    6. ハラル×ブロックチェーンの事例
    7. まとめ

    ハラルとはどういうものなのか?

    ハラルは、ムスリム(イスラム教徒)の行動指針となる基準の一つ

    「ハラル(Halal)」とは、イスラム法において「合法」「許される」という意味のアラビア語です。イスラム教の教えでは、神が創造したものはすべてハラル(許されること)であり、それ以外のものは「ハラム(Halam)」として禁じられており、イスラム教徒のあらゆる行動や全ての物はこの「ハラル/ハラム」を基準に判断されます。

    出典:Unsplash

    ハラルは聖典であるコーランや預言者ムハンマドの言行録であるハディースに規定されています。

    ハラルフードとは、イスラムの教えで食べてよいとされる食べ物

    イスラム教では、食べ物に関しても「食べてもよいもの」と「食べてはいけないもの」が細かく定められています。そのイスラム教の教えで食べてよいとされている食べ物を「ハラルフード」と呼びます。

    出典:ドラッグストアてんとうむし

    イスラム教徒は豚肉やアルコール等の摂取が認められていないというのはご存じの方も多いかと思います。しかし、製造工程においてもイスラムの戒律に則った方法で処理される必要があります。具体的な例としては、アルコールが添加されている味噌や醤油などの調味料やムスリム以外によって処理された食肉、遺伝子組み換えによって栽培された植物なども摂取が厳しく禁じられています。

    このようなイスラム教の独自の基準にクリアした、いわゆる「ハラルフード」のみが、ムスリムが摂取を許されている食品となります。

    日本でもハラルへの関心が高まっている

    一見すると複雑なルールでもあるハラルですが、近年、国内でもその存在が広く知られるようになっています。それは、イスラム教が世界人口の約4分の1を占める世界的な宗教であり、インバウンド需要に対応する日本の各業界においてハラルは避けては通れないテーマだからです。

    とくに飲食業界においてはハラルフードを取り扱う店舗も首都圏を中心に現れつつあり、観光庁も「訪日ムスリム旅行者対応のためのアクション・プラン」を発表するなど、訪日ムスリムに対する食や礼拝への配慮が高まっています。

    また、イスラム教徒は今後さらに増加するという予測も立てられています。米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターの予測によると、イスラム教は増加のペースが最も速く、信者の数は2050年までに27億6000万人に増える見通しだといいます。これは同年の世界人口予測の約3割に値する数字であり、それだけイスラム教徒が急増するということは、ハラルフード市場も拡大していくものと推測されます。

    宗教への関心が薄い私たち日本人であっても、ビジネスやサービスのうえでは全くの無関心というわけにはいかなさそうです。

    ハラル認証によってムスリムは安心して食品を選択できる

    ハラル認証とは?

    出典:shutterstock

    ハラル認証とは、イスラム教の戒律に則って調理・製造された製品であることを示すシステムです。「イスラム世界で禁じられるもの」すなわち「ハラムなもの」が、製品やサービスに含まれていないことを客観的な証拠をもって確認し、基準をクリアしたものに「ハラル認証マーク」が付与される仕組みとなっています。

    食品加工技術や流通が発達するにつれ、一般的なイスラム教信者の消費者には、目の前の商品がハラルなのかそうでないのかの判別が必要となりました。そこで宗教と食品科学の2つの面から、その商品がハラルであることを認証機関が保証するハラル認証の制度が誕生しました。

    「イスラム的に許容されているか」の判断を中立的な立場の第三者機関が審査することで、企業側も安心して製品を製造・輸出することにつながります。この役割を担うものとして、ハラル認証機関の存在は近年益々重要視されてきています。

    東南アジアに多いハラル認証

    現在、ハラル認証の製品や店舗は、イスラム教徒人口の多い東南アジアを中心に普及しています。特に高経済成長中であるマレーシア、シンガポール、インドネシアといった国々では富裕層やアッパーミドルのムスリムが増加しつつあり、こうした国々への輸出ではハラル認証が有効なプロモーションの一つとなっています。

    一般的な感覚からすると、「サウジアラビアなどの中東で需要があるのでは?」と思うかもしれませんが、こうした国々ではハラル認証がされた製品はあまり流通していません。これは中東の国々ではイスラム教が国教として制定されており、「すべてがハラル」が前提となっているためです。

    日本の輸出先はアジア圏が大半を占めているため、東南アジアでハラル認証の導入が進んでいるというのは重要なトピックといえるでしょう。

    日本企業もハラル認証を取得している

    意識せずに生活していると全く気づかないかと思いますが、実は日本企業がハラル認証を取得しているケースもたくさんあります。日本国内に暮らすイスラム教徒は約20万人いるといわれており、そうしたニーズに応えるべく、大手企業を中心にハラルフードの取り扱いを行っている企業が生まれているのです。

    日本においてハラル認証を受け、公表している企業は日本ハラール協会のサイト上で公開されています。

    ハラール認証取得企業一覧 (公表企業のみ)【五十音順】

    ハラルへの取り組み事例

    LIFE SCHOOL 桐ケ丘 こどものもり

    出典:社会福祉法人つぼみ会

    東京都北区のとある保育所では、ハラル認証の取り組みが行われています。「LIFE SCHOOL 桐ケ丘 こどものもり」では、認可保育所としては全国初のハラル認証を取得し、園内の調理場でイスラム教徒用の給食を提供しています。

    認証を取得するにあたって、栄養士がハラルフードに関する講習を受けて専門的な知識を学んだほか、専用の調理器具も用意するなど内部の仕組みを整備しました。また、処理場で処理された鶏肉を使ったタンドリーチキンなど、食事を許されている食材についてもしっかりとイスラム法の規定に則っているものを使用する体制へと食材の供給網にも工夫をしています。

    日本の園児用メニューと見た目も同じにすることで、園児同士でのトラブルや保護者からのクレームもなく、園内に十数人在籍しているバングラデシュ国籍の園児も安心して給食を楽しんでいるようです。

    現在はハラルへの対応がなされている保育園はあまり多くはありませんが、こうした先進事例を通して今後教育のシーンでもハラルフードへの理解が増進していくことと思われます。

    神戸ビーフ

    出典:神戸肉流通推進協議会

    海外で人気が高まっている高級和牛の「神戸ビーフ」もハラルへの対応を始めました。富裕層の多い中東での消費拡大を狙い、ハラル認証の基準を満たす食肉施設で処理された「神戸ビーフ」がサウジアラビアに輸出されています。

    サウジアラビアは、厳格にイスラム法を適用している国家の一つです。近年、女性の社会進出や政治参加の機会も増えつつありますが、それでもなおコーランを法源としており、近代的価値観に抵触する規範も多くあります。そんなサウジアラビアではもちろん、牛肉は宗教上のルールで定められた方法で処理されたハラルであるものしか食べることができません。

    そうした国に対しても日本産和牛のおいしさを伝えるべく、兵庫県内で神戸ビーフを産出していると畜場が「ハラール神戸牛」への生産に取り組みました。ハラルと畜専用の設備を設け、非ハラルの肉等と完全に分離されたラインを確保することで、安心のと畜環境を用意しています

    また、加工プロセスや保管場所についてもハラルではないものと混ざることは厳禁で、ハラル専用の冷凍庫を使用したり、消毒もアルコールが使えないため熱湯で行うなど様々な工夫がなされています。

    こうした各工程での努力によって、肉質を損なうことなく神戸ビーフの味を楽しんでもらうことができます。ムスリムにも余すことなく日本の食文化も味わってもらい、世界に日本食のおいしさを広めるうえでもハラル認証への取り組みは欠かすことができない存在でしょう。

    近年増加している「偽装ハラル」

    出典:shutterstock

    偽装ハラルとは?

    イスラム教徒にとって生活の肝となっているハラルですが、近年問題となっているのが「偽装ハラル」です。偽装ハラルとは、ハラルでないにも関わらずハラルであると偽装して流通している食品のことを指します。

    前述のハラル認証の制度によって、ハラルフードにはハラルであることを証明するロゴが貼り付けられていることがあります。ムスリムの消費者は、表示された認証マークによってその製品が厳しい審査手続きを経て、安全に消費できると証明されていると確認することができます。

    しかし、この表示は業界全体として統一されたものではなく、発行団体によってそれぞれ異なるロゴを掲げている場合もあります。日本でも30以上のハラル認証機関が存在するといわれており、これらをすべて記憶しておくのは日常生活では実質的に不可能でしょう。

    こうした新興かつ曖昧なマーケットを悪用した業者がハラルでない食品に対してハラルの認証マークをつけて販売することで不当に利益を得ているというのが、偽装ハラル問題の正体です。この問題は世界的にも深刻な話題であり、信仰人口が十数億人に上るとされているイスラム教ではその被害者・被害額はとてつもない規模となっていることが窺い知れます。

    イスラム教徒にとっての偽装ハラル

    イスラム教徒にとって偽装ハラルは文字通りの「死活問題」になります。2024年現在、ハラルの認証を受けていない製品に関する詐称問題が相次いでいます。とくにタイのチュラロンコン大学の調査によって発覚した「偽装牛肉(牛の血に浸した豚肉を牛肉と偽って販売)」の問題は世界中のイスラム教徒に大きな衝撃を与えました。

    過去には日本企業もハラル関連で「炎上」した事例もあります。2014年、大手菓子メーカーのブルボンでは人気ラインナップである「プチ」シリーズのコンソメ味にインドネシア語での原材料表示を貼り付けないまま、インドネシア国内で販売しました。

    コンソメ味のポテトチップスには豚由来のエキスが使用されており、漢字の読める女子大生がSNSで拡散したことをきっかけに同製品は回収に追い込まれる騒ぎとなりました。インドネシアでは国民の9割近くがムスリムであり、この事件は私たち日本人とムスリムのハラルフードに対する認識の違いを体現する結果となりました。

    インドネシアでは、2000年にも大手総合食品メーカーの味の素が豚由来の酵素を使用したとして、大きな話題となっています。当時は抗議活動も激しく行われ、現地法人の社長が逮捕される騒動となりました。このように、日本人の感覚では「ミス」というイメージであっても、イスラム圏ではこうしたミスは「イスラムの基準を満たした食品と偽った、消費者を欺いた」という「不正」の意味合いが強くなってしまいます。

    厳格にコーランを遵守するムスリムに対してハラムである食品を提供することは、口にした本人のみならず宗教を侮辱することにもなりかねず、一企業・一個人の対応だけでは済まなくなる可能性もあるのです。

    偽装ハラルに対抗する新たなテクノロジー

    こういった偽装ハラル問題解決に向けて、ある新たな技術が注目されるようになりました。それが、近年ブランド製品の真贋証明などで利用されている「ブロックチェーン技術」です。ここからはブロックチェーン技術について簡単に解説します。

    ブロックチェーンとは?

    ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

    ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

    ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

    取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

    ブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

    このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

    ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

    従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
    構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
    DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
    データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

    こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

    データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    ハラル認証へのブロックチェーン技術の利用

    偽装ハラル問題が起こる原因の一つに「サプライチェーン全体をまとめる統一プラットフォームが不足している」ということが挙げられます。

    ハラル認証は、本来であれば統一的な基準により判断されるべき制度です。しかし、サプライチェーン上のすべての利害関係者が、それぞれ異なるプロセスやシステムを利用しており、また手作業に頼っている部分が非常に多いのが実情です。

    一方でブロックチェーンはデータの耐改ざん性に優れているデータベースであり、プロセスや企業の垣根を超えてデータ同士を鎖のようにつなげて共有することができます。データの真正性が担保された状態で一つのネットワーク全体としてデータが追跡できる仕組みを構築することで、各製品が正当なハラル認証であることを保証できるでしょう。

    出典:国立研究開発法人科学技術振興機構

    ブロックチェーン技術を使うことで、「サプライチェーン全体に透明性をもたらせながら、単一障害点化しない形で各セクションを統一しうるプラットフォーム」が実現できます。様々な製品の出所を追跡することで、仮に製品に関する情報が偽装されたとしても、もともとの生産地や生産状態を追跡していけば認証が取れるようになります。

    また、ブロックチェーン技術のハラル認証への利用は、食品偽装防止に留まりません。医薬品、化粧品、ムスリムファッションの分野でもブロックチェーン技術の重要性が認知されつつあります。

    ハラル商品全般に対してもこのテクノロジーを適用すれば、ハラルの市場認知度を食品業界の他の認証(例えば有機など)に匹敵するレベルまで高めることができます。冒頭にも述べたように、ハラル製品の市場規模は世界の人口の4分の1近くにものぼります。ブロックチェーン技術は偽装防止の枠を超え、ハラル市場の様々なコンプライアンスに革命的な進化を与えるでしょう。

    ハラル×ブロックチェーンの事例

    Halal Chain

    ハラールブロックチェーンプロジェクトを発表
    出典:Edge Middle East

    現在では、ブロックチェーンを活用してハラル市場に参入するプロジェクトも増えつつあります。ハラル産業製品のトレーサビリティに特化したブロックチェーン技術をベースとする「ハラールチェーン(Halal Chain)」はその最たる事例でしょう。

    ハラル認証を導入する際には、システムの不統一性や製品情報の不正確性、原材料に対する厳格な管理の難しさなど様々なテーマが問題となります。Halal Chainではバリューチェーンのあらゆる情報を一元的に管理し、分散して保有するというある意味で二律背反的な概念を実現することで、これらの問題の解決を試みています。

    Halal Chainはパブリックなブロックチェーンであり、製造、加工から提供までのサプライチェーン全ての台帳上の取引をトラッキングして検証可能です。このシステムはリアルタイムでの監視も可能であり、ハラル認証に関する多くのコンプライアンスに革命を起こすと期待されています。

    この構想は国際イスラム経済センター(ICIE)とドバイ空港フリーゾーン局(DAFZA)によるデジタルチェーンプロジェクトで発表されており、今後、イスラム圏の他の国々でも同様のプロジェクトが立ち上がるかもしれません。

    WhatsHalal

    出典:Google Play

    シンガポールを拠点とするスタートアップである「WhatsHalal」は、ハラル食品をブロックチェーンプラットフォームを通じて効率的に認証するサービスを展開しています。

    インドネシアでは2021年2月に「ハラル製品保証の実施に関する政令」を公布しており、飲食品は2024年までに、化粧品などは2026年までにハラルであるか非ハラルであるかについての表示をパッケージに記載することを順次義務化しています。同規制の導入によって、自社製品のハラル対応を推進しようと奔走する企業は150万社以上にのぼるとみられます。

    こうしたインドネシア国内の動きを受けて、ブロックチェーンを活用することでフードチェーン内のハラル食品の追跡システムを統合しているのがWhatsHalalです。現在のSCM(サプライチェーン・マネジメント)のシーンでは、農業従事者からメーカー、販売業者、消費者まで、サプライチェーン全体のすべての利害関係者をまとめる統一プラットフォームが不足しています。

    しかし、WhatsHalalでは専任のコンサルタント(有料)によって自社サービスでトレーサビリティが必要となる箇所がピックアップされ、サプライチェーン全体で一括してハラルを管理することができます。

    そのため、業者はもちろん、顧客もアプリを使ってハラルが保証された特定の業者からハラル食品を注文・配達してもらうことが可能です。バーコードをスキャンすることによってハラルの正当性を確認する仕組みは、ムスリムにとって生活の利便性を大きく向上させるでしょう。

    まとめ

    イスラム教人口の増加に伴い、今後日本にも観光客としてだけでなく、留学生や移住者なども増えていくことでしょう。今までのように異国の文化や異宗教の変わった風習としてハラルを特別視するのではなく、ヴィーガンメニューや糖質カット食品のように、食品選択の際のオプションとして当たり前に用意されている環境が訪れる日もそう遠くないはずです。イスラム教に限らず、グローバルな視点でさまざまな宗教や文化への理解を深めておきましょう。

    ブロックチェーンがコールドチェーンにもたらす変化とは?~温度管理・トレーサビリティへの活用~

    冷凍技術の革新は私たちの食生活を大きく変容させました。1930年に戸畑冷蔵(現日本水産の前身)が「冷凍いちご」を販売してから100年近くが経った現在では、スーパーやコンビニで鮮度の高い食品を購入したり、あるいはファミリーレストランなどの外食産業では多種多様なメニューが低価格かつハイクオリティで提供されています。

    こうした便利なサービスが確立しているのは、「コールドチェーン」という仕組みが関係しています。そしてさらに2024年現在、コールドチェーンへブロックチェーンを導入しようという動きが見られます。

    本記事では、コールドチェーンやブロックチェーンのそもそもの仕組みや実際の事例に触れつつ、これからの温度管理のあり方についてご紹介していきます。

    1. コールドチェーンについて学ぶ
    2. ブロックチェーンとは?
    3. ブロックチェーンがコールドチェーンをどう変える?
    4. RFIDによって、さらにブロックチェーンの可能性は広がっている
    5. ブロックチェーン×コールドチェーンの事例
    6. まとめ

    コールドチェーンについて学ぶ

    そもそもコールドチェーンって?

    コールドチェーンの流れ
    出典:株式会社ロジクエスト

    コールドチェーンとは、「生鮮食品や冷凍食品といった低温管理が必要な商品を、生産から輸送、保管といった流通プロセスを一貫して所定の温度を保つ仕組み」のことです。日本語では「低温物流体系」や「低温ロジスティクス」「生鮮SCM(サプライチェーン・マネジメント)」とも呼ばれています。

    現在では冷凍食品や生鮮食品だけでなく、花卉や医薬品、電子部品などさまざまな分野でコールドチェーンが活用されており、私たちの日常生活に欠かせない技術となっています。

    コールドチェーンの重要性

    冒頭にも説明した通り、コールドチェーンが整備されたことで私たちの生活は一変しました。では、具体的にはどのような場面でその役割を発揮しているのでしょうか?

    コールドチェーンの主な目的は、低温状態を維持することによって各商品の品質を一定に保つことです。これまでの輸送方法といえば通常のトラックで屋外の倉庫などに常温で運搬されるのが一般的でしたが、クール便や冷凍・冷蔵倉庫の拡大によって低温流通が実現しました。これにより、鮮度を保ったまま消費者の元へ様々な商品を送ることができるようになりました。

    また、低温状態を長期化させることで、各商品のロスも削減できますたとえば生鮮食品であれば低温管理によって雑菌の繁殖や鮮度の劣化を防ぎ、店舗でより長い期間販売できるため、賞味期限切れによる廃棄の減少に繋がります。

    さらに、コールドチェーンは商品の販路拡大にも一役買っています。従来の輸送形態では各地に中継地点となる物流の拠点が必要であり、品質維持の観点から遠方へのダイレクト輸送が困難でした。そのため、低温管理が必要な商品の輸送エリアは基本的には出荷地の周辺数十キロに限られていました。

    コールドチェーンによりこうした商品の長距離輸送が可能になったことで、出荷地から遠く離れた全国各地へ商品を届けることが可能となりました。一部地域でしか販売されていなかった商品や、鮮度を売りにした商品が遠方からでも購入できるようになり、経済圏を大幅に拡大させました。

    コールドチェーンの影響は、物流だけに留まりません。医薬品や血液パックなどの温度管理にも必須の技術となっています。特にコロナ禍では、ワクチンの低温管理が重要な政策として各国で認識され、一気にコールドチェーンの普及が進んだともいわれています。

    このように、コールドチェーンは物流業界以外にも、様々な業界へ影響を及ぼす重要なテーマとなっています。

    コールドチェーンの課題

    出典:shutterstock

    いまや現代人の生活になくてはならないコールドチェーンですが、いくつかの課題も露見しています。なかでも、特に問題視されているのが、温度モニタリングにおける人為的なミスです。

    鮮度や品質を担保する技術であるコールドチェーンでは、一貫した温度管理が絶対条件です。当然ながら、各商品は生産から消費者の手に届くまで、一定の温度が維持されているか定期的にチェックを行います。

    一方で現行のコールドチェーン管理は、定期的な温度モニタリングと手作業による記録管理に頼ってきたため、人の手によるミスや不正が起こりやすく、リアルタイムでの温度管理や可視性にも欠けていました

    人為的ミスが原因で空調が万全に機能していなければ品質の維持は担保できず、リアルタイムでモニタリングできなければ、スケジュールが少しずれるだけで想定外に商品を常温下に晒されることもあるかもしれません。

    また、ミスではなく意図的に低温管理が怠られる可能性もあります。ベトナムなどの東南アジア諸国では、ドライバーの賃金体系が運賃の中から会社利益を含む必要経費を除いた金額が収入となるケースがあります。したがって、少しでもガソリン代を節約するために、定期的なエンジン停止を行っているドライバーも少なくないのです。商品の品質だけでなく、誠実なドライバーが損をすることにもなってしまいます。

    リアルタイムかつシステマチックに監視を行わなければ、上記のようなミスや不正を解決することはできないでしょう。

    ブロックチェーンとは?

    ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

    ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

    ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

    取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

    ブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

    このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

    ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

    従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
    構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
    DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
    データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

    こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

    データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    ブロックチェーンがコールドチェーンをどう変える?

    出典:Pexels

    データの真正性が担保される

    従来のデータベースでは、企業や個人がすでに記録された管理履歴を改ざんすることは(知識があれば)容易でした。特に管理者による内部不正を防いだり検知するのは非常に困難です。一方のブロックチェーンは「ハッシュ」や「ナンス」、「公開鍵暗号方式」といった様々な要素によって、管理者も含めて改ざんすることが著しく難しいデータベースになっています。

    したがって、ドライバーや検温員といった各作業者のモラルに委ねられていた温度管理を厳格に行うことができます。これにより、理論上可能であった商品の品質の維持が内実ともに可能になります。

    また、データが常に正しいのであれば、仮に冷蔵・冷凍機器が故障していて品質に問題が生じた場合も、すぐにその原因となっている地点を特定することができます。自動車や家電などリコールが発生しやすい製品の製造ラインでは、比較的こうしたデータの取得を行っていることが多いです。しかしながら、生鮮食品などの分野ではこうしたサプライチェーンの管理が徹底されているケースは多くありません。こうした分野でもすぐに問題の根源を特定できるというのは新たな価値になりうるでしょう。

    チェーン全体でデータへアクセスできる

    ブロックチェーンでは分散してデータの管理を行います。したがって、従来のデータベースのように場合によってはデータの改ざんが可能な特定特権的なの管理者を持ちません。チェーンの参加者全員がデータへアクセスすることも可能です。こうした特徴を活かして、チェーン全体で当事者意識を持って品質の管理に取り組むことができます。

    たとえば、生産の段階で低温管理に最大限配慮している企業があるとします。しかし、その商品を配送するフェーズで温度管理を徹底しなければ、いくら生産者が努力したところで品質は向上しないままです。それどころか、現状のデータ管理では生産者は生産、配送業者は輸送のデータをそれぞれが管理しているために、生産者は原因が分からずじまいになってしまいます

    一方でブロックチェーンを導入しているコールドチェーンであれば、自社の担当範囲以外でも商品の情報を追跡できます。したがって、どこのフェーズが品質を低下させているかを相互に監視・確認し合うことで、品質を一定に管理できるような環境を構築できます。

    これはブロックチェーン技術を使った貿易プラットフォームや不動産プラットフォームが、売り手と買い手以外のどの関与者の間でどのような情報のやりとりがおこなわれているかを全プレーヤーで確認できるのと、構造は同じです。

    面倒な確認も不要で正当な取引が可能

    ブロックチェーンにはもう一つ、従来のデータベースにはない武器があります。それが「スマートコントラクト」です。スマートコントラクトとは、事前に決めた条件に基づいて、それを満たした場合には自動的に契約が実行されるという仕組みのことです。

    このスマートコントラクトを活用すれば、正当な取引が可能になります。これまでの取引では、物流段階での温度管理が実際にされているかどうかはわかりませんでした。そのため「されているだろう」の暗黙の了解のもと、物流業者の信用において取引がされていました。

    スマートコントラクトを用いれば、条件に低温管理(◯度以下で配送が行われた)を設定することで、条件を満たしている商品に対して自動的に受け入れを行えるため、両者にとってフェアな取引を瞬時に完了できます。時間や手間をかけることなく商取引が行えるため、時間をより有効に使うことができるでしょう。

    また、万が一契約温度を下回ってしまったことが検知されたら、スマートコントラクトを活用することで自動で追加発注を掛けられます。追加発注の確認待ちによる時間のロスを大幅に削減することも可能になるかもしません。

    RFIDによって、さらにブロックチェーンの可能性は広がっている

    出典:shutterstock

    コールドチェーンで重要な検討事項となるのが、データの取得点です。データの管理をブロックチェーンで行うことで真正性を担保したとしても、効率よくデータの連携をすることができなければブロックチェーンの導入メリットは限られたものになってしまいます。

    これまでの多くのコールドチェーンでは「データロガー」と呼ばれる温度管理システムが用いられており、各ロガーから得た情報を事後管理するやり方が一般的でした。しかし、データロガーを用いた方法ではリアルタイムの状況に合わせた温度管理ができないばかりか、コストの観点からも適用できるのはトラックやコンテナ輸送のような商品が集積された管理形態に限定されてしまいます。そのため、コールドチェーンで求められる個別商品単位でのきめ細かな管理ニーズに応えることができませんでした。

    この課題を解決するために、近年、RFIDと呼ばれるツールが利用され始めています。RFIDとは「Radio Frequency Identification」の略で、近距離の無線通信を用いてID情報などのデータを記録した専用タグと非接触かつ自動で情報をやりとりするシステムのことです。

    出典:キーエンス ハンディターミナル活用ガイド

    RFIDの最大の特徴は、遮蔽物・距離に強いこと、そして複数のタグを一括読取できることです。バーコードやQRコードのようにカメラを用いて読み取るシステムとは異なり、RFIDは電波を用いて情報をスキャンします。そのため、離れていたり、他のものと重なっている場合でも、安定して読み取ることが可能です。段ボールなど箱の中に入っているタグの情報も読み取ることができます。

    さらに、ICタグにはラベルタイプのものやプラスチックなどのハードケースに包まれたもの、交通ICのように「かざす」動作で通信するNFCタイプのものなど様々な種類が存在します。サービスや商品の性質、読み取りシーンに合わせたタグを扱うことができるため、導入のハードルも一気に下がるでしょう。

    こうしたツールを活用することで、新しいコールドチェーンでは、商品ごとの個別情報を一元管理し、各商品に個別最適化された温度管理を行うシステム(つまりはIoTシステム)が実現するといわれています。

    RFIDとブロックチェーンを組み合わせることで、安全かつ簡易化された温度データ管理の時代が訪れるでしょう。受発注・決済・所有権移転も含めたトレーサビリティをリアルタイムかつ関係各社で一元管理できるようになるため、サプライチェーンマネジメントを大きく飛躍させると期待されています。

    ブロックチェーン×コールドチェーンの事例

    2024年現在、流通業界ではブロックチェーンをはじめとする先進技術によってプロセスイノベーションを起こすべく、各社で大規模な技術開発や実証実験が行われています。ここからは、ブロックチェーンとコールドチェーンを掛け合わせた事例についてご紹介します。

    東京都立産業技術研究センター

    東京都立産業技術研究センターはモノコトデザイン株式会社、ビヨンドブロックチェーン株式会社と共同で、ブロックチェーン技術を使ったセキュアなオープンプラットフォームを開発しています(2023年5月より一部機能の運用開始)。

    このプラットフォームでは、POS(販売時点情報管理)やWMS(倉庫管理システム)など、すでに使われている複数のシステムとの連携しながら、コンタミネーション(異物混入)の防止や食品衛生規格などのトレーサビリティにも対応しています。

    出典:東京都立産業技術研究センター

    データの取得にはRFIDを採用しており、端末で収集したデータを、簡単に物流サーバへアップロードすることが可能です。また、配送ボックスは内部に開封検知機能と温度センサ機能を有しており、配送ボックスの外側にRFIDタグを貼付して、輸送履歴をトレースします。したがって、温度管理に加えて中身の入れ替えなどがないことを検出できる仕組みになっています。

    同サービスはデータ改ざんの防止に利用されるブロックチェーンを使うことにより、今後ますます複雑化が予想される物流システムを透明化し、安全性の担保が必要となる商品のトレーサビリティデータを記録していくということです。

    北京市

    出典:shutterstock

    2020年11月、中国の首都である北京市はブロックチェーンを活用したコールドチェーンプラットフォームである「北京冷鏈」をスタートさせました。これにより、消費者が冷凍食品を直接トレースできるようになりました。

    契機となったのは同年の6月に、北京の食品卸売市場で輸入サーモンをさばいたまな板からコロナウイルスが検出されたことでした。感染の中心地である中国において、このニュースは大々的に報じられ、スーパーの店頭からはサーモンの姿が消えて輸入も一時停止されました。

    こうした騒動を受け、「コールドチェーン導入」は、感染防止におけるキーワードに浮上しました。実は、先進国では食品物流の90%はコールドチェーンを経由しているのに対し、中国の普及率は極めて低く、70%は常温で管理されています。アイスクリームさえ毛布などに包んで常温で配送することもあるそうで、コールドチェーンの導入が喫緊の課題です。

    そういった背景のなかで、公的な研究機関である微芯区塊鏈研究院が中心となって「北京冷鏈」の開発に成功しています。Wechat、 Alipayといったアプリを通して、当該商品の二次元コードをスキャンするだけで、商品履歴を確認できる仕組みです。

    この国家的プロジェクトにおいても、ブロックチェーンはコールドチェーン食品の生産元、流通、倉庫保管、消費などの各段階のデータの改ざんを防ぐ技術として採用されています。

    IBM ×  eProvenance

    出典:Unsplash

    ブロックチェーンの社会実装を積極的に行っているIBM社も、もちろんコールドチェーン分野に進出しています。同社はワインの出荷分析を行っているeProvenanceと共同でブロックチェーンプラットフォーム VinAssureの立ち上げを行いました。

    ワインの保管と輸送中の温度条件は、品質に重大な影響を与えます。そのため、他の高級酒が常温でも保存がきくのに対して高級ワインはワインセラーでの保管が必須です。また、眠らせれば眠らせるだけ深みや価値が出てくるワインでは、24時間365日常に低温で管理される必要があります。

    VinAssure は、AIやブロックチェーン、クラウドといった様々な先端テクノロジーが活用されているBlockchain Transparent Supplyをカスタマイズすることで、ワインに関する製造・管理のデータを追跡することが可能です。

    プラットフォームの参加者はワインボトルにあるQR コードを読み取ることでサプライチェーン情報にアクセスでき、製品の認証基準、品質、オーガニック関連情報などを確認することができます。また、消費者だけでなく、ワインメーカーも生産に費やされた細心の注意を反映しているという、セルフブランディングにも活用することができます。

    VinAssure にはすでに米国に本拠を置く複数のワインメーカーも参加しており、今後もサービスの拡大が期待されます。

    日立製作所

    出典:ビジネス深耕

    東南アジアでは、近年の経済発展とともに高所得者層が増加し、品質管理された食品への要求が高まっています。しかしその一方で、コールドチェーンが未発達なことにより品質管理された食品が十分に消費者に提供されていません。こうした状況をコールドチェーン物流によって改革しようという試みが、日立製作所FCPF(Food Chain Platform、フードチェーンプラットフォーム)構想です。

    出典:日立製作所

    本プロジェクトでは、同社が開発した温度検知ラベルを用いることで、商品ごとに個別に、しかも安価に取り付けることができるため、輸送単位を限定することなく、生産者から消費者までのすべての工程で適切な温度管理を行うことができるとされています。

    出典:日立製作所

    同社は、「FCPFは温度検知ラベルのほかに、ブロックチェーン、ロジスティクス管理、画像診断/AI(Artificial Intelligence)、保冷ボックス、鮮度・熟成度シミュレータなど複数の日立の強み技術を活用し、食品の品質管理、トレーサビリティ、ダイナミックマッチング、物流指示などのサービスを提供することで、生産、卸、物流、小売り、さまざまなステークホルダーの要求に応じた価値を提供する」ことで、「従来よりも安価なコストできめ細やかな温度管理」を実現するとしています。

    本プロジェクトは、センシングデバイスとIoT技術、AI、そしてブロックチェーンを組み合わせることで、コールドチェーンの課題をDXで解決しようとする好例だといえるでしょう。

    まとめ

    本記事では、ブロックチェーンがコールドチェーンに対してどのような貢献ができるのかについてご紹介しました。

    コールドチェーンは現代の物流を支える重要な技術であり、今後ますます拡大が予想されます。一方で、導入にあたっては、仲卸業者や輸送業者などサプライチェーンに関わる人たちに理解や協力をしてもらう必要もあるかと思います。

    従来のデータ管理では、かえって仲卸業者や輸送業者の手間が増えてしまい、なかなか理解や協力を得られないでしょう。ブロックチェーンによって安全かつ迅速なデータ管理を実現することで、こういった社内外の調整業務もスムーズに進むことでしょう。

    トレードログ株式会社では、非金融領域におけるビジネスへのブロックチェーン導入を支援しています。新規事業のアイデア創出から現状のビジネス課題の解決に至るまで、包括的な支援が可能です。

    自社のコールドチェーンについて少しでもお悩みがございましたら、是非オンライン上で30〜60分程度の面談をさせていただければと思いますので、お問い合わせください。

    ブロックチェーンは不動産業界50兆円市場の切り札となりうるか?

    不動産業界は2024年現在、国内約33万社、市場規模約50兆円を誇る巨大産業です。その不動産業界ではいま、ブロックチェーンを活用したビジネスが増えています。「不動産×ブロックチェーン」はどういった面で業界を変革できるのか?事例も交えて解説します!

    1. 不動産業界の有望技術として注目を集めるブロックチェーン
    2. ブロックチェーンとは?
    3. 「不動産×ブロックチェーン」が実現する2つのアプローチ
    4. 「不動産×ブロックチェーン」の事例
    5. まとめ

    不動産業界の有望技術として注目を集めるブロックチェーン

    出典:shutterstock

    不動産業界は、国内30万社以上のプレイヤーが存在し、市場規模は約50兆円ともいわれる巨大産業です。国土交通省の不動産業ビジョン2030によると、全産業に占める不動産業の法人数比率は11.5%と、他産業と比較してもその規模の大きさが窺い知れます。

    またその歴史も古く、昔からの取引関係や商慣行などが色濃く残り続けている業界でもあります。

    そうした不動産業界で、近年、ブロックチェーン技術を活用した新たなサービスがいくつもローンチされ、業界の課題解決に対する期待が高まっています。

    たとえば、大手ハウスメーカーの積水ハウスでは、ブロックチェーンを活用した次世代不動産プラットフォーム構想が推し進められています。

    2023年5月には国土交通省公募の「不動産IDを活用した官民データ連携促進モデル事業」において、同社が研究を進める「不動産IDを用いた転入居手続きにおける自治体連携DXに関する取り組み」が採択されています。

    出典:積水ハウス

    現在、同社ではすでに賃貸住宅の入居申込みで入力された氏名、住所などの利用者の情報を電気・ガス・光回線・引っ越しの民間企業にブロックチェーンを用いて連携することで、引っ越し時に必要な手続きを簡素化できるサービスを実施しています。

    今回のモデル事業では、従来モデルのような民間企業だけでなく、水道使用開始の手続きや転出・転入届という自治体への届け出も情報連携により完結させることで、利用者の更なる利便性の向上を目指します

    引っ越しを経験した方であればご存じのように、転居後は引っ越し、電話、電気、ガスなど様々な生活インフラの変更や申し込み等、いくつもの手続きが必要です。そのなかでも市役所・区役所へ直接届け出なければならない転入届は、多くのサラリーマンの勤務時間と役所の業務時間が重なっており、昼休みや場合によっては時間休を取得するケースもあります。

    こういった問題に対して、データの真正性が担保されたブロックチェーンを基盤とするシステムを導入することにより、不動産を一意に特定できる「不動産ID」を企業や自治体とシームレスに連携することが可能になります。

    このサービスが大規模に展開されれば、いままで手作業で照会していた不動産の業務が効率化され、私たちはスマホでホテルを予約するような手軽さで引っ越しが可能になるでしょう。

    こうした、ブロックチェーンを利用して不動産業界に変革をもたらそうという動きが、近年加速してきています。なぜ不動産業界でブロックチェーンが注目されているのでしょうか?まずはブロックチェーンの概要について解説します。

    ブロックチェーンとは?

    ブロックチェーンの概要

    ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

    ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

    ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

    取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

    ブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

    このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

    ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

    従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
    構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
    DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
    データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

    こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

    データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    ブロックチェーンのビジネスモデル進化

    ブロックチェーンは、この10年間あまりで技術の進展とともに、技術の応用領域、そしてビジネスモデルを進化させてきました。

    進化の歴史は、ブロックチェーン1.0、2.0、3.0という呼称で知られています。

    ブロックチェーンは、2008年に誕生した当時はまだ、仮想通貨ビットコインの中核技術の一つに過ぎませんでした(ブロックチェーン1.0)。

    その後、Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)が、ビットコインの仕組みを仮想通貨以外の領域に応用するべくEthereumを開発し、個人間送金や契約の自動履行など、主に金融領域でのビジネス活用が盛んに行われるようになりました(ブロックチェーン2.0)。

    そして、近年、Ethereumのtps(トランザクション速度)の遅さを改善したEOS(エオス)、toB企業向け開発に特化したQuorum(クオラム)Hyperledger Fabric(ハイパーレジャーファブリック)などのプラットフォームが登場し、またブロックチェーン技術の有用性に対する社会の関心が高まったことを背景に、非金融領域へのビジネス活用が急速に進み始めています(ブロックチェーン3.0)。

    不動産業界は、このブロックチェーン3.0の代表的な応用領域と言えるでしょう。

    「不動産×ブロックチェーン」が実現する2つのアプローチ

    近年、不動産業界でブロックチェーンが注目される背景には、「オープン」「真正性」「分散的」といったブロックチェーンの諸特徴と不動産業界が抱えている課題との相性の良さがあります。ここでは、ブロックチェーンが不動産業界で実現できることについて見ていきます。

    安全かつ自動的なデータ共有

    出典:ぱくたそ

    不動産業界にブロックチェーンを導入することで実現する未来の一つは、安全かつ自動的なデータ共有です。

    不動産取引は参加しているプレイヤーが多いうえに、セキュリティ上の理由からそれぞれのプレイヤーが持っている情報を公には公開できない、いわゆる「情報の非対称性」が存在しています。そのため、ひとつの取引が完了するためにいくつもの手続きや情報確認を重ねる必要があり、本人のスケジュールに加えて金融機関の営業時間や不動産業者の定休日なども考慮すると、どうしてもスローな展開になりがちなのです。

    以下に、場面ごとに不動産や住所データの非対称性や連携における課題をピックアップしました。

    • 登記
      • 「役所」と「登記申請者」間の非対称性が課題
      • 役所からすると、「不動産の所有者は本当にこの登記申請者本人なのか?」を確かめることが難しい。そのため、権利証明や複雑な登記申請手続きが必要となり、人件費や確認作業が必要となる。場合によっては確認ミスによって不正確なデータが登録されてしまうことも
      • 登記申請者からすると、登録のためだけにわざわざ法務局などに出向いて書類を申請しなければならない。登記に必要な情報の整理や提出に手間がかかる
    • 売買
      • 「買い手」と「売り手」間の非対称性が問題
      • 買い手からすると、「この人は本当に所有しているのか?」「隠れ抵当権がついてないか?」「入居者間や近隣で厄介なトラブルはないか?」という疑念がつきまとう
      • 売り手からすると、「そもそも適正な価格なのか?」「本当に支払い能力があるのか?」という疑念が付きまとってしまう
      • 双方の信用を担保するための第三者仲介が必要となり、「両手取引」における高い二重の手数料がコストとしてのしかかる
    • 賃貸
      • 「借り手」と「貸し手」間の非対称性が課題
      • 借り手からすると、「ここは事故物件ではないか?」「家主はなにかあったときにしっかりサポートしてくれるのか?」など見た目だけで判別できない情報が必要。また、引っ越しの際には自治体に直接、転出届を送ったり、インフラの開通手続き(または移転手続き)をしなければならない
      • 貸し手からすると、「この人は毎月きちんと家賃を支払ってくれるのか?」「この人はモンスター住民にならないか?」といった不安が生じる
      • 「仲介業者」と「管理会社」間の非対称性が課題となるケースも
      • 内見時に管理会社の許可が必要であり、営業時間や休業日の関係で内見ができず、契約の機会を逃してしまう

    ここに挙げた例は一部に過ぎず、実際のシーンごとに情報連携がスムーズでないことに起因するトラブルや困りごとはたくさんあります。

    こうしたプレイヤー間の情報非対称性に起因した不動産取引の課題に対して、ブロックチェーンは、オープンかつデータの改ざんのリスクが限りなく低いデータ基盤による第三者を排除した分散型の管理手法を提供できます。したがって、情報の真正性を担保したまま業種の垣根を超えてスムーズに情報を取得することが可能になります。

    また、トランザクション(取引)や外部の情報をもとに、あらかじめ設定されたルールで自動的に実行されるプログラムであるスマートコントラクトも、不動産契約をスムーズ化させるでしょう。

    一般的な契約は、契約当事者が書面で契約内容を定め、契約に基づいて取引が行われます。スマートコントラクトによる契約であれば、従来、人の手で逐一実行せざるを得なかった不動産取引における付随業務を、ブロックチェーン基盤上でおこなうことができます。

    法的課題など技術面以外で解決しなければならない課題もありますが、このスマートコントラクトを活用することで、条件が合致した時点で自動で契約が有効になるような仕組みも将来的には実現可能です。

    不動産の小口証券化

    出典:shutterstock

    不動産業界の課題でもう一つ注目されているのが、「小口証券の実現」です。

    従来、不動産業界では、REIT(不動産投資信託)などにより、不動産の証券化が進められていました。

    しかし、証券化できる不動産の規模は、中〜大規模なものに限定されており、たとえば、山村で廃屋になった古民家、ニュータウンで独居老人の住んでいた空き家、などはあまり対象とされてきませんでした。

    また、REITはリスクマネジメントの観点から多様な不動産プロジェクトへの投資をおこなう一方で、単一の不動産物件に対して投資をおこなうことはありません。実際に不動産を購入、運用するのは投資法人であり、投資家に物件の所有権がないため、共同所有することもできませんでした。

    これは、従来の不動産ファンドでは組成運用コストや所有権の授受という面で小規模な不動産ではそのコストを回収しきることができず、ファンド組成が難しかったためです。

    この課題に対して、ブロックチェーン技術を用いることで、トークンなどの活用により証券をデジタル化して流通性を高めようという動きがあります。いわゆる「不動産STO(セキュリティ・トークン・オファリング)」という方法です。

    STOとは、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法のことです。有価証券は、債権や株式、投資信託など、財産的な裏付けや権利を持っており、その権利を他人に移転したり、行使したりする際に受渡・占有が必要とされる証券のことを指します。

    不動産の販売主と購入者が直接取引所とを介してトークンの売買をおこなうことで、個人単位で不動産を共同所有できるようになりました。また、二次流通に関しても、トークンの売買だけで不動産の売買が完了するため、手軽さも兼ね備えています。

    こうした取り組みが進むことで、REIT市場が取りきれなかった新たな不動産マーケットの開拓が進んでいくと見られています。

    STOについて詳しく知りたい方は下記の記事も併せてご覧ください。

    「不動産×ブロックチェーン」の事例

    株式会社LIFULL

    出典:LIFULL HOME’S facebook

    「不動産×ブロックチェーン」の代表事例として注目を集めているのが、不動産情報サイトを運営する株式会社LIFULLによる不動産情報コンソーシアム「ADRE(Aggregate Data Ledger for Real Estate、アドレ)」です。

    この取り組みは、「異業種プレーヤー間で不動産データを共有・連携することにより、不動産業界の抱える課題を解決するとともに、不動産業界・取引市場を発展させる」ことを目的に様々な業界のプレイヤーがコンソーシアムを組んで設立されました。

    出典:LIFULL HOME’S PRESS

    従来の物件ポータルサイトでは、リアルタイムに最新の情報を更新できるわけではありません。気に入った物件を問い合わせてみると、すでに先約が入ってしまっていることは往々にしてあることです。また、同じ物件なのに家賃や初期費用がバラバラでどれが正確な情報なのかよくわからないということも少なくないです。

    不動産業界においては、1つの不動産に関する情報が、仲介会社や管理会社、インフラ会社などにバラバラに保有されているため、こうした問題が起こりやすいといえるでしょう。

    こうした状況でプラットフォームデータベースが各社に共有されれば、これまで各社の中で個別に管理され、取引コストのもととなっていた情報がスムーズに共有され、不動産賃貸の領域において、様々なコストダウンが進むと見られています。

    そして、こうしたADREによる「情報の非対称性」の解決をサポートしている技術が、ブロックチェーンです。業界横断プラットフォームの中核技術としてブロックチェーンを採用した理由として、同社は「分散管理型のブロックチェーンは公的プラットフォームの構築に向いている」としています。

    これは、本記事でも説明した通り、「オープン」で「中央管理者がいない」基盤であるブロックチェーンが、プレイヤー数が多く、利害関係が一致しづらい不動産業界の課題解決に向いていることを示す好例だと言えるでしょう。

    2019年7月に物件情報の特定・識別を実施するため、不動産IDの開発に着手すると、2020年4月には丸紅株式会社、株式会社GA technologiesら新たなメンバーも加わり、2020年10月に不動産ID発行システムのβ版を公開する運びとなり、一般社団法人不動産情報共有推進協議会を設立するなど、着々と活動の裾野を広げています。

    また、LIFULLは流行りの不動産STOのパイオニアとも呼べる存在です。「葉山の古民家宿づくりファンド」と呼ばれる、築80年の葉山の古民家宿づくりプロジェクトにおいてSTOを実施。歴史的価値のある建築物を有効活用するための資金調達としてだけではなく、古民家が綺麗に生まれ変わってさらなる付加価値が生じた際には、簡単に持ち分譲渡の第三者への持分譲渡が可能になるモデルとなっています。

    出典:LIFULL

    これは一般投資家向け不動産STOとしては国内初の事例であり、同社の不動産領域へのブロックチェーン導入の関心の高さを示す好例のひとつです。

    Propy

    出典:Cryptonaute

    「不動産×ブロックチェーン」の海外事例として有名なものに、オンライン国際不動産売買プラットフォーム「Propy(プロピー)」があります。

    Propyは、2015年に設立した、アメリカのカリフォルニアに拠点を置くフィンテック系ベンチャー「Propy Inc.(プロピーインコーポレーテッド)」が開発した分散型の所有権登録が可能な不動産マーケットプレイスです。

    国際的な不動産取引シーンでは、売買を仲介するブローカー・取引の安全性を保証するエスクロー・土地の登記をおこなうタイトルエージェント・送金業者など複数の仲介業者とやり取りをする必要があります。

    こうした取引の長期化や詐欺といったリスクや大量の書類を作成するための事務コストに対して、Propyはブロックチェーン上のスマートコントラクトを利用することで、買い手、売り手、仲介業者、エスクロー/タイトルエージェント/公証人を一か所に集め、取引を円滑化しようとしています。

    また、Propyではさらに不動産取引を迅速におこなうためにNFTを使用しています。仕組みとしては、買い手から売り手にオファーを出し、取引内容が合意できれば、所有権を紐づけたNFTの授受と金銭の授受が同時におこなわれます。

    NFTとは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。

    【初心者向け】NFTとは何か?どういう仕組みなのか?簡単に・わかりやすく解説!

    煩雑な本人確認や、書類のやり取りが省略され、手続きはすべてオンライン上で完結します。そのため、海外からも買い手がオファーを出せるようになります。

    最終的には、下の図のような売り手と買い手、取引に必要な情報を調査する仲介者だけからなるP2P不動産取引プラットフォームの実現を目指しており、不動産投資の自動化と民主化に注力しています。

    出典:PROPY

    Propyも、すでに説明した不動産業界における情報の非対称性に伴う取引リスク(とその結果として必要になる取引コスト)を減らすために、ブロックチェーン技術を活用している好例だといえるでしょう。

    NOT A HOTEL NFT

    出典:NOT A HOTEL

    PropyのようなNFTによる不動産管理は、国内でもすでにサービス化が進んでいます。それがNOT A HOTEL NFTです。

    NOT A HOTEL NFTは不動産資産をシェア購入(共同持分)できるサービスである「NOT A HOTEL」という同社の別サービスのホテル利用権についてNFT化をおこない、物件を購入せずとも、より安く、1日単位でNOT A HOTELの物件に宿泊できるサービスとなっています。

    日本において、NFTを含む無体物であるデータは民法上の所有権の対象にはなりません。したがって、所有は共同持分として実際の別荘のように保有するモデルとしてローンチし、利用権についてはNFTを活用することで二次流通にも対応できるようになっています。

    また、ブロックチェーンを用いることで不動産利用の安全性・防犯性も確保。物理キーとは異なり、勝手に改ざん・複製できない(複製が検知される)ことで、47年間という建物の法定耐用年数と同じ期間の利用期間であっても、メンバー全員が安心できる設計となっています。

    NOT A HOTELはこの他にも「NOT A HOTEL DAO」と呼ばれるEthereumブロックチェーン上で発行される仮想通貨(資金決済法2条14項1号が定めるところの1号暗号資産)を活用した、自社施設や開発用の土地の保有・運用プロジェクトを計画中です。

    この仮想通貨はNOT A HOTELが運用する不動産を裏付けとしたRWA(現実資産)トークンということもあり、今後の動向に注目が集まっています。

    株式会社RESA

    出典:満室ナビ

    株式会社RESAは、賃貸住宅市場における借主と貸主の直面する複雑な契約手続きと入居者確保という問題を、ブロックチェーン技術を駆使して解決する特許を取得しています。

    同社ではこれまで、空室の解消に向けて「満室ナビ」というサービスを提供しています。満室ナビは、AI活用により賃貸用不動産の投資効率を向上させるツールです。満室となっている物件のデータを収集し、そのパターンを学習することでデータに基づいた設備投資が可能になります。

    しかし、集客段階においては依然ポータルサイトからの誘導に依存する傾向があり、入居者確保は投資効率に大きく影響します。また、借主は物件検索から賃貸借契約、電気・ガス・水道のインフラ契約、住民票の移転など数多くの手続きが必要で、その煩雑さが大きなストレスになっています。

    ​​そこでこれらの課題を解決するために、借主が好む成約率の高い物件を多数マーケットプレイスに掲載し、ブロックチェーンを活用して契約手続きをスムーズにおこなう特許を取得しました。借主の入退去手続きをスマートコントラクト化することで、貸主の入居者確保も促進されると見込まれています。

    新たな賃貸住宅市場の形をブロックチェーンで模索したビジネスの事例としてご紹介しました。

    ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜

    出典:SKY TREK

    国内で数多くの不動産STOをおこなっているケネディクス株式会社のSTO事例のなかでもとくに目を引くのは東京ディズニーリゾートオフィシャルホテルである「グランドニッコー東京ベイ 舞浜」を裏付け資産とした「ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜(譲渡制限付)」の運用でしょう。

    JR京葉線・武蔵野線「舞浜」駅より無料シャトルバスで7分、ディズニーリゾートライン「ベイサイド・ステーション」駅より徒歩約4分に位置する同ホテルは、南欧プロバンスの街並みをイメージコンセプトにしたアトリウムが特徴的な都市型リゾートホテルで、 2023年春には全客室のリニューアルを完了しています。

    出典:ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜

    今回取得の対象となるのは、信託受益権(対象となる資産を信託し、当該資産から発生する経済的利益を受け取る権利)の準共有持分(所有権以外の財産権を複数人で共有する) 25%ベースとなっています。

    1口当たりの発行価格は100万円と高額ではありますが、固定賃料の安定性に加えて変動賃料のアップサイドポテンシャルからなる長期賃貸借契約であり、絶好のロケーションからも人気のSTOとなりました。

    発行するSTの口数は5,815口で総額は58億1,500万円の大型プロジェクトでしたが資金調達額の募集は無事完了。運用期間は約6年10ヵ月とのことで、話題性だけではなくどのような結末をたどるのか楽しみな事例です。

    まとめ

    本記事では不動産分野へのブロックチェーン導入可能性について解説しました。

    ブロックチェーンというと新技術としてとりあえず実証してみる、という企業も多かったですが、こと不動産分野においては個人情報や登記とブロックチェーンの耐改ざん性という相性の良さから本格的なビジネス導入も進んでいます。

    約50兆円という巨大マーケットにおいて、ブロックチェーンは未知の可能性を秘めています。不動産業界進化の起爆剤として、ブロックチェーンは大きく期待されることでしょう。新たなビジネスモデルの登場が待たれます。

    トレードログ株式会社は、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

    ビットコインETFとは?仕組みやメリットをわかりやすく解説!

    2024年1月、アメリカの規制当局がビットコイン現物ETFの承認を発表しました。この決定はデジタル資産業界においては画期的ともいえる内容であり、たちまちビットコイン市場全体が急騰する結果となりました。

    今回はそんな国内外から大注目を集めているビットコインETFについて、仕組みやメリットなどについてイチから解説していきます。

    ※本記事ではビットコインETFの基礎知識や時事ニュースに関連した情報掲載を行っておりますが、特定の銘柄推奨や投資活動の勧誘を目的とするものではありません。内容についても執筆者個人の見解であり、その正確性や信頼性を保証するものではありません。投資の最終判断は、ご自身で行っていただきますようお願いいたします。

    1. ついにSECがビットコイン現物ETFを初承認!
    2. ETFとは?
    3. ビットコインETFとは?
    4. ビットコイン現物ETFが実現すると何が変わる?
    5. ビットコインETFの注意点
    6. 日本でもビットコインETFに投資できるの?

    ついにSECがビットコイン現物ETFを初承認!

    出典:shutterstock

    米証券取引委員会(SEC)は2024年1月10日、暗号資産ビットコインについて、現物投資型の上場投資信託(ETF)の上場申請を承認したと発表しました。

    今回、SECが承認したのは、ブラックロック、アーク・インベストメンツ、21シェアーズ、フィデリティ、グレイスケールなどが申請した11のETF。一部の銘柄は早ければ1月11日から各証券取引所に上場し、取引が可能になるとしています。

    SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION (Release No. 34-99306; File Nos. SR-NYSEARCA-2021-90

    現物型ビットコインETFの承認は米国史上初のケースであり、時価総額約9000億ドル規模を誇る世界一のデジタル資産の新たな歴史の1ページとなる画期的な出来事といえるでしょう。

    年明けには、ビットコイン現物投資型ETFをSECが承認したという虚偽の投稿がSECの公式Xアカウントに一時表示されるなど、様々なハプニングがあった本件。ビットコイン(BTC)の価格変動に影響を与える多くの要素のなかでも、資金流入という面でとくに大きな意味を持つビットコインの現物ETFの承認は新年を賑わせるビッグニュースとなりました。

    SECとは?

    SECとは、「Securities and Exchange Commission」の略で、日本語では「証券取引委員会」と呼ばれています。投資家保護および公正な証券取引を目的として1934年に設立された連邦政府機関です。

    SECは投資家の保護と公正な市場を目的とし、株式や債券などの証券取引の監督・監視を行っています。証券の発行や流通といった証券市場を取り締まる規制について、絶大な権限を持っている機関です。

    日本でも証券取引等監視委員会が同様の役割を担っていますが、金融庁の傘下機関であり、違反者に対する処分権限のない機関です。 一方の SECは、インサイダー取引や相場操縦など不公正取引に対しての処分権限を有しており、司法に準じる権限を持った強力な独立機関となっています。

    アメリカは現在の金融市場、そして暗号資産の中心地として栄えています。そのため、多くのビットコインETFもまたアメリカの証券取引所への上場をターゲットにしてきました。ETFを金融市場に上場する場合は、その国の規制当局の承認を得る必要があるため、ビットコインETFを語るうえではSECの存在が非常に重要になっているというわけです。

    なぜいま、ビットコイン現物ETFが認められたのか?

    ビットコイン現物ETFを推進したい勢力とSECとの間には長い間、確執がありました。2013年に初期のビットコイン投資家として有名なウィンクルボス兄弟のビットコインETF申請を却下して以降、SECは10年余り「反対」の姿勢を取り続けてきました。

    長らく詐欺や市場操作などに悪用される可能性を否定できないという主張を続けてきたSECが、一転してビットコインETFを承認するに至ったのはなぜでしょうか?

    その答えは、米連邦控訴裁判所(連邦高裁)の現物ETFに対する判断にあります。

    資産運用会社のグレースケールは、GBTC(ビットコイン市場に連動した投資成果を追求する投資信託)のETF転換申請を認めなかったSECの決定を不服として連邦高裁へ提訴していました。そして、その判決が2023年8月に下されました。

    その内容は、グレースケールによる申請を棄却したSECの判断は誤りだというもの。SECが主張し続けてきた投資家を保護できないという却下理由は恣意的で気まぐれなものという認定を受けました。実は、先物でのビットコインETFはすでに実用化に至っており、この仕組みを流用すれば投資家保護には事足りるというグレースケールの主張が認められたのです。

    したがって、この判決によって合理的な仕組みやその説明さえあれば、SECとしては現物ETFを承認せざるを得なくなったというわけです。こうした背景があり、今回ようやくビットコイン現物ETFが承認に至りました。

    ETFとは?

    ビットコインETFについて見る前に、そもそもETFとはどういう仕組みなのか理解していきましょう。

    ETFは、「Exchange Traded Fund」の略で、日本語では「上場投資信託」あるいは「指数連動型上場投資信託」と表現されます。

    投資信託とは、投資家から集めたお金を一つの大きな資金としてまとめ、運用の専門家であるファンドマネージャーが株式や債券などに投資・運用する金融商品のことです。運用益は、分配金として投資額に応じて還元・分配される仕組みとなっています。

    指数連動型の投資信託(インデックスファンド)では、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)といった指数に連動した運用をします。ETFもインデックスファンドのようにある特定の指数に連動するように設計されており、なかでもとくに上場して証券取引所で売買される投資信託のことをETFいいます。

    ETFと株式、投資信託の違い
    出典:NEXT FUNDS

    ETFとインデックスファンドの最大の違いは、1日1回算出される基準価額で購入される非上場の投資信託とは異なり、ETFは証券取引所で取引されるため、株式と同様にリアルタイムで価格が変動し、注文や取引が可能になるという点です。

    つまり、投資信託は注文を出した時点では取引される価格が分からないのに対して、ETFでは取引したい価格で発注・売買することが可能です。

    ビットコインETFとは?

    出典:Unsplash

    ビットコインを主な投資対象とするETF

    ビットコインETFとは、価格がビットコインと連動するように設計された上場投資信託です

    ETFには、株式以外にも金(ゴールド)や不動産といったユニークな商品があります。そうした株式以外の銘柄が証券取引所に上場し、個人が取引しやすくなるという特徴があります。このETFの仕組みを活用し、安全で透明性の高いビットコインの取引を実現したのがビットコインETFというわけです。

    具体的な仕組みは上場申請されるビットコインETFの商品設計に依存しますが、基本的には金(ゴールド)に連動したETFと同様に、ビットコインの現物価格や先物価格に連動するように設計されています。

    現物ETFと先物ETFは何が違う?

    ビットコインETFは、ビットコインの先物価格に連動するか現物価格に連動するかによって、「先物型」と「現物型」に分けられます。

    アメリカでは2021年10月に承認されていた先物ETFとは、将来のあらかじめ定められた期日に、ビットコインを現時点で取り決めた価格で売買することを約束するETFのことで、現物取引とは異なる価格が形成されます。   

    たとえば、先物ETFでビットコインをある期日に10万円で購入することを決めておけば、期日までに相場が変動してビットコインの価格が上昇しようと下落しようと、支払う金額は10万円です。

    また、現物ETFでは基本的に取引金額の全額を取引時に用意しなければなりませんが、先物ETFでは取引時点で全額を用意する必要はなく、代わりに「証拠金」と呼ばれる担保を差し入れて取引を行います。

    今回、上場が承認された現物ETFは、実際のビットコインの市場価格と連動した形となります。そのため、ビットコイン価格の市場動向に直接影響を受ける要素が強くなります。

    また、現物取引となるため、手持ちの資金以上の取引や保有していない株式の売却はできません。したがって、投資金額以上の損失は発生しません。先物型のETFに比べ、リスクを抑えたい場合は現物型のETFへ投資するのが一般的です。

    ビットコイン現物ETFが実現すると何が変わる?

    出典:shutterstock

    ビットコイン投資のハードルが下がる

    通常、ビットコインを直接購入する場合には多くの予備知識が必要であり、ウォレットの管理なども自分でやらなければなりません。また、ビットコインでは株のようにストップ高やストップ安が存在しないため、価格の変動率(ボラティリティ)が高くなります。そのため、「ハイリスク・ハイリターン」の金融商品であり、初心者にはハードルが高いです。

    ETFであれば取引所で終日売買されるため、証券会社を通じて口座を開設するだけで簡単にビットコインETFに投資できます。その後の運用は投資の専門家がおこなうので、知識がなくても投資パフォーマンスを高められます

    信託報酬と呼ばれるサービス料が毎月差し引かれていきますが、投資に必要な金融・経済の知識を個人で身につけるのはとても難しいものです。極論、全く投資をしたことがない人でも安定した運用ができるという点は大きなメリットといえます。

    これにより、ビットコイン投資のハードルが引き下げられ、ビットコイン市場の流動性が向上する可能性があります。

    実際に、Security.orgが米国人1,500人を対象に実施した世論調査によると、現在仮想通貨を所有していない人の21%が、スポットビットコインETFが承認されれば投資する可能性が高まると回答しています。

    税制で有利になる

    ビットコインETFの利益にかかる税金の負担は、通常の仮想通貨投資よりも低いです。

    通常、ビットコインの利益は税金面で不利とされる「雑所得」に分類されます。雑所得は、総合課税(税率15〜55%)であり、累進課税により利益を上げるほど税金が高くなったりします

    また、ビットコインでは、売却時以外にも暗号資産を使って商品を購入したときや暗号資産を購入すると課税所得が発生するケースがあります。

    このように、ビットコインは他の投資手法と違って税金に関して特殊であるうえに、制限が多いことがネックとなっています。

    一方、ETFの利益は株や投資信託の所得と同様、「譲渡所得」として分類されるため、20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の税金となります。譲渡所得は申告分離課税の対象で税率が一定であるため、雑所得よりも優遇されています。

    資金の流入に期待できる

    上記2つのメリットの相乗効果によってビットコイン現物ETFの市場が活性化されれば、多額の資金が流入してきます。それに伴っておのずとビットコイン(BTC)の価格も上昇し、市場全体に良い影響を与えることになるでしょう。

    実際に様々な機関が同様の予測を立てています。英金融大手スタンダードチャータード銀行は8日、米国でビットコイン現物ETFが承認されれば、2024年に500億ドルから1,000億ドルの資金が流入、ビットコイン価格は2025年末までに20万ドルの水準まで上昇することが可能であると予想しています。

    Standard Chartered: BTC Could Hit $200K in 2025 With Spot Bitcoin ETF Approval

    また、暗号資産ファンドのギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)は10月のレポートで、ビットコインETFには発行初年度で少なくとも144億ドルの流入が見込まれると予想した。レポートでは「流入額は2年目までに270億ドル、3年目までに390億ドル増加する可能性がある」と指摘しています。

    Bitcoin Spot ETFs Could See Inflows of $14.4B in First Year, Galaxy Says

    さらに、Fundstrat Global Advisorsの著名アナリストであるトム・リー氏も1月10日、米CNBCの「Squawk Box」に出演し、米国でビットコイン現物ETFが上場することを前提に、ビットコイン(BTC)の価格は5年後までに50万ドルに到達しうるとの見方を示しています。

    Bitcoin could hit $150,000 in the next 12 months and half a million in 5 years: Fundstrat’s Tom Lee

    ビットコインETFの注意点

    出典:pixabay

    ビットコインETFには様々なメリットがあると紹介してきましたが、その反面、注意しなければいけない点もあります。なかでも投資という性質上、流動性不足・価格操作への懸念は切っても切れない関係にあるでしょう

    SECが指摘していた投資家保護が万全でないという点は単なる嫌がらせではありません。ビットコインは暗号資産のなかでは高い流動性を誇りますが、それでもなお価格変動が大きいボラティリティの高い金融商品です。投資のプロに運用を任せられるETFであるとはいえ、価格変動があまりにも大きいとその分、投資家のリスクにつながりかねないという問題は依然として残ります。

    そのためビットコインETFは、ボラティリティが大きいので価格下落リスクを踏まえたうえで慎重に投資判断を行う必要があります。

    さらに、暗号資産市場は詐欺的あるいは価格操作といった行為を排除しきれていません。顧客に商品を売買させるために取引業者が自己売買を繰り返す「仮装売買」や、売り手と買い手が通謀して売買を行うような「馴合売買」といった意図的に出来高を上げて売買が活発に行われているように見せかける動きには注意が必要です。

    SECの委員長を務めるゲイリー・ゲンスラー氏も今回の解禁を受け、SEC公式サイト上で声明を発表。「主に投機的で価格変動の大きな資産であり、ランサムウェア、マネーロンダリング、制裁回避、テロ資金調達などの非合法活動にも使われている」と警鐘を鳴らしています。

    SEC.gov | Statement on the Approval of Spot Bitcoin Exchange-Traded Products

    日本でもビットコインETFに投資できるの?

    アメリカで承認されたビットコイン現物ETFですが、日本のマーケットでは、2024年1月時点でビットコインETFの取り扱いはありません。しかし今後、日本でビットコインETFが承認される可能性は十分にあります。

    そもそも、日本の証券会社において暗号資産を用いた金融商品は現時点では開発できません。これは、暗号資産が投資信託法施行令3条の「特定資産」に含まれていないからです。特定資産でなければ投資信託に組み入れられず、証券会社各社は国内ETFを組成できないということになります。

    また、外国のETFであっても国内の証券会社が国内の顧客を対象に商品を販売する際には、その外国のETFに関する投資信託約款等を金融庁に対して届け出たうえで外国投資信託として認定される必要があります。

    「外国投信」の定義は「投資信託に類するもの」とされており(投資信託法2条24項)、日本の特定資産に含まれないビットコインを組み入れた米国ETFが外国投信として認められるのはハードルが高いのではないか、というのが一般的な見解です。

    アメリカでビットコインETFが承認されたというニュースが大々的に報じられると税制や購入方法などを知りたくなりますが、日本でもすぐに承認されるというわけではなさそうです。

    まとめ

    本記事ではビットコインETFについてまとめました。

    アメリカの規制当局がビットコイン現物ETFを認めたというのは、間違いなく暗号資産の将来的なあり方に大きく関わってくるでしょう。

    日本においては暗号資産がまだまだ市場に浸透しているとはいい難い状況のうえ、上述のように日本国内では認可を受けておらず、買うことができません。

    しかし、今回のSECの発表が金融庁の判断に影響を与える可能性もあります。今後、日本独自のビットコインETFが組成されることや、海外で承認されているビットコインETFが日本国内の証券会社で取り扱われることが待たれます。

    令和6年能登半島地震を受けて仮想通貨で寄付できる募金先が誕生。新たな被災地支援の形とは?

    コラムタイトル

    はじめに、2024(令和6)年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」により亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、ご遺族の皆様にお悔やみを申し上げます。また、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

    石川県で最大震度7を観測した能登半島地震では1月10日時点で200人を超える死者が出ており、行方不明者も数多く確認されています。生活インフラにも甚大な被害を与え、避難生活を余儀なくされる方も大勢おり、さらには二次災害による被害も報告されています。

    こうした予断を許さない状況のなか、Web3.0の視点では従来では実現できなかった新たな被災地支援の形が誕生しています。それが、仮想通貨による募金です。

    本記事では「仮想通貨による募金とは一体どのようなものなのか」「令和6年能登半島地震の募金先は何があるのか」などについてまとめました。

    1. 元日の能登半島を激しい揺れと津波が襲う
    2. 令和6年能登半島地震に関する募金プロジェクトが立ち上がる
    3. 仮想通貨による募金のメリット
    4. 仮想通貨による募金の注意点
    5. 令和6年能登半島地震の仮想通貨による募金プロジェクト事例
    6. まとめ

    元日の能登半島を激しい揺れと津波が襲う

    2024年1月1日、石川県能登半島で震度7の揺れを観測した地震が発生しました。大きな揺れに伴う家屋の倒壊や、大規模な火災により多くの犠牲者が出ており、発生から1週間以上経った現在もなお、救出活動が続いています。

    震源となった石川県では、ほぼ市内全域で断水が起きている市や大規模停電といったインフラへのダメージも深刻であり、避難所での避難生活を余儀なくされている被災者の方たちも多数います。

    また、地震による被害は震源地の石川県だけではなく、新潟県や富山県でも大きな被害が報告されています。

    令和6年能登半島地震に関する募金プロジェクトが立ち上がる

    出典:shutterstock

    オンライン化が進む募金活動

    甚大な被害をもたらした今回の令和6年能登半島地震を受け、市区町村やボランティア団体など様々な団体が街頭に立って募金活動をおこなう姿が報道されています。

    通勤や通学の際に駅前で募金を呼びかけているのを見たという人も多いのではないでしょうか?

    一方、今回の募金活動ではこうした従来型の募金に加えて、オンラインによって全国的に多額の寄付金を受け付けている団体も多く見られます。

    日本赤十字社では、「令和6年能登半島地震災害義援金」を実施しており、ゆうちょ銀行や郵便局からの募金を受け付けています。集まった義援金は被災地の生活支援のために被災都道府県が設置する義援金配分委員会へ全額が送金される仕組みとなっており、寄付先には「被災地全域への寄付(日赤本社開設口座)」と「地域を限定しての寄付(日赤支部開設口座)」の二種類が用意されています。

    LINEヤフーも地震発生当日の1日からYahoo!基金において、「令和6年能登半島地震 緊急支援募金」を実施しています。クレジットカードもしくはTポイントを使った寄付が可能となっており、1月10日時点で15億円以上の寄付金が集まっています。

    フリマアプリ大手のメルカリは、2日から令和6年能登半島地震による被災地の支援を「メルカリ寄付」機能で受付開始しました。メルカリ寄付は、メルカリの売上金から寄付できる機能で、日本財団への寄付を通じて、生活のパイプとなるインフラが機能しなくなったり、住居を失うなどして、避難生活を余儀なくされた人への支援をおこなっています。

    このように、インターネットが発達した現代では、街頭募金や募金箱が中心だった時代から、クラウドファンディング、クレジットカード決済、SNSといった寄付のオンライン化が進んでいます。

    仮想通貨による募金も

    そのような状況のなか、新たな募金の形として注目を集めている仮想通貨による募金プロジェクトも立ち上がっています(各プロジェクトはコラム後半で紹介しています)。

    仮想通貨とは財産的価値を有し、銀行などの第三者を介さずにインターネット上で取引できる「データ資産」のことです。有名な銘柄では「ビットコイン」や「イーサリアム」などが挙げられ、販売所や取引所などの事業者を通して入手、あるいは円やドル、ユーロ、ウォンなどの法定通貨と換金が可能です。

    仮想通貨は公開鍵暗号方式ハッシュ関数などの暗号技術を利用することで安全性を確保しています。おこなわれた取引はブロックという単位にまとめられ、一定のルールに基づいて一つ前のブロックから新たなブロックが生成されて、鎖状につながっていきます。

    このブロックチェーンと呼ばれる技術はほとんどの仮想通貨で用いられており、ブロックチェーン上に保存されているすべての取引データは公開・共有される仕組みとなっています。

    法定通貨ではないことや価値の変動が多いことなどから、少し前までは「怪しい投資話」のイメージも強かった仮想通貨ですが、現在では法律やマーケットも整備され、利活用できるサービスも充実しつつあります。

    仮想通貨による募金は後述するような、従来の募金では成し得なかったスムーズな送金や透明性の確保などが実現しています。「仮想通貨なんて周りでやってる人もいないし、大した募金にならないんじゃないの?」と思う方もいるかも知れません。実際に、仮想通貨決済企業TripleAによると、日本では総人口のわずか4%相当の500万人程度しか仮想通貨を保有していないと推定されています。

    しかし、保有者がまだ少ないからといって仮想通貨による募金が効果的でないと断定するのは早計です。2022年2月に起きたウクライナ侵攻の際には、法定通貨のみならず仮想通貨による資金援助が世界中から相次ぎました。

    CoinDeskによると、その額はわずか3ヶ月あまりで1億3500万ドル(約182億円)以上。法定通貨による寄付の5億7900万ドル(約782億円)には及びませんでしたが、史上最大規模の募金結果に世界中が驚きの声を上げました。

    世界の共通通貨ともいえる仮想通貨は国家の垣根を超えて募金が可能であり、今後ますますスタンダードになっていくものと考えられます。

    仮想通貨による募金のメリット

    出典:shutterstock

    募金の使い道が明らかになる

    残念ながら、災害直後の緊急募金などでは混乱に乗じた募金詐欺が横行しがちです。募金という名目で資金を集めておきながら、実際には被災地支援をすることもなくプロジェクトごと立ち消えてしまうという善意につけこんだ卑劣な犯罪です。

    また、健全な組織が運営していたとしてもその使い道や手数料の割合などは詳らかにされることは少なく、募金した後の資金の行方には目が向けられていないケースも多々あります。

    募金ではなく寄付の事例ですが、ふるさと納税においても寄付金の10%を超える部分が外部事業者への手数料などになっていたことが問題視されました。

    ふるさと納税、一番得をしているのは誰? 寄付額の2割以上は業者に…「5割ルール」徹底で何が起きるか:東京新聞 TOKYO Web

    こうした問題は、寄付されたお金の流れが可視化されていないことに起因する問題です。お金の流れがブラックボックスであるが故に横領などが横行しがちな募金の使い道に対しても仮想通貨が効果を発揮します。

    パブリック型ブロックチェーンにおける仮想通貨での取引(トランザクション)は基本的にすべてのユーザーが閲覧できる仕組みになっています。これは、ブロックチェーンを用いて当事者以外にも情報を分散して管理することで、データの改ざんや消失を防ぐためです。

    そのため、ブロックチェーンによる募金であれば、寄付した金額がきちんと相手のもとに届いたかどうかがはっきりわかります。寄付金の使用用途や着金先が明確になることで、募金活動とその使い道に透明性をもたらすことができます。

    社会全体としてもこうした仕組みを導入していくことで、使途不明の怪しい募金プロジェクトは淘汰され、寄附者が安心して募金できる土壌を育成できるでしょう。

    手数料が安い

    通常、銀行などの金融機関を介して募金をする際には当然ですが手数料が発生します。寄附者である私たちが支払わない場合でも、NPO団体などがカード決済手数料などを負担しなければいけないケースもあります。

    また、無料送金を実施している金融機関でも、一定の条件を満たさなければいけない場合があります。たとえば、ゆうちょ銀行では被災者に対する救援活動を支援するため、ゆうちょ銀行・郵便局の貯金窓口およびゆうちょ通帳アプリにおいて災害義援金の無料送金サービスを実施しています。しかし、ATMからの通常払込みには、手数料が発生してしまいます。

    義援金送付-ゆうちょ銀行

    こうした問題に対して、仮想通貨による募金をおこなうことで、手数料による実際の支援金額の目減りを改善できる可能性があります。

    たとえばビットコインであれば、一度の送金で数十円程度の手数料(マイニングに対する報酬)がかかるのみであり、国内のみならず海外であっても為替手数料を支払う必要はなく、着金に時間もかかりません。

    また、仮想通貨を法定通貨に替えるには仮想通貨取引所を利用する必要がありますが、その際の手数料もクレジットカード会社の送金手数料に比べても格安であり、使い勝手にも不自由ありません。

    リアルタイムに送金可能

    従来の募金の仕組みでは、一度集金をおこなってから計画に応じて資金を分配していきます。

    しかし、仲介となる組織が介入することで、実際に援助を必要としている地域に募金が届くまでの若干のタイムラグが生じてしまいます。

    また、募金を立ち上げる際にも「何に対する募金なのか」「実際の被害地域はどこなのか」「どの団体に振り込むのか」など様々な基準に照らし合わせた審査をする必要があります。これは、寄附者が安心して募金できるために必要なことではありますが、被災者や支援団体は一刻も早い資金援助が必要としているというジレンマもあります。

    仮想通貨による募金であれば、ウォレットからウォレットに対して即時送金が可能です。組織や団体を仲介することがないため、金融機関の営業時間や被災地の金融機関の被害状況に関わらずスピーディーな送金が可能です。とくに海外への寄付においては、入金から着金まで大きなタイムロスが生じることも多いため、仮想通貨によるシームレスな募金がさらに有効となるでしょう。

    前述の通り、資金の使い道に関してもトランザクション履歴を確認できるため、審査に必要な時間も最低限で済みます。被災者が困っているまさにその瞬間を助けるための支援が、仮想通貨の募金で実現できるのです。

    仮想通貨による募金の注意点

    出典:shutterstock

    仮想通貨による募金で最も注意しなければならないのが、アドレスの間違いです。最先端の募金方法の注意点としてはなんともアナログですが、誤送金など自らのミスにより仮想通貨を失う「セルフGOX」は仮想通貨による決済の落とし穴となっています。

    中央管理者が存在しないブロックチェーンでは、一度ブロックチェーンに取引が記録されてしまうと、その記録を書き換えることはできません。仮想通貨取引所であっても処理を変更する権限を持っていないため、誤送金先と直接、返金の交渉をしなければなりません。

    また、送金ミスの内容次第では誤送した仮想通貨をどうしても取り戻せないケースがあります。それは、「異なる仮想通貨アドレスへの送金」と「所有者がいないアドレスへの送金」です。

    まず「異なる仮想通貨アドレスへの送金」のケースについて説明します。

    暗号資産のアドレスは、それぞれの種類で固有のアドレスが割り振られているため、他の暗号資産のアドレスへ送金しようとすると基本的にはエラーが発生します。

    しかし、ビットコイン(BTC)とビットコインキャッシュ(BHC)、イーサリアム(ETH)とイーサリアムクラシック(ETC)などアドレス形式が似ている場合にはエラーを検知できず、送金が完了してしまうケースがあります。

    このケースの場合、暗号資産が消滅してしまうため、取り戻すことが出来なくなってしまいます。

    次に「所有者がいないアドレスへの送金」のケースについてです。

    世の中には、秘密鍵を忘れてログインできなくなったウォレットがたくさんあります。従来型の送金方法であれば、パスワードを忘れてしまった場合でも銀行などに問い合わせて再発行してもらうことができますが、仮想通貨には管理者がいないため、ウォレットを復旧することは難しいです。

    そのような背景もあり、ブロックチェーンの世界では誰もログインできなくなってしまった所有者不明のアドレスが数多く残っています。こういったウォレットに送金してしまうと、誰も手をつけられない状態となってしまい、取り戻せる可能性はなくなってしまいます。

    こうした送金ミスが原因で仮想通貨を失わないように、送金先アドレスの確認は慎重におこなうことをオススメします。

    令和6年能登半島地震の仮想通貨による募金プロジェクト事例

    Oasys

    出典:Oasys公式X

    ゲーム特化のブロックチェーンプロジェクトであるOasysでは能登半島地震への災害支援募金をおこなっています。

    Oasysは2022年に発足の比較的新しいプロジェクトですが、 日本発であることや数多の有名企業がバリデータとして参加していることから現在、大注目のプラットフォームの一つとなっています。

    バリデータの一例としては、bitFlyerやAstar Networkなどの暗号資産関連の企業に加えて、バンダイナムコ研究所やSEGAやSQUARE ENIXといった仮想通貨に縁のない人でも聞いたことがあるであろう有名ゲーム企業が名を連ねています。

    今回の支援募金では、$OAS (Oasys)、$ETH (Ethereum, Polygon)、$BTC (Bitcoin) を対象通貨としており、gas代や税金を除く全額を能登半島地震による救援復興活動に活用するとのことです。

    Astar Network × Startale Labs

    出典:Astar Network Japan公式X

    Astar Networkは、日本人起業家の渡辺 創太氏が率いるStake Technolosies株式会社が開発したブロックチェーンプラットフォームです。

    日本発のブロックチェーンとして異なるチェーンを相互接続できるPolkadot(ポルカドット)のハブとして活動しており、WEB3.0の実現やWEB3.0の基幹インフラを目指して取り組んでいます。2021年12月には、世界で3番目にPolkadotのパラチェーンと接続を完了させ、本格的に稼働を開始しました。

    そんな大注目チェーンのAstar Networkでは、同じく渡辺氏が設立したStatale Labsと共同で令和6年能登半島地震に対する災害支援募金を発表しています。

    対応通貨は募金立ち上げ時点で$ASTRのみとなっていますが、ASTRは時価総額約1000億円(執筆1月10日時点)を超える人気銘柄。世界中からのスピーディーな寄付に期待できます。

    出典:MINKABU 暗号資産(仮想通貨) リアルタイムレート(2024/01/10) 

    Web3 pray for Japan

    出典:Palette 公式X

    株式会社HashPaletteが開発した「PaletteChain」による「Web3 pray for Japan」では、複数のブロックチェーンプロジェクトが協力して仮想通貨による募金活動をおこなっています。

    参加を表明しているブロックチェーンはPalette(PLT)、TRON(TRX)、Cardano(ADA)、Polygon(MATIC)、Neo(NEO)、Qtum(QTUM)、Mask Network(MASK)、IOST(IOST)の計8つです。

    各プロジェクトが自社のネイティブトークンを用いた寄付窓口を設置しており、このキャンペーンで集まった資金は、手数料や税金を除く全額を日本円に換算したうえで赤い羽根共同募金の「令和6年能登半島地震への義援金(仮)」に寄付されるとのこと。

    寄付の結果は、後日HashPaletteの公式ウェブサイトで公開される予定となっています。

    まとめ

    本記事では令和6年能登半島地震に対する仮想通貨を用いた募金プロジェクトについてまとめました。

    募金にブロックチェーンを活用することで、さらなる透明性やスムーズな送金が実現できるようになり、被災地の喫緊の課題に合わせた資金集めに役立つことでしょう。とくに、法定通貨では時間や手数料のロスが多い海外からの金銭的支援が活発になることが期待されます。

    新たな支援の形を実現するWeb3プロジェクトに注目するとともに、被災地の一日も早い復興を心より祈念いたします。

    「非化石証書」「J-クレジット」「グリーン電力証書」の違いとは?それぞれの概要から解説します!

    環境問題に対する関心が高まる中で、「環境にやさしい電気を選択的に供給したい」「環境にやさしい方法で発電された電力を使いたい」という企業や個人が増えてきました。

    こういったニーズを満たす制度として「非化石証書」「J-クレジット」「グリーン電力証書」があり、環境価値を電気そのものの価値から切り離して証書・クレジットとして可視化することで取引を可能にしています。

    一方で、これらの制度は仕組みとしてかなり似通っており、それぞれの違いを説明できる人はかなり少ないのではないでしょうか。本記事では前半で各制度の概要を振り返り、後半でそれぞれの違いや注意点について解説していきます。

    1. 非化石証書とは?
    2. J-クレジットとは?
    3. グリーン電力証書とは?
    4. 3種類の環境価値の違い
    5. 環境価値を取引するメリット
    6. 環境価値を取引するうえで気をつけるべき点
    7. まとめ

    非化石証書とは?

    出典:pixabay

    概要

    非化石証書とは、その電力が非化石電源由来であることを証明する制度です。

    石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を使用して発電した電力を「化石電源」と呼ぶのに対して、太陽・地熱・風力・水力といった化石燃料を使用せずに発電した電力を「非化石電源」と呼びます。

    非化石証書の購入ルートは2パターンあります。

    一つ目は電力会社を通じて間接的に購入する方法です。発電事業者と電力小売事業者間で非化石証書の売買をおこない、電力ユーザーは非化石電源と証明された電力を利用できるプランに加入することで、CO2排出量を間接的に削減したこととみなすことができるというわけです(あくまで非化石証明は電力小売事業者が購入しているという点には注意が必要です)。

    この方法では、環境価値が電気の契約とセットになっているため、環境価値の購入量などを計算する手間がないことが大きなメリットになります。

    もう一つの方法は、オークション形式の取引市場で電力ユーザーが直接購入することです。従来は、前述の電気小売事業者が非化石証書を購入するパターンしかありませんでしたが、需要の増加を受けて2021年からは、電力ユーザーも非化石証書の購入が可能になりました(ただし、電力ユーザーが購入できるのは後述のFIT非化石証書のみ)。

    この方法では非化石証書調達にともなう手数料がかからないというメリットがあります。

    一方で、購入するためにはJEPX(日本卸電力取引所)の会員になる必要があり、JEPX会員になるには入会費・年会費の納入が必要なほか、入札ごとに複数の手続きを要します。そのため、ユーザーの代わりに

    オークションに参加して非化石証書を購入する代理購入サービスなども誕生しています。

    電力由来によってさらに3種類に分類される

    非化石証書には実は3つの種類があります。

    ①FIT非化石証書(再エネ指定あり)

    こちらは2012年から運用されている、FIT制度(固定価格買取制度)で買い取られた電力に限定した証書です。

    FIT制度とは、再生可能エネルギーの普及を目標に、事業者や個人が再生可能エネルギーで発電した電力を、一定期間・一定価格で電力会社に買い取ってもらえる制度です。

    電力ユーザーが直接、購入できるのはこのタイプの非化石証書のみとなっており、対象となる電力は、FIT制度を通して買い取られた、太陽光・風力・小水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーです。

    価格の決定方式は「マルチプライスオークション方式」となっており、売り手が成り行き価格で入札し、買い入札価格が約定価格となる(つまり、売り手が価格を提示せずに出品し、買い手が希望価格を示す)方式です。市場価格が需要と供給に応じて変動し、効率的な価格設定が実現されています。

    また、このFIT非化石証書(再エネ指定あり)は販売価格の見直しがなされ、当初の最低価格:1.3円/kWhから現在の0.4円/kWhに大幅な引き下げがなされたことで、需要の急拡大が見込まれています。

    なお、FITによる買取にあたっては電力会社が買い取る費用の一部を電力ユーザーから賦課金という形で集めており、この賦課金を基に買取費用の調整をおこなっています。したがって、FIT非化石証書の売り手は費用負担調整業務を担当している電力広域的運営推進機関(OCCTO)となっています。

    ②非FIT非化石証書(再エネ指定あり)

    こちらは再生可能エネルギーのなかでも、FIT電力ではないものを対象とした非化石証書です。FIT電力ではない再生可能エネルギーとは、買取期間が終了したFIT電力(卒FIT電力)や、大規模水力発電(大規模水力は既存の発電所が主流であり促進制度の対象ではないため)を指しています。

    高度化法義務達成市場(小売電気事業者の非化石電源比率目標の達成を後押しするために創設された市場)での扱いとなっているため、この証書を購入できるのは小売電気事業者のみとなっています。

    非FIT非化石証書(再エネ指定)の入札には価格制限は設けられておらず、通常の電力取引と同様に、売買の量と価格から、需要曲線と供給曲線が交わる均衡点をコンピューターが計算し、約定価格を決定する「シングルプライスオークション方式」が採用されています。

    さらに、そうした市場取引に加え、発電事業者と小売電気事業者間で自由に価格や契約条件を合意することができる相対取引で証書を売買することも可能です。

    現在の大型水力は沖縄電力を除く9つの電力会社と電源開発株式会社が供給しているため、証書発行量が限られてしまうという課題もありますが、それ以上に取引の自由度が高いという魅力があります。

    ③非FIT非化石証書(再エネ指定なし)

    最後に紹介するこちらは、FIT制度によらず、再生可能エネルギーにも分類されない発電方法による電力に紐づいた非化石証書です。現在は原子力や廃プラスチックによって発電された電源を証明するものとして活用されています。

    原子力発電は、CO2を排出しない発電方法ですが、環境への影響も懸念される使用済み核燃料を排出してしまいます。廃プラスチックによる発電についても、環境汚染の観点では大量消費・大量焼却という構造が温存されてしまいます。

    したがって、再エネの指定がない非FIT非化石証書は各種制度において再エネ割合への加算ができない場合があります。

    一方で、今後FIT制度の対象ではないうえに再エネ指定にもなっていない新たな燃料種に対する、非FIT非化石認定のニーズが増加することも見込まれており、実際に水素などが追加を検討されています。今後、再エネ指定のない非FIT非化石証書が主流となっていく可能性も大いにあるでしょう。

    J-クレジットとは?

    出典:pixabay

    概要

    J-クレジット制度とは、企業や自治体などの取り組みによって削減・吸収されたCO2の量を証券化して市場で取引する制度です。

    J-クレジットの対象は、電力分野に限らずカーボンニュートラルにつながる幅広い活動を網羅しています。具体的には、<省エネルギー等><再生可能エネルギー><工業プロセス><農業><廃棄物><森林>といった6分類で区分されています。下記はその一例です。

    • 省エネ設備の導入によって削減されたCO2排出量
    • 再生可能エネルギーの活用によって削減されたCO2排出量
    • 適切な森林管理によるCO2の吸収量

    これらをクレジット化して売買することで、販売者はその資金を事業の拡大や投資費用の回収がおこなえ、購入者はカーボンオフセットへの利用ができるというメリットがあります。なお現在、J-クレジットでの売買は、国内取引のみに限定されています。

    登録には一定のハードルがある

    J-クレジットにおけるプロジェクト実施者は、「排出削減・吸収プロジェクトを実施しようとする者又はプロジェクト登録を受けた者」と定義されています。したがって、私たちのような個人や法人格を有しない団体・組織でも申請をおこなうこと自体は可能です。

    一方で、J-クレジット制度に登録するためには、Jクレジット制度向けのプロジェクト計画書を作成し、事務局の審査を受ける必要があります。プロジェクトは下記の要件を満たさなければなりません。

    出典:J-クレジット制度ホームページ (https://japancredit.go.jp/faq/)より筆者作成

    J-クレジットの運営事務局は、それぞれの項目について各審査機関と協力しながら、制度の適用可能性を判断します。無事に審査を通過すると、有識者委員会経由で国による認証手続きが進められるという流れです。

    また、審査が通った後も各プロジェクトにおいてモニタリングを受けながらCO2排出・吸収の実測値を検証していきます。こうした複雑なフローを経てようやくJ-クレジットの発行に至ります。

    このように、国が認証をおこなうだけあって若干ハードルのある制度となっています。プロジェクトの登録まででも5ヶ月以上かかるケースもあるとされており、認定までの時間的コストは課題として挙げられるでしょう。

    Jクレジットの購入パターンは3つもある

    J-クレジットを購入するには、下記の3つの方法があります。

    出典:J-クレジット制度『J-クレジット制度について』p.46(2023年3月)

    ①J-クレジット仲介事業者(https://japancredit.go.jp/market/offset/)を通じての購入

     J-クレジット・プロバイダーは、J-クレジットの売買仲介を行う事業者です。売買手続きの委託のほかにも、カーボンオフセットに関するコンサルティングなど様々なサポートをしてもらえるのが特徴です。

    またプロバイダーを利用すれば口座開設が必要なく、クレジットの購入価格は仲介事業者との相対取引で決定することになります。

    認定業者の仲介を要するため手数料が掛かってしまいますが、購入者側の負担が最も少ないのがこの方法です。

    ②売り出しクレジット一覧(https://japancredit.go.jp/sale/)」掲示板を通じての直接購入

     発行企業や自治体から直接購入したい場合は、J-クレジット制度HPの「売り出しクレジット一覧」というページから購入することも可能です。

    「売り出しクレジット一覧」では、購入可能なクレジットの量や特徴(実施場所、地域、具体的活動内容)を見ることができ、この方法でもクレジットの購入価格はクレジット保有者との相対取引で決定します。

    情報格差が生まれる場合もあるため、クレジットの品質を慎重に見極める必要がありますが、その一方で取引条件を直接交渉できる利点もあります。

    ③J-クレジット制度事務局が実施する入札販売(https://japancredit.go.jp/tender/)での購入

    政府が保有するクレジットを大口需要家向けに入札販売する際に、事業者が保有するクレジットをあわせて集約し、大口需要家に対してまとめて入札販売する方法も存在します。

    対象となるクレジットは②の「売り出しクレジット一覧」に掲載後6ヶ月が経過しても買い手が見つからないものです。

    入札参加にあたっては、取得したクレジットを管理するJ-クレジット管理用口座を開設する必要があり、入札時期が年に1回〜2回程度しかないなどやや使い勝手の悪い面もありますが、競合次第では割安で入札できる可能性があります。

    グリーン電力証書とは?

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    概要

    グリーン電力証書は、再生可能エネルギーによって発電された電気の環境価値を、証書発行事業者が第三者認証機関(一般財団法人日本品質保証機構)の認証を得て取引する制度です。

    グリーン電力とは、太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーにより発電された電力を指します。グリーン電力証書は、指定の証書発行事業者を通じて民間企業が購入できます。

    一般に、グリーン電力を利用するには、自ら太陽光パネル等を設置して電力を地産地消する場合と、電力会社からグリーン電力を供給してもらうプランに変更する場合の2つがあります。

    しかし、設備を設置する場合には大きな初期費用が掛かるうえに、設置場所の確保や電気工事のための時間も要します。また、電力プランを変更する場合には、自然エネルギーに限定した電気はほとんどが維持費や修繕費、人件費などによって割高になっています。

    グリーン電力証書における認定電力は、様々な電力情報がトラッキングされています。購入するだけですぐに利用分の電気を再エネ由来の電力とみなすことができます。

    また、グリーン電力証書の販売により得られる収入は、再生可能エネルギー発電設備の新規建設や、既存の再生可能エネルギー発電設備の維持(運転期間の延長)や増設にも使われており、社会貢献性の高い制度となっています。

    取引価格は比較的割高に設定されている

    グリーン電力証書の年間の発行量は、Jクレジットや非化石証書と比較しても少ないのが現状です。また、グリーン電力量や設備の認定、環境価値保有者の管理などで価値を担保されています。

    その結果として、グリーン電力証書は、平均で2〜7円/kWh程度という価格設定となっており、他の制度と比べると割高になっています。

    近年の世界情勢の混乱によって電力料金そのものが高騰するなかでのグリーン電力証書の価格設定は、普及の障壁ともなります。一方で急激な値下げをおこなうと、環境価値が売却時に値下がりしてしまい、事業者から不満の声があがるでしょう。

    すでに参入している事業者にも公平性を保ちつつ、いかに導入しやすい価格を実現するかが課題となっています。

    省エネ法や温対法には適用できない

    グリーン電力証書は、民間機関である日本品質保証機構が保証しています。そのため、グリーン電力の環境価値も民間での取引として法的な保証がなく、省エネ法や温対法にも適用できません。

    CO2の削減効果について第三者の保証が必要な場合は「グリーンエネルギーCO2削減相当量認証制度」(資源エネルギー庁と環境省が運営)により認証を受ける必要があります。

    また、温対法の排出量の報告に際し、発電事業者はCO2削減相当量をオンカウント(排出量にプラス)して報告しなければなりません。これは証書を発行した時点で環境価値を購入者に売却したことになり、ダブルカウント防止する必要があるためです。

    3種類の環境価値の違い

    さてここまでは「非化石証書」「J-クレジット」「グリーン電力証書」それぞれの概要について詳しく見てきました。各々の制度について、おおまかにメリットやデメリットも掴めているのではないでしょうか。

    とはいえ、複雑な制度が3つもあるとかなり慣れている人でない限り混乱してしまうものです。ここでは表にして比較したうえで大きな違いについて確認してみましょう。

    以下が3種類の環境価値を比較したものです。

    グリーン電力証書非化石証書J-クレジット
    販売者証書発行事業者(発電事業者からグリーン電力価値を取得)発電事業者・電力広域的運営推進機関(OCCTO、FIT非化石証書のみ)クレジット保有者(個人でも可能)
    購入者誰でもFIT非化石証書は誰でも、非FIT非化石証書は小売事業者のみ誰でも
    対象電源再生可能エネルギー由来の電気のみ  再生可能エネルギー由来以外の非化石電源も含む(再エネ指定なしの非FIT非化石証書が原子力や廃プラなどに対応)CO2の削減・吸収量が対象
    対象電力自家消費電力系統電力自家消費電力
    単価範囲制限なし0.4〜4.0円/kWh(FIT非化石証書)0.6〜1.3円/kWh(非FIT非化石証書)制限なし
    平均落札価格(2023年
    12月時点)
    オークション形態なし
    (販売価格は、発行事業者、購入量などによって異なるが、平均して2~4円/kWh)
    0.41 円/kWh(FIT非化石証書)
    0.6円/kWh(非FIT非化石証書)
    約1.401円/kWh
    (落札価格に当該落札トン数を乗じた合計を総販売量で除したもの)
    取引形態証書発行事業者から直接購入取引所オークション相対取引(非FITのみ)相対取引
    事務局オークション
    転売
    RE100活用
    (トラッキング付きの非化石証書のみ)

    (省エネは対象外)

    グリーン電力証書は販売者が証書発行事業者に限定されており、転売もできません。取引形態についても証書発行事業者からの直接購入のみとなっていることから他の2つと比べると若干割高です。

    一見すると使い勝手の悪そうな制度ですが、発行主体が一つしかないため、グリーン電力証書は発電から償却までの属性情報を追跡可能です。

    したがって、すべての購入証書をRE100(事業運営で使用する電力を100%再エネにて調達することを⽬標に掲げる国際的なイニシアチブ)へ活用することができます。

    非化石証書は再エネに加えて、非化石燃料である原子力も含むため、流通量も豊富で価格が比較的安価なのが特長です。また、いまのところ最低価格に張り付く形で取引されているため、落札価格も一番安価となっています。

    一方で、対象電力が非化石電源から発電された系統電力に限定されています。したがって、太陽光のPPAモデルを導入する企業も増えて来ましたが、このような自家消費の電力に非化石価値を認めることはできません。

    対象が再エネ使用ではなくCO2の削減・吸収量であるJ-クレジットは唯一、転売が可能です。環境価値単体の扱いやすさという面ではJ-クレジットが最も優れていますが、CO2削減・吸収の方法によって、各種制度で活用可能かバラバラになっています。プロジェクトの登録からクレジット発行までも数年を要するため、活用に際しては注意点が多いです。

    環境価値を取引するメリット

    出典:Unsplash

    販売側のメリット

    販売側のメリットとしては、まず売電収入があります。加えて各環境価値を売却することで、追加の収益を得ることができます。追加性の要件があるように、その収益を再エネ発電設備の維持・増設に充てることができ、さらなる収益化サイクルが構築できます。

    購入側のメリット

    それぞれの環境価値に記載されている自社のCO2削減目標達成に活用できます。環境への取り組みが必要とは感じつつも、時間的・経済的問題から環境活動に取り組めていない企業や、ビジネス上、CO2削減が難しい企業からすると、金銭的負担で脱炭素経営にアプローチできるのは魅力的です。

    また、近頃の生活者の環境意識の高まりを考慮すると、環境貢献活動をPRできるというのも訴求ポイントになりうるでしょう。自然エネルギーの普及を通して二酸化炭素排出量の削減に取り組むという姿勢を示し、実績をつくることによって、ステークホルダーに向けてアピールできます。

    環境価値を取引するうえで気をつけるべき点

    出典:Unsplash

    環境価値を取引するうえで、電力データのトレーサビリティや正確性は今後重要になってくるでしょう。各制度において、電源の由来は価値の裏付けとなっており、それぞれ厳しい要件が課せられています。様々な制度に活用可能な以上、データの改ざんが起きてしまう可能性もあります。

    また、記録ミスやダブルカウントが起きてしまうと、正しいCO2削減量が計測できなくなってしまいます。したがって、データの扱いには慎重にならざるを得ないでしょう。仕方がないこととはいえ、現状、手続きや審査の負担が大きくなってしまっている点には留意しましょう。

    こうした課題を踏まえて近年、注目を浴びているのが「ブロックチェーン技術」です。ブロックチェーンでは、データを小分けにして暗号化し、それを1本のチェーンのように数珠つなぎにして、世界中で分散管理しています。そのため内容を改ざんしたり、データが消えたりする心配がありません。

    実際に日本卸電力取引所(JEPX)では、数年後を目処として非化石証書のブロックチェーンによるトラッキングを実現する方針を打ち出しています。

    JEPXが非化石証書の全量追跡へ | 電気新聞ウェブサイト

    なお、ブロックチェーンについては以下の記事でも解説しています。

    まとめ

    本記事では「非化石証書」「J-クレジット」「グリーン電力証書」について概要とそれぞれの違いを解説しました。

    これらの制度は普段あまり関わることのない複雑な仕組みであり、すんなり理解するのは難しいテーマであるように感じます。

    しかし、再エネ需要は年々拡大しており、東京都では戸建てを含む新規建築に対して太陽光パネルの設置が義務化されました。こうした流れを受けて今後環境価値の活用も活発になっていくことでしょう。今後も最新の情報をキャッチアップするようにしましょう。

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    基礎から学ぶScope3

    現在、脱炭素社会への移行を目指して世界中の政府はもちろん、各国の企業でも、国際基準のGHG(温室効果ガス)プロトコルに則った排出量算定を行っています。同プロトコル内の分類である「Scope」という言葉は、テレビや新聞などで目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

    なかでも近年、その重要性が声高に叫ばれているのはScope3という区分です。それは一体なぜなのでしょうか?

    今回は「基礎から学ぶScope3」と題して、Scope3の概要とGHG排出量の算定方法について、分かりやすく解説します。企業の経営者はもちろん、CSRに取り組む担当者の方や環境意識の高い投資家の方も、ぜひ参考にしてみてください。

      Scope3とは?

      サプライチェーン排出量のスコープ図
      出典:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「サプライチェーン排出量算定について」

      Scope3とは、GHG排出量の国際算定基準である「GHGプロトコル」における区分の一つであり、サプライチェーン排出量のうち、事業者によるGHGの直接排出量であるScope1や他社から供給された電気や熱、蒸気の使用に伴う間接排出量であるScope2を除いたすべての間接排出量のことを指します。

      サプライチェーン排出量は、製品の材料調達から製造、在庫管理から消費に至るまでの一連の流れにおいて排出されたGHGのことであり、サプライチェーン全体でのGHG排出量を把握するための指標です。これらにおける自社が他社から購入した製品の製造時におけるGHGや、自社の製品を消費者が購入して使用したときに排出されるGHGなどがScope3に分類されるでしょう。

      Scope3は以下の15のカテゴリから成り立っており、カテゴリ1〜8までが上流、9〜15までが下流となっています。


      Scope3カテゴリ該当する活動(例)
      購入した製品・サービス 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達
      2資本財生産設備の増設(複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上)
      3Scope1,2 に含まれない燃料及びエネルギー関連活動調達している燃料の上流工程(採掘、精製等)調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等)
      4輸送、配送(上流) 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主)
      事業活動から出る廃棄物 廃棄物(有価のものは除く)の自社以外での輸送(※1)、処理
      6出張 従業員の出張
      7雇用者の通勤従業員の通勤
      8リース資産(上流) 自社が賃借しているリース資産の稼働(算定・報告・公表制度では、Scope1,2 に計上するため、該当なしのケースが大半)
      9輸送、配送(下流) 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売
      10販売した製品の加工 事業者による中間製品の加工
      11販売した製品の使用 使用者による製品の使用
      12販売した製品の廃棄 使用者による製品の廃棄時の輸送(※2)、処理
      13 リース資産(下流)自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働
      14 フランチャイズ 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2 に該当する活動
      15投資 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用
       その他(任意)従業員や消費者の日常生活
      出典:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「サプライチェーン排出量算定について」

      これまで重視されてきたScope1やScope2の算定は、自社の製品製造工程やエネルギー調達量から求められるため比較的容易でした。

      しかし、自社と関連のある他社にまで対象を広げたScope3については、計算も複雑であり、取引先の協力も不可欠です。算定するにあたってはかなりの労力を要するため、導入はうまく進んでいないのが現状です。

      Scope3の算定方法

      Scope3を含むGHGの算定にあたっては、下記の2パターンのどちらかの手法によって15のカテゴリごとに計算し、その合計を算定します。

      環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方(p.6)」より筆者作成

      本来であれば、生きたデータである一次データを取得することが望ましいものの、リソースの問題などから現在の実務上の主流は基本式から排出量を算定するパターンとなっています。

      活動量とは、温室効果ガス排出に関わる事業活動の規模を示します。図でも示しているように、電気の使用量(kWh)や貨物の輸送量(トンキロ)、廃棄物の処理量(t)などが該当します。これらを、活動量あたりのCO2排出量である排出原単位に乗じることでGHG排出量を算定することができます。排出原単位は環境省が運営するグリーン・バリューチェーンプラットフォームから確認することができます。

      また、より実態に即した算定方法として、取引先に排出量を実測値で直接計測するよう求め、正確な排出量を算定する方法もあります。

      環境省制定のガイドラインとGHGプロトコルでは各Scopeでの算定範囲に一部ゆれがあります。実際の算定にあたっては最新のガイドラインに則って算定をおこなってください。

      Scope3を算定するメリット

      出典:Unsplash

      削減対象が明確になる

      Scope3を算定することでサプライチェーン全体のGHG排出量が明らかになるのはもちろんのこと、排出源ごとのGHG排出が把握できるようになります。

      したがって、自社の製品サイクルを見直す際に、どこに注力すべきかという削減のターゲットを、より詳細に絞り込むことができます。サプライチェーン上のどこを優先的に削減対象とするかを決めることで、スムーズに脱炭素経営を実現できるでしょう。

      また、限られたリソースを効果的に生かした取り組みも可能です。たとえば、梱包や輸送に関わるセクションにおいてGHGを削減することは、不要な包装や無駄な輸送プロセスを改善することです。

      つまり、結果として無駄なコストが削減されることでビジネスのコストダウンにもつながります。こうしたリソースの効率化により、企業に様々な副産物をもたらすでしょう。

      取引先との関係が深まる

      サプライチェーン全体の排出量を算定するには、自社だけで取り組みを完結することは不可能です。取引先と情報交換をしたり、取引先のビジネスモデルをより一層理解しなければなりません

      そうした連携を取ることで、環境負荷を低減するための新たなアプローチの模索や環境に優しいサービスへのブラッシュアップといった、取引先との関係がより親密になることも期待できるでしょう。こうした動きは、Scope1やScope2の算定では見られないことです。

      また、自社単体では実現できないような対策を他社と連携して推進することができるかもしれません。今までは個社ごとの取り組みで個社ごとの成果となっていましたが、サプライチェーンとして団結して取り組むことで業界を横断する施策や、その成果もよりインパクトのあるものとなるはずです。

      社会的な信用が向上する

      近年、環境や倫理といった非財務情報は消費者のみならず、投資家や取引企業といったステークホルダーからも開示を求められる傾向にあります。

      そこで、プレスリリースや株主総会などでサプライチェーン排出量を公表することで、サプライチェーン全体での環境保全活動を定量的に示すことができれば、健全な環境経営に対する社会からの高評価を受けやすくなるでしょう。

      ESG投資という目線で見ても、サプライチェーン排出量の開示要請に対応することは資金調達の可能性を広げる重要な取り組みです。「サステナブル」がキーワードとなる今後の社会情勢において、Scope3を含んだ質の高い非財務情報を提示できる企業は、様々な面で有利になると思われます。

      Scope3算定の課題

      出典:Unsplash

      コストがかかる

      正確なデータを取得するには、人の手による確認ではなくシステム化された計測フローが必要になってきます。昨今の商品は多機能化に伴って非常に複雑な作りになっており部品が様々なルートで持ち込まれます。

      数社であれば算定も簡単ですが、たくさんの企業を横断するようなサプライチェーンでは、その排出量を計測するシステムも高額なものになりがちです。したがって、Scope3算定を検討する際には多くのケースにおいてコスト面で頭を悩ませることになるでしょう。

      また、GHG排出量の算定にあたっては細かいチェックや地道な事務作業も伴います。時間的コストという視点で見ても、従業員がこれらの作業に手間取られてしまうのはもったいないと言わざるを得ません。

      絶対的な正確性が求められる

      前述のように、Scope3を含めたGHG排出量を公表することは社会的信用に直結します。エコな企業や製品を選択して消費行動をする消費者がいる以上、その数値は絶対に正しいものでなければなりません。

      そのため、悪意がなかったとしても不正確なデータを公表してしまうと、消費者や投資家からは「不正に利益を得ている」といったイメージを持たれてしまいます。

      また、要件を満たせない企業がサプライチェーンから外されてしまうのを防ぐために、あるいはGHG削減コストを浮かせるために数字の改ざんを行う可能性もあります。

      データを管理する際には、改ざんが難しいような高いセキュリティ要件を満たすデータベースやブロックチェーンなどの分散的なデータ管理を行うデータベースを活用する必要があるでしょう。

      Scope3が注目されているワケ

      Artisan Partners ne veut pas qu'Emmanuel Faber reste président de Danone.
      国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のエマニュエル・ファベール議長(出典:Les Echos

      元々、環境意識の高い企業からはそれなりに認識のあったScope3ですが、最近になって急激に企業からの注目が高まりつつあります。その理由は、気候変動に関する枠組みの世界的基準が統一されたことにあります。

      2023年6月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表した「サステナビリティ開示基準」では、それまで乱立していたサステナビリティ関連および気候関連開示についてが統一されており、上場企業がサプライチェーンにおけるGHG排出量を算定する際には、Scope3も含めて算定しなければならないと明記されました。

      今回発表された開示基準は早ければ2024年度から適用可能で、日本でもサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が主体となって24年3月に国内での開示基準の草案を公表しており、27年3月期から企業に適用を義務付ける見込みとなっています。

      したがって、先日の最終確定を受けて日本の上場企業は上述のような課題にイチ早く取り組まねばならず、国内でScope3への関心が高まっているというわけです。

      日本の企業では、環境活動において先進的な取り組みには腰が重い企業が一定数存在します。一方、世界経済ではEUがその覇権をますます強めており、産業に関する政策イニシアティブをとるケースもかなり多いです。

      実際に、DPP(デジタルプロダクトパスポート)が義務化された際には、多くの国内関連企業が対応に追われました。

      Scope3は各企業、もっといえば各製品レベルで算定のシナリオが異なってきます。スケジュールに余裕をもたせず、「義務化されたからやろう」のスピード感で動いている企業は、GHG算定に関して思わぬ苦戦を強いられる可能性もあるため注意が必要でしょう。

      特に注目を集めているScope3カテゴリーとは?

      出典:環境省「物語でわかるサプライチェーン排出量算定」

      企業のサステナビリティへの取り組みがますます重要視される中、Scope3の排出量管理が注目を集めています。Scope3は企業の直接的な活動だけでなく、サプライチェーン全体や製品のライフサイクルにわたる温室効果ガス(GHG)排出量を含むため、その管理は複雑を極めます。特に以下に示すいくつかのカテゴリーについては、企業にとって大きな影響を与える可能性があり、詳細な理解と対策が求められます。

      カテゴリー4

      カテゴリー4は、サービスのサプライヤーから自社への物流という上流の輸送および配送に関連する排出量が振り分けられるカテゴリーです。原材料や部品が供給元から製造拠点まで運ばれる際に発生する温室効果ガス排出量が対象となっており、物流業界ではその重要性が徐々に認識され、効率的な物流計画や低炭素輸送手段の導入が進められています。

      たとえば、事業者をアパレル小売店として考えてみましょう。繊維が海外で生産(一次サプライヤー)されており、日本のアパレル企業(二次サプライヤー)が生地を購入・縫製し、小売店(算定事業者)などに販売するといった関係性があるとします。この場合、2次サプライヤーから事業者への配送がカテゴリ4となります(輸送や配送を事業者が行う場合を除く)。1次サプライヤーから2次サプライヤーへの輸送でも温室効果ガスは発生しますが、原材料の調達である排出量はカテゴリ4では算出せず、カテゴリ1で計算します。

      また、自社が費用負担している物流に伴う排出量については最終製品の輸送、いわゆる下流の輸送であってもカテゴリー4として算定します。少しややこしくなってしまいますが、ざっくりいうと事業者の配送部門で製品を運んだ場合はScope1、2、配達業者などに依頼する場合は、自社が配達費用を支払えばカテゴリ4、製品を受け取る取引先や消費者が費用を支払えば後述するカテゴリ9に分類されます。

      これはカテゴリー4が排出主体、つまり削減努力が求められる主体によって上流と下流にカテゴライズしたものであり、一般的な製造工程で使われる上流・下流とは意味合いが異なっている点には注意が必要です。

      カテゴリー9

      カテゴリー9は、輸送および配送(下流)で発生する温室効果ガス排出量が分類されています。このカテゴリーは、企業が製品を消費者や取引先に届ける際の物流に関連する排出量を含むかなり広範囲なものです。

      近年、オンラインショッピングやグローバルなサプライチェーンの拡大に伴い、製品が消費者に届けられるまでの物流プロセスは複雑化しています。多くの異なる運送業者や配送手段が関与しているため、正確な排出量の追跡には困難が伴ううえ、これらは企業が直接管理できない部分が多いです。そのため、カテゴリー9への対応は急務であるとして、主に大企業を中心にこのカテゴリへの注目度が高まっています。

      カテゴリー4と異なる点は、カテゴリー4が上流の輸送および配送、つまり原材料や部品が供給元から製造拠点に運ばれる際の排出量をカバーしているのに対し、カテゴリー9は製品が完成し、消費者や取引先に届けられる下流の輸送および配送かつ、配送に伴う費用や労力を他社が負担している排出量を対象としている点です。また、カテゴリー9については「輸送」「配送」に関する排出量と説明されていることが多いですが、「保管」に関する排出量もこのカテゴリーで算定します。

      このカテゴリーでは自社の取り組みというよりも物流パートナーとの協力が重要です。物流業界ではAIを活用した最適配送ルートの開発や「グリーン配送オプション」の提供によってGHG排出量を削減する取り組みがなされています。適切な企業を配送業者として選定することで、企業だけでなくバリューチェーン全体の環境パフォーマンスを向上させ、持続可能な社会への貢献が期待されます。

      カテゴリー11

      Scope3のなかでもとくに厄介とされるのが、カテゴリー11「販売した製品の使用」、つまり製品が消費者の手に渡って使用されているときに排出されるGHG排出量です。このカテゴリが特に注目される理由の一つは、その計算の難しさにあります。

      調達や配送であれば、実際の数値に照らし合わせて排出量を算定することができますが、カテゴリー11は生産時にはまだ確定していない「製品の生涯排出量」を考慮しなければなりません。製品がどのように使われるか、どれだけの期間使用されるか、さらにはどのエネルギー源を使って運用されるかは消費者ごとに異なるため、正確な排出量を算定することが困難です。

      現在は使用方法等の条件ごとに仮定のシナリオを作り、計算上の生涯排出量を設定していますが、これには限界があります。EVや家電製品はユーザーごとに使用頻度や使用時間に大きな差があり、さらには太陽光発電等の再エネ電力を利用していた場合にはGHGの算定に大きなインパクトを与えてしまいます。

      したがって、本来の目的からするとユーザーごとの利用に即したGHG排出量を算定すべきであり、日本国内でも実際にそういった取り組みをスタートしている企業も散見されます。しかし、個別の製品使用データや電力データを取得するにはいくつもの課題があり、Scope3対応が追いついているとはあまりいえない状況が続いています。

      Scope3を公表している企業

      ダイキン工業株式会社

      出典:Enterprise Zine

      CO2の排出量が年間3億トンを超えているというダイキン工業株式会社はScope3を含めたGHG排出量を自社のHP上で公表しています。実はそんな莫大なサプライチェーン排出量の99%はScope3カテゴリー11による排出量が占めているそう。そんななかでScope3算定方法の改善にも着手している最中です。

      現在のシナリオでは、消費者は一定の温度を超えるとエアコンをつけるだろうという予測のもと全体的に計算をしており、個別の利用状況が反映できていません。そこで、産総研と共同でメガデータを解析することで、精度の高い実態に即したScope3の算定ができないか研究を進めています。

      富士通グループ

      富士通のロゴ
      出典:会社四季報オンライン

      富士通グループでは、事業活動のライフサイクルのうち、Scope3の比率が全体の約9割を占めています。そのため、このカテゴリに関しての排出削減を掲げ取り組んでおり、富士通グループの中期環境目標「製品の使用時消費電力によるCO2排出量を2030年度に2013年度比30%以上削減する」に基づき、第10期環境行動計画も策定しました。

      省エネ技術の適用などを通してScope3削減を目指す同グループは、2020年には「スコープ3 排出量算定」を含む環境マネジメントにおいて、国際的な「サプライヤー・エンゲージメント評価(SER)」の最高評価「A」を獲得するなど、精力的な環境活動が光ります。

      株式会社リコー

      出典:バチャナビ

      株式会社リコーでもGHG排出の約83%を占めるというScope3内の、原材料調達(カテゴリー1)、輸送(カテゴリー4)、使用(カテゴリー11)を対象に対応を進めています。

      とくに2023年度からはカテゴリー4の輸送において、GLEC(Global Logistics Emissions Council)フレームワーク認証と呼ばれる多国籍企業とそのサプライヤーに特化した物流排出量計算のガイドラインに準拠した可視化ツールを、北・中・南米の各地域にも導入。これにより、GHG排出量を適切に把握することができるようになります。

      まとめ

      今回はScope3について、概要から企業事例まで解説を行いました。

      「製品生産時のGHG排出量を報告して終わり」の時代はいまや過去のものになっています。消費者の製品使用にも企業が責任を持ち、正確なScope3算定に向けての企業努力が欠かせません。製品の使用データの取得・活用は今後、製品開発以外の用途として重要な価値を持ってくるでしょう。

      自社のサプライチェーンを見直し、GHG排出量の可視化・削減に向けて、ぜひScope3対応に取り組んでみてはいかがでしょうか。

      トレードログ株式会社では、GXをテーマに製造・物流・社会インフラなど非金融領域へ向けた「データ活用×ブロックチェーン導入」を専門的に支援させていただいております。

      Scope3への対応や電力の色分けといったエネルギー分野に関する課題も、ブロックチェーン活用によって解決いたします。

      少しでもお悩みやご関心がございましたら、是非オンライン上で30〜60分程度の面談をさせていただければと思いますので、お問い合わせください。

      ICOとSTOとは?〜ブロックチェーンによる新たな資金調達のカタチ〜

      2008年にサトシ・ナカモトがビットコインを誕生させて以来、ブロックチェーン技術は金融領域のみならず、非金融領域、それも非常に幅広い産業での応用が期待され、また実用化されてきました。

      そんなブロックチェーンにとって、切っても切れない関係にあるのがトークンです。ブロックチェーントークンは、近年注目を集めるNFT(Non Fungible Token)など、数多くの応用可能性を背景に世界中の事業家や投資家達が注目する事業領域となっています。

      そんななかでも、従来の出資とは異なるシステムに基づいた資金調達法がブロックチェーンによって実現しています。本記事では、ブロックチェーンが実現する新たな資金調達法であるICO、STOについて詳しく解説していきます。

      1. ブロックチェーンによる資金調達が注目を集めている!
      2. ブロックチェーンによる資金調達のメリット
      3. かつてはICOがトークンによる資金調達の代表例だった
      4. STOはICOに代わるデジタル証券の資金調達手法
      5. 国内では不動産STOが活発化
      6. まとめ

      ブロックチェーンによる資金調達が注目を集めている!

      トークンを用いた資金調達法

      近年、企業が資金を調達する方法は多様化しています。一昔前までは、金融機関や知人・親族からの借入、新株発行などが主流でした。しかし、現在ではベンチャーキャピタルからの投資やクラウドファンディングによる資金調達も珍しいものではなくなってきています。

      実は、そんな激動の金融分野においてもブロックチェーンの導入が始まっています。ブロックチェーンの文脈におけるトークンとは、ブロックチェーン技術を用いて発行された独自の暗号資産(通貨)や電子的な証票を意味します。

      概略としては、企業がブロックチェーン上で発行するトークンを投資家に提供し、投資家は配当金や発行体の提供するクーポンやポイントなどの非金銭リターンを受け取るという仕組みですが、ブロックチェーンの特性を生かすことで自由度や流通性が大きく向上すると予想されています。

      とりわけ、本記事のテーマでもあるICOやSTOは、従来の株式資本市場における資金調達のデメリットを克服する新しい方法として、すでにいくつもの大型の調達実績を出してきました。

      それぞれどのような仕組みなのかについてこの後、解説していきますが、その前にブロックチェーンについて軽く説明を加えます。

      そもそもブロックチェーンとは?

      トークンの基盤となっているブロックチェーンとは一体どのようなものなのでしょうか。

      ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

      ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

      ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

      取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

      分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

      このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

      ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

      従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
      構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
      DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
      データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

      こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

      データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

      詳しくは以下の記事でも解説しています。

      ブロックチェーンによる資金調達のメリット

      安全な資金調達が期待できる

      出典:Unsplash

      従来型の出資では株や債券等の証券は証券保管振替機構(ほふり)で一括管理されています。このような中央集権的な管理体制の場合、仕組み的に単一障害点になり得て、何らかのトラブルによりここの機能が停止すると取引のすべてがダウンしてしまいます。

      もちろん、二重化やバックアップセンターなどの対策はなされていますが、そういったバックアップセンターも停止した場合(大規模災害等)、システムは機能しなくなってしまいます。

      また、データの集中管理にはデータの改ざん・ハッキングなどのリスクもあります。専用線を使用していることが多いため、インターネット経由のハッキングリスクは基本的には心配ありません。しかし、USBなどを通してシステム内部に侵入される可能性があります。

      これに対して、ブロックチェーンは前述のように分散してデータの管理を行います。不特定多数のユーザー同士が取引履歴を記録して監視する仕組みのため、ネットワーク全体でデータの一貫性を保つことができ、単一障害点を持たないように設計されています。

      したがって、一つのノードが機能しなくなったり、あるいはデータの不正な書き換えが起きた際にも、ネットワークの参加者間で正確なデータは同期されているため、すぐにバックアップを復元することが可能です。

      こういった安全で正確なデータ管理ができる点は、資金調達や証券との相性が良い技術といえるでしょう。

      煩雑な事務作業がなくなる

      出典:Unsplash

      ブロックチェーンによる資金調達ではトークンを介して権利を管理することができます。プラットフォーム上で電子帳簿の書き換えによって容易に権利を移転させることができることから、流動性が高まると考えられています。従来のような煩雑な手続きを要することなく活発な取引が期待できます。

      また、証券取引では取引がその台帳に反映される以前に、約定日、銘柄、数量、価格などが合っているかを確認する「約定照合」という作業があります。こうした確認を要する作業は、膨大な作業量やシステムをまたぐチェックにより手間がかかり、ミスも増えてしまいます。

      こうした分野にブロックチェーンを活用することにより、作業を大幅に効率化することができるのではないかと注目されています。また手続きも全てネット上で完結するため、手続きのコストは従来よりも削減できるでしょう。

      24時間稼働が実現する

      出典:Unsplash

      従来の証券取引では、仮想通貨など一部の投資商品に関しては、土日を含む24時間で取引が可能となっていますが、基本的には平日の9時〜15時半までとなっています。

      これは、現在の上場有価証券は証券取引所やほふりを介することでしか取引ができず、これらの営業時間に依拠せざるをえないためです。

      ブロックチェーンによるデジタル上での取引となるため、24時間いつでも取引が可能になっています。したがって、投資家は早朝や深夜、休日など自身が好きなタイミングで売買を行うことができます。約定と決済も即時行えるため、即時的な取引も可能になり、利便性が高まっています。

      かつてはICOがトークンによる資金調達の代表例だった

      Top 30 ICO Development Companies in India [September 2023]

      出典:Linkedin

      ブロックチェーンによる資金調達の初期の形はICOと呼ばれるものでした。今はあまり見かけないタイプの調達法ですが、基本的な思想は現在の主流と通づるところもあるため、歴史を学ぶ意味でもICOについて見ていきましょう。

      ICOの概要

      ICOとは、Initial Coin Offering(イニシャル・コイン・オファリング)の略で、新規仮想通貨を公開・売却することで資金調達する方法のことです。

      ICOでは、企業や団体が、コインやトークンと呼ばれる独自の仮想通貨を発行します。同時にホワイトペーパー(解決したい課題やその必要性、市場規模、具体的なソリューションなどについてまとめた資料)を公開することによってプロジェクトの有望さを投資家に売り込みます。

      投資家は、企業や団体の活動内容を知り、成長可能性があると思えば、コインやトークンを購入して保有します。プロジェクトが軌道に乗れば、保有しているコインやトークンの価値が上昇します。そして、購入時より価格が上がったタイミングでそれらを売却すれば、売却益を得られるという仕組みです。

      銀行から借り入れる際には、煩雑な審査や返済義務といった存在が借り手の頭を悩ませますが、ICOではこれらも必要ありません。そういった意味ではIPO(新規公開株)の仮想通貨版と考えてもらうとわかりやすいかと思います。

      仮想通貨にはもともと、国際送金を低コストで行えるという特徴があるため、国や地域を限定することなく世界中から資金を調達することが可能です。こうした様々なメリットによって世間の注目を集めました。

      ICOに関する数々のトラブル

      一時期は大きく注目を集め、多額の資金が投じられたICOでしたが、現在ではICOによる資金調達はほとんど行われていません(少なくとも、ICOと名乗ることはないでしょう)。

      その理由は、ICO投資詐欺が横行したことに起因しています。ICOにおけるトークンは法規制の範囲外でした。したがって、発行者にとっては簡易・迅速な巨額の資金調達手段として、投資家にとっては当時の仮想通貨ブームも相まって世界的に爆発的に件数が増えました。

      十分に検討されていないプロジェクトであっても資金が調達できましたが、プロジェクトが投資家に対して報告する義務もなく、ブームに乗っただけのプロジェクトは仮想通貨のバブル崩壊とともに立ち消えになってしまいました。

      このような極度に投機的な性格や、仕組みを利用した詐欺事件が相次いだことなどにより、市場は大きく縮小。令和元年の金商法改正により、ICOによって発行されるトークンのうち、トークンが暗号資産(仮想通貨)に該当する場合や前払式支払手段(電子マネーやポイントと同じ分類)に該当する場合は、資金決済法の規制を受けることとなりましたが、ネガティブなイメージはいまだ取り戻せていません。

      STOはICOに代わるデジタル証券の資金調達手法

      出典:MAKE USE OF

      問題が露呈したICOに取って代わったのがSTOと呼ばれるアプローチです。ここではSTOについて解説していきます。

      STOの概要

      STOとは、Security Token Offering(セキュリティ・トークン・オファリング)の略で、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法のことです。ここでの「セキュリティ」は一般的に使われる「安全性」という意味ではなく、「証券」という意味です。

      有価証券は、債権や株式、投資信託など、財産的な裏付けや権利を持つもので、その権利を他人に移転したり、行使したりする際に受渡・占有が必要とされる証券のことを指します。こういった従来の有価証券をブロックチェーン技術を用いて電子化(トークン化)したものがST(セキュリティ・トークン)です。

      有価証券は証券会社をはじめ、銀行や保険会社等の金融機関でも取り扱っていますが、STを扱う取引機関もそれら同様、政府機関による厳しい審査を受けなければならず、トークンリスト、データ共有、オンボーディング手順に関する様々なコンプライアンスをクリアする必要があります。

      したがって、ICOのように質の低いプロジェクトや悪意を持った架空のプロジェクトが紛れ込むリスクが格段に減少しました。

      STを購入できる取引所の整備は主に海外で進められてきましたが、2020年5月に金融商品取引法で有価証券として規定されたのをきっかけに、国内でもSTを取り扱う証券会社が現れ、今後さらにマーケットが拡大していく見込みです。

      STOのメリット

      STは証券会社を通して購入することになります。したがって、STを発行する企業も各国の金融商品取引法に準拠したトークンを発行する必要があるため、安心して投資をおこなうことが可能です。

      また、STOでは個人投資家でも様々なものに投資できるようになり、企業としてもSTOを活用して多くの投資家から資金調達を行うことによって、一人当たりの投資金額を小口化できます。

      株式等はもちろんのこと、従来の方法では難しかった土地や著作権などの所有権も小口化することが可能です。今後も、さまざまな資産を対象としたトークンが開発されていくことでしょう。

      STOのデメリット

      STは、金融商品取引法及び関連府令の改正により「電子記録移転有価証券表示権利等(デジタル証券)」と定義されました。

      STは上図のように①伝統的有価証券トークン②電子記録移転権利(いわゆるみなし有価証券トークン)③適用除外電子記録移転権利(内閣府令により②から除外されるもの)に分かれています。

      改正前は信託受益権、集団投資スキーム持分などの電子記録移転権利は第二項有価証券として扱われていました。しかし、トークン化された有価証券は流通性が高まると予想されることから、第一項有価証券として取り扱われることになりました。

      市場における流通性が高い株式や社債等の有価証券については、有価証券の募集等に関して二項有価証券に比べて厳しめの規制が課されています。したがって、開示規制により有価証券届出書を提出しなければならなかったり、仲介業者(プラットフォーム提供者)も第一種金商業のライセンスが必要になったりします。

      結果としてICOと比較すると、小企業や早期プロジェクトがトークンを発行し公募するハードルがかなり高くなってしまいました。

      国内では不動産STOが活発化

      今まで見てきたように法的バックグラウンドが生まれたことにより、今後たくさんのSTO事例が誕生するでしょう。国内ではそういった流れに先駆け、不動産STの取引が活性化しています。

      不動産STとは不動産特定共同事業の出資持分をトークン化して、小口商品として販売します。マンション投資など不動産への投資は高額であり、主にプロ向けに販売されることが多いですが、STOを活用することで個人単位でも比較的少額から投資できるようになっています。

      これまでも、クラウドファンディングなどで、不動産特定共同事業の出資持分を販売する例はありました。しかし、これらは譲渡における手続きが複雑なうえに、信託受益権については、信託銀行等の帳簿上でその権利や権利者が管理されており、同日中に大量の件数の権利移転手続きを行うことが困難でした。

      したがって、この不動産分野では投資家同士のセカンダリー取引が困難な流動性の低いという課題を抱えていました。

      しかし、ブロックチェーンを活用してトークン化することで、大量の件数の権利移転手続きを効率的に実施できるようになり、多数の投資家を対象とした不動産関連の小口投資を商品化することが可能になりました。

      日本初の不動産STOをおこなったとされるケネディクス株式会社は、SMBC信託銀行と大和証券などと協業しながら大型のSTOを実施してきました。同社では2023年8月までに8件の不動産STOを実施し、ST発行総額は407億円にのぼります。

      2023年8月に実施した発行総額が52億円のSTO(出典;ケネディクス・インベストメント・パートナーズ株式会社

      また、2023年11月には大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が、金融庁よりST取引に係るPTS(上場有価証券取引に係る私設取引システム)開設の変更登録及び変更認可を承認されたと発表しました。同時に「START(スタート)」と命名されたセカンダリー市場の開設も発表され、さらなる取引の活性化が見込まれています。

      ODX、新PTS市場START(スタート)の第1号案件として「公募型不動産STO」実施へ

      まとめ

      株や債券等の証券が券面から証券保管振替機構(ほふり)での管理に移り変わってきたように、今度はデジタル有価証券に形を変え、新たな資金調達モデルへの転換点に差し掛かっているのかもしれません。

      まだまだ規制面やなどで課題も多く残るSTOですが、今後STを取り扱う証券会社や投資モデルの多様化が進めば、STOをベースとした資金調達が主流となるはずです。

      既存の証券システムの刷新を期待して、今後のSTOの発展には引き続き注目していきたいですね。

      ブロックチェーンに隠れた3つの課題とは?

      DXの有望技術として期待されるブロックチェーン。分散型台帳とも呼ばれるこの技術が普及するためには克服すべき3つの課題「スケーラビリティ」「ファイナリティ」「セキュリティ」があります。

      本記事では、これら3つの課題の概要と解決策を解説します。

      1. ブロックチェーンのおさらい
      2. ブロックチェーンの課題①:スケーラビリティ
      3. ブロックチェーンの課題②:ファイナリティ
      4. ブロックチェーンの課題③:セキュリティ
      5. まとめ

      ブロックチェーンのおさらい

      高まるブロックチェーン市場への期待

      ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並んで、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待されている有望技術の一つです。

      DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことです。産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーションから開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革まで大小問わずにビジネス全体を変革する可能性を秘めています。

      元々はFintech(フィンテック、金融領域におけるDX)の一分野である仮想通貨の実現を可能にした一要素技術、つまりビットコインを支えるだけの存在に過ぎなかったブロックチェーンですが、近年、データの透明性や耐障害性、分散的な組織構造などが注目され、あらゆる既存産業・ビジネスで応用できる可能性を秘めた技術であることが明らかになってきました。

      海外では行政や地域福祉レベルでもブロックチェーンが実用化されるケースがあり、国内でも大手企業を中心に、実証実験や一部サービスへの導入が始まっています。

      欧州での規制や度重なる企業の不祥事などにより、データの正確性や業務の自動化が求められる今後のビジネスでは、ブロックチェーンの需要はさらに拡大していくことでしょう。

      テーマでもあるブロックチェーンの課題について説明を加える前に、そもそもブロックチェーンとはどういう仕組みなのか簡単におさらいしましょう。

      ブロックチェーンとは何か?

      ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

      ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

      ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

      取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

      分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

      このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

      ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

      従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
      構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
      DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
      データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

      こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

      データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

      詳しくは以下の記事でも解説しています。

      そんなブロックチェーンも万能薬ではない!?

      上述のように、ブロックチェーンは様々な社会課題を解決する可能性を秘めた素晴らしい技術です。しかし、その割には私達が普段触れているサービスに適用されている事例は多くはなく、社会へ浸透しているとはいえない状況です。

      これは一体なぜなのでしょうか。もちろん既存のデータベースから乗り換えるだけのメリットを感じない、新たなシステムを導入するだけの資金がないといったビジネス的な理由もあるでしょう。

      しかし、それ以前にブロックチェーンには技術的な課題が大きく分けて三つ存在します。いずれの課題も単純に対策をすれば良いというものではなく、メリットと引き換えに生じているものもあるため、その理由や背景を知ることはブロックチェーンを語るうえで欠かせないでしょう。

      ここからはそれぞれの課題について、概要と解決策を紹介していきます。

      ブロックチェーンの課題①:スケーラビリティ

      point of sale scalability

      出典:National Computer Corp

      課題の概要

      ブロックチェーンの課題の一つ目は、「スケーラビリティ」です。

      スケーラビリティとは、「トランザクションの処理量の拡張性」つまり、どれだけ多くの取引記録を同時に処理できるかの限界値のことを指します。

      ブロックチェーンは、その仕組み上、従来のデータベースよりもスケーラビリティが低くならざるを得ないという課題を抱えています。

      ブロックチェーンの仕組みでは、ビットコインやイーサリアム、リップルといった各ネットワークごとに予め定められた「コンセンサスアルゴリズム」と呼ばれる合意形成のルールに基づいて、一定量のトランザクション群をブロック化することで取引記録を保存しています。

      したがって、ある単位時間にどの程度の量のトランザクションをブロック化して処理できるかは、コンセンサスアルゴリズムに依存することになります。

      たとえば、ビットコインでは「PoW(Proof of Work、プルーフオブワーク)」というコンセンサスアルゴリズムとして採用しています。

      これは、ネットワーク参加者(=「ノード」)に、自身のコンピュータのマシンパワーを利用したある計算に成功することを、ブロック生成の条件とするルールです。

      そのため、ビットコインネットワークにおけるスケーラビリティ、つまりトランザクションの処理量は、ノードのマシンパワーに依存することになります。

      ビットコインの場合、新しいブロックが平均して10分に1回生成され、各ブロックでは1MBのデータしか処理がされません。

      ブロックチェーンには、未処理のトランザクションが待機しておくメモプールという空間が存在しますが、処理するトランザクションが増えて記録可能な取引の上限を超過してしまうと、メモプールに大量のトランザクションが留まってしまいます。

      こうなると、次回以降のブロック生成時まで放置されて取引が完了しなくなってしまいます。このような取引増加に伴ってネットワーク処理速度が低下することをスケーラビリティ問題といいます。

      また、マイナーと呼ばれるトランザクションの承認者は、ガス代(手数料)という経済的なインセンティブによって動いているので、手数料が多いものから処理を行います。

      すると、自らの取引を優先的にブロックに記録させるために相場より多くの手数料を支払うユーザーが現れ、手数料のインフレが起きてしまうという副次的な弊害もあります。

      一般に、スケーラビリティは「tps(transaction per second、1秒あたりのトランザクション処理量)」で定義することができますが、実際に、代表的なブロックチェーンネットワークは、次のように不十分なスケーラビリティだと言われています。

      • 一般的なクレジットカード:数万tps
      • ビットコイン(コンセンサスアルゴリズムがPoW):3~7tps
      • イーサリアム(コンセンサスアルゴリズムがPoS):15~25tps
      • コンソーシアム型ブロックチェーンネットワーク(PoAコンセンサスアルゴリズム):数千tps

      このように、ブロックチェーンは、オープンで分散的なデータベースとして期待を集めている一方で、ネットワーク参加者が増えるとスケーラビリティが担保できなくなるという課題を抱えています。

      課題の解決策

      この課題に対しては様々なアプローチが試みられています。最も安直な最善策は、メインチェーンのブロック容量と生成スピードの制約を緩和させることです。

      このアプローチでは、ブロックの容量を増やしたり、生成までの間隔を短縮することで、一回のトランザクションで処理できるデータ量を増加させて待機のトランザクションを減らすことができます。

      しかし、これによってブロックチェーン本来の分散性が低下する可能性や、システム自体の安定性やセキュリティに影響を及ぼす可能性もあります。

      また、金融領域では、「ライトニングネットワーク(Lightning Network)」という新しい概念に注目が集まっています。

      ライトニングネットワークは、小規模ながら高頻度で行われる取引をオフチェーン(ブロックチェーンの外部)で処理するペイメントチャネルという仕組みによって、最初と最後の取引だけをブロックチェーンに反映できるネットワークのことです。

      ペイメントチャネルでは、複数の秘密鍵でビットコインを管理するマルチシグという技術を背景にオフチェーン取引が可能になるため、最初の取引でビットコインを送金し、その金額内で自由に送金ができます。

      したがって、ブロックチェーンのように途中の取引も全て検証する必要がなく、中間の処理を省くことでトレーサビリティ問題に対応しています。

      このようなアプローチにより、決済の迅速化や高いトランザクション容量の実現が期待されています。たとえば、大手暗号資産取引所のバイナンスはビットコインの取引をライトニングネットワークで実行できるようになったと発表しています。

      Binance Completes Integration of Bitcoin (BTC) on Lightning Network, Opens Deposits and Withdrawals

      しかし、非金融領域においてはいまだ効果的な解決策は確立していません。

      こうした原理的な課題は、ブロックチェーンが社会基盤となれるかどうかを左右する、重要な論点だと言えるでしょう。

      ブロックチェーンの課題②:ファイナリティ

      出典:ぱくたそ

      課題の概要

      ブロックチェーン、とくにその代表格であるビットコインの課題として知られるのが、「ファイナリティ(finality)」の問題です。

      ファイナリティは決済にまつわる概念で、日本銀行によって、次のように説明されています(下記二文は公式サイトより引用、ただし一文目の丸括弧内と太字は筆者が追記)。

      • (ファイナリティーのある決済とは)「それによって期待どおりの金額が確実に手に入るような決済」のことを言います。
      • 具体的には、まず、用いられる決済手段について(1)受け取ったおかねが後になって紙くずになったり消えてしまったりしない、また決済方法について(2)行われた決済が後から絶対に取り消されない――そういう決済が「ファイナリティーのある決済」と呼ばれます。

      ビットコインの仕組みでは、このファイナリティを十分に担保できないとして、特に金融領域における活用が懸念視されることがあります。

      上記「スケーラビリティ」の項目でも触れたように、ビットコインではPoWと呼ばれる、ノードのマシンパワーを利用した計算競争によるコンセンサスアルゴリズムが採用されていますが、実はこのPoWがファイナリティの担保を邪魔しているのです。

      そもそも、PoWは、次のような仕組みです。

      1. ある時、あるノードが、トランザクションプールから一定量(1MB)のトランザクションを任意でとりまとめて、ブロック化を開始する。
      2. ブロック化を行うために、ノードはビットコインネットワークから与えられた計算課題を解くことを試みる。
      3. 同様に、世界同時多発的に複数のノードが計算を行い、計算に成功したノードが生成したブロックが他のノードに伝播されていく。
      4. 伝播された先のノードがブロック生成に用いた計算の「暗算」を行い、計算が正しいと認められたら、ブロック化に成功する。

      ここで、ある問題が起こります。それは、ある一時点でネットワーク内に複数のノードがつくった異なる複数のブロックが同時に存在し、さらにそれらの異なるブロックの中には同じトランザクションが入っているという事象です。

      PoWでは、複数のノードによる計算競争の結果を一旦すべて正規のブロックとして認めてしまうことになります。すると、ある取引記録が正しいかどうかを確認するにあたって、複数の異なるブロックのうちどのブロックを正しいものとして参照すべきかわからなくなってしまいます。

      これが、ビットコインにおける「フォーク(チェーンの分岐)」と呼ばれる問題です。

      さて、ブロックチェーンの課題に立ち返ってみると、このフォークの可能性が、ビットコイン決済におけるファイナリティの担保を邪魔していることがみえてきます。

      PoWを原理として採用するビットコインでは、常に同時多発的に複数のブロックが生成され、その度ごとにチェーンの分岐(フォーク)が発生する可能性があるため、取引内容が覆る可能性を完全にゼロとすることができず、ファイナリティを担保することができないのです。

      実は、ビットコインではチェーンの分岐が問題にならないように、PoWを補完するもう一つのコンセンサスアルゴリズムである「ナカモト・コンセンサス」を採用しています。

      ナカモト・コンセンサスは、複数のブロックが同時生成された場合、ブロックの集積が最も多い(つまり長い)チェーンに含まれるブロックを正規のものとみなすという考え方です。

      一見、この考え方によって、ファイナリティが担保されなくもなさそうではあります。しかし、残念ながら事態はそう簡単ではありません。

      ナカモト・コンセンサスはあくまで合意形成に至る考え方の一つであって、実際には、例えば運営側による仕様の変更など大きく賛否の分かれる問題が生じた際、全員での合意形成には至らず、複数の異なるチェーンを正統とみなす派閥に分派してしまうことがあります(ちなみに、こうした運営側による仕様変更等でチェーンがはっきりと分派してしまうことを「ハードフォーク」と呼びます)。

      実際に2017年には、ビットコイン(BTC)からのハードフォークによってビットコインキャッシュ(BCH)が生まれました。ハードフォークの理由は、スケーラビリティ問題の解決を目指した仕様変更でブロックの容量を8MBに拡張するというものでした。

      こうしたハードフォークはハッカーによる「リプレイアタック」の対象になります。リプレイアタックとは、ある台帳上(旧台帳)で有効なトランザクションを他の台帳上(新台帳)でも実行することにより、送金者の意図しない台帳上で資産移動させてしまうことです。

      これは「旧仕様」と「新仕様」のブロックチェーンがどちらも同じ「秘密鍵」を用いていることが原因です。仮想通貨の記録の管理に用いるキーを変えずに新通貨を作るため、知らぬ間にデータがコピーされて所有権を奪われてしまいます。

      そういった意味で、PoWを採用しているビットコインにおいて、「信用」を扱う決済領域で最も重視されるファイナリティを完全に担保することは原理的に困難なのです。

      課題の解決策

      実は、このファイナリティの問題は、ビットコインに限った課題ではなく、イーサリアムなど他のブロックチェーンネットワークでも同様に抱えている課題です。しかし、全てのブロックチェーンでファイナリティの問題が生じるわけではありません。

      ファイナリティの担保が難しいのは、PoWやPoSといった不特定多数の参加者での合意形成に至るためのコンセンサスアルゴリズムを採用しているネットワーク、つまり、「パブリックブロックチェーン」に限った話です。

      そのため、ファイナリティを必ず担保する必要のある金融機関では、「コンソーシアム型」や「プライベート型」と呼ばれる参加者を限定したブロックチェーンネットワークを採用することで、この問題に対応するケースがあります。

      「コンソーシアム型」や「プライベート型」のブロックチェーンでは、ネットワーク内に決められた数の人しか参加を許可していません。多くの場合、参加するためには管理者による本人確認等があり、簡単には参加できない仕様になっています。

      このようなチェーンにおいては、ファイナリティが実現しており、主にエンタープライズ向けのシステムでビジネス採用されています。

      ブロックチェーンの課題③:セキュリティ

      出典:Pexels

      課題の概要

      ブロックチェーンが原理的に抱える課題の3つ目が、「セキュリティ」の問題です。これには驚かれる方も少なくないかもしれません。冒頭でもブロックチェーンは「データの対改ざん性が高い」と説明したばかりです。

      では、なぜセキュリティが課題となっているのでしょうか。

      これは、トランザクションと呼ばれる個々のデータの塊のそれぞれに鍵がかけられている(公開鍵暗号方式)ことに加え、トランザクションの塊であるブロックの生成時にもコンセンサスアルゴリズムと呼ばれる合意形成のルールが適用されることで、データを書き換えることのハードルが非常に高くなっていることを意味しています。

      こうした背景から、「ブロックチェーン=セキュリティを高める技術」であると考えている方も少なくありません。しかし、残念ながら、ブロックチェーンはセキュリティの万能薬というわけではないのです。

      ブロックチェーンは「強いAI」というわけではなく、あくまで人間が稼働させる一つのシステムです。

      そのため、ブロックチェーンが社会実装される過程のヒューマンエラーによって(コーディングのバグ等)、あるいは組織的な恣意性によって(51%問題等)、理論が適切に効果を発揮しないことでセキュリティが脅かされることも十分にありえます。

      こうした事情からブロックチェーン、とりわけビットコインにつきまとうセキュリティ課題として、次の2つの問題が存在しています。

      • 51%問題
      • 秘密鍵流出問題

      51%問題とは、「ある特定のノード(ネットワークの参加者)が、ネットワーク内のマシンパワーの総量を超えるパワーでマイニングを行うと、そのノードの恣意性にネットワーク全体が左右される」という問題のことで、平たく言えば、「ネットワークの乗っ取り(牛耳り)」問題といったところでしょうか。

      先ほど説明したように、ビットコインではPoWおよびナカモト・コンセンサスと呼ばれるコンセンサスアルゴリズムのもと、複数のノードによる計算競争の結果、最も長いチェーンに含まれたブロックを正統なデータとしてみなす、という仕組みがとられています。

      そして、この計算のスピードは、計算を行うノードのマシンパワーに依存しています。したがって、この仕組みを逆手にとると、他のどのノードよりも強いマシンパワーを手に入れ、その結果、他のどのノードよりも速いスピードで計算を行うことができれば、そのノードは自分にとって有利な、恣意的な取引記録を正統にすることができます。これが、51%問題と呼ばれるセキュリティ上の課題です。

      もう一つのセキュリティ課題が、秘密鍵流出問題です。

      これは、いわゆる「なりすまし」攻撃で、各ノードが保有するアカウントに付与された「秘密鍵」を盗まれることで起こります。

      ブロックチェーンの仕組みでは、前述した「ブロック化」の過程でトランザクションがプールから取り出される際に、「秘密鍵暗号方式」と呼ばれる方法でトランザクションへの「署名(秘密鍵で暗号化する)」が行われることで、トランザクション自体のセキュリティが担保されています。

      通常、この秘密鍵は、各アカウントごとに一つだけ付与されるもので、この鍵を使うことでアカウントに紐づいた様々な権限を利用することができます。

      そのため、この鍵自体が盗まれてしまうと、個人アカウント内の権限を第三者が悪用できてしまうことになります。これが、秘密鍵流出問題です。

      課題の解決策

      51%問題と秘密鍵流出問題は、それぞれに、解決策が異なります。順に、説明していきます。

      51%問題への対応

      51%問題の対策方針は、コンセンサスアルゴリズムを変更することです。

      先ほど説明したように、51%問題は原理的なセキュリティリスクであり、PoWおよびナカモト・コンセンサスが合意形成のルールである以上、完全な対策は不可能です。

      もちろん、ネットワークの規模が大きくなればなるほど、ネットワーク総量の過半数を占めるマシンパワーを用意することは難しくなっていくので、51%問題を利用した攻撃のハードルも上がってはいきます。しかし、あくまで難易度が上がるだけの話であるため、リスクがなくなるわけではありません。

      また、ビットコインと同じコンセンサスアルゴリズムを採用した新しいネットワークは、51%攻撃の高い危険性にさらされることになります。したがって、51%問題のリスクをなくすためには、ルールそのものを変更する必要があるのです。

      これは、ビットコイン以外のブロックチェーンネットワークにおいて実際に行われていることで、例えば、イーサリアムで採用されている「PoS(Proof of Stake)」は、51%攻撃のリスクを限りなく低くすることを目的に定められたルールと言われています。

      PoSは、「ネイティブ通貨の保有量に比例して、新たにブロックを生成・承認する権利を得ることができるようになる仕組み」であるため、あるノードが51%攻撃を行うためには、ネットワーク全体の過半数のコインを獲得しなければならず、これは過半数のマシンパワーを一時的に利用することと比べて、はるかに難易度が上がります。

      また、コンセンサスアルゴリズムだけではなく、ネットワーク参加者自体を許可制にすることも、51%問題に対する一つの対策方法です。

      先述した「コンソーシアム型」と呼ばれるブロックチェーンネットワークでは、「PoA(Proof of Autority)」というコンセンサスアルゴリズムのもと、閉じられたネットワーク内で一部のノードに合意形成の権限を与えるという形をとっています。

      秘密鍵流出問題への対応

      秘密鍵流出問題への対応策の一つとされているのが、マルチシグです。マルチシグとは、トランザクションの署名に複数の秘密鍵を必要とする技術のことで、マルチシグを利用する際には企業の役員陣で鍵を一つずつ持ち合うなどの対応がとられます。

      また、マルチシグは秘密鍵流出問題へのリスクヘッジ方法であると同時に、 一つの秘密鍵で署名を行う通常のシングルシグに比べてセキュリティレベルも高くなることから、取引所やマルチシグウォレットなどで採用されています。

      ただし、上述のコインチェック事件のように、個人レベルでマルチシグを利用していたとしても、取引所そのもののセキュリティが破られてしまった場合には被害を食い止めることはできません。

      セキュリティへの攻撃は複数階層に対して行われうるものであることを理解して、単一の技術のみに頼るのではなく、本質的な対応をとるように心がけましょう。

      まとめ

      ブロックチェーンを自社ビジネスに導入するには、本記事で紹介した3つの課題を無視することはできません。イメージ先行で場当たり的なDXではかえって様々なトラブルを誘発させかねません。そのため、まずはブロックチェーンの長所だけではなく短所も理解したうえで、適用先やユースケースの洗い出しをおこなうのが良いでしょう。

      トレードログ株式会社では、非金融領域におけるビジネスへのブロックチェーン導入を支援しています。

      新規事業のアイデア創出から現状のビジネス課題の解決に至るまで、包括的な支援が可能です。

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