現在、EV(電気自動車)の普及が進みつつありますが、様々な方式・規格が存在するEV充電については日本ではまだまだ馴染みが薄いのが現状です。本記事では、これら基本的なEV充電に関する知識に加えて、EV充電に関する課題とその解決ツール、今後の展望についても触れます。EVの購入を検討されている方だけでなく、EVをビジネスに取り入れることを検討している企業担当者の方もぜひご一読ください!
EVの充電方式とは?
まずはEVの基本的な充電口を見てみましょう。
たこ焼き器のような形と双眼鏡のような形、タイプの違う接続先が2つ存在するのがわかるかと思います。この写真のように主要なEVの充電口は基本的に2つ用意されており、充電方式によって使うポートが異なります。給油口が1つしかないガソリン車と比べると、全体的にフューエルリッド(給油口扉)も大きくなっていますね。
EV充電には出力によって「普通充電」と「急速充電」の2種類に区別されます。もちろん、充電時間は早いに越したことはないのですが、それぞれのメリットやデメリットを踏まえたうえで目的に合わせた充電方式をチョイスすることが大切です。
ここからはそれぞれの充電方式について説明します。
EVの充電方式①:普通充電
普通充電は、家庭用コンセントや公共の充電スタンドで行う一般的な充電方法です。主に単相の交流100Vコンセントまたは200Vコンセントを使用し、100Vだと1時間でおよそ10km程度走行できる充電が可能で、200Vだと30分でおよそ10km程度の走行を行うことができます。
急速充電と比べると充電時間は長いものの、自宅やオフィスなど日常的な生活空間における充電(基礎充電)では、そもそも長時間駐車することが前提となるため、充電速度が遅くても問題になりません。むしろ、高性能を求めない分、充電機器は安価なラインナップもあります。そのため、個人宅では充電機器などのコストが安く済む普通充電を行うのが一般的です。
普通充電はケーブルの有無によってさらに「コンセントタイプ」と「ポールタイプ(=スタンドタイプ)」の2種類に分けられます。
コンセント型
こちらは家庭用の100Vまたは200Vの電源を使用して充電する方式です。コンセント型とは言いつつも、一般的なコンセントでは異常発熱による火災などのトラブルが起きる危険性があるため、専用のコンセントを設置する必要があります。
このタイプの魅力は、自宅で手軽に充電できるうえに充電機器も小型で済むため、本来の家屋の景観を損ねることなく設置できることです。設置も簡易的な工事で取り付け可能で、本体価格含めても十数万円程度で導入できます。
見た目に加え、コスト面を考えても今後一般家庭で最も普及するであろうコンセント型の充電ですが、充電速度はかなり遅く、フル充電には少なくとも半日以上必要です。これは、自宅やオフィスなどの拠点に帰ってきた際にEV充電を開始し、翌日車に乗る時までに充電が完了している、という使い方を想定しているためです。
また、電気自動車側のケーブルをコンセントに挿して充電することになるため、対応していない車種もあるという点もネックになるでしょう。
ポール型(=スタンド型)
こちらは充電設備に充電ケーブルとコネクターが付いており、それを車両にさし込んで充電する方式です。200Vの電源を使用することで、コンセントタイプよりも速く充電できます。付属するケーブルの接続部分は各社統一の規格となっているため、原則、国内販売されているどのEVでも充電が可能です。
一方でコンセント型と比べると、充電スタンドの設置にスペースが必要となります。見た目はスマートなものが多いですが、見た目の存在感は大きなものがあります。また、設置に伴っては電気工事が必要になるため、設置コストも数百万円程は見込んでおいたほうが良いでしょう。
こうした理由から、スタンド型の普通充電器は一般家庭よりも商業施設やマンションなどを中心に導入されることが予測されます。
EVの充電方式②:急速充電
急速充電は、その名の通り、高出力の充電スタンドを利用して短時間で充電する方法です。主に三相の電源を使用することで、一般的に30~45分程度で約80%まで充電可能となっており、EV車の最大のデメリットともいえる充電時間の不便性を極限まで解消することが可能です。
ガソリン車のように気軽にエネルギーを補給できないEVでは、ドライブの途中に行う充電(経路充電)で、休憩時間を利用して効率的に充電を行う必要があります。こうしたシーンで急速充電を活用することにより、目的地に到着するまでの時間を大幅に短縮することができます。
一方で、急速充電器は本体価格も高額なうえに高出力の電源を確保するために電気設備の増大や電気契約変更が必要となり、設置コストがかなり高額になります。こうした点から、一般家庭などプライベートな空間の設置は現実的ではなく、道の駅や高速道路のSA・PAなど、目的地までの経由地に設置されることが一般的です。
また、意外な盲点ですが、急速充電ではフル充電を行うことができません。これは急速充電器の高出力からバッテリーを守るための仕様であり、ある一定の上限値を超えると、自動で急速充電器の供給がストップします。便利である反面、お財布やバッテリーにはあまり優しいとはいえないのがこの充電方式です。
EVならではの充電スタイルとして、目的地に到着した後に行う充電(目的地充電)がありますが、目的地充電では、滞在時間に応じて普通充電と急速充電を使い分けます。たとえば、ショッピングモールや観光地の駐車場では普通充電器が設置されていることも多く、数時間の滞在中にじっくりと充電することが可能です。帰路に着くまでにバッテリーを十分に充電できるため、再び経路充電を行わずに済むこともあります。
一方で、客先訪問や昼食休憩など短時間の滞在が予定されている場合には、急速充電器を利用することで、効率的に充電を済ませることができます。このように、充電方式が分かれているEVでは、それぞれの充電シーンに応じて、普通充電と急速充電を適切に使い分けることが重要です。
充電方式の正体は交流充電と直流充電
そもそもEVの充電方式を「普通」と「急速」に分けているものの正体は一体何なのでしょうか?これを紐解くには、電気の基本的な仕組みを理解する必要があります。
電気には、直流(DC)と交流(AC)の2種類があります。直流は文字通り電気の流れる方向が一定で、交流は流れる方向が定期的に交互に変化します。身近なものでいえば、乾電池から流れる電流は常にプラスからマイナスへ流れる直流であり、私たちの家に送られてきている電気は磁場によって電圧を容易に変換でき、長距離送電が可能な交流の電気です。電気製品のプラグをどちらの向きに差しても使えるのは、電気が交流だからというわけですね。
そして同様にEVでは、負極から正極へと一定方向に電子を供給するバッテリーには直流、強力な回転磁場を生成して効率的に駆動する必要があるモーターには交流が使われています(正確には、モーターは直流でも交流でも回すことはできるが、交流で回した方がより緻密な制御が可能)。そのため、EV内部には交流を直流に変換するインバーターと、直流を交流に変換するコンバーターの両方が搭載されています。
普通充電では、一般家庭で使われている交流電源を車両に送り込み、車載のインバーターによって直流に変換してバッテリーへの充電を行いますが、急速充電では、充電器が交流電源を高電圧の直流に変換してその直流電流を車両に直接送り込んでバッテリーを充電します。直流電流は一定の方向に流れるため、バッテリーに効率よくエネルギーを供給することができるため、急速充電では短時間で大量の電力をバッテリーに蓄えることが可能になっているのです。
このように考えると、普通充電と急速充電の違いが直流電源と交流電源の違いによってもたらされるものであると理解できたのではないでしょうか?
EVの充電規格とは?
EVには普通充電と急速充電のそれぞれに合わせた充電の「規格」が存在します。各規格には異なるコネクタやプロトコルが用いられており、国や地域、さらには自動車メーカーによっても使用する規格が異なります。ここからは、EVの充電規格について詳しく解説し、それぞれの規格の特徴や利点、課題について見ていきます。
普通充電規格
SAE J1772 およびIEC 62196-2 Type 1
主に日本とアメリカで広く採用されている普通充電規格です。規格の名称が二つ存在するのは、米国ペンシルベニア州に拠点を置く「SAE International」と呼ばれる標準化団体が制定するSAE規格と、「Commission électrotechnique internationale(国際電気標準会議)」と呼ばれる電気技術の国際標準化機構が制定するIEC規格の両方で採用されているためです(ここからは便宜上、Type 1と呼びます)。
EVの普及を推進するためには、異なるメーカーのEVでも同じ充電器を利用できる必要があり、互換性のある充電インフラ・統一された充電規格の存在が不可欠でした。Type 1は、その需要に応える形で日本でのEV普及を支える標準規格として誕生しました。
世界初の量産EVとして発売された三菱i-MiEVにもType 1が普通充電規格として採用されており、そこから多くのEVモデルにも標準として取り入れられることで、早い段階で国内におけるEV充電の標準規格として定着しました。現在、日本国内で販売されているBEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)は、基本的にはすべてこの規格に対応しています。
通信方式にはCAN(Controller Area Network)と呼ばれる形式が採用されています。CANは元々、車載制御機器用のネットワークとして開発されており、ノイズ耐性やエラー検知能力の高さに定評があります。したがって、充電の進行状況や異常の監視、充電完了時の通知など安全かつ確実な充電が可能となっています。
- 最大出力:19.2kW
- 導入地域:日本、北米
- 通信方式:CAN
- ピン数:5
Mennekes(IEC 62196-2/Type 2)
主に欧州で標準的に使用されている充電規格です。正式名称はIEC 62196-2/Type 2ですが、開発した企業名にちなんでMennekesと呼ばれることも多いです(ここからは便宜上、Type 2と呼びます)。Type 2もType 1と同様、欧州における統一された充電規格の必要性から開発・制定が進められました。
Type 2の最大の特徴は、急速充電同様に三相電源を使用することもできるため、日本で主流のType 1よりも高出力で充電することが可能な点です。Type 1が主に単相電源を使用するのに対し、Type 2は三相電源を使用することで、最大出力22kWを実現しています。これにより、充電時間が短縮され、効率的にEVを充電することが可能です。
また、通信方式には電力線通信を用いたPLC(Powwer Line Communication)形式が採用されており、EVと充電器間以外にも、電力系統側からも電力発電計画などのデータを取得することができます。したがって、Type 2を採用している充電器では電力会社の発電量や車両の発車時間を考慮して充電するなど、電力負荷の観点からも効率的な充電が可能となっています。
- 最大出力:22kW
- 導入地域:欧州
- 通信方式:PLC
- ピン数:7
GB/T(20234.2)
GB/Tは中国電気企業連合会(CEC)が公開している中国における国家標準規格であり、主に中国国内で使用されています。GB/Tの最大の特徴ともいえるのが、普通充電では63Aの電流と440Vの電圧に対応しており、最大27.7kWという驚異的な出力で充電することができる点です。これは、Type1やType 2と比較しても高性能な普通充電出力であり、世界最速クラスの規格であるといえるでしょう。
また、中国ではGB/T(20234.2)規格に加え、最大250kWという出力を誇る急速充電規格であるGB/T(20234.3)規格も策定されており、アダプターの交換だけで普通充電と急速充電の両対応が可能となっています。
- 最大出力::27.7kW
- 導入地域:中国
- 通信方式:CAN
- ピン数:7
規格 | 最大出力 | 導入地域 | 通信方式 | ピン数 |
J1772(Type 1) | 19.2kW | 米国・日本 | CAN | 5 |
Mennekes(Type 2) | 22kW | 欧州 | PLC | 7 |
GB/T | 27.7kW | 中国 | CAN | 5 |
急速充電規格
急速充電規格は、短時間で高出力の充電が可能なため、長距離ドライブや公共の充電スポットで重宝されています。以下に主な急速充電規格を紹介します。
CHAdeMO
CHAdeMO(チャデモ)は、2010年に誕生した日本発の急速充電規格です。2014年にはIECの承認を受けて他の方式とともに急速充電規格の国際標準となっています。現在は国内で広く普及しており、ほとんどすべての日本製EVがCHAdeMOに対応しています。
その独特の名前は「Charge de Move(充電で移動)」から取られており、「お茶でもいかがですか?」という車を充電している間にお茶を楽しむというコンセプトを表現しています。
CHAdeMO最大の特徴は、EVの電力を別のEVや家電機器、家庭やオフィスなどへ給電する「V2X(Vehicle to X)」に対応しているという点です。CHAdeMOでは、誕生した翌年の東日本大震災で発生した深刻なガソリン不足の教訓を活かし、早い時期からEVの大容量バッテリーを予備電源として活用する技術の開発が進められてきました。
したがって、その他の規格と比べると双方向給電という技術的なアドバンテージを有しているといえます。また、充電器内に絶縁変圧器を設けて入力側(交流)と出力側(直流)で系統を分離しているため、交流電圧の異なる世界各国で使用することができます。
こうした点から一時期は欧米にも多く普及したCHAdeMOですが、EVの普及が進むにつれ、安全性を重視しているCHAdeMOよりも使い勝手や充電スピードの面で優れた規格が登場し始めました。EVユーザーのニーズとしても充電時間の短縮と充電インフラの使いやすさが重視されており、安全ながらも重たいコネクタや二口必要な充電口などの課題も指摘されています。
また、事業者からの不満も少なくありません。とくに課金システムが規格にビルトインされていない点は致命的で、EVユーザーと充電ステーション事業者間で安全な認証と決済を行うための仕様が定義されていないため、各充電ステーション事業者は独自の課金システムや認証方式を導入する必要があり、大きな手間とコストを伴います。ユーザーにとっても充電器ごとに専用の会員カードが必要であったり、充電ステーションでの支払いができないなどの弊害があります。
こうした背景から欧米では後述するCCSという規格が採用されており、現在ではCHAdeMOは事実上、日本専用規格となりつつあります。一方で、定期的なアップデートにより利便性の向上も図られています。なかでも今後のEV界を左右するともいわれているのが、CHAdeMO 3.0となる「ChaoJi(チャオジ)」です。
ChaoJiは、日中共同で開発された超高出力の急速充電規格であり、コンパクトなコネクタながら最大出力はなんと900kWにも達します。従来のCHAdeMOとはコネクタ形状が違うため、CHAdeMO3.0とはいっても変換アダプターが必要にはなりますが、後方互換性があるために間接的には現存するすべての充電規格への互換性を持っています。
中国でも従来の「GB/T 20234.3」に加えて正式導入されており、当面ChaoJiとの2本立てで普及が図られていく模様です。将来的に日本と中国の充電規格がChaojiに統一されれば世界最大の規格となり、世界標準になる可能性もあるでしょう。CHAdeMOは欧米での覇権を再び取り返すことができるのか、今後の展開にも注目です。
- 最大出力: 400kW(Chaojiは900kW)
- 導入地域:日本、中国
- 通信方式:CAN
- ピン数:10(Chaojiは7)
CCS1
主に北米で標準的に使用されている急速充電規格です。CCSは「Combined Charging System(コンバインド充電システム)」の略称で、別名の「コンボ(Combo)」という名称でもよく知られています。元々、日本の規格に対抗する形で規格化が進められたCCSはヨーロッパのライフスタイルに適合するように交流と直流の両方の充電を1つのコネクタで対応可能です。
これは、欧米において路肩や副道が公的に認められた駐車スペースになっていることに由来します。駐車場を借りずに路上駐車で自家用車を保管する人も珍しくありません。もちろん、住人でなくとも空きスペースに駐車ができます。
こうした文化がある国では、駐車中の車ごとに普通充電か急速充電かの要望が個々に異なります。周辺の住人であれば基礎充電用がメインですが、短時間停めるだけのドライバーは経路充電・目的地充電がメインになるからです。
当然、ケーブルを2つ用意しておけば異なるニーズにも対応できますが、1本で済ませられるのであればその方がより合理的でスマートです。したがってCCS方式では、1本のケーブルで普通充電と急速充電という2つの差込口を持つグリップを採用したという訳です。
CCSでは、充電ステーションと充電管理システム間の通信を行うためのプロトコル(Open Charge Point Protocol、OCPP)が規格に組み込まれています。そのため、電気料金の支払いも充電器と車両の通信によって行われ、充電ケーブルを繋ぐだけでカードやアプリを使わずに充電する(Plug and Charge、PnC)ことも可能です。
こうしたシームレスな充電体験がユーザーからの共感を得ているため、後述するCCS2と合わせて現在、世界で最もメジャーな規格となっています。
- 最大出力::400kW
- 導入地域:北米
- 通信方式:PLC
- ピン数:7(急速充電のみに特化した場合、AC充電用のピンは不要なためピン数は5となる)
CCS2
主に欧州で主流となっているCCS規格です。同じCCSでも規格が分かれているのは、普通充電に使われている規格がヨーロッパではType 2、アメリカではType 1と分かれているためです。したがって、CCS2でも1本のケーブルで普通充電と急速充電が可能となっています。
コネクタの形状こそ異なるものの、通信方式はどちらも共通してPLCを採用しており、基本的な性能についてもCCS1とは大差がありません。一方で、名前から分かる通りCCS1の後にできた規格でもあるため、本来はCCS1よりも高速で高出力な充電スタイルを想定していました(2023年以降、400kW対応のCCS1充電器が登場したものの、CCS1の主流は350kW)。
そのため、安全性に関しては空冷ケーブルを採用しているCCS1よりも、液冷ケーブルを採用しているCCS2に軍配が上がるでしょう。高出力充電時の熱管理を強化することで最適な温度レベルを維持し、EV バッテリーと充電装置の寿命を長期化できるというメリットもあります。
- 最大出力:400kW
- 導入地域:欧州
- 通信方式:PLC
- ピン数:9(急速充電のみに特化した場合、AC充電用のピンは不要なためピン数は5となる)
GB/T(20234.3)
中国で使用されている急速充電規格です。GB/T(20234.3)は、最大250kWの出力が可能で、中国国内の多くのEVで標準的に使用されています。
GB/Tの特徴は普通充電規格のGB/T(20234.2)でも述べた通りですが、中国政府では、こうした自国の規格を促進するために、充電ステーションの製造業者に対して多額の補助金を提供しています。加えて、充電ステーションの運営企業には、税制優遇措置も適用され、所得税の減免や減価償却の優遇などを受けることができ、運営コストの削減やインフラの整備に非常に役立っています。
また、中国では、EV製造業者やEV購入者にも補助金や減税のサポートを行っており、低価格帯のEVも数多くラインナップされています。中国自動車工業協会(CAAM)によると、2023年のEVの販売台数は約669万台であり、これは同国の自動車販売シェアの約22.2%に上ります。したがって、規格を取り巻く環境そのものが非常に強い普及力を持つという点はGB/Tならではの特徴だといえるでしょう。
一方で、中国国外ではその知名度や影響力は大きいものではありません。世界第2位の人口を抱える中国において主流となっている規格のため、マーケットのシェアは決して小さいものではありませんが、経済安全保障上の観点から、とくに北米・欧州における普及拡大や標準化が望めないためです。こういった背景も先に述べたChaojiへの開発に中国が参画している理由なのかもしれません。
- 最大出力:250kW
- 導入地域:中国
- 通信方式:CAN
- ピン数:9
NACS
NACS(North American Charging Standard)は、テスラ社が開発した急速充電規格です。元々テスラ車の独自コネクタ「TPC規格」として使用されていましたが、2022年11月にその名称をNACS規格に変更し、仕様を全世界に公開しました。テスラ社は他の自動車メーカーや関連団体にもこの規格の採用を呼びかけ、業界全体の充電インフラの標準化を目指しています。
NACSの特徴として、他の急速充電規格と比較してコネクタが非常に小型である点が挙げられます。また、水冷ケーブルを使用しているため、ケーブル自体も軽量化されており、充電ポートの設置場所がテスラ車で統一されているため、ケーブルの長さが短くても問題ありません。したがって、充電器の取り扱いやすさでは群を抜いており、女性や高齢者にとっても使いやすい設計になっています。こうした設計は、車両から充電器まで一貫して自社で設計しているテスラ社が主導する規格であるからこそ実現できたものです。
また、NACSのもう一つの大きな利点は、Plug and Charge(PnC)に対応している点です。PnCに対応することで、ユーザーは充電コネクターを車両に差し込むだけで、決済の認証が完了し、すぐに充電を開始することができます。日本でもCHAdeMOのPnC対応や大電力化は検討されているものの、さまざまな障壁があり、NACSほどの利便性を提供するには至っていません。
このような点から、「欧米=CCS、日本=CHAdeMO」という構図で闘っている間に、充電器設置も自社ディーラーなどで自前で行う独自路線を選択したテスラ社のNACSがEV界を席巻することになります。現在ではフォードやGMといったアメリカの自動車メーカーはもちろん、メルセデス・ベンツや BMW、さらにはフォルクスワーゲングループといった欧州の大手自動車メーカーまでNACS規格の採用を始め、日本国内でもトヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、スバルといった大手企業がアメリカ・カナダ向けに生産されるEVへNACSを採用することを表明しています。
NACSはこのように多大な影響力を持つ一方で、取り巻く環境が不安定な点は見逃せません。それはテスラ社CEO、イーロン・マスク氏の存在です。2024年5月、海外メディアがこぞって「テスラ社が急速充電器の担当部門を閉鎖し、担当幹部らと従業員の数百人を解雇した」と報じられると、同社の利益体質に懐疑的な目が向けられました。かと思えば、それからわずか1週間後にはマスク氏は自身のXに「スーパーチャージャーの充電ネットワークの拡大に5億ドル(約778億円)を優に超える資金を投じる意向だ」と投稿。こうした短期間の相反するアクションには企業のみならず、テスラ製EVユーザーからも困惑の声が上がり、NACSも過去に彼が買収したTwitterのように、ユーザーが振り回されるサービスとなってしまう可能性も否定できないでしょう。
また、2024年11月に控えるアメリカ大統領選も不確定要素の一つです。バイデン現大統領の再選またはトランプ前大統領の返り咲きのどちらに転ぶかによって、パリ協定からの再離脱も考えうるなど、政策の変動もNACSの情勢に大きな影響を与えます。こうした周辺環境が安定しない充電規格であることは頭の片隅に入れておきましょう。
- 最大出力:250kW
- 導入地域:北米
- 通信方式:CAN
- ピン数:5
規格 | 最大出力 | 導入地域 | 通信方式 | ピン数 |
CHAdeMO | 400kW | 日本 | CAN | 10 |
Chaoji | 900kW | アジア(予定) | CAN | 7 |
CCS1 | 400kW | 北米 | CAN | 5 |
CCS2 | 400kW | 欧州 | PLC | 7 |
GB/T | 250kW | 中国 | CAN | 5 |
NACS | 250kW | 北米 | CAN | 5 |
なぜEVの充電規格は乱立している?
ここまで、世界各国でメジャーとなっている充電規格について紹介してきました。しかし、一度見ただけでは覚えるのが大変なほど種類も、使われている地域も様々です。なぜこれほどまでに充電規格が乱立しているのでしょうか?この多様化という問題を理解するには、その背景にある自動車産業の変化を考察する必要があります。
自動車産業は資材調達・製造をはじめ販売・整備・運送など各分野にわたる広範な関連産業を持つ総合産業です。2023年になってもなお、その規模は拡大を続け、国際自動車工業会(OICA)が発表した2023年のグローバル新車販売台数は、前年の8287.1万台から12%増の9272.5万台と大きく伸長しています。
一方でここ数十年、自動車業界の悩みの種となってきたのが地球温暖化対策です。各社、技術力を結集させて研究・開発を行いましたが、2015年12月にパリ協定が採択されると、更にその動きは加速します。企業のみならず、各国・各連合で温室効果ガスの排出を削減するための具体的な目標が設定されたのです。これにより、多くの国々がゼロエミッション車(ZEV)へのシフトを推進し始めました。
過去には、欧州の自動車メーカーがクリーンディーゼル車を推進しました。クリーンディーゼル車は、ガソリン車に比べてCO2排出量が少なく、燃費も良いというメリットがあります。とくに欧州では、長距離移動や高速道路の利用が日常的であり、日本のように遅い走行速度でストップ&ゴーを繰り返す運転習慣がないため、燃費の良いクリーンディーゼル車が絶大な人気を博しました。しかし、2015年にフォルクスワーゲン(VW)社の不正問題が発覚すると、クリーンディーゼル車の信頼は大きく損なわれ、欧州の地球温暖化対策の柱が崩れる結果となります。
世界中に震撼が走るなか、日本では1998年に当時の都知事・石原 慎太郎氏がディーゼル車の規制を強化したことがきっかけで、ハイブリッド車の開発が進んでいました。これにより、日本の自動車メーカーは、「日本製」という安心安全・高品質の肩書を引っ提げながら、環境負荷の少ないハイブリッド車を次々と市場に投入することに成功します。
クリーンディーゼル車という切り札を失った欧州諸国は、日本に負けじと次なる手を打つ必要がありました。パリ協定が未達成に終わり、メンツも市場も失う事態だけは絶対に避けなければならないからです。しかし、今からハイブリドッド車の研究を始めたとて、圧倒的な開発期間のブランクがあるなかで日本を上回るシナリオは考えづらく、新たな方向性を模索せねばなりませんでした。自動車産業は欧州で産声を上げ、米国で国家的産業となるも、80年代に入るとブランド力の高い日本の中心産業となります。そのような背景から、この転換期においてはなんとしても日本から主導権を奪回しなければならなかったのです。
そこで注目されたのがEVでした。EV市場は、当時の技術的にはまだ発展途上であり、明確な規格や支配的なプレイヤーが存在しませんでした。そこで欧州はEV市場に早期に参入して自国に利益をもたらすべく、規格やルール作りの主導権を握ることを目論みます。こうなると当然、アメリカや中国も黙ってはいません。アメリカでは、テスラ社が独自の充電施設やスマートグリッドとの連携強化を武器にEV市場へ本格的に参入し、中国は低価格のEVを市場に大量に投入し始めました。こうして各国がEV市場での優位性を競い合うなかで、それぞれの地域でそれぞれのプレイヤーがインフラ整備を行った結果、充電規格の乱立が進んでいるのです。
この状況は、かつてのビデオデッキ市場でのVHSとベータマックスの規格争いを彷彿とさせます。結果的に、VHSは市場シェアを獲得し、標準規格として確立されましたが、ベータマックスは技術的には優れていたものの、消滅してしまいました。同様に、EV市場でも充電規格の競争が激化しており、最終的にどの規格が生き残っていくのかは未だに不透明です。
このようにEV市場は、将来的に莫大な利益を生み出すという予想のもと、その主導権を握るための競争が熾烈を極めています。規格争いは、一見すると市場の混沌を招いているように見えますが、その裏には長期的なEV収益を見据えた戦略的な動きが存在します。これから数年、さらには数十年にわたり、各国がどのようにEV市場を支配していくかは、大きな注目を集めるでしょう。
EV充電で問題となっている課題とは?
EVが普及する中で、ガソリン車からの乗り換えを検討する際に多くのユーザーが直面するのが、充電に関するさまざまな課題です。そしてそれらの課題は、購入後もEV充電のたびにつきまとうことになります。ここからは「充電時間の長さ」「EV充電スポットの数」「充電履歴などのデータ取得」という三つの主要な課題に焦点を当て、その具体的な問題点と影響を探ります。
充電時間の長さ
まず、充電時間が長いという問題です。ガソリン車と比べて、EVの充電には圧倒的に多くの時間が必要です。普通充電では数時間から一晩、急速充電でも30分程度かかるため、生まれてからこれまでガソリン車しか使ってこなかった人からすると、時間面で不便だと感じるユーザーも少なくないでしょう。
とくに大型車になると、この傾向はより一層顕著です。運送業界では、1日で運べる荷物の量が直接収益に影響を与えます。たとえば、大型トラックをEVに切り替えた場合、充電のために長時間停止する必要があるため、稼働率が大幅に低下し、商売が成り立たなくなるリスクがあります。大容量のバッテリーを充電するためには、普通車とは比べものにならない時間を待機する必要があり、運行スケジュールの大きな障壁となり得ます。
また、こうした充電時間の長さは、ビジネスのみならず日常使用においても大きなネックとなっています。現代社会では、車は単なる移動手段以上の役割を果たしており、快適さや利便性が強く求められています。多くの人々にとって、車内での静音性や乗り心地、さらにはシートやステアリングの電動調整機能など、「快適さ」が求められているのです。こうした観点では、充電のために長時間待たされるというのは、EVに乗り換える上で大きな障害となります。長時間のドライブの途中で充電を余儀なくされる場合や、急ぎの用事がある際に充電のためにわずか15分といえど予定が狂ってしまうことなど、充電時間がもたらす不便さは無視できません。
さらに、充電時間の問題は季節や気候の影響も受けやすいです。寒冷地ではバッテリーの性能が低下し、充電速度が遅くなることがあります。冬季にはバッテリーの温度管理が難しくなり、充電にかかる時間がさらに長くなることが考えられるでしょう。実際にEV大国といわれる中国でさえも寒冷地の東北部では普及がほとんど進んでいません。
このように、充電時間の長さは様々な弊害を生み出し、ガソリン車に慣れ親しんだ人々にとっては無視できない項目の一つとなっています。ビジネスや日常生活の中で、迅速で効率的な移動が求められる現代社会において、充電時間が長いという問題は深刻な課題であるといえるでしょう。
EV充電スポット数
日本では充電スポットが不足していることも問題です。2024年3月時点で、EV向け充電スタンド数は全国に21,549拠点あるといわれています。資源エネルギー庁によると、給油所、いわゆるガソリンスタンドの数は2023年3月時点で27,963箇所とのことなので、これを考えるとまずまずの数値に思えるかもしれません。しかし、先に述べた充電スタンドの数は普通充電・急速充電を合わせた数になっており、急速充電(CHAdeMO)単体で見ると、10,477箇所と半分以下しかなく、「充電時間が長い」という課題がある以上、まだまだ必要な充電スポット数は足りていないといわざるを得ません。
また、都市部では充電スポットが増加していますが、地方では依然として充電スポットが不足、あるいはEVそのもの普及率が低いことも多く、地域格差という面でも充分にインフラ整備が行き届いているとはいえない状況です。これは、地方在住者だけの課題ではなく、旅行やビジネスにおいて長距離移動を行う際には誰しもが巻き込まれる課題でもあるでしょう。
また、この問題は単純にEVスポットをバンバン製造すれば解決できる、という問題でもありません。急速充電施設の整備には多大なコストがかかるため、民間企業が1社で負担するには限界があります。したがって、積極的な政府や自治体の支援が不可欠であり、補助金等を活用しながら充電インフラの整備を加速させることが求められています。
今後、EVの普及がさらに進む中で、普及するスピードに合わせて今以上の速さで急速充電施設を整備していかなければ、充電スポットの数が需要に追いつかず、ユーザーのカーライフが快適でなくなるのは避けられないでしょう。
充電履歴などのデータ取得
最後に、充電履歴やバッテリーの劣化情報など、EVの運用に関するデータの管理が不十分であることも大きな問題となっています。というのも近年、プライム市場に上場している企業に対して気候変動によるリスク情報の開示が実質的に義務付けられたり、あるいは国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、企業のサプライチェーン全体の排出量の開示を義務化したりなど、民間企業に対して徹底した情報開示が求められるようになっています。
また、投資家や消費者たちからESG経営を望む声も年々大きくなっており、グリーンウォッシュが発生しうる曖昧な取り組みではなく、脱炭素化のために巨大企業が必要な取り組みを行い、それらをきちんと公表することが求められています。多くの企業でサステナビリティに関する情報をHP上で確認できるのも、こうした動きによるものです。
企業がこういった要求に対応するために、EVを一つの効果的な気候変動対策として導入しているケースがあります。たとえば、通勤時のCO2排出を抑えることは、Scope3(事業者の活動に関連する他社の温室効果ガスの排出量)のカテゴリ7(通勤に伴う排出)の削減に直接貢献できます。しかし、CO2の削減量といった正確性が求められるデータをユーザー単位で管理するシステムは不足しており、概算の削減量以外に充電および走行の正確なデータを把握することは難しいという現状があります。
また、充電に関連してはバッテリー自体のデータも必要になっています。急速充電は便利な一方で、高い出力で直流電流を流し込むため、バッテリーへの負荷はかなり高いものになります。したがって、車載用バッテリーの劣化状態を評価するために、自動車メーカーでは環境条件や充放電などの使用条件等をデータベースとして蓄積していますが、こうした計測データの中には一部、プライバシーの観点からデータの共有が難しい情報(走行履歴情報など)があります。こうした情報が活用できなければバッテリーの劣化状態を正確に把握できず、適切なメンテナンスが行われないリスクもあります。
このように、EVの充電履歴データがうまく取得できなければさまざまな弊害を生み出してしまいます。ガソリン車では正確なデータをリアルタイムに取得することは難しく、急速にエネルギー補給を行う必要もなかったため、これは電気によって動くEVならではの課題だといえるでしょう。
EV充電の課題を解決するソリューションとは?
バッテリースワップ
バッテリースワップは、EVバッテリーを充電するのではなく、専用の交換ステーションで機械的に取り外し、新しいフル充電されたバッテリーと交換することで短時間で充電を完了させる方法です。従来のガソリンスタンドでの給油のように数分でバッテリー交換が完了するため、急速充電ですら30分以上かかる「充電待ち」の状態を避けることができます。
イメージとしては「ChargeSPOT」を利用して、モバイルバッテリーをコンビニで借りるようなものです。充電が終わるのを待つのではなく、すぐに使える満充電のバッテリーを借りるだけで充電の心配をすることなく快適なドライブを楽しめます。
バッテリースワップの概念は2000年代初頭に、電気自動車(EV)の普及を促進するための解決策として考案されました。最も著名な試みとしては、カルフォルニア州に本拠地を構えるベタープレイス(Better Place)社が2007年に提案したものがあります。同社がこの着想をビジネス化した際にはEV業界はまだ黎明期にあったため、バッテリーそのものも著しい進化の途上にありました。また、市場もその先進技術を受け入れる準備が整っておらず、ベースとなる急速充電の開発に注力せざるを得ない状況であったこともあり、当時は定着することはありませんでした。
しかし現在、バッテリースワップ技術は中国のNIO(上海蔚来汽車)が中心となって全国的な広がりを見せつつあります。NIOは、国内に多くのバッテリースワップステーションを設置し、迅速なバッテリー交換を実現しています。最新(第3世代)ステーションでは21個のバッテリーを保管でき、独自の先進運転支援(ADAS)機能を駆使して1日あたり合計408回の交換を行うことができます。
日本では法規制が厳しいためにあまり普及は進んでいませんが、二輪車向けの同様のサービス「ガチャコ」は都市部を中心に利用されており、モビリティ領域におけるバッテリースワップの有効性はすでに国内でも証明済みです。
高電圧のバッテリーを扱う際の安全性が懸念点にはなりますが、適切な安全対策と技術の進化によってこうした問題も解決されつつあります。自宅での夜間充電と組み合わせてバッテリースワップを活用することで、より効率的で持続可能なモビリティが実現されるでしょう。
ローミング
ローミングとは、異なる充電ネットワークをまたいでEVを充電できる技術です。EV充電スポットの少なさが問題となる背景には、やはり充電規格の乱立があります。異なる充電規格が混在する状況下では、確実に今後数十年と残り続けるという保証がない限り、充電スポットの拡充に大規模な投資はできないからです。こうした問題を、表面上で解決するために異なる充電ネットワーク間で互換性を持たせ、ユーザーがシームレスに充電できるようにするローミングに注目が集まっています。
ローミングという言葉自体は、携帯電話のローミングで聞いたことがあるかと思います。海外旅行に出かけた際に、現地の異なる通信会社のネットワークに接続できる技術です。同様に、EVのローミングも国内外問わずボーダーレスなアクセスを可能にし、ユーザーがストレスなく充電を行えるようにしようというものです。
EVのローミングにおいては、OCPI(Open Charge Point Interface)が重要な役割を果たしています。OCPIは、異なる充電サービスプロバイダ間の円滑な連携を促進するためのオープン標準プロトコルです。これにより、ユーザーは一つのアカウントで複数の充電ネットワークを利用できるようになり、充電インフラの利便性が大幅に向上します。
「ローミングがあれば規格争いなんて不毛じゃない?」と思う方もいることでしょう。確かにローミングは理論上、ユーザーはどの規格の充電ステーションでも充電ができるため、充電規格の違いによる不便を感じることは少なくなります。しかし、ローミングは課金システムの管理機能に過ぎず、物理的な障壁を取り除けるわけではありません。
それぞれの規格ごとに物理的な接続形状や通信プロトコルが異なるため、単にソフトウェアの対応だけでは互換性を確保できず、物理的なアダプタや追加のハードウェアが必要となるケースも多いです。また、規格間で充電速度や性能に差があるため、ローミングだけでは最大充電速度が低下するなど、ユーザーが満足できる充電体験を提供することが難しい場合があります。
しかし、総じてローミングの存在はEV普及の大きな推進力となっており、異なる充電ネットワーク間での利便性を高めてユーザーの充電体験を向上させるうえで重要な役割を果たしています。今後もこの技術が進化し、より多くの地域でローミングが利用可能になることで、EVの利用がますます便利になることが期待されます。
ブロックチェーン
ブロックチェーンは分散型のデータベース技術で、取引データや情報をブロック単位で記録し、これを連鎖的に接続することで改ざんが極めて困難になる仕組みです。データは複数のコンピュータ(ノード)に分散して保存され、全てのノードが同じデータを持つため、信頼性が高く、データの整合性を確保することができます。
前のブロックでも見たように、EVの充電履歴管理には、正確性とセキュリティ性が求められます。従来のデータ管理システムでは、中央集権的なデータベースに依存していたため、データの改ざんや不正アクセスのリスクが存在しました。しかし、ブロックチェーンを利用すれば、データが複数のノードに分散され、全てのデータが同じ内容で保持されるため、改ざんや不正が非常に難しくなります。これにより、充電履歴やバッテリーデータの信頼性が大幅に向上します。
また、データを分散的に管理できるため、すべてのプレイヤーが平等にデータにアクセスすることができます。自動車メーカーだけではなく修理業者や充電サービスのプロバイダー、ユーザー自身が充電履歴を簡単に追跡でき、こうしたデータをサービスへ活用することが非常に簡単になります。
実際に、ブロックチェーン技術を活用したプロジェクトも進行しています。たとえば、MOBIというモビリティ業界における標準規格策定を行うグローバルコンソーシアムでは、EVの充電履歴やバッテリーのライフサイクル管理を目的としたバッテリーパスポート(バッテリーのライフサイクル全体に関する詳細な情報を記録し、透明性とトレーサビリティを確保するためのデジタル証明書)の開発を進めています。バッテリーの製造から廃棄までの全ての履歴をブロックチェーンに記録することで、データの信頼性や安全性を担保しながら、リサイクルや再利用へ活用することが可能です。
このように、ブロックチェーン技術は、EVの充電履歴管理やデータ管理において、透明性、信頼性、分散管理といった面で大きなメリットをもたらしています。今後、技術の進展とともに、ブロックチェーンを活用したEVインフラの整備が進み、EVの普及とともに持続可能な未来を実現するための重要なツールとなるでしょう。
まとめ
この記事を通じて、EVの充電方式や充電規格についての基本的な理解を深めていただけたでしょうか?現在、EV充電には様々な課題がありますが、バッテリースワップやローミング、ブロックチェーンなどの技術を活用することで解決が進んでいます。充電インフラの整備が進み、EVの普及が一層進展することが期待される一方で、EVを取り巻く環境は刻一刻と変化を続けているため、今後も継続的に最新の情報をキャッチアップすることが重要です。
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