ブロックチェーンのビジネスモデル・活用事例〜非金融など応用領域も解説〜

国内67兆円の影響力をもつブロックチェーン市場。そのビジネスモデルは仮想通貨、フィンテックを経て、非金融(ブロックチェーン3.0)へ応用領域が拡大しました。トークン、スマートコントラクト等の技術発展と、2020年最新の活用事例を解説します!

目次

  1. ブロックチェーンビジネス市場の現状(2020年9月現在)
  2. ブロックチェーンとは?
  3. ブロックチェーンのビジネスモデル進化
  4. ブロックチェーンのビジネス活用が進む3つの応用領域
  5. ブロックチェーンの応用領域拡大を支える技術発展
  6. ブロックチェーン3.0(非金融領域)の3つのビジネスモデル
  7. ブロックチェーンのビジネス活用事例(非金融領域)

ブロックチェーンビジネス市場の現状(2020年9月現在)

2020年現在、経済産業省が「ブロックチェーンは将来的に国内67兆円の市場に影響を与える」との予測を発表してから5年が経過しました。

出展:平成27年度 我が国経済社会の 情報化・サービス化に係る基盤整備 (ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに 関する国内外動向調査) 報告書概要資料

この5年間で、社会変革・ビジネスへの応用が進むとみられていた5つのテーマでは、次のような形で、既存産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。

#

社会変革のテーマ

社会実装の方向性

活用事例

1

価値の流通・ポイント化・プラットフォームのインフラ化

トークン活用

ICO、STO、ファンビジネス、地域通貨

2

権利証明行為の非中央集権化の実現

不動産領域における登記などの権利証明

LIFULL、積水ハウス、Propy

3

遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現

医療プラットフォームや電子政府

MedRec、The MediLedger Project、サスメド、健康銀行

4

オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現

国際海運における物流プラットフォーム

MAERSK(マースク)、Merck(メルク)

5

プロセス・取引の全自動化・効率化の実現

DAO(自律分散型組織)

DEX、投票、国際貿易

その結果、現実的な推計としても、ブロックチェーンの市場規模は2020年で100〜200億円、2025年には1000億円を超える国内市場を形成し、世界全体では2020年の30億米ドルから2025年には397億米ドルへと拡大するとの見解も発表されています。

👉参考記事:『【2020年】ブロックチェーンの市場規模は?複数の統計をまとめました

さらに、世界経済フォーラムによると、2025年までに世界のGDP総額の10%がブロックチェーン基盤上に乗るとされており、今後のさらなる技術発展とマーケット拡大、そして私たちの生活への浸透が期待されます。

ただし、他方で、ブロックチェーンは、原理的なセキュリティリスクや、スケーラビリティ等の課題を抱えてもいます。

ブロックチェーンの今後を左右するのは、まさに、ビジネスの現場にいる私たちが、どれだけ現実的に未来を捉え、技術・ビジネスの両軸から理解を深めていくかにかかっているでしょう。

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは新しいデータベース

ブロックチェーン(blockchain)は、2008年にサトシ・ナカモトによって提唱された「ビットコイン」(仮想通貨ネットワーク)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

ブロックチェーンは、セキュリティ能力の高さ、システム運用コストの安さ、非中央集権的な性質といった特長から、「第二のインターネット」とも呼ばれており、近年、フィンテックのみならず、あらゆるビジネスへの応用が期待されています。

ブロックチェーンの特長(従来のデータベースとの違い)

ブロックチェーンの主な特長は、①非中央集権性、②データの対改竄(かいざん)性、③システム利用コストの安さ、の3点です。

これらの特長は、ブロックチェーンが従来のデータベースデータとは異なり、システムの中央管理者を必要としないデータベースであることから生まれています。

分散台帳とは.jpg

ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

 

従来のデータベースの特徴

ブロックチェーンの特徴

構造

各主体がバラバラな構造のDBを持つ

各主体が共通の構造のデータを参照する

DB

それぞれのDBは独立して存在する

それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている

データ共有

相互のデータを参照するには新規開発が必要

共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

ブロックチェーンは、後に説明する特殊な仕組みによって、「非中央集権、分散型」という特徴を獲得したことで、様々な領域で注目・活用されているのです。

👉参考記事:『ブロックチェーン(blockchain)とは?仕組みや基礎知識をわかりやすく解説!

ブロックチェーンのビジネスモデル進化

ブロックチェーンは、この10年間あまりで技術の進展とともに、技術の応用領域、そしてビジネスモデルを進化させてきました。

進化の歴史は、ブロックチェーン1.0、2.0、3.0という呼称で知られています。

ブロックチェーンは、2008年に誕生した当時はまだ、仮想通貨ビットコインの中核技術の一つに過ぎませんでした(ブロックチェーン1.0)。

その後、Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブリテン)が、ビットコインの仕組みを仮想通貨以外の領域に応用するべくEthereumを開発し、個人間送金や契約の自動履行など、主に金融領域でのビジネス活用が盛んに行われるようになりました(ブロックチェーン2.0)。

そして、近年、Ethereumのtps(トランザクション速度)の遅さを改善したEOS(エオス)、toB企業向け開発に特化したQuorum(クオラム)やHyperledger Fabric(ハイパーレジャーファブリック)などのプラットフォームが登場し、またブロックチェーン技術の有用性に対する社会の関心が高まったことを背景に、非金融領域へのビジネス活用が急速に進み始めています(ブロックチェーン3.0)。

ブロックチェーンのビジネス活用が進む3つの応用領域

ブロックチェーンの応用領域は金融/非金融/ハイブリッドの3つに分類できる

ブロックチェーン市場におけるビジネスモデルの進化は、新しいモデルが過去のモデルに取って代わるのではなく、過去のモデルを残しつつも、新しい応用領域へとマーケットが拡大する形で進んできました。

具体的には、2020年現在のブロックチェーン応用領域は、ブロックチェーン1.0、2.0の金融を軸に、3.0の非金融、両者のハイブリッドの3つに分類できます。

ブロックチェーンの応用領域①:金融領域(フィンテック)

ブロックチェーンビジネスの第一の領域は、「金融領域」です。

「金融領域」とは、平たく言えば「Fintech(フィンテック)」と言われる領域のことで、より正確には「暗号資産(=仮想通貨)を活用した領域」と考えてください。

(出典:pixabay

金融領域でのブロックチェーンの活用事例には、例えば次のようなものがあります。

  • 暗号資産取引
    • ブロックチェーン技術を応用した法定通貨以外の新通貨の売買等を通して、キャピタルゲインを獲得することをインセンティブとしたビジネス
  • ICO(Initial Coin Offering、イニシャル・コイン・オファリング、新規仮想通貨公開)
    • 企業が仮想通貨を発行し、それを購入してもらうことで資金調達を行う方法
    • 「クラウドセール」「トークンセール」「トークンオークション」とも呼ばれる
    • ICOの仕組みを悪用した詐欺事件なども起こってしまったこともあり、近年では、一時期の勢いは見られない
  • STOとは、Security Token Offering(セキュリティ・トークン・オファリング)
    • 有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法
    • ICOの問題点であったスキャム(いわゆる詐欺)や仕組み自体の投機的性質を解消する、新しい資金調達方法として注目を集めている
    • 金融領域におけるブロックチェーンビジネスの注目株で、1兆ドル以上のマーケットになるとの予想もなされている

フィンテック分野での事例としては、IBM社がローンチした相殺決済サービス、CLSNetが挙げられるでしょう。

同サービスでは、顧客が持つ複数の機関に対する債務と債権を相殺して一回の決済に振り替えることで整理できます。

2018年11月28日より、FX決済サービスのCLS社とIBM社の共同で提供が開始され、ゴールドマンサックスやモルガン・スタンレーなどの世界的な金融機関がこのシステムを利用していることでも有名です。

なお、「Fintech」という用語に馴染みのある方も多いかと思いますが、必ずしも「ブロックチェーンの金融領域=Fintech」というわけではないため、注意が必要です(後に説明する「ハイブリッド領域」のビジネスを指して”Fintech”と呼ばれることもあります)。

ブロックチェーンの応用領域②:非金融領域

ブロックチェーンビジネス第二の領域は、「非金融領域」です。

非金融領域とは、暗号資産(仮想通貨)を使わない領域のことで、台帳共有や真贋証明、窓口業務の自動化など、既存産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈で、今、最も注目を集めている領域と言えるでしょう。

【例】中国・天水りんごの真贋証明

出典:Blockchain Business & Solution

非金融領域のブロックチェーンビジネスが注目を集めている理由は、次の通りです。

  1. 適用範囲が非常に広い(どの産業にも可能性がある)
  2. したがって適用領域の市場規模が大きくなる可能性が高い(政府予想では数十兆円規模)
  3. これまでに実現してこなかった産業レベルでのイノベーションが起こりうる可能性がある

門戸が広がったとは言え、まだまだ参加できるプレイヤーが限られている金融領域と比べて、非金融領域では、業務課題レベルからの解決が十分に可能です。

そのため、新規事業立ち上げや経営企画の方だけでなく、あらゆる職種の方にとって、この領域について理解しておくことは自社の役に立つかと思います。

非金融領域でのビジネス活用の考え方や事例については、本記事の後半で詳しく見ていきます。

ブロックチェーンの応用領域③:ハイブリッド領域(非金融×暗号資産)

ブロックチェーンビジネス第三の領域は、「ハイブリッド領域」です。

ハイブリッド領域とは、金融×非金融、つまり暗号資産を非金融領域での課題解決へと応用している領域です。

乱暴に言えば、「実ビジネスに仮想通貨決済を導入させたい領域」とも言えるでしょう。

わかりやすい例としては、いわゆる「トークンエコノミー」がこの領域のビジネスと考えられます。

この手の取り組みで言えば、MUFGコイン(発表当時の名称、現在はcoin)がこれに該当するでしょう。

出典:ゼロスマ

トークンエコノミーに代表されるハイブリッド領域は、事業化にあたって最新の注意が必要な領域です。

というのも、同領域は、直感的にイメージがしやすく、美しいビジネスモデル(「●●経済圏」など)も容易に描けてしまう一方で、実際には下記のような課題が存在し、難度が非常に高くなるケースが多くなります。

  • 新興基盤の多くは1年ももたずに消えていく
  • いざサービス開発をしようという時に過去のユースケースが少ないため、バグやシステムトラブルが発生した時にエンジニアがお手上げになるケースが多
  • 仮想通貨の値上がり益がインセンティブになる場合は、事業課題の解決のためのインセンティブがおろそかになってしまい誇大広告や詐欺の温床になるケースが多い

そのため、事業企画担当者として「トークンエコノミー」などのハイブリッド領域におけるブロックチェーンビジネスを検討しているのであれば、提案を受けた開発基盤の「過去のケース数」を確認することをおすすめします(GitHubなどで)。

また、この領域は資金決済法の適用を受けるので、事業企画においても繊細な配慮が必要な点について法務部門から「突っ込まれる」可能性が高いため、注意しておく必要があるでしょう。

ブロックチェーンの応用領域拡大を支える技術発展

仮想通貨領域から非金融領域へといたるブロックチェーンの応用領域の拡大は、技術発展に伴って進んできました。

実際に、ビジネスや産業に応用されている技術には、例えば次のようなものがあります。

  • Smart Contract(スマートコントラクト、契約自動化)
  • Traceability(トレーサビリティ、履歴追跡)
  • Tokenization(トークナイゼーション、トークン化)
  • Self Sovereign Identity(セルフソブリンアイデンティティ、自己主権型ID)

これらのうち、本記事では、必ずと言っていいほどブロックチェーンでの応用が検討される、スマートコントラクトとトークンの2点について、簡単に説明します。

Smart Contract(スマートコントラクト)

スマートコントラクトとは、1994年にニック・スザボという暗号学者が提唱した「契約の自動化」を意味するコンピュータプロトコルです。

後に、Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブリテン)がEthereum基盤上で開発・提供し始めたことから、ブロックチェーンの代表技術としてビジネスに活用されるようになりました。

スマートコントラクトの考え方自体は、ブロックチェーンに限らず、身近なところに用いられています。

代表的な事例は自動販売機で、「飲料の売買取引」をベンダーマシンを使って自動化していることから、スマートコントラクトのわかりやすい例として挙げられます。

ブロックチェーンの文脈では、フィンテックにおける送金業務の自動化DEX(分散型取引所)、非金融領域では投票システム国際貿易プラットフォームなど、多岐にわたるビジネスへの応用が進んでいます。

こうした形で、スマートコントラクトがビジネスプロセス上に実装されることで、取引プロセスのデジタル化・自動化による取引コスト削減が期待できます。

👉参考記事:『スマートコントラクトとは?ブロックチェーンの社会実装手段を解説!

Tokenization(トークン化)

トークンは、ビジネスの文脈上では「交換対象を限定した小さな経済圏を回すための使い捨て貨幣」といった意味で用いられる概念で、非中央集権的なブロックチェーンとセットでビジネス活用されます。

トークンには、代表的な4つの種類があります。

【トークンの種類】

区別のポイント

トークンの種類

意味

身近な例

トークン自体に金銭的価値が認められるか?

Utility Token

(ユーティリティトークン)

具体的な他のアセットと交換できて初めて資産性が出てくるトークン

・パチンコ玉

・図書券

・電車やバスの切符

・遊園地の入場券

 

Security Token

(セキュリティトークン)

それ自体に金銭的価値が認められるトークン

・株券

・債権

トークンを相互に区別するか?

Fungible Token …(*)

(ファンジブルトークン)

メタ情報如何にかかわらず区別されないトークン

・純金

(→誰がどこで所有する金1グラムも同じ価値をもつ)

 

Non Fungible Token

(ノンファンジブルトークン)

同じ種類や銘柄でも個別に付与されたメタ情報によって区別されるトークン

・土地

(→銀座の1平米と亀有の1平米は同じ単位だが価値が異なる)

トークンの活用事例としては、例えば、ICO(Initial Coin Offering、イニシャル・コイン・オファリング、新規仮想通貨公開)やSTO(Security Token Offering、セキュリティ・トークン・オファリング)といった資金調達方法であったり、ファンコミュニティ専用の共通貨幣などに用いられています。

2020年現在では、Utility Token(ユーティリティトークン)の既存ビジネスへの活用、もしくは、STO(セキュリティ・トークン・オファリング)による新規事業開発のどちらかがトークンビジネスの主流と言えるでしょう。

👉参考記事:『【ブロックチェーン】トークンのビジネス活用〜STO、Utility Token〜

ブロックチェーン3.0(非金融領域)の3つのビジネスモデル

非金融領域におけるブロックチェーンビジネスには、事業化にあたって抑えておくべき3つの視点があります。

これらはすべて、「取引関係における中央管理者とどのような関係を組むか」、という問いに対する視点です。

それぞれ、順にみていきましょう。

非金融ブロックチェーンのビジネスモデル①:「直接化・自動化」

非金融領域におけるブロックチェーンのビジネスモデルの一つ目は、「直接化・自動化」です。

これは、取引のプロセスを合理化することによって、いわゆる「取引コスト」を削減しようという視点です。

ヒト・モノ・カネ・情報の流通プロセスにおいては、取引の主体者や取引自体の信用を担保するための付随業務が至るところで発生しています。

それらの業務を適切に遂行し、取引を無事に遂行する上では、「信用に値する第三者」を経由するのが常套手段です。

出典:Wikipedia

しかし、第三者の介入は、中央管理者による規制や圧迫、中間マージンによるコスト高、商流の延長によるリードタイムの間延びなど、様々な取引コストを発生させます。

また、外部企業に付随業務の履行を代行してもらうこと自体にも、大きな人件費がかかってきます。

この問題に対して、「分散型台帳」技術とも言われるブロックチェーンでは、その仕組み上、ネットワークの参加者が個人レベルで(Peer to Peerで)、信用を担保しながら、安全に取引を行うことができます。

また、スマートコントラクトによって、ブロックチェーンの基盤上で定型業務の履行を自動的に行うこともでき、これまで管理業務に費やされてきた膨大な時間や人件費を削減することもできます。

非金融ブロックチェーンのビジネスモデル②:「民主化・透明化」

非金融領域におけるブロックチェーンのビジネスモデルの二つ目は、「民主化・透明化」です。

これは、従来は管理者あるいはプラットフォームから参加者への一方向な上意下達だったコミュニケーションを、管理者に一方的に有利にならないように双方向化しよう、という視点です。

先ほどみた「直接化・自動化」が中央管理者の存在による取引コストの増加にフォーカスしていたのに対して、「民主化・透明化」は、コミュニティ内の「情報の非対称性」に注目しています。

一般に、ビジネスは情報の非対称性を作り出すことで単価を高めるところに基本の発想があります。

ところが、インターネットの登場以来、「奪うのではなく与える」「隠すのではなくさらけ出す」「売るのではなく共有する」といった発想の転換が起こり始めました。

「なんてことはない」一般人の集まりが、自作の動画を公開し、YouTubeというプラットフォームで圧倒的な人気を集めて大儲けする、といった光景も、もはや珍しいことではなくなりました。

ブロックチェーンのもつ「非中央集権性」を活用することで、こうした最新のマーケティング手法を自社ビジネスに活用できる可能性があります。

実際の活用イメージで言えば、不透明になりがちなコミュニティー運営、例えば、寄付、投票、投げ銭などの透明化、といった双方向性を想像するとわかりやすいでしょう。

非金融ブロックチェーンのビジネスモデル③:「相対化・自由化」

非金融領域におけるブロックチェーンのビジネスモデルの二つ目は「相対化・自由化」です。

これは、平たく言えば、「データの囲い込み」をなくして、みんなで利用していきましょうね、という視点です。

これまでは、同じ業界でも、各社が異なるデータベースを用意し、それぞれの顧客に対してそれぞれ別の形でデータを保有していました。

こうした「データの囲い込み」には、次のようなデメリットがあります。

  • データを共有してさえいれば確保できるはずの利用者の自由度が大きく下がってしまう
  • 同じ業界で、同じ資産を使っている間柄なのに、各社がそれぞれに同じようなデータを集める無駄な競争を行なっていたり、パワーの強い一社がデータを独占してしまって他社がどうにもならない(結果、業界としての進歩が望めない)

これに対して、ブロックチェーンでは、各社がそれぞれにサーバーをもつのではなく、一つのネットワークを共有することで、デジタル資産を安全に共有することができます。

これには、次のようなメリットがあります。

  • IDを他サービスに持っていって認証の手間を省ける、自分が著作権を有するコンテンツを自由にいろいろなプラットフォームで売れる、といった形で、利用者がサービスから受けられる恩恵が増す
  • 同業他社が安全にデータを共有し合えることで、あるいは川上と川下がスムーズに繋がることで、独占によるメリット以上に大きなリターンが得られる可能性がある

「シェアリングエコノミー」「限界費用ゼロ社会」に向かっていくと言われる現代の社会において、こうした「相対化・自由化」の流れはますます高まっていくでしょう。

ブロックチェーンのビジネス活用事例(非金融領域)

自律分散型図書館DAOLIB構想

ブロックチェーンによる「直接化」の面白い例の一つに、「自律分散型図書館DAOLIB」と呼ばれる次世代型図書館の構想があります。

これは、利用者と管理者を分け、図書データを中央集権的に管理している既存の図書館に対して、利用者と管理者を同一にし、中央管理者としての図書館の役割をなくしてしまおうという試みです。

多くの方は、過去に友人同士で本の貸し借りをしたことがあるでしょう。

そうした貸し借りは、「友人」という信用関係が成り立っており、かつ、規模が小さく管理の必要性がほとんどないために可能になっています。

しかし、この貸し借りを知らない人との間でやろうとすれば、友人との間のようにはうまくいきません。

例えば、よくある話として、「あれ、あの本誰に貸したっけ?」というように、紛失のリスクを始めとして、本自体の管理に始まり、いつ誰と誰が貸し借りをしたのか、といった経路も記録する必要が出てきます。

そこで、ブロックチェーンの登場です。

「分散型台帳」とも呼ばれるブロックチェーンは、暗号資産の管理手法としてつくられた経緯からもわかるように、本来、データの管理に非常に長けている技術です。

自律分散型図書館DAOLIB構想がうまくいけば、分散型データ管理手法であるブロックチェーンの特徴がうまく生かされることで、本の貸し手と借り手のやり取りを「直接化」することが可能になるでしょう。

Workday Credentials

続いて、ブロックチェーンによるビジネスの「自動化」の例をあげましょう。

代表格は、人事クラウド大手のWorkdayによる、ブロックチェーン技術を用いて資格や職歴などの発行、確認を行うプラットフォームである、「Workday Credentials」です。

人事・総務経験者であれば誰しもうなずくことかと思いますが、転職マーケットにおいて、採用する側の労力以上に煩わしいのが、前職側の人事業務でしょう。

Workday Credentialsでは、従業員の職務経験やスキルなどの証明を発行することで、前職の人事部からするともっともやりたくない在職証明などの業務、採用/応募時の確認作業を大幅に合理化できます。

そして、このサービスの背後にあるのが、ブロックチェーン技術です。

ブロックチェーンは、「データの過去履歴を追うこと」や「データの対改竄性」に優れているため、企業の在職証明であったり、あるいは高等教育機関の学位証明などに幅広く応用されています。

また、スマートコントラクトによる定型取引の自動履行も可能なので、例えば上記の人事業務のような、これまでは信用担保のために人手を必要としていた「コストセンター」と位置付けられる業務を、「自動化」することが可能になります。

「自動化」と聞けば、つい「AI」「RPA」といったテーマを想像しがちですが、実は、こうしたデータの真贋が問われるような局面の自動化であれば、ブロックチェーンに分があると言えるでしょう。

医療用品の寄付の追跡

   

出典(画像左):「中国で医療用品寄付向けブロックチェーンポータル公開 新型コロナウイルス対策【ニュース】」(コインテレグラフジャパン)

読者のみなさんは、どこかの団体に寄付をしたことがあるでしょうか?

あるいは、街頭に立って募金を呼びかけている団体に、迷いなくお金を募金したことがあるでしょうか?

これらの問いに対しては、様々な立場からの様々な意見があることかと思いますが、その中の大きな論点の一つに、「お金を募金したはいいけど、本当にこの団体が慈善活動にちゃんと使ってくれるか怪しい」「下手な使い方をされるくらいであれば募金しないほうがいいのではないか」といったものがあります。

要は、「寄付や募金の運用管理者に対する信用」の問題です。

この問題は、寄付や募金を活動資金源としているNPO法人などにとっては、ファンドレイジングをする上で非常に大きく、やっかいな課題です。

他方、寄付や募金をする側からしてみても、詐欺団体ではなく、できる限り信用できて、ちゃんとした使い道をしてくれると思える団体を支援したいもの。

こうした課題を解決する手段として、近年、ブロックチェーン技術の応用が進められています。

ブロックチェーンは、全取引の記録を、改竄も消去もされることなく追跡できるという特徴をもっており、その高いトレーサビリティーが、例えば今回のケースの「コロナウィルス対策のための医療用品寄付」のような、公共性が高く、情報の非対称性によるリスクが極めて高い問題に、見事にマッチしているのです。

このような、ビジネス(あるいはそれに類似した事業)の「透明性」を担保する動きは、今後、ますます増えていくと考えられます。

そうした課題感をもっている場合には、ブロックチェーンのビジネス活用を検討することをお勧めします。

ビジネスケース②-B:Socios.com(サッカーファントークン)

  

ブロックチェーンの「民主化」の事例として有名なのが、Socios.com(サッカーファントークン)です。

ファントークンで「チームの決定」に投票可能なブロックチェーンアプリで、ユベントス、パリ・サンジェルマンなどの超有名クラブが既に使用を始めていることでも話題になっています。

近年、インターネットの登場、余暇時間の増長、価値観の多様化の進展、可処分所得の増加など、様々な社会・経済的要因を背景に、消費者は「ただつくられた商品を購入して、消費して、終わり」ではなく、「自分の価値観にあったより長く、より深く愛せるもの」に対して、大きなお金を払うようになってきました

そのため、ビジネス界では、特にtoCサービスをもつビジネスでは、従来の「顧客視点」のマーケティングからさらに一歩進んで、「顧客=身内」と考えるコミュニティマーケティングとでも呼ぶべき、ファンビジネスのマーケットが伸長しています。

例えば、最近の世界的ブームであるクラフトビール。

その火付け役でもあるBrew Dog社では、顧客に自社株を買ってもらい、そのまま自社運営にかかわってもらう(「パンク株」)という試みをしたことでも話題になりました。

これはまさに、従来の「会社vs顧客」という対立構造から、「会社=顧客」へと変化を遂げていることの表れでしょう。

今回紹介しているSocios.comでも、そうした「ファンによるコミュニティの民主化」を進め、「ファン=応援する人」ではなく、「ファン=チームと一緒になって経営する人」として巻き込むことで、より長く、より深く愛せるサッカーチームになることを目指します。

ブロックチェーンは、ここで課題となりやすい「意思決定に対する投票」の問題を、すでにこれまで述べた特徴をもって、見事に解決していると言えるでしょう。

メディカルチェーン

ブロックチェーンによるビジネスの「相対化・自由化」の一つ目の例は、「メディカルチェーン」です。

これは、かれこれ20年ほど叫ばれ続けていた医療のデジタル化、特に電子カルテを始めとする院内データの共通化の問題を、ブロックチェーンで巧みに解決しようという試みです。

医療データは、個人情報の中でも特に秘匿性が高く、セキュリティ要件が最も高く求められます。

そして、医療機関ごとのデータ保存形式も異なるため、それらを共有していくハードルは非常に高いものになります。

メディカルチェーンでは、この問題に対して、各医療機関のデータを一つのブロックチェーン基盤上に乗せることを目指しています。

また、ビジネスモデルとしては、トークンエコノミーを採用し、トークンからの収益と医療機関からの収益を主治医や患者に還元することで、この仕組みがうまく回るように設計されています。

国連、難民・ホームレス等向けIDサービス

ブロックチェーンによるビジネスの「相対化・自由化」の二つ目の例は、国連による「難民・ホームレス等向けIDサービス」です。

これは、難民が、国連から付与されるIDカードなしにサービスを利用できるようにするための仕組みで、生体認証データをもとに国連が本人確認を行なった上で、その認証IDをブロックチェーン基盤上で管理しようというものです。

この仕組みによって、従来は各国の各関係機関がそれぞれにデータ認証をするために共通のIDカードを必要としていたところを、共通の基盤をもつことで、IDカードを携帯していないような緊急事態にも人道支援を迅速に行うことが可能になります。

まさに、ブロックチェーンの特徴をうまくいかした「相対化・自由化」の好例であると言えるでしょう。

ブロックチェーンを活用したその他のビジネス事例

本記事では、ブロックチェーンのビジネス活用領域を金融/非金融/ハイブリッドの3領域に区分した上で、主に非金融領域のビジネスロジックを解説しながら、2021年現在に主だったビジネス事例を詳しく説明してきました。

最後に、上では説明しきれなかったその他のビジネス事例について、大手企業/スタートアップに分けてごく簡単にご紹介します。

大手企業のブロックチェーンビジネス事例

中心企業、事例名

領域・市場

概要

LIFULL、ADRE(アドレ)

不動産賃貸

ブロックチェーンコンソーシアムによるデータの共有・一括管理を通した業界全体の取引コストダウン

ウォルマート、スマート・パッケージ

食品小売

生鮮食品の衛生管理、配送システムの管理によるセキュリティの強化

MITメディアラボ、MedRec

医療データ管理

イーサリアムを利用したプライベートチェーンで、過去の医療機関の同意や同意に必要な手続きを経ることなく、医療情報の再利用を可能にする

デンソー

自動車生産

自動運転車に独自のブロックチェーンシステムを搭載、データの改ざんを防止

日通(日本通運)

物流

サプライチェーン全体をブロックチェーンで管理し、偽造品を排除

ソニー

デジタルコンテンツ(教育、音楽、映画、etc)

ブロックチェーンベースの著作権管理システムによる著作者の保護とデジタルコンテンツの安全な共有

IBM、TradeLens

国際海運

ブロックチェーン基盤の海上物流プラットフォームで、海上物流に関係するあらゆる会社間でのデータベース共有を実現し、業界全体の非効率を解消

マイクロソフト

ID(身分証明、個人認証)

ブロックチェーンベースの個人IDを開発

スタートアップのブロックチェーンビジネス事例

中心企業、事例名

領域・市場

概要

Propy

国際不動産売買

ブロックチェーンのスマートコントラクト機能を利用したオンライン国際不動産売買プラットフォームによる取引コストの低減

Robot Cache

デジタルコンテンツ売買(中古ゲーム)

ブロックチェーンプラットフォーム上でのデジタルゲームの中古売買、不正防止

サスメド

医療、臨床試験

ブロックチェーン技術を用いた臨床研究モニタリングの実証によるデータ改ざん防止

Civic

ID(身分証明、個人認証)

個人認証、年齢確認ができる自販機によるセキュリティの向上とコストの低下

Arteryex、健康銀行

医療データ管理

患者のデータポータビリティを高めるための、AIやブロックチェーン等の先端技術を取り入れた「次世代医療情報プラットフォーム」

ChainLink & OpenLaw

法務

スマートコントラクトで法契約、オフチェーンの銀行同士を仲介