ブロックチェーン技術が真贋証明に応用できるワケ。LVMH、資生堂などの事例も紹介します!

2024年現在、ブロックチェーン技術は様々な分野へ応用されています。そんななか、ブランド品を中心とした高級な商品のサプライチェーンマネジメントにおいて、ブロックチェーンやNFTを活用した真贋証明に取り組む企業が増加しています。

本記事ではそのメリットや各社が行うトレーサビリティの担保に向けた取り組み事例について解説します!

  1. 偽造品対策としての真贋証明
  2. ブロックチェーンが真贋証明にはたす役割
  3. ブロックチェーンを用いた真贋証明の取り組み事例
  4. まとめ

偽造品対策としての真贋証明

真贋証明とは?

真贋証明とは、ある商品が本物かどうかを証明することを意味します。現在は、製品ごとに付与されたシリアルナンバーが記載されたギャランティカードを発行する形式が主流となっています。

この形式では、店舗側はシリアルナンバーをもとに購入者名、購入した品物、購入日を管理しているため、正規品か否かを照合することが可能になっています。また、バッグや財布などを修理に出す際に提示することで、正規店でのサポートが受けられるという利点もあります。 

一方で、最近ではギャランティカードの偽物も出回るようになってきています。ギャランティカードはただの数字が印刷されたカードに過ぎず、直接製品に刻まれているわけではありません。そのため、番号が実在するものであれば、いくらでも複製できてしまうのです。

なぜ、真贋証明が必要なのか?

こうした真贋証明が生まれる背景には、「偽造品の増加」という社会問題があります。偽造品とは、他者の創った知的財産の無断コピーや、類似製品のことです。

厳密な言葉の定義はなされていませんが、一般に偽造品と呼ばれるものには、次の2つがあります(外務省ホームページより)。

  • 模倣品:特許権、実用新案権、意匠権、商標権を侵害する製品のこと
  • 海賊版:著作権、著作隣接権を侵害する製品のこと
出典:外務省

日本でも、一時、映画等のコンテンツの違法海賊版が大量に出回る事件が話題になりましたが、近年では、そうしたコピーの容易な情報商品だけではなく、スマートフォンや時計などの高級ブランドについても、ロゴや商品名など一部のみを変えた「なりすまし製品」も増えています

また、偽造技術の進歩に伴ってスーパーコピーと呼ばれる精巧に作り込まれた偽物も誕生しています。これらは騙すことだけを目的に作られた偽造品とは異なり、見た目はブランド品と全く変わらないものを手頃な価格で手に入れたいという消費者から一定の需要があるのです。

もちろん商標や意匠の観点からもこの行為はNGですが、更に問題となるのが二次流通した際に見分けがつかないことです。粗悪な偽物と異なり、緻密なスキャンと巧妙な模倣技術によって複製されたスーパーコピーはプロの目でも見抜くのにはコツがいるそうです。

つまり、メルカリなどのC2Cプラットフォームなどで鑑定を経ずに入手したブランド品は果たして本物なのかどうか、もはや私たち一般人には見分ける術はないということです。

こうした不特定多数の偽造品業者をすべて取り締まることは現実には難しいため、ブランド保護だけでなく安全性の向上も含めた企業努力の一つとして、近年、真贋証明に着手する企業が増えています

偽造品被害の実態

では、実際の偽造品による被害はどの程度なのでしょうか?

財務省によると、2022年の偽造品の直接的悪影響と間接的悪影響の総額は約3兆4,400億ドル~4兆6,800億ドルにも上ると見られています。2013年時点では約1兆6,600億ドル~2兆300億ドルだったことから、この数年間でさえ偽造品による被害は急激に拡大していることがわかります。

また、OECD(経済協力開発機構)が公表している資料では、「2016年の押収品に占める財で最も多かったのは(ドル換算)、靴、衣料品、革製品、電気製品、時計、医療機器、香水、玩具、宝飾品、薬品で」あり、「税関当局によると、商標のついたギターや建築資材といった過去にはあまり見られなかった財の偽造品が増加して」いるとも発表されています。

同様の被害は、日本国内でも広がっています。特許庁によると、国内で模倣品被害を受けた法人数は、2015年度の10,341法人(全体の6.1%)から2019年度の15,493法人(全体の7.4%)と大幅に増加しています。

出典:特許庁「模倣品被害実態調査報告書(2016〜2020年度)」より筆者作成

これらの情報はあくまでビジネス取引に関わる範囲に限定されていることから、アートなどのビジネスによらない著作権等の侵害や個人間取引での詐欺行為なども考慮すれば、偽造品の被害は非常に大きな社会問題であることが理解できるでしょう。

こうした流れを受けて、冒頭でも触れた通り、近年、ブロックチェーン技術を応用した真贋証明の社内システムや、独立サービス等が急増しています。

ブロックチェーンが真贋証明にはたす役割

ブロックチェーンとは?

出典:shutterstock

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

真贋証明に欠かせない「トレーサビリティ」

真贋証明は、ある商品が「いつ」「どこで」「誰の手によって」「どうやって」扱われたのか、そしてそれらの情報は正しいのか、ということを証明することによって実現できます。

商品からこうした情報が正しく取得できる状態を「トレーサビリティ(が担保されている)」と言い、真贋証明には欠かせない条件といえます。

トレーサビリティ(Traceability、追跡可能性)とは、トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせた造語で、ある商品が生産されてから消費者の手元に至るまで、その商品が「いつ、どんな状態にあったか」が把握可能な状態のことを指す言葉です。

まずは商品のトレーサビリティを担保した上で、商品情報を記載したQRコードやRFIDなどを商品に印字し、それを消費者がスマートフォンで読み取るなどして真贋を確かめることになります。

真贋証明(あるいはトレーサビリティ)の条件

トレーサビリティの担保、そして真贋証明のためには、次の2つの条件が満たされている必要があります。

  • サプライチェーン上で、商品に関する情報を一元で管理できている
  • その管理体制において、商品データの正しさが損なわれない

1点目は、サプライチェーン・マネジメントにおける情報一元管理システムの構築を意味しています。一般に、ある商品が「創られ、作られて、売られる」までには、製造業者、流通業者、小売業者など大小様々な企業が関わっています。

そして、それぞれの企業が、それぞれの方法で、商品に関わるデータを管理・利用しているのが通例です。そのため、一つの商品に関するデータであっても、小売業者に聞いても小売に関わる時点までのことしかわからず、あるいは製造元に問い合わせても流通から先のことはわからない、といった状況に陥ることがほとんどです。

そこで、サプライチェーンを機能別に(つまりは企業単位で)分断するのではなく、商品単位で一連のシステムとして捉え、関連企業間のデータ連携を行うことで、商品が「いつ」「どこで」「誰の手によって」「どうやって」扱われたのかを把握することができるようになります。

2点目は、1点目の管理システムにおいて、データのセキュリティが十分に担保されている状態を意味しています。商品のトレーサビリティが担保され、正しく真贋証明が行われるためには、証明のもととなるデータに対する信用が十分であることが求められます。

しかし、システムのセキュリティ要件が十分に満たされていない場合、第三者による攻撃を受けることによるデータの改ざんや破損、あるいはシステムダウンによるデータの損失などのリスクが考えられます。

そこで、システムをデータセキュリティに強い技術によって構築することで、そのデータをもとにした真贋証明を適切に履行することが可能になります。

ブロックチェーンが真贋証明の条件を同時に満たす!

これらの条件を満たすことができる技術がブロックチェーンです。

先に見たように、ブロックチェーンには、次の特長があります。

  • 非中央集権的な分散システムであるため、競合・協業他社のデータ連携が行いやすい
  • セキュリティが強固なため、データ改竄やシステムダウンのリスクに強い

1点目の課題であった「データ連携」の障害となるのは、異なる利害関係のもとにある複数の企業が簡単に手を結びにくいことです。これに対して、「非中央集権的」「分散的」であるブロックチェーンでは、例えばGoogleやAmazonのような中央管理プラットフォームに権力が集中するということなく、横並びでデータ連携を行うことができます(”All for One”ではなく、”One for All”なデータベース)

また、2点目の課題についても、そもそもブロックチェーンが仮想通貨の中核技術として誕生した経緯からもわかるように、技術そのものに「データが改ざんされにくく、システムダウンに強い」という特性があります

ブロックチェーンはこうした特長をもっていることから、次にみるように、近年、様々な業界で真贋証明プラットフォームの中核技術として利用され始めています。

ブロックチェーンを用いた真贋証明の取り組み事例

LVMH

出典:Coin Desk

世界的に有名な高級ブランド「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)」や「Dior / Christian Dior(クリスチャン・ディオール)」の親会社「LVMH」は、ラグジュアリー品の真贋を証明するためのブロックチェーンプラットフォーム「AURA」をリリースしています。

このプラットフォームでは、原材料の調達から店頭で販売されるまでの一連のプロセスを追跡可能になっており、それらの情報は変更や改ざん、ハッキングができない形でブロックチェーン上に保存されます。それらの情報を含むQRコードを製品に付けることで、消費者はブランドのアプリを使ってそれを確認できるという仕組みです。

AURAで採用されるブロックチェーンは、JPモルガンとエンタープライズ・イーサリアム・アライアンスで共同開発した企業向けブロックチェーン「Quorum」上で構築されているとのこと。コンソーシアム型のブロックチェーンとなっており、すでにプラダやリシュモン傘下のカルティエという2大ラグジュアリーブランドが参加しています。

また、将来的には中古品にも適用範囲を拡大していく予定となっています。AURAでは製品が最初にどこで購入され、いつリセールに出されたのかといった情報も提供されるため、二次流通している製品に対してもデジタル上で証明できます。こうした技術を利用し、LVMHは全製品を正規品として認定することを目指しています。

「製品のライフサイクルを通して、消費者に高いレベルの透明性とトレーサビリティを提供する」という目的自体は全てのラグジュアリーブランドに共通するはずです。したがって、AURAのような競合他社が協力して変化を促し、共通の解決法を見つけ出すことは意味を成します。

世界的著名ブランドがブロックチェーンを利用することで、今後もさまざまなブランドがブロックチェーン業界に参入していくと予想されるでしょう。

VACHERON CONSTANTIN

1755年創業の高級時計ブランド「VACHERON CONSTANTIN(ヴァシュロン・コンスタンタン)」は、2019年5月から商品の真贋判定にブロックチェーンを導入しています。

同ブランドではビンテージモデルのコレクション「Les Collectionneurs」の鑑定書をブロックチェーンに記録したことを皮切りに、ブロックチェーン技術を利用して様々なヴィンテージウォッチにデジタル証書を発行しています。

同社のブロックチェーン・テクノロジーでは、時計の販売時に唯一性のあるトークン(EthereumのERC-721)を発行し、デジタルIDとして活用することで、時計のライフサイクルの追跡や所有権の共有や証明をします。鑑定書は専用アプリで閲覧でき、所有権の変更はスマホでQRコードを読み取れば完了します。

このサービスでは、オーナー側の難しい操作は不要です。オーナーはウェブサイトへの登録とケースバックに刻印された時計のシリアルナンバーを入力、もしくは新しい保証カードのQRコードをスキャンするだけで、デジタル真正証書を手に入れることができます。

従来の紙の鑑定書では偽造の恐れがありましが、ブロックチェーン上に記録された情報は変更や複製が限りなく不可能に近く、時計の所有者が何度変わっていても偽造を防止できる本物のデジタル証明書の作成が可能になります。時計ごとの特性、価値、性質、真贋に関して、製品と不可分かつ安全なデータが手に入るでしょう。

油長酒造

水端1355
出典:SBI Traceability

2023年11月に、SBIトレーサビリティ株式会社は、ブロックチェーン技術などを活用したブランド保護を可能とするトレーサビリティ・サービス「SHIMENAWA(しめなわ)」が、油長酒造株式会社の日本酒「水端1355」でも採用されたと発表しました。

SBIトレーサビリティが提供する「SHIMENAWA(しめなわ)」は、米国R3社の開発したエンタープライズ向けブロックチェーン「コルダ(Corda)」と、サトー社のNFC/RFID技術を組み合わせたデジタルペアリングを利用しています。

「SHIMENAWA」は、2021年12月より大手コンビニエンスストアのローソンが、上海拠点の店舗における生産地情報表示のプラットフォームとして導入しました。そういった元々のトレーサビリティの機能に加え、さらに偽造品に強いサービスとして生まれ変わり、「開封検知」の機能を組み込ませています。

出典:Begin

日本酒の栓には上記のNFCタグがついています。タンパーと呼ばれる電線がICタグにつながっており、ボトルのキャップを外してラベルがちぎれると、その日時と場所をICタグからスマホを経由してブロックチェーン上に記録できるようになっています。

現在、価値の高い日本酒の空き瓶は高値で取引されています。もちろん、記念・プレミアという見方もできますが、残念ながら偽造品として悪用されている現実もあります。開封した情報がブロックチェーンに記録されていることで、食品衛生の観点だけではなく、真贋証明としても役立つということです。

また、開封済みの日本酒を飲む際にも、スマホをかざすことで鮮度を確かめることができます。その銘柄が「いつ」「どこで」消費されているかというデータも取得することができ、リアルな消費データを経営や商品開発に活用できます。

油長酒造の他にも、「梵」を提供する福井県の加藤吉平商店や、「零響(れいきょう) – Absolute 0 -」を提供する宮城県の新澤醸造店といった、他のプレミアムラインの日本酒提供者も、「SHIMENAWA」を導入しており、今後もますます身近なサービスになっていくことでしょう。

集英社「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」

サブカル・コンテンツ領域の取り組みとして注目されているのが、2021年3月1日に集英社が始めた「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」です。

同サービスは、アナログコンテンツである漫画の複製原画を、所有者履歴や真贋の証明を行うことで、絵画のような美術品として流通させることを狙ったプラットフォームサービスです。

すべての作品は、NFT管理サービス「Startrail PORT」に登録されています。購入者は、複製原画とともに送付されたブロックチェーン証明書付きのICタグをスマートフォンで読み込むことで、その原画の所有者履歴や真贋証明を確認することができます。

出典:IT media NEWS

同取り組みでは、美術品や骨董品の際に必ず問題となる「鑑定」をブロックチェーン技術で代用することで、鑑定士やアナログ証明などの手段に頼ることなく、「正しい価値」を流通させることを狙っています。

また、そうした従来の手段では管理しきれなかった所有者履歴も同時に明らかにすることで、これまで以上に「正しい」価値証明にもつながると考えられます。

この取り組みによって、漫画等のアナログコンテンツを制作するクリエイターの新たな収入源も確保され、より優れたコンテンツが生み出しやすくなるでしょう。

資生堂

出典:ザ・ギンザ(THE GINZA) オフィシャルサイト

資生堂のプレステージラインであるザ・ギンザではRFID/QRを利用した真贋証明に取り組んでいます。

国外人気も高い同社の製品は、偽造品が出回ることも少なくありませんでした。それによって、逸失利益が生じるだけでなく、ブランド価値が低下したりエンドユーザーとの接点が持てなくなるといった問題がありました。

そこで同社では製品にRFIDとQRの二層タグを取り付け、流通経路をユーザーが簡単に把握できるような仕組みを構築。購入した商品の外箱内に貼付されているシールを剥がし、QRコードをスマートフォンでスキャンすると、デジタル上で正規品であるか否かがすぐにわかるようになりました。

またユーザー自身が読み取ることでポイントを付与し、「ザ・ギンザ メンバーシップクラブ」内のステージに応じた特典が提供できる仕組みとなっています。当社が開発しているIoT 連携のブロックチェーンツールでは、製品のトレーサビリティを通してマーケティングやユーザー体験の向上といった分野にもつなげています。

THE GINZA正規品証明書の登録方法について

こういったシームレスな顧客体験が実現できるのも、ブロックチェーンによるトレーサビリティシステムの特徴といえるでしょう。

まとめ

今回は、近年問題になっている偽造品に対してブロックチェーンを用いたソリューションの事例をご紹介いたしました。ブランドの信用によって価値が担保されている高級品はもちろん、品質が評価されている「メイド・イン・ジャパン」においても粗悪な偽造品が市場に出回ることは日本企業にとっては致命傷になり得ます。

そうした問題に対してトレーサビリティの確保は非常に重要な問題です。製造工程や原材料、プロダクトのディティールにこだわるのと同時に、ユーザー側が商品情報を確認できる仕組みを考えるべき時がきたのではないでしょうか。

株式会社トレードログは、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。弊社はコラム内で取り上げたザ・ギンザのプロジェクトにおいても技術支援を行っており、トレーサビリティ実現の経験も豊富です。

偽造品問題への対応やブランド価値の向上を目指す企業様はもちろん、ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

ブロックチェーンのセキュリティリスクとは?次世代の社会基盤が抱える問題を解説!

Web3.0は、その分散型の特性などから近年ますます注目を集めています。特に、Web3.0の基盤として期待されているブロックチェーンは、金融や供給チェーンなどの様々な業界で大きな変革をもたらす可能性を秘めています。しかし、この革新的な技術にもセキュリティ上のリスクが潜んでいます。

本記事では、そんな次世代技術であるブロックチェーンのセキュリティ上の課題について詳しく解説していきます。

  1. ブロックチェーンの重要性とセキュリティ
  2. ブロックチェーンのセキュリティリスク①:51%攻撃
  3. ブロックチェーンのセキュリティリスク②:秘密鍵の流出
  4. まとめ:ブロックチェーンは適切な運用でセキュリティ対策が可能

ブロックチェーンの重要性とセキュリティ

ブロックチェーンとは?

出典:shutterstock

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

世界のGDPの10%がブロックチェーン基盤上に蓄積される?

「ブロックチェーン=ビットコイン」という認識は、すでに過去のものとなっていることはご存知でしょうか?一昔前(といっても2010年代ですが)までは、ブロックチェーンといえば、ビットコインを始めとする暗号資産(仮想通貨)を支える基幹技術の一つに過ぎませんでした。

それもそのはず、もともとブロックチェーンは、2008年に生まれたビットコインネットワークの副産物でしかなく、多くのビジネスパーソンからはFintechの一領域として認識されていました。しかし、ブロックチェーンの技術に対する理解が徐々に深まるにつれ、金融のみならず、物流・不動産・医療など、多種多様な産業での応用が進み始めました。

ブロックチェーンが単なるビットコインの補助技術ではなく、世界経済の重要な基盤として位置付けられるようになっている背景には、その技術の特性と多様な応用が挙げられます。

ブロックチェーンは分散型台帳技術であり、中央集権的な管理者が不在であるため、データの改ざんや不正アクセスを防ぐことができます。この特性は、金融だけでなく、物流、不動産、医療などのさまざまな産業で信頼性の高い取引や情報管理が求められる場面で大きな価値を持ちます。

そして、世界経済フォーラムによると、2025年までに世界のGDPの10%までがブロックチェーン上に蓄積されるようになるとの予測もなされるほどに、ブロックチェーンがこれまで以上に多くの産業で利用されるようになっています。たとえば、物流業界では製品の追跡や流通経路の透明化により、偽造品や盗難のリスクを減らすことができます。不動産業界では、不正な取引や不動産の二重売買を防止するために、土地登記や資産管理にブロックチェーンが活用されます。

これらの応用によって、ブロックチェーン技術は単なる金融の枠を超え、社会基盤の一部として不可欠な存在となっています。ブロックチェーンを単なる投機的な金融の一手法に過ぎないと見るか、それを次世代の社会基盤として位置付けるかによって、私たちの未来が大きく異なる可能性があります。

ブロックチェーンはセキュリティの万能薬ではない?

出典:Unsplash

ブロックチェーンは前述の通りデータの耐改ざん性が高い技術です。こうした背景から、ブロックチェーンセキュリティの万能薬であるかのような認識が広がりました。しかし、実際にはブロックチェーンも完璧なセキュリティを提供するわけではありません。

確かに、ブロックチェーンは、時系列順に取引履歴を追えること(トレーサビリティ)やネットワーク参加者間でのデータ同時共有という概念(データの耐喪失性)も相まって、物流業界における偽造品対策の効果的手法として活用されるなど、そのセキュリティレベルの高さに大きな期待がされています。

実際にブロックチェーンは、理論的には非常に堅牢なセキュリティ技術として働くことが可能で、従来のデータベースからブロックチェーン基盤へと切り替えることは、セキュリティ対策の一環としても効果がもたらされうることでしょう。

一方で、ブロックチェーンは「強いAI」というわけではなく、あくまで人間が稼働させる一つのシステムに過ぎません。そのため、ブロックチェーンが社会実装される過程のヒューマンエラーや組織的な恣意性によって、理論が適切に効果を発揮しないことでセキュリティが脅かされることも十分にありえます。

では、これらの問題は一体どのようなもので、どういった対策を取ればよいのでしょうか?それぞれの問題について説明していきます。

ブロックチェーンのセキュリティリスク①:51%攻撃

出典:shutterstock

51%攻撃とは?

ブロックチェーンの原理的なセキュリティリスクといわれているのが「51%攻撃」です。51%攻撃とは、「ブロックチェーンネットワークにおいて、ある特定の参加者またはグループがネットワーク全体の過半数(51%)以上の計算能力を持つことで、ブロックの生成やトランザクションの承認など、ネットワーク上での支配的な役割を果たすことができる」という問題のことで、平たく言えば「ネットワークの乗っ取り」といったところでしょうか。

ブロックチェーンは分散型のシステムで中央管理者がいないため、取引の正当性を決定するにはネットワーク全体で合意を取る必要があります。たとえば、AさんがBさんに10トークンを送ったと主張しているにも関わらず、Bさんは5トークンしか受け取っていないと主張する場合、どの取引が正しいかを決めるためには、事前に決められたルールに基づいて判断しなければなりません。

このルールのことを「コンセンサスアルゴリズム」といい、ブロックチェーン基盤ごとにそれぞれのコンセンサスアルゴリズムが定められています。暗号資産で有名なビットコインでは、取引の正当性を決めるために「PoW(Proof of Work)」というコンセンサスアルゴリズムが使われています。

PoWでは、マイニングと呼ばれる複雑な計算問題を解くことで新しいブロックを生成する権利を獲得する仕組みを通じてネットワーク全体の合意形成を実現します。このシステムは、誰でも参加できるオープンな仕組みである一方、 他のチェーンよりも多くの計算力を持てば自分のチェーンを伸ばすことができます。

マイニングにおける計算処理は「パズル (puzzle)」と表現されることがありますが、ジグソーパズルのように推理力が役に立つわけではありません。高速な計算処理をするマシンパワーこそがマイニングに最も必要なツールです。また、ビットコインではより長いチェーンを多くの人達が支持している正当なチェーンと考える(ナカモト・コンセンサス)ため、悪意のある参加者がネットワーク全体の計算力の過半数を手に入れれば、不正な取引のチェーンを生成することができます。これがビットコインにおける重要なセキュリティリスクとされる「51%攻撃」です。

51%攻撃が発生すると、ネットワークの支配者が二重支払い(既に支払ったコインを再度消費する)やトランザクションの改ざん、特定のブロック生成の妨害などを行えることとなり、ブロックチェーンネットワークのセキュリティが損なわれてしまいます。結果として、本来の目的である「安全で透明性の高い取引プラットフォーム」からは程遠いシステムとなってしまいます。

51%攻撃によってセキュリティが脅かされた事例

51%攻撃による暗号資産(仮想通貨)へのセキュリティ攻撃として話題になったのが2018年に発生したモナコインの事例です。被害総額は約1,500万円とあまり高額ではありませんが、モナコインが日本発祥であること、犯人が18歳少年であったことなどから大きな話題となりました。

モナコインへの51%攻撃では、攻撃者が自らのハッシュレート(コンピューターが1秒間に行うことのできるハッシュ計算の回数を表す指標)を利用してブロックチェーンを操作し、不正な取引を行いました。

出典:Blockchain Biz

具体的には、攻撃者はマイニングに成功したブロックをネットワークに伝えずに隠し、その後隠し持っていたブロックチェーンを伸ばすという手法です。この「セルフィッシュ・マイニング」という手法により、正しいチェーンよりも長くなったタイミングで攻撃者の改ざんされたチェーンをネットワークに送り込むことで、攻撃を成功させました。

また、攻撃者は事前に取引所にモナコインを入金し、換金処理をした後に改ざんされたチェーンを公開したため、取引所に入金したモナコインと取引所からの出金の両方を手に入れました。

このような攻撃は、ビットコインなどの大規模なブロックチェーンネットワークに比べてモナコインのブロック承認間隔が短く、ハッシュレートが比較的小さいために可能となりました。

ブロック承認間隔が短いと、攻撃者が改ざんしたブロックをネットワークに早く送り込むことができます。攻撃者は自分のブロックが最も長くなるように早くブロックを生成し、他の正規のブロックを追い抜くことがしやすくなります。

また、ハッシュレートが小さいと、攻撃者は比較的少ないコストで必要なハッシュレートを集めることができます。実際にEthereumなどの主要ブロックチェーンに比べると、モナコインは100分の1程度のコストで51%攻撃ができてしまいました。

この事件を受けて、多くの仮想通貨取引所ではブロック承認数を増やすなどの対策が取られており、モナコイン側においても、専用のASIC(特定の用途のために作られるハードウェア)を開発するなどしてハッシュアルゴリズムの見直しを行っており、ハッシュレートは数十倍に増加しています。

こうした51%攻撃の被害は、モナコインの他にも、「Bitcoin Gold(ビットコインゴールド)」や「Litecoin Cash(ライトコインキャッシュ)」といった銘柄でも確認できます。

51%攻撃を防ぐ方法はある?

出典:Pexels

51%攻撃の根本的な対策方針は、「コンセンサスアルゴリズムを変更すること」です。先ほど説明したように、51%攻撃は原理的なセキュリティリスクであるため、PoWおよびナカモト・コンセンサスが合意形成のルールである以上、完全な対策は不可能です。

もちろん、ネットワークの規模が大きくなればなるほど、マイニングやノードの所有者が多様であればあるほど、単一のエンティティが51%以上の計算力を獲得することは難しくなります。分散化を促進することである程度の抑止力にはなるでしょう。

しかし、これはあくまで難易度が多少上がるだけの話に過ぎません。したがって、51%攻撃のリスクをなくすためには、ルールそのものを変更する必要があるのです。これは、ビットコイン以外のブロックチェーンネットワークにおいて実際に行われています。

たとえば、イーサリアムで採用されている「PoS(Proof of Stake)」は、51%攻撃のリスクを限りなく低くすることを目的に定められたルールといわれています。PoSとは、保有するコイン量や保有期間に基づいて、ブロック生成の権利を獲得するコンセンサスアルゴリズムです。

そのため、あるノードが51%攻撃を行うためには、ネットワーク全体の51%以上のトークンを保有する必要があり、攻撃に必要なコストは非常に高くなります。また、保有期間によってもブロック生成の権利が当選する確率が変わるため、PoWに比べるとはるかに51%問題の難易度が上がります。

また、ネットワークの参加者が許可制になっている「プライベートチェーン」や「コンソーシアムチェーン」で用いられている「PoA(Proof of Autority)」も51%問題に対する対抗手段の一つとなっています。PoAとは権限を持つノードによってブロックが生成されるコンセンサスアルゴリズムのことで、ネットワークの分散性は劣るものの、そもそも悪意のある参加者などは事前にシャットアウトすることが出来ます

なお、プライベート型やコンソーシアム型といったブロックチェーンの種類や個々のチェーンの特徴についてはこちらの記事で解説しています。

ブロックチェーンの種類とそれぞれの特徴とは?パブリック・プライベート・コンソーシアムの違いを解説!

ブロックチェーンのセキュリティリスク②:秘密鍵の流出

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秘密鍵の流出とは?

ブロックチェーンのセキュリティリスクとしてもう一つ代表的なものが、「秘密鍵流出」の問題です。これはいわゆる「なりすまし」攻撃で、各ノードが保有するアカウントに付与された「秘密鍵」を盗まれることで起こります

ブロックチェーンの仕組みでは、ネットワーク基盤上で行われた取引記録が「トランザクション」と呼ばれる塊として大量にプールされており、そのプールから1MB(メガバイト)分のトランザクションを取り出して「ブロック」としてまとめています。

このトランザクションが取り出される際に「秘密鍵暗号方式」と呼ばれる方法でトランザクションへの「署名(秘密鍵で暗号化する)」が行われることで、トランザクション自体のセキュリティが担保されています。

秘密鍵暗号方式とは?

公開鍵暗号方式とは、情報を通信する際に、送信者が誰でも利用可能な公開鍵を使用して暗号化を行い、受信者が秘密鍵を用いて暗号化されたデータを復号化するという手法のこと。

図1:公開鍵暗号方式における鍵のやり取り出典:サイバーセキュリティ情報局「キーワード事典」

秘密鍵は特定のユーザーのみが保有する鍵で、この秘密鍵から公開鍵を生成することは可能。しかし、公開鍵から秘密鍵を特定することは現実的には不可能。公開鍵で暗号化されたデータは対応する秘密鍵でしか復号化できないため、秘密鍵さえ厳重に管理していれば、データの保護と情報漏洩の防止が可能となる。

通常、この秘密鍵は各アカウントごとに一つだけ付与されるもので、この鍵を使うことでアカウントに紐づいた様々な権限を利用することができます。暗号化技術において、秘密鍵は暗号化されたデータを復号したり、デジタル署名を作成したりするために使用される重要な情報です。そのため、この鍵自体が盗まれてしまうと、個人アカウント内の権限を第三者が悪用できてしまうことになります。これが、秘密鍵流出問題です。

秘密鍵の流出によってセキュリティが脅かされた事例

秘密鍵の流出問題として世間を大いに騒がせたのが、2018年1月に起きた日本の暗号資産取引所コインチェックの秘密鍵流出問題です。この事件では、コインチェックが取り扱っていたNEM(ネム)という仮想通貨が約580億円相当も盗まれ、当時としては世界最大級の暗号資産窃盗事件となりました。

この事件は、コインチェックがNEMをインターネットに接続された状態で管理していたことが原因とされています。こうしたホットウォレットは利便性が高い反面、セキュリティリスクも高いため、本来は大量の仮想通貨を保管するのに適していません。

さらに、当時のコインチェックでは運用上の負担やコストの負担などから、取引を行うために1つの秘密鍵で取引を承認するシングルシグ方式が用いられていました。これが、ハッカーが1つの秘密鍵を盗むだけで、大量のNEMを盗むことができた原因の一つです。

また、当時の日本の仮想通貨業界がまだまだ発展途上であり、セキュリティに対する十分な意識や法整備が追いついていなかったことも事件の背景にあります。仮想通貨取引所の運営やセキュリティ対策が未熟だった時期でもあったため、日本の仮想通貨取引所に対する信頼を大きく損なう騒動となりました。

一方で、この事件を機に多くの暗号資産取引所がコールドウォレットと呼ばれるインターネットに接続されていない状態で仮想通貨を保管する方式を導入したり、適切な監視体制が構築されるなど様々なセキュリティ対策がなされることになります。良くも悪くもセキュリティ上の「教訓」が業界全体に浸透したといえるでしょう。

また、個人単位でも秘密鍵の管理には細心の注意を払う必要があります。2023年9月には、ブラジルの仮想通貨系配信者であるIvan Bianco氏が自身の秘密鍵をYouTubeのライブ配信上で誤って公開してしまい、数千ドルを失うという出来事がありました。

今やインフルエンサーやコンテンツクリエイターは決して珍しい存在ではなく、誰もがコンテンツの発信者になりうる時代です。したがって、こうした予期せぬヒューマンエラーがブロックチェーンシステムの運用課題になりえることでしょう。

秘密鍵の流出を防ぐ方法はある?

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秘密鍵流出問題への対応策の一つとされているのが、「マルチシグ(マルチシグネチャー)」です。マルチシグとは、トランザクションの署名に複数の秘密鍵を必要とする技術のことで、実際にマルチシグを利用する際には企業の役員陣で鍵を一つずつ持ち合うなどの対応がとられます。

マルチシグは、秘密鍵流出問題へのリスクヘッジ方法であると同時に、 一つの秘密鍵で署名を行う通常のシングルシグに比べてセキュリティレベルも高くなることから、取引所やマルチシグウォレットなどで採用されています。

ただし、上述のコインチェック事件のように、個人レベルでマルチシグを利用していたとしても、取引所そのもののセキュリティが破られてしまった場合には被害を食い止めることはできません。

通常のデータベースにおけるセキュリティ対策(セキュリティソフトウェアの導入、二要素認証の活用)をうまく活用しながら、セキュリティへの攻撃は複数階層に対して行われうるものであることを理解して、本質的な対応をとるように心がけましょう。

まとめ:ブロックチェーンは適切な運用でセキュリティ対策が可能

本記事ではブロックチェーンが抱えるセキュリティリスクについて解説しました。ブロックチェーン自体は優れたセキュリティ性能を備えているものの、コンセンサスアルゴリズムや秘密鍵の管理体制によっては攻撃の対象となりうることをご確認いただけたかと思います。しかし、これらを適切に運用しさえすれば安定したエコシステムの実現も可能です。

ブロックチェーンをビジネスに導入する際には、そのサービスや目的に合ったブロックチェーンを選別することが非常に重要です。しかしながら、プラットフォームごとに「スピードが優れている基盤」「安定性に優れている基盤」「カスタマイズ性に優れている基盤」など様々な特色があり、またその同一のチェーンでも設計次第では異なる性能になります。当然、セキュリティも然りですが、これらを比較検討するのには多大な労力やコストがかかります

トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

中国におけるブロックチェーンの現在地

ブロックチェーンは、その透明性、セキュリティ性、効率性などを理由に世界中で注目されています。この革新的な技術は、金融分野からサプライチェーン管理、さらには政府の運営に至るまで、多岐にわたる分野での応用が期待されています。日本では企業による実証が行われているものの、国家レベルでの大規模な取り組みはあまり進んでいないのが現状です。

一方で同じアジア圏の中国に目を向けると、安全保障や経済圏や情報のコントロールなどを目的として暗号資産やNFTを厳しく規制しながらも、デジタル人民元や公共事業を中心にブロックチェーンの研究開発と技術発展が進んでいます。本記事では、2024年の中国におけるブロックチェーンの最新事情に迫ります!

  1. 中国ブロックチェーン市場を理解しよう
  2. 中国国内のブロックチェーンの特徴
  3. ブロックチェーンビジネスを理解するための「軸」
  4. 金融領域における最新の中国ブロックチェーン事情
  5. 非金融領域における最新の中国ブロックチェーン市場動向
  6. まとめ:中国のブロックチェーンは今もなお姿を変えつつある

中国ブロックチェーン市場を理解しよう

そもそもブロックチェーンとは?

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ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

詳しくは下記の記事でも解説しています。

拡大を続けるブロックチェーン市場

2024年現在、ブロックチェーンを応用したビジネスには様々なものがあります。

当初は金融分野、とりわけ暗号資産(ビットコインなどのいわゆる「仮想通貨」)のみに関係した「怪しい」ビジネスだと思われがちだったブロックチェーンも、NFTやDAO、偽造品対策や物流DXなど様々な分野でデータ基盤として採用されることでその市場規模も急成長を遂げています。

株式会社グローバルインフォメーションの市場調査レポートによると、2030年のブロックチェーン市場規模は4041億ドル(およそ58兆6000億円)になると予測されています。

https://www.gii.co.jp/report/smrc1308673-blockchain-market-forecasts-global-analysis-by.html

こうした市場拡大の背景には、IoTやAI等の技術進化を土台とした世界的なDXの発展とそれに伴うサイバーセキュリティ需要の拡大、キャッシュレス化の進展、顧客重視の傾向が強まるマーケティング戦略、巨大プラットフォーム企業の出現に対抗する形で進むアライアンスやM&A等の業界再編など、インターネットのインパクトが数十年かけてもたらした大きな社会変革の波があります。

堅牢なセキュリティ能力を誇るデータベースであるブロックチェーンは、こうした社会変革を支える根幹技術として、今後の世界の社会基盤となりうる可能性を秘めているのです。

ブロックチェーンの世界を牽引する中国

拡大を続けるブロックチェーン市場の中でも、ひときわ存在感を増しているのが中国です。中国物流購買連合会が発表している「中国産業ブロックチェーン発展報告書(2022年)」によると産業ブロックチェーン市場の規模は、2021年に2317億9000万元(約4兆7213億円)となっています。

これは株式会社矢野経済研究所が発表している2021年度の日本国内におけるブロックチェーン活用サービス市場規模である約783億円と比べると、中国におけるブロックチェーンの研究開発や産業応用が、日本とはとても比べ物にならないほどのレベルで進んでいることがおわかりいただけるかと思います。

また、詳しくは後述しますが、中国におけるブロックチェーンは他国で用いられているようなパブリック型チェーンを前提としたWeb3.0世界の構築とは大きくかけ離れたアーキテクチャで進化を遂げています。外界に対して秘匿性に優れたいわゆるプライベート型に近い形での運用となっていますが、実は非金融領域のビジネス導入においては、プライベート・コンソーシアム型のブロックチェーンもスタンダードになりつつあります

したがって、日本におけるブロックチェーンのビジネス活用や産業応用を考えていく上で、中国の先例から学んでいくことには大きな価値があるといえるでしょう。

なお、パブリック・プライベート・コンソーシアムといった個々のブロックチェーンの特徴については以下の記事をご覧ください。

中国国内のブロックチェーンの特徴

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暗号資産の取引は厳しく規制されている

中国における暗号資産に関する規制は、世界でもとくに厳しい部類に入ります。中国政府では2017年にICO(Initial Coin Offering)と仮想通貨取引所の運営を禁止して以降、暗号資産マイニングの取り締まりや暗号法の制定、暗号資産関連の広告に対する制限強化など厳しい規制を設けています。

表向きには、中国で人気を集めているビットコインのマイニングが環境に深刻なダメージを与えることや、仮想通貨投資の流行によって巨額の損失を抱えた投資家が急増する懸念などを理由にしています。

しかし、実際のところは「資本が国外へ流出し、政府のコントロール外となるのを防止するため」というのが実情でしょう。国境に左右されず、規制が届かない暗号資産の性質は、「国家管理経済」という中国政府の理念に大きく反するものです。キャピタルフライトは輸入額の増加、輸出額の減少、これらに伴う国内インフレなど様々な問題をもたらすため、なんとしても阻止しなければならないというわけです。

事実、中国では仮想通貨を用いたマネーロンダリングが爆発的に流行した時期があり、当時の逮捕者は30万人を超えるともいわれています。

中国が1000人逮捕、仮想通貨マネロンの「協力者が後を絶たない」仕組み

中国政府としてはこうしたアンコントローラブルな経済を認めるわけにはいかず、厳しい規制をしているというのが中国ブロックチェーン市場の実情です。

一方で、中国国内の投資家たちは2023年より個人投資家の暗号資産取引が認められている香港を避難所代わりに使うなど、依然としてグレーゾーンの代替手段による取引が盛んであるのも中国市場ならではの光景でしょう。

政府主導のプロジェクトが多い

ブロックチェーンの代表例である暗号資産に対して否定的な態度を取っている中国政府は、ブロックチェーンそのものに対しても拒否反応を示しているのでしょうか?答えはNOです。むしろ、中国のブロックチェーンで特徴的なのは、政府が主導しているプロジェクトの多さです。

中国政府は、「ブロックチェーンで世界の先頭を走る」というビジョンを掲げており、経済発展と社会進歩に寄与する重要な要素と見なしています。そのため、国家レベルでブロックチェーン技術の研究開発と応用に巨額の投資を行っており、特に個人情報管理と金融サービスの分野で積極的にプロジェクトを進めています。

これらのプロジェクトの背景には、中国当局による国民の監視とコントロールの強化という至上命題も見え隠れしており、政府主導のアプローチは国家戦略としてのブロックチェーン技術の発展を加速させる一方で、プライバシーやデータのセキュリティに関する懸念も引き起こしています。

こうした状況は先の暗号資産に対する取り締まりと相まって、ブロックチェーン技術は評価しつつもその上で行われる投機的な取引や分散的な取引は抑制するという、中国独自のアプローチを示しています。

外部チェーンとの相互運用性に乏しい

中国では、不測の事態に対して常に規制当局が介入できるよう、全てのインターネットシステムにユーザーの身元確認を要求しています。そのため、国家による中央集権的な管理ができず、だれでも参加が可能なパブリックチェーンの利用は認められていません。

また、それぞれのチェーンにおいても国内で独自に開発・カスタマイズされた技術基盤を採用しているため、海外のパブリックチェーンとは互換性がなく、直接的な情報や資産のやり取りが困難です。

実際に中国の政府関連団体が主導するブロックチェーンインフラプロジェクト「BSN(Blockchain-Based Services Network)」の国内版では、20種類を超えるパブリックブロックチェーンを許可型のブロックチェーンにローカライズして国内ののユーザーに提供しています。

こういった理由によって中国におけるブロックチェーンネットワークは事実上、中国国内という閉ざされた環境でのみ構築され、国外のブロックチェーンプロジェクトと連携をするのは非常に困難であり、実質的に利用できない状況に近いといえます。

この背景にはアメリカ企業による情報の収集に対抗したい、あるいはWeb3.0時代の主導権を握りたいという中国の考えが読み取れます。対するアメリカ側も中国を始めとする敵対勢力が関連するブロックチェーンを利用することで、重要な国家安全保障情報やアメリカ国民の個人情報にアクセスされる危険性を危惧しています。したがって、中国製ブロックチェーンを締め出そうとする動きも見られ、情報の世界においても米中関係の緊張した関係が見て取れます。

米法案、中国製ブロックチェーンとテザーのUSDTの政府使用禁止を提案 | ビットバンクプラス

こうした様々な事情が絡み合って中国では独自の「ブロックチェーン文化」が形成されている、ということは頭に入れておいたほうが良いでしょう。

ブロックチェーンビジネスを理解するための「軸」

中国のブロックチェーン事情を整理するために、まず、ブロックチェーンビジネス一般を理解するための軸を用意しましょう。ブロックチェーンビジネスは、基本的に、金融/非金融/ハイブリッドの3領域に大別されます。

ここでいう「金融領域」とは、平たく言えば「Fintech」と言われる領域のことで、より正確には「暗号資産(=仮想通貨)を活用した領域」と考えてください。暗号資産は、かつては「仮想通貨」と呼ばれており、いまだにその呼称の方が馴染み深い方も多いでしょうが、2019年3月15日に暗号資産に関する法改正が閣議決定され、呼称の変更が行われました。こうした暗号資産を用いたビジネスが、ブロックチェーンビジネス第一の領域です。

これに対して、暗号資産ではなく、データの耐改ざん性やP2Pネットワーク、スマートコントラクトなど、ブロックチェーンの技術そのものを応用した産業・業務変革も盛んに行われています。こうした「非金融」のビジネスが、ブロックチェーンビジネス第二の領域です。

基本的には、これら2つの領域に分けられますが、少しややこしい問題として、「非金融ながら暗号資産を活用する」ハイブリッドな領域も存在しています。たとえば、「トークンエコノミー」と呼ばれるビジネスモデルでは、ネットワーク独自に発行された暗号資産、つまりトークンをビジネス上の通貨として利用していますが、その目的は暗号資産の運用益そのものではなく、あくまでトークンを活用した経済圏の構築と経済圏内の取引の活性化にあります。このように、「ブロックチェーン×金融」の結晶である暗号資産を用いながら、非金融領域の課題解決を目指すような「金融×非金融」のハイブリッドなビジネスが、ブロックチェーンビジネス第三の領域です。

ここからは、この「金融/非金融」という軸から、中国のブロックチェーンマーケットについて解説します。なお、当社では、非金融領域でのブロックチェーンビジネスについては、事業化するための3つの視点を紹介しています。この点については、本記事ではなく、下記の記事に詳しく解説しておりますので、あわせてご覧ください。

金融領域における最新の中国ブロックチェーン事情

CBDC(Central Bank Digital Currency)

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中国におけるブロックチェーンの金融領域への適用先としては、中国版CBDCである「デジタル人民元」を避けることはできません。

CBDC(Central Bank Digital Currency)とは?

CBDCは、法定通貨をデジタル化したもの。日本語では「中央銀行によるデジタル通貨」と呼ばれる。私たちがよく知る電子マネーや暗号資産といったデジタル通貨は、すべて民間企業が発行・管理を行っているが、CBDCは民間企業ではなく「国」が発行・管理を行う。

CBDCは、従来の通貨と比較してインターネット上で瞬時に送金することが可能で、決済手数料も低く抑えることができます。銀行口座を持たない人でも利用することができるため、金融包摂の推進にも貢献することが期待されます。また、同様のメリットを持つビットコイン等の暗号資産と比較すると、CBDCは法定通貨であり、裏付け資産のない暗号資産よりも金銭的価値が安定しています。

中国ではデジタル人民元が、民間の金融機関や公的機関、実店舗も含めた決済機能等が実証され、国内外からも大きく注目されています。

出典:野村総合研究所「着々と拡大するデジタル人民元経済圏」

法定通貨の紙幣には偽造防止のための特殊なインクや3Dホログラムなど高度なセキュリティ要件が求められます。そのため、法定通貨をデジタル化をするうえでは、データベースの脆弱性や耐改ざん性などが論点となることが多いため、一般的にはCBDCの基幹技術としてブロックチェーンが検討されることが多いです。

しかし、中国人民銀行が発行するCBDCであるデジタル人民元は、当初、中国政府は参加者をかなり限定した一種の「クローズド型」のブロックチェーンとして運営し始めましたが、日本銀行決済機構局の資料によると、基盤技術については伝統的データベースと分散型台帳技術の組み合せに移行しており、純粋なブロックチェーンを導入しているわけではない点には注意が必要です。

なぜ中国は他国の注目を集めるほど、CBDCの研究・開発に熱心になっているのでしょうか?その理由として「基軸通貨米ドルに対する挑戦」「人民を縛りつけるデジタルの鎖」という2つの観点があります。

現在、世界経済における基軸通貨は米ドルです。国際貿易や金融取引の大部分が米ドルを基準に行われているため、米ドルは世界経済の安定に不可欠な存在といっても過言ではないでしょう。しかし、こうした米ドルが支配的な地位にいる状況に対して中国政府は強い危機感を抱いています。米ドルの価値変動は、中国経済にも大きな影響を与えるため、米ドルへの依存度を低減したいと考えているのです。

この観点ではデジタル人民元は、人民元の国際化を推進する上で重要な役割を果たすことが期待されています。前述の通りCBDCは、従来の決済よりも迅速かつ安価であり、海外での利用も容易です。そのため、中国政府はデジタル人民元を積極的に海外に普及させ、国際貿易や金融取引における人民元の利用を拡大していくことを目指しています。

こうしたドルに対する挑戦は、中国がパイオニアではなく多方面からの挑戦が行われてきました。米ドル圏の内部としてはクレジットカード、ペイパルなどが、また、米国外では独仏がユーロを作り、ロシアはルーブル建ての原油取引を推進しました。記憶に新しいものではビットコインもその一つでしょう。こうした流れの中にデジタル人民元も位置付けてみることができます。

また、デジタル人民元には「人民を縛りつけるデジタルの鎖」という別の側面もあります。

デジタル人民元では、すべての取引履歴が記録されるため、中国政府は国民の経済活動を容易に監視することができます。表向きは「新しい形式の法定通貨」ですが、その本質は政府が運営する巨大な台帳です。したがって、脱税も密輸も反政府活動も、台帳を見れば一発でバレてしまいます。あるいは、自由主義や民主主義を吹聴する電子書籍を購入した人民もすぐに炙り出されるでしょう。

本来であれば、ブロックチェーンは非中央集権的な性格にその意義と本質があります。しかし、こうした文脈においては残念ながら、ブロックチェーンは中央管理者をつなぎ止める「真実の鎖」ではなく人民を縛りつける「支配の鎖」として利用される恐れがあります。中央管理社会の比喩としてよく使われる、「1984」「華氏451度」のようなディストピア的世界も、デジタル人民元の導入によって、いよいよ現れ始めるのかもしれません。

デジタル人民元の今後が、中国経済と世界経済にどのような影響を与えるのか、世界中が注目しています。

暗号資産

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CBDCという国が発行・管理するデジタル資産の導入が進む一方で、「中国国内のブロックチェーンの特徴」でもご紹介したように中国において暗号資産の取引は厳しい規制が設けられており、暗号資産の未来はかなり不透明な状況にあります。しかし、そういった規制の影で、暗号資産に関する活動は活発に行われているのが実情です。Chinalysisのレポートでは、中国はアジアで最も暗号通貨活動が多い国として3番目にランクされています。

出典:Chinalysis

これらの取引のほとんどはアンダーグラウンドでの取引であり、私たちがビットコインを購入する際には常にボラティリティ(価値変動の度合い)をリスクとして捉えますが、中国の投資家たちはその観点だけではなく、当局による摘発もベースにリスク勘定を行っているというわけです。

香港の暗号資産取引に関する一般規制緩和が起きて以降、中国国民の間ではビットコインの人気に拍車がかかっています。こうした動きを受けて、中国政府が暗号資産を認める方向に舵を切るのではないかという見方も現れ始めています。

もしかすると、中国が政治的介入を強める香港で暗号資産の取引が解禁されたのも、本土での導入に先立った検証の狙いもあるのかもしれません。果たして、中国政府が暗号資産を認める日がやって来るのでしょうか。

非金融領域における最新の中国ブロックチェーン市場動向

偽造品対策

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中国といえば偽造品の一大製造国であり、行政摘発も緩い印象があるかもしれません。しかし、そのイメージはもはや古い中国の姿かもしれません。実は、中国政府は偽造品問題の深刻さや他国からの被害報告を十分に認識しており、その対策にも力を入れています。

その一環として、データの耐改ざん性と追跡性に優れたブロックチェーン技術を活用した対策が取られることも少なくないようです。とくに食品・医薬品に関しては重点品目として公安部による摘発強化計画「崑崙2020」に位置づけるなど最も厳しい管理が適用されています。

これらの分野で代表的な事例は、米小売最大手ウォルマートの事例でしょう。中国現地法人のウォルマートチャイナでは、ブロックチェーン技術を駆使した食品トレーサビリティの実現に注力しています。この取り組みでは、食品の生産から流通、販売までの過程が透明化され、消費者は商品のバーコードをスキャンするだけで生産地、物流過程、検査レポートに至るまで、商品の詳細な情報を取得することができます。

中国では過去に「段ボール肉まん」「冷凍ギョーザによる食中毒事件」「使用期限切れの鶏肉を使用したチキンナゲット」など社会問題となるような偽装食品が氾濫していました。そのため、国内の消費者は製品に付与されたQRコードをスキャンすることでサプライチェーン情報に簡単にアクセスできるようになり、食品の安全性と信頼性が大きく向上しました。

また、副次的なブロックチェーンの導入効果としてサプライチェーンの最適化・物流の最適化も起きています。中国はロシア、カナダについで世界で3番目に大きな国であり、流通経路上に食品が滞留してしまうケースがあります。物流過程も追跡可能にすることでボトルネックの把握が容易になり、調達時間の改善に取り組みやすくなります。不要な中間業者を省くことは調達時間の短縮以外にも調達コストや輸送によるCO2排出量を抑えることにも効果的でしょう。

このように偽造品への対抗手段としてブロックチェーンは非常に強力なソリューションになり得ます。2020年からの新型コロナウイルスの大流行は、中国における食品安全への意識をさらに高め、ブロックチェーン技術の活用を加速させました。ウォルマートチャイナの取り組みは、まさにこの時代のニーズに合致したものであり、今後も業界全体の変革を牽引していくものとして期待されています。

公共事業

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公共事業へのブロックチェーン導入という点においては、中国はアジア一といっても過言ではありません。中国政府は近年、ブロックチェーン技術を公共事業に積極的に活用し、行政サービスの効率化や透明性の向上を図る取り組みを加速しています。この取り組みは、政府のデジタル化戦略の一環として位置づけられており、さまざまな分野でブロックチェーン技術の導入が進んでいます。

例えば、2023年には中国公安部の主導でブロックチェーンベースの身元確認情報(ID)検証プラットフォーム「RealDID」が立ち上がっています。発表によると、このプラットフォームでは約14億人の中国国民の実名属性を追跡可能な分散デジタルIDが発行され、身元を確認するために使用されます。改ざんされてはいけない情報をブロックチェーン上に記録することで、適切な行政手続きや課税、交通・旅行サービスが受けられるようになるといいます。

DID(Decentralized Identifier)とは?

DIDは、政府や企業といった中央集権型の組織による個人情報の管理から完全に独立した個人管理のIDのこと。日本語では「分散型ID」と呼ばれる。従来の中央集権的なIDの管理ではなく、ブロックチェーンなどの技術によってデータを分散化するため、特定の管理者が存在しない。したがって、個人が自身のIDを自分自身でコントロールし、必要な情報だけを必要な範囲で共有することができる。

パブリックチェーンではなく当局が介入可能なチェーン上に構築されているため、プライバシーの観点から国外からは厳しい批判の声も挙がっていますが、立ち上げに関わっているBSN(ブロックチェーンサービスネットワーク)は「ユーザー自身によるデジタルIDや個人情報のコントロールが目的」とのコメント。中国国民はこのアドレスを使用することで、各種ウェブサイトに匿名で登録・ログインできるようになる模様です。

また、自治体レベルではすでにブロックチェーンが市政サービスに導入されているケースもあります。Ping An Insurance(中国平安保険)では、深セン市政府とのパートナーシップのもと、2019年1月からiShenzhenアプリを導入し、7000以上の市政サービスを提供しています。このアプリでは、ブロックチェーン上に電子身分証明書を記録し、各種QRを発行することで、様々な業務を効率化します。窓口での申請では平均1〜2時間かかっていましたが、アプリ上であれば20分未満で完了できます。

これらの取り組みは、行政組織がブロックチェーンを活用してサービスの効率化や透明性の向上を図るために展開しているものであり、その動きは徐々に拡大しつつあります。ブロックチェーンの活用により、中国の公共事業はより効率的で透明性の高いサービスを提供することが可能となり、国家全体の発展に寄与しています。

2023年5月には「国家ブロックチェーン技術革新センター」が設立され、50万人規模のブロックチェーン専門家の育成という一大国家プロジェクトがスタートしています。今後も公共事業における政府のブロックチェーン推進は加速していくことでしょう。

中国、国立ブロックチェーン研究所設立で50万人の専門家育成を計画

NFT(Non-Fungible Token)

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中国NFT市場は、政府によって暗号資産が規制されているにも関わらず、その市場規模を急速に拡大させています。

NFT(Non-Fungible Token)とは?

NFTは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのこと。日本語では「非代替性トークン」と呼ばれる。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに固有の価値を保証している。

実際に、中国国内のNFTマーケットプレイス(NFT取引所)は2022年2月の時点で100あまりしか存在していませんでしたが、同年6月にはその数が500を突破し、たった4ヶ月で5倍にまで増加したことが現地メディアにより報じられています。

中国のNFT市場がここまで急速に拡大した要因としては、同国内におけるNFTへの関心の高まりと、テンセントやアリババといった中国の巨大テック企業の本格的な参入があげられます。 実際に、2021年6月にアリババグループのAlipayが決済QRコードの背景になる(いわゆる着せ替え)1.6万個の限定版 NFTを販売すると、発売後数秒以内に完売しました。

このようにNFTへの関心や需要が高まる一方で、中国のNFT市場は他のNFT市場とは異なる独特の特徴を持っています。たとえば、中国国内のほとんどのNFT販売プラットフォームでは無償であってもNFTの譲渡はできず、同様に購入者は、二次流通または二次的著作物の作成を許可されていません

NFTには大元の持ち主が誰なのかという情報に加え、NFTが転売された際に大元の持ち主に何%還元されるのかという情報を記録させることができます。この仕組みによって、音楽やスポーツといった様々な分野における転売収益の確保が可能になると注目を集めているのですが、中国のNFTにはこれが適用されません。

また、暗号資産への規制が厳しい中国でのNFT取引で使える決済手段は、法定通貨である人民元のみとなっています。

こうした各種規制を受けてNFTに関わる個人や企業は、厳しい監視の目を向ける中国政府との直接的な対立を避けるために慎重なアプローチを取っています。NFTを取り扱う中国のテック大手企業の多くが、当局の規制に配慮して「NFT」ではなく「デジタルコレクティブル(数字収蔵品)」という言葉を使用して世界の仮想通貨市場との区別を図っているのもその一環でしょう。

まとめ:中国のブロックチェーンは今もなお姿を変えつつある

本記事では中国におけるブロックチェーンの現在地について解説してきました。今まで見てきたように、中国では政府がブロックチェーンを革新的な技術として位置づけて推進しながらも、様々な法規制によって独自の経済圏が構築されています。

しかしそんな中国でも近年、ブロックチェーンへのアプローチに変化が見られています。なかでも、2024年4月に中国政府が発表した「一帯一路構想のための超大規模ブロックチェーンインフラストラクチャープラットフォーム」はWeb3.0界隈に大きな衝撃を与えました。というのも、このプラットフォームではパブリックチェーンでの開発を前提に研究が進められていくと開発元のConflux Networkが明かしているからです。

中国政府、コンフラックスとパブリック・ブロックチェーン・プラットフォームを立ち上げ | Cointelegraph | コインテレグラフ ジャパン

仮にこの構想が実現すれば、複数の国家間で複数のテーマを取り扱うことができるようになるだけではなく、今までプライベートチェーンを用いることで発生していたデータ主権データセキュリティといった様々な弊害もすべてクリアになります。しかし同時に、中央集権的な管理体制からの移行を意味するものでもあり、これは単なる次世代プラットフォームの開発以上の価値を持つでしょう。

またNFTについても、2023年10月に中国共産党の機関紙「China Daily」が独自のメタバースとNFTプラットフォームを作成する計画を発表しました。この発表においても、OpenSeaやRaribleといった国外の主流NFTプラットフォームとの連携が予定されており、一定の条件下であれば二次流通も可能になるのではないかと見られています。

このように、中国ではこれまでの鉄の掟ともいうべき絶対的なルールが姿を変えつつあります。プロジェクトの詳細が語られることが少なく、なかなか情報も入ってきにくい中国のブロックチェーン業界ですが、大きな転換期の真っ只中にいることは間違いありません。今後もその動向を注意深く見守る必要があるでしょう。

「VCs(Verifiable Credentials)」を理解しよう!デジタル世界でのアイデンティティ証明について徹底解説!

2000年代初頭からインターネットが急速に普及し、現在ではGAFAなどの巨大テック企業が社会の中心に位置しています。しかし、これに伴って企業が個人情報を管理することに関する懸念も浮上しています。

今回紹介する「VCs」は、そんな時代において自分のアイデンティティを自分でコントロールする社会を実現するうえで欠かすことができない概念です。また、VCsとセットにして「DID」や「ゼロ知識証明」といった概念もよく登場してきますが、こちらもインターネットの巨人たちに対する対抗策を語るうえで避けては通れない重要な概念です。

本記事では、そんなインターネットにおける個人の主権を強化する概念についてわかりやすく解説しています。ぜひ最後までご覧ください。

  1. VCs=デジタル上で個人情報を検証する仕組み
  2. VCsの仕組み
  3. VCsの要素技術
  4. VCsを実現するうえでの課題
  5. VCsの活用事例
  6. まとめ

VCs=デジタル上で個人情報を検証する仕組み

出典:shutterstock

VCsとは「Verifiable Credentials」の略であり、日本語では「検証可能な資格証明」と訳されます。具体的には、個人が所有できるデジタル上の証明書でありながら、その正当性については信頼できる第三者機関によって検証される仕組みを指します。

ここでいうデジタルな証明書とは、年齢、名前、住所といった個人情報に限ったものだけではなく、

  • 運転免許証
  • 学位証
  • 受賞歴
  • 職歴
  • 学習履歴
  • 出生証明書

など、現在は私たちが紙などで物理的に所有していたり、証明が難しい様々な情報についても記録することができます。

VCsを活用することにより、不透明な情報の可視化や真偽の疑わしい情報を公正に検証することが可能になり、デジタル上で個人情報を様々なサービスで利用できます。

例えば、企業が人材採用を行う際に、応募者の職歴欄に「Google」と書いてあっても、その情報を書き込んだ本人の証言しかないのであればイマイチ信憑性には欠けてしまいます。職歴証明書という制度もありますが、現行の労働基準法では退職してから2年を超えている場合には、企業が職歴証明書を発行する義務はなくなります。したがって、前職よりもさらに前の職歴を証明するのは現実問題としてなかなか難しいでしょう。

しかし、VCsによってそういった個人のIDとGoogle社の過去の社員情報を即時に検証できる仕組みがあれば、企業側は安心して人材採用を行えますし、応募者はそのキャリアを正当に評価してもらうことができます。

こうした可視化できない個人情報を証明する仕組みは、企業だけでなく行政や医療機関なども注目しており、VCsに関する取り組みは今後さらに活発になっていくものと考えられます。

VCsの仕組み

続いて、簡単にVCsの技術的な仕組みについて説明します。ここでは、個々の資格証明の流れについて見ていくため、複数形ではなくVCと略すことにします。VCは、次の4要素で構成されています。

発行者(issuer):VCを発行する者
保有者(holder):VCを発行者から取得し、保有・利用する者
検証者(verifier):保有者が提示したVCが信頼できるものであるかを検証する者
レジストリ(Registry):分散型台帳やブロックチェーンといった各種データベース

verifiable credentialsの仕組み
出典:LasTrust

VCはまず発行者によって発行がなされます。この発行者は、運転免許証であれば都道府県公安委員会、学歴証明書であれば国立大学法人や学校法人、健康診断結果であれば医療機関などが該当します。発行時には暗号技術の仕組みを利用してVCにデジタル署名を付与し、復号に必要な鍵(公開鍵)は改ざんができない仕組みを持つレジストリに登録します。

次に、保有者は発行者から受け取ったVCをデジタルウォレットと呼ばれる保管場所に格納し、必要に応じて利用します。利用の際には、VCをそのまま検証者に提示するのではなく、VP(Verifiable Presentation)という提示用のフォーマットに変換したものを提示します。

検証者は、レジストリに登録されている発行者の公開鍵を使ってVPを検証し、デジタル証明書の信頼性を確認します。そして、その検証結果に応じてサービスの提供の可否を判断したり、提供プランを変更したりすることができます。

VCsの要素技術

VCsはあくまで、認証の仕組みにすぎません。この仕組みを確立するうえでは様々な技術や概念が深くシステムに関係しています。しかし、これらの技術はWeb3.0時代の新たな技術でもあり、従来のデータシステムでは聞き馴染みのない用語も出てきます。

そこでここからは、VCsを実現するうえで欠かせない以下のVCsの要素技術について説明していきます。

  • ブロックチェーン
  • 公開鍵暗号方式
  • DID
  • ゼロ知識証明

ブロックチェーン

出典:shutterstock

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています。

また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

公開鍵暗号方式

ブロックチェーン技術では、情報を分散して保有することで非中央集権の仕組みを実現していると説明しましたが、そうなると「個人情報も様々な人に筒抜けなのではないか?」という疑問が浮かぶ方もいらっしゃるかと思います。

そんな疑問を払拭してくれるのがこの「秘密鍵」と「公開鍵」によって構成される公開鍵暗号方式です。公開鍵暗号方式とは、情報を通信する際に、送信者が誰でも利用可能な公開鍵を使用して暗号化を行い、受信者が秘密鍵を用いて暗号化されたデータを復号化するという手法を指します。

秘密鍵は特定のユーザーのみが保有する鍵で、この秘密鍵から公開鍵を生成することは可能です。しかし、公開鍵から秘密鍵を特定することは現実的には不可能です。公開鍵で暗号化されたデータは対応する秘密鍵でしか復号化できないため、秘密鍵さえ厳重に管理していれば、データの保護と情報漏洩の防止が可能となります。

出典:サイバーセキュリティ情報局「キーワード事典」

流れとしては以下の通りです。

  1. 受信者が公開鍵を送信者に公開
  2. 送信者は受信者の公開鍵を使用してデータを暗号化
  3. 受信者は自分の秘密鍵を使用して暗号化されたデータを復号化

したがって、データを分散して管理していようと秘密鍵の持ち主以外からするとただの暗号文に過ぎず、内容を読み解くことは事実上不可能といえます。この仕組みは、個人情報を扱うVCsにとって非常に重要な概念であるでしょう。

DID

DID(Decentralized Identifier)とは、政府や企業といった中央集権型の組織による個人情報の管理から完全に独立した個人管理のIDのことです。日本語では「分散型ID」と呼ばれます。

従来の個人情報管理では、個人のデータは行政機関や企業によって一括的に収集され、管理されていました。例えば、行政機関は国民の身元を確認するためにマイナンバー制度を導入し、個人の税務情報や社会保障情報などを管理しています。同様に、GoogleやAppleを筆頭とする大手テック企業(いわゆるGAFA)では膨大な量の個人データを収集し、その情報をビッグデータ分析やターゲティング広告などの目的に利用して市場における絶対的な優位性を築いています。

一方で、近年になってこうした中央集権的な個人情報の管理についてはおもに2つの観点からその危険性が指摘されるようになっています。1つ目の観点はデータのセキュリティリスクです。ビッグデータ時代と呼ばれるように情報そのものが貴重な価値を有するようになった現代では、個人情報データがサイバー攻撃の標的となる可能性があります。

もちろんこうした公的機関や企業では個人情報の管理を徹底していますが、それでも巨大なデータベースでの情報管理ではハッキングのリスクも大きくなってしまうのが現状です。事実、毎年のように大手企業での情報漏えいが問題となっています。

2つ目の観点は個人の自由とコントロールの喪失です。中央集権的なプラットフォームに依存することで、個人は自らの個人情報やアイデンティティに対するコントロールを失う可能性があります。このまま一定の組織が強大な権力を持ち続ける構図が続くと、権力を乱用してクラウド上の個人情報や企業情報を検閲する組織が現れる可能性があります。むしろ世界の歴史を振り返ると、こうなっていくのが自然な流れなのかもしれません。

この観点については、X(旧Twitter)でユーザーID「@X」を使っていた男性が無断でユーザー名を変更された事件を思い出していただけると理解しやすいかと思います。

「@X」のユーザーID、元の持ち主から一方的に取り上げていたと判明 英テレグラフなど報じる – ITmedia NEWS

SNSにおけるハンドル名は、現実世界の戸籍のようなもので、インターネット空間上のアイデンティティを識別する重要な識別子です。Twitter社の社名変更に伴って発生したイレギュラーな事案であるとはいえ、長らく使用してきた個人の属性を勝手に変更するというのはプライバシー侵害や越権行為であるという見方もできるでしょう。

こうした現状を受けて、「データ所有者が自分のデータを制御および管理する権利」である「データ主権」の概念や「個人のアイデンティティ情報は、個人がデータ主権を有するべきである」という「自己主権型アイデンティティ(SSI:Self-Sovereign Identity)」の考え方が提唱され始めています。

DIDは、SSIを実現するための技術の1つであり、従来の管理形態に関する問題を解決するために誕生した「自己主権型のID」です。従来の中央集権的なIDの管理ではなく、ブロックチェーンなどの技術によってデータを分散化するため、特定の管理者が存在しません。

したがって、個人が自身のIDを自分自身でコントロールし、必要な情報だけを必要な範囲で共有することができます。VCsでは、「保有者」という概念が出てきたかと思いますが、これはまさに個人がデータ主権を有している前提に立っていることを象徴しています。

出典:検証可能な資格情報 (VCs: Verifiable Credentials) (前編)

なお、上の図ではDIDs(Decentralized Identifiers)という言葉が使用されていますが、これは分散型システム上に登録される個々の識別子のことを指します。デジタル上で個人を特定するための個々の情報を表現しているため、DIDsはDIDを形成する要素であるともいえるでしょう。

分散型IDと分散型識別子はどちらもDIDと略されることがあるため、混同を避けるために分散型識別子をDecentralized Identifiersとし、DIDsと表記するのが一般的になりつつあります。

ゼロ知識証明

最後にゼロ知識証明(ZKP:Zero Knowledge Proof)についても説明します。ゼロ知識証明自体はVCsに必要不可欠というわけではなく、それぞれ独立しているものの、両方を使うことでより効果的にVCsが実現できます。

ゼロ知識証明は、個人が特定の情報を持っていることを証明する際に、その情報自体を露呈せずに証明する手法です。これにより、プライバシーを保護しながらも、必要な情報の提供を可能にします。

この概念を理解する際に役立つのが、ジャン=ジャック・キスケータらの論文「我が子にゼロ知識証明をどう教えるか(How to Explain Zero-Knowledge Protocols to Your Children)」で紹介されている「アリババの洞窟」です。

出典:Wikipedia

アリババの洞窟にはAとBの2つ道がある。太郎さんは洞窟の中にある秘密の抜け道を通るための合言葉を花子さんから教えてもらいたい。花子さんはこの合言葉を1万円で売ってくれると言っているものの、太郎さんは花子さんが本当に合言葉を知っていると確信するまでは支払うつもりはなく、花子さんも、太郎さんがお金を支払うまではそれを共有しない。

この両者硬直の状態を解決して取引を確実なものとするためには次のような証明手順を踏めば良い。 太郎さんは洞窟の外で待っている。花子さんはAかBどちらかの道で洞窟の奥へと進む(このときVictorにはPeggyがどちらを選択したかは見られない)。太郎さんは洞窟に入り、分岐点でAかBどちらかの道から戻ってくるよう花子さんに指示する。花子さんは太郎さんに言われた方の道から分岐点に戻る。1〜3を繰り返す。

この証明方法では、数回だけでは花子さんの運が良ければ推測が当たっただけの可能性もありますが、何度でも戻ってくることができるのであれば、花子さんが本当に暗号を知っている可能性は高まります。例えば、20回試行した後、花子さんが運だけで太郎さんの選んだ道から戻ってこられる確率は100万分の 1 未満となり、これは確率的な証拠となります。

ゼロ知識証明ではこうした仕組みによって、証明者は検証者にわずかな情報しか与えずにある命題を証明することができるというわけです。

なお、ゼロ知識証明には、検証者が証明者から受け取った情報をどのように検証するかによって、対話型ゼロ知識証明非対話型ゼロ知識証明の2種類があります(各分類はブロックチェーンを活用する上でも知っておいて損にはならないものなのですが、そこまで説明すると長くなってしまうので割愛します)。

では、ゼロ知識証明はどういった場面で必要になるのでしょうか?例えば、20代前半の頃を思い出してみてください。コンビニでお酒を買おうとすると、20歳以上であることを証明するための身分証を提示するよう求められたのではないでしょうか?

「若く見えるってことね」というポジティブな方も中にはいらっしゃるかと思いますが、身分証には生年月日以外にも氏名や証明写真、住所といった重要な個人情報が記載されています。この情報を提示するということは免許証に記載された個人情報が漏洩するリスクに直結します。また、物理的な証明証を所持することで紛失や盗難のリスクも発生します。

一方で、現在のコンビニで主流となっている「年齢確認ボタン」はいわゆる自己申告制のシステムであり、本当は未成年なのにも関わらず酒類を購入することができてしまいます。

ゼロ知識証明を活用すれば、この両者のデメリットを解決できます。販売店としては20歳かどうかだけを確認できればよいので、レジストリに登録されている生年月日から「購入希望者が購入時点で20歳以上である」という客観的な事実のみをデジタル上で検証します。したがって、購入希望者は生年月日さえも一切提示することなく、年齢の(基準を満たしているという)証明ができます。

わかりやすく酒類の販売にフォーカスしながら説明しましたが、この仕組みは医療データや金融取引、マーケティングといったより機密性の高い個人情報を保護しながら、その仕組みを利便化することにも応用できます。「VCsによって提示するデータを個人が選択しながら、ゼロ知識証明でさらにその情報さえも直接相手には開示せずに活用することが可能になる」というふうにイメージしてもらえると良いでしょう。

VCsを実現するうえでの課題

出典:shutterstock

発行者を拡充する

VCsを利用するためには、証明書情報の発行者が必要です。現在、発行に必要なアイデンティティ情報を大量に保有しているのは一部の企業や行政機関のみです。したがって、これらの組織が積極的に参入してくることがVCs普及の前提となってきます。

発行者の拡充によって様々な種類の証明書が提供されるようになると、今度は利用者のニーズに応じたサービスが提供されるようになるという好循環が生まれてくるでしょう。今はまだ充分に発行スキームが整備されている状態ではありませんが、一部の先進的な企業では実証実験を開始しているところもあり、徐々にそのレールが敷かれつつあります。

グローバルな相互運用性の確保

VCsで扱われる情報は、国外でも必要になってくる情報がほとんどです。また、パスポートなどを想像するとわかりやすいかと思いますが、こうした個人情報は外国滞在中に事件に巻き込まれた場合や怪我をした場合など、トラブルの際に必要不可欠の情報です。言葉の異なる海外において自分が何者であるかを具体的に証明できることは、生命線ともいえるでしょう。

したがって、国内でVCsに関する取り組みを進めていく際には、国際的なデータモデルに適応する必要があります。ガラパコスな制度となってしまわないように、将来的な国際標準化にも対応できるような柔軟な設計が求められます。

利用者の使いやすさと普及促進

VCsの利用が広がるためには、利用者が使いやすいシステムであることが不可欠です。当然ながら使いやすいインターフェースやユーザーエクスペリエンスの向上が求められます。また、VCsの普及には教育と啓発が欠かせず、利用者や関係者への積極的な情報提供とティーチングが必要です。

マイナンバーという国が推進する政策ですら、「情報流出が怖い」という理由や「申請が面倒」という理由によって普及までに多くの時間を費やしました。VCsは仕組みもさらに複雑であるために、利用者がVCsを利用するメリットや活用方法をしっかりと理解できるように、積極的にPRしていくことが重要になるでしょう。

VCsの活用事例

 sakazuki

出典:PR TIMES

株式会社PitPaでは、同社のキャリア支援サービス「sakazuki」上で、学歴・学修歴・インターンシップでの実績などのキャリアに関するデータが学生個人に紐づく仕組みを実現しています。これにより、どのような過去の経験がキャリア選択に影響しているのかといった「学生の努力と成長のストーリー」が可視化されます。

一例として、千葉工業大学と共同で講義における成績データや取組の成果を「キャリア証明書」として可視化するというVCsの取り組みを行っています。本取り組みでは、参画したセプテーニ・インキュベート社のインターンシップでの実績や担当者からのフィードバックの記録も行いました。

実際にこの取り組みに参加した学生は、キャリア証明書を活用して他企業からの内定を獲得しており、新卒採用を行う企業にとっても、大学やインターン企業からの「お墨付き」は選考時においても良い判断材料となったようです。

同社は「PitPaは産学官との連携を一層強化し、教育機関と企業間の人材データの透明性担保と循環を促すことで、インターンシップのマッチング等を通じて学生の新たなキャリア形成機会を創出します。」としており、キャリア証明書によって学生、教育機関、企業の三者にメリットがもたらされることで、過去の成績や学修履歴を第三者によって証明できるだけでなく、学生が自らのキャリアをより主体的に選択できるという就職活動のパラダイムシフトも促進するでしょう。

また、同社では他にもLIFULL Tech Vietnam社やNTT社、アッドラスト社やXtraveler社など様々な企業に提供し、キャリア証明書の発行を行っています。近い将来、あなたの働く職場でも「sakazuki」でキャリア証明が出来る日も近いかもしれませんね。

新型コロナワクチン接種証明書アプリ

出典:Google Play「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」

2021年12月にデジタル庁から公開された新型コロナワクチン接種証明書アプリもVCsの一種と捉えることができるでしょう。ニュースなどでも大々的に報道されていたため、実際に使用したことがあるという方も多いのではないでしょうか。

このアプリは、「SMART Health Card(SHC)」と呼ばれる健康証明書用の規格を採用しています。SHCという規格はMicrosoft、Amazon Web Services、Oracle、Salesforceといった名だたる企業が参加しているイニシアチブである「Vaccination Credential Initiative(VCI)」が推奨するフォーマットであるため、国内向けだけでなく、海外向けに対応した形式の証明書を発行することができます。

SHC自体はすでにカナダでは正式採用されており、アメリカにおいてもワクチン接種記録のデジタル証明書のデファクト・スタンダードとなるなど国外で普及し始めているデジタル証明書の認証基準です。元々、日本政府の発行する証明書はパスポート同様、他国からはそれなりに信頼されてはいますが、SHCを採用することで、デジタル上においてもその信頼性が担保された接種証明書となりました。

アプリ自体は国内外で接種証明書が必要な状況が少なくなったになったことから、2024年3月31日をもってサービスの提供は終了しているものの、累計アプリダウンロード数は約1,566万回(2024年2月20日時点)と、国内のVCsの事例としては最も大規模に行われた事例といえるでしょう。

My DID

出典:Digital Platformer

Digital Platformer株式会社は、大阪府豊能町において分散型IDを活用した「MyDID」という先進的なサービスを提供しています。これは日本においては初となるブロックチェーン技術を採用したDIDの事例です。

MyDIDは「とよのんウォレット」と呼ばれる町内でデジタル地域通貨やプレミアム付き商品券の取引・管理ができるアプリと連携することでスムーズな購入と、個人によるデジタルアイデンティティの管理を行うことが出来ます。また、「とよのんコンシェルジュ」という地域経済活性化サービスでは、MyDIDを利用することで、地域通貨の導入や地域イベントへの参加が促進され、地域コミュニティの活性化に貢献しています。

同社は、デジタル先進国であるエストニアの電子データ共有システム「X-Road」をモデルにMyDIDを活用した先進的なサービスを提供し、豊能町のスマートシティ構築に貢献しています。現在はDIDのみの提供にとどまっていますが、将来的には様々な企業で発行しているID/Passの統合というVCs的な構想も発表しており、新たなVCs事例になる可能性もあります。今後のサービス展開からも目が離せません。

まとめ

本記事では、VCsの基本的な仕組みや活用事例、周辺知識を解説しました。完全なデータの自己主権が実現するにはまだまだ解決すべき課題もあるため、数年でVCsが一般的な認知を獲得していくのは難しいでしょう。

一方で国内外でVCsを活用したプロジェクト事例は増えており、技術の進歩とともにそのユースケースや参入企業も多様化していくことでしょう。今はまだ開発段階の技術ですが、今後のさらなる実用化に期待しましょう。

トレードログ株式会社では、本記事でも取り上げたブロックチェーンに関するサービスを展開しております。非金融分野におけるブロックチェーンシステムの開発・運用や、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

最近よく聞く「トークン」って何?意味や種類、暗号資産との違いについて解説します!

暗号資産に関連してよく耳にする言葉に「トークン」があります。トークンという言葉自体は暗号資産やWeb3.0の世界以外でも使われており、様々な意味合いを持っています。しかし、改めてトークンとはなにかを説明しようとするとうまく言葉で整理できない人も多いようです。

今回は「トークンとはそもそも何なのか?」をテーマに、その定義から注意点、混合しやすいキーワードとの違いや複雑な分類まで一気に解説します。ぜひ最後までご覧ください。

  1. トークンとは?
  2. ブロックチェーンとは?
  3. コインとトークンは何が違う?
  4. トークンの様々な種類
  5. トークンを活用したビジネスをするうえで気をつけるべき点
  6. まとめ:トークン設計はブロックチェーンのプロにお任せしよう

トークンとは?

トークン=取引の証拠

まずはトークン(token)の言語的な意味から紐解いていきましょう。語源辞典であるEtymonlineによると、tokenは本来、「しるし」「証拠」を意味する単語でした。しかし、これは一体なにを指し示す「証拠」のことなのでしょうか?

トークンが生まれたとされる紀元前8,000年頃よりもさらに前、紀元前9,000年頃、人類は大きな転換期を迎えます。定住せずに狩りや採集といった行動によって食料を得てその日食べられるだけ食べるという獲得経済から、農耕や牧畜を主とする生産経済への移行を始めたのです。

食料がある程度備蓄できるようになると、人々は牛などの家畜を通貨の代わりとして使い出すようになります。しかし、こうした家畜は通貨として持ち運ぶにはとても不便ですし、死んでしまうと価値がゼロになってしまいます。

そこでメソポタミア文明では、円盤状をした小さな粘土の塊に取引内容を記録して生活を営むことにしました。この小さな粘土から作られた小さな陶器が最古のトークンといわれています。記録したい取引の内容に対応させてトークンの所持することで、そのアイテムを実質いくつ所持しているのかを可視化できるという仕組みです。

▼トークン研究第一人者であるデニス・シュマント=ベッセラ(Denise Schmandt-Besserat)の著書『How writing came about』の表紙には、世界最古のトークンが描かれている。(出典:University of Texas Press

つまりトークンとは、「取引の証拠」として発達してきた存在だといえます。その過程で貨幣や紙幣が誕生し、モノが金銭によって取引されるようになると、商品券や映画・イベントの入場チケット、カジノのチップやパチンコ玉など、前払いの証明や流通性・利便性の向上のために様々なシーンでトークンが使用されるようになります。

現代ではトークンという言葉が、プログラミング分野(「最小単位」という意味のトークン)やITセキュリティ分野(「ワンタイムパスワード」としての認証トークン)などでも使用されるようになり、その都度、「トークン」という言葉が表す意味は異なってきます。原義のニュアンスを踏まえつつも、個別のサービスに応じた柔軟な解釈が必要でしょう。

暗号資産の世界におけるトークン

暗号資産の世界では、既存のブロックチェーン技術を利用して新たに発行された暗号資産のことをトークンと呼びます。これらは、ビットコインやイーサリアムといった既存ブロックチェーンのシステムを間借りして発行されており、独自のブロックチェーンを持ちません。例えるなら、企業が独自に発行しているポイントに近いものです。

トークン自体は自由に売買することができ、決済に使用するだけでなく現実世界の資産やゲーム内の仮想アイテムなど、多くの実用性を兼ね備えています。ここ最近、「トークン」という言葉をよく耳にするようになった背景としては、この暗号資産やブロックチェーンの存在が大きな要因といえるでしょう。

従来のトークンは第三者による改ざんが重大な弱点であり、コピーガードやOPニス、擬似エンポスといった対策が取られてきました。しかし、それでもなお物理的な形を要するギフトカード等は偽造品による被害が相次いでおり、その公平性が保たれにくいという課題がありました。

「JCBギフトカード」の偽造券発覚について

しかし、耐改ざん性や透明性といった性質を兼ね備えるブロックチェーン技術によって発行されたトークンではこういった不正行為は極めて困難であり、活用用途も幅広いものとなっています。ここからは暗号資産の基幹技術であるブロックチェーンについて簡単に説明します。

ブロックチェーンとは?

出典:shutterstock

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています。

また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

コインとトークンは何が違う?

コインとトークンは一般的には、どちらも暗号資産という言葉でまとめられることが多いですが、実際には両者の間には明確な違いがあります。 ここではもう少し掘り下げてみましょう。

出典:Ledger「コインとトークンの違い」

前述の通り、トークンとは既存の暗号資産プラットフォームを間借りする形で発行された暗号資産を指します。一方、コインとは専用のブロックチェーンを使って発行されたものを指します。代表的な仮想通貨であるビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)は、それぞれ独自のブロックチェーンを使って発行されています。コインはトークンと比較して「ネイティブトークン」とも呼ばれます。

コインとトークンの大きな違いは、コインがカレンシータイプの暗号資産であることに対し、トークンはアセットタイプの暗号資産であるという点です。カレンシータイプであるコインは、発行者が存在せず、上限枚数が存在します。発行数にキャパシティが設けられているということは、コインが市場に出回り過ぎて希少価値が薄れる可能性も低く、価値が安定しているということです。

こうした側面から暗号資産は別名の「仮想通貨」の名の通り、インターネット上のボーダーレスな法定通貨として人気を博することになります。特定の国家や銀行に依存しないうえに、従来の国際送金と比べても迅速かつ低コストで「いつでも」「どこでも」「だれでも」自由に送金できる仕組みがコインの特徴です。

対してトークンは、あるアプリケーションの中で決済に使用されたり、特定の権利を代替したり、消費を目的としたりなど、エコシステムに実用性を与える存在です。コインとは異なり、トークンは単に価値の保有や交換だけでなく、分散型議決権、NFTのようなデジタル収集品、あるいは米ドルのような現実世界の資産をブロックチェーンベースで表現するなど、幅広い用途で利用されています。

また、コインはそれぞれ独立したチェーンを持っているが故に取引所を通じてコイン同士を交換する必要がありますが、トークンは同じエコシステムのチェーンであればUniswap(ユニスワップ)などのDEX(分散型取引所)を通じて簡単に交換することができます。実際に、Ethereumを利用して運用されているブロックチェーンでは、数あるERC-20トークンや多くのNFTがサポートされています。

トークンの様々な種類

暗号資産の世界におけるトークンには、その目的によって様々な呼称がついています。ここからは、数あるトークンの種類とその特徴について簡単に説明していきます。

ただし、すべてのトークンが定義通りの役割を持っていたり、どれか一つの種類だけに分類されるわけではなく、文脈や状況に応じてトークンという言葉が意味するものが異なる場合があるので、その点は注意しましょう。

RWA(Real World Asset)トークン

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RWA(Real World Asse)とは、日本語で「現実資産」と表現され、株式や債券、不動産、コモディティなどの現実世界に物理的に存在する資産のことを指します。RWAトークンとは、こうした現実資産をトークン化したものであり、資産をデジタル化することによって、売買を活発に行ったり、安全に取引ができるようになります。

紐づく対象は多岐にわたり、上記のようないかにも「資産」というイメージの強いものもあれば、トレーディングカードやスニーカー、ワインや日本酒といった従来では「コレクターズアイテム」に過ぎなかったものでもトークン化することが可能です。伝統的な金融システムでは取り扱うことが難しい投資対象であっても、トークンとして扱うことができる点は大きな利点でしょう。

また、RWAトークンは将来的な現実資産にも適用可能です。予約販売されるような商品やサービス利用権を事前に販売することで、企業側は事前にキャッシュを得ることができます。そのため、今後RWAトークンを活用した資金調達や資金運用が活発になっていくのではないかと大きな注目を集めています。

ユーティリティトークン

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ユーティリティトークンは、トークンそれ自体は金銭的価値をもたず、具体的な他のアセットと交換することによって初めて資産性が生まれるトークンです。

例えば、ロックミュージシャンのコンサートチケットもユーティリティトークンの一つです。というのも、このチケットが価値を持つのは、チケットを使うことで生の演奏を聞くことができると約束されているからです。したがって、コンサート開催日の翌日以降であったり、そのミュージシャンを知らない人間しかいない地域であったりすると、そのチケットには1円の価値もなくなります。

また、別の例で言えば、JRの切符を西武鉄道で使っても意味がないのと同じ話です。このようにユーティリティトークンは、他のアセットとの交換可能性を金銭的価値に変えられるトークンであることから、次のような特徴をもちます。

  • 閉じられた(=一部の人間に限定された)コミュニティや地域などで効果を発揮しやすい
  • トークン自体は物質的価値をもたなくてもよい
  • 交換対象となるアセットの価値を定量化できる

こうした諸特徴は、既存のビジネスに活用するうえで非常に使い勝手が良いため、ユーティリティトークンはブロックチェーンの技術とともに様々な領域で活用され始めています。

また、RWAトークンとユーティリティトークンはしばし似たようなニュアンスを持ちますが、RWAトークンが現実の資産に紐づいて価値の裏付けがあるのに対して、ユーティリティトークンは、単にサービスやコミュニティへのアクセス権に過ぎず、価値の裏付けはありません

セキュリティトークン

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セキュリティートークンは、従来の有価証券をブロックチェーン技術を用いて電子化(トークン化)したものです。ここでの「セキュリティ」は一般的に使われる「安全性」という意味ではなく、「証券」という意味です。

セキュリティトークンは有価証券と同様、資金調達の一環として発行されることが多いですが、ブロックチェーンを活用することにより、デジタル上でのデータの安全性を担保したうえで24時間いつでも取引が可能になっています。まさに、透明性と利便性を兼ね備えた新たな資金調達法といえるでしょう。

セキュリティトークンを利用した資金調達法では、法制面での整備も追いついています。セキュリティトークンは証券会社を通して購入することになりますが、発行企業も各国の金融商品取引法に準拠したトークンを発行する必要があるため、投資家も安心して投資をおこなうことが可能です。

コインを利用した資金調達法のICO(イニシャル・コイン・オファリング)ではスキャム(詐欺)が横行しましたが、クリーンな市場整備が進んでいるSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)ではこうした問題は起こりにくい仕組みとなっています。

STOについては詳しくは以下の記事でも解説しています。

ガバナンストークン

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ガバナンストークンとは、投票権のついているトークンのことです。トークンの保有者は、DAO(分散型自律組織)DApps(分散型アプリ)などの開発・運営に関わる意思決定に参加することができます。つまり、これら分散的なシステムにおける運営方針はガバナンストークンのホルダーによって決まるということです。

従来型のガバナンスモデルでは、原則的にはトップダウン方式を採用し、個々のメンバーの考え方が一致しなかったとしても、十分な報酬を支払って雇用関係を維持することで組織運営を継続していきます。

一方、分散型のガバナンスモデルでは特定の主体がプロジェクトの意思決定権を持ちません。ガバナンストークン保有量に準じ、一種の「民主主義」としてプロジェクトの意思決定を行うことにより、常にメンバーたちにとっての最適解を導き出すことができます。

結果として、プロジェクトに対して熱意のあるメンバーはより多くのガバナンストークンを取得することで発言権を増やすこともでき、こうした循環によりコミュニティの結束力が向上するという仕組みです。

また、ガバナンストークンはプロジェクトに必要となる資金調達としての役割を兼ねていることもあります。発行上限が設定されているガバナンストークンは一定の希少性を持つため、多くのガバナンストークンが発行上限を設定しています。

とはいえ、セキュリティトークンのように資金調達を全面に出しているわけではなく、主目的はあくまでガバナンスです。そのため、プロジェクトによっては保有インセンティブを設けるなどして、保有者に長期保有を促しているものもあります

DAOについては詳しくは以下の記事で解説しています。

NFT

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NFT(Non-Fungible Token)とは、代替不可能なトークンのことです。ブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに固有の価値を保証しており、現在ではアートやブロックチェーンゲームにおいて主に活用されています。

簡単にいうと、NFTとは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している「証明書」が付属しているようなものです。

不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。しかし、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます。

そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。

NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、さまざまな分野で実用化が進んでいます。

NFTについては詳しくは以下の記事でも解説しています。

SBT

SBT(Soul Bound Token)とは、前述のNFTの一種であり、NFTと同様に代替性を持たないトークンですが、譲渡が不可能かつ受け取った本人以外は利用ができないトークンを指します。

出典:ProofX「【図解】 SBT (ソウルバウンドトークン)とは?NFTとの比較(共通点・違い)、用途・事例について分かりやすく解説

譲渡や売買ができないNFTであるため、トークンを投機目的で収集している人にとってはまったく意味のないNFTです。一方、SBTではNFTを応用したID系のソリューションと比較して、より強力に自身のアイデンティティや履歴を表現・証明可能です。

現在、SBTが最もマッチすると考えられている領域が、各種証明書への応用です。たとえば学生証をSBTとして発行すると、学生証の偽造や学割の悪用を防ぐことができます。悪用を排除できれば、企業や学校側がより良いサービスを提供してくれる可能性もあるでしょう。卒業後には卒業証書として活用することで、経歴詐称などを防ぐこともできます。

また、SBTは譲渡はできませんが、バーン(焼却)はできるので、一時的に個人情報と結びつけたい場合にも使用できます。たとえば借用書などをSBTとして発行した場合、借金を完済した時点でSBTをバーンすることができます。

このようにSBTは、Web3時代のデジタルIDとしての活用が期待されています。

ファントークン

出典:bitcoinsensus

ファントークンとは、ファンとブランドの関係構築を目的としたトークンです。現在、ファントークンは主にスポーツ業界で利用されており、マンチェスターシティやバルセロナFCなどの世界的に有名なスポーツチームからUFCなどのプロ格闘技団体に至るまで、数多くの団体がファントークンを活用しています。

デジタル会員証としてのトークンを所有することによって、チームや選手に対してさらに愛着が持てるようになったり、ファンコミュニティの中で「自分は正真正銘のファンだ」といった心理的な優越感を得ることができます。

また、チケットの先行抽選やユニフォームのデザイン投票への参加権など、特典付きのトークンも存在します。このようにファントークンは特別体験や特典を通じてファンとのエンゲージメントを高めていくことを可能にしてくれるのです。

さらに、ファンに対してだけではなく選手やチームにとってもメリットをもたらします。それは、コンテンツの2次流通を収益化できるという点です。

これまでのチームや選手にとっての主な収入源は、試合日のチケット代や物販、そして各種中継といったコンテンツの一次利用によるものでした。一方、あらゆるコンテンツやデータがトークンに紐付けられることで、転売による二次流通による利益がチームや選手に還元される仕組みが実現可能となります。

例えば、新人時代に書いたサインが有名になってから高値で取引されるようになると、選手自身にもその利益が還元され、活躍次第で大きな収入源となる可能性があります。同様に、優勝決定戦などのプレミア価格がついたチケットの転売利益を、チームに還元することも可能となります。

こうしたマネタイズの観点からもファントークンには多くの期待が寄せられています。

トークンを活用したビジネスをするうえで気をつけるべき点

出典:Unsplash

これまで見てきたように、同じ暗号資産であるコインとは一線を画しつつも、様々な種類ごとに多くのメリットと活用先があるトークンですが、ビジネス活用をする際には気をつけなければいけないポイントがあります。

ここからはこうしたトークンビジネスの注意点について解説します。

法整備が完全に整っているわけではない

まず第一に、法整備が整っていない点が挙げられます。セキュリティトークンは金商法の改正などが大々的に行われましたが、日本は暗号資産関連の法整備が欧米諸国に比べて全体的に遅れています

したがって、事業者側は販売資格やビジネスモデルそのものが法律に抵触しないか注意深く調査する必要があり、購入者側は、トークンの売却益などに発生する税金などについて適切な手続きをしなければなりません。

また、こうした状況も踏まえて各トークンの流通市場は慎重な姿勢をとっています。理論上は、様々なプラットフォームで売買可能なトークンであっても、マーケットの整備が追いつかずに流動性で劣っているケースも散見されます。

したがって法整備・流通市場の整備には引き続き注意しなければならないでしょう。

詐欺のイメージを払拭する必要がある

2つ目は詐欺のイメージが付きまとっている点です。トークン自体は個人であっても発行者になることができ、簡単に資金を集められる便利な資金調達法として活用できます。一方で、暗号資産が世に広まった当初、架空のプロジェクトへの投資話や「絶対に儲かる」といった詐欺プロジェクトが社会問題になり、「暗号資産(仮想通貨)=怪しい」というイメージが定着してしまいました。

現在でも個々のトークンについては一般的な知名度はあまり高くなく、まだまだ市場へ浸透しているとはいえない状況です。したがって、トークンの発行企業はホワイトペーパーを公表するなどして市場の理解を得ることが重要です。

トークンのラインナップが乏しい

3つ目はトークン商品のバリエーションが多くはないということです。NFTであればアートやゲーム、セキュリティトークンであれば不動産、ファントークンであればスポーツ業界というように、それぞれのトークンと相性の良いジャンルではすでにトークン化が行われてきました。

したがって、単純に話題作りのために類似トークンを発行したり、トークンの本質から逸れるような企画(従来のポイントで代用できる)では、成功を収めるのは至難の業でしょう。

一方で、それだけ似たようなトークンが市場に出回っているということは、斬新な仕組みを持ったトークンや、価値の安定したトークンを打ち出すことができれば大規模なマネタイズや新たなエコシステムを創出することも可能です。

トークンを活用するうえでは、法律やイメージ面と同等に、トークンそのものの設計を消費者・投資家のニーズにマッチさせる必要があるでしょう。

まとめ:トークン設計はブロックチェーンのプロにお任せしよう

本記事ではトークンについて詳しく解説しました。

今まで見てきたようにトークンにはさまざまな意味があり、一概にトークンという言葉で全てを説明できるものではありません。しかし、トークンは組み合わせ方次第で、用途や活用先が大きく広がります。将来的には仮想通貨やブロックチェーン技術を基盤にした新しい経済圏、トークンエコノミーの形成も期待できます。取引はより安く、より早く実行されるようになるでしょう。

一方で、実際にトークンを活用したサービスをローンチするとなると、法律や技術の面で多くの課題に直面することと思います。こうした際、適切なトークン設計をしないとサービス開始後に法律違反が発覚したり、システムの脆弱性が明らかになるなど大きな問題に発展しかねません。

このような事態を避けるためにも、トークン設計はクリプト界隈の事情に精通したブロックチェーンのプロの力を借りることを強くお勧めいたします。

株式会社トレードログは、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

【2024年】中国NFT(デジタルコレクティブル)市場の現状

2021年以降NFTが世界的に関心を集める中、中国でもNFTに関する話題は事欠きません。仮想通貨に対する規制の厳しい中国では、二次販売禁止・仮想通貨による決済不可という他とは違う独自のNFT市場が形成されています。

本記事では、中国での仮想通貨規制やNFTの基礎知識を解説した上で、中国NFT市場の特徴や、中国NFTのトピックスをご紹介していきます。

  1. 中国NFT市場と仮想通貨規制
  2. NFTとは?
  3. 中国のNFT取引は他国とどう違うのか
  4. 中国NFT市場のトピックス
  5. まとめ

中国NFT市場と仮想通貨規制

政府による仮想通貨規制

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2021年頃からNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)が世界的に注目を集め、有名クリエイターの参加や限定の特典が付与されたNFTの登場など、市場全体が大きな盛り上がりを見せてきました。

同時期には中国でも他国同様、NFT市場拡大の流れが起きていました。そんな最中、2021年9月に中国政府は仮想通貨の決済や取引情報の提供など、仮想通貨に関連するサービスを全面的に禁止すると発表しました

その背景には、仮想通貨の投機的な取引が中国経済に悪い影響を与えるといった考えや、中国政府が発行を計画している仮想通貨「デジタル人民元」を発行する上でのノイズを除去したり政府が全ての取引を管理する狙いがあるとされています。

仮想通貨が全面的に禁止されたことにより、その仮想通貨を基盤とするNFTへの影響も懸念されました。しかし仮想通貨の全面禁止以降、中国のNFT市場は規制と共存しつつ他の国とは違う独自の成長を遂げていくこととなります。

独自ルールのNFT市場

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2021年9月以降、仮想通貨への取り締まりは強化されましたが、NFTに関して完全には規制されておらず、仮想通貨規制を考慮した上で独自のNFT市場が形成されています。

他のNFT市場との違いについての詳細は後述しますが、決済にビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETC)といった仮想通貨ではなく法定通貨である人民元が用いられている点が大きな特徴となります。

加えて、世界に開放されているブロックチェーンではなく、中国政府が管理する閉ざされたブロックチェーンを利用しており、購入したNFTを外部(世界)の二次市場で売買することはできない点も中国NFT市場の特徴の一つです。

また、NFTを取り扱う中国のテック大手企業の多くは、当局の規制に配慮して「NFT」ではなく「デジタルコレクティブル(数字収蔵品)」という言葉を使用し、世界の仮想通貨市場との区別を図っています。

こういった点から、世界と中国ではNFTを取り巻く環境や市場そのものの構造が異なるということが見てとれますが、ここでは「中国のデジタルコレクティブル市場」を便宜的に「中国NFT市場」と呼ぶことにします。

規制の中でも急成長する中国NFT市場

中国NFT市場は、政府によって仮想通貨が規制されているにも関わらず、その市場規模を急速に拡大させています。

実際に、中国国内のNFTマーケットプレイス(NFT取引所)は2022年2月の時点で100あまりしか存在していませんでしたが、同年6月にはその数が500を突破し、たった4ヶ月で5倍にまで増加したことが現地メディアにより報じられています。

中国のNFT市場がここまで急速に拡大した要因としては、同国内におけるNFTへの関心の高まりと、テンセントやアリババといった中国の巨大テック企業の本格的な参入があげられます。 実際に、2021年6月にアリババグループのAlipayが決済QRコードの背景になる(いわゆる着せ替え)1.6万個の限定版 NFTを販売すると、発売後数秒以内に完売しました。

このようにNFTへの関心や需要が高まる一方で、NFTに関わる個人や企業は、仮想通貨に対して厳しい監視の目を向ける中国政府との直接的な対立を避けるために慎重なアプローチを取っています

たとえば、先述したように大手テック企業が「NFT」ではなく「デジタルコレクティブル(数字収蔵品)」という言葉を用いて区別するのも、当局による規制強化の可能性を回避するためだと言われています。

仮想通貨市場に対して厳しい姿勢で臨む中国政府と、規制と共存しつつ拡大を続ける中国NFT市場、という構図が出来上がっているのが現状です。こういった中国独自のNFT事情について詳しく解説する前に、次項では今一度「NFT」という技術についておさらいをしていきます。

NFTとは?

NFT=”証明書”付きのデジタルデータ

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NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに、固有の価値を保証しています。

つまり簡単にいうと、NFTとは耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している”証明書”が付属しているようなものです。

NFTでは、その華々しいデザインやアーティストの名前ばかりに着目されがちですが、NFTの本質は「唯一性の証明」にあるということです。

NFTが必要とされる理由

世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した「NFT=非代替性トークン」は文字通り後者となります。

例えば、紙幣や硬貨には代替性があり、替えが効きます。つまり、自分が持っている1万円札は他の人が持っている1万円札と全く同じ価値をもちます。一方で、人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。

不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。しかし、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます

そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。

実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。

NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。

これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、必要とされているのです。

中国のNFT取引は他国とどう違うのか

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ここからは中国におけるNFT、すなわちデジタルコレクティブルとNFTとの違いについて解説していきます。

決済通貨が人民元に絞られている

前項でも触れたとおり、NFTやそれらのエコシステムはブロックチェーンを基盤に作られています。そしてNFTを取引する際の決済では、そのNFTが所属するブロックチェーン上での基軸通貨であるビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETC)といった仮想通貨を用いるのが一般的です。

一方、仮想通貨への規制が厳しい中国でのNFT取引で使える決済手段は、法定通貨である人民元のみとなっています。表向きには、中国で人気を集めているビットコインのマイニングが環境に深刻なダメージを与えることや、仮想通貨投資の流行によって巨額の損失を抱えた投資家が急増する懸念などを理由にしています。

しかし、実際のところは「政府の管理できない仮想通貨が脅威となったから」というのが実情でしょう。国境に左右されず、規制が届かない仮想通貨の性質は、「国家管理経済」という中国政府の理念に大きく反するものです。キャピタルフライトは輸入額の増加、輸出額の減少、これらに伴う国内インフレなど様々な問題をもたらすため、なんとしても阻止しなければならないというわけです。

事実、中国では仮想通貨を用いたマネーロンダリングが爆発的に流行した時期があり、当時の逮捕者は30万人を超えるともいわれています。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/06/1000-31.php

中国政府としてはこうしたアンコントローラブルな経済を認めるわけにはいかず、NFTは人民元のみでの決済となっています。一見すると自由度の低さが目立ってしまいますが、法定通貨でのみ購入可能ということは、その分価値は安定しています。NFT自体の価値の変動以外に仮想通貨自体の変動も考慮しなければならない一般的なNFTよりも安心してコレクションすることができます。

こういった意味では「デジタルコレクティブル」というネーミングは、実際の利用シーンに即したまさにピッタリの名前といえますね。

二次売買が出来ない

NFTの一般的な活用方法の一つに「2次売買による収益化」があります。NFTには、大元の持ち主が誰なのかという情報に加え、NFTが転売された際に大元の持ち主に何%還元されるのかという情報を記録させることができます。

この仕組みによって、音楽やスポーツといった様々な分野における転売収益の確保が可能になると注目を集めているのですが、中国のNFTにはこれが適用されません。中国国内の殆どのNFT販売プラットフォームでは無償であってもNFTの譲渡はできず、同様に購入者は、二次流通または二次的著作物の作成を許可されていません。

価値が安定しているというのは中国NFTのメリットだと紹介しましたが、それは二次流通マーケットあってこそ発揮されるものです。この仕様に関しては中国NFTの普及を妨げる一因になり得るでしょう。

取引所に管理者が存在する

中国のNFTプラットフォームのほとんどには管理者が存在します。これはブロックチェーンやNFTが本来持つ「分散型」という特徴とは逆行する考え方となります。

NFT取引所を始めとするブロックチェーン関連組織の意思決定は、特定の誰かによってではなく、組織全体で行うものだという考え方が一般的です。しかし、中国のNFT市場は国が定める規制を厳格に遵守しており、それぞれのNFTプロジェクトは圧倒的に中央集権的です。

つまり中国NFT市場では、管理者がそのブロックチェーンの廃止を決定した場合、一瞬にしてすべてのデジタル資産にアクセスできなくなるといったリスクがあります

また、一般的なNFT市場は誰でも匿名で参加できるのに対して、中国のNFTマーケットプレイスではすべての参加者に実名での身分証登録を義務付けています。

KYC(Know Your Customer)ポリシーと呼ばれるこのルールは、マネーロンダリングや詐欺といった犯罪防止に役立つとされています。しかし、中央集権的な仕組みの中国NFT市場では、NFTを利用する際に登録したすべての個人情報が、政府や一企業に把握されるようになるという側面もあります。

中国NFT市場のトピックス

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政府主導で進むNFTインフラの構築

2022年1月、中国の政府関連団体は暗号通貨を使わない中国独自のNFTインフラ「中国デジタル取引プラットフォーム(CDEX)」をリリースしました。決済やガス代の支払いに仮想通貨ではなく人民元を使用することから、一般的なNFTと区別する意味で「BSN分散型デジタル証明書(BSN-DDC)」という名称がついています

BSN-DDCは、車のナンバープレートや学校の卒業証書など、証明書管理の分野で活用が見込まれています。たとえば、NFTで車両のナンバープレートの作成によって、所有者だけでなく政府や保険会社が車両データや運転履歴にアクセスできるようになります。

ここでもやはり、デジタルアートや投機的な側面がある他国のNFTとは一線を画していることがわかります。どちらかといえばSBT(ソウル・バウンド・トークン、一度取得すると譲渡や売買が不可で、ウォレットのアイデンティティを表す)に近いニュアンスです。

また、2023年10月に中国共産党の機関紙「China Daily」が、独自のメタバースとノンファンジブルトークン(NFT)プラットフォームを作成する計画を発表しました。

この発表で注目すべきなのが、OpenSeaやRaribleといった国外の主流NFTプラットフォームとの連携が予定されているということです。プラットフォームの目的は、「中国文明の影響の拡大を改善する」こととされていますが、一定の条件下であれば、二次流通も可能になるかもしれません

同年12月には中国の行政機関である工業・情報化部はNFTや分散型アプリ(dApps)の開発を促進するとも表明しています。

今後も仮想通貨を禁止しながら、Web3の革新的なアプリの開発やデジタルエコシステムの構築は促進していくという独自路線のNFTが進化していくと思われます。他方で、これまでの中国の様々な規制と同様に、ある日突然に規制が強化されるのではないかと懸念する声もまた根強いので、注意深く動向を見守る必要があります。

北京冬季オリンピックの開催で自国IPのNFTが大ヒット

2022年2月に開催された北京冬季オリンピックはスポーツ界に留まらず、NFTにも大きな影響を与えました。きっかけになったのは北京冬季オリンピックのマスコット「氷墩墩(ビン・ドゥンドゥン)」の存在です。

出典:36Kr

この可愛らしいキャラクターはNFTアートとしてグッズ化され、香港に拠点を置くNFTマーケットプレイスの「nWayPlay」上で販売されました。

デジタルブラインドボックス、つまり「ガチャ」である「EPIC BOX」が売り出されるとすぐさま話題に。当初は正規プラットフォームで99ドルだった販売価格も、349ドルへと修正されるなど、大成功を収めました(もちろん完売)。

中国国内からは購入ができない仕様となっていましたが、こういった自国のIPが大躍進を遂げたことは国内でも大きく報じられました。韓国のK-POPやドラマ、日本の漫画やアニメといった世界的な大人気コンテンツを持つ周辺諸国に比べると、IPでは一歩遅れを取っている印象の中国。こうしたニュースを機に当局の硬派な姿勢が幾分和らげば、NFTに対する規制も和らいでいくのではないでしょうか。

NFTの盗難に対する刑事罰を発表

2023年11月、中国政府はデジタル資産の盗難が、財産の盗難として法的に扱われると発表しました

声明では、NFTを含むデジタル資産はデータと仮想資産の両方から構成されていると主張。したがってNFTの盗難は、単なる不正アクセスにとどまらず、コンピュータ情報システムからのデータの違法取得と、仮想資産の窃盗という二つの罪で同時に起訴されることになります。

日本においてはNFTに関する法整備が追いついておらず、金融庁のパブリックコメントに対する回答などを参考に、それぞれのサービスに準じて暗号資産交換業や前払式支払手段発行者、資金移動業などの登録を行うのが一般的な流れとなっています。

こうしたなかで、中国がこういった動きを見せるのは、単に法的秩序を保つということ以外にもWeb3に対する中国の継続的な関心を反映しており、仕組みづくりといった面で先手を打とうとしているという見方もできます。

現在は仮想通貨を中心に、NFTにも厳しい規制を設けている中国政府ですが、雪解けの時期に来ているのかもしれません。

まとめ

本記事では、中国NFT市場の現状について解説してきました。

現状、中国当局は仮想通貨に対しては全面的に規制していますが、NFTについての具体的な規制や法整備は発表していません。 しかし今後中国国内のNFT市場が加熱し、当局の監視が及ばない場所での二次流通や資金洗浄などの違法行為が増えていくと、NFTに対しても規制を本格的に強化するかもしれません。

一方で、仮想通貨を使わない中国独自のNFTインフラの構築と普及が中国政府主導で進められているなど、中国独自のNFT利用は更に加速していくものと思われます。

今後の中国のNFT市場に関する動向を、引き続き見守っていきましょう。

ブロックチェーンの種類とそれぞれの特徴とは?パブリック・プライベート・コンソーシアムの違いを解説!

ブロックチェーンは大きく三種類に分類できることをご存知でしょうか?本記事では、ブロックチェーンの分類について解説していきます!

  1. ブロックチェーンとは
  2. ブロックチェーンの種類
  3. ブロックチェーンの種類に関する誤解
  4. どの種類のブロックチェーンが良いのか確認しよう

ブロックチェーンとは

ブロックチェーンの分類について見る前にまずはそもそもブロックチェーンとはどういう仕組みなのかを簡単におさらいしていきましょう。

ブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

ブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

ブロックチェーンの種類

ブロックチェーンは以下のように大別することができます。

上図の通り、ブロックチェーンの種類には「パブリックチェーン」「プライベートチェーン」「コンソーシアムチェーン」の3種類があります。

細かな違いはありますが、主にはネットワーク内における取引内容の公開範囲、または管理者の有無によって分類することが可能です。

パブリックチェーンは参加者に制限がなく、許可を必要としないため、自由参加型(Permissionless型)とも呼ばれます。一方、プライベートチェーンやコンソーシアムチェーンは特定ユーザーのみ参加することが許されるため、許可型(Permissioned型)とも呼ばれます。


ここからはそれぞれどのような違いがあるのか、詳しく解説します。

パブリック型ブロックチェーン

パブリック型は、誰でも参加できるオープンなブロックチェーンです。中央に管理者がおらず、不特定多数の参加者によって管理されています。参加者は、参加も脱退も自由におこなうことができ、取引データは参加者全員に公開されているため、透明性が高いという特徴があります。

一方で、取引の承認には参加者の一定数以上の合意が必要です。そのため、ブロックチェーン上に新しい情報を書き込むためには多くの処理と時間を要するというデメリットがあります。実際、ビットコインのブロックの承認ではブロックサイズが制限されていることから、約10分の時間がかかります。

このような、利用者増加に伴って処理速度の低下と手数料の増加してしまう問題を「スケーラビリティ問題」といいます。

また、管理者不在のパブリックチェーンでは取引内容が正しいものであるか判断する仕組みが必要です。

この仕組みを「コンセンサスアルゴリズム」といい、ビットコインでは「PoW(Proof of Work)」と呼ばれるコンセンサスアルゴリズムを採用しています。

出典:Web3総合研究所

PoWでは、マイニングと呼ばれる膨大な計算による承認によって取引の正当性が担保されます。膨大な計算で求められる値をハッシュ値といい、このハッシュ値を一番早く探り出したマイナーが報酬としてビットコインを貰える仕組みになっています。

一方でマイニングは多くのマシンパワーや電力を費やすため、環境破壊につながっているとの指摘もあります。こうした指摘を受けてイーサリアムは2022年9月に​​マイニング不要のコンセンサスアルゴリズムであるPoSへと移行しています。

パブリック型はブロックチェーンの基本形ともいえるモデルであり、単に「ブロックチェーン」という際には基本的にパブリック型を指すことが多いです。ビットコインをはじめイーサリアム、ライトコインなど多くの仮想通貨がこの形式を採用しています。

プライベート型ブロックチェーン

プライベート型は、単独の管理者によって参加者が制限されるブロックチェーンです。中央の管理者が許可した特定の参加者によって管理されています。当然、参加者は不正をしないという前提で参加を許可されており、その多数決で合意形成を行っていることが多いため、パブリック型に比べて取引のスピードが速いのが特徴です。

また、プライベートブロックチェーンは、秘匿性の高い情報を扱うのに向いています。情報は外部に公開されないためプライバシーが確保され、閉じたシステム内でデータを格納できます。したがって、パブリックブロックチェーンのように誰でも参加することはできず、個人情報や機密情報なども扱うことができます。

その他にも、手数料が不要という点も特徴もあります。プライベート型ではインセンティブ設計が必要ないため、トランザクション手数料なしでブロックの生成が可能となります。

一方で、管理者が存在することで、システムダウンのリスクが生じてしまいます。なぜなら、チェーンを運営する企業や組織によってネットワークの安全性が決まるためです。データの永続性や可用性といった面ではパブリックチェーンよりも劣ってしまう点には注意する必要があります。

また、プライベートチェーンは中央集権的な側面を持つため、データの分散性という点でもパブリックチェーンよりも劣っているでしょう。

このように一長一短があるプライベート型ブロックチェーンですが、パブリックブロックチェーンに比べると、自社内でブロックチェーンの検証や開発がしやすいです。そのため、企業での情報管理や情報セキュリティが厳格な金融機関等でプライベートブロックチェーンを使った取り組みが進められています。

コンソーシアム型ブロックチェーン

近年、ビジネス導入が加速しているのが、このコンソーシアム型のブロックチェーンです。コンソーシアムチェーンでは、誰もが管理者になれるわけではありませんが、単一の管理者というわけでもなく、複数の管理者が存在するブロックチェーンです。

コンソーシアム型は、分散性・安全性・処理速度の全てにおいて、パブリック型とプライベート型との中間の性質を兼ね揃えています。コンソーシアム型は単一の組織ではなく複数の組織やグループによって管理されているため、プライベート型に比べると分散性があり、ルールの変更に関しても一定数以上の合意形成が必要となってくるため、ある程度の透明性は担保することができます。

一方でパブリック型とは異なり、特定の人が使うシステムでの利用が想定されており、データは参加者のみに公開されます。そのため、プライベート型のようなプライバシー保護や速い処理速度も備えています

「複数組織の利害関係が生まれるため運用変更が難しいのでは?」という意見もあります。確かに、導入にあたってコストや社内調整など環境を構築するハードルが若干高いというデメリットがあります。ですが、そのような利害関係があるからこそ、管理者がデータを書き換えないようにお互いに監視し合う構造がうまく働いています。

2つ以上の企業などで利害関係が一致しないために一方だけにデータ管理を任せることができない関係性においてお互いのデータを共有したい場合には、コンソーシアムチェーンが向いています。

ブロックチェーンの種類に関する誤解

出典:shutterstock

パブリック型が最もセキュリティに優れている?

パブリック型のブロックチェーンには、「51%攻撃」という課題が存在します。51%攻撃とは、悪意のある参加者がネットワーク上の51%以上の計算能力を制御することで発生します。

通常、データの改ざんをしようとする場合、ブロックチェーンが分岐してブロックチェーンの「一番長いチェーンが有効」というルールが発動して攻撃は失敗します。また、不正な取引を記録しようとした場合には、当然ながらブロックの承認資格を持った他の参加者によって安全が確保されます。

ところが、51%攻撃ではマイニングを行っているリソース全体のうち、51%を悪意を持ったユーザーが占めます。51%のリソースがあれば、他の参加者が正しい分岐のチェーンを伸ばそうとしてもブロック生成スピードで負けてしまったり、不正なトランザクションを含むブロックを作成してそのブロックをチェーンに追加することができます。その結果として、不正なトランザクションが正当なものとして承認され、二重支払いやその他の悪意のある行為が行われる可能性があります。

51%攻撃は、多くのマイナーが参加するブロックチェーンで実行することは困難です。しかし、リソースの上位を占めるグループが結託すれば、どんなにマイナーが多いブロックチェーンでも攻撃が成功する可能性があります。また、単独で51%のリソースを持たなくても、上位のマイナー連合が合計51%のリソースを持ち攻撃するというシナリオもあり得ます。

対するプライベート・コンソーシアム型では、ネットワークの参加者を管理者が選別します。したがって51%攻撃という文脈では、中央集権的な仕組みのほうが攻撃耐性があるといえるでしょう。

プライベート型は管理者によってデータを改ざんされてしまう?

プライベート型のブロックチェーンは管理者がいると説明しましたが、これが通常のデータベースのように管理者権限でログインして記録を書き換えることが可能だという誤解を生んでいます。

実際にはプライベート型ブロックチェーンは、たとえ管理者であっても記録されたデータの改ざんや消去はかなり困難です。ブロックチェーンのひとつのブロックには、取引データに加えてひとつ前のブロックのハッシュナンス(一定の条件を満たした32ビットの値)などが保存され、これを合成してさらにハッシュを発行しています。

したがって、もしひとつのデータを書き換えたとしても、以降の保存されているブロックも全て書き換えて辻褄を合わせる必要があり、この間も新たなブロックは追加されていくため、技術的なハードルがかなり高いといえます。言い換えれば、この点がブロックチェーンとデータベースの最大の差でしょう。

例外として、管理者がブロックチェーンだけではなくシステム全体も管理している場合、途中のプログラムを書き換えてしまうということは比較的容易になっています(ブロックAに本来格納されている値はBBBBだが、返却処理の際にCCCCという値を返却するようにプログラムを改ざんする等)。そのため、プライベート型チェーンは、導入目的に沿って正しい設計に落とし込むことが大切です。

どの種類のブロックチェーンが良いのか確認しよう

出典:shutterstock

ブロックチェーンを自社のビジネスに導入する際には、そのサービスや目的に合った種類のブロックチェーンを選別することが非常に重要です。しかしながら、ブロックチェーンを用いた取り組みは数多く存在しますが、どの種類のブロックチェーンを利用しているのかを公にしているプロジェクト・サービスはあまり多くありません。

また、同じ型のブロックチェーンであっても、プラットフォームごとに「スピードが優れている基盤」「安定性に優れている基盤」「カスタマイズ性に優れている基盤」など様々な特色があり、これらを比較検討するのには多大な労力やコストがかかります。

トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

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「ハラル認証」ってどんな制度?メリットや偽装ハラル問題についても解説

イスラム教の戒律に則って調理・製造された製品であることを示す「ハラル認証」。グローバル化の進展に伴い、近年国内でも脚光を浴びる機会も多くなってきました。本記事では、そもそもハラルとは一体何なのか、相次ぐ「偽装ハラル」は何が問題なのか、解決策となるブロックチェーン技術についても解説します!

  1. ハラルとはどういうものなのか?
  2. ハラル認証によってムスリムは安心して食品を選択できる
  3. ハラルへの取り組み事例
  4. 近年増加している「偽装ハラル」
  5. 偽装ハラルに対抗する新たなテクノロジー
  6. ハラル×ブロックチェーンの事例
  7. まとめ

ハラルとはどういうものなのか?

ハラルは、ムスリム(イスラム教徒)の行動指針となる基準の一つ

「ハラル(Halal)」とは、イスラム法において「合法」「許される」という意味のアラビア語です。イスラム教の教えでは、神が創造したものはすべてハラル(許されること)であり、それ以外のものは「ハラム(Halam)」として禁じられており、イスラム教徒のあらゆる行動や全ての物はこの「ハラル/ハラム」を基準に判断されます。

出典:Unsplash

ハラルは聖典であるコーランや預言者ムハンマドの言行録であるハディースに規定されています。

ハラルフードとは、イスラムの教えで食べてよいとされる食べ物

イスラム教では、食べ物に関しても「食べてもよいもの」と「食べてはいけないもの」が細かく定められています。そのイスラム教の教えで食べてよいとされている食べ物を「ハラルフード」と呼びます。

出典:ドラッグストアてんとうむし

イスラム教徒は豚肉やアルコール等の摂取が認められていないというのはご存じの方も多いかと思います。しかし、製造工程においてもイスラムの戒律に則った方法で処理される必要があります。具体的な例としては、アルコールが添加されている味噌や醤油などの調味料やムスリム以外によって処理された食肉、遺伝子組み換えによって栽培された植物なども摂取が厳しく禁じられています。

このようなイスラム教の独自の基準にクリアした、いわゆる「ハラルフード」のみが、ムスリムが摂取を許されている食品となります。

日本でもハラルへの関心が高まっている

一見すると複雑なルールでもあるハラルですが、近年、国内でもその存在が広く知られるようになっています。それは、イスラム教が世界人口の約4分の1を占める世界的な宗教であり、インバウンド需要に対応する日本の各業界においてハラルは避けては通れないテーマだからです。

とくに飲食業界においてはハラルフードを取り扱う店舗も首都圏を中心に現れつつあり、観光庁も「訪日ムスリム旅行者対応のためのアクション・プラン」を発表するなど、訪日ムスリムに対する食や礼拝への配慮が高まっています。

また、イスラム教徒は今後さらに増加するという予測も立てられています。米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターの予測によると、イスラム教は増加のペースが最も速く、信者の数は2050年までに27億6000万人に増える見通しだといいます。これは同年の世界人口予測の約3割に値する数字であり、それだけイスラム教徒が急増するということは、ハラルフード市場も拡大していくものと推測されます。

宗教への関心が薄い私たち日本人であっても、ビジネスやサービスのうえでは全くの無関心というわけにはいかなさそうです。

ハラル認証によってムスリムは安心して食品を選択できる

ハラル認証とは?

出典:shutterstock

ハラル認証とは、イスラム教の戒律に則って調理・製造された製品であることを示すシステムです。「イスラム世界で禁じられるもの」すなわち「ハラムなもの」が、製品やサービスに含まれていないことを客観的な証拠をもって確認し、基準をクリアしたものに「ハラル認証マーク」が付与される仕組みとなっています。

食品加工技術や流通が発達するにつれ、一般的なイスラム教信者の消費者には、目の前の商品がハラルなのかそうでないのかの判別が必要となりました。そこで宗教と食品科学の2つの面から、その商品がハラルであることを認証機関が保証するハラル認証の制度が誕生しました。

「イスラム的に許容されているか」の判断を中立的な立場の第三者機関が審査することで、企業側も安心して製品を製造・輸出することにつながります。この役割を担うものとして、ハラル認証機関の存在は近年益々重要視されてきています。

東南アジアに多いハラル認証

現在、ハラル認証の製品や店舗は、イスラム教徒人口の多い東南アジアを中心に普及しています。特に高経済成長中であるマレーシア、シンガポール、インドネシアといった国々では富裕層やアッパーミドルのムスリムが増加しつつあり、こうした国々への輸出ではハラル認証が有効なプロモーションの一つとなっています。

一般的な感覚からすると、「サウジアラビアなどの中東で需要があるのでは?」と思うかもしれませんが、こうした国々ではハラル認証がされた製品はあまり流通していません。これは中東の国々ではイスラム教が国教として制定されており、「すべてがハラル」が前提となっているためです。

日本の輸出先はアジア圏が大半を占めているため、東南アジアでハラル認証の導入が進んでいるというのは重要なトピックといえるでしょう。

日本企業もハラル認証を取得している

意識せずに生活していると全く気づかないかと思いますが、実は日本企業がハラル認証を取得しているケースもたくさんあります。日本国内に暮らすイスラム教徒は約20万人いるといわれており、そうしたニーズに応えるべく、大手企業を中心にハラルフードの取り扱いを行っている企業が生まれているのです。

日本においてハラル認証を受け、公表している企業は日本ハラール協会のサイト上で公開されています。

ハラール認証取得企業一覧 (公表企業のみ)【五十音順】

ハラルへの取り組み事例

LIFE SCHOOL 桐ケ丘 こどものもり

出典:社会福祉法人つぼみ会

東京都北区のとある保育所では、ハラル認証の取り組みが行われています。「LIFE SCHOOL 桐ケ丘 こどものもり」では、認可保育所としては全国初のハラル認証を取得し、園内の調理場でイスラム教徒用の給食を提供しています。

認証を取得するにあたって、栄養士がハラルフードに関する講習を受けて専門的な知識を学んだほか、専用の調理器具も用意するなど内部の仕組みを整備しました。また、処理場で処理された鶏肉を使ったタンドリーチキンなど、食事を許されている食材についてもしっかりとイスラム法の規定に則っているものを使用する体制へと食材の供給網にも工夫をしています。

日本の園児用メニューと見た目も同じにすることで、園児同士でのトラブルや保護者からのクレームもなく、園内に十数人在籍しているバングラデシュ国籍の園児も安心して給食を楽しんでいるようです。

現在はハラルへの対応がなされている保育園はあまり多くはありませんが、こうした先進事例を通して今後教育のシーンでもハラルフードへの理解が増進していくことと思われます。

神戸ビーフ

出典:神戸肉流通推進協議会

海外で人気が高まっている高級和牛の「神戸ビーフ」もハラルへの対応を始めました。富裕層の多い中東での消費拡大を狙い、ハラル認証の基準を満たす食肉施設で処理された「神戸ビーフ」がサウジアラビアに輸出されています。

サウジアラビアは、厳格にイスラム法を適用している国家の一つです。近年、女性の社会進出や政治参加の機会も増えつつありますが、それでもなおコーランを法源としており、近代的価値観に抵触する規範も多くあります。そんなサウジアラビアではもちろん、牛肉は宗教上のルールで定められた方法で処理されたハラルであるものしか食べることができません。

そうした国に対しても日本産和牛のおいしさを伝えるべく、兵庫県内で神戸ビーフを産出していると畜場が「ハラール神戸牛」への生産に取り組みました。ハラルと畜専用の設備を設け、非ハラルの肉等と完全に分離されたラインを確保することで、安心のと畜環境を用意しています

また、加工プロセスや保管場所についてもハラルではないものと混ざることは厳禁で、ハラル専用の冷凍庫を使用したり、消毒もアルコールが使えないため熱湯で行うなど様々な工夫がなされています。

こうした各工程での努力によって、肉質を損なうことなく神戸ビーフの味を楽しんでもらうことができます。ムスリムにも余すことなく日本の食文化も味わってもらい、世界に日本食のおいしさを広めるうえでもハラル認証への取り組みは欠かすことができない存在でしょう。

近年増加している「偽装ハラル」

出典:shutterstock

偽装ハラルとは?

イスラム教徒にとって生活の肝となっているハラルですが、近年問題となっているのが「偽装ハラル」です。偽装ハラルとは、ハラルでないにも関わらずハラルであると偽装して流通している食品のことを指します。

前述のハラル認証の制度によって、ハラルフードにはハラルであることを証明するロゴが貼り付けられていることがあります。ムスリムの消費者は、表示された認証マークによってその製品が厳しい審査手続きを経て、安全に消費できると証明されていると確認することができます。

しかし、この表示は業界全体として統一されたものではなく、発行団体によってそれぞれ異なるロゴを掲げている場合もあります。日本でも30以上のハラル認証機関が存在するといわれており、これらをすべて記憶しておくのは日常生活では実質的に不可能でしょう。

こうした新興かつ曖昧なマーケットを悪用した業者がハラルでない食品に対してハラルの認証マークをつけて販売することで不当に利益を得ているというのが、偽装ハラル問題の正体です。この問題は世界的にも深刻な話題であり、信仰人口が十数億人に上るとされているイスラム教ではその被害者・被害額はとてつもない規模となっていることが窺い知れます。

イスラム教徒にとっての偽装ハラル

イスラム教徒にとって偽装ハラルは文字通りの「死活問題」になります。2024年現在、ハラルの認証を受けていない製品に関する詐称問題が相次いでいます。とくにタイのチュラロンコン大学の調査によって発覚した「偽装牛肉(牛の血に浸した豚肉を牛肉と偽って販売)」の問題は世界中のイスラム教徒に大きな衝撃を与えました。

過去には日本企業もハラル関連で「炎上」した事例もあります。2014年、大手菓子メーカーのブルボンでは人気ラインナップである「プチ」シリーズのコンソメ味にインドネシア語での原材料表示を貼り付けないまま、インドネシア国内で販売しました。

コンソメ味のポテトチップスには豚由来のエキスが使用されており、漢字の読める女子大生がSNSで拡散したことをきっかけに同製品は回収に追い込まれる騒ぎとなりました。インドネシアでは国民の9割近くがムスリムであり、この事件は私たち日本人とムスリムのハラルフードに対する認識の違いを体現する結果となりました。

インドネシアでは、2000年にも大手総合食品メーカーの味の素が豚由来の酵素を使用したとして、大きな話題となっています。当時は抗議活動も激しく行われ、現地法人の社長が逮捕される騒動となりました。このように、日本人の感覚では「ミス」というイメージであっても、イスラム圏ではこうしたミスは「イスラムの基準を満たした食品と偽った、消費者を欺いた」という「不正」の意味合いが強くなってしまいます。

厳格にコーランを遵守するムスリムに対してハラムである食品を提供することは、口にした本人のみならず宗教を侮辱することにもなりかねず、一企業・一個人の対応だけでは済まなくなる可能性もあるのです。

偽装ハラルに対抗する新たなテクノロジー

こういった偽装ハラル問題解決に向けて、ある新たな技術が注目されるようになりました。それが、近年ブランド製品の真贋証明などで利用されている「ブロックチェーン技術」です。ここからはブロックチェーン技術について簡単に解説します。

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

ブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

ハラル認証へのブロックチェーン技術の利用

偽装ハラル問題が起こる原因の一つに「サプライチェーン全体をまとめる統一プラットフォームが不足している」ということが挙げられます。

ハラル認証は、本来であれば統一的な基準により判断されるべき制度です。しかし、サプライチェーン上のすべての利害関係者が、それぞれ異なるプロセスやシステムを利用しており、また手作業に頼っている部分が非常に多いのが実情です。

一方でブロックチェーンはデータの耐改ざん性に優れているデータベースであり、プロセスや企業の垣根を超えてデータ同士を鎖のようにつなげて共有することができます。データの真正性が担保された状態で一つのネットワーク全体としてデータが追跡できる仕組みを構築することで、各製品が正当なハラル認証であることを保証できるでしょう。

出典:国立研究開発法人科学技術振興機構

ブロックチェーン技術を使うことで、「サプライチェーン全体に透明性をもたらせながら、単一障害点化しない形で各セクションを統一しうるプラットフォーム」が実現できます。様々な製品の出所を追跡することで、仮に製品に関する情報が偽装されたとしても、もともとの生産地や生産状態を追跡していけば認証が取れるようになります。

また、ブロックチェーン技術のハラル認証への利用は、食品偽装防止に留まりません。医薬品、化粧品、ムスリムファッションの分野でもブロックチェーン技術の重要性が認知されつつあります。

ハラル商品全般に対してもこのテクノロジーを適用すれば、ハラルの市場認知度を食品業界の他の認証(例えば有機など)に匹敵するレベルまで高めることができます。冒頭にも述べたように、ハラル製品の市場規模は世界の人口の4分の1近くにものぼります。ブロックチェーン技術は偽装防止の枠を超え、ハラル市場の様々なコンプライアンスに革命的な進化を与えるでしょう。

ハラル×ブロックチェーンの事例

Halal Chain

ハラールブロックチェーンプロジェクトを発表
出典:Edge Middle East

現在では、ブロックチェーンを活用してハラル市場に参入するプロジェクトも増えつつあります。ハラル産業製品のトレーサビリティに特化したブロックチェーン技術をベースとする「ハラールチェーン(Halal Chain)」はその最たる事例でしょう。

ハラル認証を導入する際には、システムの不統一性や製品情報の不正確性、原材料に対する厳格な管理の難しさなど様々なテーマが問題となります。Halal Chainではバリューチェーンのあらゆる情報を一元的に管理し、分散して保有するというある意味で二律背反的な概念を実現することで、これらの問題の解決を試みています。

Halal Chainはパブリックなブロックチェーンであり、製造、加工から提供までのサプライチェーン全ての台帳上の取引をトラッキングして検証可能です。このシステムはリアルタイムでの監視も可能であり、ハラル認証に関する多くのコンプライアンスに革命を起こすと期待されています。

この構想は国際イスラム経済センター(ICIE)とドバイ空港フリーゾーン局(DAFZA)によるデジタルチェーンプロジェクトで発表されており、今後、イスラム圏の他の国々でも同様のプロジェクトが立ち上がるかもしれません。

WhatsHalal

出典:Google Play

シンガポールを拠点とするスタートアップである「WhatsHalal」は、ハラル食品をブロックチェーンプラットフォームを通じて効率的に認証するサービスを展開しています。

インドネシアでは2021年2月に「ハラル製品保証の実施に関する政令」を公布しており、飲食品は2024年までに、化粧品などは2026年までにハラルであるか非ハラルであるかについての表示をパッケージに記載することを順次義務化しています。同規制の導入によって、自社製品のハラル対応を推進しようと奔走する企業は150万社以上にのぼるとみられます。

こうしたインドネシア国内の動きを受けて、ブロックチェーンを活用することでフードチェーン内のハラル食品の追跡システムを統合しているのがWhatsHalalです。現在のSCM(サプライチェーン・マネジメント)のシーンでは、農業従事者からメーカー、販売業者、消費者まで、サプライチェーン全体のすべての利害関係者をまとめる統一プラットフォームが不足しています。

しかし、WhatsHalalでは専任のコンサルタント(有料)によって自社サービスでトレーサビリティが必要となる箇所がピックアップされ、サプライチェーン全体で一括してハラルを管理することができます。

そのため、業者はもちろん、顧客もアプリを使ってハラルが保証された特定の業者からハラル食品を注文・配達してもらうことが可能です。バーコードをスキャンすることによってハラルの正当性を確認する仕組みは、ムスリムにとって生活の利便性を大きく向上させるでしょう。

まとめ

イスラム教人口の増加に伴い、今後日本にも観光客としてだけでなく、留学生や移住者なども増えていくことでしょう。今までのように異国の文化や異宗教の変わった風習としてハラルを特別視するのではなく、ヴィーガンメニューや糖質カット食品のように、食品選択の際のオプションとして当たり前に用意されている環境が訪れる日もそう遠くないはずです。イスラム教に限らず、グローバルな視点でさまざまな宗教や文化への理解を深めておきましょう。

ブロックチェーンがコールドチェーンにもたらす変化とは?~温度管理・トレーサビリティへの活用~

冷凍技術の革新は私たちの食生活を大きく変容させました。1930年に戸畑冷蔵(現日本水産の前身)が「冷凍いちご」を販売してから100年近くが経った現在では、スーパーやコンビニで鮮度の高い食品を購入したり、あるいはファミリーレストランなどの外食産業では多種多様なメニューが低価格かつハイクオリティで提供されています。

こうした便利なサービスが確立しているのは、「コールドチェーン」という仕組みが関係しています。そしてさらに2024年現在、コールドチェーンへブロックチェーンを導入しようという動きが見られます。

本記事では、コールドチェーンやブロックチェーンのそもそもの仕組みや実際の事例に触れつつ、これからの温度管理のあり方についてご紹介していきます。

  1. コールドチェーンについて学ぶ
  2. ブロックチェーンとは?
  3. ブロックチェーンがコールドチェーンをどう変える?
  4. RFIDによって、さらにブロックチェーンの可能性は広がっている
  5. ブロックチェーン×コールドチェーンの事例
  6. まとめ

コールドチェーンについて学ぶ

そもそもコールドチェーンって?

コールドチェーンの流れ
出典:株式会社ロジクエスト

コールドチェーンとは、「生鮮食品や冷凍食品といった低温管理が必要な商品を、生産から輸送、保管といった流通プロセスを一貫して所定の温度を保つ仕組み」のことです。日本語では「低温物流体系」や「低温ロジスティクス」「生鮮SCM(サプライチェーン・マネジメント)」とも呼ばれています。

現在では冷凍食品や生鮮食品だけでなく、花卉や医薬品、電子部品などさまざまな分野でコールドチェーンが活用されており、私たちの日常生活に欠かせない技術となっています。

コールドチェーンの重要性

冒頭にも説明した通り、コールドチェーンが整備されたことで私たちの生活は一変しました。では、具体的にはどのような場面でその役割を発揮しているのでしょうか?

コールドチェーンの主な目的は、低温状態を維持することによって各商品の品質を一定に保つことです。これまでの輸送方法といえば通常のトラックで屋外の倉庫などに常温で運搬されるのが一般的でしたが、クール便や冷凍・冷蔵倉庫の拡大によって低温流通が実現しました。これにより、鮮度を保ったまま消費者の元へ様々な商品を送ることができるようになりました。

また、低温状態を長期化させることで、各商品のロスも削減できますたとえば生鮮食品であれば低温管理によって雑菌の繁殖や鮮度の劣化を防ぎ、店舗でより長い期間販売できるため、賞味期限切れによる廃棄の減少に繋がります。

さらに、コールドチェーンは商品の販路拡大にも一役買っています。従来の輸送形態では各地に中継地点となる物流の拠点が必要であり、品質維持の観点から遠方へのダイレクト輸送が困難でした。そのため、低温管理が必要な商品の輸送エリアは基本的には出荷地の周辺数十キロに限られていました。

コールドチェーンによりこうした商品の長距離輸送が可能になったことで、出荷地から遠く離れた全国各地へ商品を届けることが可能となりました。一部地域でしか販売されていなかった商品や、鮮度を売りにした商品が遠方からでも購入できるようになり、経済圏を大幅に拡大させました。

コールドチェーンの影響は、物流だけに留まりません。医薬品や血液パックなどの温度管理にも必須の技術となっています。特にコロナ禍では、ワクチンの低温管理が重要な政策として各国で認識され、一気にコールドチェーンの普及が進んだともいわれています。

このように、コールドチェーンは物流業界以外にも、様々な業界へ影響を及ぼす重要なテーマとなっています。

コールドチェーンの課題

出典:shutterstock

いまや現代人の生活になくてはならないコールドチェーンですが、いくつかの課題も露見しています。なかでも、特に問題視されているのが、温度モニタリングにおける人為的なミスです。

鮮度や品質を担保する技術であるコールドチェーンでは、一貫した温度管理が絶対条件です。当然ながら、各商品は生産から消費者の手に届くまで、一定の温度が維持されているか定期的にチェックを行います。

一方で現行のコールドチェーン管理は、定期的な温度モニタリングと手作業による記録管理に頼ってきたため、人の手によるミスや不正が起こりやすく、リアルタイムでの温度管理や可視性にも欠けていました

人為的ミスが原因で空調が万全に機能していなければ品質の維持は担保できず、リアルタイムでモニタリングできなければ、スケジュールが少しずれるだけで想定外に商品を常温下に晒されることもあるかもしれません。

また、ミスではなく意図的に低温管理が怠られる可能性もあります。ベトナムなどの東南アジア諸国では、ドライバーの賃金体系が運賃の中から会社利益を含む必要経費を除いた金額が収入となるケースがあります。したがって、少しでもガソリン代を節約するために、定期的なエンジン停止を行っているドライバーも少なくないのです。商品の品質だけでなく、誠実なドライバーが損をすることにもなってしまいます。

リアルタイムかつシステマチックに監視を行わなければ、上記のようなミスや不正を解決することはできないでしょう。

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

ブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

ブロックチェーンがコールドチェーンをどう変える?

出典:Pexels

データの真正性が担保される

従来のデータベースでは、企業や個人がすでに記録された管理履歴を改ざんすることは(知識があれば)容易でした。特に管理者による内部不正を防いだり検知するのは非常に困難です。一方のブロックチェーンは「ハッシュ」や「ナンス」、「公開鍵暗号方式」といった様々な要素によって、管理者も含めて改ざんすることが著しく難しいデータベースになっています。

したがって、ドライバーや検温員といった各作業者のモラルに委ねられていた温度管理を厳格に行うことができます。これにより、理論上可能であった商品の品質の維持が内実ともに可能になります。

また、データが常に正しいのであれば、仮に冷蔵・冷凍機器が故障していて品質に問題が生じた場合も、すぐにその原因となっている地点を特定することができます。自動車や家電などリコールが発生しやすい製品の製造ラインでは、比較的こうしたデータの取得を行っていることが多いです。しかしながら、生鮮食品などの分野ではこうしたサプライチェーンの管理が徹底されているケースは多くありません。こうした分野でもすぐに問題の根源を特定できるというのは新たな価値になりうるでしょう。

チェーン全体でデータへアクセスできる

ブロックチェーンでは分散してデータの管理を行います。したがって、従来のデータベースのように場合によってはデータの改ざんが可能な特定特権的なの管理者を持ちません。チェーンの参加者全員がデータへアクセスすることも可能です。こうした特徴を活かして、チェーン全体で当事者意識を持って品質の管理に取り組むことができます。

たとえば、生産の段階で低温管理に最大限配慮している企業があるとします。しかし、その商品を配送するフェーズで温度管理を徹底しなければ、いくら生産者が努力したところで品質は向上しないままです。それどころか、現状のデータ管理では生産者は生産、配送業者は輸送のデータをそれぞれが管理しているために、生産者は原因が分からずじまいになってしまいます

一方でブロックチェーンを導入しているコールドチェーンであれば、自社の担当範囲以外でも商品の情報を追跡できます。したがって、どこのフェーズが品質を低下させているかを相互に監視・確認し合うことで、品質を一定に管理できるような環境を構築できます。

これはブロックチェーン技術を使った貿易プラットフォームや不動産プラットフォームが、売り手と買い手以外のどの関与者の間でどのような情報のやりとりがおこなわれているかを全プレーヤーで確認できるのと、構造は同じです。

面倒な確認も不要で正当な取引が可能

ブロックチェーンにはもう一つ、従来のデータベースにはない武器があります。それが「スマートコントラクト」です。スマートコントラクトとは、事前に決めた条件に基づいて、それを満たした場合には自動的に契約が実行されるという仕組みのことです。

このスマートコントラクトを活用すれば、正当な取引が可能になります。これまでの取引では、物流段階での温度管理が実際にされているかどうかはわかりませんでした。そのため「されているだろう」の暗黙の了解のもと、物流業者の信用において取引がされていました。

スマートコントラクトを用いれば、条件に低温管理(◯度以下で配送が行われた)を設定することで、条件を満たしている商品に対して自動的に受け入れを行えるため、両者にとってフェアな取引を瞬時に完了できます。時間や手間をかけることなく商取引が行えるため、時間をより有効に使うことができるでしょう。

また、万が一契約温度を下回ってしまったことが検知されたら、スマートコントラクトを活用することで自動で追加発注を掛けられます。追加発注の確認待ちによる時間のロスを大幅に削減することも可能になるかもしません。

RFIDによって、さらにブロックチェーンの可能性は広がっている

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コールドチェーンで重要な検討事項となるのが、データの取得点です。データの管理をブロックチェーンで行うことで真正性を担保したとしても、効率よくデータの連携をすることができなければブロックチェーンの導入メリットは限られたものになってしまいます。

これまでの多くのコールドチェーンでは「データロガー」と呼ばれる温度管理システムが用いられており、各ロガーから得た情報を事後管理するやり方が一般的でした。しかし、データロガーを用いた方法ではリアルタイムの状況に合わせた温度管理ができないばかりか、コストの観点からも適用できるのはトラックやコンテナ輸送のような商品が集積された管理形態に限定されてしまいます。そのため、コールドチェーンで求められる個別商品単位でのきめ細かな管理ニーズに応えることができませんでした。

この課題を解決するために、近年、RFIDと呼ばれるツールが利用され始めています。RFIDとは「Radio Frequency Identification」の略で、近距離の無線通信を用いてID情報などのデータを記録した専用タグと非接触かつ自動で情報をやりとりするシステムのことです。

出典:キーエンス ハンディターミナル活用ガイド

RFIDの最大の特徴は、遮蔽物・距離に強いこと、そして複数のタグを一括読取できることです。バーコードやQRコードのようにカメラを用いて読み取るシステムとは異なり、RFIDは電波を用いて情報をスキャンします。そのため、離れていたり、他のものと重なっている場合でも、安定して読み取ることが可能です。段ボールなど箱の中に入っているタグの情報も読み取ることができます。

さらに、ICタグにはラベルタイプのものやプラスチックなどのハードケースに包まれたもの、交通ICのように「かざす」動作で通信するNFCタイプのものなど様々な種類が存在します。サービスや商品の性質、読み取りシーンに合わせたタグを扱うことができるため、導入のハードルも一気に下がるでしょう。

こうしたツールを活用することで、新しいコールドチェーンでは、商品ごとの個別情報を一元管理し、各商品に個別最適化された温度管理を行うシステム(つまりはIoTシステム)が実現するといわれています。

RFIDとブロックチェーンを組み合わせることで、安全かつ簡易化された温度データ管理の時代が訪れるでしょう。受発注・決済・所有権移転も含めたトレーサビリティをリアルタイムかつ関係各社で一元管理できるようになるため、サプライチェーンマネジメントを大きく飛躍させると期待されています。

ブロックチェーン×コールドチェーンの事例

2024年現在、流通業界ではブロックチェーンをはじめとする先進技術によってプロセスイノベーションを起こすべく、各社で大規模な技術開発や実証実験が行われています。ここからは、ブロックチェーンとコールドチェーンを掛け合わせた事例についてご紹介します。

東京都立産業技術研究センター

東京都立産業技術研究センターはモノコトデザイン株式会社、ビヨンドブロックチェーン株式会社と共同で、ブロックチェーン技術を使ったセキュアなオープンプラットフォームを開発しています(2023年5月より一部機能の運用開始)。

このプラットフォームでは、POS(販売時点情報管理)やWMS(倉庫管理システム)など、すでに使われている複数のシステムとの連携しながら、コンタミネーション(異物混入)の防止や食品衛生規格などのトレーサビリティにも対応しています。

出典:東京都立産業技術研究センター

データの取得にはRFIDを採用しており、端末で収集したデータを、簡単に物流サーバへアップロードすることが可能です。また、配送ボックスは内部に開封検知機能と温度センサ機能を有しており、配送ボックスの外側にRFIDタグを貼付して、輸送履歴をトレースします。したがって、温度管理に加えて中身の入れ替えなどがないことを検出できる仕組みになっています。

同サービスはデータ改ざんの防止に利用されるブロックチェーンを使うことにより、今後ますます複雑化が予想される物流システムを透明化し、安全性の担保が必要となる商品のトレーサビリティデータを記録していくということです。

北京市

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2020年11月、中国の首都である北京市はブロックチェーンを活用したコールドチェーンプラットフォームである「北京冷鏈」をスタートさせました。これにより、消費者が冷凍食品を直接トレースできるようになりました。

契機となったのは同年の6月に、北京の食品卸売市場で輸入サーモンをさばいたまな板からコロナウイルスが検出されたことでした。感染の中心地である中国において、このニュースは大々的に報じられ、スーパーの店頭からはサーモンの姿が消えて輸入も一時停止されました。

こうした騒動を受け、「コールドチェーン導入」は、感染防止におけるキーワードに浮上しました。実は、先進国では食品物流の90%はコールドチェーンを経由しているのに対し、中国の普及率は極めて低く、70%は常温で管理されています。アイスクリームさえ毛布などに包んで常温で配送することもあるそうで、コールドチェーンの導入が喫緊の課題です。

そういった背景のなかで、公的な研究機関である微芯区塊鏈研究院が中心となって「北京冷鏈」の開発に成功しています。Wechat、 Alipayといったアプリを通して、当該商品の二次元コードをスキャンするだけで、商品履歴を確認できる仕組みです。

この国家的プロジェクトにおいても、ブロックチェーンはコールドチェーン食品の生産元、流通、倉庫保管、消費などの各段階のデータの改ざんを防ぐ技術として採用されています。

IBM ×  eProvenance

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ブロックチェーンの社会実装を積極的に行っているIBM社も、もちろんコールドチェーン分野に進出しています。同社はワインの出荷分析を行っているeProvenanceと共同でブロックチェーンプラットフォーム VinAssureの立ち上げを行いました。

ワインの保管と輸送中の温度条件は、品質に重大な影響を与えます。そのため、他の高級酒が常温でも保存がきくのに対して高級ワインはワインセラーでの保管が必須です。また、眠らせれば眠らせるだけ深みや価値が出てくるワインでは、24時間365日常に低温で管理される必要があります。

VinAssure は、AIやブロックチェーン、クラウドといった様々な先端テクノロジーが活用されているBlockchain Transparent Supplyをカスタマイズすることで、ワインに関する製造・管理のデータを追跡することが可能です。

プラットフォームの参加者はワインボトルにあるQR コードを読み取ることでサプライチェーン情報にアクセスでき、製品の認証基準、品質、オーガニック関連情報などを確認することができます。また、消費者だけでなく、ワインメーカーも生産に費やされた細心の注意を反映しているという、セルフブランディングにも活用することができます。

VinAssure にはすでに米国に本拠を置く複数のワインメーカーも参加しており、今後もサービスの拡大が期待されます。

日立製作所

出典:ビジネス深耕

東南アジアでは、近年の経済発展とともに高所得者層が増加し、品質管理された食品への要求が高まっています。しかしその一方で、コールドチェーンが未発達なことにより品質管理された食品が十分に消費者に提供されていません。こうした状況をコールドチェーン物流によって改革しようという試みが、日立製作所FCPF(Food Chain Platform、フードチェーンプラットフォーム)構想です。

出典:日立製作所

本プロジェクトでは、同社が開発した温度検知ラベルを用いることで、商品ごとに個別に、しかも安価に取り付けることができるため、輸送単位を限定することなく、生産者から消費者までのすべての工程で適切な温度管理を行うことができるとされています。

出典:日立製作所

同社は、「FCPFは温度検知ラベルのほかに、ブロックチェーン、ロジスティクス管理、画像診断/AI(Artificial Intelligence)、保冷ボックス、鮮度・熟成度シミュレータなど複数の日立の強み技術を活用し、食品の品質管理、トレーサビリティ、ダイナミックマッチング、物流指示などのサービスを提供することで、生産、卸、物流、小売り、さまざまなステークホルダーの要求に応じた価値を提供する」ことで、「従来よりも安価なコストできめ細やかな温度管理」を実現するとしています。

本プロジェクトは、センシングデバイスとIoT技術、AI、そしてブロックチェーンを組み合わせることで、コールドチェーンの課題をDXで解決しようとする好例だといえるでしょう。

まとめ

本記事では、ブロックチェーンがコールドチェーンに対してどのような貢献ができるのかについてご紹介しました。

コールドチェーンは現代の物流を支える重要な技術であり、今後ますます拡大が予想されます。一方で、導入にあたっては、仲卸業者や輸送業者などサプライチェーンに関わる人たちに理解や協力をしてもらう必要もあるかと思います。

従来のデータ管理では、かえって仲卸業者や輸送業者の手間が増えてしまい、なかなか理解や協力を得られないでしょう。ブロックチェーンによって安全かつ迅速なデータ管理を実現することで、こういった社内外の調整業務もスムーズに進むことでしょう。

トレードログ株式会社では、非金融領域におけるビジネスへのブロックチェーン導入を支援しています。新規事業のアイデア創出から現状のビジネス課題の解決に至るまで、包括的な支援が可能です。

自社のコールドチェーンについて少しでもお悩みがございましたら、是非オンライン上で30〜60分程度の面談をさせていただければと思いますので、お問い合わせください。

ブロックチェーンは不動産業界50兆円市場の切り札となりうるか?

不動産業界は2024年現在、国内約33万社、市場規模約50兆円を誇る巨大産業です。その不動産業界ではいま、ブロックチェーンを活用したビジネスが増えています。「不動産×ブロックチェーン」はどういった面で業界を変革できるのか?事例も交えて解説します!

  1. 不動産業界の有望技術として注目を集めるブロックチェーン
  2. ブロックチェーンとは?
  3. 「不動産×ブロックチェーン」が実現する2つのアプローチ
  4. 「不動産×ブロックチェーン」の事例
  5. まとめ

不動産業界の有望技術として注目を集めるブロックチェーン

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不動産業界は、国内30万社以上のプレイヤーが存在し、市場規模は約50兆円ともいわれる巨大産業です。国土交通省の不動産業ビジョン2030によると、全産業に占める不動産業の法人数比率は11.5%と、他産業と比較してもその規模の大きさが窺い知れます。

またその歴史も古く、昔からの取引関係や商慣行などが色濃く残り続けている業界でもあります。

そうした不動産業界で、近年、ブロックチェーン技術を活用した新たなサービスがいくつもローンチされ、業界の課題解決に対する期待が高まっています。

たとえば、大手ハウスメーカーの積水ハウスでは、ブロックチェーンを活用した次世代不動産プラットフォーム構想が推し進められています。

2023年5月には国土交通省公募の「不動産IDを活用した官民データ連携促進モデル事業」において、同社が研究を進める「不動産IDを用いた転入居手続きにおける自治体連携DXに関する取り組み」が採択されています。

出典:積水ハウス

現在、同社ではすでに賃貸住宅の入居申込みで入力された氏名、住所などの利用者の情報を電気・ガス・光回線・引っ越しの民間企業にブロックチェーンを用いて連携することで、引っ越し時に必要な手続きを簡素化できるサービスを実施しています。

今回のモデル事業では、従来モデルのような民間企業だけでなく、水道使用開始の手続きや転出・転入届という自治体への届け出も情報連携により完結させることで、利用者の更なる利便性の向上を目指します

引っ越しを経験した方であればご存じのように、転居後は引っ越し、電話、電気、ガスなど様々な生活インフラの変更や申し込み等、いくつもの手続きが必要です。そのなかでも市役所・区役所へ直接届け出なければならない転入届は、多くのサラリーマンの勤務時間と役所の業務時間が重なっており、昼休みや場合によっては時間休を取得するケースもあります。

こういった問題に対して、データの真正性が担保されたブロックチェーンを基盤とするシステムを導入することにより、不動産を一意に特定できる「不動産ID」を企業や自治体とシームレスに連携することが可能になります。

このサービスが大規模に展開されれば、いままで手作業で照会していた不動産の業務が効率化され、私たちはスマホでホテルを予約するような手軽さで引っ越しが可能になるでしょう。

こうした、ブロックチェーンを利用して不動産業界に変革をもたらそうという動きが、近年加速してきています。なぜ不動産業界でブロックチェーンが注目されているのでしょうか?まずはブロックチェーンの概要について解説します。

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンの概要

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

ブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

ブロックチェーンのビジネスモデル進化

ブロックチェーンは、この10年間あまりで技術の進展とともに、技術の応用領域、そしてビジネスモデルを進化させてきました。

進化の歴史は、ブロックチェーン1.0、2.0、3.0という呼称で知られています。

ブロックチェーンは、2008年に誕生した当時はまだ、仮想通貨ビットコインの中核技術の一つに過ぎませんでした(ブロックチェーン1.0)。

その後、Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)が、ビットコインの仕組みを仮想通貨以外の領域に応用するべくEthereumを開発し、個人間送金や契約の自動履行など、主に金融領域でのビジネス活用が盛んに行われるようになりました(ブロックチェーン2.0)。

そして、近年、Ethereumのtps(トランザクション速度)の遅さを改善したEOS(エオス)、toB企業向け開発に特化したQuorum(クオラム)Hyperledger Fabric(ハイパーレジャーファブリック)などのプラットフォームが登場し、またブロックチェーン技術の有用性に対する社会の関心が高まったことを背景に、非金融領域へのビジネス活用が急速に進み始めています(ブロックチェーン3.0)。

不動産業界は、このブロックチェーン3.0の代表的な応用領域と言えるでしょう。

「不動産×ブロックチェーン」が実現する2つのアプローチ

近年、不動産業界でブロックチェーンが注目される背景には、「オープン」「真正性」「分散的」といったブロックチェーンの諸特徴と不動産業界が抱えている課題との相性の良さがあります。ここでは、ブロックチェーンが不動産業界で実現できることについて見ていきます。

安全かつ自動的なデータ共有

出典:ぱくたそ

不動産業界にブロックチェーンを導入することで実現する未来の一つは、安全かつ自動的なデータ共有です。

不動産取引は参加しているプレイヤーが多いうえに、セキュリティ上の理由からそれぞれのプレイヤーが持っている情報を公には公開できない、いわゆる「情報の非対称性」が存在しています。そのため、ひとつの取引が完了するためにいくつもの手続きや情報確認を重ねる必要があり、本人のスケジュールに加えて金融機関の営業時間や不動産業者の定休日なども考慮すると、どうしてもスローな展開になりがちなのです。

以下に、場面ごとに不動産や住所データの非対称性や連携における課題をピックアップしました。

  • 登記
    • 「役所」と「登記申請者」間の非対称性が課題
    • 役所からすると、「不動産の所有者は本当にこの登記申請者本人なのか?」を確かめることが難しい。そのため、権利証明や複雑な登記申請手続きが必要となり、人件費や確認作業が必要となる。場合によっては確認ミスによって不正確なデータが登録されてしまうことも
    • 登記申請者からすると、登録のためだけにわざわざ法務局などに出向いて書類を申請しなければならない。登記に必要な情報の整理や提出に手間がかかる
  • 売買
    • 「買い手」と「売り手」間の非対称性が問題
    • 買い手からすると、「この人は本当に所有しているのか?」「隠れ抵当権がついてないか?」「入居者間や近隣で厄介なトラブルはないか?」という疑念がつきまとう
    • 売り手からすると、「そもそも適正な価格なのか?」「本当に支払い能力があるのか?」という疑念が付きまとってしまう
    • 双方の信用を担保するための第三者仲介が必要となり、「両手取引」における高い二重の手数料がコストとしてのしかかる
  • 賃貸
    • 「借り手」と「貸し手」間の非対称性が課題
    • 借り手からすると、「ここは事故物件ではないか?」「家主はなにかあったときにしっかりサポートしてくれるのか?」など見た目だけで判別できない情報が必要。また、引っ越しの際には自治体に直接、転出届を送ったり、インフラの開通手続き(または移転手続き)をしなければならない
    • 貸し手からすると、「この人は毎月きちんと家賃を支払ってくれるのか?」「この人はモンスター住民にならないか?」といった不安が生じる
    • 「仲介業者」と「管理会社」間の非対称性が課題となるケースも
    • 内見時に管理会社の許可が必要であり、営業時間や休業日の関係で内見ができず、契約の機会を逃してしまう

ここに挙げた例は一部に過ぎず、実際のシーンごとに情報連携がスムーズでないことに起因するトラブルや困りごとはたくさんあります。

こうしたプレイヤー間の情報非対称性に起因した不動産取引の課題に対して、ブロックチェーンは、オープンかつデータの改ざんのリスクが限りなく低いデータ基盤による第三者を排除した分散型の管理手法を提供できます。したがって、情報の真正性を担保したまま業種の垣根を超えてスムーズに情報を取得することが可能になります。

また、トランザクション(取引)や外部の情報をもとに、あらかじめ設定されたルールで自動的に実行されるプログラムであるスマートコントラクトも、不動産契約をスムーズ化させるでしょう。

一般的な契約は、契約当事者が書面で契約内容を定め、契約に基づいて取引が行われます。スマートコントラクトによる契約であれば、従来、人の手で逐一実行せざるを得なかった不動産取引における付随業務を、ブロックチェーン基盤上でおこなうことができます。

法的課題など技術面以外で解決しなければならない課題もありますが、このスマートコントラクトを活用することで、条件が合致した時点で自動で契約が有効になるような仕組みも将来的には実現可能です。

不動産の小口証券化

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不動産業界の課題でもう一つ注目されているのが、「小口証券の実現」です。

従来、不動産業界では、REIT(不動産投資信託)などにより、不動産の証券化が進められていました。

しかし、証券化できる不動産の規模は、中〜大規模なものに限定されており、たとえば、山村で廃屋になった古民家、ニュータウンで独居老人の住んでいた空き家、などはあまり対象とされてきませんでした。

また、REITはリスクマネジメントの観点から多様な不動産プロジェクトへの投資をおこなう一方で、単一の不動産物件に対して投資をおこなうことはありません。実際に不動産を購入、運用するのは投資法人であり、投資家に物件の所有権がないため、共同所有することもできませんでした。

これは、従来の不動産ファンドでは組成運用コストや所有権の授受という面で小規模な不動産ではそのコストを回収しきることができず、ファンド組成が難しかったためです。

この課題に対して、ブロックチェーン技術を用いることで、トークンなどの活用により証券をデジタル化して流通性を高めようという動きがあります。いわゆる「不動産STO(セキュリティ・トークン・オファリング)」という方法です。

STOとは、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法のことです。有価証券は、債権や株式、投資信託など、財産的な裏付けや権利を持っており、その権利を他人に移転したり、行使したりする際に受渡・占有が必要とされる証券のことを指します。

不動産の販売主と購入者が直接取引所とを介してトークンの売買をおこなうことで、個人単位で不動産を共同所有できるようになりました。また、二次流通に関しても、トークンの売買だけで不動産の売買が完了するため、手軽さも兼ね備えています。

こうした取り組みが進むことで、REIT市場が取りきれなかった新たな不動産マーケットの開拓が進んでいくと見られています。

STOについて詳しく知りたい方は下記の記事も併せてご覧ください。

「不動産×ブロックチェーン」の事例

株式会社LIFULL

出典:LIFULL HOME’S facebook

「不動産×ブロックチェーン」の代表事例として注目を集めているのが、不動産情報サイトを運営する株式会社LIFULLによる不動産情報コンソーシアム「ADRE(Aggregate Data Ledger for Real Estate、アドレ)」です。

この取り組みは、「異業種プレーヤー間で不動産データを共有・連携することにより、不動産業界の抱える課題を解決するとともに、不動産業界・取引市場を発展させる」ことを目的に様々な業界のプレイヤーがコンソーシアムを組んで設立されました。

出典:LIFULL HOME’S PRESS

従来の物件ポータルサイトでは、リアルタイムに最新の情報を更新できるわけではありません。気に入った物件を問い合わせてみると、すでに先約が入ってしまっていることは往々にしてあることです。また、同じ物件なのに家賃や初期費用がバラバラでどれが正確な情報なのかよくわからないということも少なくないです。

不動産業界においては、1つの不動産に関する情報が、仲介会社や管理会社、インフラ会社などにバラバラに保有されているため、こうした問題が起こりやすいといえるでしょう。

こうした状況でプラットフォームデータベースが各社に共有されれば、これまで各社の中で個別に管理され、取引コストのもととなっていた情報がスムーズに共有され、不動産賃貸の領域において、様々なコストダウンが進むと見られています。

そして、こうしたADREによる「情報の非対称性」の解決をサポートしている技術が、ブロックチェーンです。業界横断プラットフォームの中核技術としてブロックチェーンを採用した理由として、同社は「分散管理型のブロックチェーンは公的プラットフォームの構築に向いている」としています。

これは、本記事でも説明した通り、「オープン」で「中央管理者がいない」基盤であるブロックチェーンが、プレイヤー数が多く、利害関係が一致しづらい不動産業界の課題解決に向いていることを示す好例だと言えるでしょう。

2019年7月に物件情報の特定・識別を実施するため、不動産IDの開発に着手すると、2020年4月には丸紅株式会社、株式会社GA technologiesら新たなメンバーも加わり、2020年10月に不動産ID発行システムのβ版を公開する運びとなり、一般社団法人不動産情報共有推進協議会を設立するなど、着々と活動の裾野を広げています。

また、LIFULLは流行りの不動産STOのパイオニアとも呼べる存在です。「葉山の古民家宿づくりファンド」と呼ばれる、築80年の葉山の古民家宿づくりプロジェクトにおいてSTOを実施。歴史的価値のある建築物を有効活用するための資金調達としてだけではなく、古民家が綺麗に生まれ変わってさらなる付加価値が生じた際には、簡単に持ち分譲渡の第三者への持分譲渡が可能になるモデルとなっています。

出典:LIFULL

これは一般投資家向け不動産STOとしては国内初の事例であり、同社の不動産領域へのブロックチェーン導入の関心の高さを示す好例のひとつです。

Propy

出典:Cryptonaute

「不動産×ブロックチェーン」の海外事例として有名なものに、オンライン国際不動産売買プラットフォーム「Propy(プロピー)」があります。

Propyは、2015年に設立した、アメリカのカリフォルニアに拠点を置くフィンテック系ベンチャー「Propy Inc.(プロピーインコーポレーテッド)」が開発した分散型の所有権登録が可能な不動産マーケットプレイスです。

国際的な不動産取引シーンでは、売買を仲介するブローカー・取引の安全性を保証するエスクロー・土地の登記をおこなうタイトルエージェント・送金業者など複数の仲介業者とやり取りをする必要があります。

こうした取引の長期化や詐欺といったリスクや大量の書類を作成するための事務コストに対して、Propyはブロックチェーン上のスマートコントラクトを利用することで、買い手、売り手、仲介業者、エスクロー/タイトルエージェント/公証人を一か所に集め、取引を円滑化しようとしています。

また、Propyではさらに不動産取引を迅速におこなうためにNFTを使用しています。仕組みとしては、買い手から売り手にオファーを出し、取引内容が合意できれば、所有権を紐づけたNFTの授受と金銭の授受が同時におこなわれます。

NFTとは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。

【初心者向け】NFTとは何か?どういう仕組みなのか?簡単に・わかりやすく解説!

煩雑な本人確認や、書類のやり取りが省略され、手続きはすべてオンライン上で完結します。そのため、海外からも買い手がオファーを出せるようになります。

最終的には、下の図のような売り手と買い手、取引に必要な情報を調査する仲介者だけからなるP2P不動産取引プラットフォームの実現を目指しており、不動産投資の自動化と民主化に注力しています。

出典:PROPY

Propyも、すでに説明した不動産業界における情報の非対称性に伴う取引リスク(とその結果として必要になる取引コスト)を減らすために、ブロックチェーン技術を活用している好例だといえるでしょう。

NOT A HOTEL NFT

出典:NOT A HOTEL

PropyのようなNFTによる不動産管理は、国内でもすでにサービス化が進んでいます。それがNOT A HOTEL NFTです。

NOT A HOTEL NFTは不動産資産をシェア購入(共同持分)できるサービスである「NOT A HOTEL」という同社の別サービスのホテル利用権についてNFT化をおこない、物件を購入せずとも、より安く、1日単位でNOT A HOTELの物件に宿泊できるサービスとなっています。

日本において、NFTを含む無体物であるデータは民法上の所有権の対象にはなりません。したがって、所有は共同持分として実際の別荘のように保有するモデルとしてローンチし、利用権についてはNFTを活用することで二次流通にも対応できるようになっています。

また、ブロックチェーンを用いることで不動産利用の安全性・防犯性も確保。物理キーとは異なり、勝手に改ざん・複製できない(複製が検知される)ことで、47年間という建物の法定耐用年数と同じ期間の利用期間であっても、メンバー全員が安心できる設計となっています。

NOT A HOTELはこの他にも「NOT A HOTEL DAO」と呼ばれるEthereumブロックチェーン上で発行される仮想通貨(資金決済法2条14項1号が定めるところの1号暗号資産)を活用した、自社施設や開発用の土地の保有・運用プロジェクトを計画中です。

この仮想通貨はNOT A HOTELが運用する不動産を裏付けとしたRWA(現実資産)トークンということもあり、今後の動向に注目が集まっています。

株式会社RESA

出典:満室ナビ

株式会社RESAは、賃貸住宅市場における借主と貸主の直面する複雑な契約手続きと入居者確保という問題を、ブロックチェーン技術を駆使して解決する特許を取得しています。

同社ではこれまで、空室の解消に向けて「満室ナビ」というサービスを提供しています。満室ナビは、AI活用により賃貸用不動産の投資効率を向上させるツールです。満室となっている物件のデータを収集し、そのパターンを学習することでデータに基づいた設備投資が可能になります。

しかし、集客段階においては依然ポータルサイトからの誘導に依存する傾向があり、入居者確保は投資効率に大きく影響します。また、借主は物件検索から賃貸借契約、電気・ガス・水道のインフラ契約、住民票の移転など数多くの手続きが必要で、その煩雑さが大きなストレスになっています。

​​そこでこれらの課題を解決するために、借主が好む成約率の高い物件を多数マーケットプレイスに掲載し、ブロックチェーンを活用して契約手続きをスムーズにおこなう特許を取得しました。借主の入退去手続きをスマートコントラクト化することで、貸主の入居者確保も促進されると見込まれています。

新たな賃貸住宅市場の形をブロックチェーンで模索したビジネスの事例としてご紹介しました。

ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜

出典:SKY TREK

国内で数多くの不動産STOをおこなっているケネディクス株式会社のSTO事例のなかでもとくに目を引くのは東京ディズニーリゾートオフィシャルホテルである「グランドニッコー東京ベイ 舞浜」を裏付け資産とした「ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜(譲渡制限付)」の運用でしょう。

JR京葉線・武蔵野線「舞浜」駅より無料シャトルバスで7分、ディズニーリゾートライン「ベイサイド・ステーション」駅より徒歩約4分に位置する同ホテルは、南欧プロバンスの街並みをイメージコンセプトにしたアトリウムが特徴的な都市型リゾートホテルで、 2023年春には全客室のリニューアルを完了しています。

出典:ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜

今回取得の対象となるのは、信託受益権(対象となる資産を信託し、当該資産から発生する経済的利益を受け取る権利)の準共有持分(所有権以外の財産権を複数人で共有する) 25%ベースとなっています。

1口当たりの発行価格は100万円と高額ではありますが、固定賃料の安定性に加えて変動賃料のアップサイドポテンシャルからなる長期賃貸借契約であり、絶好のロケーションからも人気のSTOとなりました。

発行するSTの口数は5,815口で総額は58億1,500万円の大型プロジェクトでしたが資金調達額の募集は無事完了。運用期間は約6年10ヵ月とのことで、話題性だけではなくどのような結末をたどるのか楽しみな事例です。

まとめ

本記事では不動産分野へのブロックチェーン導入可能性について解説しました。

ブロックチェーンというと新技術としてとりあえず実証してみる、という企業も多かったですが、こと不動産分野においては個人情報や登記とブロックチェーンの耐改ざん性という相性の良さから本格的なビジネス導入も進んでいます。

約50兆円という巨大マーケットにおいて、ブロックチェーンは未知の可能性を秘めています。不動産業界進化の起爆剤として、ブロックチェーンは大きく期待されることでしょう。新たなビジネスモデルの登場が待たれます。

株式会社トレードログは、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。