ブロックチェーンは不動産業界50兆円市場の切り札となりうるか?

不動産業界は2024年現在、国内約33万社、市場規模約50兆円を誇る巨大産業です。その不動産業界ではいま、ブロックチェーンを活用したビジネスが増えています。「不動産×ブロックチェーン」はどういった面で業界を変革できるのか?事例も交えて解説します!

不動産業界の有望技術として注目を集めるブロックチェーン

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不動産業界は、国内30万社以上のプレイヤーが存在し、市場規模は約50兆円ともいわれる巨大産業です。国土交通省の不動産業ビジョン2030によると、全産業に占める不動産業の法人数比率は11.5%と、他産業と比較してもその規模の大きさが窺い知れます。

またその歴史も古く、昔からの取引関係や商慣行などが色濃く残り続けている業界でもあります。そうした不動産業界で、近年、ブロックチェーン技術を活用した新たなサービスがいくつもローンチされ、業界の課題解決に対する期待が高まっています。

例えば、大手ハウスメーカーの積水ハウスでは、ブロックチェーンを活用した次世代不動産プラットフォーム構想が推し進められています。

2023年5月には国土交通省公募の「不動産IDを活用した官民データ連携促進モデル事業」において、同社が研究を進める「不動産IDを用いた転入居手続きにおける自治体連携DXに関する取り組み」が採択されています。

出典:積水ハウス

現在、同社ではすでに賃貸住宅の入居申込みで入力された氏名、住所などの利用者の情報を電気・ガス・光回線・引っ越しの民間企業にブロックチェーンを用いて連携することで、引っ越し時に必要な手続きを簡素化できるサービスを実施しています。

今回のモデル事業では、従来モデルのような民間企業だけでなく、水道使用開始の手続きや転出・転入届という自治体への届け出も情報連携により完結させることで、利用者の更なる利便性の向上を目指します

引っ越しを経験した方であればご存じのように、転居後は引っ越し、電話、電気、ガスなど様々な生活インフラの変更や申し込み等、いくつもの手続きが必要です。そのなかでも市役所・区役所へ直接届け出なければならない転入届は、多くのサラリーマンの勤務時間と役所の業務時間が重なっており、昼休みや場合によっては時間休を取得するケースもあります。

こういった問題に対して、データの真正性が担保されたブロックチェーンを基盤とするシステムを導入することにより、不動産を一意に特定できる「不動産ID」を企業や自治体とシームレスに連携することが可能になります。

このサービスが大規模に展開されれば、いままで手作業で照会していた不動産の業務が効率化され、私たちはスマホでホテルを予約するような手軽さで引っ越しが可能になるでしょう。

こうした、ブロックチェーンを利用して不動産業界に変革をもたらそうという動きが、近年加速してきています。なぜ不動産業界でブロックチェーンが注目されているのでしょうか?まずはブロックチェーンの概要について解説します。

そもそもブロックチェーンとは?

ブロックチェーン=管理者不要でデータを安全に記録・共有する技術

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ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術です。

ブロックチェーンはデータベースの一種ですが、そのデータ管理方法は従来のデータベースとは大きく異なります。従来の中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存されるため、サーバー障害やハッキングに弱いという課題がありました。一方、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、ハッキングにも強いシステムといえます。

また、ブロックチェーンでは、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。ハッシュ値とは、あるデータをハッシュ関数というアルゴリズムによって変換された不規則な文字列のことで、データが少しでも変わると全く異なるハッシュ値が生成されます。新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みると、それ以降のブロックのハッシュ値を全て再計算する必要があり、改ざんが非常に困難な仕組みとなっています。

さらに、ブロックチェーンでは、マイニングという作業を通じて、取引情報のチェックと承認を行う仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。マイニングとは、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムな値を代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しい値(ナンス)を見つけ出す作業のことで、最初にマイニングに成功した人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

このように、ブロックチェーンは分散管理、ハッシュ値、マイニングなどの技術を組み合わせることで、データの改ざんや消失に対する高い耐性を持ち、管理者不在でもデータが共有できる仕組みを実現しています。

詳しくは以下の記事でも解説しています。

ブロックチェーンのビジネスモデル進化

ブロックチェーンは、この10年間あまりで技術の進展とともに、技術の応用領域、そしてビジネスモデルを進化させてきました。進化の歴史は、ブロックチェーン1.0、2.0、3.0という呼称で知られています。

ブロックチェーンは、2008年に誕生した当時はまだ、仮想通貨ビットコインの中核技術の一つに過ぎませんでした(ブロックチェーン1.0)。

その後、Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)が、ビットコインの仕組みを仮想通貨以外の領域に応用するべくEthereumを開発し、個人間送金や契約の自動履行など、主に金融領域でのビジネス活用が盛んに行われるようになりました(ブロックチェーン2.0)。

そして、近年、Ethereumのtps(トランザクション速度)の遅さを改善したEOS(エオス)、toB企業向け開発に特化したGoQuorumHyperledger Fabricなどのプラットフォームが登場し、またブロックチェーン技術の有用性に対する社会の関心が高まったことを背景に、非金融領域へのビジネス活用が急速に進み始めています(ブロックチェーン3.0)。

不動産業界は、このブロックチェーン3.0の代表的な応用領域といえるでしょう。

「不動産×ブロックチェーン」が実現する2つのアプローチ

近年、不動産業界でブロックチェーンが注目される背景には、「オープン」「真正性」「分散的」といったブロックチェーンの諸特徴と不動産業界が抱えている課題との相性の良さがあります。ここでは、ブロックチェーンが不動産業界で実現できることについて見ていきます。

安全かつ自動的なデータ共有

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不動産業界にブロックチェーンを導入することで実現する未来の一つは、安全かつ自動的なデータ共有です。

不動産取引は参加しているプレイヤーが多いうえに、セキュリティ上の理由からそれぞれのプレイヤーが持っている情報を公には公開できない、いわゆる「情報の非対称性」が存在しています。そのため、ひとつの取引が完了するためにいくつもの手続きや情報確認を重ねる必要があり、本人のスケジュールに加えて金融機関の営業時間や不動産業者の定休日なども考慮すると、どうしてもスローな展開になりがちなのです。

以下に、場面ごとに不動産や住所データの非対称性や連携における課題をピックアップしました。

  • 登記
    • 「役所」と「登記申請者」間の非対称性が課題
    • 役所からすると、「不動産の所有者は本当にこの登記申請者本人なのか?」を確かめることが難しい。そのため、権利証明や複雑な登記申請手続きが必要となり、人件費や確認作業が必要となる。場合によっては確認ミスによって不正確なデータが登録されてしまうことも
    • 登記申請者からすると、登録のためだけにわざわざ法務局などに出向いて書類を申請しなければならない。登記に必要な情報の整理や提出に手間がかかる
  • 売買
    • 「買い手」と「売り手」間の非対称性が問題
    • 買い手からすると、「この人は本当に所有しているのか?」「隠れ抵当権がついてないか?」「入居者間や近隣で厄介なトラブルはないか?」という疑念がつきまとう
    • 売り手からすると、「そもそも適正な価格なのか?」「本当に支払い能力があるのか?」という疑念が付きまとってしまう
    • 双方の信用を担保するための第三者仲介が必要となり、「両手取引」における高い二重の手数料がコストとしてのしかかる
  • 賃貸
    • 「借り手」と「貸し手」間の非対称性が課題
    • 借り手からすると、「ここは事故物件ではないか?」「家主はなにかあったときにしっかりサポートしてくれるのか?」など見た目だけで判別できない情報が必要。また、引っ越しの際には自治体に直接、転出届を送ったり、インフラの開通手続き(または移転手続き)をしなければならない
    • 貸し手からすると、「この人は毎月きちんと家賃を支払ってくれるのか?」「この人はモンスター住民にならないか?」といった不安が生じる
    • 「仲介業者」と「管理会社」間の非対称性が課題となるケースも
    • 内見時に管理会社の許可が必要であり、営業時間や休業日の関係で内見ができず、契約の機会を逃してしまう

ここに挙げた例は一部に過ぎず、実際のシーンごとに情報連携がスムーズでないことに起因するトラブルや困りごとはたくさんあります。

こうしたプレイヤー間の情報非対称性に起因した不動産取引の課題に対して、ブロックチェーンは、オープンかつデータの改ざんのリスクが限りなく低いデータ基盤による第三者を排除した分散型の管理手法を提供できます。したがって、情報の真正性を担保したまま業種の垣根を超えてスムーズに情報を取得することが可能になります。

また、トランザクション(取引)や外部の情報をもとに、あらかじめ設定されたルールで自動的に実行されるプログラムであるスマートコントラクトも、不動産契約をスムーズ化させるでしょう。

一般的な契約は、契約当事者が書面で契約内容を定め、契約に基づいて取引が行われます。スマートコントラクトによる契約であれば、従来、人の手で逐一実行せざるを得なかった不動産取引における付随業務を、ブロックチェーン基盤上でおこなうことができます

法的課題など技術面以外で解決しなければならない課題もありますが、このスマートコントラクトを活用することで、条件が合致した時点で自動で契約が有効になるような仕組みも将来的には実現可能です。

不動産の小口証券化

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不動産業界の課題でもう一つ注目されているのが、「小口証券の実現」です。

従来、不動産業界では、REIT(不動産投資信託)などにより、不動産の証券化が進められていました。

しかし、証券化できる不動産の規模は、中〜大規模なものに限定されており、たとえば、山村で廃屋になった古民家、ニュータウンで独居老人の住んでいた空き家、などはあまり対象とされてきませんでした。

また、REITはリスクマネジメントの観点から多様な不動産プロジェクトへの投資をおこなう一方で、単一の不動産物件に対して投資をおこなうことはありません。実際に不動産を購入、運用するのは投資法人であり、投資家に物件の所有権がないため、共同所有することもできませんでした。

これは、従来の不動産ファンドでは組成運用コストや所有権の授受という面で小規模な不動産ではそのコストを回収しきることができず、ファンド組成が難しかったためです。

この課題に対して、ブロックチェーン技術を用いることで、トークンなどの活用により証券をデジタル化して流通性を高めようという動きがあります。いわゆる「不動産STO(セキュリティ・トークン・オファリング)」という方法です。

STOとは、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法のことです。有価証券は、債権や株式、投資信託など、財産的な裏付けや権利を持っており、その権利を他人に移転したり、行使したりする際に受渡・占有が必要とされる証券のことを指します。

不動産の販売主と購入者が直接取引所とを介してトークンの売買をおこなうことで、個人単位で不動産を共同所有できるようになりました。また、二次流通に関しても、トークンの売買だけで不動産の売買が完了するため、手軽さも兼ね備えています。

こうした取り組みが進むことで、REIT市場が取りきれなかった新たな不動産マーケットの開拓が進んでいくと見られています。

STOについて詳しく知りたい方は下記の記事も併せてご覧ください。

「不動産×ブロックチェーン」の事例

株式会社LIFULL

出典:LIFULL HOME’S facebook

「不動産×ブロックチェーン」の代表事例として注目を集めているのが、不動産情報サイトを運営する株式会社LIFULLによる不動産情報コンソーシアム「ADRE(Aggregate Data Ledger for Real Estate、アドレ)」です。

この取り組みは、「異業種プレーヤー間で不動産データを共有・連携することにより、不動産業界の抱える課題を解決するとともに、不動産業界・取引市場を発展させる」ことを目的に様々な業界のプレイヤーがコンソーシアムを組んで設立されました。

出典:LIFULL HOME’S PRESS

従来の物件ポータルサイトでは、リアルタイムに最新の情報を更新できるわけではありません。気に入った物件を問い合わせてみると、すでに先約が入ってしまっていることは往々にしてあることです。また、同じ物件なのに家賃や初期費用がバラバラでどれが正確な情報なのかよくわからないということも少なくないです。

不動産業界においては、1つの不動産に関する情報が、仲介会社や管理会社、インフラ会社などにバラバラに保有されているため、こうした問題が起こりやすいといえるでしょう。

こうした状況でプラットフォームデータベースが各社に共有されれば、これまで各社の中で個別に管理され、取引コストのもととなっていた情報がスムーズに共有され、不動産賃貸の領域において、様々なコストダウンが進むと見られています。

そして、こうしたADREによる「情報の非対称性」の解決をサポートしている技術が、ブロックチェーンです。業界横断プラットフォームの中核技術としてブロックチェーンを採用した理由として、同社は「分散管理型のブロックチェーンは公的プラットフォームの構築に向いている」としています。

これは、本記事でも説明した通り、「オープン」で「中央管理者がいない」基盤であるブロックチェーンが、プレイヤー数が多く、利害関係が一致しづらい不動産業界の課題解決に向いていることを示す好例だと言えるでしょう。

2019年7月に物件情報の特定・識別を実施するため、不動産IDの開発に着手すると、2020年4月には丸紅株式会社、株式会社GA technologiesら新たなメンバーも加わり、2020年10月に不動産ID発行システムのβ版を公開する運びとなり、一般社団法人不動産情報共有推進協議会を設立するなど、着々と活動の裾野を広げています。

また、LIFULLは流行りの不動産STOのパイオニアとも呼べる存在です。「葉山の古民家宿づくりファンド」と呼ばれる、築80年の葉山の古民家宿づくりプロジェクトにおいてSTOを実施。歴史的価値のある建築物を有効活用するための資金調達としてだけではなく、古民家が綺麗に生まれ変わってさらなる付加価値が生じた際には、簡単に持ち分譲渡の第三者への持分譲渡が可能になるモデルとなっています。

出典:LIFULL

これは一般投資家向け不動産STOとしては国内初の事例であり、同社の不動産領域へのブロックチェーン導入の関心の高さを示す好例のひとつです。

Propy

出典:Cryptonaute

「不動産×ブロックチェーン」の海外事例として有名なものに、オンライン国際不動産売買プラットフォーム「Propy(プロピー)」があります。

Propyは、2015年に設立した、アメリカのカリフォルニアに拠点を置くフィンテック系ベンチャー「Propy Inc.(プロピーインコーポレーテッド)」が開発した分散型の所有権登録が可能な不動産マーケットプレイスです。

国際的な不動産取引シーンでは、売買を仲介するブローカー・取引の安全性を保証するエスクロー・土地の登記をおこなうタイトルエージェント・送金業者など複数の仲介業者とやり取りをする必要があります。

こうした取引の長期化や詐欺といったリスクや大量の書類を作成するための事務コストに対して、Propyはブロックチェーン上のスマートコントラクトを利用することで、買い手、売り手、仲介業者、エスクロー/タイトルエージェント/公証人を一か所に集め、取引を円滑化しようとしています。

また、Propyではさらに不動産取引を迅速におこなうためにNFTを使用しています。仕組みとしては、買い手から売り手にオファーを出し、取引内容が合意できれば、所有権を紐づけたNFTの授受と金銭の授受が同時におこなわれます。

NFTとは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。

【初心者向け】NFTとは何か?どういう仕組みなのか?簡単に・わかりやすく解説!

煩雑な本人確認や、書類のやり取りが省略され、手続きはすべてオンライン上で完結します。そのため、海外からも買い手がオファーを出せるようになります。

最終的には、下の図のような売り手と買い手、取引に必要な情報を調査する仲介者だけからなるP2P不動産取引プラットフォームの実現を目指しており、不動産投資の自動化と民主化に注力しています。

出典:PROPY

Propyも、すでに説明した不動産業界における情報の非対称性に伴う取引リスク(とその結果として必要になる取引コスト)を減らすために、ブロックチェーン技術を活用している好例だといえるでしょう。

NOT A HOTEL NFT

出典:NOT A HOTEL

PropyのようなNFTによる不動産管理は、国内でもすでにサービス化が進んでいます。それがNOT A HOTEL NFTです。

NOT A HOTEL NFTは不動産資産をシェア購入(共同持分)できるサービスである「NOT A HOTEL」という同社の別サービスのホテル利用権についてNFT化をおこない、物件を購入せずとも、より安く、1日単位でNOT A HOTELの物件に宿泊できるサービスとなっています。

日本において、NFTを含む無体物であるデータは民法上の所有権の対象にはなりません。したがって、所有は共同持分として実際の別荘のように保有するモデルとしてローンチし、利用権についてはNFTを活用することで二次流通にも対応できるようになっています。

また、ブロックチェーンを用いることで不動産利用の安全性・防犯性も確保。物理キーとは異なり、勝手に改ざん・複製できない(複製が検知される)ことで、47年間という建物の法定耐用年数と同じ期間の利用期間であっても、メンバー全員が安心できる設計となっています。

NOT A HOTELはこの他にも「NOT A HOTEL DAO」と呼ばれるEthereumブロックチェーン上で発行される仮想通貨(資金決済法2条14項1号が定めるところの1号暗号資産)を活用した、自社施設や開発用の土地の保有・運用プロジェクトを計画中です。

この仮想通貨はNOT A HOTELが運用する不動産を裏付けとしたRWA(現実資産)トークンということもあり、今後の動向に注目が集まっています。

株式会社RESA

出典:満室ナビ

株式会社RESAは、賃貸住宅市場における借主と貸主の直面する複雑な契約手続きと入居者確保という問題を、ブロックチェーン技術を駆使して解決する特許を取得しています。

同社ではこれまで、空室の解消に向けて「満室ナビ」というサービスを提供しています。満室ナビは、AI活用により賃貸用不動産の投資効率を向上させるツールです。満室となっている物件のデータを収集し、そのパターンを学習することでデータに基づいた設備投資が可能になります。

しかし、集客段階においては依然ポータルサイトからの誘導に依存する傾向があり、入居者確保は投資効率に大きく影響します。また、借主は物件検索から賃貸借契約、電気・ガス・水道のインフラ契約、住民票の移転など数多くの手続きが必要で、その煩雑さが大きなストレスになっています。

​​そこでこれらの課題を解決するために、借主が好む成約率の高い物件を多数マーケットプレイスに掲載し、ブロックチェーンを活用して契約手続きをスムーズにおこなう特許を取得しました。借主の入退去手続きをスマートコントラクト化することで、貸主の入居者確保も促進されると見込まれています。

新たな賃貸住宅市場の形をブロックチェーンで模索したビジネスの事例としてご紹介しました。

ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜

出典:SKY TREK

国内で数多くの不動産STOをおこなっているケネディクス株式会社のSTO事例のなかでもとくに目を引くのは東京ディズニーリゾートオフィシャルホテルである「グランドニッコー東京ベイ 舞浜」を裏付け資産とした「ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜(譲渡制限付)」の運用でしょう。

JR京葉線・武蔵野線「舞浜」駅より無料シャトルバスで7分、ディズニーリゾートライン「ベイサイド・ステーション」駅より徒歩約4分に位置する同ホテルは、南欧プロバンスの街並みをイメージコンセプトにしたアトリウムが特徴的な都市型リゾートホテルで、 2023年春には全客室のリニューアルを完了しています。

出典:ケネディクス・リアルティ・トークン グランドニッコー東京ベイ 舞浜

今回取得の対象となるのは、信託受益権(対象となる資産を信託し、当該資産から発生する経済的利益を受け取る権利)の準共有持分(所有権以外の財産権を複数人で共有する) 25%ベースとなっています。

1口当たりの発行価格は100万円と高額ではありますが、固定賃料の安定性に加えて変動賃料のアップサイドポテンシャルからなる長期賃貸借契約であり、絶好のロケーションからも人気のSTOとなりました。

発行するSTの口数は5,815口で総額は58億1,500万円の大型プロジェクトでしたが資金調達額の募集は無事完了。運用期間は約6年10ヵ月とのことで、話題性だけではなくどのような結末をたどるのか楽しみな事例です。

まとめ

本記事では不動産分野へのブロックチェーン導入可能性について解説しました。

ブロックチェーンというと新技術としてとりあえず実証してみる、という企業も多かったですが、こと不動産分野においては個人情報や登記とブロックチェーンの耐改ざん性という相性の良さから本格的なビジネス導入も進んでいます。

約50兆円という巨大マーケットにおいて、ブロックチェーンは未知の可能性を秘めています。不動産業界進化の起爆剤として、ブロックチェーンは大きく期待されることでしょう。新たなビジネスモデルの登場が待たれます。

トレードログ株式会社は、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

ビットコインETFとは?仕組みやメリットをわかりやすく解説!

2024年1月、アメリカの規制当局がビットコイン現物ETFの承認を発表しました。この決定はデジタル資産業界においては画期的ともいえる内容であり、たちまちビットコイン市場全体が急騰する結果となりました。

今回はそんな国内外から大注目を集めているビットコインETFについて、仕組みやメリットなどについてイチから解説していきます。

※本記事ではビットコインETFの基礎知識や時事ニュースに関連した情報掲載を行っておりますが、特定の銘柄推奨や投資活動の勧誘を目的とするものではありません。内容についても執筆者個人の見解であり、その正確性や信頼性を保証するものではありません。投資の最終判断は、ご自身で行っていただきますようお願いいたします。

  1. ついにSECがビットコイン現物ETFを初承認!
  2. ETFとは?
  3. ビットコインETFとは?
  4. ビットコイン現物ETFが実現すると何が変わる?
  5. ビットコインETFの注意点
  6. 日本でもビットコインETFに投資できるの?

ついにSECがビットコイン現物ETFを初承認!

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米証券取引委員会(SEC)は2024年1月10日、暗号資産ビットコインについて、現物投資型の上場投資信託(ETF)の上場申請を承認したと発表しました。

今回、SECが承認したのは、ブラックロック、アーク・インベストメンツ、21シェアーズ、フィデリティ、グレイスケールなどが申請した11のETF。一部の銘柄は早ければ1月11日から各証券取引所に上場し、取引が可能になるとしています。

SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION (Release No. 34-99306; File Nos. SR-NYSEARCA-2021-90

現物型ビットコインETFの承認は米国史上初のケースであり、時価総額約9000億ドル規模を誇る世界一のデジタル資産の新たな歴史の1ページとなる画期的な出来事といえるでしょう。

年明けには、ビットコイン現物投資型ETFをSECが承認したという虚偽の投稿がSECの公式Xアカウントに一時表示されるなど、様々なハプニングがあった本件。ビットコイン(BTC)の価格変動に影響を与える多くの要素のなかでも、資金流入という面でとくに大きな意味を持つビットコインの現物ETFの承認は新年を賑わせるビッグニュースとなりました。

SECとは?

SECとは、「Securities and Exchange Commission」の略で、日本語では「証券取引委員会」と呼ばれています。投資家保護および公正な証券取引を目的として1934年に設立された連邦政府機関です。

SECは投資家の保護と公正な市場を目的とし、株式や債券などの証券取引の監督・監視を行っています。証券の発行や流通といった証券市場を取り締まる規制について、絶大な権限を持っている機関です。

日本でも証券取引等監視委員会が同様の役割を担っていますが、金融庁の傘下機関であり、違反者に対する処分権限のない機関です。 一方の SECは、インサイダー取引や相場操縦など不公正取引に対しての処分権限を有しており、司法に準じる権限を持った強力な独立機関となっています。

アメリカは現在の金融市場、そして暗号資産の中心地として栄えています。そのため、多くのビットコインETFもまたアメリカの証券取引所への上場をターゲットにしてきました。ETFを金融市場に上場する場合は、その国の規制当局の承認を得る必要があるため、ビットコインETFを語るうえではSECの存在が非常に重要になっているというわけです。

なぜいま、ビットコイン現物ETFが認められたのか?

ビットコイン現物ETFを推進したい勢力とSECとの間には長い間、確執がありました。2013年に初期のビットコイン投資家として有名なウィンクルボス兄弟のビットコインETF申請を却下して以降、SECは10年余り「反対」の姿勢を取り続けてきました。

長らく詐欺や市場操作などに悪用される可能性を否定できないという主張を続けてきたSECが、一転してビットコインETFを承認するに至ったのはなぜでしょうか?

その答えは、米連邦控訴裁判所(連邦高裁)の現物ETFに対する判断にあります。

資産運用会社のグレースケールは、GBTC(ビットコイン市場に連動した投資成果を追求する投資信託)のETF転換申請を認めなかったSECの決定を不服として連邦高裁へ提訴していました。そして、その判決が2023年8月に下されました。

その内容は、グレースケールによる申請を棄却したSECの判断は誤りだというもの。SECが主張し続けてきた投資家を保護できないという却下理由は恣意的で気まぐれなものという認定を受けました。実は、先物でのビットコインETFはすでに実用化に至っており、この仕組みを流用すれば投資家保護には事足りるというグレースケールの主張が認められたのです。

したがって、この判決によって合理的な仕組みやその説明さえあれば、SECとしては現物ETFを承認せざるを得なくなったというわけです。こうした背景があり、今回ようやくビットコイン現物ETFが承認に至りました。

ETFとは?

ビットコインETFについて見る前に、そもそもETFとはどういう仕組みなのか理解していきましょう。

ETFは、「Exchange Traded Fund」の略で、日本語では「上場投資信託」あるいは「指数連動型上場投資信託」と表現されます。

投資信託とは、投資家から集めたお金を一つの大きな資金としてまとめ、運用の専門家であるファンドマネージャーが株式や債券などに投資・運用する金融商品のことです。運用益は、分配金として投資額に応じて還元・分配される仕組みとなっています。

指数連動型の投資信託(インデックスファンド)では、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)といった指数に連動した運用をします。ETFもインデックスファンドのようにある特定の指数に連動するように設計されており、なかでもとくに上場して証券取引所で売買される投資信託のことをETFいいます。

ETFと株式、投資信託の違い
出典:NEXT FUNDS

ETFとインデックスファンドの最大の違いは、1日1回算出される基準価額で購入される非上場の投資信託とは異なり、ETFは証券取引所で取引されるため、株式と同様にリアルタイムで価格が変動し、注文や取引が可能になるという点です。

つまり、投資信託は注文を出した時点では取引される価格が分からないのに対して、ETFでは取引したい価格で発注・売買することが可能です。

ビットコインETFとは?

出典:Unsplash

ビットコインを主な投資対象とするETF

ビットコインETFとは、価格がビットコインと連動するように設計された上場投資信託です

ETFには、株式以外にも金(ゴールド)や不動産といったユニークな商品があります。そうした株式以外の銘柄が証券取引所に上場し、個人が取引しやすくなるという特徴があります。このETFの仕組みを活用し、安全で透明性の高いビットコインの取引を実現したのがビットコインETFというわけです。

具体的な仕組みは上場申請されるビットコインETFの商品設計に依存しますが、基本的には金(ゴールド)に連動したETFと同様に、ビットコインの現物価格や先物価格に連動するように設計されています。

現物ETFと先物ETFは何が違う?

ビットコインETFは、ビットコインの先物価格に連動するか現物価格に連動するかによって、「先物型」と「現物型」に分けられます。

アメリカでは2021年10月に承認されていた先物ETFとは、将来のあらかじめ定められた期日に、ビットコインを現時点で取り決めた価格で売買することを約束するETFのことで、現物取引とは異なる価格が形成されます。   

たとえば、先物ETFでビットコインをある期日に10万円で購入することを決めておけば、期日までに相場が変動してビットコインの価格が上昇しようと下落しようと、支払う金額は10万円です。

また、現物ETFでは基本的に取引金額の全額を取引時に用意しなければなりませんが、先物ETFでは取引時点で全額を用意する必要はなく、代わりに「証拠金」と呼ばれる担保を差し入れて取引を行います。

今回、上場が承認された現物ETFは、実際のビットコインの市場価格と連動した形となります。そのため、ビットコイン価格の市場動向に直接影響を受ける要素が強くなります。

また、現物取引となるため、手持ちの資金以上の取引や保有していない株式の売却はできません。したがって、投資金額以上の損失は発生しません。先物型のETFに比べ、リスクを抑えたい場合は現物型のETFへ投資するのが一般的です。

ビットコイン現物ETFが実現すると何が変わる?

出典:shutterstock

ビットコイン投資のハードルが下がる

通常、ビットコインを直接購入する場合には多くの予備知識が必要であり、ウォレットの管理なども自分でやらなければなりません。また、ビットコインでは株のようにストップ高やストップ安が存在しないため、価格の変動率(ボラティリティ)が高くなります。そのため、「ハイリスク・ハイリターン」の金融商品であり、初心者にはハードルが高いです。

ETFであれば取引所で終日売買されるため、証券会社を通じて口座を開設するだけで簡単にビットコインETFに投資できます。その後の運用は投資の専門家がおこなうので、知識がなくても投資パフォーマンスを高められます

信託報酬と呼ばれるサービス料が毎月差し引かれていきますが、投資に必要な金融・経済の知識を個人で身につけるのはとても難しいものです。極論、全く投資をしたことがない人でも安定した運用ができるという点は大きなメリットといえます。

これにより、ビットコイン投資のハードルが引き下げられ、ビットコイン市場の流動性が向上する可能性があります。

実際に、Security.orgが米国人1,500人を対象に実施した世論調査によると、現在仮想通貨を所有していない人の21%が、スポットビットコインETFが承認されれば投資する可能性が高まると回答しています。

税制で有利になる

ビットコインETFの利益にかかる税金の負担は、通常の仮想通貨投資よりも低いです。

通常、ビットコインの利益は税金面で不利とされる「雑所得」に分類されます。雑所得は、総合課税(税率15〜55%)であり、累進課税により利益を上げるほど税金が高くなったりします

また、ビットコインでは、売却時以外にも暗号資産を使って商品を購入したときや暗号資産を購入すると課税所得が発生するケースがあります。

このように、ビットコインは他の投資手法と違って税金に関して特殊であるうえに、制限が多いことがネックとなっています。

一方、ETFの利益は株や投資信託の所得と同様、「譲渡所得」として分類されるため、20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の税金となります。譲渡所得は申告分離課税の対象で税率が一定であるため、雑所得よりも優遇されています。

資金の流入に期待できる

上記2つのメリットの相乗効果によってビットコイン現物ETFの市場が活性化されれば、多額の資金が流入してきます。それに伴っておのずとビットコイン(BTC)の価格も上昇し、市場全体に良い影響を与えることになるでしょう。

実際に様々な機関が同様の予測を立てています。英金融大手スタンダードチャータード銀行は8日、米国でビットコイン現物ETFが承認されれば、2024年に500億ドルから1,000億ドルの資金が流入、ビットコイン価格は2025年末までに20万ドルの水準まで上昇することが可能であると予想しています。

Standard Chartered: BTC Could Hit $200K in 2025 With Spot Bitcoin ETF Approval

また、暗号資産ファンドのギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)は10月のレポートで、ビットコインETFには発行初年度で少なくとも144億ドルの流入が見込まれると予想した。レポートでは「流入額は2年目までに270億ドル、3年目までに390億ドル増加する可能性がある」と指摘しています。

Bitcoin Spot ETFs Could See Inflows of $14.4B in First Year, Galaxy Says

さらに、Fundstrat Global Advisorsの著名アナリストであるトム・リー氏も1月10日、米CNBCの「Squawk Box」に出演し、米国でビットコイン現物ETFが上場することを前提に、ビットコイン(BTC)の価格は5年後までに50万ドルに到達しうるとの見方を示しています。

Bitcoin could hit $150,000 in the next 12 months and half a million in 5 years: Fundstrat’s Tom Lee

ビットコインETFの注意点

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ビットコインETFには様々なメリットがあると紹介してきましたが、その反面、注意しなければいけない点もあります。なかでも投資という性質上、流動性不足・価格操作への懸念は切っても切れない関係にあるでしょう

SECが指摘していた投資家保護が万全でないという点は単なる嫌がらせではありません。ビットコインは暗号資産のなかでは高い流動性を誇りますが、それでもなお価格変動が大きいボラティリティの高い金融商品です。投資のプロに運用を任せられるETFであるとはいえ、価格変動があまりにも大きいとその分、投資家のリスクにつながりかねないという問題は依然として残ります。

そのためビットコインETFは、ボラティリティが大きいので価格下落リスクを踏まえたうえで慎重に投資判断を行う必要があります。

さらに、暗号資産市場は詐欺的あるいは価格操作といった行為を排除しきれていません。顧客に商品を売買させるために取引業者が自己売買を繰り返す「仮装売買」や、売り手と買い手が通謀して売買を行うような「馴合売買」といった意図的に出来高を上げて売買が活発に行われているように見せかける動きには注意が必要です。

SECの委員長を務めるゲイリー・ゲンスラー氏も今回の解禁を受け、SEC公式サイト上で声明を発表。「主に投機的で価格変動の大きな資産であり、ランサムウェア、マネーロンダリング、制裁回避、テロ資金調達などの非合法活動にも使われている」と警鐘を鳴らしています。

SEC.gov | Statement on the Approval of Spot Bitcoin Exchange-Traded Products

日本でもビットコインETFに投資できるの?

アメリカで承認されたビットコイン現物ETFですが、日本のマーケットでは、2024年1月時点でビットコインETFの取り扱いはありません。しかし今後、日本でビットコインETFが承認される可能性は十分にあります。

そもそも、日本の証券会社において暗号資産を用いた金融商品は現時点では開発できません。これは、暗号資産が投資信託法施行令3条の「特定資産」に含まれていないからです。特定資産でなければ投資信託に組み入れられず、証券会社各社は国内ETFを組成できないということになります。

また、外国のETFであっても国内の証券会社が国内の顧客を対象に商品を販売する際には、その外国のETFに関する投資信託約款等を金融庁に対して届け出たうえで外国投資信託として認定される必要があります。

「外国投信」の定義は「投資信託に類するもの」とされており(投資信託法2条24項)、日本の特定資産に含まれないビットコインを組み入れた米国ETFが外国投信として認められるのはハードルが高いのではないか、というのが一般的な見解です。

アメリカでビットコインETFが承認されたというニュースが大々的に報じられると税制や購入方法などを知りたくなりますが、日本でもすぐに承認されるというわけではなさそうです。

まとめ

本記事ではビットコインETFについてまとめました。

アメリカの規制当局がビットコイン現物ETFを認めたというのは、間違いなく暗号資産の将来的なあり方に大きく関わってくるでしょう。

日本においては暗号資産がまだまだ市場に浸透しているとはいい難い状況のうえ、上述のように日本国内では認可を受けておらず、買うことができません。

しかし、今回のSECの発表が金融庁の判断に影響を与える可能性もあります。今後、日本独自のビットコインETFが組成されることや、海外で承認されているビットコインETFが日本国内の証券会社で取り扱われることが待たれます。

能登半島地震で仮想通貨で寄付できる募金先が誕生。新たな被災地支援の形とは?

コラムタイトル

2024(令和6)年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」では、200名を超える死者が出ており、生活インフラにも甚大な被害を与えたことが広く報道されました。甚大な被害をもたらした一方で、Web3.0の視点では、従来では実現できなかった新たな被災地支援の形に注目が集まったのも事実です。それが、仮想通貨による募金です。

本記事では「仮想通貨による募金とは一体どのようなものなのか」「令和6年能登半島地震の募金先は何があるのか」などについてまとめました。

元日の能登半島を激しい揺れと津波が襲う

2024年1月1日、石川県能登半島で震度7の揺れを観測した地震が発生しました。大きな揺れに伴う家屋の倒壊や、大規模な火災により多くの犠牲者が出ており、発生から1年以上経った現在もなお、住宅の復旧が続いている状況です。

震源となった石川県では、ほぼ市内全域で断水が起きている市や大規模停電といったインフラへのダメージも深刻であり、いまだに避難所での避難生活を余儀なくされている被災者の方たちも多数います。

また、地震による被害は震源地の石川県だけではなく、新潟県や富山県でも大きな被害が報告されています。

令和6年能登半島地震に関する募金プロジェクトが立ち上がる

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オンライン化が進む募金活動

甚大な被害をもたらした今回の令和6年能登半島地震を受け、市区町村やボランティア団体など様々な団体が街頭に立って募金活動をおこなう姿が報道されています。

通勤や通学の際に駅前で募金を呼びかけているのを見たという人も多いのではないでしょうか?

一方、今回の募金活動ではこうした従来型の募金に加えて、オンラインによって全国的に多額の寄付金を受け付けている団体も多く見られます。

日本赤十字社では、「令和6年能登半島地震災害義援金」を実施し、ゆうちょ銀行や郵便局からの募金を受け付けました。集まった義援金は被災地の生活支援のために被災都道府県が設置する義援金配分委員会へ全額が送金される仕組みとなっており、寄付先には「被災地全域への寄付(日赤本社開設口座)」と「地域を限定しての寄付(日赤支部開設口座)」の二種類が用意されました。

LINEヤフーも地震発生当日からYahoo!基金において、「令和6年能登半島地震 緊急支援募金」を実施しました。クレジットカードもしくはTポイントを使った寄付が可能となっており、17億円以上の寄付金が集まっています。

フリマアプリ大手のメルカリは、翌日2日から令和6年能登半島地震による被災地の支援を「メルカリ寄付」機能で受付開始しました。メルカリ寄付は、メルカリの売上金から寄付できる機能で、日本財団への寄付を通じて、生活のパイプとなるインフラが機能しなくなったり、住居を失うなどして、避難生活を余儀なくされた人への支援をおこなったことで話題となりました。

このように、インターネットが発達した現代では、街頭募金や募金箱が中心だった時代から、クラウドファンディング、クレジットカード決済、SNSといった寄付のオンライン化が進んでいます。

仮想通貨による募金も

そのような状況のなか、新たな募金の形として注目を集めている仮想通貨による募金プロジェクトも立ち上がっています(各プロジェクトはコラム後半で紹介しています)。

仮想通貨とは財産的価値を有し、銀行などの第三者を介さずにインターネット上で取引できる「データ資産」のことです。有名な銘柄では「ビットコイン」や「イーサリアム」などが挙げられ、販売所や取引所などの事業者を通して入手、あるいは円やドル、ユーロ、ウォンなどの法定通貨と換金が可能です。

仮想通貨は公開鍵暗号方式やハッシュ関数などの暗号技術を利用することで安全性を確保しています。おこなわれた取引はブロックという単位にまとめられ、一定のルールに基づいて一つ前のブロックから新たなブロックが生成されて、鎖状につながっていきます。

このブロックチェーンと呼ばれる技術はほとんどの仮想通貨で用いられており、ブロックチェーン上に保存されているすべての取引データは公開・共有される仕組みとなっています。

法定通貨ではないことや価値の変動が多いことなどから、少し前までは「怪しい投資話」のイメージも強かった仮想通貨ですが、現在では法律やマーケットも整備され、利活用できるサービスも充実しつつあります。

仮想通貨による募金は後述するような、従来の募金では成し得なかったスムーズな送金や透明性の確保などが実現しています。「仮想通貨なんて周りでやってる人もいないし、大した募金にならないんじゃないの?」と思う方もいるかも知れません。実際に、仮想通貨決済企業TripleAによると、日本では総人口のわずか4%相当の500万人程度しか仮想通貨を保有していないと推定されています。

しかし、保有者がまだ少ないからといって仮想通貨による募金が効果的でないと断定するのは早計です。2022年2月に起きたウクライナ侵攻の際には、法定通貨のみならず仮想通貨による資金援助が世界中から相次ぎました。

CoinDeskによるとその額はわずか3ヶ月あまりで1億3500万ドル(約182億円)以上。法定通貨による寄付の5億7900万ドル(約782億円)には及びませんでしたが、史上最大規模の募金結果に世界中が驚きの声を上げました。

世界の共通通貨ともいえる仮想通貨は国家の垣根を超えて募金が可能であり、今後ますますスタンダードになっていくものと考えられます。

仮想通貨による募金のメリット

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募金の使い道が明らかになる

残念ながら、災害直後の緊急募金などでは混乱に乗じた募金詐欺が横行しがちです。募金という名目で資金を集めておきながら、実際には被災地支援をすることもなくプロジェクトごと立ち消えてしまうという善意につけこんだ卑劣な犯罪です。

また、健全な組織が運営していたとしてもその使い道や手数料の割合などは詳らかにされることは少なく、募金した後の資金の行方には目が向けられていないケースも多々あります。

募金ではなく寄付の事例ですが、ふるさと納税においても寄付金の10%を超える部分が外部事業者への手数料などになっていたことが問題視されました。

ふるさと納税、一番得をしているのは誰? 寄付額の2割以上は業者に…「5割ルール」徹底で何が起きるか:東京新聞 TOKYO Web

こうした問題は、寄付されたお金の流れが可視化されていないことに起因する問題です。お金の流れがブラックボックスであるが故に横領などが横行しがちな募金の使い道に対しても仮想通貨が効果を発揮します。

パブリック型ブロックチェーンにおける仮想通貨での取引(トランザクション)は基本的にすべてのユーザーが閲覧できる仕組みになっています。これは、ブロックチェーンを用いて当事者以外にも情報を分散して管理することで、データの改ざんや消失を防ぐためです。

そのため、ブロックチェーンによる募金であれば、寄付した金額がきちんと相手のもとに届いたかどうかがはっきりわかります。寄付金の使用用途や着金先が明確になることで、募金活動とその使い道に透明性をもたらすことができます。

社会全体としてもこうした仕組みを導入していくことで、使途不明の怪しい募金プロジェクトは淘汰され、寄附者が安心して募金できる土壌を育成できるでしょう。

手数料が安い

通常、銀行などの金融機関を介して募金をする際には当然ですが手数料が発生します。寄附者である私たちが支払わない場合でも、NPO団体などがカード決済手数料などを負担しなければいけないケースもあります。

また、無料送金を実施している金融機関でも、一定の条件を満たさなければいけない場合があります。たとえば、ゆうちょ銀行では被災者に対する救援活動を支援するため、ゆうちょ銀行・郵便局の貯金窓口およびゆうちょ通帳アプリにおいて災害義援金の無料送金サービスを実施しています。しかし、ATMからの通常払込みには、手数料が発生してしまいます。

義援金送付-ゆうちょ銀行

こうした問題に対して、仮想通貨による募金をおこなうことで、手数料による実際の支援金額の目減りを改善できる可能性があります。

たとえばビットコインであれば、一度の送金で数十円程度の手数料(マイニングに対する報酬)がかかるのみであり、国内のみならず海外であっても為替手数料を支払う必要はなく、着金に時間もかかりません。

また、仮想通貨を法定通貨に替えるには仮想通貨取引所を利用する必要がありますが、その際の手数料もクレジットカード会社の送金手数料に比べても格安であり、使い勝手にも不自由ありません。

リアルタイムに送金可能

従来の募金の仕組みでは、一度集金をおこなってから計画に応じて資金を分配していきます。

しかし、仲介となる組織が介入することで、実際に援助を必要としている地域に募金が届くまでの若干のタイムラグが生じてしまいます。

また、募金を立ち上げる際にも「何に対する募金なのか」「実際の被害地域はどこなのか」「どの団体に振り込むのか」など様々な基準に照らし合わせた審査をする必要があります。これは、寄附者が安心して募金できるために必要なことではありますが、被災者や支援団体は一刻も早い資金援助が必要としているというジレンマもあります。

仮想通貨による募金であれば、ウォレットからウォレットに対して即時送金が可能です。組織や団体を仲介することがないため、金融機関の営業時間や被災地の金融機関の被害状況に関わらずスピーディーな送金が可能です。特に海外への寄付においては、入金から着金まで大きなタイムロスが生じることも多いため、仮想通貨によるシームレスな募金がさらに有効となるでしょう

前述の通り、資金の使い道に関してもトランザクション履歴を確認できるため、審査に必要な時間も最低限で済みます。被災者が困っているまさにその瞬間を助けるための支援が、仮想通貨の募金で実現できるのです。

仮想通貨による募金の注意点

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仮想通貨による募金で最も注意しなければならないのが、アドレスの間違いです。最先端の募金方法の注意点としてはなんともアナログですが、誤送金など自らのミスにより仮想通貨を失う「セルフGOX」は仮想通貨による決済の落とし穴となっています。

中央管理者が存在しないブロックチェーンでは、一度ブロックチェーンに取引が記録されてしまうと、その記録を書き換えることはできません。仮想通貨取引所であっても処理を変更する権限を持っていないため、誤送金先と直接、返金の交渉をしなければなりません。

また、送金ミスの内容次第では誤送した仮想通貨をどうしても取り戻せないケースがあります。それは、「異なる仮想通貨アドレスへの送金」と「所有者がいないアドレスへの送金」です。

まず「異なる仮想通貨アドレスへの送金」のケースについて説明します。

暗号資産のアドレスは、それぞれの種類で固有のアドレスが割り振られているため、他の暗号資産のアドレスへ送金しようとすると基本的にはエラーが発生します。

しかし、ビットコイン(BTC)とビットコインキャッシュ(BHC)、イーサリアム(ETH)とイーサリアムクラシック(ETC)などアドレス形式が似ている場合にはエラーを検知できず、送金が完了してしまうケースがあります。

このケースの場合、暗号資産が消滅してしまうため、取り戻すことが出来なくなってしまいます。

次に「所有者がいないアドレスへの送金」のケースについてです。

世の中には、秘密鍵を忘れてログインできなくなったウォレットがたくさんあります。従来型の送金方法であれば、パスワードを忘れてしまった場合でも銀行などに問い合わせて再発行してもらうことができますが、仮想通貨には管理者がいないため、ウォレットを復旧することは難しいです。

そのような背景もあり、ブロックチェーンの世界では誰もログインできなくなってしまった所有者不明のアドレスが数多く残っています。こういったウォレットに送金してしまうと、誰も手をつけられない状態となってしまい、取り戻せる可能性はなくなってしまいます。

こうした送金ミスが原因で仮想通貨を失わないように、送金先アドレスの確認は慎重におこなうことをオススメします。

令和6年能登半島地震の仮想通貨による募金プロジェクト事例

Oasys

出典:Oasys公式X

ゲーム特化のブロックチェーンプロジェクトであるOasysでは能登半島地震への災害支援募金をおこなっています。

Oasysは2022年に発足の比較的新しいプロジェクトですが、 日本発であることや数多の有名企業がバリデータとして参加していることから現在、大注目のプラットフォームの一つとなっています。

バリデータの一例としては、bitFlyerやAstar Networkなどの暗号資産関連の企業に加えて、バンダイナムコ研究所やSEGAやSQUARE ENIXといった仮想通貨に縁のない人でも聞いたことがあるであろう有名ゲーム企業が名を連ねています。

今回の支援募金では、$OAS (Oasys)、$ETH (Ethereum, Polygon)、$BTC (Bitcoin) を対象通貨としており、gas代や税金を除く全額を能登半島地震による救援復興活動に活用するとのことです。

Astar Network × Startale Labs

出典:Astar Network Japan公式X

Astar Networkは、日本人起業家の渡辺 創太氏が率いるStake Technolosies株式会社が開発したブロックチェーンプラットフォームです。

日本発のブロックチェーンとして異なるチェーンを相互接続できるPolkadot(ポルカドット)のハブとして活動しており、WEB3.0の実現やWEB3.0の基幹インフラを目指して取り組んでいます。2021年12月には、世界で3番目にPolkadotのパラチェーンと接続を完了させ、本格的に稼働を開始しました。

そんな大注目チェーンのAstar Networkでは、同じく渡辺氏が設立したStatale Labsと共同で令和6年能登半島地震に対する災害支援募金を発表しています。

対応通貨は募金立ち上げ時点で$ASTRのみとなっていますが、ASTRは時価総額約1000億円(執筆1月10日時点)を超える人気銘柄。世界中からのスピーディーな寄付に期待できます。

出典:MINKABU 暗号資産(仮想通貨) リアルタイムレート(2024/01/10) 

Web3 pray for Japan

出典:Palette 公式X

株式会社HashPaletteが開発した「PaletteChain」による「Web3 pray for Japan」では、複数のブロックチェーンプロジェクトが協力して仮想通貨による募金活動をおこなっています。

参加を表明しているブロックチェーンはPalette(PLT)、TRON(TRX)、Cardano(ADA)、Polygon(MATIC)、Neo(NEO)、Qtum(QTUM)、Mask Network(MASK)、IOST(IOST)の計8つです。

各プロジェクトが自社のネイティブトークンを用いた寄付窓口を設置しており、このキャンペーンで集まった資金は、手数料や税金を除く全額を日本円に換算したうえで赤い羽根共同募金の「令和6年能登半島地震への義援金(仮)」に寄付されるとのこと。

寄付の結果は、後日HashPaletteの公式ウェブサイトで公開されています。

https://hashpalette.com/news/%E4%BB%A4%E5%92%8C6%E5%B9%B4%E8%83%BD%E7%99%BB%E5%8D%8A%E5%B3%B6%E5%9C%B0%E9%9C%87-web3-pray-for-japan-program-%E5%AF%84%E4%BB%98%E9%87%91%E9%A1%8D%E3%81%AE%E7%B5%90%E6%9E%9C%E3%81%94%E5%A0%B1

まとめ

本記事では令和6年能登半島地震に対する仮想通貨を用いた募金プロジェクトについてまとめました。

募金にブロックチェーンを活用することで、さらなる透明性やスムーズな送金が実現できるようになり、被災地の喫緊の課題に合わせた資金集めに役立つことでしょう。とくに、法定通貨では時間や手数料のロスが多い海外からの金銭的支援が活発になることが期待されます。

新たな支援の形を実現するWeb3プロジェクトに注目するとともに、被災地の一日も早い復興を心より祈念いたします。

「非化石証書」「J-クレジット」「グリーン電力証書」の違いとは?それぞれの概要から解説します!

環境問題に対する関心が高まる中で、「環境にやさしい電気を選択的に供給したい」「環境にやさしい方法で発電された電力を使いたい」という企業や個人が増えてきました。

こういったニーズを満たす制度として「非化石証書」「J-クレジット」「グリーン電力証書」があり、環境価値を電気そのものの価値から切り離して証書・クレジットとして可視化することで取引を可能にしています。

一方で、これらの制度は仕組みとしてかなり似通っており、それぞれの違いを説明できる人はかなり少ないのではないでしょうか。本記事では前半で各制度の概要を振り返り、後半でそれぞれの違いや注意点について解説していきます。

非化石証書とは?

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非化石証書の概要

非化石証書とは、その電力が非化石電源由来であることを証明する制度です。

石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を使用して発電した電力を「化石電源」と呼ぶのに対して、太陽・地熱・風力・水力といった化石燃料を使用せずに発電した電力を「非化石電源」と呼びます。

非化石証書の購入ルートは2パターンあります。

一つ目は電力会社を通じて間接的に購入する方法です。発電事業者と電力小売事業者間で非化石証書の売買をおこない、電力ユーザーは非化石電源と証明された電力を利用できるプランに加入することで、CO2排出量を間接的に削減したこととみなすことができるというわけです(あくまで非化石証明は電力小売事業者が購入しているという点には注意が必要です)。

この方法では、環境価値が電気の契約とセットになっているため、環境価値の購入量などを計算する手間がないことが大きなメリットになります。

もう一つの方法は、オークション形式の取引市場で電力ユーザーが直接購入することです。従来は、前述の電気小売事業者が非化石証書を購入するパターンしかありませんでしたが、需要の増加を受けて2021年からは、電力ユーザーも非化石証書の購入が可能になりました(ただし、電力ユーザーが購入できるのは後述のFIT非化石証書のみ)。

この方法では非化石証書調達にともなう手数料がかからないというメリットがあります。

一方で、購入するためにはJEPX(日本卸電力取引所)の会員になる必要があり、JEPX会員になるには入会費・年会費の納入が必要なほか、入札ごとに複数の手続きを要します。そのため、ユーザーの代わりにオークションに参加して非化石証書を購入する代理購入サービスなども誕生しています。

電力由来によってさらに3種類に分類される

非化石証書には実は3つの種類があります。

①FIT非化石証書(再エネ指定あり)

こちらは2012年から運用されている、FIT制度(固定価格買取制度)で買い取られた電力に限定した証書です。FIT制度とは、再生可能エネルギーの普及を目標に、事業者や個人が再生可能エネルギーで発電した電力を、一定期間・一定価格で電力会社に買い取ってもらえる制度です。

電力ユーザーが直接、購入できるのはこのタイプの非化石証書のみとなっており、対象となる電力は、FIT制度を通して買い取られた、太陽光・風力・小水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーです。

価格の決定方式は「マルチプライスオークション方式」となっており、売り手が成り行き価格で入札し、買い入札価格が約定価格となる(つまり、売り手が価格を提示せずに出品し、買い手が希望価格を示す)方式です。市場価格が需要と供給に応じて変動し、効率的な価格設定が実現されています。

また、このFIT非化石証書(再エネ指定あり)は販売価格の見直しがなされ、当初の最低価格:1.3円/kWhから現在の0.4円/kWhに大幅な引き下げがなされたことで、需要の急拡大が見込まれています。

なお、FITによる買取にあたっては電力会社が買い取る費用の一部を電力ユーザーから賦課金という形で集めており、この賦課金を基に買取費用の調整をおこなっています。したがって、FIT非化石証書の売り手は費用負担調整業務を担当している電力広域的運営推進機関(OCCTO)となっています。

②非FIT非化石証書(再エネ指定あり)

こちらは再生可能エネルギーのなかでも、FIT電力ではないものを対象とした非化石証書です。FIT電力ではない再生可能エネルギーとは、買取期間が終了したFIT電力(卒FIT電力)や大規模水力発電(大規模水力は既存の発電所が主流であり促進制度の対象ではないため)を指しています。

高度化法義務達成市場(小売電気事業者の非化石電源比率目標の達成を後押しするために創設された市場)での扱いとなっているため、この証書を購入できるのは小売電気事業者のみとなっています。

非FIT非化石証書(再エネ指定)の入札には価格制限は設けられておらず、通常の電力取引と同様に、売買の量と価格から、需要曲線と供給曲線が交わる均衡点をコンピューターが計算し、約定価格を決定する「シングルプライスオークション方式」が採用されています。また、そうした市場取引に加え、発電事業者と小売電気事業者間で自由に価格や契約条件を合意することができる相対取引で証書を売買することも可能です。

現在の大型水力は沖縄電力を除く9つの電力会社と電源開発株式会社が供給しているため、証書発行量が限られてしまうという課題もありますが、それ以上に取引の自由度が高いという魅力があります。

③非FIT非化石証書(再エネ指定なし)

最後に紹介するこちらは、FIT制度によらず、再生可能エネルギーにも分類されない発電方法による電力に紐づいた非化石証書です。現在は原子力や廃プラスチックによって発電された電源を証明するものとして活用されています。

原子力発電は、CO2を排出しない発電方法ですが、環境への影響も懸念される使用済み核燃料を排出してしまいます。廃プラスチックによる発電についても、環境汚染の観点では大量消費・大量焼却という構造が温存されてしまいます。したがって、再エネの指定がない非FIT非化石証書は各種制度において再エネ割合への加算ができない場合があります

一方で、今後FIT制度の対象ではないうえに再エネ指定にもなっていない新たな燃料種に対する、非FIT非化石認定のニーズが増加することも見込まれており、実際に水素などが追加を検討されています。今後、再エネ指定のない非FIT非化石証書が主流となっていく可能性も大いにあるでしょう。

J-クレジットとは?

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J-クレジットの概要

J-クレジット制度とは、企業や自治体などの取り組みによって削減・吸収されたCO2の量を証券化して市場で取引する制度です。

J-クレジットの対象は、電力分野に限らずカーボンニュートラルにつながる幅広い活動を網羅しています。具体的には、<省エネルギー等><再生可能エネルギー><工業プロセス><農業><廃棄物><森林>といった6分類で区分されています。下記はその一例です。

  • 省エネ設備の導入によって削減されたCO2排出量
  • 再生可能エネルギーの活用によって削減されたCO2排出量
  • 適切な森林管理によるCO2の吸収量

これらをクレジット化して売買することで、販売者はその資金を事業の拡大や投資費用の回収がおこなえ、購入者はカーボンオフセットへの利用ができるというメリットがあります。なお現在、J-クレジットでの売買は、国内取引のみに限定されています。

登録には一定のハードルがある

J-クレジットにおけるプロジェクト実施者は、「排出削減・吸収プロジェクトを実施しようとする者又はプロジェクト登録を受けた者」と定義されています。したがって、私たちのような個人や法人格を有しない団体・組織でも申請をおこなうこと自体は可能です。

一方で、J-クレジット制度に登録するためには、Jクレジット制度向けのプロジェクト計画書を作成し、事務局の審査を受ける必要があります。プロジェクトは下記の要件を満たさなければなりません。

J-クレジットの運営事務局は、それぞれの項目について各審査機関と協力しながら、制度の適用可能性を判断します。無事に審査を通過すると、有識者委員会経由で国による認証手続きが進められるという流れです。また、審査が通った後も各プロジェクトにおいてモニタリングを受けながらCO2排出・吸収の実測値を検証していきます。こうした複雑なフローを経てようやくJ-クレジットの発行に至ります。

このように、J-クレジットは国が認証をおこなうだけあって若干ハードルのある制度となっており、プロジェクトの登録まででも5ヶ月以上かかるケースもあるとされています。こうした認定までの煩雑な手続きは当制度の課題として挙げられるでしょう。

Jクレジットの購入パターンは3つもある

J-クレジットを購入するには、下記の3つの方法があります。

出典:J-クレジット制度『J-クレジット制度について』p.46(2023年3月)

①J-クレジット仲介事業者(https://japancredit.go.jp/market/offset/)を通じての購入

 J-クレジット・プロバイダーは、J-クレジットの売買仲介を行う事業者です。売買手続きの委託のほかにも、カーボンオフセットに関するコンサルティングなど様々なサポートをしてもらえるのが特徴です。

またプロバイダーを利用すれば口座開設が必要なく、クレジットの購入価格は仲介事業者との相対取引で決定することになります。認定業者の仲介を要するため手数料が掛かってしまいますが、購入者側の負担が最も少ないのがこの方法です。

②売り出しクレジット一覧(https://japancredit.go.jp/sale/)」掲示板を通じての直接購入

 発行企業や自治体から直接購入したい場合は、J-クレジット制度HPの「売り出しクレジット一覧」というページから購入することも可能です。

「売り出しクレジット一覧」では、購入可能なクレジットの量や特徴(実施場所、地域、具体的活動内容)を見ることができ、この方法でもクレジットの購入価格はクレジット保有者との相対取引で決定します。

情報格差が生まれる場合もあるため、クレジットの品質を慎重に見極める必要がありますが、その一方で取引条件を直接交渉できる利点もあります。

③J-クレジット制度事務局が実施する入札販売(https://japancredit.go.jp/tender/)での購入

政府が保有するクレジットを大口需要家向けに入札販売する際に、事業者が保有するクレジットをあわせて集約し、大口需要家に対してまとめて入札販売する方法も存在します。

対象となるクレジットは②の「売り出しクレジット一覧」に掲載後6ヶ月が経過しても買い手が見つからないものです。

入札参加にあたっては、取得したクレジットを管理するJ-クレジット管理用口座を開設する必要があり、入札時期が年に1回〜2回程度しかないなどやや使い勝手の悪い面もありますが、競合次第では割安で入札できる可能性があります。

グリーン電力証書とは?

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グリーン電力証書の概要

グリーン電力証書は、再生可能エネルギーによって発電された電気の環境価値を、証書発行事業者が第三者認証機関(一般財団法人日本品質保証機構)の認証を得て取引する制度です。太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーにより発電された電力を対象に、指定の証書発行事業者を通じて民間企業が購入できます。

一般に、グリーン電力を利用するには、自ら太陽光パネル等を設置して電力を地産地消する場合と、電力会社からグリーン電力を供給してもらうプランに変更する場合の2つがあります。しかし、設備を設置する場合には大きな初期費用が掛かる上に、設置場所の確保や電気工事のための時間も要します。また、電力プランを変更する場合には、自然エネルギーに限定した電気はほとんどが維持費や修繕費、人件費などによって割高になっています。

そのため、経済的余裕がないと中々導入が難しい制度ですが、グリーン電力証書における認定電力は、様々な電力情報がトラッキングされています。したがって、購入するだけですぐに利用分の電気を再エネ由来の電力とみなすことができます。

また、グリーン電力証書の販売により得られる収入は、再生可能エネルギー発電設備の新規建設や、既存の再生可能エネルギー発電設備の維持(運転期間の延長)や増設にも使われており、社会貢献性の高い制度となっています。

取引価格は比較的割高に設定されている

グリーン電力証書の年間の発行量は、Jクレジットや非化石証書と比較しても少ないのが現状です。また、グリーン電力量や設備の認定、環境価値保有者の管理などで価値を担保されています。その結果として、グリーン電力証書は、平均で2〜7円/kWh程度という価格設定となっており、他の制度と比べると割高になっています。

近年の世界情勢の混乱によって電力料金そのものが高騰するなかでのグリーン電力証書の価格設定は、普及の障壁ともなります。一方で急激な値下げをおこなうと、環境価値が売却時に値下がりしてしまい、事業者から不満の声があがるでしょう。

すでに参入している事業者にも公平性を保ちつつ、いかに導入しやすい価格を実現するかが課題となっています。

省エネ法や温対法には適用できない

グリーン電力証書は、民間機関である日本品質保証機構が保証しています。そのため、グリーン電力の環境価値も民間での取引として法的な保証がなく、省エネ法や温対法にも適用できません。

CO2の削減効果について第三者の保証が必要な場合は「グリーンエネルギーCO2削減相当量認証制度」(資源エネルギー庁と環境省が運営)により認証を受ける必要があります。

また、温対法の排出量の報告に際し、発電事業者はCO2削減相当量をオンカウント(排出量にプラス)して報告しなければなりません。これは証書を発行した時点で環境価値を購入者に売却したことになり、ダブルカウント防止する必要があるためです。

3種類の環境価値の違い

さてここまでは「非化石証書」「J-クレジット」「グリーン電力証書」それぞれの概要について詳しく見てきました。各々の制度について、おおまかにメリットやデメリットも掴めているのではないでしょうか。

とはいえ、複雑な制度が3つもあるとかなり慣れている人でない限り混乱してしまうものです。ここでは表にして比較したうえで大きな違いについて確認してみましょう。

以下が3種類の環境価値を比較したものです。

グリーン電力証書非化石証書J-クレジット
販売者証書発行事業者(発電事業者からグリーン電力価値を取得)発電事業者・電力広域的運営推進機関(OCCTO、FIT非化石証書のみ)クレジット保有者(個人でも可能)
購入者誰でもFIT非化石証書は誰でも、非FIT非化石証書は小売事業者のみ誰でも
対象電源再生可能エネルギー由来の電気のみ  再生可能エネルギー由来以外の非化石電源も含む(再エネ指定なしの非FIT非化石証書が原子力や廃プラなどに対応)CO2の削減・吸収量が対象
対象電力自家消費電力系統電力自家消費電力
単価範囲制限なし0.4〜4.0円/kWh(FIT非化石証書)0.6〜1.3円/kWh(非FIT非化石証書)制限なし
平均落札価格(2023年
12月時点)
オークション形態なし
(販売価格は、発行事業者、購入量などによって異なるが、平均して2~4円/kWh)
0.41 円/kWh(FIT非化石証書)
0.6円/kWh(非FIT非化石証書)
約1.401円/kWh
(落札価格に当該落札トン数を乗じた合計を総販売量で除したもの)
取引形態証書発行事業者から直接購入取引所オークション相対取引(非FITのみ)相対取引
事務局オークション
転売
RE100活用
(トラッキング付きの非化石証書のみ)

(省エネは対象外)

グリーン電力証書は販売者が証書発行事業者に限定されており、転売もできません。取引形態についても証書発行事業者からの直接購入のみとなっていることから他の2つと比べると若干割高です。

一見すると使い勝手の悪そうな制度ですが、発行主体が一つしかないため、グリーン電力証書は発電から償却までの属性情報を追跡可能です。したがって、すべての購入証書をRE100(事業運営で使用する電力を100%再エネにて調達することを⽬標に掲げる国際的なイニシアチブ)へ活用することができます。

非化石証書は再エネに加えて、非化石燃料である原子力も含むため、流通量も豊富で価格が比較的安価なのが特長です。また、今のところ最低価格に張り付く形で取引されているため、落札価格も一番安価となっています。

一方で、対象電力が非化石電源から発電された系統電力に限定されています。したがって、太陽光のPPAモデルを導入する企業も増えて来ましたが、このような自家消費の電力に非化石価値を認めることはできません。

対象が再エネ使用ではなくCO2の削減・吸収量であるJ-クレジットは唯一、転売が可能です。環境価値単体の扱いやすさという面ではJ-クレジットが最も優れていますが、CO2削減・吸収の方法によって、各種制度で活用可能かバラバラになっています。プロジェクトの登録からクレジット発行までも数年を要するため、活用に際しては注意点が多いです。

環境価値を取引するメリット

出典:Unsplash

販売側のメリット

環境価値を販売する側、つまり、環境価値を創出した企業にとっての大きなメリットは、新たな収益源の確保です。自社の温室効果ガス排出削減や吸収活動によって生まれた環境価値を証書化し、市場で販売することで、直接的な売却益を得ることができます。この収益は、環境対策への投資回収を早め、さらなる環境技術開発や設備導入への資金に充当することができます。環境対策が、企業の持続的な成長を後押しする力となるのです。

さらに、環境価値を市場に提供しているという事実は、企業イメージ向上に大きく貢献します。地球温暖化対策に積極的に取り組む企業としての評価を高め、CSR(企業の社会的責任)活動をアピールすることができます。環境意識の高い消費者や投資家からの信頼を得ることは、企業のブランド価値を高め、長期的な競争優位性を築く上で不可欠でしょう。

購入側のメリット

一方、環境価値を購入する側、つまり、事業活動における温室効果ガス排出量をオフセットしたい企業にとっては、環境価値取引によって自社の排出量削減目標達成に向けた取り組みを加速させることがきます。

特に、製鉄プロセスにおいて大量のコークス(炭素)を還元剤として使用する鉄工業などは直接的な削減が難しいですが、こうした排出量についても環境価値を購入すれば、うまく相殺することができます。これにより、産業構造の差に囚われず、企業は自社のカーボンフットプリントを削減し、持続可能な社会の実現に貢献することができます。

また、環境価値の購入は、法令遵守や各種報告義務の達成にも役立ちます。省エネ法や温暖化対策関連法などの国内法規に加え、CDP、RE100、SBTといった国際的なイニシアティブへの対応においても、環境価値の購入実績は有効なエビデンスとなります。企業は、これらの制度に沿った情報開示を行うことで、ステークホルダーからの信頼を得ることができます。

さらに、環境価値取引への参加は、企業イメージ向上やブランド力強化にもつながります。環境問題に積極的に取り組む企業としての姿勢を示すことは、消費者や投資家からの共感を呼び、企業への信頼を高めます。ESG投資に関心を持つ機関投資家からの評価向上も期待できるでしょう。

環境価値を取引するうえで気をつけるべき点

出典:Shutterstock

環境価値を取引するうえで、電力データのトレーサビリティや正確性は今後重要になってくるでしょう。各制度において、電源の由来は価値の裏付けとなっており、それぞれ厳しい要件が課せられています。様々な制度に活用可能な以上、データの改ざんが起きてしまう可能性もあります。

また、記録ミスやダブルカウントが起きてしまうと、正しいCO2削減量が計測できなくなってしまいます。したがって、データの扱いには慎重にならざるを得ないでしょう。仕方がないこととはいえ、現状、手続きや審査の負担が大きくなってしまっている点には留意しましょう。

こうした課題を踏まえて近年、注目を浴びているのが「ブロックチェーン技術」です。ブロックチェーンでは、データを小分けにして暗号化し、それを1本のチェーンのように数珠つなぎにして、世界中で分散管理しています。そのため内容を改ざんしたり、データが消えたりする心配がありません。

実際に日本卸電力取引所(JEPX)では、数年後を目処として非化石証書のブロックチェーンによるトラッキングを実現する方針を打ち出しています。

JEPXが非化石証書の全量追跡へ | 電気新聞ウェブサイト

なお、ブロックチェーンについては以下の記事でも解説しています。

まとめ

本記事では「非化石証書」「J-クレジット」「グリーン電力証書」について概要とそれぞれの違いを解説しました。

これらの制度は普段あまり関わることのない複雑な仕組みであり、すんなり理解するのは難しいテーマであるように感じます。

しかし、再エネ需要は年々拡大しており、東京都では戸建てを含む新規建築に対して太陽光パネルの設置が義務化されました。こうした流れを受けて今後環境価値の活用も活発になっていくことでしょう。今後も最新の情報をキャッチアップするようにしましょう。

トレードログ株式会社では、記事内でも紹介したブロックチェーンのビジネス導入について、上流から下流まで一気通貫でフルサポートしています。非金融分野に特化してのご支援となるため、大手企業からの受注実績も豊富です。

ご興味のある方は下記のリンクよりお問い合わせください。

Scope3(スコープ3)とは?基本となる概念と排出量の算定方法を解説!

現在、脱炭素社会への移行を目指して世界中の政府はもちろん、各国の企業でも、国際基準のGHG(温室効果ガス)プロトコルに則った排出量算定を行っています。同プロトコル内の分類である「Scope」という言葉は、テレビや新聞などで目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

なかでも近年、その重要性が声高に叫ばれているのはScope3という区分です。それは一体なぜなのでしょうか?

本記事ではScope3の概要とGHG排出量の算定方法について、分かりやすく解説します。企業の経営者はもちろん、CSRに取り組む担当者の方や環境意識の高い投資家の方も、ぜひ参考にしてみてください。

    Scope3とは?

    サプライチェーン排出量のスコープ図
    出典:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「サプライチェーン排出量算定について」

    Scope3とは、GHG排出量の国際算定基準である「GHGプロトコル」における区分の一つであり、サプライチェーン排出量のうち、事業者によるGHGの直接排出量であるScope1や他社から供給された電気や熱、蒸気の使用に伴う間接排出量であるScope2を除いたすべての間接排出量のことを指します。

    サプライチェーン排出量は、製品の材料調達から製造、在庫管理から消費に至るまでの一連の流れにおいて排出されたGHGのことであり、サプライチェーン全体でのGHG排出量を把握するための指標です。これらにおける自社が他社から購入した製品の製造時におけるGHGや、自社の製品を消費者が購入して使用したときに排出されるGHGなどがScope3に分類されるでしょう。

    Scope3は以下の15のカテゴリから成り立っており、カテゴリ1〜8までが上流、9〜15までが下流となっています。


    Scope3カテゴリ該当する活動(例)
    購入した製品・サービス 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達
    2資本財生産設備の増設(複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上)
    3Scope1,2 に含まれない燃料及びエネルギー関連活動調達している燃料の上流工程(採掘、精製等)調達している電力の上流工程(発電に使用する燃料の採掘、精製等)
    4輸送、配送(上流) 調達物流、横持物流、出荷物流(自社が荷主)
    事業活動から出る廃棄物 廃棄物(有価のものは除く)の自社以外での輸送(※1)、処理
    6出張 従業員の出張
    7雇用者の通勤従業員の通勤
    8リース資産(上流) 自社が賃借しているリース資産の稼働(算定・報告・公表制度では、Scope1,2 に計上するため、該当なしのケースが大半)
    9輸送、配送(下流) 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売
    10販売した製品の加工 事業者による中間製品の加工
    11販売した製品の使用 使用者による製品の使用
    12販売した製品の廃棄 使用者による製品の廃棄時の輸送(※2)、処理
    13 リース資産(下流)自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働
    14 フランチャイズ 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2 に該当する活動
    15投資 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用
     その他(任意)従業員や消費者の日常生活
    出典:グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「サプライチェーン排出量算定について」

    これまで重視されてきたScope1やScope2の算定は、自社の製品製造工程やエネルギー調達量から求められるため比較的容易でした。

    しかし、自社と関連のある他社にまで対象を広げたScope3については、計算も複雑であり、取引先の協力も不可欠です。算定するにあたってはかなりの労力を要するため、導入はうまく進んでいないのが現状です。

    Scope3の算定方法

    Scope3を含むGHGの算定にあたっては、下記の2パターンのどちらかの手法によって15のカテゴリごとに計算し、その合計を算定します。

    環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方(p.6)」より筆者作成

    本来であれば、生きたデータである一次データを取得することが望ましいものの、リソースの問題などから現在の実務上の主流は基本式から排出量を算定するパターンとなっています。

    活動量とは、温室効果ガス排出に関わる事業活動の規模を示します。図でも示しているように、電気の使用量(kWh)や貨物の輸送量(トンキロ)、廃棄物の処理量(t)などが該当します。これらを、活動量あたりのCO2排出量である排出原単位に乗じることでGHG排出量を算定することができます。排出原単位は環境省が運営するグリーン・バリューチェーンプラットフォームから確認することができます。

    また、より実態に即した算定方法として、取引先に排出量を実測値で直接計測するよう求め、正確な排出量を算定する方法もあります。

    環境省制定のガイドラインとGHGプロトコルでは各Scopeでの算定範囲に一部揺れがあります。実際の算定にあたっては最新のガイドラインに則って算定をおこなってください。

    Scope3を算定するメリット

    出典:Unsplash

    削減対象が明確になる

    Scope3を算定することでサプライチェーン全体のGHG排出量が明らかになるのはもちろんのこと、排出源ごとのGHG排出が把握できるようになります。

    したがって、自社の製品サイクルを見直す際に、どこに注力すべきかという削減のターゲットを、より詳細に絞り込むことができます。サプライチェーン上のどこを優先的に削減対象とするかを決めることで、スムーズに脱炭素経営を実現できるでしょう。

    また、限られたリソースを効果的に生かした取り組みも可能です。たとえば、梱包や輸送に関わるセクションにおいてGHGを削減することは、不要な包装や無駄な輸送プロセスを改善することです。

    つまり、結果として無駄なコストが削減されることでビジネスのコストダウンにもつながります。こうしたリソースの効率化により、企業に様々な副産物をもたらすでしょう。

    取引先との関係が深まる

    サプライチェーン全体の排出量を算定するには、自社だけで取り組みを完結することは不可能です。取引先と情報交換をしたり、取引先のビジネスモデルをより一層理解しなければなりません

    そうした連携を取ることで、環境負荷を低減するための新たなアプローチの模索や環境に優しいサービスへのブラッシュアップといった、取引先との関係がより親密になることも期待できるでしょう。こうした動きは、Scope1やScope2の算定では見られないことです。

    また、自社単体では実現できないような対策を他社と連携して推進することができるかもしれません。今までは個社ごとの取り組みで個社ごとの成果となっていましたが、サプライチェーンとして団結して取り組むことで業界を横断する施策や、その成果もよりインパクトのあるものとなるはずです。

    社会的な信用が向上する

    近年、環境や倫理といった非財務情報は消費者のみならず、投資家や取引企業といったステークホルダーからも開示を求められる傾向にあります。

    そこで、プレスリリースや株主総会などでサプライチェーン排出量を公表することで、サプライチェーン全体での環境保全活動を定量的に示すことができれば、健全な環境経営に対する社会からの高評価を受けやすくなるでしょう。

    ESG投資という目線で見ても、サプライチェーン排出量の開示要請に対応することは資金調達の可能性を広げる重要な取り組みです。「サステナブル」がキーワードとなる今後の社会情勢において、Scope3を含んだ質の高い非財務情報を提示できる企業は、様々な面で有利になると思われます。

    Scope3算定の課題

    出典:Unsplash

    コストがかかる

    正確なデータを取得するには、人の手による確認ではなくシステム化された計測フローが必要になってきます。昨今の商品は多機能化に伴って非常に複雑な作りになっており部品が様々なルートで持ち込まれます。

    数社であれば算定も簡単ですが、たくさんの企業を横断するようなサプライチェーンでは、その排出量を計測するシステムも高額なものになりがちです。したがって、Scope3算定を検討する際には多くのケースにおいてコスト面で頭を悩ませることになるでしょう。

    また、GHG排出量の算定にあたっては細かいチェックや地道な事務作業も伴います。時間的コストという視点で見ても、従業員がこれらの作業に手間取られてしまうのはもったいないと言わざるを得ません。

    絶対的な正確性が求められる

    前述のように、Scope3を含めたGHG排出量を公表することは社会的信用に直結します。エコな企業や製品を選択して消費行動をする消費者がいる以上、その数値は絶対に正しいものでなければなりません。

    そのため、悪意がなかったとしても不正確なデータを公表してしまうと、消費者や投資家からは「不正に利益を得ている」といったイメージを持たれてしまいます。

    また、要件を満たせない企業がサプライチェーンから外されてしまうのを防ぐために、あるいはGHG削減コストを浮かせるために数字の改ざんを行う可能性もあります。

    データを管理する際には、改ざんが難しいような高いセキュリティ要件を満たすデータベースやブロックチェーンなどの分散的なデータ管理を行うデータベースを活用する必要があるでしょう。

    Scope3が注目されている理由

    Artisan Partners ne veut pas qu'Emmanuel Faber reste président de Danone.
    国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のエマニュエル・ファベール議長(出典:Les Echos

    元々、環境意識の高い企業からはそれなりに認識のあったScope3ですが、最近になって急激に企業からの注目が高まりつつあります。その理由は、気候変動に関する枠組みの世界的基準が統一されたことにあります。

    2023年6月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表した「サステナビリティ開示基準」では、それまで乱立していたサステナビリティ関連および気候関連開示についてが統一されており、上場企業がサプライチェーンにおけるGHG排出量を算定する際には、Scope3も含めて算定しなければならないと明記されました。

    今回発表された開示基準は早ければ2024年度から適用可能で、日本でもサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が主体となって24年3月に国内での開示基準の草案を公表しており、27年3月期から企業に適用を義務付ける見込みとなっています。

    したがって、先日の最終確定を受けて日本の上場企業は上述のような課題にイチ早く取り組まねばならず、国内でScope3への関心が高まっているというわけです。

    日本の企業では、環境活動において先進的な取り組みには腰が重い企業が一定数存在します。一方、世界経済ではEUがその覇権をますます強めており、産業に関する政策イニシアティブをとるケースもかなり多いです。

    実際に、DPP(デジタルプロダクトパスポート)が義務化された際には、多くの国内関連企業が対応に追われました。

    Scope3は各企業、もっといえば各製品レベルで算定のシナリオが異なってきます。スケジュールに余裕をもたせず、「義務化されたからやろう」のスピード感で動いている企業は、GHG算定に関して思わぬ苦戦を強いられる可能性もあるため注意が必要でしょう。

    特に注目を集めているScope3カテゴリーとは?

    出典:環境省「物語でわかるサプライチェーン排出量算定」

    企業のサステナビリティへの取り組みがますます重要視される中、Scope3の排出量管理が注目を集めています。Scope3は企業の直接的な活動だけでなく、サプライチェーン全体や製品のライフサイクルにわたる温室効果ガス(GHG)排出量を含むため、その管理は複雑を極めます。特に以下に示すいくつかのカテゴリーについては、企業にとって大きな影響を与える可能性があり、詳細な理解と対策が求められます。

    カテゴリー4

    カテゴリー4は、サービスのサプライヤーから自社への物流という上流の輸送および配送に関連する排出量が振り分けられるカテゴリーです。原材料や部品が供給元から製造拠点まで運ばれる際に発生する温室効果ガス排出量が対象となっており、物流業界ではその重要性が徐々に認識され、効率的な物流計画や低炭素輸送手段の導入が進められています。

    たとえば、事業者をアパレル小売店として考えてみましょう。繊維が海外で生産(一次サプライヤー)されており、日本のアパレル企業(二次サプライヤー)が生地を購入・縫製し、小売店(算定事業者)などに販売するといった関係性があるとします。この場合、2次サプライヤーから事業者への配送がカテゴリ4となります(輸送や配送を事業者が行う場合を除く)。1次サプライヤーから2次サプライヤーへの輸送でも温室効果ガスは発生しますが、原材料の調達である排出量はカテゴリ4では算出せず、カテゴリ1で計算します。

    また、自社が費用負担している物流に伴う排出量については最終製品の輸送、いわゆる下流の輸送であってもカテゴリー4として算定します。少しややこしくなってしまいますが、ざっくりいうと事業者の配送部門で製品を運んだ場合はScope1、2、配達業者などに依頼する場合は、自社が配達費用を支払えばカテゴリ4、製品を受け取る取引先や消費者が費用を支払えば後述するカテゴリ9に分類されます。

    これはカテゴリー4が排出主体、つまり削減努力が求められる主体によって上流と下流にカテゴライズしたものであり、一般的な製造工程で使われる上流・下流とは意味合いが異なっている点には注意が必要です。

    カテゴリー9

    カテゴリー9は、輸送および配送(下流)で発生する温室効果ガス排出量が分類されています。このカテゴリーは、企業が製品を消費者や取引先に届ける際の物流に関連する排出量を含むかなり広範囲なものです。

    近年、オンラインショッピングやグローバルなサプライチェーンの拡大に伴い、製品が消費者に届けられるまでの物流プロセスは複雑化しています。多くの異なる運送業者や配送手段が関与しているため、正確な排出量の追跡には困難が伴ううえ、これらは企業が直接管理できない部分が多いです。そのため、カテゴリー9への対応は急務であるとして、主に大企業を中心にこのカテゴリへの注目度が高まっています。

    カテゴリー4と異なる点は、カテゴリー4が上流の輸送および配送、つまり原材料や部品が供給元から製造拠点に運ばれる際の排出量をカバーしているのに対し、カテゴリー9は製品が完成し、消費者や取引先に届けられる下流の輸送および配送かつ、配送に伴う費用や労力を他社が負担している排出量を対象としている点です。また、カテゴリー9については「輸送」「配送」に関する排出量と説明されていることが多いですが、「保管」に関する排出量もこのカテゴリーで算定します。

    このカテゴリーでは自社の取り組みというよりも物流パートナーとの協力が重要です。物流業界ではAIを活用した最適配送ルートの開発や「グリーン配送オプション」の提供によってGHG排出量を削減する取り組みがなされています。適切な企業を配送業者として選定することで、企業だけでなくバリューチェーン全体の環境パフォーマンスを向上させ、持続可能な社会への貢献が期待されます。

    カテゴリー11

    Scope3のなかでもとくに厄介とされるのが、カテゴリー11「販売した製品の使用」、つまり製品が消費者の手に渡って使用されているときに排出されるGHG排出量です。このカテゴリが特に注目される理由の一つは、その計算の難しさにあります。

    調達や配送であれば、実際の数値に照らし合わせて排出量を算定することができますが、カテゴリー11は生産時にはまだ確定していない「製品の生涯排出量」を考慮しなければなりません。製品がどのように使われるか、どれだけの期間使用されるか、さらにはどのエネルギー源を使って運用されるかは消費者ごとに異なるため、正確な排出量を算定することが困難です。

    現在は使用方法等の条件ごとに仮定のシナリオを作り、計算上の生涯排出量を設定していますが、これには限界があります。EVや家電製品はユーザーごとに使用頻度や使用時間に大きな差があり、さらには太陽光発電等の再エネ電力を利用していた場合にはGHGの算定に大きなインパクトを与えてしまいます。

    したがって、本来の目的からするとユーザーごとの利用に即したGHG排出量を算定すべきであり、日本国内でも実際にそういった取り組みをスタートしている企業も散見されます。しかし、個別の製品使用データや電力データを取得するにはいくつもの課題があり、Scope3対応が追いついているとはあまりいえない状況が続いています。

    Scope3を公表している企業

    ダイキン工業株式会社

    出典:Enterprise Zine

    CO2の排出量が年間3億トンを超えているというダイキン工業株式会社はScope3を含めたGHG排出量を自社のHP上で公表しています。実はそんな莫大なサプライチェーン排出量の99%はScope3カテゴリー11による排出量が占めているそう。そんななかでScope3算定方法の改善にも着手している最中です。

    現在のシナリオでは、消費者は一定の温度を超えるとエアコンをつけるだろうという予測のもと全体的に計算をしており、個別の利用状況が反映できていません。そこで、産総研と共同でメガデータを解析することで、精度の高い実態に即したScope3の算定ができないか研究を進めています。

    富士通グループ

    富士通のロゴ
    出典:会社四季報オンライン

    富士通グループでは、事業活動のライフサイクルのうち、Scope3の比率が全体の約9割を占めています。そのため、このカテゴリに関しての排出削減を掲げ取り組んでおり、富士通グループの中期環境目標「製品の使用時消費電力によるCO2排出量を2030年度に2013年度比30%以上削減する」に基づき、第10期環境行動計画も策定しました。

    省エネ技術の適用などを通してScope3削減を目指す同グループは、2020年には「スコープ3 排出量算定」を含む環境マネジメントにおいて、国際的な「サプライヤー・エンゲージメント評価(SER)」の最高評価「A」を獲得するなど、精力的な環境活動が光ります。

    株式会社リコー

    出典:バチャナビ

    株式会社リコーでもGHG排出の約83%を占めるというScope3内の、原材料調達(カテゴリー1)、輸送(カテゴリー4)、使用(カテゴリー11)を対象に対応を進めています。

    とくに2023年度からはカテゴリー4の輸送において、GLEC(Global Logistics Emissions Council)フレームワーク認証と呼ばれる多国籍企業とそのサプライヤーに特化した物流排出量計算のガイドラインに準拠した可視化ツールを、北・中・南米の各地域にも導入。これにより、GHG排出量を適切に把握することができるようになります。

    まとめ

    今回はScope3について、概要から企業事例まで解説を行いました。

    「製品生産時のGHG排出量を報告して終わり」の時代はいまや過去のものになっています。消費者の製品使用にも企業が責任を持ち、正確なScope3算定に向けての企業努力が欠かせません。製品の使用データの取得・活用は今後、製品開発以外の用途として重要な価値を持ってくるでしょう。

    自社のサプライチェーンを見直し、GHG排出量の可視化・削減に向けて、ぜひScope3対応に取り組んでみてはいかがでしょうか。

    トレードログ株式会社では、GXをテーマに製造・物流・社会インフラなど非金融領域へ向けた「データ活用×ブロックチェーン導入」を専門的に支援させていただいております。

    Scope3への対応や電力の色分けといったエネルギー分野に関する課題も、ブロックチェーン活用によって解決いたします。

    少しでもお悩みやご関心がございましたら、是非オンライン上で30〜60分程度の面談をさせていただければと思いますので、お問い合わせください。

    ICOとSTOとは?〜ブロックチェーンによる新たな資金調達のカタチ〜

    2008年にサトシ・ナカモトがビットコインを誕生させて以来、ブロックチェーン技術は金融領域のみならず、非金融領域、それも非常に幅広い産業での応用が期待され、また実用化されてきました。

    そんなブロックチェーンにとって、切っても切れない関係にあるのがトークンです。ブロックチェーントークンは、近年注目を集めるNFT(Non Fungible Token)など、数多くの応用可能性を背景に世界中の事業家や投資家達が注目する事業領域となっています。

    特に近年、従来の出資とは異なるシステムに基づいた資金調達法がブロックチェーンによって実現しています。本記事では、ブロックチェーンが実現する新たな資金調達法であるICO、STOについて詳しく解説していきます。

    ブロックチェーンによる資金調達が注目を集めている!

    トークンを用いた資金調達法

    近年、企業が資金を調達する方法は多様化しています。一昔前までは、金融機関や知人・親族からの借入、新株発行などが主流でした。しかし、現在ではベンチャーキャピタルからの投資やクラウドファンディングによる資金調達も珍しいものではなくなってきています。

    実は、そんな激動の金融分野においてもブロックチェーンの導入が始まっています。ブロックチェーンの文脈におけるトークンとは、ブロックチェーン技術を用いて発行された独自の暗号資産(通貨)や電子的な証票を意味します。

    概略としては、企業がブロックチェーン上で発行するトークンを投資家に提供し、投資家は配当金や発行体の提供するクーポンやポイントなどの非金銭リターンを受け取るという仕組みですが、ブロックチェーンの特性を生かすことで自由度や流通性が大きく向上すると予想されています。

    とりわけ、本記事のテーマでもあるICOやSTOは、従来の株式資本市場における資金調達のデメリットを克服する新しい方法として、すでにいくつもの大型の調達実績を出してきました。

    それぞれどのような仕組みなのかについてこの後、解説していきますが、その前にブロックチェーンについて軽く説明を加えます。

    ブロックチェーン=管理者不要でデータを安全に記録・共有する技術

    出典:shutterstock

    ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術です。

    ブロックチェーンはデータベースの一種ですが、そのデータ管理方法は従来のデータベースとは大きく異なります。従来の中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存されるため、サーバー障害やハッキングに弱いという課題がありました。一方、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、ハッキングにも強いシステムといえます。

    また、ブロックチェーンでは、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。ハッシュ値とは、あるデータをハッシュ関数というアルゴリズムによって変換された不規則な文字列のことで、データが少しでも変わると全く異なるハッシュ値が生成されます。新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みると、それ以降のブロックのハッシュ値を全て再計算する必要があり、改ざんが非常に困難な仕組みとなっています。

    さらに、ブロックチェーンでは、マイニングという作業を通じて、取引情報のチェックと承認を行う仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。マイニングとは、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムな値を代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しい値(ナンス)を見つけ出す作業のことで、最初にマイニングに成功した人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

    このように、ブロックチェーンは分散管理、ハッシュ値、マイニングなどの技術を組み合わせることで、データの改ざんや消失に対する高い耐性を持ち、管理者不在でもデータが共有できる仕組みを実現しています。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    ブロックチェーンによる資金調達のメリット

    安全な資金調達が期待できる

    出典:Unsplash

    従来型の出資では、株や債券等の証券は証券保管振替機構(ほふり)で一括管理されています。このような中央集権的な管理体制の場合、仕組み的に単一障害点になり得ることから、何らかのトラブルによりこの機能がダウンすると取引のすべてが停止してしまいます。もちろん、二重化やバックアップセンターなどの対策はなされていますが、そういったバックアップセンターも停止した場合(大規模災害等)、システムは機能しなくなってしまいます。

    また、データの集中管理にはデータの改ざん・ハッキングなどのリスクもあります。専用線を使用していることが多いため、インターネット経由のハッキングリスクは基本的には心配ありませんが、USBなどを通してシステム内部に侵入される可能性があります。

    これに対し、ブロックチェーンは前述のように分散してデータの管理を行います。不特定多数のユーザー同士が取引履歴を記録して監視する仕組みのため、ネットワーク全体でデータの一貫性を保つことができ、単一障害点を持たないように設計されています。

    したがって、一つのノードが機能しなくなったり、あるいはデータの不正な書き換えが起きた際にも、ネットワークの参加者間で正確なデータは同期されているため、すぐにバックアップを復元することが可能です。

    こういった安全で正確なデータ管理ができる点は、資金調達や証券との相性が良い技術といえるでしょう。

    煩雑な事務作業がなくなる

    出典:Unsplash

    ブロックチェーンによる資金調達ではトークンを介して権利を管理することができます。

    証券取引では取引がその台帳に反映される以前に、約定日、銘柄、数量、価格などが合っているかを確認する「約定照合」という作業があります。こうした確認を要する作業は、膨大な作業量やシステムをまたぐチェックにより手間がかかり、ミスも増えてしまいます。

    こうした分野にブロックチェーンを活用すれば、プラットフォーム上で電子帳簿の書き換えによって容易に権利を移転させることができ、流動性が高まった結果、従来のような煩雑な手続きを要することなく活発な取引が期待できます。手続きも全てネット上で完結するため、手続きのコストは従来よりも削減できるでしょう。

    24時間稼働が実現する

    出典:Unsplash

    従来の証券取引では、仮想通貨など一部の投資商品に関しては、土日を含む24時間で取引が可能となっていますが、基本的には平日の9時〜15時半までとなっています。これは、現在の上場有価証券は証券取引所やほふりを介することでしか取引ができず、これらの営業時間に依拠せざるを得ないためです。

    ブロックチェーンによるデジタル上での取引となるため、24時間いつでも取引が可能になっています。したがって、投資家は早朝や深夜、休日など自身が好きなタイミングで売買を行うことができます。約定と決済も即時行えるため、即時的な取引も可能になり、利便性が高まると考えられています。

    かつてはICOがトークンによる資金調達の代表例だった

    Top 30 ICO Development Companies in India [September 2023]
    出典:Linkedin

    ブロックチェーンによる資金調達の初期の形はICOと呼ばれるものでした。今はあまり見かけないタイプの調達法ですが、基本的な思想は現在の主流とも似通るところもあるため、歴史を学ぶ意味でもICOについて見ていきましょう。

    ICOの概要

    ICOとは、「Initial Coin Offering(イニシャル・コイン・オファリング)」の略で、新規仮想通貨を公開・売却することで資金調達する方法のことです。

    ICOでは、企業や団体が、コインやトークンと呼ばれる独自の仮想通貨を発行します。同時にホワイトペーパー(解決したい課題やその必要性、市場規模、具体的なソリューションなどについてまとめた資料)を公開することによってプロジェクトの有望さを投資家に売り込みます。

    投資家は、企業や団体の活動内容を知り、成長可能性があると思えば、コインやトークンを購入して保有します。プロジェクトが軌道に乗れば、保有しているコインやトークンの価値が上昇し、購入時より価格が上がったタイミングでそれらを売却すれば、売却益を得られるという仕組みです。

    銀行から借り入れる際には、煩雑な審査や返済義務といった存在が借り手の頭を悩ませますが、ICOではこれらも必要ありません。そういった意味ではIPO(新規公開株)の仮想通貨版と考えてもらうとわかりやすいかと思います。

    仮想通貨にはもともと、国際送金を低コストで行えるという特徴があるため、国や地域を限定することなく世界中から資金を調達することが可能です。こうした様々なメリットによって世間の注目を集めました。

    ICOに関する数々のトラブル

    一時期は大きく注目を集め、多額の資金が投じられたICOでしたが、現在ではICOによる資金調達はほとんど行われていません(少なくとも、ICOと名乗ることはないでしょう)。

    その理由は、ICO投資詐欺が横行したことに起因しています。ICOにおけるトークンは法規制の範囲外でした。したがって、発行者にとっては簡易・迅速な巨額の資金調達手段として、投資家にとっては当時の仮想通貨ブームも相まって世界的に爆発的に件数が増えました。

    十分に検討されていないプロジェクトであっても資金が調達できましたが、プロジェクトが投資家に対して報告する義務もなく、ブームに乗っただけのプロジェクトは仮想通貨のバブル崩壊とともに立ち消えになってしまいました。

    このような極度に投機的な性格や、仕組みを利用した詐欺事件が相次いだことなどにより、市場は大きく縮小する結果となり、令和元年の金商法改正によってICOによって発行されるトークンのうち、トークンが暗号資産(仮想通貨)に該当する場合や前払式支払手段(電子マネーやポイントと同じ分類)に該当する場合は、資金決済法の規制を受けることとなったものの、ネガティブなイメージはいまだ取り戻せていません。

    STOはICOに代わるデジタル証券の資金調達手法

    出典:MAKE USE OF

    問題が露呈したICOに取って代わったのがSTOと呼ばれるアプローチです。ここではSTOについて解説していきます。

    STOの概要

    STOとは、「Security Token Offering(セキュリティ・トークン・オファリング)」の略で、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法のことです。ここでの「セキュリティ」は一般的に使われる「安全性」という意味ではなく、「証券」という意味です。

    有価証券は、債権や株式、投資信託など、財産的な裏付けや権利を持つもので、その権利を他人に移転したり、行使したりする際に受渡・占有が必要とされる証券のことを指します。こういった従来の有価証券をブロックチェーン技術を用いて電子化(トークン化)したものが「ST(セキュリティ・トークン)」です。

    有価証券は証券会社をはじめ、銀行や保険会社等の金融機関でも取り扱っていますが、STを扱う取引機関もそれら同様、政府機関による厳しい審査を受けなければならず、トークンリスト、データ共有、オンボーディング手順に関する様々なコンプライアンスをクリアする必要があります。したがって、ICOのように質の低いプロジェクトや悪意を持った架空のプロジェクトが紛れ込むリスクが格段に減少しました。

    STを購入できる取引所の整備は主に海外で進められてきましたが、2020年5月に金融商品取引法で有価証券として規定されたのをきっかけに、国内でもSTを取り扱う証券会社が現れ、今後さらにマーケットが拡大していく見込みです。

    STOのメリット

    STは証券会社を通して購入することになります。したがって、STを発行する企業も各国の金融商品取引法に準拠したトークンを発行する必要があるため、安心して投資をおこなうことが可能です。

    また、STOでは個人投資家でも様々なものに投資できるようになり、企業としてもSTOを活用して多くの投資家から資金調達を行うことによって、一人当たりの投資金額を小口化できます。

    株式等はもちろんのこと、従来の方法では難しかった土地や著作権などの所有権も小口化することが可能です。今後も、さまざまな資産を対象としたトークンが開発されていくことでしょう。

    STOのデメリット

    STは、金融商品取引法及び関連府令の改正により「電子記録移転有価証券表示権利等(デジタル証券)」と定義されました。

    STは上図のように①伝統的有価証券トークン②電子記録移転権利(いわゆるみなし有価証券トークン)③適用除外電子記録移転権利(内閣府令により②から除外されるもの)に分かれています。

    改正前は信託受益権、集団投資スキーム持分などの電子記録移転権利は第二項有価証券として扱われていました。しかし、トークン化された有価証券は流通性が高まると予想されることから、第一項有価証券として取り扱われることになりました。

    市場における流通性が高い株式や社債等の有価証券については、有価証券の募集等に関して二項有価証券に比べて厳しめの規制が課されています。したがって、開示規制により有価証券届出書を提出しなければならなかったり、仲介業者(プラットフォーム提供者)も第一種金商業のライセンスが必要になったりします。

    結果としてICOと比較すると、小企業や早期プロジェクトがトークンを発行し、公募するハードルがかなり高くなってしまいました。

    国内では不動産STOが活発化

    今まで見てきたように法的バックグラウンドが生まれたことにより、今後たくさんのSTO事例が誕生するでしょう。国内ではそういった流れに先駆け、不動産STの取引が活性化しています。

    不動産STとは不動産特定共同事業の出資持分をトークン化して、小口商品として販売します。マンション投資など不動産への投資は高額であり、主にプロ向けに販売されることが多いですが、STOを活用することで個人単位でも比較的少額で、そうしたプロ向けの商品に投資できるようになっています。

    これまでも、クラウドファンディングなどで、不動産特定共同事業の出資持分を販売する例はありましたが、これらは譲渡における手続きが複雑なうえに、信託受益権については信託銀行等の帳簿上でその権利や権利者が管理されており、同日中に大量の件数の権利移転手続きを行うことが困難でした。したがって、この不動産分野では投資家同士のセカンダリー取引が困難な流動性の低いという課題を抱えていました。

    しかし、ブロックチェーンを活用してトークン化することで、大量の件数の権利移転手続きを効率的に実施できるようになり、多数の投資家を対象とした不動産関連の小口投資を商品化することが可能になりました。

    日本初の不動産STOをおこなったとされるケネディクス株式会社は、SMBC信託銀行と大和証券などと協業しながら大型のSTOを実施してきました。同社では2023年8月までに8件の不動産STOを実施し、ST発行総額は407億円にのぼります。

    出典:ケネディクス・インベストメント・パートナーズ株式会社

    また、2023年11月には大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が、金融庁よりST取引に係るPTS(上場有価証券取引に係る私設取引システム)開設の変更登録及び変更認可を承認されたと発表しました。同時に、「START(スタート)」と命名されたセカンダリー市場の開設も発表され、さらなる取引の活性化が見込まれています。

    ODX、新PTS市場START(スタート)の第1号案件として「公募型不動産STO」実施へ

    まとめ

    株や債券等の証券が券面から証券保管振替機構(ほふり)での管理に移り変わってきたように、今度はデジタル有価証券に形を変え、新たな資金調達モデルへの転換点に差し掛かっているのかもしれません。

    まだまだ規制面やなどで課題も多く残るSTOですが、今後STを取り扱う証券会社や投資モデルの多様化が進めば、STOをベースとした資金調達が主流となるはずです。

    既存の証券システムの刷新を期待して、今後のSTOの発展には引き続き注目していきたいですね。

    ブロックチェーンに隠れた3つの課題とは?

    DXの有望技術として期待されるブロックチェーン。分散型台帳とも呼ばれるこの技術が普及するためには克服すべき3つの課題「スケーラビリティ」「ファイナリティ」「セキュリティ」があります。

    本記事では、これら3つの課題の概要と解決策を解説します。

      ブロックチェーンのおさらい

      ブロックチェーンの課題について解説する前に、まずはブロックチェーンとはそもそもどのような技術であるのかについて簡単におさらいしていきましょう。

      ブロックチェーン=管理者不要でデータを安全に記録・共有する技術

      出典:shutterstock

      ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術です。

      ブロックチェーンはデータベースの一種ですが、そのデータ管理方法は従来のデータベースとは大きく異なります。従来の中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存されるため、サーバー障害やハッキングに弱いという課題がありました。一方、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、ハッキングにも強いシステムといえます。

      また、ブロックチェーンでは、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。ハッシュ値とは、あるデータをハッシュ関数というアルゴリズムによって変換された不規則な文字列のことで、データが少しでも変わると全く異なるハッシュ値が生成されます。新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みると、それ以降のブロックのハッシュ値を全て再計算する必要があり、改ざんが非常に困難な仕組みとなっています。

      さらに、ブロックチェーンでは、マイニングという作業を通じて、取引情報のチェックと承認を行う仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。マイニングとは、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムな値を代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しい値(ナンス)を見つけ出す作業のことで、最初にマイニングに成功した人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

      このように、ブロックチェーンは分散管理、ハッシュ値、マイニングなどの技術を組み合わせることで、データの改ざんや消失に対する高い耐性を持ち、管理者不在でもデータが共有できる仕組みを実現しています。

      詳しくは以下の記事でも解説しています。

      高まるブロックチェーン市場への期待

      ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並んで、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待されている有望技術の一つです。DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーションから開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や、社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革まで大小問わずにビジネス全体を変革する可能性を秘めています。

      元々はFintech(フィンテック、金融領域におけるDX)の一分野である仮想通貨の実現を可能にした一要素技術、つまりビットコインを支えるだけの存在に過ぎなかったブロックチェーンですが、近年、データの透明性や耐障害性、分散的な組織構造などが注目され、あらゆる既存産業・ビジネスで応用できる可能性を秘めた技術であることが明らかになってきました

      海外では行政や地域福祉レベルでもブロックチェーンが実用化されるケースがあり、国内でも大手企業を中心に、実証実験や一部サービスへの導入が始まっています。欧州での規制や度重なる企業の不祥事などにより、データの正確性や業務の自動化が求められる今後のビジネスでは、ブロックチェーンの需要はさらに拡大していくことでしょう。

      そんなブロックチェーンも万能薬ではない!?

      上述のように、ブロックチェーンは様々な社会課題を解決する可能性を秘めた素晴らしい技術です。しかし、その割には私達が普段触れているサービスに適用されている事例は多くはなく、社会へ浸透しているとはいえない状況です。

      これは一体なぜなのでしょうか。もちろん既存のデータベースから乗り換えるだけのメリットを感じない、新たなシステムを導入するだけの資金がないといったビジネス的な理由もあるでしょう。

      しかし、それ以前にブロックチェーンには技術的な課題が大きく分けて三つ存在します。いずれの課題も単純に対策をすれば良いというものではなく、メリットと引き換えに生じているものもあるため、その理由や背景を知ることはブロックチェーンを語る上で欠かせないでしょう。

      ここからはそれぞれの課題について、概要と解決策を紹介していきます。

      ブロックチェーンの課題①:スケーラビリティ

      point of sale scalability
      出典:National Computer Corp

      課題の概要

      ブロックチェーンの課題の一つ目は、「スケーラビリティ」です。スケーラビリティとは、「トランザクションの処理量の拡張性」つまり、どれだけ多くの取引記録を同時に処理できるかの限界値のことを指します。

      ブロックチェーンは、従来のデータベースよりもスケーラビリティが低くならざるを得ないという課題を抱えています。これはビットコインやイーサリアム、リップルといった各ネットワークごとに予め定められた「コンセンサスアルゴリズム」と呼ばれる合意形成のルールに基づいて、一定量のトランザクション(取引データ)群をブロック化することで取引記録を保存する、というブロックチェーンの性質によるものです。

      したがって、ある単位時間にどの程度の量のトランザクションをブロック化して処理できるかは、そのルールであるコンセンサスアルゴリズムに依存することになります。例えば、ビットコインでは「PoW(Proof of Work、プルーフオブワーク)」というコンセンサスアルゴリズムを採用していますが、これはネットワーク参加者(=「ノード」)に、自身のコンピュータのマシンパワーを利用した計算問題を解くことがブロック生成の条件となっており、ビットコインネットワークにおけるスケーラビリティはノードのマシンパワーに依存することになります。

      ビットコインの場合、新しいブロックが平均して10分に1回生成され、各ブロックでは1MBのデータしか処理がされません。ブロックチェーンには、未処理のトランザクションが待機しておくメモプールという空間が存在しますが、処理するトランザクションが増えて記録可能な取引の上限を超過してしまうと、メモプールに大量のトランザクションが留まってしまいます。こうなると、次回以降のブロック生成時まで放置されて取引が完了しなくなってしまいます。このような取引増加に伴ってネットワーク処理速度が低下することをスケーラビリティ問題といいます。

      また、マイナーと呼ばれるトランザクションの承認者は、ガス代(手数料)という経済的なインセンティブによって動いているため、手数料が多いものから処理を行います。すると、自らの取引を優先的にブロックに記録させるために相場より多くの手数料を支払うユーザーが現れ、手数料のインフレが起きてしまうという副次的な弊害もあります。

      一般に、スケーラビリティは「tps(transaction per second、1秒あたりのトランザクション処理量)」で定義することができますが、実際に、代表的なブロックチェーンネットワークは、次のように不十分なスケーラビリティだと言われています。

      • 一般的なクレジットカード:数万tps
      • ビットコイン(コンセンサスアルゴリズムがPoW):3~7tps
      • イーサリアム(コンセンサスアルゴリズムがPoS):15~25tps
      • コンソーシアム型ブロックチェーンネットワーク(PoAコンセンサスアルゴリズム):数千tps

      このように、ブロックチェーンは、ープンで分散的なデータベースとして期待を集めている一方で、ネットワーク参加者が増えるとスケーラビリティが担保できなくなるという課題を抱えています。

      課題の解決策

      この課題に対しては様々なアプローチが試みられています。最も安直な最善策は、メインチェーンのブロック容量と生成スピードの制約を緩和させることです。

      このアプローチでは、ブロックの容量を増やしたり、生成までの間隔を短縮することで、一回のトランザクションで処理できるデータ量を増加させて待機のトランザクションを減らすことができます。しかし、これによってブロックチェーン本来の分散性が低下する可能性や、システム自体の安定性やセキュリティに影響を及ぼす可能性もあります。

      また、金融領域では、「ライトニングネットワーク(Lightning Network)」という新しい概念に注目が集まっています。ライトニングネットワークは、小規模ながら高頻度で行われる取引をオフチェーン(ブロックチェーンの外部)で処理するペイメントチャネルという仕組みによって、最初と最後の取引だけをブロックチェーンに反映できるネットワークのことです。

      ペイメントチャネルでは、複数の秘密鍵でビットコインを管理するマルチシグという技術を背景にオフチェーン取引が可能になるため、最初の取引でビットコインを送金し、その金額内で自由に送金ができます。したがって、ブロックチェーンのように途中の取引も全て検証する必要がなく、中間の処理を省くことでトレーサビリティ問題に対応しています。

      このようなアプローチにより、決済の迅速化や高いトランザクション容量の実現が期待されています。たとえば、大手暗号資産取引所のバイナンスはビットコインの取引をライトニングネットワークで実行できるようになったと発表しています。

      Binance Completes Integration of Bitcoin (BTC) on Lightning Network, Opens Deposits and Withdrawals

      しかし、非金融領域においてはいまだ効果的な解決策は確立していません。こうした原理的な課題は、ブロックチェーンが社会基盤となれるかどうかを左右する、重要な論点だと言えるでしょう。

      ブロックチェーンの課題②:ファイナリティ

      出典:ぱくたそ

      課題の概要

      ブロックチェーン、とくにその代表格であるビットコインの課題として知られるのが、「ファイナリティ(finality)」の問題です。ファイナリティは決済にまつわる概念で、日本銀行によって、次のように説明されています。

      • (ファイナリティーのある決済とは)「それによって期待どおりの金額が確実に手に入るような決済」のことを言います。
      • 具体的には、まず、用いられる決済手段について(1)受け取ったおかねが後になって紙くずになったり消えてしまったりしない、また決済方法について(2)行われた決済が後から絶対に取り消されない――そういう決済が「ファイナリティーのある決済」と呼ばれます。

      ビットコインの仕組みでは、このファイナリティを十分に担保できないとして、特に金融領域における活用が懸念視されることがあります。

      「スケーラビリティ」の項目でも触れたように、ビットコインではPoWと呼ばれる、ノードのマシンパワーを利用した計算競争によるコンセンサスアルゴリズムが採用されていますが、実はこのPoWがファイナリティの担保を邪魔しているのです。そもそも、PoWは、次のような仕組みです。

      出典:Web3総合研究所
      1. ある時、あるノードが、トランザクションプールから一定量(1MB)のトランザクションを任意でとりまとめて、ブロック化を開始する。
      2. ブロック化を行うために、ノードはビットコインネットワークから与えられた計算課題を解くことを試みる。
      3. 同様に、世界同時多発的に複数のノードが計算を行い、計算に成功したノードが生成したブロックが他のノードに伝播されていく。
      4. 伝播された先のノードがブロック生成に用いた計算の「暗算」を行い、計算が正しいと認められたら、ブロック化に成功する。

      ここで、ある問題が起こります。それは、ある一時点でネットワーク内に複数のノードがつくった異なる複数のブロックが同時に存在し、さらにそれらの異なるブロックの中には同じトランザクションが入っているという事象です。

      PoWでは、複数のノードによる計算競争の結果を一旦すべて正規のブロックとして認めてしまうことになります。すると、ある取引記録が正しいかどうかを確認するにあたって、複数の異なるブロックのうちどのブロックを正しいものとして参照すべきかわからなくなってしまいます

      これが、ビットコインにおける「フォーク(チェーンの分岐)」と呼ばれる問題です。ブロックチェーンの課題に立ち返ってみると、このフォークの可能性が、ビットコイン決済におけるファイナリティの担保を邪魔していることがみえてきます。

      PoWを原理として採用するビットコインでは、常に同時多発的に複数のブロックが生成され、その度ごとにチェーンの分岐(フォーク)が発生する可能性があるため、取引内容が覆る可能性を完全にゼロとすることができず、ファイナリティを担保することができないのです。

      実は、ビットコインではチェーンの分岐が問題にならないように、PoWを補完するもう一つのコンセンサスアルゴリズムである「ナカモト・コンセンサス」を採用しています。ナカモト・コンセンサスは、複数のブロックが同時生成された場合、ブロックの集積が最も多い(つまり長い)チェーンに含まれるブロックを正規のものとみなすという考え方です。一見、この考え方によって、ファイナリティが担保されなくもなさそうではあります。しかし、残念ながら事態はそう簡単ではありません。

      ナカモト・コンセンサスはあくまで合意形成に至る考え方の一つであって、実際には、運営側による仕様の変更など大きく賛否の分かれる問題が生じた際、全員での合意形成には至らず、複数の異なるチェーンを正統とみなす派閥に分派してしまうことがあります(ちなみに、こうした運営側による仕様変更等でチェーンがはっきりと分派してしまうことを「ハードフォーク」と呼びます)。

      実際に2017年には、ビットコイン(BTC)からのハードフォークによってビットコインキャッシュ(BCH)が生まれました。ハードフォークの理由は、スケーラビリティ問題の解決を目指した仕様変更でブロックの容量を8MBに拡張するというものでした。

      こうしたハードフォークはハッカーによる「リプレイアタック」の対象になります。リプレイアタックとは、ある台帳上(旧台帳)で有効なトランザクションを他の台帳上(新台帳)でも実行することにより、送金者の意図しない台帳上で資産移動させてしまうことです。

      これは「旧仕様」と「新仕様」のブロックチェーンがどちらも同じ「秘密鍵」を用いていることが原因です。仮想通貨の記録の管理に用いるキーを変えずに新通貨を作るため、知らぬ間にデータがコピーされて所有権を奪われてしまいます。

      そういった意味で、PoWを採用しているビットコインにおいて、「信用」を扱う決済領域で最も重視されるファイナリティを完全に担保することは原理的に困難なのです。

      課題の解決策

      実は、このファイナリティの問題は、ビットコインに限った課題ではなく、イーサリアムなど他のブロックチェーンネットワークでも同様に抱えている課題です。しかし、全てのブロックチェーンでファイナリティの問題が生じるわけではありません。

      ファイナリティの担保が難しいのは、PoWやPoSといった不特定多数の参加者での合意形成に至るためのコンセンサスアルゴリズムを採用しているネットワーク、つまり、「パブリックブロックチェーン」に限った話です。

      そのため、ファイナリティを必ず担保する必要のある金融機関では、「コンソーシアム型」や「プライベート型」と呼ばれる参加者を限定したブロックチェーンネットワークを採用することで、この問題に対応するケースがあります。

      「コンソーシアム型」や「プライベート型」のブロックチェーンでは、ネットワーク内に決められた数の人しか参加を許可していません。多くの場合、参加するためには管理者による本人確認等があり、簡単には参加できない仕様になっています。

      このようなチェーンにおいては、ファイナリティが実現しており、主にエンタープライズ向けのシステムでビジネス採用されています。

      ブロックチェーンの課題③:セキュリティ

      出典:Pexels

      課題の概要

      ブロックチェーンが原理的に抱える課題の3つ目が、「セキュリティ」の問題です。これには驚かれる方も少なくないかもしれません。冒頭でもブロックチェーンは「データに対する耐改ざん性が高い」と説明したばかりです。

      これは、トランザクションと呼ばれる個々のデータの塊のそれぞれに鍵がかけられている(公開鍵暗号方式)ことに加え、トランザクションの塊であるブロックの生成時にもコンセンサスアルゴリズムと呼ばれる合意形成のルールが適用されることで、データを書き換えることのハードルが非常に高くなっていることを意味しています。

      こうした背景から、「ブロックチェーン=セキュリティを高める技術」であると考えている方も少なくありません。しかし、残念ながら、ブロックチェーンはセキュリティの万能薬というわけではないのです。

      ブロックチェーンは「強いAI」というわけではなく、あくまで人間が稼働させる一つのシステムです。そのため、ブロックチェーンが社会実装される過程のヒューマンエラーによって(コーディングのバグ等)、あるいは組織的な恣意性によって適切に効果が発揮されず、結果としてセキュリティが脅かされることも十分にありえます。

      こうした事情からブロックチェーン、とりわけビットコインにつきまとうセキュリティ課題として、次の2つの問題が存在しています。

      • 51%問題
      • 秘密鍵流出問題

      51%問題とは、「ある特定のノード(ネットワークの参加者)が、ネットワーク内のマシンパワーの総量を超えるパワーでマイニングを行うと、そのノードの恣意性にネットワーク全体が左右される」という問題のことで、平たく言えば、「ネットワークの乗っ取り(牛耳り)」問題といったところでしょうか。

      先ほど説明したように、ビットコインではPoWおよびナカモト・コンセンサスと呼ばれるコンセンサスアルゴリズムのもと、複数のノードによる計算競争の結果、最も長いチェーンに含まれたブロックを正統なデータとしてみなす、という仕組みがとられています。

      そして、この計算のスピードは、計算を行うノードのマシンパワーに依存しています。したがって、この仕組みを逆手にとると、他のどのノードよりも強いマシンパワーを手に入れ、その結果、他のどのノードよりも速いスピードで計算を行うことができれば、そのノードは自分にとって有利な、恣意的な取引記録を正統にすることができます。これが、51%問題と呼ばれるセキュリティ上の課題です。

      もう一つのセキュリティ課題が、秘密鍵流出問題です。これは、いわゆる「なりすまし」攻撃で、各ノードが保有するアカウントに付与された「秘密鍵」を盗まれることで起こります

      ブロックチェーンの仕組みでは、前述した「ブロック化」の過程でトランザクションがプールから取り出される際に、「秘密鍵暗号方式」と呼ばれる方法でトランザクションへの「署名(秘密鍵で暗号化する)」が行われることで、トランザクション自体のセキュリティが担保されています。

      通常、この秘密鍵は、各アカウントごとに一つだけ付与されるもので、この鍵を使うことでアカウントに紐づいた様々な権限を利用することができます。そのため、この鍵自体が盗まれてしまうと、個人アカウント内の権限を第三者が悪用できてしまうことになります。これが、秘密鍵流出問題です。

      課題の解決策

      51%問題と秘密鍵流出問題は、それぞれに、解決策が異なります。順に、説明していきます。

      51%問題への対応

      51%問題の対策方針は、コンセンサスアルゴリズムを変更することです。先ほど説明したように、51%問題は原理的なセキュリティリスクであり、PoWおよびナカモト・コンセンサスが合意形成のルールである以上、完全な対策は不可能です。

      もちろん、ネットワークの規模が大きくなればなるほど、ネットワーク総量の過半数を占めるマシンパワーを用意することは難しくなっていくので、51%問題を利用した攻撃のハードルも上がってはいきます。しかし、あくまで難易度が上がるだけの話であるため、リスクがなくなるわけではありません。したがって、51%問題のリスクをなくすためには、ルールそのものを変更する必要があるのです。

      これは、ビットコイン以外のブロックチェーンネットワークにおいて実際に行われていることで、例えば、イーサリアムで採用されている「PoS(Proof of Stake)」は、51%攻撃のリスクを限りなく低くすることを目的に定められたルールとされています。

      PoSは、「ネイティブ通貨の保有量に比例して、新たにブロックを生成・承認する権利を得ることができるようになる仕組み」であるため、あるノードが51%攻撃を行うためには、ネットワーク全体の過半数のコインを獲得しなければならず、これは過半数のマシンパワーを一時的に利用することと比べて、はるかに難易度が上がります。

      また、コンセンサスアルゴリズムだけではなく、ネットワーク参加者自体を許可制にすることも、51%問題に対する一つの対策方法です。先述した「コンソーシアム型」と呼ばれるブロックチェーンネットワークでは、「PoA(Proof of Autority)」というコンセンサスアルゴリズムのもと、閉じられたネットワーク内で一部のノードに合意形成の権限を与えるという形をとっています。

      秘密鍵流出問題への対応

      秘密鍵流出問題への対応策の一つとされているのが、マルチシグです。マルチシグとは、トランザクションの署名に複数の秘密鍵を必要とする技術のことで、マルチシグを利用する際には企業の役員陣で鍵を一つずつ持ち合うなどの対応がとられます。

      また、マルチシグは秘密鍵流出問題へのリスクヘッジ方法であると同時に、 一つの秘密鍵で署名を行う通常のシングルシグに比べてセキュリティレベルも高くなることから、取引所やマルチシグウォレットなどで採用されています

      ただし、上述のコインチェック事件のように、個人レベルでマルチシグを利用していたとしても、取引所そのもののセキュリティが破られてしまった場合には被害を食い止めることはできません。セキュリティへの攻撃は複数階層に対して行われうるものであることを理解して、単一の技術のみに頼るのではなく、本質的な対応をとるように心がけましょう。

      まとめ

      ブロックチェーンを自社ビジネスに導入するには、本記事で紹介した3つの課題を無視することはできません。イメージ先行で場当たり的なDXではかえって様々なトラブルを誘発させかねません。そのため、まずはブロックチェーンの長所だけではなく短所も理解したうえで、適用先やユースケースの洗い出しをおこなうのが良いでしょう。

      トレードログ株式会社では、非金融領域におけるビジネスへのブロックチェーン導入を支援しています。新規事業のアイデア創出から現状のビジネス課題の解決に至るまで、包括的な支援が可能です。少しでもお悩みやご関心がございましたら、是非オンライン上で30〜60分程度の面談をさせていただければと思いますので、お問い合わせください。

      ブロックチェーンによる電子投票とは?投票におけるブロックチェーンの可能性に迫る

      2009年にBitcoinが運用開始されて以来、Ethereumをはじめとして様々なブロックチェーンプラットフォームが誕生しました。ブロックチェーンの特徴といえば、情報の改ざんが極めて難しい点があげられ、暗号資産などの金融領域だけではなく、非金融領域においてもブロックチェーン技術が多方面で応用され始めています。

      今回はブロックチェーンと親和性が高いといわれている「電子投票」の分野での取り組みを紹介します。ブロックチェーン技術を活用した電子投票が実現可能なのか考察していきましょう。

      ブロックチェーンが投票を変える

      従来の”投票”がもつ課題

      「投票会場まで足を運び、投票用紙に候補名を記入し投票箱に入れる」。これが一般的な投票の一連の流れです。このアナログ方式の投票が持つ課題としては、利便性が悪く、投票率が伸びないということが挙げられます。

      総務省が公表している下記のデータを見ても、投票率は右肩下がりになっており、とくに普段の生活からデジタルが当たり前となっている若い世代(10〜20代)では、投票率が著しく低いのが見てとれます。

      出典:総務省

      また、作業効率が悪く、人件費がかかるというデメリットもあります。2017年におこなわれた衆院選では決算ベースで596億7900万円の費用が発生しましたが、主な経費は、投票所または開票所にかかる経費であり、人件費が約半分を占める結果となりました。

      国政選挙では各投票所に人員を割く必要があるため、莫大な費用がかかってしまいます。近年では期日前投票に伴って期日前投票所が設置されるため、さらに多くの人件費が発生することも多くなってきています。

      さらに、集計・開票に際しては人為的ミスや不正行為が発生することもあるでしょう。公平でクリーンな政治を実現するうえでは、人間が恣意的な操作が不可能な投票スタイルにすることが望まれます。

      こういった課題を受けて、日本やアメリカではブロックチェーンを用いて選挙システムの改善を目指す取り組みが行われています。

      ブロックチェーンとは

      従来の投票作業の課題を解消する上で、改めて”投票”に必要なことは何なのかを紐解くと、

      • 定められた期間内に有権者が投票可能
      • 投票結果が改ざんできない

      という2点が挙げられます。

      そこで注目を集めるのが、「分散型で障害に強い」「改ざんが限りなく不可能に近い」という特徴を持つブロックチェーン技術です。

      出典:shutterstock

      ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術です。

      ブロックチェーンはデータベースの一種ですが、そのデータ管理方法は従来のデータベースとは大きく異なります。従来の中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存されるため、サーバー障害やハッキングに弱いという課題がありました。一方、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、ハッキングにも強いシステムといえます。

      また、ブロックチェーンでは、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。ハッシュ値とは、あるデータをハッシュ関数というアルゴリズムによって変換された不規則な文字列のことで、データが少しでも変わると全く異なるハッシュ値が生成されます。新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みると、それ以降のブロックのハッシュ値を全て再計算する必要があり、改ざんが非常に困難な仕組みとなっています。

      さらに、ブロックチェーンでは、マイニングという作業を通じて、取引情報のチェックと承認を行う仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。マイニングとは、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムな値を代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しい値(ナンス)を見つけ出す作業のことで、最初にマイニングに成功した人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

      このように、ブロックチェーンは分散管理、ハッシュ値、マイニングなどの技術を組み合わせることで、データの改ざんや消失に対する高い耐性を持ち、管理者不在でもデータが共有できる仕組みを実現しています。

      詳しくは以下の記事でも解説しています。

      ブロックチェーンによる電子投票のメリット

      投票の改ざんが困難になる

      出典:Unsplash

      投票にブロックチェーンを用いる最大のメリットは、透明性のあるクリーンな選挙が実現できることです。選挙や政治には古くから不正がつきものであり、コンプライアンス徹底が求められる現代においても、残念ながら不正が起きたというニュースを度々目にします。

      ブロックチェーンは、データをネットワークの参加者全員で共有・同期し、ハッシュと呼ばれるデータの暗号化値を連鎖的に保持する仕組みを持っています。このため、一箇所のデータを書き換えようとすれば、その後のすべてのブロックのハッシュ値も再計算する必要があり、改ざんは極めて困難になります。仮に不正が試みられても、ネットワーク上ですぐに検知されるため、従来の紙の投票に比べて圧倒的に高い安全性が確保されます。

      米紙ワシントン・ポストの調査結果によると、アメリカでは国民の約30%が、大統領選挙で不正が行われたと考えているといいます。ブロックチェーンによって選挙の透明性が担保されれば、こうした疑惑も払拭されて健全な政治が実現するでしょう。

      柔軟な投票スタイルが実現する

      出典:Unsplash

      現在の主流である投票所での投票という形式では、入場券や本人確認書類を持参して指定の投票所に向かわなければなりません。また、投票時間も通常午前7時から午後8時と決められています。

      これに対してブロックチェーンによる投票であれば、本人確認から投票までネット上で完結します。24時間いつでも投票することも可能です。若年層の投票率が低いという長年の課題がありますが、この原因は政治的無関心だけではないようにも思います。スマホ一つでなんでも完結できるこの時代において、わざわざプライベートの時間を割いて投票所に行かなければならないのは手間そのものにほかなりません。

      また、高齢者や健康上の理由で投票所に行くのが難しい人もいます。一定の条件を満たせば郵便等投票制度も利用できますが、そもそもネットでの投票であれば、条件や手続きも不要で選挙権を行使することができます。投票者の個別の状況にあわせて自由で柔軟な投票が可能になれば、投票率の改善も見込まれるでしょう。

      大幅なコストカットが可能になる

      出典:Unsplash

      現行の選挙制度では、公正な選挙を運営するために莫大なコストがかかっています。投票所の設営、立会人の配置、開票作業のための人件費など、多くのリソースが投入されており、これらはすべて税金によって賄われています。特に開票作業には多くの人員と時間を要し、その分のコストが膨らみやすいという課題があります。

      電子投票が導入されれば、投票や集計がすべてデジタル上で行われるため、立会人や開票作業にかかる人件費を大幅に削減することができます。特に人口の少ない市町村では、そもそも立会人を確保すること自体が難しく、公募だけでは人手不足に陥るケースもあります。その結果、業務委託によって追加の費用が発生し、選挙運営のコストがかさんでしまうこともあります。

      選挙のデジタル化は都市部だけでなく、こうした地方の自治体にとっても有効な選択肢となり得ます。コストを抑えつつ、公正で効率的な選挙を実現する手段として、電子投票の導入が求められています。

      再投票が可能になる

      出典:Unsplash

      選挙期間前は各紙、政治家のスキャンダルの応戦です。もちろん、一番ホットなトピックなので当然といえば当然なのですが、困ったことに現在の選挙制度では一度投票したら、その後に別の候補に票を入れたいと思ってもやり直しが利きません

      実際、有権者のなかの一定数は、確固たる候補者がいるわけではありません。2022年の参院選では安倍晋三元首相の銃撃事件を受け、1割を超える有権者が投票先の決定に影響があったと回答しています。選挙期間中に新たな情報が明るみに出ることで、有権者の判断が揺らぐケースは少なくないのです。

      ブロックチェーンを活用した電子投票であれば、一定期間内であれば投票の変更を可能にするシステムを導入することもできます。例えば、投票締め切りの直前まで最新の意思を反映できる仕組みがあれば、より納得感のある選挙が実現するでしょう。民主主義の本質は、有権者が十分な情報を得た上で最適な選択をすることにあります。選挙の透明性を高めると同時に、最新の意思を投票に反映することができるネット投票が解禁されれば、真の意味での民主主義が実現するはずです。

      「ブロックチェーン×投票」の導入事例

      アメリカ:ウェストバージニア州

      出典:pixabay

      2018年11月、アメリカウェストバージニア州の中期選挙で、ブロックチェーン投票システムが実際に導入されました。

      アメリカでは多くの州が、海外駐留の軍人などの在外有権者に対して、電子メールでの投票を許可しているものの、この投票がセキュアであるという保証はなく、投票率も低くなっている現状があります。

      そこで、この選挙では、選挙権を持つ海外駐在軍人1000名ほどを対象に、州または連邦の身分証明書とモバイルアプリが使用した投票がテストされ、30カ国に駐在する144人のウェストバージニア州有権者がブロックチェーン投票アプリを利用して投票を行なったと発表されています。

      参考値として、2016年のアメリカ大統領選挙における国外からの投票はわずか7%に留まっていましたが、今回のブロックチェーン電子投票システムにおける投票率は14.4%という結果となったことからも、ブロックチェーンを用いた電子投票は海外からの投票率の向上にも一定の成果を挙げたといえるのではないでしょうか。

      後日談ですが、2020年のウェストバージニア州予備選挙では、ブロックチェーンではなくワシントン州シアトルに本社を置くDemocracy Live社のオンラインポータル(クラウド)によるインターネット投票が導入されました。

      また、サイバーセキュリティ専門家のMaurice Turner(モーリス・ターナー)氏や暗号学の権威であるMITのRon Rivest(ロン・リベスト)教授らがネット選挙の危険性を指摘しており、ブロックチェーンよりも紙の投票の方が安全性が高いとしています。

      これはブロックチェーン単体の問題ではなく、投票をおこなう有権者のモバイル端末のセキュリティや本人確認の顔認証の精度などによる問題もあります。

      ブロックチェーン技術はセキュリティや処理速度など様々な面で進化を続けており、その適用範囲も年々拡大していることから、今後こういった課題への解決策が見つかるのではないでしょうか。

      アメリカ:ユタ州

      出典:Pixabay

      ユタ州は米大統領選で初めて、スマートフォン等のアプリで投票を行うブロックチェーンベースの投票システムを導入しました。

      投票者は事前に生体認証を含む本人確認を行い、投票用紙トークンを使ってオンラインで投票します。ライバシーを保護するために匿名のIDで署名して投票されますが、ブロックチェーンによって真正な投票データであることが担保されているため、開票結果もすぐに開示されました。

      新型コロナウイルスの影響で郵便投票が増加し、集計作業の遅れや投票用紙を使用した詐欺行為などが懸念されましたが、ブロックチェーンが使用されることによって、データ改ざんなどの不正行為を防止したうえでより多くの若年層や非投票者の投票率向上につながりました

      この選挙で利用された投票アプリ「Voatz」はHyberledgerブロックチェーンと生体認証を使って、安全で確実な投票を実現しており、これまでアメリカ国内でも60回以上選挙に利用された実績があるといいます。

      軍用レベルのセキュリティ技術によって支えられているこの投票スタイルは、2028年か2032年の大統領選挙までにより広い範囲で電子投票を採用できることを期待しているとしています。

      エストニア

      電子国家と呼ばれているエストニアでは、ブロックチェーン技術が生まれる前の2005年から世界に先駆けて、i-Votingというシステムを用いた国家主導の電子投票が行われてきました。

      有権者はインターネットにつながったコンピュータがあれば世界のどこからでも投票でき、投票内容は期日までであれば変更が可能です。また、電子投票期日締め切り後に投票所に来て、紙で再投票を行うこともできます(この場合、電子投票は削除されます)。

      このシステムによる投票は多くのエストニア国民が利用しており、2023年の議会選挙では51%がi-Votingを利用。これは世界の歴史で初めて、紙の投票 (49%) よりも多くの電子投票 (51%) があった選挙となりました。

      エストニアは国家レベルでブロックチェーン導入が盛んな国であり、税金、医療、教育、交通などの行政サービスにおける文書のタイムスタンプに「KSIブロックチェーン」という独自のブロックチェーンが使用されています。

      とくに医療分野での取り組みは非常に興味深い事例となっています。詳しくは以下で紹介しています。

      現在は電子投票のデータ基盤としてブロックチェーンは用いられていませんが、今後ブロックチェーンによる国政選挙の実現が最も近い国として取り上げました。

      つくば市

      出典:つくば市

      茨城県つくば市では「令和元年度つくばSociety5.0社会実装トライアル支援事業」において、ブロックチェーン技術を活用したインターネット投票の実証実験が行われました。

      出典:ジチタイワークスWEB

      このプロジェクトは、株式会社VOTE FOR、株式会社ユニバーサルコムピューターシステム、日本電気株式会社と共同で運用されており、2019年に第一回が、4年後の2023年には第二回の実証が行われました。

      第一回では、本人認証や処理速度、上書き投票などの課題が浮き彫りになりましたが、第二回ではマイナンバー内蔵のICチップを活用することや、ブロックチェーンのプラットフォームをEthereumからHyperledger Fabricへ変更することでこれらの課題をクリア。時間や場所を選ばずに、ICカードリーダーに接続可能なWindows端末があれば、1-2秒程度で何度も投票可能な投票システムの構築に成功しました。

      将来的には市長選などへの採用も検討しているとのことで、日本初の公職選挙が実現するのか、引き続き注目していきたい事例です。

      国内でもネット投票解禁の動きが

      日本国内でも国政選挙でのネット投票解禁が加速しつつあります。2023年6月には、立憲民主党と日本維新の会がインターネットによる投票を令和7年の参院選から導入することを規定した法案を衆院に共同提出しました。

      立維、ネット投票法案提出「7年参院選で導入」 – 産経ニュース

      この法案は、選挙などへのインターネット投票の導入を推進するものであり、セキュリティ確保には電子署名を用いることも定められています。

      ブロックチェーンを用いずとも電子署名の搭載は可能ですが、ブロックチェーン上に保存された電子署名は改ざんへの耐性が高いため、通常のデータベースに格納した場合よりもデータの真正性が高まります。したがって、国政選挙においてブロックチェーンが導入される可能性は十分考えられます。今後の続報が待たれます。

      まとめ

      新型コロナウィルスが世界中で猛威を振るった結果、私たちの考え方や行動は大きく変わりました。「リモート」が当たり前の世界となり、利便性が向上しただけでなく、デジタルならではのセキュリティリスクについての意識も大きく改善されたように思います。

      投票についても同様で、投票率の低下などを背景にネット投票解禁にシフトしていくことでしょう。ネット投票法案の提出もその追い風となることが予想され、ブロックチェーンを活用したより効率的で利便性の高い選挙の実現がますます期待されます。

      【初心者向け】NFTとは何か?どういう仕組みなのか?簡単に・わかりやすく解説!

      当初は一部のクリプト界隈で盛り上がっていたNFTも、最近ではニュースやSNSでも取り上げられることも増えてきました。しかし、NFTの歴史はまだまだ浅く、「名前は聞いたことはあるけど、具体的にどういう技術なのか、なぜ話題になっているのかはわからない」という方も多いのではないでしょうか。

      そこで今回は、NFTの概要からその仕組みや事例を分かりやすく解説していきます!

        そもそもNFTとは?

        NFT=”証明書”付きのデジタルデータ

        出典:shutterstock

        NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに、固有の価値を保証しています。

        つまり簡単にいうと、NFTとは耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している”証明書”が付属しているようなものです。

        NFTでは、その華々しいデザインやアーティストの名前ばかりに着目されがちですが、NFTの本質は「唯一性の証明」にあるということです。

        NFTが必要とされる理由

        世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した「NFT=非代替性トークン」は文字通り後者となります。

        例えば、紙幣や硬貨には代替性があり、替えが効きます。つまり、自分が持っている1万円札は他の人が持っている1万円札と全く同じ価値をもちます。一方で、人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができますが、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます。

        そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。

        これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、必要とされているのです。

        NFTを特徴づける3つのポイント

        データの改ざんが困難である

        唯一性の証明をするためには、データが上書きされることのない高いセキュリティ性が求められます。それを実現しているのが、NFTの基盤となっているブロックチェーンです。

        ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種でありながら、特にデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

        ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っていました。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

        これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません。また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

        さらにブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値ナンスといった要素によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

        ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

        新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

        また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出す行為を「マイニング」といい、最初にマイニングを成功させた人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

        ブロックチェーンではマイニングなどを通じてノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持つことで、データベースのような管理者を介在せずに、データが共有できる仕組みを構築しています。参加者の立場がフラット(=非中央集権型)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

        このようなブロックチェーンが持つ高いセキュリティ技術によって、NFTは安全に管理されています。ブロックチェーンについて詳しく知りたいという方は、こちらも併せてご覧ください。

        プログラマビリティがある

        NFTには「プログラマビリティ」と呼ばれる特徴があり、あらかじめ設定されたプログラムによってさまざまな機能を持たせることができます。これにより、単なるデジタル資産にとどまらず、クリエイターやユーザーにとって新しい価値を生み出す仕組みを作ることが可能になっています。

        NFTが二次流通した際にクリエイターや発行者に手数料が還元されるように設計したとしましょう。従来の中古市場では、作品が売買されてもクリエイターには利益が入らないのが一般的でしたが、NFTでは売買が繰り返されるたびに一定の収益が発生します。これにより、アーティストやコンテンツ制作者は継続的に収益を得ることができ、著作権管理の煩雑さも軽減されるメリットが生まれます。

        また、エアドロップという仕組みを使えば、特定のNFTを一定期間保有している人に新しいNFTを自動的に配布することができます。例えば、あるスポーツチームがファン向けにNFTを発行し、そのNFTを一定期間持ち続けた人だけに特別なデジタルアイテムをプレゼントするといった設計にすれば、NFTの長期保有を促したり、ファンコミュニティを活性化させることにもつながるでしょう。

        このように、NFTはただのデジタルアイテムではなく、プログラムによって機能を自由に追加できる点に大きな特徴があります。その使い方次第で、ビジネスモデルやファンエンゲージメントのあり方も変わっていくでしょう。

        誰でも売買できる

        NFTはオンライン上で売買できるため、マーケットプレイスと呼ばれる取引所にアクセスすれば、誰でも簡単にアートやデジタルコンテンツの売買に参加できるようになりました。これまで、アート作品を販売するにはギャラリーやオークションハウスを通す必要がありましたが、NFTの登場によって、個人でも手軽に作品を出品し、世界中のユーザーと直接取引できる環境が整っています。

        多くのマーケットプレイスでは、入札制度が導入されており、購入希望者が競り合うことで、作品の価値が市場の需要に応じて適正な価格で決定される仕組みになっています。これにより、特定のバイヤーやギャラリーに依存せず、誰でも公平に作品を取引できるようになりました。さらに、専門的な知識がなくても、デジタルコンテンツをNFT化できるサービスが充実しており、アーティストやクリエイターが気軽に作品を発表できる環境が整っています。

        NFTの敷居の低さを象徴する例として、小学生が制作したNFTが話題になったケースがあります。小学3年生の男の子が夏休みの自由研究として作成したドット絵作品「Zombie Zoo」は、たった3ヶ月で200点が販売され、取引総額が4400万円を超えるなど、大きな注目を集めました。こうした成功事例が生まれるのも、NFTが年齢やキャリアに関係なく、誰もが市場に参加できるオープンな仕組みであることを示しています。

        小3男児の絵に「一時2600万円」…高値売買の動きを急拡大させた「NFT」

        NFTは、従来のアート市場やコンテンツ流通のあり方を大きく変え、クリエイターとファンが直接つながる新しい時代を切り開いています。特別なスキルや大きな資本がなくても、自分の作品を世界中の人々に届けることができるというのは、NFTならではの魅力といえるでしょう。

        NFTはなぜ話題に?

        NFTが話題になった大きな理由の一つは、信じられないような高額の取引でしょう。

        2021年3月22日には、『Twitter』の共同創設者兼最高経営責任者(CEO)のジャック・ドーシー(Jack Dorsey)によって2006年に呟かれた ”初ツイート” がNFTとしてオークションに出品され、約3億1500万円という驚愕の金額で売却され大きな話題を集めました。

        TwitterのドーシーCEOの初ツイートNFT、3億円超で落札 全額寄付 – ITmedia NEWS

        また、同年3月にデジタルアーティストであるBeeple氏がNFTアートとして競売に出したコラージュ作品「Everydays: the First 5000 Days」が6900万ドル(日本円で約75億円)という値が付きました。これは、オンラインで取引されたアーティストのオークション価格史上最高額を記録し話題を呼びました。

        老舗Christie’s初のNFTオークション、デジタルアートが約75億円で落札 – ITmedia NEWS

        「デジタルデータにこんな価値が!」というインパクトや話題性から、NFTという言葉が一気に広まっていったのはある意味当然ですね。ただし、私たちが注意すべき点は、全てのNFTの価値は安定しているわけではないということです。

        ある人が大事にとってある ”思い出の石ころ” に値段がつかないのと同様、そのデジタルデータに対して価値があると多くの人々が判断し、需要や投機性が生まれてようやくそのNFTに値段がつくのです。

        デジタルデータに価値が付き売れるようになり、NFTが時代の大きな転換点となったことは事実ですが、過剰な需要と供給が加熱してしまうと仮想通貨と同様、バブル崩壊の道を辿るかもしれません。

        NFTはどこで取引されている?

        出典:ぱくたそ

        NFTを売買するには、NFTマーケットプレイスを利用します。アートや音楽、映像、ゲームのキャラクターやアイテムなどの売買ができるさまざまなNFTマーケットプレイスがあります。

        NFTマーケットプレイスは先述のブロックチェーン技術を土台としており、マーケットプレイスごとに土台とするブロックチェーンの種類も異なります。

        現在世界最大手のOpenSeaをはじめ、LINE NFTやCoincheck NFTといった様々なNFTマーケットプレイスが国内外に存在し、取り扱いコンテンツや決済可能な暗号資産もそれぞれ異なるため、出品者や購入者は取引する場所を用途に合わせて選ぶ事ができます。

        詳しくは以下の記事で解説しています。

        NFT活用のユースケースとは?

        NFT×アート

        出典:pixabay

        絵画やアートの分野でも、NFTの技術が使われ始めています。

        多くの場合、アートや絵画はPhysical(物理的)なものとして作られる場合がほとんどです。NFT登場前のデジタルアート作品はコピー・複製が可能なため、高い価値をつけるのが難しいというのが現実でした。しかし、NFTの技術により、コピー不可能なデジタルアートを作成できるようになり、先述したBeeple氏のように75億円で取引されたNFTアートも存在しています。

        ちなみに日本国内では、村上隆氏やPerfumeといった著名人が、続々とNFTアートを発表しています。国内のアート分野でもNFT技術の活用が徐々に広まっていると言えるでしょう。

        NFT×ゲーム

        出典:pixabay

        NFTの活用が盛んに行われてきた事例がゲーム分野での利用です。

        NFT技術を利用することで、自分が取得した一点物のキャラクターやアイテムをプレイヤー同士で売買することや、あるタイトルで取得したキャラクターやアイテムを他のゲームで使うことも可能になります。ゲーム内で育成したキャラクターなどは二次流通市場で取引され、パラメータやレアリティが高いほど高値で取引されています。

        また、NFTは往々にして仮想通貨を用いて取引がされることが多いです。そのため、ゲームをプレイすることで仮想通貨を得られる「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」という概念が生まれており、これは今までのゲーム体験を覆すものでしょう。今後も、NFTの特色を生かしたブロックチェーンゲームが次々にリリースされることが期待されています。

        NFT×スポーツ

        出典:pixabay

        スポーツ業界においてNFTは、選手やクラブと、ファンのエンゲージメントを高める手段として活用されています。

        『世界的に有名なプロスポーツ選手の決定的な名シーン』には、代えがたい価値があるはずです。誰もが感動しますし、ましてやファンにとっては垂涎の価値です。しかし、インターネット上には『決定的な名シーン』がたくさん転がっていて、お金を払うことなく誰もが気軽に見ることができてしまいます。

        そこでNFTによって選手や選手のプレーをNFT化すれば、その瞬間を切り取った「公式」のデジタルコンテンツが唯一無二のアイテムとして色褪せずに存在することができ、ファンが所有する喜びを感じたり、ファンの間で売買できるようになります。

        また、売り上げの一部をクラブに還元することで、応援しているチームに貢献しながら楽しむことができるというまさにファンには二重に嬉しい構造になっていることも、スポーツ界でNFTが広まりつつある理由でしょう。

        NFT×トレカ

        出典:MAGIC The Gathering

        現在、最も勢いのあるNFTの活用分野はなんといってもNFTトレカ、すなわちトレーディングカードです。

        トレカ界隈では現在、印刷技術やスキャンソフトの発達によって偽造品の氾濫が大きな問題となっています。偽物のクオリティが上がるだけではなく、実店舗でも偽物の販売で検挙されているケースがあり、もはや一般人の私たちからすると見分けることは困難です。

        NFTでは前述の通り、偽造やデータの改ざんができません。したがって、一点モノであるレアカードの証明や偽造防止という観点では、まさにうってつけの技術なのです。

        実物のトレーディングカードは、一部の熱心なコレクターに支持されるマニアックな世界という印象があったかもしれません。しかしNFTトレカでは、人気アイドルやプロスポーツ、人気アニメのトレカが発売されるなど、幅広い層に提供されています。

        アツい盛り上がりを見せているだけに今後も要注目の組み合わせです。

        NFTの将来性

        NFTはオワコン?

        このように様々なジャンルで盛り上がりを見せているNFTですが、その取引はピーク時と比べると落ち着いてきています。一部ではそういった現状を受け、「オワコン」とも囁かれていますが、果たしてNFTは将来性がないのでしょうか。

        出典:Gartner

        これはガートナー社が発表しているハイプサイクルです。ハイプサイクルとは、特定の技術の成熟度や社会への適用度を視覚的に表したグラフのことで、IT分野における重要な指標の一つとして知られています。

        このサイクルではNFTは現在「過度なピーク」を過ぎ、「幻滅期」に突入しています。ガートナー社の定義では、幻滅期は実験や実装で成果が出ないため、関心が薄れ、この時期を通り抜けると具体的な事例をもとに社会全体で主流採用が始まるとされています。

        つまり、ある意味では想定内の落ち込みで、このNFT氷河期とも言える冬の時代を耐え忍んでこそ社会への浸透が進むというわけです。したがって、この一時的な落ち込みを見て「NFTは終わった」「NFTは将来性がない」と判断するのはまだ早すぎるでしょう。

        実際に、ハイプサイクルにおいてようやく幻滅期を抜け出した「人工知能」も、過去にはディープラーニングを加速させる学習データが不足していることなどを理由にブームが終焉し、「AIによって人間の仕事が奪われる!」といった主張も鳴りを潜めてきました。

        しかし、現在の状況はどうでしょうか。様々な企業のサービスにAIが組み込まれ、子供からお年寄りまで誰しもが一度はAIによるユーザー体験をしているはずです。とくにアメリカのAI研究所であるオープンAIが開発した会話型AIのChatGPTは、官公庁や教育の場面で採用されるほど社会に広く浸透しました。

        このように、NFTの「取引量」「時価総額」に関するネガティブなニュースは一時的な情報に過ぎません(その逆も然りで、ポジティブなニュースにも注意が必要)。むしろ、様々な要因によってNFTは着実に次への一歩を踏み出し始めています。

        NFTはネクストフェーズへ

        NFTが再び社会で受容される頃には、以前のような視覚的な価値の裏付けといった立ち位置ではなくなっているかもしれません。

        確かにNFTは現在、投機的な側面から人気を博しています。しかし、むしろ今後はNFTないしブロックチェーンの「データの改ざんが困難」という特徴を生かし、所有権証明や身分証明といった非金融分野への普及が進んでいくでしょう。

        その事例の一つが「SBT(SoulBound Token、ソウルバウンド・トークン)」です。SBTは譲渡不可能なNFTであり、二次流通での売買や譲渡などが一切できません。この性質を利用して、現在デジタルID(本人確認、学歴・社歴証明、身体・医療情報など)での活用が検討されています。

        また、多くのNFTがイーサリアム(Ethereum)上に構築されていますが、これ自体の技術的進化もNFTが再興するための一要因です。NFTのデメリットの一つに「手数料の高騰」があります。手数料は、ブロックチェーンへの記録や取引所の仲介により避けられないモノですが、イーサリアムはその手数料が他のチェーンに比べると割高でした。しかし、イーサリアム(Ethereum)自体のアップデートにより、処理速度が向上すれば、手数料のユーザー負担は改善されることでしょう。

        また、ポリゴン(Polygon)など第3のブロックチェーンの活躍も見逃せません。ポリゴンの処理スピードはイーサリアムの約450倍ともいわれており、取引手数料もはるかに安く済みます。スターバックスやナイキといった数々のブランドの取り組みにも採用されていることからも、その期待が窺い知れます。

        このようにNFTは、これからのデジタル社会を大きく変化させる原動力として、その姿かたちを変えつつあるのです。

        まとめ

        これまで人類は、土地や物といった物理的な物を所有し価値を高め、売買・交換することで経済活動を行ってきました。それと同じことがデジタル領域でも起こりうるということです。

        かつてインターネットやスマホ、SNSが目新しいモノでしたが、今では誰もが当たり前のように使いこなし、社会・人々の生活を一変させました。NFTも同様に今後の社会を変える大きな可能性を秘めています。

        今後も引き続きキャッチアップが欠かせないでしょう。

        メタバースとNFT 〜NFTによって証明される仮想現実内の”モノの価値”〜

        近年、NFTがニュースやSNSでも取り上げられることも増えてきましたが、そのNFTと関連して「メタバース」という言葉も耳にすることも増えてきました。実はメタバースの概念そのものは以前から存在しており、近年になって注目を集めるようになった背景にはNFT技術が深く関係しています。

        本記事では、従来のメタバースの概念とNFT技術の基礎を説明した上で、メタバースとNFTの掛け合わせによって新たにどのようなことが実現できるのかを解説していきます。

          近年注目を集める「メタバース」

          出典:pixabay

          メタバースに関する近年のトピックス

          近年、「メタバース」というワードがSNS上のみならず、テレビのニュースでもとりあげられる機会が増えています。その中でも、2021年10月28日には多くの人々にとって馴染み深いFacebookが社名を「Meta(メタ)」に変えたことが大きな話題となり、「メタバース」に注目が集まるきっかけの一つとなりました。

          さらに2022年2月18日には、米Google傘下のYouTubeもメタバースへの参入を検討していると日本版公式ブログで明かしました。また、2020年以降のコロナ禍において、Zoomを筆頭とするオンラインMTGが一般的なものとなりました。こうしたバーチャルでのコミュニケーションに対する心理的ハードルが大きく引き下がったことも、人々が「メタバース」に興味をもつようになった要因の一つと考えられます。

          メタバースとは?

          メタバースとは「オンライン上に構築された仮想空間」のことです。言葉で説明するとイメージがつきにくいかも知れませんが、実はメタバースという概念そのものは以前から存在しているのです。

          個性豊かな動物たちが暮らす村であなた自身 が生活していく任天堂の大人気ゲーム「あつまれ どうぶつの森」もひとつのメタバースです。全世界で1億4千万人以上がプレイするモンスターゲーム「Minecraft(マインクラフト)」は、オンラインで仲間たちと冒険に出かけるも良し、多くのプレイヤー達が住民として暮らすサーバー内で各々建築をしたり農業を営むも良しといった、非常に自由度の高いメタバースです。

          つまりメタバースとは、「画面の向こうにあるもうひとつの世界」を指します。

          出典:pixabay

          コンシューマー向けゲームを通じてすでに概念として存在していたメタバースですが、近年のVR/AR技術の向上によって「より現実に近い(リアリティの高い)仮想空間」が作られるようになってきました。

          さらに、デジタルデータに唯一性をもたせる技術であるNFTを活用することにより、次項で述べる ”従来のメタバースの課題” を解決することができるようになったのです。

          メタバースについては下記の記事で詳しく解説しています。

          従来のメタバースの課題

          従来のメタバースの課題、それは「メタバース内のデジタルデータの価値を証明することが困難である」という点です。

          先述した「あつまれ どうぶつの森」や「Minecraft(マインクラフト)」の中には、ゲーム内で使える独自の通貨やゲーム内アイテムが存在しています。

          出典:hikicomoron.net

          ただし、それらはあくまでもゲーム内だけで使える通貨やアイテムであって、現実世界において価値をもたせることはできません。どうぶつの森の中でお金をいくら稼ぎ、家を増築し、貴重な家具を持っていようが、それらは全てゲーム内での出来事に過ぎないのです。

          つまり従来のメタバースと現実世界では、価値の交換が出来ませんでした。なぜならゲーム内データはいくらでもコピーが可能で、価値あるものだという証明が困難であったためです。

          そこで登場するのがNFT=「Non-Fungible Token」です。このNFTという概念によって、これまで不可能だったゲーム内データの価値の証明が可能になり、現実世界の通貨で取引できるようになるのです。

          そもそもNFTとは?

          NFT=”証明書”付きのデジタルデータ

          出典:shutterstock

          NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに、固有の価値を保証しています。

          つまり簡単にいうと、NFTとは耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している”証明書”が付属しているようなものです。

          NFTでは、その華々しいデザインやアーティストの名前ばかりに着目されがちですが、NFTの本質は「唯一性の証明」にあるということです。

          NFTが必要とされる理由

          世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した「NFT=非代替性トークン」は文字通り後者となります。

          例えば、紙幣や硬貨には代替性があり、替えが効きます。つまり、自分が持っている1万円札は他の人が持っている1万円札と全く同じ価値をもちます。一方で、人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができますが、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます。

          そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。

          これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、必要とされているのです。

          NFTとブロックチェーン

          NFTはブロックチェーンという技術を用いて実現しています。

          ブロックチェーンは一度作られたデータを二度と改ざんできないようにする仕組みです。データを小分けにして暗号化し、それを1本のチェーンのように数珠つなぎにして、世界中で分散管理されています。そのため偽のデータが出回ったり、内容を改ざんしたり、データが消えたりする心配がありません。

          NFTではこのようなブロックチェーンが持つ高いセキュリティ性能を利用して、web上のデータが本物なのか偽物なのかを誰でも判別することを可能にし、データの希少性を担保できます。ブロックチェーンの活用によって、これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが生まれているというわけです。

          NFT×メタバースで実現すること

          NFTアイテムや建物、土地をメタバースで取引できるようにする

          出典:pixabay

          これまでのメタバースでは、ゲーム内アイテムが簡単にコピーできてしまうため価値の証明が困難でした。また、そのゲームで遊ぶことをやめてしまえば、これまで築き上げてきたゲーム内資産は再度ゲームを起動するまで利用されることはありません。

          しかし、アイテムや土地・建物といったゲーム内資産をNFT化することにより、現実世界と同じく唯一無二である価値が生まれます。価値が生まれるとそのアイテムや土地が欲しい人との間に取引が生まれ、その取引はゲーム内通貨ではなく、仮想通貨や法定通貨で行われます。

          つまり、メタバースとNFT技術を掛け合わせることによって、現実世界でのモノや不動産の売買と同様、メタバース内でのマネタイズが可能となるのです。ゲーム内での活動がそのまま現実世界の価値とリンクするようになるという点で、NFT×メタバースの掛け合わせはとても大きな可能性を秘めています。

          メタバースでNFTアートを展示する

          出典:pixabay

          NFTは前述の通り、いままではただのコピー可能な情報の塊にすぎなかったデジタルコンテンツに対して真贋性を担保できます。一つひとつの作品に対して固有の価値を証明できるNFTは現在、芸術分野での導入が浸透しています。

          メタバース上で企画展を開催する際にNFT化した作品を展示すれば、ユーザーは移動や待ち時間なくアートを鑑賞できます。また、メタバース内で自身のアバターを使って記念撮影をしたり、実際に作品を手に取ったりすることも可能でしょう。設計次第では気になっているNFTをその場で購入することも可能であるため、従来とは異なる角度から芸術に触れることができます。

          美術館の来場者は中高年層が大半を占めていますが、NFTを使ったアプローチを採用すれば、若年層や芸術・美術に関心のなかった層も取り込めるでしょう。

          メタバースのアバターでNFTファッションを楽しんでもらう

          出典:pixabay

          実はメタバースとNFTの組み合わせという文脈では、ファッション分野が一番相性が良いのかもしれません。メタバース上にバーチャル店舗を設置すれば、自身のアバターにNFTのデジタルファッションを着用させることができます。もちろんカスタムパーツとして他のブロックチェーンゲームで使用するのも手ですが、実店舗での試着の代用として利用することもできます。

          過去にはZOZOSUIT(すでにサービス終了)など、実際に着用せずともフィット感やサイズ選択ができるサービスもあったように、現実のアセット以外に顧客との接点を持てるという点は大きなメリットになり得るでしょう。

          また、ハイブランドがNFTアイテムを販売するケースも増えており、価値の高いファッションNFTが広まっています。例えば、ルイ・ヴィトンは約586万円でNFTを限定発売しており、デジタルの世界においても「憧れのLOUIS VUITTON」を手にする価値を提供しています。こうしたハイブランドファッションのNFT事例については以下でも紹介しています。

          NFT×メタバースの活用実例

          続いて、2025年時点のNFT×メタバースの活用事例をご紹介します。

          The Sandbox

          出典:The Sandbox

          The Sandboxは、3Dのオープンワールドの中で、建物を建築したり自分の”オリジナルのゲーム”を作ることができます。何をするかはプレイヤーの自由で、マインクラフトに似たジャンルのゲームです。

          The Sandboxのメタバース内には「LAND」というNFT化された土地が存在し、現実世界の土地と同じように売買・所有することが出来ます。LANDを保有した人は自分の土地を自由にアレンジすることができ、自作のゲームを公開して ”ゲームセンター化”したり、何か催し物を開催したい人向けにスペースの一部を貸し出す ”貸しイベント会場化”する事もできます。

          実際に数多くのアーティスト達が自らの作品を展示する場としてThe Sandboxを利用しており、また、日本を代表するゲーム会社であるスクウェア・エニックスは会社の広報スペースとしてLANDを保有しています。

          現実世界の土地と同じように、メタバース内のLANDを起点としたさまざまなビジネススタイルが個人・企業問わず誕生している点がThe Sandboxの魅力です。

          Decentraland

          出典:Decentraland

          Decentralandは、イーサリアムブロックチェーンをベースとしたVRプラットフォームで、先程ご紹介したThe Sandbox同様、仮想空間内でゲームをしたりアイテムやコンテンツを作成・売買することが可能です。

          ゲーム性は両者共通する部分も多く、「LAND」という仮想現実内の土地を保有・マネタイズできる点や、NFT化したアイテムをメタバース内で取引できる点も同じです。

          一方、The Sandboxとの違いはその ”世界観” です。The Sandboxの世界が全て四角いブロックで構成されているのに対し、こちらのDecentralandは滑らかな3Dポリゴンで構成されており、よりポップで親しみやすい雰囲気の世界観が特徴です。

          個性派人気アーティスト「きゃりーぱみゅぱみゅ」や、世界的に有名なセレブであるパリス・ヒルトンとのファッションコラボが話題となったことからも分かるように、そのポップな世界観とファッション業界との親和性が高いこともDecentralandの特徴のひとつです。

          Axie Infinity

          Axie Infinityは、2018年にリリースされたメタバースゲームです。このゲームの特徴はAxieというNFTペットを使って対戦や育成をすることによって仮想通貨AXSを稼ぐことができる、いわゆる「Play to Earn」のゲームモデルであることです。

          元々、Axie Infinityはベトナムで開発されたこともあり、東南アジアで大きな広がりを見せています。物価も安くかつ賃金も低いこれらの国では、ゲーム内報酬だけで十分生活を送っていけるため、Axie Infinityを仕事にしている人もいたほどでした。

          このゲームは当初イーサリアムブロックチェーン上のゲームとして普及しましたが、イーサリアムブロックチェーンにて起こった取引手数料の高騰やトランザクションスピードの遅延といったスケーラビリティ問題を受け、現在は独自のイーサリアムサイドチェーン「Ronin」で稼働しています。サイドチェーンとは、メインチェーンの問題を解決するために開発された別の独立しているブロックチェーンのことです。Roninでの稼働により、Axie Infinityのプレイヤーは取引手数料が削減できるようになりました。

          ガバナンストークンであるAXSの価格が下落しているため、全盛期よりは稼げなくなっていますが、その分ピーク時に比べると初期費用が安くなっているので、少額で参入してみるのも一手でしょう。

          まとめ

          NFTを活用したメタバース市場は今後急成長することが期待されており、様々な業種の企業が参入をすでに始めています。今後もNFT×メタバースの掛け合わせによって、これまでにない新しいモノや体験が次々と生み出されていくことでしょう。