DAO(分散型自律組織)とは?〜Web3.0時代の新しい組織のあり方〜

仮想通貨やNFTの話題に触れる中で「DAO」という言葉を目にする機会があるのでは無いでしょうか。「分散型自律組織」と日本語に訳されるDAOですが、一体どのような特徴やメリットがあるのでしょうか。本記事では、「DAO(分散型自律組織)」の概要やメリットと課題、そして実際の事例をご紹介していきます。

DAO(分散型自律組織)の概要

DAOには中央の管理者が存在せず、意思決定はコミュニティ全体で行う

DAO (Decentralized Autonomous Organization、ダオ)は「分散型自律組織」と日本語で訳され、ブロックチェーン上で管理・運営される組織のことです。

その特徴については後に詳しく解説しますが、株式会社などの一般的な組織とは異なり組織の管理者が存在しないという点が、DAOの大きな特徴のひとつです。組織の意思決定は管理者によるトップダウンではなく、組織の参加者全員によって平等に行われます。

DAOが注目されている理由

DAO自体は2014年頃から存在していた概念ですが、2021年以降に大きな注目を集めるようになりました。注目の背景には、DAOの技術的振興、参入のしやすさ、そして将来性にあります。

まず、技術的な文脈でいうと、「NFT(非代替性トークン)」や「DeFi(分散型金融)」「暗号資産」といったWeb3.0分野の盛り上がりが背景にあります。Web3.0において暗号資産はお金、DeFiは金融サービス、NFTはデジタルに関する所有権のあり方、そしてDAOは組織を変える概念として、それぞれが密接に関わり合って技術革新が起こってきました。

DAOはそれ単独では組織論のひとつに過ぎませんが、「分散型インターネット」であるブロックチェーンを基盤としたネットワークであるWeb3.0と結びつくことでその特徴を遺憾なく発揮しているため、これらの各領域がブームとなると新しい組織運営の形態として評価されるようになったのです。

また、スマートコントラクトを利用すれば、誰かが管理者となることなくメンバー一人ひとりが主体的に行動し、その運営に関与することが可能です。これは、伝統的な組織形態とはアクセシビリティと開放性という点において革命的です。ビジネスとして組織を動かすにしても、株式会社を設立するとなると、法的・行政的・金銭的負担が重くのしかかり、手間もかかりますが、DAOはブロックチェーン上で簡単に組織化することが可能だからです。こうした参入障壁の低さは、民間ユーザーのみならず、企業や自治体からも広く注目される理由となっています。

さらに、DAOは将来性についても視界良好です。現在、一億総活躍社会の推進や新型コロナウイルスの影響によって、私たちの働き方は大きく変わりつつあります。しかし、今後は働き方だけではなく会社そのものの在り方も大きく変容していくのではないでしょうか。

見知らぬ人同士で資産を募り、1つのプロジェクトに投資するという概念は以前から存在しています。近年話題のクラウドファンディングもその一種でしょう。しかし、クラウドファンディングでは銀行から資金を借り入れるよりも簡単ではあるものの、起案者がプロジェクトをリードするため、資金借り入れの形態が変わっただけで会社の在り方は従来のままです。

一方のDAOでは、支援者もプロジェクトの運営に関わることができ、プロジェクトが終了してもコミュニティー自体は存続するため、次のプロジェクトに参画することもできます。こうした、新たな組織運営を実現するDAOは、働き方が多様化する現代社会において大きな将来性を秘めているといえます。

総じて、DAOはブロックチェーン技術の普及、参入のしやすさ、そして将来性という三つの要因から社会から大きな注目を集めています。これらの要因が組み合わさることで、DAOは現代のインターネット技術の進化と共に重要な位置を占めるようになっているのです。

DAO(分散型自律組織)のメリット

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続いて、DAO(分散型自律組織)の特徴とメリットについてより詳しく解説していきます。

組織の管理者が存在しない

先述したように、DAOの大きな特徴として組織の管理者が存在しないという点が挙げられます。

株式会社を代表とする従来の組織では、意思決定は上層部の管理者によって行われ、決定事項を組織の下流にまで行き渡らせるトップダウン方式が一般的でした。

一方でDAOには管理者が存在せず、参加者全員が一丸となってプロジェクトを推し進めていくため、トップダウン方式に比べて様々な意見が出されて議論されることがメリットと言えます。

透明性が高く民主的な組織運営

管理者が存在しないDAOには中央集権的な権力者が存在しないため、その意思決定のプロセスは一般的な株式会社などと比べて非常に民主的です。

具体的には、DAOを動かすための意思決定に関わるためには、そのDAOのコミュニティ内で使われる仮想通貨ガバナンストークンを保有する必要があります。そのトークン保有者による投票によってDAOの意思決定が行われ、さらに投票のプロセスは全てブロックチェーン上に記録されるため、民主的かつ透明性の高い組織運営が実現可能となります。

また、投票の際に使用されるトークンは組織運営のための資金調達としての役割もあり、実際に多くのDAOがこのガバナンストークンの発行によって資金を調達しています。ガバナンストークンを保有することには、先述した組織運営に係る権利を得る以外にも、プロジェクトが成功した際のインセンティブを得ることができるなどの金銭的メリットがあります。

ガバナンストークンを含めたトークンについては以下の記事で詳しく解説しています。

誰でも組織に参加できる

従来の組織に参加するためには試験や面接を通過し、契約書を結ぶのが一般的です。組織から離脱する場合も同様に契約解除の手続きが必要でしょう。

一方のDAOは、国籍や性別に関係なくインターネット環境さえあれば誰でも参加できます。また、DAOは匿名での参加も認められるケースも多く、顔や実名を明かさずにプロジェクトに参加できるのが従来の組織と大きく異なる点です。

DAO(分散型自律組織)の現状の課題

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ここまでDAOの特徴やメリット、代表的な事例をご紹介してきましたが、DAOが持つ現状の課題についても触れていきます。

組織の意思決定に時間がかかる

さきほど、中央集権的な管理者を持たず民主的な意思決定が行われることをDAOのメリットとして挙げましたが、逆に組織の意思決定に時間がかかるという点がデメリットとして考えられます。

サービスがハッキングにあった場合やサービスに欠陥が見つかった場合などの不測の事態に対しても、ガバナンストークンによる投票が必要となるため、緊急時に迅速に対応することができないリスクがあります。

迅速な意思決定が必要な場面においては、従来の企業組織などのような中央集権的な「トップダウン方式」に軍配が上がる可能性が高いです。

ハッキングリスク

DAOに限らずWEB上のサービス全てに言えることですが、外部からのハッキングによるリスクは拭えません。

実際に、2016年にイーサリアム上のDAOである「The DAO」がハッキング攻撃を受け、被害総額は日本円にして約52億円にのぼりました。「The DAO」は、先程ご紹介した「BitDAO(ビッダオ)」同様の分散型投資ファンドであり、「The DAO」内にプールしていた投資用資金が狙われた形となります。

先述した「緊急時に迅速な意思決定ができない」という点と、次にあげる「法整備が不十分」である点を考慮すると、被害の補填やバックアップ体制の構築にはまだまだ時間が必要です。

法整備が不十分

DAOは2021年以降に実体化されはじめた組織形態であるため、日本を含む世界各国の法整備が十分に追いついていない状況となっています。

2021年7月にようやく米ワイオミング州が全米で初めてDAOを合法化し、2022年2月にはマーシャル諸島共和国が国家として初めてDAOを法人として承認することが決定しました。

とはいえ、DAOを法人として認める法整備を進める動きはごく一部にとどまっており、今後の全世界的な普及が待ち望まれるところです。

DAO(分散型自律組織)の今後

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株式会社ではなくDAOでの組織運営が広まる

DAO(分散型自律組織)は株式会社に比べて組織への参入ハードルが低く、また組織運営における民主性が高いため、今後は大きな組織から小さなコミュニティーまで様々な規模、分野に適用される可能性を秘めています。

また、組織としての透明性が非常に高いことから、チャリティーを始めとする慈善活動や非営利組織運用との相性が良いとされているため、NPO法人などにとって替わる存在となる可能性も十分に考えられます。

DAOへの注目が高まりガバナンストークンの価格が上昇する

DAOでの組織運営が普及すれば、各DAOに紐づくガバナンストークンの価値が高まることが予想されます。そしてトークン保有者への還元も活発化して、投資対象としてのDAOが一般層にまで注目を集めるようになれば、さらに多くのDAOプロジェクトが誕生していくことになるでしょう。

DAO(分散型自律組織)の代表的な事例

ここでは、2025年時点での代表的なDAOをご紹介していきます。

Nouns DAO(ナウンズダオ)

出典:Noun DAO

Nouns DAOは、ドット絵風のキャラクターをモチーフにしたNFTコレクションです。

毎日1体ずつ「Noun」と呼ばれるNFTアートが自動生成され、オークションにかけられます。そこで競り落とした人がNFTの保有者となります。「Noun」の所有者は投票権が付与され、組織全体の議決や採択に関与できます。

投票できる内容は、オークション収益の使い道についてです。提案や議論には誰でも参加できますが、最終的な投票をできるのはNouns所有者のみとなっていることから、Nouns DAOは、Nounsを自動生成してオークションで販売する機能を備えた分散型自律組織だといえます。

Nounsの著作権は「CC0(Creative Commons 0=パブリックドメイン)」という扱いになっているため、従来のIPビジネスとは異なり、誰でもNounsの二次利用が可能になっています。

こうしたルールやデザインの独自性から幅広い層から人気を博しており、現在成功を収めているDAOの代表例の一つです。

BitDAO(ビッダオ)

出典:BitDAO(ビッダオ)公式Twitter

BitDAO(ビッダオ)は大手仮想通貨取引所「Bybit(バイビット)」が主導するDAOプロジェクトで、大手決済サービス「PayPal」の創業者であるピーター・ティールを始めとする数多くの著名人が設立時に資金提供したことで知られています。

2021年にNFTやDeFiに関する、将来性の高いプロジェクトに資金提供することを目的に設立されたBitDAO内では、「BIT」というガバナンストークンが発行されています。この「BIT」の保有者はBitDAOの出資先となる有望なDeFiや出資額を選定する投票に参加できたり、保有量に応じた利益が分配されるという仕組みです。

またBybitでは、ゼロカットシステムが導入されています。ゼロカットシステムとは、マーケットの急激な下落によって口座残高がマイナスになった場合に、損失分をBybit側が補填してくれる制度です。通常、証拠金維持率が一定の水準を下回ってしまった場合や一定の損失が発生してしまった場合には追加の資金を要求される「追証」が存在しますが、Bybitには追証がありません。証拠金が一定の割合を下回ればそのままロスカットになる仕組みです。

言い換えれば、トレーダーは「追証をするために借金をしてしまった」という不確定なリスクを回避できるということを意味しています。取引中の突如としての大きな価格変動や市場の急激な動きがあった場合でも、ユーザーの損失が所持金を超えることがないため、トレーダーは心理的ストレスから解放され、安心して取引を行うことができるでしょう。

日本では人気の高いコインとして知られており、BitDAOの公式Twitterのフォロワー数は約5.4万人・Discordメンバー数は約9千人に達しています。※2024年月時点

BitCoin(ビットコイン)

出典:pixabay

暗号資産の代名詞ともいえるBitCoin(ビットコイン)は、完全な形で分散運営されている世界初のDAOであるとされています。

BitCoinの運用は、分散型台帳システムであるブロックチェーン上で行われます。取引記録を世界中の多数のコンピューター(ノード)で共有・管理する革新的な仕組みとなっているため、国境を越えて幅広く利用されるデジタル通貨でありながらも銀行やクレジットカード会社などの第三者を介さずに取引が可能です。

強固な暗号技術によってプライバシーが保護され、利用者がより自由にお金を管理できる環境を提供するBitCoinには中央集権的な管理者はおらず、誰でもその取引プロセスを確認することができます。不正の抑制や限定的な発行ができるという点において価値の減少が少ないという特性も持っているため、別名「デジタルゴールド」とも呼ばれています。

なおガバナンストークンは存在せず、ブロックチェーンに取引を記録した際に新たにBitCoinが発行される仕組み(マイニング)です。後発のDAOとは異なり、トークンであるBitCoinの発行はこのマイニングでのみ行われます。

中央集権的な管理者が不在にも関わらず、決められたプログラムに沿って意思決定されているBitCoinは、最も成功しているDAOのひとつといえるでしょう。

Ninja DAO(ニンジャダオ)

出典:Ninja DAO

Ninja DAOは日本国内最大級のDAOであり、世界最大手のNFT取引所「OpenSea」で取引される「 CryptoNinja NFT 」というNFTプロジェクトの公式コミュニティです。Discordの人気インフルエンサーのイケハヤ氏が創設したしているDAOであり、マンガ、アニメ、ゲーム、グッズ、小説、音楽、舞台など、さまざまな形で同氏がプロデュースしているキャラクターブランド「CryptoNinja(クリプトニンジャ)」を盛り上げる様々なプロジェクトが進行中です。

たとえNFT自体を所有していなくても「CryptoNinja NFT」の世界観に魅力を感じた人であれば誰でも参加可能で、ファン同士のコミュニケーションツールとして様々な活動がなされています。

NFTの二次流通も許可されており、コミュニティには多くのクリエーターの方が参加しています。動画編集・Webデザイナー・ライター・イラストレーター等様々なスキルを持つプロフェッショナルも多く参入しており、Ninja DAOでの活動をきっかけに、そのようなプロフェッショナルの方々と出会えるきっかけになるかもしれません。

また、通常のDAOでは普段社会人として働いているメンバーが多いですが、上述の通りNinja DAOはクリエイターとして普段から活動しているメンバーも多く、昼夜問わず常にコミュニティがアクティブな状態に保たれています。DAOとしてローンチされたは良いものの、その後の伸びに悩んだり、マーケティングに悩むDAOは少なくないため、自主的に活発な運用がなされているNinja DAOはまさに理想的なDAOの在り方ではないでしょうか。

このような人と人の関わり・つながりの強いDAOであるという点は、唯一無二のNinja DAOの特徴だといえるでしょう。

MakerDAO(メイカーダオ)

出典:MakerDAO

MakerDAO(メイカーダオ)は、2014年にローンチされた、ステーブルコイン「DAI」の発行を通じて暗号資産市場の安定性を提供している歴史あるDAOプロジェクトです。イーサリアムブロックチェーン上で動作しており、そのプロトコルはユーザーがイーサリアムをMakerDAOへプールすることで、ステーブルコイン「DAI(ダイ)」を発行する仕組みとなっています。DAIは、1米ドルに連動されて価格の安定性を保つように設計されており、暗号資産の価値が急激に変動する際に、ユーザーはDAIを利用してそのリスクを軽減することができます。

また、分散型のステーブルコイン(暗号資産担保型ステーブルコイン)であるDAIは、担保が暗号資産なので法定通貨のように中央集権的ではなく分散型の性質を保てるというメリットがあります。通常、ステーブルコインは取引所が管理しており、価格の維持、流通量の管理などがすべて発行元に依存しています。2022年に起きたテラUSD暴落事件も運営企業が米ドルとテラUSDの連携を保てなくなったこと(ディペッグ)が原因で起こりました。

こうした点においてMakerDAOの運営は完全に分散型のコミュニティに依存しており、ガバナンストークンである「MKR」を保有するメンバーがプロトコルのアップデートやパラメータの変更について投票を行います。この分散型ガバナンスモデルによって中央集権的な管理者が存在しないため、公正で透明性の高い運営が実現されています。

単一の組織の決定・信用に左右されないという特徴は、暗号資産という新しい波に乗りながらも、暗号資産の大きなボラティリティリスクは取りたくないというスタンスを生み出しており、同組織が標榜する「新たな暗号通貨」として重宝されています。

Ukraine DAO(ウクライナダオ)

出典:BRIDGE

Ukuraine DAOは、ロシアのウクライナ侵攻に苦しむ人々を支援するためにコミュニティの力を利用して資金調達を実現することを目的に創られた組織です。

NFTの販売を通して寄付者に金額に応じた「LOVEトークン」を付与し、収益はウクライナの人々を支援する非営利団体に送られる仕組みになっています。

UkrineDAOを立ち上げたのは、プーチン大統領に対して批判的な政治活動家であるNadya Tolokonnikova氏で、同氏は、ロシアのフェミニスト・ロックグループ「Pussy Riot」の創設メンバーとしても知られています。

72時間という短時間で3,271人から、約2,258ETH(約6.7億円)という巨額の寄付が集まり、スピード感と規模感のあるプロジェクトがDAOによって推進された事例といえるでしょう。

一棟貸し古民家「囲み宿 こわね」(小豆島DAO)

出典:PR TIMES「世界初!合同会社型DAOで古民家再生資金を調達開始 ~web3×不動産で
新たな資金調達モデルを構築~」

国内では一風変わったDAOも登場しています。その一つが、香川県小豆島で進められている「小豆島DAO」プロジェクトです。このプロジェクトでは、築100年の古民家「照季庵」をDAOの仕組みを活用して改修し、一棟貸しの宿泊施設「囲み宿 こわね」として2025年春にオープンを目指すものです。

小豆島は美しい自然に恵まれた観光地ですが、過疎化や高齢化が進み、地域経済の活性化が課題となっています。また、島内には歴史的な価値を持つ古民家が数多く残されていますが、老朽化が進み、有効活用されていないものが多く存在します。小豆島DAOは、これらの課題を解決するために、合同会社型DAOスキームによる資金調達、地域住民も参加可能なDAO運営、リワードトークンによるコミュニティ形成といった革新的な取り組みを行っています。

株式会社ではなく、合同会社型のDAOとして法人格を取得してトークンの発行・販売による資金調達を可能にしたことで、従来の金融機関からの融資に頼らず、より多くの人々から資金を集めることができます。トークン保有者は、DAOの運営に参加し、施設の改修方針や宿泊プランの決定など、事業運営に関する議決権を持つことができる設計となっています。また、地域住民もDAOに参加することで、地域の活性化に貢献することができます。

トークン保有者には、リワードトークン(独自通貨)が報酬として付与されますが、このトークンは、宿泊券NFTへの交換や、NFTマーケットを通じて現金化できるスキームにすることで、DAOの活性化と持続可能なエコシステムの構築を目指しています。

小豆島DAOが成功すれば、日本全国の地域活性化に繋がることが期待されるため、引き続きキャッチアップが必要な事例です。

まとめ

今回は、DAOの特徴やメリットを解説し、代表的な事例と解決すべき課題、そしてその将来性までをご紹介しました。

本記事を通して、DAOがこれまでの組織のあり方を大きく変える可能性を秘めていることがお分かりいただけたかと思います。引き続き、今後のDAOに関する動向に注目です。

【最新】ブロックチェーンゲーム(NFTゲーム)とは?最新事例や稼ぐ仕組みについても解説!

WEB3の根幹技術として様々な領域で応用が進むブロックチェーン。近年、この技術をゲーム分野に組み込み、新たな体験や価値を提供する動きが強まってきています。ゲームにブロックチェーン技術を取り入れると、どのような変化が起こるのでしょうか。

本記事を読むことで、ブロックチェーンゲームの仕組みや特徴、稼ぎ方についても理解することができます。注目のタイトルについても紹介しているので、「これから始めてみたい」という方も楽しめる内容となっています。

    ブロックチェーンゲームとは

    その名の通り、ブロックチェーン技術を利用したゲーム

    ブロックチェーンゲームとは、その名の通り、仮想通貨やNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)のベースとなるブロックチェーン技術を活用したゲームのことを指します。

    従来のゲーム業界では、PCゲームにせよ、主流のスマホゲームやコンシューマーゲームにせよ、データベースにデータを保管してプレイ履歴やプレイヤー情報などを記録していました。しかし、ブロックチェーンゲームではこの記録をブロックチェーン上に記録することで、今までのゲームとは一味も二味も違った楽しみ方が実現しています。

    このように聞くと、どういった特徴があるのか気になりますよね。ですが、その前にブロックチェーンについて軽く説明を加えます。

    ブロックチェーン=管理者不要でデータを安全に記録・共有する技術

    出典:shutterstock

    ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術です。

    ブロックチェーンはデータベースの一種ですが、そのデータ管理方法は従来のデータベースとは大きく異なります。従来の中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存されるため、サーバー障害やハッキングに弱いという課題がありました。一方、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、ハッキングにも強いシステムといえます。

    また、ブロックチェーンでは、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。ハッシュ値とは、あるデータをハッシュ関数というアルゴリズムによって変換された不規則な文字列のことで、データが少しでも変わると全く異なるハッシュ値が生成されます。新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みると、それ以降のブロックのハッシュ値を全て再計算する必要があり、改ざんが非常に困難な仕組みとなっています。

    さらに、ブロックチェーンでは、マイニングという作業を通じて、取引情報のチェックと承認を行う仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。マイニングとは、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムな値を代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しい値(ナンス)を見つけ出す作業のことで、最初にマイニングに成功した人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

    このように、ブロックチェーンは分散管理、ハッシュ値、マイニングなどの技術を組み合わせることで、データの改ざんや消失に対する高い耐性を持ち、管理者不在でもデータが共有できる仕組みを実現しています。

    詳しくは以下の記事でも解説しています。

    ブロックチェーンゲームの特徴

    出典:shutterstock

    サービス終了後も資産価値としてデータが残る

    従来のゲームでは、運営元がサービスを停止するとデータベースに保存されている全てのデータが消えてしまいます(いわゆるサ終)。しかし、ブロックチェーンゲームではサービスが終了してしまっても、NFT化されたアイテムが資産として手元に残ります。

    ゲームをプレイして手に入れたアイテムはウォレット内に保存しておけるので、NFTはゲームが終了してもデータとして残っているため、他の互換性のあるゲームでの共有やマーケットプレイスでの売買が可能です。

    このように、従来のゲームでは運営にあったデータの所有権が、ブロックチェーンゲームではユーザーに帰属するため、今まで苦労して集めたり、課金して入手したりしたアイテムを完全に失ってしまうという心配は無用になります。

    チートプレイが排除されている

    既存のゲームにおいては、e-Sportsの有名タイトルでもチーターによる迷惑行為が問題になっています。プレイヤーがコードを書き換えることによってキャラクターを強くしたり、課金アイテムを増殖させたりする行為は、「ズル」を超えて健全な運営や収益を阻害する「犯罪行為」になりつつあります。

    このように、有名タイトルでも常に不正は付きもののようです。

    しかし、前述の通り、ブロックチェーンでは常にネットワークの参加者間で情報が同期されます。そのため、不正をしても世界中の参加者(ノード)の合意形成が必要なので、すぐにバレてしまいます。不正に悩まされることなく、全てのプレイヤーが安心してゲームを楽しめる環境が整っている点は、ハードディスクやサーバーにデータを保存していた従来のゲームとの大きな違いです。

    また、ブロックチェーンによって唯一性や希少性が担保され価値が高まったゲーム内コンテンツは、そのゲーム内での取引はもちろん、NFTマーケットプレイスと呼ばれるゲーム外の取引所でも売買が可能となります。

    このように、新たな市場が生まれることでコンテンツ価値を維持する仕組みは、ブロックチェーンゲームならではの光景でしょう。

    ゲームをプレイしながら仮想通貨を稼げる

    ブロックチェーンゲームの最大ともいえる特徴は、プレイすることによって収益化できるゲームが多く存在していることです。これは「Play to Earn( =遊んで稼ぐ)」と呼ばれる概念で、ゲームの種類によって「Move to Earn(=運動して稼ぐ)」や、「Learn to Earn(=学んで稼ぐ)」といった派生の概念も生まれています。

    ブロックチェーンゲームにおいては、通常のキャラクターやアイテムがNFTで作成されています。そのため、ゲームを進めていくと入手できるレアなアイテムや育成したキャラクターをユーザー同士で売買することも可能です。

    いままでも獲得した通貨や経験値でアイテムを購入することはできましたが、仮想通貨で他のユーザーとアイテム単位を売買することはできませんでした。その点、ブロックチェーンゲームではひとつのアイテムをほかのサービス会社で使用可能なこともあり、ゲーム内の収益をそのまま現実の収益とすることができます

    ブロックチェーン同士を接続する新たな技術である「インターオペラビリティ」がさらに進めば、よりユーザーにとって使いやすく便利なゲームモデルが構築される可能性があります。

    このような点も非常に魅力的であり、多くのユーザーの心を掴んでいます。

    ブロックチェーンゲームで収益化を実現するには

    「ゲームをプレイしながら仮想通貨を稼げる」点が、従来のゲームとの違いと述べましたが、具体的にどのようにして収益化をするのでしょうか。細かい部分はゲームの仕様や用語等によって変わってきますが、大まかには3つのタイプに分類することができます。

    それぞれについて見ていきます。

    アセットの売買

    ブロックチェーンゲーム内で使用されるキャラクターやアイテムは、すべてNFTとして作成されています。したがって、それらのアセットはNFTマーケットプレイス内で他人と売買できるため、ゲームタイトルの人気度やNFT自体の需要、関連する暗号資産の価格などを購入時と比較し、価格が上昇したタイミングで売却することで、売却益を得ることができます

    レアなアイテムやキャラクターの取引価格は数百万から時には数千万の値がつくこともあります。たとえば、「Sorare」という実在のスポーツ選手のカードを使ってプレイするNFTトレーディングカードゲームでは、アーリング・ハーランド選手のカードが265ETH(約7,831万円)で落札されました。

    ソラレ(SORARE):ハーランドNFTカードが約7,831万円で落札 – ALLSTARS CLUB

    このような「ビッグドリーム」を掴むために、今後値上がりしていきそうなものなどを購入して、そのNFTをマーケットプレイス上で転売することで利益を得るトレーダーも世界中に数多く存在します。次世代のせどりといったところでしょうか。

    ゲーム内の権利収入

    メタバースのような仕組みが整備されているブロックチェーンゲームでは、ゲーム内の土地や不動産も貸し出すことができます。たとえばゲーム内で土地を所有すれば、現実世界と同様に売買して利益を得ることや、所有して貸し出すことなどによって権利収入を得ることが可能です。

    NFTは不正に入手した土地ではないことが証明できるため、ゲーム内での不動産や土地の所有には適しています。土地を利用するユーザーは借りた土地でショップを開設したり、ミニゲームを実装したりなど、ゲームのコンテンツ内容によってはさらなるビジネス活用に役立つでしょう。

    日本においてもメタバース内の土地を売買するという動きは盛んになってきています。2022年10月にはメタバース「XANA(ザナ)」の土地がNFTとして売り出され、3,093ETH(約6億円相当)の土地が一般販売開始後9時間で完売したというニュースがクリプト界隈を騒がせました。

    XANA:メタバース土地NFT「約6億円相当」が9時間で完売|大手企業・著名人も取得

    配当やコンテンツの報酬

    仮想通貨を利用したゲームでは、配当や報酬という概念が実際の財産と直接結びつきます。ゲーム内で優秀なスコアを記録したり、ミッションのようなものを達成することで、その報酬を獲得して利益を上げることができます。

    インセンティブがより明確になることで、ゲームを楽しむ人だけではなく、報酬目当てのユーザーも参入してきます。そのため、ローンチ間もないサービスであってもある程度のプレイ人口が確保され、新鮮で刺激的なユーザー体験ができることでしょう。

    実際のプレイスキルが収益化につながる、というのはブロックチェーンゲームならではの魅力です。

    注目されているブロックチェーンゲーム

    STEPN(ステップン)

    出典:STEPN

    STEPNとは、NFTであるスニーカーを入手し、歩いたり走ったりと移動することで仮想通貨GSTを稼ぐことができるゲームです。GSTは他の仮想通貨とトレードしたり、日本円に換金したりできます。

    STEPNの登場によって「Move to Earn」という新しい概念が提唱され、運動の新たな楽しみ方が誕生しました。その影響力はクリプト界隈にとどまらず、2022年4月には「アシックス(ASICS)」とのコラボを発表。スペシャルデザインのNFTスニーカーには多くの抽選希望者が殺到し、大成功を収めました。

    ASICS × Solana「限定モデルのランニングシューズ」を発売|STEPNで利用可能なNFTも

    また、STEPNはApple Payと提携しており、ウォレットなしでもクレジットカード等からスニーカーの購入が可能です。従来のNFT取引に比べて決済のプロセスが簡素化されたことで、新規ユーザーや仮想通貨に初めて触れるユーザーのハードルはかなり低くなっています。

    さらにSTEPNでは今後、スカラーシップ制度(スニーカーのレンタル機能)が実装される予定もあり、ネックだった初期費用の高さが解消されることで、スニーカーを購入できない人でもSTEPNの利用が可能になるでしょう。

    リリース時に比べると、RUNBLOX(ランブロックス)やFitmint(フィットミント)といったMove to Earnのアプリが数多く台頭していますが、STEPNにはいまだに根強いユーザーがいます。今後の動向には要注目です。

    Decentraland(ディセントラランド)

    出典:Decentraland

    Decentraland(ディセントラランド)は、イーサリアムブロックチェーンをベースとしたVRプラットフォームで、メタバース内でゲームをしたりアイテムやコンテンツを作成・売買することが可能です。

    Decentralandでは「LAND」というメタバース内の土地を保有・マネタイズできる点や、NFT化したアイテムをメタバース内で取引できる点が特徴です。

    ゲーム開発の経験がない人でも簡単にゲームやアイテムを作成できるようなクリエイター機能が充実しているため、新規ユーザー参入のハードルも低め。デザイン性に優れたプラットフォームのため、ファッション関係のイベントも多数実施されています。

    Decentralandではユーザー自身が何を構築しどう使うのかを主体的に決定していくことを基本方針としており、これはまさにWeb3.0の概念と通ずるものがあります。Decentralandは最先端のメタバース事例の一つとして今後も注目です。

    The Sandbox(ザ・サンドボックス)

    出典:METAVERSE POST

    The Sandboxは、イーサリアムのブロックチェーン上で提供されているNFTゲームです。

    ユーザーは仮想空間上に「LAND(土地)」を購入またはレンタルをすることで、オリジナルのゲームやアイテム、キャラクター、サービスを作成できます。

    施設などを一定期間貸し出すことで、現実の不動産ビジネスと似たような形態で収益を得ることも可能なため、「遊んで稼げる」メタバースだといえます。

    プログラミング不要で3Dゲームが作成できるツールなども用意されており、高度なスキルがなくともマーケットプレイスへ出品することができます。

    パリス・ヒルトンやドラゴンボール、北斗の拳といったユニークなコラボで注目を浴びているThe Sandboxですが、LANDは発行数量に上限があることから、ユーザー数の増加に伴ってその価格は上昇すると予想されています。

    さらには、2023年2月にはサウジアラビアのデジタル政府機関との連携も発表しており、今後の活躍が期待される大注目のプロジェクトです。

    The Sandbox、サウジアラビアとメタバースで提携 SAND高騰

    EGGRYPTO(エグリプト)

    出典:PR TIMES『NFTゲーム「EGGRYPTO X」、ティザームービー&
    開発者レターを公開!「EGGRYPTO」のユーザーも楽しめる育成シミュレーションRPG』

    「EGGRYPTO(エグリプト)」は、日本のゲーム開発企業「Kyuzan」が手掛けるブロックチェーンゲームで、手軽に遊べるファンタジーRPGとNFT要素を融合させた作品です。2020年4月20日にリリースされ、NFTゲームの中では長寿タイトルの一つとなっています。

    本作は、モンスターを集めて育成し、バトルを繰り広げる「放置型RPG」の形式を採用しており、ブロックチェーンを活用した「NFTモンスター」の収集・売買が可能です。特に注目すべきは、初心者でも気軽に始められる設計です。従来のブロックチェーンゲームは、ウォレットの作成や仮想通貨の購入がハードルとなることが多いですが、EGGRYPTOは基本プレイが無料で、NFTに詳しくないユーザーでもスムーズにプレイできます

    その手軽さと安定した運営が支持され、累計ダウンロード数は2024年7月時点で200万を突破。NFTゲームの中でも高い人気を誇っています。さらに、「転生したらスライムだった件(転スラ)」や「ウルトラマン」、「ヤッターマン」といった有名作品とのコラボイベントも開催され、話題を集めてきました。

    また、EGGRYPTOはスマートフォンアプリ(iOS・Android)としても提供されており、従来のソーシャルゲームと同様の感覚で遊べるのも魅力です。定期的に開催されるイベントや、モンスターの育成要素が充実しているため、長期的に楽しめる設計になっています。

    ブロックチェーンゲームの導入としても適しており、「ゲームを遊びながらNFTやWeb3の仕組みを学べる」という点でも評価が高い作品です。これからブロックチェーンゲームを試してみたい方にとって、EGGRYPTOは最適なエントリーポイントとなるでしょう。

    マイクリプトヒーローズ

    出典:MyCryptoHeroes(公式サイト)

    マイクリプトヒーローズは、double jump.tokyo株式会社が開発した日本発の対戦ゲームです。

    歴史上のヒーローを集めて世界制覇を目指すMMORPGとして、世界No.1のユーザー数、トランザクション数を記録しています。戦うキャラクターは仮想通貨でできた実在の偉人がほとんどで、日本史や世界史の登場人物が多数現れ、パーティーを組んで戦うので、ロマンを感じる方も多いでしょう。

    クエストやプレイヤー同士でのバトルが可能で、勝利でアイテムもゲットできます。アセットの取引所に参加すれば、高額売却で仮想通貨を儲けられるチャンスです。また、それぞれのプレイヤーは「ランド」と呼ばれる好きなコミュニティに所属することができ、同じランドのプレイヤー同士は協力してクエストをこなしたり、ランド内のバトル「ナイト戦」に参加したりすることで、コミュニティを強化できる仕組みとなっています。分配金としてゲーム内通貨のGUMを獲得し、マーケットでそれらを売買することも可能なため、まさに「遊んで稼げる」を体現したゲームだといえます。

    ブロックチェーンゲームの基礎を押さえながら、歴史上の人物が時代を超えて戦うロマンは、世界中のプレイヤーの熱狂を生み出しています。

    クリプトスペルズ

    出典:CRYPTO SPELLS(公式サイト)

    「CryptoSpells(クリプトスペルズ)」は、日本最大級の対戦NFTカードゲームです。リリース日は2019年6月とかなり早い時期から参入しており、プレーヤー数は2023年6月時点で16万人を超えている人気ブロックチェーンゲームの一つです。

    従来のトレカのように、対戦において強力なカードや発行枚数が限られるレジェンドカードは希少性が高く、取引所において数十万円で売買されています。しかし、このゲームならではの特徴として、プレイヤーは世界に1枚だけのオリジナルカードを作成することができ、それらが売買される際に作成者は売買手数料の30%〜50%を受け取ることもできます。

    こういった理由からいまだに幅広いファンが根付いており、Zaif INOで限定NFT100枚が販売された際には同マーケット史上最速の28分で完売するなど、今後も成長が期待されるNFTトレカとなっています。

    Zaif INOで行われたCryptoSpells限定NFT販売が史上最速の28分で完売 | ORICON NEWS

    Battle of Three Kingdoms

    出典:魁 三国志大戦 -Battle of Three Kingdoms-

    「Battle of Three Kingdoms」はdouble jump.tokyoが株式会社セガとタッグを組んで開発が進んでいる本格ブロックチェーンゲームです。アーケードカードゲームでおなじみの「三国志大戦」のライセンス許諾を受けているため、孫権ら三国志でおなじみのキャラクターはもちろん、新たにイラストレーターが書き下ろしたイラストがNFT化されており、既存のファンも新規のプレーヤーも楽しめる仕様になっています。

    三国志大戦シリーズはアーケード版以外にも家庭用ゲーム版やスマホアプリ版もローンチされていましたが、ゲーム内のカードに物理的なカードと同等の価値をもたせることはできませんでした。しかし、本作ではNFTを使うことで、ゲーム内で獲得したカードやアイテムがデジタル資産としての実質的な価値を持ち、プレイヤー間での交換や売買が可能になります。カードの希少性や所有の証明が透明に行われるため、コレクションとしての楽しみも深まり、新しいプレイ体験を楽しめるでしょう。

    また、本作ではブロックチェーンのみならずAI技術も活用されており、キャラクターはユーザーとの対話を通じて学習し、それぞれの性格を形成していくとのことです。2025年3月予定のリリースに向けてティーザー動画も公開され、言語も英語・中国語・韓国語に対応予定。今後の動向に目が離せません。

    まとめ

    ブロックチェーンゲームは、少しずつ注目を集めるゲームが出てきているとはいえ、既存のスマホゲームやコンシューマーゲームなどと比べるとまだまだ普及しているとはいえない状況です。

    ですが、今回紹介したように「プレイして稼ぐ」という新たなゲームの楽しみ方は、アセット売買の活発化や有名タイトルのリリースなどによって、爆発的に市場を拡大していく可能性も秘めています。

    少しずつではありますが、有名ゲーム会社も関心を寄せており、担当者がNFT関連のイベントで講演に参加している姿も散見されます。今後もブロックチェーンゲームの普及に向けた動きが加速していきそうです。

    本記事で紹介した以外にもブロックチェーンゲームにはたくさんの種類があります。ブロックチェーンゲームを探している方は、Web3.0メディア「meta land」の「NFTゲームのおすすめ人気ランキング」の記事が分かりやすいのでぜひ参考にしてください。

    【完全版】ブロックチェーン(blockchain)とは?仕組みや種類をわかりやすく図解!

    暗号資産やビットコインのブームで突如として有名になった「ブロックチェーン」ですが、この技術がどういったものなのか説明できるという人は多くはないのではないでしょうか?

    元々は暗号資産の取引のために生み出された技術といわれていますが、金融領域で市場を急拡大させた後、金融・非金融を問わず、今では幅広い産業においてビジネス活用が進んでいます。今後、ビジネスのツールの一つとしてだけではなく、次世代の社会インフラになる可能性を秘めているブロックチェーン技術は、現代社会では避けては通れないテクノロジーとなるでしょう。

    本記事では、そんなブロックチェーンの基礎知識からメリット・デメリット、ユースケースに至るまで詳しく解説していきます。

      ブロックチェーンとは?

      ブロックチェーン=正確な取引履歴を維持しようとする次世代データベース

      出典:shutterstock

      ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、一言で説明すると「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

      取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

      ブロックチェーンのメリットは?何がすごいの?

      ブロックチェーンの概要を聞いても「何がすごいの?」とピンとこない方もいるかと思います。ブロックチェーンのメリットを理解するためには、従来のデータベースとは大きく異なるデータの保存・管理方法に着目すると良いでしょう。

      これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

      これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

      また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

      こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

      ではこれらのメリットをもたらすブロックチェーンにおけるデータの保存とは、一体どのような仕組みで実現しているのでしょうか?ここからはブロックチェーンの仕組みについて、技術的な側面から解説していきます。

      ブロックチェーンの仕組み

      ブロックチェーンは、その名の通り「ブロック」を「チェーン」のように順番に繋いだ形をしています。「ブロック」とは1MB分の「トランザクション(価値の移転が記録された取引データ)」に様々なメタ情報を付与したものです。

      身近なものに例えるなら、ブロックは引き出しがいくつか付いているタンスのようなものだといえます。一つのタンスの中には複数の同じ大きさの引き出しがあり、その中にはさらに、紙の契約書や現金が入っている、というようなイメージです。

      タンスの中に契約書や現金をしまいこんだら、次に考えるべきことは、「どこに何があるかを正しく把握」して「泥棒に盗まれないようにしっかりと鍵をかけておく」ことでしょう。これらの機能を果たしているのが、「チェーン」と例えられる、ブロックチェーンの記録・保管形式です。

      具体的にいうと、各ブロックには日付(タイムスタンプ)に加えて、「ハッシュ値」「ナンス」と呼ばれるメタ情報が付与されており、これらの情報をもとにして、ある一定のルールのもとで前のブロックと後ろのブロックがまるで鎖のように連結されています。このメタ情報から作られる鎖こそがブロックチェーンの堅牢なシステムを実現しています。

      ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

      新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

      タンスの例でいえば、1番目のタンスの鍵を2番目のタンスの中に入れて、2番目のタンスの鍵を3番目のタンスの中に入れて・・・としているイメージです。

      また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

      そのため、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認を行っているのです。

      このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。こうしたブロックチェーンの基礎構造は、Bitcoin以降のブロックチェーンのほぼ全てに採用されています。

      ブロックチェーンの周辺技術

      ブロックチェーンでは分散管理の他にも、コンセンサスアルゴリズムやP2P(Peer to Peer)通信、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンというわけです。ここからは個別の技術についても解説します。

      コンセンサスアルゴリズム

      ブロックチェーンではノード間で取引情報をチェックして承認を行うと説明しましたが、この参加者同士が取引に関わる契約内容を正確な情報であるかどうか決めていく承認ルールのことをコンセンサスアルゴリズムと呼びます

      なんだか定義だけでは理解しづらい概念ですよね。ではこれを理解するために、友人たちとピザのトッピングを決める場面を想像してみましょう。

      あなたと友人2人がピザを注文することになりました。あなたは「アメリカン」、友人Aも「アメリカン」、友人Bは「イタリアン」を選んだとしましょう。あなたはこんなとき、どうやって意見をまとめますか?最も一般的な方法は、多数決でしょうか。その場合、「アメリカン」が2票で最多なので、ピザのトッピングは「アメリカン」に決まります。この意見をまとめる方法、ここでは「多数決」がコンセンサスアルゴリズムにあたります。

      これをブロックチェーンの文脈に置き換えてみましょう。ブロックチェーン上のノードは、取引内容や新しいブロックを承認する際にコンセンサスアルゴリズムを用いて合意を形成します。ハッカーや不正行為からコミュニティを守るため、あるいは分散的な組織運営をするために、多数決だけではなく、「Proof of Work(PoW)」や「Proof of Stake(PoS)」といったさまざまなアルゴリズムを開発しています。

      出典:Web3総合研究所

      Proof of Work(PoW)は、膨大な計算処理によって解答を見つけることが必要なアルゴリズムです。みんなで難しいクイズを解いて、最初の正解者が食べたいピザを選ぶイメージです。最初に正解を導き出したノードが次のブロックを承認し、他のノードもそれを確認して合意が形成されます。かの有名なBitcoin(ビットコイン)はこのアルゴリズムを採用しています。

      よく、「ブロックチェーンの報酬は誰が用意しているの?」という疑問を聞きますが、PoWを採用している暗号資産は上述の通り、報酬が発生するのは暗号資産を生み出すマイニングのタイミングなので、強いて疑問に答えるのであれば、「暗号資産の採掘を行った者自身」ということになるでしょうか。なんだか不思議な話ですね。

      少し具体的に見てみましょう。PoWでは、ブロックの生成過程で、「マイニング」と呼ばれる、ブロックのメタ情報(「Hash」「nonce」「Target」)を用いた計算作業をノードに課しています。

      平たく言えば「ある条件を満たす数字を見つけましょう」という計算ですが、この問題を解くためには莫大なコンピュータの電気代がかかるため、簡単にはブロックをつくることはできません。とはいえ、ビットコインではブロックを無事に生成できると報酬として暗号資産を手に入れることができるため、多くの人がブロックづくりに挑戦し、同時に複数のブロックが生まれてしまうこともあります(「フォーク」と呼ばれる事態)

      そこで2点目として、PoWでは、複数のブロックが生まれた場合は「最も長いチェーンに含まれるブロックが正しい」という基本原理を採用しています(ナカモト・コンセンサス)

      このように、ブロックチェーンでは独特かつやや複雑な仕組みによってブロックが生成されています。

      一方、Proof of Stake(PoS)は、ノードが所有する仮想通貨の量に応じて承認権を与えるアルゴリズムです。友達がピザを注文する際、いちばん多くお金を出した人の意見を重視するような仕組みです。Ethereum(イーサリアム)やSolana(ソラナ)といった有名なブロックチェーンで採用されています。

      ほかにもProof of Importance(PoI)Proof of Consensus(PoC)といった様々なコンセンサスアルゴリズムが存在します。コンセンサスアルゴリズムは異なるノード間で合意を形成し、正しい情報を保持するための鍵となる重要な要素です。そのため、それぞれの弱点や課題を補うようにして新たなコンセンサスアルゴリズムが誕生しており、その進化は今後も続いていくでしょう。

      P2P(Peer to Peer)通信

      ブロックチェーンに利用されている最も代表的な関連技術が「P2P(Peer to Peer、ピアツーピア)通信」です。

      P2Pとは、パーソナルコンピューターなどの情報媒体間で直接データの送受信をする通信方式のことで、従来のデータベースの「クライアントーサーバ型」と対比されます。

      出典:平和テクノシステム

      クライアントーサーバ型では、情報媒体間でデータの送受信を行う際に、データ共有を行う媒体間で直接通信せず、第三者媒体をサーバとして経由するため、どうしても中央管理者の存在が不可欠でした(Google ChromeやAWSをイメージするとわかりやすいでしょう)。

      これに対して、P2Pでは媒体間で直接やり取りを行うために、第三者のサーバを必要としません。したがって、ブロックチェーンの最大の特徴でもある「非中央集権性」は、まさにこのP2Pによってもたらされたものといえます。

      実際に、P2Pは第三者を介さない個人間での送金手続きや小売電気事業者を通さない個人間での電力取引、無料インターネット電話サービスの先駆けともいえるSkypeなどに用いられています。

      公開鍵暗号方式

      出典:サイバーセキュリティ情報局「キーワード事典」

      ブロックチェーンの仕組みでは、トランザクションが取り出される際に「秘密鍵暗号方式」と呼ばれる方法でトランザクションへの「署名(秘密鍵で暗号化する)」が行われることで、トランザクション自体のセキュリティが担保されています。

      公開鍵暗号方式とは、情報を通信する際に、送信者が誰でも利用可能な公開鍵を使用して暗号化を行い、受信者が秘密鍵を用いて暗号化されたデータを復号化するという手法のことです。

      秘密鍵は特定のユーザーのみが保有する鍵で、この秘密鍵から公開鍵を生成することは可能です。しかし、公開鍵から秘密鍵を特定することは現実的には不可能となっています。公開鍵で暗号化されたデータは対応する秘密鍵でしか復号化できないため、秘密鍵さえ厳重に管理していれば、データの保護と情報漏洩の防止が可能となる仕組みです。

      通常、この秘密鍵は各アカウントごとに一つだけ付与されるもので、この鍵を使うことでアカウントに紐づいた様々な権限を利用することができます。暗号化技術において、秘密鍵は暗号化されたデータを復号したり、デジタル署名を作成したりするために使用される重要な情報です。この鍵自体が盗まれてしまうと、個人アカウント内の権限を第三者が悪用できてしまうことになるため、秘密鍵の流出はブロックチェーンのセキュリティを語るうえで避けられない問題となっています。

      ブロックチェーンの種類

      暗号資産の世界だけでなく、さまざまな業界で活用が始まっているブロックチェーンにはビットコインの基幹技術として生まれた「パブリック型」に加えて、「コンソーシアム型」そして「プライベート型」の3種類が存在します。

      細かな違いはありますが、主にはネットワーク内における取引内容の公開範囲、または管理者の有無によって分類することが可能です。

      パブリック型ブロックチェーンは、不特定の参加者により運営され、管理者が不在であるという特徴を持ちます。また、パブリック型の場合は、誰もがブロックチェーンのマイニングを行うマイナーとなれます。

      他方、コンソーシアム型/ライベート型ブロックチェーンでは、参加者は一部の企業等に限定され、また、コンセンサスアルゴリズムによって許可された管理者がネットワークの管理にあたります。この形式下では、管理者の許可を受けた者だけがマイナーとなります。

      このようにコンソーシアム/プライベート型のチェーンは、分散化という観点では、ブロックチェーンを使う意義が薄く、ややメリットに欠けるでしょう。しかし、ノードの参加者が限定されているため、企業向けのエンタープライズ用途に好まれています。

      また、ブロックチェーンの分類には、パーミッションド型/パーミッションレス型の区別もあります。これは、取引を承認する参加者の身元が明らかにされるなどして、ノードとして参加するのに許可(=permission)が必要か否かで分類を行ったものです。

      パブリックチェーンは参加者に制限がなく、許可を必要としないため、自由参加型(Permissionless型)とも呼ばれます。一方、プライベートチェーンやコンソーシアムチェーンは特定ユーザーのみ参加することが許されるため、許可型(Permissioned型)とも呼ばれます。

      それぞれのタイプごとの解説や、コンソーシアムとプライベート間の違いについては、以下でより詳しく解説しています。

      開発基盤としてのブロックチェーンプラットフォーム

      ブロックチェーンを活用したプロダクト・サービスの開発には、開発の実装基盤となるプラットフォームが不可欠です。ブロックチェーンのプラットフォームには、用途に合わせて数多くの種類があります。

      代表的なブロックチェーンプラットフォームは、次の通りです。

      プラットフォーム名対象用途例
      Ethereum(イーサリアム)エンタープライズ向け(toC企業)NFTなど
      BNB Chain(ビーエヌビーチェーン、旧BSC)エンタープライズ向け(toC企業)DApps、NFTなど
      Polygon(ポリゴン)エンタープライズ向け(toC企業)NFT、DAppsなど
      Symbol(シンボル)エンタープライズ向け(toC企業)ゲーム、DAppsなど
      SOLANA(ソラナ)エンタープライズ向け(toC企業)ゲームなど
      Ripple(リップル)エンタープライズ向け(銀行)銀行間送金(特化)
      Corda(コルダ)エンタープライズ向け(toB企業)銀行間送金、企業間プラットフォームなど
      GoQuorum(ゴークオラム /ゴークォーラム)エンタープライズ向け(toB企業)企業間プラットフォームなど
      Hyperledger Fabric(ハイパーレジャーファブリック)エンタープライズ向け(toB企業)企業間プラットフォームなど
      Bitcoin Core(ビットコインコア)個人向け個人間送金

      上表のように、10種類のプラットフォームを用途の観点から分類すると、大きく次の4つに分けることができます。

      1 toC企業向け:ゲームなどの開発に向いている
      2 toB企業向け:業界プラットフォームなどの開発に向いている
      3 銀行向け:銀行間送金に特化している
      4 個人向け:ちょっとした送金の手段として使われる

      たとえば、あなたが製造業の会社で事業責任者をしており、ブランド戦略の一環で製品のトレーサビリティ(追跡可能性)を担保することで偽造品対策や競合製品との差別化を行いたいと考えているのであれば、2のtoB企業向けプラットフォームであるCordaやGoQuorum、Hyperledger Fabricを開発基盤としたプロジェクトを推進していくのがお勧めです。

      あるいは自社経済圏を構築するためにトークン発行を前提としたプラットフォームを構築したいのであれば、開発基盤はEthereumのほぼ一択でしょう。

      ブロックチェーンはその開発基盤によってターゲット層や情報秘匿性、搭載している機能に違いがあります。したがって、自身が推進するプロジェクトに向いているプラットフォームを把握し、その特性を理解しておくことは、開発者だけではなくビジネスサイドの担当者にとっても有益です。

      詳しくは、以下の記事で解説しています。

      ブロックチェーンの市場規模

      ブロックチェーンの国内市場規模に関するマーケット予測で最もポピュラーな資料は、平成28年4月28日付で経済産業省の商務情報政策局 情報経済課が発表した「我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備 (ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料」でしょう。

      出典:我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料

      この資料は、市場がまだ大きく形成されていない初期に発表されたこと、発表元が経済産業省であることから、複数の書籍や論文等でも引用され、ブロックチェーンの潜在的可能性に対する期待を膨らませる一つの要因になりました。

      同資料では、大きく次の5つのテーマでブロックチェーンの社会変革・ビジネスへの応用が進むとした上で、それら5つのインパクトの合計として、将来的に国内67兆円の市場に影響を与えると予想されています。

      • 価値の流通・ポイント化・プラットフォームのインフラ化
      • 権利証明行為の非中央集権化の実現
      • 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現
      • オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現
      • プロセス・取引の全自動化・効率化の実現

      実際に、経済産業省が「ブロックチェーンは将来的に国内67兆円の市場に影響を与える」との予測を発表してから8年が経過した今、ブロックチェーンの応用可能性の広さとそのインパクトの大きさは資料の示す通りとなっています

      1はSTOなどのトークン活用、2は不動産領域における登記などの権利証明、3は医療プラットフォームや電子政府、4は国際海運における物流プラットフォーム、5はDEXに代表されるDAO(自律分散型組織)、といった具合に、既存の産業をDX(デジタルトランスフォーメーション)する形での市場拡大が進んできました。

      また、この資料の他にも2022年1月28日に株式会社矢野経済研究所が発表した「2021 ブロックチェーン活用サービス市場の実態と将来展望」や株式会社 xenodata lab.が発表している「ブロックチェーン業界AI予測分析サマリー」においてもその成長性については高い評価が下されています。

      このように、ブロックチェーンは統計の調査主体にかかわらず、ここ数年で大きな市場成長が見込まれており、今後は金融分野にとどまらないあらゆる社会側面に広がっていくものと考えられます。

      市場規模に関するより詳しい解説や世界の市場規模、成長の理由についての考察は下記の記事をご覧ください。

      ブロックチェーン技術のユースケース

      ブロックチェーン技術は、その分散性や耐改ざん性といった特性を活かして、金融サービスのみならず様々な分野で応用が進みつつあります。ここからは2024年現在に金融分野以外で活用されている主なブロックチェーンの適用先をご紹介します。

      トークン

      出典:shutterstock

      暗号資産の世界では、既存のブロックチェーン技術を利用して新たに発行された暗号資産のことをトークンと呼びます。これらは、ビットコインやイーサリアムといった既存ブロックチェーンのシステムを間借りして発行されており、独自のブロックチェーンを持ちません。例えるなら、企業が独自に発行しているポイントに近いものです。

      トークン自体は自由に売買することができ、決済に使用するだけでなく現実世界の資産やゲーム内の仮想アイテムなど、多くの実用性を兼ね備えています。ここ最近、「トークン」という言葉をよく耳にするようになった背景としては、ブロックチェーンの適用先となったことが大きな要因といえるでしょう。

      従来のトークンは第三者による改ざんが重大な弱点であり、コピーガードやOPニス、擬似エンポスといった対策が取られてきました。しかし、それでもなお物理的な形を要するギフトカード等は偽造品による被害が相次いでおり、その公平性が保たれにくいという課題がありました。

      耐改ざん性や透明性といった性質を兼ね備えるブロックチェーン技術によって発行されたトークンではこういった不正行為は極めて困難です。この唯一性の担保をうまく活用し、デジタルチケットやデジタル証券、デジタル身分証など幅広い用途に用いられています。

      詳しくは以下の記事で解説しています。

      偽造品対策

      出典:shutterstock

      「データが改ざんされにくい」ということは「データが結びつく対象が本物である」と証明できるということです。この性質を利用しているのがブランド保護・偽造品対策の分野です。

      従来のブランド保護には、製品ごとに付与されたシリアルナンバーが記載されたギャランティカードを発行する形式が主流となっています。

      この形式では、店舗側はシリアルナンバーをもとに購入者名、購入した品物、購入日を管理しているため、正規品か否かを照合することが可能になっています。また、バッグや財布などを修理に出す際に提示することで、正規店でのサポートが受けられるという利点もあります。 

      一方で、最近ではギャランティカードの偽物も出回るようになってきています。ギャランティカードはただの数字が印刷されたカードに過ぎず、直接製品に刻まれているわけではありません。そのため、番号が実在するものであれば、いくらでも複製できてしまうのです。

      それに対してブロックチェーンによるデータ管理では、リアルの製品にかざすだけでデータ通信が可能な、安全性の高い「NFC(Near Field Communication)」「RFID(Radio frequency identifier)」といった技術と合わせて使用することで、ユーザー自身がブロックチェーン上の安全なデータにアクセスし、唯一無二の価値をもつ正規品であることを確認できます。

      こうした手軽に導入でき、高いパフォーマンスを発揮するブロックチェーンは近年、様々な業界で真贋証明プラットフォームの中核技術として利用され始めています。現在は主に高級な製品へ用いられることが多いですが、食品や、健康や美容など人体に直接関わる領域では、比較的安価な製品に対してもブロックチェーンを導入した対策が取られるかもしれません。

      詳しくは以下の記事で解説しています。

      医療・ヘルスケア

      出典:shutterstock

      医療・ヘルスケア分野は非金融ブロックチェーンの導入が進む業界の一つです。昨今の日本では、高齢化や医療サービスの充実に伴い、日本人の平均寿命と健康寿命の差は約10年もあります。そのため、年々医療サービスの仕事量が増加しており、この状況を放置すると医療サービスの需要と供給のバランスが崩れ、医療崩壊を引き起こしかねません

      こうした現状を踏まえて医療業界では、予防医療に力を入れ医療崩壊を防ごうという考えが広まっています。予防医療の真価を発揮させるには、ヘルスケアデータを患者・医療施設・医療施設の間でシームレスに共有してうまく活用できるようにするシステム変革が必要です。

      一方で医療で扱う情報は、個人情報の中でも特に高い秘匿性が要求されます。したがって、中央集権型のシステムと同等かそれ以上のセキュリティ要件を満たしながら情報を分散管理できる仕組みが必要です。こういった点において、ブロックチェーンはその要件にマッチしているため、国内外で多くの注目を集めています。

      とくに行政サービスデジタル化の先駆けとして知られる国家・エストニアではヘルスケア分野における取り組みにはブロックチェーンを用いて安全かつ迅速なデータ管理を行っており、現在では処方箋の99%がオンラインで発行されているなど、国家レベルでもブロックチェーンの導入が行われています。

      詳しくは以下の記事で解説しています。

      エネルギー

      出典:shutterstock

      「なぜブロックチェーン市場は拡大したのか?」の章でも軽く触れましたが、ブロックチェーンを用いてエネルギーの調達由来や、再生エネルギーによって削減された温室効果ガスの排出量をリアルタイムに監視する動きが広がりつつあります

      もちろん単なるエネルギーのトレーサビリティ実現であれば、通常のデータベースでも実現可能です。しかし、こうした脱炭素経営は消費者や投資家からの大きなリターンにも期待できるため、「グリーンウォッシュ」などの不正の温床にもなり得ます。

      こうした不正を防止し、各制度の枠組みや国境の垣根を超えて正しく削減した事業者が正しく評価されるためには、ブロックチェーンを用いて透明性や信頼性を担保する必要性があるでしょう。

      現在、国内における環境価値を取引できる証明制度には「非化石証書」「J-クレジット」「グリーン電力証書」の3つがありますが、日本卸電力取引所(JEPX)では、数年後を目処として非化石証書のブロックチェーンによるトラッキングを実現する方針を打ち出しています。

      各制度については下記の記事で解説しています。

      デジタルアイデンティティ

      出典:shutterstock

      近年、中央集権的な個人情報の管理については「データのセキュリティリスク」「テータ主権」の観点から批判的な見方が広がりつつあります。そんな時代において、行政機関やGAFAなどの大企業によるデータの一括的管理に対抗する手段としてブロックチェーンが注目されています。

      ブロックチェーンを用いたデジタルアイデンティティの管理では、情報を分散的に管理し、公開鍵暗号方式によってデータの安全性を担保しているため、個人のデータ主権を保ちながらオンライン上での個人情報のやり取りを可能にします。

      さらにブロックチェーンは、VCs(Verifiable Credentials)やDID(Decentralized Identifier)、ゼロ知識証明といった技術と組み合わさることで、その利点を余すことなく活用できます。

      ブロックチェーンを採用したデジタルアイデンティティのプロジェクト事例は増えており、技術の進歩とともにそのユースケースや参入企業も多様化していくことでしょう。今はまだ開発段階の技術ですが、今後のさらなる実用化に大きな期待が寄せられます。

      VCsやDIDといった周辺知識については下記の記事でも詳しく解説しています。

      ブロックチェーンの応用領域拡大を支える技術発展

      仮想通貨領域から非金融領域へといたるブロックチェーンの応用領域の拡大は、技術発展に伴って進んできました。

      実際に、ビジネスや産業に応用されている技術には、例えば次のようなものがあります。

      • Smart Contract(スマートコントラクト、契約自動化)
      • Traceability(トレーサビリティ、履歴追跡)
      • Tokenization(トークナイゼーション、トークン化)
      • Self Sovereign Identity(セルフソブリンアイデンティティ、自己主権型ID)

      これらのうち、本記事では、必ずと言っていいほどブロックチェーンでの応用が検討される、スマートコントラクトとトークンの2点について、簡単に説明します。

      Smart Contract(スマートコントラクト)

      スマートコントラクトとは、ブロックチェーンシステム上で規定のルールに従い、トランザクションや外部情報をトリガーに実行されるプログラムあるいはコンピュータプロトコルのことです。

      1994年にNick Szabo(ニック・スザボ)という法学者・暗号学者によって提唱され、エンジニアのVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)がEthereum基盤上で開発・提供し始めました。

      「契約(コントラクト)の自動化」を意味するスマートコントラクトは、事前定義から決済に至るまで、一連の契約のスムーズな検証、執行、実行、交渉を狙いとしています。

      スマートコントラクトの仕組みは、しばしば「自動販売機」を例に使って説明されます。

      自動販売機はその名の通り、人の手を介さずに自動で飲料を販売する機械であり、①指定された金額分の貨幣の投入、②購入したい飲料のボタンの押下、という2つの条件が満たされることで自動的に「販売契約」が実行されます。

      自動販売機自体はとてもシンプルな仕組みですが、「契約の事前定義→条件入力→履行→決済」という一連の流れを全て自動化しているという点でスマートコントラクトの好例といえるでしょう。

      なお、スマートコントラクトのブロックチェーン上での呼称は基盤によって異なります。たとえば、Etheruemであればそのまま「スマートコントラクト」と呼ばれていますが、HLF(Hyperledger Fabric)では「ChainCode」と呼ばれています。

      それぞれ名称は異なるものの、同じくブロックチェーン基盤上でのスマートコントラクトサービスを指している点には注意が必要です。

      ブロックチェーンの文脈では、フィンテックにおける送金業務の自動化やDEX(分散型取引所)、非金融領域では投票システムや国際貿易プラットフォームなど、多岐にわたるビジネスへの応用が進んでいます。

      こうした形で、スマートコントラクトがビジネスプロセス上に実装されることで、取引プロセスのデジタル化・自動化による取引コスト削減が期待できます。

      詳しくは以下の記事でも解説しています。

      Tokenization(トークン化)

      トークンは、ビジネスの文脈上では「交換対象を限定した小さな経済圏を回すための使い捨て貨幣」といった意味で用いられる概念で、非中央集権的なブロックチェーンとセットでビジネス活用されます。

      トークンには、代表的な4つの種類があります。

      トークンの種類意味身近な例
      Utility Token(ユーティリティトークン)具体的な他のアセットと交換できて初めて資産性が出てくるトークン・パチンコ玉・図書券・電車やバスの切符・遊園地の入場券
      Security Token(セキュリティトークン)それ自体に金銭的価値が認められるトークン・株券・債権
      Fungible Token (ファンジブルトークン)メタ情報如何にかかわらず区別されないトークン・純金(→誰がどこで所有する金1グラムも同じ価値をもつ)
      Non Fungible Token(ノンファンジブルトークン)同じ種類や銘柄でも個別に付与されたメタ情報によって区別されるトークン・土地(→銀座の1平米と亀有の1平米は同じ単位だが価値が異なる)

      ブロックチェーンの文脈でいうところのトークン化とは、物理的な資産をブロックチェーン上で取引可能なデジタル資産へと変換することを指します。これにより、地域的な障壁や仲介者を排除し、自由で平等なマーケットにおいて資産を細かく分割できます。

      とくにNFT(Non Fungible Token、非代替性トークン)は、唯一無二の「一点物」の価値を生み出せるトークンとして各業界から注目を集めています。現在では美術品や金、不動産など、多様な資産がトークン化されつつあり、その取引高は2022年に247億ドルを記録するなど実用化が急速に進んでいるジャンルです。

      詳しくはこちらの記事でも解説しています。

      ブロックチェーンの課題

      出典:shutterstock

      ブロックチェーンには、その社会普及の壁となる以下3つの課題を抱えています。

      • スケーラビリティ
      • ファイナリティ
      • セキュリティ

      この中でも、特に重要かつ深刻なのが、スケーラビリティの問題です。スケーラビリティとは「トランザクションの処理量の拡張性」つまり、どれだけ多くの取引記録を同時に処理できるかの限界値のことを指します。

      ブロックチェーンには、未処理のトランザクションが待機しておくメモプールという空間が存在します。処理するトランザクションが増えて記録可能な取引の上限を超過してしまうと、メモプールに大量のトランザクションが留まってしまいます。こうなると、次回以降のブロック生成時まで放置されて取引が完了しなくなるという問題があります。

      また、マイナーと呼ばれるトランザクションの承認者は、ガス代(手数料)という経済的なインセンティブによって動いているので、手数料が多いものから処理を行います。すると、自らの取引を優先的にブロックに記録させるために相場より多くの手数料を支払うユーザーが現れ、手数料のインフレが起きてしまうという副次的な弊害もあります。

      ブロックチェーンはトランザクションを承認して分散的に保有するという仕組み上、従来のデータベースよりもスケーラビリティが低くならざるを得ないという課題を抱えています。

      一般に、スケーラビリティは「tps(transaction per second、1秒あたりのトランザクション処理量)」で定義することができますが、代表的なブロックチェーンネットワークは、次のように不十分なスケーラビリティだといわれています。

      • 一般的なクレジットカード: 数万tps
      • ビットコイン(PoWコンセンサスアルゴリズム): 3~7tps
      • イーサリアム(PoSコンセンサスアルゴリズム): 15~25tps
      • コンソーシアム型ブロックチェーンネットワーク(PoAコンセンサスアルゴリズム): 数千tps

      このようにブロックチェーンは、オープンで分散的なデータベースとして期待を集めている一方で、ネットワーク参加者が増えるとスケーラビリティが担保できなくなるという課題を抱えています。

      この課題に対しては様々なアプローチが試みられています。最も安直な最善策は、メインチェーンのブロック容量と生成スピードの制約を緩和させることです。

      このアプローチでは、ブロックの容量を増やしたり、生成までの間隔を短縮することで、一回のトランザクションで処理できるデータ量を増加させて待機のトランザクションを減らすことができます。しかし、これによってブロックチェーン本来の分散性が低下する可能性や、システム自体の安定性やセキュリティに影響を及ぼす可能性もあります。

      また、金融領域では、「ライトニングネットワーク(Lightning Network)」という新しい概念に注目が集まっています。

      ライトニングネットワークは、小規模ながら高頻度で行われる取引をオフチェーン(ブロックチェーンの外部)で処理し、最初と最後の取引だけをブロックチェーンに反映させる方法です。

      最初の取引でビットコインを送金し、その金額内で自由に送金ができるため、ブロックチェーンのように途中の取引も全て検証する必要がなく、中間の処理を省くことでトレーサビリティ問題に対応しています。

      上記のようなアプローチにより、決済の迅速化や高いトランザクション容量の実現が期待されています。たとえば、大手暗号資産取引所のバイナンスはビットコインの取引をライトニングネットワークで実行できるようになったと発表しています。

      Binance Completes Integration of Bitcoin (BTC) on Lightning Network, Opens Deposits and Withdrawals

      しかし、非金融領域においてはいまだ効果的な解決策は確立していません。こうした原理的な課題は、ブロックチェーンが社会基盤となれるかどうかを左右する、重要な論点だといえるでしょう。

      これらのブロックチェーンにおける課題についてはこちらの記事でも解説をしています。

      まとめ

      本記事では、ブロックチェーンについての仕組みとその周辺知識についてまとめました。

      技術進化の一翼を担うブロックチェーンは、現在、様々なビジネスに影響を与えています。今後もさらなる革新が期待され、私たちの日常生活や産業構造に新たな可能性をもたらすことでしょう。

      トレードログ株式会社では、非金融領域におけるビジネスへのブロックチェーン導入を支援しています。新規事業のアイデア創出から現状のビジネス課題の解決に至るまで、包括的な支援が可能です。

      少しでもお悩みやご関心がございましたら、是非オンライン上で30〜60分程度の面談をさせていただければと思いますので、お問い合わせください。

      スマートコントラクトとは?ブロックチェーンが実現するトレンドの技術について解説!

      スマートコントラクトとは、1994年にニック・スザボが提唱した「契約の自動化」を意味するプロトコルです。取引プロセスのデジタル化・自動化による取引コスト削減を可能にし、ブロックチェーンの社会実装に一役買っています。事例と共に詳しく解説します!

      スマートコントラクトとは?

      スマートコントラクト=コンピュータプログラムによる契約の自動化

      スマートコントラクトとは、ブロックチェーンシステム上で、外部情報をトリガーにして事前に規定したルールに従って実行されるプログラムあるいはコンピュータプロトコルのことを指しますす。

      契約(コントラクト)の自動化」を意味するスマートコントラクトは、事前定義から決済に至るまで、一連の契約のスムーズな検証、執行、実行、交渉を狙いとしています。従来の契約では、当事者同士の合意を文書で残し、弁護士や公証人、企業の管理部門などの第三者が関与して履行を担保していました。しかし、スマートコントラクトではこのプロセスを自動化し、信頼できる第三者なしで契約を実行できる点が特徴です。

      出典:FinTech Journal「スマートコントラクトとは何か? その仕組みや事例、実装への課題を
      解説」

      スマートコントラクトの仕組みは、しばしば「自動販売機」を例に使って説明されます。自動販売機は、人の手を介さずに自動で飲料を販売する機械であり、①指定された金額分の貨幣の投入、②購入したい飲料のボタンの押下、という2つの条件が満たされることで自動的に「販売契約」が実行されます。自動販売機自体はとてもシンプルな仕組みですが、「契約の事前定義→条件入力→履行→決済」という一連の流れを全て自動化しているという点でスマートコントラクトの好例といえるでしょう。

      こうした仕組みを生かせば様々な業務が効率化されます。例えば、クラウドファンディングのプロジェクトを考えてみましょう。従来の仕組みでは、資金が目標額に達したかどうかを運営会社が確認し、達成すれば資金が提供者に送られ、未達成なら返金されるというプロセスを人の手で管理していました。しかし、スマートコントラクトを使えば、「目標額に達した場合にのみ資金を送金する、達していない場合は資金提供者の口座に返金する」といったルールをコードとしてブロックチェーン上に書き込むことで、自動的に資金の移動を実行できます。

      なお、スマートコントラクトのブロックチェーン上での呼称は基盤によって異なります。例えば、イーサリアムであればそのまま「スマートコントラクト」と呼ばれていますが、HLF(Hyperledger Fabric)では「ChainCode」と呼ばれています。それぞれ名称は異なるものの、同じくブロックチェーン基盤上でのスマートコントラクトサービスを指している点には注意が必要です。

      スマートコントラクトはイーサリアムとともに普及が進んだ

      スマートコントラクトは1994年、法学者・暗号学者のニック・スザボによって提唱されました。しかし、当時はまだブロックチェーン技術が確立されておらず、スマートコントラクトは実現には至りませんでした。

      2008年にサトシ・ナカモトによってビットコインが誕生し、ブロックチェーン技術が確立されると、そのエコシステムの中でスマートコントラクトの実装が検討されましたが、ビットコインは金銭の取引を前提として設計されており、非常に高いセキュリティ環境が求められました。そのため、複雑な処理を可能にするスマートコントラクトは、当初は実装が見送られています。

      転機となったのは、2013年にヴィタリック・ブテリンらによって開発されたイーサリアムの登場です。イーサリアムは、スマートコントラクトの実行に特化したプラットフォームであり、チューリング完全な独自のプログラミング言語「Solidity」を採用しました。これにより、より複雑で高度なスマートコントラクトの開発が可能となり、同時にスマートコントラクトの普及が進んだのです。

      イーサリアムの登場以降、ビットコイン周辺でもスマートコントラクトを実現する技術(例:Rootstock)が誕生しましたが、根幹技術にはスマートコントラクトを採用しておらず、基本的には静的な取引履歴をブロックチェーンに書き込む仕組みです。また、イーサリアムのような汎用性はなく、暗号資産のやりとりのみを行うことを目的としていることには変わりありません。

      一方、イーサリアムのスマートコントラクトは、決済や送金シーンに限らず、様々な領域で活用できます。これは、イーサリアムがスマートコントラクトをプラットフォームの中核に据え、あらゆる種類のアプリケーションを構築できるように設計されているからです。イーサリアムの登場により、スマートコントラクトは、DeFi(分散型金融)、NFT(非代替性トークン)、DAO(分散型自律組織)など、様々な分野で利用されるようになり、ブロックチェーン技術の進化を加速させています。

      そもそもブロックチェーンとは?

      出典:shutterstock

      ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が2008年に発表した暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。取引データを暗号技術によってブロックという単位にまとめ、それらを鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術です。

      ブロックチェーンはデータベースの一種ですが、そのデータ管理方法は従来のデータベースとは大きく異なります。従来の中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存されるため、サーバー障害やハッキングに弱いという課題がありました。一方、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、ハッキングにも強いシステムといえます。

      また、ブロックチェーンでは、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。ハッシュ値とは、あるデータをハッシュ関数というアルゴリズムによって変換された不規則な文字列のことで、データが少しでも変わると全く異なるハッシュ値が生成されます。新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みると、それ以降のブロックのハッシュ値を全て再計算する必要があり、改ざんが非常に困難な仕組みとなっています。

      さらに、ブロックチェーンでは、マイニングという作業を通じて、取引情報のチェックと承認を行う仕組み(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。マイニングとは、コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムな値を代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しい値(ナンス)を見つけ出す作業のことで、最初にマイニングに成功した人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

      このように、ブロックチェーンは分散管理、ハッシュ値、マイニングなどの技術を組み合わせることで、データの改ざんや消失に対する高い耐性を持ち、管理者不在でもデータが共有できる仕組みを実現しています。

      詳しくは以下の記事でも解説しています。

      スマートコントラクトのメリットとは?

      スマートコントラクトは、ブロックチェーン技術を活用して契約の自動化を実現する仕組みですが、具体的にどのような利点があるのでしょうか?従来の契約と比較すると、取引コストの削減やセキュリティの向上、手続きのスピードアップといったさまざまなメリットが見えてきます。ここでは、スマートコントラクトがもたらす主な利点について詳しく解説します。

      出典:Shutterstock

      中央管理者が不要になり、取引コストが削減される

      従来の契約では、信頼性を担保するために銀行や弁護士、公証人などの第三者機関が介在し、その都度手数料が発生していました。例えば、不動産の売買をする場合、買い手と売り手の間に仲介業者が入り、手数料を支払わなければなりません。また、ローン契約や保険契約では、金融機関が審査を行い、契約内容を管理するために追加の費用と時間がかかっていました。

      しかし、スマートコントラクトを利用すれば、こうした中央管理者を介さずに契約の履行が自動化されます。不動産取引を例に挙げると、売り手が物件の権利情報をブロックチェーン上に登録して買い手が決済を行う際、条件が満たされた瞬間に所有権が自動的に移転します。この仕組みなら、仲介手数料が不要になるだけでなく、手続きがスムーズに進むため、時間の節約にもつながります。また、金融分野では、ローンの審査や保険金の支払いをプログラムで管理できるため、人件費や管理コストを大幅に削減できるといった利点も生まれてくるでしょう。

      改ざんや不正行為、人為的ミスを防止できる

      従来の契約は、紙の書類やデジタル文書で管理されるため、意図的な改ざんや人的ミスが発生するリスクがありました。現在、プライチェーンにおける取引記録の多くは、企業ごとに異なるシステムで管理されており、記録の不一致が発生することも少なくありません。また、クラウドファンディングでは、集まった資金の使途が不透明になり、運営者が恣意的に資金を流用してしまうケースも問題視されてきました。

      一方、スマートコントラクトは、ブロックチェーン上に契約内容が記録され、すべての取引が暗号技術によって保護されるため、改ざんがほぼ不可能になります。さらに、契約の実行がプログラムによって管理されるため、人為的なミスの発生を抑えられるのも大きなメリットです。例えば、サプライチェーン管理においては、商品が特定の倉庫に到着したタイミングでスマートコントラクトが自動的に受領記録を作成し、支払いプロセスを開始することができます。これにより、データの不一致を防ぎ、取引の透明性を高めることができます。クラウドファンディングの場合でも、支援金があらかじめ決められた条件のもとで自動的に分配されるため、資金の不正流用を防ぐことが可能になります。

      契約の自動化により、取引行為がスピーディーになる

      従来の契約では、書類の作成や審査、承認プロセスに時間がかかり、特に国際取引では銀行の営業日や各国の規制の違いによって手続きが遅れることが多くありました。国際貿易においては、商品の輸送状況を確認するだけでなく、関係機関が書類を隅々までチェックした上でようやく決済が行われるため、完了までに数週間かかることも珍しくありませんでした。

      しかし、スマートコントラクトを活用すれば、自動的に条件の照合が行われる(仕組みとして、条件に適合しない場合はそもそも契約が締結・履行されない)ため、こうしたプロセスを大幅に短縮できます。先ほどの国際貿易の例の場合、スマートコントラクトを用いることで、商品の輸送状況がリアルタイムで追跡され、到着が確認され次第、自動的に決済が行われます。これにより、銀行の営業時間や書類審査の遅れに左右されることなく、スムーズな取引が可能になります。こうした仕組みは貿易のシーンだけでなく、保険業界などでのスムーズな保険金支払いのスキームへの応用も可能でしょう。

      このように、スマートコントラクトは従来の契約の課題を解決し、コスト削減、透明性の向上、迅速な取引処理を実現する技術として、さまざまな分野での活用が期待されています。

      スマートコントラクトが注目されている理由

      ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並ぶ、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有望技術の一つです。DXとは、情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段のことです。

      大きいものであれば産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーション、小さい規模では開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革など、仕事だけでなく私たちの生活全体を大きく変える可能性として期待されています。つまり、「ブロックチェーンを社会実装する」ことで、世の中の不便や非効率を無くしていくことができるのです。

      このメリットに目を付けた先進的な企業を中心に、ブロックチェーンは既に様々な既存産業でビジネス化されており、2025年には国内ブロックチェーン活用サービス市場規模は7,247億6,000万円に達すると予測されています。

      ブロックチェーン活用サービス市場に関する調査を実施(2021年)

      また、経済産業省が作成しているブロックチェーン動向調査よると、ブロックチェーンは具体的に大きく5つのテーマで、社会変革・ビジネスへの応用が進むとされています。

      1. 価値の流通・ポイント化・プラットフォームのインフラ化
      2. 権利証明行為の非中央集権化の実現
      3. 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現
      4. オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現
      5. プロセス・取引の全自動化・効率化の実現

      そして上記、経済産業省が示した5つの社会実装アプローチの中で、20兆円規模の経済効果をもたらすと予測されているのが「プロセス・取引の全自動化・効率化の実現」です

      これは、「契約条件、履行内容、将来発生するプロセス等をブロックチェーン上に記載」する、つまりスマートコントラクトを利用したブロックチェーンの実装による社会変革を意味しています。つまり、世の中の不便や非効率を無くしていくためのブロックチェーン、その実装手段が契約の自動的な執行を行う仕組みであるスマートコントラクトなのです。

      例えば、スマートコントラクトを利用したブロックチェーン実装で無くせる「不便・非効率」の代表例に「印章」があります。日本では、契約を確定させるための手段としてハンコが用いられていますが、これには人手を介したりハンコ自体の管理を厳密にするなど高いコストがかかってしまいます。

      最近で言えば、2020年に世界を震撼させたCOVID-19(新型コロナウィルス感染症)への対応として多くの企業でリモートワークが義務化あるいは推奨されたものの、これは「出社してハンコを紙に押さなければ契約が決まらない」という経済効率上の課題を浮き彫りにする結果となりました。

      この問題をスマートコントラクトで代替してみましょう。そもそもハンコは契約の正当性を担保するために用いられます。そのため、契約内容を改ざんできないようにできるブロックチェーンは、ハンコの代替手段として必要最低限の条件は満たしています。

      そして、ハンコより優れている点として、契約の執行についても権限管理ができる点が挙げられます。スマートコントラクトでは一度条件を設定しておけば、煩雑な書類のやり取りや「言った・言わない」を防止するための認識合わせなども不要です。

      このように、スマートコントラクトはハンコ一つを例に取っても、データの耐改ざん性・システムの非中央集権性といったブロックチェーンの根本思想をうまく社会実装しており、そうした実装の幅の広さからも既存産業における不便や非効率を解消できる存在として注目されているのです。

      スマートコントラクトとブロックチェーンに共通する思想:DAO

      ニック・スザボが提唱したプロトコルがイーサリアムに組み込まれたのは決して偶然ではありません。スマートコントラクトとブロックチェーンはその根底に共通する思想をもっており、これまで見てきたように、スマートコントラクトはブロックチェーンの思想を社会実装する手段としてうまく機能するからです。

      両者の思想は、DAO(Decentralized Autonomous Organization、ダオ、自立分散型組織)という概念を中心に理解することができます。

      DAOとは中央の管理者をもたないネットワーク型組織のことで、個々に自立したネットワーク参加者が自由にふるまう中で、組織全体としての判断や意思決定、実行が自動的になされていくような組織形態です。

      ブロックチェーン誕生のきっかけとなったビットコインはDAOの典型例だと言われており、PoWと呼ばれる事前の意思決定ルール(「コンセンサスアルゴリズム」)をもとに、ノードと呼ばれる参加者各々の利害関係に基づいた「分散的な」ネットワーク運営がなされています。

      ヴィタリック・ブテリンは、まさにこのブロックチェーンがもつ「分散性」に注目して、その恩恵を金融領域以外にも押し広げるべく、自由なアプリケーションの開発基盤としてのイーサリアムをつくり、その基盤上での「個々に自立して分散した」取引を可能にする機能として、スマートコントラクトのプロトコルを採用したのです。

      このように、スマートコントラクトは同じ思想をもった技術であるブロックチェーンとの相性が良く、ブロックチェーン基盤上で開発・展開されたアプリケーションにスマートコントラクトの機能を組み込むことで、管理者や実行者を介することなく、データ改竄のリスクを下げる形での契約履行が可能になると期待されています。

      そして自動販売機の例にもみられるように、スマートコントラクトは取引プロセスを自動化できることから、実際に決済期間の短縮や不正防止、仲介者排除によるコスト削減といった目的で用いられています。そうした文脈では「透明性」の確保が重要となるため、非中央的な仕組みが求められているのです。

      このようにスマートコントラクトとブロックチェーンの関係を見ていくうえで、DAOへの理解は避けては通れないでしょう。なお、DAOについては以下の記事でも解説しています。

      スマートコントラクトによるブロックチェーンの社会実装ユースケース

      事例①:DEX(分散型取引所)

      出典:ぱくたそ

      スマートコントラクトによってブロックチェーンをうまく社会実装した代表的な事例の一つが、DEX(Decentralized Exchange、分散型取引所)です。DEXは、イーサリアムなど一部のブロックチェーンネットワーク上で展開される暗号資産(=仮想通貨)の取引所の一つで、ユーザー自身が資産管理を行う点に特徴があります。

      DEXでは、プロトコルに従い自動化されたプロセスを通じてユーザー自身が秘密鍵の管理を行うため、クラッキングや人為的ミスによる秘密鍵の流出、倒産などの資産喪失リスクを回避することができます。

      似た概念に、CEX(Centralized Exchange、集中型取引所)があります。しかし、CEXは法令に基づいて事業者登録をした企業が運営しており、暗号資産の秘密鍵(仮想通貨の所有者であると証明する機密データのこと)の管理も行うため、秘密鍵の流出リスクがあります。

      DEXにおいて、「自動化されたプロセス」を実現している技術の一つがスマートコントラクトです。P2PネットワークであるDEXでは、暗号資産を取引したい人同士が自身の秘密鍵とコントラクトアドレスを用いて直接取引することが可能で、決済までの取引プロセスが自動で行われます。

      取引所としてはまだ歴史が浅くユーザー数が少ないためにアセットの流動性が低い、中央管理者がいないため自己責任が求められるといったデメリットもありますが、他方で、ブロックチェーンを利用することによるセキュリティの高さや管理コストの低下による手数料の安さなどのメリットが魅力的であるため、利用者も確実に増加傾向にあります。

      これは「分散性」というブロックチェーンの思想が、スマートコントラクトという機能によってうまく社会実装された好例といえるでしょう。

      なおDEXには、「0x Protocol」「KyberNetwork」「Bancor Protocol」、そして最近注目を集めている「Uniswap」といった複数のプロトコルが存在しており、それぞれがブロックチェーンを社会実装するためのミドルウェアとして機能しています。

      事例②:投票

      出典:ぱくたそ

      スマートコントラクトの活用事例として注目を集めている領域が「投票」です。投票は、有権者に議決権を分配し、それらが正しく行使される、つまりあらゆる改ざんがなされないことを前提としています。

      これは、「データの耐改ざん性」というブロックチェーンのセキュリティ特徴と見事にマッチしており、ブロックチェーンを用いた投票システムでは、議決権をデジタルトークンとして発行してスマートコントラクトによる集計を行うことで、第三者による票の改ざんを防ぐことが可能になるのです。

      国内では2023年5月に、自民党青年局会議・研修会で配布するNFTの発行及び当日の政策プレゼンコンテスト会場審査員投票に、株式会社IndieSquare(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:星野 裕太)のノーコードweb3プラットフォーム「HAZAMA BASE(ハザマ ベース)」が採用されました。

      自由民主党青年局、ブロックチェーンを用いた電子投票にHAZAMA BASEを採用!

      投票券として配布されるNFTはSBT(一度獲得すると誰かに譲渡したり売却することができないトークン)であり、ブロックチェーン上で改ざん不可能な形で投票が可能です。自由民主党はweb3を成長戦略の柱として、新しい技術やツールを活用していくと宣言しており、今回の取り組みの成果次第では党内投票にもブロックチェーンの導入を検討しているとのことです。

        こうしたシステムを実装するにあたって、スマートコントラクトは、まさにうってつけの技術だといえるでしょう。

        事例③:国際貿易

        出典:Pexels

        スマートコントラクトを利用したブロックチェーンの社会実装の3つ目の事例が、貿易プラットフォームへの活用です。現在の国際貿易においては、コンテナ輸送での不正行為や手続きの不備が問題となっています。さらに、決済に至るまでの業務フローまでも煩雑で、取引の完了までに多くのタイムロスがありました。

        こういった課題に対して、ブロックチェーン基盤上で貿易プラットフォームを展開し、スマートコントラクトによって取引のデジタル化・自動化を実現することで、透明性のある取引や従来の膨大な手続きを効率化することが期待されます。

        このケースで代表例ともいえるのが株式会社トレードワルツ(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:小島 裕久)の「TradeWaltz」です。同サービスはブロックチェーンを基盤に、貿易手続きの完全電子化を目指す貿易情報連携プラットフォームです。

        貿易取引にかかわる電子データを関係者間でスムーズに共有可能となり、日本と世界のアナログな貿易手続きの完全電子化・業務効率化を実現しています。2020年11月に事業を開始すると、NTTデータや三菱商事、丸紅といった大企業から資金を調達しており、2023年5月には新たに住友商事が出資に加わり、累計の資金調達額が56.5億円に達しました。

        トレードワルツが16.5億円を追加調達、累計56.5億円に──住友商事が新たに参画 | CoinDesk JAPAN

        タイ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドが持つ4カ国の貿易プラットフォームと同時にブロックチェーン上でAPI接続する世界初の取り組みに成功し、今後は日本・インド太平洋地域間の貿易DXを推進するとのこと。「ブロックチェーン×国際貿易」のDX化のリーダー的存在として活躍の場を大きく広げています。

        こうした事例からも、多数のステークホルダーが存在し、サプライチェーンが複雑化する国際貿易のようなシステムでは、ブロックチェーンのような安全かつコストの低い技術が良いソリューションとして大きな期待を背負っていることがわかります。

        まとめ

        今回はスマートコントラクトについて概要からブロックチェーンとの関係、実際の事例に至るまで広くご紹介しました。

        スマートコントラクトは金融・非金融の分野を問わずに活用されてきている技術ですが、スマートコントラクトの普及には、セキュリティの問題や法規制の未整備、スケーラビリティ問題など、解決すべき課題も残されています。

        しかし、前述のような優れた利便性を持ち合わせていることから今後も導入する企業は増加していくと考えられます。ユースケースを参考にしつつ、自社でもスマートコントラクトの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

        トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

        スマートコントラクトをはじめとするDX開発で課題をお持ちの企業様や「そもそもDXについて何から効率化していけば良いのかわからない」とお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

        CBDCとは?国が発行するデジタル通貨を解説!〜ブロックチェーン×中央銀行〜

        近年「中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)」に対する研究開発の動きが、世界中で活発化しています。本記事ではCBDCとはそもそも何なのか、その基盤となる「ブロックチェーン」はどういうものか、さらには実際の導入事例についてまで広く解説していきます。

          CBDCとは?

          出典:shutterstock

          CBDCはデジタル通貨の一種

          「中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)」とは法定通貨をデジタル化したものです。私たちがよく使っている電子マネーは、すべて民間企業が発行・管理を行っています。CBDCは、民間企業ではなく「国(中央銀行)」が発行・管理を行うデジタル通貨をイメージすれば良いでしょう。

          ここでいうデジタル通貨とは、「紙幣・硬貨などの物理的な媒体を介してやりとりされる現金」ではなく、「デジタルデータに変換された、通貨として利用可能なもの」と定義します。Suicaや楽天Edyといった電子マネーや、ビットコインなどの暗号資産といったものもここではデジタル通貨と考えます。今回取り上げる「中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)」もデジタル通貨の一種です。

          国が「デジタル通貨」を発行する動きが活発に

          2020年7月、日米欧の先進7カ国(G7)が「中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)」の発行に向けて連携する方針を固めました。以来、日本を含む各国でCBDCの研究・実験が活発に行われてきました。

          国家レベルでCBDCが注目され始めた背景には、後述するCBDC特有の技術的なメリットのほかにも、先進国による新興国への進出や通貨主権の確保といった政治的な思惑があります。

          目まぐるしく変化する国際社会において、デジタル通貨はエネルギー分野と同等の交渉カードになりえます。そこで、先進国は国際政策を有利に進める駒として、あるいは新興国はそうした政策からの自衛の手段としてCBDCを採用しているというわけです。

          実際に国際決済銀行(BIS)が発表した調査結果によると、新興国および先進国の24の中央銀行が2030年までにデジタル通貨を流通させる予定であり、今後数年で「CBDC」というワードも世間に広く認知されていくことでしょう。

          電子マネーとは何が違うの?

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          CBDCと電子マネーはどちらもデジタル形式のお金ですが、その仕組みや目的には大きな違いがあります。わかりやすく説明していきましょう。

          まず電子マネーとは、基本的には企業や金融機関が発行する「前払い式支払い手段」のことです。具体的には、スマートフォンにチャージして使う電子マネーアプリや、コンビニで購入できるプリペイドカードがこれに当たります。

          「前払い式支払い手段」とは簡単にいうと、あらかじめお金をチャージしておくことで、その金額の範囲内で支払いができる仕組みです。たとえば、交通系電子マネー「Suica」にお金をチャージし、そのカードを使って自動販売機で飲み物を購入したりしますが、チャージしたお金は使うだけで、現金に戻すことはできません。つまり、電子マネーは「一方向にだけ使えるお金」なのです。

          したがって電子マネーは非常に便利で、日々の細かい支払いに適している一方で、企業が発行しているため、企業の信用に依存しており、その企業が倒産した場合にはチャージした金額を失うリスクもあります

          これに対してCBDCは国の中央銀行が発行するデジタル形式の通貨です。サービスに加盟している特定の店舗やサービスでしか使えない電子マネーと異なり、CBDCは現金と同じ法定通貨として認められており、どんな取引にも使用可能です。

          また、信用の背景にも違いがあります。企業の経営状況に左右される電子マネーに対し、CBDCは国家が発行しているため、国家の信用がその価値を支えています。したがって、どのような経済状況でもその価値が(法定通貨と同様に)安定しており、ユーザーは安心して使うことができるのです。

          CBDCと電子マネーは、その仕組みや目的が異なるデジタルのお金ですが、どちらも現代社会において重要な役割を果たしています。それぞれの特徴を理解し、適切に使い分けることで、より便利で安全なデジタル経済を享受できるでしょう。

          CBDCのメリット

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          CBDCを導入するメリットとして、以下5つが挙げられます。

          現金の輸送・保管コストの低減

          現金での支払いに比べて「紙」「硬貨」の作成・保管に関するコスト削減が可能です。またATMの設置や現金輸送に関する警備など人的リソースが不要なため、サービスの地域差やメンテナンスに伴うデメリットが解消されます。

          キャッシュレス決済の中小店舗への更なる普及促進に向けた環境整備検討会 とりまとめ(令和4年3月商務・サービスグループキャッシュレス推進室)」より筆者作成

          実際に、現状の「現金決済インフラ」を維持するためのコストは年間で2兆8,000億円に上ると推計されています。もちろん、CBDCのシステムそのものを維持する際にもコストはかかってしまいます(詳しくは後述)が、比較的安価に運用でき、作成や輸送に伴う環境負荷も抑えられるため、導入後の大きな利点となっています。

          銀行口座を持たない人への決済サービスの提供

          CBDCは金融包摂(Financial Inclusion)の観点からも大きなメリットをもたらします。それは社会状況などの様々な要因によって既存の金融サービスを受けられずに経済的に不安定な人々に対しても、基本的な金融サービスを提供できるということです。

          たとえば、銀行口座をもっていない移民や貧困層に預金や送金の機会を提供したり、資金調達が困難な新興企業への融資を行ったりします。

          中米エルサルバドルでは法定通貨にビットコインが採用されています。その背景には、米国に出稼ぎに出た親族からの仕送りによって生活している多くの国民の存在があります。その一方で国民の約7割ほどしか口座を持っておらず、CBDCによって送金や郵送に際して発生する多額の手数料を減らせるのではないかと注目されています。

          エルサルバドルのビットコイン法定通貨化は、成功か失敗か

          脱税やマネーロンダリングなどの捕捉・防止

          現金と異なって利用履歴が残るCBDCは、脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)などの犯罪行為を防ぐことができます。

          2022年に国税局が指摘した所得の申告漏れの総額は7202億円にのぼり、日本では脱税が大問題となっています。判明している所得税の申告漏れだけでこの額なので、実際に未納のままになっている金額はかなり大きいのではないかと予想されます。

          富裕層の申告漏れ、過去最高839億円 国税庁:朝日新聞デジタル

          こういった問題への効果的なアプローチとしてもデジタル通貨は期待されています。

          民間決済業者の寡占化防止

          民間決済業者が寡占状態になって企業間の競争がなくなると、技術開発やコストダウンを怠ったりサービスの質が低下したりする懸念があります。しかし、CBDCは国が行う施策なので、全ての店舗で安定的かつクリーンな電子決済が可能となることでしょう。

          さらに寡占していた企業が万が一にも倒産してしまうと、預けている資産も全てなくなってしまいます。それに対して、CBDCは国が母体であるために民間の銀行よりも破綻しにくく、安心感もあります。

          また、振込手続きも短時間かつ手数料無料で行うことが可能となります。

          キャッシュレス決済における相互運用性の確保

          CBDCは普段私たちが使っているような銀行券や貨幣と同様に法的な運用力を有しています。そのため、民間決済業者が推進する電子マネーやQRコードのように店舗によって使えたり使えなかったりするということがありません。

          CBDC導入の課題

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          CBDCを導入するにあたって課題として主に挙げられるのが以下の3つです。

          電子決済用のシステム・機器を各店舗に整備するコストがかかる

          現金の輸送・保管のコストは削減できたとしても、電子決済用のシステムや機器を導入する際の初期費用は避けられません。また、完全に現金からデジタル通貨へと移行しないのであれば、双方の維持コストが発生して劇的なコストダウンを測るのは難しいかもしれません。

          また、民間企業によるキャッシュレス決済では、コストの回収が難しければ事業売却やサービス撤退、あるいは破産という道もあります。しかし、法定通貨としてCBDCを採用した場合にはそんなに簡単な話ではありません。最悪の場合、景気の悪化を招くことも考えられます。

          クラッキングや偽造に対する最高レベルのセキュリティ強度が必要

          国家レベルでの金融システムの導入には、当然ですが最高レベルの防犯性能が求められます。現在の金融システムにおいても、日本の紙幣には11もの偽造防止技術が採用されており、世界の中でも偽造が極めて難しい紙幣の一つとされています。

          さらに、24年に流通予定の新紙幣では、世界初の3Dホログラムを用いた偽造防止技術が搭載されており、良くも悪くも日本人の現金に対する信頼性を高める結果となっています。

          日銀、新1万円札を公開 渋沢栄一が浮かび上がる3Dホログラム採用 偽造防止に – ITmedia NEWS

          このようなセキュリティ性能をデジタル上でも持たせようとすると技術的なハードルがあり、なおかつそれを24時間体制で維持しなければなりません。

          実際に、アメリカでは2022年にジョー・バイデン大統領が各省庁に対してデジタル資産の研究開発の加速を命じる大統領令に署名していましたが、2025年1月にドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲くや否や、「安全性に問題がある」という理由でCBDCを禁止する大統領令に署名しています(反対に、バイデン氏が慎重な姿勢を取っていた仮想通貨(暗号資産)の利用は推進する方針)。

          トランプ氏、仮想通貨推進の大統領令 国家備蓄も検討

          こういった点から、セキュリティ面はCBDC導入の大きな障壁となっています。

          電力の確保が難しい

          一般的にデジタル通貨は「災害・停電・通信網途絶に弱い」といわれています。

          社会インフラの一つとしてデジタル通貨を捉えてみましょう。安定したサービスを提供するためには、上述のセキュリティ対策と同様に24時間体制での電力供給が必要になります。国内の全ての決済を一手に引き受けるわけなので、その消費電力も膨大な量になります。

          日本ではここ数年、「計画停電」「需給ひっ迫注意報・警報」という言葉を耳にする機会も増えてきたように、電力の需要に供給が追いついていません。やはりこうした金融インフラを、不足しているエネルギーを電源として稼働させるのには不安が残ります。

          したがって、CBDCを導入する際にはシステム面と電源面での課題解決が必要不可欠となってきます。

          CBDCの導入事例

          中国

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          CBDCの研究は今や世界中で注目を集めています。その中でも中国は、CBDCに関する研究を国家戦略の新たな軸として進めてきました。

          中国政府がCBDCに熱心になっている理由は、資金の流れをコントロールすることにあります。今日の基軸通貨はドルであり、国際的な決済システムもドル基準に設計されています。

          そのため、米国政府がドル決済を監視することで、中国企業の動きや資金の流れが米国に伝わってしまいます。中国ではこういった安全保障のリスクを避けるため、急ピッチでの実用化を進めてきた背景があります。

          また、独自のCBDCである「デジタル人民元」はアフリカやアジアなどの新興国の市場にも投入されています。これは、中国政府が掲げるアフリカ進出を支える下地づくりといってもいいでしょう。

          アフリカの一部ではいまだに自国通貨が不安定な国もあるため、現地での影響力を拡大することで、人民元の経済圏を拡大させることができるのです。このようにCBDCは、国際社会の覇権を争ううえでも重要なファクターとなっています。

          中国国内においても「デジタル人民元」の普及は進んでいます。現在、中国の17省26地域で使用(執筆時点)されており、日常の買い物や公共料金の支払いなど市民参加型の実証の場を広げてきました。中国の地方政府や銀行で職員の給与も「デジタル人民元」で支給するなど、全土での正式発行こそされていないものの、普及度は着実に高まってきています。

          中国、デジタル人民元で給与支給 消費現場の利用促す – 日本経済新聞

          バハマ

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          日本ではあまり知られていないですが、世界で初めてCBDCを発行したのはカリブ海に浮かぶ島国、バハマの中央銀行です

          バハマは2020年に他国に先駆けて「サンドダラー」と呼ばれるCBDCを発行しました。このCBDCは、自国の法定通貨のバハマドルと価値が連動していることが特徴です。

          同国は福島県とほぼ同じ大きさの国土にも面積にも関わらず、700以上の島から構成されています。そのため、銀行やATMがない島の住人は、金融サービスにアクセスしづらいという課題がありました。また、ハリケーンなどの自然災害によって、インフラ・金融システムが断絶するといった被害も珍しくありませんでした。

          しかし、物理的なツールを必要としないCBDCを導入することで、バハマの人々は地理的なロケーションを問わずに金融システムにアクセスできるようになりました。それだけでなく、災害のあとも、決済システムがワイヤレスで復元可能になり、スムーズな保険金の支払いや迅速な被災地復興が実現しています。

          カンボジア

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          不安定な国内情勢が続いていたカンボジアでも、CBDCが早い時期から導入されています。

          カンボジアでは、1993年になるまで内戦が続いた影響で、国内経済が混乱していました。つまり、自国通貨であるリエルよりも復興援助として流入したドルの流通が進行してしまい、自国の中央銀行による金融政策のコントロールが制限されている状況でした。

          そんな「ドル化」経済からの突破口として期待されたのがカンボジア独自のCBDC「バコン」です。

          「バコン」はスマートフォンから使用でき、個人や法人間での送金、店頭などでの支払いに対応しています。すべての決済を一貫してブロックチェーンで処理しているため、リアルタイムで決済が可能で手数料もかかりません。

          また、カンボジアのCBDC「バコン」は、日本企業のブロックチェーン技術を採用しています。

          決済コストの低下や迅速な取引の実現によって中小企業の運営に大きく貢献しており、ラオスやフィジーといった国でも、カンボジアのCBDCをロールモデルとして導入の検討が行われています

          日本においてCBDC(=デジタル円)が導入されるのはいつから?

          日本銀行は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)、いわゆる「デジタル円」の実現可能性を探るため、2021年4月から段階的かつ計画的に実証実験を進めています。

          出典:第4回CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する関係府省庁・日本銀行連絡会議 配布資料

          これまでに実証実験は3つのフェーズを経てきました。第1フェーズ(2021年4月~2022年3月)では、発行、流通、還収といった基本機能の技術的検証が実施され、第2フェーズ(2022年4月~2023年3月)では周辺機能が追加され、より詳細な検証が進められました。現在進行中の第3フェーズでは、2023年4月からパイロット実験がスタートし、民間事業者の技術や知見を活用しながら、具体的な運用シナリオの実現可能性が探られています。

          このパイロット実験では60社を超える企業が参画し、中央システムから仲介機関のネットワーク、エンドユーザーのウォレットアプリに至るまで、エンドツーエンドのシステムをシミュレーションしています。特にプライバシー保護やセキュリティ対策、性能の向上が重視されており、負荷の高い環境でも安定した運用を可能にするための検証が進行中です。

          また、日本銀行はCBDCフォーラムを設置し、複数のワーキンググループで多角的な議論を進めており、システムの外部接続や銀行預金との交換機能、KYC(本人確認)やAML(マネーロンダリング防止)の方式、データモデルの新技術活用、そしてユーザー体験の向上といった多岐にわたるテーマが扱われています。これらの議論を通じて、社会的課題や技術的要件に対応した包括的なエコシステムの構築が目指されています。

          CBDCの正式な導入時期については明確に定められていないものの、2022年の衆院予算委員会において当時の日銀総裁である黒田氏は、「日本で中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行できるかどうかは2026年辺りには判断できているだろう」との見解を示しており、そう遠くない未来にデジタル円の導入に関する大きな動きがあるものと思われます。

          デジタル円の導入が実現すれば、キャッシュレス化を加速させるだけでなく、新しい金融インフラの構築により、経済や社会に大きな影響を与える可能性があります。今後の動向は国内外で注目されており、最新情報の継続的なチェックが重要です。

          CBDCとブロックチェーン

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          CBDCが世界規模で発行されるようになると、規模に関わらず非常に多くの経済圏が誕生するようになると予想されます。その際に最大の障壁となり得るのが、「CBDC導入の課題」でも紹介したセキュリティ強度の問題です。この問題を解決するために、各国で研究・開発が行われているの技術がブロックチェーンです。

          ブロックチェーンは2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。ブロックチェーンは知らずとも、ビットコインの名前はほとんどの方が一度は聞いたことがあると思います。

          ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種でありながら、特にデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

          ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っていました。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

          これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません。また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

          さらにブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値ナンスといった要素によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

          ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

          新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

          また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出す行為を「マイニング」といい、最初にマイニングを成功させた人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

          ブロックチェーンではマイニングなどを通じてノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持つことで、データベースのような管理者を介在せずに、データが共有できる仕組みを構築しています。参加者の立場がフラット(=非中央集権型)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

          こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

          ブロックチェーン技術は、CBDCの安全性、透明性、効率性を向上させるための重要な技術であり、今後のCBDC開発において中心的な役割を果たしていくと考えられます。

          詳しくは以下の記事でも解説しています。

          まとめ

          本記事でも紹介したようにCBDCは、世界中の中央銀行が研究を進める重要なテーマとなっています。これまでのお金の価値観やキャッシュレス決済への意識は徐々に、しかし確実に変わっていくでしょう。国民の生活への影響が大きい取り組みなだけに、今後も引き続き注視が必要です。

          【2024年最新版】いま注目すべきNFT関連のスタートアップ企業7選

          次世代のテクノロジー活用の一例として、近年メディア等でも度々話題に上ることも多いNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)に関する話題が増えています。高額で取引されるNFTアートやファッションが話題になっており、日本国内でも最近は様々な企業が取引所の開設やコンテンツの投入を始めるようになりました。

          そんな中で、ゲームや音楽、アートなど様々な分野においてスタートアップ企業が積極的にNFT事業を展開しており、web3.0界隈を盛り上げています。今回は、国内外のNFT関連スタートアップ企業を7つピックアップし、その魅力や事業内容などをご紹介していきます。

          1. NFTの基礎知識
          2. 注目すべきNFT関連のスタートアップ企業7選
          3. まとめ

          NFTの基礎知識

          NFT関連のスタートアップ企業をご紹介する前に、NFT「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」について整理しておきましょう。

          NFT=”証明書”付きのデジタルデータ

          出典:shutterstock

          NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに、固有の価値を保証しています。

          つまり簡単にいうと、NFTとは耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している”証明書”が付属しているようなものです。

          NFTでは、その華々しいデザインやアーティストの名前ばかりに着目されがちですが、NFTの本質は「唯一性の証明」にあるということです。

          NFTが必要とされる理由

          世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した「NFT=非代替性トークン」は文字通り後者となります。

          例えば、紙幣や硬貨には代替性があり、替えが効きます。つまり、自分が持っている1万円札は他の人が持っている1万円札と全く同じ価値をもちます。一方で、人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。

          不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。しかし、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます。

          そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。

          実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。

          NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。

          これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、必要とされているのです。

          NFTとブロックチェーン

          NFTはブロックチェーンという技術を用いて実現しています。

          ブロックチェーンは一度作られたデータを二度と改ざんできないようにする仕組みです。データを小分けにして暗号化し、それを1本のチェーンのように数珠つなぎにして、世界中で分散管理されています。そのため偽のデータが出回ったり、内容を改ざんしたり、データが消えたりする心配がありません。

          NFTではこのようなブロックチェーンが持つ高いセキュリティ性能を利用して、web上のデータが本物なのか偽物なのかを誰でも判別することを可能にし、データの希少性を担保できます。ブロックチェーンの活用によって、これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが生まれているというわけです。

          注目すべきNFT関連のスタートアップ企業7選

          株式会社ANDART ── NFTアートプラットフォーム運営

          出典:株式会社ANDART

          株式会社ANDARTは、「テクノロジーで、アートと社会を結び、拓く(ひらく)」というミッションを掲げ、日本初のNFTアート作品の共同保有プラットフォームとして2019年に設立されました。

          ビジネスモデルは非常にシンプルで、NFTアートの所有権の小口販売と売買手数料でのマネタイズを行っています。NFTアートの所有権を購入した作品オーナーは、オンライン上でのコレクションをはじめ、実物作品の鑑賞会に参加できるなど、気軽に本格アートコレクションを楽しむことができます。

          アートを「購入する」という体験を通して、「小難しく、値段も見当もつかず、静かに鑑賞するもの」という固定概念を覆すという代表取締役CEOの松園 詩織氏のビジョンに加え、これまで手が出なかった高額な有名アート作品や大型作品を、1万円という少額から所有できる点が非常に注目され、会員登録者数はすでに2.5万人を突破しました。また、購入者の7割がANDARTで初めてアートを購入しており、新しいコレクター層を創造している今後の成長が楽しみなサービスです。

          株式会社HARTi ── アート分野におけるNFTの活用

          出典:株式会社HARTi

          株式会社HARTiは、アート分野へのNFT導入支援を行うスタートアップ企業です。現在は法人向け事業、NFTプラットフォーム事業、IP創出事業の3つの事業展開を行っています。

          法人向け事業では、NFTを活用したマーケティングの導入により企業のDXを推進します。実証実験から実際のトークン発行に至るまで、web3.0領域での事業創造をワンストップでサポートしています

          またNFTプラットフォーム事業では、社名にもなっている国内初のアプリ型NFTプラットフォーム「HARTi」をリリースしています。このアプリには仮想通貨やウォレットの事前準備が要らないという特徴があり、指定会社のカード決済やキャリア決済で簡単にNFTを購入することが可能です。今までNFTを実際に扱ったことのない初心者ユーザーであっても気軽に、かつ簡単にNFTを体験できます。

          出典:PR TIMES

          同プラットフォームでは、2024年6月にNFT✕CRM領域において特許を取得したことも発表しており、ウォレット情報を基にしたマーケティング施策によってデジタルコンテンツの価値向上を図ります。

          「ChatGPT」の仕組みを応用したユーザー体験やNFTコミュニティ運営のAI自動化なども視野に入れており、今後のNFT普及をリードする企業として目が離せない存在といえるでしょう。

          SBINFT株式会社(旧スマートアプリ) ── NFTマーケットプレイス運営

          出典:SBINFT Market

          SBINFT株式会社は、日本初の統合型NFT売買プラットフォームを運営していた株式会社スマートアプリが、2021年に大手金融「SBIホールディングス株式会社」の連結子会社となって誕生したスタートアップ企業です。

          同社ではNFTに特化したマーケットプレイス「SBINFT Market」の運営をしています。「SBINFT Market」は、ユーザーを偽造NFTやラグプル(架空のNFTプロジェクトを立ち上げ、集めた資金を運営者が持ち逃げする)などのリスクから守り、安心して取引を楽しめるように、厳正な審査基準を設けてクオリティの高いNFTだけを取り扱っています。

          また、2023年6月にはゲーム特化型ブロックチェーン「Oasys」と戦略的パートナーシップを締結したことを発表しました。これによって、Oasys上で展開される全てのゲーム内で発行されたNFTを厳正な審査の下で取り扱うことが可能になるなど、急速に活躍の場を広げています。

          SBINFT MarketでOasys上のゲームNFTの売買が可能に。マルチチェーン化を目指すSBINFTがOasysに対応

          出典:SBIホールディングス

          さらに2024年4月、ロイヤルカスタマーの可視化から獲得までをワンストップで実現するマーケティングプラットフォーム「SBINFT Mits」を発表しています。熱量の高いファンを判別したうえで効率的かつ効果的なマーケティング機会を提供するこのプラットフォームには、盆栽NFTで有名なBONSAI NFT PROJECTや株式会社LIFULL、ローソンチケットといった錚々たる面々がローンチに携わっています。ヤマト運輸の配送連携APIサービスとも連携することで、NFT特典の授受もスムーズに行われるとのことです。

          株式会社Gaudiy ── ファンコミュニティ運営

          出典:Gaudiy

          株式会社Gaudiyは、『ファンとともに時代を進める』をミッションとし、NFTを始めとするブロックチェーン技術を活用したファンコミュニティサービス「Gaudiy Fanlink」を運営するスタートアップ企業です。

          「Gaudiy Fanlink」はIPホルダーが独自のファンコミュニティを設立できるサービスです。IP事業ではプラットフォームの提供者のみにデータが集積され、IPホルダーとファンのつながりが深まらないという課題がつきものです。同サービスではファンの活動データを蓄積し、貢献度に応じたインセンティブの還元を実現することで、IPホルダーのビジネス展開をサポートしています。

          実際に、ソニー・ミュージックエンタテインメント(音楽)、集英社(漫画)、バンダイナムコエンターテインメント(ゲーム)、サンリオ(キャラクター)といった、その分野を代表する著名なエンターテインメント企業が「Gaudiy Fanlink」を導入しています。

          2024年5月にはアメリカ・ニューヨーク州に現地法人「Gaudiy US Inc.」も設立しており、国境なきWeb3.0時代のファンコミュニティをグローバルに展開してきます。今後もブロックチェーン技術を活用したコンシューマー向けのファンサービスという新しい切り口で市場を牽引し、これまでにないエンタメ体験を創出してくれることでしょう。

          株式会社TRiCERA ── アート分野へのNFT導入支援

          出典:tokyoartbeat.com

          株式会社TRiCERAは、アート専門のECサイト「TRiCERA ART」の運用を始めとする、アーティストの活動支援を目的とした様々なサービスを提供しているスタートアップ企業です。

          「TRiCERA ART」は現代アート専門の登録制ECプラットフォームで、8カ国の言語に対応し、出荷や配送、返品手配に至るまで請け負っています。2021年にNFTの取引機能が追加されたことで、仮想通貨でアート作品を購入することが可能になりました。アーティストとユーザーの権利を保護するため、アート作品の取引を証明する信用機関として課題改善に取り組んでいます。

          2023年4月にはリセール機能も搭載し、プラットフォームとしての実用性をより一層強化しています。NFTとアートは相性の良い組み合わせの一つであるため、同社のサービスは今後ますます貴重になっていくでしょう。

          【新機能】アート系スタートアップTRiCERAが、所有アート作品を売却できるリセール機能を開始

          また、同社ではWeb3.0のアート事業以外にも、「100人10」という選ばれし100人のアーティストの作品を一律10万円で販売するアートコンペティションイベントも開催しています。「アート市場の活性化」を目的にアーティストとその購入者をつなぐ新しい形のこのコンペティションは、「現代アーティストの登竜門」との呼び声も高く、こうしたリアル空間での芸術活動の支援にも注目が集まっています。

          Magic Eden ── NFTマーケットプレイス運営

          出典:Metaverse Post

          注目すべきNFTスタートアップは国内のみならず、海外にも多数存在します。その中でも高い知名度を誇るのがMagic Edenです。同社は、主にSolanaチェーンを基盤にした人気のNFTマーケットプレイスで、ブロックチェーンゲームやデジタルアートのNFTを中心に取り扱っています。

          Solanaチェーンを利用したNFTマーケットプレイスは複数存在しますが、Magic Edenはその中で最大の取引規模を誇り、Solanaに絞ったNFT取引量ではOpenSeaを上回っています

          さらに、2022年に近年人気のブロックチェーンであるポリゴンのサポートを追加すると、2023年にはビットコインブロックチェーンのNFTとされる「Ordinals」やイーサリアムNFT発行プラットフォーム「ETHローンチパッド」 の運用も開始。複数のブロックチェーンシステムにその裾野を拡大し、クリエイターのクロスチェーンに進出を後押ししています。

          また、2024年6月にはウォレットアプリケーション「Magic Eden Wallet」のiOS版をテストリリースしました。これまでもChromeの拡張機能としてPC版のMagic Eden Walletを存在しましたが、モバイル端末からアクセス可能なウォレットが登場することで、より手軽に単一のクロスチェーンウォレットとして使用することができるようになります

          すでに巨大なマーケットとして快進撃を見せているMagic Edenには今後も目を離せません。

          Anifie ── NFTメタバース開発

          出典:PR TIMES

          Anifie法曹界出身の岩崎洋平氏が代表取締役を務める異色の米国発スタートアップです。

          同社が提供するサービス上では、主催者がオリジナルのコンサート会場を仮想空間につくり、参加者達は自身が選んだアバターで参加してイベントを楽しむといった世界を実現することができます。

          また岩崎氏は自身のキャリアを生かし、デジタル資産に関する法規制にうまく対応するサービスを展開。コレクション要素だけではなく、資産としてその希少性を高め、運用によって収益化するといったNFTのマネタイズの活性化を図っています。

          グラミー賞受賞作を手がけた映像プロデューサーのJohn Oetjen氏や、アメリカの大人気連続ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」の作曲を手がけたPatrick Woodland氏らハリウッドの重鎮もAnifieへの支援を表明しており、その期待の大きさがうかがえます。

          まとめ

          今回は、クリプト界隈を盛り上げるNFT日本国内外のNFT関連スタートアップ企業を8つピックアップし、その魅力や事業内容などをご紹介しました。

          アートやマーケットプレイス、メタバースなどの様々な領域にNFTを活用し、新たな市場を切り開いていくスタートアップ企業の勢いは、今後もとどまることを知りません。今後も定期的なキャッチアップが欠かせないでしょう。

          メタバースとは?Web3.0との関係性・違いをわかりやすく解説!

          “メタバース” についての話題に触れる際に ”Web3.0” というワードが登場する機会は多く、また逆も然りではないでしょうか。本記事ではこれらメタバース(仮想現実)とWeb3.0(分散型インターネット)についてそれぞれ解説し、さらにこの2つの関係性や現状の課題、そしてWeb3.0における代表的なメタバースの事例をご紹介していきます。

          メタバースとは?

          出典:Pixabay

          メタバース=インターネット上に作られた3Dの仮想空間

          メタバースとはざっくりいってしまえばインターネット上に作られた3Dの仮想空間のことです。一般的には「アバター(操作キャラクター)が自由に活動できる仮想空間サービス」として捉えられることが多いかと思います。

          「もう一つの宇宙や別世界」を意味する「メタバース(Metaverse)」という言葉自体は「超える」 という意味の「メタ(meta)」と「宇宙」 を表す「ユニバース(universe)」という2つの単語を組み合わせて生まれました。

          コンシューマー向けゲームを通じてすでに概念として存在していたメタバースですが、近年のVR/AR技術の向上によって「より現実に近い(リアリティの高い)仮想空間」が作られるようになってきました

          メタバースはインターネット上に存在する3Dの仮想空間を指す言葉であるため、原義的にはVR機器の有無に関係なく利用できるものの、近年ではVRを「メタバースをよりリアルな感覚で楽しむための手段」として活用しているケースも多々あり、両者の距離感はかなり近しくなってきています。

          メタバースというキーワードから想像しづらいかも知れませんが、駅広告やテレビCMでも活躍するVTuberも、メタバースの在り方の1つと呼べるでしょう。また、3Dの仮想空間という意味においては、個性豊かな動物たちが暮らす村でプレイヤー自身が生活していく任天堂の大人気ゲームあつまれどうぶつの森や、全世界で1億4千万人以上がプレイするモンスターゲームMinecraft(マインクラフト)といったゲームも、メタバースの一種といえます。

          仮想空間のクオリティ向上や、このあとご紹介する様々な新しい技術と連携することにより、メタバースは単なるゲームの範疇を超えてWeb3.0(次世代の分散型インターネット)において重要な役割を果たすようになります。

          メタバースは全世界から注目を集めている

          出典:BLOCKCHAIN MAGAGINE

          近年、「メタバース」というワードがSNS上のみならず、テレビのニュースでもとりあげられる機会が増えています。そのなかでも、2021年10月には多くの人々にとって馴染み深いFacebookが社名を「Meta(メタ)」に変えたことが大きな話題となり、「メタバース」に注目が集まるきっかけの一つとなりました。

          「Facebook、社名を「メタ」に変更 仮想空間に注力」

          また、新型コロナウイルスの流行を経て、Zoomを筆頭とするオンラインMTGが一般的なものとなりました。こうしたバーチャルでのコミュニケーションに対する心理的ハードルが大きく引き下がったことも、人々が「メタバース」に興味をもつようになった要因の一つと考えられます。

          さらに今後は、ソーシャルメディアにおいてもメタバースが当たり前の存在になるかもしれません。というのも、2023年にYouTubeの新CEOに就任したニール・モーハン氏は、過去にこのようなコメントを残しています。

          最後に、YouTube の将来を語るうえでメタバースに触れないわけにはいきません。より没入感の高い視聴体験をどうすれば提供できるかを考えています。まず、ゲームにこれを適用しようと考えています。ゲームにもっとインタラクションを持たせ、よりリアルな体感を導入することを目指します。まだ始まったばかりですが、YouTube としてどのような方法で仮想世界を視聴者のリアルな体験へと変換できるか、とても楽しみにしています。

          出典:日本版Youtube公式ブログ

          このことからも、私たちにとって最も身近なアプリケーションの一つであるYouTubeでも今後、web3分野が発展していくと予想されます。

          2030年には世界で1.5兆米ドル(約200兆円)を超える規模の市場になるとの見通しもあるメタバースですが、なぜここまで注目されているのでしょうか。Web3.0とメタバースの関係性を紐解く前に、そもそもWeb3.0とは一体どのようなものなのかについて次項で詳しく解説していきます。

          Web3.0とは?

          出典:pixabay

          Web3.0を解説するにあたり、これまでのWebがどのようにして進歩してきたかを以下の3つの時代に分けて解説します。

          1. Web1.0:1995年~(ホームページ時代)
          2. Web2.0:2005年~(SNS時代)
          3. Web3.0:これから(分散型インターネットの時代)

          Web1.0(ホームページ時代)

          Web1.0時代は、Yahoo!やGoogle、MSNサーチなどの検索エンジンが登場し始めた時期で、Webがまだ一方通行であった時代です。ウェブデザイナーのDarci DiNucci氏が1999年に、進化の段階を区別するためにWeb1.0とWeb2.0という呼び方を用いました。

          ウェブサイトは1990年代初めに静的HTMLのページを利用して作られ、個人が「ホームページ」を持ち情報を発信するという文化もこの時代から生まれました。ただし、インターネットの接続速度も非常に低速であり画像を1枚表示するだけでも時間がかかりました。

          また、閲覧できる情報は情報作成者によってのみ管理されるため、閲覧ユーザーがデータを編集することはできません。こうした特徴からweb1.0は一方向性の時代とも呼ばれます。

          Web2.0(SNS時代)

          Web2.0時代になるとYouTube、Twitter、InstagramなどのSNSが登場し、誰もが発信者となりました。Web1.0時代が「一方向性の時代」とされたのに対し、Web2.0時代は様々な人との双方向の情報のやり取りができるようになったのです。

          また、Google、Amazon、Facebook、AppleといったいわゆるGAFAと呼ばれるプラットフォームサービスが大きく躍進し、巨大テック企業となっていった時代でもあります。

          一方で、個人情報がGAFAのような特定の企業へ集中することによる個人のプライバシー侵害の可能性が問題視されています。一部の大企業に集まる情報には、住所や年齢、性別など基本的な個人情報だけでなく、個人の嗜好や行動履歴までもが含まれ、それらが利用できる状態になっているからです。

          また、中央集権型の情報管理はサイバー攻撃を受けやすく、多くのユーザーに影響を及ぼす危険性があるという点も指摘されています。

          2018年には「Facebook」が5000万人超のユーザー情報を外部に流出。また、2019年には「Amazon」が他の利用者の氏名や住所、注文履歴などが誤表示されて約11万アカウントのプライバシーが流出。さらには2022年には、「Twitter」の利用者およそ2億3000万人分の個人情報が流出するなど、実際にセキュリティ上のリスクが露見した例もあります。

          Web3.0(分散型インターネットの時代)

          冒頭でも述べたように、Web3.0とは次世代の分散型インターネットのことを指します。さらに言うとGAFAやその他巨大テック企業へ個人情報が集中している現状から、次世代テクノロジーを活用して情報を分散管理することで、巨大企業に情報が集中しない新しい形の情報管理のあり方として期待されているのがWeb3.0の概念です。

          特定企業へ個人情報が集中していることによるリスクは前項でご説明したとおりで、2021年以降、特定企業へ集中した情報を分散しようとする動きが活発化しています。

          Web3.0とメタバースの関係性

          出典:Pixabay

          メタバースはWeb3.0における「受け皿」

          Web3.0はブロックチェーンという基盤技術の上に成り立っており、仮想通貨はWeb3.0における文字通り「お金」の役割を果たします。そして、現実世界の金融サービスはWeb3.0ではDeFi(分散型金融)によって置き換えられ、NFT(非代替性トークン)がWeb3.0におけるデジタル資産の所有権を明確にします。また、Web3.0では従来までの会社組織がDAO(分散型自律組織)という形態をとるようになると予想されています。

          これら全てを包括する「3Dの仮想空間(受け皿)」がまさにメタバースというわけです。

          Web3.0と呼ばれる様々な技術と連携すれば、メタバースはインターネット上に作られた3Dの仮想空間」にとどまらず「現実世界と同じように遊んだり、仕事や取引をしたり、何かを創って交流したりする仮想世界」となる大きな可能性を秘めています。

          Web3.0の要素が含まれないメタバースも存在する

          ここで重要なことは「メタバース=Web3.0」と安易な等式を立てないことです。先述したように、今後メタバースにおいてWeb3関連技術の受け皿となっていくことでしょう。

          しかし、これらの技術やサービスがなければメタバースが構築できないというわけではありません。ブロックチェーンやNFTといった技術を用いていなくても、利用できるメタバースサービスも多数存在します。

          メタバースは「インターネット上に作られた3Dの仮想空間」程度の曖昧な概念であり、統一された定義はありません。したがって、現段階においてはWeb3.0の技術とメタバースは全く別物であり、「相性が良い」という事実、それ以上でもそれ以下でもありません。

          たとえば住宅展示場のメタバースといった分野においては、Web3の要素が含まれないメタバースも普及していくと思われます。むしろこういったメタバースにおいて、NFTを発行したり、ブロックチェーンを用いたりしてしまうと、かえって無駄なコストが発生してしまいます。

          Web3.0においてメタバースが注目されている理由

          出典:Unsplash

          不正や改ざんを防止できる

          ブロックチェーン技術を用いることで、メタバース内で取引される通貨やモノの管理が簡単になります。ブロックチェーンは分散型のデータベース技術で、取引データや情報をブロック単位で記録し、これを連鎖的に接続することで改ざんが極めて困難になる仕組みです。データは複数のコンピュータ(ノード)に分散して保存され、全てのノードが同じデータを持つため、信頼性が高く、データの整合性を確保することができます。

          Web3.0以前のメタバースでは、違法な複製やチートと呼ばれるデータの改ざん行為など、コミュニティの違反を完全になくすことはほぼ不可能でした。こういった不正が横行すると、運営会社に金銭的なダメージがあるだけでなく、公平なプレイ環境が提供できなくなったり、ユーザー離れを引き起こしたりします。

          ブロックチェーンを活用したメタバースであれば、独自のアルゴリズムによってそもそも不正な改ざんを行うこと自体が不可能になります。

          また、ゲーム内のデジタルアセットをブロックチェーン上で管理すれば、マーケットの拡大も可能です。なぜならそのデータが世界で唯一であることを証明でき、複製することが難しくなるため、限定アイテムなどが文字通り「限定」の価値が持てるからです。このアイデア自体はすでにNFTで具現化されています。

          このようにメタバース内の経済活動を加速するうえで、不正や改ざんを防止できるWeb3.0の技術は重要な存在だと考えられています。

          プレイヤーがメタバース内で収益を上げられる

          メタバースゲームのメリットとして、プレイヤー自身がゲームのプレイにより収益を得られることが挙げられます。従来のメタバースゲームでは、ゲーム内でしか価値がないものでした。

          しかしWeb3.0でのメタバースでは、ゲーム内通貨に仮想通貨を用いることでゲームをしながら稼ぐという「Play to Earn(P2E)」が可能になりました

          また、ゲーム内に構築された土地も、売買や賃貸の対象になります。後述の事例でも紹介しますが、メタバース内の土地であっても取引されているメタバースも存在します。

          また、メタバース内で入手したキャラクターやアイテムなどは、互換性のある他のゲームで使用できます。これは、NFTが持つ「データそのものは、特定のブロックチェーンプラットフォームに依存せず、所有者自身で管理できる」という特徴によるものです。

          これによりユーザーは、運営会社の倒産やサービス終了に伴うデータ喪失という最悪の事態を回避することができます。

          ビジネスチャンスが広がる

          最近では企業がメタバース上でPRイベントや、コレクションを開催することも増えてきました。とくにコロナ禍以降でその数は大きく増えたように感じます。イベントを開催するにあたって、分散型のネットワークで構築されたメタバースを利用すれば、企業の最大の懸念点である個人情報管理・セキュリティの面が解消されます。

          また、NFTの発行によってブランドのファンとのコミュニティを形成するなど、リアルではなかなか接点を持てなかった人とつながることができます。メタバース空間だからこそ実現できるコラボレーションや仕掛けづくりによって、現実世界におけるマーケティングよりも高い対費用効果を発揮できるでしょう。

          Web3.0におけるメタバースの現状の課題

          出典:Unsplash

          ハード面の強化

          Web3.0におけるメタバースの活用が普及するためには、ハード面の強化が必要不可欠です。具体的にはVR機器の小型軽量化描写スペック向上です。

          バーチャルの世界でより多くの時間を過ごすためには、より没入的で自然で表現豊かなVR機器が必要となります。現状のVR機器を数時間装着し続けるには、重さ、大きさともにまだまだ改良の余地があります。また、より高速通信ができ高画質で仮想世界を描くことのできる機器スペックも、今後さらに高いレベルで要求されることが予想できます。

          2021年10月に社名を変更したMeta社(旧Facebook)が大量の資金を投入するなど社運をかけて推進しているのもまさにこのハード面です。同社は自社製品のQuestシリーズにすさまじい金額の投資をしています。このことからiPhoneやMacBookのような自社デバイスを普及させてこの課題を解決したいという思惑が読み取れます。

          魅力的なコンテンツの充実

          メタバースの普及にはハードウェアの進化のみならず、コンテンツの充実も不可欠です。現時点で、この分野にはいくつかの重要な問題点があります。

          まず、メタバースの中で魅力的なコンテンツを提供するためには、クリエイティブな人材の確保が重要です。日本には漫画やアニメ、ゲームなどの優れたコンテンツを作ることのできる多くのクリエイターがいます。しかし、先述の通り技術的なハードルやリソースの制約が存在し、多くのクリエイターがメタバースへの参入をためらっています。これを解決するためには、技術支援や資金援助などのサポート体制を強化することが求められます。

          さらに、メタバース内でのコンテンツの多様性も大きな課題です。ユーザーのニーズは非常に多様であり、それに応えるためには様々なジャンルやテーマのコンテンツが必要です。日本は世界的に評価の高い作品を数多く持っており、これらをメタバース内で効果的に展開することが可能です。しかし、既存のコンテンツをそのままメタバースに移行するだけでは不十分であり、新しい体験やインタラクティブな要素を取り入れた、独自のメタバース向けコンテンツの開発が必要です。

          加えて、メタバース内のコンテンツの持続可能性も考慮する必要があります。クリエイターが継続的に魅力的なコンテンツを提供し続けるためには、適切な収益モデルが不可欠です。こうした、メタバースにおける経済圏の整備クリエイターが安定して収益を上げられる仕組みの構築は急務といえるでしょう。

          メタバースの様々な事例

          Second Life(セカンドライフ)

          出典:gemelog.com

          Second Life(セカンドライフ)は2003年にリリースされた元祖メタバースとも言えるサービスで、プレイヤーは3D仮想空間で自分のアバターを作り、他の参加者とコミュニケーションをとることができます。

          Web3.0の文脈でメタバースが注目されるようになったのは2021年頃ですが、それよりもなんと約20年前にメタバースの概念自体は既に存在していたのです。

          しかしSecond Lifeのプレイ人口は下降の一途を辿り衰退してしまいます。その要因は「画質が悪く没入感が乏しい」「パソコンの要求スペックが高すぎる」などいくつかが挙げられますが、最大の要因は「そこで何もすることがないこと」でした。

          つまり、前項で挙げたハードとソフトのどちらにおいても不十分だったため、メタバースの成功事例とはいえない結果に終わり、日本では「早すぎたメタバース」という負のイメージがついてしまいました。

          同サービスは、現在もコアユーザーによる取引が続いていたり、モバイル版の開発が発表されたりと、サービスは継続中のため、今後の展開次第では再び盛り上がりを見せるかもしれません。「元祖メタバース」の動向については続報が待たれます。

          元祖メタバースの『セカンドライフ』、モバイル版が開発中。デスクトップ版の資産は引き継げる見通し | テクノエッジ TechnoEdge

          Fortnite(フォートナイト)

          出典:fn-games.com

          Fortnite(フォートナイト)はエピックゲームズ社が開発・発売している、2023年時点で約5億人のユーザーを誇る大人気バトルロワイヤルゲームです。

          リリース当初のプレイヤー達はゲームそのものを楽しむためにFortniteを利用していましたが、その後はコミュニケーションの場として利用され始め、今では単なるゲームではなくメタバースへと変貌を遂げています。

          Fortniteのメタバースでは特設ステージでのライブや映画の上映会などのイベントも開催され、ゲームをするのではなく、そこに行って友人や他のプレイヤーと交流を深めることを目的としたユーザーも非常に多くなっています。

          有名な事例としては、2020年8月に、米津玄師が日本人として初めて行なったバーチャル公演があります。仮想空間でのライブという斬新なパフォーマンスは、国内外のメディアでも数多く取り上げられ、話題になりました。

          2023年7月にはフル映像がYouTube上にアップされて再び脚光を浴びています。

          Fortniteのメタバースが持っている最大の強みは、ゲームとしての開発環境をそのままメタバースの開発環境に転用できる点です。

          Fortniteはもともと、自分だけのオリジナルマップを作れる「クリエイティブモード」が存在しました。この仕組みやデータがメタバース内のエディター上でも使用できるため、ユーザーは過去のアセットを利用して、いとも簡単にマルチプレイ環境を構築できます。

          柔軟な開発環境と豊富な素材、そして直感的な操作を兼ね備えたサービスであるFortniteは、現在最も成功を収めているメタバースといえるでしょう。

          Decentraland(ディセントラランド)

          出典:Decentraland

          Decentraland(ディセントラランド)は、イーサリアムブロックチェーンをベースとしたVRプラットフォームで、メタバース内でゲームをしたりアイテムやコンテンツを作成・売買することが可能です。

          Decentralandでは「LAND」というメタバース内の土地を保有・マネタイズできる点や、NFT化したアイテムをメタバース内で取引できる点が特徴です。

          ゲーム開発の経験がない人でも簡単にゲームやアイテムを作成できるようなクリエイター機能が充実しているため、新規ユーザー参入のハードルも低め。デザイン性に優れたプラットフォームのため、ファッション関係のイベントも多数実施されています

          また、Second LifeやFortniteでは中央集権的な組織運営によってコンテンツが提供されているのに対し、Decentralandはブロックチェーンを基盤にした分散型のメタバースとなっています。

          Decentralandではユーザー自身が何を構築しどう使うのかを主体的に決定していくことを基本方針としており、これはまさにWeb3.0の概念と通ずるものがあります。Decentralandは最先端のメタバース事例の一つとして今後も注目です。

          The Sandbox(ザ・サンドボックス)

          出典:METAVERSE POST

          The Sandbox(ザ・サンドボックス)は、イーサリアムのブロックチェーン上で提供されているNFTゲームです。ユーザーは仮想空間上にLAND(土地)を購入またはレンタルをすることで、オリジナルのゲームやアイテム、キャラクター、サービスを作成できます。

          施設などを一定期間貸し出すことで、現実の不動産ビジネスと似たような形態で収益を得ることも可能なため、「遊んで稼げる」メタバースであり、プログラミング不要で3Dゲームが作成できるツールなども用意されており、高度なスキルがなくともマーケットプレイスへ出品することができます。

          パリス・ヒルトンやドラゴンボール、北斗の拳といったユニークなコラボで注目を浴びているThe Sandboxですが、LANDは発行数量に上限があることから、ユーザー数の増加に伴ってその価格は上昇すると予想されています。

          さらには、2023年2月にはサウジアラビアのデジタル政府機関との連携も発表しており、今後の活躍が期待される大注目のプロジェクトです。

          The Sandbox、サウジアラビアとメタバースで提携 SAND高騰

          αU(アルファユー)

          日本の大手通信会社であるKDDIも、メタバース事業に積極的に参入しています。同社が提供する「αU(アルファユー)」は、 “もう、ひとつの世界。” をコンセプトに、リアルとバーチャルを融合させた新しい体験を提供するメタバースプラットフォームです。

          αUでは、ユーザーがコンテンツを制作・販売したり、ライブ配信を行ったりすることで収益を得られる仕組みを提供し、クリエイターエコノミーの創出を支援しています。また、360度自由視点の高精細な映像で音楽ライブなどを楽しめる「αU live」では、まるで本当にライブ会場にいるような臨場感を味わえます。さらに、実店舗と連動したバーチャル店舗でショッピングができる「αU place」など、新しい購買体験も提供しています。

          KDDIは、「バーチャル渋谷」や「デジタルツイン渋谷」といった都市連動型メタバースの開発にも取り組んでおり、現実の都市空間と仮想空間を融合させた新しいサービスを展開しています。αUは、エンターテイメント、ショッピング、コミュニケーションなど、多様な体験を提供することで、ユーザーの日常をより豊かにすることを目指しています。

          NISSAN CROSSING(ニッサン・クロッシング)

          出典:日産自動車

          自動車業界からも、メタバースを活用したユニークな取り組みが生まれています。日産自動車は、銀座にある同社のブランド発信拠点「NISSAN CROSSING」をメタバース空間上に再現したVRギャラリーを公開し、現実とバーチャルの融合を実現しました。

          このVRギャラリーでは、実物の「NISSAN CROSSING」と同様に、日産の最新車種やコンセプトカーを展示し、自由に見て回ることができます。VR空間ならではのインタラクティブな要素も取り入れられており、例えば、車のドアを開けて内装を確認したり、カラーバリエーションを自由に切り替えたりといった体験が可能です。ユーザーは場所に捉われず、より深く日産ブランドを体験することができます。

          さらに、日産はVRギャラリー内で、期間限定のイベントや展示なども開催しています。過去にはBEAMSとコラボレーションした特別仕様車「ビームスエディション」の展示や、フォトコンテストなどが行われ、ユーザーの関心を継続的に惹きつけ、VRギャラリーの活性化を図っています。

          日産自動車は、VRギャラリー「NISSAN CROSSING」を通じて、メタバース上での新しいブランド体験を提供し、顧客とのエンゲージメントを強化することに成功しています。

          Sanrio Virtual Festival(サンリオ・バーチャルフェスティバル)

          エンターテイメント業界でも、メタバースは新たな可能性を広げています。サンリオは、世界中のファンが参加できるバーチャルイベント「SANRIO Virtual Festival」を定期的に開催し、テーマパークとカルチャーを融合させた全く新しいエンターテイメント空間を提供しています。

          「SANRIO Virtual Festival」は、世界中のファンが、場所や時間に縛られずに参加できるバーチャルイベントとして開催されています。VR技術を活用することで、サンリオの世界観に没入できるような、臨場感あふれる体験を提供しているのが大きな特徴で、参加者同士が交流できるインタラクティブなコンテンツも充実。ライブパフォーマンスやゲームなどを一緒に楽しむことができます。

          2025年の「Sanrio Virtual Festival」では、“コラボレーション”をテーマにさらにパワーアップした内容が発表されており、バーチャル上に再現された「サンリオピューロランド」を舞台に、人気アーティストやクリエイター、そして歴代のサンリオキャラクターが集結し、多彩なプログラムを展開します。

          物理的な距離や時間の制約を超えて世界中のファンが集えるこのメタバースイベントは2024年に総来場数が400万人を超える盛況ぶりを記録し、2025年のさらなる発展が期待されています。

          まとめ

          本記事では、Web3.0(次世代の分散型インターネット)とメタバース(仮想現実)それぞれの概要と、この2つの関係性について解説してきました。

          VR機器の小型軽量化や描写スペック向上、そしてコンテンツの充実が進めば、Web3.0におけるメタバースの重要性はさらに増していくことでしょう。

          仮想空間でのコミュニケーションは漫画の世界のことのようですが、技術レベルではすでに実現可能なものになっています。さらなるサービス登場に期待が高まります。

          ブロックチェーンが実現するトレーサビリティとは?事例も紹介!

          食の安全、環境問題、倫理的な消費… これらの課題解決に欠かせない「トレーサビリティ」。従来の方法では、複雑なサプライチェーンの中で情報が断絶され、透明性を確保することが困難でした。しかし、ブロックチェーン技術の登場により、その状況は変わりつつあります。

          本記事では、「トレーサビリティとはそもそも何か?」「ブロックチェーンとは何か?」「具体的にどんな事例があるのか?」といった点について解説していきます。

            ブロックチェーンとは?

            出典:shutterstock

            そもそもブロックチェーンはどういった技術なのでしょうか?ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。ブロックチェーンは知らずとも、ビットコインの名前はほとんどの方が一度は聞いたことがあると思います。

            ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種でありながら、特にデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

            ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っていました。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

            これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません。また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

            さらにブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値ナンスといった要素によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

            ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

            新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

            また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出す行為を「マイニング」といい、最初にマイニングを成功させた人に新しいブロックを追加する権利が与えられます。

            ブロックチェーンではマイニングなどを通じてノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持つことで、データベースのような管理者を介在せずに、データが共有できる仕組みを構築しています。参加者の立場がフラット(=非中央集権型)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

            こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

            詳しくは以下の記事でも解説しています。

            ブロックチェーン技術を応用したトレーサビリティ

            前述の通り、2008年にビットコインを支える中核技術として誕生したブロックチェーンは当初、ビットコインやイーサリアムを始めとする仮想通貨や、トークン技術を使った資金調達方法であるICOなどのいわゆる「フィンテック(金融領域での技術応用)」が大きな注目を集めてきました。

            しかし近年、ブロックチェーンの本質である「安全性が高く、分散的で、コストが低い」という特長から、金融領域よりもむしろ非金融領域における産業応用に大きな期待が寄せられています

            その中でも、商品の生産と物流に関わる業界、とりわけ食品を中心とした消費財のメーカーや流通業者にとって、ブロックチェーンはもはや「なくてはならない」技術だといえるでしょう。

            同業界では、従来、サプライチェーン・マネジメント(ある商品の企画から消費に至るまでの商流の管理や最適化)の重要性が叫ばれ続けていながらも、商流に関わるステークホルダー(利害関係者)の種類や数が多すぎること、それらのつながりが前後の工程間で分断されていることなどを原因に、最も重要な要素である「データ」をほとんどうまく活用できませんでした。

            出典:ビジネス+IT「サプライチェーンマネジメント(SCM)とは何か? 基礎からわかる
            仕組みと導入方法」

            こうした状況を打破する突破口として現在、多くの企業が取り組んでいるのがトレーサビリティと呼ばれる分野に対するブロックチェーン技術の応用です。

            例えば、日本IBMは約20の製薬企業や医療機関で構成されるコンソーシアム「ヘルスケア・ブロックチェーン・コラボレーション(HBC)」と共同でブロックチェーン技術を活用して医薬品の流通経路と在庫の可視化に着手し、トレーサビリティを中心としたサプライチェーンの最適化を図っています(詳しくは記事後半で紹介)。

            日本IBM、医薬品流通経路および在庫を可視化するプラットフォームの運用検証を開始

            そしてこうした取り組みを契機に、不正取引の防止、偽造品の流通阻止、リコールの合理化、盗品の販売・所有の取締りといった製造・流通・小売業界がこれまで抱えていたサプライチェーン・マネジメント上の諸問題が解決に向かっているのです。

            したがって、ブロックチェーン技術のトレーサビリティへの応用は2025年に大きく注目されているビジネストピックだといえるでしょう。

            トレーサビリティ=トレース(追跡)+アビリティ(能力)

            トレーサビリティ(Traceability、追跡可能性)とは、トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせた造語で、ある商品が生産されてから消費者の手元に至るまで、その商品が「いつ、どんな状態にあったか」が把握可能な状態のことを指す言葉です。

            トレーサビリティは、サプライチェーン(製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの全体の一連の流れ)のマネジメント要素の一つと考えられており、主に自動車や電子部品、食品、医薬品など、消費財の製造業で注目されています。

            トレーサビリティは、「サプライチェーンの上流工程(企画や開発など製品の”起こり”のプロセス)と下流工程(販売や消費など製品の”終わり”のプロセス)のどちらに向かって追跡するか」によって、次の2つの要素に分けることができます。

            • 上流工程→下流工程へと追跡:「トレースフォワード(追跡+前)
            • 下流工程→上流工程へと遡及:「トレースバック(追跡+後)

            例えば、食品業界のサプライチェーンにおいて、流通段階で食品に関する問題が発覚したとしましょう。この場合、問題食品に関わる事業者は、まず、その問題食品のルートを追跡して商品を回収する必要があります。また、次に、同じ問題が起こらないように問題食品のルートを遡及して原因を究明する必要もあります。

            出典:農林水産省「トレーサビリティ関係」

            このように、「ある製品がどこに行ったか」を下流工程に向かって追跡することを「トレースフォワード」、「ある製品がどこでどのように生まれたか」を上流工程に向かって訴求することを「トレースバック」といいます。サプライチェーンマネジメントにおいてトレーサビリティを十分に担保するためには、この「トレースフォワード」と「トレースバック」の両方の要素が満たされていなければなりません。

            なぜ、トレーサビリティが重要か?

            トレーサビリティは、大きく次の2つの観点から、サプライチェーンマネジメントにおいて重要視されています。

            • 消費者保護
            • ブランド保護

            一つ目は、消費者保護の観点です。トレーサビリティが担保されることで、消費者は、「その商品を買っても大丈夫かどうか」を客観的な情報から判断することが可能になり、安心して消費行動を行うことができます。

            例えば、スーパーマーケットで今晩の食材を選んでいるシーンを想像してみましょう。久しぶりにお刺身を食べたいと思ったあなたは、生鮮食品コーナーでパック詰めされた魚介類を物色しています。ここで、私たちは必ず、パックの表面に貼られた食品表示のシールを眺め、「そのお魚がどこで獲られ、鮮度はどのくらいなのか」といった情報を読み取ります。

            出典:新潟市「食品表示法による表示について(新法に基づく表記)」

            この行動によって、直接自分で獲ったわけではなくとも、その食材を食べても健康に被害が生じないであろうと、信用することができます。逆に、もし食品表示がされていなかったとしたら、私たちは安心してその食材を買うことができません。つまり、食品表示は、消費者や消費行動を保護するために義務付けられているのです。

            そして、この食品表示は「その食材が、いつ、どこで、誰によって調達され、どうやって運ばれてきたのか」といった物流の履歴情報を把握すること、すなわちトレーサビリティを確保すことによって可能になっています。

            この例のように、トレーサビリティは、商品情報の開示に役立つという点で、消費者保護に一役(どころか何役も)買っているといえるでしょう。

            二つ目は、ブランド保護の観点です。先ほど述べたように、消費者は、商品そのものの品質だけではなく、その商品(や商品に関わる企業)に対する「信用」に対してもお金を払っています。こうした、商品や企業活動のあり方に対するイメージに基づいた信用のことを「ブランド」と言います。

            消費者は、信用度が高い商品、つまりブランドのある商品には多くのお金を払ってくれますが、逆に信用が落ちた商品、つまりブランドのなくなった商品にはお金を払ってくれなくなります。したがって、企業が長く自社商品から利益を得続けるためには、自社のブランドを高め、維持し続けていく必要があります。

            しかし、逆にこうした消費者の心理をうまくついて、ブランド品そっくりの偽造品をつくるなどの手口で、一時的に利益を稼いでいる業者も少なくありません。偽造品が市場に大量に出回ってしまうと、需要と供給のバランスが崩れることによる値崩れだけではなく、品質の悪い粗悪品を消費者が手にしてしまうことにより信用が低下し、ブランドが毀損してしまいます。そのため、企業はそうした偽造品などによる外部攻撃から、うまく自社ブランドを守っていかなければなりません。

            トレーサビリティは、こうした「偽造品対策」の一環としても、強く意識していく必要があるキーワードといえるでしょう。

            トレーサビリティの課題に対するブロックチェーンの適用可能性

            ブロックチェーン技術の概要について見てきたところで、「同技術はどのような観点からトレーサビリティの実現へと応用されているのか?」という問題の核心に迫っていきましょう。この問いには、サプライチェーンにおいてトレーサビリティの障害となる3つの課題がかかわっています。

            1. 協業企業間でデータ連携するインセンティブがない(リーダーシップの不在)
            2. 関わるプレイヤーが多すぎて非効率である(コストの高さ)
            3. そもそも情報に嘘や誤りが多い(情報の正確性)

            ブロックチェーンは、これらの課題を同時に解決できる技術として、製造・小売業界におけるサプライチェーン・マネジメントで注目されているのです。それぞれの課題について、順に解説します。

            トレーサビリティの課題①:リーダーシップの不在

            まず、一つ目の課題は「リーダーシップの不在」です。

            トレーサビリティを担保するためには、サプライチェーンの上流工程から下流工程に至るまで、協業企業同士が適切な形でデータ連携をし、チェーン全体を一つの「トレーサビリティ・システム」として定義しなおす必要があります。

            一方で、企業は一般的にサプライチェーン全体の利益ではなく、自社の利益のみに最適化したビジネス上のルールを設定し、各社のビジネスロジックに合わせた独自のシステム開発を行っています。そのため、いざデータ連携を行おうとしても、協業企業同士のルールやプロトコルの違いが大きな障害となってしまいます。この障害を乗り越えるためには、協業企業をうまくまとめるためのリーダーシップが必要です。

            しかし、部分最適化をはかっている企業間の先導役をある企業が担うことは、その企業にとっての短期的な損失を意味することが多く、したがって、短期的にはリーダーシップを発揮するインセンティブが少ないと考えられます。

            トレーサビリティの課題②:コストの高さ

            2つ目の課題は、「コストの高さ」です。

            通常、サプライチェーン上には、非常に数多くのプレイヤーが存在しています。そのため、協業企業間でのデータ連携を行うにあたってはプレイヤーの数だけネットワークが複雑になることで、データの参照コストやシステムの管理コストが莫大な規模に膨れ上がってしまいます

            業界全体で共有できるトレーサビリティ・システムをつくるためには、こうしたデータ連携にかかるコストをいかに抑えていくか、が大きな課題となります。

            トレーサビリティの課題③:情報の正確性

            3つ目の課題は、「情報の正確性」です。

            製造~小売に至るサプライチェーン上には、莫大な種類・量の商品を取り扱うための無数の工程が存在しています。さらに、それらすべての工程はサプライチェーンに関わる数多くの人間によって行われており、工程を経る度に商品の情報履歴は幾何級数的に積み重なっていきます。

            情報プロセスが複雑化するにつれて商品の情報履歴には改ざんや喪失のリスクはより大きくなっていくため、消費者と企業のどちらにとっても信頼性の高いトレーサビリティ・システムを構築するには、こうした情報自体の正確性をいかに担保していくかが肝になります。

            ブロックチェーンの適用によるサプライチェーン・マネジメント事例

            ブロックチェーンのトレーサビリティへの応用には、SCMにとって様々なメリットがあります。
            すでに各地で実現が進んでいる例には、下記のようなユースケースがあります。

            • 不正取引の防止
            • 偽造品の流通阻止
            • リコールの合理化
            • 盗品の販売・所有の取締り

            商品のみならず、製造元や流通業者、購入者や所有者にいたるまで、一連のデータの信頼性を担保することのできるブロックチェーンの性質を生かすことで、実態の伴わない不正取引を防止できることはもちろん、偽造品や海賊版対策としての真贋証明、あるいは盗まれた商品の位置を特定することまで可能です。

            また、不良品が発生してしまった場合にも、製造会社および小売業者が安全でない商品または欠陥部品のある商品を識別することが可能になります。これにより、リコール(設計・製造上の過誤などにより製品に欠陥があることが判明した場合に、法令の規定または製造者・販売者の判断で、無償修理・交換・返金・回収などの措置を行うこと)の合理化が可能です。

            すなわち、顧客の混乱やリコール費用の増加、リコール自体の状況報告など、商品の情報履歴を正確に追跡できない従来では難しかった対応が実現でき、例えば自動車会社や食品メーカー等への経営支援が期待されています。

            ここではブロックチェーンの導入によってサービスのトレーサビリティを実現している事例についてご紹介します。

            海外事例:ウォルマート × IBM

            出典:Forbes JAPAN

            ブロックチェーンのトレーサビリティ問題への応用事例として、2023年現在で最大級ともいえる規模で取り組んでいるのが。アメリカを拠点とする大手スーパーマーケットチェーン「ウォルマート(Walmart)」です。売上額で不動の世界一に君臨し続ける小売企業であり、その従業員数は200万人以上ともいわれています。

            そんな規格外のマーケットを持つ同社では世界中に調達経路を保有しているため、食品トレーサビリティの確保が困難になっていました。従来のシステムでは、仮に食中毒や異物混入といった問題が発生した際に原因や責任の所在を特定するための調達経路の追跡に時間がかかり、結果として商品の回収までに多くの手間とコストが発生していたのです。

            そうした状況で、ウォルマートは2016年という早い時期からブロックチェーンの実証実験を開始。マンゴーや豚肉といった商品のトレーサビリティの実現という結果を得ると、翌年にはIBMとも連携して本格的にブロックチェーンの導入に踏み切りました。

            IBMは食の信頼構築を目指す業界プラットフォーム「IFT : IBM Food Trust」というサービスを提供しており、ウォルマート社以外にも「カルフール」「ユニリーバ」「ネスレ」といった大企業が加盟しています。

            このサービスではサプライチェーンのあらゆる段階でトランザクションを記録して流通の透明性を確保し、食品業界が抱える食品安全リスクを低減させます。また、サプライチェーン全体でデータを共有・管理できるため、システムそのものを最適化してフードロスも最小限にできます。

            日本は欧米諸国と比べると、牛肉と米以外の食品のトレーサビリティ導入に法的な強制力がなく、食品トレーサビリティにおいてはかなり遅れをとっています。そういった面からも今後、政府による法的規制や国際競争力の低下といった影響を受けて国内の企業および生産者は対応に迫られる可能性が高いといえるでしょう。

            国内事例①:旭化成 × TIS

            出典:Pixabay

            食品トレーサビリティでは後塵を拝している日本ですが、国内では真贋証明などにブロックチェーンのトレーサビリティが応用されています。旭化成とTISが提供する「Akliteia(アクリティア)」では、旭化成が独自技術によって開発した「透明で偽造困難なラベル」を利用。工場から倉庫、店舗など、サプライチェーンの各拠点でスキャン認証をすることで、その製品が真正品であるかどうかを確認でき、正確な市場流通量を把握することが可能になります。

            当初は皮革製品・鞄などのアパレル業界向けに提供されていましたが、2023年4月には高級うにの正規品証明にも利用されるなど、その利用範囲は拡大しています。

            旭化成とTIS、ブロックチェーン「Corda」活用で「生うに」の偽造防止へ(あたらしい経済) – Yahoo!ニュース

            これは、サプライチェーン・マネジメントの中でも、特に「偽造品対策」にフォーカスした課題解決の方法として、ブロックチェーンによるトレーサビリティシステムを構築しようという事例です。

            国内事例②:ザ・ギンザ × トレードログ

            出典:ザ・ギンザ(THE GINZA) オフィシャルサイト

            資生堂のプレステージラインであるザ・ギンザではRFID/QRを利用した真贋証明に取り組んでいます。国外人気も高い同社の製品は、偽造品が出回ることも少なくありませんでした。そこで製品にRFIDとQRの二層タグを取り付け、流通経路をユーザーが簡単に把握できるようにすることで、正規品であるか否かがすぐに判別できる仕組みを実現しました。

            またユーザー自身が読み取ることでポイントを付与し、「ザ・ギンザ メンバーシップクラブ」内のステージに応じた特典が提供できる仕様となっており、トレードログ社が開発しているIoT 連携のブロックチェーンツールによって製品のトレーサビリティを通してマーケティングやユーザー体験の向上といったシームレスな顧客体験を実現しています。

            国内事例③:日本IBM × ヘルスケア・ブロックチェーン・コラボレーション

            出典:Pixabay

            ブロックチェーンを様々な領域で応用している日本IBMですが、医薬品のトレーサビリティにおいてもブロックチェーン活用の道を模索しています。同社は、2018年に設立されたコンソーシアム「ヘルスケア・ブロックチェーン・コラボレーション(HBC)」と共に、医薬品の流通経路と在庫の可視化を目指す取り組みを進めています。

            同社の発表によると、医薬品の適正な流通を確保するために医薬品卸や物流企業も協力し、新たな「医薬品データプラットフォーム」の構築を計画しています。製薬から医療機関への流れの可視化を目指し、2023年4月から運用検証が開始されます。

            医薬品流通経路および在庫を可視化するプラットフォームの運用検証を開始

            今回の取り組みには、既にHBCに参加していた塩野義製薬、武田薬品、田辺三菱製薬、ファイザーに加えて、新たに製薬5社、医薬品卸7社、物流会社4社が参加しており、製薬業界に留まらず、医薬品の製造から流通まで業界を横断して一貫したデータを共有し、医療機関における処方や調剤、投与の流れを見える化できるでしょう。

            さらに、地域医療の向上を目指し、医療機関での薬剤使用情報を活用する機能も開発される予定です。したがって、同プロジェクトは地域フォーミュラリ推進に貢献する一翼を担う期待のプロジェクトという側面もあります。医薬品のトレーサビリティが実現すれば、医薬品の適正流通在庫管理の効率化という新たな価値を医療分野にもたらすことでしょう。

            まとめ

            今回はブロックチェーンによって実現できるトレーサビリティについて解説しました。まだまだ国内におけるサプライチェーンの透明性を確保できている企業は多くはありません。しかし今後、日本においても諸外国のような法規制が導入されることは必然のことでしょう。

            トレーサビリティによって製品の情報をつまびらかにすることは、産業構造に対してこれまでと異なるインパクトを与え、クリーンな取引や二次流通マーケットの活性化といった副産物ももたらすと想定されます。ひと足先にブロックチェーンを導入し、自社の製品の流通経路を可視化して他社と差別化を図ってみてはいかがでしょうか。

            トレードログ株式会社は、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。弊社はコラム内で取り上げたザ・ギンザのプロジェクトにおいても技術支援を行っており、トレーサビリティ実現の経験も豊富です。

            ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。

            インターオペラビリティ(相互運用性)とは?ブロックチェーン同士を接続する新たな技術を解説!

            近年、ブロックチェーン技術に関して「インターオペラビリティ」という言葉を目にする機会が増えてきました。ブロックチェーンが持つ現状の課題と、「インターオペラビリティ」によって何が実現するのかを解説していきます!

              近年、浮かびあがるブロックチェーンの課題

              2009年にBitcoinが運用開始されて以来、Ethereum、Hyperledger Fabricなど様々なブロックチェーンプラットフォームが誕生しました。

              それに伴い暗号資産などの金融領域だけではなく、非金融領域においてもブロックチェーン技術が多方面で応用され始めています。

              特に近年では、物流や貿易などサプライチェーン・マネージメントにおけるトレーサビリティシステムへの活用など、ブロックチェーンに関する実証実験や実装が急速に進んでいます。

              しかし、そうした形でブロックチェーン利用の可能性が広がる一方で、ブロックチェーン技術自体に関わる根本的な課題も浮かび上がってきています。それは、異なるブロックチェーン間のデータのやり取りが困難(=インターオペラビリティがない状態)であるということです。

              異なるブロックチェーンにおいて、やり取りができないというのは一体どういった状況を指すのでしょうか。そのためには、そもそもブロックチェーンとはどういう仕組みで成り立っているのかから見ていく必要があります。

              次項ではブロックチェーンについて簡単に説明したあと、相互運用性について詳しく説明していきます。

              ブロックチェーンとは

              ブロックチェーン=正確な取引履歴を維持しようとする次世代データベース

              出典:shutterstock

              ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された暗号資産「ビットコイン」の中核技術として誕生しました。

              ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

              取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」といいますが、ブロックチェーンはそんなデータベースの一種です。その中でもとくにデータ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術となっています。

              ブロックチェーンにおけるデータの保存・管理方法は、従来のデータベースとは大きく異なります。これまでの中央集権的なデータベースでは、全てのデータが中央のサーバーに保存される構造を持っています。したがって、サーバー障害や通信障害によるサービス停止に弱く、ハッキングにあった場合に、大量のデータ流出やデータの整合性がとれなくなる可能性があります。

              これに対し、ブロックチェーンは各ノード(ネットワークに参加するデバイスやコンピュータ)がデータのコピーを持ち、分散して保存します。そのため、サーバー障害が起こりにくく、通信障害が発生したとしても正常に稼働しているノードだけでトランザクション(取引)が進むので、システム全体が停止することがありません

              また、データを管理している特定の機関が存在せず、権限が一箇所に集中していないので、ハッキングする場合には分散されたすべてのノードのデータにアクセスしなければいけません。そのため、外部からのハッキングに強いシステムといえます。

              ブロックチェーンでは分散管理の他にも、ハッシュ値と呼ばれる関数によっても高いセキュリティ性能を実現しています。

              ハッシュ値は、ハッシュ関数というアルゴリズムによって元のデータから求められる、一方向にしか変換できない不規則な文字列です。あるデータを何度ハッシュ化しても同じハッシュ値しか得られず、少しでもデータが変われば、それまでにあった値とは異なるハッシュ値が生成されるようになっています。

              新しいブロックを生成する際には必ず前のブロックのハッシュ値が記録されるため、誰かが改ざんを試みてハッシュ値が変わると、それ以降のブロックのハッシュ値も再計算して辻褄を合わせる必要があります。その再計算の最中も新しいブロックはどんどん追加されていくため、データを書き換えたり削除するのには、強力なマシンパワーやそれを支える電力が必要となり、現実的にはとても難しい仕組みとなっています

              また、ナンスは「number used once」の略で、特定のハッシュ値を生成するために使われる使い捨ての数値です。ブロックチェーンでは使い捨ての32ビットのナンス値に応じて、後続するブロックで使用するハッシュ値が変化します。

              コンピュータを使ってハッシュ関数にランダムなナンスを代入する計算を繰り返し、ある特定の条件を満たす正しいナンスを見つけ出します。この行為を「マイニング」といい、最初に正しいナンスを発見したマイナー(マイニングをする人)に新しいブロックを追加する権利が与えられます。ブロックチェーンではデータベースのような管理者を持たない代わりに、ノード間で取引情報をチェックして承認するメカニズム(コンセンサスアルゴリズム)を持っています。

              このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、ブロックチェーンは別名「分散型台帳」とも呼ばれています。

              こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、データの不正な書き換えや災害によるサーバーダウンなどに対する耐性が高く、安価なシステム利用コストやビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)といったメリットが実現しています。

              データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

              詳しくは以下の記事でも解説しています。

              異なるブロックチェーン間に相互運用性はない

              前述のように次世代のデータベースともいえるブロックチェーン技術には、BitcoinやEthereumをはじめとして非常に多くの種類の基盤があります。同じ種類のブロックチェーン間のデータのやりとり、例えばEthereumのウォレット(仮想通貨取引を行うための口座)から別のEthereumウォレットに対しては、手軽に送金をすることができます。

              しかし、EthereumをBitcoinのウォレットに送ることはできません。なぜなら、各ブロックチェーンネットワークは異なるルール・仕様に基づいており、それぞれに互換性がない状態となっているからです。これは、ブルーオーシャンだったブロックチェーン業界に、様々な企業が独自のプラットフォームをローンチしてしまったことが原因でしょう。

              これは、PCや携帯電話の歴史においても見られた事象です。各メーカー個別のプラットフォームでデバイスを作った結果、相互に互換性がなくなり、アプリケーションはそれぞれの機種ごとに作らなければいけなくなりました。このことはまさに、現在のブロックチェーンの置かれている状況と似ているかと思います。

              現在、各チェーン同士の互換性がないために、無理に送金をするとチェーン上の資産は行方不明になってしまいます。いわゆるセルフGOXと呼ばれるものです。そのため、BitcoinをEthereumに変換したい場合には、取引所で取引する必要があります。

              互換性というと、馴染みの薄い言葉に聞こえます。これは、私たちが普段生活している際にはこの「互換性がない」状態をあまり見かけないからかもしれません。

              出典:Unsplash

              例えば、私たちは三井住友銀行の口座から三菱UFJ銀行の口座へと送金できます。これは私たちが日常で利用している銀行サービスでは、あらかじめ異なる銀行同士の互換性が担保されているため、何の問題もなくお金の移動が出来るのです。

              しかし、こうした互換性がなくなり、三井住友銀行に預けたお金は三井住友銀行内でしか使えない、となると大変不便です。使えるサービスの幅が大きく狭まるだけでなく、一度、三井住友銀行から出金したうえで再度、三菱UFJ銀行へと入金しなければならず、余計な手間が増えてしまいます。

              これと近しいことがブロックチェーン間の課題として挙げられているのです。この「互換性の無さ」がブロックチェーン技術発展の妨げとならぬよう、異なるブロックチェーン同士を繋ぐことができるようにする仕組みが研究・開発されています。それが「インターオペラビリティ」と呼ばれる概念です。

              インターオペラビリティ=相互運用性

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              インターオペラビリティとは?

              インターオペラビリティは日本語で相互運用性と訳されます。

              ブロックチェーン関連の文脈では、BitcoinやEthereumなど、無数の様々なブロックチェーン同士を相互に運用可能とするための技術のことを指します。

              インターオペラビリティによって可能になること

              インターオペラビリティによってシステム同士が連携できるようになると、異なるブロックチェーン同士でも送金やデータのやり取り、コミュニケーションが可能となります。ユーザー側からはシステム特性に依存しないシームレスな取引や処理が実行され、不必要な手間や不自由さのない世界が実現可能となります。

              例えば、同一のサービス内であっても、金融取引には秘匿性の優れたブロックチェーンを、決済の手続きにはトランザクションの処理スピードが優れたブロックチェーンを使い分けることができます。

              既存のブロックチェーン基盤では様々な制約により導入が難しかったケースにおいても、新たにブロックチェーンを構築するといったアプローチも現実的なものになるでしょう。したがって、インターオペラビリティは非常に革新的なアイデアであり、ブロックチェーンが社会へより普及するためには必須の技術であるといえます。

              現在、様々なプロジェクトがこうした異なるチェーン間における価値の移動、コミュニケーション手段の確立・実現に向けて開発を行っています。

              インターオペラビリティの実現を目指すプロジェクト

              Cosmos(コスモス)

              出典:Cosmos

              Cosmos(コスモス)は、インターオペラビリティの実現を目指してTendermint(テンダーミント)社が開発した仮想通貨です。

              CosmosではIBC(Inter-Blockchain Communication)という仕組みを利用し、異なるブロックチェーン間でもデータのやり取りができるようにしました。IBCでは、ブロックチェーン間を「対等」な関係で接続し、それぞれの独自チェーンのノードが自分でデータを検証するしています。

              IBCに対応した独自のブロックチェーンを開発できるツール「Cosmos SDK」を用いて、Cosmosのネットワーク上にブロックチェーンを構築できます。この各ブロックチェーンのアプリケーションを「Zone」といい、Zone同士が相互接続できるように作られた中継役となるブロックチェーンを「Hub」といいます。

              Cosmosのネットワークは下図のように「Zone」と「Hub」の二種類のブロックチェーンから構成されています。

              また、「Peg Zone」という別のブロックチェーンの状態を追跡するためのブロックチェーンを仲介することにより、BitcoinやEthereumといった既存のチェーンとの互換性を生み出せるため、Cosmosは外部のコンセンサスアルゴリズムをベースにしたチェーンを接続することも可能です。

              Cosmos自体は仮想通貨の世界から見ると歴史の浅い通貨ですが、こうしたインターオペラビリティは投資家たちの間でも評価されており、時価総額は50位前後(2025年2月時点)と全体でも上位に位置しています。今後もさらなる発展が期待できるでしょう。

              Polkadot(ポルカドット)

              出典:Polkadot

              Polkadot(ポルカドット)は、Ethereumの共同創業者であるGavin Woodらによって2016年に立ち上げられたプロジェクトです。同サービスの開発は、ユーザー主権的なWeb3.0の構築を目指す団体「Web3 Foundation」によって主導されています。

              Polkadotも前述のCosmos同様、マルチチェーンに対応しており、相互運用性が高いことで知られています。Polkadotのシステムにおいて、インターオペラビリティを実現しているのは「XCM(cross-consensus messaging format)」という特殊なプロトコルです。

              このXCMは「Relaychain」と「Parachain」「Bridgechain」の3種類のブロックチェーンから構成されています。ネット全体のセキュリティを司るメインのチェーンである「Relaychain」とアプリケーションごとの目的に応じた独自のトークン・経済圏を構築する「Parachain」に対して、「Bridgechain」は下記のように外部のブロックチェーンと「Parachain」の接続を行います。

              出典:medium

              この「Bridgechain」により、あらゆるタイプのデータや資産をBitcoinやEthereumといったブロックチェーンに転送することが可能になっています。こうした柔軟性は、Polkadotがオープンガバナンスシステム(重要な決定を参加者全員が投票で決める仕組み)を採用していることによって実現しています。

              インターオペラビリティを含め、ユーザーが自分の意見を反映させてネットワークの方向性を決められる柔軟なシステム設計はPolkadotの最大の特徴であり、成長を続けてきた理由の一つだといえるでしょう。

              CosmosとPolkadotの違い

              CosmosとPolkadotはどちらもインターオペラビリティを確保することで、ユーザビリティの向上やブロックチェーンの普及を目指しているプロジェクトです。両者ともに中心に大きなハブ機能を持ったチェーンがあり、そのメインチェーンに様々な機能を持ったサブチェーンが接続する形になっているため、ざっくりとした全体像は似通ったものになっています。

              そんな両者における違いはどこにあるのでしょうか?細かい違いは多々ありますが、最も大きな違いは、ネットワーク全体のセキュリティが統一されているかどうかです。

              Cosmos Hubに接続する独立したブロックチェーンは均一なセキュリティを備えていません。これは、IBCで相互接続するブロックチェーンのそれぞれのブロック承認は、それぞれのチェーンに任されているためです。そのため、Hubが停止してしまったとしても、それぞれのチェーンで動作しつづけることが可能です。

              一方のPolkadotでは、「Parachain」は「Relaychain」を親チェーンとして、同じセキュリティを共有しています(オプションとして独自のブロック承認を使うことはできますが、標準機能ではありません)。 そのため、チェーンごとにセキュリティ性能にばらつきが出ることはありません。

              したがって、アクシデンタルな状況下やスケーラビリティという点ではCosmosが、プロジェクトを迅速かつ安全に立ち上げられるという点においてはPolkadotが優れているといえるでしょう。

              しかし、Polkadotは当初、Ethereumのインターオペラビリティやスケーラビリティ(どれだけ多くの取引記録を同時に処理できるか)を解決するためのソリューションとして開発されましたが、Ethereumが独自のソリューションを開発したため、Polkadotの存在意義が薄れてしまっているという指摘もあります。

              実際に、国内の暗号資産取引所Zaifでは、「流動性等の観点から、将来的に安定的なサービス提供が困難となる可能性があると判断したため」との理由から2024年12月にPolkadot(DOT)の取扱いを廃止すると発表しています。

              DOT(Polkadot)及びMBX(MARBLEX)取扱い廃止のお知らせ|Zaif

              ブロック生成時間の短縮などが予定されている大型アップデート「Polkadot 2.0」によって巻き返しを期待する声もありますが、将来性に暗雲が立ち込めていることは紛れもない事実でしょう。

              まとめ

              本記事では、ブロックチェーン同士を接続する新たな技術=「インターオペラビリティ」について解説してきました。

              これまでのブロックチェーンを活用したシステムは、目的に応じて個別最適で作られてきました。しかし、インターオペラビリティ技術が発展していくことで、これらの個々のシステムをつなげることが可能になり、ブロックチェーンは新たな社会インフラ技術になる可能性を秘めています。

              今後、ブロックチェーン間を横断していくプロジェクトや、仮想通貨のやり取りも増えていくことが予想されるため、インターオペラビリティの重要性もさらに増していくことでしょう。

              トレードログ株式会社では、非金融分野のブロックチェーンに特化したサービスを展開しております。ブロックチェーンシステムの開発・運用だけでなく、上流工程である要件定義や設計フェーズから貴社のニーズに合わせた導入支援をおこなっております。

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              【2025年最新版】ブロックチェーンのプラットフォームを比較!基盤・種類ごとにメリットやデメリットを解説します!

              Ethereum、Ripple、GoQuorum、Hyperledger・・。一口にブロックチェーンといってもそのプラットフォームには、用途に合わせて数多くの種類があります。開発基盤として選ぶならどれがいいか?それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説します。

                ブロックチェーンのプラットフォームは用途に合わせて選ぼう

                出典:Unsplash

                実は多数あるブロックチェーンのプラットフォーム

                ブロックチェーンを活用したプロダクト・サービスの開発には、開発の実装基盤となるプラットフォームが不可欠です。一般にはあまり知られていませんが、ブロックチェーンのプラットフォームには非常に多くの種類があります。

                ざっと名前を列挙するだけでも、以下の通りです。

                • Bitcoin Core
                • Ethereum
                • Avalanche
                • Ripple
                • NEM
                • Polygon
                • Cosmos
                • GoQuorum
                • Hyperledger Fabric
                • Corda
                • Solana
                • Stellar
                • TRON
                • BSC
                • Waves
                • EOS  等々

                もちろん、これらの全ての名前や特徴を覚える必要はありません。

                しかし、代表的ないくつかのプラットフォームについては、その分類と最低限の特徴はおさえておくほうが、実際にブロックチェーンを利用したプロジェクトの推進、あるいは外注もスムーズになるでしょう。

                なぜ、プラットフォームを用途で比較するのか?

                ブロックチェーンのプラットフォームを分類する方法は様々にありますが、本記事では「用途に合わせた分類」をお勧めします。

                用途に合わせるというのは、たとえば単純な送金ならビットコイン、ゲームならイーサリアム、銀行間送金ならRippleやCordaを開発基盤とするのが好ましい、といった具合です。

                一般的に、用途別での分類方法には、「パーミッションタイプ(ネットワークの公開範囲)」「独自の仮想通貨の有無」「スマートコントラクト機能の有無」「トランザクション速度(tps)」などがあります。

                しかし、これらの分類方法では、分け方が大味すぎていまいち特徴を掴めない、開発時の構成次第で条件が変わりうる、といった限界があるため「結局よくわからない」という結果になってしまいます。

                また色々と知識を手に入れたところで、結局のところは開発プロジェクトで達成したいゴール、つまり自社の課題に応じた開発基盤を選択するのがセオリーなので、骨折り損にもなってしまいかねません。

                こうした理由から、以下では代表的な10種類のプラットフォームについて、用途に合わせて簡単な比較をしていきます。

                代表的な10のブロックチェーンプラットフォーム

                数多く存在するブロックチェーン開発基盤のうち、本記事では代表的なプラットフォームとして、Ethereum、BSC、Polygon、NEM、Solana、Ripple、Corda、GoQuorum、Hyperledger Fabric、Bitcoin Coreの10種類を取り上げます。

                プラットフォーム名対象用途例
                Ethereum(イーサリアム)toC企業NFTなど
                BNB Chain(ビーエヌビーチェーン、旧BSC)toC企業DApps、NFTなど
                Polygon(ポリゴン)toC企業NFT、DAppsなど
                Symbol(シンボル)toC企業 ゲーム、DAppsなど
                Solana(ソラナ)toC企業ゲームなど
                Ripple(リップル)toC企業銀行間送金(特化)
                Corda(コルダ)toB企業銀行間送金、企業間プラットフォームなど
                GoQuorum(ゴークオラム /ゴークォーラム)toB企業企業間プラットフォームなど
                Hyperledger Fabric(ハイパーレジャーファブリック)toB企業企業間プラットフォームなど
                Bitcoin Core(ビットコインコア)個人個人間送金

                上表のように、10種類のプラットフォームを用途の観点から分類すると、大きく次の4つに分けることができます。

                1. toC企業向け:ゲームなどの開発に向いている
                2. toB企業向け:業界プラットフォームなどの開発に向いている
                3. 銀行向け:銀行間送金に特化している
                4. 個人向け:ちょっとした送金の手段として使われる

                たとえば、あなたが製造業の会社で事業責任者をしており、ブランド戦略の一環で製品のトレーサビリティ(追跡可能性)を担保することで偽造品対策や競合製品との差別化を行いたいと考えているのであれば、2のtoB企業向けプラットフォームであるCordaやGoQuorum、Hyperledger Fabricを開発基盤としたプロジェクトを推進していくのがお勧めです。

                あるいは自社経済圏を構築するためにトークン発行を前提としたプラットフォームを構築したいのであれば、開発基盤はEthereumのほぼ一択でしょう。

                次項で詳しくみていくように、ブロックチェーンはその開発基盤によってターゲット層や情報秘匿性、搭載している機能に違いがあります。

                そのため、自身が推進するプロジェクトに向いているプラットフォームを把握し、その特性を理解しておくことは、開発者だけではなくビジネスサイドの担当者にとっても有益です。

                また、独自の仮想通貨を備えているブロックチェーンもあるため、その背景知識としてチェーンの技術的特徴を把握しておいて損はないでしょう。

                それでは、それぞれのプラットフォームについて順に見ていきましょう。

                ブロックチェーンプラットフォームごとの特徴・違い

                Ethereum(イーサリアム)

                出典:BTCC

                Ethereumは、2013年にロシアの若き天才Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)により構想されたプロジェクトで、ビットコインの設計思想を開発者向けに押し広げたプラットフォームです。

                Ethereumの主な特徴は次の通りです。

                • エンタープライズ向け(toC企業)
                • NFTの開発に用いられることが多い
                • 独自仮想通貨:ETH(イーサ)
                • スマートコントラクト機能:あり
                • パーミッションレス型
                • 情報の秘匿性が低い

                Ethereumは、ビットコインを設計の土台としていることもあってか、パーミッションレス型、つまり不特定多数の参加を認めるネットワークであるため、情報の秘匿性を担保しづらく、企業の中でもゲーム開発などのtoC企業に採用されやすい点に特徴があります。

                また、特筆すべき点として、トークンの開発基盤として実質的に市場を独占していることがあげられます。これはトークンをリアルマネーと交換する取引所自体が、Ethereumの初期トークンであるERC20の規格に合わせてつくられたために、Ethereum以外での開発が困難になってしまっていることを背景としています。

                したがって、ERCトークンの規格を変えるだけで様々なデジタル上の資産に対して互換性を持たせられるというメリットがあります。現在もERCの規格は増え続けており、今後新たな規格が登場すれば、新たなサービスにもブロックチェーンを組み込める可能性があります。実際に、ERC20の規格で発行されたトークンは、誤送金すると再使用できないという仕様(=GOX、ゴックス)でした。これを解決するためにERC223という規格が誕生しました。

                2025年にも大型アップデート「Pectra(ペクトラ)」が予定されており、既存のスマートコントラクトに追加の実装を行わずにEOA(外部所有アカウント)に様々な機能を導入可能になる仕組みや、バリデーターがステークできる最大量を32ETHから2,048ETHに増加させるアップデートが実施される見込みです。

                このように定期的なアップデートでユーザビリティが常に向上し続けており、初心者にもおすすめの開発基盤です。

                BNB Chain(ビーエヌビーチェーン、旧BSC)

                出典:BINANCE

                BNB Chainとは、世界最大の仮想通貨取引所取引所であるバイナンスが運営・管理する独自チェーンです。

                BSCの主な特徴は以下の通りです。

                • エンタープライズ向け(toC企業)
                • DApps(分散型アプリケーション)の開発に用いられることが多い
                • 独自仮想通貨:BNB(バイナンスコイン)
                • スマートコントラクト機能:あり
                • パーミッションレス型
                • 高速かつ低コスト

                元々バイナンスでの取引にはBinance Chainというブロックチェーンが利用されていました。しかし、このチェーンはプログラム上の制約が多かったため、ブロックチェーンとしての柔軟性に課題を抱えていました。そんなバイナンスチェーンが抱える課題の解決策としてEthereumとの互換性を高めたBSCが開発・統合されたため、自由にDAppsを構築することができます

                また、BNB ChainはEthereum同様、スマートコントラクト機能も搭載しています。これにより、カスタマイズ性だけではなく、バイナンスチェーンの特徴であった高速の処理スピードも実現しており、ユーザーとプラットフォームの開発者の双方にとって大きなメリットを持つチェーンとなっています。

                さらに、BNB Chainの手数料はそのほかのチェーンに比べると割安になっています。これは、BNB Chainのコンセンサスアルゴリズムが、「PoSA(プルーフ・オブ・ステーク・オーソリティ)」という方式が用いられているためです。

                この方式のもとでは、承認の仕組みに高性能なコンピュータや大量の電力を要する計算処理は不要なため、手数料を抑えることができます。独自の仮想通貨であるBNB(バイナンスコイン)は執筆時点(2025年2月)で、時価総額6位にランクインしており、その安定性も人気の理由です。

                このような背景から、現在はBNB Chainがバイナンスのメインチェーンとして採用されています。

                Polygon(ポリゴン)

                出典:COINPOST

                Polygon(ポリゴン)は、イーサリアムが抱える「処理の遅延」や「手数料の高騰」といった問題の解決を目指してつくられたブロックチェーンです。2021年まではMaticNetworkという名前でサービス展開していました。

                • エンタープライズ向け(toC企業)
                • トークンやDAppsの開発に用いられることが多い
                • 独自仮想通貨:MATIC(マティック)
                • スマートコントラクト機能:あり
                • パーミッションレス型
                • 高速かつ低コスト

                PolygonはEthereumのセカンドレイヤーとして開発されています。メインのブロックチェーンと並行して高速でブロックを生成し、Ethereumにリンクします。このシームレスな接続によって、Polygon自体が持つトランザクションの実行能力と、Ethereumが持つ豊富なDAppsへのアクセスを実現しています。

                また、同チェーンの開発を行うPolygon Labsは、「Polygon 2.0」への大型アップデートを発表しています。このアップデートでは、ゼロ知識証明を利用した処理コストの高いデータのオフチェーン処理を実現し、コストをさらに大きく削減できるとしています。

                また、今後はユーザーが複数のチェーンを検証できるようになります。したがって、ユーザーは1つの通貨で複数のチェーンを管理できるようになり、エコシステムの安全性と拡張性が高まります。なお、この「Polygon 2.0」では、独自の通貨も「MATIC」から「POL」へとアップグレードされ、発行上限が廃止されました。これによってPOLの新規発行が可能になり、コミュニティの拡大がさらに加速することが期待されます。

                2023年8月には、国内大手の仮想通貨取引所であるCoincheckでもPolygonの取り扱いを開始しており、国内でも近年注目されているブロックチェーンです。

                Solana(ソラナ)

                出典:Myforex

                Solanaは2017年にAnatoly Yakovenko氏によって考案され、2020年3月にローンチされたばかりの比較的新しいプラットフォームです。Ethereumと同じくパーミッションレス型、独自仮想通貨をもったtoC企業向けの開発基盤です。

                Solanaの主な特徴は、次の通りです。

                • エンタープライズ向け(toC企業)
                • ゲーム、DAApsの開発に用いられることが多い
                • 独自仮想通貨:SOL(ソル)
                • スマートコントラクト機能:あり
                • パーミッションレス型
                • トランザクション速度(tps)が速い

                Solanaの最たる特徴は、トランザクション速度(tps)の速さです。

                例えば、ビットコインのトランザクション処理速度は6件/秒、イーサリアムは15件/秒ですが、Solanaの場合は50,000件以上/秒と圧倒的な数字を誇ります。また、Solanaの取引手数料は平均して0.00025ドル程度であり、取引の障壁の少なさでは群を抜いています。

                これらは、「PoH(プルーフ・オブ・ヒストリー)」というネットワークに参加しているコンピューター同士の同期を必要としない独自のコンセンサスアルゴリズムによって実現しています。PoHでは、ネットワークの通信状態に関係なく、ネットワーク全体として処理が進められるため、高速かつ低コストでの取引を可能にしています。

                こうした特徴や手数料の安さから「イーサリアム・キラー」とも呼ばれているSolanaですが、安定性に欠けるというデメリットもあります。度重なる稼働トラブルや支援元の大手仮想通貨取引所FTXが破綻するなどして、SOLは幾度も暴落を経験しています。

                新興のブロックチェーンには将来性がある一方で、その価値を一定に保つのは難しいという欠点があることも覚えておいた方が良いでしょう。

                Symbol(シンボル)

                出典:BITTIMES

                Symbolは2021年にローンチされたプラットフォームで、EthereumやPolygonと同じくパーミッションレス型、独自仮想通貨をもったtoC企業向けの開発基盤です。

                2021年に誕生したと聞くと、「まだ安定していないのでは?」と感じる人もいるかもしれません。しかし、Symbolには前身となるNEM(ネム)と呼ばれるブロックチェーンがあり、NEMで定評のあったマルチシグというセキュリティシステムが引き継がれています。

                そのため、新興のブロックチェーンではありますが、実績と信頼のあるエコシステムとなっています(Symbolが誕生したあともNEMは存続し続けており、現在はSymbolのサブチェーンにする計画が進行中です)。

                Symbolの主な特徴は、次の通りです。

                • 個人やコミュニティ、企業などユーザーの属性に関係なく利用できる
                • ゲームや取引所、DAppsの開発など幅広い目的に用いられることが多い
                • 独自仮想通貨:XYM(ジム)
                • スマートコントラクト機能:あり
                • パーミッションレス

                Symbolでは、コンセンサスアルゴリズムに「PoS(プルーフ・オブ・ステーク)」を改良した、「PoS+(プルーフ・オブ・ステーク・プラス)」が採用されています。

                PoS+では、XYMの保有量だけでなく、取引量や活動量も評価対象にしたスコアが自動的に算出され、それに応じてブロックの生成者が決まる仕組みが導入されています。そのため、XYMの保有量に関わらず、献身的(アクティブ)なユーザーを優遇するというある意味で公平なシステムとなっています。

                また、Symbolはパブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーン両方の機能が搭載されたハイブリッド型のチェーンです。そのため、プロジェクトのセキュリティ性に応じて、機能を使い分けることが可能になります。

                実際に、2022年にカタールで開催された「FIFAワールドカップ」のホテル建設にSymbolが採用されました。Symbolが導入されたのはホテル建設の工程管理プラットフォームや建造物を3次元で設計するBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)と呼ばれるツールです。

                セキュリティが高く法人向けのブロックチェーンであるからこそ、今後は他のプロジェクトでもSymbolが利用される可能性も十分に考えられるでしょう。

                Ripple(リップル)

                出典:COINPOST

                Rippleは、2012年から開始された金融決済・送金プラットフォームです。XRPという仮想通貨を発行しているため、そちらの方が有名かもしれません。

                Rippleの主な特徴は次の通りです。

                • エンタープライズ向け(銀行)
                • 銀行間取引に特化している
                • 独自仮想通貨:XRP(リップル)
                • スマートコントラクト機能:あり
                • パーミッションド型
                • 送金が速く、手数料が安い
                • 秘匿性が低い

                Rippleは、正確にはブロックチェーン技術は使用されていません。しかし、「XRP Ledger」という専用の分散型台帳管理システムを使用しています。このシステムでは、リップル社が指定したメンバーのみが承認作業を行います。

                そのため送金スピードに定評があり、銀行間送金に特化したプラットフォームとして採用されることがほとんどです。

                個人間送金のような頻度が少なく、かつもともとの手数料も大きくない取引であれば、のちに説明するBitcoin Coreで十分かもしれません。しかし、エンタープライズ、特に銀行のような膨大な頻度で多額の取引を行う企業にとっては、送金スピードは大きなメリットといえるでしょう。

                通常のデータベースとブロックチェーンの中間的な位置付けにあるRippleですが、クロスチェーンブリッジの新たな規格を開発中とのこと。今後ますますブロックチェーンとの関わりも密になっていくことが予想されるため、必ず押さえておいた方が良いプラットフォームといえるでしょう。

                ただし、2020年12月に米証券当局であるSEC(証券取引委員会)が、リップル社を相手に起こした裁判はいまだ係争中です。親仮想通貨であるトランプ政権の復活によってこの裁判も取り下げられる見込みですが、いまだにXRPの価格は激しく上下するため、安定的な運用を望む方はほかのプラットフォームを利用した方が良いでしょう。

                Corda(コルダ)

                出典:101 Blockchains

                Cordaは、2014年に設立されたソフトウェア企業である「R3」(R3CEV LLC)を中心とした「R3コンソーシアム」によって開発・推進されているブロックチェーンプラットフォームです。

                開発当初は、「取引におけるプライバシーの確保」という金融取引の要件を満たすための特化型プラットフォームとして誕生しましたが、その後は、金融領域に強みを持ちつつも他の領域にも使えるtoB企業向けプラットフォームとして利用されています。

                Cordaの主な特徴は次の通りです。

                • エンタープライズ向け(toB企業)
                • 銀行間取引に強みをもつが、他の領域にも使える
                • 独自仮想通貨:なし
                • スマートコントラクト機能:あり
                • パーミッションド型
                • 秘匿性が高い

                Cordaは、銀行間取引に特化したRippleと、次に紹介するtoB企業向けのGoQuorumやHyperledger Fabricとの間の性質をもっています。

                まずRippleとの違いは、Rippleが自社の独自仮想通貨をもつパーミッションレス型のプラットフォームであるのに対して、Cordaは参加者の限定されたパーミッション型のプラットフォームである点です。

                この違いから、Rippleと比較して、Cordaは情報の秘匿性を高いレベルに保持できる点に特徴があるといえます。

                実際に、Cordaを運営しているR3コンソーシアムには、「バンク・オブ・アメリカ」や「みずほ銀行」などのメガバンクが名を連ねており、Cordaはこうした企業の要求する高いプライバシー要件をクリアしています。

                次にGoQuorumやHyperledger Fabricと比較すると、ユーザー企業のユースケースに対応した作りとなっています。これはスクラッチ開発となっていることや、Corda基盤上で作られたアプリ間のデータ連携に優れている(インターオペラビリティが高い)ことが理由です。

                また、開発言語にJava / Kotlin(Javaをもっと簡潔にした言語)という扱える人口の多い言語を採用しているため、開発者を確保しやすいことも特徴の一つです。

                GoQuorum(ゴークオラム / ゴークォーラム)

                出典:BITTIMES

                GoQuorumは、2016年にJ.P. Morganによって開発されたオープンソースソフトウェアです。

                toC企業向けのプラットフォームであるEthereumをtoB企業向けに改変したもので、基本的にはEthereumと同様の特徴を持ちます。

                GoQuorumの主な特徴は次の通りです。

                • エンタープライズ向け(toB企業)
                • 企業間プラットフォームに用いられる
                • 独自仮想通貨:なし
                • スマートコントラクト機能:あり
                • パーミッションド型
                • 秘匿性が高い
                • 95%はEthereumと同じ

                GoQuorumがEthereumと異なる点は、「情報の秘匿性」と「スループット(単位時間あたりの処理能力)」です。

                EthereumはもともとBitcoinを開発者向けに展開したパーミッションレス型のプラットフォームなので、ネットワークへの参加者が限定されておらず、プライバシー要件を高く保つことができません。

                また、上述した通り、トランザクション処理速度(tps)も数百程度であり、企業間取引に求められる速度には達していません。

                GoQuorumでは、Ethereumの特徴を基本的には維持しつつ、 企業向けに機能がブラッシュアップされているため、プライベートなトランザクションに向いています。ビジネスプロセスや顧客データの機密性を保ったままブロックチェーン上で処理できるため、企業が求めるセキュリティとコンプライアンスの要件に対応しやすくなります。

                ただし、プライベートトランザクションは、取引があったこと自体はコンソーシアム内の全員が確認できるため、取引の存在自体を秘匿したいケースには向いていません。

                Ethereumをベースにしているため、Ethereumエコシステムの知識やスキルが必要になってしまいますが、その分、機能性や拡張性においては優れたパフォーマンスを発揮するフレームワークとなっています。

                Hyperledger Fabric(ハイパーレジャーファブリック)

                出典:Zorro Sign

                Hyperledger Fabricは、2015年12月にLinux Foundationによって開始されたブロックチェーンプラットフォームです。

                より厳密に言えば、複数のフレームワークやツールなどから構成されるプロジェクトである「Hyperledger」のうち、最もtoB企業で利用されているフレームワークが「Hyperledge(プロジェクトの中のフレームワークである) Fabric」です。

                Hyperledger Fabricの主な特徴は次の通りです。

                • エンタープライズ向け(toB企業)
                • 企業間プラットフォームに用いられる
                • 独自仮想通貨:なし
                • スマートコントラクト機能:あり
                • パーミッションド型
                • 秘匿性が高い

                基本的な特徴としては、GoQuorumと同じと考えて問題ありません。

                主な違いとしては、Hyperledger FabricがIBM社のエンジニアによって最初からtoB企業向けに特化してつくられたプラットフォームであるために、GoQuorumよりもさらにエンタープライズ要素が強いことです。

                そのため、新規参入企業が開発をスタートするための環境(フォーラムやドキュメントなど)が整っており、スムーズにプロダクト開発へ着手できます。

                実際にHyperledger Fabricは、IBM社の牽引する各種の業界プラットフォーム開発の基盤として用いられています。

                非金融領域でエンタープライズ向けのブロックチェーンネットワークやデータベースを構築していくのであれば、まずはこのHyperledger Fabricか、前述のGoQuorumを選択するのが良いでしょう。

                Bitcoin Core(ビットコインコア)

                出典:crypto.news

                最後に、Bitcoin Coreについて説明します。

                Bitcoin Coreは言わずもがな、仮想通貨やブロックチェーン技術の先駆けであるBitcoinの開発基盤となるプラットフォームです。

                Bitcoin Coreの主な特徴は次の通りです。

                • 個人向け
                • 開発基盤としてはほとんど用いられない
                • 独自仮想通貨:BTC(ビットコイン)
                • スマートコントラクト機能:なし
                • パーミッションレス型
                • 秘匿性が低い
                • トランザクション処理速度が遅い

                他のプラットフォームが、何らかの用途に合わせた開発基盤として構築されたのに対して、Bitcoin Coreは、仮想通貨としてのビットコインを世に送り出すために「サトシ・ナカモト」によって構築されたために、エンタープライズ向けのブロックチェーンプラットフォームとしては機能しません

                また、スマートコントラクトも、Ethereumの生みの親であるVitalik Buterin(ヴィタリック・ブリテン)によって生み出されたものであるため、Bitcoin Coreには機能が搭載されていません。

                さらに、「PoW(プルーフ・オブ・ワーク)」と呼ばれるコンセンサス・アルゴリズムを採用し、フルノード形式(全てのトランザクションをダウンロードし続ける)であることから、トランザクションも7tpsと非常に遅く、企業間の送金などにも向いていません

                こうしたことから、Bitcoin Coreが開発基盤として用いられることは滅多になく、その用途は、ビットコインそのものの利用や、個人間送金などに限られています

                まとめ

                今回はそれぞれの開発基盤の特徴やメリット・デメリットについて解説しました。ブロックチェーンには様々な種類があり、それぞれに向き不向きの用途があることがお分りいただけたでしょうか。

                とはいえ、まだこのコラム内で語りきれない特徴や実際の現場での使用感などにも違いがあり、日々新しいプラットフォームが開発されていることも事実です。自社システムにブロックチェーンを導入する際には専門的なアドバイスを受けると良いでしょう。

                トレードログ株式会社は、ブロックチェーン開発・導入支援のエキスパートです。ブロックチェーン開発で課題をお持ちの企業様やDX化について何から効率化していけば良いのかお悩みの企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。貴社に最適なソリューションをご提案いたします。