NFT技術の音楽分野への活用
〜クリエイターとリスナーが享受する新たな価値〜

近年のNFT技術の発達により、唯一性が担保されたデジタルコンテンツの資産価値が向上してきています。NFTといえば主にデジタルアートやゲームの分野で注目が集まっていますが、NFT技術は音楽分野でも大きな可能性を秘めています。本記事では、NFT音楽とNFT技術についての基礎知識をご紹介し、さらに音楽のNFT化によって実現すること、すでに存在するNFT音楽の活用事例までを詳しく解説していきます。

  1. NFT×音楽分野の多様な可能性
  2. NFTとは?
  3. 音楽分野×NFTで実現すること
  4. 音楽分野×NFTの活用実例
  5. まとめ

NFT×音楽分野の多様な可能性

2021年12月、アメリカの著名シンガーである故ホイットニー・ヒューストンのデモ音源がNFT音楽オークションで約1.1億万円で落札され、”NFT音楽” への注目が一気に高まりました。

NFT音楽とは「NFT技術を使った唯一無二の楽曲データ」を指します。

NFT技術の活用は、これまでデジタルアートやトレーディングカード、ゲームの分野で注目を集めてきていますが、音楽分野へのNFT技術の活用も楽曲データの唯一無二化のみならず、転売収益の確保など様々な可能性を秘めています。

まずはその根幹となるNFT技術について、簡単に解説していきます。

NFTとは?

NFT=”証明書”付きのデジタルデータ

出典:pixabay

NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに、固有の価値を保証しています。

つまり簡単にいうと、NFTとは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している”証明書”が付属しているようなものです。

NFTでは、その華々しいデザインやアーティストの名前ばかりに着目されがちですが、NFTの本質は「唯一性の証明」にあるということです。

NFTが必要とされる理由

世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した「NFT=非代替性トークン」は文字通り後者となります。

例えば、紙幣や硬貨には代替性があり、替えが効きます。つまり、自分が持っている1万円札は他の人が持っている1万円札と全く同じ価値をもちます。一方で、人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。

不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。しかし、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます。

そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。

実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。

NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。

これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、必要とされているのです。

音楽分野×NFTで実現すること

ライブチケットの転売収益の確保

出典:pixabay

NFT技術を音楽分野で活用する上で、実現性が高く、また実現した際のインパクトが大きいものでまず考えられるのが「ライブチケットの転売収益の確保」です。

現状、人気の高いミュージシャンやアイドルグループのライブチケットは高額転売に悩まされています。この場合の高額転売の弊害とは、転売による収益がクリエイター側に1円も還元されていないことを指します。

しかしNFT技術を活用すれば、NFT化されたデジタルチケットが転売されるたびに、クリエイター(チケットの発行者)にも手数料を還元するという仕組みが可能となります。また、NFT化されたチケットには取引履歴が全て記録されているので、仮に転売行為そのものをNGとしたい場合にも効力を発揮します。

実際にこの「ライブチケットの転売収益の確保」のために、海外では「Afterparty(アフターパーティー)」、日本国内では「ローソンチケットNFT」という名のプロジェクトが既にそれぞれ動き出しています。

新たなマネタイズ方法が生まれる

出典:pixabay

音楽クリエーターにとって、現在の音楽市場でのマネタイズはなかなか厳しいというのが現実です。その理由のひとつが、いま最も主流となっている音楽の提供の形である「ストリーミング配信」の収益性の悪さです。

実際に、音楽ストリーミング市場の51%を占めている「YouTube」では、収益のうち7%しかクリエイターに還元されていません。また「Spotify」や「Apple Music」など大手配信プラットフォームでは1再生あたりたった0.003円しか還元されない仕組みとなっています。

そうなった背景としては「音楽の希少価値が下がった事」があげられます。CD全盛期では”ジャケ買い”なる言葉があったように、音楽そのもの・CDジャケット・歌詞カードを含めたパッケージに対して3000円の価値がありました。それがストリーミング配信全盛のいま、気になった歌詞はネットで検索すればすぐに見つかり、誰かが作ったプレイリストを流して”いい感じの曲”を知る、という風に音楽は「消費される対象」となりました。

出典:pixabay

そこで、楽曲データをNFT化して数量限定で販売し、音楽の価値を復権しようとする試みが始まっています。NFT音楽を購入するファンにとっての大きなメリットは「数量限定の楽曲を購入したのは私です」という証明ができ、心理的に他のファンとの優位性を感じられる点です。

また、例えば100曲限定で販売された楽曲を手に入れたコアなファンがまた別のコアなファンに譲る際に、ライブチケット同様、転売収益が元のアーティストにも還元される仕組みを作ることも可能となります。

この試みは日本国内・海外を問わず多くのクリエーターたちの間で広まりつつあります。次項で詳しく解説しますが、例えば日本では坂本龍一や小室哲也といった大御所ミュージシャン、海外ではアメリカの人気バンド「LinkinPark(リンキン・パーク)」がNFT音楽を活用した試みをスタートさせています。

音楽分野×NFTの活用実例

続いて、2023年時点での音楽分野×NFTの活用実例をご紹介します。

ホイットニー・ヒューストン

出典:billboard japan

音楽分野×NFTの活用実例としてまずあげられるのが、本記事冒頭でもご紹介したアメリカの著名シンガーである故ホイットニー・ヒューストンの実例です。

ホイットニー・ヒューストンは、グラミー賞の受賞歴のある世界で最も売れている歌手の一人で、2012年2月11日に48歳の若さで亡くなるまでポップ音楽の第一線で活躍し続けたレジェンドです。

彼女が17歳の時に録音した初期のデモ音源が、NFTプラットフォームであるOneOfのオークションに出品され、史上最高額となる99万9,999ドル(約1億1,400万円)で落札されました。

これだけの大物アーティストの音源がNFT音楽として発表されたことは大きな話題となり、「NFT音楽」の認知が一般層にまで広がるきっかけになりました。

リアーナ

リアーナの唐突な“復活”から、新作のプロモーション手法の変化が見えてきた

出典:WIRED

保有資産額は6億ドル以上ともいわれる世界的歌手のリアーナの名曲「B*tch Better Have My Money」

のNFTコレクションは発表と同時に大きな話題になりました。

このNFTの概要は、世界中に熱烈なファンがいるリアーナの楽曲を手がけた音楽プロデューサー・ジャミール・ピエール氏が自身のストリーミング権をNFT化するというもの。NFTプラットフォーム「anotherblock(アナザーブロック)」において300個限定で販売しました。

「B*tch Better Have My Money」はYoutubeでも1.6億回再生以上されている人気曲であり、NFTの所有者はストリーミング再生による収益の0.0033%の分配を受けられるということもあり、販売開始されてからわずか数分で完売し、収益は63,000ドル(約840万円)に及びました。

しかし、OpenSeaでは「NFTが曲の部分的な所有権であること」「将来の利益につながりうるNFTを許可していないこと」を理由に本NFTの取り扱いを停止。良くも悪くも世間から多くの注目を浴びたNFTとなりました。

マイク・シノダ

出典:RollingStoneJapan

「Linkin Park」はホイットニー・ヒューストン同様グラミー賞の受賞歴があり、CDの全世界累計セールスは1億枚以上を記録した「21世紀最も売れた」と評されるアメリカのモンスターバンドです。

そのLinkin Parkの主要メンバーであるMike Shinoda(マイク・シノダ)氏は、ボーカルとして音楽面をリードするだけでなく、アルバムアートワーク、バンドの商品、ウェブデザイン、舞台でのプロダクションアートなど、Linkin Parkの芸術的な側面全般に携わったアーティストです。

そんなMike Shinoda(マイク・シノダ)氏は音楽とアートを融合させた自身のNFTプロジェクト「ZIGGURATS」を始動させ、今のストリーミング全盛時代における音楽のあり方、最新テクノロジーを使った表現方法を追求している第一人者です。

坂本龍一

出典:Adam byGMO

日本を代表するミュージシャンである坂本龍一氏もNFT音楽に可能性を見いだしている一人です。坂本氏は2021年12月、映画『戦場のメリークリスマス』のテーマソングとして世界的にも知られている自身の代表曲「Merry Christmas Mr. Lawrence」を1音ずつ区切った「595の音」をNFT化し販売しました。

「595の音」がNFTマーケットプレイス「Adam byGMO」で出品されるやいなや、「坂本龍一のあの名曲の一部を自分だけのものにしたい」という思いから数多くの人々が申し込みに殺到しました。想定を超える数の海外からのアクセスに耐えきれず、サーバーが一時ダウンしたことも、このNFTの注目度の高さを表しています。

新しい学校のリーダーズ

出典:PR TIMES

現在人気沸騰中の新しい学校のリーダーズも、ポリゴン(MATIC)上で数量限定のNFTを発行しました。記念すべきファーストNFTのモチーフとなったのは、ライブやグッズでおなじみの「習字」。その名も「一筆入魂NFT」です。

このNFTは 有名ファッションデザイナーや著名なアーティストのNFT作品などを購入できるマーケットプレイス「αU market」で無料配布されました。

このNFTは今回のためにメンバー自身が書き下ろたもので、KDDIが提供するメタバース「αU」と新しい学校のリーダーズとのコラボ「青春学園」のキャンペーンの一環として採用されています。

一筆入魂NFTの所有者は、新しい学校のリーダーズが出演する2カ所のフェス「SUMMER SONIC 2023」と「TOMAKOMAI MIRAI FEST 2023」でNFTを提示すると、各会場で追加の限定NFTが獲得できます。

限定NFTをダウンロードしたユーザーには限定コラボグッズや限定情報の公開といった特典がついており、ファンと特別なつながりを提供するプロジェクトとして注目されました。

ヤングスキニー

出典:ヤングスキニー公式サイト

詩的でリアリティのある歌詞で若者を中心に絶大な人気を誇る音楽バンド・ヤングスキニーも公式NFT「ヤングスキニー Live & Documentary (2023.01.20 – 2023.04.27)」を発売しています。

このNFTの購入者は、約123分のライブ映像に加え、2023年のワンマンツアーやフリーライブまでの道のりを収めた限定ドキュメンタリー映像を視聴することが可能です。NFTを所有しているファンだけが体験できる特別な時間を創り出すことで、新たなアーティストとファンとの関わり方が生まれてくることでしょう。

海外と比べると有名アーティストのNFT活用は進んでいない日本ですが、彼らのような実力も知名度もあるグループがパイオニアとなって、日本のNFT業界を引っ張っていってくれることを期待しています。

OIKOS MUSIC

出典:OIKOS MUSIC

OIKOS MUSICは独立系アーティスト向けに、NFTを使ったサブスク型の収益分配プラットフォームです。楽曲原盤権のうち、サブスク部分の収益に限定した収益分配権をNFT化し、ファンとのコミュニケーション機会を提供しています。

この斬新な仕組みを提供している同サービスですが、NFTはクレジット決済が可能です。仮想通貨でのやり取りが基本となる従来のNFTでは、初心者ユーザーの参加ハードルが高いという欠点がありましたが、このプラットフォームではNFTの購入に仮想通貨のウォレットは不要です。

また、マーケットプレイスへの出品は他レーベルのアーティストにも開放される予定であり、今後は既に活躍されているアーティストの参加も見込めます。参加アーティストによっては、国内で類を見ない大規模NFTプロジェクトになる可能性を秘めています。

シードラウンドの第三者割当増資により、総額1.5億円の資金調達を実施するなど着実に成長を見せているOIKOS MUSIC。アーティストとファンの関係性・応援文化の新しいカタチが、生まれつつあります。

まとめ

本記事では、音楽分野へのNFT技術の活用について解説してきました。

音楽分野へNFT技術を活用することにより、クリエイターにとっては新たなマネタイズの可能性が、リスナーにとっては好きなクリエイターの作品を自分だけのものにできるという新たな価値が生まれます。

一部のクリエイター達の間ではNFTがすでに注目を集め、実際に自身の作品をNFTとして販売する動きも活発化してきています。今後、著名アーティストの参入がさらに進めば、音楽とNFTの掛け合わせは爆発的に広まっていくことでしょう。