イスラム教の戒律に則って調理・製造された製品であることを示す「ハラル認証」。近年相次ぐ「偽装ハラル」への対抗策として注目される、ブロックチェーン技術について解説します!
近年増加する偽装ハラル問題
イスラム教信者にとっての偽装ハラル
2021年現在、ハラル(イスラム教の戒律を満たした)の認証を受けていない製品に関する詐称問題が相次いでいます。豚肉を牛肉の血の中に浸した「偽装牛肉」が出回っているというニュースは、イスラム教信者たちに大きな衝撃を与えました。
豚肉を口にすることは、イスラム教の戒律上認められていません。それらを提供することは、口にした本人のみならず宗教を侮辱することにもなりかねず、一企業・一個人の対応だけでは済まなくなる可能性もあるのです。
「宗教上食べてはいけないものがある」という感覚は、我々日本人には馴染みが薄いかもしれません。しかし、世界でハラル製品を使っている人口は約19億人と想定されます。つまり、世界の人口の4分の1近くの人々にとっては大きな問題となりうるということです。
偽装ハラルに対抗する新たなテクノロジー
こういった偽装ハラル問題解決に向けて、ある新たな技術が注目されるようになりました。近年、ブランド製品の真贋証明(しんがんしょうめい)などで利用されている「ブロックチェーン技術」です。
本記事では、今回の偽装問題の背景にある「ハラル」について解説した上で、問題解決のためのブロックチェーン技術の利用をご紹介します。
「ハラル認証」=「ハラルであることの保証」
ハラルとは
イスラムの教えで「許されている」という意味のアラビア語がハラル【アラビア語: حلال Halāl 】です。
ハラルの対象には、「物」(食べ物・飲み物・化粧品)だけではなく「事」(約束・契約・仕事)も含まれます。
逆に、イスラムの教えで禁じられているものの代表例が、豚肉、アルコールです。
ハラル認証の必要性
「ハラル認証」とは、イスラム教の戒律に則って調理・製造された製品であることを示すシステムです。

出典: Japanese Heart
食品加工技術や流通が発達するにつれ、一般的なイスラム教信者の消費者には、目の前の商品がハラルなのかそうでないのかの判別が必要となりました。
そこで宗教と食品科学の2つの面から、その商品がハラルであることを認証機関が保証する「ハラル認証」が誕生しました。
ハラル認証の現状
ハラル認証制度には「農場からフォークまで」の考え方があります。
つまり原料から流通・製造を通じて消費者が消費する瞬間までハラルであるべきと考えられています。
2021年5月現在、ハラル認証機関は世界に300以上あると言われています。しかし、世界的な統一基準がないので、その判断基準や指導内容は認証機関や団体によって異なります。
ハラル認証導入における課題
ハラル認証は、本来であれば世界的な統一基準により判断されるべき制度です。しかし、サプライチェーン上のすべての利害関係者が、それぞれ異なるプロセスやシステムを利用しており、また手作業の部分や人的資源に頼っている部分が非常に多いのが実情です。
- ハラール認証システムの非統一性
- ハラール製品情報の不正確性
- 原材料に対する厳格な管理意識の欠如
上記のような問題点の根本にあるのは、「サプライチェーン全体をまとめる統一プラットフォームが不足している」ということです。
この課題を解決するために近年注目を集めているのが、冒頭でも触れた「ブロックチェーン技術」です。
ハラール認証におけるブロックチェーン技術の役割
ブロックチェーンとは?
ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。
ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。
ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。
取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。
「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。
このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、「分散型台帳」と呼ばれています。
ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。
従来のデータベースの特徴 | ブロックチェーンの特徴 | |
構造 | 各主体がバラバラな構造のDBを持つ | 各主体が共通の構造のデータを参照する |
DB | それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されている | それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている |
データ共有 | 相互のデータを参照するには新規開発が必要 | 共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要 |
こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、「データの耐改ざん性」「安価なシステム利用コスト」「ビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)」といったメリットが実現しています。
データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。
ハラル認証へのブロックチェーン技術の利用
ブロックチェーンを使用することにより「サプライチェーン全体をまとめる統一プラットフォーム」が実現します。
統一プラットフォームの導入により、様々な製品の出所を追跡できるようになります(「トレーサビリティ」の実現)。そのため、仮に製品が偽造されたとしても、もともとの生産地や生産状態を追跡していけば認証が取れるようになります。
このことにより、消費者は購入したハラル製品についての加工から提供までの情報を簡単に調べることが可能となるのです。
ブロックチェーン技術のハラル認証への利用は、食品偽装防止に留まりません。医薬品、化粧品、ムスリムファッションの分野でもブロックチェーン技術の重要性が認知されつつあります。
ハラル商品全般に対して同テクノロジーを適用すれば、ハラルの市場認知度を食品業界の他の認証(例えば有機など)に匹敵するよう高めることができます。
冒頭にも述べたように、ハラル製品の市場規模は約19億人、世界の人口の4分の1近くにものぼります。ブロックチェーン技術は偽装防止の枠を超え、ハラル市場の様々なコンプライアンスに革命的な進化を与えるでしょう。