2024年1月、アメリカの規制当局がビットコイン現物ETFの承認を発表しました。この決定はデジタル資産業界においては画期的ともいえる内容であり、たちまちビットコイン市場全体が急騰する結果となりました。
今回はそんな国内外から大注目を集めているビットコインETFについて、仕組みやメリットなどについてイチから解説していきます。
※本記事ではビットコインETFの基礎知識や時事ニュースに関連した情報掲載を行っておりますが、特定の銘柄推奨や投資活動の勧誘を目的とするものではありません。内容についても執筆者個人の見解であり、その正確性や信頼性を保証するものではありません。投資の最終判断は、ご自身で行っていただきますようお願いいたします。
ついにSECがビットコイン現物ETFを初承認!
米証券取引委員会(SEC)は2024年1月10日、暗号資産ビットコインについて、現物投資型の上場投資信託(ETF)の上場申請を承認したと発表しました。
今回、SECが承認したのは、ブラックロック、アーク・インベストメンツ、21シェアーズ、フィデリティ、グレイスケールなどが申請した11のETF。一部の銘柄は早ければ1月11日から各証券取引所に上場し、取引が可能になるとしています。
SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION (Release No. 34-99306; File Nos. SR-NYSEARCA-2021-90
現物型ビットコインETFの承認は米国史上初のケースであり、時価総額約9000億ドル規模を誇る世界一のデジタル資産の新たな歴史の1ページとなる画期的な出来事といえるでしょう。
年明けには、ビットコイン現物投資型ETFをSECが承認したという虚偽の投稿がSECの公式Xアカウントに一時表示されるなど、様々なハプニングがあった本件。ビットコイン(BTC)の価格変動に影響を与える多くの要素のなかでも、資金流入という面でとくに大きな意味を持つビットコインの現物ETFの承認は新年を賑わせるビッグニュースとなりました。
SECとは?
SECとは、「Securities and Exchange Commission」の略で、日本語では「証券取引委員会」と呼ばれています。投資家保護および公正な証券取引を目的として1934年に設立された連邦政府機関です。
SECは投資家の保護と公正な市場を目的とし、株式や債券などの証券取引の監督・監視を行っています。証券の発行や流通といった証券市場を取り締まる規制について、絶大な権限を持っている機関です。
日本でも証券取引等監視委員会が同様の役割を担っていますが、金融庁の傘下機関であり、違反者に対する処分権限のない機関です。 一方の SECは、インサイダー取引や相場操縦など不公正取引に対しての処分権限を有しており、司法に準じる権限を持った強力な独立機関となっています。
アメリカは現在の金融市場、そして暗号資産の中心地として栄えています。そのため、多くのビットコインETFもまたアメリカの証券取引所への上場をターゲットにしてきました。ETFを金融市場に上場する場合は、その国の規制当局の承認を得る必要があるため、ビットコインETFを語るうえではSECの存在が非常に重要になっているというわけです。
なぜいま、ビットコイン現物ETFが認められたのか?
ビットコイン現物ETFを推進したい勢力とSECとの間には長い間、確執がありました。2013年に初期のビットコイン投資家として有名なウィンクルボス兄弟のビットコインETF申請を却下して以降、SECは10年余り「反対」の姿勢を取り続けてきました。
長らく詐欺や市場操作などに悪用される可能性を否定できないという主張を続けてきたSECが、一転してビットコインETFを承認するに至ったのはなぜでしょうか?
その答えは、米連邦控訴裁判所(連邦高裁)の現物ETFに対する判断にあります。
資産運用会社のグレースケールは、GBTC(ビットコイン市場に連動した投資成果を追求する投資信託)のETF転換申請を認めなかったSECの決定を不服として連邦高裁へ提訴していました。そして、その判決が2023年8月に下されました。
その内容は、グレースケールによる申請を棄却したSECの判断は誤りだというもの。SECが主張し続けてきた投資家を保護できないという却下理由は恣意的で気まぐれなものという認定を受けました。実は、先物でのビットコインETFはすでに実用化に至っており、この仕組みを流用すれば投資家保護には事足りるというグレースケールの主張が認められたのです。
したがって、この判決によって合理的な仕組みやその説明さえあれば、SECとしては現物ETFを承認せざるを得なくなったというわけです。こうした背景があり、今回ようやくビットコイン現物ETFが承認に至りました。
ETFとは?
ビットコインETFについて見る前に、そもそもETFとはどういう仕組みなのか理解していきましょう。
ETFは、「Exchange Traded Fund」の略で、日本語では「上場投資信託」あるいは「指数連動型上場投資信託」と表現されます。
投資信託とは、投資家から集めたお金を一つの大きな資金としてまとめ、運用の専門家であるファンドマネージャーが株式や債券などに投資・運用する金融商品のことです。運用益は、分配金として投資額に応じて還元・分配される仕組みとなっています。
指数連動型の投資信託(インデックスファンド)では、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)といった指数に連動した運用をします。ETFもインデックスファンドのようにある特定の指数に連動するように設計されており、なかでもとくに上場して証券取引所で売買される投資信託のことをETFいいます。
ETFとインデックスファンドの最大の違いは、1日1回算出される基準価額で購入される非上場の投資信託とは異なり、ETFは証券取引所で取引されるため、株式と同様にリアルタイムで価格が変動し、注文や取引が可能になるという点です。
つまり、投資信託は注文を出した時点では取引される価格が分からないのに対して、ETFでは取引したい価格で発注・売買することが可能です。
ビットコインETFとは?
ビットコインを主な投資対象とするETF
ビットコインETFとは、価格がビットコインと連動するように設計された上場投資信託です。
ETFには、株式以外にも金(ゴールド)や不動産といったユニークな商品があります。そうした株式以外の銘柄が証券取引所に上場し、個人が取引しやすくなるという特徴があります。このETFの仕組みを活用し、安全で透明性の高いビットコインの取引を実現したのがビットコインETFというわけです。
具体的な仕組みは上場申請されるビットコインETFの商品設計に依存しますが、基本的には金(ゴールド)に連動したETFと同様に、ビットコインの現物価格や先物価格に連動するように設計されています。
現物ETFと先物ETFは何が違う?
ビットコインETFは、ビットコインの先物価格に連動するか現物価格に連動するかによって、「先物型」と「現物型」に分けられます。
アメリカでは2021年10月に承認されていた先物ETFとは、将来のあらかじめ定められた期日に、ビットコインを現時点で取り決めた価格で売買することを約束するETFのことで、現物取引とは異なる価格が形成されます。
たとえば、先物ETFでビットコインをある期日に10万円で購入することを決めておけば、期日までに相場が変動してビットコインの価格が上昇しようと下落しようと、支払う金額は10万円です。
また、現物ETFでは基本的に取引金額の全額を取引時に用意しなければなりませんが、先物ETFでは取引時点で全額を用意する必要はなく、代わりに「証拠金」と呼ばれる担保を差し入れて取引を行います。
今回、上場が承認された現物ETFは、実際のビットコインの市場価格と連動した形となります。そのため、ビットコイン価格の市場動向に直接影響を受ける要素が強くなります。
また、現物取引となるため、手持ちの資金以上の取引や保有していない株式の売却はできません。したがって、投資金額以上の損失は発生しません。先物型のETFに比べ、リスクを抑えたい場合は現物型のETFへ投資するのが一般的です。
ビットコイン現物ETFが実現すると何が変わる?
ビットコイン投資のハードルが下がる
通常、ビットコインを直接購入する場合には多くの予備知識が必要であり、ウォレットの管理なども自分でやらなければなりません。また、ビットコインでは株のようにストップ高やストップ安が存在しないため、価格の変動率(ボラティリティ)が高くなります。そのため、「ハイリスク・ハイリターン」の金融商品であり、初心者にはハードルが高いです。
ETFであれば取引所で終日売買されるため、証券会社を通じて口座を開設するだけで簡単にビットコインETFに投資できます。その後の運用は投資の専門家がおこなうので、知識がなくても投資パフォーマンスを高められます。
信託報酬と呼ばれるサービス料が毎月差し引かれていきますが、投資に必要な金融・経済の知識を個人で身につけるのはとても難しいものです。極論、全く投資をしたことがない人でも安定した運用ができるという点は大きなメリットといえます。
これにより、ビットコイン投資のハードルが引き下げられ、ビットコイン市場の流動性が向上する可能性があります。
実際に、Security.orgが米国人1,500人を対象に実施した世論調査によると、現在仮想通貨を所有していない人の21%が、スポットビットコインETFが承認されれば投資する可能性が高まると回答しています。
税制で有利になる
ビットコインETFの利益にかかる税金の負担は、通常の仮想通貨投資よりも低いです。
通常、ビットコインの利益は税金面で不利とされる「雑所得」に分類されます。雑所得は、総合課税(税率15〜55%)であり、累進課税により利益を上げるほど税金が高くなったりします。
また、ビットコインでは、売却時以外にも暗号資産を使って商品を購入したときや暗号資産を購入すると課税所得が発生するケースがあります。
このように、ビットコインは他の投資手法と違って税金に関して特殊であるうえに、制限が多いことがネックとなっています。
一方、ETFの利益は株や投資信託の所得と同様、「譲渡所得」として分類されるため、20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の税金となります。譲渡所得は申告分離課税の対象で税率が一定であるため、雑所得よりも優遇されています。
資金の流入に期待できる
上記2つのメリットの相乗効果によってビットコイン現物ETFの市場が活性化されれば、多額の資金が流入してきます。それに伴っておのずとビットコイン(BTC)の価格も上昇し、市場全体に良い影響を与えることになるでしょう。
実際に様々な機関が同様の予測を立てています。英金融大手スタンダードチャータード銀行は8日、米国でビットコイン現物ETFが承認されれば、2024年に500億ドルから1,000億ドルの資金が流入、ビットコイン価格は2025年末までに20万ドルの水準まで上昇することが可能であると予想しています。
Standard Chartered: BTC Could Hit $200K in 2025 With Spot Bitcoin ETF Approval
また、暗号資産ファンドのギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)は10月のレポートで、ビットコインETFには発行初年度で少なくとも144億ドルの流入が見込まれると予想した。レポートでは「流入額は2年目までに270億ドル、3年目までに390億ドル増加する可能性がある」と指摘しています。
Bitcoin Spot ETFs Could See Inflows of $14.4B in First Year, Galaxy Says
さらに、Fundstrat Global Advisorsの著名アナリストであるトム・リー氏も1月10日、米CNBCの「Squawk Box」に出演し、米国でビットコイン現物ETFが上場することを前提に、ビットコイン(BTC)の価格は5年後までに50万ドルに到達しうるとの見方を示しています。
Bitcoin could hit $150,000 in the next 12 months and half a million in 5 years: Fundstrat’s Tom Lee
ビットコインETFの注意点
ビットコインETFには様々なメリットがあると紹介してきましたが、その反面、注意しなければいけない点もあります。なかでも投資という性質上、流動性不足・価格操作への懸念は切っても切れない関係にあるでしょう。
SECが指摘していた投資家保護が万全でないという点は単なる嫌がらせではありません。ビットコインは暗号資産のなかでは高い流動性を誇りますが、それでもなお価格変動が大きいボラティリティの高い金融商品です。投資のプロに運用を任せられるETFであるとはいえ、価格変動があまりにも大きいとその分、投資家のリスクにつながりかねないという問題は依然として残ります。
そのためビットコインETFは、ボラティリティが大きいので価格下落リスクを踏まえたうえで慎重に投資判断を行う必要があります。
さらに、暗号資産市場は詐欺的あるいは価格操作といった行為を排除しきれていません。顧客に商品を売買させるために取引業者が自己売買を繰り返す「仮装売買」や、売り手と買い手が通謀して売買を行うような「馴合売買」といった意図的に出来高を上げて売買が活発に行われているように見せかける動きには注意が必要です。
SECの委員長を務めるゲイリー・ゲンスラー氏も今回の解禁を受け、SEC公式サイト上で声明を発表。「主に投機的で価格変動の大きな資産であり、ランサムウェア、マネーロンダリング、制裁回避、テロ資金調達などの非合法活動にも使われている」と警鐘を鳴らしています。
SEC.gov | Statement on the Approval of Spot Bitcoin Exchange-Traded Products
日本でもビットコインETFに投資できるの?
アメリカで承認されたビットコイン現物ETFですが、日本のマーケットでは、2024年1月時点でビットコインETFの取り扱いはありません。しかし今後、日本でビットコインETFが承認される可能性は十分にあります。
そもそも、日本の証券会社において暗号資産を用いた金融商品は現時点では開発できません。これは、暗号資産が投資信託法施行令3条の「特定資産」に含まれていないからです。特定資産でなければ投資信託に組み入れられず、証券会社各社は国内ETFを組成できないということになります。
また、外国のETFであっても国内の証券会社が国内の顧客を対象に商品を販売する際には、その外国のETFに関する投資信託約款等を金融庁に対して届け出たうえで外国投資信託として認定される必要があります。
「外国投信」の定義は「投資信託に類するもの」とされており(投資信託法2条24項)、日本の特定資産に含まれないビットコインを組み入れた米国ETFが外国投信として認められるのはハードルが高いのではないか、というのが一般的な見解です。
アメリカでビットコインETFが承認されたというニュースが大々的に報じられると税制や購入方法などを知りたくなりますが、日本でもすぐに承認されるというわけではなさそうです。
まとめ
本記事ではビットコインETFについてまとめました。
アメリカの規制当局がビットコイン現物ETFを認めたというのは、間違いなく暗号資産の将来的なあり方に大きく関わってくるでしょう。
日本においては暗号資産がまだまだ市場に浸透しているとはいい難い状況のうえ、上述のように日本国内では認可を受けておらず、買うことができません。
しかし、今回のSECの発表が金融庁の判断に影響を与える可能性もあります。今後、日本独自のビットコインETFが組成されることや、海外で承認されているビットコインETFが日本国内の証券会社で取り扱われることが待たれます。