中国のブロックチェーンを金融・非金融の軸で理解する〜デジタル人民元からBSNまで〜

2025年に397億米ドルへの成長が予測されるブロックチェーン市場を牽引する中国。CBDCのデジタル人民元を守るために仮想通貨を規制する一方、4大商業銀行や公共事業を中心に研究開発と技術発展が進んでいます。2020年の最新事情に迫ります!

なお、ブロックチェーンの過去、現在、今後について、概念の全体像を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→ 参考記事:『ブロックチェーン(blockchain)とは?仕組みや基礎知識をわかりやすく解説!』

中国ブロックチェーン市場動向を理解する

拡大を続けるブロックチェーン市場

2020年8月現在、ブロックチェーンを応用したビジネスには様々なものがあります。

当初は、金融分野、とりわけ暗号資産(ビットコインなどいわゆる「仮想通貨」)のみに関係した「怪しい」技術だと思われがちだったブロックチェーンも、2020年で100〜200億円、2025年には1000億円を超える国内市場を形成し、世界全体では2020年の30億米ドルから2025年には397億米ドルへと拡大するとの見解も発表されています。

こうした市場拡大の背景には、IoTやAI等の技術進化を土台とした世界的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の発展とそれに伴うサイバーセキュリティ需要の拡大、キャッシュレス化の進展、ますます顧客重視の傾向が強まるマーケティング、巨大プラットフォーム企業の出現に対抗する形で進むアライアンスやM&A等の業界再編など、インターネットのインパクトが数十年かけてもたらした大きな社会変革の波があります。

堅牢なセキュリティ能力を誇るデータベースであり、「自律分散」をその技術思想としてもつブロックチェーンは、こうした社会変革を支える根幹技術として、今後の世界の社会基盤となりうる可能性を秘めているのです。

事実、世界経済フォーラムの発表によると、「2025年までに世界のGDPの10%までがブロックチェーン上に蓄積されるようになる」との予測もなされるほどに、21世紀におけるブロックチェーンの存在感は大きくなりました。

ブロックチェーンを牽引する中国

拡大を続けるブロックチェーン市場の中でも、ひときわ存在感を増しているのが中国です。

後にも触れるように、中国におけるブロックチェーンの研究開発や産業応用は、日本とはとても比べ物にならないほどのレベルで進んでいると言われています。

下図は、2020年時点でのブロックチェーンに関する特許市場におけるシェアを表しています。

このグラフからも明らかなように、世界全体のうちの実に7割を中国が占めており、2番手である米国の6倍近くあります。

日本が3%ほどしかないことを考えると、この特許市場のシェア、そしてその前提である特許出願数の多さは、中国マーケットの大きな特徴、強みの一つだと考えられます。

出典:BLOCK INSIGHT

こうした進展の背景として、中国では、官民を挙げてブロックチェーンの技術開発に取り組んでいます。

たとえば、2020年に、中国の国家ブロックチェーンインフラプロジェクト「BSN(Blockchain-Based Services Network)」が、イーサリアムやイオス、テゾスなどを含む6種類のパブリックブロックチェーンを統合することが判明しました。

また、中国建設銀行ブロックチェーンを活用した国際ファクタリング、中国農業銀行ブロックチェーンを活用した住宅ローン、中国工商銀行ブロックチェーンを活用したサプライチェーンファイナンスなど、大手企業各社による金融領域でのブロックチェーン活用が当たり前のように行われている他、ビットコインを支えるデータマイニングのほとんどは中国国内の工場で行われるなど、あらゆる面からブロックチェーンが社会に浸透しています。

こうした中国の状況は、日本でいまだに「ブロックチェーンって何?」「ビットコインって何か事件になってた怪しい投資手法でしょ?」といった人が多く、ブロックチェーンのビジネス活用が一向に進まない現状とは大きくかけ離れています。

したがって、日本におけるブロックチェーンのビジネス活用や産業応用を考えていく上で、中国の先例に学んでいくことには価値があると言えるでしょう。

ブロックチェーンビジネスを理解するための「軸」

中国のブロックチェーン事情を整理するために、まず、ブロックチェーンビジネス一般を理解するための軸を用意しましょう。

ブロックチェーンビジネスは、基本的に、金融/非金融/ハイブリッドの3領域に大別されます。

ここでいう「金融領域」とは、平たく言えば「Fintech」と言われる領域のことで、より正確には「暗号資産(=仮想通貨)を活用した領域」と考えてください。

暗号資産は、かつては「仮想通貨」と呼ばれており、いまだにその呼称の方が馴染み深い方も多いでしょうが、2019年3月15日に暗号資産に関する法改正が閣議決定され、呼称の変更が行われました。

こうした暗号資産を用いたビジネスが、ブロックチェーンビジネス第一の領域です。

これに対して、暗号資産ではなく、データの対改竄性やP2Pネットワーク、スマートコントラクトなど、ブロックチェーンの技術そのものを応用した産業・業務変革も盛んに行われています。

こうした「非金融」なビジネスが、ブロックチェーンビジネス第二の領域です。

基本的には、これら2つの領域に分けられますが、少しややこしい問題として、「非金融ながら暗号資産を活用する」ハイブリッドな領域も存在しています。

例えば、「トークンエコノミー」と呼ばれるビジネスモデルでは、ネットワーク独自に発行された暗号資産、つまりトークンをビジネス上の通貨として利用していますが、その目的は、暗号資産の運用益そのものではなく、あくまでトークンを活用した経済圏の構築と経済圏内の取引の活性化にあります。

このように、ブロックチェーン×金融の結晶である暗号資産を用いながら、非金融領域の課題解決を目指すような「金融×非金融」のハイブリッドなビジネスが、ブロックチェーンビジネス第三の領域です。

本記事では、この「金融/非金融」という軸から、中国のブロックチェーンマーケットについて概説してまいります。

なお、弊社では、非金融領域でのブロックチェーンビジネスについては、事業化するための3つのポイントをおすすめしています。

この点については、本記事ではなく、下記の記事に詳しく解説しておりますので、あわせてご覧ください。

👉参考記事:『ブロックチェーンのビジネス活用は非金融がアツい!事業化3つの視点とは?

金融領域における中国のブロックチェーン市場動向

視点①:デジタル人民元

中国における金融領域の適用先としては、「デジタル人民元」を避けて通ることはできません。

デジタル人民元は、「中央銀行デジタル通貨」(CBDC:Central Bank Digital Currency)の一種で、中央銀行が発行し、デジタル形式をとる法定通貨(中国なので”元”)のことです。

中国当局は、2020年中には地方レベルのテストを終え、2021年には、全国的な展開を図っていく予定としています。

デジタル人民元は、中国人民銀行によるとP2Pではないので技術的にはブロックチェーンというわけではありません。

しかし、次の二つの理由から、ここではまずあえてデジタル人民元について取り上げることとします。

  • デジタル人民元の仕組みはビットコインで用いられている通貨管理手法であるUTXO(Unspent Transaction Output、未使用トランザクションアウトプット)構造を取っていると言われている
  • 思想的文脈ではブロックチェーンを踏まえて理解する必要がある

そこで、本記事では、次の3つの方向性から、デジタル人民元の取組を捉えていくことにします。

  1. 「先進国の金融システムに追いつくための取組」としてのデジタル人民元
  2. 「基軸通貨米ドルに対する挑戦のひとつ」としてのデジタル人民元
  3. 「人民を縛りつけるデジタルの鎖」としてのデジタル人民元

(1)「先進国の金融システムに追いつくための取組」としてのデジタル人民元

人口第一位、GDP世界2位を誇る中国は、マーケットの規模こそ大きいものの、金融システムは内陸部を中心に大きく遅れているのが現状です。

既存のシステムが不完全であり、置き換えられるべき金融システムがないため、中国では金融領域に対する大胆な投資が可能となっています。

他方、アメリカや日本では事情が異なります。

両国ではすでに既存の金融システムが高いレベルで運用されており、新しいシステムと置換するには大きなコストやリスクが生じてしまいます。

そのため、中央銀行デジタル通貨の取り組みにおいても慎重にならざるを得ません。

こうしたことを背景に、中国は中央銀行デジタル通貨の導入によって、アメリカや日本の先を行ける勝算が高いのです。

つまり、デジタル人民元は中国にとって、先進国の金融システムに追いつくための取組としての意義があると考えられます。

(2)「基軸通貨米ドルに対する挑戦のひとつ」としてのデジタル人民元

デジタル人民元の別の側面は、基軸通貨米ドルに対する挑戦者としての性格です。

これまで、基軸通貨としての米ドルに対して、多方面からの挑戦が行われてきました。

記憶に新しいもので言えば、仮想通貨であるビットコインでしょう。

しかし、元々ビットコインは「中央銀行に対するオルタナティブ」として構想されましたが、”サトシ・ナカモト”はFRB(連邦準備制度)に対する最初の挑戦者ではありません。

ビットコイン以前にも、米ドル圏の内部としてはクレジットカード、ペイパルなどが、また、米国外では独仏がユーロを作り、ロシアはルーブル建の原油取引を推進しました。

ビットコインのみならず、デジタル人民元もそうした流れの中に位置付けてみることができます。

国際政治において主導権を握りたい中国にとって、この挑戦は非常に重要な意味を持ちます。

今後の国際政治では、途上国へのデジタル通貨の浸透がひとつの戦場となると言われており、中国は負債漬けにした途上国に対してデジタル人民元を普及させることで、それらの国々を中国側陣営として固定化することを狙っていると言われているのです。

これに対して、途上国をアメリカ側陣営につなぎとめるためのデジタル通貨は、(消去法で考えると)Facebookの”リブラ”しかありません。

しかし、現状では、ザッカーバーグはアメリカ保守層の理解を得るのに苦労していると言われています。

この状況を鑑みると、中国がデジタル人民元の導入に力を注ぐ理由も理解できるでしょう。

(3)「人民を縛りつけるデジタルの鎖」としてのデジタル人民元

デジタル人民元では、中国人民のすべての経済活動が中国共産党に対してつまびらかにされます。

表向きは「新しい形式の法定通貨」ですが、その本質は、政府が運営する巨大な台帳です。

したがって、脱税も密輸も反政府活動も、台帳を見れば一発で”バレて”しまいます。

あるいは、自由主義や民主主義を吹聴する電子書籍を購入した人民もすぐに炙り出されるでしょう。

本来であれば、ブロックチェーンやそれに類する技術(UTXOなど)は、非中央集権的な性格にその意義と本質があります。

しかし、こうした文脈においては、残念ながらブロックチェーンは中央管理者を繋ぎ止める「真実の鎖」ではなく、人民を縛りつける「支配の鎖」として利用される恐れがあります。

中央管理社会の比喩としてよく使われる、「1984」「華氏451度」のようなディストピア的世界も、デジタル人民元の導入によって、いよいよ目の前に示現し始めるのかもしれません。

視点②:暗号資産(仮想通貨)

上でみたデジタル人民元の導入背景をみると自ずと明らかなことですが、中国においては、暗号資産(仮想通貨)は厳しく規制されてきました。

規制の歴史を時系列順に並べると、次の通りです。

  • 2013年12月、ビットコインに対する警告
  • 2017年9月、ICOの全面的禁止
  • 2019年11月、再度取引所への警告
  • 2019年12月、改めてICOプロジェクトを規制
  • 2020年1月、「暗号法」制定

ここでは、それぞれの事柄の詳細には触れませんが、中国が一貫して暗号資産に対して厳しい姿勢を取り続けていることは明らかです。

なお、詳しい経緯は下記の記事にわかりやすくまとまっているため、ご参照ください。

→参照:BLOCK INSIGHT「中国の仮想通貨規制を時系列で解説:デジタル人民元を許容する訳とは」

視点③:大手企業

暗号資産の規制が続く一方で、中国では、4大商業銀行を中心に、大手企業による金融領域でのブロックチェーン活用が進んでいます。

大手企業によるブロックチェーン活用には、例えば次のような事例があります。

  • 中国建設銀行:ブロックチェーンを活用した国際ファクタリング
  • 中国農業銀行:ブロックチェーンを活用した住宅ローン
  • 中国工商銀行:ブロックチェーンを活用したサプライチェーンファイナンス
  • アリババ:ブロックチェーンを活用したオンライン保険の「相互宝」

アリババが提供している「相互宝」は、加入が無料で、加入者が病気になったとき、加入者全体で保険金を分担するという内容のオンライン保険です。

この事例で注目すべきは、契約者情報や請求データといった情報の管理・共有、不正防止などの機能にブロックチェーンがうまく活用されている点です。

ブロックチェーンの本質は、「データの対改竄性」と「非中央集権性」にあります。

中国の超巨大企業による無料オンライン保険という新規性の高い事業で使われているからといって、特別なことをしているわけではなく、ブロックチェーンのもつ性質をうまくビジネスモデルに利用して信頼性の高いサービスを展開しているという見方をすべきでしょう。

非金融領域における中国のブロックチェーン市場動向

視点①:真贋判定

非金融領域における中国のブロックチェーン活用のうち、もっとも特徴的な技術の適用対象は「真贋判定」でしょう。

真贋判定とは、ある財・サービスが「本物かどうか」を見極めることです。

これまでも度々ニュース等で取り上げられてきた通り、中国市場は偽造品の多さに特徴があります。

クラウドファンディング等で発表された新製品が、実際に出荷される前に安価にコピーされて利益余地を失ってしまうことに対して、「山寨死(Shānzhài sǐ)」という名前がつけられるほど、中国における「パクリ」問題は日常にあふれています。

そのため、中国市場における真贋判定は日本とは比較にならないほど高い価値をもちます。

そこで、導入されるのがブロックチェーンです。

データの改竄性の高さに加え、学位証明やサプライチェーンのトレーサビリティ向上によく利用されるほどの高い追跡性をもつブロックチェーンを利用することで、「山寨」に歯止めをきかせることができるのではないかと期待されています。

この真贋判定サービスとしてユニークな事例に、「天水リンゴ」があります。

出典:Blockchain Business & Solution

元々、ブランド力のあるリンゴとして有名だった天水リンゴですが、近年、天水リンゴの名前を語った偽物が市場に出回り被害を受けてしまっていたことを受け、ブロックチェーンを活用した対策に乗り出しました。

天水リンゴでは、上図のように、リンゴにQRコードのフィルムを貼り付けて日焼けさせることで、自社ブランドの真贋判定を可能にしています。

視点②:公共事業

中国では、公共領域でも積極的にブロックチェーンの技術導入が進んでいます。

公共領域へのブロックチェーン導入として有名な例は、公共調達の入札への適用でしょう。

実際の事例として、2020年6月23日より、中国雲南省の昆明市で、中国初のブロックチェーンを活用した入札プラットフォーム「Kun­y­il­ian (昆易链) 」が運用を開始しています。

Kun­y­il­ianは、北京のテクノロジー企業「Bei­jing Zhu­long」が、テンセントのTBaaS(Tencent Blockchain as a Service)システムを土台にブロックチェーン技術を応用・開発したプラットフォームで、試験運用中にも、公式の入札データに関連する約6万のブロックチェーン証明書が発行されたとされています。

また、同プラットフォームに技術提供を行なったテンセントは、すでにブロックチェーン技術を用いたサービスを複数展開しており、深センの地下鉄でブロックチェーンによる電子請求書発行システムを配備しています(CoinPost)。

こうした動きを皮切りに、今後、中国では、公共領域への技術導入がますます進んでいくと考えられます。

視点③:研究開発

本記事での冒頭でも触れた通り、中国では、政府が積極的にブロックチェーンを始めとするインフラ投資を進めており、研究開発も日本とは比べ物にならないスピードで進んでいると言われています。

すでに紹介した中国の国家ブロックチェーンインフラプロジェクト「BSN(Blockchain-Based Services Network)」が6種類のパブリックブロックチェーンを統合する出来事をみても、そのスピードは明らかです。

BSNの統合では、8月10日にローンチされるBSNの海外版「BSN International Portal」に対して、イーサリアム、イオス、テゾス、Nervos、ネオ、IRISnetが統合されることで、6種類のブロックチェーンの開発者が、BSNが海外に設置するデータセンターのストレージや帯域などのリソースを活用して、dApps(分散型アプリケーション)の開発が行えるようになります(CoinPost)。

また、中国の工業和信息化部(MIIT、日本の経済産業省に相当)は、2020年5月14日、Tencent(騰訊)、Huawei(華為)、Baidu(百度)、JD(京東)、Ping An(平安)などの企業が、ブロックチェーンや分散型台帳技術の国家標準の設定を目的とした新しい委員会に参加すると発表しています(THE BRIDGE)。

同委員会には、MIIT、地方自治体、シンクタンク、大学、スーパーコンピューティングセンター、ハイテク企業から71人の研究者と専門家が集められており、MIITの次官であるChen Zhaoxiong氏が委員長を務める他、5名の副長は中国人民銀行のデジタル通貨研究院の1名を含めて、全て政府のスタッフで構成されています(HEDGE GUIDE)。

こうした官民をあげた取り組みは、ブロックチェーン技術の研究開発を推し進めるのみならず、技術を社会実装する道を斬り開くためにも重要な動きです。

今後、中国のブロックチェーン技術はさらに発展を遂げるでしょう。

ブロックチェーンのプラットフォームは用途で選ぼう!開発基盤の特徴を解説

Ethereum、EOS、Ripple、Quorum、Hyperledger・・。ブロックチェーンのプラットフォームには、用途に合わせて数多くの種類があります。開発基盤として選ぶならどれがいいか?特徴やメリット・デメリットを解説します。

なお、ブロックチェーンの過去、現在、今後について、概念の全体像を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→ 参考記事:『【完全版】ブロックチェーンの全知識〜過去・技術・ビジネス・今後〜』

ブロックチェーンのプラットフォームは用途に合わせて選ぼう

実は多数あるブロックチェーンのプラットフォーム

ブロックチェーンを活用したプロダクト・サービスの開発には、開発の実装基盤となるプラットフォームが不可欠です。

一般にはあまり知られていませんが、ブロックチェーンのプラットフォームには非常に多くの種類があります。

ざっと名前を列挙するだけでも、次の通りです。

  • Bitcoin Core
  • Ethereum
  • EOS
  • Ripple
  • NEM
  • Quorum
  • Hyperledger Fabric
  • Corda
  • Sawtooth
  • Stellar
  • TRON
  • NEO
  • Qtum
  • Waves
  • BitShares
  • Omni
  • ・・・など多数

もちろん、これらの全ての名前や特徴を覚える必要はありません。

しかし、代表的ないくつかのプラットフォームについては、分類方法と最低限の特徴をおさえておくほうが、実際にブロックチェーンプロジェクトを推進する、あるいは外注する上でやりやすくなるでしょう。

なぜ、プラットフォームを用途で選ぶか?

ブロックチェーンのプラットフォームを分類する方法は様々にありますが、本記事では、「用途」に合わせた分類をお勧めします。

用途に合わせるというのは、例えば、単純な送金ならビットコイン、ゲームならイーサリアム、銀行間送金ならRippleやCordaを開発基盤とするのが好ましい、といった具合です。

他の分類方法には、例えば次のようなものが考えられます。

  • パーミッションタイプ
  • 仮想通貨の有無
  • スマートコントラクト機能の有無
  • 秘匿性の高さ
  • トランザクション速度(tps)

しかし、これらの分類方法では、分け方が大味すぎていまいち特徴を掴めない、開発時の構成次第で条件が変わりうる、といった限界があるため、「結局よくわからない」になってしまいます。

また、色々と知識を手に入れたところで、結局のところは開発プロジェクトで達成したいゴール、つまり自社の課題に応じた開発基盤を選択するのがセオリーなので、骨折り損にもなってしまいかねません。

こうした理由から、以下では、代表的な8つのプラットフォームについて、用途に合わせて簡単な解説をしていきます。

代表的な8つのブロックチェーンプラットフォーム

数多く存在するブロックチェーン開発基盤のうち、本記事では、代表的なプラットフォームとして、Ethereum、EOS、Ripple、NEM、Quorum、Hyperledger Fabric、Corda、Bitcoin Coreの8つを取り上げます。

これらのプラットフォームは、認知度の高さ、機能の良さ、実際に使われている頻度などについて、当社エンジニアの現場感覚をもとに「これはおさえておいた方が無難」という基準で選んだものです。

プラットフォーム名 誰向けか? 用途例
Ethereum(イーサリアム) エンタープライズ向け(toC企業) トークン、ゲーム、etc
EOS(イオス) エンタープライズ向け(toC企業) ゲーム、etc
NEM(ネム) エンタープライズ向け(toC企業) ゲーム、etc
Ripple(リップル) エンタープライズ向け(銀行) 銀行間送金(特化)
Corda(コルダ) エンタープライズ向け(toB企業) 銀行間送金、企業間プラットフォーム、etc
Quorum(クオラム) エンタープライズ向け(toB企業) 企業間プラットフォーム、etc
Hyperledger Fabric(ハイパーレジャーファブリック) エンタープライズ向け(toB企業) 企業間プラットフォーム、etc
Bitcoin Core(ビットコインコア) 個人向け 個人間送金

上表のように、8つのプラットフォームを用途の観点から分類すると、大きく次の4つに分けることができます。

  1. toC企業向け:ゲームなどの開発に向いている
  2. toB企業向け:業界プラットフォームなどの開発に向いている
  3. 銀行向け:銀行間送金に特化している
  4. 個人向け:ちょっとした送金の手段として使われる

例えば、あなたが製造業の会社で事業責任者をしており、ブランド戦略の一環で、製品のトレーサビリティ(追跡可能性)を担保することで偽造品対策や競合製品との差別化を行いたいと考えているのであれば、2のtoB企業向けプラットフォームである、CordaやQuorum、Hyperledger Fabricを開発基盤としたプロジェクトを推進していくのがお勧めです。

あるいは、自社経済圏を構築するためにトークン発行を前提としたプラットフォームを構築したいのであれば、現状であれば、開発基盤はEthereumのほぼ一択でしょう。

次に詳しくみていくように、開発基盤によって主要機能の有無や情報秘匿性に違いがあります。

そのため、自身が推進するプロジェクトに向いているプラットフォームを把握し、その特性を理解しておくことは、開発者だけではなくビジネスサイドの担当者にとっても有益です。

それでは、それぞれのプラットフォームについて順に見ていきましょう。

ブロックチェーンプラットフォームごとの特徴

Ethereum(イーサリアム)

Ethereumは、2013年にロシアの若き天才、Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブリテン)により構想されたプロジェクトで、ビットコインの設計思想を開発者向けに押し広げたプラットフォームです。

Ethereumの主な特徴は次の通りです。

  • エンタープライズ向け(toC企業)
  • トークン、ゲームの開発に用いられることが多い(特にトークンはほぼ独占状態)
  • 独自仮想通貨:ETH(イーサ)
  • スマートコントラクト機能:あり
  • パーミッションレス型
  • 情報の秘匿性が低い

Ethereumは、ビットコインを設計の土台としていることもあってか、パーミッションレス型、つまり不特定多数の参加を認めるネットワークであるため、情報の秘匿性を担保しづらく、企業の中でもゲーム開発などのtoC企業に採用されやすい点に特徴があります。

また、特筆すべき点として、トークンの開発基盤として実質的に市場を独占していることがあげられます。

これは多分に経路依存的な話で、トークンをリアルマネーと交換する取引所自体が、Ethereumの初期トークンであるERC20の規格に合わせてつくられたために、Ethereum以外での開発が困難になってしまっていることを背景としています。

実際、このために、Ethereum自体に関しても、ERC20のバグ修正を実装したERC223というトークンの規格が取引所に採用されないという問題を抱えています。

EOS(イオス)

EOSは2017年から1年間にわたるICOを行い、約4,000億円の資金を調達した結果生まれたプラットフォームで、Ethereumと同じくパーミッションレス型、独自仮想通貨をもったtoC企業向けの開発基盤です。

EOSの主な特徴は、次の通りです。

  • エンタープライズ向け(toC企業)
  • ゲームや取引所、ギャンブル等の開発に用いられることが多い
  • 独自仮想通貨:EOS(イオス)
  • スマートコントラクト機能:あり
  • パーミッションレス型
  • トランザクション速度(tps)が速い

EOSの最たる特徴は、トランザクション速度(tps)の速さです。

その速さはtps3000以上と言われており、秒間7トランザクションのビットコインや数百単位のEthereumと比べるとはるかに処理能力が高いことがわかります。

こうした特徴や手数料の安さから、一時期は「イーサリアム・キラー」とも呼ばれて大きな期待を集めていたEOSですが、2020年現在では、若干影を潜めています。

NEM(ネム)

NEMは2015年に開始されたプラットフォームで、EthereumやEOSと同じくパーミッションレス型、独自仮想通貨をもったtoC企業向けの開発基盤です。

NEMの主な特徴は、次の通りです。

  • エンタープライズ向け(toC企業)
  • ゲームや取引所、ギャンブル等の開発に用いられることが多い
  • 独自仮想通貨:XEM(ゼム)
  • スマートコントラクト機能:あり
  • パーミッションレス型
  • プライベート型の派生プラットフォーム:mijin

NEMはビットコインの「金持ちがさらに儲かる」世界観に対するアンチテーゼとしてつくられており、消費電力5Wのマイクロコンピューターでノードとしての運用が可能な他、各ノードが次のブロックを生成できる確率をNEMネットワーク内での重要度(importance)をもとに計算する「Proof of Importance(PoI)」と呼ばれる独自のアルゴリズムによって、資金力がないノードでも発言力をもてる仕組みが採用されています。

なお、このNEMのブロックチェーンをパブリック型からプライベート型に変更した派生プラットフォームとして、mijinというプロダクトも公開されています。

Ripple(リップル)

Rippleは、2012年から開始されたブロックチェーンプラットフォームです。

XRPという仮想通貨を発行しているため、そちらの方が有名かもしれません。

Rippleの主な特徴は次の通りです。

  • エンタープライズ向け(銀行)
  • 銀行間取引に特化している
  • 独自仮想通貨:XRP(リップル)
  • スマートコントラクト機能:あり
  • パーミッションレス型
  • 送金が速く、手数料が安い
  • 秘匿性が低い

Rippleは、銀行間送金に特化したプラットフォームで、送金スピードと手数料の安さに定評があります。

具体的には、トランザクション速度(tps)が1500で、約 3.6 秒という速さで国際送金を行える上に、0.001 ドル程度の取引手数料で済みます。

個人間送金のような頻度の少ない、かつ、もともとの手数料も大きくない取引であれば、のちに説明するBitcoin Coreで十分かもしれませんが、エンタープライズ、特に銀行のような膨大な頻度で多額の取引を行う企業にとっては、送金スピードと手数料の安さは大きなメリットといえるでしょう。

ただし、近年では、世界移民人口の成長率が年率9%にまで及び、個人や中小企業の国際送金ニーズも高まってきています。

Rippleは、こうした動きに合わせて、従来から進めていた銀行統合プラットフォームとしての位置付けを土台に、国際移民送金市場シェアを獲得すべく、決済インフラとしての各種サービスを提供していると発表しています。

(→参考記事:Tech Crunch「ブロックチェーンを活用した国際送金の「リップル」、日本市場では急増する移民送金ニーズに対応」)

Corda(コルダ)

Cordaは、2014年に設立されたソフトウェア企業である「R3」(R3CEV LLC)を中心とした「R3コンソーシアム」によって開発・推進されているブロックチェーンプラットフォームです。

開発当初は、「取引におけるプライバシーの確保」という金融取引の要件を満たすための特化型プラットフォームとして誕生しましたが、その後は、金融領域に強みを持ちつつも他の領域にも使えるtoB企業向けプラットフォームとして利用されています。

Cordaの主な特徴は次の通りです。

  • エンタープライズ向け(toB企業)
  • 銀行間取引に強みをもつが、他の領域にも使える
  • 独自仮想通貨:なし
  • スマートコントラクト機能:あり
  • パーミッション型
  • 秘匿性が高い

Cordaは、銀行間取引に特化したRippleと、次に紹介するtoB企業向けのQuorumやHyperledger Fabricとの間の性質をもっています。

まず、Rippleとの違いは、Rippleが自社の独自仮想通貨をもつパーミッションレス型のプラットフォームであるのに対して、Cordaは参加者の限定されたパーミッション型のプラットフォームである点です。

この違いから、Rippleと比較して、Cordaは情報の秘匿性を高いレベルに保持できる点に特徴があります。

実際に、Cordaを運営しているR3コンソーシアムには、「バンク・オブ・アメリカ」や「みずほ銀行」などのメガバンクが名を連ねており、Cordaはこうした企業の要求する高いプライバシー要件をクリアしています。

次に、QuorumやHyperledger Fabricとの間には次のような違いがあります。

  • エンタープライズ向け基盤として後発
  • スクラッチで作られておりユーザー企業のユースケースに対応した作りとなっている
  • Corda基盤上で作られたアプリ間のデータ連携がしやすい(インターオペラビリティが高い)
  • 開発がKotlin / Javaで枯れた技術を使っているため開発者を確保しやすい

Quorum(クオラム)

Quorumは、2016年にJ.P. Morganによって開発されたオープンソースソフトウェアです。

toC企業向けのプラットフォームであるEthereumをtoB企業向けに改変したもので、基本的にはEthereumと同様の特徴を持ちます。

Quorumの主な特徴は次の通りです。

  • エンタープライズ向け(toB企業)
  • 企業間プラットフォームに用いられる
  • 独自仮想通貨:なし
  • スマートコントラクト機能:あり
  • パーミッション型
  • 秘匿性が高い
  • 95%はEthereumと同じ

QuorumがEthereumと異なる点は、「情報の秘匿性」と「スループット(単位時間あたりの処理能力)」です。

EthereumはもともとBitcoinを開発者向けに展開したパーミッションレス型のプラットフォームなので、ネットワークへの参加者が限定されておらず、プライバシー要件を高く保つことができません。

また、上述した通り、トランザクション処理速度(tps)も数百程度であり、企業間取引に求められる速度には達していません(ただし、Ethereumは近いうちに、大型アップデートによってtpsを3000以上にすると発表しています)。

Quorumでは、Ethereumの特徴を基本的には維持しつつ、これらの課題をクリアすることで、toB企業向けのプラットフォームとして展開されています。

Hyperledger Fabric(ハイパーレジャーファブリック)

Hyperledger Fabricは、2015年12月にLinux Foundationによって開始されたブロックチェーンプラットフォームです。

より厳密に言えば、複数のフレームワークやツールなどから構成されるプロジェクトである「Hyperledger」のうち、最もtoB企業で利用されているフレームワークが「Hyperledge(プロジェクトの中のフレームワークである) Fabric」です。

なお、冒頭で名前を紹介したSawtoothも、Hyperledgerプロジェクトの中のフレームワークの一つです。

Hyperledger Fabricの主な特徴は次の通りです。

  • エンタープライズ向け(toB企業)
  • 企業間プラットフォームに用いられる
  • 独自仮想通貨:なし
  • スマートコントラクト機能:あり
  • パーミッション型
  • 秘匿性が高い

基本的な特徴としては、Quorumと同じと考えて問題ありません。

違いとしては、Hyperledger FabricがIBM社のエンジニアによって最初からtoB企業向けに特化してつくられたプラットフォームであるために、Quorumよりもさらにエンタープライズ要素が強いことです。

実際に、Hyperledger Fabricは、IBM社の牽引する各種の業界プラットフォーム開発(例えば、物流業界における「Trade Lens」など)の基盤として用いられています。

非金融領域でエンタープライズ向けのブロックチェーンネットワークやデータベースを構築していくのであれば、まずはこのHyperledger Fabricか、前述のQuorumを選択するのが良いでしょう。

Bitcoin Core(ビットコインコア)

最後に、Bitcoin Coreについて説明します。

Bitcoin Coreは、言わずもがな、仮想通貨やブロックチェーン技術の先駆けであるBitcoinの開発基盤となるプラットフォームです。

Bitcoin Coreの主な特徴は次の通りです。

  • 個人向け
  • 開発基盤としてはほとんど用いられない
  • 独自仮想通貨:BTC(ビットコイン)
  • スマートコントラクト機能:なし
  • パーミッションレス型
  • 秘匿性が低い
  • トランザクション処理速度が遅い

他のプラットフォームが、何らかの用途に合わせた開発基盤として構築されたのに対して、Bitcoin Coreは、仮想通貨としてのビットコインを世に送り出すために「サトシ・ナカモト」によって構築されたために、エンタープライズ向けのブロックチェーンプラットフォームとしては機能しません。

また、スマートコントラクトも、Ethereumの生みの親であるVitalik Buterin(ヴィタリック・ブリテン)によって生み出されたもののため、Bitcoin Coreには機能が搭載されていません。

さらに、PoWと呼ばれるコンセンサス・アルゴリズムを採用していることから、トランザクションも7tpsと非常に遅く、企業間の送金などにも向いていません。

こうしたことから、Bitcoin Coreが開発基盤として用いられることは滅多になく、その用途は、ビットコインそのものの利用や、個人間送金などに限られています。

医療・ヘルスケア産業とブロックチェーン、2020年の最新事例と考え方

国内26兆円の市場で700万人の雇用を抱える医療・ヘルスケア業界では、ブロックチェーン技術を応用した産業変革の動きが加速しています。予防医療の実現に向けた業界の課題とデータに対する考え方、海外・国内の最新事例を併せて解説します!

なお、ブロックチェーンビジネスの考え方、全体像の概観を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。

→ 参考記事:『ブロックチェーンのビジネス活用は非金融がアツい!事業化3つの視点とは?』

ブロックチェーンは医療・ヘルスケア産業を変えうるか?

2030年に向けて変革が求められる医療・ヘルスケア産業と予防医療

2020年現在、医療・ヘルスケア産業は、クラウド、AI、ブロックチェーン、IoTなど、およそあらゆる先端情報技術による構造変革が求められています。

構造変革が求められている背景には、マーケットの拡大(つまりは医療や介護を必要としている人が増えている)、それに伴う労働力の集中、そして医療崩壊の可能性という、3つの社会状況の変化があります。

第一に、医療・ヘルスケア産業は、年々、急拡大を続けており、2020年時点で国内26兆円、2030年には37兆円の市場規模に達するとみられています。

この背景には、引き続く社会の高齢化に加えて、予防や健康管理、生活支援サービスの充実、医療・介護技術の進化があります。

出典:事業構想

第二に、マーケットの拡大は、医療・ヘルスケア業界に携わる人口の増加ももたらすでしょう。

総務省の「労働力調査」によると、2012年には706万人だった医療系の労働人口は、2030年には944万人にまで増え、あらゆる産業の中で最も労働力を必要とする産業になると言われています。

出典:事業構想(単位は万人)

そして、第三に、こうした市場成長の帰結は、おそらく日本経済の活性化ではなく、医療崩壊です。

少子高齢化が進む中、健康寿命が伸びないままに平均余命が伸びていくと、税金の供給と社会保障費としての医療費のバランスが崩れ、社会保障システムに支障をきたします。

また、医療現場、介護現場はますます厳しさを増し、「割に合わない仕事」が増えていくことで、労働者の生活水準のみならず、患者や被介護者の得られるサービスレベルが低下することによる国民全体のQOLの低減も招きます。

さらに、最悪の事態になれば、例えば2020年に発生したCovid-19(新型コロナウィルス)が引き起こした病院の業務混乱、崩壊のように、医療サービスの需要者と供給者のバランスと、それを支えるシステム全般がうまく機能しなくなることで、「命の選別」をしなくてはならなくなる事態も、将来的には十分にあり得るでしょう。

こうした中、切に求められているのが「予防医療」です。

予防医療は公衆衛生の考え方の一つで、病気になってから、あるいは要介護になってから対応するのではなく、病気そのものを未然に防ぐことで、健康寿命を伸ばし、医療崩壊を防ごうという考え方です。

2030年、さらにはその先の未来に向けて、日本の医療・ヘルスケアのあり方は、この予防医療という考え方にシフトしていかなければなりません。

そして、予防医療が真価を発揮するためには、ヘルスケアデータの利活用と、そのためのシステム変革が必要になってきます。

ブロックチェーンは、まさにこの点において、医療・ヘルスケア業界の変革をサポートする有望技術として、注目を集めています。

そもそもブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

ブロックチェーンが医療・ヘルスケア業界の変革に向いている理由

不動産、物流など、様々な業界で注目されているブロックチェーンですが、医療・ヘルスケア業界の変革に向いている理由はなんでしょうか?

この問いに対する考え方は色々あり得るものの、答えの一つは、「医療・ヘルスケアが、ブロックチェーンがもつデータの対改竄性と、非中央集権というコンセプトを活かせる領域であること」でしょう。

まず、当然のことながら、医療・ヘルスケアで扱う情報は、個人情報の中でも特に秘匿性の高い情報です。

この情報を取り扱う上では、データベースやシステムのセキュリティ、とりわけデータの改竄に耐え得る能力が重要になります。

ブロックチェーンは、暗号資産(仮想通貨)で用いられる「パブリックチェーン(不特定多数の参加が認められる)」と、「プライベートチェーン(管理者のもと特定メンバーの参加が認められる)」の2種類に大別されますが、このうちプライベートチェーンでは、特にセキュリティ要件を高く担保することが可能です。

また、医療・ヘルスケア業界は、次のような性質をもった産業であると言えます。

  • 診療情報や遺伝子情報といったもっともセンシティブなデータのひとつを扱うため、情報の非対称性が大きい
  • 動く金額が大きいため、データ改竄に関する経済的な動機が大きくなる
  • 患者側にデータ自決権がない

こうした性質をもった業界でデータドリブンな変革を行なっていくためには、中央管理者の存在が障害になりうると考えられます。

したがって、ブロックチェーンが非中央集権的に振舞うことができるシステムであることも、医療・ヘルスケア業界との相性を良くしていると言えるでしょう。

ブロックチェーンの現状と課題

ただし、気をつけなければならないことは、ブロックチェーンが「万能の救世主」というわけではないことです。

「ブロックチェーンであればなんでもできる」といった誤解をよく見かけますが、現時点の実例で言えば、実証研究的なプロジェクトに終始しているものも多く、実際に変革を行う上では数多くの障害があります。

とりわけ、スケーラビリティの問題は、医療・ヘルスケア業界でブロックチェーンが活用されるための大きな課題となるでしょう。

スケーラビリティとは、「トランザクションの処理量の拡張性」、つまり、どれだけ多くの取引記録を同時に処理できるかの限界値のことを指します。

ブロックチェーンは、その仕組み上、従来のデータベースよりもスケーラビリティが低くならざるを得ないという課題を抱えています。

InterSystemsのブログによると、共通ストレージインテンシブ医療データに必要な一般的なデータストレージは、次の通りです。

  • X線 = 30 MB
  • マンモグラフィー = 120 MB
  • 3D MRI = 150 MB
  • 3D CT スキャン = 1 GB
  • デジタルパソロジ―画像= 350 MB (平均)
  • 100 GB 10億回の読み込み – 一般的な人のゲノム
  • 各ゲノムの異なるファイルに対し 1 GB

このように、医療・ヘルスケア業界では、他の産業よりもはるかに大きなデータの塊を保存・処理する必要があります。

この点で、ブロックチェーンの現状では、データベースとしての機能を十分に発揮することは期待できないでしょう。

なお、このスケーラビリティの問題に対しては、近年、金融領域におけるマイクロペイメントで「ライトニングネットワーク」と呼ばれる技術を活用することで、トランザクションの処理速度を向上させることに成功しています。

ただし、これはあくまで取引処理速度の向上であり、メディカルデータのような大きさのデータを保存する点について、すべての課題を解消しているわけではありません。

ブロックチェーンの活用を考える上では、こうした課題の面にも目を向ける必要があります。

「医療×ブロックチェーン」が解決しうる課題

「医療×ブロックチェーン」が解決しうる課題A:「情報の非対称性の克服」

医療・ヘルスケア業界にブロックチェーンを導入することにより解決しうる課題の1つ目は、「医療やそれに付随する情報の非対称性を克服すること」です。

上でも触れたように、医療・ヘルスケア業界では、診療情報や遺伝子情報といったもっともセンシティブなデータのひとつを扱うため、情報の非対称性が大きい点に特徴があります。

情報の非対称性が発生しやすく、利害が対立しやすい立場の違いは、例えば次のようなものです。

  • より正確な診断を下したい ↔︎ まともな医者か知りたい(医者と患者)
  • 転売等を目的とした不正な薬物購入を防ぎたい ↔︎ 偽造薬は使いたくない(処方薬の売手と買手)
  • 保険金請求に関する不正の抑止 ↔︎ 保険会社の優越的地位の濫用の監視
  • 医学論文の実験結果に不正がないことを証明・確認したい ↔︎ よりインパクトの大きな論文を出したい

こうしたプレイヤー間の情報非対称性に起因した医療・ヘルスケア業界の課題に対して、ブロックチェーンは、オープンかつ真正性の高い(データの改竄等がない)データ基盤において、第三者を排除した分散型の管理手法を提供することで、課題解決に寄与するとみられています。

「医療×ブロックチェーン」が解決しうる課題B:「自決権」「データポータビリティ」

医療・ヘルスケア業界にブロックチェーンを導入することにより解決しうる課題の2つ目は、「医療データに関する患者の自決権やデータポータビリティを確保すること」です。

データの自決権とは、患者が自身に関する医療データを所有し、自由に移転・処分できるような権利のことで、データポータビリティは、患者が医療データを他の医療機関やヘルスケアサービス等でも自由に再利用できること、すなわち持ち運び可能であることを指します。

これまで、患者は診療情報などの医療データを、自分自身に関する情報であるにも関わらず、自由に持ち運び、再利用したり処分したりすることが困難でした。

データの自決権やデータポータビリティが確保されれば、患者は例えば次のようなデータ活用を行うことができます。

  • セカンドオピニオンのために診療情報を個人に帰属させる
  • 遺伝子情報や診断情報を自らの判断で売買できる(トークンエコノミー)

これらの権利が成り立つためには、データを取り扱うシステムが「非中央集権的」で、かつ安全なものでなくてはなりません。

したがって、ブロックチェーンの活用が求められているのです。

「医療×ブロックチェーン」が解決しうる課題C:「非効率な転機業務の合理化」

医療・ヘルスケア業界にブロックチェーンを導入することにより解決しうる課題の3つ目は、「非効率な転機業務を合理化すること」です。

医療業界には大小合わせて18万軒程の医療機関があり(平成30年度、歯科医院含む)、その多くが個別の事業者によって経営されています。

また、関連機関についても、6万軒弱の薬局をはじめ、さらに数多くの法人が存在しています。

ところが、そうした医療機関のそれぞれが似たような業務プロセスに基づいた、似たような医療データを取り扱うにもかかわらず、それらのデータは個別に入手され、異なるデータベースに保管されます。

加えて、各医療機関のデータベースは相互に統合されることはなく、医療機関間でのデータ移転もほとんど行われません。

そのため、例えばクリニックと薬局のように、同じ患者に関するデータを重複して取り扱う場合には、本質的には不要な、非効率な転機業務が行われることになります。

こうした課題に対して、ブロックチェーンを活用してデータベースの統合、連結をはかっていくことで、例えば次のように業務の合理化をはかることができます。

  • 医者と薬局での似たような問診票の省略
  • 保険金請求に関する似たような伝票の突合業務・転機業務の合理化

2030年に向けて、労働力の不足が深刻さを増していく医療・ヘルスケア業界において、ブロックチェーンによる業務の効率化は今後注目を集めていくことでしょう。

海外動向

事例①:エストニア

これまで述べてきた医療へのブロックチェーン活用方法を国家レベルで行なっている事例として有名なのが、エストニアの電子政府です。

エストニアでは、プライベート型のブロックチェーン技術を応用して電子カルテを国全体で共有することで、「データポータビリティの確保」「転機業務の合理化」という課題を克服しました。

具体的には、次のような価値が実現されているようです。

  • 電子カルテの利用、処方せんの受付、保険請求をすべてオンライン化
  • 医療機関の待ち時間を804年分短縮
  • 自身の医療情報を国内のあらゆるところから確認できる
  • 医療情報のアクセス記録を透明化

エストニアの事例から、医療業界の克服すべき課題は、国家レベルとは言わずとも、業界内での提携・統合を前提としたブロックチェーンの活用によって、初めてその効果を発揮しうるものと言えるかもしれません。

事例②:MedRec

データポータビリティを実現する他の事例に、MITメディアラボが開発したMedRecが挙げられます。

MedRecはイーサリアムを利用したプライベートチェーンで、過去の医療機関の同意や同意に必要な手続きを経ることなく、医療情報の再利用を可能にするシステムです。

MedRecでは、コンセンサスアルゴリズム(ネットワーク内での合意形成のルール)としてPoA(Proof of Authority)が用いられており、医療機関が認証し、承認された機関のみが医療履歴へのアクセスが可能となります。

これにより、前述した「非中央集権性」の性格を維持しつつ、秘匿性の高い医療情報に対するセキュリティも同時に担保することを狙っています。

MedRecの事例でも、エストニアの事例と同じように、複数の医療機関が参加するネットワーク基盤を形成することで、医療データをうまく有効活用するだけでなく、データ移転のミスなどのヒューマンエラーによる医療リスクを減らしています。

事例③:The MediLedger Project

医療・ヘルスケアの関連業界でブロックチェーンを活用した事例の一つに、アメリカの製薬業界で発足したThe MediLedger Projectがあります。

2020年現在、FDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品局)の発令したDSCSA(医薬品サプライチェーンセキュリティ法)という法律により、アメリカの製薬企業は、医薬品に個別の番号を付けてサプライチェーンを管理することが求められており、2023年には、サプライチェーンの薬を追跡できる“電子的な追跡システム”に参加しなければなりません。

このサプライチェーンにおけるトレーサビリティの問題を解決する手段として、ブロックチェーンが注目を集めており、実際にプロジェクト化されたのがThe MediLedger Projectです。

The MediLedger Projectは、米Chronicled(クロニクルド)社が、ジェネンテク、ファイザー、ギリアド・サイエンシズといった大手製薬会社や医薬品サプライチェーン各社と共同で立ち上げた実験プロジェクトで、コンソーシアム型のブロックチェーンシステムを使うことで、いつ誰がどの薬に触れたかを追跡することができます。

さらに、このプロジェクトでは、医薬品の取引に関するプロトコルを開発することで、情報の非対称性を解消し、業界全体の効率化を狙っています。

すなわち、従来は個別交渉を行なっていた医薬品の価格設定や契約について情報を共有し、標準化をはかろうという試みです。

国内動向

事例①:サスメド

日本国内では、海外事例のような業界全体を巻き込んだ大きな動きはまだ見られず、各社、実証実験の段階に留まっています。

その一方で、ブロックチェーンを活用した医療変革を起こそうと企てるスタートアップ企業が多方面で活躍を始めています。

その代表的な医療系スタートアップの一つが、医師でもある上野太郎氏が代表を務めるサスメド社です。

サスメドは、不眠症治療用アプリやデジタル医療基盤を開発する他、国立がん研究センターと乳がん患者向けアプリの共同研究を行うなど医療のデジタル化を推進しています。

そして、そうした研究手法の一つとして、サスメドでは「ブロックチェーン技術を用いた臨床研究モニタリングの実証」が行なわれています。

ブロックチェーンの技術を研究へと応用する背景には、前述した、「データ改竄に関する経済的な動機の大きさ」があります。

市場規模、社会に与えるインパクトが共に大きい医療・ヘルスケア業界では、基礎研究の成果が社会へと実装される過程、あるいはその先にある新市場で多額の資本が動くことになります。

したがって、基礎研究の裏付けとなるデータが改竄されるリスクが大きくなり、このリスクに対応する必要が生じてきます。

実際に、2018年4月には、厚生労働省はが施行した臨床研究法によって、「臨床試験データのモニタリング実施」が義務づけられています。

その結果、各研究主体は、この法令を遵守するために、データの改竄や誤りの有無を確認するためのコストを払わねばならず、臨床試験や治験の投資効率が悪くなっていると言われています。

(参照:『医療×ブロックチェーンの可能性──サスメド・経産省が「課題と規制」を議論【btokyo members】』

こうした改竄リスクおよびリスクヘッジにかかる確認コストを小さくするための手法として、データの対改竄性が高いという特徴をもつブロックチェーン技術が応用されているのです。

事例②:健康銀行

医療系スタートアップの他の事例として挙げられるのが、Arteryex社による医療情報プラットフォームです。

Arteryexは2018年に田辺三菱製薬アクセラレーターでブロックチェーンを活用した医療情報プラットフォーム「健康銀行」を提案し、独自のArteryex Chainを活用して医療情報プラットフォーム事業の展開を開始しました。

同社ホームページによると、健康銀行は、AIやブロックチェーン等の先端技術を取り入れた、患者を中心とした「次世代医療情報プラットフォーム」であり、主に次のような特徴を持っています。

  • 患者が主体となり、自身の健康状態、診断結果を一元管理できる
  • 患者からオプトインが取得できているデータのみ活用する
  • 患者へデータ活用の価値を還元する

これは、医療業界の課題である「情報の非対称性」や「データの自決権・データポータビリティ」の問題を解消するための動きと言えます。

同社は、こうしたソリューションにブロックチェーンを利用するメリットとして、次の3点を挙げています。

  • データ分散管理によるセキュアなシステムの構築
  • 削除できない・されないデータ閲覧履歴の構築
  • 患者様がデータを管理し、患者本人からデータ開示を許可できる

この事例は、ブロックチェーンがもつ「データの対改竄性」「非中央集権性」がセキュアな情報基盤をつくりだし、それが医療・ヘルスケア業界の革新を支えていくという、産業全体の今後の大きな潮流を予感させるものだと言えるでしょう。

スマートコントラクトとは?ブロックチェーンの社会実装手段を解説!

スマートコントラクトとは、1994年にニック・スザボが提唱した「契約の自動化」を意味するプロトコルです。取引プロセスのデジタル化・自動化による取引コスト削減を可能にし、ブロックチェーンの社会実装に一役買っています。事例と共に詳しく解説します!

なお、ブロックチェーン技術の応用事例について、全体像や他の事例を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→参考記事:『ブロックチェーンのビジネスモデル・活用事例〜非金融など応用領域も解説〜』

スマートコントラクトとは?

スマートコントラクト=コンピュータプログラムによる契約の自動化

スマートコントラクトは、1994年にNick Szabo(ニック・スザボ)という法学者・暗号学者によって提唱され、Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブリテン)がEthereum基盤上で開発・提供し始めたコンピュータプロトコルです。

「契約(コントラクト)の自動化」を意味するスマートコントラクトは、事前定義から決済に至るまで、一連の契約のスムーズな検証、執行、実行、交渉を狙いとしています。

スマートコントラクトの仕組みは、提唱者のNick Szaboが引き合いに出した「自動販売機」の例で説明されることが一般的です。

自動販売機は、その名の通り、人の手を介さずに自動で飲料を販売する機械であり、①指定された金額分の貨幣の投入、②購入したい飲料のボタンの押下、という2つの条件が満たされることで自動的に「販売契約」が実行されます。

自動販売機自体はとてもシンプルな仕組みですが、「契約の事前定義→条件入力→履行→決済」という一連の流れを全て自動化しているという点でスマートコントラクトの好例と言えるでしょう。

なお、スマートコントラクトのブロックチェーン上での呼称は基盤によって異なります。

例えば、Ethereumであればそのまま「スマートコントラクト」と呼ばれていますが、HLF(Hyperledger Fabric)では「ChainCode」と呼ばれています。

それぞれ名称は異なるものの、同じくブロックチェーン基盤上でのスマートコントラクトサービスを指している点に注意してください。

スマートコントラクトとブロックチェーンに共通する思想:DAO

Nick Szaboが提唱したプロトコルがVitalik ButerinによってEthereumに組み込まれたのは決して偶然ではありません。

スマートコントラクトとブロックチェーンは、その根底に、共通する思想をもっており、後に見るように、スマートコントラクトはブロックチェーンの思想を社会実装する手段としてうまく機能するからです。

両者の思想は、DAO(Decentralized Autonomous Organization、ダオ、自立分散型組織)という概念を中心に理解することができます。

DAOとは、中央の管理者をもたないネットワーク型組織のことで、個々に自立したネットワーク参加者が自由にふるまう中で、組織全体としての判断や意思決定、実行が自動的になされていくような組織形態です。

ブロックチェーン誕生のきっかけとなったビットコインはDAOの典型例だと言われており、PoWと呼ばれる事前の意思決定ルール(「コンセンサスアルゴリズム」)をもとに、ノードと呼ばれる参加者各々の利害関係に基づいた「分散的な」ネットワーク運営がなされています。

Vitalik Buterinは、まさにこのブロックチェーンがもつ「分散性」に注目して、その恩恵を金融領域以外にも押し広げるべく、自由なアプリケーションの開発基盤としてのEthereumをつくり、その基盤上での「個々に自立して分散した」取引を可能にする機能として、スマートコントラクトのプロトコルを採用したのです。

このように、スマートコントラクトは同じ思想をもった技術であるブロックチェーンとの相性が良く、EthereumやHyperledgerといったブロックチェーン基盤上で開発・展開されたアプリケーションにスマートコントラクトの機能を組み込むことで、管理者や実行者を介することなく、データ改竄のリスクを下げる形での契約履行が可能になると期待されています。

そして、自動販売機にもみられるように、スマートコントラクトは取引プロセスを自動化できることから、実際に、決済期間の短縮や不正防止、仲介者排除によるコスト削減といった目的で用いられています

こうしたスマートコントラクトとブロックチェーンの切っても切れない関係を語る上で、DAOという思想への理解を外すことはできないでしょう。

そもそもブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

ブロックチェーンの実装手段としてのスマートコントラクト

ブロックチェーンの社会実装

ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並ぶ、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有望技術の一つです。

DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、大きくは産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーション、小さくは開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革など、仕事だけでなく、私たちの生活全体を大きく変える可能性として期待されています。

つまり、「ブロックチェーンを社会実装する」ことで、世の中の不便や非効率を無くしていくことができるのです。

実際に、ブロックチェーンは既に様々な既存産業でビジネス化されており、2020年度の世界ブロックチェーン市場規模は30億米ドルにものぼると言われています。

例えば、IBM社とMaersk社の協働による物流プラットフォーム、中国における医療用品寄付向けポータル、国連による難民・ホームレス等向けIDサービスなど、その実装対象は非常に幅広いのが特徴です。

他方、国内でも、数年前からブロックチェーンの社会実装に対する注目が集まっています。

実際に、経済産業省が平成27年度に発表したブロックチェーンに関する調査資料では、ブロックチェーンは将来的に、国内67兆円の市場に影響を与えると予想されています。

出展:平成27年度 我が国経済社会の 情報化・サービス化に係る基盤整備 (ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに 関する国内外動向調査) 報告書概要資料

経済産業省によると、ブロックチェーンは、具体的に大きく5つのテーマで、社会変革・ビジネスへの応用が進むとされています。

  1. 価値の流通・ポイント化・プラットフォームのインフラ化
  2. 権利証明行為の非中央集権化の実現
  3. 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現
  4. オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現
  5. プロセス・取引の全自動化・効率化の実現

実装手段としてのスマートコントラクト

上記、経済産業省が示した5つの社会実装アプローチの中で、20兆円規模の経済効果をもたらすと予測されているのが「プロセス・取引の全自動化・効率化の実現」です。

これは、「契約条件、履行内容、将来発生するプロセス等をブロックチェーン上に記載」する、つまりスマートコントラクトを利用したブロックチェーンの実装による社会変革を意味しています。

つまり、世の中の不便や非効率を無くしていくためのブロックチェーン、その実装手段が契約の自動的な執行を行う仕組みであるスマートコントラクトなのです。

例えば、スマートコントラクトを利用したブロックチェーン実装で無くせる「不便・非効率」の代表例に印章(以下、ハンコ)」があります。

日本では、契約を確定させるための手段としてハンコが用いられていますが、これには人手を介したりハンコ自体の管理を厳密にするなど高いコストがかかってしまいます。

最近で言えば、2020年に世界を震撼させたCOVID-19(新型コロナウィルス感染症)への対応として多くの企業でリモートワークが義務化あるいは推奨されたものの、これは「出社してハンコを紙に押さなければ契約が決まらない」という経済効率上の課題を浮き彫りにする結果となりました。

この問題を代替する手段として注目されているのが、スマートコントラクトです。

そもそもハンコは、「個人・官職・団体のしるしとして公私の文書に押して特有の痕跡を残すことにより、その責任や権威を証明する事に用いるもの(Wikipediaより引用)」で、契約の正当性を担保するために用いられます。

そのため、契約内容を改竄できないようにし、契約の執行も権限管理ができるブロックチェーンは、ハンコの代替手段としてふさわしい技術と言えます。

さらに、スマートコントラクトでは、一度契約を締結しておけばあとは放置しておいても問題がないためメンテナンスが不要であり、かつ強制執行力があるので、将来的には裁判結果が出たら自動で差し押さえなどもできる可能性があります。

このように、スマートコントラクトは、データの対改竄性・システムの非中央集権性といったブロックチェーンの根本思想をうまく社会実装する手段として働くことで、既存産業における不便や非効率を解消できると期待されているのです。

【事例】スマートコントラクトによるブロックチェーンの社会実装

事例①:DEX(分散型取引所)

スマートコントラクトによってブロックチェーンをうまく社会実装した代表的な事例の一つが、DEX(Decentralized Exchange、分散型取引所)です。

DEXは、イーサリアムなど一部のブロックチェーンネットワーク上で展開される暗号資産(=仮想通貨)の取引所の一つで、ユーザー自身が資産管理を行う点に特徴があります。

企業が運営するCEX(Centralized Exchange、集中型取引所)が秘密鍵の管理を“Trusted Third Party”(信頼された第三者)へと委託するのに対して、DEXでは、プロトコルに従い自動化されたプロセスを通じてユーザー自身が秘密鍵の管理を行うため、クラッキングや人為的ミスによる秘密鍵の流出、倒産などの資産喪失リスクを回避することができます

この「自動化されたプロセス」を実現している技術の一つがスマートコントラクトです。

P2PネットワークであるDEXでは、暗号資産を取引したい人同士が自身の秘密鍵とコントラクトアドレスを用いて直接取引することが可能で、決済までの取引プロセスが自動で行われます。

取引所としてはまだ歴史が浅くユーザー数が少ないためにアセットの流動性が低い、中央管理者がいないため自己責任が求められるといったデメリットもありますが、他方で、ブロックチェーンを利用することによるセキュリティの高さや管理コストの低下による手数料の安さなどのメリットが魅力的であるため、利用者も確実に増加傾向にあります。

これは、「分散性」というブロックチェーンの思想が、スマートコントラクトという機能によってうまく社会実装された好例と言えるでしょう。

なお、DEXには、「0x Protocol(ゼロエックスプロトコル)」「KyberNetwork」「Bancor Protocol」、そして最近注目を集めている「Uniswap(ユニスワップ)」といった複数のプロトコルが存在しており、それぞれがブロックチェーンを社会実装するためのミドルウェアとして機能しています。

事例②:投票

スマートコントラクトの活用事例として注目を集めている領域が「投票」です。

投票は、有権者に議決権を分配し、それらが正しく行使される、つまりあらゆる改竄がなされないことを前提としています。

これは、「データの対改竄性」というブロックチェーンのセキュリティ特徴と見事にマッチしています。

ブロックチェーンを用いた投票システムでは、議決権をデジタルトークンとして発行し、スマートコントラクトによる集計を行うことで、第三者による票の改竄を防ぐことが可能になるのです。

日本国内では、2019年に、アステリア株式会社(旧:インフォテリア株式会社、本社:東京都品川区、代表取締役社長:平野洋一郎、東証一部:3853、以下 アステリア)が株主総会における議決権投票をブロックチェーン基盤上で行うことを発表しました。

アステリアは、「ブロックチェーン上のデジタルトークンを議決権として使用することで、より公正で透明性の高い投票システムの実現を証明」することを目的に、三菱UFJ信託銀行株式会社と共に投票システムを開発し、実際には次のようなフローでの投票を行いました。

  • Ethereumのスマートコントラクトによって、賛否を問う4議案10項目に必要なデジタルトークンを登録する
  • 議決権を有する株主9,307名に議決権としてのデジタルトークンを発行する
  • 議決権の総数に応じて、それぞれ167,642個のデジタルトークンによる投票の受付を行う
  • 権利行使(投票)に伴うトランザクションをブロックチェーン上に記録する

投票は、短期間に大量の処理作業をミスなく行うことが求められるシステムです。

こうしたシステムを実装するにあたって、スマートコントラクトは、まさにうってつけの技術だと言えるでしょう。

事例③:国際貿易

スマートコントラクトを利用したブロックチェーンの社会実装の3つ目の事例が、国際貿易プラットフォームへの活用です。

IBM社の発表資料によると、国際貿易は、次のような業界課題を抱えています(下記、同資料より本文の一部を抜粋)。

  • データは組織のサイロに閉じ込められている
    • 情報はサプライ・チェーン内の数十のサービス・プロバイダーによって紙やさまざまなデジタル・フォーマットで保持されていて、複雑で、わずらわしい、経費のかさむ一対一のメッセージングを必要としています。
    • 結果として組織の境界を越えると情報が矛盾し、船荷がなかなかはっきりわ からず、さらには場所によっては見えないので、効率的な流れが妨げられています。
  • 手作業、時間のかかる、紙ベースの処理
    • 最新データの収集、処理と非効率な貿易ドキュメントの交換のために、手作業で確認したり、頻繁にフォローアップが必要だったりして、ミスや遅れが生じたり、コンプライアンス・コストがかさむといった結果になります。
    • 情報が足りないために、ドキュメントは常に遅れます。
  • 通関手続きに時間を要し、不正も発生
    • 税関当局によるリスク評価は十分な信頼できる情報が欠けているために、検査率が高くなり、詐欺や偽􏰀に対する防止手段が追加されて、通関手続きが遅れます。
  • 高コストと低レベルな顧客サービス
    • これらの難問が下流に大きな影響を与えます。
    • 効果的な予測、計画やサプライ・チェーンの混乱に対するリアルタイムの対応、サプライ・チェーン全体 での信頼できる情報の共有などができないので、過剰な安全在庫、高い管理コスト、運用上の難問、最終的には貧弱な顧客サービスにつながります。

こういった課題に対して、ブロックチェーン基盤上で国際貿易プラットフォームを展開し、スマートコントラクトによる取引のデジタル化・自動化を実現することで、従来の膨大な取引コストを大幅に削減することが期待されます。

こうしたスマートコントラクトによる取引コスト削減の最も有名な事例が、TradeLensです。

Trade Lensは、2016年9月から、IBMとコンテナ船世界最大手のマースクとの共同で検証を開始したブロックチェーン基盤の海上物流プラットフォームで、荷主・ターミナル・運送業者・船社・海上保険・通関業者など、海上物流に関係するあらゆる会社間でのデータベース共有を実現し、業界全体の非効率を解消しようという一大プロジェクトです。

TradeLensでは、「グローバル・サプライ・チェーンのデジタル化」を掲げ、オープンソースの権限型ブロックチェーンであるHyperledger Fabricを元にしたIBM Blockchain Platformを利用することで、関係各社すべてでの台帳共有を実現しようとしています。

こうした事例から、多数のステークホルダーが存在し、サプライチェーンが複雑化する国際貿易のようなシステムでは、ブロックチェーンのような安全かつコストの低い技術が良いソリューションとなりうることが理解できるでしょう。

【2020年】ブロックチェーンの市場規模は?複数の統計をまとめました

ブロックチェーンの国内市場規模は、2020年で100〜200億円、2025年には1000億円を超え、関連市場を合わせると67兆円の潜在規模があるとされています。経済産業省、矢野経済研究所、ミック経済研究所等の発表資料をもとに見方を解説します。

なお、ブロックチェーンビジネスの考え方、全体像の概観を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→ 参考記事:『ブロックチェーンのビジネス活用は非金融がアツい!事業化3つの視点とは?』

ブロックチェーンのおさらい

高まるブロックチェーン市場への期待

ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並んで、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有望技術の一つです。

DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、大きくは産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーション、小さくは開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革など、仕事だけでなく、私たちの生活全体を大きく変える可能性として期待されています。

その中でも特に、ブロックチェーンは、既存技術では解決できなかった課題を乗り越える新しい手段として、ビジネスのみならず、官公庁の取り組みにおいても広く注目を集めています。

その背景として、もともとはFintech(フィンテック、金融領域におけるDX)の一分野である仮想通貨(または暗号通貨)の実現を可能にした一要素技術、つまりビットコインを支えるだけの存在に過ぎなかったブロックチェーンが、近年、金融領域にとどまらず、あらゆる既存産業・ビジネスで応用できる可能性を秘めた技術であることが明らかになってきました。

そもそもブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

ブロックチェーンの市場規模は一つじゃない!?

今見たように、ブロックチェーンは非常に幅の広い概念であり、その性質上、ビジネス活用の可能性も多岐に渡ります。

それ自体は良いことなのですが、ここで一つ問題が起こります。

ブロックチェーンのマーケットに関する情報を得るために複数のWebサイトや書籍をみてみると、大小異なる様々な市場規模予測がなされており、どの数字を参考にすべきか困ってしまう、という問題です。

これは、後に説明するように、ブロックチェーンの概念が新しく、応用可能性が非常に広いことと関係しています。

ブロックチェーンは、「インターネットと並ぶかそれ以上の技術的革新」と言われることもあるほどイノベーティブな技術です。

そのために、その技術的可能性や実社会への応用可能性をどのようにみるか、どこからどこまでをブロックチェーンに関連した市場とみるか、といった視点によって、市場規模の算出方法が大きく異なってしまうのです。

しかし、これからブロックチェーンを自社活用しようと言う人、あるいは新規事業の立ち上げを検討している人にとってみれば、市場規模の数字いかんで意思決定も左右されるでしょう。

そこで、次章以降では、資料間の偏りを割り引いて考えるべく、市場規模に関する複数の予測レポートを参照していきます。

ブロックチェーンの市場規模①:日本国内での予測

ブロックチェーン国内市場規模予測A:経済産業省(平成27年度)

ブロックチェーンの国内市場規模に関するマーケット予測で最もポピュラーな資料は、平成28年4月28日付で経済産業省の商務情報政策局 情報経済課が発表した『我が国経済社会の 情報化・サービス化に係る基盤整備 (ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料』でしょう。

同資料では、大きく次の5つのテーマでブロックチェーンの社会変革・ビジネスへの応用が進むとした上で、それら5つのインパクトの合計として、将来的に国内67兆円の市場に影響を与えると予想されています。

  • 価値の流通・ポイント化・プラットフォームのインフラ化
  • 権利証明行為の非中央集権化の実現
  • 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現
  • オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現
  • プロセス・取引の全自動化・効率化の実現

この資料は、市場がまだ大きく形成されていない初期に発表されたこと、発表元が経済産業省であることから、複数の書籍や論文等でも引用され、ブロックチェーンの潜在的可能性に対する期待を膨らませる一つの要因になりました。

そして、実際に、ブロックチェーンの応用可能性の広さとそのインパクトの大きさは資料の示す通りで、今後、金融分野にとどまらないあらゆる社会側面に広がっていくものと考えられます。

しかし、気をつけなければならない点として、この資料で言及されているのはあくまでブロックチェーン関連市場の話であって、ブロックチェーン市場そのものの規模予測ではありません

ブロックチェーンはインターネット同様、それ自体で価値を発揮するというよりも、むしろその技術を何らかの既存ビジネスに応用することによって高い価値を生み出しうる技術です。

そのため、「67兆円規模の市場に影響を与える」ほどのインパクトはあるものの、この数字には例えば、ブロックチェーンによる影響を受けているものの内容自体はブロックチェーンと無関係、といったサービスなども含まれています。

ブロックチェーンに限らず、市場規模を調べる際には、こうした「市場という言葉がどの範囲までを示しているのか」を適切に把握することが大切です。

ブロックチェーン国内市場規模予測B:矢野経済研究所

ブロックチェーンの国内市場規模に関する他の資料に、2019年5月22日付で株式会社矢野経済研究所(以下、矢野経済研究所)が発表した『2019 ブロックチェーン活用サービス市場の実態と将来展望』(有料、リンクは同資料のプレスリリースページ)があります。

同資料は、経済産業省の資料とは異なり、ブロックチェーンを活用したサービスの市場規模が予測されています。

矢野経済研究所によると、「2017年後半~2018年にかけては金融機関に留まらず、幅広い業界においてサプライチェーンや権利証明など、同技術を応用した実証実験を積極的に実施し、その活用可能性を見出しつつあ」り、その結果として、「2019年度の国内ブロックチェーン活用サービス市場規模(事業者売上高ベース)は、171億5,000万円の見込み」です。

さらに、同社は「BaaS(Blockchain as a Service)ソリューションの提供」が始まることに注目しつつ、「2022年度の国内ブロックチェーン活用サービス市場規模(事業者売上高ベース)は1,235億9,000万円」、「2017年度~2022年度の5年間の年平均成長率(CAGR)は108.8%」と見込んでいます。

また、今後の展望として、「フェーズ(段階)別では、実証実験が多いものの、2019年度以降、商用化に向けた効果検証フェーズや本格的な商用化フェーズへと進む案件が増えていく」ことを踏まえ、「日本発のブロックチェーンコンソーシアムの立上げが期待される」としています。

ここで、重要なポイントは、ブロックチェーンのビジネス活用フェーズがまだ実証段階にあるということでしょう。

革新的な技術であればあるほど、既存市場へと応用する際のハードルが高く、ビジネス活用でクリアしなければならない課題も多くなります。

そのため、実際に技術が社会実装されるまでには、技術自体の登場から長い年月を要することになります。

ブロックチェーンの場合は、概念自体の認識、技術的可能性の大きさの理解はかなり進んできているので、今後は、様々な業界での実験が繰り返され、その中から次世代の「当たり前」をつくるサービスが登場し、その後に一気に市場が拡大すると見込まれます。

こうした背景を踏まえて、前述の経済産業省の資料が将来的なインパクトの予測であったのに対して、矢野経済研究所では現在にフォーカスした統計がなされているために、数字に大きな開きがあることを理解することが重要です。

ブロックチェーン国内市場規模予測C:ミック経済研究所

ブロックチェーンの国内市場規模に関して、別の資料をもう一つ紹介します。

2020年1月6日に発刊された、株式会社ミック経済研究所(以下、ミック経済研究所)の『大きく活用用途広がるブロックチェーン市場の現状と展望 2019年度版』(有料、リンクは同資料のプレスリリースページ)です。

同資料では、ブロックチェーン関連業者(プラットフォーマー・SIer・アプリ/SWベンダー)の市場規模を予測しています。

ミック経済研究所によると、「2018年度の同市場は53.3億円、2019年度は79.9%増の95.9億円市場へと成長する見込み」で、「同市場は年平均成長率66.4%増で成長を続け、2024年度には1,000億円を超える市場へと成長」します(下図)。

出典:ミック経済研究所

この市場成長について同社は、「ブロックチェーンの技術自体は、高度なセキュリティが担保されることから金融を中心に順調に活用用途が広がって」おり、「現在はトレーサビリティや著作権の管理などでも有用とされ、金融領域以外での活用も期待されている」と、一時は落ちついたブロックチェーン市場への期待が、近年にまた高まり始めていることを指摘しています。

注目すべきことは、矢野経済研究所の調査と比べるとやや控えめな数字ではあるものの、ミック経済研究所の資料でも、ブロックチェーン市場は「2024年度には1,000億円を超える」とされており、調査方法や調査主体にかかわらず、ここ数年で大きな市場成長が見込まれていることです。

この背景には、同社が指摘している通り、金融領域以外での分野でブロックチェーンのビジネス活用が進んでいる現状があります。

この統計も、日本国内におけるブロックチェーンに対する期待の高まりを示している資料と言えるでしょう。

ブロックチェーンの市場規模②:世界予測

ブロックチェーン世界市場規模予測A:株式会社グローバルインフォメーション

次に、日本から海外へと目を転じてみましょう。

世界のブロックチェーン市場は、米国を中心に、技術的発展、市場規模ともに日本よりもはるかに進んでおり、すでに国際的大企業による大規模なブロックチェーンプラットフォームのローンチなどの動向が見られています(Mearsk社とIBM社の共同による海運プラットフォーム「Trade Lens」など)。

こうした世界市場のマーケット規模に対する統計の一つとして、株式会社グローバルインフォメーション(以下、GI)による市場調査レポート「ブロックチェーンの世界市場 – 2025年までの予測:アプリケーションプロバイダー、ミドルウェアプロバイダー、インフラプロバイダー」 (MarketsandMarkets)(有料、リンクは商品ページ) があります。

GIによると、「ビジネスプロセスの簡素化と、ブロックチェーン技術とサプライチェーン管理のニーズの高まりが、ブロックチェーン市場全体を牽引することにな」った結果、「ブロックチェーン市場規模は、2020年の30億米ドルから2025年には397億米ドルへと拡大し、CAGR67.3%という驚異的な成長を遂げる」ことになります。

この驚異的な数字の根拠として、同社は、北米を中心とした市場における銀行・金融セクターでのマーケット維持を土台に、プライベートブロックチェーンの台頭、SEMs(中小企業部門)の高成長が市場に成長をもたらすとの見方を示しています。

特に、プライベートブロックチェーンに関して、GIは次のように言及しています。

「2020年に市場規模が最大になると予測されているプライベートブロックチェーンは、ユーザー権限などでセキュリティが確保された共有データベースまたは台帳としての役割を持ちます。通常、関連する組織のみが知っているプライベートキーを使用することで、そのセキュリティが守られます。ブロックチェーン技術の一種であるプライベートブロックチェーンは、書き込み権限は単一の組織に一元管理され、読み取り権限は、組織の使いやすさに基づいて制限されます。そのブロックチェーン技術を企業間のユースケースに活用するという点で、企業にとってより多くの機会を提供します。」

実際に、日本でも、プライベートブロックチェーンに対する取り組みが各業界の先進的な企業によって進められ始めています

この時期に、ブロックチェーンに対する投資を行えていたかどうかが、10年先の企業の未来を変えるかもしれません。

ブロックチェーン世界市場規模予測B: IDC Japan 株式会社

ブロックチェーンの世界市場規模を予測する他の資料に、2019年9月に、IT専門調査会社である IDC Japan 株式会社(以下、IDCJ)が発表したWorldwide Semiannual Blockchain Spending Guideがあります。

IDCJによると、「世界のブロックチェーンソリューションに対する支出額は2023年に約159億ドルに達する見通し」で、「2018年から2023年までの予測期間を通じて、ブロックチェーンへの支出額は安定して増加し、5年間の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は60.2%にな」ります。

また、同社はブロックチェーン市場に対する分析として、「世界的にブロックチェーン支出額が最大の業種は、銀行業」であり、「予測期間全体を通じて、銀行は全世界の支出総額の約30%を占める見通し」だとしています。

また、「その次に大きい支出が見込まれる業種は、組立製造業とプロセス製造業で」、「両者を合わせると支出額全体の20%以上になる見通しで」あり、その中でも特に「プロセス製造業は、最も高い支出成長率が見込まれる業種でもあり(CAGR68.8%)、予測期間の終わり頃には、ブロックチェーン支出額が第2位の業種になると予測」しています。

ここで注目すべきは、ブロックチェーン市場第二の支出源泉として製造業をあげていることです。

2020年現在、ブロックチェーン業界では、複数の非金融領域における市場の創出・拡大が進んでいます。

とりわけ、物流業界は、IBM社を筆頭に、ブロックチェーンの技術を利用した世界的なサプライチェーンの変革が進められており、近い将来、ブロックチェーンに対応している企業とそうでない企業で、明暗が分かれてくる可能性があります。

米国IDC Worldwide Blockchain Strategies リサーチディレクターであるジェームス・ウェスター氏による「一般社会ではブロックチェーンをめぐって時として白熱した議論が交わされていますが、そのような中で、企業によるこのテクノロジーの採用は静かに進行し、複数のユースケースでティッピングポイントに達しています。初期の試験運用プログラムでブロックチェーンの価値を認めた企業が、そうしたプロジェクトを本番環境に移しつつあります」という発言の背景には、まさに物流業界のような社会変革の動向があると言えるでしょう。

【ブロックチェーン】トークンのビジネス活用〜STO、Utility Token〜

近年、STOをはじめ、ブロックチェーンのトークンを活用した新しいビジネスが生まれています。特に、複数種類あるトークンの中でも、Utility Tokenに注目が集まっています。トークンの定義、特徴をもとに、最新事例を解説します!

なお、ブロックチェーン技術の応用事例について、全体像や他の事例を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→参考記事:『ブロックチェーンのビジネスモデル・活用事例〜非金融など応用領域も解説〜』

ブロックチェーンのトークンを使った資金調達方法「STO」って?

高まるブロックチェーン市場への期待

ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並んで、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有望技術の一つです。

DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、大きくは産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーション、小さくは開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革など、仕事だけでなく、私たちの生活全体を大きく変える可能性として期待されています。

その中でも特に、ブロックチェーンは、既存技術では解決できなかった課題を乗り越える新しい手段として、ビジネスのみならず、官公庁の取り組みにおいても広く注目を集めています。

その背景として、もともとはFintech(フィンテック、金融領域におけるDX)の一分野である仮想通貨(または暗号通貨)の実現を可能にした一要素技術、つまりビットコインを支えるだけの存在に過ぎなかったブロックチェーンが、近年、仮想通貨の領域にとどまらず、あらゆる既存産業・ビジネスで応用できる可能性を秘めた技術であることが明らかになってきました。

実際、世界経済フォーラムの発表によると、2025年までに、世界の総GDPの10%がブロックチェーン基盤上にのると言われています。

STOとは何か?

そうした諸産業でのブロックチェーンを用いた課題解決の中でも、2020年、特に注目を集めているのが、「STO」と呼ばれる、ブロックチェーン技術を利用した新しい資金調達方法です。

STOとは、Security Token Offering(セキュリティ・トークン・オファリング)の略で、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法のことです(「セキュリティ」というのは「証券」という意味であることに注意して下さい)。

STOは、ICO(Initial Coin Offering、イニシャル・コイン・オファリング、新規仮想通貨公開、ブロックチェーンを利用した資金調達方法の一つ)の問題点であったスキャム(いわゆる詐欺)や仕組み自体の投機的性質を解消する、新しい資金調達方法として注目を集めており、1兆ドル以上のマーケットになるとの予想もなされています。

ICOと比較した際のSTOのメリットとしては、次の4点が挙げられます。

  1. 詐欺コインがなくなる
  2. 取引が24時間365日可能
  3. スマートコントラクトによる仲介の排除とコスト削減
  4. 所有権の分割ができるようになる

他方で、法規制に則って運用されるためにICOよりも自由度が低く、規制の管理下におかれるために、投資の参入障壁が高いことなどのデメリットもあります。

しかし、2019年の時点ですでに数億ドル以上のSTO案件が生まれていることを鑑みると、今後、STOが金融領域におけるブロックチェーンビジネスの注目株であることは間違い無いでしょう。

トークンとは何か?

「トークン」という言葉がもつイメージ

上で述べたSTOでは、資金調達方法の一つとして、ブロックチェーンのトークンが活用されています。

こう聞くと、なんとなくわかったような気になりますが、その実、「トークン」という言葉はとても曖昧で、意味の幅が広い言葉です。

したがって、STOを始めとするトークンビジネスを理解するためには、まずはトークンという言葉が持つイメージを掴むことが重要です。

そもそも、トークン(token)は原義的に、「しるし」「象徴」「記念品」「証拠品」を指す言葉です(Wikipedia)。

しかし、ビジネス活用の文脈では、これら原義通りの意味よりも、むしろそこから派生した下記2つの意味が重要になります。

  1. 使える場所、交換対象などが限られている「代用貨幣」のこと
  2. 一回だけ、使い捨ての認証権限のこと

これらの意味から、ビジネスにおいてトークンがどのようなイメージで活用されているかが見えてきます。

すなわち、トークンは、「法定通貨や暗号資産(仮想通貨)と違って、交換対象を限定した小さな経済圏を回すための使い捨て貨幣」として用いられています。

もちろん、字義通りに全てのトークンが「使い捨てにしよう」と狙ってつくられるわけではありませんが、こうしたイメージを掴んでおくことで、数あるトークンの狙いや意味を理解しやすくなるでしょう。

トークンとブロックチェーン

今みたように、トークンそのもそも意味範囲の広い概念であり、ブロックチェーンに限定されたものではありません。

しかし、近年、トークンという言葉に注目が集まるときは、必ずといっていいほど、ブロックチェーンとセットにされています。

これは、一つにはICOやSTOといった新しい資金調達方法の背景にブロックチェーンの技術があることも影響していますが、むしろそれ以上に、そもそもブロックチェーンがトークンと相性の良い技術であることが大きな要因でしょう。

少し小難しい話になりますが、トークンとブロックチェーンの相性の良さを一言で言えば、「近代以来の国民国家経済、現代のグローバル資本主義に対するアンチテーゼ」として使われやすいという点で共通していることです。

まず、トークンは先ほど見たように、「法定通貨や暗号資産(仮想通貨)と違って、交換対象を限定した小さな経済圏を回すための使い捨て貨幣」としての特性をもっています。

したがって、トークンは、法定通貨や暗号資産で「外部」と均質化させたくない経済圏、例えば地方公共自治体やショッピングモールなど、オープンではあるものの中央権力を介していないコミュニティーで、そのコミュニティー内にのみ資する準貨幣として用いられます

そのため、逆に、もしコミュニティーの範囲を超えたレベルで経済圏を回していきたいのであれば、それはもはやトークンではなく、法定通貨や暗号資産で十分だということになります。

他方、暗号資産であるビットコインの副産物として生まれたブロックチェーンは、そもそもの技術的思想が「非中央集権的」です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

したがって、ブロックチェーンの技術は、暗号資産のみならず、例えば管理者不在のデータプラットフォームや第三者を介さない不動産取引など、既存の経済体制のあり方を変革するような方向性で、ビジネス活用される傾向にあります。

こうした相性の良さから、近年、STOを始めとした、ブロックチェーンの技術を活用したトークンビジネスがトレンドとなり始めています。

ブロックチェーンを活用したトークンの種類

実は、ブロックチェーンを活用したトークンには、様々な種類があります

代表的なトークンの種類と概要は、次の4つです。

(他にも、Transaction TokenやGovenance Tokenといった種類もありますが、概念自体が難しい上に使用される頻度もあまり多くはないため、ここでの説明は割愛します。)

区別のポイント

トークンの種類

意味

身近な例

トークン自体に金銭的価値が認められるか? Utility Token

(ユーティリティトークン)

具体的な他のアセットと交換できて初めて資産性が出てくるトークン ・パチンコ玉

・図書券

・電車やバスの切符

・遊園地の入場券

Security Token

(セキュリティトークン)

それ自体に金銭的価値が認められるトークン ・株券

・債権

トークンを相互に区別するか? Fungible Token …(*)

(ファンジブルトークン)

メタ情報如何にかかわらず区別されないトークン ・純金

(→誰がどこで所有する金1グラムも同じ価値をもつ)

Non Fungible Token

(ノンファンジブルトークン)

同じ種類や銘柄でも個別に付与されたメタ情報によって区別されるトークン ・土地

(→銀座の1平米と亀有の1平米は同じ単位だが価値が異なる)

(*)”fungible”は日本語で「代替可能性」を意味する英語。

今回の記事では、これら4種類の中でも特にUtility Tokenに絞って、次章で解説を行ってまいります。

もし、他のトークンについて詳しくお知りになりたいという方がいらっしゃれば、各領域のすばらしい企業がテーマを絞って研究していま

すので、ぜひ色々と調べてみてください。

ブロックチェーントークンのビジネス活用:Utility Token によるトークンエコノミー

Utility Tokenの特徴

Utility Token(ユーティリティトークン)は、先ほど見たように、トークンそれ自体は金銭的価値をもたず、具体的な他のアセットと交換することによって初めて資産性が生まれる種類のトークンです。

例えば、ロックミュージシャンのコンサートチケットもUtility Tokenの一つでしょう。

というのも、このチケットが価値をもつのは、そのミュージシャンの演奏を聞きたいと欲する人がいた上で、チケットを使うことで生の演奏を聞くことができると約束されているからです。

したがって、コンサート開催日の翌日以降であったり、そのミュージシャンを知らない人間しかいない地域であったりすると、そのチケットには1円の価値もなくなります。

また、別の例で言えば、JRの切符を西武鉄道で使っても意味がないのと同じ話です。

このように、Utility Tokenは、他のアセットとの交換可能性を金銭的価値に変えられるトークンであることから、次のような特徴をもちます。

  • 閉じられた(=一部の人間に限定された)コミュニティや地域などで効果を発揮しやすい
  • トークン自体は物質的価値をもたなくてもよい
  • 交換対象となるアセットの価値を定量化できる

こうした諸特徴は、既存のビジネスに活用する上で使い勝手が良いため、Utility Tokenは、ブロックチェーンの技術とともに、様々な領域で活用され始めています。

次に、具体的な活用事例を4つ、ご紹介します。

Utility Tokenの活用事例①:ファンビジネス

Utility Tokenの活用事例の一つ目は、ファンビジネスの領域におけるコミュニティ専用トークンです。

コミュニティ専用トークンは、集団の内外に大きな価値差を生じさせることで、小さなコミュニティに「熱狂」を生み出すことができます。

例えば、女優の石原さとみさんのファンクラブ内で、次のような条件で、ファン活動のために使える「SATOMIコイン」がつくられたとします(注:あくまで架空の話です)。

  • Twitterで、石原さとみさんのツイートをリツイートすることでのみ、SATOMIコインを受け取れる
  • SATOMIコインを一定量貯めることで、サイン色紙など、石原さとみさんのグッズと交換できる
  • SATOMIコインは、ファンクラブに入会している人だけが保有することができる

このSATOMIコインは、ファンの方々にとっては非常に価値があるものでしょう。

逆に、石原さとみさんに全く興味をもたない人にとっては、いくらコインを集めたところで使い道がないため、コインに価値を認めないはずです(コインを自由に売り買いできるマーケットがあれば、投機目的でSATOMIコインを集める人もでてくるかもしれませんが、コインに価値を生じさせているのはあくまでファンの熱量です)。

つまり、SATOMIコインは、集団(ここではファンクラブ)の「内」と「外」で価値に差を生じさせています。

こうした集団内外での価値差の発生は、法定通貨では嫌われる現象です。

法定通貨では、あらゆる集団間・個人間で価値の差を「均す(ならす)」ことを目的としているため、コミュニティ専用のトークンとは思想が真逆なのです。

そして、この特性ゆえに、ファンコミュニティ専用のトークンには価値上昇の歯止めがききにくく、閉じられたコミュニティ内におけるファン同士の熱量の相乗効果によって、「熱狂」を伴う経済価値を生み出すことに繋がります。

この原理を実際のビジネスに適用としている事例が、サッカークラブチーム用トークンである「socios.com」です。

socios.comは、ファントークンを用いて「チームの決定」に投票をすることが可能なブロックチェーンアプリで、ユベントス、パリ・サンジェルマンなどの超有名クラブが既に使用を始めていることでも話題になっています。

このトークンには、従来は「試合を見に行って、グッズを買って、選手を応援する」存在であったファンに、チームの運営の一部も担ってもらうことで、よりロイヤルティを高めていこうという狙いがあります。

このように、Utility Tokenを利用したファンビジネスにおけるコミュニティ専用トークンは、企業のマーケティング文脈で考えるならば「新規顧客の開拓」よりも「既存顧客のコミュニティ化」に向いていると言えるでしょう。

Utility Tokenの活用事例②:シェアリングエコノミー

Utility Tokenの活用事例の二つ目は、シェアリングエコノミーです。

シェアリングエコノミーは、「トークンエコノミーの事業適用の本丸」とも言える活用領域で、国内動向で言えば、ガイアックス社が注力してビジネス活用を進めています。

シェアリングエコノミーのサービスにおいて、Utility Tokenと、その背景技術であるブロックチェーンを用いることで、透明性が非常に高く、管理コストの安いサービスをつくることができるようになります。

例えば、シェアリングエコノミーのサービスの一つに「レンタサイクル」があります。

ここでいうレンタサイクルは、自転車店がその場所を起点として貸し借りする類のものではなく、中国で一時期流行ったような、エリアの拠点ごとに駐輪場と大量の自転車を設置して、借主がスマートフォンアプリで貸し借りの手続きを行うものをイメージする方がわかりやすいでしょう。

レンタサイクルは、「ちょっとそこまで行くのに自転車を使いたいけど、わざわざ高いお金を出してまで買いたくはない」人に対して、耐久財である自転車を安くで貸し出すビジネスです。

このビジネスでは、「何回も貸す」ことと「人手を介さない(つまり人件費をかけない)」ことを前提条件として、一回の利用あたりの単価を下げることで多くの人に借りてもらい、利益を出すことができます。

ここで課題となるのが、盗難や乗り捨て、破損などのリスクと、管理コストのトレードオフ(に近い)関係です。

不要な管理コストをできる限りなくしたい一方で、管理コストを削ると、貸し借りや決済の記録がずさんになったり、顧客管理が不十分なために自転車の盗難等のリスクが高まったりしてしまいます。

そこで、課題解決の手法として注目されるのが、Utility Tokenとブロックチェーンの技術です。

レンタサイクルの管理にスマートコントラクト(貸借契約の自動執行)を使い、決済にトークンを使うことで、貸し借りの記録はブロックチェーン上で記録され、決済記録も同じブロックチェーン上でトークンで記録することができます

そして、これらの機能により、透明性が高く、かつ、管理コストの安いサービスが実現されます。

また、こうした課題感は、レンタサイクルに限らず、シェアリングエコノミー全体がモデルの原理的にもちうる問題です。

そのため、シェアリングエコノミーをビジネスモデルとする様々なサービスで、Utility Tokenを用いたトークンエコノミーが注目されています。

Utility Tokenの活用事例③:公共財の管理・利用

Utility Tokenの活用事例の三つ目は、公共財の管理・利用です。

公共財は、シェアリングエコノミーの延長領域として、近年、Utility Tokenの適用可能性が探られています

公共財の管理・利用にトークンを活用しようという発想の根底には、資本主義における価値の定量化への流れの中で、定性的価値、とりわけ情緒的な価値をうまく保っていこうという考えがあります。

私たちの身の回りには、リンゴのように数えることもできないし、餅のように切り分けられないはずなのに、あたかも「数えることができるもの」「切り分けられるもの」として売り買いされているものが多く存在します。

その象徴が、集団への「貢献」だったり、風土・環境のような「公共財」です。

資本主義の世の中、特にIoTやAIなどのデータサイエンスが発展し、「自然や社会のあらゆるものを定量化・分析して、私たちの生活をより豊かにするように最適化していこう」という思想が強まってきている現代では、そうした「貢献」や「公共財」のような定性的価値を備えたものであっても、定量化の波から逃れることは現実的ではありません

しかし、その一方で、個人や要素に還元された「数えられる結果」だけに縛られず、定性的価値の背後にある「美しい動機」を認めていこうという考え方も根強く存在しています。

こうした思想の背景には、純粋に動機やプロセスを大切にしていきたいという想いだけでなく、定量的データ分析に偏重した評価体系がこれまで以上に社会に広がった場合、行き過ぎた個人主義や結果主義が幅をきかせることで、フリーライダーやモラルハザードなどの「公的福利」を脅かす問題がより深刻になりうるのではないか、というネガティヴフィードバックへの懸念も横たわっています。

そこで、現在、定量化しつつも美しい動機が評価され、ポジティブフィードバックループが回るような仕組みのためにトークンが使えないか、公共財の分野での検討がなされているのです。

Utility Tokenの活用事例④:地域通貨

Utility Tokenの活用事例の四つ目は、地域通貨です。

地域通貨も、現在、その適用可能性が探られている領域の一つで、今後の発展が期待されている領域でもあります。

地域通貨へのトークン適用の背後にも、資本主義における定量化の波に対する抵抗が見られます。

現代に流通している法定通貨は、すべてのものを定量化させ、「商品」として流通させることで拡大していっています。

したがって、原理上、時間が経過するほど法定通貨で交換できる商品は増えていくことになります。

そして、その結果、地方の小さな経済主体と大都市の経済主体が同列で競争させされ、前者は後者に従属していくようになり、さらには決済ごとにかかる数%の手数料収入も、地方都市から大都市へと流出していくことになります。

近年、こうした流れを食い止めるべく、あえて法定通貨ではない地域通貨を使う地区が増えています。

代表的なものでいえば、「さるぼぼコイン」、カヤック社の「まちのコイン」などです。

地域通貨は、「閉じたコミュニティに向いている」というUtility Tokenの特徴を生かし、あえて地区内に経済圏を限定することによって大都市との競争から逃れようという試みです。

また、経済圏の管理を自治体が主導することで、決済の手数料収入が流れてしまうことも防ぐ狙いがあります。

現在は、まだ成功事例がそこまで多くはありませんが、今後も、この動きは加速していくと予想されます。

ブロックチェーンの3つの課題とは?〜スケーラビリティ、ファイナリティ、セキュリティ〜

DXの有望技術として期待されるブロックチェーン。分散型台帳とも呼ばれるこの技術が普及するためには克服すべき3つの課題、スケーラビリティ・ファイナリティ・セキュリティがあります。本記事では、3つの課題の概要と解決策を解説します。

なお、ブロックチェーンの過去、現在、今後について、概念の全体像を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→ 参考記事:『【完全版】ブロックチェーンの全知識〜過去・技術・ビジネス・今後〜』

ブロックチェーンのおさらい

高まるブロックチェーン市場への期待

ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並んで、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有望技術の一つです。

DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、大きくは産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーション、小さくは開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革など、仕事だけでなく、私たちの生活全体を大きく変える可能性として期待されています。

その中でも特に、ブロックチェーンは、既存技術では解決できなかった課題を乗り越える新しい手段として、ビジネスのみならず、官公庁の取り組みにおいても広く注目を集めています。

その背景として、もともとはFintech(フィンテック、金融領域におけるDX)の一分野である仮想通貨(または暗号通貨)の実現を可能にした一要素技術、つまりビットコインを支えるだけの存在に過ぎなかったブロックチェーンが、近年、金融領域にとどまらず、あらゆる既存産業・ビジネスで応用できる可能性を秘めた技術であることが明らかになってきました。

ブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

ブロックチェーンの課題①:スケーラビリティ

課題の概要

ブロックチェーンの課題の一つ目は、「スケーラビリティ」です。

スケーラビリティとは、「トランザクションの処理量の拡張性」、つまり、どれだけ多くの取引記録を同時に処理できるかの限界値のことを指します。

ブロックチェーンは、その仕組み上、従来のデータベースよりもスケーラビリティが低くならざるを得ないという課題を抱えています。

ブロックチェーンの仕組みでは、ビットコインやイーサリアム、リップルといった各ネットワークごとに予め定められた「コンセンサスアルゴリズム」と呼ばれる合意形成のルールに基づいて、一定量のトランザクション群をブロック化することで取引記録を保存しています。

したがって、ある単位時間にどの程度の量のトランザクションをブロック化、つまり処理できるかは、コンセンサスアルゴリズムに依存することになります。

例えば、ビットコインでは「PoW(Proof of Work、プルーフオブワーク)」というコンセンサスアルゴリズムとして採用しています。

これは、ネットワーク参加者(=「ノード」)に、自身のコンピュータのマシンパワーを利用したある計算に成功することを、ブロック生成の条件とするルールです。

そのため、ビットコインネットワークにおけるスケーラビリティ、つまりトランザクションの処理量は、ノードのマシンパワーに依存することになります。

ここで問題になるのは、ノードが増えれば増えるほど、オンタイムで同時処理しなければならないトランザクションの量が増えてしまい、計算が追いつかないことによって、業務遂行に必要なトランザクションの処理速度が十分に担保されなくなるリスクが増すことです。

一般に、スケーラビリティは「tps(transaction per second、1秒あたりのトランザクション処理量)」で定義することができますが、実際に、代表的なブロックチェーンネットワークは、次のように不十分なスケーラビリティだと言われています。

  • 一般的なクレジットカード:数万tps
  • ビットコイン(コンセンサスアルゴリズムがPoW):7tps
  • イーサリアム(コンセンサスアルゴリズムがPoS):15~20tps
  • コンソーシアム型のブロックチェーンネットワーク(コンセンサスアルゴリズムがPoA):数千tps

このように、ブロックチェーンは、オープンで分散的なデータベースとして期待を集めている一方で、ネットワーク参加者が増えるとスケーラビリティが担保できなくなるという課題を抱えています。

課題の解決策

スケーラビリティの課題に対する現状の解決策として、金融領域において、「ライトニングネットワーク(Lightning Network)」という新しい概念に注目が集まっています。

ライトニングネットワーク(英: Lightning Network)とは、少額決済(「マイクロペイメント」)等の小規模かつ多数回行われる取引の処理をブロックチェーン外で行い(「オフチェーン取引」)、最初と最後の取引だけをビットコインのブロックチェーンにブロードキャストして確定させる、ビットコインネットワークの新しい手法です。

高速決済技術であるライトニングネットワークでは、二者間でオフチェーン取引を行うペイメントチャネルという仕組みが利用されています。

ペイメントチャネルは、複数の秘密鍵でビットコインを管理するマルチシグという技術を背景にオフチェーン取引が可能になるため、ペイメントチャネルを利用した複数回の取引はブロックチェーン上に記録されることがありません。

こうしたライトニングネットワークの考え方を用いることで、トランザクションの処理速度が向上するだけでなく、従来、マイクロペイメント等で発生するはずだった多額の取引手数料がかからなくなるというメリットがあります。

ライトニングネットワークの実例として挙げられるのが、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)と米Akamai Technologies, Inc.(以下、Akamai)が2019年4月19日に設立した合弁会社、Global Open Network Japan株式会社(以下、GO-NET Japan)による、日本国内でオープンなペイメントネットワークサービス「GO-NETです。

GO-NETは、決済処理速度が2秒以内、毎秒100万件超の取引を可能とする新型ブロックチェーン技術を基盤とするサービスで、これまでブロックチェーンが抱えていたスケーラビリティという課題を、ライトニングネットワークによる高速決済によって克服する新しい試みとして注目を集めています。

ブロックチェーンの課題②:ファイナリティ

課題の概要

ブロックチェーン、特にその代表格であるビットコインの課題として知られるのが、「ファイナリティ(finality)」の問題です。

ファイナリティは決済にまつわる概念で、日本銀行によって、次のように説明されています(下記二文は公式サイトより引用、ただし一文目の丸括弧内と太字は筆者が追記)。

  • (ファイナリティーのある決済とは)「それによって期待どおりの金額が確実に手に入るような決済」のことを言います。
  • 具体的には、まず、用いられる決済手段について(1)受け取ったおかねが後になって紙くずになったり消えてしまったりしない、また決済方法について(2)行われた決済が後から絶対に取り消されない――そういう決済が「ファイナリティーのある決済」と呼ばれます。

ビットコインの仕組みでは、このファイナリティを十分に担保できないとして、特に金融領域における活用が懸念視されることがあります。

上記「スケーラビリティ」の項目でも触れたように、ビットコインではPoWと呼ばれる、ノード(ネットワーク参加者)のマシンパワーを利用した計算競争によって取引記録のブロック化についての合意形成をはかる仕組み(コンセンサスアルゴリズム)が採用されていますが、実は、このPoWがファイナリティの担保を邪魔しているのです。

そもそも、PoWは、次のような仕組みです。

  1. ある時、あるノードが、トランザクションプールと呼ばれる取引記録の集積場(のようなもの)から、一定量(1MB)のトランザクションを任意でとりまとめて、ブロック化を開始する。
  2. ブロック化を行うために、ノードはビットコインネットワークから与えられた計算課題を解くことを試みる。
  3. 同様に、世界同時多発的に複数のノードが計算を行い、計算に成功したノードが生成したブロックが他のノードに伝播されていく。
  4. 伝播された先のノードがブロック生成に用いた計算の「暗算」を行い、計算が正しいと認められたら、ブロック化に成功する。

ここで、ある問題が起こります。

ポイントは、複数のノードが同時多発的にブロック生成を行う点です。

PoWでは、複数のノードによる計算競争の結果を一旦すべて正規のブロックとして認めてしまうことになります。

そのため、ある一時点で、ネットワーク内には、複数のノードがつくった異なる複数のブロックが同時に存在することになり、さらにそれらの異なるブロックの中には、同じトランザクションが入っていたりするわけです。

そうすると、ある取引記録が正しいかどうかを確認するにあたり、複数の異なるブロックのうち、どのブロックが正しいものとして参照すべきかという問題が発生してしまいます。

これが、ビットコインにおける「フォーク」(チェーンの分岐のこと)と呼ばれる問題です。

さて、ブロックチェーンの課題に立ち返ってみると、このフォークの可能性が、ビットコイン決済におけるファイナリティの担保を邪魔していることがみえてきます。

PoWを原理として採用するビットコインでは、常に同時多発的に複数のブロックが生成され、その度ごとにチェーンの分岐(フォーク)が発生する可能性があるため、取引内容が覆る可能性を完全にゼロとすることができず、ファイナリティを担保することができないのです。

実は、ビットコインではチェーンの分岐が問題にならないように、PoWを補完するもう一つのコンセンサスアルゴリズムである、「ナカモト・コンセンサス」を採用しています。

ナカモト・コンセンサスは、複数のブロックが同時生成された場合、ブロックの集積が最も多い(つまり長い)チェーンに含まれるブロックを正規のものとみなすという考え方です。

一見、この考え方によって、ファイナリティが担保されなくもなさそうではあります。

しかし、残念ながら事態はそう簡単ではありません。

ナカモト・コンセンサスはあくまで合意形成に至る考え方の一つであって、実際には、例えば運営側による仕様の変更など大きく賛否の分かれる問題が生じた時、全員での合意形成には至らず、複数の異なるチェーンを正統とみなす派閥に分派してしまうことがあります(ちなみに、こうした運営側による仕様変更等でチェーンがはっきりと分派してしまうことを「ハード・フォーク」と呼びます)。

また、実際にこうした状況には至らなかったとしても、PoWでは、常にこうした分岐を発生させてしまうリスクを抱えているとも言えてしまいます。

そういった意味で、PoWを採用しているビットコインにおいて、「信用」を扱う決済領域で最も重視されるファイナリティを担保することは原理的に困難なのです。

課題の解決策

実は、このファイナリティの問題は、ビットコインに限った課題ではなく、イーサリアムなど他のブロックチェーンネットワークでも同様に抱えている課題です。

しかし、全てのブロックチェーンでファイナリティの問題が生じるわけではありません

ファイナリティの担保が難しいのは、PoWやPoSといった不特定多数の参加者での合意形成に至るためのコンセンサスアルゴリズムを採用しているネットワーク、つまり、「パブリックブロックチェーン」に限った話です。

そのため、ファイナリティを必ず担保する必要のある金融機関では、「コンソーシアム型」や「プライベート型」と呼ばれる参加者を限定したブロックチェーンネットワークを採用することで、この問題に対応するケースがあります。

実例としては、前述した「スケーラビリティ」の解決策として注目を集めるGO-NETがその最たるものです。

GO-NETは、ライトニングネットワークによる高速決済を可能にした次世代型ブロックチェーン基盤とも呼べるサービスですが、この技術的背景には、共同設立企業であるAkamai社の有する世界135か国、4000か所、24万台のサーバーで構成される高速なエッジコンピューティングがあります。

ビットコインやイーサリアムでは、不特定の参加者をサーバーと見立てたオープンなネットワークにマシンパワーの源泉が認められますが、GO-NETではその代わりに、Akamaiの持つ大量の自前サーバーを利用しています。

つまり、前者はパブリックなブロックチェーンネットワークで、後者はプライベートなブロックチェーンネットワークなのです。

GO-NETは、自社でのプライベートなプラットフォームをつくることで、前述したスケーラビリティ課題への対応だけでなく、同時にファイナリティの問題にも対応している好例だと言えるでしょう。

ブロックチェーンの課題③:セキュリティ

課題の概要

ブロックチェーンが原理的に抱える課題の3つ目が、「セキュリティ」の問題です。

こう言うと、驚かれる方も少なくないかもしれません。

というのも、ブロックチェーンの大きな特徴の一つに、「データの対改竄性が高い」ということが挙げられます。

これは、トランザクションと呼ばれる個々のデータの塊のそれぞれに鍵がかけられている(公開鍵暗号方式)ことに加え、トランザクションの塊であるブロックの生成時にもコンセンサスアルゴリズムと呼ばれる合意形成のルールが適用されることで、データを書き換えることのハードルが非常に高くなっていることを意味しています。

こうした背景から、「ブロックチェーン=セキュリティを高める技術」であると考えている方も少なくありません。

しかし、残念ながら、ブロックチェーンはセキュリティの万能薬というわけではないのです。

ブロックチェーンは「強いAI」というわけではなく、あくまで人間が稼働させる一つのシステムです。

そのため、ブロックチェーンが社会実装される過程のヒューマンエラーによって(コーディングのバグ等)、あるいは組織的な恣意性によって(51%問題等)、理論が適切に効果を発揮しないことでセキュリティが脅かされることも十分にありえます。

こうした事情からブロックチェーン、とりわけビットコインにつきまとうセキュリティ課題として、次の2つの問題が存在しています。

  • 51%問題
  • 秘密鍵流出問題

51%問題とは、「ある特定のノード(ネットワークの参加者)が、ネットワーク内のマシンパワーの総量を超えるパワーでマイニングを行うと、そのノードの恣意性にネットワーク全体が左右される」という問題のことで、平たく言えば、「ネットワークの乗っ取り(牛耳り)」問題といったところでしょうか。

先ほど説明したように、ビットコインではPoWおよびナカモト・コンセンサスと呼ばれるコンセンサスアルゴリズムのもと、複数のノードによる計算競争の結果、最も長いチェーンに含まれたブロックを正統なデータとしてみなす、という仕組みがとられています。

そして、この計算のスピードは、計算を行うノードのマシンパワーに依存しています。

そのため、この仕組みを逆手にとると、他のどのノードよりも強いマシンパワーを手に入れ、その結果、他のどのノードよりも速いスピードで計算を行うことができれば、そのノードは自分にとって有利な、恣意的な取引記録を正統にすることができます

これが、51%問題と呼ばれるセキュリティ上の課題です。

もう一つのセキュリティ課題が、秘密鍵流出問題です。

これは、いわゆる「なりすまし」攻撃で、各ノードが保有するアカウントに付与された「秘密鍵」を盗まれることで起こります。

ブロックチェーンの仕組みでは、前述した「ブロック化」の過程でトランザクションがプールから取り出される際に、「秘密鍵暗号方式」と呼ばれる方法でトランザクションへの「署名(秘密鍵で暗号化する)」が行われることで、トランザクション自体のセキュリティが担保されています。

通常、この秘密鍵は、各アカウントごとに一つだけ付与されるもので、この鍵を使うことでアカウントに紐づいた様々な権限を利用することができます。

そのため、この鍵自体が盗まれてしまうと、個人アカウント内の権限を第三者が悪用できてしまうことになります。

これが、秘密鍵流出問題です。

課題の解決策

51%問題と秘密鍵流出問題は、それぞれに、解決策が異なります。

順に、説明します。

51%問題への対応

51%問題の対策方針は、「コンセンサスアルゴリズムを変更すること」です。

先ほど説明したように、51%問題は原理的なセキュリティリスクであり、PoWおよびナカモト・コンセンサスが合意形成のルールである以上、完全な対策は不可能です。

もちろん、ネットワークの規模が大きくなればなるほど、ネットワーク総量の過半数をとるマシンパワーを用意することは難しくなっていくので、51%問題を利用した攻撃のハードルも上がってはいきます。

しかし、あくまで難易度が上がるだけの話であるため、リスクがなくなるわけではありません。

また、ビットコインと同じコンセンサスアルゴリズムを採用した新しいネットワークは、51%攻撃の高い危険性にさらされることになります。

したがって、51%問題のリスクをなくすためには、ルールそのものを変更する必要があるのです。

これは、ビットコイン以外のブロックチェーンネットワークにおいて実際に行われていることで、例えば、イーサリアムで採用されている「PoS(Proof of Stake)」は、51%攻撃のリスクを限りなく低くすることを目的に定められてルールと言われています。

PoSは、「ネイティブ通貨の保有量に比例して、新たにブロックを生成・承認する権利を得ることができるようになる仕組み」であるため、あるノードが51%攻撃を行うためには、ネットワーク全体の過半数のコインを獲得しなければならず、これは過半数のマシンパワーを一時的に利用することと比べて、はるかに難易度が上がります。

また、コンセンサスアルゴリズムだけではなく、ネットワーク参加者自体を許可制にすることも、51%問題に対する一つの対策方法です。

先述した「コンソーシアム型」と呼ばれるブロックチェーンネットワークでは、「PoA(Proof of Autority)」というコンセンサスアルゴリズムのもと、閉じられたネットワーク内で一部のノードに合意形成の権限を与えるという形をとっています。

秘密鍵流出問題への対応

秘密鍵流出問題への対応策の一つとされているのが、「マルチシグ(マルチシグネチャーの略)」です。

トランザクションの署名に複数の秘密鍵を必要とする技術のことで、マルチシグを利用する際には、例えば企業の役員陣で鍵を一つずつ持ち合うなどの対応がとられます。

マルチシグは、秘密鍵流出問題へのリスクヘッジ方法であると同時に、 一つの秘密鍵で署名を行う通常のシングルシグに比べてセキュリティレベルも高くなることから、取引所やマルチシグウォレットなどで採用されています。

ただし、上述のコインチェック事件のように、個人レベルでマルチシグを利用していたとしても、取引所そのもののセキュリティが破られてしまった場合には被害を食い止めることはできません。

セキュリティへの攻撃は複数階層に対して行われうるものであることを理解して、単一の技術のみに頼るのではなく、本質的な対応をとるように心がけましょう。

ブロックチェーンは不動産業界40兆円市場の切り札となりうるか?

不動産業界は、国内30万社、市場規模40兆円を誇る巨大産業です。その不動産業界で、今、ブロックチェーンを活用したビジネスが増えています。LIFULL、積水ハウス、Propy。不動産×ブロックチェーンは業界を変革できるのか?一挙、解説します!

なお、ブロックチェーンビジネスの考え方、全体像の概観を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→ 参考記事:『ブロックチェーンのビジネス活用は非金融がアツい!事業化3つの視点とは?』

不動産業界の有望技術として注目を集めるブロックチェーン

国内30万社、40兆円規模の不動産業界がブロックチェーンに期待を寄せている

不動産業界は、国内30万社以上のプレイヤーが存在し、市場規模は40兆円とも言われる巨大産業です。

日本にはおよそ600万社の企業が存在することを踏まえると、不動産の数は全業界の5%を占めていることになります。

また、当然、その歴史も古く、昔からの取引関係や商慣行などが色濃く残り続けている業界でもあります。

そうした不動産業界で、近年、ブロックチェーン技術を活用した新たなサービスがいくつもローンチされ、業界の課題解決に対する期待が高まっています

例えば、大手ハウスメーカーの積水ハウスでは、ブロックチェーンを活用した次世代不動産プラットフォーム構想が推し進められています。

出典:ITmedia「ハウスメーカーが構想する“不動産ブロックチェーン”の可能性とインパクト (1/3)」

ITmediaによると、同社は、「2019年3月には、KDDI、日立と、企業間の情報連携基盤を実現すべく、協創を開始」し、「本人確認情報(KYC)をブロックチェーン上で共有し、賃貸契約の利便性向上を実証実験によって検証し」た他、「同年9月27日には、大阪ガス、東邦ガス、損害保険ジャパン日本興亜、東京海上ホールディングス、三井住友海上火災保険も参画に加わり、住まいに関わる多くの手続きをワンストップ化させるための検討に入」りました。

また、2019年7月23日には、株式会社bitFlyer Blockchainが住友商事株式会社と業務提携を行い、独自ブロックチェーンmiyabiを活用した不動産賃貸契約の効率化を行っていく旨を発表しました。具体的には、「住宅の賃貸契約の電子化に加えて、借主がスマートフォン1つで物件の内見予約から契約、その後の契約更新から退去手続きに至るまでを行えるプラットフォームを目指し、両社は共同開発に着手」しています(カギ括弧内は仮想通貨Watchより引用)。

他にも、LIFULLによる不動産賃貸へのブロックチェーン導入や、外資企業のPropyによる国際不動産売買プラットフォームの構築など、この数年で、「不動産×ブロックチェーン」の動向は大きく様変わりし出したと言えるでしょう(なお、これらの事例については、本記事の後半でも紹介します)。

そもそもブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

不動産業界でブロックチェーンが注目される理由

不動産業界は、次のような特徴をもつ産業です。

  • プレイヤー数が多い
  • とりわけ古参のプレイヤーが多く、幅をきかせている
  • 情報に非対称性がある(借り手と貸し手、買い手と売り手、など)
  • 第三者仲介・管理が取引の基本形態になることが多い
  • 取引単価が大きい

これらの特徴から、不動産業界では、プレイヤー間の心理的な駆け引きや情報操作による「騙し」が横行しやすい傾向にあります。

また、第三者が介入することにより取引コストが大きくかかってしまうという課題も存在しています。

こうした状況に対して、ブロックチェーンは先ほど見たように、次のような特徴をもっています。

  • データ(取引記録)をオープンかつ正しく記録することができる
  • 中央管理者を設けず、当事者間でのデータ共有が可能

したがって、ブロックチェーンの技術を利用することで、不動産業界では、第三者仲介・管理による取引コストの増加を伴わずに、

  1. 利害が衝突したり見解が一致しない関係で、取引を簡単にする
  2. 従来証券化されてこなかった小口証券を実現する

といった課題解決が可能になるのです。

(これらの課題解決については、次の章でそれぞれ詳しくみていきます)

近年、不動産業界でブロックチェーンが注目される背景には、このような「オープン」「真正」「分散」といったブロックチェーンの諸特徴と不動産業界が抱えていた課題との相性の良さがあると言えるでしょう。

「不動産×ブロックチェーン」が解決しうる課題

「不動産×ブロックチェーン」が解決しうる課題A:利害不一致な取引の簡易化

不動産業界にブロックチェーンを導入することにより解決しうる課題の1つ目は「利害が衝突したり見解が一致しない関係で、取引を簡単にする」ことです。

先ほど見たように、不動産取引は全般的に「情報の非対称性」に基づいて無駄な取引コストが発生しているケースが多いと言えます。

これを、不動産のライフサイクルごとにあてはめた課題解決が行われています。

それぞれのフェーズにおいて、「誰と誰の間に非対称性があるのか?」に注目すると、課題の理解が容易です。

  • ライフサイクル①:登記
    • 「役所」と「登記申請者」間の非対称性が課題
    • 役所からすると、「不動産の所有者は本当にこの登記申請者本人なのか?」を確かめるのが難しい
    • そのため、権利証明や複雑な登記申請手続きが必要となり、登記申請者にとっても役所にとっても取引コストが増大する
    • 特に、発展途上国で解決できる問題が多い
  • ライフサイクル②:売買
    • 「買い手」と「売り手」間の非対称性が問題
    • 買い手からすると、「この人は本当に所有しているのか?」「隠れ担保がついてないか?」「入居者間や近隣で厄介なトラブルはないか?」、売り手からすると、「この人は本当に支払ってくれるのか?」という疑念が付きまとってしまう
    • そのため、双方の信用を担保するための第三者仲介が必要となり、いわゆる「両手取引」における高い二重の手数料が取引コストとなる。
  • ライフサイクル③:賃貸
    • 「借り手」と「貸し手」間の非対称性が課題
    • 借り手からすると、「ここは事故物件ではないか?」「家主はしっかりメンテナンスしてくれるのか?」、貸し手からすると、「この人は毎月きちんと家賃を支払ってくれるのか?」「この人はモンスター住民にならないか?」といった不安が生じてしまう
    • そのため、双方の信用を単肥するための第三者仲介が必要となり、いわゆる「両手取引」における高い二重の手数料が取引コストとなる
  • ライフサイクル④:修繕
    • 「 修繕に入る施工業者」と「過去の施工業者」間の非対称性が課題
    • 修繕に入る施工業者からすると、「今回修繕依頼されている水道の型番はそもそも何番なのか?」「過去にどんな修繕工事をしているのか?」といった情報が不明瞭。
    • そのため、物件情報や過去の施工情報など、必要ながらも可視化されていない情報を確かめるためのコストがかかったり、最悪の場合はわからないままとなってしまう

こうしたプレイヤー間の情報非対称性に起因した不動産取引の課題に対して、ブロックチェーンは、オープンかつ真正性の高い(データの改竄等がない)データ基盤において、第三者を排除した分散型の管理手法を提供することで、課題解決に寄与するとみられています。

「不動産×ブロックチェーン」が解決しうる課題B:小口証券の実現

不動産業界の課題でもう一つ注目されているのが、「小口証券の実現」です。

従来、不動産業界では、REIT(不動産投資信託)などにより、不動産の証券化が進められていました。

しかし、証券化できる不動産の規模は、中〜大規模なものに限定されており、たとえば、山村で廃屋になった古民家、ニュータウンで独居老人の住んでいた空き家、などはあまり対象とされてきませんでした。

これは、従来の不動産ファンドでは組成運用コストが大きくかかることから、小規模な不動産ではそのコストを回収しきることができず、ファンド組成が難しかったためです。

この課題に対して、ブロックチェーン技術を用いることで、トークンなどの活用により証券のデジタル化を進められ、組成運用コストを大幅に引き下げることが可能になります。

そのため、従来はコスト高になり踏み込めなかった小規模な不動産の証券化、つまり「小口証券」が実現されることになります。

そして、この小口証券化が進むことで、証券化できる不動産の幅が広がるだけでなく、中〜大規模の不動産には手を出せなかった個人投資家からも広く投資を募ることが可能になります。

実際に、不動産情報サイト大手のLIFULLは、2020年から、デジタル証券プラットフォームを提供する米セキュリタイズと提携して、日本でブロックチェーンを用いた不動産のデジタル証券化の実証実験を開始しています。

出典:coindesk JAPAN「LIFULLが不動産のデジタル証券化を実験、米セキュリタイズと【セキュリティトークン】」

具体的には、特別目的会社(SPC)が物件を小口トークン化し、投資家に売り出すという発行スキームで、ブロックチェーンを用いることで、配当や償還、二次流通を自動化する狙いがあります。

こうした取り組みが進むことで、REIT市場が取りきれなかった新たな不動産マーケットの開拓が進んでいくと見られています。

「不動産×ブロックチェーン」の事例

国内事例:LIFULL(不動産賃貸)

「不動産×ブロックチェーン」の代表事例として注目を集めているのが、不動産情報サイトを運営する株式会LIFULLによる不動産情報コンソーシアム「ADRE(Aggregate Data Ledger for Real Estate、アドレ)」です。

この取り組みは、「異業種プレーヤー間で不動産データを共有・連携することにより、不動産業界の抱える課題を解決するとともに、不動産業界・取引市場を発展させる」ことを目的に、2018年7月から異業種6社(LIFULL、NTTデータ経営研究所、NTTデータ先端技術、全保連、ゼンリン、ネットプロテクションズ)による共同で進められていたプロジェクトで、新たに、不動産取引に関わる手続きをワンストップで行うサービスなどを展開する株式会社エスクロー・エージェント・ジャパン(EAJ)、マンション管理組合に対して住宅設備やセキュリティ機器の提供などをしている三菱UFJリース株式会社、法律弁護士法人 鈴木康之法律事務所などが加わり、正式に発足しています。

出典:LIFULL HOME’S PRESS

LIFULLによると、ADREの背景となっている不動産業界の課題は次のようなものです。

「物件探しをしているとき、良いと思った物件について問合せると、すでに入居が決まっており、別の物件を紹介されたという経験はないだろうか。あるいは、不動産ポータルサイトなどに同じ物件の情報がいくつも表示され、どの情報が正しいのかよくわからないということも少なくない。不動産業界においては、1つの不動産に関する情報が、仲介会社や管理会社、インフラ会社などにバラバラに保有されているため、こうした問題が起こりやすい状況にある。」(LIFULL HOME’S PRESSより)

こうした課題を解決するコンソーシアムが成立し、プラットフォームデータベースが各社に共有されることで、これまで各社の中で個別に管理され、取引コストのもととなっていた情報がスムーズに共有され、不動産賃貸の領域において、様々なコストダウンが進むと見られています。

そして、こうしたADREによる「情報の非対称性」の解決をサポートしている技術が、ブロックチェーンです。

業界横断プラットフォームの中核技術としてブロックチェーンを採用した理由として、同社は「分散管理型のブロックチェーンは公的プラットフォームの構築に向いている」としています。

これは、本記事でも説明した通り、「オープン」で「中央管理者がいない」基盤であるブロックチェーンが、プレイヤー数が多く、利害関係が一致しづらい不動産業界の課題解決に向いていることを示す好例だと言えるでしょう。

海外事例:Propy(国際不動産売買)

もう一つ、「不動産×ブロックチェーン」の代表格として注目を集めている海外事例に、オンライン国際不動産売買プラットフォーム「Propy(プロピー)」があります。

Propyは、2015年に設立した、アメリカのカリフォルニアに拠点を置くフィンテック系ベンチャー「Propy Inc.(プロピーインコーポレーテッド)」が開発した、ブロックチェーンのスマートコントラクト機能を利用したプロダクトです。

「国際的な不動産取引では、ブローカー・取引の安全性を保証するエスクローサービス・土地の登記サービス・送金業者など複数の仲介業者とやり取りをする必要があ」り、「複数の仲介業者を介することは、取引の長期化や詐欺が発生するリスクが増大することに加え、大量の書類を作成・署名をする事務作業のコストも発生している」ことを背景に、Propyでは、「スマートコントラクトを用いることで様々な仲介手数料をなくし、世界中の登記所と連携することにより、効率的な不動産の国際取引の実現を目指してい」ます(カギ括弧内は、BLOCKCHAIN-BUISINESSによる事例解説より引用)。

スマートコントラクトとは、「契約条件の締結や履行がプログラムによって自動で実行される仕組み」のことで、従来であればヒトが逐一実行せざるを得なかった不動産取引における付随業務を、ブロックチェーン基盤上で取引を行うことで、ヒトの手を介さなくてもよくなり、結果として取引コストが大幅に引き下げられることになります。

Propyも、すでに説明した不動産業界における情報の非対称性に伴う取引リスク(とその結果として必要になる取引コスト)を減らすために、ブロックチェーン技術を活用している好例だと言えるでしょう。

「不動産×ブロックチェーン」の最新動向:STO

上でみたようなブロックチェーンによる業界課題解決に併せて、不動産業界には、ブロックチェーン関連の注目すべき動向がもう一つあります。

それが、「STO」と呼ばれる、ブロックチェーン技術を利用した新しい資金調達方法です。

STOとは、Security Token Offering(セキュリティ・トークン・オファリング)の略で、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法のことです(「セキュリティ」というのは「証券」という意味であることに注意して下さい)。

STOは、ICO(イニシャル・コイン・オファリング、新規仮想通貨公開、ブロックチェーンを利用した資金調達方法の一つ)の問題点であったスキャム(いわゆる詐欺)や仕組み自体の投機的性質を解消する、新しい資金調達方法として注目を集めており、1兆ドル以上のマーケットになるとの予想もなされています。

ICOと比較した際のSTOのメリットとしては、次の4点が挙げられます。

  1. 詐欺コインがなくなる
  2. 取引が24時間365日可能
  3. スマートコントラクトによる仲介の排除とコスト削減
  4. 所有権の分割ができるようになる

他方で、法規制に則って運用されるためにICOよりも自由度が低く、規制の管理下におかれるために、投資の参入障壁が低いことなどのデメリットもあります。

しかし、2019年の時点ですでに数億ドル以上のSTO案件が生まれていることを鑑みると、今後、STOが金融領域におけるブロックチェーンビジネスの注目株であることは間違い無いでしょう。

そして、実際に、2020年現在、不動産業界でのSTOへの注目度が高まっています

先ほど課題解決の一つとして説明した「小口証券の実現」でも、まさにこのSTOがうまく利用されています。

このように、STO自体は不動産に限った方法ではありませんが、業界との相性の良さから見て、STOは不動産業界における今後の一大潮流の一つになると予想されます。

ブロックチェーンのセキュリティは万能?51%問題等のリスクと対策を解説!

2025年までに世界のGDPの10%がブロックチェーン上に蓄積されると言われる昨今。対改竄性や分散性というブロックチェーンの特徴はセキュリティを担保しきれるのでしょうか?51%問題や秘密鍵流出など、実際のリスクと対策も併せて解説します!

なお、セキュリティを始めとしたブロックチェーンの諸課題について、全体像や他の事例を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→参考記事:『ブロックチェーンの3つの課題とは?〜スケーラビリティ、ファイナリティ、セキュリティ〜』

ブロックチェーンの重要性とセキュリティ

世界のGDPの10%がブロックチェーン基盤上に蓄積される?

「ブロックチェーン=ビットコイン」と考えていたらあっという間に世の流れから取り残される。

そう聞いたら、どのように思うでしょうか?

一昔前(といっても2010年代ですが)までは、ブロックチェーンといえば、ビットコインを始めとする暗号資産(仮想通貨)を支える基幹技術の一つに過ぎませんでした。

それもそのはず、もともとブロックチェーンは、2008年に生まれたビットコインネットワークの副産物でしかなく、多くのビジネスパーソンからはFintechの一領域として認識されていました。

しかし、ブロックチェーンの技術に対する理解が徐々に深まるにつれ、金融のみならず、物流・不動産・医療など、多種多様な産業での応用が進み始めました。

そして、世界経済フォーラムによると、2025年までに世界のGDPの10%までがブロックチェーン上に蓄積されるようになるとの予測もなされるほどに、ブロックチェーンの存在感は大きくなりました

そのため、ブロックチェーンを投機的な金融の一手法に過ぎないと見るか、今後の世界の様相を大きく変える「ジェネラル・パーパス・テクノロジー」と見るかによって、私たちの行く末は大きく異なってくると言えるでしょう。

そもそもブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

ブロックチェーンはセキュリティの万能薬ではない?

ブロックチェーンの大きな特徴の一つに、「データの対改竄性が高い」ということが挙げられます。

これは、トランザクションと呼ばれる個々のデータの塊のそれぞれに鍵がかけられている(公開鍵暗号方式)ことに加え、トランザクションの塊であるブロックの生成時にもコンセンサスアルゴリズムと呼ばれる合意形成のルールが適用されることで、データを書き換えることのハードルが非常に高くなっていることを意味しています。

こうした背景から、「ブロックチェーン=セキュリティを高める技術」であると考えている方も少なくありません。

しかし、残念ながら、ブロックチェーンはセキュリティの万能薬というわけではありません

確かに、ブロックチェーンは上述したような仕組みそのものの対改竄性に加えて、時系列順に取引履歴を追えること(トレーサビリティ)やネットワーク参加者間でのデータ同時共有という思想(データの対喪失性)も相まって、物流業界における偽造品対策の効果的手法として活用されるなど、そのシステムのセキュリティレベルの高さに大きな期待がされています

実際に、ブロックチェーンは、理論的には非常に堅牢なセキュリティ技術として働くことが可能で、従来のデータベースからブロックチェーン基盤へと切り替えることは、セキュリティ対策の一環としても効果がもたらされうることでしょう。

ですが、残念なことに、ブロックチェーンは「強いAI」というわけではなく、あくまで人間が稼働させる一つのシステムです。

そのため、ブロックチェーンが社会実装される過程のヒューマンエラーによって(コーディングのバグ等)、あるいは組織的な恣意性によって(51%問題等)、理論が適切に効果を発揮しないことでセキュリティが脅かされることも十分にありえます

それでは、やはりブロックチェーンは社会の救世主とはなりえないのでしょうか?

この問題を考えるためには、概念を一括りにして議論するのではなく、ブロックチェーンの種類(パブリック/クローズド)を切り分けた上で、それぞれの限界点と対策についてみていくのがよいでしょう。

次に、これらについて、それぞれ説明していきます。

ブロックチェーンの種類とセキュリティ

ブロックチェーンの分類方法

ブロックチェーンは大別すると、「パブリック型(Unpermissioned型)」と「クローズド型(Permissioned型)」の2つに分けることができます。

一般に、クローズド型ではなく「コンソーシアム型」「プライベート型」とさらに細分化させる議論が多いですが、ここでは「管理者の不在/在」という軸で分けることにより、後者をクローズド型として一括りに考えています。

ブロックチェーンの分類.jpg

ブロックチェーンの種類がセキュリティに与える影響

ブロックチェーンの種類を分ける上では、とりわけネットワークがセキュリティ要件に与える影響を考える上では、ノード(ブロックチェーンネットワークへの参加者)が限定されていないか、限定されているかが大きな論点です(前者がパブリック型、後者がクローズド型のブロックチェーン)。

一般に、「ブロックチェーン」はノードが限定されていないパブリック型を指していることが多いですが、この種類のネットワークの場合、不特定のノードが参加することでより公共性の高いネットワークを形成する必要が生じ、結果として意思決定やセキュリティの要件が引き上げられます

他方、ノードが限定されていないクローズドなブロックチェーンネットワークでは、特定の企業が許可された管理者として振る舞うことで、パブリック型の課題である意思決定やセキュリティの問題をある程度クリアすることができます。

例えば、2016年に検証が開始された海運業界のプラットフォームである「TradeLens」(IBMとMaerskが共同構築したHyperLedgerによるコンソーシアムブロックチェーン)では、二社が管理者としてネットワークのバランスを保つ役割を果たしていると言えます。

こうした背景から、ノードの参加者が限定されているパブリック型は企業向けのエンタープライズ用途に好まれますが、一方でこの仕組みはブロックチェーンを使う意義が薄いのでは、という指摘もあります。

ブロックチェーンのセキュリティリスク①:51%問題

セキュリティリスクの内容

先ほどみた「パブリックチェーン」のうち、ビットコインの原理的なセキュリティリスクと言われているのが「51%問題」です。

51%問題とは、「ある特定のノード(ネットワークの参加者)が、ネットワーク内のマシンパワーの総量を超えるパワーでマイニングを行うと、そのノードの恣意性にネットワーク全体が左右される」という問題のことで、平たく言えば、「ネットワークの乗っ取り(牛耳り)」問題といったところでしょうか。

初心者の方には意味不明かと思うので、順をおって説明します。

まず、ブロックチェーン基盤には中央管理者が存在しないため、そのネットワーク内での意思決定、例えばある取引について複数の異なる情報が提出された時(AさんはBさんに10BTC渡したが、Bさんは5BTCしか受け取っていないと主張する、といったイメージ)にどの取引記録が正しいかを決めるためには、「全てのノードが合意する、あらかじめ決められた、何かしらのルール」に基づいて判断を下さなければなりません。

このルールのことを「コンセンサスアルゴリズム」といい、ブロックチェーン基盤ごとにそれぞれのコンセンサスアルゴリズムが定められています。

例えば、イーサリアムのPoS(Proof of Stake、プルーフオブステーク)、ネムの PoI(Proof of Importance、プルーフオブインポータンス)、リップルのPoC(Proof of Consensus、プルーフオブコンセンサス)といったあたりが有名です。

さて、ビットコインでは、「マイニング(各ノードのマシンパワーを利用した計算)」を行わせることで合意形成を行う、「PoW(Proof of Work)」および「ナカモト・コンセンサス」というコンセンサスアルゴリズムを採用しています。

ビットコインの仕組みでは、マイナーと呼ばれる複数のノード達がマイニングを行った結果ブロックが生成されていく(PoW)のですが、その積み重ねとして最もブロックの数が多くなったチェーンが正しい取引記録であるとみなす(ナカモト・コンセンサス)という合意形成のルールが敷かれているのです。

ここで、これらのルールを逆手にとると、次の①②が言えます。

  • ナカモト・コンセンサス=「最もブロック数が多いチェーンが正しい」 → ①ある取引記録を正当化するためには、他のチェーンよりもブロックを多くつくればよい
  • PoW=「ブロックをつくるためには計算を行うためのマシンパワーが必要」 → ②他のチェーンよりもブロックを多くつくるためには他の対抗勢力となるノードよりも多くのマシンパワーを用いれば良い

そして、①②から、さらに次のような定理が導かれます。

  • ネットワーク全体のマシンパワーの総量の過半数を手に入れれば、どんな取引記録も正当化できる

これが、ビットコインの原理的なセキュリティリスクである「51%問題」です。

51%問題は、ビットコインの原理であるコンセンサスアルゴリズムを逆手に取ったセキュリティハックなので、原理が変わらない限りはこのリスクをなくすことはできません。

セキュリティが脅かされた事例

51%問題による暗号資産(仮想通貨)へのセキュリティ攻撃として話題になったのが、「モナコイン」事件です。

2018年5月中旬に仮想通貨Monacoin(モナコイン)への攻撃、また同時期に別の仮想通貨であるVergeとBitcoin Goldへの攻撃も発生したという事案で、一般メディアでもニュースに取り上げられて大きな話題となりました。

仮想通貨Watchによると、この事案での攻撃は、次の3点に要約されます。

  1. Bitcoin Gold(BTG)への51%攻撃。5月16~19日にかけて発生。被害額は推定1800万ドル(約20億円)。
  2. Verge(XVG)のバグを突いたTime Warp攻撃。4月と、5月22日、5月29日に発生。被害額は推定270万ドル(2億9000万円)。
  3. モナコイン(Mona)へのセルフィッシュ・マイニング攻撃(Block withholding attack)。5月13~15日に発生。被害額は推定9万ドル(980万円)。

被害額こそ一番小さいものの、モナコインは上記3種の仮想通貨の中で日本の仮想通貨取引所が取り扱う唯一の通貨であることと、モナコインが受けた「セルフィッシュ・マイニング攻撃」と呼ばれる手口が、先ほど述べたコンセンサスアルゴリズムの穴を突いた51%問題の事例であったことなどから、この事例はモナコイン問題として知られています。

事例の詳細については専門性が高く、理解が難しいためここでは割愛しますが、いずれにせよ、51%問題が、実際の事件に結びつくようなセキュリティリスクであることは間違い無いでしょう。

(本件について詳しくお知りになりたい方は、仮想通貨Watchの記事によくまとまっているので、ご覧ください)。

セキュリティリスクの対策方針

51%問題の対策方針は、「コンセンサスアルゴリズムを変更すること」です。

先ほど説明したように、51%問題は原理的なセキュリティリスクであり、PoWおよびナカモト・コンセンサスが合意形成のルールである以上、完全な対策は不可能です。

もちろん、ネットワークの規模が大きくなればなるほど、ネットワーク総量の過半数をとるマシンパワーを用意することは難しくなっていくので、51%問題を利用した攻撃のハードルも上がってはいきます。

しかし、あくまで難易度が上がるだけの話であるため、リスクがなくなるわけではありません。

また、ビットコインと同じコンセンサスアルゴリズムを採用した新しいネットワークは、51%攻撃の高い危険性にさらされることになります。

したがって、51%問題のリスクをなくすためには、ルールそのものを変更する必要があるのです。

これは、ビットコイン以外のブロックチェーンネットワークにおいて実際に行われていることで、例えば、イーサリアムで採用されている「PoS(Proof of Stake)」は、51%攻撃のリスクを限りなく低くすることを目的に定められてルールと言われています。

PoSは、「ネイティブ通貨の保有量に比例して、新たにブロックを生成・承認する権利を得ることができるようになる仕組み」であるため、あるノードが51%攻撃を行うためには、ネットワーク全体の過半数のコインを獲得しなければならず、これは過半数のマシンパワーを一時的に利用することと比べて、はるかに難易度が上がります。

また、コンセンサスアルゴリズムだけではなく、ネットワーク参加者自体を許可制にすることも、51%問題に対する一つの対策方法です。

先述した「コンソーシアム型」と呼ばれるブロックチェーンネットワークでは、「PoA(Proof of Autority)」というコンセンサスアルゴリズムのもと、閉じられたネットワーク内で一部のノードに合意形成の権限を与えるという形をとっています。

ブロックチェーンのセキュリティリスク②:秘密鍵流出問題

セキュリティリスクの内容

ブロックチェーンのセキュリティリスクとしてもう一つ代表的なものが、「秘密鍵流出」の問題です。

これは、いわゆる「なりすまし」攻撃で、各ノードが保有するアカウントに付与された「秘密鍵」を盗まれることで起こります

ブロックチェーンの仕組みでは、ネットワーク基盤上で行われた取引記録が「トランザクション」と呼ばれる塊として大量にプールされており、そのプールから1MB(メガバイト)分のトランザクションを取り出して「ブロック」としてまとめています。

このトランザクションが取り出される際に「秘密鍵暗号方式」と呼ばれる方法でトランザクションへの「署名(秘密鍵で暗号化する)」が行われることで、トランザクション自体のセキュリティが担保されています。

通常、この秘密鍵は、各アカウントごとに一つだけ付与されるもので、この鍵を使うことでアカウントに紐づいた様々な権限を利用することができます。

そのため、この鍵自体が盗まれてしまうと、個人アカウント内の権限を第三者が悪用できてしまうことになります。

これが、秘密鍵流出問題です。

セキュリティが脅かされた事例

秘密鍵流出問題として、世間を大いに騒がせたのが「コインチェック」事件です。

仮想通貨取引所であるコインチェックが第三者による不正アクセスを受け、日本円で約580億円に相当する5億2300万NEMが流出してしまった事件で、仮想通貨に対する一般消費者の信用を大きく落とすきっかけになった事件としても記憶に新しいでしょう。

TechCrunchによると、事件の経緯は次の通りです。

  • 2時57分(以後、すべて1月26日):事象の発生(コインチェックのNEMアドレスから、5億2300万NEM(検知時のレートで約580億円)が送信される。
  • 11時25分:NEMの残高が異常に減っていることを検知
  • 11時58分:NEMの入出送金を一時停止
  • 12時7分:NEMの入金一時停止について告知
  • 12時38分:NEMの売買一時停止について告知
  • 12時52分:NEMの出金一時停止について告知
  • 16時33分:日本円を含むすべての通貨の出金を一時停止について告知
  • 17時23分:ビットコイン以外の仮想通貨の売買、出金を一時停止・告知
  • 18時50分:クレジットカード、ペイジー、コンビニ入金の一時停止について告知

コインチェック事件では、秘密鍵への対策が十分に施されていないウォレットで管理していたことが不正送金の原因になったのではないかと言われており、ブロックチェーンの仕組みや原理そのものではなく、運用上のヒューマンエラーに近い要因でのセキュリティリスクを顕在化させた事例としてみることができるでしょう。

セキュリティの対策方針

秘密鍵流出問題への対応策の一つとされているのが、「マルチシグ(マルチシグネチャーの略)」です。

トランザクションの署名に複数の秘密鍵を必要とする技術のことで、マルチシグを利用する際には、例えば企業の役員陣で鍵を一つずつ持ち合うなどの対応がとられます。

マルチシグは、秘密鍵流出問題へのリスクヘッジ方法であると同時に、 一つの秘密鍵で署名を行う通常のシングルシグに比べてセキュリティレベルも高くなることから、取引所やマルチシグウォレットなどで採用されています。

ただし、上述のコインチェック事件のように、個人レベルでマルチシグを利用していたとしても、取引所そのもののセキュリティが破られてしまった場合には被害を食い止めることはできません。

セキュリティへの攻撃は複数階層に対して行われうるものであることを理解して、単一の技術のみに頼るのではなく、本質的な対応をとるように心がけましょう。

IoT、ブロックチェーン、AI。ビッグデータを活用したDXとは?

IoT、ブロックチェーン、AI。一見、無関係にもみえるこれらの概念は、実は、「ビッグデータを活用したDX」という文脈で相互補完的な役割を果たしています。中でもブロックチェーンは、特に不可欠な存在です。どういうことか?初心者向けに解説します!

なお、ブロックチェーンの過去、現在、今後について、概念の全体像を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→ 参考記事:『【完全版】ブロックチェーンの全知識〜過去・技術・ビジネス・今後〜』

IoT、ブロックチェーン、AIとは、それぞれどのような概念か?

IoT

IoT(Internet of Things、モノのインターネット)とは、「世の中のあらゆるモノをネットワークに接続することで、さまざまな付加価値を生み出すことを目的としたITインフラストラクチャ」のことです(JRIレビュー(北野2017))。

この定義から読み取れるIoTを理解する上で重要なポイントは次の3点です。

  1. モノをインターネットに繋げる
  2. 付加価値を生み出す
  3. IT基盤(インフラストラクチャ)である

一般に、IoTと言われて思いつくのはAmazon Echoなどに代表される、センサーで自動的に電気をつけたり音声認識でエアコンをつけたりといった、いわゆるスマート家電でしょう。

スマート家電では、(1)もともと独立したモジュールであった電気やエアコンといった端末をインターネットに接続し、(2)手動で起動する手間を省いたり相互に連動することで家の快適さを上げるという付加価値を生み出しています。

しかし、こうしたスマート家電などの典型的なIoT概念で見落としがちなのが、ポイント3です。

実は、「自動的に起動する」「連動する」といったことは、あくまで個人消費者向けの小さなメリットに過ぎません。

IoTは、そうした小さな範囲にとどまる概念ではなく、「AI(人工知能)、ビッグデータなどの技術とともに利活用することで、経済活動の効率性や生産性が大きく向上すると見込まれて」おり、「さらに、高齢・人口減少社会における経済、社会保障などの面で生じる課題を解決する手段としても注目を集め」るJRIレビュー(北野2017))、(3)社会の基盤そのものを変更するような概念なのです。

ブロックチェーン

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

AI(人工知能)

AI(Artificial Inteligence、人工知能)とは、「人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術(松尾 豊 東京大学大学院工学系研究科科 准教授)」のことで、学問的にはコンピュータサイエンスの一分野とされています。

AIは非常に概念の範囲が広く、映画『ターミネーター』シリーズのように完全に自律した人間を超越しうる存在としてのAI(「強いAI」)から、近年期待と注目を集めている「(ヒトによる操縦を必要としない)自動運転車」、果てはビジネスパーソンにおなじみのExceや電卓(「弱いAI」)まで、およそ人間の知能労働を代替する計算機(コンピュータ)とその背後にある情報処理モデル(アルゴリズム)が総じて「AI(または人工知能)」と呼ばれています。

AIの中でも、現時点で特に重要なのが「機械学習」と呼ばれる分野です。

機械学習とは、「ある仕事の能率を上げるために、コンピュータを用いてその仕事を構成するデータ(変数)を分析し、アルゴリズムをモデル化すること」で、代表的な手法にディープラーニングやランダムフォレストなどがあります。

特にディープラーニングは、これまで人間が分析しきれなかったアルゴリズムを精度高くモデル化できることから「AI(あるいは機械学習の)ブレイクスルー」と称されており、ディープラーニングを用いた強化学習モデルであるAlphaGo(アルファ碁)が、世界最強の囲碁棋士を打ち負かしたことは記憶に新しいでしょう。

現時点ではコンピュータの計算能力やデータ自体の精度、機械学習を適切に扱えるデータサイエンティストやビジネスパーソンの存在など、様々なボトルネックが存在していますが、例えば量子コンピュータの登場などによってこうした諸条件が満たされるようになると、AIが人間の知能で測り得ないレベルの知能を獲得するとされる、「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼ばれる新たなブレイクスルーポイントへと到達する日も近いと言われています。

IoT、ブロックチェーン、AIと、ビッグデータを活用したDXの関係

DX(デジタルトランスフォーメーション)って?

バラバラの文脈で語られることの多いIoT、ブロックチェーン、AIという3つの概念は、実は、「ビッグデータ活用を前提としたDX」というより大きな社会動向の要素として相互に関連づけることができます

ビッグデータとは、「構造化データか非構造化データかを問わず、ビジネスや研究の現場に溢れている大量のデータを意味する用語」のことです(SAS)。

また、DX(Digital Transformation、デジタルトランスフォーメーション)とは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念を指します(日本デジタルトランスフォーメーション推進協会)。

さて、一般に、ビジネス文脈におけるDXは、これまでITが使われていなかった領域(いわゆる「レガシー」産業)にITを導入すること、あるいはITによる改善を行える環境を整えることによる効率化とコスト削減を意味します。

したがって、一口にDXといっても目的やアプローチは非常に幅広く、例えば、大きくは産業全体のサプライチェーンを改革するというストーリーもあれば、小さくはエンジニアの就労環境改善やインターネット環境の整備など、個社レベルの小さな改善も含まれています。

この中でも特に前者、つまり産業や社会レベルの課題解決としてのDXで求められているのが、ビッグデータの活用です。

これまで活用されてこなかった構造化データ、あるいは構造化すらされてこなかった大量のデータを分析することで、産業や社会全体の仕組みを大きく変え、効率化し、私たちの生活をより豊かにできる可能性があるのです。

そして、まさにこの文脈において重要なのが、IoT、ブロックチェーン、AIという3つの概念です。

DXにおけるビッグデータ活用の流れ

IoT、ブロックチェーン、AIの3概念は、ビッグデータ活用の大きな流れに位置付けて関連させることができます。

ビッグデータ活用の大きな流れとは、次の通りです。

  1. データを集める
  2. データを保存・管理する
  3. データを分析する
  4. データを活用する(社会実装する)

まず、ビッグデータを活用するには、そもそもデータ自体が十分に集まっている必要があります。

一見、簡単なことのように思えますが、実は、世の中には機械による処理が可能な形のデータ(構造化データ)とそうではない形のデータ(非構造化データ)、そしてデータとしてすら認識されていない情報があり、構造化されたデータは全情報のごく一部でしかありません

したがって、ビッグデータを活用してDXを実現するためには、まずデータを構造化する、あるいは自然の情報をデータ化するといった、(1)データ収集の作業が重要になります。

次に、1で集めたデータを適切に保存・管理していく必要があります。

実は、これもデータ分析を行なった経験がないと想像しにくいことですが、データ分析において、自分の思ったような形で正しくデータが揃っているということはごく稀です。

実際には、データの一部が欠損していたり、データそのものの信用が怪しかったり、異なるデータベース同士を接合する必要があったりと、いわゆる「データの前処理」という地味で根気の要る仕事が大半を占めています。

これは、そもそも現時点では、多くの産業や企業においてデータを適切に管理するための基盤が整っていないことに起因しています。

したがって、DXに向けて大量のデータを正しく活用していくためには、(2)データの保存・管理の方法が大切なのです。

続いて、あるデータベース上に保存されたデータを分析していきます。

当然のことながら、データは集めて保存しているだけでは価値がありません

付加価値を出していくためには、情報の羅列であるデータベースから、何かしらの目的を持って分析を行い、実際の業務等に反映して効率化を実現していく必要があります。

ですが、現実には、ビッグデータが重要であるということだけを鵜呑みにして「とにかくデータを集めろ」で終わっている企業も少なくありません

これは、先ほどもみたように、データを適切に取り扱える人材が不足していることにも原因がありますが、それ以上に、「データは分析して実際に役立ててナンボ」という当たり前の考え方が欠落しているからだと言わざるを得ないでしょう。

そのため、ビッグデータ活用によるDXでは、この(3)分析のフェーズを意識して全体を設計していくことが重要だと言えます。

最後に、分析の結果であるモデルに当てはめて、現実世界の施策として社会実装していきましょう。

一般に「ビッグデータ」「DX」というとこの社会実装の部分ばかりがケースとして目立ってしまいますが、実は、1〜3の流れを適切に行うことができていれば、半分はクリアしてしまったようなものです。

もちろん、実際には、理論を現実へと実装していく過程が最も困難な場合がほとんどではありますが、そうした困難の原因として、目的から正しく逆算せずに「場当たり的に」データ活用を行おうとした結果、当事者が納得するような施策にまで十分落とし込めなかったということが少なくありません。

そのため、(4)データの活用、社会実装を適切に遂行する上でも、1〜3の収集→管理→分析が大切だと言えるでしょう。

そして、これら1〜3の実現方法として大切な役割を担うのが、それぞれIoT、ブロックチェーン、AIなのです。

IoT、ブロックチェーン、AIは、DXにおける相互補完的技術とみなせる

先ほど見たビッグデータ活用によるDXの流れと、IoT、ブロックチェーン、AIの3概念は、それぞれ次のように対応させることができます。

(※下記の対応は、必ずしも現時点でそうなっているとは限らず、今後の未来における一つの形を提唱しています)

  1. データを集める → IoTによるハードウェア端末でのデータ収集
  2. データを保存・管理する → ブロックチェーンによるデータベースの統合・管理
  3. データを分析する → AI(機械学習)による大量情報の処理
  4. データを活用する(社会実装する)

まず、IoTでは、身近にあるあらゆるモノをインターネットに繋ぎます

これにより、私たちが触れる様々な情報端末を通して、私たちの日々の行動パターンをデータとして蓄積することが可能になります。

例えば、先ほど例に挙げたスマート家電でも、Amazon Echoで鈴木さんがよく再生する音楽であったり、鈴木さん本人の声の波形、声をかけるタイミング、快適と感じやすいエアコンの温度などなど、多種多様な生活データが取得されています。

こうした環境が家の中に限らず、通勤経路、電車やバス、ビル、カフェや居酒屋、学校、病院など、生活の各拠点でモノがインターネットに接続されることで、これまで活用されてこなかった大量のデータを収集することが可能になるのです。

次に、こうしてIoT端末から収集されたデータをどのように管理するか、という問題が起こります。

ここで重要な役割を果たしうるのが、ブロックチェーンの技術です。

現在の社会では数多ある企業がそれぞれの端末、フォーマット、経路でデータを取得し、さらにそれぞれ異なるデータベースでデータを管理しています。

また、各データベースでシステムのセキュリティ要件が十分に担保されているとは限りません。

これらの事情から、ビッグデータを活用する上では、次の章で後述するような「データの統合」「データの真正性」の課題にぶつかります

ブロックチェーンは、従来のデータベースで解消することに限界があったこれらの課題に対して、より実現性の高いソリューションを提供することのできる技術だと言えます。

実際に、DXという大きな文脈に限らず、個社がビジネスでデータ活用を行う上でも、ブロックチェーンの存在感は日増しに大きくなってきていると言えるでしょう(世界経済フォーラムによると2025年までに世界のGDPの10%がブロックチェーン基盤上に乗るとの試算がなされています)。

最後に、ブロックチェーン基盤上で管理・統合されたデータを処理するのがAIの役割です。

ビッグデータ、とりわけIoTで集められたデータ群は、これまでデータ分析の領域が取り扱ってきたものよりも変数が多く、モデルも複雑化します。

こうしたデータを取り扱う上では、ディープラーニングを始めとした機械学習モデルが有効です。

例えば、メーカーの大規模工場におけるDXのプロセスでは、各機械で計測されたセンサーデータをもとに、勾配ブースティングなどの機械学習モデルによる「異常検知」(機械の誤作動による不良品生産等のミスが起こる確率と条件をモデル化)を行うことで、工場のオートメーションを推進したり、無駄なコストを省くといった改善が試みられる、といった具合です。

こうした分析は工場ライン一つ一つを具に見ていくだけではなく、全ラインを統合した形での全体分析を行う必要があり、まさに膨大な量のビッグデータを処理しなければなりません。

AI(機械学習)は、こうしたデータ分析を実現する有効な手段と言えます。

このように、IoT、ブロックチェーン、AIは、データの収集→管理→分析という一連の流れでそれぞれに長所を発揮しつつ、相互補完的な役割を果たす関連技術であると見ることができるのです。

DXでブロックチェーンが果たす重要な役割

ブロックチェーンがIoTとAIを生かしている?

上にみたデータの収集→管理→分析という一連の流れの中で、地味ながらも非常に重要な役割を果たしているのがブロックチェーンによるデータの管理です。

先にみたように、ビッグデータを活用してDXを実現するということは、ある一企業や企業内の一部門だけで完結する類のプロジェクトではなく、産官学、サプライチェーンにおける川上と川下、同業他社、生産者と消費者など、異なる立場(そして時には敵対する立場)にいる複数のプレイヤー間での協業が不可欠になってきます。

また、取り扱うデータの総量が大きくなるにつれ、関係する人の数やプロジェクトの期間も増え、オペレーションエラー等のリスクが高まっていきます。

しかし、その一方で、データ分析は非常に繊細な側面をもち、インプットするデータが少し変わるだけでアウトプットとなるモデルや仮説の精度が大きく左右されることも少なくありません

こうした前提条件のもとでは、複雑になりがちな管理をできる限りシンプルで、かつ、セキュリティ等のリスク要件を満たすような仕組みで解決できるような技術を採用する必要があります。

ブロックチェーンは、こうした従来のデータベースでは解消が難しい複数の課題を解決しうるという点で、まさにDXにビッグデータ×DXに打ってつけの技術なのです。

ブロックチェーンの役割①:セキュアなデータ統合の仕組みを提供する

ビッグデータ利用にあたっての課題の一つに「データ統合」の問題があります。

上でも述べたように、価値あるデータは単体プレイヤーに閉じたものではなく、複数の異なるステークホルダー(利害関係者)がもつデータを統合した先にあります。

ここで問題となるのが、異なるデータベース間でのデータ共有における安全性の問題です。

データベースが異なるということは、データを保存するフォーマットや構造化の方法、単位等、あらゆる要素が異なってきます。

そうした諸データを統合することはそれ自体難度が高いばかりでなく、統合の際にデータを欠損する等のオペレーションエラーを誘発する原因にもなりえます。

さらに、仮にシステム上は統合が可能であったとしても、例えば競合関係にある複数社による統合が試みられるとした場合、誰が中心となって、どこまでのデータを、どういった権限のもとに共有するかという論点が生じます。

こうした場合、各社が「もしかすると他社のいいようにやられて大切なデータまで取られるかもしれない・・」といった疑心暗鬼の状態に陥り、プロジェクト自体が頓挫してしまうケースも少なくありません。

これに対してブロックチェーンでは、そもそも中央管理者を必要としない設計思想である上に、その分散管理システムを高いセキュリティレベルで実現できます。

また、そもそもが一つのデータベースを共有する形になるため、異なるデータベース間のデータ共有問題もクリアしやすいと言えます。

実例として、国内で注目すべき取り組みが、トヨタ自動車株式会社(以下、「トヨタ」)、トヨタファイナンシャルサービス株式会社による「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」の試みです。

同ラボは、2019年4月、トヨタ等により「グループ横断のバーチャル組織」として立ち上げられ、「実証実験を通じたブロックチェーン技術の有用性検証やグループ各社とのグローバルな連携等、当該技術の活用に向けた取り組みを進めて」います(カギ括弧内は、TOYOTA「「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」、ブロックチェーン技術の活用検討と外部連携を加速化」より引用/太字は筆者)。

①「ブロックチェーン技術の活用イメージ」/②「活動の拡がりイメージ」(共にTOYOTAより)

同ラボ立ち上げの背景として、トヨタは、「モノづくりを中心に、モビリティに関わるあらゆるサービスを提供する『モビリティカンパニー』を目指しており」、「その実現に向け、グループ内外の『仲間づくり』を進める上では、商品やサービスを利用するお客様、それらを提供する様々な事業者が、『安全・安心』のもとで、より『オープン』につながることが重要」であるとしています。

そして、ブロックチェーンが「グループ内外の仲間づくりを下支えし、その結果、お客様にとってより利便性が高くカスタマイズされたサービスの提供や事業の効率化・高度化、更に既存の概念にとらわれない新たな価値創造をもたらす可能性がある」ために、ブロックチェーンによるグループ横断のヴァーチャル組織をつくったと発表しています。

(カギ括弧内は、TOYOTA「「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」、ブロックチェーン技術の活用検討と外部連携を加速化」より引用/太字は筆者)

トヨタによるブロックチェーンを利用した横断組織の組成という事例は、まさに、利害関係が複雑に絡み合う異なるステークホルダー間でデータ統合を行なっていくことの可能性を示していると言えるでしょう。

このように、ブロックチェーンは、「セキュアなデータ統合の仕組みを提供する」という重要な役割を果たしています。

ブロックチェーンの役割②:データの真正性を担保する

ビッグデータ利用にあたっての別の課題として、「データの真正性」の問題があげられます。

データの真正性とは、「取り扱うデータが欠損や改竄等の欠陥のない正しいものかどうか」を表す概念です。

先述したように、データ分析の精度を大きく左右するのは、実は分析そのもの以上に、データの真正性であると言われています。

なぜなら、AI(機械学習)では、データをインプットとして関数を組み、精度の高いモデルを生み出すことを目的としているため、インプットであるデータが間違っていたら、当然、結果も間違ったものができてしまうからです。

そのため、データ分析の世界においては、データ自体の真正性をなんとか担保する試みとして「データの前処理」という工程が最も重要視されています。

しかし、取り扱うデータの総量や関わる人間の数、プロジェクトの予算等が大きくなればなるほど、何かしらのヒューマンエラーであったり、悪意のある第三者によるデータ改竄の攻撃を受けやすくなります。

データの前処理では、ある程度の欠損等には対応しうるものの、データの真正性自体を正確に担保することはできません。

したがって、収集したデータを管理する時点で、改竄等のリスクを減らす仕組みを導入する必要が出てくるのです。

こうした課題に対してブロックチェーンでは、ハッシュチェーン(前後のブロックをハッシュ値と呼ばれる暗号数で結びつける考え方)にうよるデータベース生成、個々のデータ履歴自体へのセキュリティ(秘密鍵暗号方式)、コンセンサスアルゴリズムと呼ばれる合意形成のルール、といった複数の仕組みによって、高いレベルでの対改竄性を実現しています。

ブロックチェーンによるデータの真正性担保の実例としてあげられるのが、「メディカルチェーン」です。

これは、かれこれ20年ほど叫ばれ続けていた医療のデジタル化、特に電子カルテを始めとする院内データの共通化の問題を、ブロックチェーンで巧みに解決しようという試みです。

医療データは、個人情報の中でも特に秘匿性が高く、セキュリティ要件が最も高く求められます。

そして、医療機関ごとのデータ保存形式も異なるため、それらを共有していくハードルは非常に高いものになります。

メディカルチェーンでは、この問題に対して、各医療機関のデータを一つのブロックチェーン基盤上に乗せることを目指しています。

また、ビジネスモデルとしては、トークンエコノミーを採用し、トークンからの収益と医療機関からの収益を主治医や患者に還元することで、この仕組みがうまく回るように設計されています。

この事例は、ブロックチェーンが、医療情報という非常にセンシティブな情報を取り扱う基盤として信用・期待されていることを示す好例でしょう。

このように、ブロックチェーンは、「データの真正性を担保する」という重要な役割を果たしています。