【2024年】中国NFT(デジタルコレクティブル)市場の現状

2021年以降NFTが世界的に関心を集める中、中国でもNFTに関する話題は事欠きません。仮想通貨に対する規制の厳しい中国では、二次販売禁止・仮想通貨による決済不可という他とは違う独自のNFT市場が形成されています。

本記事では、中国での仮想通貨規制やNFTの基礎知識を解説した上で、中国NFT市場の特徴や、中国NFTのトピックスをご紹介していきます。

  1. 中国NFT市場と仮想通貨規制
  2. NFTとは?
  3. 中国のNFT取引は他国とどう違うのか
  4. 中国NFT市場のトピックス
  5. まとめ

中国NFT市場と仮想通貨規制

政府による仮想通貨規制

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2021年頃からNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)が世界的に注目を集め、有名クリエイターの参加や限定の特典が付与されたNFTの登場など、市場全体が大きな盛り上がりを見せてきました。

同時期には中国でも他国同様、NFT市場拡大の流れが起きていました。そんな最中、2021年9月に中国政府は仮想通貨の決済や取引情報の提供など、仮想通貨に関連するサービスを全面的に禁止すると発表しました

その背景には、仮想通貨の投機的な取引が中国経済に悪い影響を与えるといった考えや、中国政府が発行を計画している仮想通貨「デジタル人民元」を発行する上でのノイズを除去したり政府が全ての取引を管理する狙いがあるとされています。

仮想通貨が全面的に禁止されたことにより、その仮想通貨を基盤とするNFTへの影響も懸念されました。しかし仮想通貨の全面禁止以降、中国のNFT市場は規制と共存しつつ他の国とは違う独自の成長を遂げていくこととなります。

独自ルールのNFT市場

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2021年9月以降、仮想通貨への取り締まりは強化されましたが、NFTに関して完全には規制されておらず、仮想通貨規制を考慮した上で独自のNFT市場が形成されています。

他のNFT市場との違いについての詳細は後述しますが、決済にビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETC)といった仮想通貨ではなく法定通貨である人民元が用いられている点が大きな特徴となります。

加えて、世界に開放されているブロックチェーンではなく、中国政府が管理する閉ざされたブロックチェーンを利用しており、購入したNFTを外部(世界)の二次市場で売買することはできない点も中国NFT市場の特徴の一つです。

また、NFTを取り扱う中国のテック大手企業の多くは、当局の規制に配慮して「NFT」ではなく「デジタルコレクティブル(数字収蔵品)」という言葉を使用し、世界の仮想通貨市場との区別を図っています。

こういった点から、世界と中国ではNFTを取り巻く環境や市場そのものの構造が異なるということが見てとれますが、ここでは「中国のデジタルコレクティブル市場」を便宜的に「中国NFT市場」と呼ぶことにします。

規制の中でも急成長する中国NFT市場

中国NFT市場は、政府によって仮想通貨が規制されているにも関わらず、その市場規模を急速に拡大させています。

実際に、中国国内のNFTマーケットプレイス(NFT取引所)は2022年2月の時点で100あまりしか存在していませんでしたが、同年6月にはその数が500を突破し、たった4ヶ月で5倍にまで増加したことが現地メディアにより報じられています。

中国のNFT市場がここまで急速に拡大した要因としては、同国内におけるNFTへの関心の高まりと、テンセントやアリババといった中国の巨大テック企業の本格的な参入があげられます。 実際に、2021年6月にアリババグループのAlipayが決済QRコードの背景になる(いわゆる着せ替え)1.6万個の限定版 NFTを販売すると、発売後数秒以内に完売しました。

このようにNFTへの関心や需要が高まる一方で、NFTに関わる個人や企業は、仮想通貨に対して厳しい監視の目を向ける中国政府との直接的な対立を避けるために慎重なアプローチを取っています

たとえば、先述したように大手テック企業が「NFT」ではなく「デジタルコレクティブル(数字収蔵品)」という言葉を用いて区別するのも、当局による規制強化の可能性を回避するためだと言われています。

仮想通貨市場に対して厳しい姿勢で臨む中国政府と、規制と共存しつつ拡大を続ける中国NFT市場、という構図が出来上がっているのが現状です。こういった中国独自のNFT事情について詳しく解説する前に、次項では今一度「NFT」という技術についておさらいをしていきます。

NFTとは?

NFT=”証明書”付きのデジタルデータ

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NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに、固有の価値を保証しています。

つまり簡単にいうと、NFTとは耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している”証明書”が付属しているようなものです。

NFTでは、その華々しいデザインやアーティストの名前ばかりに着目されがちですが、NFTの本質は「唯一性の証明」にあるということです。

NFTが必要とされる理由

世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した「NFT=非代替性トークン」は文字通り後者となります。

例えば、紙幣や硬貨には代替性があり、替えが効きます。つまり、自分が持っている1万円札は他の人が持っている1万円札と全く同じ価値をもちます。一方で、人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。

不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。しかし、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます

そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。

実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。

NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。

これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、必要とされているのです。

中国のNFT取引は他国とどう違うのか

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ここからは中国におけるNFT、すなわちデジタルコレクティブルとNFTとの違いについて解説していきます。

決済通貨が人民元に絞られている

前項でも触れたとおり、NFTやそれらのエコシステムはブロックチェーンを基盤に作られています。そしてNFTを取引する際の決済では、そのNFTが所属するブロックチェーン上での基軸通貨であるビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETC)といった仮想通貨を用いるのが一般的です。

一方、仮想通貨への規制が厳しい中国でのNFT取引で使える決済手段は、法定通貨である人民元のみとなっています。表向きには、中国で人気を集めているビットコインのマイニングが環境に深刻なダメージを与えることや、仮想通貨投資の流行によって巨額の損失を抱えた投資家が急増する懸念などを理由にしています。

しかし、実際のところは「政府の管理できない仮想通貨が脅威となったから」というのが実情でしょう。国境に左右されず、規制が届かない仮想通貨の性質は、「国家管理経済」という中国政府の理念に大きく反するものです。キャピタルフライトは輸入額の増加、輸出額の減少、これらに伴う国内インフレなど様々な問題をもたらすため、なんとしても阻止しなければならないというわけです。

事実、中国では仮想通貨を用いたマネーロンダリングが爆発的に流行した時期があり、当時の逮捕者は30万人を超えるともいわれています。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/06/1000-31.php

中国政府としてはこうしたアンコントローラブルな経済を認めるわけにはいかず、NFTは人民元のみでの決済となっています。一見すると自由度の低さが目立ってしまいますが、法定通貨でのみ購入可能ということは、その分価値は安定しています。NFT自体の価値の変動以外に仮想通貨自体の変動も考慮しなければならない一般的なNFTよりも安心してコレクションすることができます。

こういった意味では「デジタルコレクティブル」というネーミングは、実際の利用シーンに即したまさにピッタリの名前といえますね。

二次売買が出来ない

NFTの一般的な活用方法の一つに「2次売買による収益化」があります。NFTには、大元の持ち主が誰なのかという情報に加え、NFTが転売された際に大元の持ち主に何%還元されるのかという情報を記録させることができます。

この仕組みによって、音楽やスポーツといった様々な分野における転売収益の確保が可能になると注目を集めているのですが、中国のNFTにはこれが適用されません。中国国内の殆どのNFT販売プラットフォームでは無償であってもNFTの譲渡はできず、同様に購入者は、二次流通または二次的著作物の作成を許可されていません。

価値が安定しているというのは中国NFTのメリットだと紹介しましたが、それは二次流通マーケットあってこそ発揮されるものです。この仕様に関しては中国NFTの普及を妨げる一因になり得るでしょう。

取引所に管理者が存在する

中国のNFTプラットフォームのほとんどには管理者が存在します。これはブロックチェーンやNFTが本来持つ「分散型」という特徴とは逆行する考え方となります。

NFT取引所を始めとするブロックチェーン関連組織の意思決定は、特定の誰かによってではなく、組織全体で行うものだという考え方が一般的です。しかし、中国のNFT市場は国が定める規制を厳格に遵守しており、それぞれのNFTプロジェクトは圧倒的に中央集権的です。

つまり中国NFT市場では、管理者がそのブロックチェーンの廃止を決定した場合、一瞬にしてすべてのデジタル資産にアクセスできなくなるといったリスクがあります

また、一般的なNFT市場は誰でも匿名で参加できるのに対して、中国のNFTマーケットプレイスではすべての参加者に実名での身分証登録を義務付けています。

KYC(Know Your Customer)ポリシーと呼ばれるこのルールは、マネーロンダリングや詐欺といった犯罪防止に役立つとされています。しかし、中央集権的な仕組みの中国NFT市場では、NFTを利用する際に登録したすべての個人情報が、政府や一企業に把握されるようになるという側面もあります。

中国NFT市場のトピックス

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政府主導で進むNFTインフラの構築

2022年1月、中国の政府関連団体は暗号通貨を使わない中国独自のNFTインフラ「中国デジタル取引プラットフォーム(CDEX)」をリリースしました。決済やガス代の支払いに仮想通貨ではなく人民元を使用することから、一般的なNFTと区別する意味で「BSN分散型デジタル証明書(BSN-DDC)」という名称がついています

BSN-DDCは、車のナンバープレートや学校の卒業証書など、証明書管理の分野で活用が見込まれています。たとえば、NFTで車両のナンバープレートの作成によって、所有者だけでなく政府や保険会社が車両データや運転履歴にアクセスできるようになります。

ここでもやはり、デジタルアートや投機的な側面がある他国のNFTとは一線を画していることがわかります。どちらかといえばSBT(ソウル・バウンド・トークン、一度取得すると譲渡や売買が不可で、ウォレットのアイデンティティを表す)に近いニュアンスです。

また、2023年10月に中国共産党の機関紙「China Daily」が、独自のメタバースとノンファンジブルトークン(NFT)プラットフォームを作成する計画を発表しました。

この発表で注目すべきなのが、OpenSeaやRaribleといった国外の主流NFTプラットフォームとの連携が予定されているということです。プラットフォームの目的は、「中国文明の影響の拡大を改善する」こととされていますが、一定の条件下であれば、二次流通も可能になるかもしれません

同年12月には中国の行政機関である工業・情報化部はNFTや分散型アプリ(dApps)の開発を促進するとも表明しています。

今後も仮想通貨を禁止しながら、Web3の革新的なアプリの開発やデジタルエコシステムの構築は促進していくという独自路線のNFTが進化していくと思われます。他方で、これまでの中国の様々な規制と同様に、ある日突然に規制が強化されるのではないかと懸念する声もまた根強いので、注意深く動向を見守る必要があります。

北京冬季オリンピックの開催で自国IPのNFTが大ヒット

2022年2月に開催された北京冬季オリンピックはスポーツ界に留まらず、NFTにも大きな影響を与えました。きっかけになったのは北京冬季オリンピックのマスコット「氷墩墩(ビン・ドゥンドゥン)」の存在です。

出典:36Kr

この可愛らしいキャラクターはNFTアートとしてグッズ化され、香港に拠点を置くNFTマーケットプレイスの「nWayPlay」上で販売されました。

デジタルブラインドボックス、つまり「ガチャ」である「EPIC BOX」が売り出されるとすぐさま話題に。当初は正規プラットフォームで99ドルだった販売価格も、349ドルへと修正されるなど、大成功を収めました(もちろん完売)。

中国国内からは購入ができない仕様となっていましたが、こういった自国のIPが大躍進を遂げたことは国内でも大きく報じられました。韓国のK-POPやドラマ、日本の漫画やアニメといった世界的な大人気コンテンツを持つ周辺諸国に比べると、IPでは一歩遅れを取っている印象の中国。こうしたニュースを機に当局の硬派な姿勢が幾分和らげば、NFTに対する規制も和らいでいくのではないでしょうか。

NFTの盗難に対する刑事罰を発表

2023年11月、中国政府はデジタル資産の盗難が、財産の盗難として法的に扱われると発表しました

声明では、NFTを含むデジタル資産はデータと仮想資産の両方から構成されていると主張。したがってNFTの盗難は、単なる不正アクセスにとどまらず、コンピュータ情報システムからのデータの違法取得と、仮想資産の窃盗という二つの罪で同時に起訴されることになります。

日本においてはNFTに関する法整備が追いついておらず、金融庁のパブリックコメントに対する回答などを参考に、それぞれのサービスに準じて暗号資産交換業や前払式支払手段発行者、資金移動業などの登録を行うのが一般的な流れとなっています。

こうしたなかで、中国がこういった動きを見せるのは、単に法的秩序を保つということ以外にもWeb3に対する中国の継続的な関心を反映しており、仕組みづくりといった面で先手を打とうとしているという見方もできます。

現在は仮想通貨を中心に、NFTにも厳しい規制を設けている中国政府ですが、雪解けの時期に来ているのかもしれません。

まとめ

本記事では、中国NFT市場の現状について解説してきました。

現状、中国当局は仮想通貨に対しては全面的に規制していますが、NFTについての具体的な規制や法整備は発表していません。 しかし今後中国国内のNFT市場が加熱し、当局の監視が及ばない場所での二次流通や資金洗浄などの違法行為が増えていくと、NFTに対しても規制を本格的に強化するかもしれません。

一方で、仮想通貨を使わない中国独自のNFTインフラの構築と普及が中国政府主導で進められているなど、中国独自のNFT利用は更に加速していくものと思われます。

今後の中国のNFT市場に関する動向を、引き続き見守っていきましょう。