2021年以降NFTが世界的に関心を集める中、中国でもNFTに関する話題は事欠きません。仮想通貨に対する規制の厳しい中国では、2次販売禁止で、仮想通貨で決済できない他とは違う独自のNFT市場が形成されています。本記事では、中国での仮想通貨規制やNFTの基礎知識を解説した上で、中国NFT市場の特徴や、中国NFTのトピックスをご紹介していきます。
中国NFT市場と仮想通貨規制
政府による仮想通貨規制
中国独自のNFT市場が形成され急成長している
独自ルールのNFT市場
規制の中でも急成長する中国NFT市場
そもそもNFTとは?
NFT=デジタルの”はんこ”
NFTが必要とされる理由
NFTとブロックチェーン
中国のNFT取引は他とどう違うのか
①決済通貨が人民元に絞られている
②2次売買が出来ない
③取引所に管理者が存在する
④利用には認証が必要
中国NFT市場のトピックス
政府主導で進むNFTインフラの構築
コロナ検閲への反攻手段としてNFTを利用
まとめ
中国NFT市場と仮想通貨規制
政府による仮想通貨規制
出典:pixabay
2021年頃からNFT=「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」が世界的に注目を集めています。
NFTとは仮想通貨の技術を基盤とした「デジタルデータを替えの効かない唯一無二のものにできる技術」のことで、他の国同様、中国でもNFT市場拡大の流れが起きていました。
しかし、中国国内でもNFTが盛り上がりを見せていた2021年9月に、中国政府は仮想通貨の決済や取引情報の提供など、仮想通貨に関連するサービスを全面的に禁止すると発表しました。
その背景には、仮想通貨の投機的な取引が中国経済に悪い影響を与えるといった考えや、中国政府が発行を計画している仮想通貨「デジタル人民元」を発行する上でのノイズを除去する狙いがあるとされています。
👉参考記事:『中国のブロックチェーンを金融・非金融の軸で理解する〜デジタル人民元からBSNまで〜』
👉参考記事:『「BSN」〜中国が国家主導で開発を進めるブロックチェーンネットワーク〜』
仮想通貨が全面的に禁止されたことにより、その仮想通貨を基盤とするNFTへの影響も懸念されました。しかし2021年9月以降、中国のNFT市場は規制と共存しつつ他の国とは違う独自の成長を遂げていくこととなります。
中国独自のNFT市場が形成され急成長している
独自ルールのNFT市場
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2021年9月以降、仮想通貨への取り締まりは強化されましたが、NFTに関して完全には規制されておらず仮想通貨規制を考慮した上で独自のNFT市場が形成されています。
他のNFT市場との違いについての詳細は後述しますが、決済にビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETC)といった仮想通貨ではなく法定通貨である人民元が用いられている点がまず挙げられます。
加えて、世界に開放されているブロックチェーンではなく、中国政府が管理する閉ざされたブロックチェーンを利用しており、購入したNFTを外部(世界)の二次市場で売買することはできない点も中国NFT市場の特徴の一つです。
👉参考記事:『ブロックチェーンの種類は?〜パブリック・コンソーシアム・プライベート〜』
また、NFTを取り扱う中国のテック大手企業の多くは、当局の規制に配慮して「NFT」ではなく「デジタルコレクティブル(数字収蔵品)」という言葉を使用し、世界の仮想通貨市場との区別を図っています。
これらから、世界と中国ではNFTを取り巻く環境や市場そのものの構造が異なるということが見てとれます。
規制の中でも急成長する中国NFT市場
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中国NFT市場は、政府によって仮想通貨が規制されているにも関わらず、その市場規模を急速に拡大させています。
実際に、中国国内のNFTマーケットプレイス(NFT取引所)は2022年2月の時点で100あまりしか存在していませんでしたが、同年6月にはその数が500を突破し、たった4ヶ月で5倍にまで増加したことが現地メディアにより報じられています。
👉出典:inews.qq.com
👉参考記事:『NFT×マーケットプレイス〜取引所の概要から選び方・それぞれの違いを解説〜』
中国のNFT市場がここまで急速に拡大した要因としては、同国内におけるNFTへの関心の高まりと、テンセントやアリババといった中国の巨大テック企業の本格的な参入があげられます。
NFTへの関心や需要が高まる一方で、NFTに関わる個人や企業は、仮想通貨に対して厳しい監視の目を向ける中国政府との直接的な対立を避けるために慎重なアプローチを取っています。
例えば、先述したように大手テック企業が「NFT」ではなく「デジタルコレクティブル(数字収蔵品)」という言葉を用いて区別するのも、当局による規制強化の可能性を回避するためだと言われています。
このように、仮想通貨市場に対して厳しい姿勢で臨む中国政府と、規制と共存しつつ拡大を続ける中国NFT市場、という構図が出来上がっているのが現状です。こういった中国独自のNFT事情について詳しく解説する前に、次項では今一度「NFT」という技術についておさらいをしていきます。
そもそもNFTとは?
NFT=デジタルの”はんこ”
NFTとは簡単に言うと「デジタルデータに偽造不可な鑑定書・所有証明書をもたせる技術」のことです。さらに噛み砕いて表現すると「デジタルコンテンツにポンと押す ”はんこ” のようなもの」です。
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NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性は「替えが効かない」という意味で、トークンには「データや通貨・モノ・証明」などの意味があります。
つまり「唯一無二であることの証明ができる技術」を意味し、実際にはデジタル領域で活用されることから冒頭ではデジタルの ”はんこ” と表現しました。
NFTが必要とされる理由
世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した非代替性トークンは文字通り後者となります。
それぞれの例を挙げていくと、
【替えが効くもの (代替性) 】
- 硬貨や紙幣
- フリー素材の画像や音楽
- 量産される市販品
【替えが効かないもの (非代替性) 】
- 大谷翔平の「直筆サイン入り」本
- ゴッホの「原画」
- ワールドカップ決勝の「プレミアチケット」
人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。
不動産や宝石・絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。
一方で画像やファイルなどのDigital(デジタル)な情報は、コピーされたり改ざんされたりするリスクがあるため「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。
実際、インターネットの普及により音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまったのです。
そういったデジタル領域においても、「替えが効かないもの」であることを証明する技術がまさにNFTなのです。
NFTがあれば、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。NFTによって、これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが生まれるのです。
👉参考記事:『【2022年】NFTとは何か?なぜ話題なのか、分かりやすく解説!』
NFTとブロックチェーン
NFTはブロックチェーンという技術を用いて実現しています。
ブロックチェーンは「一度作られたデータを二度と改ざんできないようにする仕組み」です。データを小分けにして暗号化し、それを1本のチェーンのように数珠つなぎにして、世界中で分散管理されています。そのため、コピーしたり、改ざんしたり、データが消えたりする心配がありません。
👉参考記事:『ブロックチェーン(blockchain)とは何か?仕組みや特長をわかりやすく解説!』
中国のNFT取引は他とどう違うのか
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①決済通貨が人民元に絞られている
前項でも触れたとおり、NFTやそれらのエコシステムはブロックチェーンを基盤に作られています。そしてNFTを取引する際の決済では、そのNFTが所属するブロックチェーン上での基軸通貨であるビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETC)といった仮想通貨を用いるのが一般的です。
しかし、仮想通貨への規制が厳しい中国でのNFT取引で使える決済手段は、法定通貨である人民元のみとなっています。
中国NFT市場が政府の規制と共存しつつ発展していけば、将来的にはデジタル人民元決済に対応する可能性も大いにあるでしょう。
②2次売買が出来ない
NFTの一般的な活用方法の一つに「2次売買による収益化」があります。NFTには、大元の持ち主が誰なのかという情報に加え、NFTが転売された際に大元の持ち主に何%還元されるのかという情報を記録させることができます。
この仕組みによって、音楽やスポーツといった様々な分野における転売収益の確保が可能になると注目を集めているのですが、中国のNFTにはこれが適用されません。
👉参考記事:『NFT技術の音楽分野への活用 〜クリエイターとリスナーが享受する新たな価値〜』
👉参考記事:『NFTのスポーツ業界への活用〜新時代のファンビジネスと可能性〜』
なぜなら中国のNFTは、一般的なNFTのような世界に開放されているブロックチェーンではなく、中国政府の管理下にあり外部から遮断されたブロックチェーンを利用しているからです。
👉参考記事:『ブロックチェーンの種類は?〜パブリック・コンソーシアム・プライベート〜』
2次売買による収益化は期待できない一方で、一般的なNFTに比べて投機的な取引が少なく、価格の変動性が比較的コントロールされている点が中国NFTのメリットとしてあげられます。
③取引所に管理者が存在する
中国のNFTプラットフォームのほとんどには”管理者”が存在します。これはブロックチェーンやNFTが本来持つ”自律分散型”という特徴とは逆行する考え方となります。
NFT取引所を始めとするブロックチェーン関連組織の意思決定は、特定の誰かによってではなく、組織全体で行うものだという考え方が一般的です。しかし中国のNFT市場は国が定める規制を厳格に遵守しており、それぞれのNFTプロジェクトは圧倒的に中央集権的です。
つまり中国NFT市場では、管理者がそのブロックチェーンの廃止を決定した場合、一瞬にしてすべてのデジタル資産にアクセスできなくなるといったリスクがあります。
④利用には認証が必要
一般的なNFT市場は誰でも匿名で参加できるのに対して、中国のNFTマーケットプレイスではすべての参加者に実名での身分証登録を義務付けています。KYC(Know Your Customer)ポリシーと呼ばれるこのルールは、マネーロンダリングや詐欺といった犯罪防止に役立つとされています。
しかし、先述したような中央集権的な仕組みの中国NFT市場では、NFTを利用する際に登録したすべての個人情報が、政府や一企業に把握されるようになるという側面もあります。
中国NFT市場のトピックス
政府主導で進むNFTインフラの構築
2022年1月、中国の政府関連団体は暗号通貨を使わない中国独自のNFTインフラをリリースしました。
決済やガス代の支払いに仮想通貨ではなく人民元を使用することから、一般的なNFTと区別する意味で「DDC(非中央集権デジタル証明書)」という名称を採用しています。
今後中国では、政府主導であらゆる証明書や口座管理に「DDC(非中央集権デジタル証明書)」が利用されることになると予想されます。
コロナ検閲への反攻手段としてNFTを利用
新型コロナ(COVID-19)の感染拡大により中国で厳格なロックダウンが敷かれた際には、人々が自分たちの置かれている状況を外部に知らせる方法としてNFTを利用しました。
ロックダウンによって食料や生活必需品が手に入らない市民達のフラストレーションが溜まる一方で、中国政府はその不満が世界に出回らないように非常に厳しい情報統制をおこなっていました。
そこでITリテラシーの高い一部の人々は、自分たちの置かれている厳しい状況や政府への不満を動画や画像に込めてNFT化し、規制をかいくぐって世界最大手のNFTマーケットプレイスであるOpenSeaに出品したのです。
出品されたNFTのほとんどが無料であったことからも、これらの出品が営利目的ではなく情報発信目的であったことは明らかで、この取り組みは世界中で大きな話題を呼びました。
まとめ
本記事では、中国NFT市場の現状について解説してきました。
現状、中国当局は仮想通貨に対しては全面的に規制していますが、NFTについての具体的な規制や法整備は発表していません。 しかし今後中国国内のNFT市場が加熱し、当局の監視が及ばない場所での2次流通や資金洗浄などの違法行為が増えていくと、NFTに対しても規制を本格的に強化するかもしれません。
一方で、仮想通貨を使わない中国独自のNFTインフラの構築と普及が中国政府主導で進められているなど、中国独自のNFT利用は更に加速していくものと思われます。
今後の中国のNFT市場に関する動向を、引き続き見守っていきましょう。