中国のブロックチェーンを金融・非金融の軸で理解する〜デジタル人民元からBSNまで〜

2025年に397億米ドルへの成長が予測されるブロックチェーン市場を牽引する中国。CBDCのデジタル人民元を守るために仮想通貨を規制する一方、4大商業銀行や公共事業を中心に研究開発と技術発展が進んでいます。2020年の最新事情に迫ります!

なお、ブロックチェーンの過去、現在、今後について、概念の全体像を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→ 参考記事:『ブロックチェーン(blockchain)とは?仕組みや基礎知識をわかりやすく解説!』

中国ブロックチェーン市場動向を理解する

拡大を続けるブロックチェーン市場

2020年8月現在、ブロックチェーンを応用したビジネスには様々なものがあります。

当初は、金融分野、とりわけ暗号資産(ビットコインなどいわゆる「仮想通貨」)のみに関係した「怪しい」技術だと思われがちだったブロックチェーンも、2020年で100〜200億円、2025年には1000億円を超える国内市場を形成し、世界全体では2020年の30億米ドルから2025年には397億米ドルへと拡大するとの見解も発表されています。

こうした市場拡大の背景には、IoTやAI等の技術進化を土台とした世界的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の発展とそれに伴うサイバーセキュリティ需要の拡大、キャッシュレス化の進展、ますます顧客重視の傾向が強まるマーケティング、巨大プラットフォーム企業の出現に対抗する形で進むアライアンスやM&A等の業界再編など、インターネットのインパクトが数十年かけてもたらした大きな社会変革の波があります。

堅牢なセキュリティ能力を誇るデータベースであり、「自律分散」をその技術思想としてもつブロックチェーンは、こうした社会変革を支える根幹技術として、今後の世界の社会基盤となりうる可能性を秘めているのです。

事実、世界経済フォーラムの発表によると、「2025年までに世界のGDPの10%までがブロックチェーン上に蓄積されるようになる」との予測もなされるほどに、21世紀におけるブロックチェーンの存在感は大きくなりました。

ブロックチェーンを牽引する中国

拡大を続けるブロックチェーン市場の中でも、ひときわ存在感を増しているのが中国です。

後にも触れるように、中国におけるブロックチェーンの研究開発や産業応用は、日本とはとても比べ物にならないほどのレベルで進んでいると言われています。

下図は、2020年時点でのブロックチェーンに関する特許市場におけるシェアを表しています。

このグラフからも明らかなように、世界全体のうちの実に7割を中国が占めており、2番手である米国の6倍近くあります。

日本が3%ほどしかないことを考えると、この特許市場のシェア、そしてその前提である特許出願数の多さは、中国マーケットの大きな特徴、強みの一つだと考えられます。

出典:BLOCK INSIGHT

こうした進展の背景として、中国では、官民を挙げてブロックチェーンの技術開発に取り組んでいます。

たとえば、2020年に、中国の国家ブロックチェーンインフラプロジェクト「BSN(Blockchain-Based Services Network)」が、イーサリアムやイオス、テゾスなどを含む6種類のパブリックブロックチェーンを統合することが判明しました。

また、中国建設銀行ブロックチェーンを活用した国際ファクタリング、中国農業銀行ブロックチェーンを活用した住宅ローン、中国工商銀行ブロックチェーンを活用したサプライチェーンファイナンスなど、大手企業各社による金融領域でのブロックチェーン活用が当たり前のように行われている他、ビットコインを支えるデータマイニングのほとんどは中国国内の工場で行われるなど、あらゆる面からブロックチェーンが社会に浸透しています。

こうした中国の状況は、日本でいまだに「ブロックチェーンって何?」「ビットコインって何か事件になってた怪しい投資手法でしょ?」といった人が多く、ブロックチェーンのビジネス活用が一向に進まない現状とは大きくかけ離れています。

したがって、日本におけるブロックチェーンのビジネス活用や産業応用を考えていく上で、中国の先例に学んでいくことには価値があると言えるでしょう。

ブロックチェーンビジネスを理解するための「軸」

中国のブロックチェーン事情を整理するために、まず、ブロックチェーンビジネス一般を理解するための軸を用意しましょう。

ブロックチェーンビジネスは、基本的に、金融/非金融/ハイブリッドの3領域に大別されます。

ここでいう「金融領域」とは、平たく言えば「Fintech」と言われる領域のことで、より正確には「暗号資産(=仮想通貨)を活用した領域」と考えてください。

暗号資産は、かつては「仮想通貨」と呼ばれており、いまだにその呼称の方が馴染み深い方も多いでしょうが、2019年3月15日に暗号資産に関する法改正が閣議決定され、呼称の変更が行われました。

こうした暗号資産を用いたビジネスが、ブロックチェーンビジネス第一の領域です。

これに対して、暗号資産ではなく、データの対改竄性やP2Pネットワーク、スマートコントラクトなど、ブロックチェーンの技術そのものを応用した産業・業務変革も盛んに行われています。

こうした「非金融」なビジネスが、ブロックチェーンビジネス第二の領域です。

基本的には、これら2つの領域に分けられますが、少しややこしい問題として、「非金融ながら暗号資産を活用する」ハイブリッドな領域も存在しています。

例えば、「トークンエコノミー」と呼ばれるビジネスモデルでは、ネットワーク独自に発行された暗号資産、つまりトークンをビジネス上の通貨として利用していますが、その目的は、暗号資産の運用益そのものではなく、あくまでトークンを活用した経済圏の構築と経済圏内の取引の活性化にあります。

このように、ブロックチェーン×金融の結晶である暗号資産を用いながら、非金融領域の課題解決を目指すような「金融×非金融」のハイブリッドなビジネスが、ブロックチェーンビジネス第三の領域です。

本記事では、この「金融/非金融」という軸から、中国のブロックチェーンマーケットについて概説してまいります。

なお、弊社では、非金融領域でのブロックチェーンビジネスについては、事業化するための3つのポイントをおすすめしています。

この点については、本記事ではなく、下記の記事に詳しく解説しておりますので、あわせてご覧ください。

👉参考記事:『ブロックチェーンのビジネス活用は非金融がアツい!事業化3つの視点とは?

金融領域における中国のブロックチェーン市場動向

視点①:デジタル人民元

中国における金融領域の適用先としては、「デジタル人民元」を避けて通ることはできません。

デジタル人民元は、「中央銀行デジタル通貨」(CBDC:Central Bank Digital Currency)の一種で、中央銀行が発行し、デジタル形式をとる法定通貨(中国なので”元”)のことです。

中国当局は、2020年中には地方レベルのテストを終え、2021年には、全国的な展開を図っていく予定としています。

デジタル人民元は、中国人民銀行によるとP2Pではないので技術的にはブロックチェーンというわけではありません。

しかし、次の二つの理由から、ここではまずあえてデジタル人民元について取り上げることとします。

  • デジタル人民元の仕組みはビットコインで用いられている通貨管理手法であるUTXO(Unspent Transaction Output、未使用トランザクションアウトプット)構造を取っていると言われている
  • 思想的文脈ではブロックチェーンを踏まえて理解する必要がある

そこで、本記事では、次の3つの方向性から、デジタル人民元の取組を捉えていくことにします。

  1. 「先進国の金融システムに追いつくための取組」としてのデジタル人民元
  2. 「基軸通貨米ドルに対する挑戦のひとつ」としてのデジタル人民元
  3. 「人民を縛りつけるデジタルの鎖」としてのデジタル人民元

(1)「先進国の金融システムに追いつくための取組」としてのデジタル人民元

人口第一位、GDP世界2位を誇る中国は、マーケットの規模こそ大きいものの、金融システムは内陸部を中心に大きく遅れているのが現状です。

既存のシステムが不完全であり、置き換えられるべき金融システムがないため、中国では金融領域に対する大胆な投資が可能となっています。

他方、アメリカや日本では事情が異なります。

両国ではすでに既存の金融システムが高いレベルで運用されており、新しいシステムと置換するには大きなコストやリスクが生じてしまいます。

そのため、中央銀行デジタル通貨の取り組みにおいても慎重にならざるを得ません。

こうしたことを背景に、中国は中央銀行デジタル通貨の導入によって、アメリカや日本の先を行ける勝算が高いのです。

つまり、デジタル人民元は中国にとって、先進国の金融システムに追いつくための取組としての意義があると考えられます。

(2)「基軸通貨米ドルに対する挑戦のひとつ」としてのデジタル人民元

デジタル人民元の別の側面は、基軸通貨米ドルに対する挑戦者としての性格です。

これまで、基軸通貨としての米ドルに対して、多方面からの挑戦が行われてきました。

記憶に新しいもので言えば、仮想通貨であるビットコインでしょう。

しかし、元々ビットコインは「中央銀行に対するオルタナティブ」として構想されましたが、”サトシ・ナカモト”はFRB(連邦準備制度)に対する最初の挑戦者ではありません。

ビットコイン以前にも、米ドル圏の内部としてはクレジットカード、ペイパルなどが、また、米国外では独仏がユーロを作り、ロシアはルーブル建の原油取引を推進しました。

ビットコインのみならず、デジタル人民元もそうした流れの中に位置付けてみることができます。

国際政治において主導権を握りたい中国にとって、この挑戦は非常に重要な意味を持ちます。

今後の国際政治では、途上国へのデジタル通貨の浸透がひとつの戦場となると言われており、中国は負債漬けにした途上国に対してデジタル人民元を普及させることで、それらの国々を中国側陣営として固定化することを狙っていると言われているのです。

これに対して、途上国をアメリカ側陣営につなぎとめるためのデジタル通貨は、(消去法で考えると)Facebookの”リブラ”しかありません。

しかし、現状では、ザッカーバーグはアメリカ保守層の理解を得るのに苦労していると言われています。

この状況を鑑みると、中国がデジタル人民元の導入に力を注ぐ理由も理解できるでしょう。

(3)「人民を縛りつけるデジタルの鎖」としてのデジタル人民元

デジタル人民元では、中国人民のすべての経済活動が中国共産党に対してつまびらかにされます。

表向きは「新しい形式の法定通貨」ですが、その本質は、政府が運営する巨大な台帳です。

したがって、脱税も密輸も反政府活動も、台帳を見れば一発で”バレて”しまいます。

あるいは、自由主義や民主主義を吹聴する電子書籍を購入した人民もすぐに炙り出されるでしょう。

本来であれば、ブロックチェーンやそれに類する技術(UTXOなど)は、非中央集権的な性格にその意義と本質があります。

しかし、こうした文脈においては、残念ながらブロックチェーンは中央管理者を繋ぎ止める「真実の鎖」ではなく、人民を縛りつける「支配の鎖」として利用される恐れがあります。

中央管理社会の比喩としてよく使われる、「1984」「華氏451度」のようなディストピア的世界も、デジタル人民元の導入によって、いよいよ目の前に示現し始めるのかもしれません。

視点②:暗号資産(仮想通貨)

上でみたデジタル人民元の導入背景をみると自ずと明らかなことですが、中国においては、暗号資産(仮想通貨)は厳しく規制されてきました。

規制の歴史を時系列順に並べると、次の通りです。

  • 2013年12月、ビットコインに対する警告
  • 2017年9月、ICOの全面的禁止
  • 2019年11月、再度取引所への警告
  • 2019年12月、改めてICOプロジェクトを規制
  • 2020年1月、「暗号法」制定

ここでは、それぞれの事柄の詳細には触れませんが、中国が一貫して暗号資産に対して厳しい姿勢を取り続けていることは明らかです。

なお、詳しい経緯は下記の記事にわかりやすくまとまっているため、ご参照ください。

→参照:BLOCK INSIGHT「中国の仮想通貨規制を時系列で解説:デジタル人民元を許容する訳とは」

視点③:大手企業

暗号資産の規制が続く一方で、中国では、4大商業銀行を中心に、大手企業による金融領域でのブロックチェーン活用が進んでいます。

大手企業によるブロックチェーン活用には、例えば次のような事例があります。

  • 中国建設銀行:ブロックチェーンを活用した国際ファクタリング
  • 中国農業銀行:ブロックチェーンを活用した住宅ローン
  • 中国工商銀行:ブロックチェーンを活用したサプライチェーンファイナンス
  • アリババ:ブロックチェーンを活用したオンライン保険の「相互宝」

アリババが提供している「相互宝」は、加入が無料で、加入者が病気になったとき、加入者全体で保険金を分担するという内容のオンライン保険です。

この事例で注目すべきは、契約者情報や請求データといった情報の管理・共有、不正防止などの機能にブロックチェーンがうまく活用されている点です。

ブロックチェーンの本質は、「データの対改竄性」と「非中央集権性」にあります。

中国の超巨大企業による無料オンライン保険という新規性の高い事業で使われているからといって、特別なことをしているわけではなく、ブロックチェーンのもつ性質をうまくビジネスモデルに利用して信頼性の高いサービスを展開しているという見方をすべきでしょう。

非金融領域における中国のブロックチェーン市場動向

視点①:真贋判定

非金融領域における中国のブロックチェーン活用のうち、もっとも特徴的な技術の適用対象は「真贋判定」でしょう。

真贋判定とは、ある財・サービスが「本物かどうか」を見極めることです。

これまでも度々ニュース等で取り上げられてきた通り、中国市場は偽造品の多さに特徴があります。

クラウドファンディング等で発表された新製品が、実際に出荷される前に安価にコピーされて利益余地を失ってしまうことに対して、「山寨死(Shānzhài sǐ)」という名前がつけられるほど、中国における「パクリ」問題は日常にあふれています。

そのため、中国市場における真贋判定は日本とは比較にならないほど高い価値をもちます。

そこで、導入されるのがブロックチェーンです。

データの改竄性の高さに加え、学位証明やサプライチェーンのトレーサビリティ向上によく利用されるほどの高い追跡性をもつブロックチェーンを利用することで、「山寨」に歯止めをきかせることができるのではないかと期待されています。

この真贋判定サービスとしてユニークな事例に、「天水リンゴ」があります。

出典:Blockchain Business & Solution

元々、ブランド力のあるリンゴとして有名だった天水リンゴですが、近年、天水リンゴの名前を語った偽物が市場に出回り被害を受けてしまっていたことを受け、ブロックチェーンを活用した対策に乗り出しました。

天水リンゴでは、上図のように、リンゴにQRコードのフィルムを貼り付けて日焼けさせることで、自社ブランドの真贋判定を可能にしています。

視点②:公共事業

中国では、公共領域でも積極的にブロックチェーンの技術導入が進んでいます。

公共領域へのブロックチェーン導入として有名な例は、公共調達の入札への適用でしょう。

実際の事例として、2020年6月23日より、中国雲南省の昆明市で、中国初のブロックチェーンを活用した入札プラットフォーム「Kun­y­il­ian (昆易链) 」が運用を開始しています。

Kun­y­il­ianは、北京のテクノロジー企業「Bei­jing Zhu­long」が、テンセントのTBaaS(Tencent Blockchain as a Service)システムを土台にブロックチェーン技術を応用・開発したプラットフォームで、試験運用中にも、公式の入札データに関連する約6万のブロックチェーン証明書が発行されたとされています。

また、同プラットフォームに技術提供を行なったテンセントは、すでにブロックチェーン技術を用いたサービスを複数展開しており、深センの地下鉄でブロックチェーンによる電子請求書発行システムを配備しています(CoinPost)。

こうした動きを皮切りに、今後、中国では、公共領域への技術導入がますます進んでいくと考えられます。

視点③:研究開発

本記事での冒頭でも触れた通り、中国では、政府が積極的にブロックチェーンを始めとするインフラ投資を進めており、研究開発も日本とは比べ物にならないスピードで進んでいると言われています。

すでに紹介した中国の国家ブロックチェーンインフラプロジェクト「BSN(Blockchain-Based Services Network)」が6種類のパブリックブロックチェーンを統合する出来事をみても、そのスピードは明らかです。

BSNの統合では、8月10日にローンチされるBSNの海外版「BSN International Portal」に対して、イーサリアム、イオス、テゾス、Nervos、ネオ、IRISnetが統合されることで、6種類のブロックチェーンの開発者が、BSNが海外に設置するデータセンターのストレージや帯域などのリソースを活用して、dApps(分散型アプリケーション)の開発が行えるようになります(CoinPost)。

また、中国の工業和信息化部(MIIT、日本の経済産業省に相当)は、2020年5月14日、Tencent(騰訊)、Huawei(華為)、Baidu(百度)、JD(京東)、Ping An(平安)などの企業が、ブロックチェーンや分散型台帳技術の国家標準の設定を目的とした新しい委員会に参加すると発表しています(THE BRIDGE)。

同委員会には、MIIT、地方自治体、シンクタンク、大学、スーパーコンピューティングセンター、ハイテク企業から71人の研究者と専門家が集められており、MIITの次官であるChen Zhaoxiong氏が委員長を務める他、5名の副長は中国人民銀行のデジタル通貨研究院の1名を含めて、全て政府のスタッフで構成されています(HEDGE GUIDE)。

こうした官民をあげた取り組みは、ブロックチェーン技術の研究開発を推し進めるのみならず、技術を社会実装する道を斬り開くためにも重要な動きです。

今後、中国のブロックチェーン技術はさらに発展を遂げるでしょう。