近年「中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)」に対する研究開発の動きが、世界中で活発化しています。これまでのデジタル通貨とCBDCの違い、そしてその基盤となる「ブロックチェーン」について解説していきます。
なお、中国のブロックチェーン技術についての全体像を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→ 参考記事:『中国のブロックチェーンを金融・非金融の軸で理解する〜デジタル人民元からBSNまで〜』
- 国が「デジタル通貨」を発行する動きが活発に
- CBDCはデジタル通貨の一種
- CBDCが注目されはじめた背景
- CBDCのメリット
- CBDC導入の課題
- CBDCが注目されはじめた背景
- CBDCとブロックチェーン
- まとめ
国が「デジタル通貨」を発行する動きが活発に
2020年7月、日米欧の先進7カ国(G7)が「中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)」の発行に向けて連携する方針を固めました。以来、日本を含む各国でCBDCの研究・実験が活発に行われるようになっています。
本記事では、一般的な「デジタル通貨」について改めて整理をした上で、「中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)」が注目されはじめた背景を、その基盤となりうる技術「ブロックチェーン」とともに紐解いていきます。
CBDCはデジタル通貨の一種
中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)
「中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)」は法定通貨をデジタル化したものです。私たちがよく知る電子マネーや暗号資産は、すべて民間企業が発行・管理を行っています。CBDCは、民間企業ではなく「国」が発行・管理を行うデジタル通貨をイメージすれば良いでしょう。
デジタル通貨とは
デジタル通貨とは、「現金(紙幣や硬貨など)」ではなく、「デジタルデータに変換された、通貨として利用可能なもの」を意味します。Suicaや楽天Edyといった電子マネーや、ビットコインなどの暗号資産といったものが、すべてデジタル通貨にあてはまります。今回取り上げる「中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)」もデジタル通貨の一種です。
出典:TIME&SPACE:『デジタル通貨』とは? 電子マネーや仮想通貨など言葉の定義や違いを解説
CBDCが注目されはじめた背景
CBDCの研究は、今や世界中で注目を集めています。しかしある国は、デジタル通貨に関する研究開発に、かねてより国を挙げて力を入れていました。それが中国です。
中国は、独自のCBDCである「デジタル人民元」をアフリカやアジアなどの新興国の市場に投入し、現地での影響力拡大を狙っています。日米欧の自由主義陣営は、米ドルを基軸通貨とする現市場が「デジタル人民元」に取って代わられることを恐れています。日米欧が腰を上げた背景には、こうした中国の動きへの対抗心がありました。
一方で、中国は「デジタル人民元」を、遅くとも2022年2月に開催される北京の冬季オリンピックまでに実用化する、と発表しています。さらに中国は、延べ40万人に対して総額約12億円以上ものデジタル人民元を配るという大規模な配布実験を、2020年10月から2021年にかけてすでに実施しています。
CBDCのメリット
CBDCを導入するメリットとして、以下6つが挙げられます。
- 現金の輸送・保管コストの低減
- ATMの維持・設置費用の低減
- 銀行口座を持たない人への決済サービスの提供
- 脱税やマネーロンダリングなどの捕捉・防止
- 民間決済業者の寡占化防止
- キャッシュレス決済における相互運用性の確保
国が行う施策ですので、全ての店舗で電子決済が可能となることでしょう。さらに、「国」は民間の銀行よりも破綻しにくく安心感もありますし、振込手続きも短時間かつ手数料無料で行うことが可能となります。
CBDC導入の課題
CBDCを導入するにあたり課題として主に挙げられるのが以下の3つです。
- 電子決済用のシステム・機器を各店舗に整備するコストがかかる
- クラッキングや偽造に対する最高レベルのセキュリティ強度が必要で、技術的なハードルが高い
- 電力の確保が難しい
CBDCとブロックチェーン
CBDCが世界規模で発行されるようになると、規模に関わらず非常に多くの経済圏が誕生するようになると予想されます。そしてそれらの経済圏をシームレスに繋ぐためには、通貨のインターオペラビリティ(相互互換性)が重要になると思われます。また、セキュリティ上の課題も多く挙げられることでしょう。そこで欠かせない技術がブロックチェーンです。
👉参考記事:『「インターオペラビリティ」〜ブロックチェーン同士を接続する新たな技術〜』
ブロックチェーンとは
ブロックチェーンは新しいデータベース(分散型台帳)
ブロックチェーン(blockchain)は、2008年にサトシ・ナカモトによって提唱された「ビットコイン」(仮想通貨ネットワーク)の中核技術として誕生しました。
ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。
ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。
一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。
ブロックチェーンは、セキュリティ能力の高さ、システム運用コストの安さ、非中央集権的な性質といった特長から、「第二のインターネット」とも呼ばれており、近年、フィンテックのみならず、あらゆるビジネスへの応用が期待されています。
ブロックチェーンの特長・メリット(従来のデータベースとの違い)
ブロックチェーンの主な特長やメリットは、①非中央集権性、②データの対改竄(かいざん)性、③システム利用コストの安さ、④ビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)の4点です。
これらの特長・メリットは、ブロックチェーンが従来のデータベースデータとは異なり、システムの中央管理者を必要としないデータベースであることから生まれています。
ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。
従来のデータベースの特徴 | ブロックチェーンの特徴 | |
構造 | 各主体がバラバラな構造のDBを持つ | 各主体が共通の構造のデータを参照する |
DB | それぞれのDBは独立して存在する | それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている |
データ共有 | 相互のデータを参照するには新規開発が必要 | 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要 |
ブロックチェーンは、「非中央集権、分散型」という特徴を獲得したことで、様々な領域で注目・活用されているのです。より詳しい内容に関しては、下記参考記事をご覧ください。
👉参考記事:『ブロックチェーン(blockchain)とは?仕組みや基礎知識をわかりやすく解説!』
まとめ
本記事でも紹介したようにCBDCは、世界中の中央銀行が研究を進める重要なテーマとなっています。キャッシュレス化が進む国ではCBDC導入に向けた取り組みが進められており、一部の国ではすでに実証実験を終えています。
そして、なんといっても本分野をリードする中国の動向からは目が離せません。中国は来年2022年には「デジタル人民元」を実用可能にすると発表しています。
これから起こるであろうデジタル通貨のさらなる普及によって、これまでのお金の価値観は、確実に変わっていくでしょう。