ブロックチェーンは不動産業界40兆円市場の切り札となりうるか?

不動産業界は、国内30万社、市場規模40兆円を誇る巨大産業です。その不動産業界で、今、ブロックチェーンを活用したビジネスが増えています。LIFULL、積水ハウス、Propy。不動産×ブロックチェーンは業界を変革できるのか?一挙、解説します!

なお、ブロックチェーンビジネスの考え方、全体像の概観を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→ 参考記事:『ブロックチェーンのビジネス活用は非金融がアツい!事業化3つの視点とは?』

不動産業界の有望技術として注目を集めるブロックチェーン

国内30万社、40兆円規模の不動産業界がブロックチェーンに期待を寄せている

不動産業界は、国内30万社以上のプレイヤーが存在し、市場規模は40兆円とも言われる巨大産業です。

日本にはおよそ600万社の企業が存在することを踏まえると、不動産の数は全業界の5%を占めていることになります。

また、当然、その歴史も古く、昔からの取引関係や商慣行などが色濃く残り続けている業界でもあります。

そうした不動産業界で、近年、ブロックチェーン技術を活用した新たなサービスがいくつもローンチされ、業界の課題解決に対する期待が高まっています

例えば、大手ハウスメーカーの積水ハウスでは、ブロックチェーンを活用した次世代不動産プラットフォーム構想が推し進められています。

出典:ITmedia「ハウスメーカーが構想する“不動産ブロックチェーン”の可能性とインパクト (1/3)」

ITmediaによると、同社は、「2019年3月には、KDDI、日立と、企業間の情報連携基盤を実現すべく、協創を開始」し、「本人確認情報(KYC)をブロックチェーン上で共有し、賃貸契約の利便性向上を実証実験によって検証し」た他、「同年9月27日には、大阪ガス、東邦ガス、損害保険ジャパン日本興亜、東京海上ホールディングス、三井住友海上火災保険も参画に加わり、住まいに関わる多くの手続きをワンストップ化させるための検討に入」りました。

また、2019年7月23日には、株式会社bitFlyer Blockchainが住友商事株式会社と業務提携を行い、独自ブロックチェーンmiyabiを活用した不動産賃貸契約の効率化を行っていく旨を発表しました。具体的には、「住宅の賃貸契約の電子化に加えて、借主がスマートフォン1つで物件の内見予約から契約、その後の契約更新から退去手続きに至るまでを行えるプラットフォームを目指し、両社は共同開発に着手」しています(カギ括弧内は仮想通貨Watchより引用)。

他にも、LIFULLによる不動産賃貸へのブロックチェーン導入や、外資企業のPropyによる国際不動産売買プラットフォームの構築など、この数年で、「不動産×ブロックチェーン」の動向は大きく様変わりし出したと言えるでしょう(なお、これらの事例については、本記事の後半でも紹介します)。

そもそもブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

不動産業界でブロックチェーンが注目される理由

不動産業界は、次のような特徴をもつ産業です。

  • プレイヤー数が多い
  • とりわけ古参のプレイヤーが多く、幅をきかせている
  • 情報に非対称性がある(借り手と貸し手、買い手と売り手、など)
  • 第三者仲介・管理が取引の基本形態になることが多い
  • 取引単価が大きい

これらの特徴から、不動産業界では、プレイヤー間の心理的な駆け引きや情報操作による「騙し」が横行しやすい傾向にあります。

また、第三者が介入することにより取引コストが大きくかかってしまうという課題も存在しています。

こうした状況に対して、ブロックチェーンは先ほど見たように、次のような特徴をもっています。

  • データ(取引記録)をオープンかつ正しく記録することができる
  • 中央管理者を設けず、当事者間でのデータ共有が可能

したがって、ブロックチェーンの技術を利用することで、不動産業界では、第三者仲介・管理による取引コストの増加を伴わずに、

  1. 利害が衝突したり見解が一致しない関係で、取引を簡単にする
  2. 従来証券化されてこなかった小口証券を実現する

といった課題解決が可能になるのです。

(これらの課題解決については、次の章でそれぞれ詳しくみていきます)

近年、不動産業界でブロックチェーンが注目される背景には、このような「オープン」「真正」「分散」といったブロックチェーンの諸特徴と不動産業界が抱えていた課題との相性の良さがあると言えるでしょう。

「不動産×ブロックチェーン」が解決しうる課題

「不動産×ブロックチェーン」が解決しうる課題A:利害不一致な取引の簡易化

不動産業界にブロックチェーンを導入することにより解決しうる課題の1つ目は「利害が衝突したり見解が一致しない関係で、取引を簡単にする」ことです。

先ほど見たように、不動産取引は全般的に「情報の非対称性」に基づいて無駄な取引コストが発生しているケースが多いと言えます。

これを、不動産のライフサイクルごとにあてはめた課題解決が行われています。

それぞれのフェーズにおいて、「誰と誰の間に非対称性があるのか?」に注目すると、課題の理解が容易です。

  • ライフサイクル①:登記
    • 「役所」と「登記申請者」間の非対称性が課題
    • 役所からすると、「不動産の所有者は本当にこの登記申請者本人なのか?」を確かめるのが難しい
    • そのため、権利証明や複雑な登記申請手続きが必要となり、登記申請者にとっても役所にとっても取引コストが増大する
    • 特に、発展途上国で解決できる問題が多い
  • ライフサイクル②:売買
    • 「買い手」と「売り手」間の非対称性が問題
    • 買い手からすると、「この人は本当に所有しているのか?」「隠れ担保がついてないか?」「入居者間や近隣で厄介なトラブルはないか?」、売り手からすると、「この人は本当に支払ってくれるのか?」という疑念が付きまとってしまう
    • そのため、双方の信用を担保するための第三者仲介が必要となり、いわゆる「両手取引」における高い二重の手数料が取引コストとなる。
  • ライフサイクル③:賃貸
    • 「借り手」と「貸し手」間の非対称性が課題
    • 借り手からすると、「ここは事故物件ではないか?」「家主はしっかりメンテナンスしてくれるのか?」、貸し手からすると、「この人は毎月きちんと家賃を支払ってくれるのか?」「この人はモンスター住民にならないか?」といった不安が生じてしまう
    • そのため、双方の信用を単肥するための第三者仲介が必要となり、いわゆる「両手取引」における高い二重の手数料が取引コストとなる
  • ライフサイクル④:修繕
    • 「 修繕に入る施工業者」と「過去の施工業者」間の非対称性が課題
    • 修繕に入る施工業者からすると、「今回修繕依頼されている水道の型番はそもそも何番なのか?」「過去にどんな修繕工事をしているのか?」といった情報が不明瞭。
    • そのため、物件情報や過去の施工情報など、必要ながらも可視化されていない情報を確かめるためのコストがかかったり、最悪の場合はわからないままとなってしまう

こうしたプレイヤー間の情報非対称性に起因した不動産取引の課題に対して、ブロックチェーンは、オープンかつ真正性の高い(データの改竄等がない)データ基盤において、第三者を排除した分散型の管理手法を提供することで、課題解決に寄与するとみられています。

「不動産×ブロックチェーン」が解決しうる課題B:小口証券の実現

不動産業界の課題でもう一つ注目されているのが、「小口証券の実現」です。

従来、不動産業界では、REIT(不動産投資信託)などにより、不動産の証券化が進められていました。

しかし、証券化できる不動産の規模は、中〜大規模なものに限定されており、たとえば、山村で廃屋になった古民家、ニュータウンで独居老人の住んでいた空き家、などはあまり対象とされてきませんでした。

これは、従来の不動産ファンドでは組成運用コストが大きくかかることから、小規模な不動産ではそのコストを回収しきることができず、ファンド組成が難しかったためです。

この課題に対して、ブロックチェーン技術を用いることで、トークンなどの活用により証券のデジタル化を進められ、組成運用コストを大幅に引き下げることが可能になります。

そのため、従来はコスト高になり踏み込めなかった小規模な不動産の証券化、つまり「小口証券」が実現されることになります。

そして、この小口証券化が進むことで、証券化できる不動産の幅が広がるだけでなく、中〜大規模の不動産には手を出せなかった個人投資家からも広く投資を募ることが可能になります。

実際に、不動産情報サイト大手のLIFULLは、2020年から、デジタル証券プラットフォームを提供する米セキュリタイズと提携して、日本でブロックチェーンを用いた不動産のデジタル証券化の実証実験を開始しています。

出典:coindesk JAPAN「LIFULLが不動産のデジタル証券化を実験、米セキュリタイズと【セキュリティトークン】」

具体的には、特別目的会社(SPC)が物件を小口トークン化し、投資家に売り出すという発行スキームで、ブロックチェーンを用いることで、配当や償還、二次流通を自動化する狙いがあります。

こうした取り組みが進むことで、REIT市場が取りきれなかった新たな不動産マーケットの開拓が進んでいくと見られています。

「不動産×ブロックチェーン」の事例

国内事例:LIFULL(不動産賃貸)

「不動産×ブロックチェーン」の代表事例として注目を集めているのが、不動産情報サイトを運営する株式会LIFULLによる不動産情報コンソーシアム「ADRE(Aggregate Data Ledger for Real Estate、アドレ)」です。

この取り組みは、「異業種プレーヤー間で不動産データを共有・連携することにより、不動産業界の抱える課題を解決するとともに、不動産業界・取引市場を発展させる」ことを目的に、2018年7月から異業種6社(LIFULL、NTTデータ経営研究所、NTTデータ先端技術、全保連、ゼンリン、ネットプロテクションズ)による共同で進められていたプロジェクトで、新たに、不動産取引に関わる手続きをワンストップで行うサービスなどを展開する株式会社エスクロー・エージェント・ジャパン(EAJ)、マンション管理組合に対して住宅設備やセキュリティ機器の提供などをしている三菱UFJリース株式会社、法律弁護士法人 鈴木康之法律事務所などが加わり、正式に発足しています。

出典:LIFULL HOME’S PRESS

LIFULLによると、ADREの背景となっている不動産業界の課題は次のようなものです。

「物件探しをしているとき、良いと思った物件について問合せると、すでに入居が決まっており、別の物件を紹介されたという経験はないだろうか。あるいは、不動産ポータルサイトなどに同じ物件の情報がいくつも表示され、どの情報が正しいのかよくわからないということも少なくない。不動産業界においては、1つの不動産に関する情報が、仲介会社や管理会社、インフラ会社などにバラバラに保有されているため、こうした問題が起こりやすい状況にある。」(LIFULL HOME’S PRESSより)

こうした課題を解決するコンソーシアムが成立し、プラットフォームデータベースが各社に共有されることで、これまで各社の中で個別に管理され、取引コストのもととなっていた情報がスムーズに共有され、不動産賃貸の領域において、様々なコストダウンが進むと見られています。

そして、こうしたADREによる「情報の非対称性」の解決をサポートしている技術が、ブロックチェーンです。

業界横断プラットフォームの中核技術としてブロックチェーンを採用した理由として、同社は「分散管理型のブロックチェーンは公的プラットフォームの構築に向いている」としています。

これは、本記事でも説明した通り、「オープン」で「中央管理者がいない」基盤であるブロックチェーンが、プレイヤー数が多く、利害関係が一致しづらい不動産業界の課題解決に向いていることを示す好例だと言えるでしょう。

海外事例:Propy(国際不動産売買)

もう一つ、「不動産×ブロックチェーン」の代表格として注目を集めている海外事例に、オンライン国際不動産売買プラットフォーム「Propy(プロピー)」があります。

Propyは、2015年に設立した、アメリカのカリフォルニアに拠点を置くフィンテック系ベンチャー「Propy Inc.(プロピーインコーポレーテッド)」が開発した、ブロックチェーンのスマートコントラクト機能を利用したプロダクトです。

「国際的な不動産取引では、ブローカー・取引の安全性を保証するエスクローサービス・土地の登記サービス・送金業者など複数の仲介業者とやり取りをする必要があ」り、「複数の仲介業者を介することは、取引の長期化や詐欺が発生するリスクが増大することに加え、大量の書類を作成・署名をする事務作業のコストも発生している」ことを背景に、Propyでは、「スマートコントラクトを用いることで様々な仲介手数料をなくし、世界中の登記所と連携することにより、効率的な不動産の国際取引の実現を目指してい」ます(カギ括弧内は、BLOCKCHAIN-BUISINESSによる事例解説より引用)。

スマートコントラクトとは、「契約条件の締結や履行がプログラムによって自動で実行される仕組み」のことで、従来であればヒトが逐一実行せざるを得なかった不動産取引における付随業務を、ブロックチェーン基盤上で取引を行うことで、ヒトの手を介さなくてもよくなり、結果として取引コストが大幅に引き下げられることになります。

Propyも、すでに説明した不動産業界における情報の非対称性に伴う取引リスク(とその結果として必要になる取引コスト)を減らすために、ブロックチェーン技術を活用している好例だと言えるでしょう。

「不動産×ブロックチェーン」の最新動向:STO

上でみたようなブロックチェーンによる業界課題解決に併せて、不動産業界には、ブロックチェーン関連の注目すべき動向がもう一つあります。

それが、「STO」と呼ばれる、ブロックチェーン技術を利用した新しい資金調達方法です。

STOとは、Security Token Offering(セキュリティ・トークン・オファリング)の略で、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法のことです(「セキュリティ」というのは「証券」という意味であることに注意して下さい)。

STOは、ICO(イニシャル・コイン・オファリング、新規仮想通貨公開、ブロックチェーンを利用した資金調達方法の一つ)の問題点であったスキャム(いわゆる詐欺)や仕組み自体の投機的性質を解消する、新しい資金調達方法として注目を集めており、1兆ドル以上のマーケットになるとの予想もなされています。

ICOと比較した際のSTOのメリットとしては、次の4点が挙げられます。

  1. 詐欺コインがなくなる
  2. 取引が24時間365日可能
  3. スマートコントラクトによる仲介の排除とコスト削減
  4. 所有権の分割ができるようになる

他方で、法規制に則って運用されるためにICOよりも自由度が低く、規制の管理下におかれるために、投資の参入障壁が低いことなどのデメリットもあります。

しかし、2019年の時点ですでに数億ドル以上のSTO案件が生まれていることを鑑みると、今後、STOが金融領域におけるブロックチェーンビジネスの注目株であることは間違い無いでしょう。

そして、実際に、2020年現在、不動産業界でのSTOへの注目度が高まっています

先ほど課題解決の一つとして説明した「小口証券の実現」でも、まさにこのSTOがうまく利用されています。

このように、STO自体は不動産に限った方法ではありませんが、業界との相性の良さから見て、STOは不動産業界における今後の一大潮流の一つになると予想されます。