ブロックチェーン技術が真贋証明に応用できるワケ〜LVMH、集英社など事例多数〜

 2021年4月現在、ブロックチェーン技術の真贋証明への応用が注目されています。偽造品被害が増加する中、製造業を中心としたサプライチェーンマネジメントの一環として行われる真贋証明。そのメリットを、各社が行うトレーサビリティ担保に向けた取り組み事例と共に説明します!

  1. 今、「ブロックチェーン×真贋証明」が注目されている!
  2. 偽造品対策としての真贋証明
  3. ブロックチェーンが真贋証明にはたす役割
  4. ブロックチェーンを用いた真贋証明の取り組み事例

今、「ブロックチェーン×真贋証明」が注目されている!

2021年現在、製造業や小売業、あるいはアートなど、ブロックチェーン技術を真贋証明(しんがんしょうめい)に応用する動きが多方面の業界で見られています。

例えば、LVMH (ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)は、ConsenSys、Microsoftとの共同で、イーサリアムベースの「AURA(オーラ)」と呼ばれるブロックチェーンプラットフォームによる、高級ブランド品の真正品証明を発表しました。

出典:pixaboy

LVMHは、ルイ・ヴィトン、クリスチャンディオール、タグ・ホイヤー、モエ・エ・シャンドンなど75もの高級ブランドを有する巨大グループで、かつてより悩まされていた偽造品の撲滅に向けて15億円以上の費用を投入していると言われています。

その中心的な取り組みである「AURA」では、同社のサプライチェーン(原材料の調達から店頭に並ぶまでの一連の商流)上で、商品に関する多様な情報が複製不可能な状態でブロックチェーン基盤上に記録されます。

そして、消費者は、ブランドのアプリを使ってそれらの情報を含むQRコードを読み取ることで、その商品が「本物のルイヴィトンかどうか」を確認することができます。

この仕組みにより、消費者が安心して商品を買うことができるだけでなく、LVMHは、自社のブランドを保護することができるのです。

また、「山寨死(Shānzhài sǐ)」と呼ばれる偽造品の社会問題が起きている中国では、例えば、農作物の真贋証明にもブロックチェーンが活用されています(下図、「天水リンゴ」のブランド判定)。

出典:Blockchain Business & Solution

元々、ブランド力のあるリンゴとして有名だった天水リンゴですが、近年、天水リンゴの名前を語った偽物が市場に出回り被害を受けてしまっていたことを受け、ブロックチェーンを活用した対策に乗り出しました。

天水リンゴでは、上図のように、リンゴにQRコードのフィルムを貼り付けて日焼けさせることで、自社ブランドの真贋判定を可能にしています。

本記事では、こうした事例に見られる「ブロックチェーン×真贋証明」をテーマに、偽造品被害の実態やブロックチェーン技術、具体的な事例などをご紹介します。

偽造品対策としての真贋証明

真贋証明とは?

真贋証明(または真贋判定)とは、「ある商品が本物かどうかを判断する」ための方法です。

例えば、iPhoneの裏面には、販売元であるApple社のロゴであるりんごマークが記されています。

このマークを確認することで、消費者は、そのスマートフォンがApple社の正規品であることを確かめることができます(後で説明するように、本当のところは、ロゴマークだけでは証明にはならないのが実情ですが・・・)。

真贋証明の仕組みを整えることには、①企業にとってのブランド保護、②消費者にとっての安全性・安心感の担保、という適正な経済活動にとって欠かせない2つのメリットがあります。

特に、ブランド保護が重要な製造業者にとっては、必ず検討すべき問題だと言えるでしょう。

なぜ、真贋証明が必要か?

こうした真贋証明の必要性が生まれる背景には、「偽造品の増加」という社会問題があります。

偽造品とは、他者の創った知的財産の無断コピーや、類似製品のことです。

厳密な言葉の定義はなされていませんが、一般に偽造品と呼ばれるものには、次の2つがあります(外務省ホームページより)。

  • 模倣品:特許権、実用新案権、意匠権、商標権を侵害する製品のこと
  • 海賊版:著作権、著作隣接権を侵害する製品のこと

出典:外務省

日本でも、一時、映画等のコンテンツDVDの違法海賊版が大量に出回る事件が話題になりましたが、近年では、そうしたコピーの容易な情報商品だけではなく、例えばスマートフォンや時計などの高級ブランドについても、ロゴや商品名など一部のみを巧妙に変えた、「なりすまし製品」も増えています。

そうした偽造品の中には、見た目では本物のブランドとほとんど全く変わらないものもあり、高い代金を支払った後に初めて偽物だとわかるケースも少なくありません。

しかし、不特定多数の偽造品業者をすべて取り締まることはできず、また一般消費者が偽造品を見極めることも難しいため、ブランド保護だけでなく安全性の向上も含めた企業努力の一つとして、近年、真贋証明の重要性が増してきているのです。

偽造品被害の実態

では、実際に、偽造品による被害はどの程度なのでしょうか?

OECDが2019年3月18日に発表した情報によると、世界全体の偽造品輸入額は5090億米ドル、実に世界全体の貿易の3.3%にも上ります。

2013年には4610億米ドル(世界全体の貿易額の2.5%)だったことから、この数年間で、偽造品による被害は急激に拡大していることがわかります。

また、同資料では、「2016年の押収品に占める財で最も多かったのは(ドル換算)、靴、衣料品、革製品、電気製品、時計、医療機器、香水、玩具、宝飾品、薬品で」あり、「税関当局によると、商標のついたギターや建築資材といった過去にはあまり見られなかった財の偽造品が増加して」いるとも発表されています。

加えて、同様の被害は日本国内でも広がっています。

特許庁によると、国内で模倣品被害を受けた法人数は、2015年度の10,000法人(全体の6.0%)から2019年度の15,943法人(全体の7.4%)へと、絶対数では約159%、全体に占める比率では約123%と大幅に増加しています。

出典:特許庁「模倣品被害実態調査報告書(2016〜2020年度)」より筆者作成

また、模倣被害対策の実施法人数は、2015年度の27,025法人から2019年度の39,196法人へと約145%増加しており、現場の経営者視点からみても、真贋証明による偽造品対策が無視できない経営問題になっていることがみて取れます。

出典:特許庁「模倣品被害実態調査報告書(2016〜2020年度)」より筆者作成

さらに、これらの情報はあくまでビジネス取引に関わる範囲に限定されていることから、アートなどのビジネスによらない著作権等の侵害をも考慮すれば、偽造品の被害は非常に大きな社会問題であることが理解できるでしょう。

こうした流れを受けて、冒頭でも触れた通り、近年、ブロックチェーン技術を応用した真贋証明の社内システムや、独立サービス等が急増しています。

ブロックチェーンが真贋証明にはたす役割

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、「分散型台帳」と呼ばれています。

ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、「データの耐改ざん性」「安価なシステム利用コスト」「ビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)」といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

真贋証明に欠かせない「トレーサビリティ」

真贋証明は、ある商品が「いつ」「どこで」「誰の手によって」「どうやって」扱われたのか、そしてそれらの情報は正しいのか、ということを証明することによって実現できます。

商品からこうした情報が正しく取得できる状態を「トレーサビリティ(が担保されている)」と言い、真贋証明には欠かせない条件といえます。

トレーサビリティ(Traceability、追跡可能性)とは、トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせた造語で、ある商品が生産されてから消費者の手元に至るまで、その商品が「いつ、どんな状態にあったか」が把握可能な状態のことを指す言葉です。

具体的には、先にみた「天水りんご」の例のように、まずは商品のトレーサビリティを担保した上で、商品情報を記載したQRコードを商品に印字し、それを消費者がスマートフォンで読み取るなどして真贋を確かめることになります。

真贋証明(あるいはトレーサビリティ)の条件

ここで、トレーサビリティの担保、そして真贋証明のためには、次の2つの条件が満たされている必要があります。

  • サプライチェーン上で、商品に関する情報を一元で管理できている
  • その管理体制において、商品データの正しさが損なわれない

1点目は、サプライチェーン・マネジメントにおける情報一元管理システムの構築を意味しています。

一般に、ある商品が「創って、作って、売られる」までには、製造業者、流通業者、小売業者など大小様々な企業が関わっています。

そして、それぞれの企業が、それぞれの方法で、商品に関わるデータを管理・利用しているのが通例です。

そのため、一つの商品に関するデータであっても、小売業者に聞いても小売に関わる時点までのことしかわからず、あるいは製造元に問い合わせても流通から先のことはわからない、といった状況に陥ることがほとんどです。

そこで、サプライチェーンを機能別に(つまりは企業単位で)分断するのではなく、商品単位で一連のシステムとして捉え、関連企業間のデータ連携を行うことで、商品が「いつ」「どこで」「誰の手によって」「どうやって」扱われたのかを把握することができるようになります。

2点目は、1点目の管理システムにおいて、データのセキュリティが十分に担保されている状態を意味しています。

商品のトレーサビリティが担保され、正しく真贋証明が行われるためには、証明のもととなるデータに対する信用が十分であることが求められます。

しかし、システムのセキュリティ要件が十分に満たされていない場合、第三者による攻撃を受けることによるデータの改竄や破損、あるいはシステムダウンによるデータの損失などのリスクが考えられます。

そこで、システムをデータセキュリティに強い技術によって構築することで、そのデータをもとにした真贋証明を適切に履行することが可能になります。

ブロックチェーンが真贋証明の条件を同時に満たす!

これらの条件を満たすことができる技術がブロックチェーンです。

先に見たように、ブロックチェーンには、次の特長があります。

  • 非中央集権的な分散システムであるため、競合・協業他社のデータ連携が行いやすい
  • セキュリティが強固なため、データ改竄やシステムダウンのリスクに強い

1点目の課題であった「データ連携」の障害となるのは、異なる利害関係のもとにある複数の企業が簡単に手を結びにくいことです。

これに対して、「非中央集権的」「分散的」であるブロックチェーンでは、例えばGoogleやAmazonのような中央管理プラットフォームに権力が集中するということなく、横並びでデータ連携を行うことができます(”All for One”ではなく、”One for All”なデータベース)。

また、2点目の課題については、そもそもブロックチェーンが仮想通貨の中核技術として誕生した経緯からもわかるように、技術そのものに「データが改竄されにくく、システムダウンに強い」という特性があります。

ブロックチェーンはこうした特長をもっていることから、次にみるように、近年、様々な業界で真贋証明プラットフォームの中核技術として利用され始めています。

ブロックチェーンを用いた真贋証明の取り組み事例

ブロックチェーン真贋証明サービス「cryptomall certification(クリプトモール証明書)」

スタートアップが手がけるブロックチェーンを用いた真贋証明サービスとして、2020年4月1日(水)にプレスリリースされたのが「cryptomall certification(クリプトモール証明書)」です。

開発元のcryptomall ou社によると、cryptomall certificationでは、「商品にスマートフォンをかざすだけで、改ざん不可能な商品情報や生産地、そしてお客さまの手元にたどり着いた経過、つまり商品が持つ本物のストーリーを証明する」ことができます。

出典:PR TIMES

同サービスは、認定商品の中に「繊維型マイクロチップ」を埋め込み、消費者が手元の端末でそれを読み込むことで、商品を「トレースバック(=商品に関する記録を過去に遡ること)」する仕組みです。

まだリリース後間もないサービスではありますが、ブロックチェーンによるトレーサビリティの担保、そして真贋証明の手段として、今後に期待したい事例だと言えるでしょう。

エイベックス・テクノロジーズ「A trust(エートラスト)」

エイベックス・テクノロジーズは、デジタルコンテンツの領域で、著作権を保護するための真贋証明プラットフォーム「A trust」を開発しています。

2019年に開発された「A trust」は、ブロックチェーン技術を用いてデジタルコンテンツに証明書を付与することで、購入者が証明書付きのデジタルコンテンツを所有できるようになる仕組みです。

また、決済については法定通貨を用いているため、既存のデジタルコンテンツの販売プラットフォームにも適用できることが特徴だとされています。

出典:Impress Watch

先にも触れた通り、偽造品(ここでは海賊版)の問題は、容易にデータのコピーが可能なデジタルコンテンツ領域において特に大きな影響を及ぼしています。

多くのデジタルコンテンツを抱えるエイベックス社では、デジタルコンテンツの「真正性」を証明できる証明書を改竄不可能な形で付与する仕組みを構築することで、クリエイターと購入者の双方を保護しようとしていると考えられます。

集英社「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」

同じくコンテンツ領域の取り組みとして注目されているのが、2021年3月1日に集英社が始めた「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」です。

同サービスは、アナログコンテンツである漫画の複製原画を、所有者履歴や真贋の証明を行うことで、絵画のような美術品として流通させることを狙ったプラットフォームサービスです。

購入者は、複製原画とともに送付されたブロックチェーン証明書付きのICタグをスマートフォンで読み込むことで、その原画の所有者履歴や真贋証明を確認することができます。

出典:IT media NEWS(漫画『ワンピース』の複製原画)

同取り組みでは、美術品や骨董品の際に必ず問題となる「鑑定」をブロックチェーン技術で代用することで、鑑定士やアナログ証明などの手段に頼ることなく、「正しい価値」を流通させることを狙っています。

また、そうした従来の手段では管理しきれなかった所有者履歴も同時に明らかにすることで、これまで以上に「正しい」価値証明にもつながると考えられます。

この取り組みが成功すれば、漫画等のアナログコンテンツを制作するクリエイターにとって、新たな収入源も確保され、より優れたコンテンツが生み出しやすくなる点からも、今後、期待が高まります。

スイス Breitling「Arianee」

最後に、海外の事例もみておきましょう。

こちらは、スイスの高級時計メーカーであるブライトリングが、高級品のデジタル認証の世界標準構築を目指す非営利コンソーシアム「Arianee」が提供するブロックチェーンプラットフォーム(イーサリアムERC-721標準使用)を利用し、時計の紛失、破損、盗難などのリスクから消費者を保護することを狙った事例です。

出典:COINPOST

この仕組みでは、時計一つ一つにシリアル番号などのデータを含むデジタル証明書が付与されており、購入日、修理の記録など、製品の全履歴がブロックチェーンに記録されます。

そして、購入者は、時計に付属されているカードをスマートフォンで読み取ることで、デジタル証明書を安全に保管するプライベートなデジタルウォレットへアクセスすることが可能になります。

有形資産の真贋証明の方法としては、冒頭で触れた「天水りんご」のように、商品に対して直接QRコードを印字するものと、本事例のように、カード等を付属するものがありますが、Breitlingのような高級品の場合は、商品自体の美観を損なうことのないよう、後者の方法をとることでより完全な形でブランド保護をすることが可能になります。

こうしたブロックチェーンの真贋証明を利用したブランド保護は、今後、日本の高級品メーカーでも主流になっていくでしょう。