近頃、「NFT=Non-Fungible Token(非代替性トークン)」がメディアやSNSに取り上げられることも増えてきましたが、その中でも ”アート” へのNFT利用が特に注目を集めています。とある画像データに75億円もの価値がついたり、数々の著名人が積極的に参入するなど話題に事欠かないNFTアート。 本記事ではそんなNFTアートについて、NFTの基礎知識やメリットを交えながら解説していきます。
NFTアートはNFT活用の火付け役
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NFTへの注目が拡大していくきっかけとなったのは、アート分野に対してNFTが活用され、それらが非常に高い金額で取引されたことでしょう。
例えば、2021年3月に海外クリエイター「Beeple」氏が作成したデジタルアート作品が約75億円もの高額で取引され、2021年8月には東京都在住の8歳の少年が描いたデジタルアート3枚が約200万円で落札されました。一見すると普通の ”画像データ” にも関わらず、驚くような高値がつくというそのギャップによって多くの人々が驚き、世界的な話題を呼びました。
また、上記のような高値での取引以外に、人気アイドルグループSMAPの元メンバーである香取慎吾さんや人気女優の広瀬すずさんといった著名人がNFTアートに次々と参入したことも、日本国内でNFTアートが注目を集めた要因の一つです。
2023年現在では、ゲームや音楽、スポーツなど様々な分野へNFTが活用されていますが、その火付け役となったのは、こういったアートの分野でした。
そんなNFTアートについての解説や事例をご紹介する前に、まずはNFTそのものについて簡単に解説していきます。
NFTとは?
NFT=”証明書”付きのデジタルデータ
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NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに、固有の価値を保証しています。
つまり簡単にいうと、NFTとは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している”証明書”が付属しているようなものです。
NFTでは、その華々しいデザインやアーティストの名前ばかりに着目されがちですが、NFTの本質は「唯一性の証明」にあるということです。
NFTが必要とされる理由
世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した「NFT=非代替性トークン」は文字通り後者となります。
例えば、紙幣や硬貨には代替性があり、替えが効きます。つまり、自分が持っている1万円札は他の人が持っている1万円札と全く同じ価値をもちます。一方で、人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。
不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。しかし、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます。
そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。
実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。
NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。
これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、必要とされているのです。
アート×NFTで実現すること
唯一無二という価値が生まれる
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前述のように実物の絵画や美術品といったPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。
しかし、アーティストが描いたデジタル作品に対して ”唯一無二の本物” であるという証明をすることは不可能に近く、コピーやスクリーンショットがWEB上に溢れてしまうことは容易に想像がつきます。
NFTがアート分野に適用されれば、これからはNFT技術によって ”唯一無二の本物” であるという証明がなされた「自分が好きなアーティストが描いたデジタル作品」を、自分だけのモノにできます。
それにより作品やアーティストに対してさらに愛着が持てるようになったり、ファンコミュニティの中で「自分はあのデジタルアートを所有する特別なファンだ」といった心理的な優越感を得たりできるのです。
クリエイターとしても、自分の作品を気に入ってくれた特別なファンの存在を、NFTアートを通してこれまでよりも近く感じることができるでしょう。
新たなマネタイズ方法が生まれる
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従来であればアーティストが自分の作品を出品する際に、ギャラリーや仲介業者に少なくない金額の手数料を差し引かれる事が多かったため、アーティスト活動だけで生計をたてられる人はほんの一握りでした。
一方で、NFTアートはWEB上で誰でも手軽に出品することができ、出品手数料もかからない、あるいは従来に比べれば非常に少なくすみます。出品の手軽さとマネタイズのしやすさが相まって、アーティストたちはより多くの収入を得るチャンスが増えます。
また、NFTの技術をアートに活用することで、そのアートが転売されるたびに作者の元に収益を還元する仕組みが実現できます。無名時代に描いた作品が有名になってから高値で取引されるようになると作者自身にもその利益が還元されるため、収益だけでなく作り手のモチベーションアップにもつながります。
NFTによってアートの新たなマネタイズ方法が生み出されると、収入面で夢を諦めていた多くの才能あるクリエイター達のモチベーションアップに繋がり、ゆくゆくはアート市場そのものが盛り上がっていくことが期待できます。
NFTアートの実例
続いて、2023年時点でのNFTアートの実例をご紹介していきます。
「Everydays: The First 5000 Days」by Beeple
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NFTアートの代表作ともいえるのが「Everydays-The First 5000Days」です。海外アーティストであるBeeple氏によって作られたこちらの作品は約75億円で落札されたNFTであり、これは、執筆時点でNFT史上最高の取引額とされています。
このNFTは、Beeple氏が10数年間毎日作成し続けたプロジェクトである「EVERY DAYS」の作品をまとめて1つのNFTとした作品で、その価格のインパクトも相まって、同作品は「世界で最も有名なNFTアート」としても知られています。
Beeple氏は、NFTに注力するまでは世界的に注目されるほどのアーティストではありませんでしたが、今ではNFTアートの先駆者として世界中で認知されているアーティストとなりました。
Bored Ape Yacht Club(BAYC)
「NFTは知らないけど、この猿の絵は知ってる」という方もいるかもしれません。
NFTの代表例であるこの「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」は、アメリカのNFTスタジオであるYuga Labsが制作する類人猿をモチーフにしたNFTアートコレクションです。顔のパーツや表情、服装などバリエーションの異なる1万点のNFTアートが発行され、同じ絵柄は1枚として存在しません。
このクオリティと生成数を実現できるのは、BAYCがジェネレーティブNFTだからです。ジェネレーティブNFTとは、プログラミングによって、形、フォーム、色、パターンを自動生成するNFTアートのことを指します。
「独特なデザインにもかかわらず、他の人とは被らない」という面白さがNFTコレクターのみならず、一般のユーザーにもハマり、NFTという存在が広く認知されたという功績は計り知れません。海外のセレブや著名人を発端に、SNSのアイコンを自分が所有しているNFTアートにすることが流行したことが、冒頭のような認知を得るきっかけになったのかもしれません。
2023年9月には、日本発のストリートウェアブランド「A BATHING APE®(ア・ベイシング・エイプ)」とのコラボレーションを発表するなど、まだまだ衰えを見せていない人気NFT。気になった方は、この類人猿でNFTデビューをするのも悪くないでしょう。
Been a fan since way back. pic.twitter.com/7tJbDGgou8
— Bored Ape Yacht Club (@BoredApeYC) September 25, 2023
CryptoPunks(クリプトパンク)
出典:CryptoPunks
CryptoPunks(クリプトパンク)は、2017年に誕生した世界最古といわれているNFTアートコレクションで、ドット絵の男女やレアキャラのエイリアンやゾンビなどが描かれています。こちらもBored Ape Yacht Club(BAYC)同様ジェネレーティブNFTであり、同じ絵柄は1枚として存在しません。
リリース当初は無料配布されていましたが、作品の総発行枚数は1万点と限りがあり、その希少性から数千万円以上の値段が付けられるまでに価格が高騰しています。その高額な値段から一種の投資商品のような扱いをされており、いまでは多くの有名投資家が保有しています。
また、CryptoPunksはフルオンチェーン、つまり全てのNFTデータがブロックチェーン上に記録されています。実は、多くのNFTプロジェクトではブロックチェーン上に画像データの保存場所を指定する「URL(文字列)」のみ記録する方法が採られています。
フルオンチェーンNFTはデータ容量の上限が非常に少ない点やコストがかかってしまうというデメリットがありますが、CryptoPunksは24×24ピクセルのドット絵のため、データ容量を小さく抑えられ、フルオンチェーンを成立させています。
永続性を実現するフルオンチェーンで実装されている点もCryptoPunksが高い評価を得ている理由の1つだといえるでしょう。
また、その注目はクリプト界隈に留まらず、多くの企業とのコラボが実現しています。2022年には
ティファニーがCryptoPunksをカスタムデザインのペンダントに変換するプロジェクトを発表しました。それぞれのペンダントには、少なくとも30石のジェムストーンやダイヤモンドが使用され、所有者のCryptoPunksに忠実なペンダントが作成できるとのことです。
ティファニーがNFTに参入!「NFTiff」を250個限定で発売。 | Vogue Japan
「Zombie Zoo」by Zombie Zoo Keeper
「Zombie Zoo(ゾンビ・ズー)」は、2021年に当時8歳の日本人の少年によって始められたNFTアートプロジェクトです。
彼が夏休みの自由研究として描いた3枚のデジタルアートを、母親の協力のもと世界最大手のNFT取引所『OpenSea(オープンシー)』に出品したところ、世界的に有名なDJによって約240万円で落札されました。
その後も人気銘柄として話題を独占したZombie Zooは取引総額4400万円を突破するなど、小学生がクリエイターの作品としては異例のヒットとなりました。
東映アニメーションによるアニメ化プロジェクトも始動するなど、日本人の、しかもたった8歳によるNFTアート作品とあって、非常に多くの注目を集めたNFTアートプロジェクトの事例としてご紹介します。
余談ですが、彼の母親である草野絵美氏は自身もアーティストとして活躍されており、映像クリエイターの大平彩華と日本発のNFTコレクション「新星ギャルバース」を立ち上げています。
こちらは取引総額16億円を突破するなど、世界的にも大注目を集めるNFTで、グラミー賞ノミネート・アーティスト、トーヴ・ロー『I like u』のオフィシャルMVにも採用されています。
Murakami.Flowers Official
出典:designboom
Murakami.Flowersは、日本を代表する世界的アーティスト・村上隆氏が、自身の代表作でもある「フラワー」をドット柄で表現したNFTアートです。
このNFTは発行数が、花の108種と背景の108種の組み合わせで構成されており、合計で11,664種となっています。この数は煩悩の数である108に由来するモノであり、1万個以上存在するNFTのうち108個は「Bonnō Proof」という特別な位置付けにあるレアリティの高いNFTとなっています。
自身の死後、このNFTのメカニズムが変化することも示唆しており、公式Twitterは11万を超えるフォロワーがいるなど世界中が注目するNFTプロジェクトです。
このプロジェクトはインターネット界への貢献として国内外からも評価され、村上氏は「卓越したインターネット上の活動」を表彰するウェビー特別功労賞を受賞。
同氏はナイキの傘下であるRTFKTスタジオとのコラボレーション「クローンX(CloneX)」でもNFTを手がけており、アートとNFTの関係への期待が透けて見えます。
NFTがもつ永続性は、村上氏の「自身の死後でも、作品の価値が生き続ける」というモットーにも相容れるところがあるのではないでしょうか。
Matter is Void
この作品は、かの有名なスペシャリスト集団・チームラボが制作した7つのNFTアート作品群の一つです。それぞれの作品は、独特なグラフィックで「Matter is Void」(意:物質は空虚)と書かれており、それらの文字は常に回転を繰り返し、独自の模様へと変化します。
いままで紹介してきたNFTとは少しテイストの異なったこのNFTには、NFTの所有者が作品内の言葉を自由に書き換えることができるという珍しい特徴があります。
7作品それぞれ購入可能なNFTは1つですが、NFTを所有しているか所有していないかにかかわらず、作品自体は誰でもダウンロードし所有することができます。しかしNFTの所有者がステートメントを変更すると、世界中の人がダウンロードして所有している全ての作品が、その言葉に書き変わります。
NFT所有者の言葉次第で、作品の価値が変化するだけでなく、ダウンロードされたり展示されたりする作品数の増減にも影響があるでしょう。オリジナルNFTとレプリカの区別や、常に変化し続ける作品というのは、NFTやデジタルアート特有の表現といえるでしょう。
From the Fragments of Tezuka Osamu(手塚治虫のかけらたちより)
出典:美術手帖
日本を代表する漫画家である手塚治虫氏の代表作品を題材に展開されたNFTプロジェクト「From the Fragments of Tezuka Osamu(手塚治虫のかけらたちより)」において、「鉄腕アトム」「火の鳥」「ブラック・ジャック」を題材としたNFTモザイクアートが世界最大手のNFT取引所『OpenSea(オープンシー)』に出品され、話題になりました。
このモザイクアートは、手塚治虫漫画のカラー原画840枚と4000枚以上の白黒漫画原稿で構成されており、 モザイクの色味を一つひとつ手作業で調整したまさに力作となっています。 遠くから一枚の絵画としてキャラクターを鑑賞するだけではなく、拡大すればモザイク素材一枚一枚から手塚治虫氏の漫画への情熱や、想いを感じ取ることができます。
また、同時にジェネレーティブNFTの販売も行っており、モザイクアートNFTで使用した画像素材をもとにランダム生成されたアート作品をそれぞれの題材ごとに1000枚の販売をしました。
これらの売上の一部は、ユニセフやあしなが育英会といった子どもたちを支援している団体に寄付されたそうです。
まとめ
今回はNFTアートについて解説し、実際の事例をご紹介してきました。
NFTアートはクリエイターと買い手の双方にとってより良い体験をもたらす革新的な技術です。一方で、NFTアートは依然目新しいモノとして捉えられており、高額な金額で投機的に取引されることに注目が集まりがちです。
今後は、アートの原点である ”純粋に気に入った作品を購入する” という向き合い方が広まり、現実のアートのように人々の生活の一部となっていくことを期待します。