DPP(デジタルプロダクトパスポート)とは?サーキュラーエコノミーを実現させる欧州発の新ルールについて解説!

近年、「サーキュラーエコノミー」や「サステナビリティ」といった、「大量生産・大量消費・大量廃棄からの脱却」という視点が重要視されており、環境に対する取り組みが個人・法人を問わず全世界的に活発になっています。

なかでもとくに、企業においては製品に耐久性やリサイクルの容易性といった情報を付与する「DPP(デジタルプロダクトパスポート)」と呼ばれる制度が注目を集めています。その一方で、その内容を詳しく知っている、実際の事例を知っているという人はまだまだ少ないはずです。

こちらの「DPP(デジタルプロダクトパスポート)とは?サーキュラーエコノミーを実現させる欧州発の新ルールについて解説!」のページでは、DPPの基礎知識から実際の取り組み事例まで、わかりやすく解説していきます。

    DPP(デジタルプロダクトパスポート)とは?

    DPPは欧州発の経済政策

    EUでは2019年以降、「欧州グリーンディール」と呼ばれる持続可能な経済成長を実現するための政策に力が入れられてきました。この政策では、投資計画や2050年までの気候中立の法制化などの目標が設定されており、とくに廃棄されていた製品や原材料を「資源」としてリサイクルして循環型の経済システムに転換する「サーキュラーエコノミー」については、アメリカに次ぐ世界第二位の経済圏をさらに包括的・持続的なものにしていくとして重要な位置付けに置いています。

    そして、その政策の一環として、2024年6月に欧州連合が公布した「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(略称:ESPR)」では、企業へのDPP導入が新たに義務付けられています。つまり、DPPはEU(正確には行政執行機関である欧州委員会)が推進する経済政策ということです。

    日本語では「デジタル製品パスポート」と訳されるDPPですが、具体的には一体どのような制度なのでしょうか?

    DPPは「モノのパスポート」

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    DPPとは、製品の持続可能性に関する情報を電子的に記録したものです。製造元から原材料、リサイクル性から解体方法に至るまでの詳細な情報を提供し、製品のライフサイクルを追跡可能にします。製品に記録された情報を読み取ることで、「本物なのか」「何からできているのか」「どこで生産されたのか」「リサイクルは可能なのか」といった情報を得ることができます。そのため、DPPは個人の属性や渡航歴などを記載しているパスポート(旅券)になぞらえて「モノのパスポート」とも呼ばれています。

    私たちもよく目にする、海外旅行などで使用するパスポートは紙でできている冊子型のみとなっていますが、DPPは「デジタル」プロダクトパスポートなので、電子的に記録可能なものであればその種類を問いません。したがって、バーコードやQRコード、電子透かしなど様々なツールが利用可能です。

    DPP(デジタルプロダクトパスポート)のメリットとデメリット

    「モノのパスポート」として注目を集めるDPPですが、一体どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。ここでは、それぞれ2つずつご紹介します。

    メリット①:製品全体のライフサイクルがサステナブルであることを証明できる

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    現代社会において、生産のプロセスはますます複雑化しています。一つの製品を生み出すためには、多岐にわたる部品や複数のセクションをまたぐ工程が必要です。この複雑性のために、企業が単独で全ての情報を管理し把握することは難しくなってきています

    たとえば、カーボンニュートラルなどの排出量取引において、個々のサプライヤーが供給する部品が最終製品の温室効果ガス排出量にどのように影響するかは明確でないケースが大半です。そのため、製品の製造プロセスにおいてだけでなく、調達段階からサプライチェーン全体のCO2排出量などを可視化することが求められています

    DPPが導入されれば、企業の製品がどのような過程で生まれ、どのような原材料が使われているかについて一定の情報を手に入れることができます。それだけではなく、その後のリサイクルや最終的な廃棄物の処理を含むライフサイクル全体が追跡可能になり、持続可能なエコシステムであることの証明になります。

    ​​また、現在の国内の排出量算定においては、サプライチェーン排出量は個社ではなくグループ単位を自社の範囲とします。

    排出量算定について – グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省

    したがって、他事業者との情報連携も促進され、⾃社だけでは難しかった削減目標も達成可能なものになるでしょう。このメリットは製造者に限らず、消費者やサプライヤーにとっても大きな安心材料です。

    メリット②:製品のリスク管理が容易になる

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    DPPによって製品の生産工程や流通過程における記録がしっかりと残ることで、問題発生時の迅速な対応が可能になります。

    たとえば、商品に大きな欠陥があることが発覚したとします。その際に全ての生産工程が記録されていれば、どの地点でいつ問題が発生したのかが速やかに特定できるため、短時間で原因を究明・修正できるようになるのです。

    また、不具合のある商品が見つかった場合、迅速な回収や修理が必要です。問題が判明した際にその原因に素早く対処できれば、消費者向けの情報開示も可能になり、企業における経済的損失も最小限に食い止めることができます。

    このように、万が一の際にも徹底的な情報管理によって、原因解明・リコールの実施などの責任を果たすことができ、結果的に企業の評判も守ることができます。

    デメリット①:大きな人的・経済的コストが発生する

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    EUでは、DPPの導入は企業の義務となっています。そのため、企業は自主的に、自己の負担においてその開発をしなければなりません。また、導入後も製品情報を登録する人件費や、データを保管するサーバー費用なども半永久的に発生するため、コスト面においてはかなり企業に酷な現状になっています。

    さらに、DPPの導入に伴って、環境基準を満たしていない企業は自社の製品を再開発する必要があります。こういった多額の追加コストが発生してしまうことが、現在までDPPが普及してこなかった最大の理由でもあるでしょう。

    その解決策としては、国家単位で助成金などの支援体制を整えることが挙げられます。実際にドイツでは、バッテリーパスポートの開発に総額820万ユーロを助成して、自国内企業を支援しました。

    ドイツ政府、蓄電池の全ライフサイクル情報を記録する「パスポート」開発を支援(EU、ドイツ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース

    他にも、企業規模によってDPPの導入に猶予期間を設けるのも一手でしょう。いずれにせよ、第三者のフォローがなければ、コスト面での課題を解決するのは厳しいという現実があります。

    デメリット②:高い情報セキュリティが要求される

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    DPPには製品に関する多くの情報が含まれているため、同時に強力なセキュリティ対策が求められます。パスポート内の全ての内容を全員が確認できる仕組みにすると、サプライヤーや顧客情報などが漏洩するおそれがあります。

    適切な暗号化やアクセス制御の仕組みを導入しなければ、デジタルな情報を扱うDPPはサイバー犯罪の脅威にさらされてしまうことは避けられないでしょう。したがって、個人情報の保護とデータプライバシーが重要な課題となっています。

    一方で、ブロックチェーンという技術の採用により、高い情報セキュリティを実現しているケースもあります。

    ブロックチェーンは、分散型台帳とも呼ばれる新しいデータベースです。中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

    分散的な管理構造では、データは暗号化されてブロックに格納され、新しいブロックは過去のブロックとリンクしてチェーンを形成します。そのため、一度記録された情報を改ざんするためには、すべての関連するブロックを変更する必要があります。これは非常に困難であり、ブロックチェーンが耐改ざん性に優れているといわれる理由でもあります。

    詳しくはこちらの記事で解説しています。

    DPP(デジタルプロダクトパスポート)の普及によって社会はどう変わる?

    経済活動における環境負荷が削減される

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    DPPはEUがサーキュラーエコノミーの理念を推進し、製品の持続可能性を高めるためのプロジェクトの一環として展開されています。DPP自体はあくまで「製品情報を記録する」という制度です。

    しかし、「持続可能な製品のためのエコデザイン規則」ではDPPの義務化と同時に環境負荷物質の規制や耐久性に関する規定も盛り込まれています。そのため、企業がDPPを導入する際には必然的に、製品の設計から廃棄までのプロセス全体の見直しや資源の有効活用についても本腰を入れて取り組まなければなりません

    また、DPPは導入後も企業の環境戦略をアシストします。製品のライフサイクル全体を追跡・記録するため、製造段階から使用、リサイクル、廃棄の各プロセスにおけるデータを集約します。よって、自社サービスのどのプロセスが環境に負荷をかけているかを特定し、効果的な環境改善策を導き出すことが可能です。

    このように、DPPには製品の生産過程を明らかにして消費者のエシカルな選択を手助けするだけでなく、製品のライフサイクル全体で環境への負荷を軽減する効果が期待されます。

    新たなKBF(購買決定要因)によって企業間競争が生まれる

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    消費者は環境に配慮した製品を求める傾向があります。そのため、DPPによって製造プロセスや耐久性、リサイクル可能性を提示することで、企業は「価格」「デザイン」「機能」以外の面で他社との差別化を図ることができます。

    また、EU圏内ではDPPに非対応の製品は販売ができなくなる可能性があります。そのため、国内市場だけではなく国外市場におけるシェア獲得に向けて各企業が切磋琢磨して環境に配慮した商品の開発を行うことでしょう。その結果として、プロダクトの質が高まることも期待されます。

    さらに、DPPによって提供される情報は、消費者だけではなく、投資家や取引先といったステークホルダーの意思決定にも大きく寄与します。近年では、以下のような社会課題に取り組む上場企業も増えてきました。

    • 温室効果ガスによる地球温暖化
    • 工場や生活排水による水質汚染
    • マイクロプラスチックの流出による海洋汚染
    • 農薬や廃棄物による土壌汚染
    • 工場や自動車の排気ガスなどによる大気汚染
    • 再生処理が行われないゴミや余剰食品による増加

    こうした社会問題は、原材料の調達や製品の使用後といったまさにDPPがフォーカスしている地点に原因が存在していることも多いです。DPPによって環境に配慮した企業、あるいは欧州の先進的な取り組みへの参加を証明することで、ブランド価値や企業イメージの向上につながるでしょう。

    消費者の能動的な購買行動が実現する

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    DPPがあることで、私たち消費者は購買行動の際にアクセスできる情報が増えます。したがって、消費者はDPPを参考にして多様な観点から購入の是非を判断することが可能になり、消費行動の自由度が高まるでしょう。

    食品に貼られている成分表示を思い出してみてください。私たちは食品を選ぶ際に「原産地」や「成分」をみて安全性や希少価値を判断しているはずです。また、ダイエットをしている人や栄養管理に気を遣っている人であれば「栄養素」のバランスにも配慮しているでしょう。

    しかし、この表示がなければ私たちは見た目や店舗の評判でしか判断することができず、満足のいく商品選択ができません。それどころか、消費者は企業が見せたい情報だけをもとにして選択をしなければならず、不平等な取引となってしまいます。

    一方、DPPによって企業が製品の見えにくい情報を提供することで、消費者は製品の背後にあるストーリーや製造プロセスを知ることができます。これにより、企業と消費者間の情報の対称性が高まり、消費者は能動的な購買行動が可能になります。

    DPP(デジタルプロダクトパスポート)って日本企業にも関係あるの?

    EUでは今後スタンダードになっていくとされているDPPですが、遠く離れた日本の地においてもこれらを考慮しなければいけないのでしょうか?実は、EUでの立法プロセスの進展によっては、日本企業にもDPPへの対応が迫られる可能性があります

    欧州委員会で採用されている政策パッケージでは、サプライチェーン全体でのエコデザインが想定されています。したがって、欧州企業に部品や素材を提供している日本の企業は、サプライヤーとして各部品を納品する際に、DPP対応を証明しなければいけなくなるかもしれません。つまり、自社サービスに「デジタル製品パスポート」を導入できなければ、EU市場から締め出しを余儀なくされるおそれがあります。

    実際に電池分野においては、厳しい制約のもとでDPPの運用が始まっています。2023年7月に採択された「欧州電池規則」では、容量が2kWhを超える充電式産業用バッテリーと電動自転車・スクーター用バッテリー、全ての電気自動車(EV)用バッテリーについては、2027年2月までに「バッテリーパスポート」と呼ばれる電池の情報の電子的記録が義務付けられました。したがって、バッテリーパスポートを含む新規則に対応できない企業はEU市場から姿を消すことになります。

    Council adopts new regulation on batteries and waste batteries – Consilium

    また、国内においてもサプライチェーンにおける自社以外の排出量の削減、いわゆるScope3の削減が声高に叫ばれる時代になりつつあります。G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(略称:TCFD)」では、Scope3を含むサプライチェーン排出量の開示が推奨されていますが、日本でもこのTCFDに賛同する企業が2023年6月時点で1,344にのぼります。経済産業省の公式HPでは賛同企業名が公表されており、数々の名だたる企業が並んでいることからもその影響力が計り知れます。

    日本のTCFD賛同企業・機関 (METI/経済産業省)

    また、東京証券取引所のプライム市場は、上場企業にTCFDに準拠した報告を求めており、ESGを考慮した経営においても、サプライチェーン排出量を算定・報告する動きが強まっています。

    このように、EUの環境基準に合致しない製品は今後、マーケットの縮小が顕著になっていくでしょう。したがって、「あくまで海外のことだから」と無関心でいる国内企業は、ビジネス上の大きなリスクを抱えているのではないでしょうか。

    DPP(デジタルプロダクトパスポート)の導入事例

    TOD’S

    出典:ApparelWeb.com

    イタリアの高級革製品ブランド「TOD’S」はDPPを採用し、ブランドの象徴である「ディーアイバッグ」に革新的な顧客体験を提供しています。この取り組みは、同社が加盟する「オーラ・ブロックチェーン・コンソーシアム(Aura Blockchain Consortium)」の技術を活用しており、バッグ正面のオーバル型ロゴの裏にNFCタグを埋め込むことで、購入者は製品の詳細な情報にアクセスできる仕組みです。

    このDPPでは、購入者がスマートフォンを使用してNFCタグをスキャンするだけで、バッグの製品証明書、原材料のトレーサビリティ、製造過程など、製品に関連するあらゆる情報にリアルタイムでアクセスでき、バッグの真正性を保証し、贋作のリスクを低減する役割を果たしています。また、DPPを通じて、製品のメンテナンスサービスや保証の延長、限定イベントへの招待など、特別な顧客特典を受けることもでき、同社の製品を単なる消費物としてではなく、長期間にわたって価値を保つアイテムとして捉え、ブランドの透明性やサステナビリティに対するコミットメントを強化する重要なツールとなっています。

    現在は「ディーアイバッグ」のカスタマイズ版に導入されていますが、今後は他のコレクションへの展開も計画されており、ラグジュアリーブランドにおける新たなスタンダードとなる可能性を秘めている注目事例の一つです。

    R-Cycle

    出典:Reifenhäuser

    R-Cycleは、ドイツのプラスチック加工機械メーカー「Reifenhäuser Maschinenfabrik(ライフェンホイザー・マシーネンファブリーク)」が推進するDPPプロジェクトです。

    同プロジェクトは、プラスチック包装のDPPであり、リサイクル可能なプラスチック製品の製造を支援するために設計された取り組みです。このパスポートの最大の特徴は、プラスチックの仕分け効率が格段に向上していることです。

    このDPPでは、パッケージの生産中にリサイクル情報を自動的に登録し、この情報をバリューチェーンに渡します。したがって廃棄物分別工場は、リサイクル可能なプラスチックを簡単に識別し、特定の種類のプラスチックのみを抽出する高品質のリサイクルが可能になります。

    現在のプラスチックのリサイクルは、複数のプラスチックの中から特定のプラスリックを特定・選別することが困難です。しかし、R-cycleの登場によってプラスチックのパッケージに貼り付けて識別情報を表示することで、廃プラスチックの仕分けが大幅に効率化されました。

    この取り組みは、プラスチック産業が環境への影響を最小限に抑えるための革新的な解決策として注目されており、「ドイツサステナビリティアワード 2021」も受賞しています。

    Waste2Wear Blockchain

    出典:Waste2Wear

    Waste2Wear Blockchainは、カナダを拠点とする「Waste2Wear(ウェイスト・トゥ・ウェア)」という企業によって開発された独自のブロックチェーンプラットフォームです。同社は、プラスチック製品が環境へ与える影響を軽減し、できるだけ多くのプラスチック廃棄物を新しい繊維製品にリサイクルすることを目指しています。

    Waste2Wear Blockchainでは、プラスチック廃棄物から完成したファッション製品に至るまで、独自のスマートコントラクトで段階的に記録されます。ユーザーはQR コード付きのステッカーを読み込むことで、数量、重量、場所、写真、時間が取得可能です。

    このDPPは、繊維業界につきまとう偽造品問題へのアプローチとしても期待されています。近年では環境に配慮したエシカルファッションを選択する消費者も多くなってきました。しかし、リサイクルされたポリエステルとそうではないバージンのポリエステルは肉眼では区別が難しいです。バージンポリエステルは持続可能な代替品よりも製造が簡単で、なおかつ安価であるため、悪徳サプライヤーがリサイクルポリエステルを偽造するケースが問題となっています。そのため、DPPによって過去の履歴が詳らかにされることで、このような不正な素材の流通が防止されます。

    環境だけではなく、消費者にもやさしいビジネスモデルを構築することができるという点で、DPPのメリットをうまく活用した事例だといえるでしょう。

    東北電力✖️三菱総合研究所✖️イー・アンド・イー ソリューションズ

    出典:Unsplash

    東北電力は太陽光パネルへのDPP導入に向けた実証実験を開始すると2023年8月に発表しました。同実験では、使用済み太陽光パネルの大量廃棄という社会問題に対して、デジタル上でのトレーサビリティ確保を通してリサイクル原料の品質を向上させるというアプローチを目指しています。

    実証実験に際しては、(株)三菱総合研究所、イー・アンド・イー ソリューションズ(株)と共同で実施する模様です。

    太陽光パネルの適正なリユース・リサイクルに向けた新たな実証事業について ~環境省「国内資源循環体制構築に向けた再エネ関連製品及びベース素材の全体最適化実証事業」に当社応募案件が採択されました~| 東北電力

    DPPの構築によって、太陽光パネルの材料成分の明確化とデータの体系化、稼働可能年数の評価、再利用時の発電データの収集などが可能になります。したがって、使用済みの太陽光パネルを適切な形で処理・再利用できるようになり、通常廃棄による環境負荷よりも少ない負荷で再生可能エネルギーを導入することが可能です。

    環境省によると、2040年ごろには現在のおよそ200倍にあたる年間約80万トンもの使用済み太陽光パネルが排出されると試算されています。きたる「大廃棄時代」における画期的なソリューションとなる可能性もあるため、今後の進展に注目です。

    DPP(デジタルプロダクトパスポート)の今後の展望

    ここまで見てきたように、実際に運用されれば様々なメリットをもたらすであろうDPPですが、はたして今後の社会でうまく普及するのでしょうか。この問いに関するヒントは、現在の世界産業における中国の存在に隠されているかもしれません。

    EUではフォンデアライエン氏が欧州委員会の新委員長に就任して以降、地球温暖化対策を取り組むべき課題の筆頭に位置付けて独自の目標を掲げてきました。その背景には、中国が産業大国として世界のスタンダードになりつつあることがあります。

    出典:Pexels

    中国では「安価で」「大量に」生産を行い、国外輸出を推進するビジネスモデルが主流であり、こうした経済活動は環境問題に悪影響を及ぼしていることは問題視されてきました。しかし、同時にそのビジネスモデル成功を収め、中国は世界有数の産業大国となったこともまた事実です。

    また、次世代産業の核となるレアメタル生産は中国の独壇場といっても過言ではありません。半導体製造に必要なガリウムは中国のシェアが約90%を占めており、バッテリー製造に必要なコバルトはアフリカのコンゴ民主共和国が約73%とトップシェアを占めているものの、その大半は中国資本によるものです。

    中国は潤沢な資金をアフリカに投資することで、現地のエネルギービジネスに深く根を張り、その実権の掌握を試みているという見方もできます。実際に、コバルトの精製では中国が2022年のコバルト精製生産量の約76%と、世界市場を席巻しています。

    こうした中国の重商主義的アプローチの成功や希少資源の中国による独占は、もはや各国の安全保障上の脅威となっており、中国からの脱依存、新たな囲い込みが必要となっています。近年、EUが積極的に新しい政策イニシアチブを発表しているのはこうした背景があるからでしょう。

    実際に、フォンデアライエン委員長は就任前の会見で以下のように述べています。

    「この布陣で『欧州の道』を切り拓く。気候変動に対し大胆に行動し、米国とのパートナーシップを強化し、より自己主張するようになった中国との関係を明確にし、例えばアフリカなどの信頼できる隣人となる。このチームは、欧州の価値や世界的水準の維持のために立ち上がらなければならない。」

    出典:欧州対外行動庁「フォン・デア・ライエン次期欧州委員会委員長、より高みを目指すEUに向けた布陣を発表」

    こうしたことからも、DPPを含むグリーンディール政策は、彼女の本気度の高い経済政策であることが伺えます。同氏は2029年までの委員長続投がすでに決定しており、今後もこうした枠組みは厳格に運用され、適応できない国や企業は”西側陣営”からの締め出しに遭う可能性も大いにありえます。したがって、DPPは今後の国際社会のスタンダードとして普及していくのではないでしょうか。

    まとめ

    今回はDPP、デジタルプロダクトパスポートについて解説しました。EUでの新たなスタンダードとして採用が決まったDPPは今後、そのメリットが世界的に認知されていくフェーズに突入するでしょう。

    一方で、日本国内ではDPPの導入は義務ではないため、コスト面の課題から導入を見送る企業も出てくるかもしれません。しかし、いまや環境への影響を無視した企業活動は淘汰され始めており、最悪の場合、消費者から「時代遅れ」や「ガラパゴス」というレッテルを貼られてしまう可能性もあります。

    日本の企業が地に足をつけてDPPの導入について議論しなければならない時期が、すぐそこまで来ています。