ブロックチェーン×保険の最新事例~引受査定から請求管理まで~

  1. 保険への活用が進むブロックチェーン技術
  2. ブロックチェーンとは
  3. ブロックチェーン×保険の適用可能性
  4. ブロックチェーン×保険の事例

保険への活用が進むブロックチェーン技術

出典:pexabay

2023年現在、ブロックチェーンの活用領域の一つとして、保険業界での実証実験やコンソーシアムの形成が進んでいます。

例えば、2016年に欧州の保険会社や再保険会社5社によって設立されたコンソーシアムである「B3i(Blockchain Insurance Industry Initiative)」は、2018年に、世界各地の保険関連会社20社(Aegon、Swiss Re、Zurich、SBIグループ、東京海上ホールディングス、他)による出資によって「B3i Services AG」として法人化されました。

同コンソーシアムでは、次のような取り組みがなされてきています。

Hyperledger Fabricを活用した実証実験を成功させ、再保険取引の効率性を最大30%改善
Cat XoL(Catastrophe Excess of Loss)再保険市場に焦点を当てたアプリケーション(CorDapp)による、巨大災害における超過損害額の再保険(Cat XoL)に関する条約や取引の引受プロセスを効率化
「Corda Enterprise」活用したプラットフォーム「B3i Fluidity」上で、保険会社9社、大手証券会社5社、再保険会社12社を含む20件以上のCat XoL再保険契約を締結

また、「Etherisc」と呼ばれる分散型保険プロジェクトでは、パブリックブロックチェーンを活用し、次のような保険が開発されています。

「Flight Delay Insurance」:スマートコントラクトを利用した航空機遅延保険
「Hurricane Protection」:基準値を超える風速のハリケーンが発生した場合の損害保険
「Crop Insurance」:干ばつや洪水被害に対する農家向けの保険

こうした取り組みは、海外のみならず、日本国内にも徐々に広がってきているのです。

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは新しいデータベース

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、「分散型台帳」と呼ばれています。

ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、「データの耐改ざん性」「安価なシステム利用コスト」「ビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)」といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、保険に限らず様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

ブロックチェーン×保険の適用可能性

デロイトトーマツ社のリサーチレポートによると、ブロックチェーン×保険業界には次のようなユースケースが存在します。

  • 包括的且つ安全で相互運用可能な健康記録の保存方法
  • より費用効果の高い引受や保険料設定、請求対応機能を提供し、バリューベース・ケア戦略を行うバックオフィス業務の効率化
  • 医療機関、請求者、申請者による不正防止や不正を発見する能力の向上
  • 健康保険プラン提供事業者リストの信頼性向上
  • より顧客にわかりやすいものにするために、保険申込み手続きを簡易かつ短期化
  • オンライン保険取引所や保険の代替形態であるピア・ツー・ピア(P2P)補償団体の形成や成長を支援
  • 保険会社のほぼリアルタイムな健康状態をモニタリングで、より大胆な保険料設定や双方向サービスの促進

同社は、これらのユースケースの中で、「ブロックチェーンがいかに包括的且つ安全で相互運用可能な健康記録の保存方法」が最も重要な議論であるとしています。

また、損保総研レポートは、コンソーシアム型ブロックチェーンの保険業務での一般的な想定利用形態として、次の4点をあげています。

  • 販売管理
    • KYC(顧客本人確認)業務に関して、複数の保険会社からの顧客情報アクセスの担保
    • シンジケート、リスクプール、超過損害額再保険、特約市場、サープラスライン市場など複雑なリスクを取り扱う市場へのアクセスの担保
    • キャット債や担保付再保険の発行でこれまでよりも広範な投資家層への販売に貢献
  • 保険引受
    • 被保険者の自動車運転履歴情報や事故歴情報を保有する第三者情報機関の参加者による、保険引受時の審査や適切な保険料設定の円滑化
  • 保険金請求管理
    • 複数の保険会社による被保険者の保険金請求情報の共有による、保険金詐欺の判定と調査の迅速化
    • 顧客、代理店・ブローカー、保険会社間での、顧客に保険金が支払われるまでの保険金請求の対応状況の共有
  • 報告
    • 規制監督当局への法令遵守にかかわる報告やデータバンク機構への統計報告の共有

ブロックチェーン×保険の事例

共同保険の契約情報交換に関する実証実験(損保協会、NEC)

2020年9月17日、一般社団法人日本損害保険協会(損保協会)は、日本電気株式会社(NEC)と共に、「共同保険の事務効率化に向け、ブロックチェーン技術を活用した契約情報交換に関する共同検証を実施し、その有効性の評価や課題の洗い出しを行」うと発表しました(損保協会ホームページより)。

損保協会が手掛ける共同保険では、1つの保険契約を複数の保険会社で引き受けるために、各保険会社がそれぞれ、年間数十万件に及ぶ契約情報の書面交換や契約計上業務を行っています。

こうした膨大かつ煩雑な業務を、共同保険に関する会社間共通の情報データベースを構築することで、大幅に効率化することが狙いです。

出典:損保協会

本検証では、損保協会の会員会社8社が参加し、NECの提供するブロックチェーン技術を活用した情報交換を行うことで、保険業務におけるペーパーレス化や契約計上業務がどの程度迅速に、正確に、効率よく行えるかを検証していくとされています。

事故発生の自動検出と保険金支払業務自動化の実証実験(SOMPOホールディングス他)

SOMPOホールディングス株式会社(以下、SOMPO)は、2020年8月18日から同年9月30日まで、損害保険ジャパン株式会社、株式会社ナビタイムジャパン(以下、ナビタイムジャパン)、株式会社 LayerX(以下、LayerX)と共に、保険事故発生の自動検出および保険金支払業務自動化の技術検証のため、MaaS領域におけるブロックチェーン技術を活用した実証実験を行いました。

MaaS(Mobility as a Service)とは、「出発地から目的地までの移動ニーズに対して最適な移動手段をシームレスに一つのアプリで提供するなど、移動を単なる手段としてではなく、利用者にとっての一元的なサービスとしてとらえる概念」(同社)のことで、本取り組みでは、ブロックチェーンによるMaaS推進の一環として、保険金請求や支払い手続きを自動化・効率化させることを狙っています。

出典:SOMPO他の発表資料

同実証では、上図のように、「ナビタイムジャパンの経路検索アプリケーション『NAVITIME』および『乗換 NAVITIME』の利用者からテストモニターを募り、LayerX が有するブロックチェーン技術を活用した、保険事故発生の自動検出と保険金支払業務自動化の技術検証」を目的としています。