トレーサビリティシステムとは?できること・つまずきやすいポイントを簡単に解説!

トレーサビリティシステムは、「追える状態」を仕組みとして維持するためのものです。本記事では、トレーサビリティの基本整理から、できること・設計の考え方・つまずきやすいポイントまでを、実務目線で最短ルートで解説します。

「システムありき」ではなく、「何を説明・判断できるようにしたいのか」を軸に整理したい方に向けた内容です。

こんな方にオススメ
トレーサビリティ対応を求められているが、何から始めるべきか分からない
システム導入を検討しているが、要件整理や範囲設計で悩んでいる
事故対応や監査、取引先説明に耐えうる仕組みを作りたい
ブロックチェーンなどの技術を、必要性も含めて正しく理解したい

トレーサビリティシステムとは

トレーサビリティシステムとは、製品や原材料、部品の履歴情報を記録・検索・追跡できる状態を、ITの仕組みとして支えるものです。ただし、ここで重要となるのは、「トレーサビリティ=システム」ではない、という点です。

トレーサビリティは本来、「あとから追える状態にしておく」という考え方・要件を指します。一方で、トレーサビリティシステムは、その考え方を日々の業務の中で破綻させずに実現するための手段です。極端に言えば、紙の帳簿やエクセルであっても、①正しく記録され、②必要なときに遡れて、③矛盾なく説明できるのであれば、理論上はトレーサビリティは成立します。

しかし実務では、

・記録量が増える
・工程や拠点が増える
・関係者が増える
・スピードが求められる

といった条件が重なり、人手や属人管理だけでは限界が来ます。この「人では支えきれなくなった部分」を補い、追跡を“仕組みとして成立させる”のがトレーサビリティシステムです。つまり、

トレーサビリティ = 何を満たすべきか(要件)
トレーサビリティシステム = それを回し続けるための仕組み              

と整理すると、役割の違いが見えやすくなるでしょう。

なお、トレーサビリティの定義や種類を先に整理したい方は、下記記事も併せてご覧ください。

トレーサビリティシステムの種類

トレーサビリティシステムを検討する際、必ず整理しておきたいのが、「どの範囲のトレーサビリティを対象にするのか」という点です。ここを曖昧にしたまま進めてしまうと、要件が膨らみすぎたり、逆に必要な情報が抜け落ちたりしがちです。この整理の軸になるのが、内部トレーサビリティチェーントレーサビリティという二種類のトレーサビリティです。

内部トレーサビリティは、自社の工場・倉庫・工程の中で、

・どの原材料が
・どの工程を経て
・どの製品ロットになったか

を追える状態を指します。多くの企業が最初に取り組むのは、この内部トレーサビリティであり、MESやロット管理システムなどが主な対象になります。

一方、チェーントレーサビリティは、企業の枠を超え、サプライヤーや販売先と情報をつなぐ領域です。規制対応や取引先要求、サステナビリティ開示などが絡むと、この領域が問題になります。

もちろん、理想としてはサプライチェーン全体でトレーサビリティが担保されている状態が望ましいですが、コストや現場負担の観点から、まず内部トレーサビリティをシステムとして安定させ、その上で「どの情報を、誰に、どこまで共有するのか」を段階的に設計していくというのが、多くの企業にとって現実的なアプローチとなっています。

トレーサビリティシステムでできること

トレーサビリティシステムが提供する価値は、「何でも管理できるようになること」ではありません。実務上は、問題が起きたときに判断を早めること、日々の改善をしやすくすること、説明を求められたときに根拠を示せることの3点に集約されます。

事故・不具合時に回収範囲を絞る

トレーサビリティシステムが最も分かりやすく効果を発揮するのが、事故や不具合が発生した場面です。異物混入や品質不良、表示ミスなどが見つかった際、「どこまで影響が及んでいるのか」を即座に判断できるかどうかは、回収コストだけでなく、企業の信用にも直結します。

システム上で原材料・工程・製品ロットの関係がつながっていれば、対象範囲を過不足なく特定できます。全量回収という最悪の選択を避けられることは、トレーサビリティシステム導入の最も現実的なメリットの一つだといえるでしょう。

品質改善で原因を特定しやすくする

トレーサビリティは、事故対応のためだけの仕組みではありません。日々の品質ばらつきや歩留まり低下といった「小さな違和感」を、工程や条件の違いとして振り返れるようになる点も重要です。

どの原材料ロット、どの設備、どの条件で作られた製品なのかがひもづいていれば、勘や経験に頼らずに原因を切り分けることができます。結果として、是正対応が属人化しにくくなり、改善が積み重なっていく土台になります。

規制・取引先・サステナ情報の説明責任に備える

近年、トレーサビリティが求められる理由は、事故対応だけにとどまりません。法規制への対応、取引先からの情報開示要求、サステナビリティや人権・環境配慮に関する説明など、「なぜその製品を扱っているのか」を問われる場面が増えています。

こうした場面では、「管理しています」という姿勢だけでなく、あとから確認できる証拠があるかどうかが重要になります。トレーサビリティシステムは、説明責任を果たすための“裏付け”を日常業務の中で蓄積していく仕組みだと捉えると分かりやすいでしょう。

なお、近年この「説明責任」が一段と重くなっている背景に、EUで制度化が進む DPP(デジタルプロダクトパスポート)があります。DPPとは、製品ごとに一意のIDを付け、原材料・製造・環境負荷・修理性などの情報を“製品単位で参照できる形”に統合する仕組みです。DPPの制度背景や対象領域、企業への影響をもう少し具体的に把握したい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

つまずきやすいポイント

トレーサビリティシステムは、考え方自体は難しくありません。それでも多くの企業が同じところでつまずくのは、技術ではなく設計の順番を誤るからです。ここでは、よくあるつまずきと、それに対する現実的な解決策をセットで整理します。

範囲が広すぎる・記録が増えすぎて追えなくなる

「せっかくなら全部追えるようにしたい」という発想は自然ですが、トレーサビリティでは往々にして逆効果になります。記録点が増えるほど、検索や判断に時間がかかり、いざというときに使えないデータになってしまうからです。

解決のポイントは、事故対応・品質改善・説明責任のうち、まず何に使うのかを一つ決めることです。例えば、

・回収範囲を特定したいのか
・原因工程を切り分けたいのか
・監査や取引先説明に備えたいのか

このどれを最優先にするかで、必要なデータは大きく変わります。目的が定まれば、「すべてを記録する」発想から、「この因果関係だけ追えればよい」という線の設計に切り替えられます。

実務上おすすめなのは、製品1つ × 工程2〜3点 × 出荷先1パターンに絞ったPoCから始めることです。このレベル感であれば、現場も管理側も「何を増やせば価値が上がるか」を具体的に議論でき、記録量を抑えながら、実際に使えるトレーサビリティを作ることができます。ここで「追える」「探せる」「負担にならない」感覚が現場と共有できれば、製品や工程、サプライヤーなどを、自社の優先順位に応じて段階的に広げていけば十分です。

用語とマスタが揃わず現場が迷う

トレーサビリティがうまく回らなくなる原因の多くは、データの欠落ではなく、用語や単位の解釈が人によって違うことにあります。例えば、

・この「ロット」はいつ切り替わるのか
・品目と製品番号は同じ意味なのか
・工程名は現場と管理側で一致しているか

こうした点が曖昧なままシステム化を進めると、入力はされているのに、後からつながらない、検索できない、説明できないという状態に陥ります。

解決策は、システム導入より先に「意味がずれない最小単位」を決めることです。いきなり完璧なマスタを作る必要はありません。重要なのは、

・どこで区切るのか
・どこまでは同一とみなすのか
・迷ったときに戻る基準があるか

といった判断軸を、現場と管理側で共有しておくことです。この共通認識があるだけで、入力精度とデータのつながり方は大きく改善します。

監査や取引先説明で「証拠」にならない

社内で追えることと、社外に対して「正しい」と説明できることは、必ずしも同じではありません。監査や取引先対応では、「いつ」「誰が」「どの情報を基に」判断・記録したのかを、後から説明できる必要があります。ここが弱いと、「管理しているつもりでも、証拠としては使えない」状態になります。

このつまずきを避けるためには、すべてを証拠レベルに引き上げようとしないことが重要です。まずは、どの工程・記録・判断が説明責任の対象になるのかを切り分けます。その上で、その部分については変更履歴や改ざん耐性を意識した管理方法を選びます。透明性が求められる領域を限定しておくことで、各種デジタル技術を検討する場合も、「とにかく導入」ではなく、「必要箇所にだけ使う手段」として自然に位置づけられます。

この際、選択肢の一つとして挙がるのがブロックチェーンです。ブロックチェーンは、複数の関係者が同じ履歴を参照しやすく、後から改ざんしにくい形で記録を積み上げられるため、企業をまたいでデータを共有する局面では検討の余地が出てきます。一方で、すべてのトレーサビリティに必要なわけではなく、「どの範囲が説明責任の対象か」を切り分けたうえで使うのが現実的です。

なお、ブロックチェーンがトレーサビリティでどう使われているのか、導入の考え方や代表的な実例は、こちらの記事で整理しています。

トレーサビリティシステムで使われる媒体

トレーサビリティシステムでは、「どんな技術を使うか」よりも、「何を成立させたいか」によって選ぶべき媒体が変わります。ここでは、実務でよく使われる媒体を、役割と適性の観点で整理します。

体・技術        主な役割         トレーサビリティの対象      注意点・限界
ロット番号/
シリアル番号
識別の起点を作る社内
(工場・倉庫・工程内)
番号をどう運用・紐付けるかを決めないと形骸化しやすい
バーコード/
QRコード
識別・入力負担の軽減社内
(工場・倉庫・工程内)
読み取り動線を現場に合わせないと使われなくなる
RFID非接触・一括読み取り物流・在庫/
工程通過管理
コストと現場環境(電波・金属)の影響を受けやすい
MES
(製造実行システム)
工程・実績の記録製造工程中心導入範囲を広げすぎると定着しにくい
WMS
(倉庫管理システム)
入出庫・在庫の記録物流・出荷側製造工程の因果までは追えない
IoT/センサー条件・状態の自動記録品質条件が重要な工程データ量が増えすぎると逆に追えなくなる
GPS位置情報の記録輸送・移動の可視化「どの製品か」と結びつけないと意味を持たない
EDI/
データ連携基盤
企業間の情報共有企業間
(取引先と情報共有)
相手先の運用に依存する
ブロックチェーン改ざん困難な履歴保持監査・取引先説明内部用途だけでは過剰になりやすい(任意)

よくある質問

Q
エクセルや紙でも始められますか?
A

結論から言えば、始めること自体は可能です。実際、トレーサビリティの考え方そのものは、紙やエクセルでも成立します。ただし注意したいのは、「始められる」と「続けられる」「使える」は別だという点です。

記録量が少なく、関係者も限られている段階であれば、エクセルでも因果関係を整理する練習としては有効ですが、記録量や検索頻度、説明スピードといった要件次第では、手作業では破綻しやすくなります。多くの企業が「エクセルで始めたが、いざというときに探せなかった」という壁にぶつかるのもこの段階です。

そのため実務では、エクセルや紙から始める場合でも、追える線が見えたらシステムに移すという使い分けがおすすめです。

Q
効果が出るまでどれくらいかかりますか?
A

効果の出方は目的によって異なりますが、小さく始めた場合でも、数週間〜1か月程度で実務上の変化を感じるケースが多いです。

例えば、回収範囲の特定にかかる時間が短くなる、問い合わせへの回答が具体的になる、といった変化は比較的早い段階で現れます。一方で、全社展開やブランディングへの波及効果は、段階的に積み上がっていくものと考えるのが現実的です。

Q
最初の1か月で何から着手すべきですか?
A

最初の1か月で優先すべきなのは、システム選定よりも設計の整理です。具体的には、「何が起きたら困るのか」「そのとき、どこまで追えれば判断できるのか」を言語化し、最小限の線で整理することが重要です。この段階で追う範囲と目的が明確になっていれば、その後のシステム検討やPoCはスムーズに進みます。

トレードログのシステムで現場のトレーサビリティ構築を実現

ここまでで「追える状態」を成立させる考え方を整理しました。実務で次に壁になるのは、既存の業務・既存システムがある中で、識別・記録・検索を“現場が回る形”に落とし込むことです。トレードログ株式会社では、エンタープライズ企業向けのトレーサビリティ統合支援パッケージ「トレードログ」として、構想から運用定着までを一気通貫で支援しています。

トレーサビリティは「追えるようにする」だけだと、コストになりやすいのも事実です。トレードログでは、サプライチェーンの情報を“使える形”に整え、社内の意思決定だけでなく、対外説明や顧客接点にもつなげることを重視しています。

食品流通におけるデータ共有の例

上図では食品業界向けに最適化した統合支援パッケージとして紹介されていますが、もともと製造業・エネルギー領域での支援をベースに磨き込まれているため、要件(追う単位/証拠性/共有範囲)が整理できれば、以下のような業界のブランドプロミス実現にも展開可能です。

  • 日用品:RFID導入、RFID+QRによる正規品証明、CRM連動のエンゲージメント強化
  • 食品:DID/VC・RFID導入、顧客向けアプリでのトレーサビリティ/食の安全情報提供、FSP連動
  • エネルギー:電力色分け、二重カウントのない信頼データ提供、顧客向けアプリでの可視化・ポイント付与 など

もし「自社の業務ではどこを記録点にすべきか」「既存システムとどうつなぐべきか」「監査・取引先説明に耐える証拠性をどこまで担保するか」といった具体検討に入る場合は、トレードログ株式会社へお問い合わせください。