ブロックチェーン×保険の最新事例~引受査定から請求管理まで~

  1. 保険への活用が進むブロックチェーン技術
  2. ブロックチェーンとは
  3. ブロックチェーン×保険の適用可能性
  4. ブロックチェーン×保険の事例

保険への活用が進むブロックチェーン技術

出典:pexabay

2023年現在、ブロックチェーンの活用領域の一つとして、保険業界での実証実験やコンソーシアムの形成が進んでいます。

例えば、2016年に欧州の保険会社や再保険会社5社によって設立されたコンソーシアムである「B3i(Blockchain Insurance Industry Initiative)」は、2018年に、世界各地の保険関連会社20社(Aegon、Swiss Re、Zurich、SBIグループ、東京海上ホールディングス、他)による出資によって「B3i Services AG」として法人化されました。

同コンソーシアムでは、次のような取り組みがなされてきています。

Hyperledger Fabricを活用した実証実験を成功させ、再保険取引の効率性を最大30%改善
Cat XoL(Catastrophe Excess of Loss)再保険市場に焦点を当てたアプリケーション(CorDapp)による、巨大災害における超過損害額の再保険(Cat XoL)に関する条約や取引の引受プロセスを効率化
「Corda Enterprise」活用したプラットフォーム「B3i Fluidity」上で、保険会社9社、大手証券会社5社、再保険会社12社を含む20件以上のCat XoL再保険契約を締結

また、「Etherisc」と呼ばれる分散型保険プロジェクトでは、パブリックブロックチェーンを活用し、次のような保険が開発されています。

「Flight Delay Insurance」:スマートコントラクトを利用した航空機遅延保険
「Hurricane Protection」:基準値を超える風速のハリケーンが発生した場合の損害保険
「Crop Insurance」:干ばつや洪水被害に対する農家向けの保険

こうした取り組みは、海外のみならず、日本国内にも徐々に広がってきているのです。

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは新しいデータベース

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、「分散型台帳」と呼ばれています。

ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、「データの耐改ざん性」「安価なシステム利用コスト」「ビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)」といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、保険に限らず様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

ブロックチェーン×保険の適用可能性

デロイトトーマツ社のリサーチレポートによると、ブロックチェーン×保険業界には次のようなユースケースが存在します。

  • 包括的且つ安全で相互運用可能な健康記録の保存方法
  • より費用効果の高い引受や保険料設定、請求対応機能を提供し、バリューベース・ケア戦略を行うバックオフィス業務の効率化
  • 医療機関、請求者、申請者による不正防止や不正を発見する能力の向上
  • 健康保険プラン提供事業者リストの信頼性向上
  • より顧客にわかりやすいものにするために、保険申込み手続きを簡易かつ短期化
  • オンライン保険取引所や保険の代替形態であるピア・ツー・ピア(P2P)補償団体の形成や成長を支援
  • 保険会社のほぼリアルタイムな健康状態をモニタリングで、より大胆な保険料設定や双方向サービスの促進

同社は、これらのユースケースの中で、「ブロックチェーンがいかに包括的且つ安全で相互運用可能な健康記録の保存方法」が最も重要な議論であるとしています。

また、損保総研レポートは、コンソーシアム型ブロックチェーンの保険業務での一般的な想定利用形態として、次の4点をあげています。

  • 販売管理
    • KYC(顧客本人確認)業務に関して、複数の保険会社からの顧客情報アクセスの担保
    • シンジケート、リスクプール、超過損害額再保険、特約市場、サープラスライン市場など複雑なリスクを取り扱う市場へのアクセスの担保
    • キャット債や担保付再保険の発行でこれまでよりも広範な投資家層への販売に貢献
  • 保険引受
    • 被保険者の自動車運転履歴情報や事故歴情報を保有する第三者情報機関の参加者による、保険引受時の審査や適切な保険料設定の円滑化
  • 保険金請求管理
    • 複数の保険会社による被保険者の保険金請求情報の共有による、保険金詐欺の判定と調査の迅速化
    • 顧客、代理店・ブローカー、保険会社間での、顧客に保険金が支払われるまでの保険金請求の対応状況の共有
  • 報告
    • 規制監督当局への法令遵守にかかわる報告やデータバンク機構への統計報告の共有

ブロックチェーン×保険の事例

共同保険の契約情報交換に関する実証実験(損保協会、NEC)

2020年9月17日、一般社団法人日本損害保険協会(損保協会)は、日本電気株式会社(NEC)と共に、「共同保険の事務効率化に向け、ブロックチェーン技術を活用した契約情報交換に関する共同検証を実施し、その有効性の評価や課題の洗い出しを行」うと発表しました(損保協会ホームページより)。

損保協会が手掛ける共同保険では、1つの保険契約を複数の保険会社で引き受けるために、各保険会社がそれぞれ、年間数十万件に及ぶ契約情報の書面交換や契約計上業務を行っています。

こうした膨大かつ煩雑な業務を、共同保険に関する会社間共通の情報データベースを構築することで、大幅に効率化することが狙いです。

出典:損保協会

本検証では、損保協会の会員会社8社が参加し、NECの提供するブロックチェーン技術を活用した情報交換を行うことで、保険業務におけるペーパーレス化や契約計上業務がどの程度迅速に、正確に、効率よく行えるかを検証していくとされています。

事故発生の自動検出と保険金支払業務自動化の実証実験(SOMPOホールディングス他)

SOMPOホールディングス株式会社(以下、SOMPO)は、2020年8月18日から同年9月30日まで、損害保険ジャパン株式会社、株式会社ナビタイムジャパン(以下、ナビタイムジャパン)、株式会社 LayerX(以下、LayerX)と共に、保険事故発生の自動検出および保険金支払業務自動化の技術検証のため、MaaS領域におけるブロックチェーン技術を活用した実証実験を行いました。

MaaS(Mobility as a Service)とは、「出発地から目的地までの移動ニーズに対して最適な移動手段をシームレスに一つのアプリで提供するなど、移動を単なる手段としてではなく、利用者にとっての一元的なサービスとしてとらえる概念」(同社)のことで、本取り組みでは、ブロックチェーンによるMaaS推進の一環として、保険金請求や支払い手続きを自動化・効率化させることを狙っています。

出典:SOMPO他の発表資料

同実証では、上図のように、「ナビタイムジャパンの経路検索アプリケーション『NAVITIME』および『乗換 NAVITIME』の利用者からテストモニターを募り、LayerX が有するブロックチェーン技術を活用した、保険事故発生の自動検出と保険金支払業務自動化の技術検証」を目的としています。

【2023年】”Web 3.0” とは?〜分散型インターネットでNFTが担う役割〜

2021年以降話題を集めている仮想通貨やNFT「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」、メタバース(仮想現実)と共に、”Web 3.0” という言葉を耳にする機会が増えてきました。本記事では、Web3.0に至るまでのWebの歴史を振り返った上で、Web3.0とは一体どういった概念なのか、加えてWeb3.0におけるNFTの役割に焦点を当てて解説していきます。

  1. Webの歴史は3つの時代に分けられる
  2. ブロックチェーンとは?
  3. Web3.0で実現すること
  4. Web3.0におけるNFTの役割
  5. まとめ

Webの歴史は3つの時代に分けられる

Web3.0を解説するにあたり、これまでのWebがどのようにして進歩してきたかを以下の3つの時代に分けて解説します。

Web1.0:1995年~(ホームページ時代)

Web2.0:2005年~(SNS時代)

Web3.0:これから(分散型インターネットの時代)

ただし、Web1.0/Web2.0/Web3.0の定義には明確な線引きはなく、曖昧な部分がある点にご注意ください。

①Web1.0(ホームページ時代)

出典:pixabay

Web1.0時代は、Yahoo!やGoogle、MSNサーチなどの検索エンジンが登場し始めた時期で、Webがまだ一方通行であった時代です。ウェブデザイナーのDarci DiNucci氏が1999年に、進化の段階を区別するためにWeb1.0とWeb2.0という呼び方を用いました。

ウェブサイトは1990年代初めに静的HTMLのページを利用して作られ、個人が「ホームページ」を持ち情報を発信する、という文化もこの時代から生まれました。ただし、インターネットの接続速度も非常に低速であり画像を1枚表示するだけでも時間がかかりました。

また、閲覧できる情報は情報作成者によってのみ管理されるため、閲覧ユーザーがデータを編集することはできません。こうした特徴からweb1.0は「一方向性の時代」とも呼ばれます。

②Web2.0(SNS時代)

出典:pixabay

Web2.0時代になるとYouTube、Twitter、InstagramなどのSNSが登場し、誰もが発信者となりました。Web1.0時代が「一方向性の時代」とされたのに対し、Web2.0時代は様々な人との双方向の情報のやり取りができるようになったのです。

SNSによって誰もがWeb上で簡単に情報を発信できるようになり、Webは閲覧するだけのものではなく、自らが参加できるものとなりました。

また、Google、Amazon、Facebook(元Meta)、AppleといったいわゆるGAFAと呼ばれるプラットフォームサービスが大きく躍進し、巨大テック企業となっていった時代でもあります。

Webが多くの人々に馴染みのあるものとなったWeb2.0時代ですが、それと同時に問題点も浮き彫りになってきました。それが次の2つです。

  • 特定企業への個人情報の集中(プライバシー問題)
  • 中央集権型によるリスク(セキュリティ問題)

1つ目に、個人情報が特定の企業へ集中することによる個人のプライバシー侵害の可能性が問題視されています。

現在、Google、Amazon、Facebook、AppleといったGAFAを筆頭に一部の大企業には、あらゆる情報が集まっています。これには、住所や年齢、性別など基本的な個人情報だけでなく、個人の嗜好や行動履歴までもが含まれます。

これらの企業は世界的に利用されているサービスを展開しているため、世界中のあらゆる個人情報が独占的に集められる状態になっているのです。プライバシーの観点からこの現状を問題視する声も多く、個人のプライバシーをどう守るかは重要な課題のひとつとなっています。

2つ目の問題点として、中央集権型の情報管理はサイバー攻撃を受けやすく、多くのユーザーに影響を及ぼす危険性があるという点が挙げられます。例えば2018年、GAFAの一角である大手SNS「Facebook」は5000万人超のユーザー情報を外部に流出してしまいました。

現在、ユーザーの個人情報はサーバーで集中管理されています。このサーバー・クライアント方式は一般的な管理方法ではありますが、サイバー攻撃を受けやすく、個人情報の流出や不正アクセス、データの改ざん、Webサイト/Webサービスが利用できなくなる、などのリスクがあります。

③Web3.0(分散型インターネットの時代)

出典:pixabay

Web3.0とは「次世代の分散型インターネット」のことを指します。さらに言うと、Google、Amazon、Facebook(元Meta)、Appleといった所謂GAFAやその他巨大テック企業によって個人情報を独占されている現状から、次世代テクノロジーを活用して情報を分散管理することで、巨大企業による独占からの脱却を目指そうとしているのがWeb3.0の概念です。

特定企業によって個人情報を独占されることによるリスクは前項でご説明したとおりで、2021年以降、特定企業によって独占された情報を分散しようとする動きが活発化しています。

そして、この情報の分散を可能にするのが次に解説するブロックチェーンの技術です。

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、「分散型台帳」と呼ばれています。

ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、「データの耐改ざん性」「安価なシステム利用コスト」「ビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)」といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

Web3.0で実現すること

出典:pixabay

Web2.0時代の課題を解決できる

Web3.0の時代では、情報管理のスタイルがブロックチェーン技術により非中央集権型となります。つまり、個人情報は特定の企業ではなくブロックチェーンに参加したユーザーによって分散管理されます。また、サービスを提供する基盤は特定企業に限定されず、ユーザーひとりひとりが参加するネットワークがサービスを提供する基盤となるのです。

ユーザー同士が、ネットワーク上で互いのデータをチェックし合うということは、不正アクセスやデータの改ざんが非常に難しいことを意味します。特定企業が個人情報を握ることもなければ、情報漏洩によって多大な被害を被ることもありません。

このように、Web3.0の概念が実現すれば個人情報が分散管理され非中央集権型の情報管理スタイルとなり、不正アクセスや情報漏えい、データ改ざんのリスクが軽減し、Web2.0の問題点が解決できると考えられています。

Web3.0による新たなメリットも

加えて、Web3.0にはサービスの安定化と管理コストの削減というWeb2.0にはないメリットもあります。Web3.0の仕組み上、特定の管理者というものを必要とせずプログラムが自動で学習しサービスを運用していきます。そのため、従来であれば起こりうるメンテナンスによるサービス停止や人為的ミスの心配もなくなり、時間的、金銭的コストが削減できます。

Web3.0におけるNFTの役割

出典:pixabay

Web3.0実現のために不可欠な技術「NFT」

ブロックチェーン技術を基盤とするWeb3.0ですが、デジタルデータを分散管理する上で不可欠な事があります。それは、そのデジタルデータが本物である証明です。

管理者を置かずに全ての情報を分散管理するためには、やり取りされる情報の信頼性がこれまで以上に大切になってきます。出どころが分からない嘘の情報や不正にコピーされたデジタルデータが流通してしまうことは、管理者不在のWeb3.0においては致命的な欠陥となりえます。

しかし従来のデジタルデータは簡単にコピーでき、本物とコピーの区別をつけることはほぼ不可能でした。

そこで、NFT「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」の出番です。「デジタルデータを替えの効かない唯一無二のものにできる技術」であるNFTが、Web3.0をより盤石なものにします。

NFT=”証明書”付きのデジタルデータ

出典:pixabay

NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性とは「替えが効かない」という意味で、NFTにおいてはブロックチェーン技術を採用することで、見た目だけではコピーされてしまう可能性のあるコンテンツに、固有の価値を保証しています。

つまり簡単にいうと、NFTとは、耐改ざん性に優れた「ブロックチェーン」をデータ基盤にして作成された、唯一無二のデジタルデータのことを指します。イメージとしては、デジタルコンテンツにユニークな価値を保証している”証明書”が付属しているようなものです。

NFTでは、その華々しいデザインやアーティストの名前ばかりに着目されがちですが、NFTの本質は「唯一性の証明」にあるということです。

NFTが必要とされる理由

世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した「NFT=非代替性トークン」は文字通り後者となります。

例えば、紙幣や硬貨には代替性があり、替えが効きます。つまり、自分が持っている1万円札は他の人が持っている1万円札と全く同じ価値をもちます。一方で、人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。

不動産や宝石、絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。しかし、画像や動画などのDigital(デジタル)な情報は、ディスプレイに表示されているデータ自体はただの信号に過ぎないため、誰でもコピーできてしまいます。

そのため、デジタルコンテンツは「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。

実際、インターネットの普及によって音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまっています。

NFTではそれぞれのNFTに対して識別可能な様々な情報が記録されています。そのため、そういったデジタル領域においても、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。

これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが期待できるため、NFTはいま、必要とされているのです。

まとめ

本記事では、Web時代の歴史を振り返り、Web3.0によってどんな事が実現するかを解説し、そしてその中でNFTが担う役割についてご紹介してきました。Web3.0という大きな概念の中の、欠かせないひとつのピースとしてNFTが存在しています。

本記事をきっかけにNFTについて興味を持たれた方は、NFTの様々な活用事例について解説している過去の記事を是非御覧ください。

ブロックチェーン技術が真贋証明に応用できるワケ〜LVMH、集英社など事例多数〜

 2021年4月現在、ブロックチェーン技術の真贋証明への応用が注目されています。偽造品被害が増加する中、製造業を中心としたサプライチェーンマネジメントの一環として行われる真贋証明。そのメリットを、各社が行うトレーサビリティ担保に向けた取り組み事例と共に説明します!

  1. 今、「ブロックチェーン×真贋証明」が注目されている!
  2. 偽造品対策としての真贋証明
  3. ブロックチェーンが真贋証明にはたす役割
  4. ブロックチェーンを用いた真贋証明の取り組み事例

今、「ブロックチェーン×真贋証明」が注目されている!

2021年現在、製造業や小売業、あるいはアートなど、ブロックチェーン技術を真贋証明(しんがんしょうめい)に応用する動きが多方面の業界で見られています。

例えば、LVMH (ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)は、ConsenSys、Microsoftとの共同で、イーサリアムベースの「AURA(オーラ)」と呼ばれるブロックチェーンプラットフォームによる、高級ブランド品の真正品証明を発表しました。

出典:pixaboy

LVMHは、ルイ・ヴィトン、クリスチャンディオール、タグ・ホイヤー、モエ・エ・シャンドンなど75もの高級ブランドを有する巨大グループで、かつてより悩まされていた偽造品の撲滅に向けて15億円以上の費用を投入していると言われています。

その中心的な取り組みである「AURA」では、同社のサプライチェーン(原材料の調達から店頭に並ぶまでの一連の商流)上で、商品に関する多様な情報が複製不可能な状態でブロックチェーン基盤上に記録されます。

そして、消費者は、ブランドのアプリを使ってそれらの情報を含むQRコードを読み取ることで、その商品が「本物のルイヴィトンかどうか」を確認することができます。

この仕組みにより、消費者が安心して商品を買うことができるだけでなく、LVMHは、自社のブランドを保護することができるのです。

また、「山寨死(Shānzhài sǐ)」と呼ばれる偽造品の社会問題が起きている中国では、例えば、農作物の真贋証明にもブロックチェーンが活用されています(下図、「天水リンゴ」のブランド判定)。

出典:Blockchain Business & Solution

元々、ブランド力のあるリンゴとして有名だった天水リンゴですが、近年、天水リンゴの名前を語った偽物が市場に出回り被害を受けてしまっていたことを受け、ブロックチェーンを活用した対策に乗り出しました。

天水リンゴでは、上図のように、リンゴにQRコードのフィルムを貼り付けて日焼けさせることで、自社ブランドの真贋判定を可能にしています。

本記事では、こうした事例に見られる「ブロックチェーン×真贋証明」をテーマに、偽造品被害の実態やブロックチェーン技術、具体的な事例などをご紹介します。

偽造品対策としての真贋証明

真贋証明とは?

真贋証明(または真贋判定)とは、「ある商品が本物かどうかを判断する」ための方法です。

例えば、iPhoneの裏面には、販売元であるApple社のロゴであるりんごマークが記されています。

このマークを確認することで、消費者は、そのスマートフォンがApple社の正規品であることを確かめることができます(後で説明するように、本当のところは、ロゴマークだけでは証明にはならないのが実情ですが・・・)。

真贋証明の仕組みを整えることには、①企業にとってのブランド保護、②消費者にとっての安全性・安心感の担保、という適正な経済活動にとって欠かせない2つのメリットがあります。

特に、ブランド保護が重要な製造業者にとっては、必ず検討すべき問題だと言えるでしょう。

なぜ、真贋証明が必要か?

こうした真贋証明の必要性が生まれる背景には、「偽造品の増加」という社会問題があります。

偽造品とは、他者の創った知的財産の無断コピーや、類似製品のことです。

厳密な言葉の定義はなされていませんが、一般に偽造品と呼ばれるものには、次の2つがあります(外務省ホームページより)。

  • 模倣品:特許権、実用新案権、意匠権、商標権を侵害する製品のこと
  • 海賊版:著作権、著作隣接権を侵害する製品のこと

出典:外務省

日本でも、一時、映画等のコンテンツDVDの違法海賊版が大量に出回る事件が話題になりましたが、近年では、そうしたコピーの容易な情報商品だけではなく、例えばスマートフォンや時計などの高級ブランドについても、ロゴや商品名など一部のみを巧妙に変えた、「なりすまし製品」も増えています。

そうした偽造品の中には、見た目では本物のブランドとほとんど全く変わらないものもあり、高い代金を支払った後に初めて偽物だとわかるケースも少なくありません。

しかし、不特定多数の偽造品業者をすべて取り締まることはできず、また一般消費者が偽造品を見極めることも難しいため、ブランド保護だけでなく安全性の向上も含めた企業努力の一つとして、近年、真贋証明の重要性が増してきているのです。

偽造品被害の実態

では、実際に、偽造品による被害はどの程度なのでしょうか?

OECDが2019年3月18日に発表した情報によると、世界全体の偽造品輸入額は5090億米ドル、実に世界全体の貿易の3.3%にも上ります。

2013年には4610億米ドル(世界全体の貿易額の2.5%)だったことから、この数年間で、偽造品による被害は急激に拡大していることがわかります。

また、同資料では、「2016年の押収品に占める財で最も多かったのは(ドル換算)、靴、衣料品、革製品、電気製品、時計、医療機器、香水、玩具、宝飾品、薬品で」あり、「税関当局によると、商標のついたギターや建築資材といった過去にはあまり見られなかった財の偽造品が増加して」いるとも発表されています。

加えて、同様の被害は日本国内でも広がっています。

特許庁によると、国内で模倣品被害を受けた法人数は、2015年度の10,000法人(全体の6.0%)から2019年度の15,943法人(全体の7.4%)へと、絶対数では約159%、全体に占める比率では約123%と大幅に増加しています。

出典:特許庁「模倣品被害実態調査報告書(2016〜2020年度)」より筆者作成

また、模倣被害対策の実施法人数は、2015年度の27,025法人から2019年度の39,196法人へと約145%増加しており、現場の経営者視点からみても、真贋証明による偽造品対策が無視できない経営問題になっていることがみて取れます。

出典:特許庁「模倣品被害実態調査報告書(2016〜2020年度)」より筆者作成

さらに、これらの情報はあくまでビジネス取引に関わる範囲に限定されていることから、アートなどのビジネスによらない著作権等の侵害をも考慮すれば、偽造品の被害は非常に大きな社会問題であることが理解できるでしょう。

こうした流れを受けて、冒頭でも触れた通り、近年、ブロックチェーン技術を応用した真贋証明の社内システムや、独立サービス等が急増しています。

ブロックチェーンが真贋証明にはたす役割

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、噛み砕いていうと「取引データを暗号技術によってブロックという単位でまとめ、それらを1本の鎖のようにつなげることで正確な取引履歴を維持しようとする技術のこと」です。

取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常にネットワークの参加者間で情報が同期されています。データとトランザクション(取引)が多数のノードに分散して保存されるため、一つのノードや場所に依存することなくシステムが機能します。

このように中央的な管理者を介在せずに、データが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権)であるため、「分散型台帳」と呼ばれています。

ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
構造 各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
DB  それぞれのDBは独立して存在し、管理会社によって信頼性が担保されているそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを分散して持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」によって、「データの耐改ざん性」「安価なシステム利用コスト」「ビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)」といったメリットが実現しています。

データの安全性や安価なコストは、様々な分野でブロックチェーンが注目・活用されている理由だといえるでしょう。

真贋証明に欠かせない「トレーサビリティ」

真贋証明は、ある商品が「いつ」「どこで」「誰の手によって」「どうやって」扱われたのか、そしてそれらの情報は正しいのか、ということを証明することによって実現できます。

商品からこうした情報が正しく取得できる状態を「トレーサビリティ(が担保されている)」と言い、真贋証明には欠かせない条件といえます。

トレーサビリティ(Traceability、追跡可能性)とは、トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせた造語で、ある商品が生産されてから消費者の手元に至るまで、その商品が「いつ、どんな状態にあったか」が把握可能な状態のことを指す言葉です。

具体的には、先にみた「天水りんご」の例のように、まずは商品のトレーサビリティを担保した上で、商品情報を記載したQRコードを商品に印字し、それを消費者がスマートフォンで読み取るなどして真贋を確かめることになります。

真贋証明(あるいはトレーサビリティ)の条件

ここで、トレーサビリティの担保、そして真贋証明のためには、次の2つの条件が満たされている必要があります。

  • サプライチェーン上で、商品に関する情報を一元で管理できている
  • その管理体制において、商品データの正しさが損なわれない

1点目は、サプライチェーン・マネジメントにおける情報一元管理システムの構築を意味しています。

一般に、ある商品が「創って、作って、売られる」までには、製造業者、流通業者、小売業者など大小様々な企業が関わっています。

そして、それぞれの企業が、それぞれの方法で、商品に関わるデータを管理・利用しているのが通例です。

そのため、一つの商品に関するデータであっても、小売業者に聞いても小売に関わる時点までのことしかわからず、あるいは製造元に問い合わせても流通から先のことはわからない、といった状況に陥ることがほとんどです。

そこで、サプライチェーンを機能別に(つまりは企業単位で)分断するのではなく、商品単位で一連のシステムとして捉え、関連企業間のデータ連携を行うことで、商品が「いつ」「どこで」「誰の手によって」「どうやって」扱われたのかを把握することができるようになります。

2点目は、1点目の管理システムにおいて、データのセキュリティが十分に担保されている状態を意味しています。

商品のトレーサビリティが担保され、正しく真贋証明が行われるためには、証明のもととなるデータに対する信用が十分であることが求められます。

しかし、システムのセキュリティ要件が十分に満たされていない場合、第三者による攻撃を受けることによるデータの改竄や破損、あるいはシステムダウンによるデータの損失などのリスクが考えられます。

そこで、システムをデータセキュリティに強い技術によって構築することで、そのデータをもとにした真贋証明を適切に履行することが可能になります。

ブロックチェーンが真贋証明の条件を同時に満たす!

これらの条件を満たすことができる技術がブロックチェーンです。

先に見たように、ブロックチェーンには、次の特長があります。

  • 非中央集権的な分散システムであるため、競合・協業他社のデータ連携が行いやすい
  • セキュリティが強固なため、データ改竄やシステムダウンのリスクに強い

1点目の課題であった「データ連携」の障害となるのは、異なる利害関係のもとにある複数の企業が簡単に手を結びにくいことです。

これに対して、「非中央集権的」「分散的」であるブロックチェーンでは、例えばGoogleやAmazonのような中央管理プラットフォームに権力が集中するということなく、横並びでデータ連携を行うことができます(”All for One”ではなく、”One for All”なデータベース)。

また、2点目の課題については、そもそもブロックチェーンが仮想通貨の中核技術として誕生した経緯からもわかるように、技術そのものに「データが改竄されにくく、システムダウンに強い」という特性があります。

ブロックチェーンはこうした特長をもっていることから、次にみるように、近年、様々な業界で真贋証明プラットフォームの中核技術として利用され始めています。

ブロックチェーンを用いた真贋証明の取り組み事例

ブロックチェーン真贋証明サービス「cryptomall certification(クリプトモール証明書)」

スタートアップが手がけるブロックチェーンを用いた真贋証明サービスとして、2020年4月1日(水)にプレスリリースされたのが「cryptomall certification(クリプトモール証明書)」です。

開発元のcryptomall ou社によると、cryptomall certificationでは、「商品にスマートフォンをかざすだけで、改ざん不可能な商品情報や生産地、そしてお客さまの手元にたどり着いた経過、つまり商品が持つ本物のストーリーを証明する」ことができます。

出典:PR TIMES

同サービスは、認定商品の中に「繊維型マイクロチップ」を埋め込み、消費者が手元の端末でそれを読み込むことで、商品を「トレースバック(=商品に関する記録を過去に遡ること)」する仕組みです。

まだリリース後間もないサービスではありますが、ブロックチェーンによるトレーサビリティの担保、そして真贋証明の手段として、今後に期待したい事例だと言えるでしょう。

エイベックス・テクノロジーズ「A trust(エートラスト)」

エイベックス・テクノロジーズは、デジタルコンテンツの領域で、著作権を保護するための真贋証明プラットフォーム「A trust」を開発しています。

2019年に開発された「A trust」は、ブロックチェーン技術を用いてデジタルコンテンツに証明書を付与することで、購入者が証明書付きのデジタルコンテンツを所有できるようになる仕組みです。

また、決済については法定通貨を用いているため、既存のデジタルコンテンツの販売プラットフォームにも適用できることが特徴だとされています。

出典:Impress Watch

先にも触れた通り、偽造品(ここでは海賊版)の問題は、容易にデータのコピーが可能なデジタルコンテンツ領域において特に大きな影響を及ぼしています。

多くのデジタルコンテンツを抱えるエイベックス社では、デジタルコンテンツの「真正性」を証明できる証明書を改竄不可能な形で付与する仕組みを構築することで、クリエイターと購入者の双方を保護しようとしていると考えられます。

集英社「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」

同じくコンテンツ領域の取り組みとして注目されているのが、2021年3月1日に集英社が始めた「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」です。

同サービスは、アナログコンテンツである漫画の複製原画を、所有者履歴や真贋の証明を行うことで、絵画のような美術品として流通させることを狙ったプラットフォームサービスです。

購入者は、複製原画とともに送付されたブロックチェーン証明書付きのICタグをスマートフォンで読み込むことで、その原画の所有者履歴や真贋証明を確認することができます。

出典:IT media NEWS(漫画『ワンピース』の複製原画)

同取り組みでは、美術品や骨董品の際に必ず問題となる「鑑定」をブロックチェーン技術で代用することで、鑑定士やアナログ証明などの手段に頼ることなく、「正しい価値」を流通させることを狙っています。

また、そうした従来の手段では管理しきれなかった所有者履歴も同時に明らかにすることで、これまで以上に「正しい」価値証明にもつながると考えられます。

この取り組みが成功すれば、漫画等のアナログコンテンツを制作するクリエイターにとって、新たな収入源も確保され、より優れたコンテンツが生み出しやすくなる点からも、今後、期待が高まります。

スイス Breitling「Arianee」

最後に、海外の事例もみておきましょう。

こちらは、スイスの高級時計メーカーであるブライトリングが、高級品のデジタル認証の世界標準構築を目指す非営利コンソーシアム「Arianee」が提供するブロックチェーンプラットフォーム(イーサリアムERC-721標準使用)を利用し、時計の紛失、破損、盗難などのリスクから消費者を保護することを狙った事例です。

出典:COINPOST

この仕組みでは、時計一つ一つにシリアル番号などのデータを含むデジタル証明書が付与されており、購入日、修理の記録など、製品の全履歴がブロックチェーンに記録されます。

そして、購入者は、時計に付属されているカードをスマートフォンで読み取ることで、デジタル証明書を安全に保管するプライベートなデジタルウォレットへアクセスすることが可能になります。

有形資産の真贋証明の方法としては、冒頭で触れた「天水りんご」のように、商品に対して直接QRコードを印字するものと、本事例のように、カード等を付属するものがありますが、Breitlingのような高級品の場合は、商品自体の美観を損なうことのないよう、後者の方法をとることでより完全な形でブランド保護をすることが可能になります。

こうしたブロックチェーンの真贋証明を利用したブランド保護は、今後、日本の高級品メーカーでも主流になっていくでしょう。

中国のブロックチェーンを金融・非金融の軸で理解する〜デジタル人民元からBSNまで〜

2025年に397億米ドルへの成長が予測されるブロックチェーン市場を牽引する中国。CBDCの官製デジタル人民元(e-CNY)を守るために暗号資産(仮想通貨)マイニングを規制する一方、4大商業銀行や公共事業を中心に研究開発と技術発展が進んでいます。2020年の最新事情に迫ります!

  1. 中国ブロックチェーン市場動向を理解する
  2. 金融領域における中国のブロックチェーン市場動向
  3. 非金融領域における中国のブロックチェーン市場動向

中国ブロックチェーン市場動向を理解する

拡大を続けるブロックチェーン市場

2020年8月現在、ブロックチェーンを応用したビジネスには様々なものがあります。

当初は、金融分野、とりわけ暗号資産(ビットコインなどいわゆる「仮想通貨」)のみに関係した「怪しい」技術だと思われがちだったブロックチェーンも、2020年で100〜200億円、2025年には1000億円を超える国内市場を形成し、世界全体では2020年の30億米ドルから2025年には397億米ドルへと拡大するとの見解も発表されています。

こうした市場拡大の背景には、IoTやAI等の技術進化を土台とした世界的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の発展とそれに伴うサイバーセキュリティ需要の拡大、キャッシュレス化の進展、ますます顧客重視の傾向が強まるマーケティング、巨大プラットフォーム企業の出現に対抗する形で進むアライアンスやM&A等の業界再編など、インターネットのインパクトが数十年かけてもたらした大きな社会変革の波があります。

堅牢なセキュリティ能力を誇るデータベースであり、「自律分散」をその技術思想としてもつブロックチェーンは、こうした社会変革を支える根幹技術として、今後の世界の社会基盤となりうる可能性を秘めているのです。

事実、世界経済フォーラムの発表によると、「2025年までに世界のGDPの10%までがブロックチェーン上に蓄積されるようになる」との予測もなされるほどに、21世紀におけるブロックチェーンの存在感は大きくなりました。

ブロックチェーンを牽引する中国

拡大を続けるブロックチェーン市場の中でも、ひときわ存在感を増しているのが中国です。

後にも触れるように、中国におけるブロックチェーンの研究開発や産業応用は、日本とはとても比べ物にならないほどのレベルで進んでいると言われています。

下図は、2020年時点でのブロックチェーンに関する特許市場におけるシェアを表しています。

このグラフからも明らかなように、世界全体のうちの実に7割を中国が占めており、2番手である米国の6倍近くあります。

日本が3%ほどしかないことを考えると、この特許市場のシェア、そしてその前提である特許出願数の多さは、中国マーケットの大きな特徴、強みの一つだと考えられます。

出典:BLOCK INSIGHT

こうした進展の背景として、中国では、官民を挙げてブロックチェーンの技術開発に取り組んでいます。

たとえば、2020年に、中国の国家ブロックチェーンインフラプロジェクト「BSN(Blockchain-Based Services Network)」が、イーサリアムやイオス、テゾスなどを含む6種類のパブリックブロックチェーンを統合することが判明しました。

また、中国建設銀行ブロックチェーンを活用した国際ファクタリング、中国農業銀行ブロックチェーンを活用した住宅ローン、中国工商銀行ブロックチェーンを活用したサプライチェーンファイナンスなど、大手企業各社による金融領域でのブロックチェーン活用が当たり前のように行われている他、ビットコインを支えるデータマイニングのほとんどは中国国内の工場で行われるなど、あらゆる面からブロックチェーンが社会に浸透しています。

こうした中国の状況は、日本でいまだに「ブロックチェーンって何?」「ビットコインって何か事件になってた怪しい投資手法でしょ?」といった人が多く、ブロックチェーンのビジネス活用が一向に進まない現状とは大きくかけ離れています。

したがって、日本におけるブロックチェーンのビジネス活用や産業応用を考えていく上で、中国の先例に学んでいくことには価値があると言えるでしょう。

ブロックチェーンビジネスを理解するための「軸」

中国のブロックチェーン事情を整理するために、まず、ブロックチェーンビジネス一般を理解するための軸を用意しましょう。

ブロックチェーンビジネスは、基本的に、金融/非金融/ハイブリッドの3領域に大別されます。

ここでいう「金融領域」とは、平たく言えば「Fintech」と言われる領域のことで、より正確には「暗号資産(=仮想通貨)を活用した領域」と考えてください。

暗号資産は、かつては「仮想通貨」と呼ばれており、いまだにその呼称の方が馴染み深い方も多いでしょうが、2019年3月15日に暗号資産に関する法改正が閣議決定され、呼称の変更が行われました。

こうした暗号資産を用いたビジネスが、ブロックチェーンビジネス第一の領域です。

これに対して、暗号資産ではなく、データの対改竄性やP2Pネットワーク、スマートコントラクトなど、ブロックチェーンの技術そのものを応用した産業・業務変革も盛んに行われています。

こうした「非金融」なビジネスが、ブロックチェーンビジネス第二の領域です。

基本的には、これら2つの領域に分けられますが、少しややこしい問題として、「非金融ながら暗号資産を活用する」ハイブリッドな領域も存在しています。

例えば、「トークンエコノミー」と呼ばれるビジネスモデルでは、ネットワーク独自に発行された暗号資産、つまりトークンをビジネス上の通貨として利用していますが、その目的は、暗号資産の運用益そのものではなく、あくまでトークンを活用した経済圏の構築と経済圏内の取引の活性化にあります。

このように、ブロックチェーン×金融の結晶である暗号資産を用いながら、非金融領域の課題解決を目指すような「金融×非金融」のハイブリッドなビジネスが、ブロックチェーンビジネス第三の領域です。

本記事では、この「金融/非金融」という軸から、中国のブロックチェーンマーケットについて概説してまいります。

なお、弊社では、非金融領域でのブロックチェーンビジネスについては、事業化するための3つのポイントをおすすめしています。

この点については、本記事ではなく、下記の記事に詳しく解説しておりますので、あわせてご覧ください。

金融領域における中国のブロックチェーン市場動向

出典:pixabay

視点①:デジタル人民元(e-CNY)

中国における金融領域の適用先としては、「デジタル人民元(e-CNY)」を避けて通ることはできません。

デジタル人民元は、「中央銀行デジタル通貨」(CBDC:Central Bank Digital Currency)の一種で、中央銀行が発行し、デジタル形式をとる法定通貨(中国なので”元”)のことです。

2020年10月には、抽選で50万人以上に計1億5000万デジタル人民元(約25億円)が配布され、約7万軒の実店舗およびネット通販で使えるようになり、さらに半年後には誰でも参加できる形での実証実験も行われるなど、中国当局によって、大規模実証実験の準備が着々と進められてきました。

👉参考記事:『「CBDC」国が発行するデジタル通貨 〜ブロックチェーン×中央銀行〜

デジタル人民元は、中国人民銀行によるとP2Pではないので技術的にはブロックチェーンというわけではありません。

しかし、次の二つの理由から、ここではまずあえてデジタル人民元について取り上げることとします。

  • デジタル人民元の仕組みはビットコインで用いられている通貨管理手法であるUTXO(Unspent Transaction Output、未使用トランザクションアウトプット)構造を取っていると言われている
  • 思想的文脈ではブロックチェーンを踏まえて理解する必要がある

そこで、本記事では、次の3つの方向性から、デジタル人民元の取組を捉えていくことにします。

  1. 「先進国の金融システムに追いつくための取組」としてのデジタル人民元
  2. 「基軸通貨米ドルに対する挑戦のひとつ」としてのデジタル人民元
  3. 「人民を縛りつけるデジタルの鎖」としてのデジタル人民元

(1)「先進国の金融システムに追いつくための取組」としてのデジタル人民元

人口第一位、GDP世界2位を誇る中国は、マーケットの規模こそ大きいものの、金融システムは内陸部を中心に大きく遅れているのが現状です。

既存のシステムが不完全であり、置き換えられるべき金融システムがないため、中国では金融領域に対する大胆な投資が可能となっています。

他方、アメリカや日本では事情が異なります。

両国ではすでに既存の金融システムが高いレベルで運用されており、新しいシステムと置換するには大きなコストやリスクが生じてしまいます。

そのため、中央銀行デジタル通貨の取り組みにおいても慎重にならざるを得ません。

こうしたことを背景に、中国は中央銀行デジタル通貨の導入によって、アメリカや日本の先を行ける勝算が高いのです。

つまり、デジタル人民元は中国にとって、先進国の金融システムに追いつくための取組としての意義があると考えられます。

(2)「基軸通貨米ドルに対する挑戦のひとつ」としてのデジタル人民元

デジタル人民元の別の側面は、基軸通貨米ドルに対する挑戦者としての性格です。

これまで、基軸通貨としての米ドルに対して、多方面からの挑戦が行われてきました。

記憶に新しいもので言えば、仮想通貨であるビットコインでしょう。

しかし、元々ビットコインは「中央銀行に対するオルタナティブ」として構想されましたが、”サトシ・ナカモト”はFRB(連邦準備制度)に対する最初の挑戦者ではありません。

ビットコイン以前にも、米ドル圏の内部としてはクレジットカード、ペイパルなどが、また、米国外では独仏がユーロを作り、ロシアはルーブル建の原油取引を推進しました。

ビットコインのみならず、デジタル人民元もそうした流れの中に位置付けてみることができます。

国際政治において主導権を握りたい中国にとって、この挑戦は非常に重要な意味を持ちます。

今後の国際政治では、途上国へのデジタル通貨の浸透がひとつの戦場となると言われており、中国は負債漬けにした途上国に対してデジタル人民元を普及させることで、それらの国々を中国側陣営として固定化することを狙っていると言われているのです。

これに対して、途上国をアメリカ側陣営につなぎとめるためのデジタル通貨は、(消去法で考えると)Facebookの”リブラ”しかありません。

しかし、現状では、ザッカーバーグはアメリカ保守層の理解を得るのに苦労していると言われています。

この状況を鑑みると、中国がデジタル人民元の導入に力を注ぐ理由も理解できるでしょう。

(3)「人民を縛りつけるデジタルの鎖」としてのデジタル人民元

デジタル人民元では、中国人民のすべての経済活動が中国共産党に対してつまびらかにされます。

表向きは「新しい形式の法定通貨」ですが、その本質は、政府が運営する巨大な台帳です。

したがって、脱税も密輸も反政府活動も、台帳を見れば一発で”バレて”しまいます。

あるいは、自由主義や民主主義を吹聴する電子書籍を購入した人民もすぐに炙り出されるでしょう。

本来であれば、ブロックチェーンやそれに類する技術(UTXOなど)は、非中央集権的な性格にその意義と本質があります。

しかし、こうした文脈においては、残念ながらブロックチェーンは中央管理者を繋ぎ止める「真実の鎖」ではなく、人民を縛りつける「支配の鎖」として利用される恐れがあります。

中央管理社会の比喩としてよく使われる、「1984」「華氏451度」のようなディストピア的世界も、デジタル人民元の導入によって、いよいよ目の前に示現し始めるのかもしれません。

視点②:暗号資産(仮想通貨)

上でみたデジタル人民元の導入背景をみると自ずと明らかなことですが、中国においては、暗号資産(仮想通貨)は厳しく規制されてきました。

規制の歴史を時系列順に並べると、次の通りです。

  • 2013年12月、ビットコインに対する警告
  • 2017年9月、ICOの全面的禁止
  • 2019年11月、再度取引所への警告
  • 2019年12月、改めてICOプロジェクトを規制
  • 2020年1月、「暗号法」制定

ここでは、それぞれの事柄の詳細には触れませんが、中国が一貫して暗号資産に対して厳しい姿勢を取り続けていることは明らかです。

なお、詳しい経緯は下記の記事にわかりやすくまとまっているため、ご参照ください。

→参照:BLOCK INSIGHT「中国の仮想通貨規制を時系列で解説:デジタル人民元を許容する訳とは」

視点③:大手企業

暗号資産の規制が続く一方で、中国では、4大商業銀行を中心に、大手企業による金融領域でのブロックチェーン活用が進んでいます。

大手企業によるブロックチェーン活用には、例えば次のような事例があります。

  • 中国建設銀行:ブロックチェーンを活用した国際ファクタリング
  • 中国農業銀行:ブロックチェーンを活用した住宅ローン
  • 中国工商銀行:ブロックチェーンを活用したサプライチェーンファイナンス
  • アリババ:ブロックチェーンを活用したオンライン保険の「相互宝」

アリババが提供している「相互宝」は、加入が無料で、加入者が病気になったとき、加入者全体で保険金を分担するという内容のオンライン保険です。

この事例で注目すべきは、契約者情報や請求データといった情報の管理・共有、不正防止などの機能にブロックチェーンがうまく活用されている点です。

ブロックチェーンの本質は、「データの対改竄性」と「非中央集権性」にあります。

中国の超巨大企業による無料オンライン保険という新規性の高い事業で使われているからといって、特別なことをしているわけではなく、ブロックチェーンのもつ性質をうまくビジネスモデルに利用して信頼性の高いサービスを展開しているという見方をすべきでしょう。

非金融領域における中国のブロックチェーン市場動向

視点①:真贋判定

非金融領域における中国のブロックチェーン活用のうち、もっとも特徴的な技術の適用対象は「真贋判定」でしょう。

真贋判定とは、ある財・サービスが「本物かどうか」を見極めることです。

これまでも度々ニュース等で取り上げられてきた通り、中国市場は偽造品の多さに特徴があります。

クラウドファンディング等で発表された新製品が、実際に出荷される前に安価にコピーされて利益余地を失ってしまうことに対して、「山寨死(Shānzhài sǐ)」という名前がつけられるほど、中国における「パクリ」問題は日常にあふれています。

そのため、中国市場における真贋判定は日本とは比較にならないほど高い価値をもちます。

そこで、導入されるのがブロックチェーンです。

データの改竄性の高さに加え、学位証明やサプライチェーンのトレーサビリティ向上によく利用されるほどの高い追跡性をもつブロックチェーンを利用することで、「山寨」に歯止めをきかせることができるのではないかと期待されています。

この真贋判定サービスとしてユニークな事例に、「天水リンゴ」があります。

出典:Blockchain Business & Solution

元々、ブランド力のあるリンゴとして有名だった天水リンゴですが、近年、天水リンゴの名前を語った偽物が市場に出回り被害を受けてしまっていたことを受け、ブロックチェーンを活用した対策に乗り出しました。

天水リンゴでは、上図のように、リンゴにQRコードを貼り付けることで、自社ブランドの真贋判定を可能にしています。

視点②:公共事業

出典:pixabay

中国では、公共領域でも積極的にブロックチェーンの技術導入が進んでいます。

公共領域へのブロックチェーン導入として有名な例は、公共調達の入札への適用でしょう。

実際の事例として、2020年6月23日より、中国雲南省の昆明市で、中国初のブロックチェーンを活用した入札プラットフォーム「Kun­y­il­ian (昆易链) 」が運用を開始しています。

Kun­y­il­ianは、北京のテクノロジー企業「Bei­jing Zhu­long」が、テンセントのTBaaS(Tencent Blockchain as a Service)システムを土台にブロックチェーン技術を応用・開発したプラットフォームで、試験運用中にも、公式の入札データに関連する約6万のブロックチェーン証明書が発行されたとされています。

また、同プラットフォームに技術提供を行なったテンセントは、すでにブロックチェーン技術を用いたサービスを複数展開しており、深センの地下鉄でブロックチェーンによる電子請求書発行システムを配備しています(CoinPost)。

こうした動きを皮切りに、今後、中国では、公共領域への技術導入がますます進んでいくと考えられます。

視点③:研究開発

出典:Pexels

本記事での冒頭でも触れた通り、中国では、政府が積極的にブロックチェーンを始めとするインフラ投資を進めており、研究開発も日本とは比べ物にならないスピードで進んでいると言われています。

すでに紹介した中国の国家ブロックチェーンインフラプロジェクト「BSN(Blockchain-Based Services Network)」が6種類のパブリックブロックチェーンを統合する出来事をみても、そのスピードは明らかです。

BSNの統合では、8月10日にローンチされるBSNの海外版「BSN International Portal」に対して、イーサリアム、イオス、テゾス、Nervos、ネオ、IRISnetが統合されることで、6種類のブロックチェーンの開発者が、BSNが海外に設置するデータセンターのストレージや帯域などのリソースを活用して、dApps(分散型アプリケーション)の開発が行えるようになります(CoinPost)。

また、中国の工業和信息化部(MIIT、日本の経済産業省に相当)は、2020年5月14日、Tencent(騰訊)、Huawei(華為)、Baidu(百度)、JD(京東)、Ping An(平安)などの企業が、ブロックチェーンや分散型台帳技術の国家標準の設定を目的とした新しい委員会に参加すると発表しています(THE BRIDGE)。

同委員会には、MIIT、地方自治体、シンクタンク、大学、スーパーコンピューティングセンター、ハイテク企業から71人の研究者と専門家が集められており、MIITの次官であるChen Zhaoxiong氏が委員長を務める他、5名の副長は中国人民銀行のデジタル通貨研究院の1名を含めて、全て政府のスタッフで構成されています(HEDGE GUIDE)。

こうした官民をあげた取り組みは、ブロックチェーン技術の研究開発を推し進めるのみならず、技術を社会実装する道を斬り開くためにも重要な動きです。

今後、中国のブロックチェーン技術はさらに発展を遂げるでしょう。

【ブロックチェーン】トークンのビジネス活用〜STO、NFT、Utility Token〜

近年、STOをはじめ、ブロックチェーンのトークン(token)を活用した新しいビジネスが生まれています。トークンとは既存のブロックチェーン技術を用いて発行された独自の暗号資産のことで、複数種類あるトークンの中でも特に、Utility Tokenがよく利用されます。また、2021年現在では、NFT(Non Fungible Token)にも注目が集まっています。トークンの定義、特徴をもとに、最新事例を解説します!

  1. ブロックチェーンのトークンを使った資金調達方法「STO」って?
  2. トークン(token)とは何か?
  3. ブロックチェーントークンのビジネス活用:Utility Token によるトークンエコノミー
  4. 2021年の注目株、NFTとは何か?

ブロックチェーンのトークンを使った資金調達方法「STO」って?

高まるブロックチェーン市場への期待

ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並んで、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有望技術の一つです。

DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、大きくは産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーション、小さくは開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革など、仕事だけでなく、私たちの生活全体を大きく変える可能性として期待されています。

その中でも特に、ブロックチェーンは、既存技術では解決できなかった課題を乗り越える新しい手段として、ビジネスのみならず、官公庁の取り組みにおいても広く注目を集めています。

その背景として、もともとはFintech(フィンテック、金融領域におけるDX)の一分野である仮想通貨(または暗号通貨)の実現を可能にした一要素技術、つまりビットコインを支えるだけの存在に過ぎなかったブロックチェーンが、近年、仮想通貨の領域にとどまらず、あらゆる既存産業・ビジネスで応用できる可能性を秘めた技術であることが明らかになってきました。

実際、世界経済フォーラムの発表によると、2025年までに、世界の総GDPの10%がブロックチェーン基盤上にのると言われています。

STOとは何か?

そうした諸産業でのブロックチェーンを用いた課題解決の中でも、2020年、特に注目を集めているのが、「STO」と呼ばれる、ブロックチェーン技術を利用した新しい資金調達方法です。

STOとは、Security Token Offering(セキュリティ・トークン・オファリング)の略で、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法のことです(「セキュリティ」というのは「証券」という意味であることに注意して下さい)。

STOは、ICO(Initial Coin Offering、イニシャル・コイン・オファリング、新規仮想通貨公開、ブロックチェーンを利用した資金調達方法の一つ)の問題点であったスキャム(いわゆる詐欺)や仕組み自体の投機的性質を解消する、新しい資金調達方法として注目を集めており、1兆ドル以上のマーケットになるとの予想もなされています。

ICOと比較した際のSTOのメリットとしては、次の4点が挙げられます。

  1. 詐欺コインがなくなる
  2. 取引が24時間365日可能
  3. スマートコントラクトによる仲介の排除とコスト削減
  4. 所有権の分割ができるようになる

他方で、法規制に則って運用されるためにICOよりも自由度が低く、規制の管理下におかれるために、投資の参入障壁が高いことなどのデメリットもあります。

しかし、2019年の時点ですでに数億ドル以上のSTO案件が生まれていることを鑑みると、今後、STOが金融領域におけるブロックチェーンビジネスの注目株であることは間違い無いでしょう。

トークン(token)とは何か?

「トークン」という言葉がもつイメージ

出典:Pexels

上で述べたSTOでは、資金調達方法の一つとして、ブロックチェーンのトークンが活用されています。

こう聞くと、なんとなくわかったような気になりますが、その実、「トークン」という言葉はとても曖昧で、意味の幅が広い言葉です。

したがって、STOを始めとするトークンビジネスを理解するためには、まずはトークンという言葉が持つイメージを掴むことが重要です。

そもそも、トークン(token)は原義的に、「しるし」「象徴」「記念品」「証拠品」を指す言葉です(Wikipedia)。

しかし、ビジネス活用の文脈では、これら原義通りの意味よりも、むしろそこから派生した下記2つの意味が重要になります。

  1. 使える場所、交換対象などが限られている「代用貨幣」のこと
  2. 一回だけ、使い捨ての認証権限のこと

これらの意味から、ビジネスにおいてトークンがどのようなイメージで活用されているかが見えてきます。

すなわち、トークンは、「法定通貨や暗号資産(仮想通貨)と違って、交換対象を限定した小さな経済圏を回すための使い捨て貨幣」として用いられています。

もちろん、字義通りに全てのトークンが「使い捨てにしよう」と狙ってつくられるわけではありませんが、こうしたイメージを掴んでおくことで、数あるトークンの狙いや意味を理解しやすくなるでしょう。

トークンとブロックチェーン

出典:pixabay

今みたように、トークンそのもそも意味範囲の広い概念であり、ブロックチェーンに限定されたものではありません。

しかし、近年、トークンという言葉に注目が集まるときは、必ずといっていいほど、ブロックチェーンとセットにされています。

これは、一つにはICOやSTOといった新しい資金調達方法の背景にブロックチェーンの技術があることも影響していますが、むしろそれ以上に、そもそもブロックチェーンがトークンと相性の良い技術であることが大きな要因でしょう。

少し小難しい話になりますが、トークンとブロックチェーンの相性の良さを一言で言えば、「近代以来の国民国家経済、現代のグローバル資本主義に対するアンチテーゼ」として使われやすいという点で共通していることです。

まず、トークンは先ほど見たように、「法定通貨や暗号資産(仮想通貨)と違って、交換対象を限定した小さな経済圏を回すための使い捨て貨幣」としての特性をもっています。

したがって、トークンは、法定通貨や暗号資産で「外部」と均質化させたくない経済圏、例えば地方公共自治体やショッピングモールなど、オープンではあるものの中央権力を介していないコミュニティーで、そのコミュニティー内にのみ資する準貨幣として用いられます

そのため、逆に、もしコミュニティーの範囲を超えたレベルで経済圏を回していきたいのであれば、それはもはやトークンではなく、法定通貨や暗号資産で十分だということになります。

他方、暗号資産であるビットコインの副産物として生まれたブロックチェーンは、そもそもの技術的思想が「非中央集権的」です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

したがって、ブロックチェーンの技術は、暗号資産のみならず、例えば管理者不在のデータプラットフォームや第三者を介さない不動産取引など、既存の経済体制のあり方を変革するような方向性で、ビジネス活用される傾向にあります。

こうした相性の良さから、近年、STOを始めとした、ブロックチェーンの技術を活用したトークンビジネスがトレンドとなり始めています。

ブロックチェーントークンの特徴

出典:Pexels

トークンには、3つの特徴があります。
(参照:トークンとは 【bitFlyer(ビットフライヤー)】

  1. 発行者・管理者がいる
  2. 個人でも法人でも発行可能
  3. 独自の価値づけが行われている

1点目は、個別の発行者や管理者がいることです。

通常、ブロックチェーンを利用した暗号資産では、中央管理者がいません。

しかし、トークンは企業や団体・個人などが発行するもののため、他の暗号資産とは異なり特定の発行者・管理者が存在します。

2点目は、誰でも発行可能である点です。

トークンは、仲介者を挟まずに発行することが可能なため、基本的にはどのような企業や団体、個人でも発行が可能となります。

3点目は、発行者の意図や目的に応じて、独自の付加価値をつけられることです。

トークンはただの通貨というわけではなく、通貨としての性質に加えて、例えば投票において議決権を得られるようになるなどの付加価値があります。

この特徴があるために、狭域経済圏における独自通貨であったり、特定コミュニティにおけるコミュニケーションツールであったりといった、多様な使われ方が模索されています。

ブロックチェーンを活用したトークンの種類

実は、ブロックチェーンを活用したトークンには、様々な種類があります

代表的なトークンの種類と概要は、次の4つです。

(他にも、Transaction TokenやGovenance Tokenといった種類もありますが、概念自体が難しい上に使用される頻度もあまり多くはないため、ここでの説明は割愛します。)

区別のポイントトークンの種類意味身近な例
トークン自体に金銭的価値が認められるか?Utility Token

(ユーティリティトークン)

具体的な他のアセットと交換できて初めて資産性が出てくるトークン・パチンコ玉

・図書券

・電車やバスの切符

・遊園地の入場券

Security Token

(セキュリティトークン)

それ自体に金銭的価値が認められるトークン・株券

・債権

トークンを相互に区別するか?Fungible Token …(*)

(ファンジブルトークン)

メタ情報如何にかかわらず区別されないトークン・純金

(→誰がどこで所有する金1グラムも同じ価値をもつ)

Non Fungible Token

(ノンファンジブルトークン)

同じ種類や銘柄でも個別に付与されたメタ情報によって区別されるトークン・土地

(→銀座の1平米と亀有の1平米は同じ単位だが価値が異なる)

(*)”fungible”は日本語で「代替可能性」を意味する英語。

今回の記事では、これら4種類の中でも特にUtility Tokenに絞って、次章で解説を行ってまいります。

もし、他のトークンについて詳しくお知りになりたいという方がいらっしゃれば、各領域のすばらしい企業がテーマを絞って研究していま

すので、ぜひ色々と調べてみてください。

ブロックチェーントークンのビジネス活用:Utility Token によるトークンエコノミー

Utility Tokenの特徴

Utility Token(ユーティリティトークン)は、先ほど見たように、トークンそれ自体は金銭的価値をもたず、具体的な他のアセットと交換することによって初めて資産性が生まれる種類のトークンです。

例えば、ロックミュージシャンのコンサートチケットもUtility Tokenの一つでしょう。

というのも、このチケットが価値をもつのは、そのミュージシャンの演奏を聞きたいと欲する人がいた上で、チケットを使うことで生の演奏を聞くことができると約束されているからです。

したがって、コンサート開催日の翌日以降であったり、そのミュージシャンを知らない人間しかいない地域であったりすると、そのチケットには1円の価値もなくなります。

また、別の例で言えば、JRの切符を西武鉄道で使っても意味がないのと同じ話です。

このように、Utility Tokenは、他のアセットとの交換可能性を金銭的価値に変えられるトークンであることから、次のような特徴をもちます。

  • 閉じられた(=一部の人間に限定された)コミュニティや地域などで効果を発揮しやすい
  • トークン自体は物質的価値をもたなくてもよい
  • 交換対象となるアセットの価値を定量化できる

こうした諸特徴は、既存のビジネスに活用する上で使い勝手が良いため、Utility Tokenは、ブロックチェーンの技術とともに、様々な領域で活用され始めています。

次に、具体的な活用事例を4つ、ご紹介します。

Utility Tokenの活用事例①:ファンビジネス

出典:pixabay

Utility Tokenの活用事例の一つ目は、ファンビジネスの領域におけるコミュニティ専用トークンです。

コミュニティ専用トークンは、集団の内外に大きな価値差を生じさせることで、小さなコミュニティに「熱狂」を生み出すことができます。

例えば、女優の石原さとみさんのファンクラブ内で、次のような条件で、ファン活動のために使える「SATOMIコイン」がつくられたとします(注:あくまで架空の話です)。

  • Twitterで、石原さとみさんのツイートをリツイートすることでのみ、SATOMIコインを受け取れる
  • SATOMIコインを一定量貯めることで、サイン色紙など、石原さとみさんのグッズと交換できる
  • SATOMIコインは、ファンクラブに入会している人だけが保有することができる

このSATOMIコインは、ファンの方々にとっては非常に価値があるものでしょう。

逆に、石原さとみさんに全く興味をもたない人にとっては、いくらコインを集めたところで使い道がないため、コインに価値を認めないはずです(コインを自由に売り買いできるマーケットがあれば、投機目的でSATOMIコインを集める人もでてくるかもしれませんが、コインに価値を生じさせているのはあくまでファンの熱量です)。

つまり、SATOMIコインは、集団(ここではファンクラブ)の「内」と「外」で価値に差を生じさせています。

こうした集団内外での価値差の発生は、法定通貨では嫌われる現象です。

法定通貨では、あらゆる集団間・個人間で価値の差を「均す(ならす)」ことを目的としているため、コミュニティ専用のトークンとは思想が真逆なのです。

そして、この特性ゆえに、ファンコミュニティ専用のトークンには価値上昇の歯止めがききにくく、閉じられたコミュニティ内におけるファン同士の熱量の相乗効果によって、「熱狂」を伴う経済価値を生み出すことに繋がります。

この原理を実際のビジネスに適用としている事例が、サッカークラブチーム用トークンである「socios.com」です。

socios.comは、ファントークンを用いて「チームの決定」に投票をすることが可能なブロックチェーンアプリで、ユベントス、パリ・サンジェルマンなどの超有名クラブが既に使用を始めていることでも話題になっています。

このトークンには、従来は「試合を見に行って、グッズを買って、選手を応援する」存在であったファンに、チームの運営の一部も担ってもらうことで、よりロイヤルティを高めていこうという狙いがあります。

このように、Utility Tokenを利用したファンビジネスにおけるコミュニティ専用トークンは、企業のマーケティング文脈で考えるならば「新規顧客の開拓」よりも「既存顧客のコミュニティ化」に向いていると言えるでしょう。

Utility Tokenの活用事例②:シェアリングエコノミー

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Utility Tokenの活用事例の二つ目は、シェアリングエコノミーです。

シェアリングエコノミーは、「トークンエコノミーの事業適用の本丸」とも言える活用領域で、国内動向で言えば、ガイアックス社が注力してビジネス活用を進めています。

シェアリングエコノミーのサービスにおいて、Utility Tokenと、その背景技術であるブロックチェーンを用いることで、透明性が非常に高く、管理コストの安いサービスをつくることができるようになります。

例えば、シェアリングエコノミーのサービスの一つに「レンタサイクル」があります。

ここでいうレンタサイクルは、自転車店がその場所を起点として貸し借りする類のものではなく、中国で一時期流行ったような、エリアの拠点ごとに駐輪場と大量の自転車を設置して、借主がスマートフォンアプリで貸し借りの手続きを行うものをイメージする方がわかりやすいでしょう。

レンタサイクルは、「ちょっとそこまで行くのに自転車を使いたいけど、わざわざ高いお金を出してまで買いたくはない」人に対して、耐久財である自転車を安くで貸し出すビジネスです。

このビジネスでは、「何回も貸す」ことと「人手を介さない(つまり人件費をかけない)」ことを前提条件として、一回の利用あたりの単価を下げることで多くの人に借りてもらい、利益を出すことができます。

ここで課題となるのが、盗難や乗り捨て、破損などのリスクと、管理コストのトレードオフ(に近い)関係です。

不要な管理コストをできる限りなくしたい一方で、管理コストを削ると、貸し借りや決済の記録がずさんになったり、顧客管理が不十分なために自転車の盗難等のリスクが高まったりしてしまいます。

そこで、課題解決の手法として注目されるのが、Utility Tokenとブロックチェーンの技術です。

レンタサイクルの管理にスマートコントラクト(貸借契約の自動執行)を使い、決済にトークンを使うことで、貸し借りの記録はブロックチェーン上で記録され、決済記録も同じブロックチェーン上でトークンで記録することができます

そして、これらの機能により、透明性が高く、かつ、管理コストの安いサービスが実現されます。

また、こうした課題感は、レンタサイクルに限らず、シェアリングエコノミー全体がモデルの原理的にもちうる問題です。

そのため、シェアリングエコノミーをビジネスモデルとする様々なサービスで、Utility Tokenを用いたトークンエコノミーが注目されています。

Utility Tokenの活用事例③:公共財の管理・利用

出典:ぱくたそ

Utility Tokenの活用事例の三つ目は、公共財の管理・利用です。

公共財は、シェアリングエコノミーの延長領域として、近年、Utility Tokenの適用可能性が探られています

公共財の管理・利用にトークンを活用しようという発想の根底には、資本主義における価値の定量化への流れの中で、定性的価値、とりわけ情緒的な価値をうまく保っていこうという考えがあります。

私たちの身の回りには、リンゴのように数えることもできないし、餅のように切り分けられないはずなのに、あたかも「数えることができるもの」「切り分けられるもの」として売り買いされているものが多く存在します。

その象徴が、集団への「貢献」だったり、風土・環境のような「公共財」です。

資本主義の世の中、特にIoTやAIなどのデータサイエンスが発展し、「自然や社会のあらゆるものを定量化・分析して、私たちの生活をより豊かにするように最適化していこう」という思想が強まってきている現代では、そうした「貢献」や「公共財」のような定性的価値を備えたものであっても、定量化の波から逃れることは現実的ではありません

しかし、その一方で、個人や要素に還元された「数えられる結果」だけに縛られず、定性的価値の背後にある「美しい動機」を認めていこうという考え方も根強く存在しています。

こうした思想の背景には、純粋に動機やプロセスを大切にしていきたいという想いだけでなく、定量的データ分析に偏重した評価体系がこれまで以上に社会に広がった場合、行き過ぎた個人主義や結果主義が幅をきかせることで、フリーライダーやモラルハザードなどの「公的福利」を脅かす問題がより深刻になりうるのではないか、というネガティヴフィードバックへの懸念も横たわっています。

そこで、現在、定量化しつつも美しい動機が評価され、ポジティブフィードバックループが回るような仕組みのためにトークンが使えないか、公共財の分野での検討がなされているのです。

Utility Tokenの活用事例④:地域通貨

出典:ぱくたそ

Utility Tokenの活用事例の四つ目は、地域通貨です。

地域通貨も、現在、その適用可能性が探られている領域の一つで、今後の発展が期待されている領域でもあります。

地域通貨へのトークン適用の背後にも、資本主義における定量化の波に対する抵抗が見られます。

現代に流通している法定通貨は、すべてのものを定量化させ、「商品」として流通させることで拡大していっています。

したがって、原理上、時間が経過するほど法定通貨で交換できる商品は増えていくことになります。

そして、その結果、地方の小さな経済主体と大都市の経済主体が同列で競争させされ、前者は後者に従属していくようになり、さらには決済ごとにかかる数%の手数料収入も、地方都市から大都市へと流出していくことになります。

近年、こうした流れを食い止めるべく、あえて法定通貨ではない地域通貨を使う地区が増えています。

代表的なものでいえば、「さるぼぼコイン」、カヤック社の「まちのコイン」などです。

地域通貨は、「閉じたコミュニティに向いている」というUtility Tokenの特徴を生かし、あえて地区内に経済圏を限定することによって大都市との競争から逃れようという試みです。

また、経済圏の管理を自治体が主導することで、決済の手数料収入が流れてしまうことも防ぐ狙いがあります。

現在は、まだ成功事例がそこまで多くはありませんが、今後も、この動きは加速していくと予想されます。

2023年の注目株、NFTとは何か?

出典:pixabay

NFTは2021年初頭から急激に取引量が伸びている非代替性のトークンです。

例えば、Non Fungible(代替不可能)なものの一例としては、コンサートチケットが挙げられます。

ブロックチェーン技術はすでにフィンテック分野などで活用されていますが、NFTの「代替不可能」という特色を追加することで、さらに他の分野での活用が広がることが期待されています。

具体的には、NFTを用いることにより、様々なものの固有の価値を証明することが可能になります

例えば、アートの分野です。アートにおいて、オリジナルを所持する価値とインターネットでコピーを見る・ダウンロードする価値は違うと捉えられています。

また、ゲームの分野でも、NFTの活用が進んでいます。

NFT技術を利用することで、自分が取得した一点物のキャラクターやアイテムをプレイヤー同士で売買することや、取得したキャラクターやアイテムを他のゲームで使うことも可能になります。ゲーム内で育成したキャラクターなどは二次流通市場で取引され、パラメータやレアリティが高いほど高値で取引されています。

このようなことを背景に、NFTは、まさに現在最も注目されている仮想通貨領域と言えるでしょう。

〜ブロックチェーン基礎知識〜「マイニング」

今回は暗号資産に触れるにあたって最も基礎的な知識のひとつ、「マイニング」について解説していきます。また、「マイニング」を理解する上で避けては通れないのが「ブロックチェーン技術」についてです。そこで、本記事では初心者向けに「マイニング」と「ブロックチェーン技術」の基礎知識をご説明します。

  1. マイニング=「暗号資産の採掘」
  2. 「発行」に関する暗号資産と現金の違い
  3. ブロックチェーンとは
  4. 「承認」×「コイン発行」の連続=ブロックチェーン
  5. まとめ

マイニング=「暗号資産の採掘」

「マイニング」とは、「ブロックチェーン上で難しい問題を解くこと(承認作業)により、その報酬として新規発行したコインを得ること」を意味します。これは、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産で採用されている、コイン獲得方法です。

「マイニング」の元々の言葉の意味は「採掘」、つまり金や石炭などの鉱石を掘り起こすことを言います。そして、それらの鉱石の地球上に存在している量はあらかじめ決まっていて、所有者はもちろん鉱石を掘り当てた本人となります。

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冒頭でも述べたとおり、暗号資産の分野で「マイニング」というと、「新規発行したコインを得る(掘り当てる)こと」となります。コインを掘り当てる?というとまだまだイメージが沸きにくいかもしれません。そこで、暗号資産にとって「コインを新規発行する」とは一体どういうことなのかを紐解いていきます。

「発行」に関する暗号資産と現金の違い

中央集権型の「現金」の場合

暗号資産の分野での「コインの発行」を解説する前に、私たちにとって最も身近な法定通貨、つまりいわゆる「現金」=日本円の場合はどうなのかを例に見てみましょう。

日本円の発行は、お札の場合は日本銀行が行っており、印刷する枚数は政府が管理しています。日本に限らず世界中の多くの国では、現金の発行量は国や政府などの中央機関が管理しています。つまり、多くの現金は「中央集権型」の管理システムをとっています。

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また、現金に関する中央集権型の管理システムは、発行だけでなく送金といったお金のやり取りの場合も同様です。例えば、みなさんが手元の現金を誰かに送るとき、現金そのものを郵送するのではなく、銀行ATMを利用して送金するはずです。

このATMも、銀行という中央機関が管理している「中央集権型」の送金システムです。金額、宛先、時刻といった取引履歴は全て、ATMを運用する銀行のサーバーで一元管理をされています。


「暗号資産(コイン)」のほとんどは非中央集権

一方、暗号資産はシステムの中央管理者がおらず、コインの発行は全てプログラムによって自動で行われています。こうした管理手法を「非中央集権型」と言います。現金の中央集権型に対し、暗号資産は「非中央集権型」の管理システムを採用しているのが両者の大きな違いです。

上記の通り、送金、発行する際のセキュリティを担保してくれる中央管理者が暗号資産には存在しません。それでは、暗号資産の管理はどのようにして安全に行われるのでしょうか?それを可能とするのが「ブロックチェーン技術」です。

ブロックチェーンとは

ブロックチェーンは新しいデータベース(分散型台帳)

ブロックチェーン(blockchain)は、2008年にサトシ・ナカモトによって提唱された「ビットコイン」(仮想通貨ネットワーク)の中核技術として誕生しました。

ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

ブロックチェーンは、セキュリティ能力の高さ、システム運用コストの安さ、非中央集権的な性質といった特長から、「第二のインターネット」とも呼ばれており、近年、フィンテックのみならず、あらゆるビジネスへの応用が期待されています。

ブロックチェーンの特長・メリット(従来のデータベースとの違い)

ブロックチェーンの主な特長やメリットは、①非中央集権性、②データの耐改ざん性、③システム利用コストの安さ④ビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)の4点です。

これらの特長・メリットは、ブロックチェーンが従来のデータベースデータとは異なり、システムの中央管理者を必要としないデータベースであることから生まれています。

分散台帳とは.jpg

ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。

従来のデータベースの特徴ブロックチェーンの特徴
構造各主体がバラバラな構造のDBを持つ各主体が共通の構造のデータを参照する
DBそれぞれのDBは独立して存在するそれぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
データ共有相互のデータを参照するには新規開発が必要共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

ブロックチェーンは、「非中央集権、分散型」という特徴を獲得したことで、様々な領域で注目・活用されているのです。ブロックチェーンに関して、より詳しい内容を知りたい方は、下記参考記事をご覧いただければと思います。

👉参考記事:『ブロックチェーン(blockchain)とは?仕組みや基礎知識をわかりやすく解説!

「承認」×「コイン発行」の連続=ブロックチェーン

暗号資産の送金には承認作業が必要

先述したように、日本円などの現金の送金は、ATMを管理する銀行によって承認されます。しかし中央管理者がいない暗号資産の取引は、第三者であるマイナー(=マイニングする人)がその役割を担います。

例えば、AさんがBさんにビットコインを送った際に、「AさんがBさんにビットコインを送金した」というデータが本当に正しいかどうかを、世界中のマイナー達が確認します。その確認作業は膨大な計算を必要とする大変難しいもので、高性能のコンピューターを必要とします。

「コイン発行」は承認作業に対する対価

暗号資産の取引を承認することは難しい作業であるため、最初に承認を行った人には対価としてコインが支払われる仕組みとなっています。

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このコインの新規発行を、鉱石の採掘になぞらえて「マイニング」(=「採掘」)と呼んでいるわけです。

ブロックチェーンの成立

第三者が、AさんとBさんの暗号資産取引を承認し、その対価としてコインを受け取る。この一連の作業が「マイニング」であり、そして「マイニング」により取引記録(トランザクション)が連続することにより「ブロックチェーン」は成立します。

まとめ

本記事では、暗号資産分野における「マイニング」と、その基盤となる「ブロックチェーン」について解説しました。

暗号資産分野は「非中央集権型」で、コインを管理・発行する特定の組織が存在しないため、マイニングによってそれらを担っています。このようにして「取引履歴のネットワークが維持」されることと、「新たなコインを発行する」仕組みが同時になりたっていることが、暗号資産の特徴のひとつです。

【2022年】NFTの現時点での課題とは?〜革新的な技術に課せられた問題点〜

2021年以降、デジタルデータに唯一性・希少性をもたせるNFTの技術は、アート、ゲーム、音楽等の様々な分野で活用され始めるなど、大きな可能性を秘めています。一方でNFT自体の歴史はまだまだ浅く、解決すべき課題が存在することは無視できません。そこで本記事では、改めて「NFTとは何なのか」を簡単に振り返った上で、現時点でのNFTの課題と解決に向けた動きについて解説していきます。

そもそもNFTとは?
NFT=デジタルの”はんこ”
NFTが必要とされる理由
NFTとブロックチェーン
急成長と共に浮かび上がる課題
NFTが抱える現状の課題
NFTの課題①:法整備
市場拡大に対して法整備が遅れている
NFT関連の法整備に向けた動きが活発化
NFTの課題②:ハッキングのリスク
NFTゲーム「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」
NFTマーケットプレイス「OpenSea」
NFTコレクション「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」
価値の流動性が高い
浮き彫りになる環境問題
NFTの基盤通貨「イーサリアム」の電力消費
イーサリアムは2022年に ”燃費” を大幅に改善予定
まとめ

そもそもNFTとは?

NFT=デジタルの”はんこ”

NFTとは簡単に言うと「デジタルデータに偽造不可な鑑定書・所有証明書をもたせる技術」のことです。さらに噛み砕いて表現すると「デジタルコンテンツにポンと押す ”はんこ” のようなもの」です。

出典:pixabay

NFTを言葉の意味から紐解くと、NFT=「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。非代替性は「替えが効かない」という意味で、トークンには「データや通貨・モノ・証明」などの意味があります。

つまり「唯一無二であることの証明ができる技術」を意味し、実際にはデジタル領域で活用されることから冒頭ではデジタルの ”はんこ” と表現しました。

NFTが必要とされる理由

世の中のあらゆるモノは大きく2つに分けられます。それは「替えが効くもの」と「替えが効かないもの」です。前述した非代替性トークンは文字通り後者となります。

それぞれの例を挙げていくと、

【替えが効くもの (代替性) 】

  • 硬貨や紙幣
  • フリー素材の画像や音楽
  • 量産される市販品

【替えが効かないもの (非代替性) 】

  • 大谷翔平の「直筆サイン入り」本
  • ゴッホの「原画」
  • ワールドカップ決勝の「プレミアチケット」

人は唯一性や希少性のあるもの、つまり「替えが効かないもの」に価値を感じます。
不動産や宝石・絵画などPhysical(物理的)なものは、証明書や鑑定書によって「唯一無二であることの証明」ができます。

一方で画像やファイルなどのDigital(デジタル)な情報は、コピーされたり改ざんされたりするリスクがあるため「替えが効くもの」と認識されがちで、その価値を証明することが難しいという問題がありました。

実際、インターネットの普及により音楽や画像・動画のコピーが出回り、所有者が不特定多数になった結果、本来であれば価値あるものが正当に評価されにくくなってしまったのです。

そういったデジタル領域においても、「替えが効かないもの」であることを証明する技術がまさにNFTなのです。

NFTがあれば、本物と偽物を区別することができ、唯一性や希少性を担保できます。NFTによって、これまではできなかったデジタル作品の楽しみ方やビジネスが生まれるのです。

👉参考記事:『【2022年】NFTとは何か?なぜ話題なのか、分かりやすく解説!

NFTとブロックチェーン

NFTはブロックチェーンという技術を用いて実現しています。

ブロックチェーンは「一度作られたデータを二度と改ざんできないようにする仕組み」です。データを小分けにして暗号化し、それを1本のチェーンのように数珠つなぎにして、世界中で分散管理されています。そのため、コピーしたり、改ざんしたり、データが消えたりする心配がありません。

👉参考記事:『ブロックチェーン(blockchain)とは何か?仕組みや特長をわかりやすく解説!

急成長と共に浮かび上がる課題

”デジタルデータに唯一性・希少性をもたせる” という画期的な技術であるNFTの登場は、様々な分野で新たなビジネスを生み出し、現在もその市場は発展途上です。

2019年時点で300億円だった市場規模は、2022年には4000億円にまで急成長し、2027年には約2兆円に達すると予測されています。

👉出典:DreamNews『NFT(非代替性トークン)の市場規模、2027年に136億米ドル到達予測

NFTは短期間で急成長を遂げた一方で、新しい概念であるがゆえ未知な領域も数多くあります。手探り状態で市場が拡大を続けており、同時に解決すべき課題も次々と明らかになっています。

そこで次項では、NFTが抱える現状の課題について解説していきます。

NFTが抱える現状の課題

NFTの課題①:法整備

市場拡大に対して法整備が遅れている

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NFTに限らず、新しい技術やサービスが普及していく過程では、それに伴って様々な法律問題が発生します。

NFTを活用したビジネスは急速に発展しつつある一方、NFT自体の法的位置付けやNFTの取引にかかる法規制・権利関係の整理は十分に追いついておらず、ひとたび不測のトラブルが生じた場合、大きな混乱が生じることが予想されます。

例えば、NFTに対する”所有権”は現法上認められていません。なぜなら、NFTは前項で解説したとおり「替えが効かないデジタル資産」であることを証明する技術ですが、Physical(物理的)な「モノ」ではないからです。そのためNFTを購入したとしても、購入者にどのような権利が認められるのかが明確ではありません。

NFT関連の法整備に向けた動きが活発化

出典:pixabay

2022年現在、複数の団体が日本国内のNFT関連の法整備に向けて具体的なアクションを起こしています。

例えば、(JCBA)一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会は「NFTビジネスに関するガイドライン」を2021年に策定、その後も改訂を行っており、NFT利用者にとって安心・安全な利用環境の提供を目指しています。

👉出典:JCBAの公式HP

また、年を同じくして凸版印刷・KDDI・ドコモなどの大きな影響力を持つ民間企業が、NFT領域における課題特定と解決策の提案を目的として「デジタル通貨フォーラムNFT分科会」を設立し、実証実験を開始しています。

👉出典:DeCurret『デジタル通貨フォーラムNFT分科会を設立

言わずと知れた世界最大の動画共有プラットフォームである「YouTube」も、サービス開始当初は、無断転載や倫理上不適切な動画に溢れた無法地帯と化していました。NFTへの注目度が増し、より一般層の人々にまで普及し、ビジネスチャンスが広がるにつれて自ずと法整備も進んでいくでしょう。

NFTの課題②:ハッキングのリスク

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あらゆるIT分野にはハッキングのリスクがあり、NFTも例外ではありません。以下、2022年に発生したNFT関連のハッキング被害を3つご紹介します。

NFTゲーム「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」

「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」は「Axie(アクシー)」と呼ばれるモンスターを育成したり対戦させて、Play to Earn(P2E) =「遊んで稼ぐ」という言葉の火付け役的なゲームです。

👉参考記事:『NFT×ゲーム〜「遊んで稼ぐゲーム」について解説〜

2022年3月23日に、この「Axie Infinity」で使用される「Ronin Network」というブロックチェーンが外部からハッキングされ、750億円以上に相当する仮想通貨が盗み出されました。これは、ブロックチェーン及びNFTに関連するハッキング被害としては過去最大規模と

なったため、非常に大きなニュースとなりました。

NFTマーケットプレイス「OpenSea」

2022年2月19日に、NFTマーケットプレイス(取引所)の最大手である「OpenSea」で、総額2億円相当となるNFTが盗まれる事件が発生しました。

👉参考記事:『NFT×マーケットプレイス〜取引所の概要から選び方・それぞれの違いを解説〜

攻撃者は、OpenSeaがユーザーに対して仕様変更に関する告知を行っていた時期を狙い、OpenSeaを偽装した偽メールをユーザーに送付して不正なリンクを踏ませて誘導しました。OpenSea自体の技術的な問題ではなく、メールを用いた古典的なフィッシング詐欺によるものではありますが、被害額の大きさから注目を集めた事例となります。

NFTコレクション「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」

「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」は、猿をモチーフにした有名なNFTコレクションです。NFT化されたイラストは、それぞれ背景や猿の顔服装などが異なり、同じものはひとつとしてありません。

人気アーティストグループ「EXILE」の関口メンディー氏や、アメリカを代表する歌手であるジャスティン・ビーバーといった多くの著名人がBAYCを購入しており、人気に拍車がかかっています。

2022年4月25日、この「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」の公式インスタグラムと公式Discordサーバーがハッキングされ、OpenSea同様のフィッシング詐欺が行われました。

乗っ取られた公式SNS上でNFTの無料配布を行うとした偽のリンクが拡散された結果、多くのユーザーがこれをクリックし、被害総額は約3億8000万円相当と推定されます。

価値の流動性が高い

出典:pixabay

NFTの価値は、現実世界の「モノ」と同じく需要と供給によって変動します。ただ、その値動きは「モノ」よりも大きく、価値の流動性が非常に高い点がNFTの特徴です。

価値の流動性が高くなる理由は、NFTはそもそも仮想通貨を基盤とした技術であり、関連する仮想通貨の値動きに合わせてNFT自体の価値も変動するためです。一般的に仮想通貨は、円やドルといった法定通貨に比べて値動きが激しいため、関連するNFTの価値の変動も必然的に大きくなります。

仮想通貨の値動きに加え、販売されているNFTそのものの希少価値も非常に流動的です。一部の著名人やインフルエンサーによってSNS上で取り上げられる事により、価値が突如として高騰する可能性があるのがNFTの世界です。

NFTを実際に購入する場合、そのNFTの適正な価値を見極める必要があります。不当に価値が吊り上げられたNFTを購入しないためにも事前にしっかりと情報収集を行い、自身のリスク許容度の範囲内での購入を心がけましょう。

浮き彫りになる環境問題

NFTの基盤通貨「イーサリアム」の電力消費

出典:pixabay

NFTを含めたブロックチェーン技術を活用した取引市場が盛り上がる一方で、取引における多大な電力消費とそれに伴う環境問題が指摘されています。

特に、多くのNFTに関連する仮想通貨「イーサリアム」での取引には、膨大な数のデータベースへのアクセス(マイニング)が必要で、その際に113テラワット/時という大量の電力を消費します。そして、なんとそれはオランダ全体の年間電力消費量に匹敵すると推計されます。

👉参考記事:『〜ブロックチェーン基礎知識〜「マイニング」

👉出典:MIT Technology Review『環境破壊、採掘寡占化—— ビットコインの「失敗」を イーサリアムは乗り越えるか

イーサリアムは2022年に ”燃費” を大幅に改善予定

イーサリアムでの取引が電力を大量に必要とする理由、それはイーサリアムという仮想通貨が「PoW(Proof of Work)」と呼ばれるアルゴリズム形式で作られているからです。現状のPoWによるマイニングは、大量の計算マシンによる電力消費が環境負荷をかけていると指摘されています。

この環境負荷問題を受けて、イーサリアムはこれまでの非常に燃費の悪い「PoW」から「PoS(Proof of Stake)」と呼ばれる圧倒的にエコなアルゴリズム形式へのアップデートを2022年中に実施する予定です。

この大規模なアップデートにより約99%もの消費電力を削減でき、イーサリアムを基盤とする全てのNFT取引にかかる環境負荷も大幅に改善できる見込みです。

まとめ

今回はNFTに関する解決すべき課題に焦点を当てて解説してきました。

NFTに関して、その可能性やメリットだけに目を向けるのではなく、解決すべき課題についても理解を深めることが大切です。加えて、発展途上にある技術であるNFTのネガな部分だけを切り取り「怪しい」「危険だ」といって拒絶するのではなく、どのようにすれば解決し、より良くなっていくのかという視点を持つことも大切です。

【2022年】ブロックチェーンの市場規模は?複数の統計をまとめました

ブロックチェーン技術の国内市場規模は、2020年で100〜200億円、2025年には1000億円を超え、関連市場を合わせると67兆円の潜在規模があるとされています。また、世界市場規模では2020年に36億7000万米ドルに達し、2021年から2028年にかけてCAGR82.4%の成長が見込まれています。経済産業省、矢野経済研究所、ミック経済研究所等の発表資料をもとに見方を解説します。

  1. ブロックチェーンのおさらい
  2. ブロックチェーンの市場規模①:日本国内での予測
  3. ブロックチェーンの市場規模②:世界予測

ブロックチェーンのおさらい

高まるブロックチェーン市場への期待

ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並んで、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有望技術の一つです。

DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、大きくは産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーション、小さくは開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革など、仕事だけでなく、私たちの生活全体を大きく変える可能性として期待されています。

その中でも特に、ブロックチェーンは、既存技術では解決できなかった課題を乗り越える新しい手段として、ビジネスのみならず、官公庁の取り組みにおいても広く注目を集めています。

その背景として、もともとはFintech(フィンテック、金融領域におけるDX)の一分野である仮想通貨(または暗号通貨)の実現を可能にした一要素技術、つまりビットコインを支えるだけの存在に過ぎなかったブロックチェーンが、近年、金融領域にとどまらず、あらゆる既存産業・ビジネスで応用できる可能性を秘めた技術であることが明らかになってきました。

そもそもブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

ブロックチェーンの市場規模は一つじゃない!?

今見たように、ブロックチェーンは非常に幅の広い概念であり、その性質上、ビジネス活用の可能性も多岐に渡ります。

それ自体は良いことなのですが、ここで一つ問題が起こります。

ブロックチェーンのマーケットに関する情報を得るために複数のWebサイトや書籍をみてみると、大小異なる様々な市場規模予測がなされており、どの数字を参考にすべきか困ってしまう、という問題です。

これは、後に説明するように、ブロックチェーンの概念が新しく、応用可能性が非常に広いことと関係しています。

ブロックチェーンは、「インターネットと並ぶかそれ以上の技術的革新」と言われることもあるほどイノベーティブな技術です。

そのために、その技術的可能性や実社会への応用可能性をどのようにみるか、どこからどこまでをブロックチェーンに関連した市場とみるか、といった視点によって、市場規模の算出方法が大きく異なってしまうのです。

しかし、これからブロックチェーンを自社活用しようと言う人、あるいは新規事業の立ち上げを検討している人にとってみれば、市場規模の数字いかんで意思決定も左右されるでしょう。

そこで、次章以降では、資料間の偏りを割り引いて考えるべく、市場規模に関する複数の予測レポートを参照していきます。

ブロックチェーンの市場規模①:日本国内での予測

ブロックチェーン国内市場規模予測A:経済産業省(平成27年度)

ブロックチェーンの国内市場規模に関するマーケット予測で最もポピュラーな資料は、平成28年4月28日付で経済産業省の商務情報政策局 情報経済課が発表した『我が国経済社会の 情報化・サービス化に係る基盤整備 (ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料』でしょう。

同資料では、大きく次の5つのテーマでブロックチェーンの社会変革・ビジネスへの応用が進むとした上で、それら5つのインパクトの合計として、将来的に国内67兆円の市場に影響を与えると予想されています。

  • 価値の流通・ポイント化・プラットフォームのインフラ化
  • 権利証明行為の非中央集権化の実現
  • 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現
  • オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現
  • プロセス・取引の全自動化・効率化の実現

この資料は、市場がまだ大きく形成されていない初期に発表されたこと、発表元が経済産業省であることから、複数の書籍や論文等でも引用され、ブロックチェーンの潜在的可能性に対する期待を膨らませる一つの要因になりました。

そして、実際に、ブロックチェーンの応用可能性の広さとそのインパクトの大きさは資料の示す通りで、今後、金融分野にとどまらないあらゆる社会側面に広がっていくものと考えられます。

しかし、気をつけなければならない点として、この資料で言及されているのはあくまでブロックチェーン関連市場の話であって、ブロックチェーン市場そのものの規模予測ではありません

ブロックチェーンはインターネット同様、それ自体で価値を発揮するというよりも、むしろその技術を何らかの既存ビジネスに応用することによって高い価値を生み出しうる技術です。

そのため、「67兆円規模の市場に影響を与える」ほどのインパクトはあるものの、この数字には例えば、ブロックチェーンによる影響を受けているものの内容自体はブロックチェーンと無関係、といったサービスなども含まれています。

ブロックチェーンに限らず、市場規模を調べる際には、こうした「市場という言葉がどの範囲までを示しているのか」を適切に把握することが大切です。

ブロックチェーン国内市場規模予測B:矢野経済研究所

ブロックチェーンの国内市場規模に関する他の資料に、2019年5月22日付で株式会社矢野経済研究所(以下、矢野経済研究所)が発表した『2019 ブロックチェーン活用サービス市場の実態と将来展望』(有料、リンクは同資料のプレスリリースページ)があります。

同資料は、経済産業省の資料とは異なり、ブロックチェーンを活用したサービスの市場規模が予測されています。

矢野経済研究所によると、「2017年後半~2018年にかけては金融機関に留まらず、幅広い業界においてサプライチェーンや権利証明など、同技術を応用した実証実験を積極的に実施し、その活用可能性を見出しつつあ」り、その結果として、「2019年度の国内ブロックチェーン活用サービス市場規模(事業者売上高ベース)は、171億5,000万円の見込み」です。

さらに、同社は「BaaS(Blockchain as a Service)ソリューションの提供」が始まることに注目しつつ、「2022年度の国内ブロックチェーン活用サービス市場規模(事業者売上高ベース)は1,235億9,000万円」、「2017年度~2022年度の5年間の年平均成長率(CAGR)は108.8%」と見込んでいます。

また、今後の展望として、「フェーズ(段階)別では、実証実験が多いものの、2019年度以降、商用化に向けた効果検証フェーズや本格的な商用化フェーズへと進む案件が増えていく」ことを踏まえ、「日本発のブロックチェーンコンソーシアムの立上げが期待される」としています。

ここで、重要なポイントは、ブロックチェーンのビジネス活用フェーズがまだ実証段階にあるということでしょう。

革新的な技術であればあるほど、既存市場へと応用する際のハードルが高く、ビジネス活用でクリアしなければならない課題も多くなります。

そのため、実際に技術が社会実装されるまでには、技術自体の登場から長い年月を要することになります。

ブロックチェーンの場合は、概念自体の認識、技術的可能性の大きさの理解はかなり進んできているので、今後は、様々な業界での実験が繰り返され、その中から次世代の「当たり前」をつくるサービスが登場し、その後に一気に市場が拡大すると見込まれます。

こうした背景を踏まえて、前述の経済産業省の資料が将来的なインパクトの予測であったのに対して、矢野経済研究所では現在にフォーカスした統計がなされているために、数字に大きな開きがあることを理解することが重要です。

ブロックチェーン国内市場規模予測C:ミック経済研究所

ブロックチェーンの国内市場規模に関して、別の資料をもう一つ紹介します。

2020年1月6日に発刊された、株式会社ミック経済研究所(以下、ミック経済研究所)の『大きく活用用途広がるブロックチェーン市場の現状と展望 2019年度版』(有料、リンクは同資料のプレスリリースページ)です。

同資料では、ブロックチェーン関連業者(プラットフォーマー・SIer・アプリ/SWベンダー)の市場規模を予測しています。

ミック経済研究所によると、「2018年度の同市場は53.3億円、2019年度は79.9%増の95.9億円市場へと成長する見込み」で、「同市場は年平均成長率66.4%増で成長を続け、2024年度には1,000億円を超える市場へと成長」します(下図)。

出典:ミック経済研究所

この市場成長について同社は、「ブロックチェーンの技術自体は、高度なセキュリティが担保されることから金融を中心に順調に活用用途が広がって」おり、「現在はトレーサビリティや著作権の管理などでも有用とされ、金融領域以外での活用も期待されている」と、一時は落ちついたブロックチェーン市場への期待が、近年にまた高まり始めていることを指摘しています。

注目すべきことは、矢野経済研究所の調査と比べるとやや控えめな数字ではあるものの、ミック経済研究所の資料でも、ブロックチェーン市場は「2024年度には1,000億円を超える」とされており、調査方法や調査主体にかかわらず、ここ数年で大きな市場成長が見込まれていることです。

この背景には、同社が指摘している通り、金融領域以外での分野でブロックチェーンのビジネス活用が進んでいる現状があります。

この統計も、日本国内におけるブロックチェーンに対する期待の高まりを示している資料と言えるでしょう。

ブロックチェーンの市場規模②:世界予測

ブロックチェーン世界市場規模予測A:株式会社グローバルインフォメーション

次に、日本から海外へと目を転じてみましょう。

世界のブロックチェーン市場は、米国を中心に、技術的発展、市場規模ともに日本よりもはるかに進んでおり、すでに国際的大企業による大規模なブロックチェーンプラットフォームのローンチなどの動向が見られています(Mearsk社とIBM社の共同による海運プラットフォーム「Trade Lens」など)。

こうした世界市場のマーケット規模に対する統計の一つとして、株式会社グローバルインフォメーション(以下、GI)による市場調査レポート「ブロックチェーンの世界市場 – 2025年までの予測:アプリケーションプロバイダー、ミドルウェアプロバイダー、インフラプロバイダー」 (MarketsandMarkets)(有料、リンクは商品ページ) があります。

GIによると、「ビジネスプロセスの簡素化と、ブロックチェーン技術とサプライチェーン管理のニーズの高まりが、ブロックチェーン市場全体を牽引することにな」った結果、「ブロックチェーン市場規模は、2020年の30億米ドルから2025年には397億米ドルへと拡大し、CAGR67.3%という驚異的な成長を遂げる」ことになります。

さらに、2021年から2028年にかけては、年平均成長率(CAGR)82.4%で拡大するとも予想されています。

この驚異的な数字の根拠として、同社は、北米を中心とした市場における銀行・金融セクターでのマーケット維持を土台に、プライベートブロックチェーンの台頭、SEMs(中小企業部門)の高成長が市場に成長をもたらすとの見方を示しています。

特に、プライベートブロックチェーンに関して、GIは次のように言及しています。

「2020年に市場規模が最大になると予測されているプライベートブロックチェーンは、ユーザー権限などでセキュリティが確保された共有データベースまたは台帳としての役割を持ちます。通常、関連する組織のみが知っているプライベートキーを使用することで、そのセキュリティが守られます。ブロックチェーン技術の一種であるプライベートブロックチェーンは、書き込み権限は単一の組織に一元管理され、読み取り権限は、組織の使いやすさに基づいて制限されます。そのブロックチェーン技術を企業間のユースケースに活用するという点で、企業にとってより多くの機会を提供します。」

実際に、日本でも、プライベートブロックチェーンに対する取り組みが各業界の先進的な企業によって進められ始めています

この時期に、ブロックチェーンに対する投資を行えていたかどうかが、10年先の企業の未来を変えるかもしれません。

ブロックチェーン世界市場規模予測B: IDC Japan 株式会社

ブロックチェーンの世界市場規模を予測する他の資料に、2019年9月に、IT専門調査会社である IDC Japan 株式会社(以下、IDCJ)が発表したWorldwide Semiannual Blockchain Spending Guideがあります。

IDCJによると、「世界のブロックチェーンソリューションに対する支出額は2023年に約159億ドルに達する見通し」で、「2018年から2023年までの予測期間を通じて、ブロックチェーンへの支出額は安定して増加し、5年間の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は60.2%にな」ります。

また、同社はブロックチェーン市場に対する分析として、「世界的にブロックチェーン支出額が最大の業種は、銀行業」であり、「予測期間全体を通じて、銀行は全世界の支出総額の約30%を占める見通し」だとしています。

また、「その次に大きい支出が見込まれる業種は、組立製造業とプロセス製造業で」、「両者を合わせると支出額全体の20%以上になる見通しで」あり、その中でも特に「プロセス製造業は、最も高い支出成長率が見込まれる業種でもあり(CAGR68.8%)、予測期間の終わり頃には、ブロックチェーン支出額が第2位の業種になると予測」しています。

ここで注目すべきは、ブロックチェーン市場第二の支出源泉として製造業をあげていることです。

2020年現在、ブロックチェーン業界では、複数の非金融領域における市場の創出・拡大が進んでいます。

とりわけ、物流業界は、IBM社を筆頭に、ブロックチェーンの技術を利用した世界的なサプライチェーンの変革が進められており、近い将来、ブロックチェーンに対応している企業とそうでない企業で、明暗が分かれてくる可能性があります。

米国IDC Worldwide Blockchain Strategies リサーチディレクターであるジェームス・ウェスター氏による「一般社会ではブロックチェーンをめぐって時として白熱した議論が交わされていますが、そのような中で、企業によるこのテクノロジーの採用は静かに進行し、複数のユースケースでティッピングポイントに達しています。初期の試験運用プログラムでブロックチェーンの価値を認めた企業が、そうしたプロジェクトを本番環境に移しつつあります」という発言の背景には、まさに物流業界のような社会変革の動向があると言えるでしょう。