2021年8月18日、シヤチハタはNFT印鑑の共同開発を発表しました。NFT印鑑は、偽造不可能な電子印鑑のことです。取引のオンライン化やDXが進む中、ブロックチェーン技術の応用であるNFTを活用したNFT印鑑はどのような役割をはたすのでしょうか?NFTやブロックチェーンの概要と合わせて解説します。
シヤチハタがNFT印鑑サービスの開発を発表!
Tech Crunchによると、シヤチハタ株式会社(以下、シヤチハタ)は2021年8月18日、ケンタウロスワークスおよび早稲田リーガルコモンズ法律事務所と、ブロックチェーンを利用した電子印鑑システム「NFT印鑑」を共同開発することで合意したと発表しました。
出典:Tech Crunch
シヤチハタは、「朱肉やスタンプ台、ゴム印など、日常で使用頻度の高いなつ印具シリーズ」(同社ホームページより)である”シヤチハタ”を中心に、サインペンと印鑑が一つになった”ネームペン”など、ハンコやスタンプに関する商品を数多く手がけてきた会社です。
インターネット登場以来、IT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が騒がれる中、オフラインでの”非効率な”作業を必要とする押印は特にその「不要論」が叫ばれ、とりわけ近年、コロナ禍でのリモートワーク推進を背景に印鑑業界がどのような”歩み寄り”を見せるのかが議論の的になってきました。
そうした中、印鑑業界の雄であるシヤチハタが最新のテクノロジーであるブロックチェーンを活用したサービスを発表したことで、「NFT印鑑」は大きな注目を集めています。
NFT印鑑とは?
NFTとは?
NFTは2021年初頭から急激に取引量が伸びている非代替性のトークンで、「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」という特長を持っています。
Non Fungible Tokenの略称であるNFTは、”Fungible”(=代替不可能な)という語義の通り、例えば座席や日時が指定されているコンサートチケットのように、トークン同士に互換性のない”1点モノ”としての性質を有しています。
また、NFTの背景技術であるブロックチェーンは、それ自体がデータの改竄リスクや喪失リスクに対して強い性質をもっています。
NFTのもつこれらの性質を利用することで、本来であれば容易に複製や偽造が可能であり、著作権や所有権が曖昧になりがちであったデジタルデータに対して、「鑑定書」や「証明書」を与えることができるようになります。
そこで、近年、アートや漫画、ゲームなど、幅広いデジタルコンテンツをNFT化しようという流れが強くなり始めました。
👉参考記事:『ブロックチェーン×「NFT」〜NFTの基礎と活用事例〜』
NFT印鑑=偽造不可能な電子印鑑
シヤチハタのNFT印鑑もNFTの性質をうまく利用しようとする試みの一つです。
NFT印鑑は、「印影データをNFT化することで、印鑑保有者の情報と印影情報を結び付けた、固有性を持つ電子印鑑」と言われています。
これまでも、印鑑をオンライン化したもの、つまり電子印鑑による契約への移行は進んできました。
しかし、電子データの弱みである偽造リスクの高さや、各社が異なる電子契約サービスを用いていることなどが理由で十分には普及してこれませんでした。
これに対して、NFT印鑑では、ブロックチェーン技術を活用することにより、所有者情報と印影を一対一対応させることが可能であり、データの偽造リスクも大幅に減らすことが期待されています。
また、単一のブロックチェーンプラットフォーム上でサービスを展開することにより、会社間で統一されたシステムを用いることができるようになるメリットもあります。
そもそもブロックチェーンとは?
ブロックチェーンは新しいデータベース(分散型台帳)
ブロックチェーン(blockchain)は、2008年にサトシ・ナカモトによって提唱された「ビットコイン」(仮想通貨ネットワーク)の中核技術として誕生しました。
ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。
ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。
一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。
ブロックチェーンは、セキュリティ能力の高さ、システム運用コストの安さ、非中央集権的な性質といった特長から、「第二のインターネット」とも呼ばれており、近年、フィンテックのみならず、あらゆるビジネスへの応用が期待されています。
ブロックチェーンの特長・メリット(従来のデータベースとの違い)
ブロックチェーンの主な特長やメリットは、①非中央集権性、②データの対改竄(かいざん)性、③システム利用コストの安さ、④ビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)の4点です。
これらの特長・メリットは、ブロックチェーンが従来のデータベースデータとは異なり、システムの中央管理者を必要としないデータベースであることから生まれています。
ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。
従来のデータベースの特徴 | ブロックチェーンの特徴 | |
---|---|---|
構造 | 各主体がバラバラな構造のDBを持つ | 各主体が共通の構造のデータを参照する |
DB | それぞれのDBは独立して存在する | それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている |
データ共有 | 相互のデータを参照するには新規開発が必要 | 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要 |
ブロックチェーンは、後に説明する特殊な仕組みによって、「非中央集権、分散型」という特徴を獲得したことで、様々な領域で注目・活用されているのです。
👉参考記事:『ブロックチェーン(blockchain)とは?仕組みや基礎知識をわかりやすく解説!』
NFT印鑑の展望
出典:Tech Crunch
Tech Crunchによると、「NFT印鑑は、Japan Contents Blockchain Initiative(JCBI)が運営・管理するコンソーシアム型ブロックチェーン「Contents Consortium Blockchain Platform」により、印鑑管理で必須となる高度なセキュリティに配慮しつつ、パフォーマンスと信頼性を両立」し、「将来的には、パブリックブロックチェーンとの連携も視野に、より透明性の高いオープンなシステムを目指す」とされています。