近年、中国はブロックチェーン技術の開発に国をあげて注力しています。中国政府が2016年に掲げた「第13次5カ年計画」には、国としてブロックチェーン開発を支援する旨が記載されています。そして2020年4月には、「BSN」と呼ばれる国家主導のブロックチェーンネットワークが立ち上がり、世界中の注目を集めました。本記事では「BSN」についての概要と、その基盤技術となるブロックチェーンについて解説します。
なお、中国のブロックチェーン開発についての全体像を学びたい方は、次の記事も併せてご覧ください。
→ 参考記事:『中国のブロックチェーンを金融・非金融の軸で理解する〜デジタル人民元からBSNまで〜』
「BSN」と同じく、中国が国をあげて注力しているデジタル通貨開発に関しては、次の記事をご覧ください。
→ 参考記事:『「CBDC」国が発行するデジタル通貨〜ブロックチェーン×中央銀行〜』
中国のブロックチェーンネットワーク「BSN」
BSNとは?
「BSN」とはBlockchain-based Service Network(ブロックチェーンサービスネットワーク)の頭文字をとった言葉で、ブロックチェーンを土台とした様々なサービスのネットワークを意味します。
「BSN」は、サーバースペース、ブロックチェーンを作るためのプログラミングツール、そして開発に必要となる様々な基本機能のテンプレート、といった要素で構成されます。
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「BSN」の関係者は、「データを”水”とすると、「BSN」は”水道管”である」と述べており、「BSN」の概念を”給水設備”に例えて表現しています。”水”のように誰でも安定したサービスを安価に手に入れることのできる、社会インフラとなることを目標としているとのことです。
BSNを主導するのは
BSNを主導するのは「BSN開発協会」(BSN Development Association)という団体です。この協会は、政府機関「中国国家情報センター」(State Information Center of China)を理事(協会のトップ)として置き、「China Mobile」や「China Union Pay」といった複数の企業が副理事として参加しています。
「BSN」立ち上げの背景
ブロックチェーンとは?
ブロックチェーンは新しいデータベース(分散型台帳)
ブロックチェーン(blockchain)は、2008年にサトシ・ナカモトによって提唱された「ビットコイン」(仮想通貨ネットワーク)の中核技術として誕生しました。
ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。
ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。
一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。
ブロックチェーンは、セキュリティ能力の高さ、システム運用コストの安さ、非中央集権的な性質といった特長から、「第二のインターネット」とも呼ばれており、近年、フィンテックのみならず、あらゆるビジネスへの応用が期待されています。
ブロックチェーンの特長・メリット(従来のデータベースとの違い)
ブロックチェーンの主な特長やメリットは、①非中央集権性、②データの対改竄(かいざん)性、③システム利用コストの安さ、④ビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)の4点です。
これらの特長・メリットは、ブロックチェーンが従来のデータベースデータとは異なり、システムの中央管理者を必要としないデータベースであることから生まれています。
ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。
従来のデータベースの特徴 | ブロックチェーンの特徴 | |
構造 | 各主体がバラバラな構造のDBを持つ | 各主体が共通の構造のデータを参照する |
DB | それぞれのDBは独立して存在する | それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている |
データ共有 | 相互のデータを参照するには新規開発が必要 | 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要 |
ブロックチェーンは、後に説明する特殊な仕組みによって、「非中央集権、分散型」という特徴を獲得したことで、様々な領域で注目・活用されているのです。
👉参考記事:『ブロックチェーン(blockchain)とは?仕組みや基礎知識をわかりやすく解説!』
これまでのブロックチェーン導入の課題
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これまでもブロックチェーンアプリケーションを開発・運用することは可能でしたが、ネックとなるのがそのコストの高さでした。例えば、アリ・クラウド(Ali Cloud)やファーウェイ・クラウド(Huawei Cloud)といった大手クラウドサービスで開発・運用すると、年間に数万ドルのコストがかかることもあるのです。
また、異なるブロックチェーン間のデータのやり取りが困難(相互運用性がない状態)で、所謂、インターオペラビリティが担保されていない状態がほとんどでした。
👉参考記事:『「インターオペラビリティ」〜ブロックチェーン同士を接続する新たな技術〜』
「BSN」によって実現すること
「BSN」立ち上げの際の狙いとして、上記で挙げたブロックチェーンアプリケーションの開発導入コストを従来の1/3〜1/5に程度に削減し、ブロックチェーンの開発と導入を加速させることを掲げています。
新規参入しようとする多くの中小企業や個人開発者にとって、導入コストは大きな問題です。それが解消されることにより、ブロックチェーンアプリケーションの開発のハードルが大幅に下がり、世界中のデベロッパー達による開発競争が起き、より優れたユースケースが登場する可能性があります。
あた、「BSN」ではデベロッパー達が複数のブロックチェーン基盤上でアプリケーションを開発可能で、相互に通信可能になる予定(インターオペラビリティの実現)となっています。
まとめ
本記事では「BSN」についての概要と、その基盤技術となるブロックチェーンについて解説しました。冒頭でもお伝えしたように、中国ではブロックチェーン開発が国家戦略として推し進められています。
「BSN」の普及によって、ブロックチェーンアプリケーション開発参入のハードルが下がり、業界の発展が急拡大することが期待できます。
中国としては、「BSN」という新たなデータ流通の公共インフラを早急に整備し、自国が進めるスマートシティ構想の土台としたい、さらなる大きな野望があるようです。
今後も中国の「BSN」(ブロックチェーンサービスネットワーク)の動向には注目です。