2021年3月、決済大手のPayPalが暗号資産による決済に対応しました。その背景にある「ブロックチェーン」技術と、消費者にとってのメリット・デメリットについて解説します!
PayPalの参入で暗号資産決済が本格的な幕開けを迎える?
PayPalでの決済に暗号資産が使えるように!
米決済大手PayPalが、暗号資産(仮想通貨)市場への参入計画を発表したのは、2020年10月のことです。
同社は世界で3億4600万件ものアクティブユーザー(アカウント)を抱えることから、当時、市場は大いに盛り上がりました。
そしてついに2021年3月30日、「PayPalが、PayPalウォレットを通した暗号資産によるオンライン決済に対応した」とロイターが報じました。
ビットコイン・イーサリアムといった暗号資産(仮想通貨)で気軽に買い物ができる時代が、いよいよ本格的な幕開けを迎えるのでしょうか?
PayPalの今後
ロイターによると、世界中の数百万ものオンラインショップにて、PayPalウォレットを通して以下4種の暗号資産による支払いが可能になるとのことです。
・ビットコイン(BTC)
・イーサリアム(ETH)
・ライトコイン(LTC)
・ビットコインキャッシュ(BCH)
暗号資産による決済手数料は徴収せず、1度の購入に際しては1種類の暗号資産のみ使用可能です。また、消費者による暗号資産決済の場合でも、ショップ側は法定通貨で受け取る(=PayPal内部で換金する)ことができ、今後数ヶ月以内に2900万の加盟店全てで利用できることを目指すとしています。
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PayPalのCEOであるDan Schulman氏は次のように述べています。
「PayPalウォレット内で、クレジットカードやデビットカードと同じように暗号資産をシームレスに使用できるのは今回が初めてです。私たちは、暗号資産が購入や保有、販売の対象となる資産クラスから、現実世界の何百万ものショップと取引を行うための合法的な資金源となるための重要なターニングポイントになると考えています。」
PayPalは、2020年10月に暗号資産市場への本格的な参入を発表して以降、市場の盛り上がりを牽引してきました。現在は米国内でのサービスにとどまりますが、年内にイギリスへの展開を予定しており、また決済サービスVenmoにも暗号資産事業を拡大する予定です。
暗号資産決済のメリット・デメリット
そもそも暗号資産で決済することのメリット・デメリットは何でしょうか?消費者目線で検証してみましょう。
メリット
「世界中どこでもストレスフリーのキャッシュレス決済が可能」
現在は海外に旅行や出張に行く際、日本円と現地通貨を交換したり、クレジットカードで外貨決済を行ったりする必要があります。ですが、両替には決して安くない手数料が発生するうえ、手間もかかります。
また海外ECでの買い物の際には、クレジットカード決済を行う場合は外貨建てとなり、カード会社所定の為替手数料が発生してしまうのが現状です。
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一方で、ビットコインなどの暗号資産であれば基本的に世界共通です。そのため、決済のためにわざわざ現地通貨に交換することなく、日本で入手した暗号資産をそのまま世界中で利用することができ、為替手数料などは発生しません。オンライン決済においても同様です。
デメリット
「価格変動が激しく、確定申告が必要」
暗号資産の価格変動は激しく、保有しているだけで大きく対日本円価値が上下します。そのため、日常の決済手段としては家計の管理が難しくなってしまいます。
また日本国民は、暗号資産の売買によって生じた為替差損益の確定申告が必要になります。
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決済に用いた時点で原則として確定申告の対象になってしまうため、損益の計算や確定申告を行う手間が発生することになってしまいます。この手間を考えると、日本の一般消費者にとっては暗号資産決済は少しハードルが高いかもしれません。
ブロックチェーン×暗号資産決済
暗号資産決済を可能にした「ブロックチェーン」という技術
今回のPayPalの暗号資産決済への対応の背景には「ブロックチェーン」というデータ管理技術の存在があります。
ブロックチェーンの技術は、暗号資産のみならず、例えば管理者不在のデータプラットフォームや第三者を介さない不動産取引など、既存の経済体制のあり方を変革するような方向性で、ビジネス活用される傾向にあります。
この「ブロックチェーン」に関して、もう少し深堀りしてみましょう。
ブロックチェーンは新しいデータベース(分散型台帳)
ブロックチェーン(blockchain)は、2008年にサトシ・ナカモトによって提唱された「ビットコイン」(仮想通貨ネットワーク)の中核技術として誕生しました。
ビットコインには、P2P(Peer to Peer)通信、Hash関数、公開鍵暗号方式など新旧様々な技術が利用されており、それらを繋ぐプラットフォームとしての役割を果たしているのがブロックチェーンです。
ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。
一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。
ブロックチェーンは、セキュリティ能力の高さ、システム運用コストの安さ、非中央集権的な性質といった特長から、「第二のインターネット」とも呼ばれており、近年、フィンテックのみならず、あらゆるビジネスへの応用が期待されています。
ブロックチェーンの特長・メリット(従来のデータベースとの違い)
ブロックチェーンの主な特長やメリットは、①非中央集権性、②データの対改竄(かいざん)性、③システム利用コストの安さ、④ビザンチン耐性(欠陥のあるコンピュータがネットワーク上に一定数存在していてもシステム全体が正常に動き続ける)の4点です。
これらの特長・メリットは、ブロックチェーンが従来のデータベースデータとは異なり、システムの中央管理者を必要としないデータベースであることから生まれています。
ブロックチェーンと従来のデータベースの主な違いは次の通りです。
従来のデータベースの特徴 | ブロックチェーンの特徴 | |
構造 | 各主体がバラバラな構造のDBを持つ | 各主体が共通の構造のデータを参照する |
DB | それぞれのDBは独立して存在する | それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている |
データ共有 | 相互のデータを参照するには新規開発が必要 | 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要 |
ブロックチェーンは、後に説明する特殊な仕組みによって、「非中央集権、分散型」という特徴を獲得したことで、様々な領域で注目・活用されています。
👉参考記事:『ブロックチェーン(blockchain)とは?仕組みや基礎知識をわかりやすく解説!』
ブロックチェーン×暗号資産決済の普及事例は?
ビックカメラ
画像出典:COIN OTAKU
日本最大の仮想通貨・ブロックチェーン企業であるbitFlyerのシステムを使用し、2017年4月に一部店舗でビットコインによる決済サービスを試験的に導入。想定よりも利用が多かったことから、その後ビックカメラ全店舗へ順次拡大した。
マスターカード(Mastercard)
画像出典:coindesk JAPAN
2021年2月マスターカード(Mastercard)は、加盟店が客の暗号資産での決済を行える機能を2021年後半に提供すると、発表しました。現時点ではどの暗号通貨を取り扱うかは発表されていません。これについては、コンプライアンス対策などの要件を今後検討するとしています。
PayPalの展望
今回は、決済大手PayPalが決済方法として「暗号資産」を導入した話題をご紹介しました。
PayPalを皮切りに、マスターカードやVisaなど、決済プラットフォーム大手の暗号資産事業への注力が著しい状況が続いています。
さらにPayPalは2021年5月、ステーブルコイン(=より安定した価格を実現するように設計された暗号資産)への対応を進める計画を進めていることが分かっています。
PayPal含め、決済業界は今後さらに暗号資産に関する取り組みを加速していくことでしょう。