【業界動向】物流×ブロックチェーンは何を実現する?最新の活用事例も!

ブロックチェーンは、国内67兆円の潜在マーケットをもつ有望技術です。特に物流業界と相性がよく、①台帳共有による合理化、②偽造品排除の二側面から注目を集めています。IBM等の最新事例と共に物流のデジタルトランスフォーメーション動向に迫ります。

今、「物流×ブロックチェーン」が熱い。

巨大なブロックチェーンビジネスの市場

ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並んで、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有望技術の一つです。

DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、大きくは産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーション、小さくは開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革など、仕事だけでなく、私たちの生活全体を大きく変える可能性として期待されています。

出所:平成27年度 我が国経済社会の 情報化・サービス化に係る基盤整備 (ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに 関する国内外動向調査) 報告書概要資料

経済産業省が平成27年度に発表したブロックチェーンに関する調査資料によると、ブロックチェーンは将来的に、国内67兆円の市場に影響を与えると予想されています。

具体的には、大きく次の5つのテーマで、社会変革・ビジネスへの応用が進むとされています。

  1. 価値の流通・ポイント化・プラットフォームのインフラ化
  2. 権利証明行為の非中央集権化の実現
  3. 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現
  4. オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現
  5. プロセス・取引の全自動化・効率化の実現

「ブロックチェーン×物流」に集まる注目

ブロックチェーン市場の中でも特に注目を集めており、2020年現在、世界的にビジネスマーケットの拡大が進んでいるのが、物流業界のデジタルトランスフォーメーションです。

物流業界は、サプライチェーンの中流に位置している業界であるため、ビジネスが自社だけで完結しない場合が多く、「川上」から「川下」まで非常に多くの関係者が存在します。

また、伝票の発行作業を始め、商品番号の照合、輸出入であれば通関手続き、荷役作業等々、一つの取引を完了させるために、数多くの付随業務が発生します。

そのため、それぞれの関係者間でやり取りを行うたびに、似たような付随業務を重複して行うことが増え、その分のコストが積み重なってしまいます。

さらに、こうした「取引コスト」がかさむ一方で、物流業界は、セキュリティやトレーサビリティ(物流における商品の追跡可能性)などその他数多くの問題もはらんでいます。

こうした課題感を背景に、近年、ブロックチェーンによるサプライチェーンの再定義が行われ始めています。

例えば、グローバルEC企業であるAmazonは、2020年5月26日に、3年前に出願した「分散型台帳認証」の特許申請が承認されたことで、グローバルサプライチェーンの課題に対してブロックチェーンを用いたソリューションを提供し始める構えを見せています。

具体的には、ハイパーレジャー(Hyperledger)などの分散型台帳技術(DLT)によってデータの改ざんを防ぎ、単一障害点(停止するとシステム全体が停止する箇所)を取り除くなど、中央集権型組織の管理上の問題を回避しようという方針です。

また、IBMは、コンテナ船世界最大手のA.P. Moller-Maersk(A.P.モラー・マースク、以下マースク)との共同でブロックチェーン基盤の海上物流プラットフォーム「TradeLens」を構築した他、世界最古の医薬品・化学品メーカーであるMerck KGaA(メルク・カーゲーアーアー、以下メルク)と共に偽造品対策プラットフォームを立ち上げています。

さらに、アジアに目を転じてみても、中国EC市場シェア2位のJD.com(以下JD)がブロックチェーンに関連する200件超もの特許を申請したという報道がなされるなど、世界最大の人口を抱える中国においても、物流のシステム全体をブロックチェーンによって強化していく流れがみられています。

まさに、「ブロックチェーン×物流」に大きな注目が集まっていると言えるでしょう。

なぜ、「物流×ブロックチェーンが熱い」のか?

そもそも、ブロックチェーンって何?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

なお、ブロックチェーンの概念自体についてより詳しく知りたい方は、下記の記事も併せてご覧ください。

👉「【初心者必見】ブロックチェーンとは?ビジネスの新常識を分かり易く!

👉「【ビジネスパーソン向け】ブロックチェーンの仕組みを20分で理解しよう!

ブロックチェーンと物流課題の相性の良さ

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」という特徴を踏まえた上で、なぜ、「ブロックチェーン×物流業界がアツい」のでしょうか?

これは、結論からいえば、「物流業界のニーズとブロックチェーン開発会社の利害が見事に一致した」とみるのが妥当でしょう。

物流業界のニーズ

まず、物流業界側のニーズとして、「もともと物流業界は取引をデジタル化しようにも、プレーヤーが多すぎて中央のデータベースを誰が管理するかで意思統一できなかった」という課題がありました。

物流業界での取引をデジタル化するということは、サプライチェーンの上流と下流における業務プロセスを垂直的に統合していく、あるいは、競合関係にある同流の他社とデータを共有していく必要があります。

この「データの持ち寄りと共有」を実現するために、従来のデータベースの考え方では、どうしても中央管理者を設けなければなりません。

しかし、利害関係の異なる複数組織間で中央管理者を設定することは非常に難しく、この意思決定が大きな壁として立ちはだかっていたのです。

これに対して、ブロックチェーンは先ほどみたように、中立的でオープンな「非中央集権性」をもった技術です。

データ共有をセキュアに、また利害関係の衝突なく行うために、ブロックチェーンはまさに「渡りに船」な技術だと言えます。

こうした理由から、物流業界のニーズに対して、ブロックチェーンはマッチしています。

ただし、よく勘違いされる点として、「ブロックチェーンが従来のデータベースで解決できなかった技術的問題を突破した」と思われることも少なくありませんが、必ずしもそういうわけではありません。

もちろん、ブロックチェーンには従来のデータベースにはない技術的特徴がありますが、ビジネス活用を行う上では、「ブロックチェーンじゃなければいけない」というケースは存外少ないものです。

むしろ、どちらかといえば、「ブロックチェーンじゃなきゃいけないわけではないけれども、色々考えると、ブロックチェーンを利用した方が結果としてメリットが大きい」ためにブロックチェーンを利用するケースが増えてきているので、自社のビジネス活用を考える上ではその点に注意が必要でしょう。

ブロックチェーン開発会社のシーズ

他方、シーズ側、つまりブロックチェーンを推進したいシステム開発会社側の思惑も、物流業界へのブロックチェーン導入を後押しする形になりました。

もともと、ブロックチェーンはビットコインを支える基幹技術として誕生した経緯もあってか、「ブロックチェーン=ビットコインなどの暗号資産技術」「ブロックチェーン=Fintech」のように考えられがちです。

しかし、ブロックチェーンの技術的可能性は金融領域にとどまるものではなく、開発会社は、より自分たちのビジネスを拡大していくために、暗号資産(仮想通貨)以外の適用領域を探していました。

開発会社がシーズとして求めていた領域は、次のような、ブロックチェーンの特性をうまく活かせる条件をもった領域でした。

  • データベース共有によるコスト削減メリット →「プレーヤーが多すぎて非効率」な業界
  • 非中央集権性 → 現時点で中央管理者が不在な方が実現しやすい
    →「GAFAも中国もいない」な業界
  • 優れたトレーサビリティ(データの追跡可能性) →「嘘が多い」業界

こうした諸条件をもとに開発機会を各社が探していったところ、例えば不動産や医療など複数の業界が該当することになります。

そして、その一つとして、物流、サプライチェーンといった領域がフォーカスされれることになりました。

このように、「物流×ブロックチェーン」は、①非中央集権性というブロックチェーンの思想に物流業界のニーズがマッチしていたこと、②開発会社の事業投資機会として好ましいマーケット特性を物流業界が有していたこと、という双方向のニーズ・シーズ合致が見事に結果を産んだ好例と言えるでしょう。

物流×ブロックチェーンで実現しうる2つの効果と活用事例

「物流×ブロックチェーン」では、大きく次の2つの効果を期待することができます。

  • 効果①:台帳共有による合理化
  • 効果②:偽造品排除

実際の活用事例をみながら、順に、説明していきましょう。

物流×ブロックチェーンの実現効果①:台帳共有による合理化

「物流×ブロックチェーン」が実現する効果の一つ目は、「台帳共有による合理化」です。

通常、物流業界では、関係各社が独自のルール・フォーマットで文書(データ)を作成し、それぞれの台帳(データベース)で管理を行なっています。

また、それらのデータが紙ベースの業務で処理されることも少なくありません。

これらの状況から、関係各社同士での連携業務においては、絶えずオペレーションエラーのリスクを抱えながら、ヒトによる非効率な突合作業が繰り返されることで、必要以上の膨大なコストがかかってしまっています。

これに対して、取引をデジタル化し、ブロックチェーンを利用してデータベースを共有することで、各社の連携業務を合理化し、大幅なコスト削減をはかることができます。

出典:『ブロックチェーンは「国境」を打ち破る IBMが乗り出す「信頼の基盤作り」とは』(IT media NEWS)

例えば、ある貨物をA社からB社へと引き渡す際に、現状では、①A社でまずその貨物の伝票番号を確認し、B社へと引き渡した後にも、②B社内で同じ貨物の伝票番号確認を行うことで、1つの貨物に関する1回の移動について合計2回の作業が発生してしまいます(※わかりやすさのために話を簡便化しています)。

なぜなら、A社とB社では同じ貨物に対して異なるフォーマットでの管理を行なっており、それぞれのやり方で、それぞれのデータベースに情報を入れていく必要があるからです。

ここで、もし、A社とB社がデータベースを共有し、同じフォーマットで情報管理を行なっていたとしたらどうでしょうか?

その場合、A社とB社がそれぞれに確認作業を行う必要はなく、それまで2回行なっていた作業を1回に減らすことが可能になります。

こうした作業量削減のメリットの大きさは、日々、膨大な作業量に追われている物流業界の方であれば身にしみて理解できることでしょう。

このような「台帳共有による合理化」を国際貿易の舞台で大々的に実現させようとしているのが、本記事冒頭でも紹介した「TradeLens」です。

TradeLensは、2016年9月から、IBMとコンテナ船世界最大手のマースクとの共同で検証を開始したブロックチェーン基盤の海上物流プラットフォームで、荷主・ターミナル・運送業者・船社・海上保険・通関業者など、海上物流に関係するあらゆる会社間でのデータベース共有を実現し、業界全体の非効率を解消しようという一大プロジェクトです。

IBM社の発表資料によると、国際貿易は、次のような業界課題を抱えています(下記、同資料より本文の一部を抜粋)。

  • データは組織のサイロに閉じ込められている
    • 情報はサプライ・チェーン内の数十のサービス・プロバイダーによって紙やさまざまなデジタル・フォーマットで保持されていて、複雑で、わずらわしい、経費のかさむ一対一のメッセージングを必要としています。
    • 結果として組織の境界を越えると情報が矛盾し、船荷がなかなかはっきりわ からず、さらには場所によっては見えないので、効率的な流れが妨げられています。
  • 手作業、時間のかかる、紙ベースの処理
    • 最新データの収集、処理と非効率な貿易ドキュメントの交換のために、手作業で確認したり、頻繁にフォローアップが必要だったりして、ミスや遅れが生じたり、コンプライアンス・コストがかさむといった結果になります。
    • 情報が足りないために、ドキュメントは常に遅れます。
  • 通関手続きに時間を要し、不正も発生
    • 税関当局によるリスク評価は十分な信頼できる情報が欠けているために、検査率が高くなり、詐欺や偽􏰀に対する防止手段が追加されて、通関手続きが遅れます。
  • 高コストと低レベルな顧客サービス
    • これらの難問が下流に大きな影響を与えます。
    • 効果的な予測、計画やサプライ・チェーンの混乱に対するリアルタイムの対応、サプライ・チェーン全体 での信頼できる情報の共有などができないので、過剰な安全在庫、高い管理コスト、運用上の難問、最終的には貧弱な顧客サービスにつながります。

こういった課題に対して、TradeLensでは、「グローバル・サプライ・チェーンのデジタル化」を掲げ、オープンソースの権限型ブロックチェーンであるHyperledger Fabricを元にしたIBM Blockchain Platformを利用することで、関係各社すべてでの台帳共有を実現しようとしています。

物流×ブロックチェーンの実現効果②:偽造品排除

「物流×ブロックチェーン」が実現する効果の二つ目は、「偽造品排除」です。

偽造品は物流業界の天敵とも呼べる存在で、経済協力開発機構(OECD)などによると、2016年に世界で取引された偽造品と違法コピー品は5090億ドル(約53兆円)にのぼるとも言われています。

近年、この偽造品問題をブロックチェーンを利用して解決しようという動向が、国内外に大きく広がっています。

そもそも、偽造品がここまで大きな問題でありながらもこれまで解決されてこなかった理由は、既存の物流システムが「トレーサビリティ(追跡可能性)」を高め切ることができなかったからと考えられます。

トレーサビリティとは、ある商品が生産されてから消費者の手元に届くまでにどのような経路を辿ってきたのかを正確に追跡できる程度、つまりサプライチェーンの透明性を表す概念です。

既存の物流システムでは、生産者から一次流通業者、一次卸売業者、二次流通業者・・・と、サプライチェーン上に数多くの関係者が存在しています。

さらに、それらの企業は、各社で異なる商品管理体制を敷いており、他社内で商品がどのように取り扱われているのかをすべて把握できるプレイヤーは存在しません。

したがって、ある商品が偽造品であったり、不良品であったりした場合も、それがどの時点での問題であったかを即座に特定することは難しく、問題の原因を排除できないまま次の問題を生じたり、適切な対応をしている企業が二次被害を被ったりしてしまいます。

この課題に対して、ブロックチェーンはその仕組み上、過去の全取引データを時系列順に格納・検索することができ、加えてデータの対改竄性が非常に高いため、悪徳業者による不正を防ぐことができます。

その特徴を「偽造品排除」の文脈でうまくビジネス利用しようとしているのが、日通(日本通運)です。

2020年3月9日の日本経済新聞の記事によると、「日本通運はアクセンチュアやインテル日本法人と組み、ブロックチェーン(分散型台帳)を活用した輸送網の整備に乗り出」し、「まず医薬品を対象に2021年の構築を目指しており、倉庫の整備などを含め最大1千億円を投資する」ことで、「偽造医薬品の混入を防ぐための品質管理に生かし、将来は消費財全般に応用する」ことを発表しています(「」内は同記事からの引用)。

出典:「日通、ブロックチェーンで偽造品排除 物流に1000億円」( 2020/3/9 1:30日本経済新聞 電子版)

上図のように、ブロックチェーンを利用した偽装品排除の取り組みでは、メーカーから小売に至るまで、川上から川下のデータを同一クラウドデータベース上にすべて紐づけていくことで、ある商品がいつ、どこで、誰によって、どんな状態で管理されているかを可視化することができるようになります。

これにより、商品のトレーサビリティが高まり、産地やハラールの認証、違法コピーなど様々な偽造品問題を解消できるのではないか、と期待されています。