ブロックチェーンは不動産業界40兆円市場の切り札となりうるか?

不動産業界は、国内30万社、市場規模40兆円を誇る巨大産業です。その不動産業界で、今、ブロックチェーンを活用したビジネスが増えています。LIFULL、積水ハウス、Propy。不動産×ブロックチェーンは業界を変革できるのか?一挙、解説します!

不動産業界の有望技術として注目を集めるブロックチェーン

国内30万社、40兆円規模の不動産業界がブロックチェーンに期待を寄せている

不動産業界は、国内30万社以上のプレイヤーが存在し、市場規模は40兆円とも言われる巨大産業です。

日本にはおよそ600万社の企業が存在することを踏まえると、不動産の数は全業界の5%を占めていることになります。

また、当然、その歴史も古く、昔からの取引関係や商慣行などが色濃く残り続けている業界でもあります。

そうした不動産業界で、近年、ブロックチェーン技術を活用した新たなサービスがいくつもローンチされ、業界の課題解決に対する期待が高まっています

例えば、大手ハウスメーカーの積水ハウスでは、ブロックチェーンを活用した次世代不動産プラットフォーム構想が推し進められています。

出典:ITmedia「ハウスメーカーが構想する“不動産ブロックチェーン”の可能性とインパクト (1/3)」

ITmediaによると、同社は、「2019年3月には、KDDI、日立と、企業間の情報連携基盤を実現すべく、協創を開始」し、「本人確認情報(KYC)をブロックチェーン上で共有し、賃貸契約の利便性向上を実証実験によって検証し」た他、「同年9月27日には、大阪ガス、東邦ガス、損害保険ジャパン日本興亜、東京海上ホールディングス、三井住友海上火災保険も参画に加わり、住まいに関わる多くの手続きをワンストップ化させるための検討に入」りました。

また、2019年7月23日には、株式会社bitFlyer Blockchainが住友商事株式会社と業務提携を行い、独自ブロックチェーンmiyabiを活用した不動産賃貸契約の効率化を行っていく旨を発表しました。具体的には、「住宅の賃貸契約の電子化に加えて、借主がスマートフォン1つで物件の内見予約から契約、その後の契約更新から退去手続きに至るまでを行えるプラットフォームを目指し、両社は共同開発に着手」しています(カギ括弧内は仮想通貨Watchより引用)。

他にも、LIFULLによる不動産賃貸へのブロックチェーン導入や、外資企業のPropyによる国際不動産売買プラットフォームの構築など、この数年で、「不動産×ブロックチェーン」の動向は大きく様変わりし出したと言えるでしょう(なお、これらの事例については、本記事の後半でも紹介します)。

そもそもブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

不動産業界でブロックチェーンが注目される理由

不動産業界は、次のような特徴をもつ産業です。

  • プレイヤー数が多い
  • とりわけ古参のプレイヤーが多く、幅をきかせている
  • 情報に非対称性がある(借り手と貸し手、買い手と売り手、など)
  • 第三者仲介・管理が取引の基本形態になることが多い
  • 取引単価が大きい

これらの特徴から、不動産業界では、プレイヤー間の心理的な駆け引きや情報操作による「騙し」が横行しやすい傾向にあります。

また、第三者が介入することにより取引コストが大きくかかってしまうという課題も存在しています。

こうした状況に対して、ブロックチェーンは先ほど見たように、次のような特徴をもっています。

  • データ(取引記録)をオープンかつ正しく記録することができる
  • 中央管理者を設けず、当事者間でのデータ共有が可能

したがって、ブロックチェーンの技術を利用することで、不動産業界では、第三者仲介・管理による取引コストの増加を伴わずに、

  1. 利害が衝突したり見解が一致しない関係で、取引を簡単にする
  2. 従来証券化されてこなかった小口証券を実現する

といった課題解決が可能になるのです。

(これらの課題解決については、次の章でそれぞれ詳しくみていきます)

近年、不動産業界でブロックチェーンが注目される背景には、このような「オープン」「真正」「分散」といったブロックチェーンの諸特徴と不動産業界が抱えていた課題との相性の良さがあると言えるでしょう。

「不動産×ブロックチェーン」が解決しうる課題

「不動産×ブロックチェーン」が解決しうる課題A:利害不一致な取引の簡易化

不動産業界にブロックチェーンを導入することにより解決しうる課題の1つ目は「利害が衝突したり見解が一致しない関係で、取引を簡単にする」ことです。

先ほど見たように、不動産取引は全般的に「情報の非対称性」に基づいて無駄な取引コストが発生しているケースが多いと言えます。

これを、不動産のライフサイクルごとにあてはめた課題解決が行われています。

それぞれのフェーズにおいて、「誰と誰の間に非対称性があるのか?」に注目すると、課題の理解が容易です。

  • ライフサイクル①:登記
    • 「役所」と「登記申請者」間の非対称性が課題
    • 役所からすると、「不動産の所有者は本当にこの登記申請者本人なのか?」を確かめるのが難しい
    • そのため、権利証明や複雑な登記申請手続きが必要となり、登記申請者にとっても役所にとっても取引コストが増大する
    • 特に、発展途上国で解決できる問題が多い
  • ライフサイクル②:売買
    • 「買い手」と「売り手」間の非対称性が問題
    • 買い手からすると、「この人は本当に所有しているのか?」「隠れ担保がついてないか?」「入居者間や近隣で厄介なトラブルはないか?」、売り手からすると、「この人は本当に支払ってくれるのか?」という疑念が付きまとってしまう
    • そのため、双方の信用を担保するための第三者仲介が必要となり、いわゆる「両手取引」における高い二重の手数料が取引コストとなる。
  • ライフサイクル③:賃貸
    • 「借り手」と「貸し手」間の非対称性が課題
    • 借り手からすると、「ここは事故物件ではないか?」「家主はしっかりメンテナンスしてくれるのか?」、貸し手からすると、「この人は毎月きちんと家賃を支払ってくれるのか?」「この人はモンスター住民にならないか?」といった不安が生じてしまう
    • そのため、双方の信用を単肥するための第三者仲介が必要となり、いわゆる「両手取引」における高い二重の手数料が取引コストとなる
  • ライフサイクル④:修繕
    • 「 修繕に入る施工業者」と「過去の施工業者」間の非対称性が課題
    • 修繕に入る施工業者からすると、「今回修繕依頼されている水道の型番はそもそも何番なのか?」「過去にどんな修繕工事をしているのか?」といった情報が不明瞭。
    • そのため、物件情報や過去の施工情報など、必要ながらも可視化されていない情報を確かめるためのコストがかかったり、最悪の場合はわからないままとなってしまう

こうしたプレイヤー間の情報非対称性に起因した不動産取引の課題に対して、ブロックチェーンは、オープンかつ真正性の高い(データの改竄等がない)データ基盤において、第三者を排除した分散型の管理手法を提供することで、課題解決に寄与するとみられています。

「不動産×ブロックチェーン」が解決しうる課題B:小口証券の実現

不動産業界の課題でもう一つ注目されているのが、「小口証券の実現」です。

従来、不動産業界では、REIT(不動産投資信託)などにより、不動産の証券化が進められていました。

しかし、証券化できる不動産の規模は、中〜大規模なものに限定されており、たとえば、山村で廃屋になった古民家、ニュータウンで独居老人の住んでいた空き家、などはあまり対象とされてきませんでした。

これは、従来の不動産ファンドでは組成運用コストが大きくかかることから、小規模な不動産ではそのコストを回収しきることができず、ファンド組成が難しかったためです。

この課題に対して、ブロックチェーン技術を用いることで、トークンなどの活用により証券のデジタル化を進められ、組成運用コストを大幅に引き下げることが可能になります。

そのため、従来はコスト高になり踏み込めなかった小規模な不動産の証券化、つまり「小口証券」が実現されることになります。

そして、この小口証券化が進むことで、証券化できる不動産の幅が広がるだけでなく、中〜大規模の不動産には手を出せなかった個人投資家からも広く投資を募ることが可能になります。

実際に、不動産情報サイト大手のLIFULLは、2020年から、デジタル証券プラットフォームを提供する米セキュリタイズと提携して、日本でブロックチェーンを用いた不動産のデジタル証券化の実証実験を開始しています。

出典:coindesk JAPAN「LIFULLが不動産のデジタル証券化を実験、米セキュリタイズと【セキュリティトークン】」

具体的には、特別目的会社(SPC)が物件を小口トークン化し、投資家に売り出すという発行スキームで、ブロックチェーンを用いることで、配当や償還、二次流通を自動化する狙いがあります。

こうした取り組みが進むことで、REIT市場が取りきれなかった新たな不動産マーケットの開拓が進んでいくと見られています。

「不動産×ブロックチェーン」の事例

国内事例:LIFULL(不動産賃貸)

「不動産×ブロックチェーン」の代表事例として注目を集めているのが、不動産情報サイトを運営する株式会LIFULLによる不動産情報コンソーシアム「ADRE(Aggregate Data Ledger for Real Estate、アドレ)」です。

この取り組みは、「異業種プレーヤー間で不動産データを共有・連携することにより、不動産業界の抱える課題を解決するとともに、不動産業界・取引市場を発展させる」ことを目的に、2018年7月から異業種6社(LIFULL、NTTデータ経営研究所、NTTデータ先端技術、全保連、ゼンリン、ネットプロテクションズ)による共同で進められていたプロジェクトで、新たに、不動産取引に関わる手続きをワンストップで行うサービスなどを展開する株式会社エスクロー・エージェント・ジャパン(EAJ)、マンション管理組合に対して住宅設備やセキュリティ機器の提供などをしている三菱UFJリース株式会社、法律弁護士法人 鈴木康之法律事務所などが加わり、正式に発足しています。

出典:LIFULL HOME’S PRESS

LIFULLによると、ADREの背景となっている不動産業界の課題は次のようなものです。

「物件探しをしているとき、良いと思った物件について問合せると、すでに入居が決まっており、別の物件を紹介されたという経験はないだろうか。あるいは、不動産ポータルサイトなどに同じ物件の情報がいくつも表示され、どの情報が正しいのかよくわからないということも少なくない。不動産業界においては、1つの不動産に関する情報が、仲介会社や管理会社、インフラ会社などにバラバラに保有されているため、こうした問題が起こりやすい状況にある。」(LIFULL HOME’S PRESSより)

こうした課題を解決するコンソーシアムが成立し、プラットフォームデータベースが各社に共有されることで、これまで各社の中で個別に管理され、取引コストのもととなっていた情報がスムーズに共有され、不動産賃貸の領域において、様々なコストダウンが進むと見られています。

そして、こうしたADREによる「情報の非対称性」の解決をサポートしている技術が、ブロックチェーンです。

業界横断プラットフォームの中核技術としてブロックチェーンを採用した理由として、同社は「分散管理型のブロックチェーンは公的プラットフォームの構築に向いている」としています。

これは、本記事でも説明した通り、「オープン」で「中央管理者がいない」基盤であるブロックチェーンが、プレイヤー数が多く、利害関係が一致しづらい不動産業界の課題解決に向いていることを示す好例だと言えるでしょう。

海外事例:Propy(国際不動産売買)

もう一つ、「不動産×ブロックチェーン」の代表格として注目を集めている海外事例に、オンライン国際不動産売買プラットフォーム「Propy(プロピー)」があります。

Propyは、2015年に設立した、アメリカのカリフォルニアに拠点を置くフィンテック系ベンチャー「Propy Inc.(プロピーインコーポレーテッド)」が開発した、ブロックチェーンのスマートコントラクト機能を利用したプロダクトです。

「国際的な不動産取引では、ブローカー・取引の安全性を保証するエスクローサービス・土地の登記サービス・送金業者など複数の仲介業者とやり取りをする必要があ」り、「複数の仲介業者を介することは、取引の長期化や詐欺が発生するリスクが増大することに加え、大量の書類を作成・署名をする事務作業のコストも発生している」ことを背景に、Propyでは、「スマートコントラクトを用いることで様々な仲介手数料をなくし、世界中の登記所と連携することにより、効率的な不動産の国際取引の実現を目指してい」ます(カギ括弧内は、BLOCKCHAIN-BUISINESSによる事例解説より引用)。

スマートコントラクトとは、「契約条件の締結や履行がプログラムによって自動で実行される仕組み」のことで、従来であればヒトが逐一実行せざるを得なかった不動産取引における付随業務を、ブロックチェーン基盤上で取引を行うことで、ヒトの手を介さなくてもよくなり、結果として取引コストが大幅に引き下げられることになります。

Propyも、すでに説明した不動産業界における情報の非対称性に伴う取引リスク(とその結果として必要になる取引コスト)を減らすために、ブロックチェーン技術を活用している好例だと言えるでしょう。

「不動産×ブロックチェーン」の最新動向:STO

上でみたようなブロックチェーンによる業界課題解決に併せて、不動産業界には、ブロックチェーン関連の注目すべき動向がもう一つあります。

それが、「STO」と呼ばれる、ブロックチェーン技術を利用した新しい資金調達方法です。

STOとは、Security Token Offering(セキュリティ・トークン・オファリング)の略で、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法のことです(「セキュリティ」というのは「証券」という意味であることに注意して下さい)。

STOは、ICO(イニシャル・コイン・オファリング、新規仮想通貨公開、ブロックチェーンを利用した資金調達方法の一つ)の問題点であったスキャム(いわゆる詐欺)や仕組み自体の投機的性質を解消する、新しい資金調達方法として注目を集めており、1兆ドル以上のマーケットになるとの予想もなされています。

ICOと比較した際のSTOのメリットとしては、次の4点が挙げられます。

  1. 詐欺コインがなくなる
  2. 取引が24時間365日可能
  3. スマートコントラクトによる仲介の排除とコスト削減
  4. 所有権の分割ができるようになる

他方で、法規制に則って運用されるためにICOよりも自由度が低く、規制の管理下におかれるために、投資の参入障壁が低いことなどのデメリットもあります。

しかし、2019年の時点ですでに数億ドル以上のSTO案件が生まれていることを鑑みると、今後、STOが金融領域におけるブロックチェーンビジネスの注目株であることは間違い無いでしょう。

そして、実際に、2020年現在、不動産業界でのSTOへの注目度が高まっています

先ほど課題解決の一つとして説明した「小口証券の実現」でも、まさにこのSTOがうまく利用されています。

このように、STO自体は不動産に限った方法ではありませんが、業界との相性の良さから見て、STOは不動産業界における今後の一大潮流の一つになると予想されます。

【業界動向】物流×ブロックチェーンは何を実現する?最新の活用事例も!

ブロックチェーンは、国内67兆円の潜在マーケットをもつ有望技術です。特に物流業界と相性がよく、①台帳共有による合理化、②偽造品排除の二側面から注目を集めています。IBM等の最新事例と共に物流のデジタルトランスフォーメーション動向に迫ります。

今、「物流×ブロックチェーン」が熱い。

巨大なブロックチェーンビジネスの市場

ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並んで、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有望技術の一つです。

DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、大きくは産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーション、小さくは開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革など、仕事だけでなく、私たちの生活全体を大きく変える可能性として期待されています。

出所:平成27年度 我が国経済社会の 情報化・サービス化に係る基盤整備 (ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに 関する国内外動向調査) 報告書概要資料

経済産業省が平成27年度に発表したブロックチェーンに関する調査資料によると、ブロックチェーンは将来的に、国内67兆円の市場に影響を与えると予想されています。

具体的には、大きく次の5つのテーマで、社会変革・ビジネスへの応用が進むとされています。

  1. 価値の流通・ポイント化・プラットフォームのインフラ化
  2. 権利証明行為の非中央集権化の実現
  3. 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現
  4. オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現
  5. プロセス・取引の全自動化・効率化の実現

「ブロックチェーン×物流」に集まる注目

ブロックチェーン市場の中でも特に注目を集めており、2020年現在、世界的にビジネスマーケットの拡大が進んでいるのが、物流業界のデジタルトランスフォーメーションです。

物流業界は、サプライチェーンの中流に位置している業界であるため、ビジネスが自社だけで完結しない場合が多く、「川上」から「川下」まで非常に多くの関係者が存在します。

また、伝票の発行作業を始め、商品番号の照合、輸出入であれば通関手続き、荷役作業等々、一つの取引を完了させるために、数多くの付随業務が発生します。

そのため、それぞれの関係者間でやり取りを行うたびに、似たような付随業務を重複して行うことが増え、その分のコストが積み重なってしまいます。

さらに、こうした「取引コスト」がかさむ一方で、物流業界は、セキュリティやトレーサビリティ(物流における商品の追跡可能性)などその他数多くの問題もはらんでいます。

こうした課題感を背景に、近年、ブロックチェーンによるサプライチェーンの再定義が行われ始めています。

例えば、グローバルEC企業であるAmazonは、2020年5月26日に、3年前に出願した「分散型台帳認証」の特許申請が承認されたことで、グローバルサプライチェーンの課題に対してブロックチェーンを用いたソリューションを提供し始める構えを見せています。

具体的には、ハイパーレジャー(Hyperledger)などの分散型台帳技術(DLT)によってデータの改ざんを防ぎ、単一障害点(停止するとシステム全体が停止する箇所)を取り除くなど、中央集権型組織の管理上の問題を回避しようという方針です。

また、IBMは、コンテナ船世界最大手のA.P. Moller-Maersk(A.P.モラー・マースク、以下マースク)との共同でブロックチェーン基盤の海上物流プラットフォーム「TradeLens」を構築した他、世界最古の医薬品・化学品メーカーであるMerck KGaA(メルク・カーゲーアーアー、以下メルク)と共に偽造品対策プラットフォームを立ち上げています。

さらに、アジアに目を転じてみても、中国EC市場シェア2位のJD.com(以下JD)がブロックチェーンに関連する200件超もの特許を申請したという報道がなされるなど、世界最大の人口を抱える中国においても、物流のシステム全体をブロックチェーンによって強化していく流れがみられています。

まさに、「ブロックチェーン×物流」に大きな注目が集まっていると言えるでしょう。

なぜ、「物流×ブロックチェーンが熱い」のか?

そもそも、ブロックチェーンって何?

ブロックチェーンは、2008年にサトシ・ナカモトと呼ばれる謎の人物によって提唱された「ビットコイン」(暗号資産システム)の中核技術として誕生しました。

ブロックチェーンの定義には様々なものがありますが、ここでは、「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」として理解していただくと良いでしょう。

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言いますが、ブロックチェーンはデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術です。

「分散型台帳」とも訳されるブロックチェーンは、中央管理を前提としている従来のデータベースとは異なり、常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴を備えています。

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

なお、ブロックチェーンの概念自体についてより詳しく知りたい方は、下記の記事も併せてご覧ください。

👉「【初心者必見】ブロックチェーンとは?ビジネスの新常識を分かり易く!

👉「【ビジネスパーソン向け】ブロックチェーンの仕組みを20分で理解しよう!

ブロックチェーンと物流課題の相性の良さ

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」という特徴を踏まえた上で、なぜ、「ブロックチェーン×物流業界がアツい」のでしょうか?

これは、結論からいえば、「物流業界のニーズとブロックチェーン開発会社の利害が見事に一致した」とみるのが妥当でしょう。

物流業界のニーズ

まず、物流業界側のニーズとして、「もともと物流業界は取引をデジタル化しようにも、プレーヤーが多すぎて中央のデータベースを誰が管理するかで意思統一できなかった」という課題がありました。

物流業界での取引をデジタル化するということは、サプライチェーンの上流と下流における業務プロセスを垂直的に統合していく、あるいは、競合関係にある同流の他社とデータを共有していく必要があります。

この「データの持ち寄りと共有」を実現するために、従来のデータベースの考え方では、どうしても中央管理者を設けなければなりません。

しかし、利害関係の異なる複数組織間で中央管理者を設定することは非常に難しく、この意思決定が大きな壁として立ちはだかっていたのです。

これに対して、ブロックチェーンは先ほどみたように、中立的でオープンな「非中央集権性」をもった技術です。

データ共有をセキュアに、また利害関係の衝突なく行うために、ブロックチェーンはまさに「渡りに船」な技術だと言えます。

こうした理由から、物流業界のニーズに対して、ブロックチェーンはマッチしています。

ただし、よく勘違いされる点として、「ブロックチェーンが従来のデータベースで解決できなかった技術的問題を突破した」と思われることも少なくありませんが、必ずしもそういうわけではありません。

もちろん、ブロックチェーンには従来のデータベースにはない技術的特徴がありますが、ビジネス活用を行う上では、「ブロックチェーンじゃなければいけない」というケースは存外少ないものです。

むしろ、どちらかといえば、「ブロックチェーンじゃなきゃいけないわけではないけれども、色々考えると、ブロックチェーンを利用した方が結果としてメリットが大きい」ためにブロックチェーンを利用するケースが増えてきているので、自社のビジネス活用を考える上ではその点に注意が必要でしょう。

ブロックチェーン開発会社のシーズ

他方、シーズ側、つまりブロックチェーンを推進したいシステム開発会社側の思惑も、物流業界へのブロックチェーン導入を後押しする形になりました。

もともと、ブロックチェーンはビットコインを支える基幹技術として誕生した経緯もあってか、「ブロックチェーン=ビットコインなどの暗号資産技術」「ブロックチェーン=Fintech」のように考えられがちです。

しかし、ブロックチェーンの技術的可能性は金融領域にとどまるものではなく、開発会社は、より自分たちのビジネスを拡大していくために、暗号資産(仮想通貨)以外の適用領域を探していました。

開発会社がシーズとして求めていた領域は、次のような、ブロックチェーンの特性をうまく活かせる条件をもった領域でした。

  • データベース共有によるコスト削減メリット →「プレーヤーが多すぎて非効率」な業界
  • 非中央集権性 → 現時点で中央管理者が不在な方が実現しやすい
    →「GAFAも中国もいない」な業界
  • 優れたトレーサビリティ(データの追跡可能性) →「嘘が多い」業界

こうした諸条件をもとに開発機会を各社が探していったところ、例えば不動産や医療など複数の業界が該当することになります。

そして、その一つとして、物流、サプライチェーンといった領域がフォーカスされれることになりました。

このように、「物流×ブロックチェーン」は、①非中央集権性というブロックチェーンの思想に物流業界のニーズがマッチしていたこと、②開発会社の事業投資機会として好ましいマーケット特性を物流業界が有していたこと、という双方向のニーズ・シーズ合致が見事に結果を産んだ好例と言えるでしょう。

物流×ブロックチェーンで実現しうる2つの効果と活用事例

「物流×ブロックチェーン」では、大きく次の2つの効果を期待することができます。

  • 効果①:台帳共有による合理化
  • 効果②:偽造品排除

実際の活用事例をみながら、順に、説明していきましょう。

物流×ブロックチェーンの実現効果①:台帳共有による合理化

「物流×ブロックチェーン」が実現する効果の一つ目は、「台帳共有による合理化」です。

通常、物流業界では、関係各社が独自のルール・フォーマットで文書(データ)を作成し、それぞれの台帳(データベース)で管理を行なっています。

また、それらのデータが紙ベースの業務で処理されることも少なくありません。

これらの状況から、関係各社同士での連携業務においては、絶えずオペレーションエラーのリスクを抱えながら、ヒトによる非効率な突合作業が繰り返されることで、必要以上の膨大なコストがかかってしまっています。

これに対して、取引をデジタル化し、ブロックチェーンを利用してデータベースを共有することで、各社の連携業務を合理化し、大幅なコスト削減をはかることができます。

出典:『ブロックチェーンは「国境」を打ち破る IBMが乗り出す「信頼の基盤作り」とは』(IT media NEWS)

例えば、ある貨物をA社からB社へと引き渡す際に、現状では、①A社でまずその貨物の伝票番号を確認し、B社へと引き渡した後にも、②B社内で同じ貨物の伝票番号確認を行うことで、1つの貨物に関する1回の移動について合計2回の作業が発生してしまいます(※わかりやすさのために話を簡便化しています)。

なぜなら、A社とB社では同じ貨物に対して異なるフォーマットでの管理を行なっており、それぞれのやり方で、それぞれのデータベースに情報を入れていく必要があるからです。

ここで、もし、A社とB社がデータベースを共有し、同じフォーマットで情報管理を行なっていたとしたらどうでしょうか?

その場合、A社とB社がそれぞれに確認作業を行う必要はなく、それまで2回行なっていた作業を1回に減らすことが可能になります。

こうした作業量削減のメリットの大きさは、日々、膨大な作業量に追われている物流業界の方であれば身にしみて理解できることでしょう。

このような「台帳共有による合理化」を国際貿易の舞台で大々的に実現させようとしているのが、本記事冒頭でも紹介した「TradeLens」です。

TradeLensは、2016年9月から、IBMとコンテナ船世界最大手のマースクとの共同で検証を開始したブロックチェーン基盤の海上物流プラットフォームで、荷主・ターミナル・運送業者・船社・海上保険・通関業者など、海上物流に関係するあらゆる会社間でのデータベース共有を実現し、業界全体の非効率を解消しようという一大プロジェクトです。

IBM社の発表資料によると、国際貿易は、次のような業界課題を抱えています(下記、同資料より本文の一部を抜粋)。

  • データは組織のサイロに閉じ込められている
    • 情報はサプライ・チェーン内の数十のサービス・プロバイダーによって紙やさまざまなデジタル・フォーマットで保持されていて、複雑で、わずらわしい、経費のかさむ一対一のメッセージングを必要としています。
    • 結果として組織の境界を越えると情報が矛盾し、船荷がなかなかはっきりわ からず、さらには場所によっては見えないので、効率的な流れが妨げられています。
  • 手作業、時間のかかる、紙ベースの処理
    • 最新データの収集、処理と非効率な貿易ドキュメントの交換のために、手作業で確認したり、頻繁にフォローアップが必要だったりして、ミスや遅れが生じたり、コンプライアンス・コストがかさむといった結果になります。
    • 情報が足りないために、ドキュメントは常に遅れます。
  • 通関手続きに時間を要し、不正も発生
    • 税関当局によるリスク評価は十分な信頼できる情報が欠けているために、検査率が高くなり、詐欺や偽􏰀に対する防止手段が追加されて、通関手続きが遅れます。
  • 高コストと低レベルな顧客サービス
    • これらの難問が下流に大きな影響を与えます。
    • 効果的な予測、計画やサプライ・チェーンの混乱に対するリアルタイムの対応、サプライ・チェーン全体 での信頼できる情報の共有などができないので、過剰な安全在庫、高い管理コスト、運用上の難問、最終的には貧弱な顧客サービスにつながります。

こういった課題に対して、TradeLensでは、「グローバル・サプライ・チェーンのデジタル化」を掲げ、オープンソースの権限型ブロックチェーンであるHyperledger Fabricを元にしたIBM Blockchain Platformを利用することで、関係各社すべてでの台帳共有を実現しようとしています。

物流×ブロックチェーンの実現効果②:偽造品排除

「物流×ブロックチェーン」が実現する効果の二つ目は、「偽造品排除」です。

偽造品は物流業界の天敵とも呼べる存在で、経済協力開発機構(OECD)などによると、2016年に世界で取引された偽造品と違法コピー品は5090億ドル(約53兆円)にのぼるとも言われています。

近年、この偽造品問題をブロックチェーンを利用して解決しようという動向が、国内外に大きく広がっています。

そもそも、偽造品がここまで大きな問題でありながらもこれまで解決されてこなかった理由は、既存の物流システムが「トレーサビリティ(追跡可能性)」を高め切ることができなかったからと考えられます。

トレーサビリティとは、ある商品が生産されてから消費者の手元に届くまでにどのような経路を辿ってきたのかを正確に追跡できる程度、つまりサプライチェーンの透明性を表す概念です。

既存の物流システムでは、生産者から一次流通業者、一次卸売業者、二次流通業者・・・と、サプライチェーン上に数多くの関係者が存在しています。

さらに、それらの企業は、各社で異なる商品管理体制を敷いており、他社内で商品がどのように取り扱われているのかをすべて把握できるプレイヤーは存在しません。

したがって、ある商品が偽造品であったり、不良品であったりした場合も、それがどの時点での問題であったかを即座に特定することは難しく、問題の原因を排除できないまま次の問題を生じたり、適切な対応をしている企業が二次被害を被ったりしてしまいます。

この課題に対して、ブロックチェーンはその仕組み上、過去の全取引データを時系列順に格納・検索することができ、加えてデータの対改竄性が非常に高いため、悪徳業者による不正を防ぐことができます。

その特徴を「偽造品排除」の文脈でうまくビジネス利用しようとしているのが、日通(日本通運)です。

2020年3月9日の日本経済新聞の記事によると、「日本通運はアクセンチュアやインテル日本法人と組み、ブロックチェーン(分散型台帳)を活用した輸送網の整備に乗り出」し、「まず医薬品を対象に2021年の構築を目指しており、倉庫の整備などを含め最大1千億円を投資する」ことで、「偽造医薬品の混入を防ぐための品質管理に生かし、将来は消費財全般に応用する」ことを発表しています(「」内は同記事からの引用)。

出典:「日通、ブロックチェーンで偽造品排除 物流に1000億円」( 2020/3/9 1:30日本経済新聞 電子版)

上図のように、ブロックチェーンを利用した偽装品排除の取り組みでは、メーカーから小売に至るまで、川上から川下のデータを同一クラウドデータベース上にすべて紐づけていくことで、ある商品がいつ、どこで、誰によって、どんな状態で管理されているかを可視化することができるようになります。

これにより、商品のトレーサビリティが高まり、産地やハラールの認証、違法コピーなど様々な偽造品問題を解消できるのではないか、と期待されています。

ブロックチェーンのビジネス活用は非金融がアツい!事業化3つの視点とは?

国内67兆円の市場に影響を与えるブロックチェーンマーケット。ビジネス活用は、金融/非金融/ハイブリッドの3領域のうち、2020年は、特に、非金融領域が盛り上がっています。事業化で重要な3つの視点とは?最新事例と共に解説します!

ブロックチェーンって何?

ブロックチェーンとビットコイン

ブロックチェーンは、ここ数年、世間を騒がせている「ビットコイン」を支える中核技術の一つです。

ビットコインとは、仮想通貨あるいはその背景にあるネットワークおよびソフトウェアの総称のことで、下記のような、暗号技術を中心とする新旧さまざまなテクノロジーを駆使し、うまく組み合わせることで実現されたイノベーションであると言われています。

  • 分散化されたP2P(Peer-to-Peer)ネットワーク(=Bitcoinプロトコル)
  • 数学的かつ決定論的な通貨発行(=分散マイニング)
  • 分散取引検証システム(トランザクションscript)

(出典:pixabay

その中でも、近年、特に注目を集めているのが、日本語では「分散型台帳」などと表現される新技術、「ブロックチェーン」です。

ブロックチェーンは、従来のデータベースが抱えていた諸課題を解決しうる期待の新技術として、金融、物流、医療、不動産、セキュリティなど、ありとあらゆる産業への応用が期待されており、経済産業省のブロックチェーン関連市場規模予測では全体で67兆円とも言われています。

なお、ブロックチェーンの技術について詳しくお知りになりたい方は、下記の記事も併せてご確認ください。

ブロックチェーンは技術の組み合わせ?〜P2P・Hash・公開鍵暗号〜

ブロックチェーンの定義

ブロックチェーンには様々な定義が存在しますが、本記事では、出来るだけ分かり易くするために、ビットコイン環境下を前提にしつつ、次のように簡略化した定義で解説していきたいと思います。

ブロックチェーンの定義:「取引データを適切に記録するための形式やルール。また、保存されたデータの集積(≒データベース)」

一般に、取引データを集積・保管し、必要に応じて取り出せるようなシステムのことを一般に「データベース」と言います。

ブロックチェーンは、このデータベースの一種であり、その中でも特に、データ管理手法に関する新しい形式やルールをもった技術なのです。

ブロックチェーンの特徴:「分散型台帳」って?

ブロックチェーンは、「分散型台帳」とも表現される通り、ビジネスに限らず、あらゆる取引記録を保管するデータベースとしての機能をもっています。

後に説明するように、この「分散型」という特徴が、ブロックチェーンを際立たせています。

では、具体的に、ブロックチェーンは従来のデータベースと何が違うのでしょうか?

分散台帳とは.jpg

従来のデータベースの特徴

  • ① 各主体がバラバラな構造のDBを持つ
  • ② それぞれのDBは独立して存在する
  • ③ 相互のデータを参照するには新規開発が必要

ブロックチェーンの特徴

  • ①’ 各主体が共通の構造のデータを参照する
  • ②’ それぞれのストレージは物理的に独立だが、Peer to Peerネットワークを介して同期されている
  • ③’ 共通のデータを持つので、相互のデータを参照するのに新規開発は不要

従来のデータベースは基本的に独立しており、データ共有にあたっては主従関係が発生します。

その点、ブロックチェーンは常に同期されており中央を介在せずデータが共有できるので参加者の立場がフラット(=非中央集権、分散型)という特徴をもちます。

こうしたブロックチェーンの「非中央集権性」の恩恵としては、

  • 中央を介さないので中間手数料がない、または安い
  • フラットな関係でデータの共有が行えるので競合他社同士でもデータを融通できる
  • 改竄や喪失に対して耐性がある

ということが挙げられます。

まさにこの「非中央集権、分散型」という特徴こそ、ブロックチェーンが様々な領域で注目・活用されている理由だと言えるでしょう。

こうした、ブロックチェーンのメリットやデメリットをまとめると、以下の通りです。

ブロックチェーンのメリットデメリット.jpg

これらのデメリットについてはBitcoin以降のブロックチェーンで次々に改善されるものが登場してきており、将来的には解消されていくものと予想されています。

なお、「ブロックチェーンとは何か?」をより詳しく、全体的にお知りになりたい方は、下記の記事も併せてご覧ください。

【初心者必見】ブロックチェーンとは?ビジネスの新常識を分かり易く!

ブロックチェーンビジネス市場の現状(2020年6月現在)

ブロックチェーンは、「AI」「IoT」と並んで、DX(デジタルトランスフォーメーション)分野で期待される有望技術の一つです。

DXとは、「情報テクノロジーの力を用いて既存産業の仕組みや構造を変革すること、あるいはその手段」のことで、大きくは産業全体のバリューチェーンやサプライチェーンにおけるイノベーション、小さくは開発企業におけるエンジニアの就労環境改善や社内コミュニケーションツールの変更といった自社の変革など、仕事だけでなく、私たちの生活全体を大きく変える可能性として期待されています。

その中でも特に、ブロックチェーンは、既存技術では解決できなかった課題を乗り越える新しい手段として、ビジネスのみならず、官公庁の取り組みにおいても広く注目を集めています。

その背景として、もともとはFintech(フィンテック、金融領域におけるDX)の一分野である仮想通貨(または暗号通貨)の実現を可能にした一要素技術、つまりビットコインを支えるだけの存在に過ぎなかったブロックチェーンが、近年、金融領域にとどまらず、あらゆる既存産業・ビジネスで応用できる可能性を秘めた技術であることが明らかになってきました。

出所:平成27年度 我が国経済社会の 情報化・サービス化に係る基盤整備 (ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに 関する国内外動向調査) 報告書概要資料

経済産業省が平成27年度に発表したブロックチェーンに関する調査資料によると、ブロックチェーンは将来的に、国内67兆円の市場に影響を与えると予想されています。

具体的には、大きく次の5つのテーマで、社会変革・ビジネスへの応用が進むとされています。

  1. 価値の流通・ポイント化・プラットフォームのインフラ化
  2. 権利証明行為の非中央集権化の実現
  3. 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現
  4. オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現
  5. プロセス・取引の全自動化・効率化の実現

1つ目は、「トークン」といった言葉に馴染みがあるかと思いますが、狭義でいえば、いわゆる「仮装通貨」の領域です。

これは、すでに世界的にも幅広くビジネス活用が実現されており、今後はさらに、地方自治体等の非営利セクターで活用されていくことが期待されます。

2つ目は、例えば「ハンコ」の代替など、権利の証明をブロックチェーンで行ってしまおうという試みで、産業レベルで言えば、ProppyやLIFULLなど、不動産領域での利活用がすでに進み始めています。

3つ目は、近年ビジネスで注目を集めている経済変革の潮流である「シェアリングエコノミー」の文脈におけるブロックチェーンの応用です。

インターネットの登場と技術進化によって、例えばカーシェアリングや民泊など、個人資産を共有することによる社会全体の価値増加が可能になってきました。

ブロックチェーンには、この流れをさらに加速するための課題である「権利移転の証明」「権利主体の評価」といった問題を解決し、「セキュアな所有権移転」を実現できる可能性があります。

4つ目は、製造業〜物流業〜卸売業〜小売業にいたる、サプライチェーン全体の効率化を進めようという考え方です。

特に、いわゆる「川上」である製造・物流業界では、IBMを中心に世界的な業界変革の動向がみられており、世界最大の海運コングロマリットであるデンマークのMAERSK(マースク)や世界最古の医薬品・化学品企業であるドイツのMerck(メルク)といった超大物企業が、ブロックチェーンを利用した大規模プラットフォームを構築しています。

5つ目は、「スマートコントラクト」と呼ばれる、取引プロセス全自動化による業務効率化の話です。

スマートコントラクトは、取引に必要なプロセスをブロックチェーン基盤上で行うことで、取引主体者が作業を行わなくとも自動的に取引が履行されるような仕組みのことを指します。

これにより、これまで一つの取引を成立させるためにかかっていた業務コストを大幅に削減することが可能になります。

このように、ブロックチェーンの技術的可能性が明らかにされるにつれ、金融だけに限らない、様々な領域でのビジネス活用が進むようになってきています。

しかし、国内市場の現状では、ブロックチェーンはまだまだその真価を発揮しているとは言い難く、企業の国際競争において、日本企業が取り残されてしまうリスクも大いにあります。

これは、67兆円という市場規模予測からもわかる通り、ブロックチェーンの影響範囲が非常に広く、技術に馴染みのない方には「結局どのようなビジネス活用が可能なのか?」が理解しにくいことが普及の課題となっているためです。

そこで、本記事では、ブロックチェーンのビジネス活用を理解するために、①金融/非金融/ハイブリッドの3領域に大きく分けた上で、②特に応用範囲が広く市場規模の大きな「非金融」を重点的に、事業化のコツとなる視点や実際の事例を紹介してまいります。

ブロックチェーンのビジネス活用が進む3つの事業領域

ブロックチェーンビジネスの事業領域は金融/非金融/ハイブリッドの3つに区分できる

 

ブロックチェーンビジネスは、基本的に、金融/非金融/ハイブリッドの3領域に大別されます。

ここでいう「金融領域」とは、平たく言えば「Fintech」と言われる領域のことで、より正確には「暗号資産(=仮想通貨)を活用した領域」と考えてください。

「暗号資産(仮想通貨)」とは、例えばビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)など、インターネット上でやりとりできる財産的価値のことで、「資金決済に関する法律」において、次の性質をもつものと定義されています。

(1)不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる

(2)電子的に記録され、移転できる

(3)法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない

暗号資産は、かつては「仮想通貨」と呼ばれており、いまだにその呼称の方が馴染み深い方も多いでしょうが、2019年3月15日に暗号資産に関する法改正が閣議決定され、呼称の変更が行われました。

こうした暗号資産を用いたビジネスが、ブロックチェーンビジネス第一の領域です。

これに対して、暗号資産ではなく、データの対改竄性やP2Pネットワーク、スマートコントラクトなど、ブロックチェーンの技術そのものを応用した産業・業務変革も盛んに行われています。

こうした「非金融」なビジネスが、ブロックチェーンビジネス第二の領域です。

基本的には、これら2つの領域に分けられますが、少しややこしい問題として、「非金融ながら暗号資産を活用する」ハイブリッドな領域も存在しています。

例えば、「トークンエコノミー」と呼ばれるビジネスモデルでは、ネットワーク独自に発行された暗号資産、つまりトークンをビジネス上の通貨として利用していますが、その目的は、暗号資産の運用益そのものではなく、あくまでトークンを活用した経済圏の構築と経済圏内の取引の活性化にあります。

このように、ブロックチェーン×金融の結晶である暗号資産を用いながら、非金融領域の課題解決を目指すような「金融×非金融」のハイブリッドなビジネスが、ブロックチェーンビジネス第三の領域です。

次に、これら3つの領域について、それぞれのビジネス活用の方向性をみていきましょう。

ブロックチェーンの金融領域におけるビジネス活用

金融領域のブロックチェーンビジネスって、ビットコイン?それともICO?

ブロックチェーンビジネス第一の領域は、「金融領域」です。

先ほども説明した通り、金融領域とは、暗号資産(仮想通貨)の利活用を目的としたビジネス領域と考えてください。

「Fintech」という用語に馴染みのある方も多いかと思いますが、必ずしも「ブロックチェーンの金融領域=Fintech」というわけではないため、注意が必要です(後に説明する「ハイブリッド領域」のビジネスを指して”Fintech”と呼ばれることもあります)。

この領域におけるビジネス活用として、まずはじめに思い浮かぶのは、暗号資産取引でしょう。

暗号資産取引は、ブロックチェーンの生みの親であるサトシ・ナカモトが提唱した「ビットコイン」を代表格に、イーサリアムやリップルなどの暗号通貨、つまりブロックチェーン技術を応用した法定通貨以外の新通貨の売買等を通して、キャピタルゲインを獲得することをインセンティブとしたビジネスです。

例えば、ビットコインでは、PoWというコンセンサスアルゴリズム(合意形成のルール)に基づいたマイニングと呼ばれるコンピュータの演算作業を通じてビットコインを報酬として獲得し、仮想通貨取引所を通じて他の投資家等に売却することで、利益を得ることができます。

(こうしたブロックチェーンネットワークの仕組みについて詳しく知りたい方は、「【ビジネスパーソン向け】ブロックチェーンの仕組みを20分で理解しよう!」を併せてご覧ください。)

また、新規事業立ち上げや経営企画などの職種に関わっている方であれば、「ICO」を思い浮かべられるかもしれません。

ICOとは、Initial Coin Offering(イニシャル・コイン・オファリング、新規仮想通貨公開)の略で、企業が仮想通貨を発行し、それを購入してもらうことで資金調達を行う方法のことです。

「クラウドセール」「トークンセール」「トークンオークション」とも呼ばれるこの方法は、IPO(Initial Public Offering、新規公開株)、いわゆる株式上場の問題点である審査の難度やコストの高さを解決する方法として、一時期、大きな注目を集めました。

しかし、投資に対するハードルの低さが災いし、ICOの仕組みを悪用した詐欺事件なども起こってしまったこともあり、近年では、一時期の勢いは見られないのが現状でしょう。

金融領域のブロックチェーンビジネスで関心が高まる、「STO」領域って?

先ほど見たように、金融領域におけるブロックチェーンのビジネス活用方法は、かつては暗号通貨取引やICOが主流でした。

しかし、最近のトレンドとしては、政府も関与する「STO」の領域に関心が高まってきています。

STOとは、Security Token Offering(セキュリティ・トークン・オファリング)の略で、有価証券の機能が付与されたトークンによる資金調達方法です(「セキュリティ」というのは「証券」という意味であることに注意して下さい)。

STOは、ICOの問題点であったスキャム(いわゆる詐欺)や仕組み自体の投機的性質を解消する、新しい資金調達方法として注目を集めており、1兆ドル以上のマーケットになるとの予想もなされています。

ICOと比較した際のSTOのメリットとしては、次の4点が挙げられます。

  1. 詐欺コインがなくなる
  2. 取引が24時間365日可能
  3. スマートコントラクトによる仲介の排除とコスト削減
  4. 所有権の分割ができるようになる

他方で、法規制に則って運用されるためにICOよりも自由度が低く、規制の管理下におかれるために、投資の参入障壁が低いことなどのデメリットもあります。

しかし、2019年の時点ですでに数億ドル以上のSTO案件が生まれていることを鑑みると、今後、STOが金融領域におけるブロックチェーンビジネスの注目株であることは間違い無いでしょう。

ブロックチェーンの非金融領域におけるビジネス活用

ブロックチェーンビジネス第二の領域は、「非金融領域」です。

非金融領域とは、暗号資産(仮想通貨)を使わない領域のことで、台帳共有や真贋証明、窓口業務の自動化など、既存産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈で、今、最も注目を集めている領域と言えるでしょう。

非金融領域のブロックチェーンビジネスが注目を集めている理由としては、①適用範囲が非常に広い(どの産業にも可能性がある)、②したがって適用領域の市場規模が大きくなる可能性が高い(政府予想では数十兆円規模)、③これまでに実現してこなかった産業レベルでのイノベーションが起こりうる可能性がある、といったところでしょうか。

門戸が広がったとは言え、まだまだ参加できるプレイヤーが限られている金融領域と比べて、非金融領域では、業務課題レベルからの解決が十分に可能なため、新規事業立ち上げや経営企画の方だけでなく、あらゆる職種の方にとって、この領域について理解しておくことは自社の役に立つかと思います。

非金融領域におけるブロックチェーンビジネスの事業化にあたっては、3つの視点に分けて考えるとわかりやすいでしょう。

すなわち、「直接化」「民主化」「自由化」の3つの視点です。

いずれも、取引における主体者同士の関わり方を構造的に捉えたもので、ブロックチェーン以前の取引が中央管理者からの一方向的な形であったのに対して、ブロックチェーンビジネスでは、非管理者のメリットが増す形に商流を変化させています。

これらの視点の詳細については、次の章で詳しく見ていくこととしましょう。

ブロックチェーンビジネスのハイブリッド領域におけるビジネス活用(非金融×暗号資産)

ブロックチェーンビジネス第三の領域は、「ハイブリッド領域」です。

ハイブリッド領域とは、金融×非金融、つまり暗号資産を非金融領域での課題解決へと応用している領域です。

乱暴に言えば、「実ビジネスに仮想通貨決済を導入させたい領域」とも言えるでしょう。

わかりやすい例としては、いわゆる「トークンエコノミー」もこの領域のビジネスと考えられます。

上でも説明したように、トークンエコノミーは、例えば地方自治体など一定の経済圏や自社ネットワークをもつような法人が、その影響範囲内にトークンと呼ばれる仮想通貨決済システムを導入することで、その中でのビジネスを活発化しながら顧客を囲い込んでいこうという取り組みです。

この手の取り組みで、最も大手のところで言えば、MUFGコイン(発表当時の名称、現在はcoin)がこれに該当するでしょう。

しかし、こうしたトークンエコノミーに代表されるハイブリッド領域は、直感的にイメージがしやすく、美しいビジネスモデルも容易に描けてしまう(例えば「●●経済圏」といったワードは事業家として胸踊るものがある)一方で、実際にビジネスを推進する上での課題は多く、難度が非常に高くなるケースが多いため、事業化の際には十分な注意が必要です。

特に、ブロックチェーン開発企業との協業において、「サービス自体の売り上げよりも、決済に使う仮想通貨の値上がり益によって儲けましょう」という提案が行われる場合には注意した方が良いでしょう。

理由は、下記の通りです。

  • 新興基盤の多くは1年ももたずに消えていくため
  • いざサービス開発をしようという時に過去のユースケースが少ないのでバグやシステムトラブルが発生した時にエンジニアがお手上げになるケースが多いため
  • 仮想通貨の値上がり益がインセンティブになることから、事業課題の解決のためのインセンティブがおろそかになってしまい誇大広告や詐欺の温床になるケースが多いため

そのため、もしもあなたが大手企業の事業企画担当者として「トークンエコノミー」などのハイブリッド領域におけるブロックチェーンビジネスを検討しているのであれば、提案を受けた基盤の過去のケース数を確認することをおすすめします(GitHubなどで)。

また、この領域は資金決済法の適用を受けるので、事業企画においても繊細な配慮が必要な点について法務部門から「突っ込まれる」可能性が高いため、注意しておく必要があるでしょう。

非金融領域におけるブロックチェーンビジネス・事業化の3つの視点

先述した通り、非金融領域におけるブロックチェーンビジネスには、事業化にあたって抑えておくべき3つの視点があります。

  1. 「直接化・自動化」
  2. 「民主化・透明化」
  3. 「相対化・自由化」

これらはすべて、取引関係における中央管理者とどのような関係を組むか、という問いに対する視点です。

それぞれ、順にみていきましょう。

非金融ブロックチェーンビジネス・事業化の視点①:「直接化・自動化」

事業化のロジック

ブロックチェーンをビジネス活用する上で重要な「事業化の視点」、その一つ目は、「直接化・自動化」です。

これは、上図の通り、取引のプロセスを合理化することによって、いわゆる「取引コスト」を削減しようという視点です。

あらゆる産業のあらゆる取引にはヒト・モノ・カネ・情報の流通プロセスがあり、そのプロセス内では、取引の主体者や取引自体の信用を担保するための付随業務が至るところで発生しています。

また、それらの業務を適切に遂行し、取引を無事に遂行する上では、「信用に値する第三者」を経由するのが常套手段です。

身近なわかりやすい例で言えば、銀行がその最たるものでしょう。

カネ、つまり信用そのものの流通を取り扱うために、私たちは中央銀行(日本であれば日本銀行)をはじめとした「信用に値する」中央管理者に第三者委託し、銀行が取引にかかる業務を代理履行してくれることで、スムーズな取引が可能になっているのです。

しかし、その一方で、第三者を介することは、中央管理者による規制や圧迫、中間マージンによるコスト高、商流の延長によるリードタイムの間延びなど、様々な取引コストの発生を意味します。

また、取引に付随する業務を履行することそのものにも、大きな人件費がかかってきます。

この問題に対して、「分散型台帳」技術とも言われるブロックチェーンでは、その仕組み上、ネットワークの参加者が個人レベルで(Peer to Peerで)、信用を担保しながら、安全に取引を行うことができます

また、スマートコントラクトと呼ばれる仕組みによって、ブロックチェーンの基盤上で定型業務の履行を自動的に行うこともでき、これまで管理業務に費やされてきた膨大な時間や人件費を削減することもできます

ビジネス活用のアイデアとしては、例えば、次のようなイメージです。

  • 参加者個人同士のシェアリングサービスにおける管理業務を合理化する
  • トレーサビリティを第三者認証なしで実現する
  • 社長がいない株式会社

このように、取引を主体者同士で直接行なったり、取引そのものを自動的に履行させる仕組みをつくったりすることで、商流にかかわる取引コストを大幅に削減しようというのが、「直接化・自動化」の視点です。

ビジネスケース①-A:自律分散型図書館DAOLIB構想

ブロックチェーンによる「直接化」の面白い例の一つに、「自律分散型図書館DAOLIB」と呼ばれる次世代型図書館の構想があります。

これは、利用者と管理者を分け、図書データを中央集権的に管理している既存の図書館に対して、利用者と管理者を同一にし、中央管理者としての図書館の役割をなくしてしまおうという試みです。

多くの方は、過去に友人同士で本の貸し借りをしたことがあるでしょう。

そうした貸し借りは、「友人」という信用関係が成り立っており、かつ、規模が小さく管理の必要性がほとんどないために可能になっています。

しかし、この貸し借りを知らない人との間でやろうとすれば、友人との間のようにはうまくいきません。

例えば、よくある話として、「あれ、あの本誰に貸したっけ?」というように、紛失のリスクを始めとして、本自体の管理に始まり、いつ誰と誰が貸し借りをしたのか、といった経路も記録する必要が出てきます。

そこで、ブロックチェーンの登場です。

「分散型台帳」とも呼ばれるブロックチェーンは、暗号資産の管理手法としてつくられた経緯からもわかるように、本来、データの管理に非常に長けている技術です。

自律分散型図書館DAOLIB構想がうまくいけば、分散型データ管理手法であるブロックチェーンの特徴がうまく生かされることで、本の貸し手と借り手のやり取りを「直接化」することが可能になるでしょう。

ビジネスケース①-B:Workday Credentials

続いて、ブロックチェーンによるビジネスの「自動化」の例をあげましょう。

代表格は、人事クラウド大手のWorkdayによる、ブロックチェーン技術を用いて資格や職歴などの発行、確認を行うプラットフォームである、「Workday Credentials」です。

人事・総務経験者であれば誰しもうなずくことかと思いますが、転職マーケットにおいて、採用する側の労力以上に煩わしいのが、前職側の人事業務でしょう。

Workday Credentialsでは、従業員の職務経験やスキルなどの証明を発行することで、前職の人事部からするともっともやりたくない在職証明などの業務、採用/応募時の確認作業を大幅に合理化できます。

そして、このサービスの背後にあるのが、ブロックチェーン技術です。

ブロックチェーンは、「データの過去履歴を追うこと」や「データの対改竄性」に優れているため、企業の在職証明であったり、あるいは高等教育機関の学位証明などに幅広く応用されています。

また、スマートコントラクトによる定型取引の自動履行も可能なので、例えば上記の人事業務のような、これまでは信用担保のために人手を必要としていた「コストセンター」と位置付けられる業務を、「自動化」することが可能になります。

「自動化」と聞けば、つい「AI」「RPA」といったテーマを想像しがちですが、実は、こうしたデータの真贋が問われるような局面の自動化であれば、ブロックチェーンに分があると言えるでしょう。

非金融ブロックチェーンビジネス・事業化の視点②:「民主化・透明化」

事業化のロジック

ブロックチェーンをビジネス活用する上で重要な「事業化の視点」、その二つ目は、「民主化・透明化」です。

これは、上図の通り、従来は管理者あるいはプラットフォームから参加者への一方向な上意下達だったコミュニケーションを、管理者に一方的に有利にならないように双方向化しよう、という視点です。

これは、不透明になりがちなコミュニティー運営、例えば、寄付、投票、投げ銭などの透明化、といった双方向性をイメージするとわかりやすいでしょう。

ただ、これらについては、具体的に説明したほうがより理解しやすいかと思うので、早速、ケースをみていきましょう。

ビジネスケース②-A:医療用品の寄付の追跡

   

出典(画像左):「中国で医療用品寄付向けブロックチェーンポータル公開 新型コロナウイルス対策【ニュース】」(コインテレグラフジャパン)

読者のみなさんは、どこかの団体に寄付をしたことがあるでしょうか?

あるいは、街頭に立って募金を呼びかけている団体に、迷いなくお金を募金したことがあるでしょうか?

これらの問いに対しては、様々な立場からの様々な意見があることかと思いますが、その中の大きな論点の一つに、「お金を募金したはいいけど、本当にこの団体が慈善活動にちゃんと使ってくれるか怪しい」「下手な使い方をされるくらいであれば募金しないほうがいいのではないか」といったものがあります。

要は、「寄付や募金の運用管理者に対する信用」の問題です。

この問題は、寄付や募金を活動資金源としているNPO法人などにとっては、ファンドレイジングをする上で非常に大きく、やっかいな課題です。

他方、寄付や募金をする側からしてみても、詐欺団体ではなく、できる限り信用できて、ちゃんとした使い道をしてくれると思える団体を支援したいもの。

こうした課題を解決する手段として、近年、ブロックチェーン技術の応用が進められています。

ブロックチェーンは、全取引の記録を、改竄も消去もされることなく追跡できるという特徴をもっており、その高いトレーサビリティーが、例えば今回のケースの「コロナウィルス対策のための医療用品寄付」のような、公共性が高く、情報の非対称性によるリスクが極めて高い問題に、見事にマッチしているのです。

このような、ビジネス(あるいはそれに類似した事業)の「透明性」を担保する動きは、今後、ますます増えていくと考えられます。

そうした課題感をもっている場合には、ブロックチェーンのビジネス活用を検討することをお勧めします。

ビジネスケース②-B:Socios.com(サッカーファントークン)

  

ブロックチェーンの「民主化」の事例として有名なのが、Socios.com(サッカーファントークン)です。

ファントークンで「チームの決定」に投票可能なブロックチェーンアプリで、ユベントス、パリ・サンジェルマンなどの超有名クラブが既に使用を始めていることでも話題になっています。

近年、インターネットの登場、余暇時間の増長、価値観の多様化の進展、可処分所得の増加など、様々な社会・経済的要因を背景に、消費者は「ただつくられた商品を購入して、消費して、終わり」ではなく、「自分の価値観にあったより長く、より深く愛せるもの」に対して、大きなお金を払うようになってきました

そのため、ビジネス界では、特にtoCサービスをもつビジネスでは、従来の「顧客視点」のマーケティングからさらに一歩進んで、「顧客=身内」と考えるコミュニティマーケティングとでも呼ぶべき、ファンビジネスのマーケットが伸長しています。

例えば、最近の世界的ブームであるクラフトビール。

その火付け役でもあるBrew Dog社では、顧客に自社株を買ってもらい、そのまま自社運営にかかわってもらう(「パンク株」)という試みをしたことでも話題になりました。

これはまさに、従来の「会社vs顧客」という対立構造から、「会社=顧客」へと変化を遂げていることの表れでしょう。

今回紹介しているSocios.comでも、そうした「ファンによるコミュニティの民主化」を進め、「ファン=応援する人」ではなく、「ファン=チームと一緒になって経営する人」として巻き込むことで、より長く、より深く愛せるサッカーチームになることを目指します。

ブロックチェーンは、ここで課題となりやすい「意思決定に対する投票」の問題を、すでにこれまで述べた特徴をもって、見事に解決していると言えるでしょう。

非金融ブロックチェーンビジネス・事業化の視点③:「相対化・自由化」

事業化のロジック

ブロックチェーンをビジネス活用する上で重要な「事業化の視点」、その三つ目は、「相対化・自由化」です。

これは、平たく言えば、「データの囲い込み」をなくして、みんなで利用していきましょうね、という視点です。

これまでは、同じ業界でも、各社が異なるデータベースを用意し、それぞれの顧客に対してそれぞれ別の形でデータを保有していました。

そのため、データを共有してさえいれば確保できるはずの利用者の自由度が、大きく下がってしまうケースが少なくありません。

例えば複数のサービスを使おうと思ったら、その度にログインIDとパスワードを入れなくてはいけなくなり、「あれ?パスワードなんだっけ・・・」といったことも珍しくないのではないでしょうか。

また、法人としてみても、同じ業界で、同じ資産を使っている間柄なのに、各社がそれぞれに同じようなデータを集める無駄な競争を行なっていたり、パワーの強い一社がデータを独占してしまって他社がどうにもならない(結果、業界としての進歩が望めない)ということが日常的に起こっています。

これに対して、ブロックチェーンでは、各社がそれぞれにサーバーをもつのではなく、一つのネットワークを共有することで、デジタル資産を安全に共有することができます。

これによって、まず、消費者側の受けられる恩恵が増します。

例えば、IDを他サービスに持っていって認証の手間を省ける、自分が著作権を有するコンテンツを自由にいろいろなプラットフォームで売れる、といったようなイメージです。

また、企業としても、同業他社が安全にデータを共有し合えることで、あるいは川上と川下がスムーズに繋がることで、独占によるメリット以上に大きなリターンが得られるケースも少なくありません。

「シェアリングエコノミー」「限界費用ゼロ社会」に向かっていくと言われる現代の社会において、こうした「相対化・自由化」の流れはますます高まっていくでしょう。

ビジネスケース③-A:メディカルチェーン

ブロックチェーンによるビジネスの「相対化・自由化」の一つ目の例は、「メディカルチェーン」です。

これは、かれこれ20年ほど叫ばれ続けていた医療のデジタル化、特に電子カルテを始めとする院内データの共通化の問題を、ブロックチェーンで巧みに解決しようという試みです。

医療データは、個人情報の中でも特に秘匿性が高く、セキュリティ要件が最も高く求められます。

そして、医療機関ごとのデータ保存形式も異なるため、それらを共有していくハードルは非常に高いものになります。

メディカルチェーンでは、この問題に対して、各医療機関のデータを一つのブロックチェーン基盤上に乗せることを目指しています。

また、ビジネスモデルとしては、トークンエコノミーを採用し、トークンからの収益と医療機関からの収益を主治医や患者に還元することで、この仕組みがうまく回るように設計されています。

ビジネスケース③-B:国連、難民・ホームレス等向けIDサービス

ブロックチェーンによるビジネスの「相対化・自由化」の二つ目の例は、国連による「難民・ホームレス等向けIDサービス」です。

これは、難民が、国連から付与されるIDカードなしにサービスを利用できるようにするための仕組みで、生体認証データをもとに国連が本人確認を行なった上で、その認証IDをブロックチェーン基盤上で管理しようというものです。

この仕組みによって、従来は各国の各関係機関がそれぞれにデータ認証をするために共通のIDカードを必要としていたところを、共通の基盤をもつことで、IDカードを携帯していないような緊急事態にも人道支援を迅速に行うことが可能になります。

まさに、ブロックチェーンの特徴をうまくいかした「相対化・自由化」の好例であると言えるでしょう。